(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】誤差処理装置、荷電粒子線装置、誤差処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H01J 37/28 20060101AFI20221206BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20221206BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20221206BHJP
G01N 23/2251 20180101ALI20221206BHJP
G01N 23/203 20060101ALI20221206BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H01J37/28 B
H01J37/244
H01J37/22 502H
G01N23/2251
G01N23/203
H01L21/66 N
(21)【出願番号】P 2019045998
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】森 孝茂
(72)【発明者】
【氏名】網野 岳文
(72)【発明者】
【氏名】丸山 直紀
(72)【発明者】
【氏名】谷山 明
(72)【発明者】
【氏名】谷口 俊介
(72)【発明者】
【氏名】横山 千恵
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-194743(JP,A)
【文献】特開2000-221147(JP,A)
【文献】特許第6458898(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/28
H01J 37/244
H01J 37/22
G01N 23/2251
G01N 23/203
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料台の載置面上に載置された試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記荷電粒子線装置によって得られる結晶の方位情報が有する誤
差情報を処理する装置であって、
前記載置面上に載置され、前記載置面に対する結晶の方位が既知である参照試料の前記方位と、前記荷電粒子線装置によって測定された前記参照試料の表面における結晶の方位情報とに基づいて求められた、前記参照試料の表面における前記結晶の方位情報が有する誤
差情報を取得する方位誤差取得部と、
前記誤
差情報を処理する方位誤差処理部と、
前記方位誤差取得部によって取得された前記誤差情報に基づいて、前記荷電粒子線装置によって測定された前記試料の表面における結晶の方位情報の補正を行う補正部と、を備える、
誤差処理装置。
【請求項2】
前記方位誤差処理部は、方位誤差出力部を有し、
前記方位誤差出力部は、前記方位誤差取得部によって取得された前記誤
差情報を外部の表示装置に表示されるよう出力する、
請求項1に記載の誤差処理装置。
【請求項3】
前記方位誤差処理部は、方位誤差判定部を有し、
前記方位誤差判定部は、前記方位誤差取得部によって取得された前記誤
差情報に基づいて、前記荷電粒子線装置によって測定される前記試料の表面における結晶の方位情報の補正を行うかどうかを判定する、
請求項1または請求項2に記載の誤差処理装置。
【請求項4】
前記方位誤差取得部は、方位情報取得部および方位誤差算出部を有し、
前記方位情報取得部は、前記荷電粒子線装置によって測定された前記参照試料の表面における前記結晶の方位情報を取得し、
前記方位誤差算出部は、前記参照試料の前記方位と、前記方位情報取得部によって取得された前記方位情報とに基づき、前記誤
差情報を算出する、
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の誤差処理装置。
【請求項5】
前記補正部によって補正された後の、前記試料の表面における結晶の方位情報を外部の表示装置に表示されるよう出力する補正方位情報出力部をさらに備える、
請求項
1から請求項4までのいずれかに記載の誤差処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項
5までのいずれかに記載の誤差処理装置を備えた、
荷電粒子線装置。
【請求項7】
試料台の載置面上に載置された試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記荷電粒子線装置によって得られる結晶の方位情報が有する誤
差情報を処理する方法であって、
(a)前記載置面上に載置され、前記載置面に対する結晶の方位が既知である参照試料の前記方位と、前記荷電粒子線装置によって測定された前記参照試料の表面における結晶の方位情報とに基づいて求められた、前記参照試料の表面における前記結晶の方位情報が有する誤
差情報を取得するステップと、
(b)前記誤
差情報を処理するステップと、
