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特許7188043フローマークの改善方法およびそれを用いた電子装置の製造方法
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  • 特許-フローマークの改善方法およびそれを用いた電子装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】フローマークの改善方法およびそれを用いた電子装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/02 20060101AFI20221206BHJP
   B29C 33/68 20060101ALI20221206BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20221206BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B29C45/02
B29C33/68
C08G59/20
H01L21/56 T
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018233162
(22)【出願日】2018-12-13
(65)【公開番号】P2020093467
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】風間 達也
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193636(JP,A)
【文献】特開2000-017055(JP,A)
【文献】特開2018-053240(JP,A)
【文献】特開2019-151685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45/00
H01L21/56
H01L23/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内の成型面の少なくとも一部に離型フィルムを配置する配置工程と、
前記金型の成形空間内に封止材料の溶融物を注入し、前記封止材料を硬化する成形工程と、を有するフローマークの改善方法であって、
前記離型フィルムとして、前記成型面とは反対側の表面にアクリル系樹脂層を有するアクリル系離型フィルムを用い、
前記封止材料として、
ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
充填材と、
を含む封止用樹脂組成物を用い、
前記封止用樹脂組成物において、キュラストメーターを用いて、175℃における硬化トルク値を経時的に測定した際の、最大硬化トルク値をTとし、Tの10%のトルク値をT10とし、Tの80%のトルク値をT80とし、Tの90%のトルク値をT90としたとき、
10に達してからT90に達する時間Aが、20秒以上250秒以下を満たす、
フローマークの改善方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフローマークの改善方法であって、
前記封止用樹脂組成物において、
10に達してからT80に達する時間Bが、15秒以上200秒以下であり、
80に達してからT90に達する時間Cが、10秒以上150秒以下である、
フローマークの改善方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフローマークの改善方法であって、
前記封止用樹脂組成物が、ビフェニル型エポキシ樹脂を含有する、フローマークの改善方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載のフローマークの改善方法であって、
前記封止用樹脂組成物が、硬化促進剤として有機ホスフィン類又はイミダゾール系化合物を含有する、フローマークの改善方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のフローマークの改善方法であって、
前記封止用樹脂組成物が、カップリング剤を含み、前記カップリング剤が、アミノシランカップリング剤またはエポキシシランカップリング剤を含む、フローマークの改善方法。
【請求項6】
請求項に記載のフローマークの改善方法であって、
前記封止用樹脂組成物が、フェニルアミノプロピルトリメトキシシランおよびγ-アニリノプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される一種を含む、フローマークの改善方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載のフローマークの改善方法であって、
前記成形工程において、前記封止材料をトランスファー成形する、フローマークの改善方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のフローマークの改善方法の前記配置工程において、前記金型の前記成形空間内に電子部品を配置し、
前記フローマークの改善方法の前記成形工程において、前記電子部品を前記封止材料で封止する工程を含む、電子装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローマークの改善方法およびそれを用いた電子装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで封止材料を用いた成形工程において、フローマークの発生を抑制する方法において様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、2種のシランカップリング剤の含有量を適切に選択することで、シリカが沈降することによるフローマークの発生を抑制できると記載されている(特許文献1の請求項1、段落0048等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-127367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載のフローマークの改善方法において、離型フィルムを用いた金型成形におけるフローマークの発生防止の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
