(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】筒状構造体、該筒状構造体の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B21J 5/06 20060101AFI20221206BHJP
B21J 13/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B21J5/06 D
B21J13/02 C
B21J13/02 K
(21)【出願番号】P 2019065073
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】木寅 孝次
(72)【発明者】
【氏名】須釜 淳史
(72)【発明者】
【氏名】乘田 克哉
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-085890(JP,A)
【文献】特開2006-007260(JP,A)
【文献】特公昭60-005382(JP,B2)
【文献】特開平07-009064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 5/06
B21J 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状素材から前後方押出し鍛造により円筒部と該円筒部の内部を仕切る仕切板部とを有する筒状構造体を製造する製造方法であって、
前記円柱状素材の外径と少なくとも同じ大きさの内径の円環形状を有する側方型の内側に、前記円柱状素材の外径よりも小さい所定の直径を有する円柱形状の上型及び下型を設置し、前記上型と前記下型との間に前記円柱状素材を配置して、
前記上型の加工方向の速度を所定の速度V1とし、前記側方型の加工方向に沿った移動速度をV2とし、前記下型の加工方向の速度を所定の速度V3とし、前記仕切板部の板厚中心から前記筒状構造体の上端までの所望の長さをH1及び下端までの所望の長さをH2とする場合に、前記上型と前記下型とを相対的に近づけるように移動させて前記円柱状素材を押圧すると共に、前記側方型を下記の数式(1)で表されるV2の速度で移動させる製造方法。
【数1】
但し、V1及びV3は下方向を正とし、V2は上方向を正とし、H10及びH20はV2=0で加工した場合のそれぞれのH1及びH2の実測値と
し、H1=H2である場合を除く。
【請求項2】
前記数式(1)において、-0.55≦V2/(V1+V3)≦-0.45となるように、V2の速度を設定する請求項1に記載の製造方法。
但し、V1=-V3の場合は、V2=0とする。
【請求項3】
前記数式(1)において、V3=0とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
円柱状素材から前後方押出し鍛造により円筒部と該円筒部の内部を仕切る仕切板部とを有する筒状構造体を製造するための製造装置であって、
前記円柱状素材の外径と少なくとも同じ大きさの内径の円環形状を有し、加工方向に沿って移動可能な側方型と、
前記側方型の内側に設置され、前記円柱状素材の外径よりも小さい所定の直径を有する円柱形状の上型及び下型と、を備え、
前記上型の加工方向の速度を所定の速度V1とし、前記側方型の加工方向に沿った移動速度をV2とし、前記下型の加工方向の速度を所定の速度V3とし、前記仕切板部の板厚中心から前記筒状構造体の上端までの所望の長さをH1及び下端までの所望の長さをH2とする場合に、前記上型と前記下型とを相対的に近づけるように移動させ、前記側方型を下記の数式(1)で表されるV2の速度で移動させるよう制御する製造装置。
【数2】
但し、V1及びV3は下方向を正、V2は上方向を正、H10及びH20はV2=0で加工した場合のそれぞれのH1及びH2の実測値と
し、H1=H2である場合を除く。
【請求項5】
前記数式(1)において、-0.55≦V2/(V1+V3)≦-0.45となるように、V2の速度を設定する請求項4に記載の製造装置。
