IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

特許7188119内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法
<>
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図1
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図2
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図3
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図4
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図5
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図6
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図7
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図8
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図9
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図10
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図11
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図12
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図13
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図14
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/08 20060101AFI20221206BHJP
   H01T 21/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H01T13/08
H01T21/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019008329
(22)【出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2020119687
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川井 一秀
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-26928(JP,A)
【文献】特開2001-121240(JP,A)
【文献】特開2015-146256(JP,A)
【文献】国際公開第2012/140892(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/08
H01T 13/20
H01T 21/02
F02P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジング(2)を備える内燃機関用のスパークプラグ(1)であって、
前記ハウジングの外周面は、前記スパークプラグの軸方向(Z)に平行に形成された平行面(2a)と、前記平行面よりも先端側かつ内周側に形成され、先端側へ向かうほど縮径するテーパ状に形成されるとともにシリンダヘッド(11)に圧接される圧接面(2c)と、プラグ中心軸を通る前記軸方向に平行な前記スパークプラグの断面である軸方向断面において、前記圧接面の延長線(Lc)よりも基端側の領域に収まるよう形成された、前記平行面の先端と前記圧接面の外周端とをつなぐ連結面(2b)とを有する、内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項2】
前記軸方向断面において、前記連結面は、基端側へ向かうほど前記スパークプラグの径方向の外周側へ向かうよう傾斜した直線状に形成されている、請求項1に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項3】
前記軸方向断面に表れる一対の前記連結面のそれぞれの延長線(Lb)同士がなす連結テーパ角(θb)は、59°未満である、請求項2に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の内燃機関用のスパークプラグを製造する方法であって、
基端側へ向かうほど前記スパークプラグの径方向の外周側へ向かうよう傾斜し、一部が前記圧接面となる傾斜面(41)と、前記外周面の外周端から基端側へ前記軸方向に平行に形成され、一部が前記平行面となる筒面(42)と、を有するハウジング基材(4)を準備する準備工程と、
前記ハウジング基材をバレルメッキするバレルメッキ工程と、
前記バレルメッキ工程の後に、前記傾斜面と前記筒面との間の基材角(43)を加工することにより、前記基材角を前記連結面とし、前記傾斜面を前記圧接面とし、前記筒面を前記平行面とする加工工程と、を有する内燃機関用のスパークプラグの製造方法。
【請求項5】
前記ハウジングの内側に保持された筒状の絶縁碍子(3)をさらに備えるとともに、前記ハウジングの基端部に、先端側へかしめられたかしめ部(25)を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の内燃機関用のスパークプラグを製造する方法であって、
基端側へ向かうほど前記スパークプラグの径方向の外周側へ向かうよう傾斜し、一部が前記圧接面となる傾斜面(41)と、前記外周面の外周端から基端側へ前記軸方向に平行に形成され、一部が前記平行面となる筒面(42)と、を有するハウジング基材(4)を準備する準備工程と、
前記ハウジング基材をバレルメッキするバレルメッキ工程と、
前記バレルメッキ工程の後に、前記ハウジング基材の内側に前記絶縁碍子を挿入してアッシー部品(10)を形成する挿入工程と、
