(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】圧延装置
(51)【国際特許分類】
B21B 39/14 20060101AFI20221206BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20221206BHJP
B21B 38/00 20060101ALI20221206BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B21B39/14 E
B21C51/00 Q
B21B38/00 D
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2018223389
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉越 健一
(72)【発明者】
【氏名】田邉 顕
(72)【発明者】
【氏名】辻本 祐輝
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-108907(JP,U)
【文献】特開2017-119285(JP,A)
【文献】特開平08-108205(JP,A)
【文献】特開2013-081994(JP,A)
【文献】特開2004-298884(JP,A)
【文献】特開2000-158044(JP,A)
【文献】特開2010-234422(JP,A)
【文献】特開平08-141612(JP,A)
【文献】特開2001-300621(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0072785(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 38/00
B21B 39/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材を圧延する圧延ロールと、
前記圧延ロールへの前記被圧延材の導入を誘導する、自由回転可能なロールよりなる誘導ロールを備えた誘導部と、
前記誘導部に取り付けられ、前記誘導ロールの振動を検出する振動検出部と、
警報を発生する警報部と、
前記振動検出部が検出した振動に基づいて、前記警報部に前記警報を発生させる判定部と、を有し、
前記振動検出部および前記判定部は、前記被圧延材の圧延を行っている間、前記誘導ロールの振動を監視し続け、
前記判定部は、
前記振動検出部が検出した振動の振幅を累積した累積振幅を監視し、前記累積振幅が、警報基準として設定された基準累積値以上となった際に、前記警報部に前記警報を発生させることを特徴とする圧延装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記振動検出部が検出した振動の信号に対して、前記警報基準との比較以外の処理を行うことなく、前記警報部によって前記警報を発生するか否かを判定することを特徴とする請求項
1に記載の圧延装置。
【請求項3】
前記振動検出部は、前記誘導部の筐体に、磁力により着脱可能に取り付けられることを特徴とする請求項1
または2に記載の圧延装置。
【請求項4】
前記振動検出部が検出した振動の情報を記憶できる記憶部を、さらに有することを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の圧延装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延装置に関し、さらに詳しくは、圧延ロールに被圧延材を誘導する誘導ロールを備えた圧延装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料よりなる被圧延材を圧延する圧延装置において、圧延ロールの所定の位置に被圧延材を誘導するために、圧延ロールの上流に、誘導ロールを備えた誘導装置が設けられる場合がある。誘導装置は、所定の間隔を空けて対向して配置された1対の自由回転する誘導ロールを有しており、誘導ロールの間に設けた空隙に、被圧延材を通過させて、圧延ロールに導入する。その種の誘導装置は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧延装置に設けられる誘導装置において、誘導ロールの回転不良や損傷等の異常が発生する場合がある。そのような異常が生じると、圧延ロールに向けた被圧延材の誘導を正常に行えなくなる場合ある。また、誘導ロールに異常が生じた状態のまま、圧延を継続すると、圧延を経て製造される製品に、品質異常が生じるおそれや、圧延装置の構成部材に過剰な負荷を与えてしまうおそれがある。例えば、誘導ロールに回転不良が生じると、誘導ロールと被圧延材の間の摩擦によって、誘導ロールの構成材料が削れてしまう場合がある。すると、誘導ロールの表面の損傷や、削れによって生じた金属片によって、被圧延材の表面に疵が生じる可能性がある。誘導ロールの損傷箇所や発生した金属片を放置したまま、圧延装置の運転を続けると、その後圧延される製品に、影響が及び続けることになる。
