(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金薄板、電子・電気機器用導電部品及び端子
(51)【国際特許分類】
C22C 9/04 20060101AFI20221206BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20221206BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
C22C9/04
C22F1/08 B
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630F
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 661A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
(21)【出願番号】P 2018206522
(22)【出願日】2018-11-01
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】松野下 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優樹
(72)【発明者】
【氏名】森 広行
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-208861(JP,A)
【文献】特開2012-126933(JP,A)
【文献】特開2016-132816(JP,A)
【文献】特開2015-160994(JP,A)
【文献】特開2009-062610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00-9/10
C22F 1/08
H01B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znを7mass%超えて36.5mass%未満の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、
Sの含有量が20massppm未満とされており、
圧延の幅方向に対して直交する面を観察面として、CuおよびZnを含有する母相を、EBSD法により200μm
2以上の測定面積を測定間隔0.03μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除いて解析したとき、結晶粒径(双晶を含む)の長径aと短径bで表されるアスペクト比b/aが0.1以下となる結晶粒の面積割合が、Area fractionで、測定した面積全体の40%以上とされているとともに、
0.2%耐力が300MPa以上650MPa未満であることを特徴とする電子・電気機器用銅合金。
【請求項2】
さらに、SnおよびNiのいずれか一種又は二種を含有し、SnおよびNiの合計含有量が5mass%以下とされていることを特徴とする請求項1に記載の電子・電気機器用銅合金。
【請求項3】
さらに、Co,Mn,Mg,Ti,Al,Si,Cr,Zr,Au,Ag,Pから選択される一種又は二種以上を含有し、これらの元素の合計含有量が0.001mass%以上5mass%以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電子・電気機器用銅合金。
【請求項4】
板厚tと曲げ半径Rの比、R/tが1となるW型の治具を用い、W曲げ試験を実施してもクラックが発生しないことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電子・電気機器用銅合金。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電子・電気機器用銅合金の圧延材からなり、厚みが0.05mm以上1.0mm以下の範囲内にあることを特徴とする電子・電気機器用銅合金薄板。
【請求項6】
請求項5に記載の電子・電気機器用銅合金薄板において、
表面に金属めっきが施されていることを特徴とする電子・電気機器用銅合金薄板。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴とする電子・電気機器用導電部品。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴とする端子。
【請求項9】
請求項5または請求項6に記載の電子・電気機器用銅合金薄板からなることを特徴とする電子・電気機器用導電部品。
【請求項10】
請求項5または請求項6に記載の電子・電気機器用銅合金薄板からなることを特徴とする端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置のコネクタや、その他の端子、あるいは電磁リレーの可動導電片や、リードフレームなどの電子・電気機器用導電部品として使用されるCu-Zn系の電子・電気機器用銅合金と、それを用いた電子・電気機器用銅合金薄板、電子・電気機器用導電部品及び端子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述の電子・電気用導電部品として、強度、加工性、コストのバランスなどの観点から、Cu-Zn系合金が従来から広く使用されている。
また、上述のCu-Zn系合金からなる電子・電気用導電部品においては、使用用途に応じて、Cu-Zn系合金からなる基材の表面に、各種金属めっきが施されることがある。例えば、コネクタなどの端子の場合、相手側の導電部材との接触の信頼性を高めるため、Cu-Zn系合金からなる基材の表面に錫(Sn)めっきが形成されることがある。
【0003】
ここで、例えばコネクタ等の電子・電気機器用導電部品は、一般に、厚みが0.05~1.0mm程度の薄板(圧延板)に打ち抜き加工を施すことによって所定の形状とし、その少なくとも一部に曲げ加工を施すことによって製造される。この場合、曲げ部分付近で相手側導電部材と接触させて相手側導電部材との電気的接続を得るとともに、曲げ部分のばね性により相手側導電材との接触状態を維持させるように使用される。
