(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】光通信装置、光伝送システム、波長変換器、及び光通信方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/365 20060101AFI20221206BHJP
H04B 10/80 20130101ALI20221206BHJP
【FI】
G02F1/365
H04B10/80
(21)【出願番号】P 2019029740
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智行
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-084289(JP,A)
【文献】特開2008-152133(JP,A)
【文献】特開2007-072182(JP,A)
【文献】国際公開第2011/115293(WO,A1)
【文献】特開2001-242336(JP,A)
【文献】特開2018-191074(JP,A)
【文献】特開平07-098464(JP,A)
【文献】特開2009-177641(JP,A)
【文献】特開平08-278148(JP,A)
【文献】Y. Suetsugu et al.,"Measurement of zero-dispersion wavelength variation in concatenated dispersion-shifted fibers by improved four-wave-mixing technique",IEEE Photonics Technology Letters,米国,IEEE,1995年12月,vol.7, no.12,pp.1459-1461
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の非線形光学媒質と、前記第1の非線形光学媒質と異なる光学特性を有する第2の非線形光学媒質が直列に接続されており、前記第1の非線形光学媒質に入力される入力信号光と異なる波長の変換信号光を前記第2の非線形光学媒質から出力する波長変換器、
を有
し、
前記第1の非線形光学媒質は、前記第1の非線形光学媒質を伝搬する光波の周波数に依存して第1の方向に偏波回転を生じさせ、
前記第2の非線形光学媒質は、前記周波数に依存して前記第1の方向と反対の第2の方向に偏波回転を生じさせることを特徴とする光通信装置。
【請求項2】
前記第1の非線形光学媒質で、伝搬定数の周波数に関する4階微分値は第1の符号を有し、
前記第2の非線形光学媒質で、前記4階微分値は前記第1の符号と異なる第2の符号を有することを特徴とする請求項1に記載の光通信装置。
【請求項3】
前記第1の非線形光学媒質で、伝搬定数の周波数に関する3階微分値は第1の符号を有し、
前記第2の非線形光学媒質で、前記3階微分値は前記第1の符号と異なる第2の符号を有することを特徴とする請求項1に記載の光通信装置。
【請求項4】
前記第1の非線形光学媒質の光軸方向の長さと、前記第2の非線形光学媒質の前記光軸方向の長さは、前記第2の非線形光学媒質の出射面で、前記変換信号光の前記入力信号光に対する相対群遅延差と、前記第1の非線形光学媒質に入力される励起光と前記入力信号光の間の相対偏波角度の少なくとも一方が最小化されるように設定されている、
ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の光通信装置。
【請求項5】
第1の非線形光学媒質と、前記第1の非線形光学媒質と異なる光学特性を有する第2の非線形光学媒質とが直列に接続されて、前記第1の非線形光学媒質に入力される入力信号光と異なる波長の変換信号光を前記第2の非線形光学媒質から出力する波長変換器、を備える第1の光通信装置と、
前記変換信号光を光伝送路から受信する第2の光通信装置と、
を有し、
前記第2の光通信装置は、前記変換信号光を前記入力信号光の波長に変換する第2の波長変換器を有
し、
前記第1の非線形光学媒質は、前記第1の非線形光学媒質を伝搬する光波の周波数に依存して第1の方向に偏波回転を生じさせ、
前記第2の非線形光学媒質は、前記周波数に依存して前記第1の方向と反対の第2の方向に偏波回転を生じさせることを特徴とする伝送システム。
【請求項6】
第1の非線形光学媒質と、
前記第1の非線形光学媒質と異なる光学特性を有する第2の非線形光学媒質と、
を有し、
前記第1の非線形光学媒質に入力される第1波長の入力信号光と、前記第1波長と異なる第2波長の励起光とから、第3波長のアイドラ光を発生させ、前記第2の非線形光学媒質から前記アイドラ光を出力
し、
前記第1の非線形光学媒質は、前記第1の非線形光学媒質を伝搬する光波の周波数に依存して第1の方向に偏波回転を生じさせ、
前記第2の非線形光学媒質は、前記周波数に依存して前記第1の方向と反対の第2の方向に偏波回転を生じさせることを特徴とする波長変換器。
【請求項7】
第1の非線形光学媒質と、前記第1の非線形光学媒質と異なる光学特性を有する第2の非線形光学媒質とが直列に接続されている波長変換器に、第1波長の入力信号光と、前記第1波長と異なる第2波長の励起光を入射して、前記第1波長及び前記第2波長と異なる第3波長の変換信号光を生成し、
前記第1の非線形光学媒質は、前記第1の非線形光学媒質を伝搬する光波の周波数に依存して第1の方向に偏波回転を生じさせ、
前記第2の非線形光学媒質は、前記周波数に依存して前記第1の方向と反対の第2の方向に偏波回転を生じさせ、
前記第2の非線形光学媒質から出力される前記変換信号光を光伝送路に出力する、
ことを特徴とする光通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信装置、光伝送システム、波長変換器、及び光通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信需要の増大にともなって、伝送容量の拡大が求められている。光ファイバの芯数を増やす、1波長あたりの光信号容量を増やす、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)のチャネル数を増やす等して、伝送容量の拡大が図られている。光ファイバの敷設コストが高いため、光ファイバの芯数を増やさずに伝送容量を拡大することが望ましい。伝送装置には、光信号容量とWDMチャネル数を増やすことで伝送容量を増やすことが求められるが、従来の通信帯域(C帯)のみでの伝送容量の拡大には限界がある。さらなる伝送容量の拡大のためには、C帯のみならず、C帯の長波長領域(L帯)と短波長領域(S帯)を利用するのが望ましい。
