(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】多相昇圧コンバータの制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
H02M3/155 W
H02M3/155 C
(21)【出願番号】P 2019004067
(22)【出願日】2019-01-15
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相坂 裕斗
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 祐介
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/164658(WO,A1)
【文献】特開2018-102060(JP,A)
【文献】特開2007-159315(JP,A)
【文献】特開2015-220840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれリアクトルおよびスイッチング素子を含む複数の電圧変換部と、前記複数の電圧変換部の一部に設けられて対応する前記リアクトルの温度を検出する温度センサとを含む多相昇圧コンバータを制御すると共に、前記温度センサの検出値が予め定められた制限開始温度以上であるときに前記複数の電圧変換部からの出力を制限する多相昇圧コンバータの制御装置において、
前記温度センサの検出値が前記制限開始温度未満であり、かつ前記リアクトルに前記多相昇圧コンバータに対する要求電力に応じた電流を流し続けた際の前記リアクトルの収束温度の推定値が予め定められた上限温度を超えると判定した場合、前記温度センサを含む前記電圧変換部への電流指令値を前記要求電力に応じた電流値よりも増加させると共に、前記温度センサを含む前記電圧変換部への前記電流指令値の増加分だけ、前記温度センサを含まない前記電圧変換部への電流指令値を減少させる多相昇圧コンバータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の電圧変換部を含む多相昇圧コンバータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電源と、当該電源からの電力を昇圧する昇圧コンバータと、昇圧コンバータを制御する制御部とを含む電源システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。この電源システムの昇圧コンバータは、それぞれリアクトルおよび半導体素子を有する複数の電圧変換部(コンバート部)を含む多相昇圧コンバータであり、複数の電圧変換部の一部には、リアクトルの温度を検出する温度センサが設けられている。また、電源システムの制御部は、温度センサの検出温度が予め定められた各電圧変換部の制限開始温度となった時点で各電圧変換部の出力を所定の変化率で制限する。そして、温度センサを含む電圧変換部の制限開始温度は、リアクトルの耐熱温度から求められ、温度センサを含まない電圧変換部の制限開始温度は、リアクトルの耐熱温度からリアクトルの特性のばらつきの温度を差し引いた温度とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の電源システムでは、リアクトルの温度を検出する温度センサが多相昇圧コンバータの複数の電圧変換部の一部にのみ設けられることから、コストを大幅に低減させることができる。しかしながら、温度センサを含まない電圧変換部の制限開始温度がリアクトルの特性のばらつきを考慮して定められていたとしても、当該温度センサを含まない電圧変換部において、温度センサの検出温度に基づく出力の制限が開始される前に、リアクトルの温度が耐熱温度を超えてしまうと、当該リアクトルを良好に保護し得なくなるおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は、複数の電圧変換部を含む多相昇圧コンバータにおいて、一部の電圧変換部に設けられた温度センサの検出値に基づいて、すべての電圧変換部のリアクトルを良好に保護することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の多相昇圧コンバータの制御装置は、それぞれリアクトルおよびスイッチング素子を含む複数の電圧変換部と、前記複数の電圧変換部の一部に設けられて対応する前記リアクトルの温度を検出する温度センサとを含む多相昇圧コンバータを制御すると共に、前記温度センサの検出値が予め定められた制限開始温度以上であるときに前記複数の電圧変換部からの出力を制限する多相昇圧コンバータの制御装置において、前記温度センサの検出値が前記制限開始温度未満であり、かつ前記リアクトルに前記多相昇圧コンバータに対する要求電力に応じた電流を流し続けた際の前記リアクトルの収束温度の推定値が予め定められた上限温度を超えると判定した場合、前記温度センサを含む前記電圧変換部への電流指令値を前記要求電力に応じた電流値よりも増加させると共に、前記温度センサを含む前記電圧変換部への前記電流指令値の増加分だけ、前記温度センサを含まない前記電圧変換部への電流指令値を減少させるものである。
【0007】
本開示の多相昇圧コンバータの制御装置によれば、リアクトルに多相昇圧コンバータに対する要求電力に応じた電流を流し続けることで当該リアクトルの収束温度が予め定められた上限温度を超えると想定される場合に、温度センサを含む電圧変換部のリアクトルの昇温を促進させる一方で、温度センサを含まない電圧変換部のリアクトルの昇温を抑制することが可能となる。従って、温度センサの検出値が制限開始温度を超えたときに、当該温度センサを含まない電圧変換部のリアクトルの温度が当該制限開始温度を超えないようにすることができる。この結果、一部の電圧変換部に設けられた温度センサの検出値が制限開始温度以上であるときに複数の電圧変換部からの出力を制限することで、すべての電圧変換部のリアクトルを良好に保護することが可能となる。
【0008】
また、前記制御装置は、前記温度センサの検出値が前記制限開始温度未満であり、かつ前記推定値が前記上限温度以下になると判定した場合、前記複数の電圧変換部への前記電流指令値を同一にするものであってもよい。これにより、複数の電圧変換部間でのリアクトルの温度差が大きくなるのを抑制することが可能となる。
【0009】
更に、前記電流指令値の前記増加分は、前記推定値が前記上限温度になるときの電流値と、前記要求電力に応じた電流値との差分であってもよい。これにより、温度センサを含まない電圧変換部のリアクトルの温度が、温度センサを含む電圧変換部のリアクトルの温度よりも高くなるのを極めて良好に抑制することが可能となる。
【0010】
また、前記上限温度は、前記リアクトルの耐熱温度、前記リアクトルの個体差による温度のばらつき、前記温度センサの個体差による前記リアクトルの温度のばらつき、および前記複数の電圧変換部間における前記リアクトルの温度のばらつきに基づいて定められてもよい。これにより、閾値としての上限温度をより適正な値にすることが可能となる。
【0011】
更に、前記制御装置は、前記温度センサにより検出される前記リアクトルの温度が前記制限開始温度以上である場合、前記多相昇圧コンバータに対する出力電力指令値を前記要求電力よりも低下させるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の多相昇圧コンバータの制御装置を含む車両の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本開示の多相昇圧コンバータの制御装置により実行される制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図3】多相昇圧コンバータのリアクトルを流れる電流と、一定の電流が継続して供給されたリアクトルの収束温度との関係を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、図面を参照しながら本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0014】