【0005】
誘導ロールの異常による影響が及ぶ範囲を小さく抑えるために、異常を早期に検知し、対策を施すことが重要となる。従来は、所定の時間間隔を定め、その時間間隔ごとに、管理者が、誘導ロールに対する目視検査や、探針による誘導ロール表面の検査等を行い、誘導ロールに異常が生じていないかを確認していた。しかし、一度検査を行った後に発生した異常は、次の検査を行うまでの間は、発見することができない。すると、異常が発生した後、次の検査を行うまでの間に製造される製品に、異常の影響が及ぶことになる。検査を行う時間間隔を短くするとしても、異常の早期検知には限界があるうえ、管理者の負担が増大する。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、圧延ロールに被圧延材を誘導する誘導ロールに異常が起きた際に、その異常を早期に検知し、通知することができる圧延装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる圧延装置は、被圧延材を圧延する圧延ロールと、前記圧延ロールへの前記被圧延材の導入を誘導する、自由回転可能なロールよりなる誘導ロールを備えた誘導部と、前記誘導部に取り付けられ、前記誘導ロールの振動を検出する振動検出部と、警報を発生する警報部と、前記振動検出部が検出した振動に基づいて、前記警報部に前記警報を発生させる判定部と、を有し、前記振動検出部および前記判定部は、前記被圧延材の圧延を行っている間、前記誘導ロールの振動を監視し続け、前記判定部は、警報基準以上の振動を検知した際に、前記警報部に前記警報を発生させるものである。
【0008】
ここで、前記判定部は、前記振動検出部が検出した振動の振幅を累積した累積振幅を監視し、前記累積振幅が、前記警報基準として設定された基準累積値以上となった際に、前記警報部に前記警報を発生させるとよい。
【0009】
また、前記判定部は、前記振動検出部が検出した振動の信号に対して、前記警報基準との比較以外の処理を行うことなく、前記警報部によって前記警報を発生するか否かを判定するとよい。
【0010】
また、前記振動検出部は、前記誘導部の筐体に、磁力により着脱可能に取り付けられるとよい。
【0011】
前記圧延装置は、前記振動検出部が検出した振動の情報を記憶できる記憶部を、さらに有するとよい。
【発明の効果】
【0012】
上記発明にかかる圧延装置は、誘導ロールの振動を検出する振動検出部を有している。誘導ロールに、回転異常や損傷等の異常が生じると、多くの場合、誘導ロールに振動が発生する。圧延装置において、被圧延材の圧延を行っている間、振動検出部および判定部によって、誘導ロールの振動を監視し続け、所定の警報基準以上の振動を検知した際に、警報部によって警報を発生させることで、振動を伴う異常が誘導ロールに発生すれば、その異常を早期に検知し、管理者等に通知することができる。すると、管理者等が、圧延装置の運転を停止させるなどして、必要な処置を早期に施すことができる。その結果、異常発生以降に製造される製品の品質低下等、誘導ロールの異常による影響が広い範囲に及ぶのを、防止することができる。
【0013】
ここで、判定部が、振動検出部が検出した振動の振幅を累積した累積振幅を監視し、累積振幅が、警報基準として設定された基準累積値以上となった際に、警報部に警報を発生させる場合には、誘導ロールに被圧延材の先端部が導入される噛み込み時や、誘導ロールから被圧延材の後端部が離れる噛み離し時に発生する振動等、短時間しか継続しない振動と区別して、誘導ロールの不可逆的な異常によって、ある程度の時間にわたって継続される振動を検知し、警報を発生することができる。
【0014】
また、判定部が、振動検出部が検出した振動の信号に対して、警報基準との比較以外の処理を行うことなく、警報部によって警報を発生するか否かを判定する場合には、振動の信号に対して、周波数分析をはじめとする演算や基準データとの比較等の処理を行わないことにより、判定部の構成や判定の工程を簡素なものとできる。誘導ロールあるいはその近傍で発生する異常な振動は、高い確率で、誘導ロールの異常によるものであることから、複雑な信号処理によって、異常原因を特定するようなことは必要でない。また、誘導ロールの異常は、突発的に発生するものであり、簡素な構成の判定部を用いることで、振動による異常の監視を、安定して継続することができる。