筒状の受け治具(57)の内周面において前記連結面と平行に形成された支承面(58)に、前記支承面の基端側から、前記アッシー部品の前記傾斜面と前記筒面との間の基材角(43)を当接させる第一当接工程と、
前記ハウジング基材の基端部(45)に、前記ハウジング基材の基端側からかしめ治具(61)を当接させる第二当接工程と、
前記第一当接工程及び前記第二当接工程の後に、前記受け治具と前記かしめ治具とを前記軸方向に近付けることによって前記ハウジング基材に前記軸方向の圧縮力を印加し、前記圧縮力によって前記ハウジング基材の前記基端部を塑性変形させて前記かしめ部を形成すると同時に、前記圧縮力によって前記基材角を前記支承面に面押しし、前記基材角を塑性変形させて前記支承面と対向する前記連結面を形成し、前記傾斜面を前記圧接面とし、前記筒面を前記平行面とする同時加工工程と、を有する、内燃機関用のスパークプラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン等の内燃機関における着火手段として、スパークプラグが用いられている。スパークプラグは、その外周部に設けられた取付ネジ部をシリンダヘッドのプラグホールの雌ネジ穴に螺合することにより、シリンダヘッドに取り付けられる。スパークプラグがシリンダヘッドに取り付けられた状態において、スパークプラグの先端部に形成された放電ギャップは、燃焼室内に配される。
【0003】
ここで、燃焼室内のガス等が、雌ネジ穴とスパークプラグとの間を介して燃焼室外部に漏れ出してしまうと、エンジン不調の原因となるため、スパークプラグとシリンダヘッドとの間には気密性が要求される。
【0004】
そこで、特許文献1に記載のスパークプラグにおいて、ハウジングの外周面は、シリンダヘッドの座面に圧接される圧接面を備えている。シリンダヘッドの座面は、基端側へ向かうほど外周側へ向かうテーパ状に形成されており、スパークプラグの圧接面は、座面に対向するようテーパ状に形成されている。そして、圧接面は、シリンダヘッドのプラグホールに設けられた雌ネジ穴に取付ネジ部を螺合することによる軸力によって座面に圧接しており、これにより圧接面と座面との密着性が確保され、スパークプラグとシリンダヘッドとの間の気密性が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-118659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、国際規格ISO 28741:2013において、シリンダヘッドの座面のテーパ角は60°+0/-1°、スパークプラグの圧接面のテーパ角は63°±1°、と規定されている。すなわち、前記規格においては、スパークプラグの圧接面のテーパ角の方がシリンダヘッドの座面のテーパ角よりも大きくなるよう定められている。そのため、スパークプラグがシリンダヘッドに取り付けられた状態においては、スパークプラグは、圧接面の外周端縁において、シリンダヘッドの座面に圧接されることとなる。
【0007】
ここで、特許文献1に記載のスパークプラグの圧接面は、ハウジングの外周面において軸方向に平行に形成された筒状の平行面の先端から形成されている。すなわち、圧接面の外周部に形成される角部(すなわち圧接面と平行面との間の角部)は、径方向における平行面の位置に形成されるため、ハウジングの比較的外周側の位置に配される。当該角部がハウジングの比較的外周側の位置に形成されると、例えばスパークプラグの製造工程等において、前記角部に他の物体が干渉しやすくなり、その結果、圧接面の外周端縁を含む前記角部に打痕が生じることが考えられる。
【0008】
一例として、バレルメッキによりハウジングにメッキを施した場合に、前記角部に打痕が生じることが考えられる。バレルメッキは、メッキ前の多数のハウジングをメッキ液が入ったバレルと呼ばれる籠に入れて、バレルを回転させながら各ハウジングの表面にメッキを施すメッキ法である。バレルメッキは、多数のハウジングに同時にメッキを施すことができるためハウジングの生産性が高く、低コストである一方、バレル内においてハウジング同士が衝突することにより、ハウジング表面に打痕が発生することが懸念される。特にハウジングの圧接面と平行面との間の角部は、ハウジングの比較的外周側の位置において角状に形成されているため、バレルメッキ中に他のハウジング等と干渉しやすく、打痕が生じやすい。
【0009】
圧接面の外周端縁を含む前記角部に打痕が生じて凹凸が形成されてしまうと、圧接面の外周端縁とシリンダヘッドの座面との密着性が低下し、スパークプラグとシリンダヘッドとの間の気密性が低下するおそれがある。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、スパークプラグとシリンダヘッドとの間の気密性を確保しやすい内燃機関用のスパークプラグを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様は、筒状のハウジング(2)を備える内燃機関用のスパークプラグ(1)であって、
前記ハウジングの外周面は、前記スパークプラグの軸方向(Z)に平行に形成された平行面(2a)と、前記平行面よりも先端側かつ内周側に形成され、先端側へ向かうほど縮径するテーパ状に形成されるとともにシリンダヘッド(11)に圧接される圧接面(2c)と、プラグ中心軸を通る前記軸方向に平行な前記スパークプラグの断面である軸方向断面において、前記圧接面の延長線(Lc)よりも基端側の領域に収まるよう形成された、前記平行面の先端と前記圧接面の外周端とをつなぐ連結面(2b)とを有する、内燃機関用のスパークプラグにある。
【0012】
本発明の第二の態様は、内燃機関用の前記スパークプラグを製造する方法であって、
基端側へ向かうほど前記スパークプラグの径方向の外周側へ向かうよう傾斜し、一部が前記圧接面となる傾斜面(41)と、前記外周面の外周端から基端側へ前記軸方向に平行に形成され、一部が前記平行面となる筒面(42)と、を有するハウジング基材(4)を準備する準備工程と、
前記ハウジング基材をバレルメッキするバレルメッキ工程と、
前記バレルメッキ工程の後に、前記傾斜面と前記筒面との間の基材角(43)を加工することにより、前記基材角を前記連結面とし、前記傾斜面を前記圧接面とし、前記筒面を前記平行面とする加工工程と、を有する内燃機関用のスパークプラグの製造方法にある。
