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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂、組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/26 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C08G69/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019008316
(22)【出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2020117588
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】杤原 健也
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103626995(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106279905(CN,A)
【文献】特開平04-031043(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047710(WO,A1)
【文献】Synthesis of polyamides from p-Xylylene glycol and dinitriles,Journal of Polymer Research,Vol.16,2009年,p.681-686
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/00- 69/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、
前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、
前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上がフェニレン二酢酸に由来し、
前記ジカルボン酸由来の構成単位における1,4-フェニレン二酢酸に由来する構成単位の割合をXモル%とし、前記ジアミン由来の構成単位におけるパラキシリレンジアミンに由来する構成単位の割合をYモル%としたとき、X+(Y/3)が68未満であり、融点が220℃以上280℃未満である、ポリアミド樹脂。
【請求項2】
前記ジアミン由来の構成単位の90モル%がキシリレンジアミンに由来し、かつ、前記ジカルボン酸由来の構成単位の90モル%以上がフェニレン二酢酸に由来する、請求項1に記載のポリアミド樹脂。
【請求項3】
前記キシリレンジアミンが、メタキシリレンジアミンおよび/またはパラキシリレンジアミンである、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂。
【請求項4】
前記フェニレン二酢酸が、1,3-フェニレン二酢酸であるか、1,4-フェニレン二酢酸と1,3-フェニレン二酢酸の混合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂。
【請求項5】
前記X+(Y/3)が65以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂。
【請求項6】
前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が1,3-フェニレン二酢酸に由来する、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂の融点とガラス転移温度の温度差が、151℃以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂のガラス転移温度が86℃以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂を含む組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物から形成される成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリアミド樹脂、組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド樹脂は、電子電気部品、食品等の包装容器、その他各種の用途に用いられている。
ポリアミド樹脂には、色々な種類があり、例えば、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンを重縮合して得られるポリアミド66や、アジピン酸とメタキシリレンジアミンを重縮合して得られるMXD6、テレフタル酸とノナンジアミンを重縮合して得られるポリアミド9Tなどが知られている。
例えば、特許文献1には、ジアミン成分に由来する構成単位の70モル%以上がパラキシリレンジアミンに由来し、かつジカルボン酸成分に由来する構成単位の70モル%以上が炭素数6~18の脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂であって、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量(Mn)が10,000~50,000の範囲、かつ、重量平均分子量/数平均分子量=Mw/Mnで表される分散度が下記式(1)を満たすポリアミド樹脂が開示されている。