【0015】
また、振動検出部が、誘導部の筐体に、磁力により着脱可能に取り付けられる場合には、誘導ロールの振動を敏感に伝達される筐体に、振動検出部を簡便に取り付けることができる。また、振動を敏感に検出できる場所の選択等を目的として、振動検出部の取り付け位置を変更することも、簡便に行える。
【0016】
圧延装置が、振動検出部が検出した振動の情報を記憶できる記憶部を、さらに有する場合には、記憶部に記憶された情報に基づいて、誘導ロールの状態と製品の品質との関係等について、遡及的に検討することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる圧延装置の概略を示す図であり、(a)は誘導部および圧延ロールの近傍の側面図、(b)は誘導部の正面図である。
【
図2】上記圧延装置において、誘導ロールの異常検知に関わる部分の構成を示すブロック図である。
【
図3】累積振幅を用いた異常検知を説明する図である。実線は、誘導ロールに異常が発生している場合、破線は、誘導ロールが正常に回転している場合を示している。
【
図4】振動検出部において検出される信号の例であり、(a)は誘導ロールが正常に回転している場合、(b)は誘導ロールに異常が発生している場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態にかかる圧延装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
[圧延装置の構成]
本発明の一実施形態にかかる圧延装置1は、複数段に設けられた圧延ロールによって、被圧延材Mを段階的に圧延するものであり、中間圧延を行う圧延ロール30,30の近傍に、
図1に示すような、振動検出部20を取り付けた誘導部10を有している。また、
図2に示すように、振動検出部20を含め、誘導部10の異常を検知するための設備を備えている。本実施形態にかかる圧延装置1において、それら以外の部位の構成としては、従来一般の圧延装置と同様の構成を適用することができる。
【0020】
本実施形態にかかる圧延装置1は、
図1に示すように、中間圧延を行う圧延ロール30,30を備えている。1対の圧延ロール30,30が相互に対向して設けられており、駆動機構(不図示)によって、回転Rを駆動される。圧延ロール30,30には、孔型が設けられており、金属条材よりなる被圧延材Mをその孔型に通過させることで、所定の形状への圧延を行う。
【0021】
被圧延材Mの移動方向Dに沿って、圧延ロール30,30のすぐ上流には、誘導部10が設けられている。誘導部10は、1対の誘導ロール11,11を有している。1対の誘導ロール11,11はそれぞれ、回転軸を中心として回転可能となっている。回転軸は、筐体12に取り付けられたベアリング13によって、軸回転可能に支持されている。誘導ロール11,11には、駆動機構が設けられておらず、自由回転することができる。また、誘導ロール11,11は、回転軸に沿って中央部がくびれた形状を有しており、1対の誘導ロール11,11のくびれによって、空隙として形成される誘導空間14に、被圧延材Mを通過させることができる。誘導部10としては、特許文献1に開示されるもの等、公知の同種の誘導装置を利用することができ、適宜、1対の誘導ロール11,11の間の距離を調整する調整機構等を備えることができる。
【0022】
誘導部10においては、1対の誘導ロール11,11の間に形成される誘導空間14の中心の位置が、圧延ロール30,30の孔型の中心の位置対して、移動方向Dに沿って、略直線上に揃っている。誘導部10の誘導空間14に被圧延材Mを通して、圧延ロール30,30による被圧延材Mの圧延を行うと、誘導ロール11,11は、圧延ロール30,30の回転Rに伴って回転しながら、圧延ロール30,30の孔型の中心へと、移動方向Dに沿って、被圧延材Mを誘導する。
【0023】
誘導部10には、振動検出部20が設けられている。振動検出部20は、自身に伝達された振動を検出し、その振動の波形(変位の時間変化)を、電気信号として出力する。振動検出部20としては、加速度式振動センサ等、公知の接触型の振動センサを利用することができる。振動検出部20は、外周部に磁石を備えたものであることが好ましく、その場合に、誘導部10の筐体12のうち、強磁性金属よりなる部位に、磁力によって、誘導部10を、着脱可能に取り付けることができる。