【0013】
本発明の第三の態様は、前記ハウジングの内側に保持された筒状の絶縁碍子をさらに備えるとともに、前記ハウジングの基端部に、先端側へかしめられたかしめ部を有する、内燃機関用の前記スパークプラグを製造する方法であって、
基端側へ向かうほど前記スパークプラグの径方向の外周側へ向かうよう傾斜し、一部が前記圧接面となる傾斜面(41)と、前記外周面の外周端から基端側へ前記軸方向に平行に形成され、一部が前記平行面となる筒面(42)と、を有するハウジング基材(4)を準備する準備工程と、
前記ハウジング基材をバレルメッキするバレルメッキ工程と、
前記バレルメッキ工程の後に、前記ハウジング基材の内側に前記絶縁碍子を挿入してアッシー部品(10)を形成する挿入工程と、
筒状の受け治具(57)の内周面において前記連結面と平行に形成された支承面(58)に、前記支承面の基端側から、前記アッシー部品の前記傾斜面と前記筒面との間の基材角(43)を当接させる第一当接工程と、
前記ハウジング基材の基端部(45)に、前記ハウジング基材の基端側からかしめ治具(61)を当接させる第二当接工程と、
前記第一当接工程及び前記第二当接工程の後に、前記受け治具と前記かしめ治具とを前記軸方向に近付けることによって前記ハウジング基材に前記軸方向の圧縮力を印加し、前記圧縮力によって前記ハウジング基材の前記基端部を塑性変形させて前記かしめ部を形成すると同時に、前記圧縮力によって前記基材角を前記支承面に面押しし、前記基材角を塑性変形させて前記支承面と対向する前記連結面を形成し、前記傾斜面を前記圧接面とし、前記筒面を前記平行面とする同時加工工程と、を有する、内燃機関用のスパークプラグの製造方法にある。
【発明の効果】
【0014】
前記第一の態様の内燃機関用のスパークプラグにおいて、シリンダヘッドに圧接される圧接面は、連結面を介して平行面に接続されており、平行面よりも内周側に形成されている。それゆえ、シリンダヘッドに密着する圧接面の外周端縁の位置を、ハウジングの平行面よりも内周側に収まる位置に形成することができる。それゆえ、スパークプラグの製造工程等において、圧接面の外周端縁に、他の物体が干渉し難く、圧接面の外周端縁に打痕が生じ難い。それゆえ、圧接面の外周端縁とシリンダヘッドとの密着性が低下することを抑制でき、スパークプラグとシリンダヘッドとの間の気密性を確保しやすい。
【0015】
また、圧接面の外周端と平行面の先端とをつなぐ連結面は、前記軸方向断面において、圧接面の延長線よりも基端側の領域に収まるよう形成されている。それゆえ、連結面がシリンダヘッドに当たることなく、確実に圧接面をシリンダヘッドに当接させることができ、これによっても圧接面とシリンダヘッドとの密着性を確保しやすい。
【0016】
また、前記第二の態様における内燃機関用のスパークプラグの製造方法においては、前記傾斜面と前記筒面とを有するハウジング基材をバレルメッキするバレルメッキ工程を有する。それゆえ、ハウジングの生産性を向上させることができ、かつ低コストでハウジングにメッキを施すことができる。一方で、ハウジング基材の表面、特に傾斜面と筒面との間の基材角は、ハウジング基材の比較的外周側に形成された角であるため、打痕の発生が懸念される。
【0017】
そこで、前記第二の態様におけるスパークプラグの製造方法においては、バレルメッキ工程の後に、ハウジング基材の傾斜面と筒面との間の基材角を加工することにより、当該基材角を連結面とし、傾斜面を圧接面とし、筒面を平行面とする加工工程を有する。これにより、万一バレルメッキ工程において基材角に打痕が生じた場合であっても、加工工程の後に形成される圧接面は、基材角よりも内周側に形成され、圧接面に打痕が形成されることを防止できる。そのため、前記第二の態様におけるスパークプラグの製造方法においては、圧接面の外周端縁とシリンダヘッドとの密着性を確保しやすく、スパークプラグとシリンダヘッドとの間の気密性を確保しやすい。
【0018】
また、第三の態様におけるスパークプラグの製造方法においては、同時加工工程において、受け治具とかしめ治具とを軸方向に近付けることによってハウジング基材に軸方向の圧縮力を印加する。同時加圧工程においては、前記圧縮力によって、ハウジング基材の基端部を塑性変形させてかしめ部を形成する。さらに、これと同時に、前記圧縮力によって、基材角を前記支承面に面押しし、基材角を塑性変形させて支承面と対向する連結面を形成し、傾斜面を圧接面とし、筒面を平行面とする。このように、同時加工工程においては、受け治具とかしめ治具とを軸方向に近付けることによって、ハウジングのかしめ部と連結面とを同時に形成することができる。それゆえ、ハウジングの生産性を向上させやすい。
【0019】
さらに、前記第三の態様におけるスパークプラグの製造方法においても、バレルメッキ工程を有する。それゆえ、ハウジングの生産性を向上させることができ、かつ低コストでハウジングにメッキを施すことができる。一方で、ハウジング基材の表面、特に傾斜面と筒面との間の基材角は、ハウジング基材の比較的外周側に形成された角であるため、打痕の発生が懸念される。
【0020】
そこで、前記第三の態様におけるスパークプラグの製造方法においても、バレルメッキ工程の後の同時加工工程において、ハウジング基材の基材角に連結面を形成し、傾斜面を圧接面とし、筒面を平行面とする同時加工工程を有する。それゆえ、第二の態様におけるスパークプラグの製造方法と同様に、圧接面の外周端縁とシリンダヘッドとの密着性を確保しやすく、スパークプラグとシリンダヘッドとの間の気密性を確保しやすい。
【0021】
以上のごとく、前記態様によれば、スパークプラグとシリンダヘッドとの間の気密性を確保しやすい内燃機関用のスパークプラグを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態1における、スパークプラグの部分断面正面図。
図2】実施形態1における、軸方向断面であって、連結面周囲の拡大図。
図3】実施形態1における、連結面周辺を拡大した正面図。
図4図3において、連結面周辺をさらに拡大した正面図。
図5】実施形態1における、スパークプラグを内燃機関に取り付けた点火装置の状態を示す部分断面正面図。
図6】実施形態1における、バレルメッキ工程前のハウジング基材の部分断面正面図。
図7】実施形態1における、バレルメッキ工程を説明するための模式図。
