(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】含炭塊成鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/245 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C22B1/245
(21)【出願番号】P 2018225180
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】藤坂 岳之
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-270259(JP,A)
【文献】特開昭53-108813(JP,A)
【文献】特開2008-095177(JP,A)
【文献】特開2003-342646(JP,A)
【文献】特開2005-325435(JP,A)
【文献】特開2009-030112(JP,A)
【文献】特開昭60-248831(JP,A)
【文献】特開昭61-130428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄原料、炭材、水硬性バインダ、及びピッチを含む配合原料を用いて、
前記ピッチを前記酸化鉄原料、前記炭材、及び前記水硬性バインダの総質量に対して1~8質量%の割合で前記配合原料に含める含炭塊成鉱の製造方法であって、
前記ピッチは軟化点以上に加熱された状態で添加され、
前記配合原料を80℃以上の温度下で混練し、
ついで、混練物を80℃以上の温度下で造粒する
ことを特徴とする、含炭塊成鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含炭塊成鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉においては、炉頂から鉄系原料(酸化鉄を含む原料。主として、焼結鉱)及びコークスを層状に装入し、高炉下部の羽口から熱風を送風する。これにより、高炉内を降下する酸化鉄を加熱するともに、主としてCOからなる還元ガスにより還元する。すなわち、銑鉄を製造する。
【0003】
このような高炉操業において、省エネルギーなどの観点から還元材比を低減する技術について検討が重ねられている。ここで、還元材比は、例えば高炉に導入される全ての還元材の原単位、代表的には、コークスの原単位及び羽口から吹き込まれる微粉炭の原単位の総和として示される。
【0004】
特許文献1には、このような技術の一例として、含炭塊成鉱が開示されている。含炭塊成鉱は、非焼成塊成鉱の一種である。含炭塊成鉱は、酸化鉄原料、炭材、及び水硬性バインダを含む配合原料を水とともに造粒し、その後造粒物を養生することで作製される。養生時に水硬性バインダが水和し、硬化する。含炭塊成鉱は、上述した鉄系原料の一種として使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-95177号公報
【文献】特開2009-30112号公報
【文献】特開2009-30113号公報
【文献】特開2009-30115号公報
【文献】特開昭60-248831号公報
【文献】特開昭61-130428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、含炭塊成鉱の強度は、高炉内での還元反応に伴って低下するという問題があった。具体的には、含炭塊成鉱の温度は高炉内で上昇する。このような温度上昇により、含炭塊成鉱中の水硬性バインダの水和物(言い換えれば、硬化後の水硬性バインダ)が熱分解して粉化する。これにより、含炭塊成鉱の強度が低下すると考えられる。高炉内で含炭塊成鉱の強度(以下、高炉内における含炭塊成鉱の強度を「還元後強度」とも称する)が低下すると、含炭塊成鉱が粉化する可能性がある。そして、粉化した含炭塊成鉱は、高炉内で目詰りを起こす可能性がある。詳細は実施例で説明するが、含炭塊成鉱の還元後強度の低下は、炭材を含まない非焼成塊成鉱よりも顕著に生じる。
【0007】