(c)前記(a)のステップで取得された前記誤差情報に基づいて、前記荷電粒子線装置によって測定された前記試料の表面における結晶の方位情報の補正を行うステップと、を備える、
誤差処理方法。
【請求項8】
前記(b)のステップにおいて、前記(a)のステップで取得された前記誤
差情報を外部の表示装置に表示されるよう出力する、
請求項
7に記載の誤差処理方法。
【請求項9】
前記(b)のステップにおいて、前記(a)のステップで取得された前記誤
差情報に基づいて、前記荷電粒子線装置によって測定される前記試料の表面における結晶の方位情報の補正を行うかどうかを判定する、
請求項
7または請求項
8に記載の誤差処理方法。
【請求項10】
前記(a)のステップにおいて、前記荷電粒子線装置によって測定された前記参照試料の表面における前記結晶の方位情報を取得し、前記参照試料の前記方位と、前記方位情報取得部によって取得された前記方位情報とに基づき、前記誤
差情報を算出する、
請求項
7から請求項
9までのいずれかに記載の誤差処理方法。
【請求項11】
(d)前記(c)のステップで補正された後の、前記試料の表面における結晶の方位情報を外部の表示装置に表示されるよう出力するステップをさらに備える、
請求項
7から請求項10までのいずれかに記載の誤差処理方法。
【請求項12】
試料台の載置面上に載置された試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、コンピュータによって、前記荷電粒子線装置によって得られる結晶の方位情報が有する誤
差情報を処理するプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記載置面上に載置され、前記載置面に対する結晶の方位が既知である参照試料の前記方位と、前記荷電粒子線装置によって測定された前記参照試料の表面における結晶の方位情報とに基づいて求められた、前記参照試料の表面における前記結晶の方位情報が有する誤
差情報を取得するステップと、
(b)前記誤
差情報を処理するステップと、
(c)前記(a)のステップで取得された前記誤差情報に基づいて、前記荷電粒子線装置によって測定された前記試料の表面における結晶の方位情報の補正を行うステップと、を実行させる、
プログラム。
【請求項13】
前記(b)のステップにおいて、前記(a)のステップで取得された前記誤
差情報を外部の表示装置に表示されるよう出力する、
請求項
12に記載のプログラム。
【請求項14】
前記(b)のステップにおいて、前記(a)のステップで取得された前記誤
差情報に基づいて、前記荷電粒子線装置によって測定される前記試料の表面における結晶の方位情報の補正を行うかどうかを判定する、
請求項
12または請求項
13に記載のプログラム。
【請求項15】
前記(a)のステップにおいて、前記荷電粒子線装置によって測定された前記参照試料の表面における前記結晶の方位情報を取得し、前記参照試料の前記方位と、前記方位情報取得部によって取得された前記方位情報とに基づき、前記誤
差情報を算出する、
請求項
12から請求項
14までのいずれかに記載のプログラム。
【請求項16】
(d)前記(c)のステップで補正された後の、前記試料の表面における結晶の方位情報を外部の表示装置に表示されるよう出力するステップをさらに備える、
請求項
12から請求項15までのいずれかに記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誤差処理装置、それを備えた荷電粒子線装置、誤差処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)は、加速された電子線を収束して電子線束として、試料表面上を周期的に走査しながら照射し、照射された試料の局所領域から発生する反射電子および/または二次電子等を検出して、それらの電気信号を材料組織像として変換することによって、材料の表面形態、結晶粒および表面近傍の転位などを観察する装置である。
【0003】
真空中で電子源より引き出された電子線は、直ちに1kV以下の低加速電圧から30kV程度の高加速電圧まで、観察目的に応じて異なるエネルギーで加速される。そして、加速された電子線は、コンデンサレンズおよび対物レンズ等の磁界コイルによって、ナノレベルの極微小径に集束されて電子線束となり、同時に偏向コイルによって偏向することで、試料表面上に収束された電子線束が走査される。また、最近では電子線を集束するに際して、電界コイルも組み合わせるような形式も用いられる。
【0004】
従来のSEMにおいては、分解能の制約から、二次電子像によって試料の表面形態を観察し、反射電子像によって組成情報を調べることが主要機能であった。しかしながら、近年、加速された電子線を、高輝度に維持したまま直径数nmという極微小径に集束させることが可能になり、非常に高分解能な反射電子像および二次電子像が得られるようになってきた。
【0005】
