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特許7188078膜分離活性汚泥における廃水処理方法、廃水処理装置および廃水処理システム管理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】膜分離活性汚泥における廃水処理方法、廃水処理装置および廃水処理システム管理プログラム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20221206BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20221206BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20221206BHJP
【FI】
C02F3/12 P
C02F3/12 H
C02F3/12 J
C02F3/12 S
C02F3/12 K
C02F1/44 F
G06Q50/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018525491
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018013050
(87)【国際公開番号】W WO2018181618
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2017062362
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】間谷 聖子
(72)【発明者】
【氏名】竹本 恭也
(72)【発明者】
【氏名】富岡 一憲
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 世人
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/178366(WO,A1)
【文献】特開平01-111491(JP,A)
【文献】特開平01-194996(JP,A)
【文献】特開平06-114391(JP,A)
【文献】特開2013-022549(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0060533(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00、 1/00
G01N 1/00、15/00
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜分離活性汚泥法による廃水処理方法において、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像後、撮像した画像を処理し、処理した画像情報要素から求められる管理パラメータと予め設定した管理基準範囲とを比較して膜分離活性汚泥槽の運転状況を判定するものであり、かつ、前記管理パラメータとして活性汚泥の水相浮遊物量を用い、前記活性汚泥の水相浮遊物量として、単位視野あたりの水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の総面積および/または水相領域の面積に占める水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域面積比を算出することを特徴とする廃水処理方法。
【請求項2】
膜分離活性汚泥法による廃水処理方法において、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像後、撮像した画像を処理し、フロック領域と水相領域とを区別し、水相領域における画像情報を取得し、さらに画像情報から求められる管理パラメータを計算し、その算出値および/または算出値の経時変化量を予め設定した管理基準範囲と比較して、活性汚泥の状態を判定することを特徴とする請求項1に記載の廃水処理方法
【請求項3】
単位視野あたりの水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の総面積を算出し、その算出値および/または算出値の経時変化量を予め設定した管理基準範囲と比較して判定することを特徴とする請求項1または2に記載の廃水処理方法。
【請求項4】
膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を撮像する際に、膜ろ過水と混合した混合液、活性汚泥を遠心分離した水相部分、ろ過分離したろ過水の少なくともいずれかを、脱気および/または攪拌した後に撮像することを特徴とする請求項1または2に記載の廃水処理方法。
【請求項5】
前記管理基準範囲を逸脱したと判定した場合に廃水処理条件に関する警報および/または制御情報を出力することを特徴とする請求項1または2に記載の廃水処理方法。
【請求項6】
前記管理基準範囲を逸脱したと判定した場合に警報および/または制御情報を出力する廃水処理条件が、以下の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項に記載の廃水処理方法。
(A)被処理水流入濃度および流入量(B)ろ過流量(C)ろ過時間もしくはろ過停止時間(D)曝気風量もしくは曝気時間(E)栄養塩添加量(F)薬品添加量(G)活性汚泥量(H)返送処理水量(I)前処理工程の稼動条件(J)後処理工程の稼働条件(K)活性汚泥槽温度調整条件(L)膜エレメントの稼動条件(M)膜エレメント洗浄条件(N)散気管洗浄条件
【請求項7】
前記膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥の撮像が行われる場所から通信機器によって接続された遠隔地にて前記判定を行い、前記警報および/または制御情報を出力することを特徴とする請求項5または6に記載の廃水処理方法。
【請求項8】
出力された制御情報にもとづいて、前記廃水処理条件を制御することを特徴とする請求項に記載の廃水処理方法。
【請求項9】
膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像および画像処理を行い、活性汚泥の水相浮遊物量を判定し、その結果が予め決めた管理基準範囲より高い場合には被処理水流入量および/またはろ過流量低減操作を行い、その結果が予め決めた管理基準範囲より低い場合には、被処理水流入量および/またはろ過流量増加操作を行うことを特徴とする請求項に記載の廃水処理方法。
【請求項10】
膜分離活性汚泥法を用いて廃水を処理する廃水処理装置であって、膜分離活性汚泥槽から活性汚泥を採取する手段と、採取した活性汚泥を光学的手段で撮像する撮像手段と、撮像した画像のフロック領域と水相領域とを区別し、水相領域における画像情報を取得し、さらに画像情報から求められる管理パラメータを計算する画像処理手段と、算出された管理パラメータおよび/または管理パラメータの経時変化量にもとづいて前記膜分離活性汚泥槽の運転状況を判定する判定手段を有するものであり、かつ、前記管理パラメータとして活性汚泥の水相浮遊物量を用い、活性汚泥の水相浮遊物量として、単位視野あたりの水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の総面積および/または水相領域の面積に占める水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域面積比を算出することを特徴とする廃水処理装置
【請求項11】
前記判定手段は、前記膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥の撮像が行われる場所から通信機器によって接続された遠隔地に設けられており、判定結果が予め設定した管理基準範囲を逸脱した場合に警報および/または制御条件を出力する出力手段と、出力された制御条件のいずれかに応じて制御する制御手段を有することを特徴とする請求項10に記載の廃水処理装置。
【請求項12】
膜分離活性汚泥法を用いて廃水を処理する廃水処理システムを管理するために、コンピュータを、膜分離活性汚泥槽から活性汚泥を採取する手段と、採取した活性汚泥を光学的手段で撮像する撮像手段と、撮像した画像のフロック領域と水相領域とを区別し、水相領域における画像情報を取得し、さらに画像情報から求められる管理パラメータを計算する画像処理手段とを制御するとともに、算出された管理パラメータおよび/または管理パラメータの経時変化量にもとづいて前記膜分離活性汚泥槽の運転状況を判定する判定手段として動作させるものであり、かつ、前記管理パラメータとして活性汚泥の水相浮遊物量を用い、活性汚泥の水相浮遊物量として、単位視野あたりの水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の総面積および/または水相領域の面積に占める水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域面積比を算出することを特徴とする廃水処理システム管理プログラム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水や産業廃水などを膜分離活性汚泥にて処理する際の、廃水処理方法、廃水処理装置および廃水処理システム管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離法は、省エネルギー・スペース、およびろ過水質向上等の特長を有するため、様々な分野での使用が拡大している。例えば、下水や産業廃水を処理する際に用いられる膜分離活性汚泥法は、生物反応槽内で、生物処理を行い、反応槽内に浸漬させたろ過膜等を用いて活性汚泥を固液分離し、清澄な処理水を得る処理方法である。
【0003】
このような膜分離活性汚泥法は、活性汚泥自体や反応槽に流入する被処理液中の夾雑物などの固形分が分離膜表面に付着してろ過効率が低下しないようにろ過膜の下部に、設置した散気管によって空気等を散気し、気泡及び上昇流による分離膜の振動効果と撹拌効果によって、分離膜表面の付着物の付着を剥離させながらろ過している。
【0004】
それでも、被処理液を膜ろ過すると、処理水量に伴って、膜表面や膜細孔内に汚染物質の蓄積量が増大していき、処理水量・水質の低下あるいは膜ろ過圧力の上昇が問題となってくる。膜ろ過圧力を長期間低圧で維持し、安定運転を継続するためには、活性汚泥の状態を膜ろ過に適した状態に維持するよう監視することが重要となる。
【0005】
これまで活性汚泥の状態監視技術として、従来の沈降分離による生物処理法において、活性汚泥のフロック(凝集体)の沈降しやすさを監視する目的で、顕微鏡を用いて、フロック自体、もしくはフロックが解体し沈降不良を起こす原因となる糸状性微生物を評価する技術が提案されてきた。
【0006】
特許文献1には、フロック稠密性を評価する技術が提案され、特許文献2には、糸状性微生物量を評価し、それに応じて凝集剤添加量を判断する技術が提案されている。また、特許文献3および4には、連続的に精度良く活性汚泥を撮像し、糸状性微生物や微小動物の移動量などの特徴量を定量化するための観察用治具およびシステム、特許文献5には、フロック粒子径の変化を光学センサーを用いて評価する技術が提案されている。また非特許文献1には、ファジィ診断技術による活性汚泥法の制御技術が提案されている。その他、特許文献6には、膜分離活性汚泥法において、水温や負荷変動に応じて変化する活性汚泥性状を監視するため、活性汚泥をあらかじめフロック(凝集体)と水相とに分離し、活性汚泥の水相と、膜ろ過水の有機物濃度差を監視し、活性汚泥濃度を調整する技術、特許文献7には活性汚泥の水相の有機物濃度を監視し、所定値を超えた際には槽内の空気散気量を上げることで膜ろ過圧力上昇を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開平2-229597号公報
【文献】日本国特開平1-111491号公報
【文献】日本国特開2015-181374号公報
【文献】日本国特開2015-160283号公報
【文献】日本国特許第3912535号公報
【文献】日本国特許第5822264号公報
【文献】日本国特許第5868217号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】学会誌「EICA」第3件第2号(1998)ファジィ機能診断システムによる活性汚泥法の運転支援
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
膜分離活性汚泥法では、従来の沈降分離による生物処理法とは、固液分離方法が異なる。本発明者らの知見によると、膜分離活性汚泥法における活性汚泥の管理基準は、フロックの沈降しやすさではなく、活性汚泥の水相の清澄度、つまり膜孔近傍の大きさで膜を詰まらせやすい水相浮遊物の存在の評価に基づくのがよい。膜のろ過圧力上昇を防ぎ、安定したろ過水質を得るために、活性汚泥の水相を清澄に保つよう、水相浮遊物をできるだけ生物分解して低減するよう、活性汚泥槽の運転管理を行なうことが重要である。
【0010】
特許文献1のように、フロックの稠密性を評価する技術では、監視対象が異なるため、水相浮遊物の情報が得られない。また、特許文献2のようにフロックの沈降性が悪化した活性汚泥で優先種となりやすい糸状性微生物量を監視し、それに応じて、凝集剤を添加すると、凝集剤自体が、膜のろ過圧力上昇の原因となる場合があるため、膜分離活性汚泥法には適用できない。