通常、金型を用いた金型成形において、離型フィルムが用いられる。離型フィルムを金型の成型面に配置することで、金型の成型面側から、封止材料の硬化物を容易に脱型することが可能になる。
しかしながら、離型フィルムとして、表面にアクリル系樹脂層を有するアクリル系離型フィルムを用いた場合、そのアクリル系樹脂層と接した封止材料の硬化物の表面において、フローマークの発生がしばしば見られた。
【0006】
本発明者はさらに検討したところ、封止材料の硬化挙動を適切に調整することによって、フローマークの発生を抑制できること見出した。このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、封止材料の硬化挙動として、キュラストトルクを指標し、かかる指標を適切な範囲内とすることで、離型フィルムおよび封止材料を用いた金型成型においてフローマークの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明によれば、
金型内の成型面の少なくとも一部に離型フィルムを配置する配置工程と、
前記金型の成形空間内に封止材料の溶融物を注入し、前記封止材料を硬化する成形工程と、を有するフローマークの改善方法であって、
前記離型フィルムとして、前記成型面とは反対側の表面にアクリル系樹脂層を有するアクリル系離型フィルムを用い、
前記封止材料として、
ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
充填材と、
を含む封止用樹脂組成物を用い、
前記封止用樹脂組成物において、キュラストメーターを用いて、175℃における硬化トルク値を経時的に測定した際の、最大硬化トルク値をTとし、Tの10%のトルク値をT10とし、Tの80%のトルク値をT80とし、Tの90%のトルク値をT90としたとき、
10に達してからT90に達する時間Aが、20秒以上250秒以下を満たす、
フローマークの改善方法が提供される。
【0008】
また本発明によれば、
上記フローマークの改善方法の前記配置工程において、前記金型の前記成形空間内に電子部品を配置し、
前記フローマークの改善方法の前記成形工程において、前記電子部品を前記封止材料で封止する工程を含む、電子装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、離型フィルムおよび封止材料を用いた金型成型においてフローマークの発生を抑制できるフローマークの改善方法およびそれを用いた電子装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1,2および比較例1の硬化トルク値の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態のフローマークの改善方法は、金型内の成型面の少なくとも一部に離型フィルムを配置する配置工程と、金型の成形空間内に封止材料の溶融物を注入し、封止材料を硬化する成形工程と、を有するものである。すなわち、当該成形工程において、離型フィルムと、離型フィルムが配置されていない金型の成型面との間の成形空間内に封止材料の溶融物が注入される。このフローマークの改善方法において、離型フィルムとして、成型面とは反対側の表面にアクリル系樹脂層を有するアクリル系離型フィルムを用いる。封止材料として、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、硬化剤と、充填材と、を含み、下記のキュラストトルク特性を有する封止用樹脂組成物を用いる。
上記封止用樹脂組成物のキュラストトルクとしては、T10に達してからT90に達する時間Aが、20秒以上250秒以下を満たすものとする。
ここで、上記封止用樹脂組成物について、キュラストメーターを用いて、175℃における硬化トルク値を経時的に測定した際の、最大硬化トルク値をTとし、Tの10%のトルク値をT10とし、Tの80%のトルク値をT80とし、Tの90%のトルク値をT90とする。
【0012】
本発明者が検討したところ、離型フィルムとして、表面にアクリル系樹脂層を有するアクリル系離型フィルムを用いた場合、そのアクリル系樹脂層と接した封止材料の硬化物の表面において、フローマークの発生がしばしば見られた。ここで言う、フローマークとは、封止材料の金型成形品の表面に見られる、帯状模様、及び/又は、まだら模様などの外観不良を意味する。
詳細なメカニズムは定かではないが、アクリル系樹脂層によって、封止材料に硬化阻害や硬化ムラが生じることが、フローマークの発生につながると考えられる。
【0013】
このような知見を踏まえ、封止材料の硬化特性を示すキュラストトルク特性に着眼した。
キュラストトルク特性として、最大硬化トルク値をTとし、T10に達してからT90に達する時間Aを指標とすることで、封止材料の硬化特性が適度となり、アクリル系離型フィルムを用いた金型成型において、封止材料の表面にフローマークが発生することが抑制されることが判明した。
【0014】
上記封止用樹脂組成物において、上記T10に達してからT90に達する時間Aの下限値は、例えば、20秒以上、好ましくは50秒以上、より好ましくは80秒以上である。これにより、フローマークの発生を抑制できる。一方、上記時間Aの上限値は、例えば、250秒以下、好ましくは230秒以下、より好ましくは200秒以下である。これにより、フローマークの改善方法を用いた電子装置の製造方法における生産性を高めることができる。
【0015】
上記封止用樹脂組成物において、上記T10に達してからT80に達する時間Bの下限値は、例えば、15秒以上、好ましくは25秒以上、より好ましくは35秒以上である。これにより、フローマークの発生を抑制できる。一方、上記時間Bの上限値は、例えば、200秒以下、好ましくは180秒以下、より好ましくは150秒以下である。これにより、フローマークの改善方法を用いた電子装置の製造方法における生産性を高めることができる。
