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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】作業車両及び作業車両の位置検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20221206BHJP
   G01S 19/14 20100101ALI20221206BHJP
   G01S 19/53 20100101ALI20221206BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20221206BHJP
   B66C 13/22 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
G01C15/00 102C
G01C15/00 101
G01S19/14
G01S19/53
E02F9/20 M
B66C13/22 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019045296
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020148564
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】深町 聡一郎
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-87752(JP,A)
【文献】特開2016-88655(JP,A)
【文献】特開2001-159518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00-1/14
5/00-15/14
G01S 5/00-5/14
19/00-19/55
E02F 3/42-3/43
3/84-3/85
9/20-9/22
B66C 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両座標系における位置座標及び衛星による測位座標系における位置座標の一方を他方に変換するための変換係数を用いる作業車両であって、
走行体と、
前記走行体に旋回可能に支持される旋回体と、
前記走行体上に配置されたブームと、
前記ブームの先端部に設けられ、衛星からの電波を受信して測位信号を出力するアンテナと、
前記アンテナから出力された測位信号を受信し、該測位信号に基づいて前記アンテナの設置位置を示す位置信号を出力する受信機と、
前記受信機から出力される位置信号に基づいて前記ブームの先端部の位置を算出する制御部と、
前記アンテナの車両座標系における位置座標を記憶する記憶部と、を備え、
前記走行体が静止している状態において、前記制御部は、オペレータからの操作を受け付けて、単独操作で前記ブームの起伏操作を実行し、
前記測位座標系における前記ブームの先端部の位置座標の軌跡データとなる点群を取得し、
前記測位座標系において、前記点群を用いて主成分分析を実行することにより、当該点群に最も近くなる平面を求める第1算出処理と、
前記測位座標系において、前記第1算出処理で求めた平面上に前記点群を写像し、写像された円弧から前記ブームの起伏支点となる位置座標を求める第2算出処理と、
前記作業車両を水平設置した場合に、当該作業車両の水平面の法線ベクトルと、前記第1算出処理で求めた平面の法線ベクトルとの外積により、前方方向ベクトルを求める第3算出処理と、
前記測位座標系において、前記前方方向ベクトルから前記ブームの起伏支点の位置座標を前記旋回体の旋回中心までオフセットして当該旋回中心を算出する第4算出処理と、
前記前方方向ベクトルと前記旋回体の旋回角度から前記測位座標系と前記車両座標系のなす角度を求める第5算出処理と、を実行することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記測位座標系は、前記アンテナの設置位置を原点とすることを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
車両座標系における位置座標及び衛星による測位座標系における位置座標の一方を他方に変換するための変換係数を用いる作業車両の位置検出方法であって、
前記作業車両は、
走行体と、
