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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】シフトレンジ制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/28 20060101AFI20221206BHJP
   F16H 63/38 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F16H61/28
F16H63/38
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019077077
(22)【出願日】2019-04-15
(65)【公開番号】P2020176638
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】坂口 浩二
(72)【発明者】
【氏名】中山 誠二
(72)【発明者】
【氏名】山田 純
(72)【発明者】
【氏名】宮野 遥
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-270920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/28
F16H 63/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフトアクチュエータ(31)に回転可能に連結され、複数の凹部(21~24)を有する回転部材(16)と、前記凹部に係止することで前記回転部材を回転位置決めする係止部材(17)と、を含むシフトレンジ切替機構(12)に適用され、前記シフトアクチュエータを制御してシフトレンジを切り替えるシフトレンジ制御装置(35)であって、
前記シフトアクチュエータの出力軸(43)の回転角度を検出する角度検出部(61)と、
前記角度検出部の検出値に基づき、前記係止部材の係止部(25)が前記凹部の谷底に位置するときの前記出力軸の回転角度を谷位置として学習する谷位置学習部(72)と、
前記谷位置学習部による学習値の妥当性を判定する妥当性判定部(73)と、
を備え
前記谷位置学習部は、複数の前記谷位置を学習し、
前記妥当性判定部は、前記谷位置学習部が学習した特定の一対の谷位置の一方と他方との差が、前記一方に対応する谷底に前記係止部が位置するときの前記出力軸の回転角度の設計値と、前記他方に対応する谷底に前記係止部が位置するときの前記出力軸の回転角度の設計値との差を中心とする所定の正常範囲内であれば、前記特定の一対の谷位置が妥当であると判定するシフトレンジ制御装置。
【請求項2】
シフトアクチュエータ(31)に回転可能に連結され、複数の凹部(21~24)を有する回転部材(16)と、前記凹部に係止することで前記回転部材を回転位置決めする係止部材(17)と、を含むシフトレンジ切替機構(12)に適用され、前記シフトアクチュエータを制御してシフトレンジを切り替えるシフトレンジ制御装置(35)であって、
前記シフトアクチュエータの出力軸(43)の回転角度を検出する角度検出部(61)と、
前記角度検出部の検出値に基づき、前記係止部材の係止部(25)が前記凹部の谷底に位置するときの前記出力軸の回転角度を谷位置として学習する谷位置学習部(82)と、
前記谷位置学習部による学習値の妥当性を判定する妥当性判定部(83)と、
前記角度検出部の検出値に基づき、前記係止部が一対の前記凹部の間の山頂に位置するときの前記出力軸の回転角度を山位置として学習する山位置学習部(84)と、
を備え
前記妥当性判定部は、前記谷位置学習部が学習した特定の谷位置と前記山位置学習部が学習した特定の山位置との差が、前記特定の谷位置に対応する谷底に前記係止部が位置するときの前記出力軸の回転角度の設計値と、前記特定の山位置に対応する山頂に前記係止部が位置するときの前記出力軸の回転角度の設計値との差を中心とする所定の正常範囲内であれば、前記特定の谷位置が妥当であると判定するシフトレンジ制御装置。
【請求項3】
シフトアクチュエータ(31)に回転可能に連結され、複数の凹部(21~24)を有する回転部材(16)と、前記凹部に係止することで前記回転部材を回転位置決めする係止部材(17)と、を含むシフトレンジ切替機構(12)に適用され、前記シフトアクチュエータを制御してシフトレンジを切り替えるシフトレンジ制御装置(35)であって、
前記シフトアクチュエータの出力軸(43)の回転角度を検出する角度検出部(61)と、
前記角度検出部の検出値に基づき、前記係止部材の係止部(25)が前記凹部の谷底に位置するときの前記出力軸の回転角度を谷位置として学習する谷位置学習部(62)と、
前記谷位置学習部による学習値の妥当性を判定する妥当性判定部(63)と、
を備え
前記妥当性判定部は、前記谷位置学習部が学習した特定の谷位置が、前記特定の谷位置に対応する谷底に前記係止部が位置するときの前記出力軸の回転角度の設計値を中心とする所定の正常範囲内であれば、前記特定の谷位置が妥当であると判定するシフトレンジ制御装置。
【請求項4】
前記谷位置学習部は、全ての前記凹部について谷位置を学習し、
前記妥当性判定部は、前記谷位置学習部が学習した全ての谷位置の妥当性を判定する請求項1~のいずれか一項に記載のシフトレンジ制御装置。
【請求項5】
前記谷位置学習部は、全ての前記凹部のうちの一部の谷位置を学習し、
前記妥当性判定部は、前記一部の谷位置の妥当性を判定する請求項1~のいずれか一項に記載のシフトレンジ制御装置。
【請求項6】
前記谷位置学習部は、前記妥当性判定部において谷位置が妥当ではないと判定された場合、谷位置の学習を完了せず、学習異常状態であることを通知する請求項1~のいずれか一項に記載のシフトレンジ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフトレンジ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機のシフトレンジ切替機構は、回転部材および係止部材を有する。回転部材が回転すると、油圧回路のレンジ切替弁の弁体位置が移動する。シフトレンジは、レンジ切替弁の弁体位置に応じて切り替わる。回転部材の外縁部には、各シフトレンジに対応する複数の凹部が形成されている。係止部材の係止部は、凹部に係止することで回転部材を回転位置決めする。