【0024】
振動検出部20から出力された、振動の変位に対応する信号は、適宜、増幅器(不図示)によって増幅されたうえで、判定部41に入力される。判定部41は、振動検出部20から入力された信号に基づいて、誘導ロール11,11に異常が起こっているかどうかを判定する。そして、誘導ロール11,11に異常が起こっていると判定した場合には、警報部42に警報を出力させるための制御信号を出力する。判定部41が振動の信号に対して行う処理としては、振幅値の累積による累積振幅の算出、およびその累積振幅と、予め定めた基準累積値との比較を行うことができれば、十分である。判定部41は、振動検出部20を制御する制御部を兼ねてもよく、例えば、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)より構成することができる。判定部41によって、誘導ロール11,11に異常が起こっているかどうかを判定する機構については、後に詳しく説明する。
【0025】
警報部42は、警報を発生する装置である。警報としては、音声によるもの、光によるもの、視覚表示によるもの等を例示することができる。上記のように、判定部41が、誘導ロール11,11に異常が起こっていると判定し、警報部42に、制御信号を出力すると、警報部42が、警報を発生して、圧延装置1の管理者等に、誘導ロール11,11に異常が発生したことを通知する。
【0026】
圧延装置1は、記憶部43を備えることが好ましい。記憶部43は、振動検出部20から判定部41に入力された信号を経時的に蓄積して記憶するものであり、振動検出部20が検出した振動の波形等、振動に関する情報を記憶することができる。記憶部43としては、コンピュータに備えられたメモリやハードディスクを用いることができる。記憶部43を、振動検出部20や判定部41から離れた場所に設け、ネットワーク接続等により、判定部41から記憶部43にデータを送信するようにしてもよい。
【0027】
圧延装置1はさらに、表示部44を有することが好ましい。表示部44は、振動検出部20から判定部41に入力された信号に基づいて、振動に関する情報を表示するものである。例えば、振動の波形を、グラフとして表示することが好ましい。上記のように、記憶部43を、コンピュータに備えられたメモリやハードディスクより構成する場合に、そのコンピュータに付属されたディスプレイを、表示部44として利用することができる。また、表示部44は、警報部42による警報の表示に兼用することもできる。
【0028】
[振動に基づく誘導ロールの異常検知]
次に、判定部41において、振動検出部20が検出した振動に基づいて、誘導ロール11,11に異常が起こっているかどうかを判定する機構について説明する。
【0029】
圧延装置1を運転し、誘導部10による被圧延材Mの誘導と圧延ロール30,30による圧延を行っている間、振動検出部20が振動変位を計測し続け、判定部41が振動検出部20から出力される信号を処理し続けることで、誘導ロール11,11の振動を監視する状態が継続される。具体的には、判定部41は、振動検出部20から出力される信号に対して、振幅の値を、時間の経過に対して累積して、累積振幅を算出し続ける。累積振幅は、振幅(の絶対値)を、時間に対して積分すること、または所定の時間間隔ごとに足し合わせることにより、算出できる。
【0030】
そして、判定部41は、算出した累積振幅の値と、警報基準として設定された基準累積値との比較を、継続的に行う。基準累積値は、予め判定部41に入力されている。累積振幅の値が、基準累積値以上となると、判定部41は、誘導ロール11,11に異常が起こっていると判定し、警報部42に警報を発生させる。
【0031】
図3に、1本の被圧延材Mが誘導ロール11,11の間を通過する間の、累積振幅の時間変化を、模式的に示す。累積振幅は、振動が発生していない状態では変化せず、時間に対して横這いとなるが、振動が発生すると、累積的に上昇する。ここで、図中に示すように、基準累積値Sを設定する。図中、実線で示す、誘導ロール11,11に異常が起こっている状態においては、時間T1において、累積振幅が、基準累積値S以上となっている。このように、累積振幅が基準累積値S以上となった時間T1において、判定部41が、警報部42に、警報の発生を指示する制御信号を出力し、警報部42が警報を発生する。
【0032】
