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特許7188204複合電解質膜およびそれを用いた膜電極複合体、固体高分子形燃料電池
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  • 特許-複合電解質膜およびそれを用いた膜電極複合体、固体高分子形燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】複合電解質膜およびそれを用いた膜電極複合体、固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/106 20160101AFI20221206BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20221206BHJP
   C08J 9/42 20060101ALI20221206BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20221206BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20221206BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20221206BHJP
   H01M 8/102 20160101ALI20221206BHJP
   H01M 8/1062 20160101ALI20221206BHJP
   H01M 8/1025 20160101ALI20221206BHJP
   H01M 8/1081 20160101ALI20221206BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H01M8/106
C08J5/22 CEW
C08J9/42
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
H01M8/10 101
H01M8/102
H01M8/1062
H01M8/1025
H01M8/1081
C25B13/08 304
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019050794
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2019186201
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2018067924
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】國田 友之
(72)【発明者】
【氏名】梅田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】井上 達広
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/148017(WO,A1)
【文献】特開2012-107220(JP,A)
【文献】特開2017-050163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/106
C08J 5/22
C08J 9/42
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 8/10
H01M 8/102
H01M 8/1062
H01M 8/1025
H01M 8/1081
C25B 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材とが複合化された複合層を有する複合電解質膜であって、該複合層の前記含フッ素高分子多孔質基材の酸素原子含有量が10質量%以下であり、前記複合層の断面走査型電子顕微鏡観察において1um以上の空孔数が0.01mm当り10個以下である複合電解質膜。
【請求項2】
前記含フッ素高分子多孔質基材が50質量%以上のフッ素原子を含有する、請求項1に記載の複合電解質膜。
【請求項3】
前記炭化水素系高分子電解質がイオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーである、請求項1または2に記載の複合電解質膜。
【請求項4】
前記芳香族炭化水素系ポリマーが芳香族ポリエーテルケトン系ポリマーである、請求項3に記載の複合電解質膜。
【請求項5】
前記イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーが、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)をそれぞれ1個以上含有するブロック共重合体である、請求項3または4に記載の複合電解質膜。
【請求項6】
前記複合層における前記炭化水素系高分子電解質の充填率が50%以上である、請求項1~5のいずれかに記載の複合電解質膜。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の複合電解質膜に触媒層を積層してなる触媒層付電解質膜。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の複合電解質膜を用いて構成されてなる膜電極複合体。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の複合電解質膜を用いて構成されてなる固体高分子形燃料電池。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載の複合電解質膜を用いて構成されてなる電気化学式水素ポンプ。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の複合電解質膜を用いて構成されてなる水電解式水素発生装置。
【請求項12】
炭化水素系高分子電解質とフッ素系溶媒とを含む高分子電解質溶液を、酸素原子含有量が10質量%以下の含フッ素高分子多孔質基材に含浸させる工程を有する複合電解質膜の製造方法。
【請求項13】
前記フッ素系溶媒の150℃における蒸気圧が2kPa以上である、請求項12に記載の複合電解質膜の製造方法。
【請求項14】
前記フッ素系溶媒が下記一般式(C1)で表される構造の化合物である、請求項12または13に記載の複合電解質膜の製造方法。
-L-Y (C1)
(X:Cで表され、含まれる全ての炭素が1つ以上のフッ素原子と結合している有機基(kおよびnは1以上の整数、mは0以上の整数)、またはAr-Fで表される芳香族基(Ar-Fは任意の水素原子がフッ素原子に置換されたアリール基またはヘテロアリール基を意味し、pは1以上の整数であり、Arのフッ素原子による置換数を意味する)
Y:ヒドロキシ基、エーテル結合、アルデヒド基、カルボキシル基及びそのエステル、スルホン酸基及びそのエステル、アミノ基、亜リン酸基及びそのエステル、リン酸基及びそのエステル基から選択される親水性基
L:フッ素原子を含有しない有機基または直接結合
i、j:1以上の整数であり、2以上の整数である場合、2以上のXまたはYは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項15】
前記高分子電解質溶液における前記フッ素系溶媒の濃度が5質量%以上40質量%以下である、請求項12~14のいずれかに記載の複合電解質膜の製造方法。
【請求項16】
フッ素系溶媒を酸素原子含有量が10質量%以下の含フッ素高分子多孔質基材に含浸させる工程と、該フッ素系溶媒を含む含フッ素高分子多孔質基材へ炭化水素系高分子電解質溶液を含浸させる工程を有する複合電解質膜の製造方法。
【請求項17】
前記フッ素系溶媒の150℃における蒸気圧が2kPa以上である、請求項16に記載の複合電解質膜の製造方法。
【請求項18】
前記フッ素系溶媒が前記一般式(C1)で表される構造の化合物である、請求項16または17に記載の複合電解質膜の製造方法。
【請求項19】
前記高分子電解質溶液に対する前記フッ素系溶媒の含浸量が3体積%以上50体積%以下である、請求項16~18のいずれかに記載の複合電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質と多孔質基材とを複合化した複合層を有する複合電解質膜およびそれを用いた膜電極複合体、固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体高分子形燃料電池等の高分子電解質膜としては、パーフルオロスルホン酸系ポリマーであるナフィオン(登録商標)(デュポン社製)製の膜が広く用いられてきた。しかし、ナフィオン(登録商標)製の高分子電解質膜はクラスター構造に起因するプロトン伝導チャネルを通じて低加湿で高いプロトン伝導性を示すが、その一方で、多段階合成を経て製造されるため非常に高価であり、加えて、前述のクラスター構造により燃料クロスオーバーが大きいという課題があった。また、使用後の廃棄処理や材料のリサイクルが困難といった課題も指摘されてきた。
【0003】
このような課題を克服するために、ナフィオン(登録商標)に替わり得る炭化水素系高分子電解質膜の開発が近年活発化している。しかしながら、炭化水素系高分子電解質膜は乾湿サイクルにおける寸法変化が大きい傾向があり、物理的耐久性向上のため寸法変化を低減することが求められていた。
【0004】
そこで、燃料電池の乾湿サイクルに伴う電解質膜の寸法変化の抑制を目的として、補強材と高分子電解質材料の複合化が試みられている。特許文献1には炭化水素系高分子電解質をN-メチルピロリドン・メタノール混合溶媒に溶解した上でポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる多孔質基材を複合化させた複合電解質膜が提案されている。特許文献2にはPTFEからなる多孔質基材にブタノールを浸透させ炭化水素系高分子電解質を複合化させた複合電解質膜が提案されている。特許文献3には、PTFEからなる多孔質基材にプラズマ処理等の親水化処理を施した上で炭化水素系高分子電解質と複合化させた複合電解質膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2010-232158号公報
【文献】日本国特開2017-114122号
【文献】国際公開第2016/148017号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の複合電解質膜は、高分子電解質と多孔質基材との親和性が不十分であり、得られた複合電解質膜に空隙が存在するため、燃料透過が多く、また機械強度にも課題があった。特許文献2については、文献記載の条件にて複合化を検討した結果、複合電解質膜を得ることはできなかった。
【0007】
