(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/2233 20110101AFI20221206BHJP
F16D 3/20 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F16D3/2233
F16D3/20 K
(21)【出願番号】P 2019009795
(22)【出願日】2019-01-23
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】篠田 佳享
(72)【発明者】
【氏名】池尾 眞人
(72)【発明者】
【氏名】酒井 良成
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-106490(JP,A)
【文献】特開2007-239778(JP,A)
【文献】特開2006-017190(JP,A)
【文献】特開2002-323061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/2233, 3/223, 3/2237, 3/224, 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複数の外側トラック溝が設けられたカップ状の外側継手部材と、
外周面に複数の内側トラック溝が設けられて、前記外側継手部材の内側に配設される内側継手部材と、
前記外側トラック溝と前記内側トラック溝との間に介在させられてトルク伝達する複数のボールと、
円環形状を成して前記外側継手部材と前記内側継手部材との間に配設され、前記ボールを保持する複数のポケットが設けられたケージと、
を備え、且つ、前記外側継手部材および前記内側継手部材の各中心線が一直線上に位置するジョイント角が0degの基準状態で、前記外側トラック溝および前記内側トラック溝が前記ボールを挟む挟み角が前記外側継手部材のカップ開口側に向かって開く第1溝部と、前記挟み角が前記外側継手部材のカップ奥側に向かって開く第2溝部とを有し、該第1溝部および該第2溝部が前記中心線まわりに交互に設けられている等速自在継手において、
前記基準状態における前記第1溝部の挟み角の絶対値は、前記基準状態における前記第2溝部の挟み角の絶対値と相違しており、
前記ケージは、該ケージの中心線と平行な方向に所定の遊びを有する状態で前記外側継手部材または前記内側継手部材に組み付けられており、
前記基準状態における無負荷時の前記第1溝部および前記第2溝部の径方向クリアランスは互いに相違しているとともに、前記挟み角の絶対値が小さい方の溝部の径方向クリアランスが、前記挟み角の絶対値が大きい方の溝部の径方向クリアランスよりも大きい
ことを特徴とする等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は等速自在継手に係り、特に、外側トラック溝および内側トラック溝でボールを挟む挟み角の開き方向が逆向きの2種類の溝部が中心線まわりに交互に設けられている等速自在継手の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 内周面に複数の外側トラック溝が設けられたカップ状の外側継手部材と、(b) 外周面に複数の内側トラック溝が設けられて、前記外側継手部材の内側に配設される内側継手部材と、(c) 前記外側トラック溝と前記内側トラック溝との間に介在させられてトルク伝達する複数のボールと、(d) 円環形状を成して前記外側継手部材と前記内側継手部材との間に配設され、前記ボールを保持する複数のポケットが設けられたケージと、を備えている等速自在継手が、車両の前輪車軸等の動力伝達装置、或いは車両以外の各種の機械の回転伝達装置として広く用いられている。そして、このような等速自在継手として、前記外側継手部材および前記内側継手部材の各中心線が一直線上に位置するジョイント角が0degの基準状態で、前記外側トラック溝および前記内側トラック溝が前記ボールを挟む挟み角が前記外側継手部材のカップ開口側に向かって開く第1溝部と、前記挟み角が前記外側継手部材のカップ奥側に向かって開く第2溝部とを有し、それ等の第1溝部および第2溝部が前記中心線まわりに交互に設けられている、所謂カウンタートラック形式の等速自在継手が提案されている(特許文献1参照)。なお、外側継手部材および内側継手部材は、それぞれアウタレース、インナレースとも言われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような等速自在継手において、前記基準状態における第1溝部および第2溝部の挟み角の絶対値が互いに相違していると、トルク伝達する負荷時には挟み角の絶対値が大きい方の溝部に基づいてケージがガタ詰めされるため、挟み角が小さい方の溝部の径方向クリアランス(ボールの遊び)が小さくなって、ボールとトラック溝との間のボール溝面圧が高くなり、耐久性やトルク伝達効率が低下するなどの問題があった。すなわち、一般に第1溝部および第2溝部には互いに略等しい径方向クリアランスが設けられているが、負荷時には挟み角の絶対値が大きい程ボールに加えられる押し出し荷重(
図7のFa、Fb参照)が高くなるため、挟み角の絶対値が大きい方の溝部のボールと共にケージが移動してガタ詰めされる。このため、挟み角の絶対値が大きい方の溝部では、挟み角の開き側へボールが移動して径方向クリアランスが大きくなる一方、挟み角の絶対値が小さい方の溝部では、挟み角の閉じ側(奥側)へボールが移動して径方向クリアランスが小さくなる。ケージは、ジョイント角の変化に伴って外側継手部材および内側継手部材に対して姿勢変化するため、その中心線と平行な方向に所定の遊びを有する状態で外側継手部材或いは内側継手部材に組み付けられているが、第1溝部および第2溝部の挟み角の絶対値が互いに等しい場合、ボールに加えられる押し出し荷重が略等しいため、ガタ詰めされることなく中間位置に保持され、径方向クリアランスも略同じ大きさに維持される。