図1は、本開示の多相昇圧コンバータ5の制御装置(以下、「ECU」という)10を含む車両の一例である電気自動車1を示す概略構成図である。同図に示す電気自動車1は、多相昇圧コンバータ5およびECU10に加えて、モータジェネレータMGと、蓄電装置(バッテリ)2と、当該蓄電装置2に接続されると共にモータジェネレータMGを駆動する電力制御装置(以下、「PCU」という)3と、酸化ガスとしての空気と燃料ガスとしての水素との電気化学反応により電力を発生する燃料電池スタック4とを含む。
【0015】
モータジェネレータMGは、同期発電電動機(三相交流電動機)であり、当該モータジェネレータMGのロータは、伝達軸や、減速機およびデファレンシャルギヤを含むギヤ機構を介して駆動輪DWに連結されたドライブシャフトDSに連結される。モータジェネレータMGは、蓄電装置2および燃料電池スタック4の少なくとも何れか一方からの電力により駆動されてドライブシャフトDSに駆動トルクを出力すると共に、電気自動車1の制動に際してドライブシャフトDSに回生制動トルクを出力する。PCU3は、モータジェネレータMGを駆動するインバータ(駆動回路)31や、蓄電装置2からの電力を昇圧すると共にモータジェネレータMG側からの電圧を降圧することができる昇圧コンバータ32等を含む。蓄電装置2は、例えば200~400Vの定格出力電圧を有する例えばリチウムイオン二次電池あるいはニッケル水素二次電池である。
【0016】
燃料電池スタック4は、例えば固体高分子型燃料電池であり、直列に接続された多数の単セルを含む。燃料電池スタック4の各単セルには、図示しない空気供給系統からの空気と、水素供給系統(図示省略)からの水素とが供給される。燃料電池スタック4の正極端子には、正極側電力ラインPLが接続され、燃料電池スタック4の負極端子には、負極側電力ラインNLが接続される。また、燃料電池スタック4には、当該燃料電池スタック4を流れる電流Ifcを検出する電流センサ41や、燃料電池スタック4の端子間電圧Vfcを検出する電圧センサ42が設けられている
【0017】
多相昇圧コンバータ5は、燃料電池スタック4により発電された電力を昇圧してPCU3に供給する電圧変換装置であり、
図1に示すように、正極側電力ラインPLおよび負極側電力ラインNLに対して並列に接続された複数(本実施系形態では、4相)の電圧変換部5u,5v,5wおよび5xを含む。各電圧変換部5u,5v,5wおよび5xは、リアクトルLu,Lv,LwまたはLxと、それぞれトランジスタおよび還流ダイオードを含むIGBT等のスイッチング素子Su,Sv,SwまたはSxと、ダイオードDu,Dv,DwまたはDxと、対応するリアクトルLu,Lv,LwまたはLxを流れる電流を検出する電流センサ51u,51v,51wまたは51xとを含む。本実施形態において、リアクトルLu,Lv,LwおよびLx、スイッチング素子Su,Sv,SwおよびSx、ダイオードDu,Dv,DwおよびDxは、それぞれ互いに同一の諸元を有するものである。また、複数の電圧変換部5u,5v,5wおよび5xのうち、電圧変換部5uには、リアクトルLuの温度Tuを検出する例えばサーミスタ等の温度センサ55uが設けられ、電圧変換部5xには、リアクトルLxの温度Txを検出する例えばサーミスタ等の温度センサ55xが設けられている。更に、多相昇圧コンバータ5は、当該多相昇圧コンバータ5の出力電圧を平滑化する平滑コンデンサ58と、平滑コンデンサ58の端子間電圧すなわち昇圧後電圧VHを検出する電圧センサ59とを含む。
【0018】
ECU10は、図示しないCPUやROM,RAM等を含むマイクロコンピュータである。ECU10は、モータジェネレータMGのロータの回転位置を検出する図示しない回転位置センサ、PCU3に設けられた各種センサ、燃料電池スタック4の電流センサ41および電圧センサ42、多相昇圧コンバータ5の電流センサ51u-51xおよび電圧センサ59の検出値等を入力し、これらの検出値等に基づいて多相昇圧コンバータ5の各スイッチング素子Su-Sxをスイッチング制御すると共に、PCU3のインバータ31および昇圧コンバータ32を制御する。また、ECU10は、多相昇圧コンバータ5の温度センサ55u,55xからリアクトルLu,Lxの温度Tu,Txを示す信号を入力する。なお、ECU10の機能は、複数の電子制御装置により提供されてもよい。
【0019】
次に、
図2および
図3を参照しながら、ECU10による多相昇圧コンバータ5の制御手順について説明する。