前記走行体に旋回可能に支持される旋回体と、
前記走行体上に配置されたブームと、
前記ブームの先端部に設けられ、衛星からの電波を受信して測位信号を出力するアンテナと、
前記アンテナから出力された測位信号を受信し、該測位信号に基づいて前記アンテナの設置位置を示す位置信号を出力する受信機と、
前記受信機から出力される位置信号に基づいて前記ブームの先端部の位置を算出する制御部と、
前記アンテナの車両座標系における位置座標を記憶する記憶部と、を備え、
前記走行体が静止している状態において、前記制御部により単独操作で前記ブームの起伏操作を実行し、前記測位座標系における前記ブームの先端部の位置座標の軌跡データとなる点群を取得する工程と、
前記測位座標系において、前記点群を用いて主成分分析を実行することにより、当該点群に最も近くなる平面を求める第1算出処理工程と、
前記測位座標系において、前記第1算出処理工程で求めた平面上に前記点群を写像し、写像された円弧から前記ブームの起伏支点となる位置座標を求める第2算出処理工程と、
前記作業車両を水平設置した場合に、当該作業車両の水平面の法線ベクトルと、前記第1算出処理工程で求めた平面の法線ベクトルとの外積により、前方方向ベクトルを求める第3算出処理工程と、
前記測位座標系において、前記前方方向ベクトルから前記ブームの起伏支点の位置座標を前記旋回体の旋回中心までオフセットして当該旋回中心を算出する第4算出処理工程と、
前記前方方向ベクトルと前記旋回体の旋回角度から前記測位座標系と前記車両座標系のなす角度を求める第5算出処理工程と、を有することを特徴とする作業車両の位置検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行体上にブームを備えた作業車両及び作業車両の位置検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、走行体と、旋回可能に走行体に支持された旋回体と、伸縮及び起伏可能に旋回体に支持されたブームとを備えるクレーンが知られている。このクレーンはブームの先端位置等を監視しながら、旋回体を旋回させ、ブームを伸縮及び起伏させる。しかしながら、近年のクレーンの大型化に伴って、クレーンに設けられたセンサでブームの先端位置を正確に検出することが難しくなっている。
【0003】
そこで、全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)を用いてブームの先端位置を検出する手法が提案されている。すなわち、クレーンは、GNSSアンテナが受信した測位衛星からの測位信号をGNSS受信機でGNSSアンテナの設置位置を示す位置信号に変換することにより、ブームの先端位置を検出することができる。例えば、特許文献1~3にはGNSSアンテナを取り付けた作業車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-98585号公報
【文献】特開2004-125580号公報
【文献】特開2007-147588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブームの先端位置を測位衛星からの測位信号を使って制御するためには、車両を基準とする車両座標系と緯度、経度及び高度を基準とするGNSS座標系の関係を決定し、座標変換を行う必要がある。つまり、ブームの先端位置をGNSS座標系から車両座標系に変換するときには、変換係数として例えば旋回体の旋回中心の座標等が必要になる。この変換係数となる旋回中心の座標を求める際には、GNSSアンテナにより測位衛星からの測位信号を取得するために、ブームを大きく旋回させる必要があるが、狭い作業現場では実行することができない。
【0006】
本発明は、ブームを旋回させずに衛星からの測位信号を取得し、ブームの先端位置を測位座標系から車両座標系に変換するための変換係数を求めることができる作業車両及び作業車両の位置検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、本発明は、車両座標系における位置座標及び衛星による測位座標系における位置座標の一方を他方に変換するための変換係数を用いる作業車両であって、走行体と、前記走行体に旋回可能に支持される旋回体と、前記走行体上に配置されたブームと、前記ブームの先端部に設けられ、衛星からの電波を受信して測位信号を出力するアンテナと、前記アンテナから出力された