【0005】
図12は、上記径方向クリアランスの変化を説明する図で、この等速自在継手80は、第1溝部30の挟み角αの絶対値αabs が第2溝部32の挟み角βの絶対値βabs よりも大きい場合である。(a) の無負荷時には、第1溝部30の第1外側トラック溝20aによって定まるボール軌道(ボール中心の移動軌跡)La1と、第1溝部30の第1内側トラック溝22aによって定まるボール軌道La2との間の隙間に相当する径方向クリアランスCa1は、第2溝部32の第2外側トラック溝20bによって定まるボール軌道Lb1と、第2溝部32の第2内側トラック溝22bによって定まるボール軌道Lb2との間の隙間に相当する径方向クリアランスCb1と、略等しい。この径方向クリアランスCa1、Cb1は、ボール24を介して外側継手部材12と内側継手部材14との間でトルク伝達したり、ジョイント角を変化させる際にボール24を円滑に転動させたりする上で、所定の寸法を確保する必要がある。
【0006】
一方、(b) の負荷時には、挟み角αの絶対値αabs が大きい第1溝部30におけるボール24の押し出し荷重Fa(
図7参照)が第2溝部32におけるボール24の押し出し荷重Fb(
図7参照)よりも大きいことから、ケージ26がボール24と共に遊びH分だけ挟み角αの開き側(
図12における右方向)へ変位してガタ詰めされる。これにより、第1溝部30側の径方向クリアランスCa2は無負荷時の径方向クリアランスCa1よりも大きくなる一方、第2溝部32側の径方向クリアランスCb2は無負荷時の径方向クリアランスCb1よりも小さくなる。
図12は、ケージ26の遊びHの他に、ベアリング等の支持部材が遊びhを有する場合で、内側継手部材14が外側継手部材12に対してその遊びh分だけ相対変位させられ、径方向クリアランスCa2、Cb2の増減が更に大きくなる。すなわち、ボール24から受ける反力が、押し出し荷重Fa、Fbと反対方向に作用し、Fa>Fbであることから反力も第1溝部30側の方が大きいため、内側継手部材14が外側継手部材12のカップ奥側(
図12おける左方向)へ相対変位させられる。
【0007】
図13は、αabs =βabs で負荷時でもガタ詰まりが無い場合と、αabs >βabs で負荷時にガタ詰まりが生じる場合について、第2溝部32におけるアウタ側(第2外側トラック溝20b側)およびインナ側(第2内側トラック溝22b側)のボール溝面圧を比較して示した図で、ガタ詰まりが有るとアウタ側およびインナ側共にボール溝面圧が高くなる。
【0008】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、ボールの挟み角の開き方向が逆向きの2種類の溝部が中心線まわりに交互に設けられている等速自在継手において、2種類の溝部の挟み角の絶対値が相違する場合でも負荷時に所定の径方向クリアランスが得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 内周面に複数の外側トラック溝が設けられたカップ状の外側継手部材と、(b) 外周面に複数の内側トラック溝が設けられて、前記外側継手部材の内側に配設される内側継手部材と、(c) 前記外側トラック溝と前記内側トラック溝との間に介在させられてトルク伝達する複数のボールと、(d) 円環形状を成して前記外側継手部材と前記内側継手部材との間に配設され、前記ボールを保持する複数のポケットが設けられたケージと、を備え、且つ、(e) 前記外側継手部材および前記内側継手部材の各中心線が一直線上に位置するジョイント角が0degの基準状態で、前記外側トラック溝および前記内側トラック溝が前記ボールを挟む挟み角が前記外側継手部材のカップ開口側に向かって開く第1溝部と、前記挟み角が前記外側継手部材のカップ奥側に向かって開く第2溝部とを有し、それ等の第1溝部および第2溝部が前記中心線まわりに交互に設けられている等速自在継手において、(f) 前記基準状態における前記第1溝部の挟み角の絶対値は、前記基準状態における前記第2溝部の挟み角の絶対値と相違しており、(g) 前記ケージは、そのケージの中心線と平行な方向に所定の遊びを有する状態で前記外側継手部材または前記内側継手部材に組み付けられており、(h) 前記基準状態における無負荷時の前記第1溝部および前記第2溝部の径方向クリアランスは互いに相違しているとともに、前記挟み角の絶対値が小さい方の溝部の径方向クリアランスが、前記挟み角の絶対値が大きい方の溝部の径方向クリアランスよりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このような等速自在継手においては、基準状態における第1溝部の挟み角の絶対値と第2溝部の挟み角の絶対値とが相違するため、トルク伝達する負荷時に挟み角の絶対値が大きい方の溝部に基づいてケージがその遊び分だけガタ詰めされると、挟み角の絶対値が大きい方の溝部の径方向クリアランスは無負荷時よりも大きくなり、挟み角の絶対値が小さい方の溝部の径方向クリアランスは無負荷時よりも小さくなる。しかしながら、無負荷時における径方向クリアランスは、挟み角の絶対値が小さい溝部の方が、挟み角の絶対値が大きい溝部よりも大きくされているため、ガタ詰めに伴って挟み角の絶対値が大きい方の溝部の径方向クリアランスは増加させられ、挟み角の絶対値が小さい方の溝部の径方向クリアランスは減少させられることにより、それ等の径方向クリアランスを何れも所定の寸法にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施例である等速自在継手を中心線に沿って切断した断面図である。
