IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許7188245高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法
<>
  • 特許-高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法 図1
  • 特許-高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法 図2
  • 特許-高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法 図3
  • 特許-高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法 図4
  • 特許-高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法 図5
  • 特許-高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法 図6
  • 特許-高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法 図7
  • 特許-高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法 図8
  • 特許-高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法 図9
  • 特許-高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法 図10
  • 特許-高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 57/00 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
C10B57/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019073463
(22)【出願日】2019-04-08
(65)【公開番号】P2020172562
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 那奈美
(72)【発明者】
【氏名】林崎 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】上坊 和弥
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-069469(JP,A)
【文献】特開2015-214593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 57/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
劣質炭を配合炭の一部に用いて製造する高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法であって、
前記配合炭は、高石炭化度炭と低石炭化度炭と劣質炭からなり、
高石炭化度炭は、全膨張率が0%超であり、かつ、JIS M8801の流動性試験方法により測定される石炭の再固化温度が470℃以上であり、
低石炭化度炭は、全膨張率が0%超であり、かつ、JIS M8801の流動性試験方法により測定される石炭の再固化温度が470℃未満であり、
劣質炭は、全膨張率が0%であり、さらに全膨張率が0%の劣質炭を、揮発分VMが10質量%超30質量%未満の低VM劣質炭と、VMが30質量%以上の高VM劣質炭とに分類し、
実コークス炉で使用予定の配合炭を用いて製造するコークスの表面破壊強度を推定するに際し、予め、下記の(A)~()の手順によって必要な関係を求めておき、
(A)種々の配合炭を用いて、実測した配合炭の膨張比容積SVと装入嵩密度BDとの積(SV×BD)で表される空隙充填度と、得られるコークスの表面破壊強度との関係(a1)を求めておき、
(B)低VM劣質炭および高VM劣質炭の膨張性指標と、高石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター(IF)の中の、高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)および高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)との関係を以下のようにしてそれぞれ求めておき、
(B1)高VM劣質炭を膨張性が発現する昇温速度以上の昇温速度S1で昇温したときの高速昇温膨張比容積SV’(H)と、低VM劣質炭を膨張性が発現する昇温速度以上の昇温速度Sで昇温したときの高速昇温膨張比容積SV’(L)を膨張性指標としてそれぞれ測定し、
(B2)測定した低VM劣質炭の高速昇温膨張比容積SV’(L)と高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)との関係(b2)を求め、
(B3)測定した高VM劣質炭の高速昇温膨張比容積SV’(H)と高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)との関係(b3)を求め、
(C)低VM劣質炭および高VM劣質炭の膨張性指標と、低石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター(IF)の中の低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-1)および低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-2)との関係を以下のようにしてそれぞれ求めておき、
(C1)高VM劣質炭を膨張性が発現する昇温速度以上の昇温速度S1で昇温したときの高速昇温膨張比容積SV’(H)と、低VM劣質炭を膨張性が発現する昇温速度以上の昇温速度Sで昇温したときの高速昇温膨張比容積SV’(L)を膨張性指標としてそれぞれ測定し、
(C2)測定した低VM劣質炭の高速昇温膨張比容積SV’(L)と低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-1)との関係(c2)を求め、
(C3)測定した高VM劣質炭の高速昇温膨張比容積SV’(H)と低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-2)との関係(c3)を求め、
次に、実コークス炉で使用予定の配合炭を用いて製造する高炉用コークスの表面破壊強度の推定にあたり、(D)~(H)の手順を行うことを特徴とするコークスの表面破壊強度の推定方法。
(D)用いる配合炭中の劣質炭が低VM劣質炭の場合は、前記高速昇温膨張比容積SV’(L)を求め、求められたSV’(L)と前記(b2)(c2)の関係から低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)と(f2-1)を求め、
(E)用いる配合炭中の劣質炭が高VM劣質炭の場合は、前記高速昇温膨張比容積SV’(H)を求め、求められたSV’(H)と前記(b3)(c3)の関係から高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)と(f2-2)を求め、
(F)用いる劣質炭の高速昇温膨張比容積SV'(L) および/またはSV' (H)に応じて、前記(D)および/または(E)で求めた高石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)(f1-2)を用いて、劣質炭の配合率に応じた高石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター(IF)を、以下の計算式により求め、低石炭化度炭に対する劣質炭イナートファクター係数(f2-1)(f2-2)を用いて、劣質炭の配合率に応じた低石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター(IF)を、以下の計算式により求め、

IF=(IF1-1)×(低VM劣質炭割合[質量%]/劣質炭割合[質量%])+(IF1-2)×(高VM劣質炭割合[質量%]/劣質炭割合[質量%])
IF1-1=1-((f1-1)×(低VM劣質炭割合[質量%]))
IF1-2=1-((f1-2)×(高VM劣質炭割合[質量%]))

IF=(IF2-1)×(低VM劣質炭割合[質量%]/劣質炭割合[質量%])+(IF2-2)×(高VM劣質炭割合[質量%]/劣質炭割合[質量%])
IF2-1=1-((f2-1)×(低VM劣質炭割合[質量%]))
IF2-2=1-((f2-2)×(高VM劣質炭割合[質量%]))

(G)高石炭化度炭に対する低石炭化度炭のイナートファクター係数は定数(f)とし、高石炭化度炭に対する低石炭化度炭のイナートファクター(IF)を、以下の計算式により求め、

IF=1-((f)×低石炭化度炭の配合割合[質量%])

(H)前記(F)および(G)で求めたイナートファクター(IF)(IF)(IF)と、配合予定の石炭を昇温速度3℃/分で測定した膨張比容積と、配合炭の嵩密度から、
以下の式に基づき、高石炭化度炭と劣質炭の一部の空隙充填度である高石炭化度炭グループ空隙充填度と、低石炭化度炭と劣質炭の残部の空隙充填度である低石炭化度炭グループ空隙充填度とを導出し、
前記高石炭化度炭グループ空隙充填度及び前記低石炭化度炭グループ空隙充填度を低石炭化度炭と高石炭化度炭の配合割合で加重平均し、配合炭の空隙充填度を求め、この求めた配合炭の空隙充填度を用いて前記(a1)の関係からコークスの表面破壊強度の推定値を求める。

高石炭化度炭と劣質炭の一部の空隙充填度(高石炭化度炭グループ空隙充填度)


低石炭化度炭と劣質炭の残部の空隙充填度(低石炭化度炭グループ空隙充填度)


