(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】モーター制御装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/18 20160101AFI20221206BHJP
B65H 3/06 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H02P6/18
B65H3/06 Z
(21)【出願番号】P 2018236409
(22)【出願日】2018-12-18
【審査請求日】2021-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 博之
(72)【発明者】
【氏名】橘 優太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大地
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098856(JP,A)
【文献】特開2003-180094(JP,A)
【文献】特開2001-327186(JP,A)
【文献】特開2001-204191(JP,A)
【文献】特開2007-159334(JP,A)
【文献】特開2008-054430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/18
B65H 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサレス方式のブラシレスDCモーターを制御するモーター制御装置であって、
前記ブラシレスDCモーターのステーター巻線の各相に電圧を印加するための駆動回路と、
前記ステーター巻線に流れる電流を検出する電流検出回路と、
前記駆動回路を制御する制御回路とを備え、
前記制御回路は、前記ブラシレスDCモーターのローターの磁極の初期位置を推定するための初期位置推定部を含み、
前記駆動回路は、前記初期位置を推定する際に、複数の通電角度を順次変更しながら前記通電角度ごとに一定の通電時間の間、前記ステーター巻線に連続的または間欠的に定電圧を印加し、
前記駆動回路は、前記複数の通電角度のうちの任意の第1の通電角度の次に第2の通電角度で電圧を印加する場合に、前記第1の通電角度での電圧印加を終了した後、前記ステーター巻線に流れる残留電流が0に戻る前に、前記第2の通電角度で電圧印加を開始し、
前記電流検出回路は、前記通電角度ごとに、電圧印加を開始する直前または電圧印加開始時における残留電流の値と、前記一定の通電時間の間での前記ステーター巻線に流れる電流のピーク値とを検出し、
前記初期位置推定部は、検出された前記残留電流の値によって前記電流のピーク値を補正し、前記複数の通電角度の各々に対して得られた補正後の前記電流のピーク値に基づいて前記ローターの磁極の初期位置を推定する、モーター制御装置。
【請求項2】
前記制御回路は、座標変換部をさらに含み、
前記座標変換部は、前記通電角度ごとに、電圧印加を開始する直前または電圧印加開始時における前記ステーター巻線の各相の残留電流からγ軸残留電流を計算し、
前記座標変換部は、前記通電角度ごとに、前記一定の通電時間の間での前記ステーター巻線の各相の電流ピーク値からγ軸電流のピーク値を計算し、
前記初期位置推定部は、前記通電角度ごとに、前記γ軸残留電流の値を用いて前記γ軸電流のピーク値を補正し、前記複数の通電角度の各々に対して得られた補正後の前記γ軸電流のピーク値に基づいて前記ローターの磁極の初期位置を推定する、請求項1に記載のモーター制御装置。
【請求項3】
前記初期位置推定部は、前記通電角度ごとに、前記γ軸残留電流と同符号の補正量を前記γ軸電流のピーク値から減算することによって、前記γ軸電流のピーク値を補正する、請求項2に記載のモーター制御装置。
【請求項4】
前記補正量の絶対値は、前記γ軸残留電流の絶対値よりも小さい、請求項3に記載のモーター制御装置。
【請求項5】
前記補正量の絶対値は、前記γ軸残留電流の絶対値が大きくなるほど大きくなる、請求項4に記載のモーター制御装置。
【請求項6】
前記補正量は、前記γ軸残留電流の値と前記γ軸電流のピーク値の絶対値と正の比例定数との積に等しい、請求項3~5のいずれか1項に記載のモーター制御装置。
【請求項7】
前記補正量は前記γ軸電流に等しい、請求項3に記載のモーター制御装置。
【請求項8】
前記初期位置推定部は、前記γ軸残留電流の値と補正係数との対応関係を表す補正テーブルに基づいて、検出した前記γ軸電流のピーク値に、検出した前記γ軸残留電流に対応した前記補正係数を乗算することによって前記γ軸電流のピーク値を補正する、請求項2に記載のモーター制御装置。
【請求項9】
前記ブラシレスDCモーターは、インナーローター型のブラシレスDCモーターである、請求項1~8のいずれか1項に記載のモーター制御装置。
【請求項10】
記録媒体を1枚ずつ給送する給送ローラーと、
給送した前記記録媒体に画像を形成する画像形成部と、
前記給送ローラーを駆動するためのブラシレスDCモーターを制御する、請求項1~9のいずれか1項に記載のモーター制御装置とを備える、画像形成装置。
【請求項11】
前記記録媒体を搬送する搬送ローラーと、
前記搬送ローラーを駆動するためのセンサレス方式の第2のブラシレスDCモーターを制御する第2のモーター制御装置とをさらに備え、
前記第2のブラシレスDCモーターは、第2のローターと第2のステーター巻線とを含み、
前記第2のモーター制御装置は、
前記第2のステーター巻線の各相に電圧を印加するための第2の駆動回路と、
前記第2のステーター巻線に流れる電流を検出する第2の電流検出回路と、
前記第2の駆動回路を制御する第2の制御回路とを備え、
前記第2の制御回路は、前記第2のローターの磁極の初期位置を推定するための第2の初期位置推定部を含み、
前記第2の駆動回路は、前記第2のローターの磁極の初期位置を推定する際に、複数の通電角度を順次変更しながら前記通電角度ごとに一定の通電時間の間、前記第2のステーター巻線に連続的または間欠的に一定の電圧を印加し、
前記第2の駆動回路は、前記複数の通電角度のうちの任意の第1の通電角度の次に第2の通電角度で電圧を印加する場合に、前記第1の通電角度での電圧印加を終了した後、前記第2のステーター巻線に流れる残留電流が零になる時間が経過してから、前記第2の通電角度での電圧印加を開始し、
前記第2の電流検出回路は、前記通電角度ごとに、前記一定の通電時間の間での前記第2のステーター巻線に流れる電流のピーク値を検出し、
前記第2の初期位置推定部は、前記複数の通電角度の各々に対して検出された前記電流のピーク値に基づいて前記第2のローターの磁極の初期位置を推定する、請求項10に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、モーター制御装置に関し、さらにローター駆動用のモーターを制御する制御装置としてこのモーター制御装置を備えた画像形成装置に関する。特に、この開示は、センサレスのブラシレスDCモーター(永久磁石同期モーターとも称する)を起動させる際のモーター制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
センサレス方式のブラシレスDCモーターでは、ステーターの各相コイルに対するローターの永久磁石の磁極位置を検出するセンサーがない。このため、ローターの回転中にステーター巻線に発生する誘起電圧に基づいてローターの磁極位置を推定する方法が一般に用いられる。しかしながら、この方法は、誘起電圧が検出できる程度にローターが回転している必要があるので、モーターの起動前の静止状態にあるローターの磁極の初期位置を推定する方法として用いることができない。
【0003】
そこで、静止状態にあるローターの磁極位置を推定する方法として、インダクティブセンスの方法が知られている(たとえば、特許第2547778号公報(特許文献1)を参照)。インダクティブセンスによる初期位置推定の方法は、ローターが回転しないレベルの電圧を複数の電気角でステーター巻線に印加したとき、ローターの磁極位置とステーター巻線による電流磁界との位置関係に応じて、実効的なインダクタンスが微妙に変化する性質を利用している。具体的に特許文献1によれば、各電気角においてステーター巻線に電圧を一定の通電時間印加したとき、最も高い電流値を示す通電角度がローターの磁極の位置を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インダクティブセンスの方法では、複数の電気角(以下、通電角度とも称する)でステーター巻線に電圧を印加する必要がある。ある通電角度でステーター巻線にパルス電圧を印加すると巻線電流は増加し始め、一定時間の電圧の印加中に巻線電流は増加を続け、パルス電圧の印加を終了すると巻線電流は徐々に減少する。次の通電角度でステーター巻線への電圧の印加を開始すると、巻線電流は再び増加し始め、以下同様の巻線電流の変化が繰り返される。
【0006】
ここで、ローターの磁極の初期位置を精度良く検出するためには、ある通電角度でのステーター巻線への電圧印加の終了後、次の通電角度でステーター巻線に電圧の印加を開始するまでの間に、巻線電流は0にまで戻る必要がある。なぜなら、ローターの磁極の初期位置推定は、通常、ステーター巻線への電圧印加中における巻線電流のピーク値に基づくので、残留電流があるとピーク電流の値に誤差が生じるからである。
【0007】
一方で、ローターの磁極の初期位置の推定精度を高めるためには、多くの通電角度でステーター巻線に電圧を印加して電圧印加中のピーク電流を検出する必要がある。このため、毎回の電圧印加後にステーター巻線の残留電流が完全に0に戻るのを待っていると、ローターの磁極の初期位置推定に時間がかかることになる。頻繁にモーターのオンオフが必要なアプリケーションでは、ローターの磁極の初期位置推定に時間がかかることは問題となる。しかしながら、インダクティブセンスの際の通電角度の数を減らすことによって初期位置推定の時間を減らそうとすると、磁極の初期位置の推定精度が劣化するために、モーターの起動中に脱調を起こす危険性がある。
【0008】
