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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】エレクトロスピニング装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/04 20060101AFI20221206BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20221206BHJP
【FI】
D01D5/04
D04H1/728
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018224794
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020084387
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 比奈子
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-280993(JP,A)
【文献】特開2012-167409(JP,A)
【文献】特開2010-090484(JP,A)
【文献】特開2011-102455(JP,A)
【文献】特開2012-202010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00-13/02
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸液に接触した状態で配置される紡糸電極と、前記紡糸電極から離れた箇所に配置されるコレクタ電極とを備え、前記紡糸電極及び前記コレクタ電極の間に電圧が印加されることにより、帯電した紡糸液のジェットがコレクタ電極に向けて噴射されて繊維にされ、前記コレクタ電極の前記紡糸電極側の面に沿って配置された捕集部材により、不織布をなす繊維集合体として捕集されるエレクトロスピニング装置であって、
ポンプにより供給される紡糸液を貯留するとともに、前記紡糸液を噴射させるための紡糸孔を上部に有し、さらに前記紡糸孔を前記コレクタ電極の下方に位置させた状態で配置される貯留槽を備え、
前記紡糸電極の少なくとも一部は前記貯留槽内に配置され、
前記貯留槽内における前記紡糸電極は、前記紡糸孔との間に前記紡糸液を介在させた状態で同紡糸液に浸漬された部分を含んでいるエレクトロスピニング装置。
【請求項2】
前記貯留槽は、軸線に沿って延びるチューブにより構成され、
前記紡糸孔は、前記軸線に沿う方向に互いに離間した複数箇所に設けられている請求項1に記載のエレクトロスピニング装置。
【請求項3】
前記貯留槽の内部は、前記ポンプにより供給される前記紡糸液で満たされている請求項1又は2に記載のエレクトロスピニング装置。
【請求項4】
前記貯留槽内では、前記紡糸電極の全体が前記紡糸液に浸漬されている請求項1~3のいずれか1項に記載のエレクトロスピニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極細繊維を紡糸して繊維集合体を形成するエレクトロスピニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紡糸技術の1つとして、極細繊維を紡糸して不織布等の繊維集合体を形成するエレクトロスピニング法(静電紡糸法)が注目されている。この方法を実施するエレクトロスピニング装置として、例えば、特許文献1に記載されたものは、図9に示すように、紡糸電極51、キャリッジと呼ばれる塗布装置52、コレクタ電極55、捕集部材56及び電源57を備えている。紡糸電極51は水平方向に延びるワイヤによって構成されている。塗布装置52は孔53を有しており、上記紡糸電極51がこの孔53に挿通されている。塗布装置52は、溶媒中に樹脂等の溶質を分散又は溶解させてなる紡糸液を紡糸電極51に塗布するための装置であり、紡糸電極51の長さ方向(図9の左右方向)に往復動可能に設けられている。コレクタ電極55は、紡糸電極51の上方に配置されている。捕集部材56は、コレクタ電極55の紡糸電極51側(図9では下側)の面に沿って配置されている。電源57は、直流電源によって構成されており、紡糸電極51及びコレクタ電極55に接続されている。
【0003】
図9のエレクトロスピニング装置50を用いて、極細繊維を紡糸して繊維集合体58を形成する際には、塗布装置52が、図9において実線で示す位置と、二点鎖線で示す位置との間において往復移動しながら紡糸液を紡糸電極51に塗布する。また、電源57から紡糸電極51及びコレクタ電極55の間に高電圧が印加される。