ここで、
n:高石炭化度炭の配合比率[-]
m:低石炭化度炭の配合比率[-]
k:劣質炭(低VM劣質炭と高VM劣質炭の和)の配合比率[-]
SVn:高石炭化度炭の膨張比容積[g/cm
SVm:低石炭化度炭の膨張比容積[g/cm
SV:劣質炭の膨張比容積[g/cm
IFg:低石炭化度炭の高石炭化度炭に対するイナートファクター
IF1:劣質炭の高石炭化度炭に対するイナートファクター
IF2:劣質炭の低石炭化度炭に対するイナートファクター
BD:配合炭の嵩密度[g/cm
である。
【請求項2】
前記高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)と高速昇温膨張比容積SV'(L)との関係(b2)は、前記昇温速度Sとして80℃/分で測定した高速昇温膨張比容積SV'(L)を用いる場合には、下記の式(b2)で表されることを特徴とする請求項1に記載の高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法。
1-1=dSV’(L)+dSV’(L)+d ・・・(b2)
ここで、f1-1:高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数[-]、SV’(L):低VM劣質炭の昇温速度80℃/分の膨張比容積[cm/g]、d~d:実験的に求められる定数
【請求項3】
前記高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)と高速昇温膨張比容積SV’(H)との関係(b3)は、前記昇温速度Sとして12℃/分で測定した高速昇温膨張比容積SV’(H)を用いる場合には、下記の式(b3)で表されることを特徴とする請求項1に記載の高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法。
1-2=dSV’(H)+dSV’(H)+dSV’(H)+dSV’(H)+dSV’(H)+d ・・・(b3)
ここで、f1-2: 高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数[-]、SV’(H):高VM劣質炭の昇温速度12℃/分の膨張比容積 [cm/g]、d~d:実験的に求められる定数
【請求項4】
前記低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-1)と高速昇温膨張比容積SV’(L)との関係(c2)は、前記昇温速度Sとして80℃/分で測定した高速昇温膨張比容積SV'(L) を用いる場合には、下記の式(c2)で表されることを特徴とする請求項1に記載の高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法。
2-1=dSV’(L)+d ・・・(c2)
ここで、f2-1: 低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数[-]、SV’(L):低VM劣質炭の昇温速度80℃/分の膨張比容積[cm/g]、d~dは実験的に求められる定数
【請求項5】
前記低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-2)と高速昇温膨張比容積SV’(H)との関係(c3)は、前記昇温速度Sとして12℃/分で測定した高速昇温膨張比容積SV’(H)を用いる場合には、下記の式(c3)で表されることを特徴とする請求項1に記載の高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法。
2-2=dSV’(H)+d ・・・(c3)
ここで、f2-2:低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数[‐]、SV’(H):高VM劣質炭の昇温速度12℃/分の膨張比容積SV’(H)[cm/g]、d~dは実験的に求められる定数
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配合炭の一部に劣質炭を使用する場合の高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の通気性を確保し、安定的に操業するために、高炉で用いられるコークスには高強度な品質が求められている。このようなコークス製造用の石炭において、良質な石炭は、資源的に枯渇状態にあるのに対して、劣質な石炭は、埋蔵量が豊富である。そのため、安価な劣質炭の配合率を高くすることが望まれている。
【0003】
劣質炭の配合率を高くすると、石炭粒子の膨張および結合が不十分となりコークス強度の低下を招くことから、劣質炭を配合した場合のコークス強度を事前に精度よく予測することが重要となっている。
【0004】
代表的なコークス強度の推定方法として、特許文献1には、石炭軟化時の膨張比容積SVと装入嵩密度BDから石炭軟化溶融時の空隙充填度を求め、この空隙充填度からコークスの表面破壊強度を推定する方法が開示されている。なお、表面破壊強度とは、ドラム強度の6mm指数(DI150 6)、すなわちドラムを150回転させた後の篩目6mmの篩でふるい分けた篩上(粒径6mm超)のコークス質量の全装入コークス質量に対する百分率である。以下では、表面破壊強度をDI150 6と表記することがある。
【0005】
石炭は、全膨張率によって、全膨張率が0%超の石炭と、全膨張率が0%の劣質炭の2つに大きく分類され、全膨張率が0%超の石炭は、JIS M8801の流動性試験方法により測定される石炭の再固化温度が470℃以上である高石炭化度炭と470℃未満である低石炭化度炭の二つに分類される。
【0006】
劣質炭が配合された配合炭のコークスの表面破壊強度を空隙充填度に基づいて推定する際に、膨張比容積は、配合炭中の各石炭の実測値の加重平均値を用いる。
しかし、劣質炭の配合割合が増大すると、石炭の膨張比容積には加成性が成立しないため、特許文献1に開示の方法では、十分な正確性で表面破壊強度を推定できないことがあった。
【0007】
これらの石炭を配合した配合炭を乾留した際のコークスの強度を推定するためには、高石炭化度炭に対する低石炭化度炭あるいは劣質炭の膨張性阻害という概念が重要であり、この膨張性阻害はイナートファクター(イナート係数)という指標によって定量化できることが特許文献2などで明らかになっている。しかし、特許文献2では、JIS M8801に規定された装置を用いて、3.0℃/分の昇温速度で昇温した際に膨張するような石炭を対象としており、全膨張率が0%の劣質炭を配合する場合のコークス強度の推定については開示されていない。
【0008】
これに対し、全膨張率が0%の劣質炭を配合炭の一部に用いて製造するコークスの表面破壊強度の推定をするにあたり、3℃/分以上の昇温速度で測定した劣質炭の高速昇温膨張比容積の値を用いて高石炭化度炭の表面破壊強度に関するイナートファクターを求め、これを用いて劣質炭の高速昇温膨張比容積値とイナートファクター係数の相関線を実験的に求めて高石炭化度炭の表面破壊強度の推定値を算出し、この推定値と劣質炭の表面破壊強度の推定値を用いて、配合炭中の高石炭化度炭と劣質炭の配合割合で加重平均することにより、コークスの表面破壊強度を推定する方法が特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3971563号公報
【文献】特開平9-255965号公報
【文献】特開2016-69469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1~2では、高石炭化度炭に対する低石炭化度炭の膨張阻害が開示されており、また、特許文献3では、高石炭化度炭に対する劣質炭の膨張阻害が開示されているが、低石炭化度炭に対する劣質炭の膨張阻害は開示されていない。また、特許文献3では、揮発分が30質量%以上の劣質炭のイナートファクター係数の推定は可能だが、揮発分が30質量%未満の劣質炭のイナートファクター係数の推定は開示されていない。そこで、本発明は、全膨張率TDが0%の劣質炭の高石炭化度炭に対するイナートファクター係数をVMの値によらず、簡易な方法で推定し、高石炭化度炭に対する膨張阻害だけではなく、低石炭化度炭に対する膨張阻害も考慮することで、コークスの表面破壊強度を精度よく推定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
特許文献3のイナートファクター係数は高石炭化度炭に対する低石炭化度炭の膨張阻害、あるいは高石炭化度炭に対する劣質炭の膨張阻害が示されているが、同様の方法を用いてイナートファクター係数を導出すると、劣質炭は低石炭化度炭に対しても膨張性を示すことが明らかになった。また、TDが0%かつVMが30質量%以上の劣質炭の高速昇温膨張比容積値とイナートファクター係数の間の相関線を1本導出しているが、VMが30質量%未満の劣質炭に対しても同様の手法を用いると、特許文献3で導出された相関性は有さず、さらに高速な昇温速度により測定した高速昇温膨張比容積に基づいて導出した別の新たな相関線上に乗ることが明らかになり、高速昇温膨張比容積とイナートファクター係数の関係は、VMの範囲よって相関関係が異なることを知見した。
すなわち、劣質炭の高速昇温膨張比容積値とイナートファクター係数の相関線を、劣質炭のVMの大小(10質量%<VM<30質量%、30質量%≦VM)によって2本導出し、その相関線を用いてそれぞれ高石炭化度炭に対するイナートファクター係数と低石炭化度炭に対するイナートファクター係数を推定することで、VMの値によらず劣質炭のイナートファクター係数が推定可能となることを見出した。
【0012】
そのような知見に基づいてなされた本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)劣質炭を配合炭の一部に用いて製造する高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法であって、
前記配合炭は、高石炭化度炭と低石炭化度炭と劣質炭からなり、
高石炭化度炭は、全膨張率が0%超であり、かつ、JIS M8801の流動性試験方法により測定される石炭の再固化温度が470℃以上であり、
低石炭化度炭は、全膨張率が0%超であり、かつ、JIS M8801の流動性試験方法により測定される石炭の再固化温度が470℃未満であり、
劣質炭は、全膨張率が0%であり、さらに全膨張率が0%の劣質炭を、揮発分VMが10質量%超30質量%未満の低VM劣質炭と、VMが30質量%以上の高VM劣質炭とに分類し、
実コークス炉で使用予定の配合炭を用いて製造するコークスの表面破壊強度を推定するに際し、予め、下記の(A)~()の手順によって必要な関係を求めておき、
(A)種々の配合炭を用いて、実測した配合炭の膨張比容積SVと装入嵩密度BDとの積(SV×BD)で表される空隙充填度と、得られるコークスの表面破壊強度との関係(a1)を求めておき、
(B)低VM劣質炭および高VM劣質炭の膨張性指標と、高石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター(IF)の中の、高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)および高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)との関係を以下のようにしてそれぞれ求めておき、
(B1)高VM劣質炭を膨張性が発現する昇温速度以上の昇温速度S1で昇温したときの高速昇温膨張比容積SV’(H)と、低VM劣質炭を膨張性が発現する昇温速度以上の昇温速度Sで昇温したときの高速昇温膨張比容積SV’(L)を膨張性指標としてそれぞれ測定し、
(B2)測定した低VM劣質炭の高速昇温膨張比容積SV’(L)と高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)との関係(b2)を求め、
(B3)測定した高VM劣質炭の高速昇温膨張比容積SV’(H)と高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)との関係(b3)を求め、
(C)低VM劣質炭および高VM劣質炭の膨張性指標と、低石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター(IF)の中の低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-1)および低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-2)との関係を以下のようにしてそれぞれ求めておき、
(C1)高VM劣質炭を膨張性が発現する昇温速度以上の昇温速度S1で昇温したときの高速昇温膨張比容積SV’(H)と、低VM劣質炭を膨張性が発現する昇温速度以上の昇温速度Sで昇温したときの高速昇温膨張比容積SV’(L)を膨張性指標としてそれぞれ測定し、
(C2)測定した低VM劣質炭の高速昇温膨張比容積SV’(L)と低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-1)との関係(c2)を求め、
(C3)測定した高VM劣質炭の高速昇温膨張比容積SV’(H)と低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-2)との関係(c3)を求め、
次に、実コークス炉で使用予定の配合炭を用いて製造する高炉用コークスの表面破壊強度の推定にあたり、(D)~(H)の手順を行うことを特徴とするコークスの表面破壊強度の推定方法。
(D)用いる配合炭中の劣質炭が低VM劣質炭の場合は、前記高速昇温膨張比容積SV’
(L)を求め、求められたSV’(L)と前記(b2)(c2)の関係から低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)と(f2-1)を求め、
(E)用いる配合炭中の劣質炭が高VM劣質炭の場合は、前記高速昇温膨張比容積SV’(H)を求め、求められたSV’(H)と前記(b3)(c3)の関係から高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)と(f2-2)を求め、
(F)用いる劣質炭の高速昇温膨張比容積SV'(L) および/またはSV' (H)に応じて、前記(D)および/または(E)で求めた高石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)(f1-2)を用いて、劣質炭の配合率に応じた高石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター(IF)を、以下の計算式により求め、低石炭化度炭に対する劣質炭イナートファクター係数(f2-1)(f2-2)を用いて、劣質炭の配合率に応じた低石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター(IF)を、以下の計算式により求め、

