(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】酸化反応用電極及びそれを用いた電気化学反応装置
(51)【国際特許分類】
C25B 11/081 20210101AFI20221206BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20221206BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20221206BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C25B11/081
C25B3/26
C25B9/00 G
B01J23/46 M
(21)【出願番号】P 2019036071
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 真人
(72)【発明者】
【氏名】岩井 美奈
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直彦
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-533084(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076277(WO,A1)
【文献】特開2015-206125(JP,A)
【文献】特開2015-206109(JP,A)
【文献】特開2015-116566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化イリジウム(IrOx)を含み、イリジウム(Ir)の担持量が30μg/cm
2以上であ
り、ルテニウム錯体を含む還元反応電極と共に電解液中で使用することを特徴とする酸化反応用電極。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化反応用電極であって、
pH6以上8以下の電解液中で使用されることを特徴とする酸化反応用電極。
【請求項3】
請求項
2に記載の電気化学反応装置であって、
前記電解液は、pH6以上8以下のリン酸緩衝液であり、二酸化炭素(CO
2)を還元することを特徴とする電気化学反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化反応用電極及びそれを用いた電気化学反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光エネルギーを用いて二酸化炭素(CO2)から一酸化炭素(CO),ギ酸(HCOOH),メタノール(CH3OH)などを合成する人工光合成に用いられる反応デバイスの技術が開示されている(特許文献1)。このような技術は、地球温暖化防止のための二酸化炭素(CO2)の排出量削減の技術として期待されている。これを実用化するためには、高い効率で反応を生じさせる反応用電極を実現することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、人工光合成のための酸化反応用電極には酸化イリジウム(IrOx)が触媒として用いられている。しかしながら、pH6~8の中性に近い電解液中で使用した場合、動作条件によっては酸化イリジウム(IrOx)が劣化して数時間のうちに性能が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様は、酸化イリジウム(IrOx)を含み、イリジウム(Ir)の担持量が30μg/cm2以上であることを特徴とする酸化反応用電極とする。
【0006】
ここで、pH6以上8以下の電解液中で使用されることが好適である。
【0007】
本発明の別の態様は、上記酸化反応用電極と還元反応用電極とを、電解液中で使用することを特徴とする電気化学反応装置である。
【0008】
ここで、前記還元反応用電極は、ルテニウム錯体を含むことが好適である。
【0009】
また、前記電解液は、pH6以上8以下のリン酸緩衝液であり、二酸化炭素(CO2)を還元することが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化イリジウム(IrOx)を触媒として用いた酸化反応用電極の使用時の耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態における電気化学セルの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における酸化反応用電極の構成を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における還元反応用電極の構成を示す図である。
【
図4】蛍光X線回折法を用いたイリジウムの担持量の測定方法を説明するための図である。
【
図5】酸化イリジウムのナノコロイドの塗布回数に対するイリジウムの担持量の関係を示す図である。
【
図6】比較例1及び実施例1~4の電圧-電流測定の結果を示す図である。
【
図7】比較例1及び実施例1,2の酸化反応用電極の耐久性試験の結果を示す図である。
【
図8】酸化反応用電極の表面模式図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[電気化学セル]