【0004】
上記電圧の印加により、紡糸電極51上の紡糸液が帯電し、コレクタ電極55に向かう静電力が紡糸液に作用する。紡糸電極51の長さ方向における複数箇所から、紡糸液のジェット59がコレクタ電極55に向けて噴射される。ジェット59中の溶媒が蒸発し、極細繊維が紡糸されるとともに、同極細繊維からなる繊維集合体58が捕集部材56によって捕集される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5936677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1に記載されたエレクトロスピニング装置50では、噴射されるジェット59の量が少なく、繊維集合体58の生産効率が低いという問題がある。これは、紡糸液を、ワイヤからなる紡糸電極51に塗布するという方式を採っていることから、紡糸電極51によって帯電させることのできる紡糸液の量が少ないことによる。生産効率を上げるために、紡糸電極51を複数用い、これらを互いに接近させた状態で水平方向に平行に配置することが考えられる。しかし、各紡糸電極51がむき出しのため、隣の紡糸電極51との間隔が狭いと、スパークが飛ぶおそれがあり、現実的でない。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、繊維集合体の生産効率を高めることのできるエレクトロスピニング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するエレクトロスピニング装置は、紡糸液に接触した状態で配置される紡糸電極と、前記紡糸電極から離れた箇所に配置されるコレクタ電極とを備え、前記紡糸電極及び前記コレクタ電極の間に電圧が印加されることにより、帯電した紡糸液のジェットがコレクタ電極に向けて噴射されて繊維にされ、前記コレクタ電極の前記紡糸電極側の面に沿って配置された捕集部材により、繊維集合体として捕集されるエレクトロスピニング装置であって、ポンプにより供給される紡糸液を貯留するとともに、前記紡糸液を噴射させるための紡糸孔を上部に有し、さらに前記紡糸孔を前記コレクタ電極の下方に位置させた状態で配置される貯留槽を備え、前記紡糸電極の少なくとも一部は前記貯留槽内に配置され、前記貯留槽内における前記紡糸電極は、前記紡糸孔との間に前記紡糸液を介在させた状態で同紡糸液に浸漬された部分を含んでいる。
【0009】
上記の構成によれば、紡糸電極とコレクタ電極との間に高電圧が印加されると、貯留槽内の紡糸液が帯電し、コレクタ電極に向かう静電力が紡糸液に作用する。帯電した紡糸液のジェットが、紡糸孔からコレクタ電極に向けて噴射される。ジェット中の溶媒が蒸発し、極細繊維が紡糸され、繊維集合体として捕集部材によって捕集される。
【0010】
ここで、紡糸孔から噴射される紡糸液のジェットは、貯留槽内に貯留された紡糸液の一部からなり、その量は、ワイヤからなる紡糸電極に紡糸液を塗布する場合の紡糸液の量に比べて多い。このように、貯留槽内の紡糸液が紡糸に用いられるため、大量に紡糸することが可能となり、繊維集合体の生産効率が高まる。また、紡糸に際し貯留槽内の紡糸液が消費されるが、その消費分はポンプから供給される紡糸液によって補充される。そのため、連続して紡糸孔からジェットを噴射させることが可能である。この点においても、繊維集合体の生産効率が高められる。
【発明の効果】
【0011】
上記エレクトロスピニング装置によれば、繊維集合体の生産効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態におけるエレクトロスピニング装置の概略構成図。
図2】エレクトロスピニング装置を、図1とは異なる方向から見た概略部分構成図。
図3】一実施形態における貯留槽の一部を省略して示す部分平面図。
図4図3の4-4線断面図。
図5】紡糸孔が図3とは異なる態様で配列された貯留槽の変形例を示す部分平面図。
図6図5の6-6線断面図。
図7】貯留槽及び紡糸電極が2つずつ設けられたエレクトロスピニング装置の変形例を示す概略構成図。
図8】矩形の断面形状を有する貯留槽が用いられたエレクトロスピニング装置の変形例を示す概略構成図。
図9】従来のエレクトロスピニング装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、エレクトロスピニング装置の一実施形態について、図1図4を参照して説明する。
図1及び図2に示すエレクトロスピニング装置10は、紡糸液19から極細繊維を紡糸し、同極細繊維からなる繊維集合体14、例えば不織布を連続して形成する装置である。
【0014】