【
図2】
図1の等速自在継手を右方向から見た側面図である。
【
図3】
図1の等速自在継手において第1溝部を構成している外側継手部材の第1外側トラック溝部分の断面図で、その第1外側トラック溝の長手方向の溝底形状を説明する図である。
【
図4】
図1の等速自在継手において第1溝部を構成している内側継手部材の第1内側トラック溝部分の断面図で、その第1内側トラック溝の長手方向の溝底形状を説明する図である。
【
図5】
図1の等速自在継手において第2溝部を構成している外側継手部材の第2外側トラック溝部分の断面図で、その第2外側トラック溝の長手方向の溝底形状を説明する図である。
【
図6】
図1の等速自在継手において第2溝部を構成している内側継手部材の第2内側トラック溝部分の断面図で、その第2内側トラック溝の長手方向の溝底形状を説明する図である。
【
図7】
図1の等速自在継手において第1溝部の挟み角、第2溝部の挟み角に基づいてボールに作用する押し出し荷重Fa、Fbを説明する図である。
【
図8】
図1の等速自在継手の内側継手部材のシャフトを上方(第1溝部側)および下方(第2溝部側)へ折り曲げて戻す際の形態を具体的に示した図である。
【
図9】
図8に示す6つのボールA1、A3、A5、B2、B4、B6の各挟み角α、βのジョイント角Φに対する変化特性を示した図である。
【
図10】
図1の等速自在継手を
図8に示すように曲げ戻した場合のシャフト曲げ荷重の変化(実線)を、挟み角α、βの絶対値が等しい従来品(破線)と比較して示した図である。
【
図11】
図1の等速自在継手の第1溝部および第2溝部における径方向クリアランスについて、無負荷時と負荷時とを比較して説明する図である。
【
図12】第1溝部の挟み角の絶対値が第2溝部の挟み角の絶対値よりも大きく、且つ無負荷時に第1溝部および第2溝部の径方向クリアランスが互いに等しい等速自在継手について、負荷に伴う径方向クリアランスの増減を説明する図である。
【
図13】負荷時にガタ詰まりが無い場合と、負荷時にガタ詰まりが生じる場合について、挟み角が小さい第2溝部のアウタ側およびインナ側のボール溝面圧を比較して示した図である。
【
図14】等速自在継手のトルク伝達時に第2溝部においてボールから内側トラック溝に加えられるボール溝荷重Fgを説明する図である。
【
図15】挟み角α、βの絶対値が等しい従来品を説明する図で、
図1の実施例品における
図7に対応する断面図である。
【
図16】
図15の従来品について、
図8と同様に定められた6つのボールA1、A3、A5、B2、B4、B6の各挟み角α、βのジョイント角Φに対する変化特性を示した図で、
図1の実施例品における
図9に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の等速自在継手は、例えば操舵車輪である前輪の車軸等の車両用の動力伝達装置や、車両以外の各種の機械の回転伝達装置等に適用される。第1溝部および第2溝部は、中心線まわりに等角度間隔で設けられることが望ましく、合計の溝部の数は偶数で、例えば6以上が適当である。基準状態における第1溝部および第2溝部の挟み角の絶対値は、例えば10deg~25deg程度の範囲内が適当であるが、10degより小さくても良いし、25degより大きくしても良い。挟み角は、外側トラック溝および内側トラック溝の間で略均等に外側および内側へ開くことが望ましいが、外側および内側の何れか一方へ片寄って開くように設けることもできる。ケージの遊びの他に、ベアリング等の支持部材が遊びを有する場合、無負荷時と負荷時とで径方向クリアランスの増減が大きくなり、本発明が好適に適用されるが、ベアリング等の支持部材の遊びが略0の場合にも本発明は適用され得る。ケージの遊びは、必ずしも測定可能な隙間がある必要はなく、挟み角による押し出し荷重によって弾性変形などでボールの保持位置が変化する場合でも良い。
【0013】
本発明の一実施態様は、例えば(a) 前記第1溝部および前記第2溝部は、前記中心線を挟んで対称位置に配置されているとともに、(b) 前記基準状態における前記第1溝部の挟み角の絶対値は、前記基準状態における前記第2溝部の挟み角の絶対値よりも大きく、(c) 前記基準状態における無負荷時の前記第2溝部の径方向クリアランスは、前記基準状態における無負荷時の前記第1溝部の径方向クリアランスよりも大きい、ように構成される。すなわち、ジョイント角の変化時(折曲げ時および戻し時)に、一部のボールに作用する押し出し荷重によってケージが回動させられ、押し出し荷重が得られないボールについてもケージにより移動させられて、ジョイント角が円滑に変化させられるが、第1溝部と第2溝部とが中心線を挟んで対称位置に配置されている場合、ジョイント角変化時の等速自在継手の中心線まわりの位相やジョイント角によっては、ボールの押し出し荷重が十分に得られず、ケージの回動抵抗や回動遅れなどにより異音等が発生する可能性がある。これに対し、第1溝部の挟み角の絶対値を第2溝部の挟み角の絶対値よりも大きくすると、第1溝部の挟み角によるボールの押し出し荷重が大きくなるため、第1溝部の挟み角により十分な押し出し荷重が得られなかったジョイント角の領域でも、第1溝部のボールの押し出し荷重が増大させられ、その押し出し荷重によるボールの移動でケージを円滑に回動させるようにすることができる。
【0014】