【0011】
特許文献3、4は、評価流路を有する観察用治具を用いて、活性汚泥を連続観察し、糸状性微生物量や活動する微小動物の移動量を監視しているが、監視対象が異なる。すなわち、水相浮遊物の情報が得られず、膜ろ過圧力上昇を抑制するための運転制御に利用できない。
【0012】
特許文献5のように、フロック粒子径の変化を光学センサーを用いて評価すると、全体の変化は検知できても、その中で、膜を詰まらせやすい水相浮遊物の存在の区別ができないため、膜ろ過圧力上昇を抑制するための運転制御に利用できない。
特許文献6、7は、活性汚泥の水相部分と膜ろ過水の有機物濃度をそれぞれ分析機器で測定し、その濃度差に応じて、膜面洗浄のための曝気量調整や、ろ過対象である活性汚泥濃度を調整する制御を行う。この方法は、分析機器で測定する時間がかかり、運転制御するまでに時間がかかる上に、有機物濃度の情報しか得られないため、最適な運転制御ができていない場合があった。
【0013】
非特許文献1は、ファジィ機能診断で微生物観測を実施しているが、膜分離活性汚泥法での膜ろ過圧力上昇は、活性汚泥中の微生物種別や個数のみに起因しているものではなく、監視対象が異なるため、膜ろ過圧力上昇を抑制するための運転制御に利用できないといった問題があった。
【0014】
本発明は、下水や産業廃水などの有機性廃水を活性汚泥により処理する生物処理槽と、この生物処理槽内の活性汚泥を固液分離する膜ろ過装置とを有した廃水処理装置を用いた有機性廃水処理槽の運転方法の改善を目的としている。具体的には、活性汚泥の状態を連続的に監視し、膜のろ過圧力上昇を引き起こす原因となる水相浮遊物を簡便かつ即時に可視化および定量化する。膜のろ過圧力上昇、ろ過水質悪化などの異常が発生する前に、上記情報を用いて適切な運転制御を行い、膜ろ過に適した汚泥状態を維持することにより、長期間、安定した膜ろ過運転を実現する廃水処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
(1)膜分離活性汚泥法による廃水処理方法において、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像後、撮像した画像を処理し、処理した画像情報要素から求められる管理パラメータと予め設定した管理基準範囲とを比較して膜分離活性汚泥槽の運転状況を判定するものであり、かつ、前記管理パラメータとして活性汚泥の水相浮遊物量を用いることを特徴とする廃水処理方法。
(2)膜分離活性汚泥法による廃水処理方法において、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像後、撮像した画像を処理し、フロック領域と水相領域とを区別し、フロック領域および水相領域の少なくともいずれかの領域における画像情報を取得し、さらに画像情報から求められる管理パラメータを以下の少なくともいずれかの条件で計算し、その算出値および/または算出値の経時変化量を予め設定した管理基準範囲と比較して、活性汚泥の状態を判定することを特徴とする(1)の廃水処理方法。
(a)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像情報要素から管理パラメータを算出する、
(b)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像情報要素から算出する管理パラメータを各領域別に少なくとも2つ以上組み合わせる、
(c)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像情報要素を少なくとも2つ以上組み合わせて管理パラメータを算出する、
(d)(a)~(c)で算出される値を少なくとも2つ以上組み合わせて算出する。
(3)フロック領域および/または水相領域の前記管理パラメータが、面積、周囲長、フロック領域間の距離、個数、輝度の少なくともいずれかにおける合計値、最大値、最小値、平均値、中央値、偏差値のいずれかであることを特徴とする(1)または(2)に記載の廃水処理方法。
(4)単位視野あたりのフロック領域の総面積を算出し、その算出値および/または算出値の経時変化量を予め設定した管理基準範囲と比較して判定することを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の廃水処理方法。
(5)単位視野あたりの水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の総面積を算出し、その算出値および/または算出値の経時変化量を予め設定した管理基準範囲と比較して判定することを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の廃水処理方法。
(6)膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を撮像する際に、膜ろ過水と混合した混合液、活性汚泥を遠心分離した水相部分、ろ過分離したろ過水の少なくともいずれかを、脱気および/または攪拌した後に撮像することを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の廃水処理方法。
(7)前記管理基準範囲を逸脱したと判定した場合に廃水処理条件に関する警報および/または制御情報を出力することを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の廃水処理方法。
(8)前記管理基準範囲を逸脱したと判定した場合に警報および/または制御情報を出力する廃水処理条件が、以下の少なくともいずれかであることを特徴とする(1)~(7)のいずれかに記載の廃水処理方法。
(A)被処理水流入濃度および流入量
(B)ろ過流量
(C)ろ過時間もしくはろ過停止時間
(D)曝気風量もしくは曝気時間
(E)栄養塩添加量
(F)薬品添加量
(G)活性汚泥量
(H)返送処理水量
(I)前処理工程の稼動条件
(J)後処理工程の稼働条件
(K)活性汚泥槽温度調整条件
(L)膜エレメントの稼動条件
(M)膜エレメント洗浄条件
(N)散気管洗浄条件
(9)前記膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥の撮像が行われる場所から通信機器によって接続された遠隔地にて前記判定を行い、前記警報および/または制御情報を出力することを特徴とする(7)または(8)に記載の廃水処理方法。
(10)出力された制御情報にもとづいて、前記廃水処理条件を制御することを特徴とする(7)~(9)のいずれかに記載の廃水処理方法。
11)膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像および画像処理を行い、活性汚泥の水相浮遊物量を判定し、その結果が予め決めた管理基準範囲より高い場合には、被処理水流入量および/またはろ過流量低減操作を行い、その結果が予め決めた管理基準範囲より低い場合には、被処理水流入量および/またはろ過流量増加操作を行うことを特徴とする(10)の廃水処理方法。
12)膜分離活性汚泥法を用いて廃水を処理する廃水処理装置であって、膜分離活性汚泥槽から活性汚泥を採取する手段と、採取した活性汚泥を光学的手段で撮像する撮像手段と、撮像した画像のフロック領域と水相領域とを区別し、フロック領域および水相領域の少なくともいずれかの領域における画像情報を取得し、さらに画像情報から求められる管理パラメータを以下の少なくともいずれかの条件で計算する画像処理手段と、算出された管理パラメータおよび/または管理パラメータの経時変化量にもとづいて前記膜分離活性汚泥槽の運転状況を判定する判定手段を有するものであり、かつ、前記管理パラメータとして活性汚泥の水相浮遊物量を用いることを特徴とする廃水処理装置。
(a)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像情報要素から管理パラメータを算出する、
(b)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像情報要素から算出する管理パラメータを各領域別に少なくとも2つ以上組み合わせる、
(c)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像情報要素を少なくとも2つ以上組み合わせて管理パラメータを算出する、
(d)(a)~(c)で算出される値を少なくとも2つ以上組み合わせて算出する。
13)前記判定手段は、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥の撮像が行われる場所から通信機器によって接続された遠隔地にて設けられており、判定結果が予め設定した管理基準範囲を逸脱した場合に警報および/または制御条件を出力する出力手段と、出力された制御条件のいずれかに応じて制御する制御手段を有することを特徴とする(12)の廃水処理装置。
14)膜分離活性汚泥法を用いて廃水を処理する廃水処理システムを管理するために、コンピュータを、膜分離活性汚泥槽から活性汚泥を採取する手段と、採取した活性汚泥を光学的手段で撮像する撮像手段と、撮像した画像のフロック領域と水相領域とを区別し、フロック領域および水相領域の少なくともいずれかの領域における画像情報を取得し、さらに画像情報から求められる管理パラメータを以下の少なくともいずれかの条件で計算する画像処理手段とを制御するとともに、算出された管理パラメータおよび/または管理パラメータの経時変化量にもとづいて前記膜分離活性汚泥槽の運転状況を判定する判定手段として動作させるものであり、かつ、前記管理パラメータとして活性汚泥の水相浮遊物量を用いることを特徴とする廃水処理システム管理プログラム。
(a)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像情報要素から管理パラメータを算出する、
(b)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像情報要素から算出する管理パラメータを各領域別に少なくとも2つ以上組み合わせる、
(c)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像情報要素を少なくとも2つ以上組み合わせて管理パラメータを算出する、
(d)(a)~(c)で算出される値を少なくとも2つ以上組み合わせて算出する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は膜分離活性汚泥法において、膜のろ過圧力上昇を引き起こす原因となる、活性汚泥の水相浮遊成分を、簡便かつ即時に可視化および定量化し、その増減を監視することで、膜のろ過圧力上昇が起きる前に、適した運転制御を行い、長期間、安定した膜ろ過運転を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1Aは、膜分離活性汚泥法による廃水処理のフローを示す一例である。
図1B図1Bは、膜分離活性汚泥法における活性汚泥槽内の被処理水の流れを示す一例である。
図1C図1Cは、膜分離活性汚泥法における平膜エレメントの一部の拡大図を示す一例である。
図2図2は、本発明の形態の一例を示す概略図である。
図3図3は、本発明に係る画像処理の形態の一例を示す撮像画像である。
図4図4は、本発明に係る膜分離活性汚泥法による廃水処理のフローを示す一例である。
図5図5は、本発明に係る観察用治具の形態の一例を示す概略図である。
図6図6は、本発明に係る状態が悪化した汚泥画像および表示の形態の一例を示す概略図である。
図7図7は、本発明に係る状態が良化した汚泥画像および表示の形態の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1A及び図1Bは、本発明の好適な実施形態で用いられる一般的な膜分離活性汚泥処理のフローを概略化したものである。
【0019】
まず、廃水1が原水供給ポンプ6によって膜分離活性汚泥槽3に供給され、活性汚泥による吸着・微生物による分解作用により廃水中の有機物や窒素などが除去・処理される。ついで、活性汚泥は、浸漬型膜分離ユニット2によりろ過され、ろ過されたろ過水5はろ過水槽4に貯えられた後、再利用、あるいは、放流される。
【0020】
従来の沈降分離型の標準活性汚泥法では、汚泥を沈降分離させて処理水を得るため、活性汚泥濃度(MLSS)は、1,500mg/L~8,000mg/L程度で管理するが、膜分離活性汚泥法では、膜で分離するため、槽内の汚泥濃度を高めることができ、処理槽内の活性汚泥濃度(MLSS)は、3,000mg/L~25,000mg/L程度、より好ましくは7,000~18,000mg/L程度で運転される。固液分離方法が異なるため、活性汚泥の状態を管理するための指標も、それぞれ適したものが用いられるべきである。活性汚泥を浸漬型膜分離ユニットでろ過するために、浸漬型膜分離ユニット2とろ過水槽4との間にポンプ等を設けていてもかまわないし、水頭圧力差をかけるために、ろ過水槽4内のろ過水位が、活性汚泥槽3内の活性汚泥1の水位よりも低くなるようにしていてもよい。なお、図1A及び図1Bにおいては、吸引ポンプ9によるろ過を実施している。膜分離活性汚泥槽3は、活性汚泥を貯え、浸漬型膜分離ユニット2を浸漬することができれば特に制限されるものではなく、コンクリート槽、繊維強化プラスチック槽などが好ましく用いられる。また、膜分離活性汚泥槽3の内部が複数に分割されていてもかまわないし、複数に分割されている槽のうち一部を、浸漬型膜分離ユニット2を浸漬する槽として、他方を脱窒槽または生物処理槽として利用し、活性汚泥を分割されている槽間で循環されるようにしていてもよい。
