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  • 特許-焼結鉱の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/16 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C22B1/16 B
C22B1/16 K
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018199832
(22)【出願日】2018-10-24
(65)【公開番号】P2020066770
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】矢部 英昭
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/129388(WO,A1)
【文献】特開昭61-266526(JP,A)
【文献】特開2015-183278(JP,A)
【文献】特開昭53-144412(JP,A)
【文献】特開2015-086419(JP,A)
【文献】特開平08-060257(JP,A)
【文献】特開2016-125125(JP,A)
【文献】特開2006-241575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
覆材で炭材の表面の少なくとも一部を被覆するために、前記被覆材と炭材とを造粒する炭材処理工程と、
前記被覆材で表面の少なくとも一部が被覆された被覆炭材と他の焼結用原料とを配合した後造粒することで配合原料の造粒物を作製する造粒物作製工程と、
前記配合原料の造粒物を焼成することで、焼結鉱を作製する焼結鉱作製工程と、を含み、
前記被覆材は含MgO副原料を前記被覆材の総質量に対し90質量%以上含むものであり、
前記被覆材に含まれる前記含MgO副原料の質量は、前記炭材に対して5質量%以上10質量%未満であることを特徴とする、焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
前記炭材処理工程では、前記含MgO副原料のみで構成される前記被覆材と前記炭材とを造粒することを特徴とする、請求項1記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
前記含MgO副原料は、カンラン岩及び蛇紋岩のいずれか一種以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記含MgO副原料の粒径は250μm以下であることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結鉱の製造方法は概略以下の通りである。まず、焼結鉱の原料となる焼結用原料を所定の比率で配合して配合原料とした後、水とともに造粒する。ここに、焼結用原料は、主原料である鉄含有原料、焼結反応及び成分調整のために必要な副原料、熱源である炭材(固体燃料)、及び返鉱等で構成される。鉄含有原料は、例えば粉鉱石、微粉鉱石等の鉄鉱石、及び製鉄ダスト(製鉄ダスト、製鋼ダスト、スケール等)等である。副原料は、石灰石、生石灰、消石灰、含MgO副原料(蛇紋岩、カンラン岩、ドロマイト等)、転炉スラグ、及び珪石等である。生石灰および消石灰は、造粒促進機能を有するので、以下、造粒材と呼ぶ。炭材は、例えば粉コークス及び無煙炭等である。
【0003】
ついで、配合原料の造粒物を焼結機の焼結パレットに層状に装入する。ついで、原料充填層の表面から原料充填層中の固体燃料に着火し、原料充填層の上から下の厚み方向に吸引通風する。これによって、原料充填層の燃焼ゾーンを順次下層側に移行させ、焼結反応を進行させる。焼成後の焼結パレット内の焼結ケーキは高炉用焼結鉱として適した所定粒度となるように解砕、整粒される。以上の工程により、焼結鉱が作製される。
【0004】
ところで、焼結鉱を製造する焼結機からは、燃料として利用される炭材由来の窒素酸化物(NO)が発生するため、その削減は重要な課題である。特許文献1、2には、窒素酸化物の削減を目的とした技術が開示されている。具体的には、特許文献1、2では、Ca系物質を含む被覆材で炭材を被覆する。特許文献1、2では、Ca系物質の好ましい例として水酸化カルシウムが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4870247号
