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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】バッファ回路
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/34 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
H03F1/34
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018189254
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2020058001
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】延永 達哉
(72)【発明者】
【氏名】水野 健太朗
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0135701(US,A1)
【文献】米国特許第05399993(US,A)
【文献】特開平06-258128(JP,A)
【文献】特開2002-350473(JP,A)
【文献】特開2011-188069(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045763(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オペアンプと、第1抵抗部と、第2抵抗部と、第1キャパシタンス部と、可変抵抗部と、スイッチ部と、を備えるバッファ回路であって、
前記オペアンプは、非反転入力端子、反転入力端子および出力端子を備えており、
前記反転入力端子には前記出力端子が接続されており、
前記第1抵抗部の一端が前記非反転入力端子に接続され、前記第1抵抗部の他端が第1接続点で前記第2抵抗部の一端に接続され、前記第2抵抗部の他端が基準電圧部位に接続されており、
前記第1キャパシタンス部の一端が前記第1接続点に接続され、前記第1キャパシタンス部の他端が第2接続点で前記可変抵抗部の一端に接続され、前記可変抵抗部の他端が前記出力端子に接続されており、
前記可変抵抗部は、
前記第2接続点と前記出力端子との接続経路上に配置されている第3抵抗部と、
前記第3抵抗部をバイパスするバイパス経路と、
を備えており、
前記スイッチ部は、前記バイパス経路上に備えられ、前記バイパス経路の導通および非導通を制御可能であり、
前記スイッチ部は、
前記バッファ回路の出力電圧が第1しきい値を超えた場合に、前記可変抵抗部の抵抗値を第1抵抗値から第2抵抗値へ低下させ、
前記可変抵抗部の抵抗値を前記第2抵抗値に低下させた後に前記出力電圧が前記第1しきい値を下回った場合に、前記可変抵抗部の抵抗値を前記第2抵抗値から前記第1抵抗値へ上昇させる、
バッファ回路。
【請求項2】
前記非反転入力端子には、信号が入力される入力キャパシタンス部が接続されており、
前記第1抵抗部の抵抗値と前記第2抵抗部の抵抗値との積の絶対値が、前記可変抵抗部の抵抗値と前記入力キャパシタンス部のインピーダンス値との積の絶対値よりも小さい、請求項1に記載のバッファ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、バッファ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高入力インピーダンスのバッファ回路を備えた心電センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-188406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
静電気ノイズのような高い電圧入力が高入力インピーダンスのバッファ回路に入力されると、バッファ回路に電荷がチャージされてしまう場合がある。チャージ電荷に起因するDCオフセットによってバッファ回路の出力電圧がドリフトしてしまい、出力電圧の上端が平らにカットされてしまうなど、出力波形が歪んでしまう場合がある。このような場合、バッファ回路にチャージされてしまった電荷が抜け、出力波形が正常に戻るまで、待機期間が発生してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示するバッファ回路の一実施形態は、オペアンプと、第1抵抗部と、第2抵抗部と、第1キャパシタンス部と、可変抵抗部と、スイッチ部と、を備える。オペアンプは、非反転入力端子、反転入力端子および出力端子を備えている。反転入力端子には出力端子が接続されている。第1抵抗部の一端が非反転入力端子に接続され、第1抵抗部の他端が第1接続点で第2抵抗部の一端に接続され、第2抵抗部の他端が基準電圧部位に接続されている。第1キャパシタンス部の一端が第1接続点に接続され、第1キャパシタンス部の他端が第2接続点で可変抵抗部の一端に接続され、可変抵抗部の他端が出力端子に接続されている。スイッチ部は、可変抵抗部の抵抗値を変化させることが可能であり、第2接続点と出力端子との接続経路上に配置されている。