上記実施態様の場合、基準状態における第1溝部の挟み角の絶対値は、基準状態における第2溝部の挟み角の絶対値よりも例えば2deg~10deg程度の範囲内で大きくされることが望ましい。また、第1溝部を含む折曲げ平面で等速自在継手が折り曲げられた場合に、ジョイント角の全域で第1溝部の挟み角が外側継手部材のカップ開口側に向かって開いているとともに、その挟み角の絶対値は基準状態における第2溝部の挟み角の絶対値よりも大きい状態に維持されるようにすることが望ましい。また、第1溝部および第2溝部における外側トラック溝および内側トラック溝の軸方向断面の溝底形状は、少なくともジョイント角が5deg以下の小曲げ領域でボールに接する範囲では直線であることが望ましい。また、第1溝部および第2溝部を合わせた合計の溝部の数は6または10が望ましい。
【0015】
本発明は上記実施態様以外の態様で実施することも可能である。例えば、中心線を挟んだ対称位置に第1溝部同士、第2溝部同士が配置されても良いし、基準状態における第2溝部の挟み角の絶対値を、基準状態における第1溝部の挟み角の絶対値よりも大きくし、基準状態における無負荷時の第1溝部の径方向クリアランスを、基準状態における無負荷時の第2溝部の径方向クリアランスよりも大きくしても良い。また、基準状態における第1溝部の挟み角の絶対値と、第2溝部の挟み角の絶対値との差は、10degよりも大きくなるとケージの姿勢が不安定になる可能性があるが、問題がない範囲で10degを超えて設定しても良い。第1溝部および第2溝部における外側トラック溝および内側トラック溝の軸方向断面の溝底形状は、挟み角の精度や加工の容易さ等の観点から、少なくともジョイント角が5deg以下の小曲げ領域ではボールに接する範囲が直線であることが望ましいが、ジョイント角が0degの部分を含めて円弧等の曲線で構成することも可能で、その場合は円弧の接線によって挟み角が定められる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0017】
図1は、本発明の一実施例である等速自在継手10を中心線S1、S2に沿って切断した断面図で、
図2は
図1の右方向から見た側面図である。この等速自在継手10は、例えば操舵車輪である車両の前輪の車軸等に用いられるもので、外側継手部材12および内側継手部材14を備えており、内側継手部材14にはシャフト16がスプライン等を介して動力伝達可能に連結される。
図1および
図2は、外側継手部材12の中心線S1および内側継手部材14の中心線S2が一直線上に位置するジョイント角Φ=0degの基準状態を示した図である。この等速自在継手10の折曲げ可能なジョイント角Φは40deg以上で、本実施例では46deg程度である。ジョイント角Φは、中心線S1およびS2が一直線上に位置する基準状態を0degとする両者(S1およびS2)の交差角度である。
【0018】
外側継手部材12は、カップ状(半球形状)を成しているとともに、内周面には中心線S1まわりに等角度間隔で複数の第1外側トラック溝20a、第2外側トラック溝20b(以下、特に区別しない場合は単に外側トラック溝20という)が設けられている。本実施例では、第1外側トラック溝20aおよび第2外側トラック溝20bが、中心線S1まわりに交互に3つずつ設けられている。内側継手部材14は、カップ状の外側継手部材12の内側に配設されるもので、外周面には中心線S2まわりに等角度間隔で複数の第1内側トラック溝22a、第2内側トラック溝22b(以下、特に区別しない場合は単に内側トラック溝22という)が設けられている。本実施例では、第1内側トラック溝22aおよび第2内側トラック溝22bが、中心線S2まわりに交互に3つずつ設けられている。
【0019】
第1内側トラック溝22aは第1外側トラック溝20aに対応して設けられており、それ等の第1内側トラック溝22aと第1外側トラック溝20aとの間には、トルク伝達用のボール24が介在させられている。また、第2内側トラック溝22bは第2外側トラック溝20bに対応して設けられており、それ等の第2内側トラック溝22bと第2外側トラック溝20bとの間にも、トルク伝達用のボール24が介在させられている。外側継手部材12と内側継手部材14との間の円環状空間には、円環形状のケージ26がジョイント中心Oまわりに回動可能に配設されており、そのケージ26に等角度間隔で設けられた6つのポケット(開口)28内にそれぞれ上記ボール24が保持されている。ケージ26の外周面は球面形状を成しており、外側継手部材12の内周面に摺動可能に嵌合されて保持されている。
【0020】
第1外側トラック溝20aおよび第1内側トラック溝22aによって第1溝部30が構成されており、第2外側トラック溝20bおよび第2内側トラック溝22bによって第2溝部32が構成されている。これ等の第1溝部30および第2溝部32は、中心線S1、S2まわりに交互に設けられているとともに、溝部30、32の合計が6個の本実施例では、
図2から明らかなように中心線S1、S2を挟んで対称位置に第1溝部30および第2溝部32が配置される。
【0021】
図1、
図2に示す基準状態において、第1溝部30では、第1外側トラック溝20aおよび第1内側トラック溝22aがボール24を挟む挟み角αが正、すなわち外側継手部材12のカップ開口側(
図1の右方向)に向かって開いている。一方、第2溝部32では、第2外側トラック溝20bおよび第2内側トラック溝22bがボール24を挟む挟み角βが負、すなわち外側継手部材12のカップ奥側(
図1の左方向)に向かって開いている。この基準状態における挟み角αの絶対値αabs は挟み角βの絶対値βabs よりも2~10degの範囲内で大きくされており、本実施例では8deg大きい。具体的には、挟み角αは15~25degの範囲内で22deg程度とされており、挟み角βは-10~-20degの範囲内で-14deg程度とされている。挟み角αは、ジョイント角Φの変化に伴って変化するが、本実施例では、