【0003】
回転部材にはシフトアクチュエータが回転伝達可能に連結される。シフトアクチュエータはシフトレンジ制御装置により制御される。シフトレンジ制御装置は、シフトアクチュエータの出力軸に設けられた回転角度センサの出力信号に基づき現状のシフトレンジを把握し、シフトレンジを目標シフトレンジに切り替える。例えば特許文献1では、シフトレンジ制御装置は、回転角度センサの出力信号に基づき係止部が凹部の谷底に移動したと判定し、その時点の出力軸の回転角度を、係止部が谷底に位置するときの回転角度(以下、谷位置)として学習する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-179142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、発明者は、谷位置学習の信頼性向上、すなわち係止部が谷底に位置すると判定するときの判定精度を高めることが極めて重要であると考えている。谷位置学習の信頼性が低いと、シフトレンジを切り替える際にシフトレンジの誤切り替えや回転部材の回転位置決め精度の低下が生じ、また、シフトレンジを判定する際にシフトレンジの誤判定や判定精度の低下が生じるからである。
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、谷位置学習の信頼性を向上することができるシフトレンジ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
谷位置学習の失敗の要因として以下が挙げられる。(1)低温環境下におけるフリクション増加の影響で係止部が凹部の谷底に落ちにくいこと。(2)出力軸の回転角度センサにノイズがのってしまうこと。(3)モータから出力軸までの回転伝達系が有する遊びの存在により出力軸がモータに先行して谷位置に位置しているとき、出力軸が遊び内でバウンドして暴れてしまうこと。発明者は、これらの要因による谷位置学習の失敗を検出する必要があると考えた。
【0008】
本発明のシフトレンジ制御装置は、シフトアクチュエータに回転可能に連結され、複数の凹部を有する回転部材と、凹部に係止することで回転部材を回転位置決めする係止部材と、を含むシフトレンジ切替機構に適用され、シフトアクチュエータを制御してシフトレンジを切り替える。シフトレンジ制御装置は、角度検出部と、谷位置学習部と、妥当性判定部とを備える。角度検出部は、シフトアクチュエータの出力軸の回転角度を検出する。谷位置学習部は、角度検出部の検出値に基づき、係止部材の係止部が凹部の谷底に位置するときの出力軸の回転角度を谷位置として学習する。妥当性判定部は、谷位置学習部による学習値の妥当性を判定する。
第1態様では、谷位置学習部は、複数の谷位置を学習する。妥当性判定部は、谷位置学習部が学習した特定の一対の谷位置の一方と他方との差が、一方に対応する谷底に係止部が位置するときの出力軸の回転角度の設計値と、他方に対応する谷底に係止部が位置するときの出力軸の回転角度の設計値との差を中心とする所定の正常範囲内であれば、特定の一対の谷位置が妥当であると判定する。
第2態様では、シフトレンジ制御装置は、角度検出部の検出値に基づき、係止部が一対の凹部の間の山頂に位置するときの出力軸の回転角度を山位置として学習する山位置学習部をさらに備える。妥当性判定部は、谷位置学習部が学習した特定の谷位置と山位置学習部が学習した特定の山位置との差が、特定の谷位置に対応する谷底に係止部が位置するときの出力軸の回転角度の設計値と、特定の山位置に対応する山頂に係止部が位置するときの出力軸の回転角度の設計値との差を中心とする所定の正常範囲内であれば、特定の谷位置が妥当であると判定する。
第3態様では、妥当性判定部は、谷位置学習部が学習した特定の谷位置が、特定の谷位置に対応する谷底に係止部が位置するときの出力軸の回転角度の設計値を中心とする所定の正常範囲内であれば、特定の谷位置が妥当であると判定する。
【0009】
このように谷位置学習値の妥当性が判定されることにより、谷位置学習の失敗を検出することができる。谷位置学習の失敗を検出することで、谷位置学習の信頼性を向上することができ、シフトレンジの誤切り替えや誤判定を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態のシフトレンジ制御装置が適用されたシフトバイワイヤシステムを説明する図である。
図2図1のシフトレンジ切替機構の斜視図である。
図3図1のシフトレンジ制御装置のECUが有する機能部を説明する図である。
図4図3のECUが実行する処理を説明する第1のフローチャートである。
図5図3のECUによるシフトレンジ切り替えの実行時における出力軸の回転角度および回転数、モータの回転角度および回転数、モータの回転数と出力軸の回転数との差の推移を示すタイムチャートである。
図6図1のシフトアクチュエータのモータから出力軸までの回転伝達系の遊びについて説明する模式図である。
図7図3のECUによるシフトレンジ切り替え時における出力軸の回転角度の推移を示すタイムチャートにおいて、谷位置の正常範囲を示す図である。
図8図3のECUが実行する処理を説明するサブフローチャートである。
図9図3のECUが実行する処理を説明する第2のフローチャートである。
図10図3のECUが実行する処理を説明する第3のフローチャートである。
図11】第2実施形態のシフトレンジ制御装置のECUが有する機能部を説明する図である。
図12図11のECUが実行する処理を説明するフローチャートである。
図13】第3実施形態のシフトレンジ制御装置のECUが有する機能部を説明する図である。
図14図13のECUによるシフトレンジ切り替え時における出力軸の回転角度の推移を示すタイムチャートにおいて、係止部が山頂に相対移動したことを判定する閾値を示す図である。
図15図13のECUが実行する処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、シフトレンジ制御装置の複数の実施形態を図面に基づき説明する。実施形態同士で実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0012】