IF=(IF1-1)×(低VM劣質炭割合[質量%]/劣質炭割合[質量%])+(IF1-2)×(高VM劣質炭割合[質量%]/劣質炭割合[質量%])
IF1-1=1-((f1-1)×(低VM劣質炭割合[質量%]))
IF1-2=1-((f1-2)×(高VM劣質炭割合[質量%]))

IF=(IF2-1)×(低VM劣質炭割合[質量%]/劣質炭割合[質量%])+(IF2-2)×(高VM劣質炭割合[質量%]/劣質炭割合[質量%])
IF2-1=1-((f2-1)×(低VM劣質炭割合[質量%]))
IF2-2=1-((f2-2)×(高VM劣質炭割合[質量%]))

(G)高石炭化度炭に対する低石炭化度炭のイナートファクター係数は定数(f)とし、高石炭化度炭に対する低石炭化度炭のイナートファクター(IF)を、以下の計算式により求め、

IF=1-((f)×低石炭化度炭の配合割合[質量%])

(H)前記(F)および(G)で求めたイナートファクター(IF)(IF)(IF)と、配合予定の石炭を昇温速度3℃/分で測定した膨張比容積と、配合炭の嵩密度から、
以下の式に基づき、高石炭化度炭と劣質炭の一部の空隙充填度である高石炭化度炭グループ空隙充填度と、低石炭化度炭と劣質炭の残部の空隙充填度である低石炭化度炭グループ空隙充填度とを導出し、
前記高石炭化度炭グループ空隙充填度及び前記低石炭化度炭グループ空隙充填度を低石炭化度炭と高石炭化度炭の配合割合で加重平均し、配合炭の空隙充填度を求め、この求めた配合炭の空隙充填度を用いて前記(a1)の関係からコークスの表面破壊強度の推定値を求める。

高石炭化度炭と劣質炭の一部の空隙充填度(高石炭化度炭グループ空隙充填度)


低石炭化度炭と劣質炭の残部の空隙充填度(低石炭化度炭グループ空隙充填度)