従来、格子欠陥の観察は透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いるのが主流であった。しかし、前記のような高分解能SEMにおいても反射電子像を活用した電子チャネリングコントラストイメージング(ECCI)法を用いることによって、結晶材料の極表面(表面からの深さ約100nm程度)ではあるが、試料内部の格子欠陥(以下では、「内部欠陥」ともいう。)の情報を観察できるようになってきた(非特許文献1および2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-194743号公報
【文献】特開2016-139513号公報
【文献】特開2018-022592号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本電子News Vol.43,(2011)p.7-12
【文献】顕微鏡 Vol.48,No.3(2013)p.216-220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、SEM-ECCI法によって結晶性材料を観察すると、結晶方位の違いにより観察像の明暗が大きく変化する。そして、特定の結晶方位において、観察像は最も暗くなる。このような条件は、電子チャネリング条件(以下では、単に「チャネリング条件」ともいう)と呼ばれる。上記のチャネリング条件は、試料に対する電子線の入射方向の調整によって満足するようになる。
【0009】
SEMにおいて入射電子線と所定の結晶面とのなす角が変化すると、反射電子強度が変化する。そして、入射電子線と所定の結晶面とのなす角が特定の条件を満足する際に、入射電子線が結晶奥深くまで侵入し反射しづらくなり、反射電子強度が最小となる。この条件がチャネリング条件である。
【0010】
また、同じ条件であっても、転位または積層欠陥等の格子欠陥があり結晶面が局所的に乱れている部分では、一部の電子線が反射することにより反射電子強度は高くなる。その結果、背景と格子欠陥とのコントラストが強調され、内部欠陥を識別して観察できるようになる。
【0011】
このような格子欠陥に起因するコントラストを観察するためには、試料座標系に対する結晶座標系の回転を表す方位情報(以下、単に「結晶の方位情報」ともいう。)を把握する必要がある。SEMには、結晶方位を解析するための電子後方散乱回折(EBSD:Electron Back Scatter Diffraction)装置が、付加的に搭載されていることが多く、これによりEBSDパターンを取得することが可能になる。
【0012】
背景に対して強いコントラストを持つ格子欠陥像を取得するためには、EBSDにより得られたEBSDパターンから解析された結晶方位を考慮して、チャネリング条件を満足するように試料を傾斜させ、反射電子像を観察することが有効である。
【0013】
ここで、EBSDパターンを取得するためには、試料をSEM内で70°程度まで大きく傾斜させる必要がある。SEMによって反射電子像を得るための反射電子検出器の幾何配置として、EBSD検出器の直下に配置する前方散乱配置と、電子銃直下に配置する後方散乱配置とがある。前方散乱配置では、試料をSEM内で70°程度まで大きく傾斜させた状態で反射電子像を得ることができるが、入射電子線の収差が大きいため高分解能像を得ることができない。
【0014】
一方、後方散乱配置では、内部欠陥を反映した高分解能像を得ることができるが、反射電子像の取得とEBSDによるEBSDパターンの取得が同時に行えないという問題がある。また、反射電子像とEBSDパターンとを交互に取得する場合も、そのたびに試料を大きく傾斜する必要が生じる。
【0015】
この際、試料台の傾斜精度、またはEBSD検出器のキャリブレーション等の問題により、試料表面とEBSD検出器との位置関係が適切な位置からずれ、取得される試料表面における結晶の方位情報に誤差が生じる場合がある。特に、格子欠陥に起因するコントラストは、わずかな傾斜角度の変化に対して敏感に変化する。そのため、結晶の方位情報の誤差は大きな問題となる。
【0016】
一般的に、上記の誤差を補正するために、結晶の方位情報が既知の試料の測定を行い、その結果に基づき試料台の傾斜角度を調整する方法が用いられている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0017】
しかし、EBSDによる測定時においては、試料台がすでに70°程度傾いており、これ以上の傾斜が困難である場合があるため、試料台の傾斜角度の調整による誤差の補正には限界がある。また、EBSD検出器についても、その位置または角度を変更することは容易でない。
【0018】
一方、結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を把握することが可能であれば、試料台の傾斜角度、またはEBSD検出器の位置もしくは角度を調整することなく、例えば、得られた誤差に基づいて結晶の方位情報を計算によって補正することが容易となる。
【0019】
本発明は、SEM、TEMおよび走査イオン顕微鏡(SIM:Scanning Ion Microscope)等の荷電粒子線装置において、結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を処理するための誤差処理装置、それを備えた荷電粒子線装置、誤差処理方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものである。