紡糸液19は、極細繊維を形成する樹脂材料を溶質とし、この溶質を揮発性の溶媒に溶解又は分散させたものである。溶質としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等の合成樹脂が用いられる。溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、テトラヒドロフラン(THF)等の化合物が用いられる。
【0015】
エレクトロスピニング装置10は、捕集部材11、コレクタ電極17、貯留槽18、タンク21、ポンプ23、紡糸電極24及び電源25を備えている。
捕集部材11は、可撓性を有する材料、例えば不織布等の捕集布によって形成されている。捕集部材11は、送り出しローラ12に巻き付けられることにより、ロール13の形態を採っている。この捕集部材11は、送り出しローラ12及び巻き取りローラ15の間で水平状態にされ、下側の面に繊維集合体14が積層される。繊維集合体14が積層された捕集部材11は、巻き取りローラ15によって巻き取られて、ロール16の形態にされる。なお、繊維集合体14の使用に際しては、同繊維集合体14の積層された捕集部材11がロール16から引き出されつつ、捕集部材11から繊維集合体14が剥離される。
【0016】
コレクタ電極17は、送り出しローラ12及び巻き取りローラ15の間であって、捕集部材11の上側に配置されている。コレクタ電極17は、金属等の導電性材料によって、捕集部材11の幅方向(図2の左右方向)に延びる平板状に形成されている。コレクタ電極17は、捕集部材11の上面に接触又は接近している。
【0017】
図1図3に示すように、貯留槽18は、紡糸に必要な量の紡糸液19を貯留するためのものであり、軸線L1に沿って直線状に延びる円管状のチューブによって構成されている。貯留槽18は、耐溶剤性樹脂によって形成されている。該当する樹脂としては、例えば、PFA等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0018】
貯留槽18は、軸線L1を捕集部材11の幅方向に合致させた状態で配置されている。図2図4に示すように、貯留槽18の上部のうち、最も高い部分(頂部)であって、軸線L1に沿う方向に互いに一定間隔で離間した複数箇所には、円形の紡糸孔20があけられている。複数の紡糸孔20は、軸線L1に沿って列をなすように配列されている。
【0019】
図1及び図2に示すように、貯留槽18は、上下方向については、上記捕集部材11の下側において、その捕集部材11に対し平行となる状態で配置されている。また、貯留槽18は、捕集部材11の移動方向については、紡糸孔20がコレクタ電極17の下方に位置するように配置されている。
【0020】
上記貯留槽18は、例えば、市販されている耐溶剤性の樹脂チューブを必要な長さに切断するとともに、軸線L1の沿う方向に一定間隔毎に紡糸孔20をあけることにより形成されている。
【0021】
図2及び図4に示すように、貯留槽18の内部空間は、紡糸液19で満たされている。
図1及び図2に示すように、タンク21の内部空間は、貯留槽18の内部空間よりも大きな容積を有している。このタンク21の内部には、貯留槽18へ供給される紡糸液19が貯留されている。タンク21及び貯留槽18は、配管22によって接続されている。
【0022】
ポンプ23は、配管22の途中に配置されており、タンク21内の紡糸液19を貯留槽18内に供給する。ここで、紡糸の際には、貯留槽18内の紡糸液19が消費される。上記ポンプ23としては、この消費分と同量、又は同量以上の量の紡糸液19を貯留槽18に供給することのできるものが用いられている。
【0023】
紡糸電極24は、金属等の導電性材料によって形成されている。紡糸電極24の少なくとも一部は、貯留槽18の内部に配置されている。貯留槽18内では、紡糸電極24は、紡糸孔20との間に紡糸液19を介在させた状態で同紡糸液19に浸漬された部分を含んでいる。より詳しくは、紡糸電極24は、貯留槽18の内径よりも小径の線材、本実施形態ではワイヤによって構成されている。紡糸電極24は、貯留槽18内では、同貯留槽18の軸線L1に沿って、捕集部材11の幅方向に延びている。紡糸電極24は、貯留槽18の中心部分に配置されていて、紡糸孔20の下方に位置している。貯留槽18内では、紡糸電極24の全体が紡糸液19に浸漬されている。
【0024】
なお、紡糸電極24の材質は導電性を有するものであることを条件に変更可能である。ただし、紡糸液19との反応性が低い材質が選択されることが望ましい。
電源25は、直流電源によって構成されている。電源25のプラス電極は紡糸電極24に接続され、マイナス電極はコレクタ電極17に接続されている。