この開示は、上記の問題点を考慮したものであり、その目的の1つは、インダクティブセンスの方法を用いて、短時間で精度良くローターの磁極の初期位置を推定することが可能なブラスレスDCモーターの制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態のモーター制御装置は、センサレス方式のブラシレスDCモーターを制御するためのものであり、ブラシレスDCモーターのステーター巻線の各相に電圧を印加するための駆動回路と、ステーター巻線に流れる電流を検出する電流検出回路と、駆動回路を制御する制御回路とを備える。制御回路は、ブラシレスDCモーターのローターの磁極の初期位置を推定するための初期位置推定部を含む。駆動回路は、初期位置を推定する際に、複数の通電角度を順次変更しながら通電角度ごとに一定の通電時間の間、ステーター巻線に連続的または間欠的に定電圧を印加する。駆動回路は、複数の通電角度のうちの任意の第1の通電角度の次に第2の通電角度で電圧を印加する場合に、第1の通電角度での電圧印加を終了した後、ステーター巻線に流れる残留電流が0に戻る前に、第2の通電角度で電圧印加を開始する。電流検出回路は、通電角度ごとに、電圧印加を開始する直前または電圧印加開始時における残留電流の値と、一定の通電時間の間でのステーター巻線に流れる電流のピーク値とを検出する。初期位置推定部は、検出された残留電流の値によって電流のピーク値を補正し、複数の通電角度の各々に対して得られた補正後の電流のピーク値に基づいてローターの磁極の初期位置を推定する。
【0010】
制御回路は、座標変換部をさらに含む。座標変換部は、通電角度ごとに、電圧印加を開始する直前または電圧印加開始時におけるステーター巻線の各相の残留電流からγ軸残留電流を計算する。座標変換部は、通電角度ごとに、一定の通電時間の間でのステーター巻線の各相の電流ピーク値からγ軸電流のピーク値を計算する。初期位置推定部は、通電角度ごとに、γ軸残留電流の値を用いてγ軸電流のピーク値を補正し、複数の通電角度の各々に対して得られた補正後のγ軸電流のピーク値に基づいてローターの磁極の初期位置を推定する。
【0011】
好ましくは、初期位置推定部は、通電角度ごとに、γ軸残留電流と同符号の補正量をγ軸電流のピーク値から減算することによって、γ軸電流のピーク値を補正する。
【0012】
好ましくは、補正量の絶対値は、γ軸残留電流の絶対値よりも小さい。
【0013】
好ましくは、補正量の絶対値は、γ軸残留電流の絶対値が大きくなるほど大きくなる。
【0014】
好ましくは、補正量は、γ軸残留電流の値とγ軸電流のピーク値の絶対値と正の比例定数との積に等しい。
【0015】
他の実施形態において、補正量はγ軸電流に等しくてもよい。
【0016】
さらに他の実施形態において、初期位置推定部は、γ軸残留電流の値と補正係数との対応関係を表す補正テーブルに基づいて、検出したγ軸電流のピーク値に、検出したγ軸残留電流に対応した補正係数を乗算することによって、γ軸電流のピーク値を補正してもよい。
【0017】
上記の各実施形態において、好ましくは、ブラシレスDCモーターは、インナーローター型のブラシレスDCモーターである。
【0018】
一実施形態の画像形成装置は、記録媒体を1枚ずつ給送する給送ローラーと、給送した記録媒体に画像を形成する画像形成部と、給送ローラーを駆動するためのブラシレスDCモーターを制御する上記のモーター制御装置とを備える。
【0019】
好ましくは、画像形成装置は、記録媒体を搬送する搬送ローラーと、搬送ローラーを駆動するためのセンサレス方式の第2のブラシレスDCモーターを制御する第2のモーター制御装置とをさらに備える。第2のブラシレスDCモーターは、第2のローターと第2のステーター巻線とを含む。第2のモーター制御装置は、第2のステーター巻線の各相に電圧を印加するための第2の駆動回路と、第2のステーター巻線に流れる電流を検出する第2の電流検出回路と、第2の駆動回路を制御する第2の制御回路とを備える。第2の制御回路は、第2のローターの磁極の初期位置を推定するための第2の初期位置推定部を含む。第2の駆動回路は、第2のローターの磁極の初期位置を推定する際に、複数の通電角度を順次変更しながら通電角度ごとに一定の通電時間の間、第2のステーター巻線に連続的または間欠的に一定の電圧を印加する。第2の駆動回路は、複数の通電角度のうちの任意の第1の通電角度の次に第2の通電角度で電圧を印加する場合に、第1の通電角度での電圧印加を終了した後、第2のステーター巻線に流れる残留電流が零になる時間が経過してから、第2の通電角度での電圧印加を開始する。第2の電流検出回路は、通電角度ごとに、一定の通電時間の間での第2のステーター巻線に流れる電流のピーク値を検出する。第2の初期位置推定部は、複数の通電角度の各々に対して検出された電流のピーク値に基づいて第2のローターの磁極の初期位置を推定する。
【発明の効果】
【0020】
上記の実施形態によれば、インダクティブセンスの方法を用いて、短時間で精度良くローターの磁極の初期位置を推定することが可能なブラスレスDCモーターの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】モーター制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】定常運転中のモーターを停止させてから再起動するまでのモーター回転速度を示すタイミング図である。
【
図3】センサレスベクトル制御における交流電流および磁極位置を表示するための座標軸について説明するための図である。
【
図4】モーターの運転中におけるセンサレスベクトル制御回路の動作を示す機能ブロック図である。
【
図5】静止状態にあるローターの磁極の初期位置を推定する方法を示す機能ブロック図である。
【
図6】U相電圧指令値、V相電圧指令値、およびW相電圧指令値と電気角との関係を示す図である。
【
図7】γ軸電圧指令値と検出されたγ軸電流との関係の一例を模式的に示すタイミング図である。
【
図8】ローターの磁極位置と通電角度との相対的位置関係と、γ軸電流のピーク値との関係を示す図である。
【
図9】γ軸電流に符号について説明するための図である。
【
図10】残留電流が存在する場合におけるγ軸電流の波形の一例を模式的に示すタイミング図である。
【
図11】残留電流を考慮した場合のローターの磁極の初期位置推定の手順を示すフローチャートである。
【
図12】通電角度ならびに対応する余弦値および正弦値を格納するテーブルの一例を示す図である。
【
図13】γ軸残留電流の値とγ軸電流のピーク値との関係の一例を示す模式的なタイミング図である。
【
図14】実験的に求めたγ軸ピーク電流の検出値とγ軸残留電流との関係の一例を示す図である。
【
図15】γ軸残留電流に応じてγ軸電流変化量を補正するための補正テーブルの一例を示す図である。
【
図16】画像形成装置の構成の一例を示す断面図である。
【
図17】インナーローター型のブラシレスDCモーターの構成とアウターローター型のブラシレスDCモーターの構成とを模式的に示す断面図である。
【
図18】画像形成装置のローラーの駆動制御に用いられるモーターとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0023】
<実施の形態1>
[モーター制御装置の全体構成]
図1は、モーター制御装置の全体構成を示すブロック図である。モーター制御装置70は、センサレス方式の3相ブラシレスDCモーター(BLDCM:Brushless DC Motor)30を駆動制御する。
図1に示すように、モーター制御装置70は、駆動回路40と、センサレスベクトル制御回路50と、上位制御回路60とを含む。センサレス方式であるため、ローターの回転位置を検出するためのホール素子またはエンコーダーは備えられていない。
【0024】
駆動回路40は、PWM(Pulse Width Modulation)制御方式のインバーター回路であり、直流駆動電圧DVを3相交流電圧に変換して出力する。具体的に、駆動回路40は、センサレスベクトル制御回路50から受けたPWM信号であるインバーター駆動信号U+,U-,V+,V-,W+,W-に基づいて、ブラシレスDCモーター30にU相電圧UM、V相電圧VM、W相電圧WMを供給する。駆動回路40は、インバーター回路41と、U相電流検出回路43Uと、V相電流検出回路43Vと、プリドライブ回路44とを含む。
【0025】
インバーター回路41は、U相アーム回路42Uと、V相アーム回路42Vと、W相アーム回路42Wとを含む。これらのアーム回路42U,42V,42Wは、直流駆動電圧DVが与えられたノードと、接地電圧GNDが与えられたノードとの間に互いに並列に接続される。以下、記載を簡潔にするため、直流駆動電圧DVが与えられたノードを駆動電圧ノードDVと記載し、接地電圧GNDが与えられたノードを接地ノードGNDと記載する。
【0026】
U相アーム回路42Uは、互いに直列に接続された高電位側のU相トランジスタFU+および低電位側のU相トランジスタFU-を含む。U相トランジスタFU+およびFU-の接続ノードNuは、ブラシレスDCモーター30のU相巻線31Uの一端と接続される。U相巻線31Uの他端は中性点32に接続される。
【0027】
なお、
図1に示すように、ブラシレスDCモーター30のU相巻線31U、V相巻線31V、およびW相巻線31Wの結線はスター結線である。この明細書では、U相巻線31U、V相巻線31V、およびW相巻線31Wを総称して、ステーター巻線31と称する。
【0028】
同様に、V相アーム回路42Vは、互いに直列に接続された高電位側のV相トランジスタFV+および低電位側のV相トランジスタFV-を含む。V相トランジスタFV+およびFV-の接続ノードNvは、ブラシレスDCモーター30のV相巻線31Vの一端と接続される。V相巻線31Vの他端は中性点32に接続される。
【0029】
同様に、W相アーム回路42Wは、互いに直列に接続された高電位側のW相トランジスタFW+および低電位側のW相トランジスタFW-を含む。W相トランジスタFW+およびFW-の接続ノードNwは、ブラシレスDCモーター30のW相巻線31Wの一端と接続される。W相巻線31Wの他端は中性点32に接続される。
【0030】
U相電流検出回路43UおよびV相電流検出回路43Vは、2シャント方式でモーター電流を検出するための回路である。具体的に、U相電流検出回路43Uは、低電位側のU相トランジスタFU-と接地ノードGNDとの間に接続される。V相電流検出回路43Vは、低電位側のV相トランジスタFV-と接地ノードGNDとの間に接続される。
【0031】
