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特許7188270金属管の製造方法、金属管の製造装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】金属管の製造方法、金属管の製造装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 13/08 20060101AFI20221206BHJP
   B21C 37/08 20060101ALI20221206BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20221206BHJP
   B23K 13/00 20060101ALI20221206BHJP
   B23K 13/02 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B23K13/08 540
B21C37/08 A
B21C51/00 P
B23K13/00 A
B23K13/02
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019088233
(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公開番号】P2019202348
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2018094859
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】深見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】軽部 嘉文
(72)【発明者】
【氏名】武田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 昇
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-000394(JP,A)
【文献】特表2016-539328(JP,A)
【文献】特開2018-20356(JP,A)
【文献】特開平06-023587(JP,A)
【文献】特開2010-105045(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157422(WO,A1)
【文献】特開2008-212961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 13/08
B21C 37/08
B21C 51/00
B23K 13/00
B23K 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう突き合わせて接触させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造方法であって、
第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部における前記金属板の両端の端面が全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qm(v1)、
第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qs(v1)、及び、
第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である2段収束入力電力Qw(v1)のうち、少なくとも1つを決定する工程と、
前記第1溶接速度v1における前記溶融入力電力Qm(v1)を用いて、前記金属板の前記両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qmと溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成する処理、
前記第1溶接速度v1における前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)を用いて、前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qsと溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する処理、及び、
前記第1溶接速度v1における前記2段収束入力電力Qw(v1)を用いて、前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である2段収束入力電力Qwと溶接速度vとの関係を示す2段収束限界データを生成する処理のうち、少なくとも1つを実行する工程と、
前記溶融限界データ、前記スパッタ発生限界データ、及び、前記2段収束限界データのうち少なくとも1つと、造管時の現入力電力及び現溶接速度とを、同時に視認可能な状態で表示装置に表示する工程とを有する、金属管の製造方法。
【請求項2】
前記溶融限界データは、前記溶融入力電力Qmを溶接速度vで表す式Qm(v)であって、溶接速度vのべき乗βの項vβ(β:定数)を含む式Qm(v)を含むか、又は、
前記スパッタ発生限界データは、前記スパッタ発生入力電力Qsを溶接速度vで表す式Qs(v)であって、溶接速度vのべき乗αの項vα(α:定数)を含む式Qs(v)を含むか、又は、
前記2段収束限界データは、前記2段収束入力電力Qwを溶接速度vで表す式Qw(v)であって、溶接速度vのべき乗γの項vγ(γ:定数)を含む式Qw(v)を含む、請求項1に記載の金属管の製造方法。
【請求項3】
前記溶融入力電力Qmを溶接速度vで表す式Qm(v)における前記溶接速度vのべき乗βは、0.4≦β≦0.7であるか、又は、
前記スパッタ発生入力電力Qsを溶接速度vで表す式Qs(v)における前記溶接速度vのべき乗αは、0.5≦α≦0.9であるか、又は、
前記2段収束入力電力Qwを表す式Qw(v)における前記溶接速度vのべき乗γは、0.6≦γ≦1.0である、請求項2に記載の金属管の製造方法。
【請求項4】
前記式Qm(v)は、下記式によって決定されるか、又は、
Qm(v)=Qm(v1)×[(v/v1)β
前記式Qs(v)は、下記式によって決定されるか、又は、
Qs(v)=Qs(v1)×[(v/v1)α
前記式Qw(v)は、下記式によって決定される、
Qw(v)=Qw(v1)×[(v/v1)γ
請求項2又は3に記載の金属管の製造方法。
【請求項5】
前記第1溶接速度v1における溶融入力電力Qm(v1)、前記第1溶接速度v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)及び前記第1溶接速度v1における2段収束入力電力Qw(v1)をいずれも決定し、
前記溶融限界データ、前記スパッタ発生限界データ、及び前記2段収束限界データを生成し、
前記べき乗α、β、γは、γ>α>βである、請求項2に記載の金属管の製造方法。
【請求項6】
前記第1溶接速度v1で前記金属板を搬送しながら、前記衝合部に供給する入力電力を変化させて、前記第1溶接速度v1における溶融入力電力Qm(v1)、前記第1溶接速度v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)、又は、前記2段収束入力電力Qw(v1)を決定する、請求項1~5のいずれか1項に記載の金属管の製造方法。
【請求項7】
前記第1溶接速度v1で前記金属板を搬送しながら、前記衝合部に供給する入力電力を変化させて、前記衝合部を、前記金属板の径方向外側から撮影した画像を用いて、前記衝合部における前記金属板の両端の端面が全面に渡って溶融しているか否かを判断することで、前記第1溶接速度v1における溶融入力電力Qm(v1)を決定する、請求項6に記載の金属管の製造方法。
【請求項8】
前記第1溶接速度v1で前記金属板を搬送しながら、前記衝合部に供給する入力電力を変化させて、前記衝合部を、前記金属板の径方向外側から撮影した画像を用いて、前記衝合部にスリットが発生しているか否かを判断することで、前記第1溶接速度v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)を決定する、請求項6又は7に記載の金属管の製造方法。
【請求項9】
前記第1溶接速度v1で前記金属板を搬送しながら、前記衝合部に供給する入力電力を変化させて、前記衝合部を、前記金属板の径方向外側から撮影した画像を用いて、前記衝合部に2段収束型形状が発生しているか否かを判断することで、前記第1溶接速度v1における2段収束入力電力Qw(v1)を決定する、請求項6~8のいずれか1項に記載の金属管の製造方法。
【請求項10】
予め保存されている値を補正することで、前記第1溶接速度v1における溶融入力電力Qm(v1)、前記第1溶接速度v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)、又は、前記第1溶接速度v1における2段収束入力電力Qw(v1)を決定する、請求項1~5のいずれか1項に記載の金属管の製造方法。
【請求項11】
溶接条件に基づいて、前記金属板の前記溶融入力電力Qmと、前記スパッタ発生入力電力Qsとが同じになる臨界溶接速度Vmを決定する工程をさらに有し、
前記溶融限界データ又は前記スパッタ発生限界データに加えて、前記臨界溶接速度Vmを、造管時の現入力電力及び現溶接速度と同時に視認可能な状態で表示装置に表示する、請求項1~10のいずれか1項に記載の金属管の製造方法。
【請求項12】
前記スパッタ発生限界データを用いて、前記臨界溶接速度Vmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)すなわち前記臨界溶接速度Vmにおける溶融入力電力Qm(Vm)を決定する工程と、
前記臨界溶接速度Vmにおける溶融入力電力Qm(Vm)を用いて、前記溶融入力電力Qmと、溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成する工程と、をさらに有する、請求項11に記載の金属管の製造方法。
【請求項13】
前記溶融限界データは、前記溶融入力電力Qmを溶接速度vで表す式Qm(v)であって、溶接速度vのべき乗の項を含む式Qm(v)を含み、Qm(v)は、下記式によって決定される、請求項12に記載の金属管の製造方法。
Qm(v)=Qm(Vm)×[(v/Vm)β
【請求項14】
前記溶融限界データを用いて、前記臨界溶接速度Vmにおける溶融入力電力Qm(Vm)すなわち前記臨界溶接速度Vmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)を決定する工程と、
前記臨界溶接速度Vmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)を用いて、前記スパッタ発生入力電力Qsと、溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する工程と、をさらに有する、請求項11に記載の金属管の製造方法。
【請求項15】
前記スパッタ発生限界データは、前記スパッタ発生入力電力Qsを溶接速度vで表す式Qs(v)であって、溶接速度vのべき乗の項を含む式Qs(v)を含み、Qs(v)は、下記式によって決定される、請求項14に記載の金属管の製造方法。
Qs(v)=Qs(Vm)×[(v/Vm)α
【請求項16】
前記2段収束限界データ、前記溶融限界データ及び前記スパッタ発生限界データの少なくとも1つを用いて、造管時の入力電力の範囲を決定し、前記表示装置に表示する、請求項1~15のいずれか1項に記載の金属管の製造方法。
【請求項17】
前記2段収束限界データ、前記溶融限界データ及び前記スパッタ発生限界データの少なくとも1つを用いて、造管時の入力電力の範囲を決定し、造管時の入力電力を、前記決定した範囲内になるよう制御する、請求項1~16のいずれか1項に記載の金属管の製造方法。
【請求項18】
前記溶融限界データを用いて、第2溶接速度v2で溶接する場合に金属板の両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qm(v2)を、第1基準値として算出するか、
前記スパッタ発生限界データを用いて、前記第2溶接速度v2で溶接する場合に前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qs(v2)を第2基準値として算出するか、又は、
前記2段収束限界データを用いて、前記第2溶接速度v2で溶接する場合に衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である2段収束入力電力Qw(v2)を、第3基準値として算出する工程と、
前記第1基準値Qm(v2)、前記第2基準値Qs(v2)及び前記第3基準値Qw(v2)の少なくとも1つを用いて、造管時の入力電力の範囲を決定する工程と、
前記第2溶接速度v2で前記金属板を搬送しながら、前記衝合部に、前記決定した範囲の入力電力を供給して前記溶接を行う工程と、をさらに有する、請求項17に記載の金属管の製造方法。
【請求項19】
金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう突き合わせて接触させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造装置であって、
第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部における前記金属板の両端の端面が全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qm(v1)、
第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qs(v1)、及び、
第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である2段収束入力電力Qw(v1)のうち、少なくとも1つを決定する溶接状態変化点決定部と、
前記第1溶接速度v1における前記溶融入力電力Qm(v1)を用いて、前記金属板の前記両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qmと溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成する処理、
前記第1溶接速度v1における前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)を用いて、前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qsと溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する処理、及び、
前記第1溶接速度v1における前記2段収束入力電力Qw(v1)を用いて、前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である2段収束入力電力Qwと溶接速度vとの関係を示す2段収束限界データを生成する処理のうち少なくとも1つを実行する限界データ生成部と、
前記溶融限界データ、前記スパッタ発生限界データ、及び、前記2段収束限界データのうち少なくとも1つと、造管時の現入力電力及び現溶接速度とを、同時に視認可能な状態で表示装置に表示する表示部とを備える、金属管の製造装置。
【請求項20】
金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう突き合わせて接触させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造に用いられるプログラムであって、
第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部における前記金属板の両端の端面が全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qm(v1)、
第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qs(v1)、及び、
第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である2段収束入力電力Qw(v1)のうち、少なくとも1つを決定する処理と、
前記第1溶接速度v1における前記溶融入力電力Qm(v1)を用いて、前記金属板の前記両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qmと溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成する処理、
前記第1溶接速度v1における前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)を用いて、前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qsと溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する処理、及び、
前記第1溶接速度v1における前記2段収束入力電力Qw(v1)を用いて、前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である2段収束入力電力Qwと溶接速度vとの関係を示す2段収束限界データを生成する処理のうち少なくとも1つの処理と、
前記溶融限界データ、前記スパッタ発生限界データ、及び、前記2段収束限界データのうち少なくとも1つと、造管時の現入力電力及び現溶接速度とを、同時に視認可能な状態で表示装置に表示する処理とをコンピュータに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫溶接(すなわちElectric Resistance Welding、以下、ERWと称する)において、溶接部品質を管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ERWの技術を用いて製造された鋼管は電縫鋼管と呼ばれる。電縫鋼管は、例えば、石油又は天然ガス用ラインパイプ、油井管の他、原子力発電設備、地熱発電設備、化学プラント、各種機械の配管、及び一般配管に使用されている。電縫鋼管を製造する場合には、帯状の鋼板、例えば、熱延鋼帯を管状に成形する。その際、鋼板の周方向の両端すなわち突き合わせ端面を、径方向から見てV字状になるよう突き合わせる。互いに突き合わされるこれらの両端が衝合する部分に高周波電流を流すことよって、衝合部を加熱、溶融させて、溶接シームを形成する。
【0003】
ERWでは、溶接欠陥を抑えるために、入熱量(すなわち入力電力)及び溶接速度等を適正な範囲に制御することが求められる。例えば、入熱が不足していたり、溶接速度が速かったりする場合には未溶接部が発生することがある。一方、入熱が過剰であったり、溶接速度が遅かったりする場合には、多量の酸化物が溶接部に残存することがある。
【0004】
一般に、電縫溶接における溶接の状態は、第1種溶接状態と、第2種溶接状態と、第3種溶接状態とに大別される。第1種溶接状態では、鋼板の端面が最初に接触する溶接点の位置変動が非常に小さい。この溶接点の位置変動は、第2種溶接状態、及び第3種溶接状態の順に大きくなる。第2種溶接状態では、衝合部に溶融スリット(以後、スリットとも称す)が発生する。また、溶接速度及び入熱量がある条件を満たす場合に、2段収束を伴う2段収束型第2種溶接状態が出現する。なお、溶接状態は、溶接現象と称されることもある。そのため、第1種溶接状態は第1溶接現象と、第2種溶接状態は第2種溶接現象と、第3種溶接状態は第3種溶接現象と、2段収束型第2種溶接状態は2段収束型第2種溶接現象と称されることもある。
【0005】
2段収束型第2種溶接状態では、径方向から見てV字状に収束する鋼板の両端の延長線が交わる点(幾何学的V収束点:V0点)では鋼板の両端(エッジ)が接触しない。鋼板の端面が最初に接触するV収束点(V1点)は、V0点より造管方向の下流側になる。すなわち、鋼板の両端(エッジ)は、径方向から見て2段のテーパー状になる。なお、V収束点(V1点)は、V字状に収束する金属板の周方向の端部が物理的に衝合(接触)する点である。溶接点(W点)は、溶融スリットの終端点すなわち、溶融スリットの造管方向の下流の端である。
【0006】
図1は、各種溶接状態と、溶接速度及び入熱との関係を概念的に示す図である。図1において、領域2001が第1種溶接状態に対応する領域であり、領域2002が第2種溶接状態に対応する領域であり、領域2003が第3種溶接状態に対応する領域であり、領域2004が2段収束型第2種溶接状態に対応する領域である。また、Vmは2段収束型第2種溶接状態が現れる臨界溶接速度であり、Tmは鋼板の融点である。Tは、V0点における鋼板の両端(エッジ)の温度である。T=Tmの線より上の領域では、V0点で鋼板の両端が板厚全体にわたって溶融する。
【0007】
溶接速度が臨界溶接速度Vm未満の場合であって、入熱が低い場合には、溶接の状態は第1種溶接状態(領域2001)となる。溶接速度が臨界溶接速度Vm未満であっても、入熱を増加させると、溶接の状態は第2種溶接状態(領域2002)となり、更に入熱を増加させると第3種溶接状態(領域2003)に移行する。一方、溶接速度が臨界溶接速度Vm以上の場合、溶接の状態は、入熱の増加と共に、第1種溶接状態(領域2001)から第2種溶接状態(領域2002)に移行し、更に入熱を増加させると、2段収束型第2種溶接状態(領域2004)となる。
【0008】
特許第5510615号公報(特許文献1)には、電縫鋼管を製造する際のERWの操業を管理する電縫溶接操業管理装置が記載されている。この電縫溶接操業管理装置は、撮像装置で撮像されたV字収束領域の表面とスリット端および溶接点とを含む領域の画像(V字収束領域の画像)を入力する。電縫溶接操業管理装置は、このV字収束領域の画像に対する処理の結果を用いて、溶接の状態が2段収束型第2種溶接状態となるように、高周波電源から出力される電力量を制御する。
【0009】
特開2009-233678号公報(特許文献2)には、電縫溶接管の製造方法において、ワークの溶接点近傍箇所を高速度カメラにより撮影することが開示されている。この方法では、撮影画像を基に、溶接点からV収束位置までの狭間隙部の長さが計測される。計測した狭間隙部長さL(mm)が所定の式を満たすように電縫溶接の溶接入熱が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5510615号公報
【文献】特開2009-233678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の技術では、ERWの操業時すなわち造管時において、図1に示すような、溶接速度及び入力電力と、溶接状態との関係を示す相関図(CPDダイヤグラム)の情報を提供することは開示されていない。CPDダイヤグラムは、操業における諸条件によって異なる。そのため、実際の操業時のCPDダイヤグラムを提供するのは困難であった。
【0012】
そこで、本発明は、ERWの操業時における、溶接速度及び入力電力と、溶接状態との関係を示す情報を提供できる金属管の製造方法、金属管の製造装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1つの観点における金属管の製造方法は、金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう突き合わせて接触させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造方法である。
前記製造方法は、溶融入力電力Qm(v1)、スパッタ発生入力電力Qs(v1)、及び、2段収束入力電力Qw(v1)のうち、少なくとも1つを決定する工程を含む。前記溶融入力電力Qm(v1)は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部における前記金属板の両端の端面が全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である。前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力である。前記2段収束入力電力Qw(v1)は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である。
前記製造方法は、溶融限界データ、スパッタ発生限界データ、及び、2段収束限界データのうち、少なくとも1つを生成する工程を含む。前記溶融限界データを生成する処理は、前記第1溶接速度v1における前記溶融入力電力Qm(v1)を用いて、前記金属板の前記両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qmと、溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成する処理である。前記スパッタ発生限界データを生成する処理は、前記第1溶接速度v1における前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)を用いて、前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qsと溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する処理である。前記2段収限界データを生成する処理は、前記第1溶接速度v1における前記2段収束入力電力Qw(v1)を用いて、前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である2段収束入力電力Qwと、溶接速度vとの関係を示す2段収束限界データを生成する処理である。
前記製造方法は、前記溶融限界データ、前記スパッタ発生限界データ、及び、前記2段収束限界データのうち少なくとも1つと、造管時の現入力電力及び現溶接速度とを、同時に視認可能な状態で表示装置に表示する工程とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の1つの観点によれば、要求される溶接状態に適した操業中の入力電力の設定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、各種溶接状態と、溶接速度及び入熱との関係を概念的に示す図である。
図2図2は、CPDダイヤグラムの例を示す図である。
図3図3は、第1種溶接状態、第2種溶接状態及び2段収束型第2種溶接状態を説明するための図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る電縫鋼管の製造システムの構成の一例を示す図である。
図5図5は、管理システムの構成例を示す機能ブロック図である。
図6図6は、操業時の入力電力(入熱)を決定する処理の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、表示部による表示処理の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、表示部により表示されるグラフの一例を示す図である。
図9図9は、表示部により表示されるグラフの一例を示す図である。
図10図10は、表示部により表示されるグラフの一例を示す図である。
図11図11は、操業時の入力電力(入熱)を決定する処理の変形例を示すフローチャートである。
図12図12は、CPDダイヤグラムの例を示す図である。
図13図13は、実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らは、操業前の試し溶接で得られた情報を基に、操業時におけるCPDダイヤグラムの情報を予測することを検討した。試し溶接は、条件出しのための溶接である。試し溶接では、ある溶接速度で、入力電力を低い値から徐々に変化させて溶接し、溶接状態を観察して、入力電力と溶接状態の関係を示す情報を取得する。この検討において、発明者らは、溶接速度及び入力電力を変化させた場合の溶接状態の遷移を詳細に観察した結果、操業時におけるCPDダイヤグラムについて、以下のような知見を得た。
【0017】
図2は、CPDダイヤグラムの例を示す図である。溶融限界の線Bは、溶接速度vと、溶融入力電力Qmとの関係を示す。溶融入力電力Qmは、金属板の両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である。溶接速度vが臨界溶接速度Vmより小さい範囲(v<Vm)では、溶融限界の線Bは、第1種溶接状態と第2種溶接状態との境界となる。
【0018】
スパッタ発生限界の線Aは、溶接速度vと、スパッタ発生入力電力Qsとの関係を示す。スパッタ発生入力電力Qsは、衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力である。溶接速度vが、臨界溶接速度Vmより大きい範囲(v>Vm)では、スパッタ発生限界の線は、第1種溶接状態と第2種溶接状態との境界となる。
【0019】
2段収束型形状発生限界の線Cは、溶接速度vと、2段収束入力電力Qwとの関係を示す。2段収束入力電力Qwは、衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である。溶接速度vが、臨界溶接速度Vmより大きい範囲(v>Vm)において、2段収束型形状発生限界の線は、第2種溶接状態と、2段収束型第2種溶接状態との境界となる。
【0020】
図3は、第1種溶接状態、第2種溶接状態及び2段収束型第2種溶接状態を説明するための図である。図3は、第1種溶接状態、第2種溶接状態及び2段収束型第2種溶接状態のそれぞれにおいて観察される衝合部を径方向外側から見た図を含む。また、図3は、衝合部において突き合わされる金属板の両端の金属管の軸方向から見た断面図も含む。
【0021】
図3に示すように、第1種溶接状態では、金属板の両端がV字に収束して接触するV1点が溶接点(W点)となる。第2種溶接状態では、幾何学的V収束点(V0点)が、金属板の両端が接触するV1点となる。また、V0点の下流側にスリットが発生する。スリットは、金属板の厚み方向に貫通する。2段収束型第2種溶接状態では、V0点の造管方向の下流にV1点が位置し、V0点の造管方向の下流側にスリットが発生する。なお、造管方向は、金属板及び金属管の搬送方向である。
【0022】
溶接過程は、加熱、溶融及び排出の3つの過程を含む。加熱過程では、衝合部に対する高周波電圧の印加によって金属板の両端の温度が上昇する。これに伴って表面の酸化膜形成が促進される。溶融過程では、金属板の両端が溶融する。十分な熱量(入力電力)が投入された理想的な状態では、溶融過程において、金属板の端面が全面に渡って溶融する。この場合、両端の溶融した部位が、高周波電流による電磁力によって逐次、突き合わせ面の表裏面に流出する。突き合わされる金属板の両端が互いに近づく接近速度と、電磁力によって両端の溶融した部位が排出される排出速度のバランスがある条件を満たす場合に、衝合部にスリットが発生する。また、排出過程では、スクイズロールによるアプセットが両端に適正に加えられる。この過程で、メタルフローが立つとともに、残留している酸化物は溶融した金属と共に突き合わせ面から排出される。この時、入力電力が十分でない場合(図2において線Bより低入熱側)、金属板の両端の溶融が不十分となる。この場合、アプセットを加えても溶着しない(冷接あるいは未溶着)状態となる。一方、入熱が過多の第3種溶接状態では、スリットが極端に長くなる。この状態の時にスリット上流側で短絡が起きると、下流側の電磁力の消失によって溶融金属がスリット内に逆流する現象(還流)が発生する。また,アプセットも十分に伝わらないことから酸化物が適正に排出されない。その結果、酸化物の残留に起因したペネトレータ欠陥が発生する。第2種溶接状態又は2段収束型第2種溶接状態では、適正に加熱及び排出が行われる。また、第1種溶接状態でかつ線Aと線Bで囲まれる領域の状態においても、適正に加熱及び排出が行われる。そのため、これらの状態においては、欠陥の少ない高品質の溶接部位が得られると考えられている。
【0023】
第2種溶接状態は、図2に示すスパッタ発生限界の線Aと溶融限界の線Bの交点に当たる臨界溶接速度Vm以上の溶接速度において、入力電力がスパッタ発生限界の線A線以上となる場合に、安定的に発現すると考えられている。
【0024】
CPDダイヤグラムにおけるスパッタ発生限界の線A、溶融限界の線B及び2段収束型形状発生限界の線Cは、操業における諸条件によって異なる。例えば、製造する金属管の条件(例えば、金属管の外径、板厚等)、及び、使用する設備に関する条件(例えば、高周波電源、給電子の配置、スクイズロールのアプセット、V収束角等)により、CPDダイヤグラムの線A、B、Cは変化し得る。発明者らは、操業時の諸条件に適合するCPDダイヤグラムを生成することを検討した。発明者らは、操業時のCPDダイヤグラムにおけるスパッタ発生限界の線A、溶融限界の線B、及び2段収束型形状発生限界の線Cの少なくとも1つを計算して、操業時の現溶接速度及び現入力電力とともに視認可能な形で表示する構成に想到した。これにより、操業時の溶接状態と、溶接速度及び入力電力との関係を示す情報が提供できる。この情報は、操業時の溶接状態を、目的とする状態に近づけることを格段に容易にする。
【0025】
また、発明者らは、様々な条件で実験を行い、どのようにすれば、実際の条件に合うCPDダイヤグラムの線を決定できるかを検討した。操業時に表示するCPDダイヤグラムが操業時の溶接状態の制御に貢献するためには、ある程度高い精度でCPDダイヤグラムの線を算出することが求められる。試行錯誤の結果、スパッタ発生限界の線Aを、第1溶接速度v1で金属板を搬送する時の溶融入力電力Qm(v1)から求めることができることを見出した。また、発明者らは、溶融限界の線Bを、第1溶接速度v1で金属板を搬送する時のスパッタ発生入力電力Qs(v1)から求めることができることを見出した。溶融入力電力Qm(v1)、又はスパッタ発生入力電力Qs(v1)は、例えば、試し溶接、又は、過去の試し溶接結果を用いた演算等により決定することができる。
【0026】
さらに、発明者らは、2段収束型形状発生限界の線Cを、第1溶接速度v1で金属板を搬送する時の2段収束入力電力Qw(v1)から求めることができることを見出した。2段収束入力電力Qw(v1)は、例えば、試し溶接、又は、過去の試し溶接結果を用いた演算等により決定することができる。
【0027】
発明者らは、上記の知見を基に、下記の製造方法、製造装置及びプログラムに想到した。
【0028】
本発明の実施形態における金属管の製造方法は、金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう突き合わせて接触させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造方法である。
前記製造方法は、溶融入力電力Qm(v1)、スパッタ発生入力電力Qs(v1)、及び、2段収束入力電力Qw(v1)のうち、少なくとも1つを決定する工程を含む。前記溶融入力電力Qm(v1)は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部における前記金属板の両端の端面が全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である。前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力である。前記2段収束入力電力Qw(v1)は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である。
前記製造方法は、溶融限界データ、スパッタ発生限界データ、及び、2段収束限界データのうち、少なくとも1つを生成する工程を含む。前記溶融限界データを生成する処理は、前記第1溶接速度v1における前記溶融入力電力Qm(v1)を用いて、前記金属板の前記両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qmと、溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成する処理である。前記スパッタ発生限界データを生成する処理は、前記第1溶接速度v1における前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)を用いて、前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qsと溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する処理である。前記2段収限界データを生成する処理は、前記第1溶接速度v1における前記2段収束入力電力Qw(v1)を用いて、前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である2段収束入力電力Qwと、溶接速度vとの関係を示す2段収束限界データを生成する処理である。
前記製造方法は、前記溶融限界データ、前記スパッタ発生限界データ、及び、前記2段収束限界データのうち少なくとも1つと、造管時の現入力電力及び現溶接速度とを、同時に視認可能な状態で表示装置に表示する工程とを有する。
【0029】
上記製造方法では、溶融限界データ、スパッタ発生限界データ、及び、2段収束限界データの少なくとも1つが生成される。溶融限界データは、図2に示すCPDダイヤグラムにおける溶融限界の線Bが示す情報に相当する。スパッタ発生限界データは、図2に示すCPDダイヤグラムにおけるスパッタ発生限界の線Aが示す情報に相当する。2段収束限界データは、図2に示すCPDダイヤグラムにおける2段収束型形状発生限界の線Cが示す情報に相当する。
【0030】
上記製造方法では、第1溶接速度v1における溶融入力電力Qm(v1)を決定し、この溶融入力電力Qm(v1)を用いて、溶融入力電力Qmと溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成する。これにより、実際の操業時の溶接環境に適合する溶融限界データを生成できる。この溶融限界データは、造管時の現入力電力及び現溶接速度と同時に視認可能な状態で表示装置に表示される。そのため、現入力電力及び現溶接速度が、金属板の両端の端面を全面に渡って溶融する状態が発生する条件に対してどの位置にあるかを示す情報が提供される。すなわち、ERWの操業時における溶接速度及び入力電力と、金属板端面の全面溶融が発生する溶接状態との関係を示す情報を提供できる。
【0031】
溶融限界データは、例えば、v1、Qm(v1)、及び溶接速度vに対する溶融入力電力Qmの変化率を用いて生成できる。溶接速度vに対する溶融入力電力Qmの変化率は、溶融限界の線Bの傾きを示す値である。発明者らは、溶接速度v1における溶融入力電力Qm(v1)と、溶接速度vに対する溶融入力電力Qmの変化率(線Bの傾き)を用いることで、操業時すなわち実際の溶接環境における溶融限界の線Bをより精度良く計算することを見出した。溶接速度vに対する溶融入力電力Qmの変化率(線Bの傾き)は、近似式又は予め用意した対応データによって、予測できることを発明者らは見出している。この変化率は、例えば、予め記録された値を用いることができる。なお、上記変化率の値は、操業時の溶接条件に応じて決定された値であってもよい。
【0032】
上記製造方法では、スパッタ発生入力電力Qs(v1)を決定し、このスパッタ発生入力電力Qs(v1)を用いて、スパッタ発生入力電力Qsと溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する。これにより、実際の操業時の溶接環境に適合するスパッタ発生限界データを生成できる。このスパッタ発生限界データは、造管時の現入力電力及び現溶接速度と同時に視認可能な状態で表示装置に表示される。そのため、現入力電力及び現溶接速度が、衝合部にスリットが発生するのに必要な条件に対してどの位置にあるかを示す情報が提供される。すなわち、ERWの操業時における溶接速度及び入力電力と、衝合部にスリットが発生する溶接状態との関係を示す情報を提供できる。
【0033】
スパッタ発生限界データは、例えば、v1、Qs(v1)、及び溶接速度vに対するスパッタ発生入力電力Qsの変化率を用いて生成できる。溶接速度vに対するスパッタ発生入力電力Qsの変化率は、スパッタ発生限界の線Aの傾きを示す値である。発明者らは、溶接速度v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)と、溶接速度vに対するスパッタ発生入力電力Qsの変化率(線Aの傾き)を用いることで、操業時すなわち実際の溶接環境におけるスパッタ発生の線Aをより精度良く計算することを見出した。溶接速度vに対するスパッタ発生入力電力Qsの変化率(線Aの傾き)は、近似式又は予め用意した対応データによって、予測できることを発明者らは見出している。この変化率は、例えば、予め記録された値を用いることができる。なお、上記変化率の値は、操業時の溶接条件に応じて決定された値であってもよい。
【0034】
上記製造方法では、第1溶接速度v1における2段収束入力電力Qw(v1)を決定し、2段収束入力電力Qw(v1)を用いて、2段収束入力電力Qwと溶接速度vとの関係を示す2段収束限界データを生成する。これにより、実際の操業時の溶接環境に適合する2段収束限界データを生成できる。この2段収束限界データは、造管時の現入力電力及び現溶接速度と同時に視認可能な状態で表示装置に表示される。そのため、現入力電力及び現溶接速度が、衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な条件に対してどの位置にあるかを示す情報が提供される。すなわち、ERWの操業時における溶接速度及び入力電力と、衝合部に2段収束型形状が発生する溶接状態との関係を示す情報を提供できる。
【0035】
2段収束限界データは、例えば、v1、Qw(v1)、及び溶接速度vに対する2段収束入力電力Qwの変化率を用いて生成できる。溶接速度vに対する2段収束入力電力Qwの変化率は、2段収束型形状発生限界の線Cの傾きを示す値である。発明者らは、溶接速度v1における2段収束入力電力Qw(v1)と、溶接速度vに対する2段収束入力電力Qwの変化率(線Cの傾き)を用いることで、操業時すなわち実際の溶接環境における2段収束型形状発生限界の線Cをより精度良く計算することを見出した。溶接速度vに対する2段収束入力電力Qwの変化率(線Cの傾き)は、近似式又は予め用意した対応データによって、予測できることを発明者らは見出している。この変化率は、例えば、予め記録された値を用いることができる。なお、上記変化率の値は、操業時の溶接条件に応じて決定された値であってもよい。
【0036】
上記製造方法によれば、目的とする溶接状態を実現するための溶接速度及び/又は入力電力の設定及び制御が容易になる。すなわち、要求される溶接状態に適した操業中の溶接速度及び/又は入力電力の設定及び制御が可能となる。なお、第1溶接速度v1は、必ずしも操業時の溶接速度と同じでなくてもよい。
【0037】
上記の溶融限界データ、スパッタ発生限界データ、及び、2段収束型限界データのうちいずれを計算し、表示するかは、必要に応じて選択できる。例えば、溶融限界データ、スパッタ発生限界データ、及び、2段収束型限界データをうちいずれか1つのみを算出し表示してもよい。また、例えば、溶融限界データ、スパッタ発生限界データ、及び、2段収束型限界データを全て算出し表示してもよい。この場合、第1種溶接状態、第2種溶接状態、及び2段収束型第2種溶接状態の全ての溶接状態をカバーする情報を提供できる。また、例えば、溶融限界データ及びスパッタ発生限界データを計算し、表示してもよい。この場合、特に、第1種溶接状態又は第2種溶接状態で操業する際に有用な情報を提供できる。また、例えば、スパッタ発生限界データ及び2段収束限界データを計算し、表示してもよい。この場合、特に、第2種溶接状態又は2段収束型第2種溶接状態で操業する際に有用な情報を提供できる。
【0038】
前記溶融限界データは、前記溶融入力電力Qmを溶接速度vで表す式Qm(v)であって、溶接速度vのべき乗βの項vβ(β:定数)を含む式Qm(v)を含んでもよい。これにより、精度の高い溶融限界データが得られる。前記溶接速度vのべき乗βは、例えば、0.4≦β≦0.7であってもよい。これにより、溶融限界データの精度をより高めることができる。一例として、前記式Qm(v)は、下記式によって決定されてもよい。
Qm(v)=Qm(v1)×[(v/v1)β
【0039】
前記スパッタ発生限界データは、前記スパッタ発生入力電力Qsを溶接速度vで表す式Qs(v)であって、溶接速度vのべき乗αの項vα(α:定数)を含む式Qs(v)を含んでもよい。これにより、精度の高いスパッタ発生限界データが得られる。前記溶接速度vのべき乗αは、例えば、0.5≦α≦0.9であってもよい。これにより、スパッタ発生限界データの精度をより高めることができる。一例として、前記式Qs(v)は、下記式によって決定されてもよい。
Qs(v)=Qs(v1)×[(v/v1)α
【0040】
前記2段収束限界データは、前記2段収束入力電力Qwを溶接速度vで表す式Qw(v)であって、溶接速度vのべき乗γの項を含む式Qw(v)を含んでもよい。これにより、精度の高い2段収束限界データが得られる。発明者らは、実験を繰り返し、実験結果のデータを解析することで、Qwを、溶接速度vのべき乗γで、精度よく表すことができることを見出した。前記溶接速度vのべき乗γは、例えば、0.6≦γ≦1.0とすることができる。これにより、2段収束限界データの精度をより高めることができる。一例として、前記式Qw(v)は、下記式によって決定されてもよい。
Qw(v)=Qw(v1)×[(v/v1)γ
【0041】
上記製造方法において、前記第1溶接速度v1における溶融入力電力Qm(v1)、前記第1溶接速度v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)及び前記第1溶接速度v1における2段収束入力電力Qw(v1)をいずれも決定し、且つ、前記溶融限界データ、前記スパッタ発生限界データ、及び前記2段収束限界データを生成してもよい。この場合、前記べき乗α、β、γは、γ>α>βであることが好ましい。これにより、2段収束限界データ、溶融限界データ及びスパッタ発生限界データの精度を高めることができる。同様の観点から、上記べき乗γは、γ>β、γ>αであってもよい。また、一例として、溶融限界データ及びスパッタ発生限界データを生成し表示する場合、α>βであってもよい。
【0042】
上記製造方法において、前記第1溶接速度v1で前記金属板を搬送しながら、前記衝合部に供給する入力電力を変化させて、前記第1溶接速度v1における溶融入力電力Qm(v1)、前記第1溶接速度v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)、又は、前記第1溶接速度v1における2段収束入力電力Qw(v1)を決定してもよい。
【0043】
上記製造方法において、前記第1溶接速度v1で前記金属板を搬送しながら、前記衝合部に供給する入力電力を変化させて、前記衝合部を、前記金属板の径方向外側から撮影した画像を用いて、前記衝合部における前記金属板の両端の端面が全面に渡って溶融しているか否かを判断することで、前記第1溶接速度v1における溶融入力電力Qm(v1)を決定してもよい。このように、第1溶接速度v1で入力電力を変化させながら衝合部を撮影して得られる画像を用いることで、衝合部の金属板の両端が全面にわたって溶融する時の入力電力を決めることができる。
【0044】
上記製造方法において、前記第1溶接速度v1で前記金属板を搬送しながら、前記衝合部に供給する入力電力を変化させて、前記衝合部を、前記金属板の径方向外側から撮影した画像を用いて、前記衝合部にスリットが発生しているか否かを判断することで、前記第1溶接速度v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)を決定してもよい。このように、第1溶接速度v1で入力電力を変化させながら、衝合部を撮影して得られる画像を用いることで、衝合部にスリットが発生する時の入力電力を決めることができる。
【0045】
上記製造方法において、前記第1溶接速度v1で前記金属板を搬送しながら、前記衝合部に供給する入力電力を変化させて、前記衝合部を、前記金属板の径方向外側から撮影した画像を用いて、前記衝合部に2段収束型形状が発生しているか否かを判断することで、前記第1溶接速度v1における2段収束入力電力Qw(v1)を決定してもよい。このように、第1溶接速度v1で入力電力を変化させながら衝合部を撮影して得られる画像を用いることで、衝合部に2段収束型形状が発生する時の入力電力を決めることができる。
【0046】
上記製造方法において、予め保存されている値を補正することで、前記第1溶接速度v1における溶融入力電力Qm(v1)、前記第1溶接速度v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)、又は、前記第1溶接速度v1における2段収束入力電力Qw(v1)を決定してもよい。これにより、Qm(v1)、Qs(v1)又はQw(v1)を決定するための試し運転を省略することができる。例えば、過去の試し運転又は過去の操業における、溶融限界入力電力、スパッタ発生限界入力電力又は2段収束入力電力の値を補正することで、Qm(v1)、Qs(v1)又はQw(v1)を決定することができる。上記補正は、例えば、操業時の溶接条件に基づいて行われてもよい。例えば、造管中に、前記衝合部を、前記金属板の径方向外側から撮影した画像から得られる値を用いて、前記予め保存されている値を補正することで、第1溶接速度v1におけるQm(v1)、Qs(v1)又はQw(v1)を決定することもできる。
【0047】
本発明の実施形態における製造方法は、下記の工程を有してもよい。
第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部における前記金属板の両端の端面が全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qm(v1)、又は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qs(v1)を決定する工程。
前記第1溶接速度v1における前記溶融入力電力Qm(v1)を用いて、前記金属板の前記両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qmと、溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成するか、又は、前記第1溶接速度v1における前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)を用いて、前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qsと溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する工程。
前記溶融限界データ又は前記スパッタ発生限界データと、造管時の現入力電力及び現溶接速度とを同時に視認可能な状態で表示装置に表示する工程。
【0048】
上記製造方法は、溶接条件に基づいて、前記金属板の前記溶融入力電力Qmと、前記スパッタ発生入力電力Qsとが同じになる臨界溶接速度Vmを決定する工程をさらに有してもよい。この場合、前記溶融限界データ又は前記スパッタ発生限界データに加えて、前記臨界溶接速度Vmを、造管時の現入力電力及び現溶接速度と同時に視認可能な状態で表示装置に表示してもよい。
【0049】
臨界溶接速度Vmは、V0点において、衝合部における金属板の両端の端面が全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qmと、衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qsとが同じになる時の溶接速度である。言い換えれば、「溶融入力電力」と、「接近速度と後退速度(離反速度)が等しくなる電力」とが同じになるときの溶接速度である。接近速度は、衝合部付近における金属板の両端が互いに接近する速度である。後退速度は、衝合部付近における金属板の両端の溶融した部位が流出することにより、両端が互いに離れる速度である。
【0050】
図2に示すCPDダイヤグラムでは、スパッタ発生限界の線Aと溶融限界の線Bとの交点における溶接速度がVmとなる。臨界溶接速度Vmを、現入力電力及び現溶接速度と同時に視認可能な状態で表示することにより、現入力電力及び現溶接速度と、溶接状態との関係が、より把握しやすくなる。
【0051】
臨界溶接速度Vmは、溶接条件に基づいて決定することができる。溶接条件は、予め決められた溶接条件であってもよい。この溶接条件は、操業時すなわち造管時の溶接条件とすることができる。溶接条件は、例えば、溶接対象の金属管の条件(例えば、金属管の材料、板厚、外径等)及び設備に関する条件(例えば、高周波電源、給電子の配置、スクイズロールのアプセット、V収束角等)の少なくとも1つを含んでもよい。溶接条件を示す値とVmの値との対応関係を示す対応データを用いて、操業時の溶接条件に対応するVmの値を決定することができる。対応データは、例えば、溶接条件の値を変数(パラメータ)とする数式(関数)であってもよいし、溶接条件の値の組み合わせとVmとの対応関係を示すマップ又はテーブルのような関係データであってもよい。
【0052】
上記製造方法は、前記スパッタ発生限界データを用いて、前記臨界溶接速度Vmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)すなわち前記臨界溶接速度Vmにおける溶融入力電力Qm(Vm)を決定する工程と、前記臨界溶接速度Vmにおける溶融入力電力Qm(Vm)を用いて、前記溶融入力電力Qmと、溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成する工程と、をさらに有してもよい。この場合、スパッタ発生限界データを用いてスパッタ発生入力電力Qs(Vm)が決定される。例えば、図2に示すスパッタ発生限界の線Bの臨界溶接速度Vmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)が計算できる。Qs(Vm)は、すなわち、臨界溶接速度Vmにおける溶融入力電力Qm(Vm)である。例えば、図2に示すように、臨界溶接速度Vmにおいて、溶融入力電力Qm(Vm)とスパッタ発生入力電力Qs(Vm)は等しい。例えば、溶融入力電力Qm(Vm)と、溶融限界の線Bの傾きの予測値を用いることで、実際の溶接環境すなわち操業時における溶融限界の線Bを計算することができる。
【0053】
前記溶融限界データは、前記溶融入力電力Qmを溶接速度vで表す式Qm(v)であって、溶接速度vのべき乗の項を含む式Qm(v)を含み、Qm(v)は、下記式によって決定されてもよい。
Qm(v)=Qm(Vm)×[(v/Vm)β
【0054】
上記製造方法は、前記溶融限界データを用いて、前記臨界溶接速度Vmにおける溶融入力電力Qm(Vm)すなわち前記臨界溶接速度Vmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)を決定する工程と、前記臨界溶接速度Vmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)を用いて、前記スパッタ発生入力電力Qsと、溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する工程と、をさらに有してもよい。この場合、溶融限界データを用いて溶融入力電力Qm(Vm)すなわちスパッタ発生入力電力Qs(Vm)が決定される。例えば、図2に示す溶融限界の線Aの臨界溶接速度Vmにおける溶融入力電力Qm(Vm)が計算できる。Qm(Vm)は、すなわち、Qs(Vm)である。例えば、スパッタ発生入力電力Qs(Vm)と、溶融限界の線Aの傾きの予測値を用いることで、実際の溶接環境すなわち操業時におけるスパッタ発生限界の線Aを計算することができる。
【0055】
前記スパッタ発生限界データは、前記スパッタ発生入力電力Qsを溶接速度vで表す式Qs(v)であって、溶接速度vのべき乗の項を含む式Qs(v)を含み、Qs(v)は、下記式によって決定されてもよい。
Qs(v)=Qs(Vm)×[(v/Vm)α
【0056】
上記製造方法では、前記2段収束限界データ、前記溶融限界データ及び前記スパッタ発生限界データの少なくとも1つを用いて、造管時の入力電力の範囲を決定し、前記表示装置に表示してもよい。2段収束限界データは、例えば、図2における線Cを示す。線Cは、2段収束型第2種溶接状態と、第2種溶接状態との境界となる。溶融限界データは、例えば、図2における溶融限界の線Bを示す。線Bは、溶接速度がVm未満の場合、第1種溶接状態と第2種溶接状態の境界となる。また、線Bは、溶接速度がVmより速い場合に、適正の加熱及び排出が行われる領域の下限となる。スパッタ発生限界データは、例えば、図2におけるスパッタ発生限界の線Aを示す。線Aは、溶接速度がVmより速い場合に、第1種溶接状態と第2種溶接状態の境界となる。そのため、2段収束限界データ、溶融限界データ及びスパッタ発生限界データの少なくともいずれかを用いることにより、目的とする溶接状態を得るための造管時すなわち操業時の入力電力の範囲を適切に設定することができる。入力電力の範囲を表示することで、操業時において目的とする溶接状態を得るための入力電力の制御がより容易になる。なお、前記溶融限界データ及び前記スパッタ発生限界データの両方を用いて、造管時の入力電力の範囲を決定することができる。
【0057】
上記製造方法では、前記2段収束限界データ、前記溶融限界データ及び前記スパッタ発生限界データの少なくとも1つを用いて、造管時の入力電力の範囲を決定し、造管時の入力電力を、前記決定した範囲内になるよう制御してもよい。これにより、操業時において目的とする溶接状態を得るための入力電力の制御がより容易になる。例えば、操業時において、前記2段収束限界データ、溶融限界データ及びスパッタ発生限界データの少なくとも一方に基づいて制御される入力電力により溶接が行われる。これにより、要求される溶接状態に適した操業中の入力電力の制御が可能となる。
【0058】
なお、前記溶融限界データ及び前記スパッタ発生限界データの両方を用いて、造管時の入力電力の範囲を決定し、造管時の入力電力を、前記決定した範囲内になるよう制御することができる。例えば、図2に示す溶接限界の線Bと、スパッタ発生限界の線Aを求めることで、所望の溶接状態を実現するための溶接速度及び入力電力の範囲を示す情報を得ることができる。一例として、第1種溶接状態で溶接して造管する場合、溶接速度をv1(v1>Vm)とすると、操業時の入力電力の上限をQs(v1)、下限をQm(v1)とすることができる。
【0059】
上記製造方法は、第1基準値、第2基準値又は第3基準値を算出する工程を有してもよい。前記第1基準値については、前記溶融限界データを用いて、第2溶接速度v2で溶接する場合に金属板の両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qm(v2)を、前記第1基準値として算出する。前記第2基準値については、前記スパッタ発生限界データを用いて、前記第2溶接速度v2で溶接する場合に前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qs(v2)を第2基準値として算出する。前記第3基準値については、前記2段収束限界データを用いて、前記第2溶接速度v2で溶接する場合に衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である2段収束入力電力Qw(v2)を、第3基準値として算出する。前記製造方法は、前記第1基準値Qm(v2)、前記第2基準値Qs(v2)及び前記第3基準値Qw(v2)の少なくとも1つを用いて、造管時の入力電力の範囲を決定する工程と、前記第2溶接速度v2で前記金属板を搬送しながら、前記衝合部に、前記決定した範囲の入力電力を供給して前記溶接を行う工程と、をさらに有してもよい。このように、2段収束限界データ、スパッタ発生限界データ又は溶融限界データの生成に用いられたQw(v1)、Qm(v1)、Qs(v1)の第1溶接速度v1とは異なる第2溶接速度v2におけるQs(v2)、Qm(v2)、Qs(v2)を用いて、第2溶接速度v2における入力電力の範囲を決定することができる。これにより、例えば、造管時すなわち操業時の溶接速度が、第1溶接速度v1と異なる第2溶接速度v2である場合に、第2溶接速度v2における適切な入力電力の範囲を決定することができる。例えば、試し溶接の時の溶接速度を、第1溶接速度v1とし、操業時の溶接速度を、第2溶接速度v2としてもよい。この場合、試し溶接における溶接速度の自由度が高くなる。これにより、効率よく試し溶接を行うことができる。
【0060】
例えば、試し溶接の第2溶接速度v2を、操業時の第1溶接速度v1より小さくしてもよい。試し溶接の溶接速度を小さくすることで、試し溶接で造られる金属管の量を抑えることができる。
【0061】
例えば、試し溶接の第2溶接速度v2を、臨界溶接速度Vmより小さく、操業時の第1溶接速度v1を臨界溶接速度Vmより大きくすることが可能である。これにより、臨界溶接速度Vmより大きい溶接速度で造管する場合にも、臨界溶接速度Vmより小さい溶接速度で試し溶接ができる。そのため、試し溶接で造られる金属管の量を抑えることができる。
【0062】
なお、上記監視方法を実現する装置、並びに、上記監視方法をコンピュータに実行させるためのプログラム及びそのプログラムを記録した記録媒体も、本発明の実施形態に含まれる。
【0063】
本発明の実施形態における製造装置は、金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう突き合わせて接触させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造装置である。前記製造装置は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部における前記金属板の両端の端面が全面に渡って溶融するのに必要な溶融入力電力Qm(v1)、又は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qs(v1)を決定する溶接状態変化点決定部と、前記第1溶接速度v1における前記溶融入力電力Qm(v1)を用いて、前記金属板の前記両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qmと、溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成するか、又は、前記第1溶接速度v1における前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)を用いて、前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qsと溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する限界データ生成部と、前記溶融限界データ又は前記スパッタ発生限界データと、造管時の現入力電力及び現溶接速度とを、同時に視認可能な状態で表示装置に表示する表示部とを備える。
【0064】
本発明の実施形態における製造装置は、金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう突き合わせて接触させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造装置である。
前記製造装置は、溶融入力電力Qm(v1)、スパッタ発生入力電力Qs(v1)及び2段収束入力電力Qw(v1)のうち少なくとも1つを決定する溶接状態変化点決定部を備える。前記溶融入力電力Qm(v1)は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部における前記金属板の両端の端面が全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である。前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力である。前記2段収束入力電力Qw(v1)は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である。
前記製造装置は、溶融限界データ、スパッタ発生限界データ及び2段収束限界データの少なくとも1つを生成する限界データ生成部を備える。前記限界データ生成部は、前記第1溶接速度v1における前記溶融入力電力Qm(v1)を用いて、前記金属板の前記両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qmと、溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成する。前記限界データ生成部は、前記第1溶接速度v1における前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)を用いて、前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qsと溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する。前記限界データ生成部は、前記第1溶接速度v1における前記2段収束入力電力Qw(v1)を用いて、前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である2段収束入力電力Qwと、溶接速度vとの関係を示す2段収束限界データを生成する。
前記製造装置は、前記前記溶融限界データ、前記スパッタ発生限界データ、及び、前記2段収束限界データのうち少なくとも1つと、造管時の現入力電力及び現溶接速度とを、同時に視認可能な状態で表示装置に表示する表示部とを備える。
【0065】
本発明の実施形態におけるプログラムは、金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう突き合わせて接触させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造に用いられるプログラムである。前記プログラムは、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部における前記金属板の両端の端面が全面に渡って溶融するのに必要な溶融入力電力Qm(v1)、又は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qs(v1)を決定する処理と、前記第1溶接速度v1における前記溶融入力電力Qm(v1)を用いて、前記金属板の前記両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qmと、溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成するか、又は、前記第1溶接速度v1における前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)を用いて、前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qsと溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する処理と、前記溶融限界データ又は前記スパッタ発生限界データと、造管時の現入力電力及び現溶接速度とを、同時に視認可能な状態で表示装置に表示する処理と、をコンピュータに実行させる。
【0066】
本発明の実施形態におけるプログラムは、金属板を搬送方向に搬送して円筒状に成形しつつ、前記金属板の周方向の両端を、径方向外側から見てV字状になるよう突き合わせて接触させ、前記両端が接触する衝合部に交流電流を流すことにより溶融金属を形成して溶接する金属管の製造に用いられるプログラムである。
前記プログラムは、溶融入力電力Qm(v1)、スパッタ発生入力電力Qs(v1)及び2段収束入力電力Qw(v1)のうち、少なくとも1つを決定する処理をコンピュータに実行させる。前記溶融入力電力Qm(v1)は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部における前記金属板の両端の端面が全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qm(v1)である。前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力である。前記2段収束入力電力Qw(v1)は、第1溶接速度v1で前記金属板を搬送する時に前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である。
前記プログラムは、溶融限界データを生成する処理、スパッタ発生限界データを生成する処理、及び、2段収束限界データを生成する処理うち少なくとも1つの処理をコンピュータに実行させる。前記溶融限界データを生成する処理は、前記第1溶接速度v1における前記溶融入力電力Qm(v1)を用いて、前記金属板の前記両端の端面を全面に渡って溶融するのに必要な最低入力電力である溶融入力電力Qmと、溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成する処理である。前記スパッタ発生限界データを生成する処理は、前記第1溶接速度v1における前記スパッタ発生入力電力Qs(v1)を用いて、前記衝合部にスリットが発生するのに必要な最低入力電力であるスパッタ発生入力電力Qsと溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する処理である。前記2段収束限界データを生成する処理は、前記第1溶接速度v1における前記2段収束入力電力Qw(v1)を用いて、前記衝合部に2段収束型形状が発生するのに必要な最低入力電力である2段収束入力電力Qwと、溶接速度vとの関係を示す2段収束限界データを生成する処理である。
前記プログラムは、前記溶融限界データ、前記スパッタ発生限界データ、及び、前記2段収束限界データのうち少なくとも1つと、造管時の現入力電力及び現溶接速度とを、同時に視認可能な状態で表示装置に表示する処理をコンピュータに実行させる。
【0067】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0068】
[実施形態]
<電縫鋼管の製造システム>
図4は、本発明の実施形態に係る電縫鋼管の製造システムの構成の一例を示す図である。尚、本実施形態では、電縫鋼管の製造システムの各構成要素の位置と、撮像された画像の位置は、それぞれ同一の3次元直交座標(x,y,z座標)で表されるものとする。すなわち、各図に示すx,y,z座標は、その方向のみを示すものであり、その原点の位置は各図において同一であるものとする。
【0069】
図4において、電縫鋼管の製造システムは、スクイズロール2a、2bと、コンタクトチップ3a、3bと、インピーダー4と、撮像装置5と、溶接速度測定装置13と、溶接速度制御装置14と、表示装置15と、高周波電源6と、管理システム100と、を有する。管理システム100は、記録部105にアクセス可能となっている。
【0070】
まず、電縫鋼管の製造設備の概要を説明する。図4に示すように、帯状の鋼板1がx軸の正の方向に向かって搬送されながら、ロール群(図示せず)により連続的に円筒状に成形される。円筒状に成形される鋼板1の内部には、磁束を鋼板1の衝合部に集中させるためのインピーダー4が配置されている。高周波電源6から高周波の電力が供給されると、一対のコンタクトチップ3a、3bから、鋼板1のV字状に収束する領域の表面に高周波電流が流れる。コンタクトチップ3a、3bは、給電子の一例である。コンタクトチップ3a、3bは、鋼板1に接触した状態で電流を供給する接触型の給電子である。給電子は、非接触型であってもよい。例えば、鋼板1に接触しない状態で、鋼板1に誘導電流を発生させる誘導コイル(ワークコイル)を給電子としてもよい。このとき、スクイズロール2a、2bにより、鋼板1に対してその両側方から押圧力が加えられる。これにより、鋼板1の周方向の両端11a、11bをV字状に収束させながら突き合わせて接触させる。両端11a、11bが接触する衝合部を高周波電流により加熱し溶融させて、鋼板1を溶融接合する。このような溶融接合は、電縫溶接(ERW)と称される。尚、以下の説明では、「鋼板1のV字状に収束する領域」を必要に応じて「V字収束領域」と称する。V字収束領域は、衝合部を含む領域である。また、鋼板1の周方向の両端11a、11bが突き合わされて、1本の線状に観察される部分を必要に応じて「溶接線」と称する(図4の溶接線12を参照)。
【0071】
撮像装置5は、V字収束領域の表面を含む領域の自発光パターン(輻射パターン)を撮像する。撮像装置5としては、例えば、1920×512の画素を有するカラーカメラが用いられる。撮像装置5は、例えば、撮影視野が50[mm]×190[mm]、分解能が100[μm/画素]、撮影フレームレートが40[fps]、露光時間が1/10000[sec]の条件で、V字収束領域の表面を含む領域を撮像する。撮像装置5による撮像は一定の時間間隔で連続的に行われる。連続的に撮像された複数の画像における一枚の画像をフレームと呼ぶ。また、以下の説明では、撮像装置5で撮像された「画像」を必要に応じて「V字収束領域の画像」と称する。
【0072】
管理システム100は、撮像装置5で撮像されたV字収束領域の画像を入力する。そして、管理システム100は、V字収束領域の画像に対する処理等を行って、溶接状態を監視する。すなわち、画像処理の結果として、溶接状態を示すデータが生成される。溶接状態を示すデータとして、例えば、衝合部における鋼板1の両端11a、11bの形状が、2段収束型形状となっているか否かを示すデータ、衝合部における鋼板1の両端11a、11bの端面が全面に渡って溶融しているか否かを示すデータ、又は、衝合部にスリットが発生しているか否かを示すデータが生成される。管理システム100は、画像処理により得られる溶接状態を示すデータに基づいて、溶接条件を決定する。
【0073】
管理システム100は、溶接速度制御装置14を介して、溶接速度を制御する。溶接速度制御装置14は、例えば、鋼管の搬送速度を制御する装置である。この場合、鋼管の搬送速度制御により、溶接速度が制御される。溶接速度は、例えば、スクイズロールや各種成形ロールの回転数を制御することにより制御される。また、管理システム100は、溶接速度測定装置13で測定された溶接速度を取得する。管理システム100は、溶接速度測定装置13で測定された溶接速度に基づいて、溶接速度を制御(フィードバック制御)してもよい。例えば、管理システム100は、溶接速度が一定になるように制御してもよい。溶接速度測定装置13は、鋼管の搬送ラインに配置された速度センサを含む構成としてもよい。また、溶接速度測定装置13は、スクイズロールその他のロールの回転速度を利用して溶接速度を検出してもよい。
【0074】
また、管理システム100は、高周波電源6から衝合部へ入力される入力電力を制御する。例えば、管理システム100は、高周波電源6の電圧及び電流の少なくとも一方を制御することで、衝合部へ入力される入力電力を制御することができる。なお、管理システム100は、高周波電源6の電圧及び電流を測定する。管理システム100は、測定された電圧及び電流に基づいて、高周波電源6から衝合部へ入力される入力電力を推定することができる。
【0075】
このように、管理システム100は、溶接の状態を監視する監視装置と、監視結果に基づいて溶接を制御する制御装置とを含むことができる。監視装置は、上記の撮像装置5で撮像された画像の他にも、必要に応じて、溶接条件に関する情報を取得してもよい。例えば、コンタクトチップ3a、3b及び高周波電源6の出力値、スクイズロール2a、2bの圧力、ロール間距離等、溶接に用いられる装置の動作を示す情報を取得することができる。
【0076】
また、管理システム100は、溶接速度と入力電力が制御されて金属板が溶接される期間において、V字収束領域の画像を取得する。例えば、管理システム100は、溶接速度を一定に保った状態で高周波電源6から衝合部への入力電力を変化させる。入力電力を変化させる期間において、衝合部の画像を取得する。これにより、管理システム100は、鋼板を制御された速度で搬送しながら、衝合部に供給する入力電力を変化させて、溶接状態を監視することができる。
【0077】
管理システム100は、溶接速度v1で金属板を搬送して試し溶接を行って溶接状態を監視することにより、v1における溶融限界の溶融入力電力Qm(v1)を決定する。管理システム100は、この溶融入力電力Qm(v1)と臨界溶接速度Vmを用いて、図2のCPDダイヤグラムにおける溶融限界の線B及びスパッタ発生限界の線Aに相当するデータを算出する。また、管理システム100は、v1における2段収束入力電力Qw(v1)を決定する。Qw(v1)を用いて、図2のCPDダイヤグラムにおける2段収束型形状発生限界の線Cに相当するデータを算出する。管理システム100は、これらの線A、B、Cの情報を、造管中に検出される現入力電力及び現溶接速度と同時に視認可能な状態で、表示装置15に表示する。また、管理システム100は、これらの線A、B、Cの情報を用いて、操業中の入力電力を制御する。
【0078】
図5は、管理システム100の構成例を示す機能ブロック図である。管理システム100は、溶接状態変化点決定部101、限界データ生成部102、臨界溶接速度決定部103、及び表示部104を備える。溶接状態変化点決定部101は、第1溶接速度v1における2段収束入力電力Qw(v1)、第1溶接速度v1における溶融入力電力Qm(v1)、及び、第1溶接速度v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)の少なくとも1つを決定する。限界データ生成部102は、2段収束入力電力Qw(v1)を用いて、2段収束入力電力Qwと溶接速度vとの関係を示す2段収束限界データを生成するか、溶融入力電力Qm(v1)を用いて、溶融入力電力Qmと溶接速度vとの関係を示す溶融限界データを生成するか、又は、スパッタ発生入力電力Qs(v1)を用いて、スパッタ発生入力電力Qsと溶接速度vとの関係を示すスパッタ発生限界データを生成する。限界データ生成部102は、2段収束限界データ、溶融限界データ及びスパッタ発生限界データのうち2つ以上を生成してもよい。
【0079】
臨界溶接速度決定部103は、溶接条件に基づいて、溶融入力電力Qmとスパッタ発生入力電力Qsとが同じになる臨界溶接速度Vmを決定する。表示部104は、限界データ生成部102が生成した溶融限界データ又はスパッタ発生限界データ、及び臨界溶接速度決定部103が決定した臨界溶接速度Vmを、造管時の現入力電力及び現溶接速度と同時に視認可能な状態で表示装置に表示する。
【0080】
管理システム100は、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータによって構成される。溶接状態変化点決定部101、限界データ生成部102、臨界溶接速度決定部103、及び表示部104の各部は、1又は複数のコンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。そのようなプログラム及びそのプログラムを記録した非一時的(non-transitory)な記録媒体も、本発明の実施形態の一例である。プロセッサは、メモリに記録されたプログラムに従って処理を実行する。プログラムは、上記の溶接状態変化点決定部101、限界データ生成部102、臨界溶接速度決定部103、及び表示部104を提供するためのプロセッサに対する命令を含むことができる。
【0081】
本実施形態の鋼管の製造方法では、試し溶接をして入熱(入力電力)条件を設定した後、設定した入熱条件で、造管すなわち操業してもよいし、試し溶接を省略して過去のデータを用いて入熱条件を設定した後、操業してもよい。以下では、一例として、試し溶接をして入熱条件を設定する処理を説明する。図6は、入熱条件設定処理の一例を示すフローチャートである。
【0082】
<入熱条件設定処理>
[S1:試し溶接における溶接状態の監視]
図6に示す例では、まず、S1において、管理システム100は、溶接速度v1で、入力電力を変化させながら鋼板の試し溶接を行う。溶接速度v1は、条件だしのための溶接速度である。試し溶接における溶接速度は、例えば、操業時の溶接速度を同じにすることができる。また、試し溶接における入力電力以外の条件は、操業時の条件と同じにすることが好ましい。管理システム100は、試し溶接において入力電力を変化させている期間において、撮像装置5で撮影された衝合部の画像を取得する。管理システム100は、取得した画像を基に、溶接状態を判定する。これにより、試し溶接で入力電力を変化させている期間において溶接状態の変化を検出することができる。
【0083】
ステップS1では、一例として、管理システム100は、溶接速度v1を臨界溶接速度Vm以上(v1≧Vm)とすることができる。図2に示すように、溶接速度vがVm以上かつ入力電力Qがスパッタ発生入力電力Qsより低い場合(v≧Vm、Q<Qs)、第1種溶接状態となる。溶接速度vがVm以上かつ入力電力がスパッタ発生入力電力Qs以上の場合(v≧Vm、Q≧Qs)、第2種溶接状態となる。溶接速度vがVm以上かつ入力電力が2段収束入力電力Qw以上の場合(v≧Vm、Q≧Qw)、2段収束型第2種溶接状態となる。そのため、溶接速度v1がVm以上の場合、入力電力Qがスパッタ発生入力電力Qsを超えると、溶接部においてスパッタが発生する。すなわち、スパッタ発生入力電力Qsを境にして、溶接状態が、第1種溶接状態から第2種溶接状態に変化する。また、2段収束入力電力Q2を境にして、溶接状態が、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態に変化する。そのため、管理システム100は、Vm以上の溶接速度v1で溶接中に、溶接状態が、第1種溶接状態から第2種溶接状態に変化したことを検出した時の入力電力を、スパッタ発生入力電力Qs(v1)と決定することができる。また、管理システム100は、Vm以上の溶接速度v1で溶接中に、溶接状態が、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態に変化したことを検出した時の入力電力を、2段収束入力電力Qw(v1)と決定することができる。
【0084】
S1において、管理システム100は、溶接部の画像を処理することにより溶接状態を判定してもよい。画像処理による溶接状態の判定は、例えば、特許第5510615号公報(上記特許文献1)に開示がある。ここで、図3を参照して、画像処理により溶接状態を判定する処理例を説明する。管理システム100は、溶接部を金属管の径方向外側から撮影した画像において、V0、V1、W点の位置を計算する。V0、V1、W点の位置から溶接状態を判定することができる。この判定処理は、例えば、次の処理を含む。撮影画像の所定の範囲で、鋼板の両端の2つの線(V字形状又はテーパー形状)を画像処理で認識する。認識する2つの線は、直線とする。鋼板の両端の2つの線の認識は、例えば、画像を2値化して、2値化画像において鋼板の両端の位置を特定する処理、又は、エッジ抽出処理により抽出されたエッジから所定の条件を満たすものを鋼板の両端のエッジとして特定する処理、等が含まれてもよい。鋼板の両端として認識された2つの線の交点をV0点と認識することができる。上記2つの線の成す角θ(V収束角θ)が求められてもよい。V0点を通る溶接線近傍において、造管方向の上流から輝度を確認してV1点及びW点の座標を求める。例えば、溶接上流側から見て最初に輝度が(閾値より)小さくなる点をV1点として、座標を求める。V1点からさらに造管方向の下流において輝度を確認し、輝度が(閾値より)大きくなる領域の最も下流の点をW点として、座標を求める。
【0085】
管理システム100は、V0点とV1点の分離状況から2段収束型第2種溶接状態の判断を行う。例えば、V0点とV1点の距離と閾値との比較により2段収束型第2種溶接状態の判定ができる。また、管理システム100は、V1点とW点の分離状況から、第1種溶接状態の判定を行う。例えば、V1点とW点の距離と閾値との比較により第1種溶接状態の判定ができる。
【0086】
この判定処理は、例えば、次のような基準に基づいて実行することができる。第1種溶接状態の時は、V0、V1、W点が同じ座標になる。第2種溶接状態又は第3種溶接状態の時は、V0、V1点が同じ座標で、W点がV0、V1点と異なる座標となる。2段収束型第2種溶接状態の時は、V0、V1、W点が異なる座標となる。
【0087】
なお、θ、及びV0、V1、W点の計算は、上記例に限られない。例えば、θ、及びV0、V1、W点の座標は、連続して撮影された複数の画像(フレーム)における座標の移動平均により算出してもよい。これにより、判定精度を向上させることができる。また、W点は、溶接線の最も下流側の座標と、移動平均値の両方を用いることで判定することもできる。これにより、判定精度を向上させることができる。スリットが生成されている場合、スリットは、常時伸縮を繰り返しているためである。
【0088】
また、機械学習により得られた学習済みモデルを用いた画像処理により、θの値、V0、V1、W点の位置を決定してもよい。或いは、衝合部における金属板の両端の端面が全面に渡って溶融しているか否かの判断、衝合部にスリットが発生しているか否かの判断、及び、衝合部に2段収束型形状が発生しているか否かの判断の少なくとも1つを、機械学習により得られた学習済みモデルを用いて行うことができる。機械学習は、例えば、ニューラルネットワーク(NN)を用いた深層学習(ディープラーニング)であってもよい。このように、人工知能(AI)を用いた画像処理によって溶接状態を判断してもよい。
【0089】
[S2:v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)の決定]
図6のステップS1の溶接状態の監視において、管理システム100は、溶接状態の変化を検出すると、検出した溶接状態の変化に基づいて、v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)を決定する(S2)。管理システム100は、例えば、溶接速度v1で入力電力を上昇させて溶接する間において、アーキング開始時の入力電力をスパッタ発生入力電力Qs(v1)と決定することができる。
【0090】
アーキング開始は、撮像装置5で撮影された衝合部の画像を処理することで検出することができる。画像処理によるアーク検出の例は、例えば、特開2016-078056号公報に開示されている。アーク検出の処理は、例えば、V1点とW点の間のスリットを含む領域をアーク検出領域として抽出する処理と、アーク検出領域におけるアークの発生を検出する処理を含んでもよい。V1点とW点の位置の検出は、例えば、赤色成分又は青色成分の画像データを2値化した2値化画像に対して、ブロッブ(Blob)毎にラベルを付ける処理、ラベルが付けられた画像に基づいて、V0点、V1点及びW点の位置を検出する処理を含んでもよい。アークの発生の検出は、上記のブロッブ各々のアスペクト比が所定の条件を満たすか否かを判定する処理を含んでもよい。例えば、アスペクト比が0.3~0.5のブロッブがある場合に、アーク発生有りと判定することができる。
【0091】
なお、スパッタ発生入力電力Qs(v1)を決定する処理は、上記のアーキング開始の検出に基づくものに限られない。たとえば、V1点とW点の間の距離の変化に基づいて、溶接状態が、第1種溶接状態から第2種溶接状態に変化したことを検出してもよい。例えば、溶接速度v1(v1>Vm)で入力電力を上昇させた場合に、溶接状態が、第1種溶接状態から第2種溶接状態に変化した時の入力電力を、v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)と決定することができる。
【0092】
[S3:v-Qs線の生成]
ステップS3において、管理システム100は、ステップS2で決定したQs(v1)を用いて、溶接速度vとスパッタ発生入力電力Qsとの関係(v-Qs関係)を示すスパッタ発生限界データを生成する。例えば、図2に示すスパッタ発生限界の線Aは、v-Qs関係を示す。発明者らは、所定の溶接条件においては、スパッタ発生限界の線Aは、溶接速度vの0.6乗の項を含む式で近似できるという知見を得ている。すなわち、スパッタ発生入力電力Qsの溶接速度vに対する変化率は、溶接速度vの0.6乗となる場合がある。このような場合は、CPDダイヤグラムにおいて、S2で決定したスパッタ発生入力電力Qs(v1)の点を通り、溶接速度vの0.6乗の傾きを持つ線を、スパッタ発生限界の線Aとすることができる。スパッタ発生限界データは、例えば、スパッタ発生限界の線Aの関数Qs(v)とすることができる。また、スパッタ発生限界データは、線A上の複数の点を示す離散値Qs(va1)、Qs(va2)、・・・、Qs(vaN)(Nは整数)とすることができる。
【0093】
なお、管理システム100は、予め記録されたQsのvに対する変化率(線Aの傾き)を示すデータを用いて、v-Qs関係を示すスパッタ発生限界データを生成することができる。例えば、複数の様々な溶接条件のそれぞれに対応するスパッタ発生限界の線Aの傾きを示すデータを、予め記録部105に記録しておくことができる。管理システム100は、記録部105から、溶接の対象とする金属管の溶接条件に対応するスパッタ発生限界の線Aの傾きを読み出す。S2で決定したスパッタ発生入力電力Qs(v1)の点を通り、記録部105から読み出した傾きを持つ線を、v-Qs関係を示すスパッタ発生限界の線Aとすることができる。溶接条件は、例えば、金属管のサイズ又は鋼種等とすることができる。スパッタ発生限界の線Aの傾きを示すデータは、例えば、溶接速度vのべき乗の値としてもよい。
【0094】
本実施形態では、一例として、v-Qs関係を示すデータとして、下記式(1)で示す関数Qs(v)が生成されるものとする。

