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特許7188003ハードコート基材接合体、及び、その製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ハードコート基材接合体、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/16 20060101AFI20221206BHJP
   B32B 25/00 20060101ALI20221206BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20221206BHJP
   B29C 65/40 20060101ALI20221206BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B29C65/16
B32B25/00
B60J1/00 H
B29C65/40
B32B27/00 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018214039
(22)【出願日】2018-11-14
(65)【公開番号】P2020078919
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】青木 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】松岡 雅尚
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-180526(JP,A)
【文献】再公表特許第2014/157149(JP,A1)
【文献】特開2009-149839(JP,A)
【文献】特開2008-127511(JP,A)
【文献】特開2006-249260(JP,A)
【文献】特開2008-188599(JP,A)
【文献】特開2014-218058(JP,A)
【文献】特開平07-285147(JP,A)
【文献】特開平02-160520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B29C63/00-63/48
65/00-65/82
B32B1/00-43/00
C09D1/00-10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材の少なくとも一方の表面にハードコート層を備えるハードコート樹脂基材が、成型品基体に接合されてなる、ハードコート基材接合体の製造方法であって、
前記ハードコート層は、硬化性樹脂を含んでなり、前記樹脂基材の前記表面の略全面に設けられていて、
前記ハードコート樹脂基材を、前記ハードコート層を前記成型品基体の表面に向けて、熱可塑性樹脂を含んでなる弾性体を介して、前記成型品基体の表面に積層することにより接合用積層体を得る積層工程と、
前記接合用積層体における前記ハードコート層と前記弾性体との接合部分にレーザー光を照射することにより、前記ハードコート層を、前記弾性体を介して前記成型品基体の表面に接合するエネルギー波照射工程と、を含んでなり、
前記接合用積層体においては、前記ハードコート層と前記弾性体とが密着している状態で積層されていて、
前記エネルギー波照射工程においては、前記ハードコート層の前記弾性体との接合部分に、表面粗さRaが、1μm以上20μm以下の微細凹凸が形成される強度で、前記レーザー光を照射する、
ハードコート基材接合体の製造方法。
【請求項2】
前記成型品基体の主たる材料が、前記ハードコート樹脂基材とは異種の樹脂材料、又は、金属材料である、
請求項1記載のハードコート基材接合体の製造方法。
【請求項3】
前記弾性体を形成する前記熱可塑性樹脂が、オレフィン系エラストマー又はポリエステル系エラストマーである、
請求項1又は2に記載のハードコート基材接合体の製造方法。
【請求項4】
前記成型品基体が、開口枠を有し、
前記積層工程においては、前記ハードコート樹脂基材を前記開口枠に嵌合させる、
請求項1からの何れかに記載のハードコート基材接合体の製造方法。
【請求項5】
前記成型品基体が、車両用基体であり、前記ハードコート樹脂基材が車両用窓ガラス、エンブレム、ピラー、フロントモールディング、ルーフ、ボンネット、ドア、ドアトリム、シート、若しくはフロントパネル、又はこれらのパーツの一部である、請求項1からの何れかに記載のハードコート基材接合体の製造方法。
【請求項6】
樹脂基材の表面の略全面にハードコート層を備えるハードコート樹脂基材が、成型品基体に接合されてなる、ハードコート基材接合体であって、
前記ハードコート樹脂基材は、前記ハードコート層の表面が、熱可塑性樹脂を含んでなる弾性体を介して、前記成型品基体の表面に接合されていて、
前記ハードコート層は、硬化性樹脂を含んでなり、前記弾性体に密着している状態で接合されていて、前記弾性体との接合部分にのみ表面粗さRaが、1μm以上20μm以下の微細凹凸を有する、
ハードコート基材接合体。
【請求項7】
前記ハードコート樹脂基材は前記樹脂基材の両面に前記ハードコート層が積層されている、請求項に記載のハードコート基材接合体。
【請求項8】
前記成型品基体の主たる材料が、前記ハードコート樹脂基材とは異種の樹脂材料、又は、金属材料である、請求項6又は7に記載のハードコート基材接合体。
【請求項9】
前記弾性体を形成する前記熱可塑性樹脂が、オレフィン系エラストマー又はポリエステル系エラストマーである、