[第1実施形態]
第1実施形態のシフトレンジ制御装置は、車両のシフトバイワイヤシステムに適用されている。図1に示すように、シフトバイワイヤシステム10は、自動変速機11のシフトレンジ切替機構12を電気的に制御するシステムである。
【0013】
<シフトレンジ切替機構>
シフトレンジ切替機構12について図2を参照して説明する。シフトレンジ切替機構12は、ディテントプレート16およびディテントスプリング17を備えている。ディテントプレート16は、回転位置に応じて変速用油圧回路のレンジ切替弁14の弁体位置を変更する。シフトレンジは、レンジ切替弁14の弁体位置に応じて切り替わる。ディテントプレート16の外縁部には、各シフトレンジに対応する複数の凹部21~24が形成されている。
【0014】
ディテントスプリング17は、自身の付勢力によりディテントプレート16に押し付けられている。ディテントスプリング17の係止部25は、凹部21~24のうち一つに係合することでディテントプレート16を回転位置決めする。凹部21~24およびディテントスプリング17は、ディテントプレート16の位置決め部を構成している。係止部25は、ディテントプレート16に所定以上の回転力が加わりディテントスプリング17が弾性変形することで、凹部21~24間を相対移動可能である。凹部21~24は、パーキングレンジ、リバースレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジにそれぞれ対応している。
【0015】
シフトレンジ切替機構12は、パーキングロックのための機構を構成するものとして、パークギヤ26、パークポール27およびパークロッド28をさらに備えている。パークギヤ26は、自動変速機11のアウトプットシャフトと一体に回転する。パークポール27は、パークギヤ26に対して接近および離間可能であり、パークギヤ26と噛み合うことで自動変速機11のアウトプットシャフトの回転をロックする。パークロッド28は、ディテントプレート16に連結されており、ディテントプレート16の回転位置がパーキングレンジに対応する位置であるとき、先端部の円錐体29をパークポール27の下側に押し込むことで当該パークポール27を押し上げて、パークポール27とパークギヤ26とを噛み合わせる。
【0016】
<シフトバイワイヤシステム>
シフトバイワイヤシステム10について図1を参照して説明する。図1に示すように、シフトバイワイヤシステム10は、シフトアクチュエータ31、エンコーダ32、出力軸センサ33、シフトスイッチ34およびシフトレンジ制御装置35を備えている。
【0017】
シフトアクチュエータ31は、回転動力を出力する回転式の電動アクチュエータであり、モータ41および減速機42を備えている。減速機42は、モータ41の回転を減速して出力軸43から出力する。出力軸43は、シフトレンジ切替機構12のディテントプレート16(図2参照)に接続されている。
【0018】
エンコーダ32は、モータ41のロータの回転角度を検出するセンサであり、ロータの回転に同期して複数相のパルス信号をシフトレンジ制御装置35に出力する。
【0019】
出力軸センサ33は、出力軸43の回転角度を検出するセンサであり、出力軸43の回転角度に応じた信号をシフトレンジ制御装置35に出力する。出力軸センサ33の出力信号は、現状のシフトレンジを把握するため及び出力軸43の回転速度を算出するため等に用いられる。
【0020】
シフトスイッチ34は、車両10のドライバーにより操作されるスイッチであり、ドライバーが要求するシフトレンジに応じた信号を出力する。以下、ドライバーが要求するシフトレンジのことを適宜「目標シフトレンジ」と記載する。
【0021】
シフトレンジ制御装置35は、マイクロコンピュータを主体として構成されているECU44と、モータ41の複数相コイルの通電を制御するインバータを含む駆動回路45とを備えている。ECU44は、エンコーダ32、出力軸センサ33、シフトスイッチ34、および図示しない車速センサ等の出力信号に応じて、モータ41を駆動するための指令信号を出力する。駆動回路45は、ECU44からの指令信号に応じてモータ41の各相コイルの通電状態を切り替える。
【0022】
<ECUの機能(1)>
シフトレンジ制御装置35のECU44について図3を参照して説明する。先ず、ECU44のシフトレンジを切り替える機能に関して説明する。ECU44は、各センサの出力信号を取得する信号取得部51と、回転数検出部52とを有している。回転数検出部52は、出力軸センサ33の出力信号に基づき出力軸43の回転数(以下、出力軸回転数No)を検出し、また、エンコーダ32の出力信号に基づきモータ41の回転数(以下、モータ回転数Nm)を検出する。
【0023】
ECU44によるモータ41の駆動モードには、スタンバイモード、フィードバック制御モードおよび停止制御モードがある。ECU44は、現在設定されている駆動モードが上記のいずれであるかを判定するモード判定部53と、駆動モードを切り替えるモード切替部54とを有している。駆動モードは、ECU44の初期化時にはスタンバイモードに設定される。
【0024】
ECU44は、スタンバイモードに対応する機能部として目標判定部55を有している。目標判定部55は、シフトスイッチ34の出力信号に基づき、目標シフトレンジが現在のシフトレンジから変更されたか否かを判定する。モード切替部54は、目標シフトレンジが現在のシフトレンジから変更された場合に駆動モードをフィードバック制御モードに切り替える。
【0025】
ECU44は、フィードバック制御モードに対応する機能部として、フィードバック制御部56、レンジ判定部57および谷底移動判定部58を有している。フィードバック制御部56は、目標シフトレンジに対応するモータ41の目標角度を設定し、エンコーダカウント値およびモータ回転速度に基づくフィードバック制御によりモータ41を回転させる。
【0026】
