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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】車両用シート装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/16 20060101AFI20221206BHJP
   B60N 2/06 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B60N2/16
B60N2/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019112491
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020203585
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 正吾
(72)【発明者】
【氏名】夏目 雅巳
(72)【発明者】
【氏名】都築 将
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-144926(JP,A)
【文献】特開2010-029651(JP,A)
【文献】実開平03-026652(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/16
B60N 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両シートと、上記車両シートを車体フロアに相対移動可能に連結するリンク連結部と、を備える車両用シート装置であって、
上記リンク連結部は、上記車体フロアに固定されるベース部と、上記車両シートのシートクッション部のフレームと上記ベース部とを連結する複数のリンクアームと、を有し、
上記複数のリンクアームは、上記車両シートの上記シートクッション部を、車室内で突出したホイールハウス部と車高方向について重ならない第1位置から上記第1位置よりも高所であり且つ上記ホイールハウス部と車高方向について重なる第2位置までの間で車幅方向の変位を伴うことなく車長方向に沿って回動可能とするように構成されており、
上記複数のリンクアームは、車長方向の前後に設けられた前側リンクアーム及び後側リンクアームを有し、上記前側リンクアームと上記後側リンクアームはいずれも、上記シートクッション部が上記第1位置にあるときの位置から上記第2位置にあるときの位置までの間で上記ベース部との連結軸側から前斜め上方へ延出した状態となるように構成されている、車両用シート装置。
【請求項2】
上記第1位置は、上記ホイールハウス部よりも車両前方側の位置であり、上記第2位置は、上記第1位置よりも車両後方側の位置であり、
上記複数のリンクアームは、上記前側リンクアームが上記ホイールハウス部よりも車両前方側の位置で上記フレームと上記ベース部とを連結し、上記後側リンクアームが車幅方向について上記ホイールハウス部と重なる位置で上記フレームと上記ベース部とを連結するように構成されている、請求項に記載の車両用シート装置。
【請求項3】
上記リンク連結部は、上記車両シートの上記シートクッション部が上記前側リンクアーム及び上記後側リンクアームを介して上記第1位置から上記第2位置まで回動したときの車長方向の前後変位量が車高方向の上下変位量を上回るようなリンク動作を行う、請求項またはに記載の車両用シート装置。
【請求項4】
上記車両シートは、フロアコンソールが配置される空間部を隔てて車幅方向に並置される2つの独立シートのうちの少なくとも一方である、請求項1~のいずれか一項に記載の車両用シート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミニバン、ワンボックス等の自動車として、車室内スペースをユーザのニーズに応じた多様な形態で使用できるように、複数のシートアレンジを可能とする車両が知られている。この種の車両では、車室内で車体フロアから上方且つ内方へ突出した左右のホイールハウスによって空間利用が制限されることを考慮して、シートアレンジの変更の際に各ホイールハウスを避けて車両シートを移動できるようにした構造が採用されている。
【0003】