【0004】
このような電子・電気機器用導電部品に用いられる電子・電気機器用銅合金においては、前述のように、曲げ加工を施してその曲げ部分のばね性により、曲げ部分付近で相手側導電材との接触状態を維持するように使用されるコネクタなどの場合は、曲げ加工性に優れていることが要求される。
また、上述の電子・電気機器用導電部品においては、その使用環境によっては応力腐食割れが生じてしまうおそれがあることから、電子・電気機器用導電部品に用いられる電子・電気機器用銅合金には、耐応力腐食割れ特性の向上が求められることがある。
【0005】
そこで、例えば特許文献1,2には、Cu-Zn系合金の耐応力腐食割れ特性を向上させるための方法が提案されている。
特許文献1においては、Cu-Zn-Sn系合金の平均結晶粒径を3μm以下とするとともに、Snが濃化した第2相が無い組織とすることによって、耐応力腐食割れ特性と曲げ加工性の両立を図っている。
また、特許文献2においては、Cu-Zn系合金にNiとSiを添加することで耐応力腐食割れ特性の向上が可能になる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-056365号公報
【文献】特開2007-182615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の特許文献1においては、第2相が生成しないように、成分組成範囲を厳密に規定するとともに、鋳造時における液相温度から600℃までの冷却速度を270℃/分以上としている。このため、成分範囲や製造条件にばらつきが生じた場合には、Snが濃化した第2相が生成し、耐応力腐食割れ特性と曲げ加工性の両立を図ったCu-Zn-Sn合金を工業的に安定して製造することは困難であった。
【0008】
また、特許文献2においては、NiやSiを添加することで耐応力腐食割れ特性については向上しているものの、析出物を生成させるために時効処理を行う必要があり、製造コストが増大してしまう。また、製造条件によっては粗大な析出物が生成することがあり、この粗大な析出物によって曲げ加工性が劣化するおそれがあった。
【0009】
以上のように、従来から提案されている方法では、耐応力腐食割れ特性、及び、曲げ加工性に優れたCu-Zn系合金を工業的に安定して製造することは困難であった。
そこで、上述のCu-Zn系合金においては、耐応力腐食割れ特性と曲げ加工性を両立されることができるとともに、安定して製造可能であることが強く望まれている。
【0010】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、工業的に安定して製造することができ、耐応力腐食割れ特性が確実かつ十分に優れているとともに、曲げ加工性に優れた電子・電気機器用銅合金、それを用いた電子・電気機器用銅合金薄板、電子・電気機器用導電部品及び端子を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するために、本発明者らが鋭意実験・研究を重ねた結果、Cu-Zn系合金において、母相の結晶粒径のアスペクト比を適切に調整することによって、耐応力腐食割れ特性を確実かつ十分に向上させることができ、さらに0.2%耐力を所定の範囲内に調整することによって、曲げ加工性を確保することができるとの知見を得た。
【0012】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明に係る電子・電気機器用銅合金は、Znを7mass%超えて36.5mass%未満の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、Sの含有量が20massppm未満とされており、圧延の幅方向に対して直交する面を観察面として、CuおよびZnを含有する母相を、EBSD法により200μm2以上の測定面積を測定間隔0.03μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除いて解析したとき、結晶粒径(双晶を含む)の長径aと短径bで表されるアスペクト比b/aが0.1以下となる結晶粒の面積割合が、Area fractionで、測定した面積全体の40%以上とされているとともに、0.2%耐力が300MPa以上650MPa未満であることを特徴としている。
【0013】
上述の構成の電子・電気機器用銅合金によれば、母相の結晶粒のアスペクト比が0.1以下となる結晶粒の面積割合が、Area fractionで、測定した面積全体の40%以上とされているので、耐応力腐食割れ特性が確実かつ十分に優れている。
【0014】
なお、EBSD法とは、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡による電子線反射回折法(Electron Backscatter Diffraction Patterns:EBSD)法を意味し、またOIMは、EBSDによる測定データを用いて結晶方位を解析するためのデータ解析ソフトOrientation Imaging Microscopy:OIM)である。さらにCI値とは、信頼性指数(Confidence Index)であって、EBSD装置の解析ソフトOIM Analysis(Ver.7.3.1)を用いて解析したときに、結晶方位決定の信頼性を表す数値として表示される数値である(例えば、「EBSD読本:OIMを使用するにあたって(改定第3版)」鈴木清一著、2009年9月、株式会社TSLソリューションズ発行)。ここで、EBSDにより測定してOIMにより解析した測定点の組織が加工組織である場合、結晶パターンが明確ではないため結晶方位決定の信頼性が低くなり、CI値が低くなる。特にCI値が0.1以下の場合にその測定点の組織が加工組織であると判断される。