【0016】
上記封止用樹脂組成物において、上記T80に達してからT90に達する時間Cの下限値は、例えば、10秒以上、好ましくは20秒以上、より好ましくは30秒以上である。これにより、フローマークの発生を抑制できる。一方、上記時間Cの上限値は、例えば、150秒以下、好ましくは130秒以下、より好ましくは100秒以下である。これにより、フローマークの改善方法を用いた電子装置の製造方法における生産性を高めることができる。
【0017】
上記封止用樹脂組成物におけるゲルタイムの下限値、例えば、30秒以上、好ましくは35秒以上、より好ましくは40秒以上である。これにより、フローマークの発生を抑制できる。一方、上記ゲルタイムの上限値は、例えば、120秒以下、好ましくは100秒以下、より好ましくは90秒以下である。これにより、フローマークの改善方法を用いた電子装置の製造方法における生産性を高めることができる。
【0018】
本実施形態では、たとえば封止用樹脂組成物中に含まれる各成分の種類や配合量、封止用樹脂組成物の調製方法等を適切に選択することにより、上記時間A~C、ゲルタイムおよび硬化トルク値を制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、エポキシ樹脂や硬化触媒の種類や含有量、硬化触媒とエポキシ樹脂の組み合わせを適切に選択すること等が、上記時間A~C、ゲルタイムおよび硬化トルク値を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0019】
本実施形態のフローマークの改善方法において、上記封止材料の金型成形として公知の成形方法を適用できるが、例えば、トランスファー成形を用いることができる。トランスファー成形時における封止樹脂組成物のキュラストトルクを適切に選択することで、より一層、フローマークの発生を抑制できる。
【0020】
本実施形態のフローマークの改善方法を電子装置の製造方法に適用することで、電子部品の歩留まりや製造安定性を高めることが可能である。
【0021】
本実施形態の電子装置の製造方法の一例としては、フローマークの改善方法の配置工程において、金型の成形空間内に電子部品を配置し、その成形工程において、電子部品を封止材料で封止する工程を含むことができる。すなわち、当該配置工程において、離型フィルムと、離型フィルムが配置されていない金型の成型面との間の成形空間内に電子部品が配置される。
【0022】
以下、上記封止材料に用いる封止用樹脂組成物の各成分について詳述する。
【0023】
上記封止用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含む。この熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂を含む。
【0024】
上記エポキシ樹脂としては、たとえば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂等の2官能性または結晶性エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;フェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格含有ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂およびアルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の3官能型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール型エポキシ樹脂等の変性フェノール型エポキシ樹脂;トリアジン核含有エポキシ樹脂等の複素環含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上記エポキシ樹脂として、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂を用いることで、低線膨張を向上できる。また、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびビフェニル型エポキシ樹脂を併用することで、低線膨張や耐熱性を向上できる。
【0026】
上記エポキシ樹脂の含有量の下限値は、封止用樹脂組成物の全固形分に対して、例えば8質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上とすることが特に好ましい。上記エポキシ樹脂の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止用樹脂組成物の流動性を向上させ、成形性のさらなる向上を図ることができる。
一方で、エポキシ樹脂の含有量の上限値は、封止用樹脂組成物の全固形分に対して、例えば30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。エポキシ樹脂の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止用樹脂組成物を用いて形成される硬化物を備える半導体装置およびその他の構造体について、耐湿信頼性や耐リフロー性、耐温度サイクル性を向上させることができる。
【0027】
本実施形態において、封止用樹脂組成物の全固形分とは、封止用樹脂組成物中における不揮発分を指し、水や溶媒等の揮発成分を除いた残部を指す。また、本実施形態において、封止用樹脂組成物全体に対する含有量とは、溶媒を含む場合には、樹脂組成物のうちの溶媒を除く固形分全体に対する含有量を指す。
【0028】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、硬化剤を含むことができる。