ここで、
n:高石炭化度炭の配合比率[-]
m:低石炭化度炭の配合比率[-]
k:劣質炭(低VM劣質炭と高VM劣質炭の和)の配合比率[-]
SVn:高石炭化度炭の膨張比容積[g/cm
SVm:低石炭化度炭の膨張比容積[g/cm
SV:劣質炭の膨張比容積[g/cm
IFg:低石炭化度炭の高石炭化度炭に対するイナートファクター
IF1:劣質炭の高石炭化度炭に対するイナートファクター
IF2:劣質炭の低石炭化度炭に対するイナートファクター
BD:配合炭の嵩密度[g/cm
である。

【0013】
(2)前記高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)と高速昇温膨張比容積SV'(L)との関係(b2)は、前記昇温速度Sとして80℃/分で測定した高速昇温膨張比容積SV'(L)を用いる場合には、下記の式(b2)で表されることを特徴とする上記(1)に記載の高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法。
1-1=dSV’(L)+dSV’(L)+d ・・・(b2)
ここで、f1-1:高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数[-]、SV’(L):低VM劣質炭の昇温速度80℃/分の膨張比容積[cm/g]、d~d:実験的に求められる定数
【0014】
(3)前記高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)と高速昇温膨張比容積SV’(H)との関係(b3)は、前記昇温速度Sとして12℃/分で測定した高速昇温膨張比容積SV’(H)を用いる場合には、下記の式(b3)で表されることを特徴とする上記(1)に記載の高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法。
1-2=dSV’(H)+dSV’(H)+dSV’(H)+dSV’(H)+dSV’(H)+d ・・・(b3)
ここで、f1-2: 高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数[-]、SV’(H):高VM劣質炭の昇温速度12℃/分の膨張比容積 [cm/g]、d~d:実験的に求められる定数
【0015】
(4)前記低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-1)と高速昇温膨張比容積SV’(L)との関係(c2)は、前記昇温速度Sとして80℃/分で測定した高速昇温膨張比容積SV'(L) を用いる場合には、下記の式(c2)で表されることを特徴とする上記(1)に記載の高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法。
2-1=dSV’(L)+d ・・・(c2)
ここで、f2-1: 低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数[-]、SV’(L):低VM劣質炭の昇温速度80℃/分の膨張比容積[cm/g]、d~dは実験的に求められる定数
【0016】
(5)前記低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-2)と高速昇温膨張比容積SV’(H)との関係(c3)は、前記昇温速度Sとして12℃/分で測定した高速昇温膨張比容積SV’(H)を用いる場合には、下記の式(c3)で表されることを特徴とする上記(1)に記載の高炉用コークスの表面破壊強度の推定方法。
2-2=dSV’(H)+d ・・・(c3)
ここで、f2-2:低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数[‐]、SV’(H):高VM劣質炭の昇温速度12℃/分の膨張比容積SV’(H)[cm/g]、d~dは実験的に求められる定数
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、全膨張率TDが0%の劣質炭の高石炭化度炭に対するイナートファクター係数をVMの値によらず、簡易な方法で推定することができ、高石炭化度炭に対する膨張阻害だけではなく、低石炭化度炭に対する膨張阻害も考慮することで、コークスの表面破壊強度を精度よく推定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】イナートファクター係数を導出するための基礎となる劣質炭配合割合と得られる膨張比容積との関係を示す図である。
図2】イナートファクター係数を導出するための基礎となる劣質炭配合割合と図1から得られるイナートファクターとの関係を示す図である。
図3】劣質炭の昇温速度12℃/分で測定したSV値と高石炭化度炭に対するイナートファクター係数の関係の一例を示す図である。
図4】低VM劣質炭の昇温速度80℃/分で測定したSV値と高石炭化度炭に対するイナートファクター係数の関係の一例を示す図である。
図5】SV測定時の昇温速度(昇温速度80℃/分)を示す図である。
図6】劣質炭の昇温速度12℃/分で測定したSV値と低石炭化度炭に対するイナートファクター係数の関係の一例を示す図である。
図7】劣質炭の昇温速度80℃/分で測定したSV値と低石炭化度炭に対するイナートファクター係数の関係の一例を示す図である。
図8】空隙充填度と表面破壊強度の相関の1例を示す図。
図9】実施例1について、空隙充填度と表面破壊強度の相関を示す図。
図10】実施例1について、劣質炭配合割合に対する表面破壊強度の推定値と実測値を比較するための図である。
図11】実施例2について、表面破壊強度の推定値と実測値を比較するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、全膨張率が0%超であり、かつ、JIS M8801の流動性試験方法により測定される石炭の再固化温度が470℃以上である高石炭化度炭と470℃未満である低石炭化度炭と、全膨張率が0%である劣質炭とを含む配合炭を用いて製造するコークスの表面破壊強度を、
配合する高石炭化度炭と低石炭化度炭と劣質炭の膨張比容積SVと配合割合、装入嵩密度BD及びイナートファクターから配合炭の空隙充填度を算出するにあたり、イナートファクターを導出する際に
あらかじめ実測した配合炭膨張比容積値から求めた空隙充填度と表面破壊強度の関係に基づいて推定するに際し、全膨張率が0%の劣質炭を、揮発分VMが10質量%超30質量%未満の低VM劣質炭と、VMが30質量%以上の高VM劣質炭とに分類し、
予め、低VM劣質炭および高VM劣質炭の膨張性指標と高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)と、高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)と
低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-1)と低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-2)との関係をそれぞれ求めておき、推定しようとする配合炭の配合に応じて、低VM劣質炭および/または高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)(f1-2)(f2-1)(f2-2)を用いて、コークスの表面破壊強度を推定するものである。
【0020】
本発明者らは、低VM劣質炭が高石炭度化炭の膨張に及ぼす影響を検討した結果、実験に用いた低VM劣質炭では、特許文献3のように、JIS M8801で規定された昇温速度(3℃/分)より早い12℃/分の速度で昇温して測定した膨張比容積(SV’)とイナートファクター係数との間に特定の相関関係が認められなかった。そこで、この低VM劣質炭について、12℃/分よりさらに早い昇温速度(80℃/分の速度)で昇温して膨張比容積(SV’)を測定したところ、測定値とイナートファクター係数との間に有意な相関関係が認められた。なお、「SV」は3℃/分の昇温速度で測定した膨張比容積、「SV’」は3℃/分よりも高い昇温速度で測定した高速昇温膨張比容積を示している。以下このような知見が得られた実験について説明する。