Qs(v)=Qs(v1)×[(v/v1)α] (1)
α:定数(例えば、α=0.6)
【0095】
上記式(1)におけるαは、線Aの傾きを示す値の一例である。αの値は、0.6に限られない。αは、0.5≦α≦0.9であることが好ましい。
【0096】
[S4:v1における2段収束入力電力Qw(v1)の決定]
図6のステップS4の溶接状態の監視において、管理システム100は、v1における2段収束入力電力Qw(v1)を決定する(S4)。管理システム100は、例えば、溶接速度v1で入力電力を上昇させて溶接する間において、2段収束型第2種溶接状態が検出された時の入力電力を2段収束入力電力Qcr(v1)と決定することができる。2段収束入力電力Qw(v1)は、溶接速度v1において、2段収束型第2種溶接状態が発生する最低入力電力である。管理システム100は、例えば、溶接速度v1で入力電力を上昇させて溶接する間において、衝合部における鋼板の両端の形状に、2段収束型の形状が現れた時の入力電力を2段収束入力電力Qw(v1)と決定することができる。具体的には、2段収束型第2種溶接状態の検出は、例えば、撮像装置5で撮影された衝合部の画像から得られるV0点とV1点の距離が閾値を超えるか否かにより判断することができる。
【0097】
なお、2段収束入力電力Qw(v1)を決定する処理は、上記のV0点とV1点の距離に基づくものに限られない。例えば、衝合部における鋼板の両端の形状の変化に基づいて、溶接状態が、第2種溶接状態から2段収束型第2種溶接状態に変化したことを検出してもよい。
【0098】
[S5:v-Qwの生成]
ステップS5において、管理システム100は、ステップS4で決定したQw(v1)を用いて、溶接速度vと2段収束入力電力Qwとの関係(v-Qw関係)を示す2段収束限界データを生成する。例えば、図2に示す2段収束限界の線Cは、v-Qw関係を示す。発明者らは、所定の溶接条件においては、2段収束限界の線Cは、溶接速度vの0.7乗の項を含む式で近似できるという知見を得ている。すなわち、2段収束入力電力Qwの溶接速度vに対する変化率は、溶接速度vの0.7乗となる場合がある。このような場合は、CPDダイヤグラムにおいて、S4で決定した2段収束入力電力Qw(v1)の点を通り、溶接速度vの0.7乗の傾きを持つ線を、2段収束限界の線Cとすることができる。2段収束限界データは、例えば、2段収束限界の線Cの関数Qw(v)とすることができる。また、2段収束限界データは、線C上の複数の点を示す離散値Qw(va1)、Qw(va2)、・・・、Qw(vaN)(Nは整数)とすることができる。
【0099】
なお、管理システム100は、予め記録されたQwのvに対する変化率を示すデータを用いて、v-Qw関係を示す2段収束限界データを生成することができる。例えば、複数の様々な溶接条件のそれぞれに対応する2段収束限界の線Cの傾きを示すデータを、予め記録部105に記録しておくことができる。管理システム100は、記録部105から、溶接の対象とする金属管の溶接条件に対応する2段収束限界の線Cの傾きを読み出す。S4で決定した2段収束入力電力Qw(v1)の点を通り、記録部105から読み出した傾きを持つ線を、v-Qw関係を示す2段収束限界の線Cとすることができる。溶接条件は、例えば、金属管のサイズ又は鋼種等とすることができる。2段収束限界の線Cの傾きを示すデータは、例えば、溶接速度vのべき乗の値としてもよい。
【0100】
本実施形態では、一例として、v-Qw関係を示すデータとして、下記式(2)で示す関数Qw(v)が生成されるものとする。