図8】実施形態1における、バレルメッキ工程後のハウジング基材の部分断面正面図。
図9】実施形態1における、加工工程を説明するための図であって、ハウジング基材に絶縁碍子等を組み付けたものを受け治具に挿入する様子を示す一部断面正面図。
図10】実施形態1における、加工工程を説明するための図であって、ハウジング基材の基材角を受け治具の支承面に面押しする様子を示す一部断面正面図。
図11】実施形態1における、加工工程後のハウジングの連結面周辺の拡大正面図。
図12】実施形態2における、挿入工程を説明するための図であって、絶縁碍子の内側に中心電極等を配したものをハウジング基材に挿入する様子を示す一部断面正面図。
図13】実施形態2における、第一当接工程及び第二当接工程後の、受け治具、かしめ治具、及びアッシー部品の一部断面正面図。
図14】実施形態2における、同時加工工程後の、受け治具、かしめ治具、及びアッシー部品の一部断面正面図。
図15】実施形態3における、ローラ転造を説明するための、スパークプラグ及びローラの一部断面正面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施形態1)
内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法の実施形態につき、図1図10を用いて説明する。
【0024】
本実施形態の内燃機関用のスパークプラグ1は、図1に示すごとく、筒状のハウジング2を備える。図1図4に示すごとく、ハウジング2の外周面は、平行面2aと圧接面2cと連結面2bとを有する。平行面2aは、スパークプラグ1の軸方向Zに平行に形成されている。
【0025】
圧接面2cは、平行面2aよりも先端側かつ内周側に形成されている。圧接面2cは、先端側へ向かうほど縮径するテーパ状に形成されている。図5に示すごとく、スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられた状態において、圧接面2cは、シリンダヘッド11に圧接する。
【0026】
図2に示すごとく、軸方向断面において、連結面2bは、圧接面2cの延長線Lcよりも基端側の領域に収まるよう形成されている。軸方向断面は、プラグ中心軸を通る軸方向Zに平行なスパークプラグ1の断面であり、図2はその一例である。連結面2bは、平行面2aの先端と圧接面2cの外周端とをつなぐ面である。
以後、本実施形態につき詳説する。
【0027】
スパークプラグ1は、例えば、自動車、コージェネレーション等の内燃機関における着火手段として用いることができる。軸方向Zにおけるスパークプラグ1の一端は、図示しない点火コイルと接続され、軸方向Zにおけるスパークプラグ1の他端は、内燃機関の燃焼室12内に配される。
【0028】
本明細書において、単に軸方向Zといったときは、スパークプラグ1の軸方向Zを意味するものとする。また、軸方向Zにおいて、スパークプラグ1の燃焼室12に挿入される側を先端側、その反対側を基端側という。単に径方向といったときは、スパークプラグ1の径方向を意味するものとする。
【0029】
ハウジング2は、鉄、ニッケル、鉄ニッケル合金、ステンレス等の耐熱性導電材料を筒状に形成してなる。図示は省略するが、ハウジング2の表面には、ニッケルメッキや亜鉛メッキ等のメッキが形成されている。ハウジング2の表面にメッキを形成することで、ハウジング2の耐腐食性を向上させることができる。後述のごとく、ハウジング2の表面のメッキは、バレルメッキにより形成されている。
【0030】
図1に示すごとく、ハウジング2の先端側の領域には、外周面にねじ山が切られた取付ネジ部24が形成されている。図5に示すごとく、取付ネジ部24が、シリンダヘッド11のプラグホールに設けられた雌ネジ穴111に螺合されることにより、スパークプラグ1がシリンダヘッド11に取り付けられる。スパークプラグ1がシリンダヘッド11に取り付けられた状態において、スパークプラグ1の先端部は、燃焼室12に曝される。
【0031】
本実施形態において、取付ネジ部24は、転造によって形成されている。そして、図2図4に示すごとく、ハウジング2の外周面は、取付ネジ部24の基端側に隣接するヌスミ面2dを有する。
【0032】
ヌスミ面2dは、軸方向Zに平行に、円筒状に形成されている。ヌスミ面2dは、ハウジング2における軸方向Zの両側に隣接する部位よりも、外径が小さくなるよう形成されている。ヌスミ面2dは、取付ネジ部24の転造時に、転造用のダイスの一部が入り込めるようにした逃げ溝である。ヌスミ面2dを設けることで、転造用のダイスが取付ネジ部24以外の部位に干渉することを防いでいる。図3図4に示すごとく、ハウジング2の外周面は、ヌスミ面2dと圧接面2cとを接続する接続傾斜面2eを有する。
【0033】
接続傾斜面2eは、先端側に向かうほど縮径するテーパ状に形成されている。接続傾斜面2eは、圧接面2cよりも大きいテーパ角を有する。接続傾斜面2eのテーパ角は、軸方向断面に表れる一対の接続傾斜面2eのそれぞれの延長線同士がなす角である。軸方向断面において、接続傾斜面2eの延長線は、接続傾斜面2eに平行な直線である。図5に示すごとく、接続傾斜面2eの外径は、シリンダヘッド11の後述の座面11fの内径よりも小さく、スパークプラグ1をシリンダヘッド11に取り付けた状態において、接続傾斜面2eは、シリンダヘッド11に当接しない。図2図4に示すごとく、ハウジング2の外周面は、接続傾斜面2eの基端側に隣接する前述の圧接面2cを有する。
【0034】
圧接面2cは、前述のごとく、先端側へ向かうほど縮径するテーパ状に形成されている。軸方向断面において、圧接面2cは、先端側へ向かうほど径方向の内周側へ向かうよう傾斜した直線状に形成されている。
【0035】
図2に示すごとく、圧接面2cのテーパ角である圧接テーパ角θcは、63°±1°となるよう設計されている。この数値は、国際規格ISO 28741:2013に準拠したものである。圧接テーパ角θcは、軸方向断面に表れる一対の圧接面2cのそれぞれの延長線Lc同士がなす角である。軸方向断面において、圧接面2cの延長線Lcは、圧接面2cに平行な直線である。
【0036】