U相電流検出回路43UおよびV相電流検出回路43Vは、それぞれシャント抵抗を含む。シャント抵抗の抵抗値は1/10Ωオーダーの小さい値である。このため、U相電流検出回路43Uによって検出されたU相電流Iuを表す信号およびV相電流検出回路43Vによって検出されたV相電流Ivを表す信号は、アンプ(不図示)によって増幅される。その後、U相電流Iuを表す信号およびV相電流Ivを表す信号は、AD(Analog-to-Digital)変換器(不図示)によってAD変換されてから、センサレスベクトル制御回路50に取り込まれる。
【0032】
W相電流Iwは、U相電流IuとV相電流Ivとからキルヒホッフの電流則、すなわち、Iw=-Iu-Ivから求めることができるので、検出する必要はない。より一般的には、U相電流Iu、V相電流Iv、およびW相電流Iwのうち、いずれか2相の電流を検出すればよく、他の1相の電流値は検出した2相の電流値から計算することができる。
【0033】
プリドライブ回路44は、センサレスベクトル制御回路50から受けたPWM信号であるインバーター駆動信号U+,U-,V+,V-,W+,W-を増幅して、トランジスタFU+,FU-,FV+,FV-,FW+,FW-のゲートにそれぞれ出力する。
【0034】
トランジスタFU+,FU-,FV+,FV-,FW+,FW-の種類は特に限定されない。たとえば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であってもよいし、バイポーラトランジスタであってもよいし、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよい。
【0035】
センサレスベクトル制御回路50は、ブラシレスDCモーター30をベクトル制御するための回路であり、インバーター駆動信号U+,U-,V+,V-,W+,W-を生成して駆動回路40に供給する。さらに、センサレスベクトル制御回路50は、ブラシレスDCモーター30を起動させる際には、静止状態にあるローターの磁極の初期位置をインダクティブセンス方式によって推定する。
【0036】
センサレスベクトル制御回路50は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用回路として構成されていてもよいし、FPGA(Field Programmable Gate Array)および/またはマイクロコンピュータなどを利用してその機能を実現するように構成されていてもよい。
【0037】
上位制御回路60は、CPU(Central Processing Unit)およびメモリなどを備えたコンピュータをベースに構成される。上位制御回路60は、センサレスベクトル制御回路50に起動指令、停止指令、および回転角速度指令値などを出力する。
【0038】
なお、上記と異なり、センサレスベクトル制御回路50および上位制御回路60が1つの制御回路としてASICまたはFPGAなどによって構成されていてもよい。
【0039】
[モーター運転の概要について]
図2は、定常運転中のモーターを停止させてから再起動するまでのモーター回転速度を示すタイミング図である。横軸は時間を示し、縦軸はモーターの回転速度を示す。
【0040】
図2を参照して、時刻t10から時刻t20までの間でモーターが減速され、時刻t20でモーターの回転は停止する。時刻t20から時刻t30までの間は、ステーターへの励磁電流の供給が停止されている。
【0041】
時刻t40からのモーターの再起動に先立って、時刻t30から時刻t40までの間で、ローターの磁極の初期位置推定が実行される。ローターに回転方向のトルクを与えるためには、ローターの磁極の初期位置に応じた適切な電気角でステーター巻線31に三相交流電流を供給する必要がある。このために、ローターの磁極の初期位置が推定される。本開示では、ローターの磁極の初期位置推定の方法としてインダクティブセンス方式が用いられる。
【0042】
時刻t40においてローターの回転が開始されると、以後、センサレスベクトル制御方式によってブラシレスDCモーターが制御される。時刻t50から回転速度が一定の定常運転に入る。
【0043】
[センサレスベクトル制御方式の座標軸について]
図3は、センサレスベクトル制御における交流電流および磁極位置を表示するための座標軸について説明するための図である。
【0044】
図3を参照して、ベクトル制御では、3相ブラシレスDCモーター30のステーター巻線31に流れる3相交流(U相、V相、W相)を、ローターの永久磁石と同期して回転する2相の成分に変数変換する。具体的に、ローター35の磁極の方向をd軸としd軸から電気角で90°位相が進んだ方向をq軸とする。さらに、U相座標軸からのd軸の角度をθと定義する。
【0045】
ここで、ローターの回転角度を検出する位置センサーを持たない制御方式である、センサレスベクトル制御方式の場合には、ローターの回転角度を表す位置情報を何らかの方法で推定する必要がある。推定された磁極方向をγ軸とし、γ軸から電気角で90°位相が進んだ方向をδ軸とする。U相座標軸からのγ軸の角度をθMとする。θに対するθMの遅れを、Δθと定義する。
【0046】
モーターを起動させる際に、インダクティブセンス方式で静止状態にあるローターの磁極の初期位置を推定するときにも、
図3の座標軸が用いられる。この場合、ローターの磁極の真の位置を電気角θで表す。磁極の初期位置を推定するために、ステーター巻線31に流す電流の電気角(通電角度または電圧印加角度とも称する)をθ
Mで表す。
【0047】
[モーター運転中のベクトル制御]
図4は、モーターの運転中におけるセンサレスベクトル制御回路の動作を示す機能ブロック図である。以下、
図4を参照して、モーター運転中におけるセンサレスベクトル制御回路50の動作について簡単に説明する。
【0048】
センサレスベクトル制御回路50は、座標変換部55と、回転速度制御部51と、電流制御部52と、座標変換部53と、PWM変換部54と、磁極位置推定部56とを含む。
【0049】
座標変換部55は、駆動回路40のU相電流検出回路43Uで検出されたU相電流Iuと、V相電流検出回路43Vで検出されたV相電流Ivとを表す信号を受け取る。座標変換部55は、U相電流IuとV相電流IvとからW相電流Iwを計算する。そして、座標変換部55は、U相電流Iu、V相電流Iv、およびW相電流Iwを座標変換することによって、γ軸電流Iγとδ軸電流Iδとを生成する。具体的には以下の手順による。
【0050】
まず、次式(1)に従って、U相、V相、W相の3相電流をα軸電流Iαおよびβ軸電流Iβの2相電流に変換する。この変換はClarke変換と呼ばれる。
【0051】
【0052】
次に、次式(2)に従って、α軸電流Iαおよびβ軸電流Iβを回転座標系であるγ軸電流Iγおよびδ軸電流Iδに変換する。この変換はPark変換と呼ばれる。次式(2)において、θMは磁極位置推定部56によって推定された磁極方向の電気角、すなわち、U相座標軸からのγ軸の角度である。
【0053】
【0054】
回転速度制御部51は、上位制御回路60から起動命令、停止命令、目標回転角速度ω*を受け取る。回転速度制御部51は、目標回転角速度ω*と、磁極位置推定部56によって推定されたローター35の回転角速度ωMとから、たとえば、PI制御(比例・積分制御)またはPID制御(比例・積分・微分制御)などにより、ブラシレスDCモーター30へのγ軸電流指令値Iγ*およびδ軸電流指令値Iδ*を決定する。
【0055】
電流制御部52は、回転速度制御部51から与えられたγ軸電流指令値Iγ*およびδ軸電流指令値Iδ*と、座標変換部55から与えられた現時点のγ軸電流Iγおよびδ軸電流Iδとから、たとえば、PI制御またはPID制御などにより、γ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*を決定する。
【0056】
座標変換部53は、電流制御部52からγ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*を受け取る。座標変換部53は、γ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*を座標変換することにより、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、およびW相電圧指令値Vw*を生成する。具体的には以下の手順による。
【0057】
まず、次式(3)に従って、γ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*を、α軸電圧指令値Vα*およびβ軸電圧指令値Vβ*に変換する。この変換は、逆Park変換と呼ばれる。次式(3)において、θMは磁極位置推定部56によって推定された磁極方向の電気角、すなわち、U相座標軸からのγ軸の角度である。
【0058】
【0059】
次に、次式(4)に従って、α軸電圧指令値Vα*およびβ軸電圧指令値Vβ*を、3相のU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、およびW相電圧指令値Vw*に変換する。この変換は逆Clarke変換と呼ばれる。なお、α,βの2相からU,V,Wの3相への変換は、逆Clarke変換に代えて空間ベクトル変換を用いることもできる。
【0060】
【0061】
PWM変換部54は、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、およびW相電圧指令値Vw*に基づいて、トランジスタFU+,FU-,FV+,FV-,FW+,FW-のゲートをそれぞれ駆動するためのPWM信号であるインバーター駆動信号U+,U-,V+,V-,W+,W-を生成する。
【0062】
磁極位置推定部56は、γ軸電流Iγおよびδ軸電流Iδとγ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*とから、ローター35の現時点の回転角速度ωMと、磁極位置を表す電気角θMとを推定する。具体的に、磁極位置推定部56は、γ軸誘起電圧を0にするような回転角速度ωMを算出し、回転角速度ωMから磁極位置を表す電気角θMを推定する。磁極位置推定部56は、推定した回転角速度ωMを上位制御回路60に出力するとともに回転速度制御部51に出力する。また、磁極位置推定部56は、推定した磁極位置を表す電気角θMの情報を、座標変換部53,55に出力する。
【0063】
[静止状態にあるローターの磁極の初期位置推定]