Qw(v)=Qw(v1)×[(v/v1)γ] (2)
γ:定数(例えば、γ=0.7)
【0101】
上記式(2)におけるγは、線Cの傾きを示す値の一例である。γの値は、0.7に限られない。γは、0.6≦γ≦1.0であることが好ましい。
【0102】
[S6:臨界溶接速度Vmの取得]
ステップS6において、管理システム100は、臨界溶接速度Vmを取得する。管理システム100は、例えば、予め記録されたデータから対象とする金属管に合う臨界溶接速度Vmを取得することができる。この場合、複数の溶接条件のそれぞれに対応する臨界溶接速度Vmを予め管理システム100が記録部105に記録しておくことができる。各溶接条件における臨界溶接速度Vmは、例えば、実験により求めることができる。S6において、管理システム100は、操業時の溶接条件に対応する臨界溶接速度Vmを、記録部105から読み出すことで、操業時の溶接条件に応じた臨界溶接速度Vmを取得することができる。
【0103】
ここで、臨界溶接速度Vmを求める方法の一例を説明する。まず、対象とする製造システムで、Vmより大きいと予想される溶接速度域における少なくとも2つの溶接速度(vn1、vn2、・・・)で、入力電力を変化させて対象となる金属管の溶接を行い、溶接状態を取得する。入力電力を変化させる範囲は、冷接発生状態を発生させる入力電力Qcから、第2種溶接状態(又は2段収束型第2種溶接状態)を発生させる入力電力Q2までの範囲とする。溶接状態は、扁平試験、断面マクロ試験、周波数変動波形計測、及び、溶接部画像計測のうち少なくとも1つを実施することで得られる。溶接速度及び入力電力の各条件について、溶接状態は、(1)冷接発生状態の範囲、(2)冷接発生しない第1種溶接状態の範囲、(3)第2種溶接状態の範囲、(4)2段収束型第2種溶接状態の範囲、(5)第3種溶接状態の範囲のいずれになるかを判定する。
【0104】
上記の2つ以上の溶接速度(vn1、vn2、・・・)の各々における(1)と(2)の境界となる入力電力(Qc2(vn1)、Qc2(vn2)、・・・)の値を用いて、CPDダイヤグラムにおける溶融限界の線B(図2参照)の予測線を算出する。線Bの予測線は、例えば、溶接速度のべき乗の関数とすることができる。また、上記の2つ以上の溶接速度(vn1、vn2、・・・)における(2)と(3)の境界となる入力電力(Q23(vn1)、Q23(vn2)、・・・)の値を用いて、スパッタ発生限界の線A(図2参照)の予測線を算出する。線Aの予測線は、例えば、溶接速度のべき乗の関数とすることができる。線Bの予測線と、線Aの予測線の交点における溶接速度を臨界溶接速度Vmとして算出する。
【0105】
或いは、Vmより大きいと予想される溶接速度域における1つの溶接速度vn1で、入力電力を変化させて対象となる金属管の溶接を行い、溶接状態を取得してもよい。この場合、例えば、溶接速度vn1における(1)と(2)の境界となる入力電力Qc2(vn1)を通り、溶接速度vの0.5乗の傾きを持つ線を、線Bの予測線として算出することができる。また、例えば、溶接速度vn1における(2)と(3)の境界となる入力電力Q23(vn1)を通り、溶接速度vの0.6乗の傾きを持つ線を、線Aの予測線として算出することができる。これらの線Bの予測線と線Aの予測線の交点における溶接速度をVmとして算出する。
【0106】
或いは、管理システム100は、溶接条件を示すパラメータを用いてVmの値を計算してもよい。例えば、金属板の板厚t、給電距離L、V収束角θを用いて、下記式(2)によって、Vmを計算することができる。なお、給電距離Lは、金属管に交流電流を流すための給電子(接触子とも称される)からV0点までの距離とすることができる。