【0015】
さらに、本発明においては、0.2%耐力が300MPa以上650MPa未満に調整されているので、強度が高く、かつ、優れた曲げ加工性を有している。よって、曲げ加工によって各種形状の電子・電気機器用導電部品を成形することができる。
また、本発明においては、母相の結晶粒のアスペクト比を制御するとともに、0.2%耐力を制御することによって、耐応力腐食割れ特性および曲げ加工性を両立しているので、成分組成や鋳造時の冷却条件等を厳密に制御する必要がなく、工業的に安定して製造することができる。
【0016】
ここで、本発明の電子・電気機器用銅合金においては、SnおよびNiのいずれか一種又は二種を含有し、SnおよびNiの合計含有量が5mass%以下とされていてもよい。
この場合、SnおよびNiを上述の範囲で含有することにより、強度を向上させることができるとともに、耐応力緩和特性のさらなる向上を図ることができる。また、電子・電気機器用部品においては、その表面にSnめっきやNiめっきが施されることがあるため、これらSnめっきやNiめっきが施されたCu-Zn系合金のスクラップを原料として使用することができ、リサイクル性が向上することになる。
【0017】
また、本発明の電子・電気機器用銅合金においては、さらに、Co,Mn,Mg,Ti,Al,Si,Cr,Zr,Au,Ag,Pから選択される一種又は二種以上を含有し、これらの元素の合計含有量が0.001mass%以上5mass%以下の範囲内とされていてもよい。
この場合、上述のようにCo,Mn,Mg,Ti,Al,Si,Cr,Zr,Au,Ag,Pから選択される一種又は二種以上の元素を添加することによって、各種特性を向上させることが可能となる。このため、要求特性に応じて、上述の元素を適宜選択して添加してもよい。
【0018】
さらに、本発明の電子・電気機器用銅合金においては、板厚tと曲げ半径Rの比、R/tが1となるW型の治具を用い、W曲げ試験を実施してもクラックが発生しないことが好ましい。
このような曲げ加工性を有する電子・電気機器用銅合金によれば、曲げ加工性に特に優れており、曲げ加工によって各種形状の電子・電気機器用導電部品を成形することが可能となる。
【0019】
本発明の電子・電気機器用銅合金薄板は、上述の電子・電気機器用銅合金の圧延材からなり、厚みが0.05mm以上1.0mm以下の範囲内にあることを特徴としている。
このような構成の電子・電気機器用銅合金薄板は、コネクタ、その他の端子、電磁リレーの可動導電片、リードフレーム、などに好適に使用することができる。
【0020】
ここで、本発明の電子・電気機器用銅合金薄板においては、表面に金属めっきが施されていてもよい。
この場合、電子・電気機器用銅合金薄板の表面に金属めっきが施されているので、使用用途に応じて適した表面特性を付与することができる。なお、金属めっきとしては、Sn、Ni、Cu、Zn、Cr、Ag、Auおよびその合金のめっき等を適用することができ、使用用途に応じて適宜選択することができる。
【0021】
本発明の電子・電気機器用導電部品は、上述の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴としている。
また、本発明の端子は、上述の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴としている。
さらに、本発明の電子・電気機器用導電部品は、上述の電子・電気機器用銅合金薄板からなることを特徴としている。
また、本発明の端子は、上述の電子・電気機器用銅合金薄板からなることを特徴としている。
【0022】
これらの構成の電子・電気機器用導電部品及び端子によれば、特に耐応力腐食割れ特性に優れているので、経時的に、もしくは湿潤な環境での応力腐食割れも抑制されるため相手側導電部材との接触圧を保つことができる。また、曲げ加工性に優れていることから、各種形状に成形することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、工業的に安定して製造することができ、耐応力腐食割れ特性が確実かつ十分に優れているとともに、曲げ加工性に優れた電子・電気機器用銅合金、それを用いた電子・電気機器用銅合金薄板、電子・電気機器用導電部品及び端子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の電子・電気機器用銅合金の製造方法の工程例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の一実施形態である電子・電気機器用銅合金について説明する。
本実施形態である電子・電気機器用銅合金は、Znを7mass%超えて36.5mass%未満の範囲で含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する。
【0026】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、必要に応じて、さらにSnおよびNiのいずれか一種又は二種を含有し、SnおよびNiの合計含有量が5mass%以下とされていてもよい。
【0027】
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、必要に応じて、さらにCo、Mn、Mg、Ti、Al、Si、Cr、Zr、Au,Ag、Pから選択される一種又は二種以上の元素を含有し、これらの元素の合計含有量が0.001mass%以上5mass%以下の範囲内とされていてもよい。
【0028】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、好ましくは、Sの含有量が20massppm未満に制限されている。
【0029】
ここで、上述のように成分組成を規定した理由について以下に説明する。
【0030】
(Zn:7mass%超えて36.5mass%未満)