下記特許文献1に開示の自動車用シートにおいて、シートクッション部は、前後方向にスライド可能な内側シート座部と、リンク部材を介して相対移動可能に連結された外側シート座部と、を有する。このシートクッション部によれば、シートアレンジ変更の際、内側シート座部に対して外側シート座部を上昇させ、またヒンジ部を中心に内側に回動させたのち、内側シート座部を外側シート座部とともにホイールハウスに干渉しない後方位置までスライドさせることができる。これにより、自動車用シートがホイールハウスよりも車両前方に配置されたシートアレンジから左右のホイールハウス間の空間に配置されたシートアレンジへの変更が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-115563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の自動車用シートの場合、シートクッション部が左右のホイールハウス間の空間に配置された状態で外側シート座部が内側シート座部に対して内側に回動している。このとき、シートクッション部における車幅方向の着座スペースがシートアレンジの変更前に比べて狭くなり車室内の居住性が低下することになる。
【0006】
このような構造に代えて、シートクッション部全体を内方へスライドさせたのちに、左右のホイールハウス間の空間まで車両後方へスライドさせる構造を採用することも考えられる。ところが、この構造によれば、シートアレンジ変更によって隣接する車両シートとの間の車幅方向の空間が狭くなることで車室内の居住性が低下する。また、この構造は、車室内での乗員の居心地を良くするのに有効なテーブル、カップホルダー、肘掛け、収容部などの機能を備えたフロアコンソールの設置の妨げにも成り得る。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、車室内の居住性を低下させることなくシートアレンジを変更できる車両用シート装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
車両シートと、上記車両シートを車体フロアに相対移動可能に連結するリンク連結部と、を備える車両用シート装置であって、
上記リンク連結部は、上記車体フロアに固定されるベース部と、上記車両シートのシートクッション部のフレームと上記ベース部とを連結する複数のリンクアームと、を有し、
上記複数のリンクアームは、上記車両シートの上記シートクッション部を、車室内で突出したホイールハウス部と車高方向について重ならない第1位置から上記第1位置よりも高所であり且つ上記ホイールハウス部と車高方向について重なる第2位置までの間で車幅方向の変位を伴うことなく車長方向に沿って回動可能とするように構成されており、
上記複数のリンクアームは、車長方向の前後に設けられた前側リンクアーム及び後側リンクアームを有し、上記前側リンクアームと上記後側リンクアームはいずれも、上記シートクッション部が上記第1位置にあるときの位置から上記第2位置にあるときの位置までの間で上記ベース部との連結軸側から前斜め上方へ延出した状態となるように構成されている、車両用シート装置、
にある。
【発明の効果】
【0009】
上記の車両用シート装置において、車両シートはリンク連結部を介して車体フロアに相対移動可能に連結されている。このリンク連結部によれば、車両シートのシートクッション部の位置を第1位置と第2位置との間で変更することによって、シートアレンジの変更が可能になる。このとき、リンク連結部は、シートクッション部を車幅方向の変位を伴うことなく車長方向に沿って移動可能とするものである。
【0010】
ここで、シートクッション部の第1位置は、このシートクッション部と車室内で突出したホイールハウス部とが車高方向について重ならない位置である。これに対して、シートクッション部の第2位置は、第1位置よりも高所であり且つこのシートクッション部とホイールハウス部とが車高方向について重なる位置である。この第2位置は、シートクッション部がホイールハウス部との干渉を避けることができる位置である。
【0011】
車両シートのシートクッション部は、第1位置と第2位置との間で移動するときに、車幅方向に変位することなく車長方向に沿ってのみ移動するため、第1位置と第2位置のいずれの位置にあるときでも車幅方向の位置が維持される。従って、この車両シートがシートアレンジ変更によって隣接する車両シートとの間の車幅方向の空間が狭くなるのを防ぐことができる。
【0012】
以上のごとく、上記の態様によれば、車室内の居住性を低下させることなくシートアレンジを変更できる車両用シート装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1にかかる車両の車室内の平面図。
図2図1中の左後席用の車両シートをシートクッション部が第1位置にある状態にて示す斜視図。