図2は、ECU10により所定時間おきに繰り返し実行される昇圧制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0020】
図2のルーチンの開始に際して、ECU10は、別途設定したモータジェネレータMGの入出力電力Pmおよび蓄電装置2の充放電電力Pbat、燃料電池スタック4の電圧センサ42からの電圧Vfc、多相昇圧コンバータ5の温度センサ55u,55xからの温度Tu,Tx等の制御に必要なデータを取得する(ステップS100)。次いで、ECU10は、温度センサ55u,55xからの温度Tu,Txのうちの高い方が予め定められた制限開始温度Tref未満であるか否かを判定する(ステップS110)。制限開始温度Trefは、多相昇圧コンバータ5のリアクトルLu,Lv,LwおよびLxの耐熱温度Tmaxに基づいて予め定められ、本実施形態では、例えば当該耐熱温度Tmaxよりも若干低い温度とされる。
【0021】
ステップS110にて温度Tu,Txのうちの高い方が制限開始温度Tref未満であると判定した場合(ステップS110:YES)、ECU10は、モータジェネレータMGの入出力電力Pmから蓄電装置2の充放電電力Pbatを減じた値を多相昇圧コンバータ5に対する要求電力Pfdc*に設定する(ステップS120)。更に、ECU10は、ステップS120にて設定した要求電力Pfdc*をステップS100にて入力した燃料電池スタック4の電圧Vfcおよび多相昇圧コンバータ5における電圧変換部5u-5xの相数(本実施形態では、4)で除した値を各電圧変換部5u-5xへの電流指令値Iu*,Iv*,Iw*,Ix*のベース値であるベース電流値Ibに設定する(ステップS130)。
【0022】
ステップS130にてベース電流値Ibを設定した後、ECU10は、当該ベース電流値Ibおよび予め定められた関数とから、リアクトルLu-Lxに要求電力Pfdc*に応じたベース電流値Ibの電流を流し続けた際の当該リアクトルLu-Lxの収束温度の推定値である推定収束温度Tzを算出する(ステップS140)。ステップS140では、
図3に示すように、一定の値の電流を流し続けた際のリアクトルLu-Lxの収束温度が電流値の増加に応じて指数関数的に高まるという実験・解析結果を踏まえて、次式(1)に示す関数が用いられる。
Tz=C・e
B・
Ib …(1)
ただし、式(1)において、“C”および“B”は、実験・解析を経て定められる定数である。なお、ステップS140にて用いられる関数としては、電流値と推定収束温度Tzとの関係を適正に示すものであれば、任意の関数が採用され得ることはいうまでもない。
【0023】
続いて、ECU10は、ステップS140にて算出した推定収束温度Tzが予め定められた上限温度Tzlimを超えているか否かを判定する(ステップS150)。上限温度Tzlimは、各種ばらつきを考慮しながらリアクトルLu,Lv,LwおよびLxの耐熱温度Tmaxに基づいて予め定められた閾値である。本実施形態において、上限温度Tzlimは、上記耐熱温度Tmaxから、それぞれ実験・解析を経て定められるリアクトルLu-Lxの個体差による温度のばらつきTL、温度センサ55u,55xの個体差によるリアクトル温度のばらつきTS、および複数の電圧変換部5u-5x間におけるリアクトル温度のばらつきTP(ただし、TL,TSおよびTPは、何れも正の値である。)を減じたものである(Tzlim=Tmax-TL-TS-TP)。なお、上述の制限開始温度Trefは、上限温度Tzlimと同一の値とされてもよい。
【0024】
ステップS150にて推定収束温度Tzが上限温度Tzlimを超えると判定した場合(ステップS150:YES)、ECU10は、次式(2)に従い電流増加量αを設定する(ステップS160)。
α=|1/B・loge(Tzlim/C)-Ib| …(2)
電流増加量αは、上記(1)の関数から得られる推定収束温度Tzが上限温度Tzlimになるときの電流値(=1/B・loge(Tzlim/C))と、要求電力Pfdc*
に応じたベース電流値Ibとの差分を示すものである。なお、推定収束温度Tzが上限温度Tzlimになるときの電流値は、一定値であり、予め算出されている。これに対して、ステップS150にて推定収束温度Tzが上限温度Tzlim以下になると判定した場合(ステップS150:NO)、ECU10は、値0を電流増加量αに設定する(ステップS165)。