このため、従来では、含炭塊成鉱を構成する各原料の粒度、炭材の配合量、水硬性バインダの配合量等を調整することで、含炭塊成鉱の還元後強度の低下を抑制していた。しかし、この技術では還元後強度の低下を十分に抑制することができなかった。
【0008】
一方、特許文献2~5には、非焼成塊成鉱にピッチを含める技術が開示されている。しかし、特許文献2~4に開示された非焼成塊成鉱には炭材が含まれておらず、特許文献5に開示された非焼成塊成鉱には水硬性バインダが含まれていないため、含炭塊成鉱と組成が異なっている。したがって、これらの技術では上述した問題を解決することができなかった。
【0009】
特許文献6には、鉄鉱石に炭材、水硬性バインダ、及びピッチを配合することで焼結鉱用の配合原料を作製する技術が開示されている。しかし、この技術は焼結鉱の原料を作製するための技術であり、含炭塊成鉱を作製するための技術ではない。したがって、この技術では上述した問題を解決することができなかった。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、含炭塊成鉱の還元後強度の低下を抑制することが可能な、新規かつ改良された含炭塊成鉱の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、酸化鉄原料、炭材、水硬性バインダ、及びピッチを含む配合原料を用いて、ピッチを酸化鉄原料、炭材、及び水硬性バインダの総質量に対して1~8質量%の割合で配合原料に含める含炭塊成鉱の製造方法であって、ピッチは軟化点以上に加熱された状態で添加され、配合原料を80℃以上の温度下で混練し、ついで、混練物を80℃以上の温度下で造粒することを特徴とする、含炭塊成鉱の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、含炭塊成鉱にピッチが含まれるので、含炭塊成鉱の還元後強度を高めることができる。言い換えれば、高炉内での還元後強度の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.含炭塊成鉱の製造方法>
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。本実施形態に係る含炭塊成鉱の製造方法は、酸化鉄原料、炭材、水硬性バインダ、及びピッチを含む配合原料を用いて含炭塊成鉱を作製する。以下詳細に説明する。
【0015】
まず、酸化鉄原料、炭材、水硬性バインダを含む配合原料を作製する。酸化鉄原料の種類は特に制限されず、従来の含炭塊成鉱に使用される酸化鉄原料を本実施形態でも好適に使用することができる。このような酸化鉄原料としては、例えば、鉄鉱石、高炉ダスト、焼結ダスト、製鉄の過程で生じる含鉄ダスト、スラッジ、スケール等が挙げられる。また、酸化鉄原料の粒度は特に制限されず、含炭塊成鉱に求められる特性等に応じて適宜調整すれば良いが、1mm以下であることが好ましい。酸化鉄原料の粒度を1mm以下とすることで、含炭塊成鉱の造粒性、成形性を高めることができる。なお、本実施形態における各原料は目開きの異なる篩によって分級される。例えば、原料を目開き1mmの篩に掛けた場合に、篩に残った原料の粒度は1mm超となり、篩から落ちた原料の粒度は1mm以下となる。
【0016】
炭材の種類も特に制限されず、従来の含炭塊成鉱に使用される炭材を本実施形態でも好適に使用することができる。例えば、炭材としては、コークス、石炭、無煙炭、コークスダスト(コークスの製造過程で生じるダスト)、石炭チャー等が挙げられる。
【0017】
炭材の配合量(配合比率)は特に制限されず、含炭塊成鉱に求められる特性等に応じて適宜調整すれば良いが、酸化鉄原料、炭材、及び水硬性バインダの総質量に対して8~25質量%であることが好ましい。炭材の配合量をこの範囲内の値とすることで、含炭塊成鉱に含まれる酸化鉄原料をより確実に(すなわちほぼ不足なく)還元することができる。したがって、8質量%はいわゆる還元等量に相当する値である。さらに、還元等量を超える余剰の炭材は、高炉内でガス化して周囲の他の鉄系原料を還元することができる。