図1に示すように第1溝部30を含む折曲げ平面で等速自在継手10が折り曲げられた場合に、ジョイント角Φの変化に拘らず、その折曲げ平面内の第1溝部30の挟み角αの絶対値αabs は基準状態における挟み角βの絶対値βabs (=14deg)よりも大きい状態に維持される。
図9において、太い実線で示すA1のグラフは、
図1の上側の第1溝部30におけるボール24の挟み角αの変化特性に相当し、ジョイント角Φの全域で14degよりも大きく、20deg程度以上に維持されている。すなわち、挟み角αを規定する第1外側トラック溝20aおよび第1内側トラック溝22aの軸方向断面における溝底形状が、ジョイント角Φの変化に拘らず挟み角αが20deg程度以上に維持されるように定められている。
【0022】
図3は、第1外側トラック溝20aの長手方向である軸方向断面における溝底形状を具体的に説明する図で、破線はボール24の球中心の移動軌跡であるボール軌道La1であり、溝底形状はボール軌道La1に応じて定められている。ボール軌道La1は、ジョイント角Φが7deg以下、すなわち-7deg≦Φ≦+7degの常用領域(小曲げ領域)Eaにおける傾斜直線部40と、傾斜直線部40の両側に滑らか接続された半径Ra1、Ra2の円弧部42、44と、カップ開口側(
図3の右側)の円弧部42に滑らかに接続された中心線S1と平行な平行直線部46とを備えている。常用領域Eaは、ジョイント中心Oを通る垂直線Loの両側の3.5degの範囲である。傾斜直線部40により、ジョイント角Φ=0degの基準状態における挟み角αが定まり、本実施例ではα/2すなわち11deg程度で、カップ開口側へ向かうに従って中心線S1から離間する外周側へ傾斜させられている。円弧部42、44の半径Ra1、Ra2は、何れも中心線S1までの半径寸法よりも小さい。第1外側トラック溝20aの溝底形状は、ボール軌道La1よりもボール24の半径分だけ大きい寸法とされている。なお、
図3では第1外側トラック溝20aの隣に設けられる第2外側トラック溝20bが省略されている。
【0023】
図4は、第1内側トラック溝22aの長手方向である軸方向断面における溝底形状を具体的に説明する図で、破線で示すボール軌道La2に応じて定められている。ボール軌道La2は、前記ボール軌道La1に比較して、垂直線Loを基準として左右反対に定められているだけで、常用領域Eaにおける傾斜直線部40と、傾斜直線部40の両側に滑らか接続された半径Ra1、Ra2の円弧部42、44と、外側継手部材12のカップ奥側(
図4の左側)の円弧部42に滑らかに接続された中心線S2と平行な平行直線部46と、を備えている点は同じである。このボール軌道La2の傾斜直線部40は、挟み角αに基づいてα/2すなわち11deg程度で、外側継手部材12のカップ開口側(
図4における右側)へ向かうに従って中心線S2に接近する内周側へ傾斜させられている。第1内側トラック溝22aの溝底形状は、ボール軌道La2よりもボール24の半径分だけ小さい寸法とされている。
【0024】
図5は、第2外側トラック溝20bの長手方向である軸方向断面における溝底形状を具体的に説明する図で、破線はボール24の球中心の移動軌跡であるボール軌道Lb1であり、溝底形状はボール軌道Lb1に応じて定められている。ボール軌道Lb1は、前記常用領域Eaを含む部分に設けられた傾斜直線部50と、常用領域Eaよりもカップ奥側(
図5の左側)に滑らかに接続された半径Rbの円弧部52とを備えており、常用領域Eaよりもカップ開口側(
図5の右側)は傾斜直線部50が延長して設けられている。傾斜直線部50により、ジョイント角Φ=0degの基準状態における挟み角βが定まり、本実施例ではβ/2の絶対値である7deg程度で、カップ開口側へ向かうに従って中心線S1に接近する内周側へ傾斜させられている。円弧部52の半径Rbは、中心線S1までの半径寸法よりも小さい。第2外側トラック溝20bの溝底形状は、ボール軌道Lb1よりもボール24の半径分だけ大きい寸法とされている。なお、
図5では第2外側トラック溝20bの隣に設けられる第1外側トラック溝20aが省略されている。
【0025】
図6は、第2内側トラック溝22bの長手方向である軸方向断面における溝底形状を具体的に説明する図で、破線で示すボール軌道Lb2に応じて定められている。ボール軌道Lb2は、前記ボール軌道Lb1に比較して、垂直線Loを基準として左右反対に定められているだけで、常用領域Eaを含む部分の傾斜直線部50と、常用領域Eaよりも外側継手部材12のカップ開口側(
図6の右側)に滑らかに接続された半径Rbの円弧部52とを備えており、常用領域Eaよりも外側継手部材12のカップ奥側(
図6の左側)は傾斜直線部50が延長して設けられている点は同じである。このボール軌道Lb2の傾斜直線部50は、挟み角βに基づいてβ/2の絶対値すなわち7deg程度で、外側継手部材12のカップ開口側へ向かうに従って中心線S2から離間する外周側へ傾斜させられている。第2内側トラック溝22bの溝底形状は、ボール軌道Lb2よりもボール24の半径分だけ小さい寸法とされている。
【0026】
図7は、上記挟み角α、βに基づいてボール24に作用する押し出し荷重Fa、Fbを説明する図である。6個のボール24を区別するために、
図8に示されるように第1溝部30に配置されたボール24をA1、A3、A5とし、第2溝部32に配置されたボール24をB2、B4、B6(特に区別しない場合はボールA、B、或いはボール24という)とする。
図7において、第1溝部30のボール24はA1で、挟み角αに基づいて右向きの押し出し荷重Faが作用し、第2溝部32のボール24はB4で、挟み角βに基づいて左向きの押し出し荷重Fbが作用する。ジョイント角Φの変化時(折曲げ時および戻し時)には、それ等の押し出し荷重Fa、Fbに基づいてボール24が押し動かされることにより、ケージ26がジョイント中心Oまわりに回動させられる。具体的には、ボールA1およびB4を含む折曲げ平面(