図3には、破線にて、誘導ロール11,11に異常が起こっていない場合の累積振幅の挙動も、併せて示している。この場合も、時間T0以前、また時間T2以降に、後に説明するような、正常時における誘導ロール11,11の振動により、累積振幅の上昇が起こっているが、1本の被圧延材Mが圧延されている間に、累積振幅が基準累積値Sに達することはない。よって、判定部41は、誘導ロール11,11に異常が発生していると認識せず、警報部42から警報が発せられることはない。なお、累積振幅は、1本の被圧延材Mの通過が完了するとリセットされる。被圧延材Mの通過の完了は、材料検出センサ(不図示)によって行うことができる。材料検出センサは、誘導部10の上流または下流において、各種ロールを備えたスタンドの間に配置され、被圧延材Mの進行位置の検出を行うものである。あるいは、圧延ロール30,30等、圧延ロールにセンサを設置し、圧延ロールの回転数や圧力等の情報をもとに、被圧延材Mに対して、通過の完了等、進行位置を管理する構成としてもよい。
【0033】
圧延装置1の管理者は、警報部42から発生された警報を認識すると、適宜圧延装置1の運転を停止させたうえで、目視検査や探針を用いた検査等により、誘導ロール11,11の状態を確認することができる。そして、誘導ロール11,11に異常が生じていることを確認した場合には、誘導ロール11,11の修理や交換等の対処を行うことができる。
【0034】
誘導部10においては、ベアリング13の潤滑油の不足、誘導ロール11,11の回転軸の摩耗等によって、円滑に誘導ロール11,11が回転できなくなる回転異常が起こりうる。また、誘導ロール11,11の回転異常やその他の要因により、誘導ロール11,11の表面に、損傷が発生する場合がある。回転異常や表面の損傷等の異常が誘導ロール11,11に発生すると、誘導ロール11,11が、圧延ロール30,30に向かって被圧延材Mを正常に送れなくなる。すると、誘導ロール11,11と被圧延材Mとの接触箇所に、正常時には発生しない振動が発生する。
【0035】
図4に、振動検出部20から判定部41に出力される信号の例を示す。縦軸が振動の変位に比例した信号強度、横軸が時間を示している。(a)は、誘導ロール11,11が正常に回転し、圧延ロール30,30へと被圧延材Mを送っている状態で測定されるものであり、(b)は、誘導ロール11,11の回転を妨害し、故意に振動を与えた状態で測定されるものである。誘導ロール11,11の異常に伴って振動が発生すると、その振動が筐体12に伝達されて、振動検出部20に検出される。そのような振動に対応する信号を、
図4(b)中に破線で囲んで示している。正常な回転を行えなくなった誘導ロール11,11の表面を、被圧延材Mが削りきることで、通材に対する妨害がなくなるまでの期間にわたり、大きな振動が継続している。大きな振動が継続している間に、累積振幅は、
図3に示すように上昇し続け、基準累積値Sを上回るようになる。
【0036】
図4(a)の正常運転時、および
図4(b)の異常発生時とも、共通に、グラフ中のごく初期と終期に、振幅の大きな振動が観測されている。
図4(a)に、それぞれV1およびV2として示す。これらの振動は、大きな振幅を有するものの、短時間で収束している。初期の振動V1は、誘導ロール11,11に、被圧延材Mの先端部が導入される際(噛み込み時)に、発生するものである。また、終期の振動V2は、被圧延材Mの後端部が、誘導ロール11,11から離れる際(噛み離し時)に発生するものである。
図3において、時間T0以前および時間T2以降の累積振幅の上昇が、それぞれ噛み込み時および噛み離し時の振動に対応している。しかし、噛み込み時および噛み離し時の振動だけでは、累積振幅が基準累積値Sには達しないため、噛み込み時および噛み離し時の振動は、判定部41によって、誘導ロール11,11の異常とは判定されない。
【0037】
以上で説明したように、本実施形態にかかる圧延装置1においては、誘導部10に振動検出部20を取り付け、圧延を行っている間、誘導ロール11,11の振動を監視し続けることで、振動の発生を伴う異常が誘導ロール11,11に発生すると、即座に検知し、管理者等に通知することができる。これにより、異常の発生後、早期に、管理者等が、誘導ロール11,11の異常の発生を認識し、圧延装置1を停止させる等の対策を施すことができる。誘導ロール11,11の異常の発生を早期に発見できないとすれば、異常が発生した誘導ロール11,11を用いて、被圧延材Mの圧延を継続することになり、誘導ロール11,11の異常による影響が広範囲に及ぶことになる。例えば、異常によって誘導ロール11,11の表面に形成された凹凸等の損傷箇所や、誘導ロール11,11から削り取られた金属片に、被圧延材Mが接触することにより、圧延後の製品の表面に、疵が形成されてしてしまう可能性がある。また、誘導ロール11,11の異常が原因で、圧延装置1の他の構成部材に異常が発生してしまう可能性もある。誘導ロール11,11の異常を早期に発見することで、それらのような影響が及ぶ範囲を、小さく抑えることができる。例えば、圧延装置1の運転を早期に停止することで、誘導ロール11,11に異常が生じた状態で製造される製品の量を少なく抑え、疵の形成による不良品の発生を低減することができる。