図3図1中の左後席用の車両シートをシートクッション部が第2位置にある状態にて示す斜視図。
図4図2中のリンク連結部の駆動機構の斜視図。
図5図4の駆動機構を矢印A方向から視た正面図。
図6図2の車両用シート装置を側方から視た側面図。
図7図3の車両用シート装置を側方から視た側面図。
図8図1において左後席用の車両シートと右後席用の車両シートのシートクッション部のいずれも第1位置から第2位置まで移動した後の様子を模式的に示す平面図。
図9図8を左方から視た側面図。
図10】実施形態2の車両用シート装置について図8に対応した平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記の車両用シート装置において、上記リンク連結部は、上記車体フロアに固定されるベース部と、上記車両シートの上記シートクッション部を上記第1位置から上記第2位置までの間で回動可能とするように上記シートクッション部のフレームと上記ベース部とを連結する複数のリンクアームと、を有するのが好ましい。
【0015】
この車両用シート装置によれば、シートクッション部のフレームを複数のリンクアームを介して車体フロア側のベース部に連結する構造を利用してリンク連結部を構築することができる。
【0016】
上記の車両用シート装置において、上記第1位置は、上記ホイールハウス部よりも車両前方側の位置であり、上記第2位置は、上記第1位置よりも車両後方側の位置であり、
上記複数のリンクアームは、車長方向の前後に設けられた前側リンクアーム及び後側リンクアームを有し、上記前側リンクアームが上記ホイールハウスよりも車両前方側の位置で上記フレームと上記ベース部とを連結し、上記後側リンクアームが車幅方向について上記ホイールハウス部と重なる位置で上記フレームと上記ベース部とを連結するように構成されているのが好ましい。
【0017】
この車両用シート装置によれば、車両シートのシートクッション部を、複数のリンクアームを介してホイールハウス部よりも車両前方側の第1位置からこの第1位置よりも車両後方側の第2位置までの間で移動させる構造において、各リンクアームの長さ寸法を短く抑えることが可能になる。
【0018】
上記の車両用シート装置において、上記リンク連結部は、上記車両シートの上記シートクッション部が上記複数のリンクアームを介して上記第1位置から上記第2位置まで回動したときの車長方向の前後変位量が車高方向の上下変位量を上回るようなリンク動作を行うのが好ましい。
【0019】
この車両用シート装置によれば、車両シートのシートクッション部が第1位置から第2位置まで回動することによってシートクッション部と天井との間の車高方向のスペースが回動前よりも狭くなるが、このときのシートクッション部の上下変位量をリンク動作によって前後変位量よりも小さく抑えることによって、シートクッション部が第2位置に達したときにシートクッション部と天井との間の車高方向のスペースが狭くなり過ぎるのを防ぐことができる。
【0020】
上記の車両用シート装置において、上記車両シートは、フロアコンソールが配置される空間部を隔てて車幅方向に並置される2つの独立シートのうちの少なくとも一方であるのが好ましい。
【0021】
この車両用シート装置によれば、シートアレンジの変更時に2つの独立シートの少なくとも一方のシートクッション部が第1位置と第2位置との間で車幅方向に変位することなく車長方向に沿ってのみ移動するため、独立シートがフロアコンソールの設置の妨げになるのを防ぐことができる。
【0022】
以下、車両用シート装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
なお、以下の説明で参照する図面において、車両前方を矢印FRで示し、車両上方を矢印UPで示し、車両右方を矢印RHで示し、車両左方を矢印LHで示している。また、特にことわらない限り、車両に取付けられた車両用シート装置について、前高方向を矢印Xで示し、車幅方向を矢印Yで示し、車長方向を矢印Zで示している。
【0024】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1にかかる車両の車室1内に配置される複数の車両シートには、車幅方向Yについて隣接する前席用の2つの車両シート20Aと、車幅方向Yについて隣接する後席用の2つの車両シート20と、が含まれている。必要に応じて、これらの車両シート20A,20にその他の車両シートが追加されてもよい。
【0025】
2つの車両シート20Aについて、いずれか一方は運転者が着座する運転者用シートであり、いずれか他方は助手席用のシートである。これに対して、2つの車両シート20はいずれも、車両シート20Aよりも車長方向Zの後方において、ホイールハウス部2の周辺に配置される後席シートである。