請求項からの何れかに記載のハードコート基材接合体。
【請求項10】
前記成型品基体が、開口枠を有し、
前記開口枠に前記ハードコート樹脂基材が嵌合されている、請求項からの何れかに記載のハードコート基材接合体。
【請求項11】
前記成型品基体が、車両用基体であり、前記ハードコート樹脂基材が車両用窓ガラス、エンブレム、ピラー、フロントモールディング、ルーフ、ボンネット、ドア、ドアトリム、シート、若しくはフロントパネル、又はこれらのパーツの一部である、請求項から10の何れかに記載のハードコート基材接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート基材接合体、及び、その製造方法に関する。尚、本明細書において、「ハードコート基材接合体」とは、樹脂基材の表面にハードコート層を備える「ハードコート樹脂基材」が、各種の「成型品基体」に接合されてなる積層体全般のことを言うものとする。この「ハードコート基材接合体」の具体例としては、ハードコート層付きの窓ガラスが、炭素繊維強化樹脂(CFRP)等からなる自動車の車体の窓枠に接合されてなる、自動車窓ガラスの接合構造を、その一例として挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
例えば、炭素繊維強化樹脂(CFRP)等の機能性樹脂、金属、その他の各種の材料からなる成型品において、その耐傷性を向上させるために、当該成型品の表面にハードコート層を設けることが広く行われている。このようなハードコート層は、通常、硬化性樹脂によるコーティングや、ハードコート層付きフィルムによる転写、又は該ハードコート層付きフィルムを貼着することにより形成されている。又、上述のハードコート層付きフィルムとしては、基材フィルム上にハードコート層と接着剤層とが積層一体化されてなる、熱転写フィルムが広く用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、省エネルギーを主たる目的とした車両の軽量化のために、自動車等の車両用の窓として、無機ガラスに替えて、より軽量な樹脂性の有機ガラスが採用されるケースが増えている(特許文献2参照)。しかしながら、有機ガラスは、耐傷性が必ずしも十分ではない場合が多く、これを車両用の窓として用いる場合、通常は、その表面に上述のハードコート層を設けることが必須とされている。
【0004】
しかしながら、特許文献2にも記載されている通り(同文献段落[0015]参照)、窓ガラスの表層にハードコート層が設けられている場合、これを、接着剤で車体に接合する際の接着性が不十分となりやすい。又、ハードコート層を形成する樹脂の材質によっては、従来汎用的に用いられている各種の接着剤が使用できない可能性もある。このようにハードコート層を備える「ハードコート樹脂基材」と、各種の「成型品基体」との接合については、未だ、十分に好ましい接合方法が確立されておらず、特許文献2に開示されているような接合部分の積層構造の設計変更も含め、様々な接合方法が模索されている段階にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-208493号公報
【文献】特開2018-134750号公報
【文献】国際公開第2016/072450号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ハードコート層を備えるハードコート樹脂基材と、各種材料からなる成型品基体と、が、好ましい接合強度で接合されているハードコート基材接合体、及び、そのような積層体を製造することができるハードコート基材接合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ハードコート層を備えるハードコート樹脂基材を、成型品基体に積層する際に、両者の間に熱可塑性の弾性体を介在させた上で、このようにして得ることができる接合用積層体に、レーザー光等のエネルギー波を照射して、ハードコート樹脂基材、弾性体、成型品基体を溶着により一体化させる製造方法により、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0008】
(1) 樹脂基材の少なくとも一方の表面にハードコート層を備えるハードコート樹脂基材が、成型品基体に接合されてなる、ハードコート基材接合体の製造方法であって、前記ハードコート層は、硬化性樹脂を含んでなり、前記ハードコート樹脂基材を、前記ハードコート層を前記成型品基体の表面に向けて、熱可塑性樹脂を含んでなる弾性体を介して、前記成型品基体の表面に積層することにより接合用積層体を得る積層工程と、前記接合用積層体にエネルギー波を照射することにより、前記ハードコート層を、前記弾性体を介して、前記成型品基体の表面に接合するエネルギー波照射工程と、を含んでなる、ハードコート基材接合体の製造方法。
【0009】
(1)のハードコート基材接合体の製造方法においては、硬化性樹脂を含むハードコート層と熱可塑性樹脂を含む弾性体の接合部に、電磁波、或いは、熱等のエネルギーを付与することとした。これにより、ハードコート層の表面に微細凹凸が形成され、この微細凹凸のアンカー効果により、ハードコート層と弾性耐との間の接合強度を向上させることができる。その結果として、(1)のハードコート基材接合体の製造方法によれば、ハードコート層を備えるハードコート樹脂基材と、各種材料からなる成型品基体と、が必要十分な接合強度で接合されているハードコート基材接合体を得ることができる。