Znは、本実施形態で対象としている銅合金において基本的な合金元素であり、強度およびばね性の向上に有効な元素である。また、ZnはCuより安価であるため、銅合金の材料コストの低減にも効果がある。
ここで、Znの含有量が7mass%以下では、材料コストの低減効果が十分に得られない。一方、Znの含有量が36.5mass%以上では、耐食性が低下するとともに、冷間圧延性も低下してしまう。
したがって、本実施形態では、Znの含有量を7mass%超え36.5mass%未満の範囲内とした。
なお、Znの含有量の下限は、8mass%超えとすることが好ましい。また、Znの含有量の上限は、35mass%以下とすることが好ましく、25mass%以下とすることがさらに好ましく、20mass%以下とすることがより好ましく、さらには18mass%未満とすることが好ましく、15mass%以下とすることが最適である。
【0031】
(SnおよびNiのいずれか一種又は二種の合計含有量:5mass%以下)
SnおよびNiの添加は、強度向上に効果があり、さらに、これらを添加することで、耐応力緩和特性の向上にも寄与することが本発明者等の研究により判明している。このため、必要に応じて添加してもよい。
ここで、SnおよびNiの合計含有量が5mass%を超えれば、熱間加工性および冷間圧延性が低下し、熱間圧延や冷間圧延で割れが発生してしまうおそれがあり、さらには導電率も低下してしまう。
したがって、本実施形態では、SnおよびNiのいずれか一種又は二種を含有する場合には、SnおよびNiのいずれか一種又は二種の合計含有量を5mass%以下とすることが好ましい。
なお、SnおよびNiのいずれか一種又は二種の合計含有量の下限は、0.1mass%以上とすることが好ましく、0.3mass%以上とすることがさらに好ましい。また、SnおよびNiのいずれか一種又は二種の合計含有量の上限は、3mass%以下とすることが好ましく、2mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0032】
(Co,Mn,Mg,Ti,Al,Si,Cr,Zr,Au,Ag,Pから選択される一種又は二種以上の合計含有量:0.001mass%以上5mass%以下)
Co,Mn,Mg,Ti,Al,Si,Cr,Zr,Au,Ag,Pといった元素は、電子・電気機器用銅合金の各種特性を向上させる作用効果を有する。このため、要求特性に応じて、適宜選択して添加してもよい。
ここで、Co,Mn,Mg,Ti,Al,Si,Cr,Zr,Au,Ag,Pから選択される一種又は二種以上の合計含有量が0.001mass%未満では、これらの元素の作用効果を十分に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Co,Mn,Mg,Ti,Al,Si,Cr,Zr,Au,Ag,Pから選択される一種又は二種以上の合計含有量が5mass%を超えると、コスト上昇を招くだけではなく、導電率を低下させるおそれがある。
したがって、本実施形態では、Co,Mn,Mg,Ti,Al,Si,Cr,Zr,Au,Ag,Pから選択される一種又は二種以上の元素を含有する場合には、Co,Mn,Mg,Ti,Al,Si,Cr,Zr,Au,Ag,Pから選択される一種又は二種以上の合計含有量を0.001mass%以上5mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0033】
ここで、Co,Mn,Mg,Ti,Al,Si,Cr,Zr,Au,Ag,Pから選択される一種又は二種以上の元素は、Cu,Znおよび他の元素と粗大な化合物を生成するおそれがある。SEM観察等を行った場合に、粒径が0.1μm以上の化合物が1μm2当たり1個以上存在すると、この化合物が破壊の起点となり、曲げ加工性を低下させるおそれがある。このため、これらの添加元素は、Cu、Znを含む母相中に固溶させることが好ましい。
なお、Co,Mn,Mg,Ti,Al,Si,Cr,Zr,Au,Ag,Pから選択される一種又は二種以上の合計含有量の上限は、3mass%以下とすることが好ましく、2mass%以下とすることがさらに好ましい。また、Co,Mn,Mg,Ti,Al,Si,Cr,Zr,Au,Ag,Pから選択される一種又は二種以上の合計含有量の下限は、0.002mass%以上とすることが好ましい。
【0034】
(S:20massppm未満)
Sは溶解・鋳造、熱処理等の各工程でZnと反応しZnSを生成する。ZnSを生成すると、ZnS近傍で残留応力が生じやすくなること、また局部電池として作用するため、耐応力腐食割れ特性が劣化するおそれがある。
したがって、耐応力腐食割れ特性をさらに向上させるためには、Sの含有量を20massppm未満とすることが好ましい。
なお、Sの含有量の上限は、15massppm以下とすることがさらに好ましく、10massppm以下とすることがより好ましい。また、Sの含有量の下限については特に定めはないが、0.1ppm未満とすることは実質的にコスト増となるため0.1ppm以上とすることが好ましく、0.5ppm以上とすることがさらに好ましく、1ppm以上とすることがより好ましい。
【0035】
以上の各元素の残部は、基本的にはCuおよび不可避的不純物とすればよい。ここで、不可避的不純物としては、(Mg),(Al),(Mn),(Si),( Co),(Cr),(Ag),Ca,Sr,Ba,Sc,Y,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Re,Ru,Os,Se,Te,Rh,Ir,Pd,Pt,(Au),Cd,Ga,In,Li,Ge,As,Sb,(Ti),Tl,Pb,Bi,(S),O,C,Be,N,H,Hg,B,(Zr),(Ni),(Sn),Fe,(P),希土類等が挙げられる。これらの不可避不純物は、総量で0.1mass%以下であることが望ましい。
【0036】