測位信号を受信し、該測位信号に基づいて前記アンテナの設置位置を示す位置信号を出力する受信機と、前記受信機から出力される位置信号に基づいて前記ブームの先端部の位置を算出する制御部と、前記アンテナの車両座標系における位置座標を記憶する記憶部と、を備え、前記走行体が静止している状態において、前記制御部は、オペレータからの操作を受け付けて、単独操作で前記ブームの起伏操作を実行し、前記測位座標系における前記ブームの先端部の位置座標の軌跡データとなる点群を取得し、前記測位座標系において、前記点群を用いて主成分分析を実行することにより、当該点群に最も近くなる平面を求める第1算出処理と、前記測位座標系において、前記第1算出処理で求めた平面上に前記点群を写像し、写像された円弧から前記ブームの起伏支点となる位置座標を求める第2算出処理と、前記作業車両を水平設置した場合に、当該作業車両の水平面の法線ベクトルと、前記第1算出処理で求めた平面の法線ベクトルとの外積により、前方方向ベクトルを求める第3算出処理と、前記測位座標系において、前記前方方向ベクトルから前記ブームの起伏支点の位置座標を前記旋回体の旋回中心までオフセットして当該旋回中心を算出する第4算出処理と、前記前方方向ベクトルと前記旋回体の旋回角度から前記測位座標系と前記車両座標系のなす角度を求める第5算出処理と、を実行するものである。
【0009】
前記測位座標系は、前記アンテナの設置位置を原点とするものである。
【0010】
本発明は、車両座標系における位置座標及び衛星による測位座標系における位置座標の一方を他方に変換するための変換係数を用いる作業車両の位置検出方法であって、前記作業車両は、走行体と、前記走行体に旋回可能に支持される旋回体と、前記走行体上に配置されたブームと、前記ブームの先端部に設けられ、衛星からの電波を受信して測位信号を出力するアンテナと、前記アンテナから出力された測位信号を受信し、該測位信号に基づいて前記アンテナの設置位置を示す位置信号を出力する受信機と、前記受信機から出力される位置信号に基づいて前記ブームの先端部の位置を算出する制御部と、前記アンテナの車両座標系における位置座標を記憶する記憶部と、を備え、前記走行体が静止している状態において、前記制御部により単独操作で前記ブームの起伏操作を実行し、前記測位座標系における前記ブームの先端部の位置座標の軌跡データとなる点群を取得する工程と、前記測位座標系において、前記点群を用いて主成分分析を実行することにより、当該点群に最も近くなる平面を求める第1算出処理工程と、前記測位座標系において、前記第1算出処理工程で求めた平面上に前記点群を写像し、写像された円弧から前記ブームの起伏支点となる位置座標を求める第2算出処理工程と、前記作業車両を水平設置した場合に、当該作業車両の水平面の法線ベクトルと、前記第1算出処理工程で求めた平面の法線ベクトルとの外積により、前方方向ベクトルを求める第3算出処理工程と、前記測位座標系において、前記前方方向ベクトルから前記ブームの起伏支点の位置座標を前記旋回体の旋回中心までオフセットして当該旋回中心を算出する第4算出処理工程と、前記前方方向ベクトルと前記旋回体の旋回角度から前記測位座標系と前記車両座標系のなす角度を求める第5算出処理工程と、を有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ブームを旋回させずに衛星からの測位信号を取得し、ブームの先端位置を測位座標系から車両座標系に変換する際の変換係数を求めることができる。よって、ブームが旋回できない狭い作業現場であっても、変換係数を容易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】走行時におけるクレーンを示す図である。
図2】吊上作業時におけるクレーンを示す図である。
図3】GNSSアンテナの配置を説明するためのクレーンの模式平面図である。
図4】ブームの先端位置検出に関する制御系の構成を示す図である。
図5】変換係数の算出に関するクレーンの動作及び算出処理を示すフローチャートである。
図6】第2算出処理を説明するための説明図である。
図7】主成分分析について説明するための説明図である。
図8】第3算出処理を説明するための説明図である。
図9】第4算出処理を説明するための説明図である。