1.5≦(Mw/Mn)≦6.0 (1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2010/032719号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のポリアミド樹脂は、各種性能に優れたポリアミド樹脂であるが、融点とガラス転移温度の温度差が大きい。
成形性の観点からは、融点とガラス転移温度の温度差が小さい方が、成形温度を低くでき望ましい。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、融点とガラス転移温度の温度差が小さい新規なポリアミド樹脂、ならびに、前記ポリアミド樹脂を用いた組成物および成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリアミド樹脂の原料モノマーとして、フェニレン二酢酸とキシリレンジアミンを用い、さらに、1,4-フェニレン二酢酸とパラキシリレンジアミンの比率を所定の値未満とすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<10>により、上記課題は解決された。
<1>ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上がフェニレン二酢酸に由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位における1,4-フェニレン二酢酸に由来する構成単位の割合をXモル%とし、前記ジアミン由来の構成単位におけるパラキシリレンジアミンに由来する構成単位の割合をYモル%としたとき、X+(Y/3)が68未満である、ポリアミド樹脂。
<2>前記ジアミン由来の構成単位の90モル%がキシリレンジアミンに由来し、かつ、前記ジカルボン酸由来の構成単位の90モル%以上がフェニレン二酢酸に由来する、<1>に記載のポリアミド樹脂。
<3>前記キシリレンジアミンが、メタキシリレンジアミンおよび/またはパラキシリレンジアミンである、<1>または<2>に記載のポリアミド樹脂。
<4>前記フェニレン二酢酸が、1,3-フェニレン二酢酸であるか、1,4-フェニレン二酢酸と1,3-フェニレン二酢酸の混合物である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂。
<5>前記X+(Y/3)が65以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂。
<6>前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が1,3-フェニレン二酢酸に由来する、<1>~<5>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂。
<7>前記ポリアミド樹脂の融点とガラス転移温度の温度差が、151℃以下である、<1>~<6>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂。
<8>前記ポリアミド樹脂のガラス転移温度が86℃以上である、<1>~<7>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂。
<9><1>~<8>のいずれか1つに記載のポリアミド樹脂を含む組成物。
<10><9>に記載の組成物から形成される成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、融点とガラス転移温度の温度差が小さい新規なポリアミド樹脂、ならびに、前記ポリアミド樹脂を用いた組成物および成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0008】
本発明のポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上がフェニレン二酢酸に由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位における1,4-フェニレン二酢酸に由来する構成単位の割合をXモル%とし、前記ジアミン由来の構成単位におけるパラキシリレンジアミンに由来する構成単位の割合をYモル%としたとき、X+(Y/3)が68未満であることを特徴とする。
このような構成とすることにより、融点とガラス転移温度の温度差が小さいポリアミド樹脂が得られる。
本発明者が検討したところ、キシリレンジアミンとフェニレン二酢酸から得られるポリアミド樹脂が比較的高いガラス転移温度を有することが分かった。さらに、本発明者が検討したところ、1,4-フェニレン二酢酸に由来する構成単位の割合およびパラキシリレンジアミン由来の構成単位の割合によって、融点とガラス転移温度の温度差が異なることが分かった。そして、発明者が鋭意検討を行った結果、ジカルボン酸由来の構成単位における1,4-フェニレン二酢酸に由来する構成単位の割合をXモル%とし、ジアミン由来の構成単位におけるパラキシリレンジアミンに由来する構成単位の割合をYモル%としたとき、X+(Y/3)が68未満であるときに、融点とガラス転移温度の温度差が小さいポリアミド樹脂が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明のポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、好ましくは80モル%以上が、より好ましくは90モル%以上が、さらに好ましくは95モル%以上が、一層好ましくは99モル%以上が、より一層好ましくは実質的に100モル%がキシリレンジアミンに由来する。実質的にとは、不純物など不可避的に混入する物を除き含まない趣旨である(以下、「実質的」について同じ)。
キシリレンジアミンは、メタキシリレンジアミンおよび/またはパラキシリレンジアミンであることが好ましい。
