(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】高圧下での加熱処理によるレスベラトロール誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 311/82 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C07D311/82
(21)【出願番号】P 2018233761
(22)【出願日】2018-12-13
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】390020189
【氏名又は名称】ユーハ味覚糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 康浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 進
(72)【発明者】
【氏名】松川 泰治
(72)【発明者】
【氏名】滝島 康之
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-028771(JP,A)
【文献】特開2016-204303(JP,A)
【文献】特開2016-069326(JP,A)
【文献】特開2015-193547(JP,A)
【文献】特開2015-124151(JP,A)
【文献】特開2015-027960(JP,A)
【文献】特開2015-027959(JP,A)
【文献】特開2016-030739(JP,A)
【文献】特開2012-136477(JP,A)
【文献】特開2012-153653(JP,A)
【文献】特開2012-246243(JP,A)
【文献】特開2014-118388(JP,A)
【文献】特開2002-003425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レスベラトロール
及びカフェ酸を含む溶液を1MPa以上600MPa以下の高圧下で加熱処理して
、式(4):
【化1】
で示されるレスベラトロール誘導体を生成させることを特徴とする、レスベラトロール誘導体の製造方法。
【請求項2】
加熱処理の温度が50℃以上100℃未満である、請求項1に記載のレスベラトロール誘導体の製造方法。
【請求項3】
加熱処理の時間が1時間以上20時間以下である、請求項1又は2に記載のレスベラトロール誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧を利用したレスベラトロール誘導体の新規な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レスベラトロール(3,4’,5-trihydroxy-trans-stilbene)は、植物がカビや細菌などから身を守るために生成するフィトキシアレンと呼ばれる植物性抗菌物質の一種であり、ブドウやピーナッツの果皮中に多く含まれており、また、フランス人は肉やバターのような高脂肪食摂取にもかかわらず、虚血性心疾患による死亡率が比較的低いという、いわゆる「フレンチパラドクス」を説明する赤ワイン中のポリフェノールとしても知られている。
【0003】
レスベラトロールについては、当初はその強い抗酸化作用から,血中の低比重リポたんぱく質(LDL)の酸化変性をおさえることで、酸化LDLを取り込んだマクロファージの泡沫化、血管壁への沈着抑制を通して、虚血性心疾患の原因となる動脈硬化を防ぐことで注目され、その後の研究で、エストロゲン様作用、抗炎症作用、抗腫瘍作用など、様々な生理作用があることが報告されている。最近では、酵母において、NAD+依存性蛋白質脱アセチル化酵素をコードするsir2遺伝子を活性化することで、DNAの安定性を増大させ、細胞寿命を70%延長させる効果があることが報告され注目されている。
【0004】
このように、レスベラトロールには様々な生理活性があることから、本物質をリード化合物として様々な化学修飾を施し、より高い活性を有するレスベラトロール誘導体を生み出す研究が盛んに行われている。例えば、SIRT1遺伝子(sir2遺伝子のヒトホモログ)の活性化作用がレスベラトロールに比べて約1000倍高いレスベラトロール誘導体(非特許文献1)や、同様にラジカル消去活性がレスベラトロールに比べて約62倍増強されたレスベラトロール誘導体が報告されている(非特許文献2)。このように、新しく合成されたレスベラトロールの誘導体には、思いがけない生理活性が見出される場合も多く、注目が集まっている。
【0005】
前記のような特定の化学修飾を施した化合物を得る手法として、一般に、様々な無機触媒を用いて、化学合成的手法が採用されているが、化学合成は有機溶媒下高温条件下で行われ、目的化合物まで合成するのに多数のステップを必要としていて、環境に対する負荷が大きいなど問題点も多いとされている。
【0006】
そこで、本件出願人も、これまでにレスベラトロールから様々な生理活性を有する新規のレスベラトロール誘導体を数多く得ることに成功している(特許文献1~7)。しかし、これらのレスベラトロール誘導体を製造する際には、生成反応を120℃や130℃の高温で行っているが、目的化合物以外の様々な副成物も生じやすい傾向があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5521788号公報
【文献】特許第6152735号公報
【文献】特許第6379807号公報
【文献】特許第5673091号公報
【文献】特許第5728972号公報
【文献】特許第5729134号公報
【文献】特開2014-28771号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Milne JC et al.,Nature,450(7170):712-716(2007).