本実施の形態における電気化学セルは、
図1に示すように、酸化反応用電極100と還元反応用電極102を組み合わせて構成される。酸化反応用電極100と還元反応用電極102を還元触媒及び酸化触媒が対向するように配置し、その間に反応物が溶解された電解液104を導入させる。反応物は、炭化化合物とすることができ、例えば、二酸化炭素(CO
2)とすることができる。また、電解液は、リン酸緩衝水溶液やホウ酸緩衝水溶液とすることが好適である。具体的な構成例では、二酸化炭素(CO
2)飽和リン酸緩衝液のタンクを設け、ポンプによって当該液を酸化反応用電極100と還元反応用電極102との間に設けられた間隙に供給し、還元反応によって生じたギ酸(HCOOH)や酸素(O
2)を外部の燃料タンクに回収する。
【0013】
酸化反応用電極100と還元反応用電極102との間を電気的に接続し、適切なバイアス電圧を印加した状態とする。バイアス電圧を印加する手段は、特に限定されるものではなく、化学的電池(一次電池、二次電池等を含む)、定電圧源、太陽電池等が挙げられる。このとき、酸化反応用電極100の集電電極に正極が接続され、還元反応用電極102のリード線に負極が接続される。
【0014】
本実施の形態では、太陽電池セル106を採用している。太陽電池セル106は、酸化反応用電極100及び還元反応用電極102に隣接して配置することができる。
図1の例では、酸化反応用電極100と還元反応用電極102とを対向させた電気化学セルの還元反応用電極102の背面に太陽電池セル106を配置し、太陽電池セル106の正極を酸化反応用電極100に接続し、負極を還元反応用電極102に接続している。
【0015】
二酸化炭素(CO2)からギ酸(HCOOH)等を合成する場合、水(H2O)は酸化されて二酸化炭素(CO2)に電子とプロトンを供給する。pH7付近では水(H2O)の酸化電位は0.82V、還元電位は-0.41V(何れもNHE)である。また、二酸化炭素(CO2)から一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メチルアルコール(CH3OH)への還元電位はそれぞれ-0.53V,-0.61V,-0.38Vである。したがって、酸化電位と還元電位の電位差は1.20~1.43Vである。そこで、炭化化合物である二酸化炭素(CO2)を還元する場合、太陽電池セル106は、4枚の結晶系シリコン太陽電池を直接に接続した構成や3枚のアモルファス系シリコン太陽電池を直列に接続したアモルファスシリコン系3接合太陽電池とすることが好適である。
【0016】
太陽電池セル106に対しては、受光面側に窓材108を設けることが好適である。窓材108は、太陽電池セル106を保護する部材である。窓材108は、太陽電池セル106において発電に寄与する波長の光を透過する部材とし、例えば、ガラス、プラスチック等とすることができる。
【0017】
酸化反応用電極100、還元反応用電極102、太陽電池セル106及び窓材108は、枠材110によって構造的に支持される。
【0018】
[酸化反応用電極]
図2は、実施形態に関わる酸化反応用電極100を示す。酸化反応用電極100は、酸化反応によって物質を酸化するために利用される電極である。酸化反応用電極100は、
図2に示すように、基板20、透明導電層22、集電電極24及び酸化触媒26を含んで構成される。
【0019】
基板20は、酸化反応用電極100を構造的に支持する部材である。基板20は、特に材料が限定されるものではないが、酸化反応用電極100に透光性を与えるようにするには、例えば、ガラス基板やプラスチック等とすることが好適である。
【0020】
透明導電層22は、酸化反応用電極100における集電を効果的にするために設けられる。透明導電層22は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0021】
集電電極24は、酸化反応用電極100における集電の効果を高めるために設けられる。すなわち、酸化反応用電極100を大面積化した場合、透明導電層22のみでは酸化反応用電極100の全面において十分な反応を促進させるための導電性を確保できなくなるので、酸化反応用電極100の導電性を高めるために設けられる。集電電極24は、例えば、間隔を置いて櫛形状に配置された線状のフィンガー電極と、フィンガー電極を更に集電するためのバス電極とを組み合わせた構成とすることができる。集電電極24は、導電部24a、第1シール部24b及び第2シール部24cから構成することが好適である。導電部24aは、導電性の高い材料で構成され、金属を含む材料で構成することが好適である。例えば、銀(Ag)、銅(Cu)等を含む材料で構成することが好適である。また、第1シール部24b及び第2シール部24cは、導電部を化学的及び機械的に保護するために少なくとも導電部の一部を被覆するように設けられる。第1シール部24bは、低融点のガラスコート材とすることができる。また、第2シール部24cは、シリコーンゴム(脱オキシムタイプ、低分子シロキサン低減材、耐油・耐溶剤フロロシリコーン等)、ポリイソブチレン、ポリプロピレン、メタクリル(アクリル)、ポリカーボネート、フッ素樹脂(テフロン)、エポキシ樹脂等の樹脂とすることができる。
【0022】