【0038】
さらに、本実施形態においては、誘導ロール11,11の異常判定に、各時刻における振幅の値ではなく、累積振幅値を用いることにより、ある程度の時間にわたって振動を与え続けるような不可逆的な誘導ロール11,11の異常を、短時間しか継続しない振動と区別して、検知することができる。短時間しか継続しない振動としては、自然に解消するような一過性の可逆的な異常による振動や、正常時の運転において発生する振動を挙げることができる。例えば、
図4(a)で観測されている、噛み込み時や噛み離し時の振動(V1,V2)のように、正常運転時でも、誘導ロール11,11において、大きな振動が発生しうるが、短時間しか継続しないため、累積振幅の上昇量は、不可逆的な異常が誘導ロール11,11に発生した場合ほどは、大きくならない。そこで、
図3のように、基準累積値Sを、正常運転時に、1本の被圧延材Mが誘導ロール11,11を通過する間に想定される累積振幅よりも、大きな値に設定しておくことで、正常運転時に発生する振動を、異常発生による振動であると誤検知することなく、誘導ロール11,11の異常を検知し、警報によって管理者に通知することができる。基準累積値Sは、複数設定してもよく、例えば、被圧延材Mの種類等に応じて、複数のうちいずれの基準累積値Sを適用するかを、選択できるようにする形態が考えられる。
【0039】
また、本実施形態においては、判定部41が、振動検出部20が検出した振動の信号に対して、警報基準との比較以外の処理を行うことなく、つまり、累積振幅と基準累積値Sとの比較以外の処理を行うことなく、警報部42に警報を発生させるかどうかの判定を行っている。それによって、判定部41の構成や判定の工程を簡素なものとすることができる。
【0040】
加工装置等の振動を監視する際に、周波数分析等の演算や、予め記憶させておいた基準データとの振動波形の比較等の信号処理が用いられる場合がある。振動発生要因が複数想定される場合に、それらの信号処理は、振動の発生源や、振動の原因となっている現象を特定するのに、有効である。しかし、圧延装置1において、誘導部10やその近傍に、異常な振動を発生させる要因は、誘導ロール11,11の異常以外に、ほぼ存在しない。よって、本実施形態にかかる圧延装置1においては、複雑な演算処理を行って、振動の原因を特定するようなことは必要ない。また、誘導ロール11,11の異常は、通常は突発的に発生し、予知がほぼ不可能な現象であるため、誘導ロール11,11に異常が発生していないかを、長期にわたって継続的に監視しておく必要があるが、判定部41の構成および判定の工程を簡素なものとしておくことで、監視を常時行う場合にも、判定部41等、異常の監視を行う設備自体に誤動作や不調が発生し、誘導ロール11,11の監視を正常に継続できなくなる事態を回避して、安定に監視を継続しやすい。
【0041】
さらに、圧延装置1は、ライン全体が連続しているため、被圧延材Mに接触している誘導部10以外の構成部材の振動が、誘導部10に取り付けた振動検出部20に伝達されうる。伝達された振動は、例えば、
図4のような波形におけるバックグラウンドノイズを構成する。圧延装置1は、高温・高負荷で運転されるため、摩耗等により、構成部材の交換が頻繁に行われる可能性があるが、構成部材が交換されると、誘導部10に伝達される振動のパターンが変化する場合がある。このような状況で、基準データとの振動波形の比較によって、誘導ロール11,11の異常を検知するとすれば、頻繁に基準データを取得し直し、更新する必要が生じる。しかし、本実施形態のように、基準データとの比較を利用することなく、予め数値として定めた警報基準との比較のみによって、誘導ロール11,11の異常を検知することで、圧延装置1の構成部材の交換等を経て、誘導部10に伝達される振動に変化が生じたとしても、警報基準の値を調整する程度で、誘導ロール11,11の監視を伴う圧延装置1の運転を、継続することができる。
【0042】