【文献】Fukuhara K et al.,Chem Res Toxicol,21(2):282-287(2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、無機触媒等の有機合成的な方法を用いず、高圧下で加熱処理することによって、従来よりも低温で、効率よくレスベラトロール誘導体を製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意研究した結果、意外にも高圧下で加熱処理を行うことにより、従来よりも低温環境下でありながら、目的のレスベラトロール誘導体を効率的に製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]レスベラトロールを含む溶液を1MPa以上600MPa以下の高圧下で加熱処理してレスベラトロール誘導体を生成させることを特徴とする、レスベラトロール誘導体の製造方法。
[2]加熱処理の温度が50℃以上100℃未満である、前記[1]に記載のレスベラトロール誘導体の製造方法。
[3]加熱処理の時間が1時間以上20時間以下である、前記[1]又は[2]に記載のレスベラトロール誘導体の製造方法。
[4]前記レスベラトロール誘導体が式(1):
【0012】
【0013】
、式(2):
【0014】
【0015】
、又は式(3):
【0016】
【0017】
で示されるものである、前記[1]~[3]のいずれかに記載のレスベラトロール誘導体の製造方法。
[5]前記溶液にさらにカフェ酸を加えることで式(4):
【0018】
【0019】
で示されるレスベラトロール誘導体を製造することを特徴とする、前記[1]~[3]のいずれかに記載のレスベラトロール誘導体の製造方法。
[6]前記溶液にさらにフェルラ酸を加えることで式(5):
【0020】
【0021】
、又は式(6):
【0022】
【0023】
で示されるレスベラトロール誘導体を製造することを特徴とする、前記[1]~[3]のいずれかに記載のレスベラトロール誘導体の製造方法。
[7]前記溶液にさらにシナピン酸を加えることで式(7):
【0024】
【0025】
で示されるレスベラトロール誘導体を製造することを特徴とする、前記[1]~[3]のいずれかに記載のレスベラトロール誘導体の製造方法。
[8]前記溶液にさらにプレノールを加えることで式(8):
【0026】
【0027】
で示されるレスベラトロール誘導体を製造することを特徴とする、前記[1]~[3]のいずれかに記載のレスベラトロール誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明のレスベラトロール誘導体の製造方法は、高圧下で加熱処理することにより従来よりも、より低温においてレスベラトロール誘導体を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施例1及び比較例1の製造方法で製造したレスベラトロール誘導体の生成量を示した図である。
【
図2】
図2は、実施例2及び比較例2の製造方法で製造したレスベラトロール誘導体の生成量を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、本発明を限定するものではない。
【0031】
<高圧加熱処理によるレスベラトロール誘導体の製造方法>
本発明の方法は、レスベラトロールを含む溶液を1MPa以上600MPa以下の高圧下で加熱処理してレスベラトロール誘導体を生成させることを特徴とする。
【0032】
本発明の製造方法において、必須の原料として、レスベラトロールを用いる。