そして、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、圧延の幅方向に対して直交する面を観察面として、CuおよびZnを含有する母相を、EBSD法により200μm2以上の測定面積を測定間隔0.03μmステップで測定して、結晶粒径の長径をa、短径をbとしたとき、アスペクト比b/aが0.1以下となる結晶粒の測定面積に対する面積割合が、Area fractionで、40%以上とされている。
【0037】
(アスペクト比)
上述のアスペクト比b/aが0.1以下となる結晶粒の測定面積に対する面積割合を、Area fractionで、40%以上に制御することによって、耐応力緩和特性を維持したまま、耐応力腐食割れ特性を向上させることができる。
圧延加工などを施した材料において、応力腐食割れは、一般的に長手方向と垂直な方向に粒界に沿って進展する。結晶粒の長径aは材料の長手方向と一致することになり、短径bは垂直方向と一致する。このためアスペクト比b/aが0.1以下になる結晶粒の面積がArea fractionで、40%以上になると、実質的に材料の長手方向の垂直方向に沿う粒界が少なくなる。このことによって応力腐食割れを抑制することが可能となる。
ここで、上述のアスペクト比b/aが0.1以下となる結晶粒の測定面積に対する面積割合は、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがさらに好ましい。上限については特に定めはないが、アスペクト比b/aが0.1以下になる結晶粒の面積割合がArea fractionで80%を超えると実質的な圧延コストが増加するため、80%以下とすることが好ましい。より好ましくは75%以下である。
【0038】
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、0.2%耐力が300MPa以上650MPa未満の範囲内に調整されている。
【0039】
(0.2%耐力)
本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、塑性加工による加工硬化によって強度を向上させている。この加工硬化による強度の寄与が大きくなると実質的に加工組織となるため、延性や曲げ加工性といった加工性が低下する。このため、0.2%耐力を300MPa以上650MPa未満とすることで、アスペクト比b/aが0.1以下となる結晶粒の測定面積に対する面積割合を、Area fractionで40%以上に制御するとともに、強度と曲げ加工性を向上させることができる。
なお、0.2%耐力の下限は、320MPa以上であることが好ましく、350MPa以上であることがさらに好ましい。より好ましくは400MPa以上である。
【0040】
次に、前述のような実施形態の電子・電気機器用銅合金の製造方法の好ましい例について、
図1に示すフローチャートを参照して説明する。
【0041】
〔溶解・鋳造工程:S01〕
まず、前述した成分組成の銅合金溶湯を溶製する。銅原料としては、純度が99.99mass%以上の4NCu(無酸素銅等)を使用することが望ましいが、スクラップを原料として用いてもよい。また、溶解には、大気雰囲気炉を用いてもよいが、添加元素の酸化を抑制するために、真空炉、不活性ガス雰囲気又は還元性雰囲気とされた雰囲気炉を用いてもよい。
次いで、成分調整された銅合金溶湯を、適宜の鋳造法、例えば金型鋳造などのバッチ式鋳造法、あるいは連続鋳造法、半連続鋳造法、横型連続鋳造法などによって鋳造して鋳塊を得る。
【0042】
〔均質化熱処理工程:S02〕
その後、必要に応じて、鋳塊の偏析を解消して鋳塊組織を均一化するため、または介在物、析出物を固溶させるための均質化熱処理を行う。この均質化熱処理の条件は特に限定しないが、通常は600℃以上1000℃以下の温度において1時間以上24時間以下で加熱すればよい。熱処理温度が600℃未満、あるいは熱処理時間が1時間未満では、十分な均質化効果または溶体化効果が得られないおそれがある。一方、熱処理温度が1000℃を超えれば、偏析部位が一部溶解してしまうおそれがあり、さらに熱処理時間が24時間を超えることはコスト上昇を招くだけである。熱処理後の冷却条件は、適宜定めればよいが、通常は水焼入れすればよい。なお、熱処理後には、必要に応じて面削を行う。
【0043】
〔熱間加工工程:S03〕
次いで、粗加工の効率化と組織の均一化のために、鋳塊に対して熱間加工を行ってもよい。この熱間加工の条件は特に限定されないが、通常は、開始温度600℃以上1000℃以下、終了温度550℃以上850℃以下、加工率を50%以上とすることが好ましい。なお、熱間加工開始温度までの鋳塊加熱は、前述の均質化熱処理工程S02と兼ねてもよい。熱間加工後の冷却条件は、適宜定めればよいが、通常は水焼入れすればよい。なお、熱間加工後には、必要に応じて面削を行う。熱間加工の加工方法については、特に限定されないが、最終形状が板や条の場合は熱間圧延を適用すればよい。また最終形状が線や棒の場合には、押出や溝圧延を、また最終形状がバルク形状の場合には、鍛造やプレスを適用すればよい。
【0044】
〔粗塑性加工工程:S04〕
次に、均質化熱処理工程S02で均質化した鋳塊、あるいは熱間圧延などの熱間加工工程S03を施した熱間加工材に対して、粗塑性加工を施す。この粗塑性加工工程S04における温度条件は特に限定はないが、200℃未満とすることが好ましい。中間塑性加工の加工率も特に限定されないが、通常は10~99%程度とする。加工方法は特に限定されないが、最終形状が板、条の場合は、圧延を適用すればよい。また最終形状が線や棒の場合には、押出や溝圧延、さらに最終形状がバルク形状の場合には、鍛造やプレスを適用することができる。
【0045】
〔溶体化熱処理工程:S05〕
粗塑性加工工程S04の次に、母相中のZnの偏析の低減、介在物および析出物を固溶させるための溶体化熱処理を実施する。通常は600℃以上1000℃以下の温度において0.1秒以上24時間以下で実施する。高温で熱処理する場合は短時間、低温で熱処理する場合は長時間実施する。溶体化熱処理後は300℃以下まで1℃/分以上の冷却速度で冷却することが好ましい。より好ましくは10℃/分以上である。なお溶体化の徹底のために、粗塑性加工工程S04と溶体化熱処理工程S05を繰り返してもよい。