【0021】
ろ過運転(エア供給しながらろ過を行う運転)時には、活性汚泥への酸素供給と、浸漬型膜分離ユニットにおける分離膜エレメントへの活性汚泥付着を除去するために、浸漬型膜分離ユニット2の下方に散気管8を設け、エアーポンプ(空気供給装置)7でエア供給を連続的に常時行っている。分離膜エレメントが平膜の場合、散気管から出た気泡8aは、平膜エレメントと隣り合う平膜エレメント2aとの間を、活性汚泥の上向流とともに通過し、その際に、膜面に付着した活性汚泥を膜面から剥離させている。膜分離活性汚泥槽3に導入する活性汚泥は、廃水処理等に一般に利用されるものであり、種汚泥としては他の廃水処理施設の引き抜き汚泥などが通常使用される。活性汚泥法は、微生物が廃水中の生分解性の高い有機物を餌として利用することにより、水の浄化を可能とするものである。
【0022】
ろ過水槽4は、ろ過水を貯留することができれば特に制限されるものではなく、コンクリート槽、繊維強化プラスチック槽などが好ましく用いられる。
【0023】
ここで、本実施形態で浸漬型膜分離ユニット2を構成する膜エレメントに用いられる膜は、特に限定されるものではなく、平膜、中空糸膜のいずれでもよい。本実施形態で好適に用いられる平膜エレメントの一例を図1Cに示す。膜の構造は、特に限定されるものではなく、例えば、フレーム5の両面に平膜を接着した平膜エレメント構造や、平膜がスパイラル状に巻かれた平膜エレメント構造、透過側の面が互いに対向するように配置された2枚の平膜と、前記平膜間に設けられた集水流路とを有する平膜対、および前記平膜の周縁部において平膜間を封止する封止部を含み、可とう性を有する平膜エレメント構造、さらには中空糸膜を複数本束ねた中空糸膜エレメント構造、のいずれを用いてもよい。本実施形態で好適に用いられる平膜は、基材2cと分離機能層2bとからなり、基材2cと分離機能層2bとの間には、当該分離機能層を構成する樹脂と基材とが混在する層が介在していてもよい。分離機能層は、基材に対して、対称構造であっても、非対称構造であっても構わない。
【0024】
分離機能層2bと基材2cで形成された平膜において、基材2cは、分離機能層2bを支持して平膜に強度を与える機能をもつ。基材2cを構成する材質としては、有機基材、無機基材等、特に限定されないが、軽量化しやすい点から、有機基材が好ましい。有機基材としては、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維からなる織編物や不織布があげられる。なかでも、密度の制御が比較的容易な不織布が特に好ましい。
【0025】
平膜の分離機能層2bの厚みは、膜の耐久性とろ過性能を維持するため、0.001~0.5mm(1μm~500μm)、より好ましくは0.05~0.2mm(50μm~200μm)の範囲で選定するとよい。分離機能層としては、孔径制御、耐久性の点で架橋高分子が好ましく使用され、成分の分離性能の点で多孔性支持層上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなる分離機能層、有機無機ハイブリッド機能層などが積層された膜を好適に用いることができる。また、セルロース膜、ポリフッ化ビニリデン膜、ポリエーテルスルホン膜、ポリスルホン膜のような多孔性支持層であって、分離機能と支持体機能との両方を有する膜を用いることもできる。分離機能層と多孔性支持層とが、単一の層で実現された膜でもよい。
【0026】
平膜としては、限外ろ過膜、精密ろ過膜のいずれにも適用することができる。また、分離対象物質の大きさに応じて適当な一種以上の膜を選択、組み合わせればよい浸漬型膜分離ユニット2に用いられる精密ろ過膜は、孔径が0.01μmから10μm程度のものをいい、一般的に分子ふるいによる分離が行われる限外ろ過膜より目が粗く、通常操作圧は減圧状態から200kPa以下で運転される。
【0027】
本実施形態において、浸漬型膜分離ユニット2を活性汚泥槽に浸漬させる際には、複数個並べてもよく、複数段重ねてもよい。複数個並べる場合には、浸漬型膜分離ユニットの平膜エレメントが複数装填されている方向に平行な側面同士を隣接させて並べてもよく、複数段重ねる場合には、浸漬型膜分離ユニットの平膜エレメントが複数装填されている方向に垂直な面同士を上下段に隣接させて重ねてもよい。ここで、膜分離活性汚泥法による廃水処理方法において、安定運転とは、運転期間中、ろ過圧力があらかじめ設定した管理範囲以上に上昇することなく、処理水質があらかじめ設定した管理範囲を逸脱しない状態のことをいう。ろ過対象である活性汚泥の状態が悪化すると、膜のろ過圧力上昇につながるため、活性汚泥の状態を、安定に維持管理することが重要である。ここでいう活性汚泥の状態を示す指標は、特に限定されるものではないが、活性汚泥量、粘度、水相浮遊物量などが挙げられ、これらの情報を総合的に判断して、活性汚泥の状態を管理している。
【0028】
活性汚泥量の測定方法は、従来、下水試験法(1997年版)(社団法人日本下水道協会発行)に記載の活性汚泥濃度(MLSS)を測定するための蒸発残留物測定法や、活性汚泥浮遊物質測定法などが用いられている。活性汚泥濃度(MLSS)測定法は、活性汚泥を遠心分離やガラス繊維ろ紙により固液分離した後、残留固形物を105~110℃で約2時間加熱乾燥し、その質量から浮遊物質濃度を算出するものである。また、市販されている活性汚泥濃度(MLSS)濃度計を用いることもある。
【0029】
粘度の測定方法は、毛細管粘度計、落球粘度計、共軸二重円筒形回転粘度計、単一円筒形回転粘度計、円錐平板形回転粘度計、振動式粘度計など市販の粘度計を用いて行う。中でも、活性汚泥の場合、共軸二重円筒形回転粘度計、単一円筒形回転粘度計、円錐平板形回転粘度計が好適に用いられる。付属のローターを活性汚泥に浸漬させて、指示値を読み取り測定する。あらかじめ水温や濃度を揃えた校正用標準液の粘度と指示値の関係から見かけ粘度に換算してもよい。
【0030】
活性汚泥は、フロックと呼ばれる固体相とそれ以外の水相および水相浮遊物からなる。フロックとは、活性汚泥において、微生物やその代謝物および死がい、その他流入水に含まれる混入物、析出物など、固体からなる凝集物のことをいう。水相とは、活性汚泥において、フロックの周囲およびフロック内の空隙にある水分のことを言う。
【0031】
フロックの大きさは、直径1~1000μm程度が多く、中でも10~100μmに粒度分布の極大があるものが例示される。
【0032】
一方で、発生した微生物の死がいや代謝物などが、フロックに取り込まれていないコロイド状もしくは浮遊物として水相に存在するものである。その大きさは直径50μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1μm以下のものが例示されるが、本発明においては、所定サイズ以上の大きさのものをフロックとし、それ以下のものを水相浮遊物として区別する。典型的には上記のように直径1~50μmの範囲内で区別の境界線となる所定サイズを設定するが、活性汚泥の状況に応じて適宜上記所定サイズを設定すればよい。
【0033】
本発明の実施形態では、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像および画像処理を行い、活性汚泥の水相浮遊物量として、水相領域に存在する一定面積以下のフロック領域の総面積、もしくは、上記一定面積以下のフロック領域の面積の水相領域の面積に対する比のほかに、水相領域に囲まれたフロック領域の面積を水相領域の面積に含めて比を求めたりする場合など、一定面積以下のフロック領域の面積の水相領域の面積に対する割合と相関のあるいかなる量を用いてもよい。特に活性汚泥量の総量に変動がある場合は、水相浮遊物量の変動と区別するため、面積比を用いるのが好適である。
【0034】
膜分離活性槽内でろ過運転を実施している際、フロックは曝気によって生じる旋回流により膜面から剥離され、水相と水相に含まれる膜の孔径以下の大きさの水相浮遊物が膜を通過し、膜ろ過水として排出される。本実施形態において、安定状態の活性汚泥とは、微生物により生物処理が順調に行われている状態を指し、発生した微生物の死がいや代謝物は、別の微生物によって分解され、フロックに取り込まれ、水相浮遊物量が少ない状態である。一方、水温変動や水質変動などにより、生物処理条件のバランスが崩れた場合には、微生物の死がいや代謝物の発生量が増え、分解やフロックへの取り込みが間に合わず、水相浮遊物量が増加したり、フロックが分散したりする。水相浮遊物量が多くなるにつれ、膜を通過する際に、膜の表面または孔内に付着・蓄積し、膜を閉塞させやすくなる。このような活性汚泥を、本発明では、状態が悪化した活性汚泥とよび、膜分離活性汚泥法における活性汚泥の状態良否を、水相浮遊物の総量で判断することも行われてきた。
【0035】
水相浮遊物量の測定方法は、例えば、下水試験法(1997年版)(社団法人日本下水道協会発行)に記載の溶解性物質測定法などが用いられ、遠心分離の他、ガラス繊維ろ紙、定量ろ紙を用いて固液分離し、水相を105~110℃で約2時間加熱乾燥し、その質量から水相浮遊物濃度を算出する方法がある。また、市販の散乱光濁度計を用いて、定量ろ紙を用いて固液分離したあとのろ液を水相とし、その濁度を測定する方法も用いられている。さらに、濁度の代わりに、TOC(全有機炭素)を測定し、微生物の死がいや代謝物の発生量が増えると、TOC濃度も相対的に増加する傾向にもとづいて、水相浮遊物量を判断する手法も行なわれている。
【0036】
これらはいずれも活性汚泥の水相をあらかじめ固液分離により分取する操作が必要となり、活性汚泥を採取してから結果がわかるまで時間を要する上に、水相浮遊物の総量の情報しか得られない。膜分離活性汚泥法において、膜の差圧上昇を抑制するために適した活性汚泥の状態管理をするためには、水相浮遊物量だけでなく、活性汚泥量などの情報も必要になるため、先述のMLSS測定をも行う必要があり、それらの結果が揃い、活性汚泥の状態を総合的に判断するまで、時間がかかり、対策のための制御が遅くなるという問題があった。
【0037】
そこで、本発明では活性汚泥を採取後、即時に、活性汚泥の状態を総合的に判断できないか、鋭意検討した結果、光学的手段である顕微鏡を用いて活性汚泥を可視化し、その画像を解析することで、水相領域とフロック領域の両方の情報を同時に取得し、即時に、活性汚泥の状態を総合判断可能であることを見出した。
【0038】
以降、本発明の好ましい形態の詳細について述べる。
本発明の実施形態について図2を用いて説明する。本発明では、膜分離活性汚泥法による廃水処理方法において、膜のろ過圧力上昇原因となる活性汚泥の状態悪化に対して、膜のろ過圧力上昇が発生する前に検知するため、膜分離活性汚泥槽3から活性汚泥を採取し、光学的手段(光学顕微鏡)41とカメラ(撮像手段)43からなる撮像手段を用いて活性汚泥を撮像し、画像処理手段42で予め条件設定した画像処理を行い、判定手段48で予め設定した管理基準範囲と比較して、現状の活性汚泥の状態が管理基準範囲内であるかを判定する。
【0039】
光学的手段41は、可視化のために顕微鏡を用いる。顕微鏡は、特に限定されるものではなく、透過型でも落射型でもよく、実体顕微鏡、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡、蛍光顕微鏡、さらには透過型もしくは走査型の電子顕微鏡などいずれでもよいが、中でも、本発明における観察対象および前処理不要で直接観察可能などの操作性において透過型の位相差顕微鏡が最も好適である。
【0040】
活性汚泥を、顕微鏡で観察し、カメラ43で撮像する場合には、観察対象の活性汚泥をスライドガラスの上に一定量滴下し、カバーガラスをのせて、顕微鏡のステージにのせて観察してもよく、2枚のガラス板の間隙に、活性汚泥を連続的に送液し、適宜観察してもよい。また後述する専用の観察用治具44を用いてもよい。
【0041】
カメラ43はカラーカメラでもモノクロカメラでも構わないが、活性汚泥の色調なども数値情報として入手するためには、カラーカメラの方が好ましい。計測機能を搭載したカメラであれば、画像を撮像したのち、予め設定した条件で画像処理を行い、即時に数値化できるため、好適である。
【0042】
本実施形態においては、フロックは、直径50μm以上、水相浮遊物は、直径50μm以下のもので判別するので、カメラ43はこれらを観察し撮像可能な分解能があればよい。フロックまたは水相浮遊物のそれぞれを認識・判別し、撮像時のノイズと分別するための画像処理を実施するには、2ピクセル×2ピクセル以上で画像化することが好ましく、視野における空間分解能は、500nm/ピクセル以下、より好ましくは300nm/ピクセル以下であることが好ましい。
【0043】
本実施形態では、光学的手段41とカメラ43では、500~800nmの波長範囲の光線を透過させる波長選択手段と、前記光線が撮像対象を透過する際に位相差を生じさせる位相差発生手段と、前記位相差発生手段により位相差を生じた透過光線を、撮像して画像を取得する撮像手段を有していることが最も好適である。
【0044】