レンジ判定部57は、出力軸センサ33の出力信号に基づき、出力軸43が複数のレンジ判定範囲のうちのどこに位置しているかを判定する。レンジ判定範囲には、Pレンジ判定範囲、Rレンジ判定範囲、Nレンジ判定範囲およびDレンジ判定範囲がある。Pレンジ判定範囲は、係止部25が凹部21に位置する範囲に設定される。Rレンジ判定範囲は、係止部25が凹部22に位置する範囲に設定される。Nレンジ判定範囲は、係止部25が凹部23に位置する範囲に設定される。Dレンジ判定範囲は、係止部25が凹部24に位置する範囲に設定される。
【0027】
以降、出力軸43が位置していると判定されたレンジ判定範囲のことを「現在のレンジ判定範囲」と記載する。また、目標シフトレンジが成立するレンジ判定範囲のことを「目標レンジ判定範囲」と記載する。
【0028】
谷底移動判定部58は、シフトレンジの切り替え中の出力軸回転数Noの変化に基づき、凹部21~24のうち現在のレンジ判定範囲に対応する凹部の谷底に係止部25が相対移動したと判定する。第1実施形態では、谷底移動判定部58は、シフトレンジの切り替え中に出力軸回転数Noが所定値N1以下となった場合、係止部25が凹部の谷底に相対移動したと判定する。
【0029】
谷底移動判定部58は、シフトレンジの切り替え中、現在のレンジ判定範囲が目標レンジ判定範囲と一致し、かつ、出力軸回転数Noが所定値N1以下となった場合、凹部21~24のうち目標レンジ判定範囲に対応する凹部の谷底に係止部25が移動したと判定する。つまり、谷底移動判定部58は、上述の場合、目標シフトレンジに対応する凹部の谷底に係止部25が移動したと判定する。モード切替部54は、目標シフトレンジに対応する凹部の谷底に係止部25が移動したと判定された場合、駆動モードを停止制御モードに切り替える。
【0030】
ECU44は、停止制御モードに対応する機能部として停止制御部59を有している。停止制御部59は、モータ41の回転を停止するとともに、その回転停止が完了したか否かを判定する。
【0031】
ここで、シフトレンジ切り替え中におけるディテントプレート16および出力軸43の回転について説明する。シフトレンジ切り替え中、係止部25は、一対の凹部間の山頂を越えたあと凹部の谷底に向けて加速する。その結果、ディテントプレート16および出力軸43の回転数がモータ41の回転数と比べて大幅に高まる。そのため、目標シフトレンジに対応する凹部の谷底に係止部25が移動した時点というのは、モータ41のロータから出力軸43までの回転伝達系が有する遊びの分だけ、ディテントプレート16および出力軸43がモータ41のロータに先行して凹部の谷底に位置している状況となる。したがって、上記遊びが詰まる間、モータ41が回転してもディテントプレート16および出力軸43は回転しない。停止制御部59は、目標シフトレンジに対応する凹部の谷底に係止部25が移動してから上記遊びが詰まるまでの間にモータ41の回転を停止させる。モード切替部54は、モータ41の回転停止が完了したと判定された場合、駆動モードをスタンバイモードに切り替える。
【0032】
<ECUが実行する処理(1)>
次に、ECU44がシフトレンジ切り替えのために実行する一連の処理について図4を参照して説明する。図4に示すルーチンは、ECU44の起動後に繰り返し実行される。以下の説明において「S」はステップを意味する。
【0033】
図4のルーチンが開始されると、S1において、現在設定されている駆動モードがスタンバイモード、フィードバック制御モードおよび停止制御モードのうちのどれであるかが判定される。駆動モードがスタンバイモードである場合、処理はS2に移行する。駆動モードがフィードバック制御モードである場合、処理はS4に移行する。駆動モードが停止制御モードである場合、処理はS9に移行する。
【0034】
S2では、目標シフトレンジが現在のシフトレンジから変更されたか否かが判定される。目標シフトレンジが変更された場合(S2:YES)、処理はS3に移行する。目標シフトレンジが変更されていない場合(S2:NO)、処理は図4のルーチンを抜ける。
【0035】
S3では、駆動モードがフィードバック制御モードに切り替えられる。S3の後、処理は図4のルーチンを抜ける。
【0036】
S4では、フィードバック制御が行われる。フィードバック制御の初回の場合には、出力軸センサ33の出力信号に基づきモータ41の目標角度が設定され、エンコーダカウント値およびモータ回転速度Noに基づくフィードバック制御によりモータ41が回転駆動される。一方、既にフィードバック制御が行われている最中である場合には、引き続きフィードバック制御が継続される。S4の後、処理はS5に移行する。
【0037】
S5では、出力軸回転数Noが所定値N1以下となったか否かが判定される。出力軸回転数Noが所定値N1以下となった場合(S5:YES)、処理はS6に移行する。出力軸回転数Noが所定値N1以下となっていない場合(S5:NO)、処理は図4のルーチンを抜ける。
【0038】
S6では、谷位置学習制御が行われる。谷位置学習制御の詳細については後述する。S6の後、処理はS7に移行する。
【0039】
S7では、出力軸センサ33の出力信号に基づき、出力軸43が目標レンジ判定範囲内に位置しているか否かが判定される。出力軸43が目標レンジ判定範囲内に位置している場合(S7:YES)、処理はS8に移行する。出力軸43が目標レンジ判定範囲内に位置していない場合(S7:NO)、処理は図4のルーチンを抜ける。
【0040】
S8では、駆動モードが停止制御モードに切り替えられる。S8の後、処理は図4のルーチンを抜ける。
【0041】
S9では、モータ41の回転を停止する停止制御が行われる。S9の後、処理はS10に移行する。
【0042】
S10では、モータ41の回転停止制御が完了したか否かが判定される。停止制御が完了した場合(S10:YES)、処理はS11に移行する。停止制御が完了していない場合(S10:NO)、処理は図4のルーチンを抜ける。
【0043】
S11では、駆動モードがスタンバイモードに切り替えられる。S11の後、処理は図4のルーチンを抜ける。
【0044】
<具体的な動作例>
次に、ECU44による動作の一例について図5および図6を参照して説明する。この例は、現在のシフトレンジがパーキングレンジであるときに目標シフトレンジがドライブレンジに変更されたときの動作例である。
【0045】