【0018】
炭材の粒度は特に制限されず、含炭塊成鉱に求められる特性等に応じて適宜調整すれば良いが、1mm以下であることが好ましい。炭材の粒度を1mm以下とすることで、含炭塊成鉱の造粒性、成形性を高めることができる。
【0019】
水硬性バインダの種類も特に制限されず、従来の含炭塊成鉱に使用される水硬性バインダを本実施形態でも好適に使用することができる。例えば、水硬性バインダは、ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、アルミナセメント、高炉セメント等であってもよい。水硬性バインダには高炉スラグの粉末が含まれていてもよい。
【0020】
水硬性バインダの配合量は特に制限されず、含炭塊成鉱に求められる特性等に応じて適宜調整すれば良いが、酸化鉄原料、炭材、及び水硬性バインダの総質量に対して3~10質量%であることが好ましい。水硬性バインダの配合量をこの範囲内の値とすることで、含炭塊成鉱の養生後の強度、すなわち養生後強度を高めることができる。含炭塊成鉱が高炉への輸送時または高炉への投入時に粉化すると、高炉内でガスの流動性が低下する可能性がある。粉化した含炭塊成鉱が高炉内で目詰りを起こす可能性があるからである。水硬性バインダの配合量を3~10質量%とすることで、含炭塊成鉱の養生後強度を高めることができ、ひいては、高炉への輸送時または高炉への投入時における粉化を抑制することができる。
【0021】
水硬性バインダは市販品を使用すればよい。水硬性バインダの粒度は、水硬性を十分発現するように、すでに微粉砕されている。JIS規格に拠れば、ポルトランドセメントの粒度は、比表面積で2500cm2/g以上と規定されている。
【0022】
ついで、配合原料にピッチ及び水分を添加し、混合物を混練する。ピッチはコールタール由来のものであっても石油由来のものであってもよい。本発明者は、含炭塊成鉱にピッチを含めることで、含炭塊成鉱の還元後強度が大きく向上することを見出した。本発明者は、この理由を以下のように考えている。すなわち、ピッチは加熱されると一部は揮発するが、残りは残渣となり、酸化鉄原料粒子や炭材粒子の隙間に歩留り固化する。これにより、原料粒子間の結合力が向上し、還元後強度が向上すると考えられる。
【0023】
ここで、本実施形態の重要な点の1つは、含炭塊成鉱においてピッチを使用する点である。すなわち、炭材とピッチを併用する。詳細は実施例で説明するが、炭材とピッチを併用することで、含炭塊成鉱の還元後強度が飛躍的に向上する。炭材及びピッチはいずれも有機物であるので互いに親和性がよく、ピッチが強固に炭材と結合すると考えられる。
【0024】
ピッチの配合量は酸化鉄原料、炭材、及び水硬性バインダの総質量に対して2~7質量%であることが好ましい。ピッチの配合量が2質量%以上とすることで含炭塊成鉱の還元後強度を特に高めることができる。ピッチの配合量が7質量%を超えると含炭塊成鉱の還元後強度がほぼ飽和する一方で、ピッチが含炭塊成鉱の表面から染み出す可能性がある。このような観点から、ピッチの配合量は2~7質量%であることが好ましい。
【0025】
ピッチの軟化点は70℃以上であることが好ましい。この場合、含炭塊成鉱の還元後強度をより高めることができる。ピッチは軟化点以上に加熱された状態で配合原料に添加されることが好ましい。これにより、含炭塊成鉱のより広い領域にピッチを分布させることができるので、含炭塊成鉱の還元後強度をより高めることができる。
【0026】
水の添加量は特に制限されず、従来の含炭塊成鉱の製造方法と同様であればよい。一例として、水は酸化鉄原料、炭材、及び水硬性バインダの総質量の総質量に対して10質量%程度であってもよい。
【0027】
ついで、混練物を造粒することで、造粒物を作製する。造粒方法は特に制限されず、従来の含炭塊成鉱の製造方法と同様であればよい。例えば、混練物は、転動造粒法、圧縮成形法、または押出成形法等によって所定の大きさの造粒物に成形される。造粒はピッチの軟化点以上の温度下で行われることが好ましい。これにより、含炭塊成鉱のより広い領域にピッチを分布させることができるので、含炭塊成鉱の還元後強度をより高めることができる。