【文献】特開2015-86419号公報
【文献】特開2016-125125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、Ca系物質を含む被覆材で炭材を被覆する場合、窒素酸化物を十分に削減するためには、比較的多量の被覆材が必要であった。例えば、特許文献1には、炭材に対する被覆材の質量%を10~40質量%とすることで窒素酸化物の発生をより抑えることができることが記載されている。
【0007】
ここで、特許文献1、2に記載された被覆材は、上述した造粒材に相当するものである。特許文献1、2では、炭材を多量の被覆材で被覆するので、造粒材の使用量が多くなる。つまり、焼結用原料中の炭材の一部または全部を特許文献1、2に記載された被覆炭材(被覆材で被覆された炭材)で単純に置換した場合、被覆炭材の分だけ配合原料全体の造粒材が多くなる。つまり、造粒材の使用量が増加するので、コスト(ランニングコスト、設備コスト)が増加する。
【0008】
この問題を解決するための方法として、造粒材の使用量を一定とすることが挙げられる。つまり、被覆材の分だけ元の焼結用原料中の造粒材を減らす。しかし、この方法では、造粒材の多くが被覆材に使用されることになるので、残りの原料を造粒する際の造粒材の割合が減少し、配合原料全体の造粒性が低下する。すなわち、造粒物の粒度が小さくなる。このため、原料充填層の通気性が低下し、ひいては、焼結鉱の生産性が低下する可能性があった。
【0009】
一方、特許文献3には、MgO含有粉及び鉄鉱石粉を含む被覆材で炭材を被覆する技術が開示されている。しかし、この技術では、被覆材に占めるMgO含有粉の割合が非常に低く(1~3質量%)、窒素酸化物を十分に削減することができなかった。
【0010】
このように、焼結鉱の生産性を維持しつつ、窒素酸化物を削減することができる技術は未だ提案されていなかった。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、焼結鉱の生産性を維持しつつ、窒素酸化物を削減することが可能な、新規かつ改良された焼結鉱の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、覆材で炭材の表面の少なくとも一部を被覆するために、被覆材と炭材とを造粒する炭材処理工程と、被覆材で表面の少なくとも一部が被覆された被覆炭材と他の焼結用原料とを配合した後造粒することで配合原料の造粒物を作製する造粒物作製工程と、配合原料の造粒物を焼成することで、焼結鉱を作製する焼結鉱作製工程と、を含み、被覆材は含MgO副原料を被覆材の総質量に対し90質量%以上含むものであり、被覆材に含まれる含MgO副原料の質量は、炭材に対して5質量%以上10質量%未満であることを特徴とする、焼結鉱の製造方法が提供される。
【0013】
ここで、炭材処理工程では、含MgO副原料のみで構成される被覆材と炭材とを造粒してもよい。
【0014】
さらに、含MgO副原料は、カンラン岩及び蛇紋岩のいずれか一種以上であってもよい。
【0015】
また、含MgO副原料の粒径は250μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で分解しにくい含MgO副原料で炭材を被覆する。このため、炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で炭材を鉄鉱石から安定して隔離することができ、ひいては、窒素酸化物を削減することができる。さらに、含MgO副原料は、Ca系物質よりも炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で分解しにくいので、少量であっても炭材を鉄鉱石から隔離することができる。つまり、少量であっても窒素酸化物を削減することができる。したがって、焼結鉱の生産性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明者が行った基礎実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
<1.本発明者による検討>