図5において、縦軸の出力軸回転数Noはモータ回転数Nmに換算して記載している。つまり、モータ41から出力軸43までの減速比αを用いて互いに尺度を合わせたモータ回転数[Nm]と出力軸回転数[No×α]に基づき、図5には[Nm]と[No×α]とを重ねて示している。
【0046】
以降、出力軸回転数Noとモータ回転数Nmとを比較するときは互いに尺度を合わせたもの同士を用いることを前提とするが、その際には「モータ回転数Nm」および「出力軸回転数No」と記載し、減速比αについては記載を省略する。図面の記載においても同様である。「Nm-No」と記載されていれば、それは互いに尺度を合わせたもの同士の差であることを意味する。また、「互いに尺度を合わせる」とは、[Nm]と[No×α]に限らず、[Nm÷α]と[No]でも問題ないものとする。
【0047】
以下の説明において、「P谷底」、「R谷底」、「N谷底」、「D谷底」は、それぞれ凹部21、22、23、24の谷底のことである。
【0048】
図5に示すように、シフトレンジ切替開始前の時点t0では、モータ回転数Nmおよび出力軸回転数Noの両方とも0である。また、ディテントスプリング17の係止部25がP谷底に位置し、出力軸43もそれに対応した回転角度である。それに対して、モータ41のロータは、ロータから出力軸43までの回転伝達系が有する遊びの間に位置している状態である。図6に示すように、時点t0では遊びが詰まっていない状態である。
【0049】
図5の時点t1では、目標シフトレンジがドライブレンジに変更され、シフトレンジの切り替えが開始される。この時点t1では、図4のS2の判定が肯定され、駆動モードがフィードバック制御モードに変更される。
【0050】
図5の時点t1~t2では、モータ41は回転するが、遊びが詰まっていないので出力軸43は回転しない。
【0051】
図5の時点t2では、遊びが詰まる。この直後に出力軸43が回転開始する。図6に示すように、時点t2では遊びが詰まった状態である。
【0052】
図5の時点t2~t3の前半、すなわち係止部25が凹部21と凹部22との間の山頂を越える前において、出力軸回転数Noがモータ回転数Nmに追従する。
【0053】
図5の時点t2~t3の後半、すなわち係止部25が凹部21と凹部22との間の山頂を越えたあとにおいて、係止部25が凹部22の谷底に落ちるようにディテントプレート16が回転し、出力軸回転数Noが高まる。その結果、出力軸43が遊びの分だけモータ41に先行して移動する。
【0054】
図5の時点t3では、係止部25がほぼR谷底に移動して、出力軸回転数Noが所定値N1以下となる。図6に示すように、時点t3では、出力軸43が遊びの分だけモータ41に先行しており、R谷底に対応する回転角度にほぼ移動している。この時点t3では、図4のS5の判定が肯定され、そのあとに谷位置学習制御が実行される。今回、目標レンジ判定範囲はDレンジ判定範囲であり、現在のレンジ判定範囲が目標レンジ判定範囲と一致していないため、図4のS7の判定は否定される。
【0055】
図5の時点t3~t4では、モータ41は回転するが、遊びが詰まっていないので出力軸43は回転しない。
【0056】
図5の時点t4~t7では、時点t2~t4と同じように動作する。
【0057】
図5の時点t7では、現在のレンジ判定範囲が目標レンジ判定範囲と一致しているため、図4のS7の判定が肯定され、駆動モードが停止制御モードに変更される。
【0058】
図5の時点t7以降、停止制御が実行される。そして、時点t8において停止制御の完了に伴い、図4のS11において駆動モードがスタンバイモードに変更される。
【0059】
<ECUの機能(2)>
次に、ECU44の谷位置学習の機能に関して説明する。谷位置とは、係止部25が凹部21~24の谷底に位置するときの出力軸43の回転角度のことである。
【0060】
ECU44は、角度検出部61と、谷位置学習部62と、妥当性判定部63とを有している。角度検出部61は、出力軸センサ33の出力信号に基づき出力軸43の回転角度(以下、出力軸回転角度θo)を検出する。
【0061】
谷位置学習部62は、角度検出部61の検出値に基づき、係止部25が凹部の谷底に位置するときの出力軸回転角度θoを谷位置として学習する。具体的には、谷位置学習部62は、係止部25が凹部の谷底に相対移動したと谷底移動判定部58が判定した場合、その時点の出力軸回転角度θoを谷位置として学習する。
【0062】
本実施形態では、谷位置学習部62による谷位置の学習は、例えば、組み付け工場等での作動初回時であって、全てのレンジ判定範囲の一端から他端まで作動するとき、すなわちパーキングレンジからドライブレンジまで切り替えられるときに実施される。スタート地点のレンジ判定範囲に対応するP谷位置の学習は、他のレンジからパーキングレンジまで切り替えられるときに実施される。谷位置学習部62は、全ての凹部21~24について谷位置を学習する。
【0063】
妥当性判定部63は、谷位置学習の実施後、谷位置学習部62による学習値の妥当性を判定する。妥当性判定部63は、谷位置学習部62が学習した特定の谷位置が、当該特定の谷位置に対応する谷底に係止部25が位置するときの出力軸43の回転角度の設計値を中心とする所定の正常範囲内であれば、前記特定の谷位置が妥当であると判定する。
【0064】
図7に示すように、学習されたP谷位置が正常範囲θPL~θPH内であれば、P谷位置が妥当であると判定される。また、学習されたR谷位置が正常範囲θRL~θRH内であれば、R谷位置が妥当であると判定される。また、学習されたN谷位置が正常範囲θNL~θNH内であれば、N谷位置が妥当であると判定される。また、学習されたD谷位置が正常範囲θDL~θDH内であれば、D谷位置が妥当であると判定される。
【0065】
正常範囲θPL~θPH、θRL~θRH、θNL~θNH、θDL~θDHは、P谷底、R谷底、N谷底、D谷底が存在しうる範囲であって、各部品の寸法誤差および組付け誤差が累積された誤差範囲である。なかでも、シフトアクチュエータ31を自動変速機11に取り付ける角度誤差が支配的である。
【0066】