図7の紙面)で、矢印Dnで示すように内側継手部材14のシャフト16を下方へ折り曲げる場合、押し出し荷重Fa、Fbによるボール40の移動でケージ26が円滑にジョイント中心Oの右まわりに回動させられる。一方、矢印Upで示すように内側継手部材14のシャフト16を上方へ折り曲げる場合、ケージ26をジョイント中心Oの左まわりに回動させる必要があるが、ボールA1、B4に作用する押し出し荷重Fa、Fbの向きが反対であるため、これ等の押し出し荷重Fa、Fbはケージ26の回動に寄与しない。
【0027】
ここで、上記挟み角α、βは、ジョイント角Φに応じて変化し、その挟み角α、βの変化に伴って押し出し荷重Fa、Fbも変化する。また、6つのボールA1、A3、A5、B2、B4、B6を有するため、総てのボールA、Bの挟み角α、βに基づいて押し出し荷重Fa、Fbの大きさや向きを検討する必要がある。
図9は、ボールA1およびB4を含む折曲げ平面で内側継手部材14を上下に折り曲げた場合に、ジョイント角Φに応じて変化する挟み角α、βの変化特性を示した図である。ジョイント角Φの正側は、
図8の右側のΦ=46deg側に示すように内側継手部材14のシャフト16を上方(ボールA1側)へ折り曲げる方向で、ジョイント角Φの負側は
図8の左側のΦ=-46deg側に示すように内側継手部材14のシャフト16を下方(ボールB4側)へ折り曲げる方向である。
図9に基づいて、例えば
図7における矢印Up側(ジョイント角Φ>0)への折曲げ時の押し出し荷重Fa、Fbについて検討すると、中心線S1よりも上側に位置するボールB6の挟み角βはΦ>0の全域で負であるとともに、中心線S1よりも下側に位置するボールA3の挟み角αはΦ>0の全域で正であるため、それ等の押し出し荷重Fb、Faに基づいてボールB6、A3が押し動かされることにより、ケージ26がジョイント中心Oの左まわりに円滑に回動させられる。
【0028】
ところで、
図15の等速自在継手90は、第1溝部30の挟み角αの絶対値αabs と、第2溝部32の挟み角βの絶対値βabs とが互いに等しい従来品の一例で、ジョイント角Φ=0degの基準状態(
図15の状態)における挟み角α=14deg、挟み角β=-14degである。
図16は、
図15の従来品について、
図8と同様に定められた6つのボールA1、A3、A5、B2、B4、B6の各挟み角α、βのジョイント角Φに対する変化特性を示した図で、前記
図9に対応する図である。この
図16においてジョイント角Φ=20deg付近では、中心線S1よりも上側のボールA1、B2、B6の挟み角α、βは、ボールA1の挟み角αは正であるものの、他のボールB2、B6の挟み角βは共に負である。また、中心線S1よりも下側のボールA3、A5、B4の挟み角α、βは何れも正である。このため、内側継手部材14のシャフト16を上方へ折り曲げた後に基準状態へ戻す際のジョイント角Φ=20deg付近では、ボールA1だけがその戻し方向の押し出し荷重Faを有することになるが、ボールA1の挟み角αは小さいため(10deg以下)十分な押し出し荷重Faが得られず、ケージ26の回動抵抗や回動遅れなどにより異音等が発生する可能性がある。なお、問題になるジョイント角Φは、ジョイント角Φに対する挟み角α、βの変化特性、すなわち軸方向断面におけるトラック溝20a、20b、22a、22bの溝底形状等によって相違する。このような一定の位相における折曲げや戻しは、例えば工場における試験等で行なわれるが、車両の前輪車軸に設けられた等速自在継手の場合、車両の停車状態で操舵車輪の向きを変更する場合など、実際の車両の運転時にも行なわれる可能性がある。
【0029】
これに対し、第1溝部30の挟み角αの絶対値αabs が第2溝部32の挟み角βの絶対値βabs よりも大きい本実施例の等速自在継手10においては、
図9から明らかなように、ジョイント角Φ=20deg付近では、中心線S1よりも上側に位置するボールA1の挟み角αは正で、他のボールB2、B6の挟み角βは何れも負であり、中心線S1よりも下側に位置するボールA3、A5、B4の挟み角α、βは何れも正である。この点は
図16に示す従来技術と同じで、ボールA1だけがケージ26の回動に寄与するが、ボールA1の挟み角αは20deg程度で、
図16に示す従来技術(10deg以下)よりも十分に大きい。このため、この大きな挟み角αによる大きな押し出し荷重FaによりボールA1が押し動かされることにより、ケージ26がジョイント中心Oの右まわりに円滑に回動させられるようになる。
【0030】
図10は、
図8に示すようにジョイント角Φを±46degの範囲で変化させた場合のシャフト曲げ荷重のグラフで、本実施例では実線で示すように全域に亘ってシャフト曲げ荷重が略0である。これに対し、破線は
図15、
図16に示す従来技術の場合で、+46degまで折り曲げた後に基準状態へ戻す際に、ジョイント角Φが20deg程度以下になるとシャフト曲げ荷重が急激に増大しており、挟み角α、βによるケージ26の回動作用が適切に得られず、ケージ26の回動抵抗が大きいと考えられる。
【0031】
このような等速自在継手10においては、基準状態における第1溝部30の挟み角αの絶対値αabs が第2溝部32の挟み角βの絶対値βabs よりも大きいため、その第1溝部30の挟み角αによるボール24の押し出し荷重Faが大きくなる。これにより、従来第1溝部30の挟み角αにより十分な押し出し荷重Faが得られなかったジョイント角Φの領域、例えば+46deg側へ折り曲げた後の戻し時における20deg付近を含み、それよりジョイント角Φが大きい領域で、ボール24(A1)の押し出し荷重Faが増大させられ、その押し出し荷重Faによるボール24(A1)の移動でケージ26が円滑に回動させられるようになる。