【0003】
S帯、C帯、及びL帯用の光送受信器、波長合分波器、光増幅器等をそれぞれ個別に開発すると、単一の波帯を用いた伝送装置に比べて、コストが高くなる。C帯の伝送装置を用い、波長変換を利用して通信帯域を拡張することが検討されている。
【0004】
波長1520nm~1620nmの範囲で、四次分散が所定の範囲にある非線形光ファイバが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。四光波混合を用いた単一励起光による波長変換(たとえば、非特許文献1参照)、及び直交二励起光と平行二励起光を用いた波長変換が知られている(たとえば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Shigeki Watanabe,Shinich Takeda,and Terumi Chikama,“INTERBAND WAVELENGTH CONVERSION OF 320 GB/S(32X10 GB/S)WDM SINGLE USING A POLARIZAION‐INSENSITIVE FIBER FOUR‐WAVE MIXER”SCPC’98,20‐24 September 1998.Madrid,Spain
【文献】Katsumi Uesaka,et al.,“WAVELENGTH EXCHANGE IN A HIGHLY NONLINEAR DISPERSION‐SHIFTED FIBER THEORY AND EXPERIMENTS”,IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics,Vol.8,No.3,May/June 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
波長変換では、波長分散による入力光と変換信号光の位相不整合と、周波数依存の偏波回転による偏波不一致により、変換効率が低下する。WDM信号を一括して波長変換するには、広帯域で良好な波長変換特性をもつ波長変換が求められる。
【0008】
本発明は、光通信において、広帯域の波長変換特性を実現して通信容量を拡大することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様では、光通信装置は、
第1の非線形光学媒質と、前記第1の非線形光学媒質と異なる光学特性を有する第2の非線形光学媒質が直列に接続されており、前記第1の非線形光学媒質に入力される入力信号光と異なる波長の変換信号光を前記第2の非線形光学媒質から出力する波長変換器、
を有する。
【発明の効果】
【0010】
光通信において、広帯域の波長変換特性が実現され通信容量を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】波長変換をWDMに適用するときの変換効率の低下を説明する図である。
【
図2】本発明が適用される光伝送システムの概略図である。
【
図4】実施形態の波長変換器の効果を説明する模式図である。
【
図5】波長変換器で用いる非線形光学媒質の一例を示す図である。
【
図6】種々の波長変換方式での本発明の効果を示す概念図である。
【
図7】単一励起光による波長変換での偏波回転の補償を説明する図である。
【
図8】直交二励起光、及び平行二励起光による波長変換での偏波クロストークの補償を説明する図である。
【
図9】実施形態の波長変換器の変形例を示す図である。
【
図11】実施形態の波長変換器の別の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、波長変換をWDMに適用するときの波長分散と周波数依存偏波回転の影響を説明する図である。
図1の(a)は入力信号光と変換信号光のスペクトル、
図1の(b)は入力信号光と変換信号光の間の位相不整合を示す図、
図1の(c)は、入力信号光と変換信号光の間の偏波回転量の不一致を示す。
【0013】
非線形光学媒質に、入力信号光と、波長νPの励起光を入射すると、非線形光学作用により、非線形光学媒質の出力光として、中心波長が(2νP-νi)の変換信号光を得ることができる。非線形光学媒質に十分な強度の光波が入射することで、非線形光学媒質の内部に入射電場に対して非線形な(2次以上の)分極が生じ、その分極の振動から入射光と異なる周波数成分の光波が発生する。
【0014】
波長変換をWDMに適用する場合、複数の波長成分を含む光を一括変換するので、広帯域の波長変換特性が求められる。
【0015】
一般的に、励起光の波長νPをゼロ分散波長ν0に一致させることで、変換信号光の強度を高く維持することができる。しかし、広帯域の波長変換では、波長分散と周波数依存偏波回転により変換信号光のスペクトルが歪み、変換効率が低下する。
【0016】
図1のように単一励起光の場合は、励起光波長ν
Pから遠い側の波帯端部で、入力信号光の波長分散量と変換信号光の波長分散量の相違が顕著になり、位相不整合によって変換信号光のスペクトルが劣化する。この光スペクトルの劣化によって変換効率が低下し、広帯域の変換動作が妨げられる。非線形光学媒質の内部で発生する変換信号光に十分な強度を持たせて広帯域の変換動作を行うためには、所望の帯域にわたって入力信号光と変換信号光の位相が整合している必要がある。
【0017】
さらに、
図1の下段に示すように、非線形光学媒質の複屈折性により、非線形光学媒質内を伝搬する光には周波数依存の偏波回転が生じる。この場合は、入力信号光と変換信号光の間の偏波の不一致により、変換効率が低下する。二励起光を用いる場合は、2つの励起光の間の偏波クロストークによっても変換効率が低下する。
【0018】