本実施形態では、妥当性判定部63は、谷位置学習部62が学習した全ての谷位置の妥当性を判定する。谷位置学習部62は、妥当性判定部63において谷位置が妥当であると判定された場合、該当する谷位置の学習を完了する。学習が完了した谷位置は、シフトレンジの切り替えに用いられる。つまり、シフトレンジ切り替え時、目標シフトレンジに対応する学習完了の谷位置に向かって出力軸43が回転させられる。一方、谷位置学習部62は、妥当性判定部63において谷位置が妥当ではないと判定された場合、谷位置の学習を完了せず、学習異常状態であることを通知する。学習が完了していない谷位置は、シフトレンジの切り替えには用いられない。
【0067】
<ECUが実行する処理(2)>
次に、ECU44が谷位置学習のために実行する一連の処理について図4図8図10を参照して説明する。
【0068】
図4において、S6では、図8に示す谷位置学習制御のためのサブルーチンが呼び出されて実行される。S6の処理は、例えば組み付け工場等での作動初回時に実行される。
【0069】
図8のサブルーチンが開始されると、S21において、出力軸43が複数のレンジ判定範囲のうちのどこに位置しているかが判定される。つまり、現在のレンジ判定範囲がいずれのレンジ判定範囲であるかが判定される。Pレンジ判定範囲である場合、処理はS22に移行する。Rレンジ判定範囲である場合、処理はS23に移行する。Nレンジ判定範囲である場合、処理はS24に移行する。Dレンジ判定範囲である場合、処理はS25に移行する。
【0070】
S22では、現状の出力軸回転角度θoがP谷位置として学習される。また、P谷位置学習制御が済みであることを示す図示しないフラグ(以下、P谷位置学習制御済みフラグ)がオンされる。S22の後、処理は図4のルーチンに戻る。
【0071】
S23では、現状の出力軸回転角度θoがR谷位置として学習される。また、R谷位置学習制御が済みであることを示す図示しないフラグ(以下、R谷位置学習制御済みフラグ)がオンされる。S23の後、処理は図4のルーチンに戻る。
【0072】
S24では、現状の出力軸回転角度θoがN谷位置として学習される。また、N谷位置学習制御が済みであることを示す図示しないフラグ(以下、N谷位置学習制御済みフラグ)がオンされる。S24の後、処理は図4のルーチンに戻る。
【0073】
S25では、現状の出力軸回転角度θoがD谷位置として学習される。また、D谷位置学習制御が済みであることを示す図示しないフラグ(以下、D谷位置学習制御済みフラグ)がオンされる。S25の後、処理は図4のルーチンに戻る。
【0074】
図9に示す谷位置学習値の確認のためのルーチンは、ECU44の起動後に繰り返し実行される。図9において、「X」は適宜「P」、「R」、「N」および「D」に置き換えられて実行される。以下では、一例として「P」に置き換えた場合について説明する。
【0075】
図9のルーチンが開始されると、S31において、P谷位置学習制御済みフラグがオンであるか否かが判定される。P谷位置学習制御済みフラグがオンである場合(S31:YES)、処理はS32に移行する。P谷位置学習制御済みフラグがオフである場合(S31:NO)、処理はS37に移行する。
【0076】
S32では、P谷位置学習値が正常範囲θPL~θPH内であるか否かが判定される。P谷位置学習値が正常範囲θPL~θPH内である場合(S32:YES)、処理はS33に移行する。P谷位置学習値が正常範囲θPL~θPH内ではない場合(S32:NO)、処理はS35に移行する。
【0077】
S33では、P谷位置学習値のステータスが「正常」にセットされる。S33の後のS34では、P谷位置学習が完了される。S34の後、処理は図9のルーチンを抜ける。
【0078】
S35では、P谷位置学習値のステータスが「異常」にセットされる。S35の後のS36では、P谷位置学習が未完了とされる。S36の後、処理は図9のルーチンを抜ける。
【0079】
S37では、P谷位置学習値のステータスが「未定」にセットされる。S37の後のS38では、P谷位置学習が未完了とされる。S38の後、処理は図9のルーチンを抜ける。
【0080】
図10に示す異常通知のためのルーチンは、ECU44の起動後に繰り返し実行される。図10において、「X」は適宜「P」、「R」、「N」および「D」に置き換えられて実行される。以下では、一例として「P」に置き換えた場合について説明する。
【0081】
図10のルーチンが開始されると、S41において、P谷位置学習値のステータスが「異常」であるか否かが判定される。P谷位置学習値のステータスが「異常」である場合(S41:YES)、処理はS42に移行する。P谷位置学習値のステータスが「異常」ではない場合(S41:NO)、処理は図10のルーチンを抜ける。
【0082】
S42では、P谷位置の学習が異常状態であることが通知される。この通知は、例えば工場の作業者や車両の運転者が見る表示装置のランプを点灯させる等により行われる。S38の後、処理は図10のルーチンを抜ける。
【0083】
<効果>
以上説明したように、第1実施形態では、シフトレンジ制御装置35は、角度検出部61と、谷位置学習部62と、妥当性判定部63とを備える。角度検出部61は、シフトアクチュエータ31の出力軸43の回転角度を検出する。谷位置学習部62は、角度検出部61の検出値に基づき、係止部25が凹部21~24の谷底に位置するときの出力軸43の回転角度を谷位置として学習する。妥当性判定部63は、谷位置学習部62による学習値の妥当性を判定する。
【0084】
このように谷位置学習値の妥当性が判定されることにより、谷位置学習の失敗を検出することができる。谷位置学習の失敗を検出することで、谷位置学習の信頼性を向上することができ、シフトレンジの誤切り替えや誤判定を抑制することができる。
【0085】
また、第1実施形態では、妥当性判定部63は、谷位置学習部62が学習した特定の谷位置が、当該特定の谷位置に対応する谷底に係止部25が位置するときの出力軸43の回転角度の設計値を中心とする所定の正常範囲内であれば、前記特定の谷位置が妥当であると判定する。これにより、谷位置学習値が搭載上有り得る範囲内にあるかどうかを判定し、組付け不良などの検出が可能となる。
【0086】
また、第1実施形態では、谷位置学習部62は、全ての凹部21~24について谷位置を学習する。妥当性判定部63は、谷位置学習部62が学習した全ての谷位置の妥当性を判定する。これにより、谷位置学習値の精度を向上することができる。