酸化触媒26は、酸化触媒機能を有する材料を含んで構成される。酸化触媒機能を有する材料は、例えば、酸化イリジウム(IrOx)を含む材料とすることができる。酸化イリジウム(IrOx)は、ナノコロイド溶液として透明導電層の表面上に担持することができる(T.Arai et.al, Energy Environ. Sci 8, 1998 (2015))。
【0023】
本実施の形態では、イリジウム(Ir)の担持量を30μg/cm2以上とすることが好適である。これによって、pH6以上8以下の中性の電解液中での使用に対する酸化反応用電極100の耐久性を高めることができる。
【0024】
[還元反応用電極]
還元反応用電極102は、還元反応によって物質を還元するために利用される電極である。還元反応用電極102は、
図3の断面模式図に示すように、基板10、導電層12、集電電極14、接着層16及び導電体層18を含んで構成される。なお、
図3は模式図であり、各層の膜厚や幅等は実際のものとは異なっている。
【0025】
基板10は、還元反応用電極102を構造的に支持する部材であり、特に材料が限定されるものではないが、例えば、ガラス基板等とされる。また、基板10は、例えば、金属又は半導体を含んでもよい。基板10として用いられる金属は、特に限定されるものではないが、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)を含むことが好適である。基板10として用いられる半導体は、特に限定されるものではないが、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、シリコン(Si)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タンタル(Ta2O5)等とすることが好適である。
【0026】
導電層12は、還元反応用電極102における集電を効果的にするために設けられる。導電層12は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。なお、基板10が導電性を有する材料で構成されている場合、導電層12を設けなくてもよい。
【0027】
集電電極14は、還元反応用電極102における集電の効果を高めるために設けられる。すなわち、還元反応用電極102を大面積化した場合、導電層12のみでは還元反応用電極102の全面において十分な反応を促進させるための導電性を確保することができなくなるので、還元反応用電極102の導電性を高めるために設けられる。集電電極14は、例えば、間隔を置いて櫛形状に配置された線状のフィンガー電極と、フィンガー電極を更に集電するためのバス電極とを組み合わせた構成とすることができる。
【0028】
集電電極14は、導電部14a、第1シール部14b及び第2シール部14cから構成することが好適である。導電部14aは、導電性の高い材料で構成され、金属を含む材料で構成することが好適である。導電部14aは、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)等を含む材料で構成することが好適である。導電部14aは、例えば、スクリーン印刷を適用して、導電層12の表面上に銀(Ag)ペーストを所望のパターンに塗布し、焼成することで形成することができる。また、第1シール部14b及び第2シール部14cは、導電部14aを化学的及び機械的に保護するために少なくとも導電部14aの一部を被覆するように設けられる。第1シール部14bは、低融点のガラスコート材とすることができる。第1シール部14bは、例えば、スクリーン印刷を適用して、導電部14aが形成された領域に導電部14aよりも幅広に低融点ガラスを塗布し、焼成することで形成することができる。また、第2シール部14cは、シリコーンゴム(脱オキシムタイプ、低分子シロキサン低減材、耐油・耐溶剤フロロシリコーン等)、ポリイソブチレン、ポリプロピレン、メタクリル(アクリル)、ポリカーボネート、フッ素樹脂(テフロン)、エポキシ樹脂等の樹脂とすることができる。第2シール部14cは、例えば、スクリーン印刷を適用して、第1シール部14bが形成された領域に第1シール部14bよりも幅広に樹脂を塗布し、乾燥又は固化処理することで形成することができる。なお、第2シール部14cは、ディスペンサーを用いて形成してもよい。
【0029】
ここで、導電部14aは、これに限定されるものではないが、導電層12のシート抵抗値が5Ω/sq以上20Ω/sq以下である場合、線幅(導電部14aの幅)を0.5mm以上2.0mm以下とし、線間隔(導電部14a同士の間隔)を160mm以下とした配線パターンとすることが好適である。特に、導電層12のシート抵抗値が5Ω/sq以上10Ω/sq未満の場合には線間隔が150mm以下、シート抵抗値が10Ω/sq以上20Ω/sq未満の場合には前記線間隔が100mm以下、シート抵抗値が20Ω/sq以上の場合には前記線間隔が70mm以下とすることが好適である。また、導電部14aの膜厚は、20μm以上25μm以下とすることが好適である。
【0030】
また、第1シール部14bは、これに限定されるものではないが、厚さが10μm以上20μm以下、幅が導電部14aのパターンの幅より広くすることが好適である。具体的には、第1シール部14bは、導電部14aの幅よりも1mm~2mm程度広くすることが好適である。また、第2シール部14cは、これに限定されるものではないが、厚さが50μm以上2000μm以下、幅が第1シール部14bのパターンよりも広くすることが好適である。具体的には、第2シール部14cは、第1シール部14bの幅よりも1mm~2mm程度広くすることが好適である。