図5は、静止状態にあるローターの磁極の初期位置を推定する方法を示す機能ブロック図である。
【0064】
図4の磁極位置推定部56は、ステーター巻線31に生じる誘起電圧を利用したものであるので、ローターが静止しているときには使用することができない。このため、
図5では、磁極位置推定部56に代えて、インダクティブセンス方式でローター35の磁極の初期位置を推定する初期位置推定部57が設けられている。
【0065】
ここで、インダクティブセンス方式では、複数の通電角度を順次変更しながらステーター巻線31に連続的またはPWMによって間欠的に定電圧を印加し、通電角度ごとにステーター巻線31に流れる電流の変化が検出される。ここで、ステーター巻線31への通電時間および印加電圧の大きさは、ローター35が回転しないレベルに設定される。ただし、通電時間が短すぎたり、印加電圧の大きさが小さすぎたりすると、磁極の初期位置を検出できなくなるので注意が必要である。
【0066】
前述のように、インダクティブセンスによる初期位置推定方法は、ローターが回転しないレベルの電圧を複数の電気角でステーター巻線に印加したとき、ローターの磁極位置とステーター巻線による電流磁界との位置関係に応じて、実効的なインダクタンスが微妙に変化する性質を利用している。このインダクタンスの変化は、d軸電流の場合に顕著に生じる磁気飽和現象に基づいている。また、永久磁石埋め込み型(IPM:Interior Permanent Magnet)モーターの場合には、q軸方向のインダクタンスがd軸方向のインダクタンスよりも大きくなる突極性を有しているので、磁気飽和が生じなくてもインダクタンスの変化を検出できる場合がある。
【0067】
具体的にローターの磁極の方向を検知するために、本開示では、通電角度ごとの通電時間および印加電圧の指令値(具体的にはγ軸電圧の指令値)を一定にして、通電時間内でのγ軸電流のピーク値が検出される。このピーク値は電圧印加の開始時または開始直前のγ軸残留電流によって補正される。そして、補正後のγ軸電流のピーク値が最大となる通電角度(すなわち、実効的なインダクタンスが最小となる通電角度)が磁極の方向にほぼ一致していると判定される。以下、図面を参照して詳しく説明する。
【0068】
図5を参照して、センサレスベクトル制御回路50は、ローター35の磁極の初期位置を推定するための機能として、初期位置推定部57と、座標変換部53と、PWM変換部54と、座標変換部55とを含む。このように、ローターの磁極の初期位置推定では、
図4で説明したベクトル制御の機能の一部が利用される。以下、各部の機能についてさらに詳しく説明する。
【0069】
(1. 初期位置推定部によるγ軸電圧指令値、通電角度、および通電時間の設定)
初期位置推定部57は、γ軸電圧指令値Vγ*の大きさ、ステーター巻線31に印加する各相電圧の電気角θM(通電角度θMとも称する)、および通電時間を設定する。初期位置推定部57は、δ軸電圧指令値Vδ*を0に設定する。
【0070】
γ軸電圧指令値Vγ*の大きさおよび通電時間は、ローター35を回転させない範囲で十分なSN比のγ軸電流Iγが得られるような大きさに設定される。電気角θMは、0度から360度の範囲で複数の角度に設定される。たとえば、初期位置推定部57は、電気角θMを30度刻みで0度から360度まで変化させる。
【0071】
(2. 座標変換部53)
座標変換部53は、γ軸電圧指令値Vγ*およびδ軸電圧指令値Vδ*(=0)を座標変換することにより、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、およびW相電圧指令値Vw*を生成する。この座標変換には、たとえば、前述の式(3)によって表される逆Park変換および前述の式(4)によって表される逆Clarke変換が用いられる。
【0072】
具体的に、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、およびW相電圧指令値Vw*は、次式(5)で表される。次式(5)において、電圧指令値の振幅をV0としている。
【0073】
【0074】
図6は、U相電圧指令値、V相電圧指令値、およびW相電圧指令値と電気角との関係を示す図である。
図6では、上式(5)における電圧指令値の振幅V
0を1に規格化している。
【0075】
図6を参照して、上式(5)で示されるU相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、およびW相電圧指令値Vw*は、任意のθ
Mに対して定めることができる。たとえば、θ
M=0°のとき、Vu*=1、Vv*=Vw*=-0.5である。θ
M=30°のとき、Vu*=(√3)/2、Vv*=0、Vw*=-(√3)/2である。
【0076】
(3. PWM変換部54)
再び
図5を参照して、PWM変換部54は、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、およびW相電圧指令値Vw*に基づいて、トランジスタFU+,FU-,FV+,FV-,FW+,FW-のゲートをそれぞれ駆動するためのPWM信号であるインバーター駆動信号U+,U-,V+,V-,W+,W-を生成する。
【0077】
生成されたインバーター駆動信号U+,U-,V+,V-,W+,W-に従って、駆動回路40は、ブラシレスDCモーター30のU相巻線31U、V相巻線31V、およびW相巻線31Wに、パルス幅変調されたU相電圧UM、V相電圧VM、およびW相電圧WMを供給する。インバーター駆動信号のパルス数は、設定された通電時間に対応している。駆動回路40に設けられたU相電流検出回路43UおよびV相電流検出回路43Vは、U相電流IuおよびV相電流Ivをそれぞれ検出する。検出されたU相電流IuおよびV相電流Ivを表す信号は、座標変換部55に入力される。
【0078】
(4. 座標変換部55)
座標変換部55は、U相電流IuとV相電流IvとからW相電流Iwを計算する。そして、座標変換部55は、U相電流Iu、V相電流Iv、およびW相電流Iwを座標変換することによって、γ軸電流Iγとδ軸電流Iδとを生成する。この座標変換には、前述の式(1)のClarke変換および式(2)のPark変換が用いられる。
【0079】
なお、仮に、U相、V相、W相の各相で電気特性および磁気特性に違いがなく、さらに、ローター35の永久磁石の影響がなければ、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwの相互の比率は電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*の相互の比率に等しくなるはずである。したがって、この仮想的な場合には、δ軸電流Iδは通電角度によらず0になり、γ軸電流Iγは通電角度によらず一定値になる。
【0080】
図7は、γ軸電圧指令値Vγ*と検出されたγ軸電流との関係の一例を模式的に示すタイミング図である。なお、
図7に示されている通電タイミングは、一般的な場合を示すものである。
【0081】
図7を参照して、まず、
図5の初期位置推定部57は、時刻t1から時刻t2までの間、通電角度θ
Mを0度に設定するとともに、γ軸電圧指令値Vγ*を定められた設定値に設定する。これによって、ステーターのU相巻線31U、V相巻線31V、およびW相巻線31Wには、パルス幅変調されたU相電圧U
M、V相電圧V
M、およびW相電圧W
Mがそれぞれ印加される。この結果、γ軸電流Iγは、時刻t1から時刻t2までの間、0Aから徐々に増加し、時刻t2でピーク値Iγp1に達する。時刻t2以降、ステーター巻線31への電圧印加が停止するので、γ軸電流Iγは徐々に減少する。ステーター巻線31に次に電圧が印加される時刻t3までの間に、U相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iwの値が0に戻る結果、γ軸電流Iγの値も0まで戻る。
【0082】
次に、初期位置推定部57は、時刻t3から時刻t4までの間、通電角度θMを30度に設定するとともに、γ軸電圧指令値Vγ*を前回と同じ設定値に設定する。この結果、γ軸電流Iγは、時刻t3から時刻t4までの間、0Aから徐々に増加し、時刻t4でピーク値Iγp2に達する。時刻t4以降、ステーター巻線31への電圧印加が停止するので、γ軸電流Iγは徐々に減少する。
【0083】
以下、同様に、通電角度θMの設定角度を変更し、変更された通電角度θMにおいて、パルス幅変調された一定電圧がステーター巻線31に印加される。γ軸電圧指令値Vγ*は各通電角度で同一であり、通電時間時間も各通電角度で同一である。そして、電圧印加の終了時におけるγ軸電流Iγのピーク値が検出される。
【0084】
(5. 初期位置推定部によるローターの磁極位置の推定-残留電流がない場合)
再び
図5を参照して、初期位置推定部57は、複数の通電角度θ
Mに対してそれぞれ得られたγ軸電流Iγのピーク値に基づいて、ローター35の磁極の位置を推定する。上記のように残留電流が0に戻るまで待ってから次の通電角度で通電する場合、理想的には、γ軸電流Iγのピーク値の最大値が得られたときの通電角度θ
Mが、ローター35の磁極の位置θにほぼ一致する。
【0085】
図8は、ローターの磁極位置と通電角度との相対的位置関係と、γ軸電流のピーク値との関係を示す図である。まず、
図8(A)を参照して、ローター35の磁極位置θと通電角度θ
Mとの相対的位置関係について説明する。
【0086】
図8(A)の場合、ローター35の磁極位置θは0°に固定されている。したがって、d軸は電気角0°の方向に定められ、q軸は電気角90°の方向に定められる。一方、通電角度θ
Mは0°から360°まで30°刻みで変化する。
図8(A)では、通電角度θ
Mが0°の場合のγ軸とδ軸が示されている。この場合、Δθ=0°である。
【0087】
次に、
図8(B)を参照して、磁極位置θと通電角度θ
Mとの角度差Δθとγ軸電流Iγのピーク値との関係を説明する。
図8(B)の横軸は角度差Δθを表し、縦軸はγ軸電流Iγのピーク値を示す。縦軸の単位は任意単位である。
【0088】
図8(B)に示すように、理想的には、磁極位置θと通電角度θ
Mとの角度差Δθが0°のとき、すなわち、磁極位置θと通電角度θ
Mとが一致するとき(
図8(A)では、θ=θ
M=0°の場合)、γ軸電流Iγのピーク値が最大値を示す。
【0089】
[γ軸電流の正負について]