Vm=K×t-1.0×L-0.5×θ-1.5 (3)
K:定数
【0107】
給電距離Lは、L=L0-LV0によって求められる。L0は、給電子(例えば、コンタクトチップ又はワークコイル)からスクイズロールセンター(SQC)までの距離である。LV0は、幾何学的V収束点(V0点)からスクイズロールセンター(SQC)までの距離である。L0は、造管前の機械の調整段階までに実測することが好ましい。LV0は、造管前に実測するか、又は、造管中すなわち溶接中に上方からカメラで溶接部を撮影した画像を用いて、目視又は画像処理により計測することができる。V収束角θも、LV0と同様に、造管前に実測するか、又は、溶接中の溶接部(衝合部)の画像を用いて、目視又は画像処理により計測することができる。
【0108】
上記式(3)に用いるLV0、θの計測は、第2種溶接状態の時に撮影された溶接部(衝合部)の画像を用いて計測されることが好ましい。これにより、算出値の精度を向上させることができる。上記式(3)のL、θの乗数は、スパッタ発生限界から2段収束型形状発生限界の間のL、θを用いて決定されたものだからである。例えば、溶接速度v1の場合、スパッタ発生入力電力Qs(v1)と2段収束入力電力Qw(v1)の間の入力電力の時に、LV0及びθを計測することが好ましい。スパッタ発生入力電力Qsにおける溶接部の画像によりLV0及びθを計測することがより好ましい。
【0109】
このようにして、製造システムの様々な複数の溶接条件のそれぞれについてVmを測定し、管理システム100がアクセス可能な記録部105(メモリ)にVmデータとして、予め記録しておくことができる。この場合、管理システム100は、S6において、対象の溶接条件に対応するVmを、予め記録されたVmデータから選択することができる。または、試し溶接において測定された給電距離L、V収束角θ、及び対象とする金属板の板厚tを上記式に代入して、Vmを算出することもできる。
【0110】
[S7:Vmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)算出]
管理システム100は、S3で生成したv-Qs線上においてv=Vmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)を算出する(S7)。例えば、管理システム100は、S3で生成したvとQsの関係を示す線Aと、S6で取得したVmとを用いて、VmにおけるQs(Vm)を算出する。図2に示すように、Vmにおいて、スパッタ発生限界の線A(v-Qsの関係を示す線)は、溶融限界の線B(v-Qmの関係を示す線)と交差する。そのため、臨界溶接速度Vmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)は、Vmにおける溶融入力電力Qm(Vm)と等しい(Qs(Vm)=Qm(Vm))。
【0111】
一例として、下記式(4)に示すように、v-Qs関係を示す上記式(1)に、v=Vmを代入して、Qs(Vm)を算出することができる。Qs(Vm)は、Qm(Vm)と等しい。