【0046】
〔中間塑性加工工程:S06〕
次に、溶体化熱処理工程S05後に、中間塑性加工を施す。この中間塑性加工工程S06における温度条件は特に限定はないが、200℃未満とすることが好ましい。中間塑性加工の加工率も特に限定されないが、通常は10~99%程度とする。加工方法は特に限定されないが、最終形状が板、条の場合は、圧延を適用すればよい。また最終形状が線や棒の場合には、押出や溝圧延、さらに最終形状がバルク形状の場合には、鍛造やプレスを適用することができる。
【0047】
〔中間熱処理工程:S07〕
冷間もしくは温間での中間塑性加工工程S06の後に、再結晶処理のため中間熱処理を施す。この中間熱処理は、通常は、300℃以上800℃以下の温度で、1秒以上24時間時間保持する条件とすればよい。なお、上述の添加元素を添加した場合には、析出により化合物が生成しないような熱処理条件を適宜選択すればよい。さらに、結晶粒径は、耐応力腐食割れ特性にある程度の影響を与えるから、中間熱処理による再結晶粒を測定して、加熱温度、加熱時間の条件を適切に選択することが望ましい。すなわち、熱処理温度が高温の場合は、熱処理時間を短時間に、熱処理温度が低温の場合は、熱処理時間を長時間にする。なお、中間熱処理およびその後の冷却は、最終的な平均結晶粒径に影響を与えるから、これらの条件は、母相の平均結晶粒径が0.5μm以上20μm以下の範囲内となるように選定することが好ましく、1μm以上15μm以下の範囲内となるように選定することがさらに好ましい。
【0048】
中間熱処理の具体的手法としては、バッチ式の加熱炉を用いても、あるいは連続焼鈍ラインを用いて連続的に加熱してもよい。バッチ式の加熱炉を使用する場合は、300℃以上600℃以下の温度で、1時間以上24時間以下加熱することが望ましく、また連続焼鈍ラインを用いる場合は、加熱到達温度500℃以上900℃以下とし、かつその範囲内の温度で1秒以上5分以下程度保持することが好ましい。また、中間熱処理の雰囲気は、非酸化性雰囲気(窒素ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気、還元性雰囲気)とすることが好ましい。
中間熱処理後の冷却条件は、特に限定しないが、通常は2000℃/秒~100℃/時間程度の冷却速度で冷却すればよい。
なお、必要に応じて、上記の中間塑性加工工程S06と中間熱処理工程S07を、複数回繰り返してもよい。
【0049】
〔仕上げ塑性加工工程:S08〕
中間熱処理工程S07の後には、最終寸法、最終形状まで仕上げ加工を行う。加工方法は特に限定されないが、最終製品形態が板や条である場合には、圧延(冷間圧延)を適用すればよい。その他、最終製品形態に応じて、鍛造やプレス、溝圧延などを適用してもよい。仕上げ塑性加工の加工率はアスペクト比b/aが0.1以下となる結晶粒の測定面積に対する面積割合が、Area fractionで、40%以上となるのに重要な工程である。加工率が70%以下ではアスペクト比b/aが0.1以下となる結晶粒の測定面積に対する面積割合が十分に増加しない。また加工率が98%以上になると圧延コストが増加する。このため加工率は70%を超え98%の範囲内が好ましい。より好ましくは75%以上98%未満である。アスペクト比b/aが0.1以下となる結晶粒の測定面積に対する面積割合を確実に高めるためには、圧延方向に対して1MPa以上の張力をかけるとよい。
【0050】
〔仕上げ熱処理工程:S09〕
仕上げ塑性加工後には、残留ひずみの除去による耐応力腐食割れ特性の向上および曲げ加工性の向上を目的として、仕上げ熱処理工程S09を行う。この仕上げ熱処理は、200℃以上800℃以下の範囲内の温度で、1秒以上24時間以下で行うことが望ましい。仕上げ熱処理の温度が200℃未満、または仕上げ熱処理の時間が1秒未満では、十分な歪み取りの効果が得られなくなるおそれがあり、一方、仕上げ熱処理の温度が800℃を超える場合は再結晶のおそれがあり、さらに仕上げ熱処理の時間が24時間を超えることは、コスト上昇を招くだけである。
【0051】
ここで、仕上げ熱処理工程S09の、熱処理温度が高温の場合は、熱処理時間を短時間に、熱処理温度が低温の場合は、熱処理時間を長時間にする。
そして、この仕上げ熱処理工程S09において、仕上げ塑性加工工程S08後の常温でのビッカース硬度Hv_CRと、仕上げ熱処理工程S09後の常温でのビッカース硬度をHv_HTとしたとき、その硬度差ΔHv=Hv_CR-Hv_HTを5Hv以上とすることでアスペクト比b/aが0.1以下となる結晶粒の測定面積に対する面積割合を低減させずに、0.2%耐力を300MPa以上650MPa未満の範囲内となるように、さらには延性および曲げ加工性の向上を図る。
ここで、ΔHv=Hv_CR-Hv_HTの値が5Hv未満の場合には、曲げ加工性が低下するおそれがある。一方、ΔHv=Hv_CR-Hv_HTの値が30Hvを超える場合には、アスペクト比b/aが0.1以下となる結晶粒の面積割合が40%未満となるおそれがあり、耐応力腐食割れ特性が劣化する可能性がある。
なお、ΔHv=Hv_CR-Hv_HTの下限は、7Hv以上とすることが好ましい。また、ΔHv=Hv_CR-Hv_HTの上限は、25Hv未満とすることが好ましく、20Hv未満とすることがさらに好ましい。
【0052】
以上のようにして、本実施形態である電子・電気機器用銅合金を得ることができる。この電子・電気機器用銅合金においては、板厚tと曲げ半径Rの比、R/tが1となるW型の治具を用い、W曲げ試験を実施してもクラックが発生しない。
また、加工方法として圧延を適用した場合、板厚0.05mm以上1.0mm以下の電子・電気機器用銅合金薄板(条材)を得ることができる。このような薄板は、これをそのまま電子・電気機器用導電部品に使用してもよいが、板面の一方、もしくは両面に、膜厚0.1~10μm程度の金属めっきを施し、金属めっき付き銅合金条として、コネクタその他の端子などの電子・電気機器用導電部品に使用するのが通常である。この場合の金属めっきの方法は特に限定されない。また、場合によっては電解めっき後にリフロー処理を施してもよい。