上記硬化剤は、上記封止用樹脂組成物に一般に使用されているものであれば特に制限はないが、例えば、フェノール樹脂系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、メルカプタン系硬化剤等、が挙げられる。これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスの点からフェノール樹脂系硬化剤が好ましい。
【0029】
上記フェノール樹脂系硬化剤としては、封止用樹脂組成物に一般に使用されているものであれば特に制限はないが、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール、α-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のフェノール類とホルムアルデヒドやケトン類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂、上記したフェノール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂などのフェノールアラルキル樹脂、トリスフェニルメタン骨格を有するフェノール樹脂、などが挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記封止用樹脂組成物は、充填材を含む。上記充填材としては、無機充填材あるいは有機充填材を用いることができる。
【0031】
上記無機充填材としては、たとえば、溶融破砕シリカ及び溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化珪素、および窒化アルミ等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、好ましくは、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ等のシリカであり、より好ましくは溶融球状シリカを使用することができる。
【0032】
上記無機充填材の平均粒径(D50)の下限値は、例えば、0.01μm以上でもよく、1μm以上でもよく、5μm以上でもよい。これにより、封止用樹脂組成物の流動性を良好なものとし、成形性をより効果的に向上させることが可能となる。また、無機充填材の平均粒径(D50)の上限値は、例えば、50μm以下であり、好ましくは40μm以下である。これにより、未充填等が生じることを確実に抑制できる。また、本実施形態の無機充填材は、平均粒径(D50)が1μm以上50μm以下の無機充填材を少なくとも含むことができる。これにより、流動性をより優れたものとすることができる。
【0033】
上記無機充填材の平均粒径(D50)は、市販のレーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所社製、SALD-7000)を用いて粒子の粒度分布を体積基準で測定し、そのメディアン径(D50)を平均粒径とすることができる。
【0034】
また、上記無機充填材は、たとえば異なる平均粒径(D50)の充填材を二種以上併用してもよい。これにより、封止用樹脂組成物の全固形分に対する無機充填材の充填性をより効果的に高めることができる。また、本実施形態においては、平均粒径0.01μm以上1μm以下の充填材と、平均粒径1μmより大きく50μm以下の充填材とを含むことが、封止用樹脂組成物の充填性を向上させる観点から、一例として用いてもよい。
また、本実施形態の無機充填材の一例としては、封止用樹脂組成物の充填性をさらに向上させる観点から、たとえば、平均粒径0.01μm以上1μm以下の第一充填材と、平均粒径1μmより大きく15μm以下の第二充填材、平均粒径15μmより大きく50μm以下の第三充填材を含むことができる。
【0035】
上記無機充填材の含有量の下限値は、封止用樹脂組成物の全固形分に対して、例えば、70質量%以上であることが好ましく、73質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがとくに好ましい。これにより、低吸湿性および低熱膨張性を向上させ、半導体装置及びその他の構造体の耐温度サイクル性や耐リフロー性をより効果的に向上させることができる。一方で、上記無機充填材の含有量の上限値は、封止用樹脂組成物の全固形分に対して、例えば、95質量%以下であることが好ましく、93質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがとくに好ましい。これにより、封止用樹脂組成物の成形時における流動性や充填性をより効果的に向上させることが可能となる。
【0036】
上記封止用樹脂組成物は、硬化促進剤を含むことができる。
上記硬化促進剤は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、の架橋反応を促進させるものであればよく、一般の封止用樹脂組成物に使用するものを用いることができる。
【0037】
上記硬化促進剤としては、例えば、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等のジアザビシクロアルケン及びその誘導体;トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;2-メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物(イミダゾール系硬化促進剤)等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上記硬化促進剤の含有量の下限値は、例えば、封止用樹脂組成物の全固形分に対して0.20質量%以上であることが好ましく、0.40質量%以上であることがより好ましく、0.70質量%以上であることがとくに好ましい。硬化促進剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、成形時における硬化性を効果的に向上させることができる。一方で、硬化促進剤の含有量の上限値は、例えば、封止用樹脂組成物の全固形分に対して3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。硬化促進剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、成形時における流動性の向上を図ることができる。