レスベラトロールにはトランス体とシス体の構造異性体が存在するが、加熱や紫外線によってトランス体とシス体の変換が一部生じる。したがって、本発明では、レスベラトロールとしては、トランス体でもシス体でも、あるいはトランス体とシス体の混合物であってもよい。また、レスベラトロールは、ブドウ果皮・茎・葉、ピーナッツの渋皮、メリンジョ、イタドリ、リンゴンベリー等の原料から抽出・精製した天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であってもよい。天然由来のレスベラトロールを用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、レスベラトロール以外の成分を含む混合物も使用できる。また、レスベラトロールには、塩等も含まれる。ただし、レスベラトロール誘導体の回収率の観点からは、レスベラトロール換算で5重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。具体的には、例えば、ブドウ果皮・茎・葉、ピーナッツの渋皮、メリンジョ、イタドリ、リンゴンベリー等の原料からの抽出物、凍結乾燥品等を使用してもよい。
【0033】
本発明の製造方法では、レスベラトロールを適切な溶媒に溶解又は懸濁させる。前記溶媒としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合液が使用できる。水と有機溶媒の配合比や、有機溶媒の種類に特に制限はなく、原料化合物が十分に溶解すれば良い。中でも、エタノールやメタノールのみの溶媒や、水とエタノール、水とメタノールの混合液を使用することが、コスト面から好ましい。また、レスベラトロール誘導体を含む反応液に対して最終的な精製を十分に適用せずに食品に使用する場合には、安全性や法規面から、溶媒として水、エタノールや含水エタノールを使用することが好ましい。
【0034】
本発明の製造方法では、レスベラトロールを含む溶液を高圧下で加熱処理する。この高圧下で加熱処理することにより、従来よりも低温で目的のレスベラトロール誘導体の生成反応が効率的に進行する。本発明において、「高圧」とは、1MPa以上の圧力がかかる環境をいう。
高圧処理は、当該技術分野において公知の様々な加圧装置を用いて行うことができる。前記加圧装置としては、1~600MPa程度まで加圧することができるものであればよく、装置の材質、構成などについて特に限定はない。
本発明の製造方法における高圧処理条件としては、1MPa以上600MPa以下、好ましくは10MPa以上300MPa以下、より好ましくは50MPa以上150MPa以下である。実際の高圧処理においては、原料含有溶液の液面に加圧面が接触していればよい。
なお、前記特許文献1~7でも、オートクレーブを用い、120℃~130℃の温度下、で目的のレスベラトロール誘導体を生成させているが、加圧条件としては約0.1MPa程度であり、高圧下ではない。
【0035】
また、本発明の方法では、レスベラトロール誘導体の生成反応を効率的に進行させるために、高圧をかけるとともに、レスベラトロールを含有する溶液の加熱温度を調節することが好ましい。加熱温度としては、50℃以上100℃未満、好ましくは70℃以上100℃未満、より好ましくは80℃以上100℃未満である。また、回収効率面から、溶液温度が均一に所定の温度になるように加熱することが、さらに好ましい。
【0036】
また、本発明の方法では、レスベラトロール誘導体の生成反応を効率的に進行させるために、前記圧力及び温度とともに、処理時間を調節することが好ましい。処理時間も圧力及び温度と同様に限られたものではなく、目的のレスベラトロール誘導体を生成させる反応が効率的に進行する時間条件とすればよい。詳細には、前記処理時間は、圧力及び温度との兼ね合いにより決まるものであり、圧力及び温度に応じた処理時間にすることが望ましい。例えば、100MPaの高圧下、90℃付近で加熱処理する場合は、1時間以上20時間以下の処理時間が望ましい。
但し、加熱温度が高くなると、目的のレスベラトロール誘導体以外の不純物(副生成物)も生成しやすいため、目的のレスベラトロール誘導体の生成収量が確保できる範囲内で、生成反応時の温度はできる限り低温に調整することが好ましい。
【0037】
前記高圧下での加熱処理によるレスベラトロール誘導体の生成反応の終了は、例えば、HPLCによる成分分析によりレスベラトロール誘導体の生成量を確認して判断することができる。
【0038】
以上のような本発明の方法により製造することができるレスベラトロール誘導体としては、レスベラトロールの重合化合物である、式(1):
【0039】
【0040】
【0041】
、式(3):
【0042】
【0043】