図10】第5算出処理を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では作業車両としてラフテレーンクレーンを例に説明する。なお、作業車両としては、自走可能で且つブームを有していればよく、例えば、オールテレーンクレーン、カーゴクレーン、高所作業車等であってもよい。
【0014】
<クレーンの概要>
まず、クレーン1について簡単に説明する。図1は、走行時におけるクレーン1を示す図である。図2は、吊上作業時におけるクレーン1を示す図である。クレーン1は、主に走行体2と旋回体3で構成されている。
【0015】
走行体2は、左右一対のフロントタイヤ21とリヤタイヤ22を備えている。また、走行体2は、吊上作業を行う際に接地させて安定を図るアウトリガ23を備えている。また、走行体2は、これらを駆動するためのアクチュエータに加え、エンジン24やトランスミッションを備えている。また、走行体2は、旋回用モータ25を備えている。旋回用モータ25により、走行体2は、その上部に支持する旋回体3を旋回自在としている(図2の矢印D参照)。
【0016】
旋回体3は、その後部から前方へ突き出すようにブーム31を備えている。ブーム31は、伸縮用シリンダ32によって伸縮自在となっている(図2の矢印E参照)。また、ブーム31は、起伏用シリンダ33によって起伏自在となっている(図2の矢印F参照)。また、旋回体3はブーム31の右方にキャビン34を備えている。旋回体3は、走行体2に旋回可能に支持されている。
また、ブーム31の先端部31aには、回転自在のシーブ35が複数取り付けられており、このシーブ35にはワイヤ(図示せず)が掛けられ、当該ワイヤの先端にはフックブロック36を介してフック37が取り付けられている。ワイヤの末端はウインチドラムに巻き掛けられている。
【0017】
<ブームの先端位置検出に関する構成>
図3は、GNSSアンテナ41の配置を説明するためのクレーン1の模式平面図である。クレーン1は、ブーム31の先端部31aに設けられたGNSSアンテナ41を有している。
なお、本実施形態におけるブーム31の先端部31aは、図1から図3に示すように、検出したい点であるシーブ35の中心に設定している。
【0018】
GNSSアンテナ41は全地球航法衛星システムで使用されるアンテナであり、図示しない測位衛星が出力する電波を受信し、受信電波に基づく測位信号を出力する。
【0019】
図4は、ブームの先端位置検出に関する制御系の構成を示す図である。クレーン1は、制御部51を備えている。制御部51は、ブーム31の伸縮動作や起伏動作のほか、様々な動作を制御できる。制御部51は、例えばCPUによって実現することができる。
【0020】
制御部51には、記憶部52と、GNSS受信機53と、情報取得部54とが接続されている。GNSS受信機53にはGNSSアンテナ41が接続されている。
【0021】
制御部51は、GNSS受信機53から出力される位置信号に基づいてブーム31の先端部31aの位置を算出する。そして、制御部51は算出したブーム31の先端部31aの位置に基づいて、ブーム31の伸縮動作や起伏動作を制御する。
【0022】
記憶部52は、ブーム31の先端位置を検出するための種々のプログラムやデータ(車両を基準とする車両座標系等)を格納している。その1つとして、記憶部52は後述する起伏操作におけるGNSSアンテナ41の測位座標系(ENU座標系ともいう)における位置座標(軌跡データ)を記憶する(図6参照)。車両座標系とは、クレーン1の任意の位置(例えば旋回体3の旋回中心)を原点とし、水平方向において互いに直交する方向に延びるx軸及びy軸と、鉛直上方に延びるz軸とで定義される仮想空間である。車両座標系における各座標は(x,y,z)で表現される。
【0023】
GNSS受信機53は、GNSSアンテナ41から出力された測位信号を受信し、該測位信号に基づいてGNSSアンテナ41の設置位置を示す位置信号を制御部51へ出力する。
【0024】
情報取得部54は、クレーン1に設けられた各種センサや操作スイッチから、クレーン1に関する各種の情報を取得する。この情報としては、例えば、クレーン1が走行モードであるかブーム31を使用する作業モードであるかを示すモード情報、クレーンの姿勢情報(ブーム31の起伏角度、伸長長さ、旋回角度、アウトリガ23の張り出し状態等を示す作業状態情報等)がある。情報取得部54としては、例えば、クレーン1の過負荷防止装置(AML)等が挙げられる。情報取得部54は、制御部51にクレーンの姿勢情報を出力する。
【0025】