【0025】
ステップS160またはS165の処理の後、ECU10は、ステップS130にて設定したベース電流値Ibに電流増加量αを加算した値を温度センサ55uまたは55xを含む電圧変換部5u,5xに対する電流指令値Iu*,Ix*に設定すると共に、ステップS130にて設定したベース電流値Ibから電流増加量αを減じた値を温度センサ55u,55xを含まない電圧変換部5v,5wに対する電流指令値Iv*,Iw*に設定する(ステップS170)。そして、ECU10は、多相昇圧コンバータ5の電圧変換部5u-5xのリアクトルLu-Lxを流れる電流がステップS170に設定した電流指令値Iu*-Ix*になるようにスイッチング素子Su-Sxをスイッチング制御し(ステップS180)、本ルーチンを一旦終了させる。
【0026】
一方、ステップS110にて温度センサ55u,55xからの温度Tu,Txのうちの高い方が制限開始温度Tref以上であると判定した場合(ステップS110:NO)、ECU10は、その時点で
図2のルーチンを終了させ、多相昇圧コンバータ5の電圧変換部5u-5xからの出力を制限するための図示しないルーチンを実行する。本実施形態において、温度Tu,Txのうちの高い方が制限開始温度Tref以上である場合、ECU10は、温度センサ55u,55xからの温度Tu,Txのうちの高い方が予め定められた制限終了温度以下になるまで、多相昇圧コンバータ5に対する出力電力指令値を実際の要求電力Pfdc*よりも低下させ、当該出力電力指令値を多相昇圧コンバータ5における電圧変換部5u-5xの相数(本実施形態では、4)で除した値を各電圧変換部5u-5xへの電流指令値Iu*-Ix*に設定する。これにより、各電圧変換部5u-5xのリアクトルLx-Luの降温を促進させて当該リアクトルLx-Luを保護することが可能となる。
【0027】
上述のようなステップS100-S180の処理が繰り返し実行され、ステップS110およびステップS150の双方で肯定判定がなされる間、温度センサ55u,55xを含む電圧変換部5u,5xへの電流指令値Iu*,Ix*は要求電力Pfdc*に応じたベース電流値Ibよりも電流増加量αだけ大きい値となり、温度センサ55u,55xを含まない電圧変換部5v,5wへの電流指令値Iv*,Iw*はベース電流値Ibよりも電流増加量αだけ小さい値となる。これにより、リアクトルLu-Lxに多相昇圧コンバータ5に対する要求電力Pfdc*に応じたベース電流値Ibの電流を流し続けることで当該リアクトルの収束温度(推定収束温度Tz)が上限温度Tzlimを超えると想定される場合に、温度センサ55u,55xを含む電圧変換部5u,5xのリアクトルLu,Lxの昇温を促進させる一方で、温度センサ55u,55xを含まない電圧変換部5v,5wのリアクトルLv,Lwの昇温を抑制することが可能となる。従って、温度センサ55uまたは55xにより検出された温度TuまたはTxが制限開始温度Trefを超えたときに、当該温度センサ55u,55xを含まない電圧変換部5v,5wのリアクトルLv,Lwの温度が当該制限開始温度Trefを超えないようにすることができる。この結果、電圧変換部5u,5xのみに設けられた温度センサ55uまたは55xの検出値が制限開始温度Tref以上であるときに複数の電圧変換部5u-5xからの出力を制限することで、すべての電圧変換部5u,5v,5wおよび5xのリアクトルLu-Lxを良好に保護することが可能となる。
【0028】
また、上記ステップS150にて否定判定がなされる間には、複数の電圧変換部5u-5xへの電流指令値Iu*-Ix*が互いに同一の値(=ベース電流値Ib)に設定される(ステップS165,S170)。これにより、複数の電圧変換部5u-5x間でのリアクトルLu-Lxの温度差が大きくなるのを抑制することが可能となる。
【0029】
更に、