本発明者は、窒素酸化物の発生原因を明確にするために、示差熱天秤-質量分析計(TG/DTA-MS)を用いた基礎実験を行った。基礎実験の概要は以下のとおりである。まず、試験サンプル1として、粉コークス13.5mg、試験サンプル2として、粉コークス13.5mg及びFe試薬7.4mgの混合物を準備した。各サンプルの粒径は250μm以下とした。ついで、各試験サンプルをTG/DTA-MS(ブルカー・エイエックスエス社製/TG-DTA2000SA+MS-9610)にセットし、Air50ml/min流通下において50℃/minの昇温速度で1400℃まで試験サンプルを昇温した。そして、昇温中に発生したガスの一部を四重極型質量分析計にてサンプリングし、燃焼時に発生した質量数30のガス(主としてNO)をモニタリングした。すなわち、窒素酸化物の発生量をモニタリングした。図1にその結果を示す。
【0020】
図1の横軸は試験サンプルの温度を示し、縦軸は試験サンプルの質量減少量(TG質量減少)(mg)または質量数30のガスの検出強度(Intensity)(A)を示す。検出強度が強いほど、質量数30のガスの発生量が多いことを示す。グラフL1は、試験サンプル1の温度と質量減少量との相関を示し、グラフL2は、試験サンプル2の温度と質量減少量との相関を示す。グラフL3は、試験サンプル1の温度と質量数30のガスの検出強度との相関を示し、グラフL4は、試験サンプル2の温度と質量数30のガスの検出強度との相関を示す。
【0021】
図1に示すように、約550℃から試験サンプルの質量減少(すなわち燃焼)が始まる。これと同時に、質量数30のガスが発生し始めた。炭材の燃焼後期(焼結用原料の溶融開始温度超、ここでは950℃超)では、試験サンプル2(Fe添加有り)からの窒素酸化物の発生量が試験サンプル1からの窒素酸化物の発生量よりも少なくなっている。これは、従来からよく言われるように、酸化鉄の存在で窒素酸化物が削減されることを示している。
【0022】
一方、炭材の燃焼開始(質量減少開始後=約550℃)~燃焼中期(約950℃)までの温度域(概ね焼結用原料の溶融開始温度以下)では、試験サンプル2からの窒素酸化物の発生量が試験サンプル1からの窒素酸化物の発生量よりも大幅に増加している。この結果、炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域では、粉コークスにFeが共存することで窒素酸化物が大幅に増加することが新たに判明した。
【0023】
原料充填層内では、炭材はFeを主成分とする鉄鉱石と常に接触した状態であり、炭材の燃焼場にはFeが存在していることが普通である。上記の知見は、炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で炭材を鉄鉱石と可能な限り接触しないようにすれば、さらに窒素酸化物を削減することができることを示している。
【0024】
そこで、本発明者は、炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で炭材を鉄鉱石から隔離可能な技術、具体的には炭材の被覆材について鋭意検討した。被覆材としては様々な物質が考えられるが、通常の焼結鉱の製造に極力影響を及ぼすことのないよう、また焼結鉱の使用先である高炉の操業を妨げることのないよう、焼結用原料(配合原料)として通常使用される副原料を使用することが望ましい。
【0025】
被覆材としてCa系物質を使用することは特許文献1、2に開示されている。特許文献1、2では、Ca系物質の中でも特に水酸化カルシウムを用いることが望ましいと述べられている。しかし、上述したように、窒素酸化物を十分に削減するためには、比較的多くのCa系物質で炭材を被覆する必要がある。この理由の1つとして以下のものが考えられる。すなわち、特許文献1、2で好ましいCa系物質として挙げられる水酸化カルシウムは、比較的低温(400~600℃)で分解し、HOを放出する。水酸化カルシウムが分解する温度域は、炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域に重複する。
【0026】
したがって、水酸化カルシウムで炭材を被覆した場合、当初緻密であった炭材周囲の被覆層が炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で多孔質となり、また被覆層の一部が分解時の衝撃で剥離する。このため、炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域において炭材とその周囲に存在する鉄鉱石との接触を妨げる(言い換えれば、これらを隔離する)効果はそれほど大きくないものと推定される。このため、窒素酸化物を十分に削減するためには、比較的多くのCa系物質で炭材を被覆する必要があり、結果として副原料の使用量が多くなる。この問題を解決するための方法として、副原料の使用量を一定とする方法が挙げられる。しかし、この方法では、造粒材として使用できる副原料が減少するので、焼結鉱の生産性が低下する可能性がある。特許文献1、2には、Ca系物質以外の被覆材は開示されていない。