【0026】
ホイールハウス部2は、後輪(図示省略)を収容するために車室1内で車体フロア3の左右2箇所から上方及び内方へと突出した突出部分(「タイヤハウス」とも称呼される部位)である。ホイールハウス部2は、上端面2aと、上端面2aよりも下方において傾斜した傾斜面2bと、を有する。
【0027】
実施形態1の車両用シート装置(以下、単に「シート装置」という。)10は、2つの車両シート20を備えている。2つの車両シート20は、フロアコンソール8が配置される空間部7を隔てて車幅方向Yに並置されており、それぞれが1人掛け用の独立シートになっている。
【0028】
フロアコンソール8は、空間部7を車長方向Zに延びるように形成された内装部材である。このフロアコンソール8は、車室1内での乗員の居心地を良くするのに有効なテーブル、カップホルダー、肘掛け、収容部などの機能を備えているのが好ましい。
【0029】
図2及び図3に示されるように、シート装置10は、シートアレンジを変更可能とするためのものであり、各車両シート20と、各車両シート20を車体フロア3に相対移動可能に連結するリンク連結部30と、を備えている。即ち、リンク連結部30は、2つの車両シート20のそれぞれに対して設けられている。
【0030】
車両シート20は、乗員が実質的に着座する着座部としてのシートクッション部21と、背もたれ部としてのシートバック部22と、シートバック部22の上方に位置する枕状の部位であるヘッドレスト部23と、を有する。
【0031】
シートバック部22は、その骨格部分をなすシートバックフレーム22aと、シートバックフレーム22aのまわりを覆うシートバックパッド22bと、を有する。このシートバック部22は、シートクッション部21に対する前後方向に傾斜角度を変更できるように構成されている。
【0032】
シートクッション部21は、その骨格部分をなすシートクッションフレーム21aと、シートクッションフレーム21aのまわりを覆うシートクッションパッド21bと、を有する。シートクッションフレーム21aは、さらに、2つのサイドフレーム部材24,25と、2つのサイドフレーム部材24,25を連結する3つの連結部材26,27,28と、を備えている。
【0033】
2つのサイドフレーム部材24,25は、それぞれが車幅方向Yの両側のそれぞれにおいて車長方向Zに延在するプレート状の部材として構成されている。3つの連結部材26,27,28は、いずれも車幅方向Yに延在してそれぞれが2つのサイドフレーム部材24,25を連結するように構成されている。連結部材26は、後述の前側リンクアーク31の連結軸31aとなる。連結部材27は、後述の後側リンクアーク32の連結軸32aとなる。
【0034】
リンク連結部30は、車両シート20のシートクッション部21を下方から支持するとともに、このシートクッション部21を第1位置P1(図2参照)から第2位置P2(図3参照)までの間で車幅方向Yの変位を伴うことなく車長方向Zに沿って移動可能とする機能を有する。この機能によれば、シートクッション部21の位置を第1位置P1から第2位置P2へと切り替えることによって、後席乗員スペースを拡大することができる。
【0035】
このとき、車長方向Zに沿ったシートクッション部21の動作は、実質的に、車高方向Xと車長方向Zの両方向によって定まる平面上での動作となる。また、この動作について、リンク連結部30を構成する部品等の組付けガタなどの影響によって生じ得る車幅方向Yの僅かな変位は許容される。
【0036】
ここで、シートクッション部21の第1位置P1は、ホイールハウス部2よりも車長方向Zについて車両前方側の位置であって、シートクッション部21とホイールハウス部2とが車高方向Xについて重ならない位置である。
【0037】
これに対して、シートクッション部21の第2位置P2は、第1位置P1よりも車長方向Zについて車両後方側の位置であって、第1位置P1よりも高所であり且つシートクッション部21とホイールハウス部2とが車高方向Xについて重なる位置である。シートクッション部21が第2位置P2にあるときには、第1位置P1にあるときに比べて、座面が上昇し且つ足元スペースが広くなる。
【0038】
リンク連結部30は、シートクッション部21を第1位置P1から第2位置P2までの間で移動させるために、車体フロア3に車幅方向Yに間隔を空けて固定され車長方向Zにレール状に延びる2つのベース部4と、複数のリンクアーム31,32と、後述の駆動機構33と、を備えている。
【0039】