【0010】
本発明のポリアミド樹脂が含みうるジアミン由来の構成単位を構成するジアミンであって、キシリレンジアミン以外のジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミンおよびキシリレンジアミン以外の芳香族ジアミンが例示される。これらは1種のみでもよいし、2種以上であってもよい。
【0011】
脂肪族ジアミンとしては、炭素数が6~12の脂肪族ジアミンが好ましく、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミンの直鎖状脂肪族ジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、4-メチル-1,8-オクタンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミンなどの分岐鎖状脂肪族ジアミンが挙げられる。
脂環式ジアミンとしては、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、4,4’-チオビス(シクロヘキサン-1-アミン)、4,4’-チオビス(シクロヘキサン-1-アミン)等が例示される。
【0012】
芳香族ジアミンとしては、国際公開第2017/126409号の段落0052の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0013】
本発明のポリアミド樹脂は、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上がフェニレン二酢酸に由来し、好ましくは80モル%以上が、より好ましくは90モル%以上が、さらに好ましくは95モル%以上が、一層好ましくは99モル%以上が、より一層好ましくは実質的に100モル%がフェニレン二酢酸に由来する。
フェニレン二酢酸は、1,3-フェニレン二酢酸であるか、1,4-フェニレン二酢酸と1,3-フェニレン二酢酸の混合物であることが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂は、ジカルボン酸由来の構成単位の好ましくは40モル%以上が1,3-フェニレン二酢酸に由来し、より好ましくは50モル%以上が、さらに好ましくは50モル%超が、一層好ましくは55モル%以上が、より一層好ましくは58モル%以上が、1,3-フェニレン二酢酸に由来する。ジカルボン酸に由来の構成単位における、1,3-フェニレン二酢酸に由来の構成単位の割合の上限は、100モル%である。
【0014】
本発明のポリアミド樹脂が含みうるジカルボン酸由来の構成単位を構成するジカルボン酸であって、フェニレン二酢酸以外のジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、フェニレン二酢酸以外の芳香族ジカルボン酸が例示される。これらは1種のみでもよいし、2種以上であってもよい。
【0015】
脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、およびドデカンジカルボン酸が例示される。
【0016】
脂環式ジカルボン酸としては、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキサン-1-カルボン酸)、4,4’-メチレンビス(シクロヘキサン-1-カルボン酸)、デカヒドロ-1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-オキソビス(シクロヘキサン-1-カルボン酸)および4,4’-チオビス(シクロヘキサン-1-カルボン酸)が例示される。
【0017】
芳香族ジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸および2,7-ナフタレンジカルボン酸が例示される。
【0018】
本発明のポリアミド樹脂は、ジカルボン酸由来の構成単位における1,4-フェニレン二酢酸に由来する構成単位の割合をXモル%とし、ジアミン由来の構成単位におけるパラキシリレンジアミンに由来する構成単位の割合をYモル%としたとき、X+(Y/3)が68未満であり、65以下であることが好ましく、60以下であることがより好ましく、40以下であることがさらに好ましく、30以下であることが一層好ましく、20以下であることがより一層好ましい。下限は、Xが0モル%であり、Yも0モル%であるとき、すなわち、X+(Y/3)が0以上であり、5以上が好ましく、10以上であってもよい。
また、本発明のポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂を構成する主成分となるジアミンおよびジカルボン酸が合計で3種であることが好ましい。3種とすることにより、より効果的に本発明の効果が達成される傾向にある。ここで、主成分とは、ジアミンおよびジカルボン酸の合計である3種で、全原料モノマーの96質量%超を占めることをいい、99質量%以上であることがより好ましい。前記3種のジアミンおよびジカルボン酸としては、1,3-フェニレン二酢酸、メタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの組み合わせ、1,3-フェニレン二酢酸、1,4-フェニレン二酢酸およびメキシリレンジアミンの組み合わせ、1,3-フェニレン二酢酸、1,4-フェニレン二酢酸およびパラキシリレンジアミンの組み合わせが例示される。このような構成とすることにより、高い融点を維持しつつ、ガラス転移温度も高くでき、Tm-Tgを小さくすることができる。
【0019】