また制御部51には、操作部56と、アウトリガ23と、旋回用モータ25と、伸縮用シリンダ32と、起伏用シリンダ33とが接続されている。操作部56はキャビン34に設けられ、オペレータからの操作を受け付けるものである。操作部56は受け付けた操作に応じた操作信号を制御部51へ出力する。操作部56はクレーン1を操作するためのレバー、ハンドル、ペダル、操作パネル等を含んでいる。
【0026】
制御部51は操作部56から出力される各種信号に基づいて、アウトリガ23と、旋回用モータ25と、伸縮用シリンダ32と、起伏用シリンダ33の動作を制御する。例えば、制御部51は、アウトリガ23を張出状態に移動させることを指示する張出操作、逆に格納状態に移動させることを指示する格納操作を受け付ける。また制御部51は、旋回用モータ25に旋回体3を旋回させることを指示する旋回操作、伸縮用シリンダ32にブーム31を伸長又は縮小させることを指示する伸長操作又は縮小操作、起伏用シリンダ33にブーム31を起仰又は倒伏させることを指示する起仰操作又は倒伏操作を受け付ける。
【0027】
<クレーンの位置検出方法:ブームの先端位置検出に関する動作及び算出処理>
次に、クレーン1の位置検出方法について説明する。
具体的には、図5から図10を参照してブーム31の先端位置検出に関する動作及び算出処理に関する工程を説明する。ここでは、作業現場の作業位置にクレーン1を停止させ、走行体2及び旋回体3が静止している状態でブーム31を起こす起伏操作をすることで変換係数を算出し、この変換係数を用いてブーム31の先端部31aの位置を検出する方法について説明する。
【0028】
図5は、変換係数の算出に関するクレーン1の動作及び算出処理を示すフローチャートである。まず、ステップS10において、制御部51はアウトリガ23の接地が完了したか否かを判別する。具体的には、制御部51は操作部56から張出操作の指示を受け付け、アウトリガ23の動作が終了したことをもってアウトリガ23の接地が完了したと判別することができる。なお、アウトリガ23の張出状態及び格納状態を検出するセンサを設け、制御部51はこのセンサの検出信号からアウトリガ23の接地が完了したか否かを判別してもよい。
【0029】
アウトリガ23の接地が完了すると、ステップS10からステップS11へ進んで、制御部51は、操作部56を介してオペレータからの操作を受け付けて、単独操作としてブーム31を起こす起伏操作を実行する。
【0030】
測位座標系とは、GNSSにより決定される座標系のことであり、現在のGNSSアンテナ41の設置位置を原点とし、原点から東方向に延びるE軸と、原点から北方向に延びるN軸と、原点から鉛直上方に延びるU軸とで定義される仮想空間であり、ENU(East-North-Up)座標系である。ENU座標系における各座標は(E,N,U)で表現される。以下では、測位座標系のことをENU座標系とも呼ぶ。
【0031】
ステップS11の起伏操作において、制御部51は、GNSS受信機53からGNSSアンテナ41の位置信号を受信する。すなわち、制御部51は、GNSSアンテナ41の位置を原点とする測位座標系(ENU座標系)において、起伏操作開始時から終了時及びブーム31の移動時の複数点におけるGNSSアンテナ41の位置座標Pi(Ei,Ni,Ui)をGNSS受信機53から出力される位置信号に基づいて取得する。位置座標Pi(Ei,Ni,Ui)は、ブーム31を起こす起伏操作における軌跡データ(測位座標系におけるGNSSアンテナ41の移動軌跡を示す複数の位置座標、本実施形態では点群データともいう)となる。制御部51は、取得された軌跡データを記憶部52に記憶する。
【0032】
以下に説明するステップS12~S17の算出処理工程は、単独操作としてブーム31の起伏操作によって取得された点群データ(軌跡データ)の点群から、主成分分析等を用いて変換係数(E,N,U)、回転角度α(図10参照)を求める算出方法を具体的に示したものである。ステップS12~S17の算出処理工程では、制御部51は、車両座標系における位置座標及び測位座標系における位置座標の一方を他方に変換するための変換係数(E,N,U)、回転角度αを算出する。そして、制御部51は、算出した変換係数(E,N,U)、回転角度αを記憶部52に記憶する。
【0033】
詳細は後述するが、以下に説明するステップS12~S17では、以下の(1)~(5)の各処理が実行される。
(1)点群データから平面を求める。