【0006】
第1抵抗部と、第2抵抗部、第1キャパシタンス部、可変抵抗部によって、いわゆるブートストラップ回路を形成することができる。正帰還回路を構成することで、バッファ回路の入力インピーダンスを大きくすることができる。そして、スイッチ部によって可変抵抗部の抵抗値を変化させることで、バッファ回路の入力インピーダンスを変化させることができる。例えば、静電気ノイズのような高い電圧入力があった場合に、可変抵抗部の抵抗値を低下させれば、バッファ回路の入力インピーダンスを低下させることができる。チャージされた電荷を、所定電位に急速に放電することができる。従って、高い電圧入力によってバッファ回路の出力電圧がドリフトしてしまった場合においても、短時間でドリフトのない状態に戻すことが可能となる。
【0007】
スイッチ部は、バッファ回路の出力電圧が第1しきい値を超えた場合に、可変抵抗部の抵抗値を第1抵抗値から第2抵抗値へ低下させてもよい。スイッチ部は、可変抵抗部の抵抗値を第2抵抗値に低下させた後に出力電圧が第1しきい値を下回った場合に、可変抵抗部の抵抗値を第2抵抗値から第1抵抗値へ上昇させてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
可変抵抗部は、第2接続点と出力端子との接続経路上に配置されている第3抵抗部と、第3抵抗部をバイパスするバイパス経路と、を備えていてもよい。スイッチ部は、バイパス経路上に備えられ、バイパス経路の導通および非導通を制御可能であってもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
非反転入力端子には、信号が入力される入力キャパシタンス部が接続されていてもよい。第1抵抗部の抵抗値と第2抵抗部の抵抗値との積の絶対値が、可変抵抗部の抵抗値と入力キャパシタンス部のインピーダンス値との積の絶対値よりも小さくてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】心電図計測システムの模式図である。
図2】心電センサの回路図である。
図3】心電図計測システムの測定系のモデルである。
図4】バッファ部の入力インピーダンスZinを高めた心電センサの一例を示す図である。
図5図4の回路のノイズモデルである。
図6図2の回路のノイズモデルである。
図7】オフセット電圧Vosについてのノイズモデルである。
図8】静電気除去動作を示す波形図である。
図9】心電センサの伝達関数の絶対値および位相を示すグラフである。
図10】心電センサの伝達関数の絶対値および位相を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(心電図計測システム1の構成)
図1に、本実施形態に係る心電図計測システム1の模式図を示す。心電図計測システム1は、シート2、メモリ8、ディスプレイ9を備える。シート2は、着座者90の心臓91の活動電位を計測する。計測した結果はメモリ8に記録することができ、またそれらの計測結果はディスプレイ9で確認することができる。
【0012】
シート2は、心電センサ11および12、心電測定器5、を備えている。心電センサ11は、電極3およびバッファ部6を備えている。電極3は、シート2の背部に埋め込まれた電極である。電極3の出力端子は、配線W11を介してバッファ部6の入力端子に接続されている。バッファ部6の出力端子は、配線W12を介して心電測定器5に接続されている。心電センサ12は、電極4およびバッファ部7を備えている。電極4は、シート2のシートの座部に埋め込まれた電極である。電極4の出力端子は、配線W21を介してバッファ部7の入力端子に接続されている。バッファ部7の出力端子は、配線W22を介して心電測定器5に接続されている。
【0013】
心電測定器5は、電極4によって計測される電圧を基準電位として、電極3と着座者90との間の静電容量結合により心電位の変化を計測する。心電測定器5には、周知の回路構成を用いることができるため、ここでは説明を省略する。
【0014】
(心電センサ12の構成)