また、特許文献3に記載の複合電解質膜では、多孔質材料の親水化処理により高分子電解質との親和性が向上し複合化出来ているものの、プラズマや金属ナトリウムなどの親水化処理剤は一般的に反応性が非常に高いため、多孔質材料の表層と深層とで親水化処理の度合いにムラが生じ、特に深層において完全に空隙を充填することは困難であった。
【0008】
本発明は、炭化水素系高分子電解質を含む複合電解質膜において、さらに高い機械強度を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材とが複合化された複合層を有する複合電解質膜であって、複合層の前記含フッ素高分子多孔質基材の酸素原子含有量が10質量%以下であり、複合層の断面走査型電子顕微鏡観察において1um以上の空孔数が0.01mm当り10個以下である複合電解質膜である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、低燃料透過性と高機械強度を有する複合電解質膜を提供することができる。また、本発明の複合電解質膜を用いることで、優れた耐久性を有する固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で作製した複合電解質膜の断面走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。以下本明細書において「~」は、その両端の数値を含む範囲を表すものとする。
【0013】
〔炭化水素系高分子電解質〕
炭化水素系高分子電解質とは、イオン性基を有する炭化水素系ポリマーからなる電解質である。炭化水素系ポリマーとしては、主鎖に芳香環を有する芳香族炭化水素系ポリマーが好適である。ここで、芳香環は、炭化水素系芳香環だけでなく、ヘテロ環を含んでいてもよい。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもよい。
【0014】
芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンから選択される構造を芳香環とともに主鎖に有するポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有している構造の総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含む。炭化水素骨格は、これらの構造のうち複数の構造を有していてもよい。これらのなかでも、芳香族炭化水素系ポリマーとして特にポリエーテルケトン骨格を有するポリマー、すなわちポリエーテルケトン系ポリマーが最も好ましい。
【0015】
炭化水素系高分子電解質としては、共連続様またはラメラ様の相分離構造を形成するものが好適である。このような相分離構造は、例えばイオン性基を有する親水性ポリマーとイオン性基を有さない疎水性ポリマーのような非相溶な2種以上のポリマーブレンドからなる成形体や、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)のような非相溶な2種以上のセグメントからなるブロック共重合体などにおいて発現し得る。共連続様およびラメラ様の相分離構造においては、親水性ドメインおよび疎水性ドメインがいずれも連続相を形成するため、連続したプロトン伝導チャネルが形成されることによりプロトン伝導性に優れる高分子電解質成形体を得ることができる。ここでドメインとは、一つの成形体において、類似する物質やセグメントが凝集してできた塊のことを意味する。
【0016】
イオン性基を有する炭化水素系ポリマーとしては、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)をそれぞれ1個以上有するブロック共重合体が好ましい。ここで、セグメントとは、特定の性質を示す繰り返し単位からなる共重合体ポリマー鎖中の部分構造であって、分子量が2000以上のものを表すものとする。ブロック共重合体を用いることで、ポリマーブレンドと比較して微細なドメインを有する共連続様の相分離構造を発現させることが可能となり、より優れた発電性能、物理的耐久性が達成できる。
【0017】
以下、イオン性基を含有する芳香族炭化水素セグメント(A1)もしくはポリマーを「イオン性ブロック」、イオン性基を含有しない芳香族炭化水素セグメント(A2)もしくはポリマーを「非イオン性ブロック」と表記することがある。もっとも、本明細書における「イオン性基を含有しない」という記載は、当該セグメントもしくはポリマーが相分離構造の形成を阻害しない範囲でイオン性基を少量含んでいる態様を排除するものではない。
【0018】
このようなブロック共重合体としては、非イオン性ブロックに対するイオン性ブロックのモル組成比(A1/A2)が、0.20以上であることが好ましく、0.33以上であることがより好ましく、0.50以上であることがさらに好ましい。また、モル組成比(A1/A2)は5.00以下であることが好ましく、3.00以下であることがより好ましく2.50以下であることがさらに好ましい。モル組成比(A1/A2)が、0.20未満あるいは5.00を越える場合には、低加湿条件下でのプロトン伝導性が不足したり、耐熱水性や物理的耐久性が不足したりする場合がある。ここで、モル組成比A1/A2とは、非イオン性ブロック中に存在する繰り返し単位のモル数に対するイオン性ブロック中に存在する繰り返し単位のモル数の比を表す。「繰り返し単位のモル数」とは、イオン性ブロック、非イオン性ブロックの数平均分子量をそれぞれ対応する構成単位の分子量で除した値とする。
【0019】
芳香族炭化水素系ポリマーが有するイオン性基は、プロトン交換能を有するイオン性基であればよい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく用いられる。イオン性基はポリマー中に2種類以上含むことができる。中でも、高プロトン伝導度の点から、ポリマーはスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基から選ばれる少なくとも1つを有することがより好ましく、原料コストの点からスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0020】
本発明においては、炭化水素系高分子電解質を組成する芳香族炭化水素系ポリマーとして芳香族炭化水素系ブロック共重合体を用いることが好ましく、ポリエーテルケトン系ブロック共重合体であることがより好ましい。特に、下記のようなイオン性基を含有する構成単位(S1)を含むセグメントと、イオン性基を含有しない構成単位(S2)を含むセグメントとを含有するポリエーテルケトン系ブロック共重合体は特に好ましく用いることができる。
【0021】
【化1】
【0022】
(一般式(S1)中、Ar~Arは任意の2価のアリーレン基を表し、Arおよび/またはArはイオン性基を含有し、ArおよびArはイオン性基を含有しても含有しなくても良い。Ar~Arは任意に置換されていても良く、互いに独立して2種類以上のアリーレン基が用いられても良い。*は一般式(S1)または他の構成単位との結合部位を表す。)
【0023】
【化2】
【0024】
(一般式(S2)中、Ar~Arは任意の2価のアリーレン基を表し、任意に置換されていても良いが、イオン性基を含有しない。Ar~Arは互いに独立して2種類以上のアリーレン基が用いられても良い。*は一般式(S2)または他の構成単位との結合部位を表す。)
ここで、Ar~Arとして好ましい2価のアリーレン基は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系アリーレン基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイルなどのヘテロアリーレン基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。Ar~Arは、好ましくはフェニレン基とイオン性基を含有するフェニレン基、最も好ましくはp-フェニレン基とイオン性基を含有するp-フェニレン基である。また、Ar~Arはイオン性基以外の基で置換されていてもよいが、無置換である方がプロトン伝導性、化学的安定性、物理的耐久性の点でより好ましい。
【0025】
〔含フッ素高分子多孔質基材〕
含フッ素高分子多孔質基材(以下、単に「多孔質基材」という場合がある。)とは、フッ素原子を有する高分子によって成形されてなる多孔質基材である。フッ素原子を有する高分子は一般的に疎水性の化合物であるため、炭化水素系高分子電解質と複合化することにより、複合電解質膜に耐水性を付与し吸水時の寸法変化を抑制することが出来る。また、一般にフッ素原子を有する高分子化合物は薬品への溶解性が低く化学反応に対し安定であるため、複合電解質膜に耐薬品性、化学的耐久性も付与することが出来る。
【0026】
本発明においては、含フッ素高分子多孔質基材として、X線光電子分光法(XPS)により測定される酸素原子含有量が10質量%以下のものを使用する。含フッ素高分子多孔質基材としては、酸素原子含有量が8%以下の物が好ましく、5%以下の物がより好ましい。酸素原子含有量が10%を超える場合、含フッ素高分子多孔質基材の吸水性が増加し、複合電解質膜が吸水した際の寸法変化が大きくなる。含フッ素高分子多孔質基材の酸素原子含有量は、具体的には後述する実施例第(12)項に記載の方法で測定することが出来る。
【0027】
含フッ素高分子多孔質基材は、耐水性の観点から50質量%以上のフッ素原子を含有していることが好ましく、60質量%以上のフッ素原子を含有していることがより好ましく、70質量%以上のフッ素原子を含有していることが特に好ましい。含フッ素高分子多孔質基材におけるフッ素原子含有量は、含フッ素高分子多孔質基材を燃焼させて発生したガスを吸収させた溶液のイオンクロマトグラフィーにより測定した値であるものとし、具体的には後述する実施例第(9)項に記載の方法で測定することができる。
【0028】
なお、高分子電解質と複合化された後の複合電解質膜中に存在する含フッ素高分子多孔質基材の分析を行う場合、複合電解質膜を高分子電解質のみを溶解する溶媒に浸漬することで含フッ素高分子多孔質基材のみを取り出すことが可能である。用いる溶媒は、高分子電解質材料の化学種や高次構造により選択すべきものであるが、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素系溶媒、水などが好適である。
【0029】
含フッ素高分子多孔質基材を構成するフッ素原子含有高分子としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、エチレンクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられるがこれらに限定されない。耐水性の観点から、PTFE、ポリヘキサプロピレン、FEP、PFAが好ましく、分子配向により高い機械強度を有することから、PTFEが特に好ましい。