但し、V1=-V3の場合は、V2=0とする。
【請求項6】
前記数式(1)において、V3=0とする請求項4又は5に記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後方押出し鍛造による筒状構造体の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、断面の形状がH型の筒状構造体は、機械設備、自動車、化学プラントのスペーサ部品や軸受スリーブ、歯車などに使用され、その多くは丸棒材の切削により製造されている。
丸棒の切削により筒状構造体を製造すると、材料歩留まりが低く、生産タクトも著しく低い。そのため、近年では、板材をプレス装置で押圧して、最終製品に近い形状であるニアネットシェイプ形状まで成形し、その後切削加工を施して最終の製品形状とすることが多くなっている。
【0003】
このようなニアネットシェイプ形状の筒状構造体を製造する方法の一つとして、円柱状の素材を前後方に分流させて押し出す前後方押出し鍛造が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の前後方押出し鍛造で、仕切板部を有する筒状構造体を製造する場合、前方向及び後方向にそれぞれ流れる素材の先端は、金型で拘束されておらず自由端となるため、押し出す長さを制御することが難しい。そのため、所望の形状を得ることが難しく、鍛造後の切削工程において切削量が多くなってしまう。
【0006】
従って、本発明は、仕切板部を有する筒状構造体を前後方押出し鍛造により製造する場合に、任意の場所に仕切板部を形成可能な製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、円柱状素材から前後方押出し鍛造により円筒部と該円筒部の内部を仕切る仕切板部とを有する筒状構造体を製造する製造方法であって、前記円柱状素材の外径と少なくとも同じ大きさの内径の円環形状を有する側方型の内側に、前記円柱状素材の外径よりも小さい所定の直径を有する円柱形状の上型及び下型を設置し、前記上型と前記下型との間に前記円柱状素材を配置して、前記上型の加工方向の速度を所定の速度V1とし、前記側方型の加工方向に沿った移動速度をV2とし、前記下型の加工方向の速度を所定の速度V3とし、前記仕切板部の板厚中心から前記筒状構造体の上端までの所望の長さをH1及び下端までの所望の長さをH2とする場合に、前記上型と前記下型とを相対的に近づけるように移動させて前記円柱状素材を押圧すると共に、前記側方型を下記の数式(1)で表されるV2の速度で移動させる製造方法に関する。
【数1】
但し、V1及びV3は下方向を正とし、V2は上方向を正とし、H1
0及びH2
0はV2=0で加工した場合のそれぞれのH1及びH2の実測値とする。
【0008】
また、前記数式(1)において、-0.55≦V2/(V1+V3)≦-0.45となるように、V2の速度を設定することが好ましい。
【0009】
また、前記数式(1)において、V3=0とすることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、円柱状素材から前後方押出し鍛造により円筒部と該円筒部の内部を仕切る仕切板部とを有する筒状構造体を製造するための製造装置であって、前記円柱状素材の外径と少なくとも同じ大きさの内径の円環形状を有し、加工方向に沿って移動可能な側方型と、前記側方型の内側に設置され、前記円柱状素材の外径よりも小さい所定の直径を有する円柱形状の上型及び下型と、を備え、前記上型の加工方向の速度を所定の速度V1とし、前記側方型の加工方向に沿った移動速度をV2とし、前記下型の加工方向の速度を所定の速度V3とし、前記仕切板部の板厚中心から前記筒状構造体の上端までの所望の長さをH1及び下端までの所望の長さをH2とする場合に、前記上型と前記下型とを相対的に近づけるように移動させ、前記側方型を下記の数式(1)で表されるV2の速度で移動させるよう制御する製造装置に関する。