【0028】
ついで、造粒物を養生する。養生時に水硬性バインダが水和し、硬化する。これにより、含炭塊成鉱が作製される。
【0029】
このように、本実施形態によれば、含炭塊成鉱にピッチが含まれるので、含炭塊成鉱の還元後強度を高めることができる。言い換えれば、高炉内での還元後強度の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0030】
<1.含炭塊成鉱の作製>
つぎに、本実施形態の実施例を説明する。本実施例では、酸化鉄原料として以下の表1に示すカナダ産鉄鉱石を、炭材としてコークス粉を、水硬性バインダとして市販の早強ポルトランドセメントを用いた。なお、鉄鉱石、コークス粉の粒度はすべて1mm以下とした。ピッチはコールタール由来の軟化点110℃のものを用いた。
【0031】
【0032】
まず、酸化鉄原料、炭材、及び水硬性バインダを表2に示す配合比で混合することで配合原料を作製した。ついで、この配合原料に水分10質量%とピッチを添加し、配合原料を80~90℃の温度下、混合攪拌機で混練した。なお、ピッチは事前に120℃に加熱しておき、粘性の低い状態にしてから配合原料に添加した。
【0033】
【0034】
ついで、混練物を80~90℃の温度下、一軸圧縮成形機で圧縮成形することで、円柱状タブレット(直径15mm、高さ15mm、成形圧50MPa)を作製した。作製したタブレットを50℃で2日間養生した後、室温で14日間養生した。これにより、含炭塊成鉱を作製した。炭材の配合比率、ピッチの添加量を種々変更することで、参考例1、2、比較例1、発明例1~5に係る含炭塊成鉱を作製した。なお、参考例1、2は炭材を含まない非焼成塊成鉱に相当するものである。
【0035】
<2.還元後強度の測定>
還元後強度の測定は、特開2012-211363号公報に記載の試験方法に準じて行い、還元後強度として900℃における還元後圧潰強度を測定した。圧潰強度はJIS M8718に準拠して測定した。すなわち、円柱状である含炭塊成鉱の直径方向に圧縮荷重をかけ、含炭塊成鉱が破壊した時点の圧縮荷重の最大値を圧潰強度とした。
【0036】
<3.試験結果>
表3に還元後圧潰強度の測定結果を示す。なお、参考例2の強度向上代は参考例1に対する値であり、発明例1~5の強度向上代は比較例1に対する値である。
【0037】
【0038】
参考例1は炭材を含まない非焼成塊成鉱であり、参考例2は参考例1の非焼成塊成鉱にピッチを5質量%添加したものである。参考例2の還元後圧壊強度は参考例1の還元後圧壊強度よりも向上したが、その向上代はわずかであった。
【0039】
比較例1は炭材を25質量%含む含炭塊成鉱であるが、ピッチを含んでいない。このため、還元後圧壊強度が大きく低下した。発明例1~5は本実施形態に対応する含炭塊成鉱である。具体的には、発明例1は比較例1にピッチを1質量%添加したものである。これにより、発明例1の還元後圧壊強度は比較例1の還元後圧壊強度よりも大きく向上した。
【0040】
発明例2~4は、発明例1よりさらにピッチ添加量を増やしたもので、さらに還元後圧潰強度が向上し、高炉使用上望ましい100N以上が得られた。この値は、通常高炉に使用される塊成鉱の必要強度とされる。強度低下とともに含炭塊成鉱の炉内での粉化が多くなるので、還元後圧壊強度が100N以下となる含炭塊成鉱を使用する場合、使用量に上限を設けて使用量を管理することが多い。
【0041】
ここで、発明例3と参考例1とを比較すると、ピッチの添加量が同じであるにも関わらず、発明例3の強度向上代は参考例2の強度向上代よりも大きくなった。この理由として、発明例3では炭材とピッチとを併用していることが挙げられる。すなわち、ピッチと炭材の高い親和性によって、還元後圧壊強度が大きく向上した。
【0042】
発明例5は、発明例4よりさらにピッチ添加量を増やしたものであるが、強度向上効果は飽和した。以上の結果からピッチ添加量は2~7質量%の範囲が好ましい。
【0043】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。