【0039】
上記封止用樹脂組成物は、たとえばカップリング剤を含むことができる。
上記カップリング剤としては、たとえばエポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知のカップリング剤を用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、アミノシランカップリング剤またはエポキシシランカップリング剤を用いることができる。
【0040】
上記カップリング剤を例示すると、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-[ビス(β-ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(β-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N-(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミンの加水分解物等のシラン系カップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等のチタネート系カップリング剤が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシランまたはビニルシランのシラン系化合物がより好ましい。また、充填性や成形性をより効果的に向上させる観点からは、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシランに代表される2級アミノシランを用いることが特に好ましい。
【0041】
上記カップリング剤の含有量の下限値は、封止用樹脂組成物の全固形分に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.15質量%以上であることがより好ましい。カップリング剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止用樹脂組成物の流動性を良好なものとすることができる。一方で、上記カップリング剤の含有量の上限値は、封止用樹脂組成物の全固形分に対して1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。カップリング剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止用樹脂組成物の硬化物における機械的強度の向上を図ることができる。
【0042】
上記封止用樹脂組成物には、さらに必要に応じて、ハイドロタルサイト、アルミニウム-マグネシウム系無機イオン交換体等のイオン捕捉剤;カーボンブラック、ベンガラ等の着色剤;カルナバワックス等の天然ワックス、モンタン酸エステルワックス、ジエタノールアミン・ジモンタン酸エステル、トリレンジイソシアネート変性酸化ワックス等の合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類もしくはパラフィン等の離型剤;酸化防止剤等の各種添加剤を適宜配合してもよい。
【0043】
また、本実施形態の封止用樹脂組成物は、たとえば低応力剤を含むことができる。低応力剤は、たとえばシリコーンオイル、シリコーンゴム、ポリイソプレン、1,2-ポリブタジエン、1,4-ポリブタジエン等のポリブタジエン、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ポリクロロプレン、ポリ(オキシプロピレン)、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリオレフィングリコール、ポリ-ε-カプロラクトン等の熱可塑性エラストマー、ポリスルフィドゴム、およびフッ素ゴムから選択される一種または二種以上を含むことができる。これらの中でも、シリコーンゴム、シリコーンオイル、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、およびエポキシ化ポリブタジエンのうちの少なくとも一方を含むことが、弾性率を所望の範囲に制御して、得られる半導体パッケージ及びその他の構造体の耐温度サイクル性、耐リフロー性を向上させる観点から、とくに好ましい態様として選択し得る。
【0044】
上記低応力剤を用いる場合、低応力剤全体の含有量は、封止用樹脂組成物の全固形分に対して0.05質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましい。一方で、低応力剤の含有量は、封止用樹脂組成物の全固形分に対して2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。上記低応力剤の含有量をこのような範囲に制御することにより、得られる半導体パッケージ及びその他の構造体の耐温度サイクル性、耐リフロー性をより確実に向上させることができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0046】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0047】
<封止用樹脂組成物の調製>
下記表1に記載した配合量の各原料成分を、常温でミキサーを用いて混合し、次に100℃以上110℃以下の温度で2軸混練した。次いで、常温まで冷却後、粉砕して、封止用樹脂組成物を得た。
【0048】
以下、表1中の各原料成分を示す。
(充填材)
・充填材1:シリカ粒子(アドマテックス社製、球状溶融シリカ、形状:球状、粒子径d50:6.1μm)
・充填材2:シリカ粒子(アドマテックス社製、SD2500-SQ、形状:球状、粒子径d50:0.6μm)