複数のリンクアーム31,32は、2つのサイドフレーム部材24,25のそれぞれに対して車長方向Zの前後に設けられた前側リンクアーム31及び後側リンクアーム32によって構成されている。
【0040】
左右の前側リンクアーム31はいずれも、アーム一端部である連結軸31aにおいて、2つのサイドフレーム部材24,25のそれぞれに回転自在に連結されており、またアーム他端部である連結軸31bにおいて、ベース部4の溝部4aに固定されたブラケット5に回転自在に連結されている。このとき、各前側リンクアーム31は、ホイールハウス部2よりも車両前方側の位置でシートクッションフレーム21aとベース部4のブラケット5とを連結するように構成されている。
【0041】
サイドフレーム部材24側の前側リンクアーム31について、連結軸31aは、前側リンクアーム31に固定されており、且つサイドフレーム部材24に対して軸まわりに回転自在に構成されている。本構成は、サイドフレーム部材24側の前側リンクアーム31についても同様である。
【0042】
後側リンクアーム32は、前側リンクアーム31よりも車長方向Zの後方に位置している。左右の後側リンクアーム32はいずれも、アーム一端部である連結軸32aにおいて、2つのサイドフレーム部材24,25のそれぞれに回転自在に連結されており、またアーム他端部である連結軸32bにおいて、ベース部4の溝部4aに固定されたブラケット6に回転自在に連結されている。このとき、各後側リンクアーム32は、車幅方向Yについてホイールハウス部2と重なる位置でシートクッションフレーム21aとベース部4のブラケット6とを連結するように構成されている。
【0043】
サイドフレーム部材24側の後側リンクアーム32について、連結軸32aは、後側リンクアーム32に固定されており、且つサイドフレーム部材24に対して軸まわりに回転自在に構成されている。本構成は、サイドフレーム部材25側の後側リンクアーム32についても同様である。
【0044】
ここで、サイドフレーム部材24側の左側リンクは、前側リンクアーム31(第1アーム)と、後側リンクアーム32(第2アーム)と、サイドフレーム部材24(第3アーム)と、ベース部4(第4アーム)と、によって構成された、自由度が「1」の四節リンクとして構成されている。
【0045】
同様に、サイドフレーム部材25側の右側リンクは、前側リンクアーム31(第1アーム)と、後側リンクアーム32(第2アーム)と、サイドフレーム部材25(第3アーム)と、ベース部4(第4アーム)と、によって構成された、自由度が「1」の四節リンクとして構成されている。
【0046】
駆動機構33は、左側リンク及び右側リンクのリンク動作を制御する機能を有する。この機能を達成するために、駆動機構33は、図3に示されるように、連結軸32aと、係合部材34と、内側ギア35と、を備え、さらに、図4に示されるように、外側ギア36と、連結軸37と、モータ39と、を備えている。
【0047】
連結軸32aは、連結部材27によって構成されており、サイドフレーム部材24に設けられた貫通孔24aを回転自在に貫通している。このため、連結軸32aは、サイドフレーム部材24に対して仮想軸線Lを中心に回転可能に構成されている。この連結軸32aは、後側リンクアーム32に固定されている。
【0048】
係合部材34は、サイドフレーム部材24よりも内側において連結軸32aに一体状に設けられている。この係合部材34は、仮想軸線Lを中心とした外周部の回転半径によって定まる仮想円弧線Mに沿って配置された複数の係合歯34aを有する。
【0049】
内側ギア35は、サイドフレーム部材24よりも車幅方向Yの内側に位置するギアであり、係合部材34の複数の係合歯34aに係合する複数のギア歯35aを有する。外側ギア36は、サイドフレーム部材24よりも車幅方向Yの外側に位置するギアであり、モータギア38の複数のギア歯38aに係合する複数のギア歯36aを有する。
【0050】
連結軸37は、サイドフレーム部材24に設けられた貫通孔24bを貫通して車幅方向Yに沿って延びており、内側ギア35と外側ギア36を互いに連結するように構成されている。
【0051】
モータ39は、連結軸37と同方向に延びるモータ軸39aに固定されたモータギア38を有し、モータギア38をモータ軸39aの軸回りに回転駆動するための電動アクチュエータとして構成されている。このモータ39は、サイドフレーム部材24に固定されている。
【0052】
このモータ39の制御は、乗員による操作部(図示省略)の手動操作に連携して行われるようになっている。操作部は、インストルメントパネル、ステアリングホイールなどに設けられた機械的なスイッチ類によって、或いはディスプレイに表示されたタッチスイッチによって構成されるのが好ましい。