【数2】
但し、V1及びV3は下方向を正、V2は上方向を正、H1
0及びH2
0はV2=0で加工した場合のそれぞれのH1及びH2の実測値とする。
【0011】
また、本発明は、前記製造方法により製造される円筒部と該円筒部の内部を仕切る仕切板部とを有する筒状構造体であって、前記筒状構造体の鍛流線は、前記仕切板部においては、径方向に沿うように形成されており、前記円筒部においては、前記仕切板部から続いて内側面から上端面又は下端面に沿って外側面に達するように形成されており、該外側面における鍛流線の方向は、大部分が径方向に沿っている筒状構造体に関する。
【0012】
また、本発明は、-0.55≦V2/(V1+V3)≦-0.45にV2の速度を設定した前記製造方法により製造される円筒部と該円筒部の内部を仕切る仕切板部とを有する筒状構造体であって、前記筒状構造体の鍛流線は、前記仕切板部においては、径方向に沿うように形成されており、前記円筒部においては、前記仕切板部の板厚の中心面について上下略対称に形成されている筒状構造体に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前後方押出し鍛造の際にコンテナの移動速度を所定の条件で制御することにより、任意の場所に仕切板部が設けられた筒状構造体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る製造方法の説明図である。
【
図2】本発明の製造方法により得られる筒状構造体の説明図である。
【
図3】ダイを固定する場合の上下対称の筒状構造体を得る方法の説明図である。
【
図4】ダイを固定しない場合の上下対称の筒状構造体を得る方法の説明図である。
【
図5】筒状構造体の形状とコンテナ速度との関係を示す対数グラフである。
【
図6】コンテナ速度の条件式の係数を算出するための方法についての説明図である。
【
図7】上下対称の筒状構造体が得られる製造方法の説明図である。
【
図8】上下対称の筒状構造体の鍛流線の形状について説明するための模式図である。
【
図9】実施例1で得られた筒状構造体の断面形状及び鍛流線の観察結果を示す。
【
図10】上下対称の筒状構造体の用途の一例について示す。
【
図11】変形強度の測定を行うための試験片の切り出し形状について説明するための図である。
【
図12】変形強度の試験方法について説明するための模式図である。
【
図13】強度試験(1)の結果を示すグラフである。
【
図14】強度試験(2)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の筒状構造体の製造方法及び製造装置の好ましい実施形態について、
図1~
図8を参照しながら説明する。
【0016】
<実施形態>
図1は、本実施形態に係る製造方法を説明するための製造装置1の断面模式図であり、
図2は、本実施形態の製造方法で得られる筒状構造体の説明図である。
【0017】
図1に示すように、製造装置1は、上型としてのパンチ10と、側方型としてのコンテナ20と、下型としてのダイ30と、で構成されており、パンチ10及びダイ30は、コンテナ20の内側にそれぞれの中心軸が一致するように配置される。
【0018】
パンチ10は、被加工体である円柱状素材40Aの外径よりも小さい所定の直径の円柱形状を有し、上下に移動可能である。
【0019】
コンテナ20は、円柱状素材40Aの外径と一致する内径の円環形状を有し、加工方向について上下に移動可能である。なお、コンテナ20の内径は、円柱状素材40Aの外径よりもやや大きくてもよいが、加工開始から加工終了まで円柱状素材40Aの側面を拘束し続けることができる点で、円柱状素材40Aの外径と一致することが好ましい。
【0020】
ダイ30は、円柱状素材40Aの外径よりも小さい所定の直径の円柱形状を有し、上下に移動可能である。本実施形態では、内径が一定の筒状構造体を製造するため、ダイ30の直径は、パンチ10と一致するように構成される。