(2)平面に写像される円弧から、当該円弧の中心点Q(以下、単に点Qともいう)を求める。ここで、点Qは、ブーム31の根元支点ピン軸(ブーム31の起伏支点)と、上記(1)で求められた平面との交点の位置座標のことである。
(3)クレーン1の水平設置を前提として、クレーン1の水平面と上記(1)で求められた平面から外積をとり、前方方向のベクトルを取得する。
(4)前方方向ベクトルから、点Qをオフセットさせて変換係数として旋回中心Cを求める。
(5)前方方向ベクトルと旋回角度から、変換係数の一つである回転角度αを求める。
【0034】
[第1算出処理:平面推定(点群データから平面を求める)]
次に、ステップS11からステップS12へ進んで、制御部51は第1算出処理を実行する。第1算出処理では、制御部51は、記憶部52に記憶された起伏操作時の軌跡データである点群から、多変量解析の一例である主成分分析により最も点群に近くなる平面を求める。以下に、第1算出処理について詳細に説明する。
【0035】
ステップS11の起伏操作によって取得されたN個の点群データ座標(Ei,Ni,Ui)、ただしi=1,2,...,nとする。これらの2乗距離が最小となる平面の方程式
aE+bN+cU+d=0
の係数a,b,c,dを求める。
【0036】
次に、点群の重心を求める。
点群の重心の求め方としては、点群データ座標と二乗距離最小平面は点群の重心を通ることを利用する。
点群データの各座標軸の平均は以下のように表せる。
【0037】
【数1】
【0038】
上記の平面の方程式を一般形で表すと、
a(E-E)+b(N-N)+c(U-U)=0
ここで、(a,b,c)は法線ベクトルnである。
【0039】
【数2】
とおくと、係数dは以下のように表せる。
【0040】
【数3】
【0041】
続いて、係数a,b,cを求める。
変換係数である点(E,N,U)と平面aE+bN+cU+d=0の距離は、以下のように表せる。
【0042】
【数4】
で表される。
【0043】
これを最小化するa,b,c,dを求めればよいが、分子、分母に係数があるために計算が困難となる。そこで、等式制約を加えることで分母を1にし、最大化関数を2次式の形にする。
等式制約は、a+b+c-1=0
等式制約の極値問題はラグランジュの未定乗数法で解く。
点群データ座標(Ei,Ni,Ui)について、以下のように表す。
【0044】
【数5】
まとめると、以下のように表せる。
【0045】
【数6】
【0046】
ここで、eはすべての点群データ点と平面の距離の2乗である。このとき、ラグランジュ関数Lは、以下のように表せる。
【0047】
【数7】
λは未定乗数、||n||-1は等式制約a+b+c-1=0を表す。
【0048】
nに関するLの偏微分方程式は、以下のようになる。
【0049】
【数8】
【0050】
2XXn-2λn=0は固有値方程式の形式なので、nは行列XXの固有ベクトルから得られる。行列XXは半正値対象行列で、固有値はすべてゼロ以上の実数となる。
3×3行列の固有ベクトルなので、答えは3つ出てくるが、分散・共分散行列を使った主成分分析では、固有値(=データの分散)の大きいものから主成分として選択していく。この場合、平面の法線ベクトル(a,b,c)としてふさわしいのはXXの最小固有値に対応する固有ベクトルである。
【0051】
ここで、一般的に知られているラグランジュの未定乗数法について説明すると、
n次元の場合、
nの変数x,x,...,xが束縛条件g(x,x,...,x)=0を満たしている場合に、関数f(x,x,...,x)を最大化する(x,x,...,x)を求めたい。すなわち、
L(x,x,...,x,λ)=f(x,x,...,x)-λg(x,x,...,x
で定義されるLに対して、fが束縛条件g=0の元で最大化されるときは、以下の式が成立する。
【0052】
【数9】
【0053】
上述した第1算出処理において実行した、平面を求める具体的な手順をまとめると、以下のようになる。
1.点群データの重心を計算する。
2.点群データの主成分分析(PCA:Principal Component Analysis)を行う。そして、ラグランジュの未定数乗数法を解き、固有値と固有ベクトルを求める。
3.固有ベクトルから平面の方程式の係数を求める。求めた固有値の中で最小のものに対応する固有ベクトルを法線ベクトル(係数a,b,c)とし、点群データの重心を通る平面を計算する(dが求まる)。
【0054】