また、前記のようにして得られるレスベラトロール誘導液を含む反応液は、前記式(1)、式(2)及び式(3)で示されるレスベラトロール誘導体の混合組成物となっているが、前記式(1)で示されるレスベラトロール誘導体、式(2)で示されるレスベラトロール誘導体及び式(3)で示されるレスベラトロール誘導体をそれぞれ分離する場合、公知の方法で実施可能である。例えば、クロロホルム、酢酸エチル、エタノール、メタノール等を用いた溶媒抽出法や炭酸ガスによる超臨界抽出法等で抽出してレスベラトロール誘導体を濃縮することができる。また、カラムクロマトグラフィーを利用して分離することも可能である。必要に応じて、再結晶法や限外ろ過膜等の膜処理法も適用可能である。
【0044】
また、本発明の方法では、前記レスベラトロールに、他の原料を加えることで、前記とは別のレスベラトロール誘導体を製造することができる。
前記他の原料としては、カフェ酸、フェルラ酸、シナピン酸及びプレノールが挙げられる。
【0045】
例えば、レスベラトロールとカフェ酸とを高圧下で加熱処理することで、式(4):
【0046】
【0047】
で示される化合物を製造することができる。
なお、高圧下で加熱処理する方法及び条件は、前記と同様であればよい。
【0048】
原料として用いることができるカフェ酸は、天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であっても良い。天然由来のカフェ酸を用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、所望の生成反応が進み、最終的に前記式(4)で示されるレスベラトロール誘導体の製造に使用できるものであれば特に限定されず、カフェ酸以外の成分を含む混合物もカフェ酸含有原料として使用することができる。ただし、前記式(4)で示されるレスベラトロール誘導体の回収量の観点からは、カフェ酸をできるだけ多く含有しているものが原料として望ましい。このような原料としては、様々な果実やジュース、濃縮果汁、又は、破棄されることの多い果皮の抽出物、あるいは微生物発酵によるカフェ酸含有培養液や酵素反応後のカフェ酸含有溶液等が挙げられる。
【0049】
また、前記溶媒にレスベラトロール及びカフェ酸を混合して得られるレスベラトロール、カフェ酸、又はレスベラトロールとカフェ酸との混合物を含有する溶液中のレスベラトロール及びカフェ酸の濃度について制限はない。それぞれの濃度が高いほど、溶媒使用量が少ない等のメリットもあるため、レスベラトロール及びカフェ酸の濃度は各々の溶媒に対しレスベラトロール及びカフェ酸がそれぞれ飽和する濃度又はそれ以上にすることが好ましい。
【0050】
また、本発明の方法では、前記レスベラトロールと、フェルラ酸とを高圧下で加熱処理することで、式(5):
【0051】
【0052】
又は式(6):
【0053】
【0054】
で示される化合物を製造することができる。
なお、高圧下で加熱処理する方法及び条件は、前記と同様であればよい。
【0055】
原料として用いることができるフェルラ酸は、天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であってもよい。天然由来のフェルラ酸を用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、所望の生成反応が進み、最終的に前記式(5)及び/又は前記式(6)で示されるレスベラトロール誘導体の製造に使用できるものであれば特に限定されず、フェルラ酸以外の成分を含む混合物もフェルラ酸含有原料として使用することができる。このような原料としては、食品添加物のフェルラ酸の他、米糠抽出物、小麦ふすま抽出物等が挙げられる。
【0056】
また、前記溶媒にレスベラトロール及びフェルラ酸を混合して得られるレスベラトロール、フェルラ酸、又はレスベラトロールとフェルラ酸との混合物を含有する溶液中のレスベラトロール及びフェルラ酸の濃度について制限はない。それぞれの濃度が高いほど、溶媒使用量が少ない等のメリットもあるため、レスベラトロール及びフェルラ酸の濃度は各々の溶媒に対しレスベラトロール及びフェルラ酸がそれぞれ飽和する濃度又はそれ以上にすることが好ましい。