以下、γ軸電流Iγの符号について補足する。次
図9を参照して、γ軸電流Iγは、通電角度θ
Mに応じて正の値だけでなく負の値にもなり得ることを説明する。
【0090】
図9は、γ軸電流に符号について説明するための図である。
図9(a)は数値例を表形式で示したものであり、
図9(b)は
図9(a)に示す数値例をグラフで示したものである。
図9(b)の横軸は通電角度θ
Mを表し、
図9(b)の縦軸はU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iw、およびγ軸電流Iγの各検出値を表す。
【0091】
図9(a),(b)を参照して、
図1のU相電流検出回路43Uで検出されたU相電流Iuの検出値を1.0[A]とし、V相電流検出回路43Vで検出されたV相電流Ivの検出値を-0.5[A]とする。この場合、W相電流Iwの値は-0.5[A]と計算される。
【0092】
図5のセンサレスベクトル制御回路50に設けられた座標変換部55は、U相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iwの検出値に対して座標変換を施すことによって、γ軸電流Iγおよびδ軸電流Iδを計算する。
【0093】
具体的には、まず、座標変換部55は、前述の式(1)に示すClarke変換によってα軸電流Iαおよびβ軸電流Iβを計算する。
図9(a)に示すように、α軸電流Iαとして1.225[A]が得られ、β軸電流Iβとして0.000[A]が得られる。
【0094】
次に、座標変換部55は、α軸電流Iαおよびβ軸電流Iβに対して前述の式(2)に示すPark変換を施すことによって、γ軸電流Iγを計算する。
図10(a)(b)に示すように、γ軸電流Iγの検出値は、通電角度θ
Mに応じて異なる。
図10に示す数値例では、通電角度θ
Mが90°よりも大きく270°よりも小さいときに、γ軸電流Iγは負になる。
【0095】
このように、γ軸電流Iγは、通電角度θMに応じて正の値だけでなく負の値にもなり得る。したがって、γ軸残留電流Iγ0およびγ軸ピーク電流Iγpも、正の値だけでなく負の値にもなり得る。また、γ軸電流Iγが負の場合に、γ軸電流Iγのピーク値とは、通電期間内でγ軸電流Iγが最小になったときの値(負の値)を意味している。
【0096】
[残留電流が存在する場合におけるγ軸電流のピーク値の推定法(その1)]
図7の例では、ステーター巻線31に通電角度θ
M=0°での電圧印加が完了した時刻t2の後、次の通電角度θ
M=30°でステーター巻線31に電圧が印加される時刻t3までの間に、γ軸電流Iγは完全に0に戻っていた。以下では、次の通電角度θ
Mでの電圧印加の開始時に残留電流が存在している(すなわち、0に戻っていない)場合について説明する。
【0097】
図10は、残留電流が存在する場合におけるγ軸電流の波形の一例を模式的に示すタイミング図である。
図10のタイミング図は
図7のタイミング図に対応するものである。
【0098】
図10を参照して、
図5の初期位置推定部57は、時刻t1から時刻t2までの間、通電角度θ
Mを0度に設定するとともに、γ軸電圧指令値Vγ*を定められた設定値に設定する。これによって、ステーターのU相巻線31U、V相巻線31V、およびW相巻線31Wには、パルス幅変調されたU相電圧U
M、V相電圧V
M、およびW相電圧W
Mがそれぞれ印加される。この結果、γ軸電流Iγは、時刻t1から時刻t2までの間、0Aから徐々に増加し、時刻t2でピーク値Iγp1に達する。時刻t2以降、ステーター巻線31への電圧印加が停止するので、γ軸電流Iγは徐々に減少する。
図7の場合と異なり
図10の場合には、ステーター巻線31に次に電圧が印加される時刻t3において、Iγ0のγ軸電流が残存している。
【0099】
初期位置推定部57は、時刻t3から時刻t4までの間、通電角度θMを30度に設定するとともに、γ軸電圧指令値Vγ*を前回と同じ設定値に設定する。この結果、γ軸電流Iγは、時刻t3から時刻t4までの間、Iγ0から徐々に増加し、時刻t4でピーク値Iγp2に達する。時刻t4以降、ステーター巻線31への電圧印加が停止するので、γ軸電流Iγは徐々に減少する。
【0100】
したがって、通電角度θMが30度の場合には、γ軸電流の真のピーク値は、γ軸残留電流Iγ0を基準にして、測定されたピーク値Iγp2から残留電流Iγ0を減算したγ軸電流変化量ΔIγとして求めることができる。すなわち、補正前のγ電流のピーク値Iγp2から、補正量としてγ軸残留電流Iγ0を減算することによって、補正後のγ軸電流のピーク値(すなわち、ΔIγ)を計算することができる。なお、γ軸残留電流Iγ0を検出するタイミングは、各通電角度において、ステーター巻線への電圧印加開始と同時またはその直前に設定することができる。
【0101】
以下、同様に、通電角度θMの設定角度を変更し、変更された通電角度θMにおいてステーター巻線31の各相にパルス幅変調された電圧が印加される。γ軸電圧指令値Vγ*は各通電角度で同一の値であり、パルス電圧の印加時間も各通電角度で同一である。各通電角度において、電圧印加開始と同時または印加開始の直前のγ軸電流が残留電流Iγ0として測定される。さらに、電圧印加終了時におけるγ軸電流のピーク値Iγpが検出される。そして、γ軸電流のピーク値Iγpから残留電流Iγ0を減算したγ軸電流変化量ΔIγが、当該通電角度θMに対応するγ軸電流の補正後のγ軸電流のピーク値としてメモリに格納される。
【0102】
最終的に、最もγ軸電流変化量ΔIγが大きい場合の通電角度θMがローターの磁極の初期位置θに対応している。
【0103】
なお、γ軸電流Iγの符号がマイナス場合には、そのピーク値Iγpとは、γ軸電流Iγの絶対値が極大となったときの値を意味する。したがって、γ軸電流Iγの符号はマイナスの場合があり、残留電流Iγ0の符号もマイナスの場合がある。いずれの場合も、検出されたγ軸電流のピーク値から残留電流Iγ0を補正量として減算することによって、補正後のγ軸電流のピーク値(すなわち、γ軸電流変化量ΔIγ)が得られる。そして、補正後のγ軸電流のピーク値の絶対値が最大のときの通電角度θMが、ローターの磁極の初期位置θに対応している。
【0104】
[ローターの磁極の初期位置の推定手順]
図11は、残留電流を考慮した場合のローターの磁極の初期位置推定の手順を示すフローチャートである。以下、
図5および
図11を主として参照して、これまでの説明を総括する。
【0105】
図11のステップS100において、γ軸電圧指令値Vγ*、通電角度θ
Mごとのステーター巻線31への電圧印加時間(すなわち、通電時間)、全通電回数nが設定される。たとえば、30度ごとにステーター巻線31に電圧を印加する場合には全通電回数nは12に設定される。通電回数をカウントするパラメーターをiとする。iの初期値は0である。なお、通電回数iに対応する通電角θ
M[i]は、たとえば、テーブルの形でメモリに予め格納されている。
【0106】
図12は、通電角度ならびに対応する余弦値および正弦値を格納するテーブルの一例を示す図である。
図12に示すように、パラメーターiに対応する通電角θ
M[i]と、その通電角θ
M[i]での余弦値および正弦値とは予めテーブルの形式でメモリに格納されている。
【0107】
パラメーターiは、パルス電圧を印加する順番を表す。すなわち、最初に通電角度θM=0°でパルス電圧をステーター巻線31に印加した後、次に通電角度θM=180°でパルス電圧をステーター巻線31に印加する。そして、その次に通電角度θM=30°でパルス電圧をステーター巻線31に印加する。このように、180°またはそれに近い角度だけ通電角度を変更する理由は、ローターに対して同一方向のトルクがかからないように、すなわち、ローターが回転しないようにするためである。
【0108】
再び
図11を参照して、次のステップS110において、初期位置推定部57は、通電回数を表すパラメーターiを1だけインクリメントする。
【0109】
その次のステップS111において、座標変換部53は、パラメーターiに対応する通電角θM[i]と、その通電角θM[i]での余弦値および正弦値とをテーブルから読み出す。座標変換部53は、読み出した通電角度θMと予め設定したγ軸電圧指令値Vγ*とから、U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*、およびW相電圧指令値Vw*を算出する。
【0110】
その次のステップS112において、
図1のU相電流検出回路43UおよびV相電流検出回路43Vは、U相残留電流Iu0およびV相残留電流Iv0を検出する。残留電流を検出するタイミングは、ステップS113で通電を開始するときまたはその直前である。
【0111】
その次のステップS113において、PWM変換部54は、予め設定した電圧印加時間の間、PWM信号であるインバーター駆動信号U+,U-,V+,V-,W+,W-を駆動回路40に出力する。
【0112】
その次のステップS114において、駆動回路40のインバーター回路41は、上記のインバーター駆動信号U+,U-,V+,V-,W+,W-に基づいてブラシレスDCモーター30のステーター巻線31の各相に、パルス幅変調されたU相電圧UM、V相電圧VM、およびW相電圧WMを印加する。
【0113】
その次のステップS115において、
図1のU相電流検出回路43UおよびV相電流検出回路43Vは、通電期間内でのU相ピーク電流IupおよびV相ピーク電流Ivpを検出する。たとえば、
図1のU相電流検出回路43UおよびV相電流検出回路43Vは、予め定められたサンプリング周期で通電期間内のU相電流IuおよびV相電流Ivを検出し、初期位置推定部57が、検出されたU相電流IuおよびV相電流Ivからピーク値を特定するようにしてもよい。もしくは、通電期間の終了時点におけるU相電流IuおよびV相電流Ivの値を、それぞれU相ピーク電流IupおよびV相ピーク電流Ivpとしてもよい。
【0114】
その次のステップS116において、座標変換部55は、U相残留電流Iu0およびV相残留電流Iv0からW相残留電流Iw0を、Iw0=-Iu0-Iv0に従って計算する。座標変換部55は、ステップS111で選択した通電角度θM[i]に基づいて、各相の残留電流Iu0,Iv0,Iw0から座標変換により、γ軸の残留電流Iγ0およびδ軸の残留電流Iδ0を計算する。
【0115】