【0021】
円柱状素材40Aの原素材としては、特殊鋼やステンレス鋼の鋼板や、丸棒材を切断して据込んで円盤状にしたもの等を用いることができる。
【0022】
本実施形態の製造方法では、円柱状素材40Aをパンチ10とダイ30との間に配置し、パンチ10を所定の速度V1(下方向を正とする)で、ダイ30を所定の速度V3(下方向を正とする)で、相対的に近づけるように移動させて円柱状素材40Aを押圧すると共に、コンテナ20を速度V2(上方向を正とする)で移動させて加工を行い、所望の形状の筒状構造体40Bを得る。コンテナ速度V2は、後に説明する条件式に基づいて設定される。
【0023】
図2を参照して、筒状構造体40Bの形状について説明する。
筒状構造体40Bは、円筒部41と円筒部41の内部を仕切る仕切板部42とを備える(
図2(a)参照)。その断面形状はH型となり、仕切板部42の板厚中心から筒状構造体の上端までの長さをH1とし、下端までの長さをH2とする(
図2(b)参照)。
筒状構造体40Bの高さ(H1+H2)は、本発明の製造方法によれば、所望のH1、H2を設定して仕切板部42を任意の場所に形成した筒状構造体40Bを得ることができる。
【0024】
まず、円柱状素材40Aにプレス加工を施して、板厚の中心で上下軸対称な断面形状がH型の筒状構造体40B、即ち、H1=H2となる筒状構造体40Bを得る方法について
図3及び
図4を参照して説明する。
【0025】
ダイ30が固定される場合について、
図3を用いて説明する。プレス加工前の円柱状素材40Aの板厚をt
0(
図3(a)参照)とし、プレス加工後の板厚をt(
図3(b)参照)とする。
図3に示すように、円柱状素材40Aの板厚方向(上向き)の座標をXとし、プレス加工前にパンチ10及びダイ30で挟まれた状態の円柱状素材40Aの底部をX座標の原点としプレス加工前後について板厚中心の座標の遷移について考える。
プレス加工前の円柱状素材40Aの板厚中心の座標は、X=t
0/2と表せる。パンチ10の移動量をX1とし、ダイ30は固定したとすると、プレス加工後の仕切板部42の板厚tは、t=t
0-X1となり、仕切板部42の板厚中心の座標は、X=t/2=(t
0-X1)/2となる。
【0026】
プレス加工後の筒状構造体40Bが上下対称になるためには、円筒部41のX方向の中心座標が仕切板部42の板厚中心の座標と一致するように、仕切板部42の板厚の中心線を一直線に保ったまま、筒状構造体40Bに加工する必要がある。
そのために、円筒部41となる部位のX方向の中心線が円柱状素材40Aの板厚の中心線に追随できるように、コンテナ20を移動量X2で補正することを考える。
コンテナ20をX2の移動量で移動させた場合の円筒部41のX方向の中心線の座標は、X=t0/2+X2となり、これが仕切板部42の板厚中心の座標であるX=(t0-X1)/2と一致すればよい。これより、X2=-(1/2)X1が得られ、移動量X1及びX2を移動速度V1=X1/s、V2=X2/s(s:プレスにかかる時間)に変換すると、V2/V1=-0.5の関係式1が得られる。
つまり、V2/V1=-0.5の関係式1を満たせば、摩擦係数やV1、V2の大きさや円柱状素材40Aの材料による影響を受けずに、板厚中心で上下対称のH型の筒状構造体40Bを得ることができる。
【0027】
次に、ダイ30が固定されずに移動速度V3で移動する場合について
図4を用いて説明する。プレス加工前の円柱状素材40Aの板厚をt
0(
図4(a)参照)とし、プレス加工後の板厚をt(
図4(b)参照)とする。
図4に示すように、円柱状素材40Aの板厚方向(上向き)の座標をXとし、プレス加工前にパンチ10及びダイ30で挟まれた状態の円柱状素材40Aの底部をX座標の原点としプレス加工前後について板厚中心の座標の遷移について考える。
プレス加工前の円柱状素材40Aの板厚中心の座標は、X=t