【0057】
また、前記のようにして得られるレスベラトロール誘導液を含む反応液は、前記式(5)で示されるレスベラトロール誘導体及び式(6)で示されるレスベラトロール誘導体の混合組成物となっているが、前記式(5)で示されるレスベラトロール誘導体と式(6)で示されるレスベラトロール誘導体とを分離する場合、公知の方法で実施可能である。例えば、クロロホルム、酢酸エチル、エタノール、メタノール等を用いた溶媒抽出法や炭酸ガスによる超臨界抽出法等で抽出してレスベラトロール誘導体を濃縮することができる。また、カラムクロマトグラフィーを利用して分離することも可能である。必要に応じて、再結晶法や限外ろ過膜等の膜処理法も適用可能である。
【0058】
また、本発明の方法では、前記レスベラトロールと、シナピン酸とを、高圧下で加熱処理することで、式(7):
【0059】
【0060】
で示される化合物を製造することができる。
なお、高圧下で加熱処理する方法及び条件は、前記と同様であればよい。
【0061】
原料として用いることができるシナピン酸は、天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であってもよい。天然由来のシナピン酸を用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、所望の生成反応が進み、最終的に前記式(7)で示されるレスベラトロール誘導体の製造に使用できるものであれば特に限定されず、シナピン酸以外の成分を含む混合物もシナピン酸含有原料として使用することができる。このような原料としては、カラシやワサビ等の抽出物やそれらの酵素処理物等が挙げられる。
【0062】
また、前記溶媒にレスベラトロール及びシナピン酸を混合して得られるレスベラトロール、シナピン酸、又はレスベラトロールとフェルラ酸との混合物を含有する溶液中のレスベラトロール及びフェルラ酸の濃度について制限はない。それぞれの濃度が高いほど、溶媒使用量が少ない等のメリットもあるため、レスベラトロール及びシナピン酸の濃度は各々の溶媒に対しレスベラトロール及びシナピン酸がそれぞれ飽和する濃度又はそれ以上にすることが好ましい。
【0063】
また、本発明の方法では、前記レスベラトロールと、プレノールとを、高圧下で加熱処理することで、式(8):
【0064】
【0065】
で示される化合物を製造することができる。
なお、高圧下で加熱処理する方法及び条件は、前記と同様であればよい。
【0066】
原料として用いることができるプレノールは、天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であってもよい。天然由来のプレノールを用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、所望の生成反応が進み、最終的に前記式(8)で示されるレスベラトロール誘導体の製造に使用できるものであれが特に限定されず、プレノール以外の成分を含む混合物もプレノール含有原料として使用することができる。ただし、前記式(8)で示されるレスベラトロール誘導体の回収量の観点からは、プレノールができるだけ多く含有されているものが原料として望ましい。このような原料としては、柑橘類、クランベリー、コケモモ、スグリ、ブドウ、ラズベリー、ブラックベリー、トマト、精白パン、ホップ油、コーヒー、キイチゴ、クラウドベリー、パッションフルーツ等が挙げられる。
【0067】
また、前記溶媒にレスベラトロール及びシナピン酸を混合して得られるレスベラトロール、シナピン酸、又はレスベラトロールとフェルラ酸との混合物を含有する溶液中のレスベラトロール及びフェルラ酸の濃度について制限はない。それぞれの濃度が高いほど、溶媒使用量が少ない等のメリットもあるため、レスベラトロール及びシナピン酸の濃度は各々の溶媒に対しレスベラトロール及びシナピン酸がそれぞれ飽和する濃度又はそれ以上にすることが好ましい。
【0068】