【0010】
(2) 前記エネルギー波が、レーザー光である、(1)に記載のハードコート基材接合体の製造方法。
【0011】
(2)のハードコート基材接合体の製造方法は、によれば、(1)に記載の製造方法において、ハードコート層と弾性体の接合部へのエネルギー付与を、レーザー光の照射によって行うこととした。これにより、上記接合部以外の箇所に与える好ましくない影響を最小限に抑えながら、上記接合部に局所的に必要なエネルギー量を効率よく正確に付与することができる。その結果として(2)のハードコート基材接合体の製造方法によれば、(1)の製造方法の奏する上記効果を享受しつつ、ハードコート基材接合体全体の品質安定性や生産性をより好ましい水準に向上させることができる。
【0012】
(3) 前記成型品基体の主たる材料が、前記ハードコート樹脂基材とは異種の樹脂材料、又は、金属材料である、(1)又は(2)に記載のハードコート基材接合体の製造方法。
【0013】
(3)のハードコート基材接合体の製造方法によれば、接着剤を用いる従来の接合方法では、必要十分な接合強度を得ることが困難であった、ハードコート層と、これとは異種材量からなる成型品基体の接合を良好な接合強度によって接合することができる。
【0014】
(4) 前記弾性体を形成する前記熱可塑性樹脂が、オレフィン系エラストマー又はポリエステル系エラストマーである、(1)から(3)の何れかに記載のハードコート基材接合体の製造方法。
【0015】
(4)のハードコート基材接合体の製造方法によれば、(1)から(3)の何れかに記載の製造方法の奏する上記各効果を、より好ましい水準で、より高い精度で享受することができる。
【0016】
(5) 前記エネルギー波照射工程においては、前記ハードコート層の前記弾性体との接合部分に予め規定した所定態様の微細凹凸が形成される強度で、前記エネルギー波を照射する、(1)から(4)の何れかに記載のハードコート基材接合体の製造方法。
【0017】
(5)のハードコート基材接合体の製造方法によれば、エネルギー波の照射強度を適切な微細凹凸が形成される強度に最適化することにより、(1)から(4)の何れかに記載の製造方法の奏する効果を、より高い精度で享受することができる。
【0018】
(6) 前記微細凹凸は、表面粗さRaが、0.1μm以上500μm以下である、(5)に記載のハードコート基材接合体の製造方法。
【0019】
(6)のハードコート基材接合体の製造方法によれば、(5)の製造方法において規定する微細凹凸の態様を、特定の表面粗さ等を有する範囲により具体的に特定した。これにより、(5)の製造方法の奏する上記効果を、更に、高い確度で享受することができる。
【0020】
(7) 前記成型品基体が、開口枠を有し、前記積層工程においては、前記ハードコート樹脂基材を前記開口枠に嵌合させる、(1)から(6)の何れかに記載のハードコート基材接合体の製造方法。
【0021】
(7)のハードコート基材接合体の製造方法によれば、ハードコート樹脂基材の表面積に対して、成型品基体側の接合部の面積が狭小となる開口枠部分への接合においても、(1)から(6)の何れかに記載のハードコート製造方法の奏する上記各効果を享受して、ハードコート樹脂基材の成型品基体の表面への接合を、必要十分な接合強度で行うことができる。
【0022】
(8) 前記成型品基体が、車両用基体であり、前記ハードコート樹脂基材が車両用窓ガラス、エンブレム、ピラー、フロントモールディング、ルーフ、ボンネット、ドア、ドアトリム、シート、若しくはフロントパネル、又はこれらのパーツの一部である、(1)から(7)の何れかに記載のハードコート基材接合体の製造方法。
【0023】
(8)のハードコート基材接合体の製造方法によれば、(7)の製造方法と同様、車両用基体に各種の車両用パーツを接合してなる車両用の接合体の接合においても、(1)から(6)の何れかに記載のハードコート製造方法の奏する上記各効果を享受して、車両用基体への各種パーツの接合強度を向上させることができる。
【0024】
(9) 樹脂基材の少なくとも一方の表面にハードコート層を備えるハードコート樹脂基材が、成型品基体に接合されてなる、ハードコート基材接合体であって、前記ハードコート樹脂基材は、前記ハードコート層の表面が、熱可塑性樹脂を含んでなる弾性体を介して、前記成型品基体の表面に接合されていて、前記ハードコート層は、硬化性樹脂を含んでなり、前記弾性体との接合部分に微細凹凸を有する、ハードコート基材接合体。
【0025】
(9)のハードコート基材接合体は、硬化性樹脂を含むハードコート層の表面に微細凹凸が形成されている。この微細凹凸は、例えば、レーザー光等の照射によって形成することができる。そして、この微細凹凸が発揮するアンカー効果により、ハードコート層と弾性耐との間の接合強度を向上させることができる。その結果として、(9)のハードコート基材接合体によれば、ハードコート層を備えるハードコート樹脂基材と、各種材料からなる成型品基体と、が必要十分な接合強度で接合されているハードコート基材接合体を得ることができる。
【0026】
(10) 前記微細凹凸は、表面粗さRaが、0.1μm以上500μm以下である、(9)に記載のハードコート基材接合体。
【0027】
(10)のハードコート基材接合体によれば、(9)のハードコート基材接合体の微細凹凸の態様を、特定の表面粗さ等を有する範囲により具体的に特定した。これにより、(9)のハードコート基材接合体の奏する上記効果を、更に、高い確度で享受することができる。