画像処理手段42では、前記撮像画像において、500~800nmの波長範囲の画像情報要素を抽出して抽出画像を作成する要素抽出手段と、前記抽出画像を前記撮像画像に置き換える変換手段と、所定の閾値で、候補領域の抽出画像を作成する手段と、複数の候補領域の抽出画像を合成する手段と、抽出した領域それぞれの形状特徴を数値化して画像情報要素の数値群を得る手段とを有していることが好ましい。画像情報要素とは、フロック領域や水相浮遊物の画像における画像としての特徴量をいい、色相、明度、彩度、画素数、色度、輝度などがあげられる。これらの内から一つないし二つ以上の画像情報要素を抽出して抽出画像を作成し、さらに処理後画像に変換する。さらに一つないし二つ以上の画像情報要素において、それぞれ閾値を設定し、複数の候補領域の抽出画像を合成し、閾値を判定した後の複数の結果を論理演算することで、抽出した領域の形状特徴を数値化して更なる別の画像情報要素の数値群を得る。
【0045】
また、前記500~800nmの波長の成分に注目した画像は、例えばハロゲン光源などに代表される広範な出力波長帯域をもつ光源を用いて前記撮像対象を位相差観察した場合の撮像画像において、画像処理の段階で500~800nmの波長の成分を抽出して取得してもよい。
【0046】
図3に、本実施形態に係る抽出画像の形態の一例を示す膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を顕微鏡で位相差観察すると、構成要素の屈折率や厚みの関係から次のような明るさや色味で観察され、活性汚泥は、フロックや微生物などの固体相と非フロック領域である水相に大別される。
【0047】
輝度や色味を一概に述べることはできないが、フロック領域61は、構成成分や状態に応じてばらつきはあるものの、総じて、水相より輝度や彩度が高く、かつその色味は白あるいは赤、黄、黒あるいは茶色である。
【0048】
非フロック領域である水相領域62は、背景として中程度の輝度で撮像され、色味はグレーで彩度が低い。その他、例えば糸状性細菌や微小動物は、中~低輝度で、色味は青色、その彩度は中程度に撮像されることが多い。
【0049】
単位視野あたりのフロック領域61の抽出は、特に限定されるものではないが、撮像画像を色相、彩度、明度の3つの成分からなるHSV空間に変換し、その1バンドであるS(彩度)成分を抽出し、彩度成分を表示するときに表示装置のピクセルの明るさに置き換えて表示した画像を得ることで、HSV画像のS(彩度)成分の情報を利用して行うとよい。これにより、非フロック領域である水相領域62との間に、大きなコントラストができるため、彩度の高低で2値化処理を行い、区別する。このほか、RGB(赤色・緑色・青色)カラー撮像した画像をR、G、Bの情報に分解し、成分ごとの輝度プロファイルを求め、Rのみの、Gのみの、あるいはRとGを合成した画像として得ることも好適である。輝度情報またはそのほかの成分あるいは別の方法による2値化処理を行っても構わない。
【0050】
閾値は、予め撮像した活性汚泥の画像と輝度分布を見ながら、任意に設定し、その閾値を用いて2値化処理した画像を作成し、処理前後の画像を比較し、ズレが生じている場合には、閾値を修正することを繰り返し行い、適切な閾値を設定する。撮像画像に各種画像処理フィルターを掛け合わせた後の結果に対して閾値を設定しても良い。たとえばラプラシアンフィルターに代表されるエッジ抽出処理の結果に閾値を設定し、撮像画像の各画素ごとの先鋭化処理の結果値と閾値との大小を比較することで撮像画像の2値化をしても良い。さらに、2値化後の画像に膨張処理や収縮処理またそれらを組み合わせた処理などを施し、画像からノイズ成分を除去してもよい。
【0051】
また、画像情報を論理演算することで目的とする領域の情報を精度高く得ることも好適である。例えば、単位視野画像の総面積に占めるフロック領域から総面積比を求めたり、フロック領域の周囲長を面積で除算して真円度を求め、フロック領域とそれ以外の異物とを区別したりしても構わない。これらは人手で任意に計算してもよく、予め設定した計算ソフトを用いて自動計算してもよい。
【0052】
本実施形態において、画像処理手段42では、撮像画像を図3のように、単位視野あたりにフロックを形成している領域(フロック領域61)と、それ以外の非フロック領域(水相領域62)に区別し、2値化処理を行い、フロック領域および水相領域の少なくともいずれかの領域における画像情報として画像情報要素を取得し、画像情報要素を用いて、以下の少なくともいずれかの条件で計算し、管理パラメータを算出する。
【0053】
(a)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像情報要素から管理パラメータを算出する。
(b)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像情報要素から算出する管理パラメータを各領域別に少なくとも2つ以上組み合わせる。
(c)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像情報要素を少なくとも2つ以上組み合わせて管理パラメータを算出する。
(d)(a)~(c)で算出される値を少なくとも2つ以上組み合わせて算出する。
【0054】
管理パラメータとしては、面積、周囲長、領域間距離、面積比、個数、輝度、色度、彩度などがあげられる。領域間距離は、たとえばフロックにおける各領域の重心間の距離、領域と領域の一番近い部位の間の距離などがあげられる。さらに、本発明では、画像情報要素を用いて、上記(a)~(d)の少なくともいずれかの条件で計算し、さらに別の管理パラメータを算出することを特徴としている。管理パラメータは特に限定されるものではないが、例えば、以下が例示される。
【0055】
(i)フロック領域総面積および/または水相領域総面積
(ii)フロック領域と水相領域の総面積比
(iii)フロック領域および/または水相領域数
(iv)フロック領域および/または水相領域の輝度
(v)フロック領域および/または水相領域の周長
(vi)水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比
(vii)フロック領域に囲まれた一定面積以下の水相領域の面積および/またはフロック領域または水相領域に対する面積比
(viii)一定色調もしくは一定輝度以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比
(ix)一定色調もしくは一定輝度以下の水相領域の面積および/またはフロック領域または水相領域に対する面積比
【0056】
具体的には(iv)フロック領域および/または水相領域の輝度は、(a)フロック領域および/または水相領域において個々に求められる画像処理要素である輝度を用いることが好適である。
【0057】
(i)フロック領域総面積および/または水相領域総面積や、(iii)フロック領域および/または水相領域数、(v)フロック領域の周長は、(b)フロック領域または水相領域で個々に求められる画像処理要素から算出する管理パラメータを、各領域別に少なくとも2つ以上組み合わせて算出するのが好適である。
【0058】
(ii)フロック領域と水相領域の総面積比は、(c)フロック領域または水相領域で個々に求められる総面積値を少なくとも2つ以上組み合わせて算出するのが好適である。この時、水相領域に囲まれたフロック領域の面積に含めて算出する。なお、本実施形態において「水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の総面積の比を用いる」などという場合、上記一定面積以下のフロック領域の面積の水相領域の面積に対する比のほかに、水相領域に囲まれたフロック領域の面積を水相領域の面積に含めて比を求めたりする場合など、一定面積以下のフロック領域の面積の水相領域の面積に対する割合と相関のあるいかなる量を用いてもよい。また、比を算出する場合、領域の面積のほかに、領域の個数、各領域における平均もしくは合計の輝度などを用いて、各領域の割合を算出してもよい。
【0059】
(vi)水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比、(vii)フロック領域に囲まれた一定面積以下の水相領域の面積および/またはフロック領域または水相領域に対する面積比、(viii)一定色調もしくは一定輝度以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比、(ix)一定色調もしくは一定輝度以下の水相領域の面積および/またはフロック領域または水相領域に対する面積比は、(d)の(a)~(c)で算出される値を少なくとも2つ以上組み合わせて算出し、任意に設けた閾値に応じて分類するのが好適である。
【0060】
(vi)水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比を算出する方法は、具体的には、水相領域とフロック領域を判別した後、水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域を判別し、最後に、水相領域と水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の面積の合計を算出し、水相領域の面積に占める水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域面積比率を算出する方法が例示される。ここで、フロック領域の面積比を算出する際に、分母として、水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の総面積を、水相領域の面積に含めても含めなくても良く、また、フロック領域の面積に含めても含めなくてもよい。水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域および/または水相領域の面積であれば、上記のように算出した各領域の面積をそのまま用いればよい。
【0061】
(vii)フロック領域に囲まれた一定面積以下の水相領域の面積および/またはフロック領域または水相領域に対する面積比を算出する方法についても、(vi)と同様に、水相領域とフロック領域を判別した後、フロック領域に囲まれた一定面積以下の水相領域を判別し、最後に、フロック領域とフロック領域に囲まれた一定面積以下の水相領域の面積の合計を算出し、フロック領域の面積に占めるフロック領域に囲まれた一定面積以下の水相領域面積比率を算出する方法が例示される。(viii)、(ix)についても(vi)や(vii)と同様の手順で、面積の代わりに、輝度や色調の情報を用いて算出するとよい。
表1に、上記(a)~(i)を含む画像情報要素から得られる管理パラメータと、判定する活性汚泥の状態、さらに、判定結果に応じて制御する廃水処理条件を例示する。また、表2に、繊維系産業排水の膜分離活性汚泥を画像処理した結果を例示する。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
なお、表2には表記しないが(i)を示すフロック領域総面積や水相領域総面積および(viii)の一例である低輝度フロック領域総面積に関しては、総面積以外に最大のフロック領域あるいは最大の水相領域の面積を示す最大面積、最小のフロック領域あるいは最小の水相領域の面積を示す最小面積、フロックあるいは水相の各領域における平均面積、フロックあるいは水相の各領域における面積の標準偏差を算出しても良い。(iv)の一例であるフロック領域平均輝度や水相領域平均輝度に関しては、RGB(赤色、緑色、青色)毎の輝度、最大輝度、最小輝度、偏差輝度を算出しても良いし、(v)の一例であるフロック領域周長に関しては、最大周長、最小周長、平均周長、周長偏差を算出しても良い。更に、状態が悪化した活性汚泥では、フロック周囲に透明な粘性物質が発生し、光学的手段41にて撮像した際に、水相領域と区別しにくくなることがある。そのような場合には、光学的手段41のレンズと、活性汚泥との距離を調整し、ピントを合わせる作業を行う。このピント合わせの調整操作そのもの数値化し、具体的にはレンズ高さ、絞り度の変化度を管理基準とし、判定手段(判定部)48で、予め設定した管理基準を逸脱する場合を異常と判断し、それを警報出力手段(警報出力部)49にて出力しても良い。
【0065】
本実施形態によれば、フロック領域および水相領域の少なくともいずれかの領域における画像情報から得られた管理パラメータである面積、周長、個数、領域間の距離の少なくともいずれかの項目の算出値および/または算出値の経時変化量を即時に算出できる。そのため、連続運転している膜分離活性汚泥槽における測定頻度を増やし、経時的な変化量を監視し、管理範囲を逸脱する前に、適した廃水処理条件を制御することで、膜ろ過に適した活性汚泥状態を維持することができ、膜のろ過圧力上昇が起きる前に、長期間、安定した膜ろ過運転が可能となる。
【0066】
膜分離活性汚泥法において、運転条件が不適もしくは不安定な場合(原水水質変動や水温変動、膜の薬液洗浄後など)には、活性汚泥の状態が悪化しやすく、その際には活性汚泥の水相浮遊物量が多くなり、水相浮遊物量が多いと、膜ろ過する際に、膜の表面または孔内に付着・蓄積し、膜を閉塞させやすくなる。そこで、膜分離活性汚泥法における膜ろ過運転を安定に行うための活性汚泥の状態良否は、フロック領域の評価のみでは不十分であり、水相浮遊物量を評価し、増加傾向が見られないか監視する必要がある。
【0067】