図2のルーチンでは、ステップS150にて肯定判断がなされた場合、推定収束温度Tzが上限温度Tzlimになるときの電流値と要求電力Pfdc*に応じたベース電流値Ibとの差分が電流増加量α(ベース電流値Ibに対する電流指令値Iu*,Ix*の増加分)に設定される(ステップS160)。これにより、温度センサ55u,55xを含まない電圧変換部5v,5wのリアクトルLv,Lwの温度が、温度センサ55u,55xを含む電圧変換部5u,5xのリアクトルLu,Lxの温度Tu,Txよりも高くなるのを極めて良好に抑制することが可能となる。
【0030】
また上限温度Tzlimは、リアクトルLu-Lxの耐熱温度Tmax、リアクトルLu-Lxの個体差による温度のばらつきTL、温度センサ55u,55xの個体差によるリアクトル温度のばらつきTS、および複数の電圧変換部5u-5x間におけるリアクトル温度のばらつきTPに基づいて定められる。これにより、閾値としての上限温度Tzlimをより適正な値にすることが可能となる。
【0031】
以上説明したように、多相昇圧コンバータ5の制御装置であるECU10は、それぞれリアクトルLu,Lv,LwまたはLxおよびスイッチング素子Su,Sv,SwまたはSxを含む複数の電圧変換部5u,5v,5wおよび5xと、一部の電圧変換部5u,5xに設けられて対応するリアクトルLuまたはLxの温度TuまたはTxを検出する温度センサ55u,55xとを含む多相昇圧コンバータ5を制御するものである。また、ECU10は、温度センサ55u,55xの少なくとも何れか一方の検出値が予め定められた制限開始温度Tref以上であるときに複数の電圧変換部5u-5xからの出力を制限する。そして、ECU10は、温度センサ55u,55xの少なくとも何れか一方の検出値が制限開始温度Tref未満であり、かつリアクトルLu-Lxに多相昇圧コンバータ5に対する要求電力Pfdc*に応じたベース電流Ibを流し続けた際のリアクトルLu-Lxの収束温度の推定値である推定収束温度Tzが予め定められた上限温度Tzlimを超えると判定した場合(ステップS110:YES,S150:YES)、温度センサ55u,55xを含む電圧変換部5u,5xへの電流指令値Iu*,Ix*を要求電力Pfdc*に応じたベース電流値Ibよりも電流増加量αだけ増加させると共に、温度センサ55u,55xを含まない電圧変換部5v,5wへの電流指令値Iv*,Iw*を当該電流増加量αだけ減少させる(ステップS160,S170)。これにより、電圧変換部5u,5xのみに設けられた温度センサ55u,55xの検出値が制限開始温度Tref以上であるときに複数の電圧変換部5u-5xからの出力を制限することで、すべての電圧変換部5u,5v,5wおよび5xのリアクトルLu-Lxを良好に保護することが可能となる。
【0032】
なお、多相昇圧コンバータ5は、2つ、3つまたは5つ以上の電圧変換部を含むものであってもよい。また、何れか1つの電圧変換部にのみリアクトルの温度を検出する温度センサが設けられてもよく、多相昇圧コンバータ5における温度センサの数は、電圧変換部の数の半分以下であってもよい。更に、多相昇圧コンバータ5やECU10を含む車両は、燃料電池スタック4を搭載した電気自動車1に限られるものではなく、電源として二次電池(バッテリ)のみを含む電気自動車であってもよい。更に、本開示の発明、すなわち多相昇圧コンバータ5やECU10は、ハイブリッド自動車に適用されてもよい。
【0033】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記発明を実施するための形態は、あくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本開示の発明は、多相昇圧コンバータの製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 電気自動車、2 蓄電装置、3 電力制御装置(PCU)、31 インバータ、32 昇圧コンバータ、4 燃料電池スタック、41,51u,51v,51w,51x 電流センサ、42、59 電圧センサ、5 多相昇圧コンバータ、55u,55x 温度センサ、58 平滑コンデンサ、10 制御装置(ECU)、DS ドライブシャフト、DW 駆動輪、Du,Dv,Dw,Dx ダイオード、Lu,Lv,Lw,Lx リアクトル、MG モータジェネレータ、NL 負極側電力ライン、PL 正極側電力ライン、Su,Sv,Sw,Sx スイッチング素子。