【0021】
本発明の一実施形態に係る誤差処理装置は、
試料台の載置面上に載置された試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記荷電粒子線装置によって得られる結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を処理する装置であって、
前記載置面上に載置され、前記載置面に対する結晶の方位が既知である参照試料の前記方位と、前記荷電粒子線装置によって測定された前記参照試料の表面における結晶の方位情報とに基づいて求められた、前記参照試料の表面における前記結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を取得する方位誤差取得部と、
前記誤差に関する情報を処理する方位誤差処理部と、を備えることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の一実施形態に係る誤差処理方法は、
試料台の載置面上に載置された試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記荷電粒子線装置によって得られる結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を処理する方法であって、
(a)前記載置面上に載置され、前記載置面に対する結晶の方位が既知である参照試料の前記方位と、前記荷電粒子線装置によって測定された前記参照試料の表面における結晶の方位情報とに基づいて求められた、前記参照試料の表面における前記結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を取得するステップと、
(b)前記誤差に関する情報を処理するステップと、を備えることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の一実施形態に係るプログラムは、
試料台の載置面上に載置された試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、コンピュータによって、前記荷電粒子線装置によって得られる結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を処理するプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記載置面上に載置され、前記載置面に対する結晶の方位が既知である参照試料の前記方位と、前記荷電粒子線装置によって測定された前記参照試料の表面における結晶の方位情報とに基づいて求められた、前記参照試料の表面における前記結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を取得するステップと、
(b)前記誤差に関する情報を処理するステップと、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、SEM、TEM、SIM等の荷電粒子線装置が有するEBSDによって測定された結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を処理することができる。その結果、例えば、試料台の傾斜角度、またはEBSD検出器の位置もしくは角度を調整することなく、得られた誤差に関する情報に基づいて結晶の方位情報を計算によって補正することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る誤差処理装置の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の他の実施形態における誤差処理装置の構成を具体的に示す構成図である。
【
図4】菊池マップと実格子の模式図の対応を説明するための概念図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る誤差処理装置の動作を示すフロー図である。
【
図8】本発明の実施の形態における誤差処理装置を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態に係る誤差処理装置、荷電粒子線装置、誤差処理方法およびプログラムについて、
図1~8を参照しながら説明する。
【0027】
[誤差処理装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る誤差処理装置を備えた荷電粒子線装置の概略構成を示す図である。本発明の一実施形態に係る誤差処理装置10は、試料台の載置面上に載置された試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置100に用いられ、荷電粒子線装置100によって得られる結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を処理する装置である。