【0021】
まず、特許文献3と同様に高石炭化度炭に低VM劣質炭を配合した配合炭の膨張比容積を前記の昇温速度(3℃/分)で測定し、その結果から配合割合ごとにイナートファクターを求め、配合割合とイナートファクターの関係から低VM劣質炭の銘柄ごとのイナート係数を求めた。
【0022】
表1に示す性状の揮発分VMが30質量%未満の低VM劣質炭A~Gと高石炭度化炭を用い、それらを1.5mm以下100質量%に粉砕後、高石炭化度炭に対し、低VM劣質炭を0~40%配合し、嵩密度0.85 g/cmになるよう反応管に充填し、加熱炉にて昇温速度3℃/分で昇温させることで高石炭度化炭及び配合炭の膨張比容積を測定した。
また低VM劣質炭の高速昇温膨張比容積については、以下のようにした。
低VM劣質炭を1.5mm以下100質量%に粉砕後、嵩密度0.85 g/cmになるよう反応管に充填し、加熱炉にて昇温速度12℃/分で昇温させる、あるいは550℃に加熱した炉に入れて昇温させる(400℃~500℃間の平均昇温速度:80℃/分)ことで低VM劣質炭の膨張比容積を測定した。
【0023】
低VM劣質炭Gについて、低VM劣質炭Gの配合割合と測定された膨張比容積との関係を図1に示す。図1の通り、実測値は加重平均線を下回るため、劣質炭が高石炭化度炭の膨張を阻害していることが分かる。
また、低VM劣質炭Gについて、各配合割合でのイナートファクターを、以下の式を用いて計算して、図2に示す。
V=SV×IF×n + SVk×k
ここで、V:配合炭の膨張比容積[cm3/g]、IF:イナートファクター、SV:高石炭化度炭の膨張比容積[cm3/g]、SVk:劣質炭の膨張比容積[cm3/g]、n:高石炭化度炭の質量ベースの配合割合[-]、k:劣質炭の質量ベースの配合割合[-]、を示す。
【0024】
イナートファクター(IF)は、下記(1)式で定義される。
IF=1.00-f×k ・・・(1)
ここで、IF:イナートファクター[-]、f:イナートファクター係数[-]、k:劣質炭の質量ベースの配合割合[-]を示す。
【0025】
低VM劣質炭Gについて、図2に示すように、劣質炭の配合割合とイナートファクターの間には、
y=-0.0113x+1
の関数関係にあることが認められ、その直線の傾きの絶対値から、イナートファクター係数として0.0113が得られた。なお、yはイナートファクター[-]であり、xは劣質炭の配合割合[質量%]である。
【0026】
他の低VM劣質炭A~Fについても、同様にイナートファクター係数を求めた。
表2に、低VM劣質炭A~Gについて、昇温速度12℃/分で測定したSV’(SV’12℃/分)及び高石炭化度炭に対するイナートファクター係数を示す。
なお、以下の表1、2では、特許文献3の表1、表2で示されたA炭~F炭の揮発分、灰分、全膨張率、SV’(SV’12℃/分)のデータを、高VM劣質炭H~Mのデータとして引用した。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
劣質炭の昇温速度12℃/分で測定した膨張比容積SV’と前記のようにして求めた高石炭化度炭に対するイナートファクター係数との関係を図3に示す。
図3より、劣質炭は、高速昇温膨張比容積値が同じであるにも関わらず、VMの値により2通りの高石炭化度炭に対するイナートファクター係数をとることが分かる。
VMが30質量%以上の高VM劣質炭では、SV’(SV’12℃/分)と高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)との間に、以下の関係があることを確認した。
1-2=-0.734SV’+6.214SV’-20.921SV’3+35.039SV’2-29.2SV’+9.696
【0030】
これに対し、VMが10質量%超30質量%未満の低VM劣質炭では、12℃/分で測定した場合でも、膨張比容積が小さい領域では、SV’(SV’12℃/分)とイナートファクター係数(f1-1)との間に、有意な差が得られなかった。
そこで、さらに高速のSV’(SV’80℃/分)の昇温速度で測定することを試みた。
表3に、低VM劣質炭A~Gについて、昇温速度80℃/分で測定したSV’(SV’80℃/分)及び高石炭化度炭に対するイナートファクター係数を示す。図4に、表3に記載されたSV’(SV’80℃/分)と高石炭化度炭に対するイナートファクター係数との関係を示す。
【0031】
なお、SV’(SV’80℃/分)は、550℃の炉の中に試料を入れて加熱して測定した。
図5に、膨張比容積の測定の際、試料に挿入した熱電対の温度を測定した結果を示す。得られた昇温曲線から、炉の中央で測温した際、400~500℃の区間における平均昇温速度が83℃/分であったため、この手法を用いて測定した膨張比容積の値を、昇温速度80℃/分におけるSV’(SV’80℃/分)と表現することとする。
【0032】
【表3】
【0033】
図4より、SV’(SV’80℃/分))と高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)との間に次の式で表される明瞭な関係性が認められた。
(f1-1)=0.0015x-0.0124x+0.0227
【0034】
前記方法と同様の方法を用いて、低石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター係数を求めた。
低VM劣質炭A~Gについて、昇温速度12℃/分で測定したSV’(SV’12℃/分)及びイナートファクター係数を表4示す。
【0035】
【表4】
【0036】
劣質炭の昇温速度12℃/分で測定した膨張比容積SV’と前記のようにして求めた低石炭化度炭に対するイナートファクター係数との関係を図6に示す。
図6より、劣質炭は、高速昇温膨張比容積値が同じであるにも関わらず、VMの値により2通りの低石炭化度炭に対するイナートファクター係数をとることが分かる。
VMが30質量%以上の高VM劣質炭では、SV’(SV’12℃/分)と低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-2)との間に、以下の関係があることを確認した。
2-2=-0.0172SV’+0.0249(ただし、1.18≦SV’≦1.45である)
【0037】
これに対し、VMが10質量%超30質量%未満の低VM劣質炭では、12℃/分で測定した場合でも、膨張比容積が小さい領域では、SV’(SV’12℃/分)と低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数との間に、有意な差が得られなかった。
そこで、さらに高速の80℃/分の昇温速度で測定することを試みた。
表5に、低VM劣質炭A~Gについて、昇温速度80℃/分で測定したSV’(SV’80℃/分)及びイナートファクター係数を示す。図7に、表5に記載されたSV’(SV’80℃/分)と低石炭化度炭に対するイナートファクター係数との関係を示す。
【0038】
【表5】
【0039】
図7に示すように、低VM劣質炭では、SV’(SV’80℃/分)とイナートファクター係数(f2-1)との間に、以下の関係があることを確認した。
2-1=‐0.0076SV’+0.0217(ただし、1.18≦SV’である)
【0040】
本発明では、以上の検討結果を踏まえ、劣質炭をVMが30質量%以上の高VM劣質炭と10質量%超30質量%未満の低VM劣質炭に分類し、高VM劣質炭では、膨張性が発現する昇温速度以上の昇温速度Sで測定した膨張比容積から高石炭化度炭に対するイナートファクター係数と低石炭化度炭に対するイナートファクター係数を求め、低VM劣質炭では、膨張性が発現する昇温速度以上の昇温速度Sで測定した膨張比容積から高石炭化度炭に対するイナートファクター係数と低石炭化度炭に対するイナートファクター係数を求め、求められたイナートファクター係数を用いて配合する劣質炭の銘柄や配合率に応じたイナートファクターIFを求め、このIFと石炭の配合割合と単味炭の膨張比容積値(3℃/分)を用いて配合炭の空隙充填度を導出し、あらかじめ求めておいた空隙充填度と表面破壊強度の関係からコークス強度の推定値を求めるようにする。