【0031】
接着層16は、基板10、導電層12及び集電電極14と導電体層18とを接着するための層である。接着層16は、導電性の接着剤を用いて構成することが好適である。これにより、導電層12及び集電電極14と導電体層18との間の電気的な導電性を良好なものにすることができる。接着層16は、グラファイト等の炭素成分を含むカーボン系接着剤とすることが好適である。
【0032】
導電体層18は、還元触媒機能を有する材料を含む導電体から構成される。導電体は、カーボン材料(C)を含む材料から構成することができる。カーボン材料の構造体の単体の一辺のサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボン材料は、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン及びグラファイトの少なくとも1つを含むことが好適である。グラフェン及びグラファイトであればサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボンナノチューブであれば直径が1nm以上40nm以下であることが好適である。導電体は、エタノール等の液体に混ぜ合わせたカーボン材料をスプレーで塗布し、加熱することによって形成することができる。スプレーの代わりに、スピンコートによって塗布してもよい。また、スピンコートを用いず、直接溶液を滴下して乾かして塗布してもよい。
【0033】
錯体触媒は、例えば、ルテニウム錯体とすることが好適である。錯体触媒は、例えば、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(MeCN)Cl2]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)2Cl2]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)2]n、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(CH3CN)Cl2]等とすることができる。
【0034】
錯体触媒による修飾は、錯体をアセトニトリル(MeCN)溶液に溶解した液を導電体層18の導電体の上に塗布することで作ることができる。また、錯体触媒による修飾は、電解重合法により行うこともできる。作用極として導電体層18の導電体の電極、対極にフッ素含有酸化スズ(FTO)で被覆したガラス基板、参照電極にAg/Ag+電極を用い、錯体触媒を含む電解液中においてAg/Ag+電極に対して負電圧となるようにカソード電流を流した後、Ag/Ag+電極に対して正電位となるようにアノード電流を流すことにより導電体層18の導電体上を錯体触媒で修飾することができる。電解質の溶液には、アセトニトリル(MeCN)、電解質には、Tetrabutylammoniumperchlorate(TBAP)を用いることができる。
【0035】
このような構成の還元反応用電極102とすることによって、カーボン層を介して基板10で発生した電子を錯体触媒層へ効率的に受け渡すことができる。これにより、還元反応を生じさせる際の副反応である水素の発生を抑制することができ、炭素化合物を錯体触媒層の表面において効率的に還元する還元反応用電極102を実現することができる。
【0036】
[実施例及び比較例]
以下、比較例及び実施例を示し、本実施の形態における酸化反応用電極100の特徴及び特性について説明する。
【0037】
[比較例1]
酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイドを合成し、1.5cm×2.0cmのFTO(SnO2:F)付ガラス基板上の中央部1cm×1cmの領域に2回塗布して酸化反応用電極を形成した。1回の塗布量は125μリットルとした。
【0038】
作成した酸化反応用電極を作用極とし、Pt線及びAg/AgClをそれぞれ対極及び参照極とした3極式の電気化学セルを構成した。電解液には、0.4M又は0.6Mのリン酸カリウム緩衝液を用いた。当該リン酸カリウム緩衝液のpHは6以上8以下の範囲であった。
【0039】
[実施例1~4]
酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイドを4回、6回、8回及び10回塗布した酸化反応用電極を用いた電気化学セルをそれぞれ実施例1,2,3及び4とした。他の構成は、比較例1と同様にした。
【0040】
[イリジウム(Ir)の担持量]
蛍光X線回折法によって、比較例1及び実施例1~4におけるイリジウム(Ir)の担持量を測定した。比較例1では、イリジウム(Ir)の担持量は16.9μg/cm2であった。実施例1~4では、イリジウム(Ir)の担持量はそれぞれ34.8μg/cm2,62.5μg/cm2,101.7μg/cm2,134.6μg/cm2であった。
【0041】
イリジウム(Ir)の担持量の測定には、リガク社製の波長分散型蛍光X線分析装置(XRF):ZSX PrimusIIを使用した。測定領域は酸化イリジウム(IrOx)の塗布面積を全て含む範囲としてイリジウム(Ir)のX線強度を測定した。