所定の波長帯にわたって入力信号光と変換信号光の間の位相整合を維持し、偏波回転を低減することができれば、広帯域かつ高効率の波長変換が実現される。
【0019】
実施形態では、波長分散による位相不整合と、周波数依存偏波回転の少なくとも一方が低減された非線形光学媒質を用いる。具体的には、符号の異なる、または互いに異なる特性をもつ非線形光学媒質を組み合わせることで、波長変換時の波長分散と周波数依存偏波回転の少なくとも一方を補償する。
【0020】
符号の異なる特性の組み合わせの例として、ストークス空間上で波長に依存して右回りに偏波が回転する非線形光学媒質と、左回りに偏波が回転する非線形光学媒質の組み合わせ、正の4次分散値をもつ非線形光学媒質と、負の4次分散値をもつ非線形光学媒質の組み合わせ、正の3次分散値をもつ非線形光学媒質と、負の3次分散値をもつ線形光学媒質を組み合わせ、等がある。これらの組み合わせのうち、2つ以上の組み合わせをさらに組み合わせてもよい。たとえば、右回りと左回りの偏波回転の非線形光学媒質の組と、正の4次分散値と負の4次分散値をもつ非線形光学媒質の組を組み合わせる等である。
【0021】
良好な構成例では、特性または符号の異なる特性の非線形光学媒質を光軸方向に交互に配置する。波長分散と周波数依存の偏波回転の少なくとも一方を補償して、周波数成分間の位相不整合と偏波不一致の少なくとも一方を低減する。これにより、広帯域の波長変換が実現される。
【0022】
図2は、実施形態の伝送システム1の模式図である。伝送システム1は、送信側の光通信装置10と、受信側の光通信装置20と、これらの間を接続する光伝送路18とを有する。光通信装置10と光通信装置20はともに、送信側と受信側の双方の機能を有し、同じ構成であるが、説明の便宜上、光通信装置10の送信側の機能と、光通信装置20の受信側の機能を例にとって説明する。
【0023】
光通信装置10は、第1グループに含まれる光送信器11-L1~11-LNLと、第2グループに含まれる光送信器11-C1~11-CNCと、第3グループに含まれる光送信器11-S1~11-SNS(以下、適宜「光送信器11」と総称する)を有する。これらの光送信器11は、たとえば、光トランスポンダの電気/光変換フロントエンド回路である。複数の光送信器11は同じ構成を有し、たとえば、C帯(1530~1565nm)の波長チャネルの信号を出力する(図中、「C帯送信器」と表記されている)。
【0024】
第1グループの光送信器11-L1~11-LNLの出力光は、第1の波長合波器12-1で合波される。第2グループの光送信器11-LC~11-CNCの出力光は、第2の波長合波器12-2で合波される。第3グループの光送信器11-S1~11-SNSの出力光は、第3の波長合波器12-3で合波される。第1の波長合波器12-1~第3の波長合波器12-3は、同じ機能と構成を有し、入力された複数の波長チャネルの信号を合波して出力する。
【0025】
第1の波長合波器12-1の出力は、第1の光増幅器13-1で増幅される。第2の波長合波器12-2の出力は、第2の光増幅器13-2で増幅される。第3の波長合波器12-3の出力は、第3の光増幅器13-3で増幅される。第1の光増幅器13-1~第3の光増幅器13-3は、同じ機能と構成を有し、合波されたC帯の光信号を増幅する。
【0026】
第1の光増幅器13-1で増幅されたC帯の信号光は、第1の波長変換器30-1で波長変換され、波長合波器16に入力される。この例では、C帯の信号からL帯の信号へ一括変換される。
【0027】
第3の光増幅器13-3で増幅されたC帯の信号光は、第2の波長変換器30-2で波長変換され、波長合波器16に入力される。この例では、C帯の信号からS帯の信号へ一括変換される。
【0028】
第2の光増幅器13-2で増幅されたC帯の信号光は、波長変換を受けずにそのまま波長合波器16に入力される。
【0029】
波長合波器16は、L帯の信号光と、C帯の信号光と、S帯の信号光を合波して、光伝送路18に光信号を出力する。この光信号には、L帯からS帯までの波長チャネルが含まれており、広帯域の光通信が行われる。光信号は、光伝送路18を伝搬して、光通信装置20で受信される。
【0030】
光通信装置20で、受信された光信号は、波長分波器26によって、L帯の信号光と、C帯の信号光と、S帯の信号光に分波される。L帯の信号光は、第3の波長変換器30-3によってC帯の信号光に変換され、光増幅器23-1で増幅されて、第1の波長分波器22-1でそれぞれ異なる波長チャネルに分波される。
【0031】
S帯の信号光は、第4の波長変換器30-4によってC帯の信号光に変換され、光増幅器23-3で増幅されて、第3の波長分波器22-3でそれぞれ異なる波長チャネルに分波される。C帯の信号光は、波長変換を受けずにそのまま光増幅器23-2で増幅され、第2の波長分波器22-2でそれぞれ異なる波長チャネルに分波される。
【0032】
光増幅器23-1~23-3は同じ機能と構成を有する。波長分波器22-1~22-3は同じ機能と構成を有し、この例では、C帯の信号光をそれぞれ異なる波長チャネルに分波する。
【0033】
第1の波長分波器22-1で分波された各信号光は、第1グループの光受信器21-L1~21-LNLに供給される。第2の波長分波器22-2で分波された各信号光は、第2グループの光受信器21-C1~21-CNCに供給される。第3の波長分波器22-3で分波された各信号光は、第3グループの光受信器21-S1~21-SNSに供給される。光受信器21-L1~21-LNL、21-C1~21-CNC、及び光受信器21-S1~21-SNSは、適宜「光受信器21」と総称される。
【0034】
光受信器21は、たとえば、光トランスポンダの光/電気変換フロントエンド回路である。複数の光受信器21は同じ構成を有し、たとえば、C帯(1530~1565nm)の波長チャネルの光を電気信号に変換する(図中、「C帯受信器」と表記されている)。
【0035】
この伝送システムでは、個別の帯域の光部品を使わずに、共通の光送受信器、波長合分波器、光増幅器等を使用する。波長変換器30-1~30-4を用いることで、従来の光部品を用いて光通信帯域を拡張することができる。
【0036】