【0032】
また、基準状態における第1溝部30の挟み角αの絶対値αabs が第2溝部32の挟み角βの絶対値βabs よりも、2deg~10degの範囲内で実施例では8degだけ大きくされているため、第1溝部30の挟み角αによるボール24の押し出し荷重Faが確実に大きくなり、その押し出し荷重Faによるボール24の移動でケージ26を適切に回動させることができる。
【0033】
また、第1溝部30を含む折曲げ平面で等速自在継手10が折り曲げられた場合に、ジョイント角Φの全域で第1溝部30の挟み角αが外側継手部材12のカップ開口側に向かって開いているとともに挟み角αの絶対値αabs が基準状態における第2溝部32の挟み角βの絶対値βabs (=14deg)よりも大きい状態に維持されるため、ジョイント角Φの全域で第1溝部30の挟み角αによるボール24の押し出し荷重Faが比較的大きい状態に維持される。これにより、曲げ方向に応じてその押し出し荷重Faによるボール24の移動でケージ26を円滑に回動させることができる。
【0034】
また、第1溝部30および第2溝部32における外側トラック溝20a、20b、および内側トラック溝22a、22bの軸方向断面の溝底形状が、ジョイント角Φが7deg以下の常用領域Eaでボール24に接する範囲が直線(傾斜直線部40、50)であるため、常用領域Eaの溝加工を容易に且つ高い精度で行なうことが可能で、挟み角α、βに応じて所定の押し出し荷重Fa、Fbが適切に得られる。
【0035】
一方、このように第1溝部30および第2溝部32の挟み角α、βが互いに相違していると、トルク伝達する負荷時には挟み角αの絶対値αabs が大きい第1溝部30に基づいてケージ26がガタ詰めされる。このため、挟み角βの絶対値βabs が小さい第2溝部32の径方向クリアランスが小さくなって、ボール26と第2トラック溝20b、22bとの間のボール溝面圧が高くなり、耐久性やトルク伝達効率が低下するなどの問題が生じる可能性がある。すなわち、一般に組付状態すなわちトルク伝達しない無負荷時に、第1溝部30および第2溝部32には互いに略等しい径方向クリアランスが設けられているため、負荷時に挟み角αの絶対値αabs が大きい第1溝部30のボール26に加えられる押し出し荷重Faが第2溝部32の押し出し荷重Fbよりも高くなると、その第1溝部30のボール26と共にケージ26が外側継手部材12のカップ開口側(
図7における右側)へ移動してガタ詰めされる。ケージ26は、ジョイント角Φの変化に伴って外側継手部材12および内側継手部材14に対して姿勢変化するため、その中心線(
図7の基準状態における中心線S1、S2と同じ)と平行な方向に所定の遊びH(
図12参照)を有する状態で外側継手部材12に組み付けられているが、
図15に示す従来の等速自在継手90のように第1溝部30および第2溝部32の挟み角α、βの絶対値αabs 、βabs が互いに等しい場合、ボール26に加えられる押し出し荷重Fa、Fbの大きさが略等しいため、何れか一方にガタ詰めされることなく中間位置に保持され、径方向クリアランスも略同じ大きさに維持される。
【0036】
しかし、本実施例のように第1溝部30および第2溝部32の挟み角α、βの絶対値αabs 、βabs が互いに相違していると、挟み角βの絶対値βabs が小さい第2溝部32の径方向クリアランスが小さくなる。
図12は、この径方向クリアランスの変化を説明する図で、この等速自在継手80は、基準状態における第1溝部30の挟み角αの絶対値αabs が第2溝部32の挟み角βの絶対値βabs よりも大きく、且つ(a) に示す無負荷時における第1溝部30の径方向クリアランスCa1および第2溝部32の径方向クリアランスCb1が互いに等しい比較品である。径方向クリアランスCa1は、第1溝部30の第1外側トラック溝20aによって定まるボール軌道La1と、第1溝部30の第1内側トラック溝22aによって定まるボール軌道La2との間の隙間に相当し、径方向クリアランスCb1は、第2溝部32の第2外側トラック溝20bによって定まるボール軌道Lb1と、第2溝部32の第2内側トラック溝22bによって定まるボール軌道Lb2との間の隙間に相当する。
【0037】
図12の(b) は、基準状態においてトルク伝達する負荷時の場合で、第1溝部30におけるボール24の押し出し荷重Faが第2溝部32におけるボール24の押し出し荷重Fbよりも大きいことから、ケージ26がボール24と共に遊びH分だけ挟み角αの開き側(
図12における右方向)へ変位してガタ詰めされる。これにより、第1溝部30側の径方向クリアランスCa2は無負荷時の径方向クリアランスCa1よりも大きくなる一方、第2溝部32側の径方向クリアランスCb2は無負荷時の径方向クリアランスCb1よりも小さくなる。
図12は、ケージ26の遊びHの他に、ベアリング等の支持部材が遊びhを有する場合で、内側継手部材14が外側継手部材12に対してその遊びh分だけ相対変位させられ、径方向クリアランスCa2、Cb2の増減が更に大きくなる。
【0038】
図13は、αabs =βabs で負荷時でもガタ詰まりが無い場合と、αabs >βabs で負荷時にガタ詰まりが生じる場合について、第2溝部32におけるアウタ側(第2外側トラック溝20b側)およびインナ側(第2内側トラック溝22b側)のボール溝面圧を比較して示した図で、ガタ詰まりにより径方向クリアランスCb2が小さくなると、アウタ側およびインナ側共にボール溝面圧が高くなる。ボール溝面圧は、
図14のボール溝荷重Fgに対応する。