【0030】
含フッ素高分子多孔質基材の形態としては、空孔の無い含フッ素高分子膜を膜面方向に延伸し微細な空孔を形成させた延伸微多孔膜や、含フッ素高分子化合物溶液を調製し製膜した後、溶媒を含んだままの状態で含フッ素高分子化合物の貧溶媒に浸漬し凝固させた湿式凝固微多孔膜、含フッ素高分子化合物溶液を紡糸した溶液紡糸ファイバーからなる不織布、含フッ素高分子化合物を溶融し紡糸した溶融紡糸ファイバーからなる不織布などが挙げられる。溶液紡糸の方法としては、口金より高圧を加え繊維状に吐出した含フッ素高分子化合物溶液を熱風により乾燥させる乾式紡糸法や、繊維状に吐出した含フッ素高分子化合物溶液を当該含フッ素高分子化合物の貧溶媒に浸漬し凝固させる湿式紡糸法、高電圧を引加した空間へ含フッ素高分子化合物溶液を吐出し静電気により繊維状に引っ張るエレクトロスピニングなどが挙げられる。溶融紡糸法としては、溶融した含フッ素高分子化合物を口金より繊維状に吐出したメルトブロー紡糸が挙げられる。
【0031】
本発明で使用する含フッ素高分子多孔質基材の厚みに特に制限はなく、複合電解質膜の用途によって決めるべきものであるが、0.5~50μmの膜厚を有するものが実用的に用いられ、2μm以上40μm以下ものもが好ましく用いられる。
【0032】
炭化水素系高分子電解質と複合化する前の含フッ素高分子多孔質基材の空隙率は、特に限定されないが、得られる複合電解質膜のプロトン伝導性と機械強度の両立の観点から、50~98%が好ましく、80~98%がより好ましい。なお、含フッ素高分子多孔質基材の空隙率Y1(体積%)は下記の数式によって求めた値と定義する。
【0033】
Y1=(1-Db/Da)×100
Da:含フッ素高分子多孔質基材を構成する高分子の比重
Db:含フッ素高分子多孔質基材全体の比重。
【0034】
〔複合電解質膜〕
本発明の複合電解質膜は、前述の炭化水素系高分子電解質と、前述の含フッ素高分子多孔質基材とが複合化した複合層を有するものであり、かつ当該複合層の断面走査型電子顕微鏡(SEM)観察において1um以上の空孔数が0.01mm当り10個以下である。複合層には、1um以上の空孔が観察されないことが好ましく、0.5um以上の空孔が観察されないことが好ましく、0.1um以上の空孔が観察されないことがより好ましい。複合層中の1um以上の空孔数が0.01mm当り10個を超える場合、膜の燃料クロスオーバーが大きくなるとともに、吸水時の寸法変化が大きくなり機械強度が低下することにより物理的耐久性が低下する。断面SEM観察については、実施例(11)に記載の方法で行うものとする。
【0035】
複合層における炭化水素系高分子電解質の充填率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。複合層の充填率が低下すると、プロトンの伝導パスが失われることにより、発電性能が低下することがある。なお、本発明における複合層の充填率は、複合層の総体積に対し高分子電解質が占める割合を示す値であり、具体的には実施例第(3)項に記載の方法で測定するものとする。
【0036】
本発明の複合電解質膜は、複合層の両側または片側に、多孔質基材等の補強材と複合化されていない高分子電解質層が形成されていてもよい。このような層を有することにより、複合電解質膜と電極の接着性を向上させ、界面剥離を抑制することができる。補強材と複合化されていない高分子電解質層を複合層の両側または片側に接して形成する場合、当該層を構成する電解質材料は、芳香族炭化水素系ポリマーであることが好ましく、複合層内に充填された炭化水素系高分子電解質と同じポリマーであることがより好ましい。
【0037】
本発明の複合電解質膜は、複合層を有することにより、面方向の寸法変化率を低減することができる。面方向の寸法変化率の低下により、燃料電池の電解質膜として用いた際に、乾湿サイクル時に電解質膜のエッジ部分等に発生する膨潤収縮によるストレスを低減し、耐久性を向上させることができる。複合電解質膜の面方向の寸法変化率λxyは、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
また、複合電解質膜における面方向の寸法変化率は、MD、TD方向の異方性が小さいことが好ましい。異方性が大きい場合、燃料電池のセルデザインを制約したり、寸法変化の大きい方向と直交するエッジに膨潤収縮によるストレスが集中し、その部分から電解質膜の破断が始まったりすることがある。具体的には、複合電解質膜の面方向における、TD方向の寸法変化率λTDに対するMD方向の寸法変化率λMDの比λMD/λTDが、0.5<λMD/λTD<2.0を満たすことが好ましい。ここで、寸法変化率とは、乾燥状態における複合電解質膜の寸法と湿潤状態における複合電解質膜の寸法の変化を表す指標であり、具体的な測定は実施例第(5)項に記載の方法で行う。
【0039】
本発明の複合電解質膜における複合層の厚みは、とくに限定されるものでないが、0.5μm以上50μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下がより好ましい。複合層が厚い場合、電解質膜の物理的耐久性が向上する一方で、膜抵抗が増大する傾向がある。逆に、複合層が薄い場合、発電性能が向上する一方で、物理的耐久性に課題が生じ、電気短絡や燃料透過などの問題が生じやすい傾向がある。
【0040】
〔複合電解質膜の製造方法〕
本発明において、複合電解質膜は、第一の態様として、高分子電解質とフッ素系溶媒とを混合した高分子電解質-フッ素系溶媒混合溶液である含浸溶液を含フッ素高分子多孔質基材に含浸した後に、乾燥させて含浸溶液に含まれる溶媒を除去することにより製造することができる。これらの製造方法で使用する高分子電解質および含フッ素高分子多孔質基材の詳細は前述の通りであるため、ここでは省略する。
【0041】
第一の態様において、高分子電解質溶液におけるフッ素系溶媒の濃度は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。また、フッ素系溶媒の濃度は、高分子電解質溶液の総量に対して40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく30質量%以下であることがさらに好ましい。フッ素系溶媒の濃度が5質量%未満である場合、高分子電解質溶液と含フッ素高分子多孔質基材との親和性が不十分となり複合電解質膜が得られないことがある。またフッ素系溶媒の濃度が40質量%を超える場合、炭化水素系高分子電解質が析出、ゲル化し製膜出来なくなる場合がある。
【0042】
また、本発明において、複合電解質膜は、第二の態様として、予めフッ素系溶媒を付与した含フッ素高分子多孔質基材に高分子電解質溶液である含浸溶液を含浸した後に、乾燥させて前記フッ素系溶媒および含浸溶液に含まれる溶媒を除去することによっても製造することができる。この場合、フッ素系溶媒を含フッ素高分子多孔質基材に付与する方法としては、
(1)フッ素系溶媒に浸漬した含フッ素高分子多孔質基材を引き上げながら余剰のフッ素系溶媒を除去して付与量を制御する方法
(2)含フッ素高分子多孔質基材上にフッ素系溶媒を流延塗布する方法
(3)フッ素系溶媒を流延塗布した支持基材上に含フッ素高分子多孔質基材を貼り合わせて含浸させる方法
が挙げられる。フッ素系溶媒を付与する際には、その他所定の溶媒や添加剤を混合せずに用いても良いし、含浸溶液と混合しやすくするために、含浸溶液の溶媒等、所定の溶媒や添加剤を加えた状態で混合しても良い。フッ素系溶媒を流延塗布する方法としては、ナイフコート、ダイレクトロールコート、マイヤーバーコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェットコートなどの手法が適用できる。
【0043】
第二の態様において、フッ素系溶媒は、含浸溶液を100体積%として、3体積%以上付与することが好ましく10体積%以上付与することがより好ましい。また、同様に50体積%以下付与することが好ましく、30体積%以下付与することがより好ましい。3体積%未満の場合、高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材の親和性が低下し複合化が出来ないことがある。50体積%を超える場合、フッ素系溶媒が過剰となり含浸溶液を含浸させた際に濃度が過剰に低下することにより粘度が低下し含浸溶液が含フッ素高分子多孔質基材から流出する場合や、フッ素系溶媒により含浸溶液から高分子電解質が析出し複合化できない場合がある。
【0044】
第二の態様において、フッ素系溶媒を付与する量は、フッ素系溶媒と含浸溶液の塗工量に基づき調整することができる。具体的にはフッ素系溶媒と含浸溶液の塗工厚みに基づき調整することができる。すなわち、フッ素系溶媒を付与した含フッ素高分子多孔質基材の幅と長さは任意に決定することができ、その時点で複合高分子電解質膜を製造できる幅と長さを決定することができる。当該領域におけるフッ素系溶媒と含浸溶液の体積は各々の塗工厚みの積に比例するものであるから、フッ素系溶媒と含浸溶液の体積比率はフッ素系溶媒と含浸溶液の塗工厚み比と同じ値となる。
【0045】
フッ素系溶媒とは、分子内にフッ素原子を含有する溶媒であれば特に限定されないが、1分子内にフッ素原子を50質量%以上有する化合物が好ましく、60質量%以上有する化合物がより好ましい。1分子内のフッ素原子含有量が50質量%未満の化合物の場合、含フッ素高分子多孔質基材との親和性が不十分となる場合がある。
【0046】
さらに、フッ素系溶媒としては、酸素、窒素、リン、硫黄およびホウ素からなる群より選択される親水性元素を分子中に1質量%以上含むものが好ましく、5質量%以上含むものがより好ましい。これらの元素は有機化合物中において親水性の極性基を形成するものであり、それゆえこれらの元素を含む溶媒は高分子電解質との親和性が高い。
【0047】
また、フッ素系溶媒は、フッ素原子およびフッ素原子が直接結合している炭素原子と該炭素原子に直接結合している1価の原子からなる原子団が前記親水性元素を含有しない範囲において連結したフッ素含有部位と、親水性元素および親水性元素が直接結合している1価の原子及び複数の親水性原子が結合している2価以上の原子からなる原子団が前記フッ素原子含有部位を含有しない範囲において連結した親水性部位と、を有する化合物であることが好ましい。フッ素原子含有部位と親水性部位は共有結合により直接結合していてもリンカーを介して間接的に結合していても構わない。ここでリンカーとはフッ素原子も親水性元素も含まない任意の2価以上の原子団を意味し、アルキレン基やアルケニレン基、アリーレン基などが例示される。フッ素含有部位と親水性部位とを有することにより、炭化水素系高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材の親和性を向上させることができる。