図3は、実施形態の波長変換器30の波長変換器の模式図である。波長変換器30は、光合波器31と、励起光源32と、第1の非線形光学媒質33と、第2の非線形光学媒質34と、光フィルタ35を有する。第1の非線形光学媒質33と第2の非線形光学媒質34は、互いに異なる特性、たとえば異なる符号を持つ。
【0037】
中心波長がνiの信号光が光合波器31に入力される。入力される信号光には複数の波長チャネルの光が含まれており、複数の波長チャネルの光が一括して異なる波長帯に変換される。一方、入力される信号光と異なる波長の励起光が、励起光源32から光合波器31に入力される。励起光と信号光は合波されて、第1の非線形光学媒質33に入力される。信号光に含まれる各波長チャネルの光の位相と励起光の位相は、第1の非線形光学媒質33の入射面では位相整合しているものとする。
【0038】
第1の非線形光学媒質33は、たとえば、右回り偏波回転の非線形光学媒質である。非線形光学作用により新たに生成される変換信号光は、右回りの偏波回転を受けながら第1の非線形光学媒質33中を伝搬する。
【0039】
入力信号光と、励起光と、変換信号光は、第1の非線形光学媒質33を一定の距離進むと、第2の非線形光学媒質34に入射する。第2の非線形光学媒質34は、たとえば、左回り偏波回転の非線形光学媒質である。入力信号光と、励起光と、変換信号光は、左回りの偏波回転を受けながら第2の非線形光学媒質34中を伝搬する。
【0040】
第2の非線形光学媒質34の出力光は、光フィルタ35に入射し、入力信号光と励起光が除去されて、変換信号光だけが出力される。
【0041】
図4は、
図3の波長変換器30の効果を説明する模式図である。横軸は、非線形光学媒質内の伝搬位置、すなわち第1の非線形光学媒質33の入射面からの距離である。第1の非線形光学媒質33と第2の非線形光学媒質34は光軸方向に連続しており、界面の影響は無視できるものとする。
【0042】
縦軸は、励起光と入力信号光の相対偏波角度である。右回り偏波回転の非線形光学媒質33を伝搬することで、励起光と入力信号光の相対偏波角度は増大するが、左回り偏波回転の非線形光学媒質34を伝搬することで、相対偏波角度は減少し、第2の非線形光学媒質34の出力面で、相対偏波角度を最小にする。
【0043】
これにより、偏波不一致または偏波クロストークによる変換効率の低下を抑制することができる。
【0044】
図5は、非線形光学媒質33と非線形光学媒質34の構成例である。
図5の(a)で、第1の非線形光学媒質33は、応力付与型の光ファイバであり、光軸と直交する断面で、コア331を取り囲むクラッド332の円周方向の特定の位置に、応力付与部333が設けられている。
【0045】
応力付与部333は、コア331の円周の一部に応力を与える。偏波回転は、コアの真円度に影響されるため、コア331の円周の特定の側に応力をかけることで、コアの断面形状の真円度を低減して偏波回転を発生させる。
【0046】
図5の(b)は、
図5の(a)と同じ側から第2の非線形光学媒質34をみたときの断面図である。第2の非線形光学媒質34は、光軸と直交する断面で、コア341を取り囲むクラッド342の円周方向の特定の位置に、応力付与部343を有する。応力付与部343の位置は、コア341に対して、第1の非線形光学媒質333の応力付与部333と反対側に位置する。コア341の円周の一部を、第1の非線形光学媒質33のコア331の歪みと反対側の位置で歪ませることで、第1の非線形光学媒質33と反対方向に偏波回転を生じさせる。
【0047】
第1の非線形光学媒質33と第2の非線形光学媒質34の構成は、
図5の例に限定されない。たとえば、楕円コアの偏波保持ファイバのコアの表面形状を加工することで、第1の非線形光学媒質33と第2の非線形光学媒質34を実現してもよい。楕円コアの長軸または短軸に沿った一方の頂点の近傍で楕円の曲率をわずかに小さくして第1の非線形光学媒質33とする。コアの楕円断面の原点に対して第1の頂点と対称の位置にある第2の頂点の近傍で、楕円面の形状を第1の頂点と同じように変えることで、第2の非線形光学媒質34とする。楕円の円周上で原点に対して反対側の位置でコア表面の形状を同じように変えることで、右回りの偏波回転と、左回りの偏波回転を生じさせることができる。
【0048】
図6は、種々の波長変換方式での本発明の効果を示す概念図である。
図6の(a)は、単一励起光による波長変換での変換信号光のスペクトル劣化の抑制を示す。
図6の(b)は、直交二励起光による波長変換での変換信号光のスペクトル劣化の抑制を示す。
図6の(c)は、平行二励起光による波長変換での変換信号光のスペクトル劣化の抑制を示す。
【0049】
図6の(a)~(c)の変換信号光のスペクトルで、実線は、実施形態で得られる変換信号光のスペクトル、破線は、実施形態の波長変換構成を用いないときの変換信号光のスペクトルである。単一励起光を用いた波長変換では、入射信号光と同じ偏波方向の励起光を入射する。互いに異なる特性を有する第1の非線形光学媒質33と第2の非線形光学媒質34を組み合わせることで、励起光からΔν離れた変換信号光の端部領域でのスペクトル劣化が抑制される。
【0050】
図6の(b)では、ターゲットの変換信号光よりも周波数の高い第1の励起光ν
P1と、入力信号光よりも周波数の低い第2の励起光ν
P2を非線形光学媒質に入射する。第1の励起光ν
P1と第2の励起光ν
P2の偏波の方向は、互いに直交している。入射信号光の偏波の方向は、第1の励起光起光ν
P1の偏波方向と同じで、第2の励起光ν
P2の偏波方向と直交する。生成される変換信号光の偏波の方向は、入力信号光の偏波の方向と直交し、かつ第1の励起光ν
P1の偏波の方向と直交する。
【0051】
この場合、波長分散または周波数依存偏波回転を補償しない構成では、変換信号光のスペクトルは、ゼロ分散波長ν0に近い側の端部領域で劣化する。これに対し、実施形態のように、互いに逆特性の第1の非線形光学媒質33と第2の非線形光学媒質34を組み合わせて波長分散または周波数依存の偏波回転を補償することで、広帯域にわたって変換効率を維持することができる。
【0052】
図6の(c)では、ターゲットの変換信号光の中心波長の近傍の第1の励起光ν
P1と、入力信号光の中心波長の近傍の第2の励起光ν