【0028】
なお、荷電粒子線には、電子線、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)、アルゴンクラスター等の電荷を帯びた原子クラスター、陽電子線等が含まれる。また、荷電粒子線装置100には、SEM、TEM、SIM等が含まれる。さらに、試料台としては、汎用的な荷電粒子線装置100に付属の試料台であってもよいし、特許文献2または特許文献3に開示される機構を備えた試料台であってもよい。
【0029】
誤差処理装置10は、荷電粒子線装置100に直接組み込まれていてもよいし、荷電粒子線装置100に接続された汎用のコンピュータ等に搭載されていてもよい。さらに、誤差処理装置10は、荷電粒子線装置100とは接続されていない汎用のコンピュータ等に搭載されていてもよい。
【0030】
また、
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る誤差処理装置10は、方位誤差取得部1と、方位誤差処理部2とを備える。
【0031】
方位誤差取得部1は、結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を取得する。結晶の方位情報が有する誤差に関する情報は、載置面上に載置され、載置面に対する結晶の方位が既知である参照試料の方位と、荷電粒子線装置100によって測定された参照試料の表面における結晶の方位情報とに基づいて求められたものである。
【0032】
参照試料の種類については、載置面に対する結晶の方位が既知である限り特に制限はないが、立方晶の単結晶材料を用いることが好ましい。また、載置面に垂直な方向と、立方晶の<100>方向、<110>方向または<111>方向のいずれとがなす角度が1°以下であることが好ましい。例えば、(001)面が載置面と平行なSi単結晶試料(以下、「Si(001)単結晶試料」ともいう。)を用いることが好ましい。
【0033】
参照試料の表面における結晶の方位情報は、誤差処理装置10を備えた荷電粒子線装置100により、EBSD法、透過EBSD法、電子チャネリングパターン(ECP:Electron Channeling Pattern)等を用いた点分析またはマッピング分析等を行うことによって取得することができる。
【0034】
なお、結晶の方位情報とは、試料座標系に対する結晶座標系の回転を表す方位情報のことである。ここで、試料座標系とは、試料に固定された座標系であり、結晶座標系とは、結晶格子に固定された座標系である。また、結晶の方位情報には、試料座標系に対する結晶座標系の回転を表す方位情報を含む数値データが含まれる。
【0035】
上記の数値データには、例えば、結晶方位をロドリゲスベクトル等の回転ベクトルに変換したデータ、および、結晶方位を試料表面上の仮想的な直交座標系を基準としたオイラー角等によって表された回転行列に変換したデータ等が含まれる。さらに、数値データへの変換は、方位誤差取得部1が行ってもよいし、外部の装置が行ってもよい。なお、本発明において、「数値データ」は、数値の集合によって表されるデータを意味するものとする。
【0036】
参照試料の方位と、参照試料の表面において測定された結晶の方位情報とから、結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を求める方法についても特に制限はなく、外部の装置によって求めてもよいし、方位誤差取得部1が求めてもよい。
【0037】
図2は、本発明の他の実施形態における誤差処理装置の構成を具体的に示す構成図である。誤差に関する情報を方位誤差取得部1が求める場合においては、
図2に示すように、方位誤差取得部1が方位情報取得部1aおよび方位誤差算出部1bを有し、方位情報取得部1aが荷電粒子線装置100によって測定された参照試料の表面における結晶の方位情報を取得し、方位誤差算出部1bが載置面に対する参照試料の方位と、方位情報取得部1aによって取得された結晶の方位情報とに基づき、誤差に関する情報を算出することができる。
【0038】
誤差に関する情報には、例えば、荷電粒子線の入射方向に対する、Si(001)単結晶試料の[001]晶帯軸の方向を表す単位ベクトル、またはその単位ベクトルをオイラー角で表された回転行列等が含まれる。
【0039】
なお、参照試料の表面における結晶の方位情報としては、1回の測定による値を用いてもよいが、精度向上の観点からは、複数回の測定によって得られた数値データ(回転ベクトル、回転行列等)の平均値を用いることが好ましい。
【0040】
また、方位誤差処理部2は、方位誤差取得部1によって取得された参照試料の表面における結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を処理する。
【0041】
誤差に関する情報を処理する方法については特に制限はない。例えば、
図2に示すように、方位誤差処理部2が方位誤差出力部2aを有しており、方位誤差出力部2aが誤差に関する情報を外部の表示装置に表示されるよう出力することができる。これにより、オペレータは、結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を把握することが可能となる。