【0027】
そこで、本発明者は、被覆材として新たにMg系の副原料(含MgO副原料)を使用することに着想した。そして、実際に焼結実験(実施例で述べる)を行って、その効果を確認し、本実施形態に係る焼結鉱の製造方法を完成させた。なお、含MgO副原料以外の物質、例えばAl系、SiO系物質などで炭材を被覆することも一応可能である。しかし、これらの方法では、余分なスラグ成分を焼結鉱に新たに導入することになり、高炉スラグの増大を招くので好ましくない。以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0028】
<2.含MgO副原料>
本実施形態に係る焼結鉱の製造方法では、炭材の表面に含MgO副原料を含む被覆材を被覆する。そこで、含MgO副原料について説明する。含MgO副原料は、焼結用原料として使用される副原料うち、MgO成分を含むものを意味する。
【0029】
上述したように、炭材の燃焼場では、炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で多くの窒素酸化物が発生する。本発明者が含MgO副原料と従来被覆材として使用されていたCa系物質とを比較したところ、含MgO副原料は炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で分解しにくいことが判明した。したがって、含MgO副原料で炭材を被覆した場合、炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で炭材を鉄鉱石から安定して隔離することができ、ひいては、窒素酸化物をさらに削減することができる。さらに、含MgO副原料は、Ca系物質よりも炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で分解しにくいので、少量であっても炭材を鉄鉱石から隔離することができる。つまり、少量であっても窒素酸化物を削減することができる。したがって、炭材を被覆材で被覆したとしても、副原料の使用量の増加を抑えることができるので、焼成時に炭材を十分に燃焼させることができる。したがって、焼結鉱の生産性を維持することができる。
【0030】
本実施形態で使用可能な含MgO副原料は特に制限されず、焼結用原料として使用されるものであればよい。含MgO副原料としては、例えば、ドロマイト、マグネサイト、ブルーサイト、カンラン岩、及び蛇紋岩等が挙げられる。これらを単独で使用してもよいし、混合して使用してもよい。
【0031】
上記の含MgO副原料のうち、900℃灼熱減量(LOI)が15質量%以下である含MgO副原料を使用することが好ましい。ここで、LOIは、JIS-A-6206に準拠した方法で測定した(加熱温度700±25℃)。LOIが15質量%以下である含MgO副原料としては、カンラン岩及び蛇紋岩が挙げられる。つまり、本実施形態では、カンラン岩及び蛇紋岩のいずれか1種以上を使用することが好ましい。カンラン岩及び蛇紋岩は、炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で特に分解しにくい。このため、カンラン岩及び蛇紋岩のいずれか1種以上で炭材を被覆することで、窒素酸化物をさらに削減することができる。以下の表1にいくつかの含MgO副原料の分析値を示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示される通り、カンラン岩及び蛇紋岩のLOIは15質量%以下となっているのに対し、ドロマイトのLOIは15質量%を超えている。
【0034】
<3.焼結鉱の製造方法>
つぎに、本実施形態に係る焼結鉱の製造方法について説明する。焼結鉱の製造方法は、炭材処理工程、造粒物作製工程、及び焼結鉱作製工程を含む。
【0035】
(3-1.炭材処理工程)
炭材処理工程では、含MgO副原料を90質量%以上含む被覆材炭材の表面の少なくとも一部を被覆するために、被覆材と炭材とを造粒する工程である。これにより、焼結用原料の焼成時、特に炭材の燃焼開始~燃焼中期で炭材を鉄鉱石から安定して隔離することができ、ひいては、窒素酸化物を削減することができる。なお、被覆材による被覆には、炭材の表面の全体を被覆材で被覆することの他、炭材の表面の一部のみに被覆材が付着することも含まれる。つまり、被覆材が炭材の表面の少なくとも一部を被覆することも含まれる。