0/2と表せる。パンチ10の移動量をX1とし、ダイ30の移動量をX3とすると、プレス加工後の仕切板部42の板厚中心の座標は、プレス加工後の板厚tの1/2にX3の移動によるずれ量を加え、X=t/2+X3と表せる。プレス加工後の仕切板部42の板厚tは、t=t
0-X1+X3となり、仕切板部42の板厚中心の座標は、X=t/2+X3=(t
0-X1+X3)/2+X3となる。
【0028】
コンテナ20をX2で移動させた場合の円筒部41のX方向の中心線の座標は、X=t0/2+X2となり、これが仕切板部42の板厚中心の座標であるX=(t0-X1+X3)/2+X3と一致すればよい。これより、X2=-(X1+X3)/2が得られ、移動量X1、X2及びX3を移動速度V1=X1/s、V2=X2/s、V3=X3/s(s:プレスにかかる時間)に変換すると、V2/(V1+V3)=-0.5の関係式2が得られる。
つまり、V2/(V1+V3)=-0.5の関係式2を満たせば、摩擦係数やV1、V2、V3の大きさや円柱状素材40Aの材料による影響を受けずに、板厚中心で上下対称のH型の筒状構造体40Bを得ることができる。
【0029】
次に、所望のH1、H2を設定して仕切板部42を任意の場所に形成した筒状構造体40Bを得る方法について説明する。コンテナ速度V2を設定するための条件式を求めるために、所定のパンチ速度V1及び所定のダイ速度V3で、コンテナ速度V2を変えた場合の筒状構造体40Bの形状について、シミュレーションした結果を表1に示す。
パンチ速度V1=3で一定とし、ダイ30は固定し(V3=0)、コンテナ速度V2を-33≦V2≦30とした。また、パンチ及びダイの直径は17mm、パンチ及びダイの角部の曲率半径は0.3mm、コンテナの内径は24mm、円柱状素材40Aの直径は24mm、板厚は4.2mmとし、円柱状素材40Aを加工後の筒状構造体40Bの仕切板部42の板厚が1.2mmとなるような条件でシミュレーションを行った。
【0030】
【0031】
図5に示すように、コンテナ速度V2を変えることで、様々な形状に成形できることが示された。
【0032】
コンテナ速度V2を設定するための条件式を求めるため、表1のV2/(V1+V3)とH2/H1との相関関係を
図5の対数グラフに示した。なお、表には示さないが、
図5にはパンチ速度V1=2、ダイ速度V3=-1でシミュレーションした結果も示した。
【0033】
図5のグラフによれば、V2/(V1+V3)=-0.5のときH2/H1=1の点を通る所定の傾きaと所定の切片bをもった直線になっていることが見て取れる。
以下、V2/(V1+V3)とH2/H1との関係式を求め、その関係式からV2の条件式を求める。
V2/(V1+V3)をxとし、H2/H1をyとして、次の数式(2)の傾きaと切片bとを求める。
logy=ax+b・・・(2)
尚、
図5に示すグラフから、数式(2)が成り立つH2/H1の範囲は、おおよそ1/7≦H2/H1≦7であることが見て取れる。
ここで数式(2)のa、bを考えると、x=0、つまり、
図6に示すようにコンテナ速度V2=0(コンテナ20を動かさない場合)として、プレス加工した場合のH1、H2の値をそれぞれH1
0、H2
0とすると、数式(2)よりb=logH2
0/H1
0となる。また、前述より、x=V2/(V1+V3)=-0.5のとき、y=H2/H1=1となるので、これを数式(2)に代入すると、a=2bとなる。これらより、a=2logH2
0/H1
0と表せる。
数式(2)のa、bはH2
0、H1
0で表せるので、コンテナ20を動かさない場合のH1、H2を測定することで、V2/(V1+V3)とH2/H1との関係式を求めることができる。
【0034】
V2の条件式を求めるため、数式(2)に、x=V2/(V1+V3)、y=H2/H1、a=2logH2
0/H1
0、b=logH2
0/H1
0を代入して、V2について整理すると、次の数式(1)が得られる。
【数3】
但し、1/7≦H2/H1≦7。
【0035】
以上より、所定のパンチ速度V1、所定のダイ速度V3において、所望のH1、H2の筒状構造体40Bを得るには、数式(1)からコンテナ速度V2を算出すればよい。