【0048】
このようなフッ素含有部位としては、フッ化アルキル基、フッ化アルケニル基、フッ化アリール基からなる群より選択される基が好ましく、化学的安定性の観点から、フッ化アルキル基またはフッ化アリール基がより好ましく、揮発性が高く複合電解質膜に残存しにくいことから、フッ化アルキル基がさらに好ましい。
【0049】
また、親水性部位としては、ヒドロキシ基やエーテル結合、アルデヒド基、カルボキシル基及びそのエステル、スルホン酸基及びそのエステル、アミノ基、亜リン酸基及びそのエステル、リン酸基及びそのエステル基が好ましい。その中でも、親水性の観点からヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、亜リン酸基、リン酸基がより好ましく、化学的安定性の観点からヒドロキシ基がさらに好ましい。
【0050】
さらに、フッ素系溶媒としては、下記一般式(C1)で表される構造の化合物が好ましい。
-L-Y (C1)
(X:Cで表され、含まれる全ての炭素が1つ以上のフッ素原子と結合している有機基(kおよびnは1以上の整数、mは0以上の整数)、またはAr-Fで表される芳香族基(Ar-Fは任意の水素原子がフッ素原子に置換されたアリール基またはヘテロアリール基を意味し、pは1以上の整数であり、Arのフッ素原子による置換数を意味する)
Y:ヒドロキシ基、エーテル結合、アルデヒド基、カルボキシル基及びそのエステル、スルホン酸基及びそのエステル、アミノ基、亜リン酸基及びそのエステル、リン酸基及びそのエステル基から選択される親水性基
L:フッ素原子を含有しない有機基または直接結合
i、j:1以上の整数であり、2以上の整数である場合、2以上のXまたはYは同一であっても異なっていてもよい。)
一般式(C1)において、Xとしては、炭素数kが6個以下であることが好ましく、4個以下であることが好ましい。炭素数が6個を超える場合、揮発性が低く製膜後に残存することによりプロトン伝導度が低下することがある。
【0051】
一般式(C1)において、Xとしては、フッ化アルキル基、フッ化アルケニル基、フッ化アリール基からなる群より選択される基が好ましく、化学的安定性の観点から、フッ化アルキル基またはフッ化アリール基がより好ましく、揮発性が高く複合電解質膜に残存しにくいことから、フッ化アルキル基がさらに好ましい。その中でも、化学的安定性や揮発性の観点から、フッ化メチル基、フッ化エチル基、フッ化プロピル基、フッ化ブチル基、フッ化ペンチル基、フッ化ヘキシル基、フッ化ヘプチル基、フッ化オクチル基、フッ化ノニル基、フッ化デシル基が好ましく、フッ化メチル基、フッ化エチル基、フッ化プロピル基、フッ化ブチル基がより好ましい。ここで、「フッ化メチル基」としては、1分子中に含まれるフッ素原子の数によりモノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基の3種類の官能基が有り得るが、本明細書において「フッ化メチル基」はこれらの総称として用いる。「フッ化エチル基」や「フッ化プロピル基」などのその他の官能基についても同様である。また、6個のフッ素原子を有するヘキサフルオロプロピル基の場合、1,1,1,2,2,3-ヘキサフルオロ-1-プロピル基や1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロピル基などの構造異性体が存在するが、本明細書において「ヘキサフルオロプロピル基」は一般式(C1)に当てはまる範囲においてこれらの総称として用いる。
【0052】
一般式(C1)において、Yとしては、親水性の観点からヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、亜リン酸基、リン酸基が好ましく、化学的安定性の観点からヒドロキシ基がより好ましい。
【0053】
フッ素系溶媒としては、150℃における蒸気圧が2kPa以上のものを使用する。その中でも、150℃における蒸気圧が3kPa以上の溶媒が好ましく、5kPa以上の溶媒がより好ましい。かかる溶媒であれば製膜後の残存量を著しく低減させることが出来るため、複合電解質膜において良好なプロトン伝導度と物理的耐久性を両立させることができる。
【0054】
フッ素系溶媒としては、分子量が500以下のものが好ましく、400以下のものがより好ましく、200以下のものがさらに好ましい。かかる溶媒であれば揮発性が高く製膜後の残存量を著しく低減させることが出来るため、複合電解質膜において良好なプロトン伝導度と物理的耐久性を両立させることができる。
【0055】
フッ素系溶媒は、水、10%硫酸および10%水酸化ナトリウム水溶液への飽和溶解度が0.1質量%以上のものが好ましく、1質量%以上のものがより好ましく、10質量%以上のものがさらに好ましく、水と任意の割合で混和するものが特に好ましい。かかる溶媒であれば、製膜後に水や酸、アルカリ水溶液を用いて洗浄することにより溶媒の残存量を著しく低減させることが出来るため、複合電解質膜において良好なプロトン伝導度と物理的耐久性を両立させることができる。
【0056】
フッ素系溶媒として好適な具体的な化合物としては、フッ化メタノール、フッ化エタノール、フッ化プロパノール、フッ化ブタノール、フッ化ペンタノール、フッ化ヘキサノール、フッ化ヘプタノール、フッ化オクタノール、フッ化ノナール、フッ化デカノール、フッ化エチレングリコール、フッ化プロピレングリコール、フッ化フェノール、フッ化酢酸、フッ化安息香酸、フッ化メタンスルホン酸、フッ化ベンゼンスルホン酸、フッ化トルエンスルホン酸などが挙げられる。ここで、「フッ化メタノール」としては、1分子中に含まれるフッ素原子の数によりモノフルオロメタノール、ジフルオロメタノール、トリフルオロメタノールの3種類の化合物が有り得るが、本明細書において「フッ化メタノール」はこれらの総称として用いる。「フッ化エタノール」や「フッ化プロパノール」などのその他の化合物についても同様である。また、6個のフッ素原子を有するヘキサフルオロプロパノールの場合、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールや1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロ-1-プロパノールなどの構造異性体が存在するが、本明細書において「ヘキサフルオロプロパノール」はこれらの総称として用いる。
【0057】
この中でも、化学的安定性の観点から、フッ化メタノール、フッ化エタノール、フッ化プロパノール、フッ化ブタノール、フッ化ペンタノール、フッ化ヘキサノール、フッ化ヘプタノール、フッ化オクタノール、フッ化ノナール、フッ化デカノール、が好ましく、揮発性が高く製膜後の複合電解質膜中に残存しにくいことからフッ化メタノール、フッ化エタノール、フッ化プロパノール、フッ化ブタノールがより好ましく、炭化水素系高分子電解質及び含フッ素高分子多孔質基材との親和性に特に優れることから、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロ-1-ブタノールがさらに好ましく、コストの観点から1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールがとくに好ましい。
【0058】
含浸溶液においては、炭化水素系高分子電解質の溶解度を向上させることを目的としてフッ素原子を含有しない溶媒を併用することが出来る。フッ素原子を含有しない溶媒は、ポリマー種によって適宜選択することができるが、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素系溶媒、水などが好適に用いられる。
【0059】
使用する含浸溶液における高分子電解質の濃度は、5~40質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。この範囲の濃度であれば、含フッ素高分子多孔質基材の空隙にポリマーを充分に充填でき、かつ表面平滑性に優れた複合層を得ることができる。含浸溶液の濃度が低すぎると、含フッ素高分子多孔質基材の空隙への高分子電解質の充填効率が低下し、複数回の浸漬処理が必要となる場合がある。一方、含浸溶液の濃度が高すぎると、溶液粘度が高すぎて、含フッ素高分子多孔質基材の空隙に対しポリマーを充分に充填できず、複合層中の充填率が下がったり、複合電解質膜の表面平滑性が悪化したりする場合がある。
【0060】
含浸溶液の溶液粘度は、好ましくは100~50,000mPa・s、より好ましくは300~10,000mPa・sである。溶液粘度が低すぎると溶液の滞留性が悪く、含フッ素高分子多孔質基材から流れ出てしまうことがある。一方、溶液粘度が高すぎる場合には上記のような問題が生じる場合がある。
【0061】
含浸溶液を含フッ素高分子多孔質基材に充填する方法としては、
(1)含浸溶液に浸漬した多孔質基材を引き上げながら余剰の溶液を除去して膜厚を制御する方法
(2)多孔質基材上に含侵溶液を流延塗布する方法
(3)含浸溶液を流延塗布した支持基材上に多孔質基材を貼り合わせて含浸させる方法
が挙げられる。これらの方法は含フッ素高分子多孔質基材へのフッ素系溶媒の付与の有無にかかわらず適用することができる。
【0062】
溶媒の乾燥は、(3)の方法で含浸を行った場合はそのままの状態で行うことができる。また、(1)または(2)の方法で含浸を行った場合、別途用意した支持基材に含フッ素高分子多孔質基材を貼り付けた状態で含浸溶液の溶媒及びフッ素系溶媒を乾燥する方法が、複合電解質膜の皺や厚みムラなどが低減でき、膜品位を向上させる点からは好ましい。含浸溶液を流延塗布する方法としては、ナイフコート、ダイレクトロールコート、マイヤーバーコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェットコートなどの手法が適用できる。
【0063】
含浸溶液を充填した高分子多孔質基材の乾燥時間や乾燥温度は適宜実験的に決めることができるが、少なくとも基材から剥離しても自立膜になる程度に乾燥することが好ましい。乾燥の方法は基材の加熱、熱風、赤外線ヒーター等の公知の方法が選択できる。乾燥温度は、高分子電解質の分解を考慮して200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
【0064】
また、含浸溶液と多孔質基材とを接触させた後、乾燥工程の前に加熱し含浸溶液を低粘度化させることにより複合化を促進させる工程(加熱工程)を設けることも好適である。含浸溶液の濃度を高く保ちつつ粘度を下げることにより充填効率を向上させることが可能である。このときに、含浸溶液の溶媒揮発を可能な限り抑制することが重要となる。溶媒が揮発した場合、フッ素系溶媒が揮発することにより含浸溶液と多孔質基材との親和性が低下したり、含浸溶液の濃度が増加することによりかえって粘度が増加し充填効率が低下したりすることがある。
【0065】