その次のステップS117において、座標変換部55は、ステップS116の場合と同様に、U相ピーク電流IupおよびV相ピーク電流IvpからW相ピーク電流Iwpを、Iwp=-Iup-Ivpに従って計算する。座標変換部55は、ステップS111で選択した通電角度θM[i]に基づいて、各相のピーク電流Iup,Ivp,Iwpから座標変換により、γ軸のピーク電流Iγpおよびδ軸のピーク電流Iδpを計算する。なお、ステップS116とS117とはどちらを先に実行してもよいし、並行して実行してよい。また、ステップS116は、ステップS112の実行後であればどのタイミングで実行してもよい。
【0116】
その次のステップS118において、初期位置推定部57は、通電角度ごとに、γ軸残留電流Iγ0の値に応じてγ軸電流のピーク値Iγpを補正する。実施の形態1の場合、初期位置推定部57は、通電角度ごとに、γ軸ピーク電流Iγpからγ軸残留電流Iγ0を減算したγ軸電流変化量ΔIγ[i]を、γ軸電流Iγの補正値として算出する。具体的に、γ軸電流変化量ΔIγ[i]は、
ΔIγ[i]=Iγp-Iγ0 …(6)
によって計算される。
【0117】
より一般的には、初期位置推定部57は、通電角度ごとに、検出されたγ軸電流のピーク値Iγpから、γ軸残留電流Iγ0と同符号の補正量を減算することによって、γ軸電流のピーク値Iγpを補正すると考えることができる。実施の形態1の場合、この補正量は、γ軸残留電流Iγ0等しい。なお、実施の形態2では、さらに精度良く磁極の初期位置を推定するために、γ軸電流のピーク値Iγpおよびγ軸残留電流Iγ0の検出値に基づく補正量の計算式が提示される。
【0118】
以上のステップS110~S118は、全通電回数nだけ(すなわち、ステップS119でi≧nの判定式がYESとなるまで)繰り返される。
【0119】
次のステップS120において、初期位置推定部57は、上記のステップS116で計算した通電角度θM[i]ごとのγ軸電流変化量ΔIγ[i]の絶対値の最大値を求める。そして、ステップS130において、初期位置推定部57は、γ軸電流変化量ΔIγ[i]の絶対値が最大となる通電角度θM[i]をローターの磁極の初期位置θとして設定する。
【0120】
[実施の形態1の効果]
実施の形態1のモーター制御装置70によれば、インダクティブセンス方式でローターの磁極の初期位置が推定される。具体的に、センサレスベクトル制御回路50の初期位置推定部57の制御に基づいて、駆動回路40は、複数の通電角度のうちの任意の第1の通電角度の次に第2の通電角度で電圧を印加する場合に、第1の通電角度で交流電圧をステーター巻線31に印加した後、ステーター巻線31の残留電流が0に戻る前に第2の通電角度で交流電圧をステーター巻線31に印加する。この際、初期位置推定部57は、通電角度ごとに、ステーター巻線31に電圧を印加する直前または印加開始時の残留電流を基準にして、一定の通電時間の交流電圧の印加によって生じるステーター巻線31を流れる電流の変化量ΔIγを、γ軸ピーク電流Iγpの補正値として検出する。初期位置推定部57は、補正後のγ軸ピーク電流Iγpのピーク値に基づいてローターの磁極の初期位置を推定する。これによって、精度良く短時間でローターの初期位置を推定することが可能になる。
【0121】
<実施の形態2>
実施の形態1では、γ軸ピーク電流Iγpとγ軸残留電流Iγ0との差分であるγ軸電流変化量ΔIγを計算すれば、得られたγ軸電流変化量ΔIγは、γ軸残留電流Iγ0が0の場合のγ軸ピーク電流Iγpに等しくなるはずであるという前提にたっていた。しかしながら、本願発明者はさらに詳細な検討を行った結果、γ軸残留電流Iγ0の大きさに依存してγ軸電流変化量ΔIγが変化することを見出した。
【0122】
実施の形態2では、この点を考慮して、さらに精度の良くローターの磁極の初期位置を検出するために、通電角度ごとに、γ軸電流のピーク値をγ軸残留電流Iγ0に応じて補正する補正式および補正テーブルを提示する。したがって、実施の形態2では、
図11のフローチャートのステップS118において、γ軸電流のピーク値Iγpの具体的な補正方法が変更される。実施の形態2のその他の点は実施の形態1の場合と同様であるので、説明を繰り返さない。
【0123】
[残留電流が存在する場合のγ軸電流のピーク値の推定法(その2)]
図13は、γ軸残留電流の値とγ軸電流のピーク値との関係の一例を示す模式的なタイミング図である。
図13(a)は、γ軸電圧の指令値Vγ*の時間変化を示し、
図13(b)は、
図13(a)に対応するγ軸電流Iγの時間変化を示す。ローターの永久磁石の影響はないものとする。
【0124】
図13(b)において、γ軸電流Iγのグラフは、γ軸残留電流の値が異なる場合が重ねて示されている。γ軸電流Iaのグラフはγ軸残留電流Iγ0が0の場合を示し、γ軸電流Ibのグラフはγ軸残留電流Iγ0が正の場合を示し、γ軸電流Icのグラフはγ軸残留電流Iγ0が負の場合を示す。γ軸電流Iaのピーク値とγ軸残留電流(=0)との差分である電流変化量をΔIaとし、γ軸電流Ibのピーク値とγ軸残留電流(>0)との差分である電流変化量をΔIbとし、γ軸電流Icのピーク値とγ軸残留電流(<0)との差分である電流変化量をΔIcとする。
【0125】
図13を参照して、時刻t3から時刻t4までの間で、ブラシレスDCモーター30のステーター巻線31にパルス幅変調された電圧が印加され、それに応じて、γ軸電流Iγは徐々に増加する。γ軸電流Iγの変化の様子は基本的には、ステーター巻線31のインダクタンスと抵抗値とに基づく一次遅れ特性を示している。ただし、ローターが回転しないように、印加電圧と抵抗値とで決まる電流漸近値とγ軸電流Iγとがほぼ等しくなるよりかなり前に、通電を終了させる。なお、上記の電流漸近値は、初期値であるγ軸残留電流Iγ0によらず一定の値になる。
【0126】
電圧印加時間が短い場合には、実施の形態1で示したように、電流変化量ΔIa,ΔIb,ΔIcは全て等しいと近似することができる。したがって、電流変化量に基づいて、γ軸電流のピーク値を補正することができる。
しかしながら、より正確には、一次遅れ特性を考慮することにより、
ΔIb<ΔIa<ΔIc …(7)
の関係が成り立つ。したがって、γ軸残留電流の値に応じて、γ軸電流のピーク値の補正量を変更しなければならない。
【0127】
ここで、γ軸電流のピーク値をIγpとし、補正量をCaとして、補正後のピーク値Iγp_cを、
Iγp_c=Iγp-Ca …(8)
のように表すものとする。この場合、補正量Caは、γ軸残留電流と同符号の値であり、γ軸残留電流が0の場合は0である。すなわち、γ軸残留電流が0の場合のγ軸電流のピー値Iγpを真値としている。また、γ軸残留電流が負の場合は、補正量Caは負の値になる。この場合、補正後のγ軸電流のピーク値Iγp_cは、補正前のγ軸電流のピーク値Iγpに補正量Caの絶対値を加算した値になる。
【0128】
実施の形態1では上式(8)の補正量Caをγ軸残留電流Iγ0に等しいとしたが、より正確には、補正量Caの絶対値は、γ軸残留電流の絶対値よりも小さい。言い替えると、γ軸残留電流Iγ0とγ軸電流のピーク値Iγpとが同符号の場合には、補正後のγ軸電流のピーク値Iγp_cの絶対値は、電流変化量(ΔIγ=Iγp-Iγ0)の絶対値よりも大きい。逆に、γ軸残留電流Iγ0とγ軸電流のピーク値Iγpとが異符号の場合には、補正後のγ軸電流のピーク値Iγp_cの絶対値は、電流変化量(ΔIγ=Iγp-Iγ0)の絶対値よりも小さい。また、補正量Caの絶対値は、γ軸残留電流の絶対値が大きくなるほど大きくなる。
【0129】
本願発明者は、さらに、詳細な検討を加えた結果、上式(8)の補正量Caは、γ軸残留電流Iγ0の値と、検出されたγ軸電流のピーク値Iγpの絶対値と、正の比例係数K1との積で近似できることを見出した。したがって、補正後のγ軸電流のピーク値Iγp_cは、
Iγp_c=Iγp-Ca=Iγp-K1・Iγ0・|Iγp| …(9)
で表される。上式の比例定数K1は、モーターごとに異なり、実験によって求めることができる。
【0130】
図14は、実験的に求めたγ軸ピーク電流の検出値とγ軸残留電流との関係の一例を示す図である。
図14(a)は実験結果を表形式で示し、
図14(b)は実験結果をグラフで示す。
図14(b)において、検出されたγ軸電流のピーク値Iγpを実線で示し、上式(9)に従って補正した補正後のγ軸電流のピーク値Iγp_cを破線で示す。式(9)の補正係数K1として、0.3を用いた。また、補正前のγ軸電流のピーク値Iγpとγ軸残留電流Iγ0との差分であるγ軸電流変化量ΔIγを一点鎖線で示す。
【0131】
図14(b)に示すように、γ軸電流変化量ΔIγ(すなわち、実施の形態1の場合の補正後のγ軸電流ピーク値)は、γ軸残留電流Iγ0の絶対値が大きくなるほど、真値(すなわち、γ軸残留電流Iγ0が0の場合のγ軸電流ピーク値)とのずれが大きくなっている。一方、上式(9)の補正式に従って補正したγ軸電流のピーク値Iγp_cは、γ軸残留電流Iγ0の値によらず、ほぼ真値に等しいことがわかる。
【0132】
[残留電流が存在する場合でのγ軸電流のピーク値の推定法(その3)]
上記の
図14では、補正式(9)を用いて、通電角度ごとに、検出されたγ軸電流のピーク値Iγpを補正したが、同様のことを、補正テーブルを用いて行うこともできる。補正テーブルは実験に基づいて作成し、予めメモリに格納される。
【0133】
図15は、γ軸残留電流に応じてγ軸電流変化量を補正するための補正テーブルの一例を示す図である。
図15の補正テーブルは、
図14で示した測定値の一例に基づくものである。
図15で太い実線で囲まれた部分が補正テーブルに対応する。補正テーブルでは、γ軸残留電流の範囲に対して補正係数が与えられる。
図15では、具体的なγ軸電流のピーク値Iγpの検出値の一例とその補正後の値とが併せて示されている。
【0134】
たとえば、
図5の初期位置推定部57は、γ軸電流のピーク値Iγpの絶対値が0.003[A]より小さければ、補正係数を1としてγ軸電流のピーク値Iγpの測定値を補正しない。初期位置推定部57は、γ軸残留電流Iγ0が0.01[A]以上であれば、補正係数0.97を補正前のγ軸電流のピーク値Iγpに乗算することによって、補正後のγ軸電流のピーク値Iγp_cを計算する。初期位置推定部57は、γ軸残留電流Iγ0が-0.01[A]以下であれば、補正係数1.002を補正前のγ軸電流のピーク値Iγpに乗算することによって、補正後のγ軸電流のピーク値Iγp_cを計算する。
【0135】