Qs(Vm)=Qs(v1)×[(Vm/v1)α]=Qm(Vm) (4)
【0112】
[S8:v-Qm線の生成]
ステップS8において、管理システム100は、ステップS7で決定したQs(Vm)=Qm(Vm)を用いて、溶接速度vと溶融入力電力Qmとの関係(v-Qm関係)を示す溶融限界データを生成する。例えば、図2に示す溶融限界の線Bは、v-Qm関係を示す。発明者らは、所定の溶接条件においては、溶融限界の線Bは、溶接速度vの0.5乗の項を含む式で近似できるという知見を得ている。すなわち、溶融入力電力Qmの溶接速度vに対する変化率は、溶接速度vの0.5乗となる場合がある。このような場合は、CPDダイヤグラムにおいて、S7で決定したVmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)=Qm(Vm)の点を通り、溶接速度vの0.5乗の傾きを持つ線を、溶融限界の線Bとすることができる。溶融限界データは、例えば、溶融限界の線Bの関数Qm(v)とすることができる。また、溶融限界データは、線B上の複数の点を示す離散値Qm(va1)、Qm(va2)、・・・、Qm(vaN)(Nは整数)とすることができる。
【0113】
なお、管理システム100は、予め記録されたQmのvに対する変化率を示すデータを用いて、v-Qm関係を示すデータを生成することができる。例えば、複数の様々な溶接条件に対応する溶融限界の線Bの傾きを示すデータを予め記録部105に記録しておくことができる。管理システム100は、記録部105から、溶接の対象とする金属管の溶接条件に対応する溶融限界の線Bの傾きを読み出す。S7で決定したQm(Vm)の点を通り記録部105から読み出した傾きを持つ線を、v-Qm関係を示す溶融限界の線Bとすることができる。
【0114】
本実施形態では、一例として、v-Qm関係を示すデータとして、下記式(5)で示す関数Qm(v)が生成されるものとする。