図5に示すごとく、圧接面2cは、スパークプラグ1をシリンダヘッド11に取り付けた状態において、シリンダヘッド11の雌ネジ穴111の基端部の外周側周囲に形成された座面11fに圧接する。座面11fは、先端側に向かうほど縮径するテーパ状に形成されている。圧接面2cは、雌ネジ穴111に対する取付ネジ部24の螺合による軸力で、シリンダヘッド11の座面11fに圧接している。
【0037】
シリンダヘッド11の座面11fのテーパ角である座面テーパ角θfは、60°+0/-1°となるよう設計されている。この数値も、国際規格ISO 28741:2013に準拠したものである。座面テーパ角θfは、スパークプラグ1をシリンダヘッド11に取り付けた状態における軸方向断面に表れる一対の座面11fのそれぞれの延長線同士がなす角である。軸方向断面において、座面11fの延長線Lfは、座面11fに平行な直線である
【0038】
圧接テーパ角θcは、座面テーパ角θfよりも大きい。そのため、スパークプラグ1をシリンダヘッド11に取り付けた状態において、圧接面2cは、外周端縁がシリンダヘッド11の座面11fに圧接する。図2図4に示すごとく、ハウジング2の外周面において、圧接面2cの外周端縁と連結面2bとは隣接している。
【0039】
連結面2bは、先端側へ向かうほど縮径するテーパ状に形成されている。図2に示すごとく、軸方向断面において、連結面2bは、基端側へ向かうほど径方向の外周側へ向かうよう傾斜した直線状に形成されている。連結面2bのテーパ角である連結テーパ角θbは、圧接テーパ角θcよりも小さく形成されている。連結テーパ角θbは、軸方向断面に表れる一対の連結面2bのそれぞれの延長線Lb同士がなす角である。
【0040】
本実施形態において、連結テーパ角θbは、59°未満である。つまり、連結テーパ角θbは、国際規格ISO 28741:2013に定められたシリンダヘッド11の座面テーパ角θfである60°+0/-1°の最小値である59°よりも小さくなるよう設計されている。図5に示すごとく、スパークプラグ1を内燃機関に取り付けた状態において、連結面2bは、座面11fには当接しない。図2図4に示すごとく、ハウジング2の外周面は、連結面2bの基端側に隣接する前述の平行面2aを有する。
【0041】
平行面2aは、軸方向Zに平行な筒状に形成されている。平行面2aの外径は、取付ネジ部24の外径よりも大きい。軸方向断面において、圧接面2cと連結面2bとがなす角の角度は、圧接面2cの延長線Lcと平行面2aの延長線Laとがなす角の角度よりも大きい。なお、ハウジング2の外周面における圧接面2cの基端側に、軸方向Zに平行な面が軸方向Zの複数箇所にある場合は、これら複数箇所の面のうち、最も先端側にある面を平行面2aとする。平行面2aの軸方向Zの長さは、軸方向Zにおける平行面2aから取付ネジ部24までの長さよりも長い。
【0042】
図3に示すごとく、連結面2bと圧接面2cとの境界の径をΦbとする。このとき、Φbは、ISO 28741:2013のテーパ基準径の寸法よりも大きい。ISO 28741:2013には、圧接面2cにおける直径がテーパ基準径となる部位から、スパークプラグの所定の部位までの軸方向Zの長さが規定されている。これにより、例えば燃焼室12内での軸方向Zの発火位置が決定され得る。そのため、圧接面2cの外周端縁の径は、テーパ基準径よりも大きいことが好ましい。後述の表1に、テーパ基準径の一例を示す。
【0043】
また、平行面2aの直径をΦaとし、(Φa-Φb)/2をr1とする。すなわち、r1は、径方向における平行面2aと圧接面2cの外周端縁位置との間の長さを示している。このとき、r1は、0.2mm≦r1≦0.75mm、を満たすことが好ましい。
【0044】
バレルメッキによって後述のハウジング基材4の基材角43に形成される打痕の深さは、概ね0.2mm未満となるため、r1を0.2mm以上とすることにより、圧接面2cに打痕が形成されることを防止しやすくしている。
【0045】
また、ISO 28741:2013において、取付ネジ部24のネジ径が、M12、M14のそれぞれの場合の、Φa、Φcの値は、次の表1のように定められている。なお、表1において、前述のテーパ基準径をΦcと表している。また、表1において、ISO 28741:2013に定められたΦa及びΦcから計算した(Φa-Φc)/2=r2の値も併せて示している。r2の値は、ISO 28741:2013において圧接面2cと座面11fとの間のシール性確保の観点から許容される、r1の最大値と考えることができる。
【0046】
【表1】
【0047】
表1から分かるように、(Φa-Φc)/2の値は、r1が0.75mmを超えると、ISO 28741:2013で許容されるr2の範囲を必ず超えてしまう。そのため、r1は、0.75mm以下とすることが好ましい。さらに、r1は、0.3mm以下にすれば、ISO 28741:2013で許容されるr2の範囲を超えないため、r1は、0.3mm以下とすることがさらに好ましい。
【0048】
図4に示すごとく、平行面2aと連結面2bとの境界部には、段状の反り部21が形成されている。反り部21は、後述する面押しにより連結面2bを形成した後に形成される反りである。なお、図4以外の図においては、適宜、反り部の図示を省略している。図1に示すごとく、ハウジング2は、平行面2aの基端側に、工具係合部22を有する。
【0049】
工具係合部22は、軸方向Zから見たときの外形が六角形状である。スパークプラグ1をシリンダヘッド11の雌ネジ穴111に螺合する際は、工具係合部22の外周側を覆うように六角レンチを係合させ、当該六角レンチを回すことでスパークプラグ1をシリンダヘッド11の雌ネジ穴111に螺合する。図1に示すごとく、ハウジング2は、工具係合部22の基端側にかしめ部25を有する。
【0050】
かしめ部25は、先端側に向かってかしめられている。かしめ部25は、後述の絶縁碍子3にかしめられている。なお、図示は省略するが、かしめ部25は、絶縁碍子3とハウジング2との内側に配された別部材を介して絶縁碍子3にかしめられていてもよい。
【0051】
絶縁碍子3は、ハウジング2の内側に保持されている。絶縁碍子3は、アルミナ等の絶縁材を筒状に形成してなる。ハウジング2は、内周面に、内周側に突出するハウジング突出部23を有し、当該ハウジング突出部23に、絶縁碍子3が基端側から支承されている。なお、絶縁碍子3は、例えば環状の別部材を介してハウジング突出部23に支承されていてもよい。
【0052】