【0053】
以上のような構成とされた本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、母相のアスペクト比b/aが0.1以下となる結晶粒の測定面積に対する面積割合が、Area fractionで、40%以上とされているので、耐応力腐食割れ特性が確実かつ十分に優れている。
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、0.2%耐力が300MPa以上650MPa未満に調整されており、優れた機械特性と優れた曲げ加工性を有するので、例えば電磁リレーの可動導電片あるいは端子のばね部のごとく、特に高強度が要求される導電部品に適している。
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、上述のように、母相の結晶粒のアスペクト比を制御するとともに、0.2%耐力を制御することによって、耐応力腐食割れ特性および曲げ加工性を両立しているので、成分組成や鋳造時の冷却条件等を厳密に制御する必要がなく、工業的に安定して製造することができる。
【0054】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金において、SnおよびNiのいずれか一種又は二種を含有し、SnおよびNiの合計含有量が5mass%以下とされている場合には、強度をさらに向上させることができるとともに、耐応力緩和特性のさらなる向上を図ることができる。
【0055】
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金において、Co、Mn、Mg、Ti、Al、Si、Cr、Zr、Au,Ag、Pから選択される一種又は二種以上の元素を含有し、これらの元素の合計含有量が0.001mass%以上5mass%以下の範囲内とされている場合には、各種特性を向上させることが可能となる。
【0056】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、板厚tと曲げ半径Rの比、R/tが1となるW型の治具を用い、W曲げ試験を実施してもクラックが発生しないので、曲げ加工性に特に優れており、曲げ加工によって各種形状の電子・電気機器用導電部品を成形することが可能となる。
【0057】
本実施形態である電子・電気機器用銅合金薄板は、上述の電子・電気機器用銅合金の圧延材からなることから、耐応力緩和特性、耐応力腐食割れ特性、曲げ加工性に優れており、コネクタ、その他の端子、電磁リレーの可動導電片、リードフレームなどに好適に使用することができる。
また、表面に金属めっきを施した場合には、使用用途に適した表面特性とすることが可能となるため、使用用途に応じて各種金属めっきを施してもよい。
【0058】
本実施形態の電子・電気機器用導電部材を、上述の電子・電気機器用銅合金薄板よりなり、かつ相手側導電部材と接触させて相手側導電部材との電気的接続を得るための導電部材であって、しかも板面の少なくとも一部に曲げ加工が施されて、その曲げ部分のばね性により相手側導電材との接触を維持するように構成した場合には、電子・電気機器用銅合金が特に耐応力腐食割れ特性に優れているので、経時的に、もしくは湿潤な環境での応力腐食割れも抑制されるため相手側導電部材との接触圧を保つことができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、製造方法の一例を挙げて説明したが、これに限定されることはなく、最終的に得られた電子・電気機器用銅合金が、本発明の範囲内の組成であり、CuおよびZnを含有する母相のアスペクト比、及び、0.2%耐力が、本発明の範囲内に設定されていればよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果を本発明の実施例として、比較例とともに示す。なお以下の実施例は、本発明の効果を説明するためのものであって、実施例に記載された構成、プロセス、条件が本発明の技術的範囲を限定するものでない。
【0061】
まず、Cu-40mass%Zn母合金および純度99.99mass%以上の無酸素銅(ASTM B152 C10100)からなる原料を準備し、これを高純度グラファイト坩堝内に装入して、N2ガス雰囲気において電気炉を用いて溶解した。銅合金溶湯内に、各種添加元素を添加して、表1に示す成分組成の合金溶湯を溶製し、カーボン鋳型に注湯して鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約40mm×幅約70mm×長さ約100mmとした。
続いて各鋳塊について、均質化処理として、N2ガス雰囲気中において、表2に記載の温度で所定時間保持後、水焼き入れを実施した。
【0062】
次に、熱間圧延を実施した。熱間圧延開始温度が表2に記載の温度となるように再加熱して、鋳塊の幅方向が圧延方向となるようにして、適宜再加熱を実施しながら圧延終了温度が600℃以上となるようにした。熱間圧延終了後、水焼入れを行い、切断および表面研削実施後、厚さ約20mm×幅約160mm×長さ約100mmの熱間圧延材を製出した。
【0063】
その後、粗塑性加工および溶体化熱処理を実施した。
具体的には圧延率約20%以上の冷間圧延を行った後、表2に記載の温度で1時間から4時間の間で所定の時間、溶体化熱処理し、水焼入れした。
溶体化熱処理後、切断及び表面研削を実施後、70%以上の圧延率で冷間加工を行い、表2に記載の温度で1分から4時間の間で中間熱処理を実施した。中間熱処理後、切断し、酸化被膜を除去するために表面研削を実施した。また中間熱処理後のサンプルから結晶粒径を測定し、いずれの本発明例および比較例も平均粒径が3~10μmの範囲内であることを確認した。