【0087】
また、第1実施形態では、谷位置学習部62は、妥当性判定部63において谷位置が妥当ではないと判定された場合、谷位置の学習を完了せず、学習異常状態であることを通知する。これにより、未学習状態でシフトレンジ切り替えが行われることを防止可能である。
【0088】
[第2実施形態]
第2実施形態では、図11に示すように、ECU71の谷位置学習部72は、全ての凹部21~24のうちの一部の谷位置を学習する。上記「一部」は例えば凹部21および凹部23である。谷位置学習部72が学習する特定の一対の谷位置は、P谷位置とN谷位置である。
【0089】
妥当性判定部73は、一部の谷位置であるP谷位置とN谷位置の妥当性を判定する。具体的には、妥当性判定部73は、谷位置学習部72が学習したP谷位置とN谷位置との差が、P谷底に係止部25が位置するときの出力軸43の回転角度の設計値と、N谷底に係止部25が位置するときの出力軸43の回転角度の設計値との差を中心とする所定の正常範囲ΔθPNL~ΔθPNH内であれば、P谷位置とN谷位置が妥当であると判定する。谷位置学習部72は、妥当性判定部73においてP谷位置とN谷位置が妥当であると判定された場合、谷位置の学習を完了する。
【0090】
図12に示す谷位置学習値の確認のためのルーチンは、ECU71の起動後に繰り返し実行される。図12において、「X」および「Y」は適宜「P」、「R」、「N」および「D」のうちの2つに置き換えられて実行される。以下では、一例として「X」を「P」に置き換え、「Y」を「N」に置き換えた場合について説明する。
【0091】
図12のルーチンが開始されると、S51において、P谷位置学習制御済みフラグがオンであるか否かが判定される。P谷位置学習制御済みフラグがオンである場合(S51:YES)、処理はS52に移行する。P谷位置学習制御済みフラグがオフである場合(S51:NO)、処理はS60に移行する。
【0092】
S52では、N谷位置学習制御済みフラグがオンであるか否かが判定される。N谷位置学習制御済みフラグがオンである場合(S52:YES)、処理はS53に移行する。N谷位置学習制御済みフラグがオフである場合(S52:NO)、処理はS60に移行する。
【0093】
S53では、「P谷位置学習値-N谷位置学習値」が正常範囲ΔθPNL~ΔθPNH内であるか否かが判定される。正常範囲ΔθPNL~ΔθPNH内である場合(S53:YES)、処理はS54に移行する。正常範囲ΔθPNL~ΔθPNH内ではない場合(S53:NO)、処理はS57に移行する。
【0094】
S54では、P谷位置学習値のステータスが「正常」にセットされる。S54の後のS55では、N谷位置学習値のステータスが「正常」にセットされる。S55の後のS56では、谷位置学習が完了される。S56の後、処理は図12のルーチンを抜ける。
【0095】
S57では、P谷位置学習値のステータスが「異常」にセットされる。S57の後のS58では、N谷位置学習値のステータスが「異常」にセットされる。S58の後のS59では、谷位置学習が未完了とされる。S59の後、処理は図12のルーチンを抜ける。
【0096】
S60では、P谷位置学習値のステータスが「未定」にセットされる。S60の後のS61では、N谷位置学習値のステータスが「未定」にセットされる。S61の後のS62では、谷位置学習が未完了とされる。S62の後、処理は図12のルーチンを抜ける。
【0097】
<効果>
以上説明したように、第2実施形態では、谷位置学習部72は、複数の谷位置を学習する。妥当性判定部73は、谷位置学習部72が学習したP谷位置とN谷位置との差が、P谷底に係止部25が位置するときの出力軸43の回転角度の設計値と、N谷底に係止部25が位置するときの出力軸43の回転角度の設計値との差を中心とする所定の正常範囲ΔθPNL~ΔθPNH内であれば、P谷位置とN谷位置が妥当であると判定する。正常範囲ΔθPNL~ΔθPNHには、シフトアクチュエータ31を自動変速機11に取り付ける角度誤差が影響しない。そのため、第1実施形態の正常範囲と比べると正常範囲ΔθPNL~ΔθPNHが小さくなるので、谷位置学習値の妥当性を高精度に判定することができる。したがって、谷位置学習の信頼性を一層向上することができ、シフトレンジの誤切り替えや誤判定を一層抑制することができる。
【0098】
また、第2実施形態では、谷位置学習部72は、全ての凹部21~24のうちの一部の谷位置を学習する。妥当性判定部73は、一部の谷位置の妥当性を判定する。そのため、谷位置学習にかかる時間を短縮することができる。
【0099】
[第3実施形態]
第3実施形態では、図13に示すように、ECU81の谷位置学習部82は、全ての凹部21~24のうちの一部の谷位置を学習する。上記「一部」は例えば凹部22である。谷位置学習部82が学習する特定の谷位置は、R谷位置である。
【0100】
ECU81は山位置学習部84を備える。山位置学習部84は、角度検出部61の検出値に基づき、係止部25が一対の凹部の間の山頂に位置するときの出力軸回転角度θoを山位置として学習する。具体的には、山位置学習部84は、シフトレンジの切り替え中に出力軸回転数Noが所定値N2(図14参照)以上となった場合、係止部25が一対の凹部の間の山頂に相対移動したと判定し、その時点の出力軸回転角度θoを山位置として学習する。所定値N2は、モータ41自体のトルクでは到達しない出力軸回転数に設定される。第3実施形態では、山位置学習部84は、全ての山位置のうちの一部を学習する。上記「一部」は例えば凹部21と凹部22との間のRP山頂である。山位置学習部84が学習する特定の山位置は、RP山位置である。
【0101】
妥当性判定部83は、一部の谷位置であるR谷位置の妥当性を判定する。具体的には、妥当性判定部83は、谷位置学習部82が学習したR谷位置と山位置学習部84が学習したRP山位置との差が、R谷底に係止部25が位置するときの出力軸43の回転角度の設計値と、RP山頂に係止部25が位置するときの出力軸43の回転角度の設計値との差を中心とする所定の正常範囲ΔθRRPL~ΔθRRPH内であれば、R谷位置が妥当であると判定する。谷位置学習部82は、妥当性判定部83においてR谷位置が妥当であると判定された場合、谷位置の学習を完了する。
【0102】