絶縁碍子3の先端部は、ハウジング2の先端よりも先端側に突出している。絶縁碍子3の内周部には、段状の碍子段部31が形成されている。絶縁碍子3の内周面は、碍子段部31よりも先端側が、碍子段部31の基端側よりも小径となるよう形成されている。絶縁碍子3の碍子段部31には、中心電極17が支承されており、これにより、絶縁碍子3の内側に中心電極17が保持されている。
【0053】
中心電極17は、Ni基合金等の導電材料からなる円柱体であり、内部にCu等の熱伝導性に優れた金属材料が配されている。中心電極17の先端は、絶縁碍子3の先端よりも先端側に突出している。絶縁碍子3の内側領域において、中心電極17の基端側には、導電性を有するガラスシール13を介して抵抗体14が配置されている。
【0054】
抵抗体14は、カーボン又はセラミック粉末等の抵抗材及びガラス粉末を含むレジスタ組成物を加熱封着することにより形成する、或いはカートリッジ型抵抗体を挿入することによって構成することができる。ガラスシール13は、ガラスに銅粉を混入させてなる銅ガラスからなる。また、抵抗体14の基端側には、銅ガラスからなるガラスシール13を介して端子金具15が配されている。端子金具15は、例えば鉄合金からなる。
【0055】
また、ハウジング2の先端面には、接地電極16が接続されている。接地電極16は、中心電極17との間に、放電ギャップGを形成している。接地電極16の一部は、中心電極17の先端面と軸方向Zに対向しており、軸方向Zにおける中心電極17の先端面と接地電極16との間に放電ギャップGが形成されている。
【0056】
次に、図6図11を参照しつつ、本実施形態の内燃機関用のスパークプラグ1の製造方法につき説明する。
本実施形態のスパークプラグ1の製造方法は、準備工程とバレルメッキ工程と加工工程とを備える。
【0057】
準備工程では、ハウジング基材4を準備する。図6に示すごとく、ハウジング基材4は、基端側へ向かうほど径方向の外周側へ向かうよう傾斜し、一部が圧接面2cとなる傾斜面41と、外周面の外周端から基端側へ軸方向Zに平行に形成され、一部が平行面2aとなる筒面42と、を有する。
【0058】
ハウジング基材4は、ハウジング2を構成する鉄等の材料に、冷間鍛造、切削加工、取付ネジ部24の転造等を実施することで作製される。ハウジング2とは異なり、ハウジング基材4は、表面にメッキが施されていない。また、ハウジング基材4において、基端部45のかしめ部(図1の符号25参照)となる部位は、かしめられる前の状態において軸方向Zに平行な筒状に形成されている。
【0059】
ハウジング基材4には、先端部に接地電極基材44が接続されている。ハウジング基材4に取り付けられた状態において、接地電極基材44は、軸方向Zにまっすぐ形成された柱状に形成されている。後に接地電極基材44の先端側の部位を内周側に折り曲げることで、L字状の接地電極(図1の符号16参照)が形成される。
【0060】
図5に示すごとく、準備工程の後に、ハウジング基材4をバレルメッキするバレルメッキ工程を行う。バレルメッキ工程は、公知のバレルメッキの手法を採用することができる。
【0061】
バレルメッキ工程では、桶状の容器であるバレル51内に、陰極52、多数のハウジング基材4及び多数のメディア53を入れ、このバレル51をメッキ槽54内に充填されたメッキ液55に含浸させる。図示は省略するが、バレル51は、壁部に孔が形成されており、当該孔を介してメッキ液55がバレル51内に浸入できるようになっている。メディア53は、金属を球状に形成したものであり、多数のハウジング基材4のそれぞれは、メディア53を介して陰極52と導通する。
【0062】
また、メッキ槽54内に、陽極56を配置する。そして、バレル51を、バレル51の中心軸を中心に回転させつつ、陽極56と陰極52との間に電圧を印加する。これにより、バレル51内に配された多数のハウジング基材4及びメディア53が撹拌されつつ、ハウジング基材4の表面に均等にメッキが施される。
【0063】
図8に、バレルメッキ工程後のハウジング基材4を示している。このハウジング基材4は、バレルメッキ工程時にバレル51内の多数のハウジング基材4及びメディア53が撹拌された際に、ハウジング基材4の筒面42と傾斜面41との間の基材角43に打痕dが生じたものである。図8において、前記打痕dの位置を、×印の交点によって表している。なお、図8において、ハウジング基材4の表面に形成されたメッキについては図示を省略している。
【0064】
基材角43は、径方向における筒面42と同等の位置に形成されているため、ハウジング2の比較的外周側の位置にある。加えて、基材角43は角状に形成されている。そのため、基材角43は、他のハウジング基材4等が衝突しやすく、打痕dが生じやすい。
【0065】
バレルメッキ工程後、ハウジング2の内側に保持される絶縁碍子3、中心電極17等の部品をハウジング基材4に組み付ける組付工程を行う。組付工程においては、中心電極17、ガラスシール13、抵抗体14、及び端子金具15を内側に配した絶縁碍子3を、ハウジング基材4の基端側からハウジング基材4内に挿入する。そして、ハウジング基材4の基端部45を、内周側に向かって変形させるとともに先端側に押圧して絶縁碍子3にかしめる。また、接地電極基材44の中央部を折り曲げ、接地電極基材44をL字状の接地電極16とする。組付工程後の、ハウジング基材4、絶縁碍子3等が組み付けられたものを、図9の上側に示している。
【0066】
バレルメッキ工程、組付工程の後に、図9に示すごとく加工工程を行う。加工工程は、ハウジング基材4の傾斜面41と筒面42との間の基材角43を加工(本実施形態においては面押加工)することにより、基材角43を連結面2bとし、傾斜面41を圧接面2cとし、筒面42を平行面2aとする。
【0067】
図9に示すごとく、加工工程においては、筒状の受け治具57が用いられる。受け治具57の内周面の基端側端部に位置する支承面58は、基端側に向かうほど拡径するテーパ状に形成されている。支承面58のテーパ角θ8は、連結面2bの連結テーパ角θbと同じになるよう設計されている。すなわち、支承面58のテーパ角θ8は、59°未満となるよう設計されている。
【0068】
支承面58の内径は基材角43よりも小さく、支承面58の外径は基材角43よりも大きい。これにより、絶縁碍子3等を保持したハウジング基材4を受け治具57の基端側から受け治具57内に挿入した場合、ハウジング基材4の基材角43が受け治具57の支承面58に当接する。