P2を、非線形光学媒質に入射する。第1の励起光ν
P1と第2の励起光ν
P2の偏波の方向は同じである。入射信号光の偏波の方向と、第2の励起光ν
P2の偏波の方向は直交している。生成される変換信号光の偏波の方向は、入力信号光の偏波の方向と同じであり、かつ第1の励起光ν
P1の偏波の方向と直交する。
【0053】
この場合、波長分散または周波数依存偏波回転を補償しない構成では、変換信号光のスペクトルは、ゼロ分散波長ν0に近い側のスペクトル端と、遠い側のスペクトル端の両方で劣化する。これに対し、実施形態のように、互いに逆特性の第1の非線形光学媒質33と第2の非線形光学媒質34を組み合わせて波長分散または周波数依存偏波回転を補償することで、広帯域にわたって変換効率を維持することができる。
【0054】
<1:単一励起光による波長変換での偏波回転の補償>
図7は、単一励起光を用いた波長変換での偏波回転による効率低下の補償を説明する図である。入力信号光の偏波の方向は、励起光ν
Pの偏波方向と同じであることが望ましい。しかし、非線形光学媒質内を伝搬する光は周波数に依存して偏波面が回転する。このときの励起光の偏波方向からの回転角はθ(ν)である。
【0055】
周波数依存の偏波回転は、偏波間のDGD(Differential Group Delay:群遅延時間差)と、PSD(Polarization State Depolarization:偏波主軸デポラリゼーション)の関数として、式(1)で定義される。
【0056】
【0057】
長さLの非線形光学媒質の長手方向または光軸方向で生じる偏波回転の有無による効率比Δηは、偏波回転がある場合の単位長さ「l」あたりの変換効率ηRの積分値の、偏波回転がないときの単位長さ「l」あたりの変換効率ηNRの積分値に対する比であり、式(2)で表される。
【0058】
【0059】
長さに比例して偏波が回転すると仮定すると、ηRとηNRの関係は、式(3)で表される。
【0060】
【数3】
ここで、θ=klであり、出射端での回転角を表わす。「l」は単位長である。
【0061】
式(2)に式(3)を代入すると、式(4)が得られる。
【0062】
【0063】
効率比ΔηをΔη>0.5に維持するためには、式(4)より、
【0064】
【数5】
となる。式(1)に式(5)を代入すると、式(6)が得られる。
【0065】
【0066】
たとえば、5THzの帯域にわたって、効率比Δη>0.5の条件で波長変換するには、式(6)にΔν=5THzを代入して、式(7)を満たす必要がある。
【0067】
【0068】
すなわち、PSD/DGDが0.56psよりも小さくなるように波長変換器が設計される。
【0069】
これに対し、実施形態の
図3の構成で、右回りの周波数依存偏波回転の非線形光学媒質33と、左回りの周波数依存偏波回転の非線形光学媒質34を組み合わせて、単一励起光で波長変換する場合、式(2)は式(8)に拡張される。
【0070】
【0071】
ここで、L1は、周波数依存の偏波回転が右回りとなる非線形光学媒質33の長さ、L2は、周波数依存の偏波回転が左回りとなる非線形光学媒質34の長さである。組み合わせによる非線形光学媒質のトータルの長さLは、L=L1+L2である。
【0072】
非線形光学媒質33、及び非線形光学媒質34で、それぞれ長さに比例して偏波回転すると仮定すると
【0073】
【数9】
となる。ここで、θ
1=k
1l、θ
2=k
2lである。
【0074】
式(8)に式(9)を代入すると、式(10)が得られる。
【0075】
【数10】
ここでθ
1=-θ
2=θs/2とすると、式(10)は式(11)になる。
【0076】
【0077】
式(11)と式(4)と比較すると、右回り周波数依存偏波回転の非線形光学媒質33と、左回り周波数依存偏波回転の非線形光学媒質34を組み合わせたことで、周波数依存の偏波回転を補償することができる。すなわち、従来の波長変換と比較して、単位長さあたりの偏波回転が2倍大きくても、効率比またはPSD/DGDを同程度に設定することができ、波長変換への要求が緩和される。
【0078】
<2:二励起光による波長変換での偏波回転によるクロストーク劣化の補償>
図8の(a)は、直交二励起光を用いるときの偏波クロストークの補償を説明する図、
図8の(b)は、平行二励起光を用いるときの偏波クロストークの補償を説明する図である。直交二励起光の場合も、平行二励起光の場合も、2つの励起光の間の偏波回転による偏波クロストークが生じ、変換信号光にノイズが混入して信号品質が劣化する。
【0079】
非線形光学媒質の長手方向で偏波回転が生じる2つの励起光の間の偏波回転による偏波クロストークXTは、式(12)で表される。
【0080】
【0081】
式(12)のクロストークXTは、「回転により生じる直交偏波成分の相互作用で生成される単位長さあたりの成分の効率ηROrthの積分」と、「回転しない平行偏波成分の相互作用で生成される単位長さあたりの成分の効率ηRParaの積分」の比で表される。ここで言う直交偏波成分と平行偏波成分は、入射光の偏波と直交する成分と、平行な成分をいう。
【0082】
長さに比例して偏波が回転すると仮定すると、
【0083】
【0084】
式(12)に式(13)を代入すると、式(14)が得られる。
【0085】
【0086】
クロストークXTを0.01以下に抑えるためには、式(15)の条件を満たす必要がある。
【0087】
【0088】
式(1)に式(15)を代入すると、
【0089】
【0090】
たとえば、5THzの帯域にわたって、効率比Δη>0.5で波長変換するための条件は、二つの励起光の配置によって異なる。平行二励起光による波長変換の場合は、二つの励起光の間の周波数差が5THz程度になるため(
図6の(c)参照)、式(16)Δν=5THzを代入することで、式(17)の条件が得られる。
【0091】
【数17】
波長変換器を、PSD/DGD<0.08psを満たすように設計する必要がある。
【0092】
直交二励起光を用いる場合は、二つの励起光の間の周波数差が5THzの2倍の10THz程度になるため(
図6の(b)参照)、式(16)にΔν=10THzを代入して、式(18)の条件が得られる。
【0093】