図2に、心電センサ12の回路図を示す。心電センサ12は、電極4、配線W21、バッファ部7を備えている。バッファ部7は、オペアンプ30、第1抵抗器R、第2抵抗器R、第1キャパシタC、可変抵抗部40、スイッチSW1、抵抗制御部50を備える。
【0015】
電極4の出力端子は、配線W21を介してオペアンプ30の非反転入力端子に接続されている。オペアンプ30の出力端子は、反転入力端子に接続されるとともに、配線W22を介して不図示の心電測定器5に接続されている。オペアンプ30の出力端子からは、出力電圧Voutが出力される。
【0016】
第1抵抗器Rの一端は、オペアンプ30の非反転入力端子および電極4に接続されている。第1抵抗器Rの他端は、第1接続点N1で第2抵抗器R2の一端に接続されている。第2抵抗器R2の他端は、接地電位Vgndに接続されている。
【0017】
第1キャパシタCの一端は、第1接続点N1に接続されている。第1キャパシタCの他端は、第2接続点N2で可変抵抗部40の一端に接続されている。可変抵抗部40の他端は、オペアンプ30の出力端子に接続されている。スイッチSW1は、第2接続点N2とオペアンプ30の出力端子との接続経路上に配置されている。
【0018】
可変抵抗部40およびスイッチSW1の接続関係を、さらに具体的に説明する。可変抵抗部40は、帰還抵抗器Rfhおよび帰還抵抗器Rflを備えている。第1キャパシタCfの他端は、第2接続点N2で帰還抵抗器Rfhの一端に接続されている。帰還抵抗器Rfhの他端は、オペアンプ30の出力端子に接続されている。帰還抵抗器Rfhと並列に、バイパス経路が配置されている。バイパス経路には、帰還抵抗器RflおよびスイッチSW1が直列に配置されている。帰還抵抗器Rflは、帰還抵抗器Rfhよりも低抵抗である。例えば、帰還抵抗器Rflの抵抗値は、帰還抵抗器Rfhの1/1000~1/10万の範囲内の値であってもよい。
【0019】
抵抗制御部50には、出力電圧Voutが入力される。抵抗制御部50からは制御電圧Vが出力される。抵抗制御部50は、出力電圧Voutに応じてスイッチSW1のオンおよびオフを制御する回路である。本実施例では、抵抗制御部50はウィンドウコンパレータである。スイッチSW1には、抵抗制御部50から出力された制御電圧Vが入力されている。スイッチSW1は、制御電圧Vがローレベルの場合にオンとなり、ハイレベルの場合にオフとなる。スイッチSW1は、バイパス経路の導通および非導通を制御可能である。
【0020】
可変抵抗部40は、スイッチSW1が非導通状態のときは、第1抵抗値を有する。第1抵抗値は、帰還抵抗器Rfhによって定まるため、高抵抗である。一方、可変抵抗部40は、スイッチSW1が導通状態のときは、第2抵抗値を有する。第2抵抗値は、並列接続されている帰還抵抗器Rfhおよび帰還抵抗器Rflの合成抵抗によって定まる。よって第2抵抗値は、第1抵抗値よりも低抵抗である。
【0021】
なお、心電センサ11の構成は、上述した心電センサ12の構成と同様であるため、説明を省略する。
【0022】
(心電センサの課題)
図3に、心電図計測システム1の測定系のモデルを示す。この測定系において、心臓91の電圧変化Vinと心電センサ12の出力電圧Voutとの関係は、数1の式で表される。
【数1】
ここで、衣服を挟んだ着座者90の体表と電極4との間の容量結合をCとし、インピーダンスをZとする。インピーダンスZは、「1/jωCb」と表すことができる。また、バッファ部7の入力インピーダンスをZinとする。
【0023】
数1の式より、出力電圧Voutは、インピーダンスZと入力インピーダンスZinの電圧比で決まることが分かる。よって心電センサ12の感度を高めるには、バッファ部7の入力インピーダンスZinを大きくする必要がある。
【0024】
図4に、バッファ部の入力インピーダンスZinを高めた心電センサ112の一例を示す。図4のバッファ回路107は、ブートストラップ回路を備えることで高い入力インピーダンスZinを実現している。図4の心電センサ112と、図2の心電センサ12とで、同一の部位には同一の符号を付しているため、説明を省略する。第1抵抗器Rの一端は、オペアンプ30の非反転入力端子に接続されている。第1抵抗器Rの他端は、第1接続点N100で第2抵抗器Rの一端に接続されている。第2抵抗器Rの他端は、接地電位Vgndに接続されている。バイパス抵抗器R2Lの一端は、スイッチSW100を介して、第1接続点N100に接続されている。バイパス抵抗器R2Lの他端は、接地電位Vgndに接続されている。バイパス抵抗器R2Lは、第2抵抗器Rよりも低抵抗である。帰還抵抗器Rの一端は第1接続点N100に接続され、他端はオペアンプ30の出力端子に接続されている。第1抵抗器Rおよび帰還抵抗器Rによってブートストラップ回路が構成されている。