図15に示す谷位置学習値の確認のためのルーチンは、ECU81の起動後に繰り返し実行される。図15において、「X」および「Y」は適宜「P」、「R」、「N」および「D」のうちの2つに置き換えられて実行される。以下では、一例として「X」を「R」に置き換え、「Y」を「P」に置き換えた場合について説明する。
【0103】
図15のルーチンが開始されると、S71において、R谷位置学習制御済みフラグがオンであるか否かが判定される。R谷位置学習制御済みフラグがオンである場合(S71:YES)、処理はS72に移行する。R谷位置学習制御済みフラグがオフである場合(S71:NO)、処理はS78に移行する。
【0104】
S72では、RP山位置学習制御済みフラグがオンであるか否かが判定される。RP山位置学習制御済みフラグがオンである場合(S72:YES)、処理はS73に移行する。RP山位置学習制御済みフラグがオフである場合(S72:NO)、処理はS78に移行する。
【0105】
S73では、「R谷位置学習値-RP山位置学習値」が正常範囲ΔθRRPL~ΔθRRPH内であるか否かが判定される。正常範囲ΔθRRPL~ΔθRRPH内である場合(S73:YES)、処理はS74に移行する。正常範囲ΔθRRPL~ΔθRRPH内ではない場合(S73:NO)、処理はS76に移行する。
【0106】
S74では、R谷位置学習値のステータスが「正常」にセットされる。S74の後のS75では、谷位置学習が完了される。S75の後、処理は図15のルーチンを抜ける。
【0107】
S76では、R谷位置学習値のステータスが「異常」にセットされる。S76の後のS77では、谷位置学習が未完了とされる。S77の後、処理は図15のルーチンを抜ける。
【0108】
S78では、R谷位置学習値のステータスが「未定」にセットされる。S78の後のS79では、谷位置学習が未完了とされる。S79の後、処理は図15のルーチンを抜ける。
【0109】
<効果>
以上説明したように、第3実施形態では、山位置学習部84は、角度検出部61の検出値に基づき、係止部25が一対の凹部の間の山頂に位置するときの出力軸回転角度θoを山位置として学習する。妥当性判定部83は、谷位置学習部82が学習したR谷位置と山位置学習部84が学習したRP山位置との差が、R谷底に係止部25が位置するときの出力軸43の回転角度の設計値と、RP山頂に係止部25が位置するときの出力軸43の回転角度の設計値との差を中心とする所定の正常範囲ΔθRRPL~ΔθRRPH内であれば、R谷位置が妥当であると判定する。正常範囲ΔθRRPL~ΔθRRPHには、シフトアクチュエータ31を自動変速機11に取り付ける角度誤差が影響しない。そのため、第1実施形態の正常範囲と比べると正常範囲ΔθRRPL~ΔθRRPHが小さくなるので、谷位置学習値の妥当性を高精度に判定することができる。したがって、谷位置学習の信頼性を一層向上することができ、シフトレンジの誤切り替えや誤判定を一層抑制することができる。
【0110】
また、第3実施形態では、第2実施形態と同様に一部の谷位置の妥当性が判定される。そのため、谷位置学習にかかる時間を短縮することができる。
【0111】
[他の実施形態]
他の実施形態では、谷底移動判定部は、モータから出力軸までの減速比を用いて互いに尺度を合わせたモータ回転数と出力軸回転数に基づき、シフトレンジの切り替え中に出力軸回転数がモータ回転数よりも小さくなる範囲においてモータ回転数と出力軸回転数との差が所定値以上となった場合、係止部が凹部の底に相対移動したと判定してもよい。
【0112】
他の実施形態では、谷底移動判定部は、シフトレンジの切り替え中に出力軸回転数が所定値以上となってから所定時間が経過した場合、係止部が凹部の底に相対移動したと判定してもよい。上記所定値は、モータ自体のトルクでは到達しない出力軸回転数に設定される。
【0113】
第1実施形態では、谷位置学習部62は全ての凹部21~24について谷位置を学習し、妥当性判定部63は、谷位置学習部62が学習した全ての谷位置の妥当性を判定するようになっていた。これに対して、他の実施形態では、谷位置学習部が一部の谷位置を学習し、妥当性判定部が第1実施形態と同じ方法により谷位置学習値の妥当性を判定しつつも、一部の谷位置の妥当性を判定するようになっていてもよい。
【0114】
第2、第3実施形態では、谷位置学習部は一部の凹部について谷位置を学習し、妥当性判定部は、一部の谷位置の妥当性を判定するようになっていた。これに対して、他の実施形態では、谷位置学習部が全ての谷位置を学習し、妥当性判定部が第2実施形態または第3実施形態と同じ方法により谷位置学習値の妥当性を判定しつつも、全ての谷位置の妥当性を判定するようになっていてもよい。
【0115】
他の実施形態では、モータは、フィードバック制御に限らず、例えば回転角度に応じて通電相を順次切り替える通電切替制御等の他の方式により回転駆動されてもよい。
【0116】
他の実施形態では、ディテントプレートの凹部は2つ、3つ、あるいは5つ以上であってもよい。それに伴い、シフトレンジ切替機構が切り替えるシフトレンジは2つ、3つ、あるいは5つ以上であってもよい。
【0117】
他の実施形態では、谷位置学習部による谷位置の学習は、組み付け工場等での作動初回時に限らず、それ以降定期的に行われてもよい。定期的に行われることで、経年的に谷位置が変化する場合に微調整することが可能となる。また、谷位置学習部による谷位置の学習は、レンジ判定範囲の一端から他端まで作動するときに限らず、レンジ判定範囲の一部分で作動するときに実施されてもよい。
【0118】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0119】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0120】
12:シフトレンジ切替機構
16:ディテントプレート(回転部材)
17:ディテントスプリング(係止部材)
21~24:凹部
31:シフトアクチュエータ
35:シフトレンジ制御装置
43:出力軸
61:角度検出部
62、72、82:谷位置学習部
63、73、83:妥当性判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15