例えば、表1のV1=3、V3=0の条件において、V2=0の時、H2/H1=H20/H10=0.74となるので、H2/H1=2となるコンテナ速度V2は、数式(1)から、V2=-4.95と算出することができる。つまり、プレス加工時にコンテナ20を下方に4.95の速さで移動させれば、H2/H1が略2となる筒状構造体40Bを得ることができる。
【0036】
また、数式(1)によれば、筒状構造体40Bを仕切板部42の板厚中心面で上下対称の構造となるようにしたい場合、即ち、H1=H2としたい場合には、V2=-1/2(V1+V3)と設定すればよく、これは、
図4で説明し前述の関係式2と一致する。V2/(V1+V3)=-0.5を中心に-0.55≦V2/(V1+V3)≦-0.45となるようにV2を設定すると、略上下対称形状の筒状構造体40Bが得られる。特に、
図7に示すように、ダイ30を固定する場合(V3=0)には、V2=-1/2V1と設定すればよく、これは、
図3で説明し前述の関係式1と一致する。プレス加工時にコンテナ20を下方に1/2V1の速さで移動させれば、上下対称形状の筒状構造体40Bを得ることができる。
【0037】
以上の説明においては、ダイ30を固定する場合について示したが、これに限らない。ダイ30を固定することで片押しのプレス装置を用いて加工を行うことができ、パンチ10もダイ30も両方駆動する両押しのプレス装置に比べて、簡易な設備でプレス加工を行うことができる。
【0038】
次に、発明の製造方法により製造される筒状構造体40Bに形成される鍛流線を示した模式断面図である
図8を参照して、鍛流線の形状について説明する。
図8(a)は、筒状構造体40Bが仕切板部42の板厚中心面で上下非対称の構造(H1≠H2)となる場合を示し、
図8(b)は、筒状構造体40Bが仕切板部42の板厚中心面で上下対称の構造となる場合(H1=H2)を示す。
【0039】
円柱状素材40Aとして圧延により製造された鋼材製の丸棒や鋼板を用いて、本発明の製造方法で筒状構造体40Bを鍛造した場合、
図8(a)及び(b)に示すように、鍛流線MFは互いに交差せず、途切れることなく、筒状構造体の形状に沿って形成される。更に詳しく説明すると、鍛流線MFは、仕切板部42においては、板厚方向に略垂直な方向、即ち径方向に沿うように形成され、円筒部41においては、仕切板部42から続いて内側面から上端面又は下端面に沿って外側面に達するように形成される。外側面における鍛流線MFの方向は、大部分が径方向に沿うように形成される。従って、筒状構造体40Bの機械的特性を向上させることができる。
【0040】
また、
図8(b)に示すように、筒状構造体40Bが上下対称の形状を備える場合は、円筒部41において鍛流線MFも仕切板部42の板厚の中心面について上下略対称に形成される。また、その中心線上には円柱状素材40Aを得るために鋼材製の丸棒や鋼板を圧延する際に集積した異物質が含まれている。その集積した異物質は、中心線上の鍛流線と同じ経路を辿っているので、鍛流線の代替となる。従って、形状が上下略対称かつ歪の分布も上下略対称であり、強度も上下略対称と考えられるので、後の工程で切削加工を施す場合に、上下の区別なく同じ切削荷重で切削加工を行える。また、後の工程で焼入れ等の熱処理をする場合に、歪の分布が上下略対称なので、反りの発生を低減することができる。
【0041】
以上説明したように、本発明の製造方法により製造した筒状構造体40Bにおける鍛流線の形状は、従来技術を用いて製造した丸棒状又はパイプ状のものを用いた加工品や板材から切削工法での加工品における鍛流線の形状とは明らかに異なる。そのため、断面の鍛流線を電解エッチングにより可視化して鍛流線を観察することで、従来技術により製造されたものか、本発明により製造されたものが容易に区別するこが可能である。
【0042】
以上説明した本実施形態の筒状構造体40Bの製造方法及び製造装置1によれば、以下のような効果を奏する。
【0043】