加熱工程における含浸溶液の温度は、含浸溶液の濃度や粘度、含浸溶液に含まれる溶媒の沸点や蒸気圧曲線などにより適宜調整するものであるが、前述の溶媒の沸点や蒸気圧に鑑みて、一般的には50℃以上とすることが好ましく、60℃以上とすることがより好ましく、70℃以上とすることがさらに好ましい。また、100℃以下とすることが好ましく、90℃以下とすることがより好ましく、80℃以下とすることがさらに好ましい。50℃未満の場合、溶液粘度が高く含フッ素高分子多孔質基材の空隙に対しポリマーを充分に充填できず、複合層中の充填率が下がることがある。100℃を超える場合、溶媒が揮発し上記のような問題が生じることがある。
【0066】
加熱工程においては、含浸溶液に含まれる溶媒の揮発を抑制するため、加熱炉における塗工面の風速を調整することも好適である。溶媒揮発の抑制という観点においては、塗工面近傍の溶媒蒸気が滞留する境界層を保持していればよく、そのためには塗工面と垂直方向の風速を調整すればよい。具体的な風速は、含浸溶液の濃度や粘度、含浸溶液に含まれる溶媒の沸点や蒸気圧曲線、加熱炉の容積などにより適宜調整するものであるが、一般的には、5m/s以下が好ましく、1m/s以下がより好ましく、無風状態がさらに好ましい。塗工面と垂直方向の風速を調製しつつ含浸溶液を加熱する具体的な方法として、赤外線ヒーターを用いた無風下での加熱、ヒートロールを用いた無風化での加熱、後述の支持基材裏面から熱風を送風し塗工面に直接風を当てない加熱などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0067】
また、含まれるイオン性基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと塩を形成した状態の炭化水素系高分子電解質と多孔質基材とをこのように複合化した後に、当該アルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンをプロトンと交換する工程を行っても良い。この工程は、複合化後の膜を酸性水溶液と接触させる工程であることが好ましく、特に複合化後の膜を酸性水溶液に浸漬する工程であることがより好ましい。この工程においては、酸性水溶液中のプロトンがイオン性基とイオン結合している陽イオンと置換されるとともに、残留している水溶性の不純物や、残存モノマー、溶媒、残存塩などが同時に除去される。
【0068】
酸性水溶液は特に限定されないが、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸などを用いることが好ましい。酸性水溶液の温度や濃度等も適宜決定すべきであるが、生産性の観点から0℃以上80℃以下の温度で、3質量%以上、30質量%以下の硫酸水溶液を使用することが好ましい。
【0069】
最終的に得られた複合電解質膜においては、フッ素系溶媒の含有量が0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、全く含まないことが更に好ましい。ここで全く含まないとは、加熱トラップガスクロマトグラフィー/マススペクトル分析においてフッ素系溶媒が検出されないことを意味し、残存するフッ素系溶媒量は、具体的には実施例(10)項に記載の方法で測定することができる。フッ素系溶媒の残存量が0.1質量%を超える場合、プロトン伝導度や物理的耐久性が低下することがある。
【0070】
本発明の複合電解質膜は、種々の用途に適用可能である。例えば、人工皮膚などの医療用途、ろ過用途、耐塩素性逆浸透膜などのイオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途、加湿膜、防曇膜、帯電防止膜、脱酸素膜、太陽電池用膜、ガスバリアー膜に適用可能である。中でも種々の電気化学用途により好ましく利用できる。電気化学用途としては、例えば、固体高分子形燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置、電気化学式水素ポンプ、水電解式水素発生装置が挙げられる。
【0071】
固体高分子形燃料電池、電気化学式水素ポンプ、および水電解式水素発生装置において、高分子電解質膜は、両面に触媒層、電極基材及びセパレータが順次積層された構造体で使用される。このうち、電解質膜の両面に触媒層を積層させたもの(即ち触媒層/電解質膜/触媒層の層構成のもの)は触媒層付電解質膜(CCM)と称され、さらに電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散基材を順次積層させたもの(即ち、ガス拡散基材/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散基材の層構成のもの)は、膜電極複合体(MEA)と称されている。本発明の複合電解質膜は、こうしたCCMおよびMEAを構成する電解質膜として好適に用いられる。
【実施例
【0072】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各種測定条件は次の通りである。
【0073】
(1)ポリマーの分子量
ポリマー溶液の数平均分子量及び重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー社製HLC-8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー社製TSK gel SuperHM-H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N-メチル-2-ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN-メチル-2-ピロリドン溶媒)にて、流量0.2mL/minで測定し、標準ポリスチレン換算により数平均分子量及び重量平均分子量を求めた。
【0074】
(2)イオン交換容量(IEC)
中和滴定法により測定した。測定は3回実施し、その平均値を取った。
【0075】
1.プロトン置換し、純水で十分に洗浄した複合電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。
【0076】
2.複合電解質膜に5wt%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換した。
【0077】
3.0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v% を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。
【0078】
4.IECは下記式により求めた。
【0079】
IEC(meq/g)=〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/ml)×滴下量(ml)〕/試料の乾燥重量(g)
(3)複合層における芳香族炭化水素系高分子電解質の充填率
光学顕微鏡または走査形電子顕微鏡(SEM)で複合電解質膜の断面を観察し、高分子電解質と含フッ素高分子多孔質基材からなる複合層の厚みをT1、複合層の外側に別の層がある場合はそれらの厚みをT2、T3とした。複合層を形成する高分子電解質の比重をD1、複合層の外側の別の層を形成する高分子電解質の比重をそれぞれのD2、D3、複合電解質膜の比重をDとした。それぞれの層を形成するポリマーのIECをI1、I2、I3、複合電解質膜のIECをIとすると、複合層中の芳香族炭化水素系高分子電解質の含有率Y2(体積%)は下式で求めた。
【0080】
Y2=[(T1+T2+T3)×D×I-(T2×D2×I2+T3×D3×I3)]/(T1×D1×I1)×100
(4)透過型電子顕微鏡(TEM)トモグラフィーによる相分離構造の観察
染色剤として2wt%酢酸鉛水溶液中に複合電解質膜の試料片を浸漬させ、25℃下で48時間静置して染色処理を行った。染色処理された試料を取りだし、エポキシ樹脂で包埋し、可視光を30秒照射し固定した。ウルトラミクロトームを用いて室温下で薄片100nmを切削し、以下の条件に従って観察を実施した。
【0081】
装 置:電界放出型電子顕微鏡 (HRTEM) JEOL製 JEM2100F
画像取得:Digital Micrograph
システム:マーカー法
加速電圧 :200 kV
撮影倍率 :30,000 倍
傾斜角度 :+61°~-62°
再構成解像度:0.71 nm/pixel
3次元再構成処理は、マーカー法を適用した。3次元再構成を実施する際の位置合わせマーカーとして、コロジオン膜上に付与したAuコロイド粒子を用いた。マーカーを基準として、+61°から-62°の範囲で、試料を1°毎に傾斜しTEM像を撮影する連続傾斜像シリーズより取得した計124枚のTEM像を基にCT再構成処理を実施し、3次元相分離構造を観察した。
【0082】
(5)熱水試験による寸法変化率(λxy)測定
複合電解質膜を約5cm×約5cmの正方形に切り取り、温度23℃±5℃、湿度50%±5%の調温調湿雰囲気下に24時間静置後、ノギスでMD方向の長さとTD方向の長さ(MD1とTD1)を測定した。該電解質膜を80℃の熱水中に8時間浸漬後、再度ノギスでMD方向の長さとTD方向の長さ(MD2とTD2)を測定し、面方向におけるMD方向とTD方向の寸法変化率(λMDとλTD)および面方向の寸法変化率(λxy)(%)を下式より算出した。
【0083】
λMD=(MD2-MD1)/MD1×100
λTD=(TD2-TD1)/TD1×100
λxy=(λMD+λTD)/2
(6)複合電解質膜を使用した膜電極複合体(MEA)の作製
市販の電極、BASF社製燃料電池用ガス拡散電極“ELAT(登録商標)LT120ENSI”5g/mPtを5cm角にカットしたものを1対準備し、燃料極、空気極として複合電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、評価用MEAを得た。
【0084】
(7)プロトン伝導度
膜状の試料を25℃の純水に24時間浸漬した後、80℃、相対湿度25~95%の恒温恒湿槽中にそれぞれのステップで30分保持し、定電位交流インピーダンス法でプロトン伝導度を測定した。測定装置としては、Solartron社製電気化学測定システム(Solartron 1287 Electrochemical InterfaceおよびSolartron 1255B Frequency Response Analyzer)を使用し、2端子法で定電位インピーダンス測定を行い、プロトン伝導度を求めた。交流振幅は、50mVとした。サンプルは幅10mm、長さ50mmの膜を用いた。測定治具はフェノール樹脂で作製し、測定部分は開放させた。電極として、白金板(厚さ100μm、2枚)を使用した。電極は電極間距離10mm、サンプル膜の表側と裏側に、互いに平行にかつサンプル膜の長手方向に対して直交するように配置した。