【0053】
例えば、車両シート20のシートアレンジをシートクッション部21が第1位置P1にある状態から第2位置P2にある状態へと変更したいという第1の意向が操作部によって入力されたとき、モータ軸39aが一方向に回転するようにモータ39が制御される。その後、シートクッション部21が第2位置P2に達したときに、モータ39が停止される。
【0054】
これに対して、車両シート20のシートアレンジをシートクッション部21が第2位置P2にある状態から第1位置P1にある状態へと変更したいという第2の意向が操作部によって入力されたとき、モータ軸39aが逆方向に回転するようにモータ39が制御される。その後、シートクッション部21が第1位置P1に達したときに、モータ39が停止される。
【0055】
上記構成の駆動機構33において、モータ39のモータ軸39aがいずれか一方の回転方向に回転駆動されると、この回転駆動力が、モータギア38、外側ギア36及び連結軸37を介して内側ギア35に伝達される。内側ギア35が連結軸37の軸まわりに回転すると、内側ギア35の複数のギア歯35aと係合部材34の複数の係合歯34aとの係合位置が変わる。
【0056】
これにより、係合部材34が仮想軸線Lを中心に第1方向D1或いは第2方向D2に回動し、後側リンクアーム32の連結軸32aがサイドフレーム部材24に対して仮想軸線Lを中心に回転する(図4参照)。
【0057】
なお、駆動機構33の構成は、上述のものに限定されるものではなく、必要に応じて、ギア、軸、モータなどの構成要素の数及び配置を変更することもできる。
【0058】
ここで、係合部材34が仮想軸線Lを中心に第1方向D1に所定量回動したとき、図6及び図7に示されるように、リンク連結部30において、各前側リンクアーム31が連結軸31bを中心に車両後方へ回動し、且つ各後側リンクアーム32が連結軸32bを中心に車両後方へ回動する。
【0059】
即ち、図7に示されるように、各前側リンクアーム31は、連結軸31bを中心に二点鎖線で示される第1位置Q1から実線で示される第2位置Q2へと回動する。また、各後側リンクアーム32は、連結軸32bを中心に二点鎖線で示される第1位置R1から実線で示される第2位置R2へと回動する。そして、シートクッション部21が第2位置P2に達したときにモータ39が停止される。これにより、車両シート20のシートクッション部21を第1位置P1から第2位置P2へと移動させることができる。
【0060】
その後、モータ39のモータ軸39aを逆回転させることにより、係合部材34が仮想軸線Lを中心に第2方向D2に所定量回動したとき、リンク連結部30において、各前側リンクアーム31が第1位置Q1に復帰し、且つ各後側リンクアーム32が第1位置R1に復帰する。そして、シートクッション部21が第1位置P1に達したときにモータ39が停止される。これにより、車両シート20のシートクッション部21を、第2位置P2から第1位置P1へと移動させることができる。
【0061】
なお、シートクッション部21が第1位置P1や第2位置P2に達した状態でモータ39が停止されるため、シートクッション部21をロック部材などの要素を使用することなく第1位置P1や第2位置P2に保持することができる。
【0062】
図7に示されるように、リンク連結部30は、車両シート20のシートクッション部21が前側リンクアーム31及び後側リンクアーム32を介して第1位置P1から第2位置P2まで回動したときの車長方向Zの前後変位量Caが車高方向Xの上下変位量Cbを上回るようなリンク動作を行うように構成されている。
【0063】
このリンク動作を達成するために、本実施形態では、各前側リンクアーム31は、第1位置Q1と第2位置Q2のいずれの位置においても連結軸31b側から前斜め上方に延出するように構成されている。同様に、各後側リンクアーム32は、第1位置R1と第2位置R2のいずれの位置においても連結軸32b側から前斜め上方に延出するように構成されている。
【0064】
このとき、各前側リンクアーム31の第2位置Q2は、連結軸31aが車高方向Xの最高点に到達する垂直位置よりも前方側に多少傾斜した位置となる。また、各後側リンクアーム32の第2位置R2は、連結軸32aが車高方向Xの最高点に到達する垂直位置よりも前方側に多少傾斜した位置となる。これにより、車両シート20のシートクッション部21の車高方向Xの上下変位量Cbが増えすぎるのを防ぐことができる。
【0065】