【数18】
波長変換器を、PSD/DGD<0.04psを満たすように設計する必要がある。
【0094】
これに対し、
図3の実施形態のように、右回り周波数依存偏波回転の非線形光学媒質33と、左回り周波数依存偏波回転の非線形光学媒質34を組み合わせた構成で、二励起で波長変換する場合、式(12)は、式(19)に拡張される。
【0095】
【0096】
ここで、L1は、周波数依存の偏波回転が右回りとなる非線形光学媒質33の長さ、L2は、周波数依存の偏波回転が左回りとなる非線形光学媒質34の長さである。組み合わせによる非線形光学媒質のトータルの長さLは、L=L1+L2である。
【0097】
非線形光学媒質33、及び非線形光学媒質34で、それぞれ長さに比例して偏波回転すると仮定すると、
【0098】
【数20】
となる。ここで、θ
1=k
1l、θ
2=k
2lである。
【0099】
式(19)に式(20)を代入すると、クロストークXTは式(21)で表される。
【0100】
【0101】
θ1=-θ2=θd/2とすると、式(21)は式(22)になる。
【0102】
【0103】
式(22)と式(14)を比較すると、右回り周波数依存偏波回転の非線形光学媒質33と、左回り周波数依存偏波回転の非線形光学媒質34を組み合わせることで、従来構成と比較して、単位長さあたりの偏波回転が2倍大きくても、クロストークを同程度に抑えることができる。すなわち、波長変換器の設計の要求値が緩和される。
【0104】
<3:単一励起光、及び直交二励起光での波長分散による効率低下の補償>
伝搬損失が十分に小さいとき、励起光νP1、励起光νP2、中心周波数νSの信号光、中心周波数νCの変換光の間の伝搬定数差Δβは、式(23)で表される。
【0105】
【数23】
この伝搬定数差Δβにより長さLの非線形光学媒質に生じる位相不整合ΔβLに起因する効率低下、すなわち効率比Δηは、式(24)で表される。
【0106】
【0107】
伝搬定数βは周波数の関数であり、ν0周りのテイラー展開は、5次以上の項を無視すると、式(25)で表される。
【0108】
【数25】
ここで、ν
0を非線形光学媒質のゼロ分散周波数(2次分散がゼロ)とする。
【0109】
単一励起光の場合、励起光周波数とゼロ分散周波数を一致させると(ν0=νP)、信号光の周波数νSと変換光の周波数νCの平均は零分散周波数に一致し(ν0=(νS+νC)/2)、伝搬定数差Δβは、4次の項以外は打ち消されて、式(26)となる。
【0110】
【0111】
Δνの帯域を変換するとき、最も効率が低くなるのはνS=ν0±Δνのときであり、式(26)は式(27)になる。
【0112】
【0113】
直交二励起光を用いた波長変換では、二つの励起光周波数の平均値とゼロ分散周波数を一致させると(ν0=(νP1++νP2)/2)、信号光の周波数νSと変換光の周波数νCの平均は、ゼロ分散周波数に一致し(ν0=(νS+νC)/2)、伝搬定数差Δβは、4次の項以外は打ち消されて、式(28)となる。
【0114】
【0115】
Δνの帯域を変換するとき、最も効率が低くなるのはνS=ν0のときであり、νP1,2=ν0±Δνとなって、式(27)と等しくなる。
【0116】
単一励起光、直交二励起光のいずれにおいても、効率比Δη>0.5に抑えるためには、周波数νによる伝搬定数βの4階微分値の絶対値は、式(24)に式(27)を代入して、式(29)の条件を満たす必要がある。
【0117】
【0118】
たとえば、5THzの帯域を100mの非線形光学媒質で変換するためには、
【0119】
【0120】
これに対し、実施形態のように、4階微分d4β/dν4の値が正になる長さ50mの非線形光学媒質と、4階微分値が負になる長さ50mの非線形光学媒質を組み合わせることで、後述する通り、要求値を緩和することができる。
【0121】
<4:平行二励起光での波長分散による効率低下の補償>
非線形光学媒質のゼロ分散周波数(2次分散がゼロ)をν0とし、二つの励起光周波数の平均値とゼロ分散周波数を一致させると(ν0=(νP1+νP2)/2、νP1=ν0-Δν/2,νP2=ν0+Δν/2)、変換光の周波数νCは、νC=νS+Δνとなる。Δνの帯域を変換するとき、最も効率が低くなるのはνS=ν0、またはνS=ν0-Δνのときである。
【0122】
4次微分が十分小さいとき、式(25)より伝搬定数差Δβは、3次の項以外は打ち消されて、式(31)となる。
【0123】
【0124】
効率比Δη>0.5を維持するためには、周波数νによる伝搬定数βの3階微分値の絶対値は、式(32)の条件を満たす必要がある。式(32)は、式(31)を式(24)にを代入することで導かれる。
【0125】
【0126】
たとえば、5THzの帯域を100mの非線形光学媒質で変換するためには、
【0127】
【数33】
を満たすように波長変換器を設計する必要がある。
【0128】
これに対し、実施形態のように、正負の異なる分散を持つ非線形光学媒質を組み合わせことで、以下で説明するとおり、設計の要求を緩和することができる。
【0129】
すなわち、光軸方向の長さがL1,伝搬定数β1の非線形光学媒質33と、長さL2,伝搬定数β2の非線形光学媒質34を組み合わせる場合(L1+L2=L)、式(24)は、式(34)に拡張される。
【0130】
【0131】
ここで、Δβ=-Δβ2=Δβp、L1=L2=L/2とすると、効率比Δηは、式(35)で表される。
【0132】
【0133】
Δβpは、単一励起光、及び直交二励起光での波長分散の場合は4次分散のみの関数となり、平行二励起光での波長分散の場合は3次分散のみの関数となる。式(35)を式(24)と比較すると、実施形態のように正の分散値と負の分散値を持つ非線形光学媒質を組み合わせることで、単一の非線形光学媒質を用いる場合に比べて、要求が緩和される。具体的には、単位長さあたりの4次分散または3次分散が、それぞれ式(29)と式(32)よりも2倍大きくても、クロストークによる効率低下を同程度に抑えることができる。
【0134】
図9は、波長変換器30Aの模式図である。波長変換器30Aは、単一励起光、及び直交二励起光による波長変換に適用され、上記で説明したように、4次分散によるスペクトル劣化を補償する。