【0085】
(8)乾湿サイクル耐久性
上記(6)で作製したMEAを英和(株)製JARI標準セル“Ex-1”(電極面積25cm)にセットし、セル温度80℃の状態で、両極に160%RHの窒素を2分間供給し、その後両電極に0%RHの窒素(露点-20℃以下)を2分間供給するサイクルを繰り返した。1000サイクルごとに水素透過量の測定を実施し、水素透過電流が初期電流の10倍を越えた時点を乾湿サイクル耐久性とした。
【0086】
水素透過量の測定は、一方の電極に燃料ガスとして水素、もう一方の電極に窒素を供給し、加湿条件:水素ガス90%RH、窒素ガス:90%RHで試験を行った。開回路電圧が0.2V以下になるまで保持し、0.2~0.7Vまで1mV/secで電圧を掃引し0.7Vにおける電流値を水素透過電流とした。
【0087】
なお、30000サイクルを超えても水素透過電流が初期電流の10倍を越えなかった場合は、30000サイクルで評価を打ち切った。
【0088】
(9)高分子多孔質基材に含まれるフッ素原子含有量測定
以下の条件に従い、試料を秤量し分析装置の燃焼管内で燃焼させ、発生したガスを溶液に吸収後、吸収液の一部をイオンクロマトグラフィーにより分析した。
<燃焼・吸収条件>
システム:AQF-2100H、GA-210(三菱化学製)
電気炉温度:Inlet 900℃、Outlet 1000℃
ガス:Ar/O 200mL/min、O 400mL/min
吸収液:H 0.1%、内標Br 8μg/mL
吸収液量:20mL
<イオンクロマトグラフィー・アニオン分析条件>
システム:ICS1600(DIONEX製)
移動相:2.7mmol/L NaCO/0.3mmol/LNaHCO
流速:1.50mL/min
検出器:電気伝導度検出器
注入量:20μL
(10)残存溶媒量分析
以下の条件に従い、約3cm×3cmに切り出した試料を秤量後、密閉容器内において加熱し、発生ガスのガスクロマトグラフィー/マススペクトル分析(GC/MS)により、残存溶媒量を測定した。
〔試料の加熱条件〕
加熱温度:150℃
加熱時間:30分
〔GC/MS測定条件〕
GC/MS装置:TurboMatrix Trap 40(PerkinElmer) + 6890/5973(Agilent)
カラム:TC-BOND S(30m×0.32mmID、膜厚10μm)(ジーエルサイエンス)
GCカラム温度:40℃(4min)→230℃(21min保持)、昇温10℃/min
キャリアガス:He(5psi)
検出器:MS電子イオン化(EI)
スキャン範囲:m/z 19~500
(11)複合電解質膜の断面SEM測定
下記条件に従い、断面SEM測定を行った。得られた画像から中央の白色領域を複合層、両隣の黒色領域を外部の別層としその厚みを測定した。また、得られた画像の白色領域に空孔が観察された場合、各空孔において最もサイズの大きい方向の長さを計測し空孔サイズとした。白色領域のうち0.01mmの範囲に存在する空孔のサイズ測定を行い、1um以上の空孔数を測定した。
装置:電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)S-4800(日立ハイテクノロジーズ製)
加速電圧:2.0kV
前処理:BIB法にて作製した断面試料にPt コートして測定した。
BIB法:アルゴンイオンビームを使用した断面試料作製装置。試料直上に遮蔽板を置き、その上からアルゴンのブロードイオンビームを照射してエッチングを行うことで観察面・分析面(断面)を作製する。
【0089】
(12)XPSによる多孔質基材の酸素含有量測定
予め5mm角の大きさに切断した多孔質基材を超純水でリンスし、室温、67Paにて10時間乾燥させた後、液体窒素で30分冷却し、凍結粉砕機にて5分間の処理を2回実施することにより、サンプルを準備した。準備したサンプルの組成を測定し、酸素原子含有量を算出した。測定装置、条件としては、以下の通りである。
測定装置:Quantera SXM
励起X線:monochromatic Al Kα1,2線(1486.6eV)
X線径:200μm
光電子脱出角度:45°
合成例1
(下記一般式(G1)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン(K-DHBP)の合成)
攪拌器、温度計及び留出管を備えた 500mlフラスコに、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp-トルエンスルホン酸一水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78~82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mlで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mlを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン52.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.9%の2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソランと0.1%の4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンであった。
【0090】
【化3】
【0091】
合成例2
(下記一般式(G2)で表されるジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩(NaCl)200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、上記一般式(G2)で示されるジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。
【0092】
【化4】
【0093】
合成例3
(下記一般式(G3)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、前記合成例1で得たK-DHBP25.8g(100mmol)および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン20.3g(アルドリッチ試薬、93mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中で160℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のメタノールに再沈殿精製を行い、イオン性基を含有しないオリゴマー(末端:ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は10000であった。
【0094】
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、イオン性基を含有しない前記オリゴマーa1(末端:ヒドロキシル基)を20.0g(2mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)100mL、トルエン30mL中で100℃で脱水後、昇温してトルエンを除去し、デカフルオロビフェニル4.0g(アルドリッチ試薬、12mmol)を入れ、105℃で1時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G3)で示されるイオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端:フルオロ基)を得た。数平均分子量は11000であった。
【0095】
【化5】
【0096】
合成例4
(下記一般式(G4)で表されるイオン性基を含有するオリゴマーa2の合成) かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム27.6g(アルドリッチ試薬、200mmol)、前記合成例1で得たK-DHBP12.9g(50mmol)および4,4’-ビフェノール9.3g(アルドリッチ試薬、50mmol)、前記合成例2で得たジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン39.3g(93mmol)、および18-クラウン-6、 17.9g(和光純薬82mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中で170℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G4)で示されるイオン性基を含有するオリゴマーa2(末端:ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は16000であった。
【0097】
【化6】
【0098】
(式(G4)において、Mは、H、NaまたはKを表す。)
合成例5
(下記式(G5)で表される3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの合成)
攪拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、クロロスルホン酸245g(2.1mol)を加え、続いて2,5-ジクロロベンゾフェノン105g(420mmol)を加え、100℃のオイルバスで8時間反応させた。所定時間後、反応液を砕氷1000gにゆっくりと注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、淡黄色の粗結晶3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸クロリドを得た。粗結晶は精製せず、そのまま次工程に用いた。
【0099】
2,2-ジメチル-1-プロパノール(ネオペンチルアルコール)41.1g(462mmol)をピリジン300mLに加え、約10℃に冷却した。ここに上記で得られた粗結晶を約30分かけて徐々に加えた。全量添加後、さらに30分撹拌し反応させた。反応後、反応液を塩酸水1000mL中に注ぎ、析出した固体を回収した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、粗結晶を得た。これをメタノールで再結晶し、前記構造式で表される3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの白色結晶を得た。
【0100】
【化7】
【0101】
合成例6
(下記一般式(G6)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーの合成)