図4は、X線強度スペクトルを示す。イリジウム(Ir)の測定線は、Ir-Lα線とした。最もX線強度が高くなる39.200°をピーク角度として設定した。また、Ir-Lα線のピーク両端においてX線強度が平坦かつその他のX線の影響を受けない38.000°及び40.500°をバックグラウンド角度(BG1,BG2)として設定した。測定時間は、各試料に対してそれぞれ60秒とした。その他の条件は、Ir-Lα線を選択した際に自動で選択される条件とした。
【表1】
表1の測定条件において、ピーク角度(39.200°)、BG1(38.000°)及びBG2(40.500°)におけるX線強度を測定し、BG1とBG2で得られたX線強度を直線で繋ぎ、ピーク角度と交わるX線強度をバックグラウンドのX線強度とする。このバックグラウンドのX線強度をピーク角度におけるX線強度から差し引いて得られたX線強度と基板上のイリジウム(Ir)の重量よりイリジウム(Ir)の担持量を定量した。
【0042】
図5は、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイドの塗布回数に対するイリジウム(Ir)の担持量の関係を示す図である。
図5に示すように、塗布回数が増加するにつれて基板上に担持される単位面積当たりのイリジウム(Ir)の重量も増加することがわかった。
【0043】
[電流密度測定]
図6は、比較例1及び実施例1~4における電圧-電流測定の結果を示す。比較例1に対して、実施例1では電流密度が20%程度増加した。一方、実施例2~4では、実施例1に対して電流密度の大きな変化は見られなかった。すなわち、イリジウム(Ir)の担持量を約30μg/cm
2以上とすることで、酸化反応用電極100の電流密度を増大させることができることがわかった。
【0044】
[耐久性測定]
図7は、比較例1並びに実施例1及び2において電極の耐久試験を行った結果を示す。いずれも印加電圧を1.77(vs.RHE)、電解液濃度は0.6M(pH6以上8以下)の電解液中としたときの時間経過に対する電流の変化を測定した。
図7(a)は比較例1の結果を示し、
図7(b)は実施例1の結果を示し、
図7(c)は実施例2の結果を示す。
【0045】
いずれの試料においても時間の経過と共に電流密度は減少した。ただし、その減少の傾向は一様ではなかった。比較例1では、時間経過と共に急激に電流密度が低下した。これに対して、実施例1では、経過時間が60分までは電流密度の低下が緩やかとなり、その後、電流密度の減少率が大きくなった。実施例2では、経過時間が150分までは電流密度の低下が緩やかとなり、その後の減少率も実施例1よりも緩やかとなった。すなわち、イリジウム(Ir)の担持量を約30μg/cm2以上とすることで、酸化反応用電極100に電圧を印加した場合の耐久性を向上させることができることがわかった。
【0046】
[考察]
図8は、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイドの塗布回数の違いによる酸化イリジウム(IrOx)の基板表面の被覆の様子を推察した模式図である。塗布回数が2回程度の場合、
図8(a)に示すように、基板20の全面を酸化イリジウム(IrOx)が覆うことができず、電圧印加時の電流密度の低下がみられたものと推察される。また、電圧印加の時間経過と共に触媒である酸化イリジウム(IrOx)が徐々に基板20の表面から離脱し、そのために時間経過と共に電流密度が急激に低下したものと推察される。
【0047】
これに対して、塗布回数を4回に増やした場合、
図8(b)に示すように、基板20の全面を酸化イリジウム(IrOx)が覆うことができ、電圧印加時に基板20の全面において十分に電流が流れる経路を確保できたために電流密度が増加したものと推察される。また、電圧印加の時間経過と共に触媒である酸化イリジウム(IrOx)が徐々に基板20の表面から離脱するが、酸化イリジウム(IrOx)がある程度積層されている状態であるために初期段階では電流密度の低下が緩やかになったと推察される。また、さらに塗布回数を6回に増やした場合、
図8(c)に示すように、基板20の全面に酸化イリジウム(IrOx)が積層され、電圧印加時に基板20の全面において十分に電流が流れる経路を確保できたために塗布回数が4回と同様の電流密度が得られたと推察される。また、塗布回数が4回の試料に対して酸化イリジウム(IrOx)の積層が進んでおり、酸化イリジウム(IrOx)の離脱の影響が受けにくくなり電流密度の低下がより緩やかになったと推察される。同様に、酸化イリジウム(IrOx)のナノコロイドの塗布回数を増加させるにしたがって、酸化反応用電極100の耐久性が向上したものと推察される。
【0048】
以上のように、本実施の形態における酸化反応用電極100によれば、触媒である酸化イリジウム(IrOx)の担持量を適切な値にすることによって、電極の活性を向上させることができると共に、その耐久性を高めることができる。
【符号の説明】
【0049】
10 基板、12 導電層、14 集電電極、14a 導電部、14b 第1シール部、14c 第2シール部、16 接着層、18 導電体層、20 基板、22 透明導電層、24 集電電極、24a 導電部、24b 第1シール部、24c 第2シール部、26 酸化触媒、100 酸化反応用電極、102 還元反応用電極、104 電解液、106 太陽電池セル、108 窓材、110 枠材。