【0025】
また心電センサ112は、静電気問題に対応するための回路が搭載されている。静電気問題とは、静電気などの高い電位によって電荷がバッファ回路107にチャージされると、チャージされた電荷が抜けず、心電位の測定が困難になるという問題である。この問題は、衣服の容量結合Cと、バッファ回路107の高入力抵抗とで構成されるRC回路の時定数が極めて高いために発生する。この問題を解決するために、心電センサ112は、抵抗制御部150およびスイッチSW100を備えている。スイッチSW100は通常測定状態ではオフであるため、バッファ回路107の入力抵抗は高抵抗状態である。そして、出力電圧Voutに基づいて電荷のチャージの発生を抵抗制御部150が検出すると、抵抗制御部150は、スイッチSW100をオンにする。これにより、バッファ回路107の入力抵抗が低抵抗状態に切り替えられることで、RC回路の時定数を下げることができる。チャージされた電荷を素早く放電することができる。
【0026】
図4の心電センサ112では、以下の2つの課題が発生する。第1の課題として、スイッチSW100のリーク電流に起因して、スイッチSW100が定電流源として動作してしまうことで、出力電圧VoutにDCノイズを重畳させてしまう。例えばスイッチSW100がアナログスイッチである場合には、スイッチがダイオードを通して電源と接続されているため、定電流源として動作してしまう。第2の課題として、オペアンプ30のオフセット電圧Vosが、出力電圧VoutにDCノイズを重畳させてしまう。一般的に、オフセット電圧Vosは無視できるほど小さい。しかし、ブートストラップ回路を使用する場合には、フィードバックによりオフセット電圧Vosが増幅され、オペアンプ30の出力に大きなDCノイズが発生してしまう。
【0027】
第1および第2の課題について、図5を用いて説明する。図5は、図4の回路のノイズモデルである。スイッチSW100がオフの時には、リーク電流に起因するDCノイズが発生する。従って図5に示すように、スイッチSW100は定電流源ISWとして表現できる。また、反転入力端子と出力端子の接続経路上に、オペアンプ30のオフセット電圧Vosを表現することができる。
【0028】
第1の課題(スイッチによるDCノイズ)について、数式を用いて説明する。図5のノイズモデルでの出力電圧Voutは、下式で表される。
【数2】
SWの項(右辺第2項)は、直流であることを考慮すると、下式のように表せる。
【数3】
数3の式で分かるように、出力電圧VoutにDCノイズが重畳してしまう。
【0029】
第2の課題(オペアンプのオフセット電圧によるDCノイズ)について、数式を用いて説明する。図5のノイズモデルにおける入出力の関係式を以下に示す。
【数4】
osの項(右辺第2項)に着目する。Vosが直流であることを考慮し、Zを含む項が無限大に大きくなることを用いると、Vosの項は下式のように簡略化できる。
【数5】
ここで、高入力インピーダンスな設計を前提とすると、「R2>Rf」の関係が成立する。すると数5の式から、オフセット電圧Vosが増幅されて出力電圧Voutに重畳してしまうことが分かる。
【0030】
(心電センサ12の効果)
本実施例に係る心電センサ12(図2参照)は、前述した第1および第2の課題を解決することができる効果を備えた回路である。また心電センサ12は、安定動作条件を算出することができる効果を備えた回路である。以下に効果を詳述する。
【0031】
第1の課題(スイッチによるDCノイズ)を解決できることを、数式を用いて説明する。図6に、定電流源ISWについてのノイズモデルを示す。図6は、図2の回路のノイズモデルである。スイッチSW1がオンの時にはDCノイズが発生しない。従って図6は、スイッチSW1がオフの時についてのノイズモデルである。回路の出力は、下式で表される。
【数6】
ここでZは、第1キャパシタCのインピーダンスであり、「1/jωCf」で表すことができる。定電流源ISWがDCであることを考慮した場合、数6の式においてZとZは共に無限大に近づくため、ISWの項(右辺第2項)は0とみなせる。よって、スイッチSW1によるDCノイズを無くすことができることが分かる。
【0032】
すなわち、第1キャパシタCの配置位置を、スイッチSW1とオペアンプ30の非反転入力端子との接続経路上にすることで、スイッチSW1のリーク電流による直流成分をカットすることができる。換言すると、オペアンプ30の出力端子から非反転入力端子へ至るポジティブフィードバックループ上にスイッチSW1が配置されている場合に、このスイッチSW1と非反転入力端子間をDCカットするように、第1キャパシタCfを挿入している。これにより、スイッチSW1によって発生するDCノイズが、出力電圧Voutに重畳されない。第1の課題を解決できる。