【0069】
図10に示すごとく、加工工程においては、絶縁碍子3等を保持したハウジング基材4を、受け治具57内に挿入し、基材角43を支承面58に当接させる。この状態から、受け治具57に対してハウジング基材4をさらに先端側に押圧する。これにより、図11に示すごとく、ハウジング基材4の傾斜面41と筒面42との間の基材角43が面押しにより塑性変形し、基材角43がテーパ状の連結面2bとなる。
【0070】
そして、傾斜面41における前記面押しにより変形していない部位が圧接面2cであり、筒面42における前記面押しにより変形していない部位が平行面2aである。
【0071】
ここで、面押しによって基材角43がテーパ状の連結面2bとなることにより、ハウジング基材4における基材角43が形成されていた位置よりも内周側の領域に圧接面2cが形成されることとなる。これにより、ハウジング基材4における基材角43に形成されていた打痕dよりも内周側の領域に、圧接面2cを形成することができる。それゆえ、加工工程後に形成された圧接面2cに、打痕dが形成されることを防止することができる。
【0072】
加工工程の後、圧接面2cと連結面2bとの間には、新たな角部Eがスパークプラグ1の全周にわたって形成される。この角部Eは、スパークプラグ1を内燃機関に取り付けた状態において、シリンダヘッド11の座面11fに圧接する圧接面2cの外周端縁を含む。前述のごとく、圧接面2cはハウジング基材4に存在していた基材角43よりも内周側に配され、前記角部Eも基材角43よりも内周側に形成される。それゆえ、新たな角部Eに打痕dが形成されることを防止できる。
【0073】
加工工程により、平行面2aと連結面2bとの境界部には、前述の反り部21が形成される。反り部21は、加工工程における面押しにより形成された反りである。反り部21の存在により、連結面2bが面押しにより形成されたことを認識できる。
以上のように、本実施形態のスパークプラグ1を製造することができる。
【0074】
次に、本実施形態の作用効果につき説明する。
内燃機関用のスパークプラグ1において、シリンダヘッド11に圧接される圧接面2cは、連結面2bを介して平行面2aに接続されており、平行面2aよりも内周側に形成されている。それゆえ、シリンダヘッド11に密着する圧接面2cの外周端縁の位置を、ハウジング2の平行面2aよりも内周側に収まる位置に形成することができる。それゆえ、スパークプラグ1の製造工程や、製造後のスパークプラグ1の輸送時等において、圧接面2cの外周端縁に、他の物体が干渉し難く、圧接面2cの外周端縁に打痕が生じ難い。それゆえ、圧接面2cの外周端縁とシリンダヘッド11との密着性が低下することを抑制でき、スパークプラグ1とシリンダヘッド11との間の気密性を確保しやすい。
【0075】
また、圧接面2cの外周端と平行面2aの先端とをつなぐ連結面2bは、軸方向断面において、圧接面2cの延長線Lcよりも基端側の領域に収まるよう形成されている。それゆえ、連結面2bがシリンダヘッド11に当たることなく、確実に圧接面2cをシリンダヘッド11に当接させることができ、これによっても圧接面2cとシリンダヘッド11との密着性を確保しやすい。
【0076】
また、軸方向断面において、連結面2bは、基端側へ向かうほどスパークプラグ1の径方向の外周側へ向かうよう傾斜した直線状に形成されている。それゆえ、圧接面2cの外周端縁と連結面2bとの間には新たな角部Eが形成される。圧接面2cは、外周端縁でシリンダヘッド11の座面11fに圧接されることとなるが、圧接面2cと連結面2bとの間に角部Eが形成されることにより、圧接面2cにおける座面11fに圧接される箇所が一目で把握できる。それゆえ、スパークプラグ1作製後において、圧接面2cにおける座面11fに圧接される箇所周辺に打痕が形成されているか否かを確認しやすい。
【0077】
また、連結テーパ角θbは、59°未満である。つまり、前述のごとく、連結テーパ角θbは、国際規格ISO 28741:2013に定められたシリンダヘッド11の座面テーパ角θfである60°+0/-1°の最小値である59°よりも小さくなるよう設計されている。それゆえ、スパークプラグ1を内燃機関に取り付けたとき、連結面2bが座面11fに干渉することを防止することができる。すなわち、確実に圧接面2cを座面11fに圧接させることができ、圧接面2cと座面11fとの間のシール性を一層確保しやすい。
【0078】
また、本実施形態の内燃機関用のスパークプラグ1の製造方法においては、傾斜面41と筒面42とを有するハウジング基材4をバレルメッキするバレルメッキ工程を有する。それゆえ、ハウジング2の生産性を向上させることができ、かつ低コストでハウジング2にメッキを施すことができる。一方で、ハウジング基材4の表面、特に傾斜面41と筒面42との間の基材角43は、ハウジング基材4の比較的外周側に形成された角であるため、打痕の発生が懸念される。
【0079】
そこで、本実施形態におけるスパークプラグ1の製造方法においては、バレルメッキ工程の後に、ハウジング基材4の傾斜面41と筒面42との間の基材角43を加工することにより、当該基材角43を連結面2bとし、傾斜面41を圧接面2cとし、筒面42を平行面2aとする加工工程を有する。これにより、万一バレルメッキ工程において基材角43に打痕が生じた場合であっても、加工工程の後に形成される圧接面2cは、基材角43よりも内周側に形成され、圧接面2cに打痕が形成されることを防止できる。そのため、本実施形態におけるスパークプラグ1の製造方法においては、圧接面2cの外周端縁とシリンダヘッド11との密着性を確保しやすく、スパークプラグ1とシリンダヘッド11との間の気密性を確保しやすい。
【0080】
以上のごとく、本実施形態によれば、スパークプラグとシリンダヘッドとの間の気密性を確保しやすい内燃機関用のスパークプラグを提供することができる。
【0081】
(実施形態2)
本実施形態は、実施形態1に対して、スパークプラグ1の製造方法を変更した実施形態である。本実施形態につき、図12図14を参照しつつ説明する。
【0082】
本実施形態におけるスパークプラグ1の製造方法は、準備工程とバレルメッキ工程と挿入工程と第一当接工程と第二当接工程と同時加工工程とを備える。準備工程、バレルメッキ工程は、実施形態1で示した工程と同様である。
【0083】