撹拌機、温度計、冷却管、Dean-Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1lの三つ口のフラスコに、2,6-ジクロロベンゾニトリル49.4g(0.29mol)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン88.4g(0.26mol)、炭酸カリウム47.3g(0.34mol)をはかりとった。窒素置換後、スルホラン346ml、トルエン173mlを加えて攪拌した。フラスコをオイルバスにつけ、150℃に加熱還流させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean-Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を徐々に上げながら大部分のトルエンを除去した後、200℃で3時間反応を続けた。次に、2,6-ジクロロベンゾニトリル12.3g(0.072mol)を加え、さらに5時間反応した。
【0102】
得られた反応液を放冷後、トルエン100mlを加えて希釈した。副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を2lのメタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥後、テトラヒドロフラン250mlに溶解した。これをメタノール2lに再沈殿し、下記一般式(G6)で表される目的の化合物107gを得た。数平均分子量は11000であった。
【0103】
【化8】
【0104】
合成例7
(下記式(G8)で表されるセグメントと下記式(G9)で表されるセグメントからなるポリエーテルスルホン(PES)系ブロックコポリマー前駆体b2’の合成)
無水塩化ニッケル1.62gとジメチルスルホキシド15mLとを混合し、70℃に調整した。これに、2,2’-ビピリジル2.15gを加え、同温度で10分撹拌し、ニッケル含有溶液を調製した。
【0105】
ここに、2,5-ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2-ジメチルプロピル)1.49gと下記式(G7)で示される、スミカエクセルPES5200P(住友化学社製、Mn=40,000、Mw=94,000)0.50gとを、ジメチルスルホキシド5mLに溶解させて得られた溶液に、亜鉛粉末1.23gを加え、70℃に調整した。これに前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、70℃で4時間重合反応を行った。反応混合物をメタノール60mL中に加え、次いで、6mol/L塩酸60mLを加え1時間攪拌した。析出した固体を濾過により分離し、乾燥し、灰白色の下記式(G8)と下記式(G9)で表されるセグメントを含むブロックコポリマー前駆体b2’を1.62gを収率99%で得た。重量平均分子量は23万であった。
【0106】
【化9】
【0107】
[高分子電解質溶液A]イオン性基を含有するセグメントとして前記(G4)で表されるオリゴマー、イオン性基を含有しないセグメントとして前記(G3)で表されるオリゴマーを含有するブロック共重合体からなる高分子電解質溶液
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、4mmol)、合成例4で得られたイオン性基を含有するオリゴマーa2(末端:ヒドロキシル基)を16g(1mmol)入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中で100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、合成例3で得られたイオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端:フルオロ基)11g(1mmol)を入れ、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールへの再沈殿精製により、ブロック共重合体b1を得た。重量平均分子量は34万であった。
【0108】
得られたブロック共重合体を溶解させた5質量%N-メチルピロリドン(NMP)溶液を、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA-800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、1μmのポリプロピレン製フィルターを用いて加圧ろ過し、高分子電解質溶液Aを得た。高分子電解質溶液Aの粘度は1300mPa・sであった。
【0109】
[高分子電解質溶液B]下記一般式(G10)で表されるポリアリーレン系ブロック共重合体からなる高分子電解質溶液
乾燥したN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)540mlを、3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル135.0g(0.336mol)と、合成例6で合成した式(G6)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーを40.7g(5.6mmol)、2,5-ジクロロ-4’-(1-イミダゾリル)ベンゾフェノン6.71g(16.8mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド6.71g(10.3mmol)、トリフェニルホスフィン35.9g(0.137mol)、ヨウ化ナトリウム1.54g(10.3mmol)、亜鉛53.7g(0.821mol)の混合物中に窒素下で加えた。
【0110】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には79℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc730mlで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い、濾過した。
【0111】
前記濾液をエバポレーターで濃縮し、濾液に臭化リチウム43.8g(0.505mol)を加え、内温110℃で7時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、アセトン4lに注ぎ、凝固した。凝固物を濾集、風乾後、ミキサーで粉砕し、1N塩酸1500mlで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄後、80℃で一晩乾燥し、目的のポリアリーレン系ブロック共重合体23.0gを得た。この脱保護後のポリアリーレン系ブロック共重合体の重量平均分子量は、19万であった。得られたポリアリーレン系ブロック共重合体を、0.1g/gとなるように、N-メチルー2-ピロリドン/メタノール=30/70(質量%)有機溶媒に溶解して高分子電解質溶液Bを得た。高分子電解質溶液Bの粘度は1200mPa・sであった。
【0112】
【化10】
【0113】
[高分子電解質溶液C]ランダム共重合体からなる高分子電解質溶液C
撹拌機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた5Lの反応容器に、合成例1で合成した2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン129g、4,4’-ビフェノール93g(アルドリッチ試薬)、および合成例2で合成したジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン422g(1.0mol)を入れ、窒素置換後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)3000g、トルエン450g、18-クラウン-6 232g(和光純薬試薬)を加え、モノマーが全て溶解したことを確認後、炭酸カリウム304g(アルドリッチ試薬)を加え、環流しながら160℃で脱水後、昇温してトルエン除去し、200℃で1時間脱塩重縮合を行った。重量平均分子量は32万であった。
【0114】
次に重合原液の粘度が500mPa・sになるようにNMPを添加して希釈し、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA-800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、ポリマー濃度が20質量%になるまでNMPを除去し、さらに5μmのポリエチレン製フィルターで加圧濾過して高分子電解質溶液Cを得た。高分子電解質溶液Cの粘度は1000mPa・sであった。
【0115】
[高分子電解質溶液D]ポリエーテルスルホン系ブロック共重合体からなる高分子電解質溶液D
合成例7で得られたブロックコポリマー前駆体b2’ 0.23gを、臭化リチウム一水和物0.16gとNMP8mLとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。反応混合物を、6mol/L塩酸80mL中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥し、灰白色の前記式(G8)で示されるセグメントと下記式(G11)で表されるセグメントからなるブロックコポリマーb2を得た。得られたポリエーテルスルホン系ブロック共重合体の重量平均分子量は19万であった。得られたポリエーテルスルホン系ブロック共重合体を、0.1g/gとなるように、N-メチル-2-ピロリドン/メタノール=30/70(質量%)有機溶媒に溶解して高分子電解質溶液Dを得た。高分子電解質溶液Dの粘度は1300mPa・sであった。
【0116】
【化11】
【0117】
[ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質基材A]
ポアフロンHP-045-30(住友電工ファインポリマー株式会社製)を縦横方向に3倍延伸することにより、膜厚8μm、空隙率89%のPTFE多孔質フィルムAを作製した。
【0118】
[親水化ポリテトラフルオロエチレン(親水化PTFE)多孔質基材A’]
露点-80℃のグローブボックス内において、PTFE多孔質基材Aを金属ナトリウム-ナフタレン錯体/テトラヒドロフラン(THF)1%溶液30g、THF70gからなる溶液に浸漬し、3秒経過後に引き上げ、すぐにTHFで十分洗浄し、膜厚8μm、空隙率88%の親水化PTFE多孔質基材A’を作製した。
【0119】
[テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン(FEP)共重合体多孔質基材B]
FEP樹脂(フロン工業株式会社製)75質量部と、無機充填剤としてシリカ微粒子(信越シリコーン社製、QSG-30、1次粒子平均粒子径30nm)15質量部を粉体混合機により充分混合した。
【0120】