以上のようにして得られる反応液中には、前記のようなレスベラトロール誘導体が含有されている。また、安全な原料のみを用いた工程でレスベラトロール誘導体を製造した場合には、レスベラトロール誘導体を含む混合物の状態で食品、医薬品又は医薬部外品に使用することが可能である。例えば、天然由来のレスベラトロールを含水エタノール溶媒に溶解し、ミネラルウォーター等を用い、上記の高圧加熱処理を行った場合には、得られる反応液を食品原料の一つとして使用することが可能である。
【0069】
また、風味面での改良やさらなる高機能化を望む場合は、前記反応液を濃縮してレスベラトロール誘導体の濃度を高める、あるいは前記反応液を精製しレスベラトロール誘導体の純品を得ることができる。濃縮、精製は、公知の方法で実施可能である。例えば、クロロホルム、酢酸エチル、エタノール、メタノール等の溶媒抽出法や炭酸ガスによる超臨界抽出法等で抽出してレスベラトロール誘導体を濃縮することができる。また、カラムクロマトグラフィーを利用して濃縮や精製を施すことも可能である。再結晶法や限外ろ過膜等の膜処理法も適用可能である。
【0070】
また、前記反応液からレスベラトロール誘導体を分離して回収する場合には、カラムクロマトグラフィー、HPLC等を用いてもよい。また、前記濃縮物や精製物を、必要に応じて、減圧乾燥や凍結乾燥して溶媒除去することで、粉末状のレスベラトロール誘導体を得ることができる。さらに、得られたレスベラトロール誘導体は、必要に応じて、当該分野で公知の方法により、レスベラトロール誘導体の塩としてもよい。
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
〔実施例1〕高圧加熱処理によるレスベラトロール誘導体の製造(組成A)
カフェ酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)、レスベラトロール(テクノサイエンス株式会社製)、エタノール、及び0.5Mホウ酸水溶液を表1の組成(組成A)で調製し、三方シール袋に入れて脱気包装した。この試料を、50℃又は90℃に予熱した加圧装置に投入し、100MPaまで加圧後、この条件で表1の各時間処理することにより前記式(4)で示されるレスベラトロール誘導体の製造を試みた。加圧装置は、株式会社東洋高圧製の高圧処理装置「まるごとエキス(登録商標)」を使用した。
【0073】
〔比較例1〕低圧下でのレスベラトロール誘導体の製造(組成A)
カフェ酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)、レスベラトロール(テクノサイエンス株式会社製)、エタノール、及び0.5Mホウ酸水溶液を表1の組成(組成A)で調製し、三方シール袋に入れて脱気包装した。この試料を、50℃又は90℃に予熱した加圧装置に投入し、0.1MPaまで加圧後、この条件で表1の各時間処理することにより前記式(4)で示されるレスベラトロール誘導体の製造を試みた。加圧装置は、株式会社東洋高圧製の高圧処理装置「まるごとエキス(登録商標)」を使用した。
【0074】
【0075】
〔実施例2〕高圧加熱処理によるレスベラトロール誘導体の製造(組成B)
カフェ酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)、レスベラトロール(テクノサイエンス株式会社製)、エタノール、及び0.5Mホウ酸水溶液を表2の組成(組成B)で調製し、三方シール袋に入れて脱気包装した。この試料を、50℃又は90℃に予熱した加圧装置に投入し、100MPaまで加圧後、この条件で表2の各時間処理することにより前記式(4)で示されるレスベラトロール誘導体の製造を試みた。加圧装置は、株式会社東洋高圧製の高圧処理装置「まるごとエキス(登録商標)」を使用した。
【0076】
〔比較例2〕低圧下でのレスベラトロール誘導体の製造(組成B)
カフェ酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)、レスベラトロール(テクノサイエンス株式会社製)、エタノール、及び0.5Mホウ酸水溶液を表2の組成(組成B)で調製し、三方シール袋に入れて脱気包装した。この試料を、50℃又は90℃に予熱した加圧装置に投入し、0.1MPaまで加圧後、この条件で表2の各時間処理することにより前記式(4)で示されるレスベラトロール誘導体の製造を試みた。加圧装置は、株式会社東洋高圧製の高圧処理装置「まるごとエキス(登録商標)」を使用した。