【0036】
炭材の種類は特に制限されず、焼結用原料として使用される炭材を特に制限なく使用することができる。炭材は、例えば粉コークス及び無煙炭等である。これらを単独又は混合して使用すればよい。炭材の粒径も特に制限されず、焼結用原料として使用される炭材の一般的な粒径(例えば10mm以下)であってもよい。なお、本実施形態における粒径は篩の目開きで区分される。例えば、目開き10mmの篩から落下した物質の粒径は10mm以下であり、篩に残った物質の粒径は10mm超である。
【0037】
含MgO副原料は、被覆材に90質量%(被覆材の総質量に対する質量%)以上含まれていることが必要である。これにより、炭材を鉄鉱石から十分に隔離することができる。被覆材は含MgO副原料のみで構成されていることが好ましい。この場合、より安定して炭材を鉄鉱石から隔離することができる。
【0038】
被覆材に含MgO副原料以外の物質が含まれる場合、通常の焼結鉱の製造に極力影響を及ぼすことのないよう、また焼結鉱の使用先である高炉の操業を妨げることのないよう、当該物質は焼結用原料を構成するものであることが好ましい。当該物質は、鉄鉱石以外の原料であることがより好ましい。被覆材に鉄鉱石が含まれている場合、炭材に鉄鉱石が接触しやすくなるからである。
【0039】
上述したように、含MgO副原料は分解しにくいので、少量であっても炭材を鉄鉱石から十分に隔離することができる。このため、副原料の使用量の増加を抑えることができ、ひいては、焼結鉱の生産性が維持される。具体的には、被覆材に含まれる含MgO副原料の質量は、炭材に対して10質量%未満であることが好ましい。この場合、窒素酸化物を削減するだけでなく、焼結鉱の生産性をより確実に維持することができる。LOIが15質量%以下となる含MgO副原料を使用した場合、窒素酸化物が特に削減される。
【0040】
含MgO副原料の粒径は特に制限されないが、炭材の粒径よりも小さいことが好ましい。炭材表面に含MgO副原料を効率的に被覆させることができるからである。例えば、含MgO副原料の粒径は250μm以下であってもよい。この場合、炭材の表面に空隙をなるべく生じないように含MgO副原料を被覆させることができる。
【0041】
炭材及び含MgO副原料の造粒はドラムミキサーやパンペレタイザーなどの造粒機を単独または直列で使用して行えばよい。例えば、混練機にて炭材、含MgO副原料を水などのバインダーとともに混練した後、混練物をこれらの造粒機に投入して造粒を行えばよい。
【0042】
(3-2.造粒物作製工程)
造粒物作製工程では、被覆材で表面の少なくとも一部が被覆された被覆炭材と他の焼結用原料とを配合した後造粒することで配合原料の造粒物を作製する。他の焼結用原料は、鉄含有原料、副原料、及び返鉱等で構成される。鉄含有原料は、例えば粉鉱石、微粉鉱石等の鉄鉱石、及び製鉄ダスト(製鉄ダスト、製鋼ダスト、スケール等)等である。副原料は、石灰石、上述した含MgO副原料、転炉スラグ、及び珪石等である。
【0043】
他の焼結用原料と共に造粒される炭材は、全て本実施形態に係る被覆炭材であることが好ましい。この場合、窒素酸化物の削減効果が最大となる。被覆炭材の一部を通常の炭材(すなわち、被覆材で被覆されていない炭材)としてもよいが、被覆炭材の使用量があまりに少ないと窒素酸化物の低減効果が十分に得られない可能性がある。このため、被覆炭材の使用量は、全炭材の10質量%以上であることが好ましい。
【0044】
なお、被覆材に含まれる含MgO副原料の質量は少ないので、他の焼結用原料と造粒される炭材を単純に本実施形態に係る被覆炭材に置き換えても、造粒物中の副原料の質量はそれほど増加しない。したがって、焼結鉱の生産性にほとんど影響を与えない。
【0045】
また、他の焼結用原料中の副原料を被覆材中の含MgO副原料の分だけ減少させてもよい。この場合であっても、多くの副原料を造粒材として使用できるので、焼結鉱の生産性は維持される。
【0046】