【0025】
次に、上記のようにして構成された本実施形態のエレクトロスピニング装置10の作用及び効果について説明する。
エレクトロスピニング装置10が作動すると、図1に示すように、巻き取りローラ15及び送り出しローラ12のうち少なくとも巻き取りローラ15がモータ等のアクチュエータによって回転される。捕集部材11は、コレクタ電極17の下面に接触又は接近した状態で、送り出しローラ12から巻き取りローラ15に向けて一定速度で送られる。
【0026】
また、このときには、ポンプ23が作動されて、タンク21内の紡糸液19が貯留槽18に供給される。
紡糸電極24をプラス電極とし、コレクタ電極17をマイナス電極として、両電極間に電源25から高電圧が印加される。この印加により、貯留槽18内の紡糸液19の全体がプラスに帯電される。
【0027】
本実施形態では、貯留槽18の内径よりも外径の小さなワイヤからなる紡糸電極24が、円形の断面形状を有する貯留槽18内の中心部分に配置されている。そのため、円形とは異なる断面形状(異形断面形状)を有する貯留槽とは異なり、紡糸電極24から貯留槽18の壁面までの距離が、同貯留槽18の周方向に均等又はそれに近い状態となる。紡糸電極24の周りの帯電の分布が周方向に均一となるように紡糸液19を帯電させることができる。
【0028】
上記帯電により、紡糸孔20において露出している紡糸液19の表面に電荷が誘発され蓄積される。この電荷は互いに反発し合い、その反発力は紡糸液19の表面張力に対抗する。紡糸液19は、コレクタ電極17に向かう電気力線に沿って作用する静電力(クーロン力)により吸引される。静電力が紡糸液19の表面張力に打ち勝つと、図1及び図2に示すように、帯電した紡糸液19のジェット27が複数の紡糸孔20から一斉に、コレクタ電極17に向けてそれぞれ噴射される。各ジェット27の表面積が体積に比較して大きいため、同ジェット27中の溶媒が効率良く蒸発する。また、この蒸発によりジェット27の体積が減少し、電荷密度がより高くなる。そのため、帯電した紡糸液19の反発力が増して、各ジェット27がさらに細いジェットへ分裂していく。そして、このような過程を経ながら、数十nm~数百nmの繊維径を有する極細繊維が紡糸されるとともに、同極細繊維からなる繊維集合体14が捕集部材11によって下側の面に捕集される。
【0029】
繊維集合体14が積層された捕集部材11は、巻き取りローラ15によって巻き取られてロール16の形態にされる。
ここで、紡糸孔20から噴射される紡糸液19のジェット27は、貯留槽18内に貯留された紡糸液19の一部からなり、その量は、ワイヤからなる紡糸電極51に紡糸液を塗布する特許文献1における同紡糸液の量に比べて多い。そのため、極細繊維を大量に紡糸することが可能となり、繊維集合体14の生産効率を高めることができる。
【0030】
また、紡糸の際には貯留槽18内の紡糸液19が消費されるが、その消費分はポンプ23から供給される紡糸液19によって補充される。そのため、各紡糸孔20からジェット27を噴射させ続けること、表現を変えると紡糸を連続して行うことが可能である。この点においても、繊維集合体14の生産効率を高めることができる。
【0031】
さらに、貯留槽18において軸線L1に沿う方向、すなわち、捕集部材11の幅方向に互いに離間した複数箇所に設けられた紡糸孔20からそれぞれ上記ジェット27が噴射される。複数の紡糸孔20からジェット27が一斉に噴射されて、紡糸と、繊維集合体14の形成及び捕集とが行われる。そのため、この点においても、繊維集合体14の生産効率を高めることができる。
【0032】
ここで、特許文献1に記載された図9のエレクトロスピニング装置50では、紡糸電極51上に塗布された紡糸液が順次繊維化していく。しかし、塗布される紡糸液の量が少なく、同紡糸液は空気に晒される。そのため、繊維化を待つ間に、紡糸液中の溶媒の蒸発により同紡糸液の濃度が高くなったり、紡糸液が固化したりして、繊維集合体58の形成に影響を及ぼすおそれがある。
【0033】
また、上述した実施形態において、仮に、貯留槽18の内部が紡糸液19で満たされていないとすると、満たされている場合に比べ、紡糸液19が空気と触れる面積が多くなる。これに伴い、紡糸液19のうち空気との界面から同紡糸液19中の溶媒が蒸発して、同紡糸液19が固化するおそれがある。
【0034】
しかし、本実施形態によれば、図2及び図4に示すように、貯留槽18の内部が紡糸液19で満たされているため、貯留槽18内で紡糸液19が空気と触れる面積は少ない。紡糸液19の空気との接触は、専ら紡糸孔20を通じて行われる。従って、溶媒が蒸発して、紡糸液19の濃度が高くなったり同紡糸液19が固化したりすることが抑制され、その分、繊維になる量が多くなる。また、紡糸液19の固化等が、繊維集合体14の形成に及ぼす影響を小さくすることもできる。