【0028】
(11) 前記ハードコート樹脂基材は前記樹脂基材の両面に前記ハードコート層が積層されていて、前記微細凹凸は、前記弾性体との接合部分のみに存在する、(9)又は(10)に記載のハードコート基材接合体。
【0029】
(11)のハードコート基材接合体は、接合強度の向上に寄与する微細凹凸が、ハードコート層と弾性体との接合部分のみに形成されているため、ハードコート基材接合体の接合部分以外の部分において、意匠性も含め、好ましくない影響が生じる可能性を排除しつつ、(9)又は(10)に記載のハードコート基材接合体の奏する上記効果を享受することができる。
【0030】
(12) 前記成型品基体の主たる材料が、前記ハードコート樹脂基材とは異種の樹脂材料、又は、金属材料である、(9)から(11)の何れかに記載のハードコート基材接合体。
【0031】
(12)のハードコート基材接合体によれば、接着剤を用いる従来の接合方法では、必要十分な接合強度を得ることが困難であった、ハードコート層と、これとは異種材量からなる成型品基体の接合を良好な接合強度によって接合することができる。
【0032】
(13) 前記弾性体を形成する前記熱可塑性樹脂が、オレフィン系エラストマー又はポリエステル系エラストマーである、(9)から(12)の何れかに記載のハードコート基材接合体。
【0033】
(13)のハードコート基材接合体によれば、(9)から(12)の何れかに記載のハードコート基材接合体の奏する上記各効果を、より好ましい水準で、より高い精度で享受することができる。
【0034】
(14) 前記成型品基体が、開口枠を有し、前記開口枠に前記ハードコート樹脂基材が嵌合されている、(9)から(13)の何れかに記載のハードコート基材接合体。
【0035】
(14)のハードコート基材接合体によれば、ハードコート樹脂基材の表面積に対して、成型品基体側の接合部の面積が狭小となる開口枠部分への接合においても、(9)から(13)の何れかに記載のハードコート基材接合体の奏する上記各効果を享受して、ハードコート樹脂基材の成型品基体の表面への接合を、必要十分な接合強度で行うことができる。
【0036】
(15) 前記成型品基体が、車両用基体であり、前記ハードコート樹脂基材が車両用窓ガラス、エンブレム、ピラー、フロントモールディング、ルーフ、ボンネット、ドア、ドアトリム、シート、若しくはフロントパネル、又はこれらのパーツの一部である、(9)から(14)の何れかに記載のハードコート基材接合体。
【0037】
(15)のハードコート基材接合体によれば、(14)のハードコート基材接合体と同様、車両用基体に各種の車両用パーツを接合してなる車両用の接合体の接合においても、(9)から(13)の何れかに記載のハードコート基材接合体の奏する上記各効果を享受して、車両用基体への各種パーツの接合強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、ハードコート層を備えるハードコート樹脂基材と、各種材料からなる成型品基体と、が、好ましい接合強度で接合されているハードコート基材接合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明のハードコート基材接合体の製造方法の実施態様を説明することを企図して、当該ハードコート基材接合体を、成型品基体とハードコート樹脂基材とに分解して示した分解斜視図である。
図2】本発明のハードコート基材接合体の製造方法において行われるエネルギー波照射工程の実施態様を模式的に示す図面である。
図3図2に示すハードコート基材接合体の断面図であり、本発明の製造方法を実施する際に、レーザー光等のエネルギー波が照射される部分の層構成を模式的に示す図面である。
図4】本発明のハードコート基材接合体を構成するハードコート樹脂基材の層構成を模式的に示す断面図である。
図5】ハードコート樹脂基材のハードコート層に形成される微細凹凸の表面のレーザー顕微鏡による拡大写真である。(尚、図内の矩形枠は弾性体を介して成型品基体と接合していた領域を示す。)
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではない。本発明は、その目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0041】
<ハードコート基材接合体>
本発明のハードコート基材接合体10は、図3に示すように、ハードコート樹脂基材1が、熱可塑性樹脂を含んでなる弾性体3を間に介して、成型品基体2に接合される構成からなる接合体である。本発明のハードコート基材接合体の技術的範囲には、このような構成からなる部分を含む、車両、建造物、その他の実質的に同一の層構成からなる構造体が全て含まれる。
【0042】
ハードコート基材接合体10を構成するハードコート樹脂基材1は、樹脂基材11の少なくとも一方の表面にハードコート層12が設けられているフィルム状又は板状の樹脂基材である。図3に示すように、ハードコート基材接合体10においては、ハードコート樹脂基材1は、接着剤による良好な接合が困難であるハードコート層12を備える面が、成型品基体2の表面に対向する面となるように配置されている。そして、同図に示すように、ハードコート樹脂基材1が成型品基体2と一体化されてハードコート基材接合体10を構成している状態において、ハードコート層12は、樹脂基材11の表面保護層として機能する。
【0043】