【0033】
また図4のバッファ回路107のスイッチSW100と、図2のバッファ部7のスイッチSW1とは、配置位置が異なる。しかし、図2のバッファ部7も、図4のバッファ回路107で説明した静電気除去の機能を備えている。これは、スイッチSW1を図2に示す位置に配置しても、オペアンプ30の入力抵抗の切り替えが可能であるためである。図2のバッファ部7の静電気除去機能の詳細については、後述する。
【0034】
第2の課題(オペアンプのオフセット電圧によるDCノイズ)を解決できることを、数式を用いて説明する。図7に、オフセット電圧Vosについてのノイズモデルを示す。図7は、図2の回路のノイズモデルである。回路の出力は、下式で表される。
【数7】
ここで、スイッチSW1がオンのときは、「Rf=Rfh・Rfl/(Rfh+Rfl)」となる。一方、スイッチSW1がオフのときは、「Rf=Rfh」となる。オフセット電圧VosがDCであることを考慮した場合、数7の式においてZとZは共に無限大に近づくため、Vosの項(右辺第2項)は下式のように変形できる。
【数8】
よって、オペアンプ30のオフセット電圧によるDCノイズは増幅されないことから、無視できることが分かる。
【0035】
すなわち、ジティブフィードバックループ上に第1キャパシタCを配置することで、DCであるオフセット電圧Vosのフィードバックを遮断することができる。オフセット電圧Vosが増幅されてしまうことがない。オフセット電圧Vosによって出力電圧Voutに重畳されるDCノイズの影響を、無くすことが可能となる。第2の課題を解決できる。
【0036】
本実施例に係る心電センサ12の安定動作条件(発振条件)について説明する。数6の式および数7の式では、Vinの項(右辺第1項)が同一式で現れた。このVinの項から発振条件を求めることができる。定電流源ISWやオフセット電圧Vosに関しては、上述の通り対策によってその影響がなくなっているため、ここでは無視する。図2の心電センサ12の伝達関数を、下式に示す。
【数9】
【0037】
一般的に、伝達関数の絶対値が0dB以上の時に、位相が+180度または-180度となっていれば、発振が起きてしまう。この発振条件を基に、図2の心電センサ12の安定動作条件を、以下に導出する。まず、数9の式の分母に着目すると、「R+R+R」と「Z」は逆位相であるため、特定の周波数で打ち消しあう。また、この特定の周波数を境に「R+R+R」と「Z」の大小関係が入れ替わり、伝達関数の位相を反転させようとする。よって、「R+R+R+Z=0」となるときのゲインが1より小さければ発振しない。この条件を下式に示す。
【数10】
数10の式を変形すると、下式となる。
【数11】
【0038】
ここで、実際に回路設計を行う場合の、回路定数の大小関係を考慮する。すなわち実設計上、バッファを高入力インピーダンスとなるように回路定数を定めるため、|R|>>|R|、|R|>>|R|の関係が成立する。すると数11の式の左辺において、「R」の項に比して、「R」および「R」の項は無視できる程度に小さいことが分かる。よって数11の式は、下式のように簡略化できる。
【数12】
数12の式で示されるように、「第1抵抗器Rの抵抗値(R)と第2抵抗器Rの抵抗値(R)との積の絶対値が、可変抵抗部40の帰還抵抗器Rfhまたは帰還抵抗器Rflの抵抗値(R)と容量結合Cのインピーダンス値(Z=1/jωCb)との積の絶対値よりも小さい」ことが、安定動作条件となる。この安定動作条件を満たすように、心電センサ12の回路設計を行えばよい。
【0039】
(心電センサ12の動作)
本実施例に係る心電センサ12における静電気除去動作を、図8の波形図を用いて説明する。図8(A)の横軸は、時間を示している。図8(A)の縦軸は、心電センサ12から出力される出力電圧Voutを示している。心電センサ12は、0Vの基準電圧に対して、正の出力電圧Voutおよび負の出力電圧Voutを出力する。第1しきい値Vth11およびVth21、第2しきい値Vth12およびVth22は、抵抗制御部50がヒステリシスを有するウィンドウコンパレータ動作を行うためのしきい値である。図8(B)の横軸は、時間を示している。図8(B)の縦軸は、抵抗制御部50から出力される制御電圧Vを示している。
【0040】