以下、このような本発明を構成する要件や好ましい要件について順次説明する。
【0041】
(対象とする配合炭)
石炭には、下記の種類のものがある。
・高石炭化度炭:全膨張率が0%超であり、JIS M8801の流動性試験方法により測定される石炭の再固化温度が470℃以上である石炭
・低石炭化度炭:全膨張率が0%超であり、JIS M8801の流動性試験方法により測定される石炭の再固化温度が470℃未満である石炭
・劣質炭:全膨張率が0%である石炭。VMが30質量%以上の高VM劣質炭と10質量%超30質量%未満の低VM劣質炭とし、低VM劣質炭には石油コークスを含むこととする。
本発明では、高石炭化度炭と低石炭化度炭と劣質炭からなる配合炭を対象とする。
【0042】
(事前の準備)
本発明では、予め、(A)配合炭の空隙充填度とコークスの表面破壊強度との関係、(B)低VM劣質炭および高VM劣質炭の膨張比容積と高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)、及び(C)低VM劣質炭および高VM劣質炭の膨張比容積と低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-1)低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-2)との関係を求めておく。
【0043】
まず、空隙充填度とコークスの表面破壊強度の関係(a1)を求める。
配合炭の膨張比容積SVを実測して、膨張比容積SVと嵩密度BDとの積から求められる空隙充填度SV×BDを求めるとともに、配合炭のコークスの表面破壊強度を実測し、配合炭の空隙充填度とコークスの表面破壊強度DI150 との関係を予め求めておく。なお、このときの表面破壊強度は、コークス強度測定までにコークス塊が受ける落下衝撃の大小によって変化するため、落下衝撃が変化するごとにコークス強度を測定し、相関線を求める必要がある。この同一落下衝撃下で求めた関係を(a1)とする。図8にその一例を示す。ちなみに、ここで用いる配合炭の性状は特に規定されるものではなく、種々の石炭を用いることができる。また、図8の関係性を求める場合、空隙充填度SV×BDを変化させる必要がある。膨張比容積SVを変化させるには性状が相違する石炭を選択することで実施でき、嵩密度BDを変化させるには石炭粒度等を調整することで実施できる。
【0044】
なお、膨張比容積SVは以下のようにして測定する。
先ず、JIS M8801に規定された細管に、石炭を粉体のまま、所定の装入密度で高さ60mmに装入し、次に、細管内の配合炭の上にピストンを装入し、ピストンを装入した状態で細管を3.0±0.1℃/分の昇温速度で300℃から600℃まで加熱し、加熱終了した後の配合炭の高さを測定した。
なお、この調査においては、ピストンが石炭に及ぼす荷重は約110gとした。加熱終了後の配合炭高さをL[mm]とした。そして、以下の式から膨張比容積[cm/g]を求めた。本実施形態の嵩密度は0.85を用い、以降も嵩密度は0.85を統一して用いている。なお、嵩密度は単味炭の膨張性指標や膨張比容積を求める際に統一した値を用いていれば良く、0.85に限らず適用可能である。
膨張比容積=L/(60×0.85)
【0045】
次に、全膨張率が0%の劣質炭を、揮発分VMが10質量%超30質量%未満の低VM劣質炭と、VMが30質量%以上の高VM劣質炭とに分類し、低VM劣質炭および高VM劣質炭の膨張性指標と低VM劣質炭および高VM劣質炭の膨張比容積と高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)、及び、低VM劣質炭および高VM劣質炭の膨張比容積と低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-1)低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-2)との関係を以下の手順によってそれぞれ求める。
また、劣質炭の膨張比容積(昇温速度:3℃/分)SVは、実測が不可能である場合は、嵩密度0.85の逆数を用いることとした。
【0046】
なお、イナートファクター及びイナートファクター係数は、以下のようにして求める。
まず、高石炭度化炭と劣質炭単味の膨張比容積を前述のように測定するとともに、高石炭度化炭に劣質炭を配合した配合炭の膨張比容積を前述のように測定し、配合炭の膨張比容積の加重平均値からのずれに基づいてイナートファクターを算出する(図1、2参照)。そして、劣質炭の配合割合とイナートファクターの間に下記式(1)で表される1次式の関係を見出し、その式からイナートファクター係数を求める。
図2に示す例では、一次式として、下式が成立し、
y=-0.0113x+1
イナートファクター係数(f)として、0.0113が求められた例を示す。
以降、このイナートファクター係数(f)に関して説明する。
IF=1.00-f×k
あるいは IF=1.00-f×m ・・・(1)
ここで、IF=IFの場合、f=f1-1あるいはf1-2[-]、k=低VM劣質炭あるいは高VM劣質炭の質量ベースの配合割合を示し、
IF=IFの場合、f=f2-1あるいはf2-2[-]、k=低VM劣質炭あるいは高VM劣質炭の質量ベースの配合割合を示し、
IF=IFの場合、f=f[-]、m:低石炭化度炭の配合割合を示す。
IFは劣質炭の高石炭化度炭に対するイナートファクターであり、IFは劣質炭の低石炭化度炭に対するイナートファクターであり、IFは低石炭化度炭の高石炭化度炭に対するイナートファクターである。
【0047】
高VM劣質炭を膨張性が発現する昇温速度以上の所定の昇温速度S1で昇温したときの高速昇温膨張比容積SV’(H)と、低VM劣質炭を膨張性が発現する昇温速度以上の所定の昇温速度Sで昇温したときの高速昇温膨張比容積SV’(L)を膨張性指標としてそれぞれ測定する。昇温速度S1及びSは、いずれも3℃/分よりも高い。
より詳細には、昇温速度S1としては、(b3)、(c3)の「高VM劣質炭の高速昇温膨張比容積SV’(H)と劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)、(f2-2)との関係」を求めるために使用する複数の高VM劣質炭について、膨張性が発現する昇温速度以上に設定されるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、12℃/分以上の昇温速度が挙げられる。
また、昇温速度Sとしては、(b2)、(c2)での「低VM劣質炭の高速昇温膨張比容積SV’(L)と劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)、(f2-1)との関係」を複数の石炭で取得するためには、例えば、80℃/分以上が挙げられる。なお、昇温速度S2の上限は特に限定されないが、加熱した炉に石炭を入れて昇温させる方式での可能な昇温速度としては、例えば400℃/分程度が挙げられる。
【0048】
測定した低VM劣質炭の膨張比容積SV’(L)と高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)との関係(b2)を求める。
3℃/分の昇温速度で測定したイナートファクター係数(f1-1)と、80℃/分で測定した膨張比容積SV’(L)との間には、下記式(b2)で表される相関があることが確認された。なお、実炉の一般的な平均昇温速度は3℃/分であり、また、全膨張率測定試験(JIS M 8801)における昇温速度も3℃/分であることから、イナートファクター係数(f1-1)を測定するときの昇温速度は3℃/分とした(後述するイナートファクター係数(f1-2)、イナートファクター係数(f2-1)及びイナートファクター係数(f2-2)についても同様である)。
1-1=dSV’(L)+dSV(L)’+d ・・・(b2)