【0035】
また、上記特許文献1に記載された図9のエレクトロスピニング装置50では、紡糸電極51に塗布された紡糸液19の厚みが非常に小さい。紡糸電極51はむき出しに近い状態である。この状態で、紡糸液がジェット59の噴射により消費されると、コレクタ電極55との間でスパークが飛ぶおそれがある。
【0036】
この点、本実施形態では、図4に示すように、貯留槽18内では紡糸電極24の全体が紡糸液19に浸漬されている。貯留槽18内では、紡糸電極24は紡糸液19によって囲まれていてむき出しになっていない。そのため、むき出しが原因で、紡糸電極24とコレクタ電極17との間でスパークが飛ぶことが起こりにくい。
【0037】
本実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
・貯留槽18として、PFA等の耐溶剤性樹脂によって形成されたものが用いられているため、紡糸液19中の溶剤(溶媒)によって貯留槽18が溶けるのを抑制することができる。また、紡糸液19中の溶媒が空気に触れて蒸発し、紡糸液19中の樹脂材料が固化した場合でも、貯留槽18から剥離しやすくすることができる。
【0038】
・上記実施形態とは逆に、底部に紡糸孔20を有する貯留槽18と、少なくとも一部が貯留槽18の内部に配置された紡糸電極24とを、コレクタ電極17の上方に配置することによっても、繊維集合体14を形成し、コレクタ電極17の上側に配置された捕集部材11によって捕集することが可能である。この場合には、紡糸孔20から紡糸液19のジェット27がコレクタ電極17に向けて、すなわち、下方へ向けて噴射されることになる。そのため、紡糸液19中で繊維になりきらないものが落下し、繊維集合体14に付着するおそれがある。
【0039】
この点、図2及び図4に示すように、上部(頂部)に紡糸孔20を有する貯留槽18と、少なくとも一部が貯留槽18の内部に配置された紡糸電極24とがコレクタ電極17の下方に配置された本実施形態では、繊維になりきれないものは落下し、繊維集合体14から遠ざかる。従って、繊維になりきらないものが、繊維集合体14に付着するのを抑制することができる。
【0040】
・特許文献1に記載された図9のエレクトロスピニング装置50では、塗布装置52において孔53よりも上側の部分が、コレクタ電極55と紡糸電極51との間に位置し、ジェット59の噴射を遮ろうとする。そのため、往復動に際し、塗布装置52が移動方向を変えるときに、ジェット59が分断され、繊維が形成途中に切断される。その分、得られる繊維の長さが短くなる。従って、長い繊維を得たい場合に、対応することが難しい。
【0041】
この点、本実施形態では、図2及び図4に示すように、貯留槽18内における紡糸電極24が、紡糸孔20との間に紡糸液19を介在させた状態で同紡糸液19に浸漬されている。ジェット27の紡糸孔20からの噴射を遮ろうとするものがない。繊維が形成途中に切断されることが起こりにくい。長い繊維を得たい場合にも対応することができる。
【0042】
・特許文献1に記載された図9のエレクトロスピニング装置50では、紡糸電極51に塗布された紡糸液の粘度が適正値よりも低いと、同紡糸液が繊維化する前に紡糸電極51から落下するおそれがある。繊維化される紡糸液が少なくなる。そのため、低粘度の紡糸液を採用することが難しく、紡糸液の厳密な粘度管理が必要となる。
【0043】
この点、本実施形態では、図2及び図4に示すように、紡糸液19を貯留槽18に貯留している。そのため、紡糸液19の使用可能な粘度領域が、低粘度~高粘度までと広く、紡糸液19の厳密な粘度管理が不要である。
【0044】
・貯留槽18として、市販されている一般的な耐溶剤性樹脂からなる長尺状のチューブを用い、このチューブを必要長さに切断するとともに、軸線L1に沿う方向に一定間隔毎に紡糸孔20をあけたものが用いられている。そのため、低コストで、しかも簡単に貯留槽18を製作することができる。
【0045】
また、貯留槽18が、捕集部材11の幅方向に直線状に延びる単純な形状をなしている。そのため、この点でも、貯留槽18を簡単に製作することができる。また、付随する効果として、貯留槽18の組み付け作業や交換作業が容易になるという効果も期待できる。
【0046】
・孔径の小さな紡糸孔20からは小径の繊維が紡糸され、孔径の大きな紡糸孔20からは大径の繊維が紡糸される。そのため、紡糸孔20の径を変更することで、繊維径を調整することができる。希望する繊維径に応じて紡糸孔20の孔径を変えることにより、所望の繊維径の繊維を得ることができる。