(1)円柱状素材40Aから前後方押出し鍛造により円筒部41と円筒部41の内部を仕切る仕切板部42とを有する筒状構造体40Bを、円柱状素材40Aの外径と少なくとも同じ大きさの内径の円環形状を有する側方型20の内側に、円柱状素材40Aの外径よりも小さい所定の直径を有する円柱形状の上型10及び下型30を設置し、上型10と下型30との間に円柱状素材40Aを配置して、上型10の加工方向の速度を所定の速度V1とし、側方型20の加工方向に沿った移動速度をV2とし、下型30の加工方向の速度を所定の速度V3とし、仕切板部42の板厚中心から筒状構造体40Bの上端までの所望の長さをH1及び下端までの所望の長さをH2とする場合に、上型10と下型30とを相対的に近づけるように移動させて円柱状素材40Aを押圧すると共に、側方型20を下記の数式(1)で表されるV2の速度で移動させて製造するものとした。
【数4】
但し、V1及びV3は下方向を正とし、V2は上方向を正とし、H1
0及びH2
0はV2=0で加工した場合のそれぞれのH1及びH2の実測値とする。
これにより、円筒部41の任意の場所に仕切板部42を設けることができるので、ニアネットシェイプ加工を行うことができ、また、後の工程で切削加工が必要な場合でも、切削量を削減することができる。
【0044】
(2)数式(1)において、-0.55≦V2/(V1+V3)≦-0.45となるように、V2の速度を設定するものとした。これにより、形状が上下略対称かつ歪の分布も上下略対称であり、強度も上下略対称と考えられるので、後の工程で切削加工を施す場合に、上下の区別なく同じ切削荷重で切削加工を行える。また、後の工程で焼入れ等の熱処理をする場合に、歪の分布が上下略対称なので、反りの発生を低減することができる。
【0045】
(3)数式(1)において、V3=0とするものとした。これにより、ダイ30が固定された片押しのプレス装置を用いて加工を行うことができ、パンチ10もダイ30も両方駆動する両押しのプレス装置に比べて、簡易な設備でプレス加工を行うことができる。
【0046】
(4)上述の数式(1)に記載の条件でV2した製造方法により製造される筒状構造体40Bは、円筒部41と円筒部41の内部を仕切る仕切板部42とを有し、筒状構造体40Bの鍛流線MFは、仕切板部42においては、径方向に沿うように形成されており、円筒部41においては、仕切板部42から続いて内側面から上端面又は下端面に沿って外側面に達するように形成されており、外側面における鍛流線MFの方向は、大部分が径方向に沿っているものとした。これにより、鍛流線MFが内部で交差せず、また、途切れることなく、筒状構造体40Bの形状に沿って形成されているので、従来の方法で製造されたもの比べて、機械的特性を向上させることができる。
【0047】
(5)上述の数式(1)、かつ、-0.55≦V2/(V1+V3)≦-0.45の条件でV2した製造方法により製造される筒状構造体40Bは筒状構造体40Bの鍛流線MFは、仕切板部42においては、径方向に沿うように形成されており、円筒部41においては、仕切板部42の板厚の中心面について上下略対称に形成されているものとした。これにより、筒状構造体40Bの形状が上下略対称かつ歪の分布も上下略対称であり、強度も上下略対称と考えられるので、後の工程で切削加工を施す場合に、上下の区別なく同じ切削荷重で切削加工を行える。また、後の工程で焼入れ等の熱処理をする場合に、歪の分布が上下対称なので、反りの発生を低減することができる。
【実施例】
【0048】
以下に、
図9~
図14を参照して、本発明の製造方法で筒状構造体40Bを製造した実施例について説明する。
【0049】
<加工条件>
直径が24mm、板厚が4.2mmのS45C(機械構造用炭素鋼)の円柱状素材40Aを供試材とし、プレス装置として、4000kNメカプレス(油圧ユニット、理研機器株式会社)を用いた。