又、ハードコート樹脂基材1の成型品基体2への接合は、両者の接合部分に熱可塑性樹脂を含んでなる弾性体3を配置し、これを介して、両者が接合される構成とされている。そして、ハードコート基材接合体10は、図3及び図4に示すように、ハードコート層12の上記接合部分の略全面に微細凹凸121が形成されている。これにより、この接合界面における接合強度が有意に向上している。微細凹凸の形状と作用効果の詳細については後述する。
【0044】
[ハードコート樹脂基材]
ハードコート樹脂基材1は、その骨格部として主たる部分を構成する樹脂基材11の少なくとも一方の表面に、硬化性樹脂を含んでなるハードコート層12が設けられることにより構成されている。ハードコート層は、樹脂基材11の両面に設けられていることが好ましいが、必ずしも、両面への設置が必須ではなく、何れか一方の面のみに設けられていてもよい。その場合、ハードコート層12を備える一方の面が、成型品基体2の表面に対向する面となるように配置される。そして、ハードコート基材接合体10を構成するハードコート樹脂基材1は、この面、即ち、ハードコート層12における弾性体3との接合界面のうち、上記接合部分の略全面に、微細凹凸121が形成されていることを、形状面における主たる特徴とする。
【0045】
尚、ハードコート層12は、樹脂基材11との界面となる側に、通常、樹脂基材11とハードコート層12と間の必要な密着性を維持するための接着層(図示せず)が更に設けられている。この接着層は、ハードコート層12の側から順に、プライマー層とヒートシール層とが配置されてなる2層構成の接着層であることが好ましい(特許文献1参照)。
【0046】
尚、ハードコート樹脂基材1の全体形状は、平板状のものが代表的であるがこれに限られず、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、曲面を含む形状に成形された各種の樹脂製の部材をハードコート樹脂基材とする場合にも本発明を適用することができる。
【0047】
(樹脂基材)
ハードコート樹脂基材1を構成する樹脂基材11としては、用途に応じて、様々な樹脂を主材料とする樹脂基材を適宜選択することができる。但し、本発明に係るハードコート樹脂基材1の樹脂基材11としては、有機ガラスを特に好ましく用いることができる。尚、本発明における「有機ガラス」とは、JIS R3211:2015に「有機ガラス」として定義されているもの、及び、それに準じる材料及び層構成からなり、本発明特有の作用効果を同様に奏しうるものことを言うものとする。「有機ガラス」の代表的な具体例としては、ポリカーボネート樹脂を主たる材料とする硬質合成樹脂を挙げることができる。
【0048】
ハードコート樹脂基材1を、車両用の窓ガラスとして用いることを想定する場合に求められる透明性の観点から、樹脂基材11としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、又は、ポリエステル樹脂等を、主たる材料とする樹脂基材を好ましく用いることができる。又、これらの中でも耐衝撃性に優れることから、ポリカーボネート樹脂を主たる材料とする樹脂基材を、本発明に係るハードコート樹脂基材1構成する樹脂基材11として特に好ましく用いることができる。
【0049】
(ハードコート層)
ハードコート層12は、硬化性樹脂を含んでなる樹脂組成物(以下、「硬化性樹脂組成物」とも言う)からなる層である。そして、このハードコート層12は、ハードコート樹脂基材1が、成型品基体2に接合されてなるハードコート基材接合体10において、当該ハードコート樹脂基材1の最表面にハードコート層12を形成して、その表面の良好な耐傷性を維持する。
【0050】
そして、上述の通り、ハードコート層12は、図4に示す通り、弾性体3との接合部分の略全面に微細凹凸121が形成されている。この微細凹凸121は、ハードコート樹脂基材1の成型品基体2への接合を、例えばレーザー光等、所定のエネルギー波の照射によって行うことで適切に発現させることができる。このような接合を行うハードコート基材接合体の製造方法の詳細については後述する。尚、この微細凹凸121は、ハードコート基材接合体10において、ハードコート層12の表面の弾性体3との接合部分のみに存在することが好ましい。このような態様の微細凹凸は、本発明の製造方法によって意図的に形成することができる。
【0051】
ハードコート層12の表面の一部であって弾性体3との接合部分に、微細凹凸121が存在することによって、硬化性樹脂組成物からなるハードコート層12の一部である微細凹凸の凸部が、熱可塑性樹脂を含んでなる弾性体3の内部に食い込み、そのような微細凹凸121が存在しない場合には発現し得ないアンカー効果が発現する。そして、これにより、従来の接着剤による所謂ドライラミネーションよりも、この界面における接合強度を有意に向上させることができる。
【0052】
ハードコート層12の表面を含む接合面における接合強度の向上に寄与する上記のアンカー効果をより確実に享受するためには、微細凹凸121は、その表面粗さRaが、0.1μm以上500μm以下であることが好ましい。適度なサイズの凹凸が存在することで、上記接合強度が有意に向上する。微細凹凸121の表面粗さRaは、0.5μm以上100μm以下であることがより好ましく、1μm以上20μm以下であることが更に好ましい。尚、本明細書における「表面粗さRa」は、成型品基体2及び弾性体3を剥離して露出させたハードコート層12の表面について、New View 5000(Zygo社製)を用いて、対物レンズ:10倍、ズームレンズ:1倍、Scan Length:15μmにて、1000μm×1000μmの範囲の表面形状を撮像し、JIS B 0601:2001に準拠し得られた像から算出した粗さ曲線の中心線からの平均のずれを算出することよって求めた値のことを言うものとする。