Qm(v)=Qm(Vm)×[(v/Vm)β] (5)
β:定数(例えば、β=0.5)
【0115】
上記式(5)におけるβは、線Bの傾きを示す値の一例である。βの値は、0.5に限られない。βは、0.4≦β≦0.7であることが好ましい。
【0116】
[S9:操業時の入力電力の範囲を決定]
管理システム100は、操業時すなわち造管時の入力電力の範囲を決定する(S9)。S9では、例えば、S3で生成されたスパッタ発生限界データ、S5で生成された2段収束限界データ及びS8で生成された溶融限界データの少なくとも1つを用いて、操業時の入力電力の範囲を決定することができる。
【0117】
例えば、臨界溶接速度Vm以上の溶接速度での操業において第2種溶接状態又は2段収束型第2種溶接状態での溶接を目指す場合は、管理システム100は、CPDダイヤグラムにおいて、スパッタ発生限界データが示すv-Qs線よりも上の領域に、操業時の入力電力の範囲を設定する。また、臨界溶接速度Vm以上の溶接速度での操業において、第1種溶接状態での溶接を目指す場合は、CPDダイヤグラムにおいて、スパッタ発生限界が示すv―Qs線と、溶融限界データが示すv-Qm線の間の領域に、操業時の入力電力の範囲を設定することができる。また、臨界溶接速度Vm以下の溶接速度での操業において、第2種溶接状態の溶接を目指す場合は、CPDダイヤグラムにおいて、v-Qm線より上の領域に、操業時の入力電力の範囲を設定することができる。2段収束型第2種溶接状態の溶接を目指す場合は、CPDダイヤグラムにおいて、2段収束限界データが示すc-Qw線より上の領域に、操業時の入力電力の範囲を設定することができる。また、臨界溶接速度Vm以下の溶接速度での操業において、第1種溶接状態の溶接を目指す場合は、CPDダイヤグラムにおいて、v-Qm線より下の領域に、操業時の入力電力の範囲を設定することができる。
【0118】
具体例として、操業時の溶接速度が、第1溶接速度v1であり、Vm以上である場合、管理システム100は、Qs(v1)又はQm(v1)の値を基準として、操業時の入力電力の範囲を決めることができる。例えば、操業時の入力電力の上限Ppmax及び下限Ppminを、下記式(6)(7)のように設定することができる。これにより、第2種溶接状態又は2段収束型第2種溶接状態を実現するための操業時の入力電力の範囲を設定できる。