直径17mmのダイ30を固定してダイ速度V3を0mm/sとし、直径17mmのパンチ10のパンチ速度V1を10mm/sとし、内径24mmのコンテナ20のコンテナ速度V2を0mm/sとして、予備実験として加工を行った。その結果、H10=3.30mm、H20=4.44mmの筒状構造体が得られた。H10=3.30mm、H20=4.44mmとして、コンテナ速度V2の条件式である前述の数式(1)を求めた。その結果、条件式V2=5×{log(H2/H1)/log(1.35)-1}が得られた。このV2の条件式に所望のH2/H1を代入することで、任意の場所に仕切板部42を備える筒状構造体を得ることが可能となる。
【0050】
実施例1として、H2/H1=1となる筒状構造体を得るため、V2=-5mm/sの条件で加工を行った。その結果、V2=-5mm/sにおいては、H1=3.74mm、H2=3.75mmの上下略対称形状の筒状構造体が得られた。
V2=0mm/s、V2=-0.5mm/sのそれぞれの条件で得られた筒状構造体を、それぞれ中心軸を含む断面で切断して、電解エッチングを施した結果を
図9に示す。
【0051】
図9によれば、予備実験で得られた筒状構造体及び実施例1の筒状構造体のいずれも鍛流線は交差しておらず、途中で途切れることもなく、筒状構造体の外側面に達していることが確認された。また、実施例1においては、鍛流線は、仕切板部の板厚方向の中心線において、上下略対称となっていることが確認された。
【0052】
<強度試験>
仕切板部を有する筒状構造体は、仕上げ加工の後、各種製品に使用されるが、H1=H2となる上下対称形状を有する部品、例えば、
図10(a)に示すギアや、
図10(b)に示すベアリングスリーブ等の場合、変形強度においても対称性が要求される場合が多々存在する。以下、変形強度の試験として強度試験(1)及び強度試験(2)を実施して、その対称性を確認した。
【0053】
変形強度の測定を行うため試験片は、V2/V1=-0.5と、V2/V1=0の2種類の加工条件(但し、V3=0mm/s)の筒状構造体を供し、同じ上下対称の形状とするため、
図11に示す寸法で切り出して作製した。V2/V1=-0.5の試験片を実施例2とし、V2/V1=0の試験片を参考例1とした。
変形強度試験は、
図12(a)に示す強度試験(1)と、
図12(b)に示す強度試験(2)とを行った。強度試験(1)では、押え型1及び押え型2で作製した試験片を押さえ、試験片の外周突出部を、潰し型を用いて筒状構造体の板厚方向上方から下方に向けて押し込み量1.2mmまで圧縮を行った。強度試験(2)では、押え型1及び押え型2で作製した試験片を押さえ、試験片の外周突出部を、筒状構造体の径方向外側から内側に向けて押し込み量2.0mmまで圧縮を行った。強度試験(1)及び(2)は、2種の試験片について、中心線よりも上面側と下面側の両方でそれぞれ行った。強度試験(1)の結果を
図13に、強度試験(2)の結果を
図14に示す。
【0054】
いずれの試験においても、実施例2の試験片は、変形強度にほとんど差が見られなかったが、参考例1の試験片は、上面側と下面側とで変形強度に差が生じ、特に、横面からの変形強度に大きい差が生じていた。
以上の変形強度試験によれば、鍛流線が上下非対称である参考例1では、変形強度も上下非対称となることが分かった。それに対して、形状が上下対称、かつ、鍛流線が上下略対称である実施例2では、変形強度も上下対称となることが確認された。
【0055】
以上、本発明の筒状構造体の製造方法及び製造装置について実施形態及び実施例について説明したが、本発明は、上述した実施形態及び実施例に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0056】
例えば、上述の実施形態及びでは、ダイ速度を0とする場合について説明したが、パンチとダイを両方駆動して、プレス加工を行ってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 製造装置
10 上型(パンチ)
20 側方型(コンテナ)
30 下型(ダイ)
40A 円柱状素材
40B 筒状構造体
41 円筒部
42 仕切板部
MF 鍛流線