この混合物を、二軸押出機(東芝機械社製、TEM-35)を用い、300℃で混練したのち、直径2.5mmのストランドを押出し、これを長さ2.5mmで切断してペレットを得た。
【0121】
このペレットを口径40mmの単軸押出機(池貝社製、VS40)に供給し、700mmの口金幅を有するフラットダイを用い、ダイス温度333℃、押出速度4.3kg/時間で押し出した。当該吐出物を、表面温度が130℃になるように調整したロールに沿わせて4.8m/分の速度で引き取ることによりETFEフィルムを得た。
【0122】
得られたフィルムを縦横方向に4倍延伸することにより、膜厚8μm、空隙率90%のFEP共重合体多孔質基材Bを作製した。
【0123】
[ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)多孔質基材C]
デュラポアメンブレン(メルクミリポア社製、疎水性、孔径0.45μm、直径293mm、白色、無地)を縦横方向に3倍延伸することにより、膜厚8μm、空隙率88%のPVDE多孔質基材Cを作製した。
【0124】
[エチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体多孔質基材D]
FEP樹脂(フロン工業株式会社製)の代わりに、ETFE樹脂(アルドリッチ社製)を用いた以外は、FEP多孔質基材Bと同様にして、膜厚8μm、空隙率89%のETFE共重合体多孔質基材Dを作製した。
【0125】
[実施例1-1]
高分子電解質溶液Aにフッ素系溶媒として1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)を添加し、フッ素系溶媒の濃度が23質量%の高分子電解質溶液A1を調製した。
【0126】
ナイフコーターを用い、高分子電解質溶液A1をガラス基板上に流延塗布し、PTFE多孔質基材Aを貼り合わせた。室温にて1時間保持し、PTFE多孔質基材Aに高分子電解質溶液A1を十分含浸させた後、100℃にて4時間乾燥した。乾燥後の膜の上面に、再度高分子電解質溶液A1を流延塗布し、室温にて1時間保持した後、100℃にて4時間乾燥し、フィルム状の重合体を得た。10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、複合電解質膜(膜厚11μm)を得た。
【0127】
図1は、実施例1で得られた複合電解質膜の断面SEM写真である。本実施形態においては、複合層1の両側に補強材と複合化されていない高分子電解質層2が形成されている。
【0128】
[実施例1-2]
HFIPの含有量を17質量%とした以外は、実施例1-1と同様にして複合電解質膜(膜厚11μm)を得た。
【0129】
[実施例1-3]
フッ素系溶媒として、HFIPの代わりに2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール(PFPOH)を使用した以外は実施例1-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0130】
[実施例1-4]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Bを使用した以外は実施例1-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0131】
[実施例1-5]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Cを使用した以外は実施例1-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0132】
[実施例1-6]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Dを使用した以外は実施例1-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0133】
[実施例1-7]
PTFE多孔質基材Aの代わりにFEP多孔質基材Bを使用した以外は、実施例1-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0134】
[実施例1-8]
PTFE多孔質基材Aの代わりにPVDF多孔質基材Cを使用した以外は、実施例1-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0135】
[実施例1-9]
PTFE多孔質基材Aの代わりにETFE共重合体多孔質基材Dを使用した以外は、実施例1-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0136】
[実施例1-10]
フッ素系溶媒として、HFIPの代わりに2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロ-1-ブタノール(HFBOH)を使用した以外は実施例1-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0137】
[比較例1-1]
HFIPの代わりに同量のNMPを添加して、高分子電解質溶液を調製した以外は実施例1-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液がPTFE多孔質基材Aに浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0138】
[比較例1-2]
HFIPではなくメタノールを添加して、メタノールの含有量が23質量%の高分子電解質溶液を調製した以外は、実施例1-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液がPTFE多孔質基材Aに浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0139】
[比較例1-3]
HFIPではなく1-プロパノールを添加して、1-プロパノールの含有量が23質量%の高分子電解質溶液を調製した以外は、実施例1-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液がPTFE多孔質基材Aに浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0140】
[比較例1-4]
HFIPの代わりに同量のN-メチル-2-ピロリドン/メタノール=30/70(質量%)有機溶媒を添加して高分子電解質溶液を調製した以外は実施例1-4と同様にして複合電解質膜(膜厚13μm)を得た。
【0141】
[比較例1-5]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Cを使用した以外は、比較例1-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液がPTFE多孔質基材Aに浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0142】
[比較例1-6]
高分子電解質溶液Aの代わりに高分子電解質溶液Dを使用した以外は、比較例1-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液がPTFE多孔質基材Aに浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0143】
[比較例1-7]
PTFE多孔質基材Aの代わりに親水化PTFE多孔質基材A’を使用した以外は、比較例1-1と同様にして複合電解質膜(膜厚13μm)を得た。
【0144】
[実施例2-1]
ナイフコーターを用い、フッ素系溶媒としてHFIPをガラス基板上に流延塗布し、PTFE多孔質基材Aを貼り付けた。目視にてHFIPがPTFE多孔質基材Aに含侵したことを確認後、さらに高分子電解質溶液Aを流延塗布した。この際HFIPの塗工量が高分子電解質溶液Aの20体積%となるようにナイフコーターのクリアランスを調整した。室温にて1時間保持し、PTFE多孔質基材Aに高分子電解質溶液Aを十分含浸させた後、100℃にて4時間乾燥した。乾燥後の膜の上面に、再度高分子電解質溶液A1を流延塗布し、室温にて1時間保持した後、100℃にて4時間乾燥し、フィルム状の重合体を得た。10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、複合電解質膜(膜厚11μm)を得た。
【0145】
[実施例2-2]
HFIPの塗工量を12体積%とした以外は、実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚11μm)を得た。
【0146】
[実施例2-3]
フッ素系溶媒として、HFIPの代わりにPFPOHを使用した以外は実施例2-1と同様にして複合電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0147】
[比較例2-1]
HFIPの代わりに同量のNMPを用いた以外は実施例2-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液AがPTFE多孔質基材Aに浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0148】
[比較例2-2]
HFIPの代わりに同量のメタノールを用いた以外は実施例2-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液AがPTFE多孔質基材Aに浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0149】
[比較例2-3]
HFIPの代わりに同量の1-プロパノールを用いた以外は実施例2-1と同様にして複合電解質膜の作製を試みたが、高分子電解質溶液AがPTFE多孔質基材Aに浸透せず複合電解質膜を得ることができなかった。
【0150】
各実施例、比較例で製造した複合電解質膜について、平均空孔数(11)IEC(2)、膜厚(11)、複合層の厚み(11)、複合層中の高分子電解質の充填率(3)、フッ素系溶媒の残存量(10)、寸法変化率λxy(5)、プロトン電導度(7)、および乾湿サイクル耐久性(8)を評価した。また複合電解質膜を構成する炭化水素系高分子電解質について、相分離構造の有無(4)を評価し、含フッ素高分子多孔質基材について、フッ素原子含有量(9)、酸素原子含有量(12)を評価した。これらの評価結果を表1および表2に示す。また、代表例として実施例1で製造した複合電解質膜の断面SEM画像を図1に示す。図1において黒四角で囲った白色部位が複合層である。
【0151】
【表1】
【0152】
【表2】
【符号の説明】
【0153】
1:複合層
2:補強材と複合化されていない高分子電解質層
図1