・充填材3:シリカ粒子(アドマテックス社製、SD5500-SQ、形状:球状、粒子径d50:1.5μm)
【0049】
(顔料)
・顔料1:カーボンブラック(東海カーボン社製、カーボンブラック)
【0050】
(カップリング剤)
・カップリング剤1:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製、SZ-6083)
【0051】
(熱硬化性樹脂)
・エポキシ樹脂1:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製、NC-3000L)
・エポキシ樹脂2:ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱化学社製、YX-4000K)
【0052】
(硬化剤)
・硬化剤1:フェノール樹脂硬化剤(明和化成社製、MEH-7851SS、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂)
【0053】
(硬化促進剤)
・硬化促進剤1:フェノール樹脂硬化剤(明和化成社製、MEH-7851SS)および下記の化学式で表されるテトラフェニルホスホニウム・4,4’-スルフォニルジフェノラートの混合品(質量比:4対1)。
【化1】
・硬化促進剤2:フェノール樹脂硬化剤(明和化成社製、MEH-7851SS)および下記の化学式で表されるテトラフェニルホスホニウム(ナフタレン-2,3-ジオキシ)の混合品(質量比:4対1)。
【化2】
・硬化促進剤3:下記の化学式で表されるトリフェニルモノベンゾキノレートホスホニウム(ケイ・アイ化成社製、TTP-BQ)
【化3】
・硬化促進剤4:トリフェニルホスフィン(ケイ・アイ化成社製、PP-360ビフン)
【0054】
(離型剤)
・離型剤1:モンタン酸エステルワックス(クラリアントジャパン社製、WE-4)
【0055】
(イオン捕捉剤)
・イオン捕捉剤1:マグネシウム・アルミニウム系化合物(東亞合成社製、Inorganic ion exchanger)
【0056】
(シリコーン)
・シリコーン1:シリコーン(九州住友ベークライト社製、M69B)
【0057】
(低応力剤)
・低応力剤1:アクリロニトリル-ブタジエンゴム(宇部興産社製、CTBN1008SP、カルボキシル基末端ブタジエンアクリルゴム)
・低応力剤2:エポキシ化ポリブタジエン(日本曹達社製、NISSO PB JP-200)
【0058】
【表1】
【0059】
(キュラストトルク、ゲルタイム)
キュラストメーター(オリエンテック社製、JSRキュラストメーターIVPS型)を用い、金型温度175℃にて、得られた封止用樹脂組成物の硬化トルク値を経時的に測定した。300秒後までの最大硬化トルク値Tに対して、Tの10%のトルク値をT10とし、Tの80%のトルク値をT80とし、Tの90%のトルク値をT90としたとき、T10に達してからT90に達する時間A(秒)、T10に達してからT80に達する時間B(秒)、T80に達してからT90に達する時間C(秒)を算出した。実施例1,2および比較例1の硬化トルク値の経時変化を示すグラフを図1に示す。結果を表1に示す。
【0060】
<フローマークの評価>
まず、離型フィルムとして、表面にアクリル系樹脂層を有するアクリル系離型フィルム(日立化成社製、Hitachi 4800)を用意した。
次いで、表面のアクリル系樹脂層が金型の成型面と反対側となるように、上記アクリル系離型フィルムを金型内に配置し、トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPaの条件で、封止材料として得られた封止用樹脂組成物を金型内に注入し成形した。
次いで、175℃、120秒間硬化処理をおこない、封止用樹脂組成物を硬化して、硬化物(封止部材)を得た。
その後、金型から硬化物を取り出し、その表面からアクリル系離型フィルムを分離し、評価サンプルを得た。
評価サンプルの表面について目視にて観察を行い、当該アクリル系離型フィルムのアクリル系樹脂層と成形時に接触していた評価サンプルの表面におけるフローマークの状態について、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
○:実用上問題ない範囲で、フローマークの発生が見られなかった。
×:フローマークの発生が見られた。
【0061】
離型フィルムとして表面にアクリル系樹脂層を有するアクリル系離型フィルムを用い、封止材料として、実施例1、2の封止用樹脂組成物を用いることにより、比較例1の封止用樹脂組成物を用いた場合と比較して、トランスファー成形時において、封止部材表面に発生するフローマークの発生が抑制されたフローマークの改善方法を実現できることが分かった。
【0062】
<電子装置の製造>
まず、長さ15mm×幅15mmの面に銅回路を備えるプリント配線基板を用意した。次いで、該プリント配線基板にフラックスを塗工した。
次いで、プリント配線基板上に長さ10mm×幅10mm×厚さ250μmのフリップチップ型パッケージを配置し、次いで、ピーク温度240℃、ピーク温度時間10秒、窒素雰囲気下でリフロー処理することによって、はんだバンプを溶融し、フリップチップ型パッケージと、プリント配線基板とを接合させた。なお、リフロー処理は2回行った。
次いで、上記で得られたパッケージを搭載した基板とともに、表面のアクリル系樹脂層が金型の成型面と反対側となるように、上記アクリル系離型フィルムを金型内に配置し、トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPaの条件で、得られた封止用樹脂組成物を金型内に注入し成形した。次いで、175℃、120秒間硬化処理をおこない、封止用樹脂組成物を硬化物とした。これにより、電子装置を作製した。
【0063】
離型フィルムとして表面にアクリル系樹脂層を有するアクリル系離型フィルムを用い、封止材料として、実施例1、2の封止用樹脂組成物を用いたフローマークの改善方法を電子装置の製造方法に適用することで、比較例1の封止用樹脂組成物を用いた場合と比較して、電子装置の歩留まりを向上できることが分かった。
図1