【0047】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
<捕集部材11について>
・捕集部材11は、不織布に代えて織布によって構成されてもよい。また、捕集部材11は、布に代えて紙、フィルム等のシート状をなすものによって構成されてもよい。
【0048】
<貯留槽18について>
・1つのエレクトロスピニング装置10につき複数の貯留槽18が用いられてもよい。図7は、貯留槽18が2つ用いられた例を示している。この場合には、貯留槽18が1つ設けられた場合よりも多くの紡糸孔20から紡糸液19のジェット27を噴射させることが可能となり、繊維集合体14の生産効率をより一層高めることができる。
【0049】
・上記のように、複数の貯留槽18が設けられる場合には、図7に示すように、隣り合う貯留槽18が、同貯留槽18の径方向であって、互いに捕集部材11の移動方向に離間した箇所に配置されてもよい。
【0050】
この場合には、両貯留槽18を近づけて配置することが可能である。これは、仮に、特許文献1のように、紡糸電極51に紡糸液を塗布する方式では、紡糸液のジェット59の噴射により紡糸電極51がむき出しの状態となる。この方式において、複数の紡糸電極51を用い、隣り合う紡糸電極51同士を近づけて配置すると、スパークが発生するおそれがある。
【0051】
この点、上記図7の変形例では、貯留槽18内では紡糸液19によって紡糸電極24が囲まれている。従って、隣合う貯留槽18同士を近づけて配置してもスパークが発生しにくい。その結果、単位面積当たりに配置できる貯留槽18、ひいては紡糸電極24の数が多くなり、繊維集合体14の生産効率を一層高めることができる。
【0052】
・貯留槽18として、円形とは異なる形状の断面を有するものが用いられてもよい。図8には、その一例として、矩形の断面形状を有する貯留槽18が図示されている。紡糸孔20は、貯留槽18の上部に形成されている。
【0053】
<紡糸液19について>
・紡糸液19は、溶媒の蒸発による固化を抑制する観点からは、貯留槽18の内部空間に満たされるように供給されることが望ましい。ただし、その固化が許容できる程度であれば、紡糸液19は、必ずしも貯留槽18内に満たされなくてもよい。紡糸液19は、例えば図8に示すように、液面が紡糸孔20から下方へ離れた箇所に位置するように、貯留槽18内に貯留されてもよい。
【0054】
<紡糸孔20について>
・紡糸孔20が、円形とは異なる形状を有する孔によって構成されてもよい。
・複数の紡糸孔20が貯留槽18の上部であることを条件に、頂部(一番高い部分)から周方向に外れた箇所において、軸線L1に沿って列をなすように配列されてもよい。
【0055】
・複数の紡糸孔20は、貯留槽18の上部であることを条件に、軸線L1に沿って複数の列をなすように配列されてもよい。そのうちの1列は、上記実施形態のように、貯留槽18の頂部に設定されてもよい。また、全ての列が、貯留槽18の頂部から周方向に外れた箇所に設定されてもよい。図5及び図6は、後者の変形例を示しており、複数の紡糸孔20が2つの列に沿って配列されている。一方の列における各紡糸孔20は、隣の列において隣り合う紡糸孔20の間に配置されている。貯留槽18における複数の紡糸孔20は全体としてはジグザグ状に配列されている。
【0056】
<紡糸電極24について>
・紡糸電極24の一部が貯留槽18の内部に配置され、残部が同貯留槽18の外部に配置されてもよい。また、紡糸電極24の全体が貯留槽18の内部に配置されてもよい。
【0057】
・紡糸電極24として、貯留槽18の軸線L1に沿って延びるものであることを条件に、上記実施形態とは異なる形状を有するものが用いられてもよい。例えば、ワイヤに代えて、丸棒状をなすものや、図8に示すように平板状をなすものが紡糸電極24として用いられてもよい。
【0058】
・貯留槽18内における紡糸電極24は、「紡糸孔20との間に紡糸液19を介在させた状態で同紡糸液19に浸漬された部分を含んでいること」を条件に、紡糸孔20の下方とは異なる箇所に配置されてもよい。図8は、矩形の断面形状を有する貯留槽18内に板状の紡糸電極24を配置した例を示している。紡糸電極24は、紡糸孔20の直下から外れた箇所に配置されている。この場合、紡糸電極24の全体が紡糸液19に浸漬されてもよいし、同図8に示すように、一部が紡糸液19から露出してもよい。
【符号の説明】
【0059】
10…エレクトロスピニング装置、11…捕集部材、14…繊維集合体、17…コレクタ電極、18…貯留槽、19…紡糸液、20…紡糸孔、23…ポンプ、24…紡糸電極、27…ジェット、L1…軸線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9