【0053】
又、微細凹凸121の凸部間の平均ピッチは、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、10μm以上500μm以下であることがより好ましく、25μm以上200μm以下であることが更に好ましい。尚、本明細書における「凸部間の平均ピッチ」については、成型品基体2及び弾性体3を剥離して露出させたハードコート層12の表面について、レーザー顕微鏡により観察することにより求めた値とする。
【0054】
ハードコート層12を形成する硬化性樹脂組成物の主たる材料とする硬化性樹脂しては、熱硬化性樹脂、或いは、電離放射線硬化性樹脂を、適宜選択して用いることができる。
【0055】
ハードコート層12を形成するための硬化性樹脂組成物のベース樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0056】
ハードコート層12を形成するための硬化性樹脂組成物のベース樹脂として電離放射線硬化性樹脂を用いる場合、従来から電離放射線硬化性を有する樹脂として慣用されている重合性オリゴマーやプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。そのような重合性オリゴマーやプレポリマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマーやプレポリマー、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系やポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートやカプロラクトン系ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系のオリゴマーやプレポリマー等を好ましく用いることができる。
【0057】
ハードコート層12を形成するための硬化性樹脂として電離放射線硬化性樹脂を用いる場合、これらの樹脂に照射する電離放射線としては、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合或いは架橋し得るエネルギー量子を有するもの、例えば、紫外線(UV)又は電子線(EB)を選択することができる。又、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も選択することができる。
【0058】
又、硬化性樹脂組成物は、耐候性及びハードコート性を向上させ、優れた透明性を得る観点から、シリコーン化合物を含有することができる。シリコーン化合物としては、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、(メタ)アクリロイル基、アリル基等の反応性官能基を有する反応性シリコーン化合物、或いはこれらの反応性官能基を有しない非反応性シリコーン化合物のいずれも使用することができる。
【0059】
又、ハードコート層12を形成する硬化性樹脂組成物は、更に、ハードコート性や耐候性を向上させるために、耐傷フィラーや、耐候剤を含有することが好ましい。ハードコート層12に含有させることができる耐傷フィラーとしては、無機系と有機系のフィラーがあり、無機物では、例えば、アルミナ、シリカ、カオリナイト、酸化鉄、ダイヤモンド、炭化ケイ素等の無機粒子が挙げられる。これらの無機系の耐傷フィラーのうち、シリカ粒子は好ましいものの一つである。シリカ粒子は、ハードコート性を向上させ、且つ、ハードコート層の透明性を阻害しないからである。シリカ粒子としては、従来公知のシリカ粒子から適宜選択して用いることが可能であり、コロイダルシリカ粒子等も好適に挙げられる。コロイダルシリカ粒子は、添加量が増えた場合であっても、透明性に影響を及ぼすことが少ない。
【0060】
又、ハードコート層12の形成に用いられる硬化性樹脂組成物は、優れた耐候性を得るため、耐候性改善剤を含むことが好ましい。耐候剤としては、紫外線吸収剤や光安定剤等があり、紫外線吸収剤は有害な紫外線を吸収し、ハードコート基材接合体の長期にわたる耐候性、安定性を向上させる。又、光安定剤は、これ自体は紫外線をほとんど吸収しないが、紫外線により生じる有害なフリーラジカルを効率良く捕捉することにより安定化が得られるというものである。紫外線吸収剤としては、二酸化チタンや酸化セリウム、酸化亜鉛等の無機系のものや、ベンゾトリアゾール系やトリアジン系の有機系の紫外線吸収剤が好ましく挙げられ、中でもトリアジン系紫外線吸収剤が好ましい。又、光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系の光安定剤(HALS)が好ましく挙げられる。
【0061】
又、ハードコート層12を形成する硬化性樹脂組成物には、その性能を阻害しない範囲で各種添加剤を含有させることができる。各種添加剤とは、例えば、重合禁止剤、架橋剤、帯電防止剤、接着性向上剤、酸化防止剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤等である。
【0062】
(ハードコート樹脂基材の製造方法)