[実施の形態2の効果]
実施の形態2のモーター制御装置70によれば、検出されたγ軸電流のピーク値Iγpがγ軸残留電流Iγ0に応じて補正される。この補正には、前述の補正式(9)または
図15の補正テーブルが使用される。初期位置推定部57は、通電角度ごとに得られた補正後のγ軸電流のピーク値Iγp_cに基づいて、ローターの磁極の初期位置を推定する。これによって、さらに精度の良くローターの磁極の初期位置を検出することができる。
【0136】
<実施の形態3>
実施の形態3では、実施の形態1,2で説明したモーター制御装置70を、画像形成装置の給紙用ローラーを駆動するモーターの制御に用いた例について説明する。給紙ローラーの駆動用モーターは短時間で起動、回転、および停止を繰り返すため、起動前に行うローラーの磁極位置推定に要する時間をできるだけ短縮できたほうが望ましい。以下、図面を参照して説明する。
【0137】
[画像形成装置の構成例]
図16は、画像形成装置の構成の一例を示す断面図である。
図16の断面図は模式的なものであって、図解を容易にするために一部を拡大して示したり、縦横比を変更したりしている点に注意されたい。
【0138】
図16を参照して、画像形成装置180は、タンデムカラープリンターとして構成される作像部181と、給紙機構182と、原稿読み取り装置160とを備える。画像形成装置180は、ネットワークに接続されてプリンター、スキャナー、コピー機、ファクシミリなどの機能を兼ね備えた多機能周辺装置(MFP:Multifunction Peripheral)として構成されていてもよい。
【0139】
作像部181は、4個の感光体カートリッジ191,192,193,194と、1次転写ローラー131と、転写ベルト132と、トナーボトル123と、2次転写ローラー133と、定着装置105とを備える。この開示では、作像部181を画像形成部とも称する。
【0140】
感光体カートリッジ191,192,193,194は、それぞれ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の4色のトナー像を形成する。感光体カートリッジ191,192,193,194の各々は、円筒の感光体110と、帯電器111と、光源を含む画像露光装置112と、現像ローラー121を含む現像装置102とを備える。
【0141】
帯電器111は、感光体110の表面を一様に所定電位に帯電する。画像露光装置112は、感光体110の帯電域に、原稿画像に応じた画像を露光する。これによって、感光体110上に静電潜像が形成される。現像装置102は、現像バイアスが印加された現像ローラー121を利用して静電潜像にトナーを付着させることにより、可視トナー像を形成する。
【0142】
なお、感光体カートリッジ191,192,193,194にそれぞれ対応して、4個のトナーボトル123が設けられる。トナーボトル123から対応の感光体カートリッジにトナーが供給される。トナーボトル123の内部には、トナーを攪拌するための攪拌羽124が設けられる。
【0143】
4個の感光体110にそれぞれ対向して4個の1次転写ローラー131が設けられている。各感光体110と対応する1次転写ローラー131とで転写ベルト132を圧接する。さらに、1次転写ローラー131にはトナーを引き寄せるバイアスが印加されている。これによって、現像後の感光体110表面の可視トナー像は転写ベルト132に転写される。
【0144】
転写ベルト132の上に転写された可視トナー像は、2次転写ローラー133の位置まで搬送される。2次転写ローラー133にも1次転写ローラーと同様に転写電圧が印加されている。これによって、転写ベルト132によって搬送された可視トナー像は、2次転写ローラー133と転写ベルト132とのニップ部で、記録媒体183である用紙に転写される。
【0145】
記録媒体183に転写された可視トナー像は、定着装置105まで搬送される。定着装置105は、定着ローラー150を有し、定着ローラー150によって記録媒体183を加熱および加圧することによって記録媒体183上に可視トナー像を定着させる。定着後の記録媒体183は、排紙ローラー151によって排紙トレー152に排出される。
【0146】
給紙機構182は、記録媒体183としての用紙を給紙カセット140,142から取り込んで2次転写ローラー133まで搬送する。給紙機構182は、給紙カセット140,142と、給紙ローラー141,143と、搬送ローラー144と、タイミングローラー145とを含む。この開示では、給紙機構182を給送機構とも称する。また、給紙ローラーを、記録媒体を給送するための給送ローラーとも称する。
【0147】
1段目の給紙カセット140に収容された記録媒体183は、給紙ローラー141によって1枚ずつ取り出され、タイミングローラー145まで搬送される。2段目の給紙カセット142に収容された記録媒体183は、給紙ローラー143によって1枚ずつ取り出され、搬送ローラー144を介してタイミングローラー145まで搬送される。
【0148】
タイミングローラー145は、供給された記録媒体183を一旦停止させる。これによって、転写ベルト132上に転写された可視トナー像が2次転写ローラー133まで搬送されるタイミングと、記録媒体183が2次転写ローラー133に供給するタイミングとを調整する。
【0149】
原稿読み取り装置160は、原稿用紙161上の原稿画像を読み取ることによって、画像データを生成する。
図17に示す例では、原稿読み取り装置160は、作像部181の上部に設けられる。原稿読み取り装置160は、原稿台162と、給紙ローラー170と、原稿搬送ローラー163,171と、原稿排出ローラー172と、排紙トレー173と、光源164と、ミラー165と、レンズ166と、CCD(Charged-Coupled Devices)などのイメージセンサー167とを備える。
【0150】
原稿台162に載置された原稿用紙161は、給紙ローラー170によって1枚ずつ取り込まれる。原稿用紙161は、原稿搬送ローラー163,171によって搬送されることにより、原稿読み取り位置に到達する。
【0151】
原稿読み取り位置において、原稿用紙161上の原稿画像に、光源164からの光が照射される。原稿用紙161の表面で反射された光は、ミラー165で反射された後にレンズ166で集光されてイメージセンサー167に入射される。この結果、原稿用紙161の上の原稿画像がイメージセンサー167のセンサー面上に結像し、イメージセンサー167によって原稿画像の画像データが生成される。
【0152】
原稿読み取り位置を通過した原稿用紙161は、原稿排出ローラー172によって排紙トレー173に排出される。
【0153】
[ローラーの駆動源へのブラシレスDCモーターの適用]
上記の構成の画像形成装置180において、各種のローラーの駆動には、従来はステッピングモーターが多く使われていたが、現在ではブラシレスDCモーターが多く使われるようになっている。ステッピングモーターはブラシレスDCモーターに比べて騒音が大きく、消費電力が大きいために効率が悪いという問題があるからである。
【0154】
ただし、通常のブラシレスDCモーターでは、クローズドループ制御を行うために、ローターの回転位置を検出するためのホール素子またはエンコーダーが設けられている。このようなセンサーを設けるためのコストが余分にかかるので、オープンループ制御が可能なステッピングモーターよりも高コストになるという新たな問題が生じる。この問題を解消するために、センサレス方式のブラシレスDCモーターを用いることが強く望まれている。
【0155】
ここで、センサレス型のブラシレスDCモーターでは、停止状態のモーターを起動する際にローターの磁極の初期位置を推定する必要がある。この初期位置推定の方法として、一般には、所定の通電角度でステーターに通電を行い、通電角度に応じた位置にローターの磁極を引き込んでからモーターの回転を開始させることが行われる。
【0156】
しかしながら、画像形成装置180の場合で、特に、給紙ローラー141,143,170およびタイミングローラー145を駆動するモーターでは、上述のようなローター引き込みの方法を用いることができない。ローター引き込みによって記録媒体183である用紙も一緒に動いてしまうために、給紙ローラー141,143,170の場合にはジャムの原因になり、タイミングローラー145の場合には正確なタイミング制御が困難になるからである。このため、既に説明したように、ローターが回転しない程度の電圧をステーター巻線に印加するインダクティブセンス方式によって、ローターの磁極の初期位置推定が行われる。
【0157】
ここで、給紙ローラー141,143,170およびタイミングローラー145を駆動するブラシレスDCモーターは、具体的には以下の理由から、頻繁に起動および停止を繰り返さなければならないので、モーターを起動させる際には磁極の初期位置推定を短時間で行う必要がある。
【0158】
具体的に、記録媒体183としての用紙を供給する給紙ローラー141,143では、連続する2枚の用紙が重なると(すなわち、重送になると)画像不良になるため、用紙間隔を定められた量だけ確保しなければならない。このため、1枚給紙するごとに、給紙ローラー141,143を駆動するモーターの起動、回転、および停止を繰り返さなければならず、停止後、次に起動する前にローターの磁極の初期位置を推定する必要がある。よって、複数枚の用紙に連続的に画像形成を行う場合には、短時間でローターの磁極初期位置推定を行う必要がある。
【0159】
上記の点は、原稿画像を読み取るために原稿用紙161を取り込むための給紙ローラー170についても同様である。さらに、記録媒体183としての用紙を2次転写ローラー133に供給するタイミングを調整するタイミングローラー145についても、用紙1枚ごとに、タイミングローラー145を駆動するモーターの起動、回転、および停止を繰り返す必要がある。このため、短時間でローターの磁極の初期位置推定を行う必要がある。
【0160】
また、画像形成装置の性能を評価する指標として、ファーストコピータイム(FCOT:First Copy Output Time)がある。FCOTは、通常使用状態で、スタートボタンを押してから、1枚目のコピー用紙が排紙し終わるまでの時間(秒)をいう。FCOTには、記録媒体183の給紙時間、および原稿用紙161の読み取り時間も含まれるため、FCOTを短縮するためにも、給紙ローラー141,143,170を駆動するモーターを起動する際のローターの磁極の初期位置を推定する時間を短縮することは重要である。