ここで、f1-1:高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数[-]、SV’(L):低VM劣質炭の昇温速度80℃/分の膨張比容積[cm/g]、d~d:実験的に求められる係数を示す。
図4に、d=0.0015、d=‐0.0124、d=0.0227の例を示す。
ここで、低VM劣質炭の膨張比容積SV’(L)を測定する際の昇温速度として、80℃/分とは異なる昇温速度を採用した場合には、当該昇温速度に対応した低VM劣質炭の膨張比容積SV’(L)と、3℃/分の昇温速度で測定したイナートファクター係数(f1-1)との関係式を求めておく必要がある。
【0049】
測定した高VM劣質炭の膨張比容積SV’(H)と高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)との関係(b3)を求める。
3℃/分の昇温速度で測定したイナートファクター係数(f1-2)と、12℃/分で測定した膨張比容積SV’(H)との間には、下記式(b3)で表される相関があることが確認された。
1-2=dSV’(H)+dSV’(H)+dSV’(H)+dSV’ (H)+dSV’(H)+d ・・・(b3)
ここで、f1-2: 高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数[-]、SV’(H):高VM劣質炭の昇温速度12℃/分の膨張比容積[cm/g]である。d~dは定数であり、実験的に求められる。
図3に、d=-0.734、d=6.214、d=-20.921、d=35.039、d=-29.2、d=9.696の例を示す。
ここで、高VM劣質炭の膨張比容積SV’(H)を測定する際の昇温速度として、12℃/分とは異なる昇温速度を採用した場合には、当該昇温速度に対応した高VM劣質炭の膨張比容積SV’(H)と、3℃/分の昇温速度で測定したイナートファクター係数(f1-2)との関係式を求めておく必要がある。
【0050】
測定した低VM劣質炭の膨張比容積SV’(L)と低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-1)との関係(c2)を求める。
3℃/分の昇温速度で測定したイナートファクター係数(f2-1)と、80℃/分で測定した膨張比容積SV’(L)との間には、下記式(c2)で表される相関があることが確認された。
2-1=dSV’(L)+d ・・・(c2)
ここで、f2-1: 低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数[-]、SV’(L):低VM劣質炭の昇温速度80℃/分の膨張比容積[cm/g]である。d~dは定数であり、実験的に求められる。
図7に、d=-0.0076、d=0.0217の例を示す。
ここで、低VM劣質炭の膨張比容積SV’(L)を測定する際の昇温速度として、80℃/分とは異なる昇温速度を採用した場合には、当該昇温速度に対応した低VM劣質炭の膨張比容積SV’(L)と、3℃/分の昇温速度で測定したイナートファクター係数(f2-1)との関係式を求めておく必要がある。
【0051】
測定した高VM劣質炭の膨張比容積SV’(H)と低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-2)との関係(c3)を求める。
3℃/分の昇温速度で測定したイナートファクター係数(f2-2)と、12℃/分で測定した膨張比容積SV’(H)との間には、下記式(c3)で表される相関があることが確認された。
2-2=dSV’(H)+d ・・・(c3)
ここで、f2-2:低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数[-]、SV’(H):高VM劣質炭の昇温速度12℃/分の膨張比容積[cm/g]である。d~dは定数であり、実験的に求められる。図6では、d=-0.0172、d=0.0249である。
ここで、高VM劣質炭の膨張比容積SV’(H)を測定する際の昇温速度として、12℃/分とは異なる昇温速度を採用した場合には、当該昇温速度に対応した高VM劣質炭の膨張比容積SV’(H)と、3℃/分の昇温速度で測定したイナートファクター係数(f2-2)との関係式を求めておく必要がある。
【0052】
(表面破壊強度の推定)
実コークス炉で使用予定の配合炭を用いて製造する高炉用コークスの表面破壊強度の推定にあたり、下記の手順により求める。
用いる配合炭中の高石炭化度炭、低石炭化度炭及び劣質炭の膨張比容積(3℃/分)を求める。
高石炭化炭が複数あるときは、高石炭化度炭のSVは加重平均値を用いる。低石炭化炭が複数あるときは、低石炭化度炭のSVは加重平均値を用いる。劣質炭SVが測定不可能な場合は、嵩密度(0.85g/cm)の逆数を劣質炭SVとして用い、劣質炭が複数あるときは、劣質炭のSVは加重平均値を用いる。ここで求めた高石炭化度炭、低石炭化度炭及び劣質炭の膨張比容積は、後述する高石炭化度炭グループ及び低石炭化度炭グループの空隙充填度の算出式におけるSV、SV及びSVkとして用いられる。
【0053】
用いる配合炭中の劣質炭が低VM劣質炭の場合は、前記膨張比容積SV’(L)を求め、求められたSV’(L)と前記(b2)の関係から高石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-1)を求め、求められたSV’(L)と前記(c2)の関係から低石炭化度炭に対する低VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-1)を求める(手順(D)に相当する)。
【0054】
用いる配合炭中の劣質炭が高VM劣質炭の場合は、前記膨張比容積SV’(H)を求め、求められたSV’(H)と前記(b3)の関係から高石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f1-2)を求め、求められたSV’(H)と前記(c3)の関係から低石炭化度炭に対する高VM劣質炭のイナートファクター係数(f2-2)を求める(手順(E)に相当する)。
【0055】
本実施形態では、高石炭化度炭低石炭化度炭、劣質炭を配合した配合炭における空隙充填度を求める。
ここで、劣質炭SVが測定不可能な場合は、嵩密度(0.85g/cm)の逆数を劣質炭SVとして用い、劣質炭が複数あるときは、劣質炭のSVは加重平均値を用い、空隙充填度を求める。劣質炭は、加熱してもほとんど溶融しないため、劣質炭自体が強度を発現することはない。但し、周囲に溶融する高石炭化度炭や低石炭化度炭が配合されている場合は、それら石炭に付着することで強度を発現することができる。
そのため、劣質炭の空隙充填度を、高石炭化度炭と低石炭化度炭の配合割合によってそれぞれに割り振り、配合炭の空隙充填度を求めることで、強度を発現しない劣質炭を考慮することとした。
【0056】
劣質炭の膨張比容積SV’(H)および/またはSV’(L)に応じて、求めたイナートファクター係数(f1-1)(f1-2)を用いて、劣質炭の配合率に応じた高石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター(IF)を求め、
次に高石炭化度炭に対する低石炭化度炭のイナートファクター係数は定数(f)とし、高石炭化度炭に対するイナートファクター(IF)を求め、(IF)と(IF)を用いて高石炭化度炭の空隙充填度を求める。
最後に、劣質炭の空隙充填度の一部{高石炭化度炭/(高石炭化度炭+低石炭化度炭)}を求め、高石炭化度炭の空隙充填度と劣質炭の空隙充填度の一部を配合率で加重平均値する。本発明では、この空隙充填度を高石炭化度グループの空隙充填度と定義する。
また、低石炭化度炭に対する劣質炭イナートファクター係数(f2-1)(f2-2)を用いて、劣質炭の配合率に応じた低石炭化度炭に対する劣質炭のイナートファクター(IF)を求め、(IF)を用いて低石炭化度炭の空隙充填度を求める。次に、劣質炭の空隙充填度の残部を求め、低石炭化度炭の空隙充填度と劣質炭の空隙充填度の一部を配合率で加重平均値する。本発明ではこの空隙充填度を低石炭化度炭グループの空隙充填度と定義する。
IF=1-((f)×低石炭化度炭の配合割合[質量%])