これまで、水相浮遊物を評価するため、作業者が現地で活性汚泥を採取した後、遠心分離や定量ろ紙で固液分離し、得られた水相の濁度やTOC(全有機炭素)を測定していた。しかし、本実施形態によれば、活性汚泥の画像において、水相領域に存在する一定面積以下のフロックの面積を算出することで、先述の遠心分離や定量ろ紙で固液分離した水相の濁度やTOC(全有機炭素)測定を行なうことなく、水相浮遊物量の監視が可能となる。異なる活性汚泥量においても、水相領域の面積が異なるものの、水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の水相領域の面積に対する面積比を算出することで、比較が可能となる。これにより、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像後、撮像した画像を処理し、例えば(vi)水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比を予め設定した管理基準範囲と比較して判定することで、膜分離活性汚泥法における汚泥の状態が悪化し、膜ろ過圧力が上昇し始める前に、警報および/または運転条件を適正化するための制御を出力可能となる。また、通信機器を用いて、遠隔地からでも監視や制御が可能となる。
【0068】
また、本実施形態によれば、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像後、撮像した画像の(i)フロック領域における総面積を算出することで、先述の活性汚泥量測定法(ガラス繊維ろ紙により固液分離した後、残留固形物を105~110℃で約2時間加熱乾燥し、その質量から算出)で測定した活性汚泥濃度(MLSS)と、同等の情報がリアルタイムで得られるため、好適である。従来の沈降法で活性汚泥を撮像すると、膜分離活性汚泥法に比べて、実際の活性汚泥量が少ないため、撮像した画像においてフロック領域に比べ水相領域の面積が広く、場合によっては、フロック領域が撮像されておらず、フロック領域総面積に対して、実際の活性汚泥量との相関関係が得られない場合があるのに対し、膜分離活性汚泥法では、実際の活性汚泥量が多いため、撮像した画像においてフロック領域と水相領域の両方が撮像できる確率が高く、撮像した画像においてフロック領域総面積に対して、実際の活性汚泥量との相関関係を得やすい。
【0069】
さらにこれまで活性汚泥量と水相浮遊物量とをそれぞれ別の測定手法を用いてそれぞれ測定する必要があったが、本実施形態によれば、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像後、撮像した画像を処理し、同時に算出・判定できるため、遠隔地からでも、迅速かつ的確な運転制御が実施可能となる。
【0070】
表2では、同じ活性汚泥について、10視野の画像を撮像し、に対して、それぞれの画像における管理パラメータを算出して、それを平均して、その活性汚泥の管理パラメータとするため、複数の画像を取って画像処理を実施している。同じ活性汚泥において、1視野の撮像結果から画像処理すると、誤差が出る可能性があるので、複数視野の撮像結果の平均値を画像処理結果として用いるのが好ましい。できるだけ多くの観察領域の画像を用いて判断を行なうことで、判断精度が向上する。多くの観察領域の画像を得るために、後述する観察用治具44および送液手段75を用いて活性汚泥を入れ替え、自動的に観察視野を増やすことが好ましい。
【0071】
さらに、一定色調もしくは一定輝度以下のフロック領域に対し、パターンマッチングなどの形状判別処理や、マスキング処理などにより、フロック領域内で酸素供給が不足して嫌気状態となり、輝度が低い特定のフロック面積や個数、その他糸状性細菌や微小動物数などを数値化してもよい。さらに、微小動物の移動量などを計測する場合には、位相差画像・明視野画像のいずれか、または両方について、時間を置いて撮影した複数の画像を取得し、これら時間差のある画像を差分処理した結果に差が出る領域に微小動物がいた(入れ替わった)という判断を行い、距離や時間を測ることで、微小動物の移動量を求めることができる。画像の取得間隔や、連続取得した画像の計算間隔を変えることで単位時間を調整してもよい。さらに、微小動物の大きさや特徴を記憶することで、追尾も可能となる。
【0072】
本実施形態において、撮像する際に、積極的に活性汚泥の厚みを変えることで、活性汚泥形状を厚み方向に変化させ、変化前後の画像におけるフロック領域の変化度合いに応じて、活性汚泥の密度や凝集度合いや構成成分などを定量評価してもよい。厚み方向の変化は複数段階行ってもよい。各段階における画像を、画像処理の際に合成することで、活性汚泥の形状を二次元だけでなく三次元で評価することが可能となる。
【0073】
さらに、積極的に活性汚泥の厚みを変えることで、活性汚泥のフロック領域と重なって、1段階の厚みでの画像処理の際に認識できていなかった水相浮遊物量を測定でき、精度が向上するため好適である。
【0074】
なお、活性汚泥量が多すぎて、そのままでは撮像が困難な場合は、活性汚泥を希釈してから撮像すれば良いが、希釈操作で浸透圧変化により、活性汚泥の凝集状態を変化させないために、撮像する活性汚泥を採取した際の膜ろ過水を用いたり、同程度の塩濃度になるよう調製した食塩水にて、浸透圧を揃えて希釈すると良い。
【0075】
更に活性汚泥を遠心分離した後の水を撮像することで、水相領域のみを撮像したり、膜ろ過したろ過水を撮像し、遠心分離した後の水相領域との差分を数値化することで、膜ろ過により膜に捕捉されやすい水相浮遊物量を監視してもよい。
【0076】
その他、活性汚泥に気泡が混入したり、活性汚泥槽から採取した活性汚泥が、撮像前に沈降分離して、活性汚泥が活性汚泥槽内から採取した時に比べ不均一になることを避けるため、事前に、脱気を行なったり、攪拌をしてから撮像してもよい。
【0077】
本実施形態では、評価結果を用いて、膜分離活性汚泥の状態を検知し、膜ろ過圧力上昇、ろ過水質悪化等を抑制するため、廃水処理条件を制御するが、制御する対象は少なくとも下記に示すいずれかの項目である。
【0078】
(A)被処理水流入濃度および流入量
(B)ろ過流量
(C)ろ過時間もしくはろ過停止時間
(D)曝気風量もしくは曝気時間
(E)栄養塩添加量
(F)薬品添加量
(G)活性汚泥量
(H)返送処理水量
(I)前処理工程の稼動条件
(J)後処理工程の稼働条件
(K)活性汚泥槽温度調整条件
(L)膜エレメントの稼動条件
(M)膜エレメント洗浄条件
(N)散気管洗浄条件
【0079】
図4に、本発明の実施形態の一例を示す。活性汚泥を光学的手段41およびカメラ43で撮像し、画像処理手段42で画像処理することにより、(i)フロック領域の総面積や、(vii)フロック領域に囲まれた一定面積以下の水相領域の面積および/またはフロック領域または水相領域に対する面積比、等について判定し、その結果が予め決められた管理範囲を逸脱する場合には、警報出力手段49で警報を出力し、それに応じて、例えば(G)活性汚泥量を制御することで、膜ろ過圧力上昇およびろ過水質悪化の抑制を行うことが可能となる。
【0080】
警報出力手段49で出力する警報とは、管理パラメータが管理範囲を逸脱したことを知らせる通知をいい、装置の制御盤にある画面に文字が表示される機能などがある、緊急度に応じて表示方法を変えたり、音を用いたりしてもよく、また通信機器を用いて遠隔地で受信してもよい。
【0081】
ここで、判定結果の精度を高めるために、(i)と(vii)がともに管理範囲を逸脱した場合に、警報出力手段49で警報を出力してもよい。さらに、警報出力の表示を段階的に設け、(i)と(vii)のどちらかのみ管理範囲を逸脱する場合には、お知らせ表示のみとし、(i)と(vii)がともに管理範囲を逸脱した場合に、制御が必要であることを表示するよう設定してもよい。
【0082】
活性汚泥の状態は、被処理水質、膜分離活性汚泥プロセスおよびその上流の処理プロセスの運転条件に影響され変化する。活性汚泥の状態を正確に把握するためには、連続的もしくは定期的に膜分離活性汚泥槽から活性汚泥を採取し、光学的手段41およびカメラ43で撮像し、画像処理手段42で画像処理する必要がある。そこで、本発明の活性汚泥可視化装置52には膜分離活性汚泥槽3から活性汚泥を採取する吸引ポンプ47が設置され、活性汚泥可視化制御部51からの信号により、連続的もしくは定期的に活性汚泥を採取し、活性汚泥の状態を可視化するのが好ましい。ここでいう定期的とは、1日1回予め設定した時間、もしくは、3時間毎に1回、などが例示される。
【0083】
以下に、画像情報から得られた管理パラメータを用いた制御の一例を示す。
膜分離活性汚泥槽の生物処理において、生物処理を安定化させるためには、流入する廃水1に含まれる有機物量とそれを分解する膜分離活性汚泥槽3における活性汚泥量とのバランスを一定に整えることが重要である。ここでいう有機物量とは、一般的な水質指標であるBOD(生物学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)、もしくはTOC(全有機炭素量)で表されるものを用い、単位活性汚泥量あたりの負荷、例えばBOD/MLSS負荷を算出し、0.05~0.2kgBOD/kgMLSS・日程度、より好ましくは0.07~0.15kgBOD/kgMLSS・日程度に管理する。本実施形態によれば、(vi)水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比を監視し、フロック領域の面積や面積比が管理範囲を上回っている場合には、活性汚泥内の水相浮遊物が増加し汚泥状態が悪化していると判定し、警報として、例えば「BOD/MLSS負荷が管理範囲内であるか確認してください」と表示し、その表示内容に応じて、(A)被処理水である廃水1のBOD濃度や流入量や、(G)活性汚泥量が、適正範囲であるかを確認し、管理範囲を上回っている場合には、範囲内になるよう制御することが例示される。
【0084】
ここで、活性汚泥内の水相浮遊物の増加を監視するために、(vi)水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比、の他に、(ix)一定色調もしくは一定輝度以下の水相領域の面積および/またはフロック領域または水相領域に対する面積比を用いてもよく、判定精度を上げるため、これらの両方を用いてもよい。
膜分離活性汚泥法における一般的な活性汚泥量の管理範囲は3,000~25,000mg/Lで、より好ましくは7,000~18,000mg/L程度であり、(i)フロック領域の総面積が管理範囲を上回っている場合には、活性汚泥量が増加していると判定し、範囲内になるよう活性汚泥をひき抜き、(G)活性汚泥量を調節してもよい。
【0085】
さらに、BOD/MLSS負荷を整えるため、予備槽21から予備槽送液ポンプ23を用いて、膜分離活性汚泥槽3の(G)活性汚泥量を調整してもよい。さらに膜分離活性汚泥槽3の活性汚泥の状態を改質するために、廃水が膜分離活性汚泥槽内に滞留する時間を示すHRT(水理学的滞留時間)や、活性汚泥が膜分離活性汚泥槽内の活性汚泥が、新たに生成した活性汚泥によって全量入れ替わるのに必要な時間を示すSRT(固形物滞留時間)に応じて、(I)前処理工程として予備槽21を用いて馴養した種汚泥を膜分離活性汚泥槽3に移送し、活性汚泥を補充してもよい。また、予備槽21を脱窒槽として用いている場合、予備槽送液ポンプ23を用いて、活性汚泥を循環させ、一部入れ替えることなども好適である。
【0086】
また、システム構成によっては、稼動膜面積を調節するため、一時的に膜分離活性汚泥槽3の槽内に浸漬している膜エレメントの一部を封止したり、複数の膜エレメントが系列毎に配置され、それぞれの系列に吸引ポンプ9がついている場合には、一部の系列の吸引ポンプ9の流量を調整または停止したりすることで、(B)ろ過流量を調整し、(L)膜エレメントの稼動条件を制御することで、膜面積あたりのろ過流量を示す膜ろ過流束を変更するとともに、(A)被処理水流入濃度および流入量を調整し、BOD/MLSS負荷を整えてもよい。
【0087】
さらには、図示しないが、一時的にろ過水槽4から膜分離活性汚泥槽3へろ過水5を返送することで、(H)返送処理水量を増減させて、(A)被処理水流入濃度および流入量を調整し、BOD/MLSS負荷を整えてもよい。
【0088】
また、図示しないが、生物処理活性を維持するために、温調機能を付設している場合には、警報として「温度調整条件を確認してください」と表示し、設定温度の調整を行なう等、(K)活性汚泥槽温度調整条件を制御することも好ましい。例えば、活性汚泥槽内の温度が低下もしくは上昇し、活性汚泥内の微生物が、流入水中の有機物を生分解処理するために至適な温度範囲から外れた場合には、微生物の生分解能力が低下し、微生物の自己防衛機能が働いて代謝物を発生したり、死滅したりして、水相浮遊物を増加させやすくなるため、活性汚泥槽の温度を至適な温度範囲になるよう上げるもしくは下げることで、微生物の生分解能力を維持し、水相浮遊物を増加させることなく安定運転可能となる。生物処理には有機物だけでなく、窒素やリンなどの微量成分も必要であり、図4に示す(E)栄養塩添加槽12から添加する栄養塩量を追加調整している場合、被処理水である廃水1の水質が変化し、一時的に窒素やリンなどの微量成分が不足することがあり、それによって汚泥の状態が悪化し、フロックが分散したり、水相浮遊物量が増えることがある。そこで、(vi)水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比を監視し、フロック領域の面積や面積比が管理範囲を上回っている場合には、活性汚泥内の水相浮遊物が増加し汚泥状態が悪化していると判定し、図4に示す(E)栄養塩添加槽12から添加する栄養塩量を追加調整するよう警報を出力してもよい。