【0135】
波長変換器30Aは、光合波器31と、励起光源32と、正の4次分散値をもつ第1の非線形光学媒質133と、負の4次分散値をもつ第2の非線形光学媒質134と、光フィルタ35を有する。第1の非線形光学媒質133の光軸方向の長さと、第2の非線形光学媒質134の光軸方向の長さは、第2の非線形光学媒質の出射面で、入射光と変換信号光の間の相対群遅延差または位相不整合が最小になるように設計されている。
【0136】
正の4次分散値の非線形光学媒質133と、負の4次分散値の非線形光学媒質134の配置順序は逆でもよい。また、2組以上の非線形光学媒質を用いて、4次分散値が正、負、正、負と交互になるように配置してもよい。
【0137】
この波長変換器30Aでは、単一の非線形光学媒質を用いるときと比較して、同じ効率比(または効率低下)で2倍の大きさの4次分散まで許容可能である。
【0138】
図10は、
図9の波長変換器30Aの効果を説明する図である。横軸は、非線形光学媒質内の伝搬位置、すなわち第1の非線形光学媒質133の入射面からの距離である。第1の非線形光学媒質133と第2の非線形光学媒質134は光軸方向に連続しており、界面の影響は無視できるものとする。
【0139】
縦軸は、入力信号光と変換信号光の間の相対群遅延差である。第1の非線形光学媒質133内の伝搬につれ、4次分散の影響を受けて相対群遅延差が大きくなり、入力信号光と変換信号光の間の位相ずれが大きくなる。しかし、逆符号の4次分散値を持つ第2の非線形光学媒質134を伝搬することで、相対群遅延差は減少し、第2の非線形光学媒質134の出力面では相対群遅延差は最小になる。
【0140】
これにより、光波間の位相不整合による変換効率の低下を抑制することができる。
【0141】
図11は、波長変換器30Bの模式図である。波長変換器30Bは、平行二励起光による波長変換に適用され、上記で説明したように、3次分散によるスペクトル劣化を補償する。
【0142】
波長変換器30Bは、光合波器31と、励起光源32と、正の3次分散値をもつ第1の非線形光学媒質233と、負の3次分散値をもつ第2の非線形光学媒質234と、光フィルタ35を有する。第1の非線形光学媒質233の光軸方向の長さと、第2の非線形光学媒質234の光軸方向の長さは、第2の非線形光学媒質の出射面で、入射光と変換信号光の間の相対群遅延差または位相不整合が最小になるように設計されている。
【0143】
正の3次分散値の非線形光学媒質233と、負の3次分散値の非線形光学媒質234の配置順序は逆でもよい。また、2組以上の非線形光学媒質を用いて、3次分散値が正、負、正、負と交互になるように配置してもよい。
【0144】
この波長変換器30Bでは、単一の非線形光学媒質を用いるときと比較して、同じ効率比(または効率低下)で2倍の大きさの3次分散まで許容可能である。
【0145】
図12は、
図11の波長変換器30Bの効果を説明する図である。横軸は、非線形光学媒質内の伝搬位置、すなわち第1の非線形光学媒質233の入射面からの距離である。第1の非線形光学媒質233と第2の非線形光学媒質234は光軸方向に連続しており、界面の影響は無視できるものとする。
【0146】
縦軸は、入力信号光と変換信号光の間の相対群遅延差である。第1の非線形光学媒質233内の伝搬につれ、3次分散の影響を受けて相対群遅延差が大きくなり、入力信号光と変換信号光の間の位相ずれが大きくなる。しかし、逆符号の3次分散値を持つ第2の非線形光学媒質234を伝搬することで、相対群遅延差は減少し、第2の非線形光学媒質234の出力面では相対群遅延差は最小になる。
【0147】
これにより、光波間の位相不整合による変換効率の低下を抑制することができる。
【0148】
波長変換器30、30A,30Bのいずれも、
図2の光通信装置10及び20に適用可能である。励起光の波長ν
Pを制御することで、入力信号光を所望の波長帯域(L帯、S帯など)に変換することができる。光通信装置10及び20では、符号または特性が互いに異なる非線形光学媒質を組み合わせることで、分散特性による位相不整合と、複屈折特性による周波数依存偏波回転の少なくとも一方が補償され、広帯域で波長変換効率を維持することができる。
【0149】
本発明の波長変換は、和周波または差周波の発生、高調波発生、光パラメトリック発振等を含む光パラメトリック増幅一般を含むものである。したがって、特許請求の範囲で「波長変換器」という場合は、和周波発生器、差周波発生器、高調波発生器、光パラメトリック発振器、光パラメトリック増幅器などを含む。
【0150】
本発明を光パラメトリック増幅器等に適用する場合も、互いに逆(または符号の異なる)光学特性を有する第1の非線形光学媒質と第2の非線形光学媒質を組み合わせる。第1の非線形光学媒質に、第1の波長の励起光と、第2の光の励起光と、第3の波長の信号光を入力して、第4の波長のアイドラ光を発生させる。
【0151】
第1の非線形光学媒質の光軸方向の長さ(L1)と、第2の非線形光学媒質の光軸方向の長さ(L2)は、第2の非線形光学媒質の出射面で、変換信号光の前記入力信号光に対する相対群遅延差(または位相不整合)と、前記入力信号光と前記励起光の間の相対偏波角度の少なくとも一方が最小化されるように設計されている。
【0152】
単一励起光による波長変換または光パラメトリック増幅は、四光波混合において、第1の励起光と第2の励起光の波長または周波数が等しい場合と考えてよい。励起光源は、波長変換器または光パラメトリック増幅器の外部の光源であってもよい。外部光源からたとえば光ファイバ等の光導波路によって励起光を第1の非線形光学媒質に入射してもよい。
【0153】
以上の説明に対し、以下の付記を提示する。
(付記1)
第1の非線形光学媒質と、前記第1の非線形光学媒質と異なる光学特性を有する第2の非線形光学媒質が直列に接続されており、前記第1の非線形光学媒質に入力される入力信号光と異なる波長の変換信号光を前記第2の非線形光学媒質から出力する波長変換器、
を有する光通信装置。
(付記2)
前記第1の非線形光学媒質は、前記第1の非線形光学媒質を伝搬する光波の周波数に依存して第1の方向に偏波回転を生じさせ、