[第2算出処理:点Qの算出(点Qを求める)]
次に、ステップS12からステップS13へ進んで、制御部51は第2算出処理を実行する。第2算出処理では、制御部51は、ステップS12で求めた平面上に起伏操作による軌跡データを写像し、その円弧から起伏操作の起伏支点であるブーム31の根元支点ピン軸の位置座標である点Qを求める。以下に、第2算出処理について詳細に説明する。
【0055】
制御部51は、ステップS12で求めた平面上に点群データを写像する。
すなわち、最小固有値に対応する固有ベクトル(n)と行列Xで平面AB上に点群P,P,...,Pnを写像する(図6の左側グラフ参照)。点群P,P,...,Pnが写像された平面ABにおける円弧から平面AB上にある中心点を円フィッティングによって求める(図6の右側グラフ参照)。この中心点が点Qとなる。次に、求めた平面AB上にある点をENU座標上の点に戻す。
【0056】
(主成分分析(PCA)について)
本実施形態では、多変量解析である主成分分析を利用している。
本実施形態に係る主成分分析について説明する。
ENU座標上の点Pn=(En,Nn,Un)、主成分分析で求めた第三主成分をv=(α,β,γ)、主成分分析で求めた第二主成分をv=(α,β,γ)、主成分分析で求めた第一主成分をv=(α,β,γ)とおく。
主成分分析では分散の大きい軸から選択していくので、上のグラフから分散が一番小さい成分が求めたい平面の法線ベクトルとなる。2番目に分散が大きい成分は図7に示すグラフでは上下軸になる。分散が1番大きい成分は図7のグラフでの左右軸になる。
正射影ベクトルの公式から平面AB上のベクトルは以下で表される。
【0057】
【数10】
【0058】
[第3算出処理:前方向ベクトルの算出(前方向のベクトルを求める)]
次に、ステップS13からステップS14へ進んで、制御部51は第3算出処理を実行する。第3算出処理では、制御部51は、クレーン1の水平設置を前提として、クレーン1の水平面とステップS12で求めた平面から外積をとり、前方方向ベクトルを求める。以下に、第3算出処理について詳細に説明する。
【0059】
制御部51は、ステップ12で求めた平面の法線ベクトルn=(a,b,c)と、クレーン1の水平設置前提のEN平面の法線m=(0,0,1)の外積Wが前方を示すベクトルとなる(図8参照)。
【0060】
【数11】
【0061】
ここで、クレーン1の水平設置が前提ではなく、クレーン1のフレーム平面がブーム方向に傾斜している場合は、正しいブーム前方方向を求められない。そのため、旋回操作の単独操作を追加し、その軌跡からフレーム平面の法線ベクトルm´=(d,e,f)を求めて、EN平面の代わりとして外積を計算する。こうして、クレーン1のフレーム平面がブーム方向に傾斜している場合であっても、旋回操作の単独操作を追加することで、ブーム31の方向を求めることができる。
【0062】
外積の向きとしては、ENU座標系が左手系なので、EN平面の法線方向はzの方向、かつ起伏平面の法線方向は起伏方向から右側、となるように計算する。手順としては以下のように行う。
1.起伏動作の軌跡の始点と終点のベクトルを求める。
2.始点と終点の外積をとると、nの本来の方向ベクトルnとなる。
3.nと方向ベクトルnの内積からcosθを求める。
4.求めたcosθからθを求め、πと比較して0に近いと同じ方向、πに近いと逆方向とする。
【0063】
[第4算出処理:旋回中心Cの算出(旋回中心Cを求める)]
次に、ステップS14からステップS15へ進んで、制御部51は第4算出処理を実行する。第4算出処理では、制御部51は、ステップS14で求めた前方方向ベクトルから点Qを旋回中心の位置座標Cまでオフセットする。以下に、第4算出処理について詳細に説明する。
【0064】
制御部51は、ステップS14で求めた前方を示すベクトルWを使って、点Qをオフセットし、旋回中心Cを求める。
求める手順としては、図9に示すように、先ず、求めた平面の法線ベクトルn方向へオフセットし、X成分を平行移動させる。
【0065】
【数12】
【0066】
続いて、前方方向ベクトルW方向へオフセットし、Y成分を平行移動させる。
【0067】
【数13】
【0068】
ベクトルn、Wの大きさは1に正規化されているため、そのままオフセット分定数倍すればよい。
オフセット量は、車両座標系(クレーン座標系)で表すと、前方へXoff、右側方へYoffである。