【0089】
その他、新たな薬品添加を追加する場合に、薬品添加量を決めるために、添加前後での、膜分離活性汚泥槽3の活性汚泥の(vi)水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比の変化量に応じて(F)薬品添加量を決定するのも好適である。
【0090】
また、廃水1の水質変動や膜分離活性汚泥槽3における活性汚泥による生物処理反応の過程で、膜分離活性汚泥槽3の活性汚泥のpHが酸性やアルカリ性に変動する場合がある。そこで、(vi)水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比が管理範囲を上回っている場合には、活性汚泥内の水相浮遊物が増加し汚泥状態が悪化していると判定し、「pHを確認して下さい」と警報が出力するようにしてもよい。さらに、警報出力と制御機器を用いて、図4に示す薬品添加槽14のpH計と連動させ、膜分離活性汚泥槽3の活性汚泥のpHが酸性やアルカリ性に変動している場合には、図4に示す薬品添加槽14から、(F)薬品添加量の調整として、中和のための酸(例えば塩酸や硫酸)、アルカリ(例えば水酸化ナトリウム)を添加するよう制御してもよい。ここで、(vi)の結果が、管理範囲を超えた場合に、出力する警報内容の選択は、予め別に調査した過去の実績に基づいて、最も多く発生したトラブルの順でもよいし、予め登録しておいた膜分離活性汚泥槽3に設けた各種センサーの順でもよい。さらに、警報出力を別途記録し、その処理工程において発生しやすいトラブルの順になるよう、逐次変更してもよい。薬液としては、活性汚泥のpH調整用に用いる酸、アルカリの他に、膜分離活性汚泥槽3の槽内もしくは上流で、廃水1に添加し、水相浮遊物や溶解性物質を予め凝集させる凝集剤や、活性汚泥の発泡を抑制するための消泡剤などが例示される。
【0091】
また、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像および画像処理を行い、活性汚泥の水相浮遊物量を判定し、その結果に応じて、凝集剤を汚泥に添加する際には、まず、(A)被処理水流入量および(B)ろ過流量低減操作を行い、その後、(F)凝集剤添加操作を行うことが好ましい。これは、凝集剤自体が膜を詰まらせることを避けるため、ろ過する前に、汚泥と凝集剤を十分混合させ、水相浮遊物をフロックに取り込み、膜の孔径より大きく、膜ろ過に適したフロックにしてから、膜ろ過を行うためである。
【0092】
凝集剤添加後に、再び膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像および画像処理を行い、活性汚泥の水相浮遊物量を(vi)水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比を判定し、管理基準内になったことを確認してから、(A)被処理水流入量および(B)ろ過流量を低減前の条件に戻すことで、凝集剤自体が膜を詰まらせることなく、ろ過運転継続が可能となる。
【0093】
この他にも、本発明により、運転条件変更前後で、活性汚泥を光学的手段で撮像および画像処理を行うことで、従来の水質分析機器を用いた分析を行なわなくても、即時にその効果を判定することができるため、条件変更にかかる時間が大幅に短縮される効果がある。
【0094】
長期間、ろ過膜を使用すると、それまでに蓄積した膜面の付着物で、ろ過圧力が上昇しやすくなる。そこで、定期的に、膜面付着物を一旦除去するために、次亜塩素酸ナトリウムや無機酸などの薬品を洗浄薬品添加槽16に入れて、膜分離活性汚泥槽3の槽内に浸漬している(M)膜エレメントを洗浄したり、使用期間によっては、膜分離活性汚泥槽3の槽内に浸漬している膜エレメントを交換したりすることもある。
【0095】
このような場合にも、本実施形態により、洗浄や交換前後で、活性汚泥へ悪影響がないことを監視し、万が一、悪影響がある場合には、洗浄条件を変更したり、洗浄後に、先に凝集剤やpH中和のための薬品を添加し、汚泥の状態を整えてから、ろ過運転を再開する制御を選択することも可能である。
【0096】
その他、ある特定の膜エレメントのみ定期的にろ過圧力上昇が見られる場合にも、その周囲の活性汚泥を採取し、(viii)一定色調もしくは一定輝度以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比を監視し、該当するフロック領域の面積や面積比が管理範囲を上回っている場合には、その膜エレメントの下方にある散気管が詰まっている可能性が考えられるため、エアーポンプ7の流量を調整して(N)散気管8を洗浄したり、散気管を構成する例えばラバー樹脂部材を交換したりすることも好適に行われる。
【0097】
他方で、膜分離活性汚泥槽3の活性汚泥の状態に応じて、吸引ポンプ9の(C)ろ過時間もしくはろ過停止時間を調整したり、エアーポンプ7の(D)曝気風量もしくは曝気時間を増減したり、間欠的に調整してもよい。さらに、(C)ろ過時間もしくはろ過停止時間と(D)曝気風量もしくは曝気時間をそれぞれ組み合わせて調整することも好適である。
【0098】
本実施形態によれば、連続的もしくは定期的に活性汚泥を撮像することで、(viii)一定色調もしくは一定輝度以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比を監視し、フロック領域の色調が茶色から黒色に変化している場合には、「活性汚泥槽内の溶存酸素濃度が低下している可能性があります」と警報を表示させ、その表示に基づいて、活性汚泥槽内の溶存酸素濃度を測定し、エアーポンプの風量が管理範囲より低下していないかを確認し、風量に問題がなければ、散気管の目詰まりにより、槽内の一部で、空気供給の偏りが起きている可能性があるため、(N)散気管洗浄を実施するとよい。散気管8が複数系列ある場合には、洗浄する順番を決めるために、膜分離活性汚泥槽3の複数箇所の活性汚泥を採取し、それぞれ(viii)一定色調もしくは一定輝度以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比を判定し、そのうち管理範囲を上回っている場所がある場合には、その近傍の散気管が詰まっている可能性が考えられるため、優先的に、エアーポンプ7の流量を調整して、その近傍の散気管8を洗浄したり、散気管を構成する例えばラバー樹脂部材を交換したりすることも好適である。
【0099】
これらの他にも、(A)被処理水流入濃度および流入量が変動しやすい廃水処理施設の場合、膜分離活性汚泥槽3の活性汚泥の状態へ悪影響がないことを監視しながら、(A)被処理水流入濃度および流入量に応じて、吸引ポンプ9の(C)ろ過時間もしくはろ過停止時間を調整したり、エアーポンプ7の(D)曝気風量もしくは曝気時間を増減したり、間欠的に調整してもよい。さらに、(C)と(D)をそれぞれ組み合わせて調整してもよい。
【0100】
被処理水に色素成分が含まれ、膜分離活性汚泥槽3の後段に、脱色工程がある場合には、膜分離活性汚泥槽3の活性汚泥を採取し、(viii)一定色調もしくは一定輝度以下のフロック領域の面積および/または水相領域またはフロック領域に対する面積比を判定し、管理範囲を上回った場合には、「後処理工程の稼動条件を確認してください」と表示され、図示はしないが、(J)後処理工程として、例えば脱色用薬品の添加装置と連動させて、必要な時のみ添加されるよう制御してもよい。これにより、薬品添加量が最適化され、薬品使用量の削減にもつながる。
【0101】
また本実施形態によれば、予め通常のフロック形状を記憶させておき、活性汚泥内に通常とは異なる不定形な異物が増加している場合、(I)前処理工程を確認するよう警報が出力され、それに基づいてスクリーンの状態を確認し、スクリーンの目詰まりによる被処理水のバイパス流入がないかを確認するなど、膜分離活性汚泥処理の前段の工程監視にも好適である。
【0102】
図5は、本発明の一つの実施形態における活性汚泥を連続観察する際に用いる観察用治具44の構成を模式的に示す。観察用治具44は、架台71に載置された上下1対の、例えば、透明ガラスやアクリル樹脂などの一対の透明部材72を対向して配置した0.01~0.1mmの間隔の評価流路74と、評価流路に水処理槽に直結された送液ライン46から評価流路74に連通した活性汚泥搬送流路73からなる。評価流路74に活性汚泥70を送り込む送液手段75と、評価流路74を通して、光学的手段41およびカメラ43で、活性汚泥70を撮像する。なお、光学的手段41は、レンズ41aと、活性汚泥70の位相差像と明視野像を切り替えて観察するための位相差・明視野切替・光学フィルタ手段41bおよび光源41cを有する。観察用治具44の活性汚泥搬送流路73および、評価流路74の間隙を維持するための部材の材質は、特に限定されないが、加工しやすいアクリル樹脂やステンレスなどの金属が好ましく、耐薬品性、耐磨耗性からステンレス(SUS)316製が好ましい。
【0103】
ここで活性汚泥を連続観察する際に用いる観察用治具44の動作について説明する。
膜分離活性汚泥槽3から送液手段75により、活性汚泥70が活性汚泥搬送流路73を介して、架台71に載置された透明部材72で形成された評価流路74に送り込まれる。送液手段75は、送液量を制御する送液制御手段(図示しない)を備えている。送液手段75は事前に図示しない容器に採取した活性汚泥70を送液するようにしてもよく、膜分離活性汚泥槽3に設置した可動式の採取口53を介して採取してもよい。送液制御手段は、円滑に活性汚泥70を送り込むことが出来れば特に限定されないが、加速や減速または一定速度で送液するなど速度を選択できることが好ましく、撮像時、送液を一定時間停止するのが好ましい。撮像時に送液を一定時間停止する代わりに、評価流路74の両端(活性汚泥の入り口と出口)を物理的に閉塞してもよい。物理的に閉塞するために、例えば、透明流路の両端に電磁弁を設けてもよい。送液手段75は、外部からの電気信号によって送液や停止、または送液速度を制御できるポンプなどが望ましいがこれに限定されるものではない。撮像時には、活性汚泥の送液を一時停止して一定時間放置、あるいは、一時的に、評価流路74の入り口側と出口側を塞ぐ電磁弁などの物理的閉塞手段を用いて、活性汚泥70の流れを止めて撮像する。このように、活性汚泥70の流れが停止している状態で撮像することで、精度よく、フロック領域と水相領域を区別し、水相の浮遊物量を検知する。
【0104】
評価流路74を構成する一対の透明部材72の間隙の間隔は、特に限定されるものではないが、フロックの大きさを考慮すると、0.01~0.1mmが好適である。さらに、評価流路74を構成する透明部材72の間隔には0.01~0.10mmの隙間を設けた部分に向けて流路が狭くなるように傾斜を設けるのも好適である。活性汚泥送液時の詰まりを低減するために、間隙の間隔を調整するための調整機能を付設し、活性汚泥送液時と観察時とで、透明部材72の間隙を変動させるのも好適である。評価流路74の隙間を変動させることで、観察時のみ隙間の間隔を好適に保ち、それ以外の場合は隙間を大きく広げ、流路での活性汚泥の詰まりを防ぐことが可能となる。さらに、先述の通り、観察時に、積極的に流路の厚みを変え、活性汚泥形状を厚み方向に変化させることで、変化前後の画像におけるフロック領域の変化度合いを調べ、その度合いに応じて活性汚泥の密度や凝集度合いや構成成分などを定量評価可能となるため好適である。評価流路74の隙間を可変させる調整機能は、特に限定されるものではなく、電気信号もしくは手動で、隙間の上下方向の厚みを変更するとよい。また、流路の厚みを一定にして、透過させる光の強度や種類を変えることで、活性汚泥の厚み方向における密度や凝集度合いや構成成分などを位置情報とともに、定量化しても構わない。特に、蛍光色素などで事前に微生物をマーキングし、蛍光顕微鏡を用いて、マーキングした微生物の密度、凝集度合いなどを位置情報とともに定量化することも好適である。なお、膜分離活性汚泥槽3から採取される活性汚泥は、活性汚泥の攪拌状況により、槽の底部では活性汚泥が滞留していたり、槽の水面付近では油分のような浮上しやすい成分が多いなど、活性汚泥の状態の違いがある可能性があるため、槽内における平均的な状態の活性汚泥を採取するのが好ましい。そこで膜分離活性汚泥槽の深さ方向の任意の場所から活性汚泥を採取できるよう採取口53は深さ方向に可動式となっており、これにより、膜分離活性汚泥槽の深さ方向に平均的な活性汚泥を採取することが可能となる。例えば、三種類の深さから採取し、各深さの活性汚泥におけるフロック領域総面積の差が大きくなってきた場合には、攪拌のための散気管が一部詰まり、活性汚泥の攪拌状況に偏りが生じたと判断し、(N)散気管8を洗浄したり、散気管を構成するラバー樹脂部材を交換したりしてもよい。
【0105】
採取方法は、図示しないが、例えば、3種類の長さの異なる採取用チューブを取り付けた3個の採取口を活性汚泥槽に浸漬させてもよく、または、予め深さ方向に、3箇所の開閉弁を設けた採取口を有する採取管を活性汚泥槽に浸漬させて、予め設定した時間に3箇所のうち1箇所の開閉弁が開き、残りは閉じた状態で、汚泥を吸引する方法でもよい。
【0106】
この他、採取口53に伸縮機能および方向調節機能をつけて、先に活性汚泥槽の上部で、目的とする場所まで、水平方向に可動した後、深さ方向に可動して、活性汚泥を採取してもよい。