Xは、ジカルボン酸由来の構成単位の合計を100モル%としたときの、1,4-フェニレン二酢酸に由来する構成単位の割合であり、0モル%以上であることが好ましい。Xの上限値は、60モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましく、45モル%以下であることがさらに好ましく、42モル%以下であることが一層好ましい。
【0020】
Yは、ジアミン由来の構成単位の合計を100モル%としたときの、パラキシリレンジアミンに由来する構成単位の割合であり、0~100モル%の間から任意に選択される。本発明では、X+(Y/3)が68未満となるように、パラキシリレンジアミンと1,4-フェニレン二酢酸の割合が調整されれば、0モル%であっても、100モル%であっても、融点とガラス転移温度の温度差を小さくできる。
【0021】
本発明のポリアミド樹脂は、ジカルボン酸由来の構成単位とジアミン由来の構成単位から構成されるが、ジカルボン酸由来の構成単位およびジアミン由来の構成単位以外の構成単位や、末端基等の他の部位を含みうる。他の構成単位としては、ε-カプロラクタム、バレロラクタム、ラウロラクタム、ウンデカラクタム等のラクタム、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸等由来の構成単位が例示できるが、これらに限定されるものではない。さらに、本発明のポリアミド樹脂には、合成に用いた添加剤等の微量成分が含まれる場合もあろう。
本発明のポリアミド樹脂は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上が、さらに好ましくは90質量%以上が、一層好ましくは95質量%以上が、より一層好ましくは98質量%以上がジカルボン酸由来の構成単位およびジアミン由来の構成単位からなる。
【0022】
本発明のポリアミド樹脂の実施形態の一例は、ジアミン由来の構成単位の90モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の90モル%以上がフェニレン二酢酸に由来し、ジカルボン酸由来の構成単位における1,4-フェニレン二酢酸に由来する構成単位の割合をXモル%とし、ジアミン由来の構成単位におけるパラキシリレンジアミンに由来する構成単位の割合をYモル%としたとき、X+(Y/3)が0以上68未満であり、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が1,3-フェニレン二酢酸に由来するポリアミド樹脂である。また、上記実施形態におけるポリアミド樹脂は、さらに、上述した本発明の好ましい範囲を満たすことがより好ましい。
【0023】
本発明のポリアミド樹脂は、好ましくは、触媒としてリン原子含有化合物を用いて溶融重縮合(溶融重合)法により製造される。溶融重縮合法としては、溶融させた原料ジカルボン酸に原料ジアミンを滴下しつつ加圧下で昇温し、縮合水を除きながら重合させる方法、もしくは、原料ジアミンと原料ジカルボン酸から構成される塩を水の存在下で、加圧下で昇温し、加えた水および縮合水を除きながら溶融状態で重合させる方法が好ましい。
【0024】
本発明のポリアミド樹脂は、融点が220℃以上であることが好ましく、225℃以上であることがより好ましく、230℃以上であることがさらに好ましく、235℃以上であることが一層好ましい。ポリアミド樹脂の融点の上限については、280℃未満であることが好ましく、275℃以下であることがより好ましく、270℃以下であることがさらに好ましく、266℃以下であることが一層好ましく、264℃以下であることがより一層好ましく、263℃以下であることがさらに一層好ましい。
融点は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂は、ガラス転移温度が86℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、95℃以上であることがさらに好ましく、98℃以上であることが一層好ましく、103℃以上であってもよい。ポリアミド樹脂のガラス転移温度の上限については、特に定めるものではないが、例えば、140℃以下であり、さらには、135℃以下、130℃以下、125℃以下であってもよい。
ガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0026】
本発明のポリアミド樹脂は、融点とガラス転移温度の温度差(Tm-Tg)が、151℃以下であることが好ましく、146℃以下であることがより好ましく、142℃以下であることがさらに好ましく、136℃以下であることがさらに好ましく、132℃以下であることが一層好ましい。融点とガラス転移温度の温度差(Tm-Tg)の下限値については、特に定めるものではないが、例えば、100℃以上、さらには、110℃以上、特には、120℃以上でも十分に実用レベルである。尚、本発明における融点とガラス転移温度の温度差は、通常、Tm-Tgを意味するが、Tg-Tmの値が上記範囲であってもよいことはいうまでもない。
【0027】
本発明のポリアミド樹脂は、Tg/Tmが0.37以上であることが好ましく、0.40以上であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、成形性が容易になる傾向にある。Tg/Tmの上限値については、特に定めるものではないが、例えば、0.5以下である。
【0028】
<用途>