挿入工程は、バレルメッキ工程の後に行う。図12に示すごとく、挿入工程では、中心電極17、ガラスシール13、抵抗体14、及び端子金具15を内側に配した絶縁碍子3がハウジング基材4の内側に挿入され、これにより図13に示すごとくアッシー部品10が形成される。挿入工程の後に、第一当接工程及び第二当接工程を行う。
【0084】
図13に示すごとく、第一当接工程においては、受け治具57の支承面58に、支承面58の基端側から、アッシー部品10の傾斜面41と筒面42との間の基材角43を当接させる。すなわち、アッシー部品10を受け治具57の基端側から受け治具57内に挿入し、ハウジング基材4の基材角43を支承面58に当接させる。なお、受け治具57や支承面58については、実施形態1で示したものと同様である。
【0085】
第二当接工程においては、ハウジング基材4の基端部45に、ハウジング基材4の基端側からかしめ治具61を当接させる。かしめ治具61は、筒状を呈している。かしめ治具61の内周面の先端部には、先端側に向かうほど拡径する治具当接面62を有する。治具当接面62は、かしめ治具61の内周面の全周に形成されている。治具当接面62は、プラグ中心軸を通る軸方向Zに平行な断面において、かしめ後のハウジング2のかしめ部25の外周面に沿うよう、円弧状に形成されている。第一当接工程及び第二当接工程の後に、同時加工工程を行う。
【0086】
同時加工工程においては、受け治具57とかしめ治具61とを軸方向Zに近付けることによってハウジング基材4に軸方向Zの圧縮力を印加する。そして、当該圧縮力によって、ハウジング基材4の基端部45を塑性変形させて図14に示すごとくかしめ部25を形成する。さらに、前記圧縮力によってかしめ部25を形成するのと同時に、前記圧縮力によって基材角43が支承面58に面押しされ、基材角43を塑性変形させて支承面58と対向する連結面2bを形成し、傾斜面41を圧接面2cとし、筒面42を平行面2aとする。
【0087】
すなわち、同時加工工程においては、受け治具57とかしめ治具61とを互いに軸方向Zに近付けて受け治具57とかしめ治具61とからハウジング基材4に軸方向Zの圧縮力を作用させることで、かしめ部25と連結面2bとを同時に形成する。そして、傾斜面41における前記面押しにより変形していない部位が圧接面2cであり、筒面42における前記面押しにより変形していない部位が平行面2aである。
以上のように、本実施形態のスパークプラグ1を製造することができる。
【0088】
スパークプラグ1の構造に関しては、実施形態1と同様である。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0089】
本実施形態のスパークプラグ1の製造方法においては、同時加工工程において、受け治具57とかしめ治具61とを軸方向Zに近付けることによってハウジング基材4に軸方向Zの圧縮力を印加する。同時加圧工程においては、前記圧縮力によって、ハウジング基材4の基端部45を塑性変形させてかしめ部25を形成する。さらに、これと同時に、前記圧縮力によって、基材角43を前記支承面58に面押しし、基材角43を塑性変形させて支承面58と対向する連結面2bを形成し、傾斜面41を圧接面2cとし、筒面42を平行面2aとする。このように、同時加工工程においては、受け治具57とかしめ治具61とを軸方向Zに近付けることによって、ハウジング2のかしめ部25と連結面2bとを同時に形成することができる。それゆえ、ハウジング2の生産性を向上させやすい。
【0090】
さらに、本実施形態におけるスパークプラグ1の製造方法においても、バレルメッキ工程を有する。それゆえ、ハウジング2の生産性を向上させることができ、かつ低コストでハウジング2にメッキを施すことができる。一方で、ハウジング基材4の表面、特に傾斜面41と筒面42との間の基材角43は、ハウジング基材4の比較的外周側に形成された角であるため、打痕の発生が懸念される。
【0091】
そこで、本実施形態におけるスパークプラグ1の製造方法においても、バレルメッキ工程の後の同時加工工程において、ハウジング基材4の基材角43に連結面2bを形成し、傾斜面41を圧接面2cとし、筒面42を平行面2aとする同時加工工程を有する。それゆえ、第二の態様におけるスパークプラグ1の製造方法と同様に、圧接面2cの外周端縁とシリンダヘッド11との密着性を確保しやすく、スパークプラグ1とシリンダヘッド11との間の気密性を確保しやすい。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0092】
(実施形態3)
本実施形態は、図15に示すごとく、実施形態1に対して、連結面2bの形成の仕方を変更した実施形態である。
【0093】
本実施形態において、ハウジング基材4に対する連結面2bの形成は、ローラ転造により行われる。ローラ転造は、ハウジング基材4の基材角43に側面が圧接するローラ7を複数用いる。ローラ7は、円柱状を呈しており、側面が円筒状を呈している。そして、ローラ7の側面とハウジング基材(図6の符号4参照)の基材角(図6の符号43参照)とを対向させ、ローラ7をハウジング基材に押し付けながら、ローラ7、及びハウジング基材を回転させ、基材角を連結面2bに塑性変形させる。そして、スパークプラグ1の全周に連結面2bを形成する。
【0094】
本実施形態において、ローラ転造は、バレルメッキ工程の後に行う。なお、ローラ転造は、ハウジング基材4の内側に絶縁碍子等の部品を保持した後に行ってもよいし、ハウジング基材4の内側に絶縁碍子等の部品を保持する前に行ってもよい。
その他は、実施形態1と同様である。
【0095】
本実施形態においても、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0096】
本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。例えば、ハウジング基材に対して、切削加工により基材角を切削することで、この切削面を連結面とすることもできる。
【符号の説明】
【0097】
1 内燃機関用のスパークプラグ
11 シリンダヘッド
2 ハウジング
2a 平行面
2b 連結面
2c 圧接面
Lb 圧接面の延長線
Z スパークプラグの軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15