前記第2の非線形光学媒質は、前記周波数に依存して前記第1の方向と反対の第2の方向に偏波回転を生じさせることを特徴とする付記1に記載の光通信装置。
(付記3)
前記第1の非線形光学媒質で、伝搬定数(β)の周波数(ν)に関する4階微分値は第1の符号を有し、
前記第2の非線形光学媒質で、前記4階微分値は前記第1の符号と異なる第2の符号を有することを特徴とする付記1に記載の光通信装置。
(付記4)
前記第1の非線形光学媒質で、伝搬定数(β)の周波数(ν)に関する3階微分値は第1の符号を有し、
前記第2の非線形光学媒質で、前記3階微分値は前記第1の符号と異なる第2の符号を有することを特徴とする付記1に記載の光通信装置。
(付記5)
前記第1の非線形光学媒質の光軸方向の長さと、前記第2の非線形光学媒質の前記光軸方向の長さは、前記第2の非線形光学媒質の出射面で、前記変換信号光の前記入力信号光に対する相対群遅延差と、前記第1の非線形光学媒質に入力される励起光と前記入力信号光の間の相対偏波角度の少なくとも一方が最小化されるように設定されている、
ことを特徴とする付記1~4のいずれかに記載の光通信装置。
(付記6)
前記第1の非線形光学媒質は、コア断面の第1方向に応力が付与される第1の応力付与ファイバであり、前記第2の非線形光学媒質は、前記コア断面の前記第1方向と逆方向の第2方向に応力が付与される第2の応力付与ファイバであることを特徴とする付記2に記載の光通信装置。
(付記7)
前記波長変換器は、複数波長を含む第1の波帯の信号を、前記第1の波帯と異なる第2の波帯の信号に変換し、
前記通信装置は、前記第1の波帯の信号と、前記第2の波帯の信号を合波して光伝送路に出力する合波器、
を有することを特徴とする付記1~6のいずれかに記載の光通信装置。
(付記8)
光伝送路から受信した信号光を第1の波帯と第2の波帯に分波する分波器と、
前記第2の波帯の信号光を、前記第1の波帯に変換する第2の波長変換器と、
を有することを特徴とする付記1~6のいずれかに記載の光通信装置。
(付記9)
第1の非線形光学媒質と、前記第1の非線形光学媒質と異なる光学特性を有する第2の非線形光学媒質とが直列に接続されて、前記第1の非線形光学媒質に入力される入力信号光と異なる波長の変換信号光を前記第2の非線形光学媒質から出力する波長変換器、を備える第1の光通信装置と、
前記変換信号光を光伝送路から受信する第2の光通信装置と、
を有し、
前記第2の光通信装置は、前記変換信号光を前記入力信号光の波長に変換する第2の波長変換器を有することを特徴とする伝送システム。
(付記10)
第1の非線形光学媒質と、
前記第1の非線形光学媒質と異なる光学特性を有する第2の非線形光学媒質と、
を有し、
前記第1の非線形光学媒質に入力される第1波長の入力信号光と、前記第1波長と異なる第2波長の励起光とから、第3波長のアイドラ光を発生させ、前記第2の非線形光学媒質から前記アイドラ光を出力する波長変換器。
(付記11)
前記第1の非線形光学媒質は、前記第1の非線形光学媒質を伝搬する光波の周波数に依存して第1の方向に偏波回転を生じさせ、
前記第2の非線形光学媒質は、前記周波数に依存して前記第1の方向と反対の第2の方向に偏波回転を生じさせることを特徴とする付記10に記載の波長変換器。
(付記12)
前記第1の非線形光学媒質で、伝搬定数の周波数に関する4階微分値は第1の符号を有し、
前記第2の非線形光学媒質で、前記4階微分値は前記第1の符号と異なる第2の符号を有することを特徴とする付記10に記載の波長変換器。
(付記13)
前記第1の非線形光学媒質で、伝搬定数(β)の周波数(ν)に関する3階微分値は第1の符号を有し、
前記第2の非線形光学媒質で、前記3階微分値は前記第1の符号と異なる第2の符号を有することを特徴とする付記10に記載の波長変換器。
(付記14)
前記第1の非線形光学媒質の光軸方向の長さと、前記第2の非線形光学媒質の前記光軸方向の長さは、前記第2の非線形光学媒質の出射面で、前記アイドラ光の前記入力信号光に対する相対群遅延差と、前記入力信号光と前記励起光の間の相対偏波角度の少なくとも一方が最小化されるように設定されている、ことを特徴とする付記10~13のいずれかに記載の波長変換器。
(付記15)
第1の非線形光学媒質と、前記第1の非線形光学媒質と異なる光学特性を有する第2の非線形光学媒質とが直列に接続されている波長変換器に、第1波長の入力信号光と、前記第1波長と異なる第2波長の励起光を入射して、前記第1波長及び前記第2波長と異なる第3波長の変換信号光を生成し、
前記第2の非線形光学媒質から出力される前記変換信号光を光伝送路に出力する、
ことを特徴とする光通信方法。
(付記16)
前記第1の非線形光学媒質で、前記第1の非線形光学媒質を伝搬する光波に周波数に依存して第1の方向に偏波回転を生じさせ、
前記第2の非線形光学媒質で、前記周波数に依存して前記第1の方向と反対の第2の方向に偏波回転を生じさせることを特徴とする付記15に記載の光通信方法。
(付記17)
前記第1の非線形光学媒質を、伝搬定数の周波数に関する4階微分値が第1の符号を有するように設計し、
前記第2の非線形光学媒質を、前記4階微分値は前記第1の符号と異なる第2の符号を有するように設計することを特徴とする付記15に記載の光通信方法。
(付記18)
前記第1の非線形光学媒質を、伝搬定数の周波数に関する3階微分値が第1の符号を有するように設計し、
前記第2の非線形光学媒質を、前記3階微分値が前記第1の符号と異なる第2の符号を有するように設計することを特徴とする付記15に記載の光通信方法。
(付記19)
前記第1の非線形光学媒質の光軸方向の長さと、前記第2の非線形光学媒質の前記光軸方向の長さを、前記第2の非線形光学媒質の出射面で、前記変換信号光の前記入力信号光に対する相対群遅延差と、前記入力信号光と前記励起光の間の相対偏波角度の少なくとも一方を最小化する長さに設定する、ことを特徴とする付記15~18のいずれかに記載の光通信方法。
【符号の説明】
【0154】
1 伝送システム
10、20 光通信装置
12-1~12-3 波長合波器
16 波長合波器
22-1~22-3 波長分波器
26 波長分波器
30、30A、30B 波長変換器
31 光合波器
32 励起光源
33、133、233 第1の非線形光学媒質
34、134、234 第2の非線形光学媒質