造粒の具体的な方法は特に制限されず、従来の造粒方法と同様であればよい。例えば、被覆炭材と他の焼結用原料とを所定の割合(この割合は焼結鉱に求められる特性等に応じて調整される)で配合して配合原料とした後、水とともに造粒する。造粒機は、例えばドラムミキサー及びパンペレタイザー等を特に制限なく使用できる。これらの造粒機を単独または直列で使用して造粒を行えばよい。しかし、被覆炭材と他の焼結用原料を最初から配合した場合、その後の造粒工程において被覆炭材の被覆物が剥離してしまう可能性も否定できないことから、被覆炭材を造粒工程の中盤以降に添加するいわゆる後添加を採用してもよい。被覆炭材と通常炭材(被覆材で被覆されていない炭材)を混合して使用する場合には、被覆炭材のみを後添加しても被覆炭材を含むすべての炭材を後添加してもどちらでも構わない。
【0047】
(3-3.焼結鉱作製工程)
焼結鉱作製工程では、配合原料の造粒物を焼成することで、焼結鉱を作製する。この工程は従来と同様に行われればよい。
【0048】
このように、本実施形態によれば、炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で分解しにくい含MgO副原料で炭材を被覆する。このため、炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で炭材を鉄鉱石から安定して隔離することができ、ひいては、窒素酸化物をより削減することができる。さらに、含MgO副原料は、Ca系物質よりも炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で分解しにくいので、少量であっても炭材を鉄鉱石から隔離することができる。つまり、少量であっても窒素酸化物を削減することができる。したがって、他の焼結用原料と造粒される炭材を単純に本実施形態に係る被覆炭材に置き換えても、造粒物中の副原料の質量はそれほど増加しない。また、他の焼結用原料中の副原料を被覆材中の含MgO副原料の分だけ減少させた場合であっても、多くの副原料を造粒材として使用できる。したがって、焼結鉱の生産性を維持することができる。
【実施例
【0049】
<1.実施例1>
次に、本実施形態の実施例について説明する。実施例1では、以下に示す焼結実験を行い、本実施形態の効果を確認した。まず、表2に示す焼結用原料を準備した。実施例1では、含MgO副原料をカンラン岩(LOI=1.3質量%)とした。また、粉コークスは表3に示す粒径分布を有する。表3中、粒径の「A-B」はB超A以下を示す。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
(1-1.炭材処理工程)
炭材処理工程では、表2に示す焼結用原料のうち、粉コークスの全量及びカンラン岩の一部を造粒した。具体的には、粉コークスの全量と粉コークスの総質量に対して5質量%(外数)のカンラン岩とを万能混練機に投入した。ついで、目標水分値が15質量%(外数)となるように水分を添加しながら粉コークス及びカンラン岩を3分間混練した。ついで、混練物をパンペレタイザーに投入して5分間造粒した。これにより、被覆炭材を作製した。
【0053】
(1-2.造粒物作製工程)
ついで、炭材処理工程で使用した粉コークス及びカンラン岩以外の他の焼結用原料(カンラン岩の残りあり)をドラムミキサー(直径1m、23rpm)に投入し、1分間混合した。ついで、ドラムミキサーに目標水分が7.5質量%(外数)となるように水を添加しつつ、ドラムミキサー内の混合物を3.5分間造粒した。ついで、ドラムミキサーに上記で作製した被覆炭材を添加し、ドラムミキサー内の混合物をさらに0.5分間混合(造粒)した。以上の工程により、配合原料の造粒物を作製した。
【0054】
(1-3.焼結鉱作製工程)
直径300mmの試験鍋に配合原料の造粒物を充填することで、試験鍋中に原料充填層を形成した。原料充填層の層厚は600mmとした。試験鍋の底面はメッシュ状となっており、ブロワが連結されている。ついで、原料充填層の表面を90秒間点火した後、吸引負圧1530kPaで試験鍋内の空気を吸引した。そして、吸引ガス温度をモニタリングし、吸引ガス温度が最大となった時点を焼結終了(バーンスルー)時点とした。ついで、作製された焼結ケーキを破砕することで、焼結鉱を作製した。ここで、粒径が5mm超となる焼結鉱を成品とした。
【0055】
ここで、点火開始から焼結終了までの間(焼結時間)に排ガスをモニタリングし、排ガス中に含まれるNO(NO+NO)量を測定した。NOの測定は島津製作所社製の連続ガス分析計(CLM-108)を使用して行った。そして、NO量を窒素質量(酸素を含まない値)に換算した値をNO排出量とした。さらに、成品の質量及び焼結時間等に基づいて、焼結鉱の生産率(生産性)(t/24h/m)を算出した。結果を表4にまとめて示す。
【0056】