図14は、外側継手部材12から内側継手部材14にトルクが伝達される負荷時に、第2溝部32におけるボール24と第2内側トラック溝22bとの間に作用するボール溝荷重Fgを説明する図で、ボール溝荷重Fgは、ボール24の荷重F0および接触角δを用いて次式(1) で表される。接触角δは、第2溝部32の径方向クリアランスCb2が小さくなるに従って小さくなるため、ボール溝荷重Fgが高くなり、それに伴ってボール溝面圧も高くなる。
Fg=F0/sinδ ・・・(1)
【0039】
これに対し、本実施例の等速自在継手10は、
図11の(a) に示すように、基準状態における無負荷時の第1溝部30および第2溝部32の径方向クリアランスCa1、Cb1が互いに相違しており、挟み角βの絶対値βabs が小さい第2溝部32の径方向クリアランスCb1が、挟み角αの絶対値αabs が大きい第1溝部30の径方向クリアランスCa1よりも大きい。これにより、
図11の(b) に示す負荷時に、第1溝部30におけるボール24の押し出し荷重Faに基づいてケージ26がボール24と共に遊びH分だけ挟み角αの開き側(
図11における右方向)へ変位してガタ詰めされ、第1溝部30側の径方向クリアランスCa2が無負荷時の径方向クリアランスCa1よりも大きくなる一方、第2溝部32側の径方向クリアランスCb2が無負荷時の径方向クリアランスCb1よりも小さくなると、両者の径方向クリアランスCa2、Cb2の差が小さくなる。また、ベアリング等の支持部材の遊びhに基づいて、内側継手部材14が外側継手部材12に対してその遊びh分だけカップ奥側(
図11おける左方向)へ相対変位させられることにより、径方向クリアランスCa2、Cb2の差が更に小さくなり、本実施例ではCa2≒Cb2になる。言い換えれば、トルク伝達する負荷時に径方向クリアランスCa2およびCb2が互いに略等しい所定の寸法になるように、無負荷の組付時における第2溝部32の径方向クリアランスCb1が第1溝部30の径方向クリアランスCa1よりも大きくされている。
【0040】
このように本実施例の等速自在継手10においては、基準状態における第1溝部30の挟み角αの絶対値αabs と第2溝部32の挟み角βの絶対値βabs とが互いに相違しており、トルク伝達する負荷時に挟み角αの絶対値αabs が大きい第1溝部30の押し出し荷重Faに基づいてケージ26が遊びH分だけガタ詰めされると、第1溝部30の径方向クリアランスCa2は無負荷時よりも大きくなり、挟み角βの絶対値βabs が小さい第2溝部32の径方向クリアランスCb2は無負荷時よりも小さくなる。しかしながら、無負荷時における径方向クリアランスCa1、Cb1は、挟み角βの絶対値βabs が小さい第2溝部32の方が、挟み角αの絶対値αabs が大きい第1溝部30よりも大きくされているため、負荷による径方向クリアランスCa1、Cb1の増減に拘らず、その負荷時に第1溝部30および第2溝部32の何れについても所定の径方向クリアランスCa2、Cb2を適切に確保することができる。本実施例では、ベアリング等の支持部材の遊びhのガタ詰めと相まって、負荷時の径方向クリアランスCa2およびCb2が互いに略同じ大きさとされるため、負荷時に所定の径方向クリアランスCa2、Cb2を適切に確保することができる。これにより、
図12に示すように、無負荷時の径方向クリアランスCa1、Cb1が互いに略同じで、負荷時に挟み角βの絶対値βabs が小さい第2溝部32の径方向クリアランスCb2が小さくなる等速自在継手80に比較して、第2溝部32のトラック溝20b、22bとボール24との間のボール溝面圧が増大することが抑制され、耐久性やトルク伝達効率が向上する。
【0041】
なお、上記実施例では、
図7において内側継手部材14のシャフト16を上方へ折り曲げた後に基準状態へ戻す際のジョイント角Φ=20deg付近で、ケージ26の回動が阻害されてシャフト曲げ荷重が増大することを抑制するため、基準状態における第1溝部30の挟み角αの絶対値αabs を第2溝部32の挟み角βの絶対値βabs よりも大きくした等速自在継手10について説明したが、第1溝部30の挟み角αの絶対値αabs および第2溝部32の挟み角βの絶対値βabs が互いに相違する場合には本発明は同様に適用され得る。例えば、基準状態における第2溝部32の挟み角βの絶対値βabs が第1溝部30の挟み角αの絶対値αabs よりも大きい等速自在継手に適用することも可能で、その場合は、基準状態における無負荷時の第1溝部30の径方向クリアランスCa1を、基準状態における無負荷時の第2溝部32の径方向クリアランスCb1よりも大きくすれば良い。
【0042】
また、前記挟み角α、βは無負荷時の大きさであっても良いが、負荷時にはケージ26の遊びHや支持部材の遊びhのガタ詰めによって挟み角α、βが変化する可能性がある。挟み角α、βは、所定の押し出し荷重Fa、Fbが得られるようにするためのもので、その押し出し荷重Fa、Fbはトルク伝達する負荷時に発生するため、厳密には基準状態における負荷時に所定の挟み角α、βを満足するように溝底形状等を設定することが望ましい。
【0043】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0044】
10:等速自在継手 12:外側継手部材 14:内側継手部材 20a、20b:外側トラック溝 22a、22b:内側トラック溝 24、A1、A3、A5、B2、B4、B6:ボール 26:ケージ 28:ポケット 30:第1溝部 32:第2溝部 S1:外側継手部材の中心線 S2:内側継手部材の中心線 Φ:ジョイント角 α:第1溝部の挟み角 β:第2溝部の挟み角 H:ケージの遊び Ca1:無負荷時の第1溝部の径方向クリアランス Cb1:無負荷時の第2溝部の径方向クリアランス