上記のように、振動検出部20の具体的な構成は、特に限定されるものではなく、誘導部10への取り付け方法も、限定されない。しかし、振動検出部20を、磁力を介して取り付け可能なものとしておくことで、誘導ロール11,11の振動を敏感に伝達される筐体12に、固定のためのネジ穴等を形成することなく、振動検出部20を取り付け、振動を敏感に検出することが可能となる。また、筐体12の表面において、誘導ロール11,11の振動を特に敏感に検出できる位置を探す等の目的で、振動検出部20の取り付け位置を変更することも、容易に行える。なお、取り付け位置がある程度定まっている場合には、目印や嵌め込み用の穴を筐体12に形成しておくことで、磁力による振動検出部20の安定な取り付けを、補助することができる。
【0043】
また、記憶部43は、圧延装置1に必須に備えられるものではないが、備えておくことで、誘導ロール11,11の振動に関する情報を、圧延を行っている間のみならず、事後にも利用することが可能となる。つまり、異常の発生等、誘導ロール11,11の状態と、圧延装置1で製造される製品の品質との間の関係等について、遡及的に検討することができる。例えば、記憶部43に保存された振動のデータに含まれる、誘導ロール11,11の異常が検知されて警報が発生された時刻の情報と、各時刻に圧延していた被圧延材Mの個体に関する情報とを照合し、どの個体の被圧延材Mが、誘導ロール11,11の異常の影響を受けている可能性があるのかを、特定することができる。さらに、累積振幅が基準累積値S以上となるような大きな異常の発生に至るまでに、記憶部43に蓄積されたデータを詳細に解析すれば、その異常の発生に至る経緯を推定し、対策を施すようなことも、行いうる。
【0044】
[その他の形態]
上記で説明した形態では、判定部41は、振動検出部20から入力された振動の信号に対して、累積振幅を算出し、その累積振幅が、警報基準としての基準累積値S以上となった際に、誘導ロール11,11に異常が発生していると判定して、警報部42に警報を発生させていた。しかし、そのような形態に限られず、判定部41が、所定の警報基準以上の振動を検知した際に、誘導ロール11,11に異常が発生していると判定して、警報部42に警報を発生させるものであればよい。それにより、誘導ロール11,11の異常を早期に検知し、管理者に通知することができる。そして、振動の信号に対して、警報基準との比較以外の処理を行うことなく、警報を発生させるかどうかを判定するように構成すれば、判定部41の構成および判定の工程を、簡素なものとすることができる。
【0045】
例えば、累積振幅の代わりに、振動の波形における振幅値そのものを利用して、警報基準として設定された基準振幅との比較によって、誘導ロール11,11に異常が判定しているか否かを判定する形態とすることができる。この場合には、例えば、判定部41は、実際に振動検出部20によって検出された振動の振幅と、予め定めた所定の基準振幅との比較、および実際の経過時間と、予め定めた所定の基準時間との比較を継続的に行う。そして、基準振幅以上の振幅を有する振動を、基準時間にわたって検出すると、誘導ロール11,11に異常が起こっていると判定し、警報部42に警報を発生させる。
【0046】
この場合に、基準振幅を、通常の圧延装置1の運転に伴う微細な振動、つまり正常運転に対応する
図4(a)において、全期間にわたって発生し続けている、バックグラウンドノイズを上回るレベルに、設定しておくことで、正常運転時の微細な振動と区別して、誘導ロール11,11の異常に伴う振動を検出することができる。さらに、基準時間を設定し、基準振幅以上の振幅の振動が、基準時間にわたって検出され続けた場合にのみ、誘導ロール11,11に異常が発生したと判定するように構成することで、一過性の可逆的な異常や、噛み込み時や噛み離し時の振動(V1,V2)をはじめとして、正常な圧延装置1の運転に伴う短時間の振動等と区別して、対処の必要な不可逆な誘導ロール11,11の異常に起因する振動を検知し、警報によって管理者に通知することができる。
【0047】
なお、もし、誘導部10や圧延ロール30,30の具体的な構成や、被圧延材Mの種類等によって、噛み込み時や噛み離し時の振動がそれほど大きくなく、誘導ロール11,11の異常によって発生する振動の振幅よりも顕著に小さい場合には、基準時間を設定せず、振動の振幅と基準振幅の比較のみによって、誘導ロール11,11の異常を検知するようにしてもよい。つまり、噛み込み時や噛み離し時の振幅を超えるレベルに基準振幅を設定し、実際の振幅値がその基準振幅以上となると、経過時間を計測することなく、すぐに警報部42に警報を発生させるように構成してもよい。
【0048】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 圧延装置
10 誘導部
11 誘導ロール
12 筐体
13 ベアリング
20 振動検出部
30 圧延ロール