ハードコート樹脂基材1の製造は、例えば、樹脂基材11上に、例えば、特許文献1に開示されているような転写用ハードコートフィルム積層体を、接着層を介して転写する製造方法により得ることができる。
【0063】
上記の転写用ハードコートフィルム積層体は、ハードコート樹脂基材1と、ハードコート樹脂基材1を支持する支持基材である基材フィルムとが積層されてなる樹脂フィルムである。この転写用ハードコートフィルム積層体を構成するハードコート樹脂基材1が、有機ガラス等からなる樹脂基材11の表面に転写されてハードコート層12が形成される。
【0064】
[成型品基体]
成型品基体2とする部材の種類は、特に限定されない。耐傷性等のハードコート性が必要になるもので、例えば、自動車等の各種車両の窓や、その他お内外装用の部品、太陽電池カバー又は太陽電池基板、一般住居や公共施設の建築構造物の外装材や内装材、家電製品の部材等を広く成型品基体として用いることができる。
【0065】
但し、本発明は、成型品基体2が、ハードコート樹脂基材1とは異種の樹脂材料、又は、金属材料からなるものであるときに、特に従来方法に対する優位性が顕著に発現する。そのような観点から、成型品基体2の材料は、ハードコート樹脂基材1とは異種の樹脂材料、又は、金属材料であることがより好ましい。ハードコート樹脂基材1とは異種の樹脂材料とは、樹脂基材11及びハードコート層12を形成する主たる樹脂材料と異なる種類の樹脂材料のことを意味するものであるが、特に接合強度の向上を阻害するハードコート層12を形成する主たる樹脂材料と異種の材料であることが上記の優位性の発現のより重要な要件となる。
【0066】
成型品基体2を構成する樹脂の具体例としては、上述した炭素繊維強化樹脂(CFRP)等の機能性樹脂の他、成型品として汎用的に使用されているポリプロピレン等のポリオレフィン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等を代表的な例として挙げることができる。又、成型品基体2を構成する金属の具体例としては、アルミニウム、ステンレス、鉄、マグネシウム、チタン等を挙げることができる。尚、成型品基体2の形状は、成型品の用途に応じて適宜選択することができ、板状のものには限られない。又、成型品基体2は、ハードコート樹脂基材1を嵌合するための開口枠を有するものであることがより好ましい。接合面が相対的に狭小となるこのような実施形態においても、本発明は、ハードコート樹脂基材1と成型品基体2との接合強度を十分に向上させることができるからである。
【0067】
[弾性体]
弾性体3としては、各種の熱可塑性樹脂をフィルム状に製膜した樹脂フィルムを用いることができる。この樹脂フィルムとしては、ハードコート樹脂基材1及び成型品基体2に対して溶着可能であり、両者の接合部分において弾性を有する樹脂層を形成可能な弾性材料であれば、ハードコート樹脂基材1と成型品基体2の材質、及び、これらを一体化するためのエネルギー照射の実施方法に対応させて、適宜最適な樹脂材料からなるものを選択することができる。
【0068】
ハードコート樹脂基材1と成型品基体2との接合部分において、両者の間に配置する弾性体3の主たる材料とする熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体樹脂、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体樹脂等、或いは、それらの何れかをベース樹脂とする各種のオレフィン系エラストマー、或いは、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、クロロスルフォン化エチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、シリコーンゴム系エラストマー、アクリルゴム系エラストマー、フッ素ゴム系エラストマー等から適宜選択することができる。これらの中でも、オレフィン系エラストマー、或いは、ポリエステル系エラストマーをからなる樹脂フィルムを、弾性体13として、特に好ましく用いることができる。
【0069】
[車両用の接合体]
ハードコート基材接合体10は、車両用の接合体として使用することが好ましく、具体的には、車両用の窓ガラス、エンブレム、ピラー、フロントモールディング、ルーフ、ボンネット、ドア(特にバックドア又はサイドドア)等の外装パーツや、ドアトリム、シート、フロントパネル等の内装パーツ、又はこれらのパーツの一部を構成するハードコート樹脂基材1を、成型品基体2としての車両用基体に接合した接合体として実施することができる。これらの実施態様によれば、各種のパーツが車両用基体に強固に接合した接合体を車両用途に提供することが可能となる。
【0070】
又、ハードコート基材接合体10の特に好ましい実施形態の一例として、車両用の窓ガラスを有機ガラスで構成し、これを車両用基体に接合した、車両用の窓ガラス接合体を挙げることができる。この場合、車両用の窓ガラスを構成する有機ガラスが、ハードコート基材接合体10を構成するハードコート樹脂基材1に該当し、同様に、炭素繊維強化樹脂やアルミニウム等の各種金属からなる車両用基体が成型品基体2に該当する。この場合において、車両用の窓ガラスとして用いられるハードコート樹脂基材1を、その輪郭が車両用基体である成型品基体2の開口(窓枠等)の外縁に整合するように嵌合させて、上記態様で接合することにより、本発明のハードコート基材接合体10を、車両用の窓ガラス接合体に適用することができる。
【0071】