【0107】
採取口53から吸引ポンプ47および活性汚泥可視化装置52に至る活性汚泥の送液ライン46には、一般的なチューブやホースもしくは水道配管に使われる硬質ポリ塩化ビニル(HIVP)やステンレス製の配管などを用いる。チューブやホースの材質は特に限定されず、一般的なシリコン、ナイロン、ポリプロピレン、ポリウレタンなどが好適である。
透明部材72で挟む方向は上下方向に評価流路74の面に光が通過するように、評価流路74を挟んで、光源41cと観察および撮像するためのレンズ41aおよびカメラ43とを設け、適正な位置になるよう位相差・明視野切替・光学フィルタ手段41bの位置を調整する。光源41cからの光は、図中に矢印で示すように、位相差・明視野切替・光学フィルタ手段41b、評価流路74を構成する透明部材72、活性汚泥70を透過する。この光をレンズ41aが取り付けられたカメラ43で撮像する。カメラ43が取得した撮像画像は画像処理手段42に送られる。レンズ41aは必要な倍率、視野を確保できれば特に限定されるものではないが、フロックと水相浮遊物のサイズに適した倍率の対物レンズを用いるのが好ましく、それぞれ目的に応じて、倍率の異なるレンズを用いてもよい。位相差・明視野切替・光学フィルタ手段41bは、位相差画像と明視野画像とを切り替えて観察できるように、リングスリット、位相差板、専用対物レンズなどで構成されている。位相差画像を撮像する場合には、リングスリット、位相差板、専用対物レンズなどを通して観察し、明視野画像を撮像する場合には、リングスリット、位相差板、専用対物レンズなどを通さずに観察する。位相差・明視野切替・光学フィルタ手段41bは、電気信号によって切り替えを制御しても、観察者が任意のタイミングで手動により切り替えても良い。さらに、図示はしないが、評価流路において光を通過可能な面を上下左右複数方向に設け、通過させる光を複数方向からあててもよく、カメラ43で複数方向から撮像できる態様でもよい。評価流路を他方向から撮像しやすくするため、観察用治具自体もしくは評価流路を回転可能な構造にしてもかまわない。
【0108】
膜分離活性汚泥には、散気管8による気体や生物処理で発生する気泡など、気体成分が多分に含まれており、気体を含んだ状態で活性汚泥を光学的手段41およびカメラ43で撮像し、画像処理手段42で画像処理すると、正確な処理ができないことがある。そこで活性汚泥を光学的手段41に送液する送液ライン46に脱気器具45を設置し、活性汚泥の気体成分を除去することで、正確な処理が可能となる。
【0109】
脱気器具45は、一般的に気体を排出できる機構であれば、ボール弁、ニードル弁などいずれの器具でも構わないが、効率的に排気を可能とするため、送液ライン46の上部に取り付けることが好ましい。
【0110】
本実施形態は膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段41およびカメラ43からなる撮像手段で撮像し、画像処理手段42で画像処理を行い、その画像処理結果が、予め設定した管理基準範囲を逸脱した場合に異常と判定する判定手段48を有している。
【0111】
先述の通り、計測機能を搭載したカメラであれば、画像を撮像したのち、予め設定した条件で画像処理を行い、即時に画像処理要素を算出できるため、好適である。管理基準範囲の逸脱有無の判定は、過去の実績および予備検討に基づく知見を元に予め作成した判定式に基づき、カメラの制御ソフトに判定条件を搭載しても良いし、上記判定式を搭載したパソコンなどに画像処理結果を取り込み判定しても良い。これらはいずれも異常警報を出力する警報出力手段49に接続され、判定結果が予め設定した管理基準範囲を逸脱した場合に警報を出力する。モニターを設けて、判定結果に応じて、撮像した画像や画像処理条件、判定結果や警報内容を、モニターに表示してもよく、判定結果に対応した前記(A)~(N)の廃水処理条件制御方法をも表示すると、より好適である。
【0112】
本実施形態における評価頻度は、特に限定されるものではなく、膜分離活性汚泥槽が安定に運転されている場合には、例えば1日1回1時間程度評価するものとし、判定結果に応じて制御手段50により前記(A)~(N)の廃水処理条件制御を行った後は、活性汚泥の状態が安定したことを確認できるまで、連続的に実施することが好適である。
【0113】
ここで、評価としては、膜分離活性汚泥槽から汚泥を採取し、撮像し、汚泥を排出し、画像処理し、画像処理要素を算出するまでを1セットとして、これを30セット程度行うことが例示される。評価は、膜分離活性汚泥槽を運転しながら実施する。
【0114】
定期的に活性汚泥の状態変化の度合いを観察することで、より精度高く、また早期に、膜分離活性汚泥槽における活性汚泥の状態変化を捉え、異常有無の判定が可能となり、膜のろ過圧力上昇が起きる前に、活性汚泥の状態を改善するための各種廃水処理条件の制御が実施可能である。
【0115】
本実施形態において、判定結果に応じて制御手段50により前記(A)~(N)の廃水処理条件を制御するための各種制御手段を機能させるための廃水処理システム管理プログラムとしてもよく、もしくはコンピュータで読み取り可能な記録媒体として、廃水処理システムに組み込んでもよい。これにより、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像および画像処理を行い、活性汚泥量や水相浮遊物量を判定し、判定結果が、予め決めた管理基準を逸脱する場合には、警報が表示され、前記(A)~(N)の各種廃水処理条件の制御を自動的に行うことが好適である。
【0116】
また、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥の状態変化の度合いを精度高く判断するために、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥と膜ろ過水とを混合して撮像する手段、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を遠心分離して水相部分を得る手段またはろ過分離してろ過水を得る手段および得られた水相部分もしくはろ過水を撮像する手段、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を脱気してから撮像する手段について、そのうち少なくともいずれかを機能させるための廃水処理システム管理プログラムとしてもよく、もしくはコンピュータで読み取り可能な記録媒体として、廃水処理システムに組み込み、自動化することも好適である。
【0117】
本実施形態の活性汚泥可視化装置52で得られる活性汚泥撮像画像、画像処理結果は、通信機器54を介して、遠方監視サーバと接続することで、遠隔地においても活性汚泥を監視し、判定し、前記(A)~(N)の各種廃水処理条件を制御することが可能である。廃水処理システムに通常設置されている、プログラムに従って逐次制御を行う制御装置であるPLC(Programmable logic controller)やシステムを構成する各機器ごとに制御装置があり、相互に通信し監視し合う分散制御システムDCS(distributed control system)などの制御管理システムと一緒に設置し、制御管理システムから遠方監視装置を用いて、運転データをインターネット経由で取り出し、任意の場所に設置されるクラウドサーバーに設置してもよい。
【0118】
これにより、現地に作業員が行って、活性汚泥の状態を確認する必要がなく、遠隔地から膜分離活性汚泥プロセスおよびその上流の処理プロセスの運転条件を制御し、ろ過圧力上昇やろ過水質悪化などの致命的なトラブルが発生する前に、改善策を実施することが可能である。ここでいう遠隔地とは、プラント内で別の建物にある中央管理室などでもよく、地域もしくは国に1つの集中管理センターのいずれでもよい。
【0119】
本発明は、活性汚泥の状態悪化による膜のろ過圧力上昇を最低限に抑えて、長期安定運転を実現するためのものであり、特に限定されるものではない。
【実施例
【0120】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0121】
(実施例1)
繊維製造廃水処理施設において、図1A図1Cに示す膜分離活性汚泥装置(幅0.1m、奥行0.4m、高さ0.8m、槽容積0.03m3)、平膜エレメント(幅0.15m×高さ0.15m、有効膜面積0.029m、ポリフッ化ビニリデン製)6枚を設置し、ろ過条件(ろ過流束0.5m3/m/日、エア供給量27L/min/モジュール)でろ過運転を開始した。
【0122】
生物処理条件は、BOD/MLSS負荷として0.1kgBOD/kgMLSS・日とし、活性汚泥容量30L、活性汚泥量管理基準範囲は30000±3000mg/槽とした。
【0123】
運転期間中、1回/日の頻度で、図2に示す形態で、膜分離活性汚泥槽3から採取した活性汚泥を光学的手段41である顕微鏡と、カメラ43で撮像後、撮像した画像を画像処理手段42で処理し、フロック領域と水相領域とを区別し、予め設定した管理基準範囲と比較した判定結果と、管理基準範囲を逸脱した場合には警報を表示する管理プログラムを用いて管理を行った。
【0124】
運転7日程度で、画像を使った管理パラメータである(a)フロック領域総面積から算出した活性汚泥量が「34500」と表示され、「活性汚泥量を調整して下さい」と警報表示が出たため、その日のうちに、膜分離活性汚泥装置の活性汚泥引き抜きバルブを開いて、活性汚泥を5L引き抜き、その分膜分離活性汚泥処理水が補充されるよう調整した。次の日、活性汚泥を採取して、顕微鏡で撮像し、画像処理を行ったところ、活性汚泥量が「28500」と表示され警報表示は表示されなかった。
【0125】
このような運転管理を約3ヶ月継続したが、膜のろ過圧力上昇は見られなかった。
従来の活性汚泥濃度(MLSS)を用いた方法との互換性をもたせるために、フロック領域の総面積と換算活性汚泥濃度(MLSS)の相関関係を記述した検量線を用いて換算も実施したが、得られた換算値と想定した値に矛盾はなく、本発明の画像から得られた管理パラメータが妥当であることがわかった。
【0126】
(比較例1)
繊維製造廃水処理施設において、実施例1とは別の膜分離活性汚泥装置(装置構成は実施例1と同じもの)を1台設置し、実施例1と同時に、同じろ過条件(ろ過流束0.5m3/m/日、エア供給量27L/min/モジュール)でろ過運転を開始した。生物処理条件についても実施例1と同様に、BOD/MLSS負荷として0.1kg/kg・日とし、活性汚泥濃度(MLSS)管理基準範囲は10000±1000mg/Lとした。
【0127】
運転7日程度で、活性汚泥を採取し、分析機関に送付して、MLSS測定を依頼した。分析機関からは依頼してから6日後に結果報告書が届き、「11500mg/L」であったことがわかった。そこで、その日(前回の活性汚泥採取から約1週間後)に、膜分離活性汚泥装置の活性汚泥引き抜きバルブを開いて、活性汚泥を5L引き抜き、その分膜分離活性汚泥処理水が補充されるよう調整した。調整後の汚泥を採取し、分析機関に送付して測定を依頼した。分析機関からは依頼してから6日後に結果報告書が届き、「10800mg/L」であることがわかった。そこで、前回の活性汚泥採取から約1週間後に、膜分離活性汚泥装置の活性汚泥引き抜きバルブを開いて、活性汚泥を5L引き抜き、その分膜分離活性汚泥処理水が補充されるよう調整した。調整後の活性汚泥を採取し、分析機関に送付して測定を依頼した。分析機関からは依頼してから6日後に結果報告書が届き、「10300mg/L」であったことがわかった。このような運転管理を1ヶ月が経過した時点で、分析機関が繁忙期を迎え、測定結果が得られなかったため、活性汚泥引き抜きを行わず1ヶ月間運転した。するとその間に膜のろ過圧力が、運転開始時に比べ約1.5倍に上昇する傾向がみられた。そこで、前回の活性汚泥採取から約1.1ヶ月後に活性汚泥を採取し、分析機関に送付して測定を依頼したところ、分析機関からは依頼してから6日後に結果報告書が届き、「20000mg/L」と管理基準範囲を逸脱していたことがわかった。このように、活性汚泥採取から結果判定の時間差が生じることで、活性汚泥の状態を改善するための制御が手遅れになった。
【0128】
(実施例2)
繊維製造廃水処理施設において、図1A図1Cに示す膜分離活性汚泥装置(幅2m、奥行1m、高さ3m、槽容積6m3)、平膜エレメント(幅0.5m×高さ1.4m、有効膜面積1.4m、ポリフッ化ビニリデン製)100枚を、2台並べて設置し、ろ過条件(ろ過流束0.4m3/m/日、エア供給量27L/min/モジュール)でろ過運転を開始した。
【0129】
生物処理条件は、BOD/MLSS負荷として0.1kg/kg・日とし、活性汚泥容量3m、活性汚泥量管理基準範囲は30±3kg/槽とした。
2台のうち1台の膜分離活性汚泥装置については、運転期間中、1回/日の頻度で、図2に示す形態で、膜分離活性汚泥槽3から採取した活性汚泥を光学的手段41とカメラ43で撮像後、撮像した画像を画像処理手段42で処理し、画像を使った管理パラメータである(i)フロック領域総面積から活性汚泥量を、(vi)水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の水相領域に対する面積比から水相浮遊物量を算出し、予め設定した管理基準範囲と比較した判定結果と、管理基準範囲を逸脱した場合には警報を表示する管理プログラムを用いて管理を行った。