Ppmax=Qs(v1)×κ1 (6)
Ppmin=Qs(v1)×κ2 (7)
κ1>κ2
又は、Ppmax及びPpminを、例えば、下記式(8)(9)のように設定することで、第1種溶接状態を実現するための操業時の入力電力の範囲を設定することができる。

Ppmax=Qs(v1)×κ3(κ3<1) (8)
Ppmin=Qm(v1)×κ4(κ4>1) (9)
【0119】
上記式(6)(7)において、Ppmax及びPpminの値が、Qw(v1)より大きくなるように、κ1及びκ2を設定することで、2段収束型第2種溶接状態を実現するための操業時の入力電力の範囲を設定することができる。また、2段収束型第2種溶接状態を目指す場合は、上記(6)(7)の代わりに、例えば、下記式(10)(11)のように、Ppmax及びPpminを設定してもよい。

Ppmax=Qw(v1)×κ1 (10)
Ppmin=Qw(v1)×κ2 (11)
【0120】
なお、上記例のように操業時の入力電力の上限及び下限を設定する形態の他、操業時の入力電力の目標値を設定する形態も、入力電力の範囲設定の一例である。
【0121】
或いは、管理システム100は、操業開始時の溶接速度を第1溶接速度v1とは異なる第2溶接速度v2(v2>Vm)とし、入力電力Qoを、Qm(v2)<Qo<Qs(v2)の範囲で設定することができる。これにより、溶接速度v2で入力電力を変化させる試し溶接をしなくても、第1種溶接状態を実現するために適切な入力電力の初期値を設定することができる。そのため、試し溶接により造られる無駄な鋼管を少なくすることができる。
【0122】
なお、S7における入力電力の範囲設定処理は、上記例に限られない。例えば、溶融限界の線Bを表す関数Qm(v)から、操業中の入力電力の下限の線を示す関数を設定することができる。下記式(12)は、操業中の入力電力の下限線の一例である。

Ppmin=Qm(v)×κ5=Qm(v1)×[(v/v1)β]×κ5 (12)
κ5>1.0

また、スパッタ発生限界の線Aを表す関数Qs(v)から、操業中の入力電力の上限の線を示す関数を設定することができる。下記式(13)は、操業中の入力電力の上限線の一例である。

Ppmax=Qs(v)×κ6=Qs(v1)×[(v/v1)α]×κ6 (13)
κ6<1.0

この場合、管理システム100は、操業中の溶接速度vと入力電力Qが、上記式(12)の下限線と、上記式(13)の上限線の間になるように制御することができる。
【0123】
上記例では、試し溶接時の第1溶接速度v1は、操業時の第2溶接速度v2より小さい。これに対して、試し溶接時の第1溶接速度v1は、操業時の第2溶接速度v2と同じか又は大きくてもよい。また、第1溶接速度v1は、臨界溶接速度Vmより大きくてもよい。
【0124】
<表示処理>
図7は、表示部104による表示処理の例を示すフローチャートである。表示部104は、入力電力設定処理で決定された、溶融限界データ、スパッタ発生限界データ、2段収束限界データ、臨界溶接速度Vm及び操業時の入力電力の範囲を含むグラフを表示装置15に表示する(S21)。このグラフの横軸は溶接速度、縦軸は入力電力(入熱)を示す。図8は、表示部104により表示されるグラフの一例を示す図である。
【0125】
図8に示すグラフにおいて、溶融限界データが示すv-Qmの関係は線Bで示され、スパッタ発生限界データが示すv―Qsの関係は線Aで示される。2段収束限界データが示すv-Qsの関係は線Cで示される。また、図8に示すグラフには、臨界溶接速度Vm、Vm点、溶接速度v1におけるスパッタ発生入力電力Qs(v1)、溶接速度v1における2段収束入力電力Qw(v1)、操業下限、及び操業上限が表示される。操業下限及び操業上限は、例えば、上記式(6)(7)又は、上記式(10)(11)により計算された入力電力の値を示す線とすることができる。
【0126】
表示部104は、現在の溶接速度vp及び現在の入力電力Qpを取得する(図7のS22)。溶接速度vpは、例えば、溶接速度測定装置13で測定された溶接速度とすることができる。入力電力Qpは、例えば、高周波電源6の電圧Ep及び電流Ipに基づいて決定することができる。一例として、Qp=Ep×Ipとすることができる。
【0127】
表示部104は、現在の溶接速度vp及び現在の入力電力Qpを、グラフに表示する(S23)。図8に示す例では、現在の溶接速度vp及び現在の入力電力Qpの点が「操業条件」としてグラフにプロットされる。これにより、造管時の現入力電力及び現溶接速度と、溶融限界データ、スパッタ発生限界データ、2段収束限界データ、臨界溶接速度Vm、及び操業時の入力電力範囲とを、同時に視認可能な状態で表示することができる。
【0128】
図9は、表示部104により表示されるグラフの他の例を示す図である。図9に示すグラフでは、縦軸が入熱当量を示し、横軸が溶接速度を示す。入熱当量は、臨界溶接速度Vmにおける金属管の両端の端面が溶融するのに必要な最低入力電力Qvmを基準とした入力電力の値である。例えば、入熱当量は、Q/Qvmで表される。なお、本例では、Qvm=Qm(Vm)=Qs(Vm)である。このように、表示部104で表示される入力電力の情報は、入力電力によって調整される入熱量によって表されてもよい。また、表示される入力電力の基となる値は、推定値であってもよい。
【0129】
図9に示す例では、スパッタ発生限界データが示すv-Qsの関係は線A1で示される。溶融限界データが示すv-Qmの関係は線B1で示される。線A1は、例えば、vの(α-β)のべき乗の線であって、Qs(v1)/Qvmを通る線とすることができる。線B1は、Q/Qvm=1の線とすることができる。線C1は、例えば、vの(γ-β)のべき乗の線であって、Qw(v1)/Qvmを通る線とすることができる。また、現入力電力、2段収束入力電力、操業下限、及び操業上限も、Qvmを基準とした入熱当量として表示される。なお、図9に示すグラフを表示する場合は、入熱条件設定処理において、溶融限界データの生成処理(図6に示す例ではS8の処理)を省略してもよい。
【0130】
図10は、表示部104により表示されるグラフの他の例を示す図である。図10に示す例では、操業下限及び操業上限の形態が、図8に示す例と異なっている。図10に示す操業下限及び操業上限の線は、例えば、上記式(12)(13)で示される線とすることができる。
【0131】
表示部104によるグラフの表示により、溶接速度及び入力電力と、溶接状態との関係を示すCPDダイヤグラムにおいて、現溶接速度及び現入力電力がどの位置にあるかを示す情報を、電縫鋼管の製造システムのオペレータに提供することができる。オペレータは、操業中の現溶接速度及び現入力電力における溶接状態を瞬時に把握できる。そのため、オペレータは、溶接速度又は入力電力の少なくとも一方を、所望の溶接状態が実現できるように適切に制御することが可能になる。例えば、図8及び図9に示すグラフでは、操業条件が、操業上限及び操業下限の間の領域に位置するように溶接速度及び入力電力を調整することで、2段収束型第2種溶接状態を実現することができる。図10に示すグラフでは、操業条件が、操業上限及び操業下限の間の領域に位置するように溶接速度及び入力電力を調整することで、第1種溶接状態を実現することができる。
【0132】
<情報出力処理>
造管時の操業条件が、予め設定された操業条件(入力電力と溶接速度)の設定範囲を越えた場合に、その旨を報知する情報を出力することができる。情報の出力は、例えば、表示装置15への表示や、アラーム音又は音声の出力等であってもよい。また、操業条件が設定範囲を越えた状態で溶接された金属管の溶接位置を記録してもよい。溶接位置の記録は、例えば、鋼管に直接ペイントなどマーキング、又は、操業データに情報を記録する等であってもよい。これにより、金属管の溶接情報のトレーサビリティが実現できる。
【0133】
<制御処理>
管理システム100は、操業中の入力電力を、入熱条件設定処理で設定された入力電力の範囲に入るよう制御することができる。例えば、管理システム100は、高周波電源6の電圧及び電流の少なくとも一方を制御して、操業時の入力電力が、入熱条件設定処理(例えば、図6のs7の処理)で決定された入力電力の範囲内になるようにする。例えば、管理システム100は、制御装置14に、予め決められた操業時の溶接速度(例えば、v1)で、鋼板を搬送するよう指令を出す。管理システム100は、入力電力が、溶接速度v1における上限値及び下限値の間になるよう高周波電源6の電圧を制御する。溶接速度v1における上限値及び下限値は、入熱条件設定処理で決定された入力電力の範囲によって示される。
【0134】
なお、管理システム100による溶融量の制御は、高周波電源6の電圧及び電流の制御に限られない。例えば、スクイズロール、コンタクトチップ又はワークコイル等の給電子、その他の成形部品の位置を制御することで、溶融量を制御することができる。また、管理システム100は、溶接速度を制御することで、操業中の入力電量が、入熱条件設定処理で決定された入熱電力の範囲に入るように制御することができる。
【0135】
<入熱条件設定処理の変形例>
図11は、入熱条件設定処理の変形例を示すフローチャートである。図11に示す例では、S31において、溶接速度v1で、入力電力を変化させながら鋼板の試し溶接を行う。本例では、試し溶接における溶接速度v1は、操業時の溶接速度v2と異なる。また、溶接速度v1は、臨界溶接速度Vmより小さい(v1<Vm)。試し溶接で造られる鋼管は、出荷可能な製品とならないため、なるべく少ない事が好ましい。試し溶接における溶接速度を、操業時の溶接速度より小さくできれば、試し溶接でできる鋼管を少なくできる。そこで、本変形例では、操業時の溶接速度より小さい速度で試し溶接をして操業時の入力電力を決定する構成としている。
【0136】
図12は、本例における溶接速度v1、v2を含むCPDダイヤグラムの例を示す図である。図12に示すように、溶接速度vがVm以下かつ入力電力Qが溶融入力電力Qmより低い場合(v≦Vm、Q<Qm)、第1種溶接状態となる。溶接速度vがVm以下かつ入力電力が溶融入力電力Qm以上の場合(v≦Vm、Q≧Qm)、第2種溶接状態となる。そのため、溶接速度v1がVm以下の場合、入力電力Qが溶融入力電力Qmを超えると、溶接部においてスパッタが発生する。すなわち、溶融入力電力Qmを境にして、溶接状態が、第1種溶接状態から第2種溶接状態に変化する。言い換えれば、溶接速度v1がVm以下の場合は、溶融入力電力Qmは、第1種溶接状態と第2種溶接状態の境界の電力と等しい。そのため、管理システム100は、Vmより小さい溶接速度v1で溶接中に、溶接状態が、第1種溶接状態から第2種溶接状態に変化したことを検出した時の入力電力を、溶融入力電力Qm(v1)と決定することができる。
【0137】
[S32:v1における溶融入力電力Qm(v1)の決定]
図11のステップS31の溶接状態の監視において、管理システム100は、溶接状態の変化を検出すると、検出した溶接状態の変化に基づいて、v1における溶融入力電力Qm(v1)を決定する(S32)。管理システム100は、例えば、溶接状態が第1種溶接状態から第2種溶接状態に変化したことを検出した時の入力電力を、溶融入力電力Qm(v1)に決定することができる。
【0138】
[S33:v-Qm線の生成]
S33において、管理システム100は、ステップS32で決定したQm(v1)を用いて、溶接速度vと溶融入力電力Qmとの関係(v-Qm関係)を示すデータを生成する。例えば、図12に示す溶融限界の線Bが、v-Qm関係を示す。溶融限界の線Bは、例えば、溶接速度vの0.5乗の項を含む式で近似できる(一例として、上記式(4)参照)。この場合、CPDダイヤグラムにおいて、S32で決定した溶融入力電力Qm(v1)の点を通り、溶接速度vの0.5乗の傾きを持つ線を、溶融限界の線Bとすることができる。v-Qm関係を示す溶融限界データは、例えば、溶融限界の線Bの関数Qm(v)とすることができる。本実施形態では、一例として、v-Qm関係を示すデータとして、下記式で示す関数Qm(v)が生成されるものとする。
Qm(v)=Qm(v1)×[(v/v1)β
β:定数(例えば、β=0.5)
【0139】
[S34:臨界溶接速度Vmの取得]
S34において、管理システム100は、臨界溶接速度Vmを取得する。S34の処理は、図6のS6の処理と同様とすることができる。
【0140】
[S35:Vmにおける溶融入力電力Qm(Vm)算出]
管理システム100は、S33で生成したv-Qm線上においてv=Vmにおける溶融入力電力Qm(Vm)を、Vmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)として算出する(S35)。例えば、管理システム100は、S33で生成したvとQmの関係を示す線と、S34で取得したVmとを用いて、VmにおけるQm(Vm)を算出する。
【0141】
一例として、下記式(14)に示すように、v-Qm関係を示す上記式(4)に、v=Vmを代入して、Qm(Vm)を算出することができる。Qm(Vm)は、Qs(Vm)と等しい。