<2.比較例>
炭材処理工程を行わず、造粒物作製工程を以下のように行った他は、実施例1と同様の処理を行った。結果を表4にまとめて示す。
【0057】
(2-1.造粒物作製工程)
表2に示す焼結用原料の全量をドラムミキサー(直径1m、23rpm)に投入し、1分間造粒した。ついで、ドラムミキサーに目標水分が7.5質量%(外数)となるように水を添加しつつ、ドラムミキサー内の混合物を4分間造粒した。以上の工程により、配合原料の造粒物を作製した。
【0058】
<3.参考例1>
参考例1では、炭材処理工程及び造粒物作製工程を以下のように行った他は、実施例1と同様の処理を行った。概略的には、参考例1では、炭材を20質量%の消石灰で被覆した。含MgO副原料は実施例1と同様とした。結果を表4にまとめて示す。
【0059】
(3-1.炭材処理工程)
炭材処理工程では、表2に示す焼結用原料のうち、粉コークスの全量及び消石灰の一部を造粒した。具体的には、粉コークスの全量と粉コークスの総質量に対して20質量%(外数)の消石灰とを万能混練機に投入した。ついで、目標水分値が15質量%(外数)となるように水分を添加しながら粉コークス及び消石灰を3分間混練した。ついで、混練物をパンペレタイザーに投入して5分間造粒した。これにより、被覆炭材を作製した。
【0060】
(3-2.造粒物作製工程)
ついで、炭材処理工程で使用した粉コークス及び消石灰以外の他の焼結用原料(消石灰の残りあり)をドラムミキサー(直径1m、23rpm)に投入し、1分間混合した。ついで、ドラムミキサーに目標水分が7.5質量%となるように水を添加しつつ、ドラムミキサー内の混合物を3.5分間造粒した。ついで、ドラムミキサーに上記で作製した被覆炭材を添加し、ドラムミキサー内の混合物をさらに0.5分間混合(造粒)した。以上の工程により、配合原料の造粒物を作製した。
【0061】
<4.参考例2>
参考例2では、炭材を被覆する消石灰の質量%を粉コークスの総質量に対して5質量%とした他は参考例1と同様の処理を行った。結果を表4にまとめて示す。
【0062】
<5.実施例2>
含MgO副原料を蛇紋岩(LOI=13.9質量%)とした他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表4にまとめて示す。
【0063】
<6.実施例3>
含MgO副原料をドロマイト(LOI=46.9質量%)とした他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表4にまとめて示す。
【0064】
<7.実施例4>
含MgO副原料を実施例1のカンラン岩と実施例2の蛇紋岩との混合物(カンラン岩30質量%+蛇紋岩70質量%の混合物、LOI=10質量%)とした他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表4にまとめて示す。
【0065】
<8.実施例5>
含MgO副原料を実施例2の蛇紋岩と実施例3のドロマイトとの混合物(蛇紋岩90質量%+ドロマイト10質量%の混合物、LOI=17質量%)とした他は実施例1と同様の処理を行った。結果を表4にまとめて示す。
【0066】
【表4】
【0067】
参考例1では、多くの消石灰で炭材が被覆されたために、窒素酸化物が大幅に削減された。しかし、造粒材に使用される消石灰が減少したために、配合原料の造粒性が低下し、焼結鉱の生産性が低下した。参考例2では、炭材を被覆する消石灰の質量が減ったため、窒素酸化物の削減量が参考例1に及ばなかった。しかし、造粒材となる消石灰が増加したため、焼結鉱の生産性が比較例と同等レベルに回復した。これらの結果、消石灰で炭材を被覆した場合、窒素酸化物の削減と焼結鉱の生産性との両立ができないことが確認できた。
【0068】
一方、すべての実施例において、窒素酸化物の削減量は参考例2よりも大きく、焼結鉱の生産性は比較例と大差ないレベルであった。特にLOIが15質量%以下となる実施例1、実施例2、実施例4において窒素酸化物の削減は顕著であった。このように、含MgO副原料で炭材を被覆した場合、少量の被覆であっても窒素酸化物を十分に削減することができた。この理由として、含MgO副原料は炭材の燃焼開始~燃焼中期の温度域で消石灰よりも分解しにくいことが考えられる。被覆材として使用する含MgO副原料が少量となることから、生産性も維持できた。
【0069】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

図1