【0130】
運転3ヶ月時点で、槽内の活性汚泥を撮像したところ、画像を使った管理パラメータである(i)フロック領域総面積から算出した活性汚泥量が「28.5」、(vi)水相領域に囲まれた一定面積以下のフロック領域の水相領域に対する面積比から算出した水相浮遊物量が「25」と表示され、「BOD/MLSS負荷を確認して下さい」と警報表示が出たため、流入水質を確認したところ、BODが通常時比約1/2と低い値であった。この間、膜分離活性汚泥槽は、BOD低下前と同じろ過流量で運転していたが、徐々に差圧上昇が始まり、7日後、薬洗基準である差圧5kPaを超えていた。
【0131】
後から確認した結果、警報表示が出た2日前から、工場の定期修理で、生産ラインが停止し、BODの低い廃水のみ流入しており、その5日後には、生産ラインが再開し、BODは低下前の濃度に戻っていたことがわかった。
【0132】
一方、膜の差圧は、薬洗基準である差圧5kPaを超え、10kPa程度で横ばいになっていた。そこで、一旦、膜の薬洗を実施することとした。始めに、被処理廃水を予備槽に流入するよう切り替え、膜ろ過および曝気を停止した。膜を活性汚泥に浸漬させたまま、次亜塩素酸ナトリウム0.5%を用いて2時間薬洗した。薬洗後に、槽内の活性汚泥を撮像したところ、図6に示す画像が得られ、活性汚泥量が「28.5」、水相浮遊物量が「30」と表示され、「BOD/MLSS負荷を確認して下さい」「凝集剤添加を検討して下さい」と警報表示が出た。そこで、カチオン系高分子凝集剤を汚泥乾燥重量比1%程度添加し、2時間曝気した後、通常の膜ろ過流量の1/10で膜ろ過を再開した。活性汚泥を撮像したところ、図7に示す画像が得られ、活性汚泥量が「28.8」、水相浮遊物量が「10」と表示され、警報表示が消えたため、予備槽に流入させていた被処理廃水が膜分離活性槽に流入するよう切り替え、通常のろ過流量に戻して、膜ろ過運転を再開した。
通常のろ過流量で膜ろ過を再開した後、運転3ヶ月時点で、活性汚泥量は「27」~「33」、水相浮遊物量は「5」~「10」であり、膜の差圧上昇は見られなかった。
【0133】
(比較例2)
繊維製造廃水処理施設に設置した2台のうち残り1台の膜分離活性汚泥装置を用いて、実施例2と同様のろ過条件(ろ過流束0.4m3/m/日、エア供給量27L/min/モジュール)でろ過運転を開始した。生物処理条件も、実施例2と同様に、BOD/MLSS負荷として0.1kg/kg・日とし、活性汚泥容量3m、活性汚泥量管理基準範囲は10000±1000mg/Lとした。
【0134】
こちらの槽では、管理者が、1回/週の頻度で、活性汚泥の状態を監視するため、膜分離活性汚泥槽3から採取した活性汚泥を採取し、下水試験法(1997年版)(社団法人日本下水道協会発行)に記載の活性汚泥濃度(MLSS)測定方法に基づき、活性汚泥をガラス繊維ろ紙(アドバンテック東洋製、GC-25、公称孔径1μm)により固液分離した後、残留固形物を105~110℃で約2時間加熱乾燥し、その質量から浮遊物質濃度を算出し、水相浮遊物量を、定量ろ紙(アドバンテック東洋製、No.5C、公称孔径1μm)で固液分離したろ過液の濁度を濁度計(HACH製、2100Q)で測定した。
【0135】
運転初期は安定運転していたが、運転開始3ヶ月時点で、実施例2と同様に、工場の定期修理で、生産ラインが停止し、約1週間、BODの低い状態で、膜分離活性汚泥槽は、BOD低下前と同じろ過流量で運転していたため、実施例2と同様に、徐々に差圧上昇し、薬洗基準である差圧5kPaを超えていた。
【0136】
そのため、こちらも、実施例2と同じく、被処理廃水を予備槽に流入するよう切り替え、ろ過および曝気を停止し、膜の薬洗(2時間)を実施した。膜の洗浄条件および洗浄方法も、実施例2と同様とした。
【0137】
さらに、薬洗後のろ過運転再開前に、活性汚泥の状態を確認するため、こちらの槽では、管理者が活性汚泥を採取し、活性汚泥濃度(MLSS)を測定し、水相浮遊物量を、定量ろ紙で固液分離したろ過液の濁度を濁度計で測定した。そのため、結果が出るまで、2.5時間ろ過を再開できなかった。
【0138】
測定した結果、活性汚泥濃度(MLSS)は9500mg/L、水相浮遊物量は安定運転時の約10倍であったが、管理者の作業時間に限度があり、そのまま通常の膜ろ過流量で、ろ過運転を再開した。
【0139】
すると、ろ過運転再開直後から、膜のろ過差圧が上昇し始め、薬洗基準である差圧5kPaに到達したため、やむを得ず、ろ過を停止し、曝気のみ実施して、管理者は一旦帰宅した。
【0140】
次の日、管理者は、活性汚泥を採取し、活性汚泥濃度(MLSS)と水相浮遊物量を測定した。その結果、活性汚泥濃度(MLSS)は9500mg/L、水相浮遊物量は安定運転時の約25倍になっていた。そこで、管理者は、実施例2と同様に、カチオン系高分子凝集剤を汚泥乾燥重量比1%程度添加し、2時間曝気した後、通常の膜ろ過流量の1/10で膜ろ過を再開した。
【0141】
すると、ろ過運転再開直後から、膜のろ過差圧が上昇し始め、薬洗基準である差圧5kPaに到達したが、そのまま横ばいになる傾向が見られた。これは、前日の差圧上昇した際の影響が残っているものと考え、再び、ろ過と曝気を停止し、膜の薬洗(2時間)を実施した。
【0142】
薬洗後のろ過運転再開前に、活性汚泥の状態を確認するため、再び、管理者が活性汚泥を採取し、活性汚泥濃度(MLSS)を測定し、水相浮遊物量を、定量ろ紙で固液分離したろ過液の濁度を濁度計で測定した。
【0143】
約2.5時間後、活性汚泥濃度(MLSS)は9500mg/L、水相浮遊物量は安定運転時の約10倍であったが、管理者の作業時間に限度があり、通常の膜ろ過流量の1/10で、ろ過運転を再開した。しばらくたっても差圧上昇がみられなかったため、被処理廃水を、通常の1/10のみ、膜分離活性汚泥槽に、残りは予備槽に流入するよう調整し、管理者は帰宅した。
【0144】
次の日、管理者は、活性汚泥を採取し、活性汚泥濃度(MLSS)と水相浮遊物量を測定した。約2.5時間後、活性汚泥濃度(MLSS)は9500mg/L、水相浮遊物量は安定運転時の約10倍と、2日前と同じ状態であることがわかった。
【0145】
念のため、通常の膜ろ過流量で、ろ過運転を再開したが、予想通り、膜のろ過差圧が上昇したため、このままでは、ろ過運転が再開できないと判断し、活性汚泥を入れ替えることとした。
【0146】
実施例2に比べ、こちらの槽では、活性汚泥の状態を確認するための活性汚泥濃度(MLSS)や水相浮遊物量の測定に時間がかかり、また、活性汚泥の状態が悪化していることが判明した後でも、管理者の作業時間の都合で、汚泥状態改善が、次の日に持ち越しとなり、これらの間に、活性汚泥の維持に必要な曝気が中断による酸素不足や、被処理水の供給中断によるエサ不足などで、活性汚泥の状態悪化がより深刻化したことが、ろ過運転の再起不能につながったものと考えられる。
【0147】
(比較例3)
高分子樹脂製造廃水処理施設において、図1A図1Cに示す膜分離活性汚泥装置(幅2.5m、奥行10m、高さ3m、槽容積75m3)、平膜エレメント(幅0.5m×高さ1.4m、有効膜面積1.4m、ポリフッ化ビニリデン製)100枚からなる膜モジュールを10台設置し、ろ過条件(ろ過流束0.4m3/m/日、エア供給量27L/min/モジュール)でろ過運転を開始した。
【0148】
生物処理条件は、BOD/MLSS負荷として0.1kg/kg・日とし、活性汚泥量管理基準範囲は10000±1000mg/Lとした。
【0149】
曝気のためのエアーポンプは2台あり、膜モジュール5台にそれぞれエアー供給している。ここではA系、B系とする。
【0150】
各膜モジュールの下側に、それぞれ散気管が設置されており、モジュールを構成する全ての膜エレメントにエアーが当たり、それによって膜面が洗浄され、汚泥ケーク(活性汚泥の膜面堆積物)が堆積しにくい構造となっている。
【0151】
運転開始3ヶ月後、A系に設置されている5台の膜モジュールのみ、差圧上昇する傾向が見られたため、ろ過を停止し、原因を調査した。
【0152】
すると、A系のエアーポンプのエアー流量が、設定値より低下していることがわかった。そこで、散気管と接続する配管を外し、各エアーポンプの流量を確認した所、かはりA系のエアーポンプのエアー流量が低下していることがわかった。
【0153】
さらに、A系の散気管に、B系のエアーポンプを接続したところ、やはり、設定値より低下する傾向が見られ、A系のエアーポンプが接続されていた系列の散気管も、詰まっていることが考えられた。
【0154】
念のため、膜モジュールの膜面に汚泥ケークが形成されていないかを確認するため、槽内から引き上げて確認することとした。
【0155】
次の日、クレーン車を手配し、各エアーポンプから最も遠い位置にある膜モジュールを引き上げ、膜エレメントを1枚引き抜いて、表面を観察した。
【0156】
すると、差圧上昇が見られたA系の膜エレメントは、差圧上昇が見られていないB系の膜エレメントに比べ、膜面に汚泥ケークが広面積で形成されており、エアーが十分に当たらず、洗浄不足になっていたことがわかった。
【0157】
さらに、差圧上昇が見られたA系周辺の活性汚泥の溶存酸素濃度は、0.1~0.5mg/Lと低く、一部黒色化した汚泥も見られた。一方、差圧上昇が見られていないB系列の周辺の活性汚泥の溶存酸素濃度は、1~2mg/Lであり、汚泥の色も茶褐色であった。
【0158】
A系全ての膜エレメントを水道水で洗浄して膜面ケークを除去した後、槽に戻し、エアーポンプを再接続し、エアー供給を再開したところ、エアー流量は2台とも設定値を示し、両系列とも差圧上昇は見られなくなった。
【0159】
A系のエアーポンプの流量低下の原因は、吸気フィルターが汚れていたことであり、これを交換することで、エアー流量が回復した。
【0160】
この後、B系についても、A系と条件を合わせるため、一旦槽から引き上げ、全ての膜エレメントを水道水で洗浄した後、散気管を洗浄し、エアーポンプの吸気フィルターを交換して、運転を再開した。
【0161】
(実施例3)
比較例3と同じ膜分離活性汚泥装置において、その後、図2に示す形態で、膜分離活性汚泥槽3から採取した活性汚泥を光学的手段41とカメラ43で撮像後、撮像した画像を画像処理手段42で処理し、予め設定した管理基準範囲と比較した判定結果と、管理基準範囲を逸脱した場合には警報を表示する管理プログラムを用いて管理を行った。
【0162】
活性汚泥は、1回/日の頻度で、活性汚泥槽のA系側、B系側の各膜モジュールのエアーポンプから最も離れた場所から採取して、観察した。
【0163】
運転2ヶ月を過ぎた頃、A系周辺の汚泥において、(viii)一定色調もしくは一定輝度以下のフロック領域の水相領域に対する面積比が、管理範囲を外れ、「溶存酸素濃度を確認して下さい」「曝気風量を確認して下さい」との警報が表示された。
【0164】
A系周辺の汚泥の溶存酸素濃度を測定すると、0.8mg/Lと低くなっており、エアーポンプのエアー流量も、設定値を若干下回っていた。
【0165】
そこで、ろ過および曝気を停止し、A系のエアーポンプの吸気フィルターを交換したところ、エアー流量が設定値になることが確認された。念のため、B系のエアーポンプの吸気フィルターも交換した。
【0166】
さらに、A系の散気管に、吸気フィルターを交換した後のエアーポンプを接続したところ、エアー流量が設定値になることが確認され、B系の散気管も同様に確認できたため、今回は、散気管は洗浄せず、膜ろ過運転を再開した。
【0167】
この間、膜ろ過差圧上昇は見られず、運転3ヶ月が経過しても、安定に運転できた。
このように、活性汚泥を撮像し、連続的に監視することで、膜ろ過差圧上昇する前に、エアーポンプおよび散気管の保守管理が可能となる。
【0168】
本出願は、2017年3月28日出願の日本特許出願、特願2017-062362に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0169】
1:廃水(被処理水)
2:浸漬型膜分離ユニット
2a:平膜エレメント
2b:平膜分離機能層
2c:平膜基材
2d:フレーム
3:膜分離活性汚泥槽
4:ろ過水槽
5:ろ過水
6:原水供給ポンプ
7:エアーポンプ(空気供給装置)
8:散気管
8a:気泡
9:吸引ポンプ
10:活性汚泥引き抜きポンプ
11:引き抜き活性汚泥(余剰活性汚泥)
12:栄養塩添加槽
13:栄養塩添加ポンプ
14:薬品添加槽
15:薬品添加ポンプ
16:洗浄薬品添加槽
17:洗浄薬品添加ポンプ
18a:栄養塩添加流路切り替えバルブ
18b:栄養塩添加流路切り替えバルブ
19a:洗浄薬品流路切り替えバルブ
19b:洗浄薬品流路切り替えバルブ
20:洗浄薬品排出バルブ
21:予備槽
22:予備槽排水
23:予備槽送液ポンプ
24:予備槽排水ポンプ
25:廃水(被処理水)流路切り替えバルブ
41:光学的手段
41a:レンズ
41b:位相差・明視野切替・光学フィルタ手段
41c:光源
42:画像処理手段
43:カメラ
44:観察用治具
45:脱気器具
46:送液ライン
47:吸引ポンプ
48:判定手段(判定部)
49:警報出力手段(警報出力部)
50:制御手段
51:活性汚泥可視化制御部
52:活性汚泥可視化装置
53:採取口
54:通信機器
61:フロック領域
62:水相領域(非フロック領域)
70:活性汚泥
71:架台
72:透明部材
73:活性汚泥搬送流路
74:評価流路
75:送液手段
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7