【0064】
なお、中間熱処理後の平均結晶粒径は次のようにして調べた。
圧延の幅方向に対して直交する面、すなわちTD(Transverse Direction)面を観察面とし、鏡面研磨、エッチングを行ってから、光学顕微鏡にて、圧延方向が写真の横になるように撮影し、1000倍の視野(約300×200μm2)で観察を行った。そして、結晶粒径をJIS H 0501の切断法に従い、写真の縦、横の所定長さの線分を5本ずつ引き、完全に切られる結晶粒数を数え、その切断長さの平均値を平均結晶粒径として算出した。
【0065】
その後、表2に示す圧延率で仕上げ圧延を実施した。
最後に、表2に記載の温度で仕上げ熱処理を1分間から4時間実施した後、水焼入れし、切断および表面研磨を実施した後、厚さ0.25mm×幅約160mmの特性評価用条材を製出した。
このとき、仕上げ熱処理前の圧延面、すなわちND面(Normal Direction)の硬度Hv_CR、および、仕上げ熱処理後のND面の硬度Hv_HTを測定し、その硬度差ΔHv=Hv_CR-Hv_HTを算出した。なお、ビッカース硬さは、JIS-Z2248に規定されている微小硬さ試験方法に準拠し、試験加重1.96N(=0.2kgf)もしくは0.98N(=0.1kgf)で測定した。硬度差ΔHvを表2に示す。
【0066】
これらの特性評価用条材について、組織観察を行って母相のアスペクト比を評価した。また、導電率、機械的特性(耐力)、耐応力腐食割れ特性、曲げ加工性を評価した。各評価項目についての試験方法、測定方法は次の通りであり、また、その結果を表3に示す。
【0067】
〔アスペクト比〕
圧延の幅方向に対して直交する面、すなわちTD面(Transverse direction)を観察面として、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.7.3.1)によって、電子線の加速電圧20kV、測定間隔0.03μmステップで200μm2以上の測定面積で、CI値が0.1以下である測定点を除いて各結晶粒(双晶を含む)の方位差の解析を行い、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を粒界として、各結晶粒の結晶粒径の長径をa、短径をbとしたとき、b/aであらわされるアスペクト比のArea Fractionを測定した。また、アスペクト比の測定ではEBSD上のGrain Sizeとして、Grain Tolerance Angleを5°、Minimum Grain Sizeを2ピクセルとして測定した。
【0068】
〔導電率〕
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
【0069】
〔機械的特性〕
特性評価用条材からJIS Z 2201に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241のオフセット法により、0.2%耐力σ0.2を測定した。なお、試験片は、引張試験の引張方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
【0070】
〔耐応力腐食割れ特性〕
耐応力腐食割れ特性は、D.H.THOMPSON(Materials、Res.and Stds.1(1961)、P108-111)の応力腐食割れ試験法に準じて調査した。すなわち、圧延方向と平行に幅10mm、長さ60mmの試験片を採取し、長さ方向の中心部を曲率半径R:2mmで曲げた後、両端部を結んでループ状に拘束し、応力を付与し、室温で24時間保持した後、一旦拘束を外した後、初期の変位量δ0を測定し、再度両端部を拘束し、これを1Lの約5%アンモニア水を貯留した10Lの容積のデシケータ中に入れ、気相中にループ状に拘束した試験片を配置し、25℃で保持して、Zn量が7mass%以上15mass%以下の時は96時間経過後、Zn量が15mass%超え36.5mass%未満の時には24時間経過後、にループ状の拘束を外して試験片の変位量δ1を測定した。測定した、初期の変位量δ0および変位量δ1を用いて以下の式から残留応力率(%)を算出した。
残留応力率(%)=(1-δ1/δ0)×100
n=5で測定して、その平均残留応力率が、80%以上のものを「◎」、50%以上80%未満のものを「○」、50%未満ものを「×」と評価した。
【0071】
〔曲げ加工性〕
JCBA(日本伸銅協会技術標準)T307-2007の4試験方法に準拠して曲げ加工を行った。曲げの軸が圧延方向に対して直交するようにW曲げした。特性評価用条材から幅10mm×長さ30mm×厚さ0.25mmの試験片を複数採取し、曲げ角度が90度、曲げ半径が0.25mmのW型の治具(板厚tと曲げ半径Rの比、R/tが1となるW型の治具)を用い、W曲げ試験を行った。
それぞれ3つのサンプルで割れ試験を実施し、各サンプルの4つの視野においてクラックが観察されなかったものを「○」、1つの視野以上でクラックが観察されたものを「×」と評価した。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
Znの含有量が39.8mass%とされた比較例1においては、耐応力腐食割れ特性が不十分であった。このため、曲げ加工性は評価しなかった。
0.2%耐力が706MPaとされた比較例2においては、耐応力腐食割れ特性については良好であったが、曲げ加工性が不十分であった。
アスペクト比が0.1以下の結晶粒の割合が40%未満とされた比較例3、4においては、耐応力腐食割れ特性が不十分であった。このため、曲げ加工性は評価しなかった。
【0076】
これに対して、本発明例1-18においては、耐応力腐食割れ特性、及び、曲げ加工性に優れていた。また、導電率及び耐力にも優れていた。
以上のことから、本発明例によれば、耐応力腐食割れ特性が確実かつ十分に優れているとともに、曲げ加工性にも優れた電子・電気機器用銅合金を提供可能であることが確認された。