【0042】
また、
図2に示すように、方位誤差処理部2が方位誤差判定部2bを有しており、方位誤差判定部2bが誤差に関する情報に基づいて、荷電粒子線装置によって測定される試料の表面における結晶の方位情報の補正を行うかどうかを判定することができる。これにより、オペレータは判定結果に基づいて補正の要否を判断することが可能となる。
【0043】
本発明の他の実施形態に係る誤差処理装置10は、補正部3をさらに備えてもよい。補正部3は、誤差に関する情報に基づいて、荷電粒子線装置によって測定される試料の表面における結晶の方位情報の補正を行う。補正方法については特に制限はなく、例えば、結晶の方位情報がオイラー角等によって表された回転行列である場合には、上記の回転行列によって回転操作を行った後、さらに回転行列として求めた誤差に関する情報を掛け合わせ、所定の軸周りに回転させることで結晶の方位情報を補正することが可能となる。
【0044】
本発明の他の実施形態に係る誤差処理装置10は、補正方位情報出力部4をさらに備えてもよい。補正方位情報出力部4は、補正部3によって補正された後の、試料の表面における結晶の方位情報を外部の表示装置に表示されるよう出力する。これにより、オペレータはより正確な結晶の方位情報を把握することが可能となる。
【0045】
なお、表示される結晶の方位情報は、上述した数値データであってもよいし、当該数値データを解析することで生成される結晶方位図であってもよい。
図3は、結晶方位図の一例を示した図である。結晶方位図は、測定対象となる結晶の結晶座標系に対する、荷電粒子線の入射方向を表す図である。
【0046】
結晶方位図としては、指数付けされた菊池マップ(以降の説明において、単に「菊池マップ」ともいう。)、結晶面のステレオ投影図、実格子の模式図、計算された電子回折図形が挙げられる。
図3a,3bは、菊池マップの一例を示す図であり、
図3c,3dは、実格子の模式図の一例を示す図である。また、
図4は、菊池マップと実格子の模式図の対応を説明するための概念図である。
【0047】
図3a,3c,4aに示す状態では、結晶が有する[001]晶帯軸の方向と荷電粒子線CBの入射方向が平行となっている。なお、
図3a,3bにおける荷電粒子線CBの入射方向は図中央の十字印で示されており、
図3c,3dにおける荷電粒子線CBの入射方向は紙面垂直方向である。一方、
図4bに模式的に示されるように、結晶が荷電粒子線CBの入射方向に対して回転すると、菊池マップおよび実格子の模式図は、
図3b,3dに示す状態に変化する。
【0048】
[荷電粒子線装置の構成]
本発明の一実施形態に係る荷電粒子線装置100は、誤差処理装置10および本体部20を備えるものである。本発明の実施の形態に係る誤差処理装置を備えた荷電粒子線装置の構成について、さらに具体的に説明する。
【0049】
荷電粒子線装置100としてSEM200を用いる場合を例に説明する。
図5は、SEM200の一例を模式的に示した図である。
図5に示すように、SEM200は、誤差処理装置10、表示装置30、入力装置40および本体部210を備える。そして、本体部210は、電子線入射装置220、電子線制御装置230、試料台240、試料台駆動装置250、検出装置260およびFIB入射装置270を備える。
【0050】
電子線入射装置220は、電子源より電子線を引き出し、加速しながら放出する電子銃221と、加速された電子線束を集束するコンデンサレンズ222と、集束された電子線束を試料上の微小領域に収束させる対物レンズ223と、それを含むポールピース224と、電子線束を試料上で走査するための偏向コイル225とから主に構成される。
【0051】
電子線制御装置230は、電子銃制御装置231と、集束レンズ系制御装置232と、対物レンズ系制御装置233と、偏向コイル制御装置235とを含む。なお、電子銃制御装置231は、電子銃221により放出される電子線の加速電圧等を制御する装置であり、集束レンズ系制御装置232は、コンデンサレンズ222により集束される電子線束の開き角等を制御する装置である。
【0052】
試料台240は、試料を支持するためのものであり、試料台駆動装置250により傾斜角度および仮想的な3次元座標上の位置を自在に変更することが可能である。また、検出装置260には、二次電子検出器261、反射電子検出器262および電子後方散乱回折(EBSD)検出器263が含まれる。
【0053】
FIB入射装置270は、試料に対してFIBを入射するための装置である。公知の装置を採用すればよいため、詳細な図示および構造の説明は省略する。
図5に示すように、SEM200の内部にFIB入射装置270を備える構成においては、荷電粒子線として、電子線入射装置220から入射される電子線およびFIB入射装置270から入射されるFIBが含まれる。一般的に、FIBの入射方向は、電子線の入射方向に対して、52°、54°または90°傾斜している。なお、SEM200は、FIB入射装置270を備えていなくてもよい。
【0054】