Qm(Vm)=Qm(v1)×[(Vm/v1)β]=Qs(Vm) (14)
【0142】
[S36:v-Qs線の生成]
ステップS36において、管理システム100は、ステップS35で決定したQs(Vm)を用いて、溶接速度vとスパッタ発生入力電力Qsとの関係(v-Qs関係)を示すスパッタ発生限界データを生成する。例えば、図12に示すスパッタ発生限界の線Aは、v-Qs関係を示す。所定の溶接条件においては、スパッタ発生限界の線Aは、溶接速度vの0.6乗の項を含む式で近似できる(一例として、上記式(1)参照)。このような場合は、CPDダイヤグラムにおいて、S35で決定したVmにおけるスパッタ発生入力電力Qs(Vm)=Qm(Vm)の点を通り、溶接速度vの0.6乗の傾きを持つ線を、スパッタ発生限界の線Aとすることができる。v-Qs関係を示すスパッタ発生限界データは、例えば、スパッタ発生限界の線Aの関数Qs(v)とすることができる。本実施形態では、一例として、v-Qs関係を示すデータとして、下記式で示す関数Qs(v)が生成されるものとする。
Qs(v)=Qs(Vm)×[(v/Vm)α
α:定数(例えば、α=0.6)
【0143】
[S37:溶接速度v2における溶融入力電力Qm(v2)を算出]
S37において、管理システムは、S37で生成されたv-Qm関係(図12に示す溶融限界の線B)を示すデータを用いて、溶接速度v2における溶融入力電力Qm(v2)を算出する。例えば、溶融限界の線Bを表す関数Qm(v)に、v=v2を代入することにより、Qm(v2)を算出することができる。溶接速度v2は、操業時の溶接速度とすることができる。本実施形態では、一例として、Qm(v2)は下記式(15)のようになる。

Qm(v2)=Qm(v1)×[(v2/v1)β] (15)
【0144】
[S38:溶接速度v2におけるスパッタ発生入力電力Qs(v2)を算出]
S38において、管理システムは、S6で生成されたv-Qs関係(図12に示すスパッタ発生限界の線A)を示すデータを用いて、溶接速度v2におけるスパッタ発生入力電力Qs(v2)を算出する。例えば、スパッタ発生限界の線Aを表す関数Qs(v)に、v=v2を代入することにより、Qs(v2)を算出することができる。本実施形態では、一例として、Qs(v2)は下記式(16)のようになる。

Qs(v2)=Qs(Vm)×[(v2/Vm)α] (16)
【0145】
[S39:操業時の入力電力を決定]
管理システム100は、S37で算出されたQm(v2)及びS38で算出されたQs(v2)の少なくとも一方を用いて、操業時の入力電力の範囲を決定する(S39)。例えば、管理システム100は、v2がVmより大きい場合、操業時の入力電力Qoの範囲を、Qm(v2)<Qo<Qs(v2)とすることができる。これにより、操業時の入力電力Qoが、図12に示すCPDダイヤグラムにおける線Aと線Bの領域に対応する範囲、すなわち、第1種溶接状態を実現できる範囲になるよう制御することができる。また、この場合、操業時の溶接速度v2より小さい溶接速度v1で入力電力を変化させる試し溶接が可能である。そのため、試し溶接により造られる無駄な鋼管を少なくすることができる。
【0146】
なお、S9における入力電力の制御処理は、上記例に限られない。例えば、溶融限界の線Bを表す関数Qm(v)から、操業中の入力電力の下限の線を示す関数を設定することができる。下記式(17)は、操業中の入力電力の下限線の一例である。

Qmin=Qm(v)×κ5=Qm(v1)×[(v/v1)β]×κ5 (17)
κ5>1.0

また、スパッタ発生限界の線Aを表す関数Qs(v)から、操業中の入力電力の上限の線を示す関数を設定することができる。下記式(18)は、操業中の入力電力の上限線の一例である。

Qmax=Qs(v)×κ5=Qs(Vm)×[(v/Vm)α]×κ6 (18)
κ6<1.0

この場合、管理システム100は、操業中の溶接速度vと入力電力Qoが、上記式(17)の下限線と(18)で示される上限線の間になるように制御することができる。
【0147】
上記の図11に示す処理によれば、操業時の溶接速度v2に対して、目的とする溶接状態にするための入力電力Qoの範囲を、溶融限界の線Bを示すデータQm(v)又は、スパッタ発生限界の線Aを示すデータQs(v)を基に決定することができる。そのため、目的とする溶接状態を実現するための入力電力Qoを適切に決定することができる。また、試し溶接の時の溶接速度v1は、必ずしも操業時の溶接速度v2と同じでなくてもよい。そのため、試し溶接における溶接速度の自由度が高くなる。これにより、効率よく試し溶接を行うことができる。
【0148】
<Qs(v1)、Qm(v1)決定処理の変形例>
上記例では、第1溶接速度v1で鋼板を搬送しながら、衝合部に供給する入力電力を変化させて、溶融入力電力Qm(v1)又はスパッタ発生入力電力Qs(v1)を決定している(図6のS2、図12のS32参照)。これらの処理の代わりに、予め保存されている値を補正することで、溶融入力電力Qm(v1)又はスパッタ発生入力電力Qs(v1)を決定することもできる。これにより、溶接速度v1での試し溶接を省略することができる。
【0149】
この場合、予め保存されている値は、例えば、過去の試し溶接又は操業で得られた溶接速度v3の溶融入力電力Qm(v3)、2段収束入力電力Qw(v3)又はスパッタ発生入力電力Qs(v3)の値とすることができる。溶接速度v3は、溶接速度v1と同じでもよいし異なっていてもよい。v3とv1が異なる場合、例えば、v3に対するv1の差(v3-v1)又は比(v1/v3)等の相違量を表す値を用いて、Qm(v3)、Qw(v3)又はQs(v3)の値を補正することで、Qm(v1)、Qw(v1)又はQs(v1)を決定することができる。
【0150】
また、溶融入力電力Qm(v3)、2段収束入力電力Qw(v3)又はスパッタ発生入力電力Qs(v3)は、溶接速度以外の溶接条件と対応付けられて保存されていてもよい。例えば、これらのQm(v3)、Qw(v3)、Qs(v3)の値が得られた溶接における、溶接する金属板の厚みt3、金属管の外径d3、及び衝合部の画像から得られる溶接条件(例えば、給電距離L3、V収束角θ)等が、Qm(v3)、Qw(v3)、Qs(v3)と対応付けて保存されてもよい。管理システム100は、Qm(v3)、Qw(v3)又はQs(v3)の溶接条件と、操業時の溶接条件との相違量を示す値を用いて、Qm(v3)、Qw(v3)又はQs(v3)を補正することができる。例えば、操業時に撮影された衝合部の画像から得られる溶接条件と、Qm(v3)、Qw(v3)、Qs(v3)に対応付けて保存された溶接条件との相違量を示す値を用いて、Qm(v3)、Qw(v3)、Qs(v3)を補正してもよい。
【0151】
<その他の変形例>
上記例では、溶接速度v1で入力電力を徐々に増加させて試し溶接を行う。この溶接速度v1の試し溶接により、溶融限界データ(v-Qm線)、スパッタ発生限界データ(v-Qs線)、及び2段収束限界データ(v-Qw線)が求められる。試し溶接は、少なくとも2つの異なる溶接速度で行われてもよい。すなわち、少なくとも2つの速度v11、v12で、それぞれ入力電力を徐々に増加させつつ、溶融入力電力Qm(v11)、Qm(v12)、スパッタ発生入力電力Qs(v11)、Qs(v12)、及び、2段収束入力電力Qw(v11)、Qw(v12)を求めてもよい。2つの速度v11、v12は、Vm未満(v11<Vm)とVm以上(v12≧Vm)とすることができる。例えば、Vm未満の溶接速度v11(v11<Vm)の試し溶接で、Qm(v11)を求めてv-Qm線を算出し、Vm以上の溶接速度v12(v12≧Vm)の試し溶接で、Qs(v12)、Qw(v12)を求めてv―Qs線、v-Qw線を算出してもよい。
【0152】
このように、2つ以上の異なる溶接速度の試し溶接で求めた値を用いることで、v-Qm線、v―Qs線、及びv-Qw線の精度を向上させることができる。製造する金属管のサイズ(板厚、又は外径)が変化すると、CPDダイヤグラムの各線は変化する。金属管のサイズが同じであっても、成形条件(例えば、ロールの各種設定)、給電子の位置等その他の条件が変化することで、V収束角又はV0が変化する場合がある。製造する金属管のサイズが同じでも製品ロットが変わるとロールの設定を再調整する場合がある。このように、造管の条件が微妙に変わる場合に、v-Qm線、v―Qs線、及びv-Qw線を高精度で求めることが有効である。
【0153】
上記図6に示す例では、溶融限界データ(v-Qm線)、スパッタ発生限界データ(v-Qs線)、及び2段収束限界データ(v-Qw線)を算出して、造管時に表示する。溶融限界データ(v-Qm線)、スパッタ発生限界データ(v-Qs線)、及び2段収束限界データ(v-Qw線)のうち少なくとも1つを算出して、造管時に表示してもよい。例えば、溶融限界データ(v-Qm線)及びスパッタ発生限界データ(v-Qs線)を算出し、2段収束限界データ(v-Qw線)を算出しない形態としてもよい。
【0154】
また、v-Qm線(線B)、v-Qs線(線A)及びv-Qw線(線C)を算出する際の溶接速度vのべき乗の値は、上記例に限られない。一例として、β=0.6とし、溶接速度vの0.6乗の傾きを持つ線を、溶融限界データであるv-Qm線(線B)として算出してもよい。また、一例として、α=0.8とし、溶接速度vの0.8乗の傾きを持つ線を、スパッタ発生限界データであるv-Qs線(線A)として算出してもよい。v-Qm線(線B)、v-Qs線(線A)及びv-Qw線(線C)の式も上記例に限られない。例えば、溶融限界データは、Qm(v)=vβ+b1(b1:定数)の式で示されてもよい。この場合、式中のb1を、v1及びQm(v1)又はVm、Qm(Vm)を用いて決定することができる。例えば、スパッタ発生限界データは、Qs(v)=vα+a1(a1:定数)の式で示されてもよい。この場合、式中のa1を、v1及びQs(v1)又はVm、Qs(Vm)を用いて決定することができる。例えば、2段収束限界データは、Qw(v)=vγ+c1(c1:定数)の式で示されてもよい。この場合、式中のc1を、v1及びQw(v1)を用いて決定することができる。
【0155】
<実験例>
従来、2段収束型第2種溶接状態と第2種溶接現象との境界線(すなわち、CPDダイヤグラムにおける2段収束限界データ:線C)は、入熱と造管速度の関係が明らかにされていなかった。そのため、CPDダイヤグラムに、線Cを描画することはできなかった。発明者らは、造管工場で試験を行い、線Cは、溶接速度のべき乗(例えば、0.7乗)で表すことができることを見いだした。この知見により、造管中のラインにおいて、線A、線Bに加えて新たに線Cを算出し、より高精度のCPDダイヤグラムを表示することが可能なった。これにより、高品質の電縫鋼管の製造が可能となる。
【0156】
図13は、実験結果を示す図である。図13に示す実験では、外径及び板厚の異なる4種類の鋼管について、複数の溶接速度で入力電力を徐々に増加させて溶接状態を監視した。溶接状態の監視は、アーキング頻度とV0-V1の距離の検出により、第1種/第2種/2段収束型第2種(2´種)/第3種の溶接状態の判定を行った。図13に示す4つのグラフは、横軸を溶接速度、縦軸を入力電力として、溶接状態をプロットしている。これらの4つのグラフから、各溶接状態の境界における入力電力に対する速度乗数を調査した。グラフに示す結果では、冷接発生限界(線Bに相当)の入力電力は、溶接速度の0.5乗で近似できた。第1溶接状態と第2種溶接状態の境界(線Aに相当)の入力電力は、溶接速度の0.6乗で近似できた。第2種溶接状態と2段収束型第2種溶接状態の境界(線Cに相当)の入力電力は、溶接速度の0.7乗で近似できた。これらの乗数を用いることで、造管中のCPDダイヤグラムにおける線A、線B、線Cを精度よく算出できることがわかった。
【0157】
以上、本発明の実施形態を例示したが、本発明は、上記の実施形態に限定されない。例えば、臨界溶接速度Vmの取得及び表示を省略してもよい。また、溶融限界データ又はスパッタ発生限界データのいずれか一方の生成及び表示を省略してもよい。
【符号の説明】
【0158】
2a、2b スクイズロール
3a、3b コンタクトチップ
4 インピーダー
5 撮像装置
6 高周波電源
100 管理システム
101 溶接状態変化点決定部
102 限界データ生成部
103 臨界溶接速度決定部
104 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13