こうして、制御部51は、車両座標系における位置座標及び測位座標系(ENU座標系)における位置座標の一方を他方に変換するための変換係数(回転角度を除く)である旋回中心Cを算出する。そして、制御部51は、算出した変換係数(回転角度を除く)である旋回中心Cを記憶部52に記憶する。
【0069】
[第5算出処理:回転角度αの算出(回転角度αを求める)]
次に、ステップS15からステップS16へ進んで、制御部51は第5算出処理を実行する。第5算出処理では、制御部51は、ステップS14で求めた前方方向ベクトルと旋回角度φからENU座標系と車両座標系のなす角である回転角度αを求める。以下に、第5算出処理について詳細に説明する。
【0070】
図10は、変換係数である位置座標C(E,N,U)、回転角度αを用いた車両座標系及びENU座標系の関係を示す図である。変換係数の角度成分である回転角度αは、車両座標系及びENU座標系の対応する軸(x軸とE軸、y軸とN軸、z軸とU軸)のなす角を示す。変換係数である位置座標C(E,N,U)は、車両座標系の原点と、ENU座標系の原点との距離を示す。
【0071】
制御部51は、座標の回転角度αを方向ベクトルW=(E,N,U)、旋回角度φを用いて以下のように算出される。
【0072】
【数14】
(旋回角度は右回りが+のため、マイナスをつける)
こうして、制御部51は、変換係数の角度成分である回転角度αを算出する。制御部51は、算出した回転角度αを記憶部52に記憶する。こうして、第4算出処理及び第5算出処理によって、変換係数である旋回中心の位置座標C(E,N,U)、回転角度αが求められる。
【0073】
[変換処理:変換係数による座標系の変換処理]
次に、ステップS16からステップS17へ進んで、制御部51は座標系の変換処理を実行する。制御部51は、求めた変換係数でENU座標におけるGNSSアンテナ41の位置座標を車両座標系における位置座標に変換する。以下に、変換処理について詳細に説明する。
【0074】
記憶部52に読み込んだENU座標系は、GNSSアンテナ41の先端位置がブーム31の先端部31aから離間した分(オフセット分)に相当するアンテナオフセット(xd,yd,zd)を含んでいる。これを考慮して、以下の順でENU座標系を車両座標系に変換する。
1.計測データ(Ei,Ni,Ui)から求めた旋回中心Cを引く。すなわち、旋回中心を原点にする。
2.回転行列で計測データをX軸方向へ向ける。
3.アンテナオフセット(xd,yd,zd)を計測データから引く。
以上のように、本実施形態に係るクレーン1の位置検出方法においては、クレーン1の位置検出に必要な変換係数である旋回中心の位置座標C(E,N,U)、回転角度αを算出することができる。
【0075】
以上のように、本実施形態に係るクレーン1及びクレーン1の位置検出方法によれば、ブーム31を旋回させずに起伏単独操作で衛星からの測位信号を取得し、ブーム31の先端の位置座標をENU座標系からクレーン1の車両座標系へ変換する変換係数として旋回中心の位置座標C(E,N,U)と、回転角度αを求めることができる。これにより、ブーム31の先端位置及び姿勢を高精度に検出することができる。また、ブーム31を旋回させずに起伏単独操作で衛星からの測位信号を取得するため、ブーム31が旋回できない狭い作業現場であっても、変換係数を容易に取得することができる。また、クレーン1の作業準備時には、起伏動作が含まれるので、作業準備の際の起伏動作時に変換係数の取得が可能であり、別途起伏動作を行う必要がない。
【0076】
また、GNSSアンテナ41はブーム31の先端部31aに設けられているので、上記ステップS17の変換処理によりブーム31の先端部31aのENU座標系における位置座標をクレーン1の車両座標系における位置座標へ変換することができる。図5の一連の動作を短時間に繰り返すことで、刻々と変化するブーム31の先端部31aの位置を適時検出することができる。そして、制御部51は、検出したブーム31の先端部31aの位置に基づいてブーム31の移動を精度良く制御することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 クレーン(作業車両)
2 走行体
31 ブーム
31a 先端部
41 GNSSアンテナ
51 制御部
52 記憶部
53 GNSS受信機(受信機)
56 操作部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10