上記の構成においては、二次電子検出器261および反射電子検出器262により、荷電粒子線像が得られ、電子後方散乱回折検出器263によって、結晶の方位情報が得られる。特に、反射電子検出器262によって、反射電子強度に関する情報を測定することが可能である。
【0055】
次に、荷電粒子線装置100がTEM300である場合を例に説明する。
図6は、TEM300の一例を模式的に示した図である。
図6に示すように、TEM300の本体部310は、電子線入射装置320、電子線制御装置330、試料ホルダー340、試料ホルダー駆動装置350、検出装置360および検出系制御装置370を備える。
【0056】
電子線入射装置320は、電子源より電子線を引き出し、加速しながら放出する電子銃321と、加速された電子線束を集束する第1コンデンサレンズ322および第2コンデンサレンズ323とから主に構成される。
【0057】
電子線制御装置330は、電子銃制御装置331と、第1コンデンサレンズ系制御装置332と、第2コンデンサレンズ系制御装置333とを含む。なお、電子銃制御装置331は、電子銃321により放出される電子線の加速電圧を制御する装置である。また、第1コンデンサレンズ系制御装置332および第2コンデンサレンズ系制御装置333は、それぞれ第1コンデンサレンズ322および第2コンデンサレンズ323により集束される電子線束の開き角等を制御する装置である。
【0058】
試料ホルダー340は、試料を支持するためのものであり、試料ホルダー駆動装置350により傾斜角度および仮想的な3次元座標上の位置を自在に変更することが可能である。また、検出装置360は、対物レンズ361と、中間レンズ362と、投影レンズ363と、検出器364とを含む。そして、対物レンズ361、中間レンズ362および投影レンズ363によって拡大された透過像および電子回折図形が検出器364に投影される。
【0059】
検出系制御装置370は、対物レンズ制御装置371と、中間レンズ制御装置372と、投影レンズ制御装置373とを含み、それぞれが対物レンズ361、中間レンズ362および投影レンズ363の磁気強度を変えることによって、検出器364に入る情報を透過像または電子回折図形に切り替えることができる。
【0060】
上記の構成においては、検出器364により、荷電粒子線像および結晶の方位情報が得られる。
【0061】
[装置動作]
次に、本発明の一実施形態に係る誤差処理装置の動作について
図7を用いて説明する。
図7は、本発明の一実施形態に係る誤差処理装置の動作を示すフロー図である。以降に示す実施形態では、SEMを用いる場合を例に説明する。
【0062】
まず前提として、試料台の載置面に載置したSi(001)単結晶試料に対して、EBSD法を用いた点分析を複数回行う。また、続いて、載置面に載置した試料表面の所定の領域を対象としてEBSD法を用いたマッピング分析を行う。なお、EBSD法を用いる場合には、試料を元の状態から約70°傾斜させた状態で分析を行う必要がある。分析後、試料の傾斜角度を元の状態に戻す。
【0063】
そして、方位情報取得部1aは、電子後方散乱回折検出器263が検出したSi(001)単結晶試料における複数の結晶の方位情報を取得するとともに、それぞれを試料表面上の仮想的な直交座標系を基準としたオイラー角に変換する(ステップA1)。続いて、方位情報取得部1aは、オイラー角に変換された複数の結晶の方位情報から、立方晶の対称性を考慮し、試料座標系のZ方向に近い結晶座標系001軸を平均し、試料座標系に対して結晶座標系001方向を表す単位ベクトルを算出する(ステップA2)。
【0064】
次に、方位誤差算出部1bは、上記の単位ベクトルと荷電粒子線の入射方向とのずれを、オイラー角として算出し、結晶の方位情報が有する誤差に関する情報とする(ステップA3)。
【0065】
その後、方位誤差出力部2aは、オイラー角として算出された誤差に関する情報の数値データを外部の表示装置に表示されるよう出力する(ステップA4)とともに、方位誤差判定部2bは、誤差に関する情報に基づき、結晶の方位情報の補正を行うかどうかを判定する(ステップA5)。本実施例においては、結晶の方位情報を補正すべきと判定されたものとする。
【0066】
続いて、補正部3は、ステップA3によって得られた誤差に関する情報に基づき、電子後方散乱回折検出器263が検出した試料表面における結晶の方位情報を補正する(ステップA6)。具体的には、マッピング分析により得られたピクセル毎にオイラー角として求められた結晶の方位情報に対して、オイラー角として求められた誤差に関する情報を掛け合わせて回転操作を行うことにより、補正を行う。
【0067】
そして、補正方位情報出力部4は、ステップA6によって補正された後の、試料の表面における結晶の方位情報から、結晶表面上のオペレータが選択した位置における結晶方位図を生成し、外部の表示装置に表示されるよう出力する(ステップA7)。
【0068】
これにより、試料台の傾斜角度、またはEBSD検出器の位置もしくは角度を調整することなく、得られた誤差に関する情報に基づいて結晶の方位情報を補正することが可能になる。
【0069】
本発明の一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、