IF=(IF1-1)×(低VM劣質炭割合[質量%]/劣質炭割合[質量%])+(IF1-2)×(高VM劣質炭割合[質量%]/劣質炭割合[質量%])
IF1-1=1-((f1-1)×(低VM劣質炭割合 [質量%]))
IF1-2=1-((f1-2)×(高VM劣質炭割合[質量%]))

IF=(IF2-1)×(低VM劣質炭割合[質量%]/劣質炭割合[質量%])+(IF2-2)×(高VM劣質炭割合[質量%]/劣質炭割合[質量%])
IF2-1=1-((f2-1)×(低VM劣質炭割合[質量%]))
IF2-2=1-((f2-2)×(高VM劣質炭割合[質量%]))

高石炭化度炭グループの空隙充填度


低石炭化度炭グループの空隙充填度


ここで、
n:高石炭化度炭の配合比率[-]
m:低石炭化度炭の配合比率[-]
k:劣質炭(低VM劣質炭と高VM劣質炭の和)の配合比率[-]
SV:高石炭化度炭の膨張比容積[g/cm
SV:低石炭化度炭の膨張比容積[g/cm
SVk:劣質炭の膨張比容積[g/cm
IF:低石炭化度炭の高石炭化度炭に対するイナートファクター
IF:劣質炭の高石炭化度炭に対するイナートファクター
IF:劣質炭の低石炭化度炭に対するイナートファクター
BD:配合炭の嵩密度[g/cm
である。
【0057】
前記で求めた高石炭化度炭グループの空隙充填度と、低石炭化度炭グループの空隙充填度とを、用いる配合炭中の高石炭化度炭と低石炭化度炭の配合率で加重平均し、配合炭全体の空隙充填度を求め、前記(a1)の関係からコークスの表面破壊強度の推定値を求める。
【実施例
【0058】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例の
記載内容に何ら制限されるものではない。
【0059】
(実施例1)
高石炭化度炭と低石炭化度炭と高VM劣質炭と低VM劣質炭の表6に示す4分類6炭種を表7に示す割合で配合した場合の強度推定を行った。
石炭は、3.0mm以下90質量%に粉砕した石炭を表7の通り配合し、実機装入炭嵩密度0.80g/cm相当の嵩密度にて充填した後、実機の炉温1250℃相当の炉温である試験コークス炉(Nomura et al. ,2004 Fuel 38 1771-1776)を用いて、乾留した。
表7に作製したコークスのコークス表面破壊強度DI150 の実測値を、表8に各石炭のイナートファクター係数(表では、IFCと表記する)を合わせて示す。
本発明例のイナートファクター係数は、低VM劣質炭Uの80℃/分SV’、高VM劣質炭Vの12℃/分SV’を、実施形態に記載したf1-1、f1-2、f2-1、f1-2に代入することにより、それぞれ導出した。
次に、比較例1として、特許文献2(特開平9-255965号公報)に開示の方法を援用し、全ての劣質炭及び低石炭化度炭のイナートファクター係数を一定とし、コークス強度の推定を行った。なお、イナートファクター係数は0.0057とした。
また、比較例2として、特許文献3(特開2016―69469号公報)に開示の高VM劣質炭のイナートファクター係数推定法を低VM劣質炭に援用し、式(f=-0.734SV’+6.214SV’-20.921SV’3+35.039SV’2-29.2SV’+9.696)を劣質炭にも適用させた際の、イナートファクター係数を用いてコークス強度の推定を行った。
コークス強度推定は、図9に示す配合炭空隙充填度と表面破壊強度の相関を用いた。
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
本発明例及び比較例について、それぞれに用いた値と配合炭のコークス表面破壊強度DI150 の推定値を表9に示す。また、実測値とそれぞれの推定値をまとめて図10に示す。なお劣質炭SVは全て、嵩密度(0.85g/cm)の逆数である1.18cm/gを用いて計算を行った。
【0064】
表9および図10より、本発明の推定方法を用いれば従来の推定方法である比較例1あるいは比較例2よりもコークスの表面破壊強度の推定精度が向上することが分かる。
【0065】
【表9】
【0066】
(実施例2)
高石炭化度炭と低石炭化度炭と高VM劣質炭と低VM劣質炭の表10に示す4分類4炭種を表11に示す割合で配合した場合の強度推定を行った。石炭の乾留は、実施例1と同様の方法で行った。
表11に作製したコークスのコークス表面破壊強度DI150 の実測値を、表12に各石炭のイナートファクター係数(表では、IFCと表記する)を合わせて示す。
本発明例のイナートファクター係数は、低VM劣質炭Yの12℃/分SV、80℃/分SV、高VM劣質炭Zの12℃/分SVから、それぞれ導出した。
次に、比較例1として、特許文献2(特開平9-255965号公報)に開示の方法を援用し、全ての劣質炭及び低石炭化度炭のイナートファクター係数を一定とし、コークス強度の推定を行った。なお、イナートファクター係数は0.0057とした。
また、比較例2として、特許文献3(特開2016―69469号公報)に開示の高VM劣質炭のイナートファクター係数推定法を低VM劣質炭に援用し、式(f=-0.734SV’+6.214SV’-20.921SV’3+35.039SV’2-29.2SV’+9.696)を劣質炭にも適用させた際の、イナートファクター係数を用いてコークス強度の推定を行った。
コークス強度推定では、(実施例1)とは異なる落下衝撃が加わっているため、図8に示す配合炭空隙充填度と表面破壊強度の相関を用いた。
【0067】
【表10】
【0068】
【表11】
【0069】
【表12】
【0070】
本発明例及び比較例について、それぞれに用いた値と配合炭のコークス表面破壊強度DI150 の推定値を表13に示す。また、実測値とそれぞれの推定値をまとめて図12に示す。なお劣質炭SVは全て、嵩密度(0.85g/cm)の逆数である1.18cm/gを用いて計算を行った。
【0071】
表13および図12より、本発明の推定方法を用いれば従来の推定方法である比較例1あるいは比較例2よりもコークスの表面破壊強度の推定精度が向上することが分かる。
【0072】
【表13】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11