尚、ハードコート基材接合体10は、車両用窓ガラスとして、自動車のバックウインドウやフロントウインドウ、サイドウインドウ、サンルーフ用の天窓に広く適用することが可能である他、自動車以外の車両の窓、及び、その他のハードコート層付きの部材の基体への接合に広く適用することが可能である。
【0072】
[ハードコート基材接合体の製造方法]
本発明のハードコート基材接合体は、以下に詳細を説明する積層工程とエネルギー波照射工程とを、順次は行う製造方法により製造することができる。
【0073】
(積層工程)
積層工程は、例えば、図1に模式的に示すよう態様で、成型品基体2の表面に、弾性体3を介して、ハードコート樹脂基材1を、積層する工程である。この際に、ハードコート樹脂基材1は、ハードコート層12を成型品基体2の表面に向けた状態、即ち、ハードコート層12と弾性体3とが密着している状態で、上記各部材を積層する。このようにして得た積層体を、ハードコート基材接合体10を構成する接合用積層体とし、これを次工程であるエネルギー波照射工程に付すことによって一体化する。
【0074】
(エネルギー波照射工程)
エネルギー波照射工程は、例えば、図2及び図3に模式的に示すよう態様で、積層工程で得た上記の接合用積層体に、エネルギー波を照射することにより、ハードコート層12を、成型品基体2の表面にも密着している弾性体3と溶着させることにより、ハードコート樹脂基材1と成型品基体2とを、弾性体3を介して接合する工程である。図3に示される態様では、レーザー光Lをハードコート樹脂基材1側から照射しているが、成型品基体2の種類に応じて、成型品基体2側から照射するようにしてもよい。
【0075】
このエネルギー波照射工程において用いるエネルギー波は、上記の接合が可能な光、熱、或いは電気エネルギー等の各種のエネルギーを、上記の接合用積層体の接合界面に制御可能に適量で付与できるものであれば、特定のエネルギー波に限定されない。但し、図2に示すように、レーザー光照射機器20によって、レーザー光Lを、接合部分に局所的に照射する方法が本発明の実施形態としては特に好ましい。
【0076】
エネルギー波照射工程において、ハードコート層の材量樹脂に応じて、照射するエネルギーの強度(照射量と照射時間の積)を、適宜調整することにより、ハードコート層に形成される上述の微細凹凸の表面粗さRaや、凸部の密度等を上述した所望の好ましい範囲内に制御することができる。
【実施例
【0077】
<接合強度試験>
本発明のハードコート基材接合体において、硬化性樹脂からなるハードコート層が積層委体内における対向面に対して十分な接合強度を有しえるか否かを確認するために、それぞれ異なる照射条件でレーザー光を照射して得た2つの試料(実施例1、2)について「引張せん断接着強さ試験(JIS K6850に準拠)」を行った。試験条件として、測定温度は、23℃、引っ張り速度は、10mm/minとした。結果は表1に示す通りであった。
【0078】
[試料の作成]
(ハードコート樹脂基材)
ポリカーボネート製の有機ガラス(厚さ4mm)の両面に、アクリレート系のオリゴマーを硬化させてなるハードコート層を設けた「ハードコート層付き有機ガラス」を、上記の試料を作成するための「ハードコート樹脂基材」として用いた。この樹脂基材のサイズは、100mm×50mmとした。
(弾性体)
ポリエステル樹脂系の熱可塑性エラストマー(「ハイトレルHTD-741H」(東レ・デュポン社製))をベース樹脂とする樹脂組成物を、厚さ50μmに製膜して得た樹脂フィルムを、上記の試料を作成するための「弾性体」として用いた。この樹脂フィルムのサイズは、10mm×25mmとした。
(積層及びレーザー光照射)
2枚の上記「ハードコート樹脂基材」の間に上記「弾性体」を配置した層構成でこれらを積層して得た積層体を、レーザー光の照射による溶融接合により一体化した。何れの実施例においても、同一の積層体を用い、レーザー光の照射条件のみを、各例毎に変更した。各例毎のレーザー光の照射条件は、何れも照射時間を1秒間とし、照射量については表1に示す通りとした。
【0079】
<ハードコート層表面の微細凹凸の評価>
上記接合強度試験において弾性体から剥離した後の各実施例のハードコート層の表面について、New View 5000(Zygo社製)を用いて、対物レンズ:10倍、ズームレンズ:1倍、Scan Length:15μmにて、1000μm×1000μmの範囲の表面形状を撮像し、JIS B 0601:2001に準拠し得られた像から算出した粗さ曲線の中心線からの平均のずれを算出することよって、表面粗さRaを求めた。結果は表1に示す通りであった。
【0080】
又、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、拡大倍率10倍)を用いて、実施例1のハードコート層表面の、弾性体を介して有機ガラスと接合していた領域、及び接合していなかった領域の境界部分を観察して撮像した。図5に得られた観察画像を示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1より、本発明のハードコート基材接合体によれば、ハードコート層を備えるハードコート樹脂基材と、各種材料からなる成型品基体との接合強度を、有意に向上させることができることが分かる。
【符号の説明】
【0083】
1 ハードコート樹脂基材
11 樹脂基材
12、13 ハードコート層
121 微細凹凸
2 成型品基体
3 弾性体
10 ハードコート基材接合体
20 レーザー光照射機器
L レーザー光
図1
図2
図3
図4
図5