図8の時刻t0において、静電気による高い正の電荷が入力された場合を説明する。正の電荷が配線W21にチャージされると、DCオフセットによって出力電圧Voutが正側にドリフトしてしまう。時刻t1において、出力電圧Voutが第1しきい値Vth11を超えると、抵抗制御部50は、制御電圧Vをハイレベルからローレベルにする。スイッチSW1が非導通状態から導通状態に遷移する。よって、可変抵抗部40の抵抗値を、第1抵抗値から第2抵抗値へ低下させることができる。衣服の容量結合Cbと、バッファの高入力抵抗とで構成されるRC回路の時定数を低下させることができるため、配線W21にチャージされている電荷を、急速に放電することができる。このため、出力電圧Voutは第1しきい値Vth11から低下する。
【0041】
時刻t2において、出力電圧Voutが第1しきい値Vth11および第2しきい値Vth12を下回ると、抵抗制御部50は、制御電圧Vをローレベルからハイレベルに戻す。スイッチSW1が導通状態から非導通状態に戻る。よって、可変抵抗部40の抵抗値を、第2抵抗値から第1抵抗値へ上昇させることができる。これにより、第2抵抗器Rを介した放電を終了し、心電センサ12の感度を元の高い状態に戻すことができる。これにより、心電位を計測できない待機期間を短縮化することが可能となる。
【0042】
(回路設計例および伝達関数の例)
図2の心電センサ12の回路設計例を示す。容量結合Cは40pF、第1抵抗器Rは1GΩ、第2抵抗器Rは1MΩ、第1キャパシタCは660μF、帰還抵抗器Rfhは100MΩ、帰還抵抗器Rflは20kΩ、とした。
【0043】
上記の回路設計例における、心電センサ12の伝達関数の絶対値および位相を、図9および図10に示す。図9および図10の横軸は周波数、左側の縦軸は伝達関数の絶対値、右側の縦軸は伝達関数の位相である。図9は、スイッチSW1がオフ状態(すなわち、可変抵抗部40が高抵抗状態であり、心電位の測定が可能な状態)のグラフである。図10は、スイッチSW1がオン状態(すなわち、可変抵抗部40が低抵抗状態であり、静電気を放電中の状態)のグラフである。
【0044】
図9に示すように、スイッチSW1がオフである心電位の測定状態では、心電位の周波数帯域である数十~数百Hzにおいて、伝達関数の絶対値(すなわちゲイン)が「1」であるとともに、位相が「0」であることが分かる。これにより、心電センサ12が、発散することなく安定してボルテージホロワとして機能することが分かる。また図10に示すように、スイッチSW1がオンである静電気放電中の状態では、心電センサ12が安定してボルテージホロワ動作する帯域を、さらに下側に拡大できることが分かる。
【0045】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0046】
(変形例)
可変抵抗部40の抵抗値を変化させる態様は、図2に示すバイパス態様に限られず、様々であってよい。例えば、複数の抵抗器との接点を切り替える態様であってもよい。
【0047】
心電センサ12の計測対象は、心電位に限られない。様々な周波数帯域を備えた各種の信号を測定対象とすることができる。この場合、数12の式で示される安定動作条件を満たせば、測定対象の信号の特性に合わせた任意の回路設計が可能である。
【0048】
スイッチSW1および可変抵抗部40によって実現可能な機能の一例として、静電気除去機能を説明したが、この機能に限られない。例えば、測定対象の信号の周波数に応じて、心電センサ12の周波数帯域を最適化する機能も実現可能である。具体的に説明する。抵抗制御部50によって出力電圧Voutの周波数を監視する。出力電圧Voutの周波数が、心電センサ12が現在使用している周波数帯域の帯域外になることが検出された場合には、可変抵抗部40の抵抗値を変化させる。これにより、図9および図10で説明したように、心電センサ12の周波数帯域を変化させることができる。このとき、心電センサ12の変化後の周波数帯域内に出力電圧Voutの周波数が含まれるように、可変抵抗部40の抵抗値を変化させればよい。
【0049】
可変抵抗部40で切り替え可能な抵抗値の数は、2つに限られず、3つ以上であってもよい。
【0050】
スイッチSW1は、アナログスイッチに限られない。MOSトランジスタやCMOSスイッチ回路であってもよい。
【0051】
シート2に備えられる心電センサの数は2つに限られない。1つまたは3つ以上であってもよい。
【0052】
容量結合Cは入力キャパシタンス部の一例である。
【符号の説明】
【0053】
2:シート 3および4:電極 5:心電測定器 6および7:バッファ部 11および12:心電センサ 30:バッファ回路 40:可変抵抗部 50:抵抗制御部 SW1:スイッチ R:第1抵抗器 R:第2抵抗器 C:第1キャパシタ Rfh、Rfl:帰還抵抗器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10