本発明のポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂を含む組成物、さらには、前記組成物を成形してなる成形品として用いることができる。前記組成物は、本発明のポリアミド樹脂を1種または2種以上のみからなってもよいし、他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、本発明のポリアミド樹脂以外の他のポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂、充填剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤等の添加剤を必要に応じて添加することができる。これらの添加剤は、それぞれ、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
他のポリアミド樹脂としては、具体的には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6/66(ポリアミド6成分およびポリアミド66成分からなる共重合体)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、MXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、MPXD6(ポリメタパラキシリレンアジパミド)、MXD10(ポリメタキシリレンセバサミド)、MPXD10(ポリメタパラキシリレンセバサミド)、PXD10(ポリパラキシリレンセバサミド)、MXD6I、6T/6I、9Tが例示される。これらの他のポリアミド樹脂は、それぞれ、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂を例示できる。これらのポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂は、それぞれ、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0029】
本発明の組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、圧縮成形、延伸、真空成形などの公知の成形方法によって、成形することができる。
本発明の組成物から形成される成形品としては、射出成形品、薄肉成形品、中空成形品、フィルム(シートを含む)、押出成形品、繊維、ホース、チューブ等が例示される。
【0030】
成形品の利用分野としては、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム等の日用品、塗料やオイルの容器、防衛および航空宇宙製品等が挙げられる。特に、本発明のポリアミド樹脂は融点とガラス転移温度の差が小さいことから、車両用内燃機関周辺に使用される精密部品コントロールユニット、イグニッションコイル部品、ヒューズ用コネクタ、燃料タンクの用途に適している。
【実施例
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0032】
本実施例において、1,3-PDAAは1,3-フェニレン二酢酸を、1,4-PDAAは1,4-フェニレン二酢酸を、MXDAはメタキシリレンジアミンを、PXDAは、パラキシリレンジアミンを示す。
【0033】
実施例1
<ポリアミド樹脂の合成>
冷却器、温度計、窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応管に、精秤した1,3-PDAA21.385g(0.110mol)、MXDA15.000g(0.110mol)、蒸留水15gを入れ、十分窒素置換し、密封した。昇温し、内温230℃、内圧2.5MPaで2時間保持した。次いで、約1時間かけて、内温を270℃に昇温しつつ、水を留去しつつ、常圧まで降圧した。内温270℃で30分保持した後に、加熱を停止した。室温まで放冷後、目的生成物を得た。
【0034】
<ガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)の測定方法>
示差走査熱量の測定はJIS K7121およびK7122に準じて行った。
上記ポリアミド樹脂について、熱流束示差走査熱量測定法に基づいて、10℃/分の昇温速度で25℃から予想される融点以上の温度まで昇温し、吸熱ピークのトップの温度を融点とした。次いで、溶融したポリアミド樹脂を、ドライアイスで急冷し、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再度昇温し、ガラス転移温度を求めた。
融点またはガラス転移温度が2つある場合は、高い方の温度とした。
示差走査熱量計としては、島津製作所社(SHIMADZU CORPORATION)製「DSC-60」を用いた。
また、Tm-Tgの値およびTg/Tmの値を算出し、表1に記載した。
【0035】
実施例2~実施例13
実施例1において、ジカルボン酸およびジアミンについて、表1または表2に示す種類およびモル比率のジカルボン酸およびジアミンを用い、他は同様に行った。結果を表1または表2に示す。
【0036】
参考例1~3
参考例1は、三菱ガス化学社製、MXナイロンS6007(MXD6)について、参考例2は、東レ社製、アラミン、CM3001(PA66)について、参考例3は、特開平09-012714号公報の段落0064の実施例1に記載のポリアミド樹脂(PA9T)について、上記と同様に、融点およびガラス転移温度を測定した。結果を表3に示した。
【0037】
【表1】
【表2】
【表3】
【0038】
上記表1および表2から明らかなとおり、1,4-フェニレン二酢酸に由来する構成単位の割合をXモル%とし、ジアミン由来の構成単位におけるパラキシリレンジアミンに由来する構成単位の割合をYモル%としたとき、X+(Y/3)が68未満であると、融点とガラス転移温度の温度差が小さいポリアミド樹脂が得られた(実施例1~13)。この値は、MXD6、ポリアミド66およびポリアミド9T(参考例1~3)よりも格段に小さいものであった。