【0161】
実施の形態1,2で説明したように、本開示のモーター制御装置70は、インダクティブセンス方式でローターの磁極の初期位置を推定する際に、ある通電角度でステーター巻線に電圧を印加した後、ステーター巻線を流れる残留電流が0に戻る前に次の通電角度でステーター巻線に電圧を印加するように制御する。この結果、通電間隔を短くすることができるので、ローターの磁極の初期位置の推定時間を短縮することができる。
【0162】
ここで、既に説明したように、センサレスベクトル制御回路50の初期位置推定部57は、ステーター巻線31に一定の通電時間の間、定電圧をステーター巻線31へ印加したときのγ軸電流のピーク値Iγpを、γ軸残留電流Iγ0に基づいて補正する。そして、初期位置推定部57は、通電角度θMごとに得られた補正後のγ軸電流のピーク値Iγp_cに基づいて、γ軸電流のピーク値Iγp_cが最大となる通電角度θM[i]をローターの磁極の初期位置θとして設定する。これによって残留電流がある場合でも、ローターの磁極の初期位置の推定が可能になる。
【0163】
より精度良くローターの磁極の初期位置を推定するために、初期位置推定部57は、通電角度θ
Mごとに、検出されたγ軸電流のピーク値Iγpを前述の補正式(9)に従ってまたは
図15に示す補正テーブルに従って補正するのが望ましい。
【0164】
一方で、原稿用紙161を原稿読み取り位置に搬送する目的の原稿搬送ローラー163,171は、原稿用紙161上の原稿画像をイメージセンサー167で読み取る際に停止する必要はない。イメージセンサー167は、原稿用紙161を連続搬送した場合でも読取り可能であるからである。したがって、原稿搬送ローラー163,171を駆動するモーターは、頻繁に起動と停止とを繰り返す必要はない。
図17の他のローラー、たとえば、1次転写ローラー131、2次転写ローラー133、定着ローラー150、排紙ローラー151、原稿排出ローラー172なども、頻繁に起動と停止とを繰り返す必要はない。
【0165】
このように、頻繁に起動と停止とを繰り返す必要のないモーターでは、ローターの磁極の初期位置を推定するのに要する時間を短縮する必要はない。したがって、
図7に一例を示すように、インダクティブセンス方式でローターの磁極の初期位置を推定する際に、ある通電角度でステーター巻線に電圧を印加した後、ステーター巻線を流れる残留電流が0に戻ってから次の通電角度でステーター巻線に電圧を印加しても問題はない。さらに、この場合には、通電角度θ
Mごとのγ軸ピーク電流Iγpの検出値を補正せずに、ローターの磁極の初期位置を推定することができるので、制御を簡単化することができる。
【0166】
なお、上記のように頻繁に起動、回転、および停止を繰り返す必要がある場合には、慣性が小さいために応答性の優れたインナーローター型のブラシレスDCモーターを用いるほうが、アウターローター型のブラシレスDCモーターを用いるよりも望ましい。
【0167】
図17は、インナーローター型のブラシレスDCモーターの構成とアウターローター型のブラシレスDCモーターの構成とを模式的に示す断面図である。
図17(a)に4極6スロットのインナーローター型の3相ブラシレスDCモーターの構成が示される。
図17(b)には、4極6スロットのアウターローター型の3相ブラシレスDCモーターの構成が示される。
【0168】
図17(a)を参照して、インナーローター型のブラシレスDCモーターは、ローター35の外周にステーター34が配置される。ステーター34の鉄心は、環状のヨーク33と、ヨーク33から内向きに突出する6本のティースとを含む。2本のU相用ティースの周囲にはU相巻線31Uが巻回され、2本のV相用ティースの周囲にはV相巻線31Vが巻回され、2本のW相用ティースの周囲にはW相巻線31Wが巻回されている。
【0169】
インナーローター型のブラシレスDCモーターは、慣性モーメントを小さくできるために、応答性が良いという利点がある。したがって、頻繁に駆動および停止を繰り返さなければならない給紙ローラー141,143,170およびタイミングローラー145を駆動するためのモーターに向いている。
【0170】
図17(b)を参照して、アウターローター型のブラシレスDCモーターは、ステーター34の外周にローター35が配置される。ステーター34の鉄心は、ローター35の回転中心付近に配置されたヨーク33と、ヨーク33から外向きに突出する6本のティースとを含む。2本のU相用ティースの周囲にはU相巻線31Uが巻回され、2本のV相用ティースの周囲にはV相巻線31Vが巻回され、2本のW相用ティースの周囲にはW相巻線31Wが巻回されている。
【0171】
アウターローター型のブラシレスDCモーターは、慣性モーメントが比較的大きいため、一定の回転速度で安定的に回転させることができるというメリットがある。
【0172】
[実施の形態3のまとめ]
図18は、画像形成装置のローラーの駆動制御に用いられるモーターとその制御装置の構成を示すブロック図である。以下、
図18を参照してこれまでの説明を総括する。
【0173】
図18では、頻繁に起動と停止とを繰り返さなければならないローラー90Aと、頻繁に起動と停止とを繰り返す必要がなく連続的に回転駆動させるローラー90Bとが代表的に示されている。ローラー90Aは、
図16の給紙ローラー141,143,170およびタイミングローラー145に対応し、ローラー90Bは、
図16のその他のローラーに対応する。
【0174】
ローラー90Aを駆動するブラシレスDCモーター30Aは、頻繁に起動と停止とを繰り返すので、応答性が良いインナーローター型が望ましい。一方、ローラー90Bを駆動するブラシレスDCモーター30Bは、インナーローター型およびアウターローター型のいずれもよい。
【0175】
モーター制御装置70は、ブラシレスDCモーター30Aを駆動制御するための駆動回路40Aおよびセンサレスベクトル制御回路50Aと、ブラシレスDCモーター30Bを駆動制御するための駆動回路40Bおよびセンサレスベクトル制御回路50Bと、上位制御回路60とを含む。
【0176】
駆動回路40A,40Bの構成は、
図1の駆動回路40の構成と同じであるので、説明を繰り返さない。
【0177】
センサレスベクトル制御回路50Aは、実施の形態1,2で説明したセンサレスベクトル制御回路50の構成および動作と同じである。すなわち、センサレスベクトル制御回路50Aは、ブラシレスDCモーター30Aを起動させる際に、インダクティブセンス方式で静止状態にあるローターの磁極の初期位置を推定する。このとき、センサレスベクトル制御回路50Aは、ある通電角度でステーター巻線に電圧を印加した後、ステーター巻線を流れる残留電流が0に戻る前に次の通電角度でステーター巻線に電圧を印加するように、駆動回路40Aを制御する。センサレスベクトル制御回路50Aは、磁極位置の推定精度を高めるために、通電開始と同時または通電開始の直前に測定したγ軸残留電流Iγ0の値に基づいて、γ軸電流のピーク値Iγpの検出値を補正する。この場合、前述の式(9)または
図15のテーブルに従ってγ軸電流のピーク値Iγpの検出値を補正してもよい。センサレスベクトル制御回路50Aは、通電角度ごとに得られた補正後のγ軸ピーク電流の補正値Iγp_cに基づいて、ローターの初期位置を推定する。以上によって、ローターの磁極の初期位置を短時間で精度良く推定することが可能になる。
【0178】
一方、センサレスベクトル制御回路50Bは、実施の形態1で説明したセンサレスベクトル制御回路50とほぼ同じ動作を行うが、ブラシレスDCモーター30Bのローターの磁極の初期位置の推定方法がセンサレスベクトル制御回路50Aの場合と異なる。具体的に、センサレスベクトル制御回路50Bは、インダクティブセンス方式でローターの磁極の初期位置を推定する際に、ある通電角度でステーター巻線に電圧を印加した後、ステーター巻線を流れる残留電流が0になる時間が経過してから次の通電角度でステーター巻線に電圧を印加するように、駆動回路40Bを制御する。この場合、γ軸ピーク電流Iγpの検出値を補正することなくローターの磁極の初期位置を推定することができるので、モーター制御を簡単化できる。ローラー90Bは、頻繁に起動と停止とを繰り返す必要がなく連続的に回転するので、上記のような制御を行っても問題にならない。
【0179】
上位制御回路60は、センサレスベクトル制御回路50A,50Bに起動指令、停止指令、および回転速度指令値などを出力する。
【0180】
上記のセンサレスベクトル制御回路50A,50Bの各々は、第1の動作モードと第2の動作モードとを有する同一構成のセンサレスベクトル制御回路50として構成されていてもよい。この場合、同一構成の各センサレスベクトル制御回路50は、第1の動作モードにおいて、上記のセンサレスベクトル制御回路50Aと同じ制御動作を行い、第2の動作モードにおいて、上記のセンサレスベクトル制御回路50Bと同じ制御動作を行う。
【0181】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0182】
30 ブラシレスDCモーター、31 ステーター巻線、33 ヨーク、34 ステーター、35,90A,90B ローター、40 駆動回路、41 インバーター回路、43U U相電流検出回路、43V V相電流検出回路、50 センサレスベクトル制御回路、51 回転速度制御部、52 電流制御部、53 座標変換部、54 PWM変換部、55 座標変換部、56 磁極位置推定部、57 初期位置推定部、60 上位制御回路、70 モーター制御装置、102 現像装置、105 定着装置、110 感光体、111 帯電器、112 画像露光装置、121 現像ローラー、123 トナーボトル、124 攪拌羽、131 1次転写ローラー、132 転写ベルト、133 2次転写ローラー、140,142 給紙カセット、141,143,170 給紙ローラー、144 搬送ローラー、145 タイミングローラー、150 定着ローラー、151 排紙ローラー、152,173 排紙トレー、160 原稿読み取り装置、161 原稿用紙、162 原稿台、163,171 原稿搬送ローラー、164 光源、165 ミラー、166 レンズ、167 イメージセンサー、172 原稿排出ローラー、180 画像形成装置、181 作像部、182 給紙機構、183 記録媒体、191,192,193,194 感光体カートリッジ。