【0077】
【0078】
〔実施例3〕レスベラトロール誘導体の定量
上記の各条件下で製造した前記式(4)で示されるレスベラトロール誘導体(UHA6052という)の生成量をLC-MSにより定量した。すなわち、まずUHA6052標準品(UHA6052標準品は、前記特許文献3(特許第6379807号公報)に記載の方法により調製したレスベラトロール誘導体を用いた)をメタノールで希釈し、2、10、50ng/mLに調製した。調製した標準品をLC-MS(MRMモード) のよって分析した。得られたプロダクトイオン(m/z 345.12)のピークエリアから検量線を作成した。次に、上記の実施例及び比確例において調製した各試料を適宜希釈後、同様にLC-MSで分析し、得られたプロダクトイオンのピークエリアから、標準品の検量線を用いて定量した。ここで用いたLC-MSの分析条件は以下の通りである。
【0079】
〈LC-MS分析条件〉
カラム:CAPCEL PAK C18 UG80(5μm,2.0mmφ×150mm)
溶媒 :A)水(0.1%ギ酸),B)アセトニトリル(0.1%ギ酸)
グラジエント:B)25%(0分),25%(5分),100%(6分),100%(14分)
流速 :200μL/分
分析計:AB Sciex 3200Q TRAP
スキャンモード:MRM(Negative)
プレカーサーイオン(m/z):361.14
プロダクトイオン(m/z):345.12
【0080】
結果を
図1及び
図2に示した。
図1は前記組成Aにおける結果、
図2は前記組成Bにおける結果である。
図1に示したように、組成Aにおいては、50℃の温度下、0.1MPa、18時間の加圧処理では、UHA6052を検出することはできなかった(比(1))。一方、50℃の温度下、100MPa、18時間の加圧処理では、202.7ng/mLのUHA6052が生成されることが確認された(実(1))。さらに、90℃の温度下、0.1MPa、1時間及び5時間の加圧処理では、UHA6052の生成量は、それぞれ101.3ng/mL(比(2))及び173.4ng/mL(比(3))の生成量であった。一方、90℃の温度下、100MPa、1時間及び5時間の加圧処理では、UHA6052の生成量は、840.0ng/mL(実(2))及び9395.6ng/mL(実(3))と、0.1mPaの場合と比べて、それぞれ8.3倍、54.2倍と格段に生成量が増大していることが確認された。
【0081】
図2に示したように、組成Bにおいては、50℃の温度下、0.1MPa、18時間の加圧処理では、UHA6052の生成量は104.0ng/mL(比(4))であったのに対し、50℃の温度下、100MPa、18時間の加圧処理では、379.1ng/mLのUHA6052が生成されることが確認された(実(4))。さらに、90℃の温度下、0.1MPa、1時間及び5時間の加圧処理では、UHA6052の生成量は、それぞれ105.6ng/mL(比(5))及び1157.2ng/mL(比(6))の生成量であった。一方、90℃の温度下、100MPa、1時間及び5時間の加圧処理では、UHA6052の生成量は、12647.9ng/mL(実(5))及び114094.7ng/mL(実(6))と、0.1mPaの場合と比べて、それぞれ119.8倍、98.6倍と格段に生成量が増大していることが確認された。
【0082】
以上の結果から、レスベラトロール及びカフェ酸を含む溶液に90℃という比較的低い温度下、高い圧力をかけることにより、式(4)で示されるレスベラトロール誘導体を効率的に製造することが可能であることが判明した。
【0083】
なお、以上のように、本発明において、高圧下で加熱処理することで目的のレスベラトロール誘導体が著量生成するのは、高圧下においては、全体の体積が減少する方向に力がかかっているため、体積が減少する化学反応がより起こり易くなるためと考えられる。また、本発明の製造方法においては、従来よりも、副生成物が生じ難いという特徴があるが、その一因としては、レスベラトロール中に存在するフェノール性水酸基など反応性の高い官能基を介した種々の重合反応が、より低温での反応のために起こりにくくなっていることが考えられる。