図7に示すステップA1~A7を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施の形態における誤差処理装置10を実現することができる。この場合、コンピュータのプロセッサは、方位誤差取得部1(方位情報取得部1a、方位誤差算出部1b)、方位誤差処理部2(方位誤差出力部2a、方位誤差判定部2b)、補正部3および補正方位情報出力部4として機能し、処理を行なう。
【0070】
また、本実施の形態におけるプログラムは、複数のコンピュータによって構築されたコンピュータシステムによって実行されてもよい。この場合は、例えば、各コンピュータが、それぞれ、方位誤差取得部1(方位情報取得部1a、方位誤差算出部1b)、方位誤差処理部2(方位誤差出力部2a、方位誤差判定部2b)、補正部3および補正方位情報出力部4のいずれかとして機能してもよい。
【0071】
ここで、上記の実施形態におけるプログラムを実行することによって、誤差処理装置10を実現するコンピュータについて
図8を用いて説明する。
図8は、本発明の実施形態における誤差処理装置10を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【0072】
図8に示すように、コンピュータ500は、CPU(Central Processing Unit)511と、メインメモリ512と、記憶装置513と、入力インターフェイス514と、表示コントローラ515と、データリーダ/ライタ516と、通信インターフェイス517とを備える。これらの各部は、バス521を介して、互いにデータ通信可能に接続される。なお、コンピュータ500は、CPU511に加えて、またはCPU511に代えて、GPU(Graphics Processing Unit)、またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)を備えていてもよい。
【0073】
CPU511は、記憶装置513に格納された、本実施の形態におけるプログラム(コード)をメインメモリ512に展開し、これらを所定順序で実行することにより、各種の演算を実施する。メインメモリ512は、典型的には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性の記憶装置である。また、本実施の形態におけるプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体520に格納された状態で提供される。なお、本実施の形態におけるプログラムは、通信インターフェイス517を介して接続されたインターネット上で流通するものであってもよい。
【0074】
また、記憶装置513の具体例としては、ハードディスクドライブの他、フラッシュメモリ等の半導体記憶装置が挙げられる。入力インターフェイス514は、CPU511と、キーボードおよびマウスといった入力機器518との間のデータ伝送を仲介する。表示コントローラ515は、ディスプレイ装置519と接続され、ディスプレイ装置519での表示を制御する。
【0075】
データリーダ/ライタ516は、CPU511と記録媒体520との間のデータ伝送を仲介し、記録媒体520からのプログラムの読み出し、およびコンピュータ500における処理結果の記録媒体520への書き込みを実行する。通信インターフェイス517は、CPU511と、他のコンピュータとの間のデータ伝送を仲介する。
【0076】
また、記録媒体520の具体例としては、CF(Compact Flash(登録商標))およびSD(Secure Digital)等の汎用的な半導体記憶デバイス、フレキシブルディスク(Flexible Disk)等の磁気記録媒体、またはCD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)などの光学記録媒体が挙げられる。
【0077】
なお、本実施の形態における誤差処理装置10は、プログラムがインストールされたコンピュータではなく、各部に対応したハードウェアを用いることによっても実現可能である。また、誤差処理装置10は、一部がプログラムで実現され、残りの部分がハードウェアで実現されていてもよい。さらに、誤差処理装置10は、クラウドサーバを用いて構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、SEM、TEM、SIM等の荷電粒子線装置が有するEBSDによって測定された結晶の方位情報が有する誤差に関する情報を処理することができる。その結果、例えば、試料台の傾斜角度、またはEBSD検出器の位置もしくは角度を調整することなく、得られた誤差に関する情報に基づいて結晶の方位情報を計算によって補正することが可能になる。
【符号の説明】
【0079】
1.方位誤差取得部
1a.方位情報取得部
1b.方位誤差算出部
2.方位誤差処理部
2a.方位誤差出力部
2b.方位誤差判定部
3.補正部
4.補正方位情報出力部
10.誤差処理装置
20.本体部
30.表示装置
40.入力装置
100.荷電粒子線装置
200.SEM
300.TEM
500.コンピュータ
CB.荷電粒子線