図8及び図9に示されるように、車両シート20のシートクッション部21について、その第1位置P1は、車高方向Xについてシートクッション部21がホイールハウス部2と重ならない位置である。図6にも示されるように、シートクッション部21は、この第1位置P1において、ホイールハウス部2の上端面2aと傾斜面2bのいずれにも重ならない。このとき、シートバック部22は、車高方向Xについてホイールハウス部2と重なっていてもよいし、或いは重なっていなくてもよい。
【0066】
これに対して、車両シート20のシートクッション部21について、その第2位置P2は、第1位置Pよりも高所であり且つ車高方向Xについてシートクッション部21がホイールハウス部2と重なる位置であり、ホイールハウス部2との干渉を避けることができる位置である。図7にも示されるように、シートクッション部21は、この第2位置P2において、車高方向Xについてホイールハウス部2の上端面2aには重ならないが、ホイールハウス部2の傾斜面2bに重なるように配置される。
【0067】
図8に示されるように、本実施形態のシート装置10では、各車両シート20のシートクッション部21が車幅方向Yに変位しないため、シートクッション部21が第1位置P1と第2位置P2のいずれの位置に設定されているかによらず、左右の車両シート20の間の空間部7の車幅方向Yの寸法が概ね一定に維持される。
【0068】
次に、上述の実施形態1の作用効果について説明する。
【0069】
上記のシート装置10のリンク連結部30によれば、車両シート20のシートクッション部21の位置を第1位置P1と第2位置P2との間で変更することによって、シートアレンジの変更が可能になる。このとき、リンク連結部30は、シートクッション部21を車幅方向Yの変位を伴うことなく車長方向Zに沿って移動可能とするものである。
【0070】
車両シート20のシートクッション部21は、第1位置P1と第2位置p2との間で移動するときに、車幅方向Yに変位することなく車長方向Zに沿ってのみ移動するため、第1位置P1と第2位置P2のいずれの位置にあるときでも車幅方向Yの位置が維持される。従って、この車両シート20がシートアレンジ変更によって隣接する車両シート20との間の車幅方向Yの空間が狭くなるのを防ぐことができる。
【0071】
その結果、車室1内の居住性を低下させることなくシートアレンジを変更できるシート装置10を提供することが可能になる。
【0072】
上記シート装置10によれば、シートクッション部21のシートクッションフレーム21aを複数のリンクアーム31,32を介して車体フロア3側のベース部4に連結する構造を利用してリンク連結部30を構築することができる。このリンク連結部30は、車幅方向Yのスライド機構を使用したものではなく構造が簡単であるため、安価であり、また軽量化を図るのに有効である。
【0073】
上記シート装置10によれば、車両シート20のシートクッション部21を、複数のリンクアーム31,32を介してホイールハウス部2よりも車両前方側の第1位置P1からこの第1位置P1よりも車両後方側の第2位置P2までの間で移動させる構造において、各リンクアームの長さ寸法を短く抑えることが可能になる。
【0074】
上記シート装置10によれば、車両シート20のシートクッション部21が第1位置P1から第2位置P2まで回動することによってシートクッション部21と天井との間の車高方向Xのスペースが回動前よりも狭くなるが、このときのシートクッション部21の上下変位量Caをリンク動作によって前後変位量Cbよりも小さく抑えることによって、シートクッション部21が第2位置P2に達したときにシートクッション部21と天井との間の車高方向Xのスペースが狭くなり過ぎるのを防ぐことができる。
【0075】
上記シート装置10によれば、シートアレンジの変更時に2つの独立シートの少なくとも一方のシートクッション部が第1位置P1と第2位置P2との間で車幅方向Yに変位することなく車長方向Zに沿ってのみ移動するため、独立シートがフロアコンソール8の設置の妨げになるのを防ぐことができる。そして、各車両シート20を空間部7のフロアコンソール8と干渉させずに個別に移動させることができる。
【0076】
なお、上述の実施形態1に特に関連する変更例として、2つの車両シート20のそれぞれに対してリンク連結部30を設ける形態に代えて、2つの車両シート20のいずれか一方のみにリンク連結部30を設ける形態を採用することもできる。
【0077】
以下、実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0078】
(実施形態2)
図10に示されるように、実施形態2のシート装置110は、後席用のシートである車両シート120を備える点で実施形態1のシート装置10と一致する。一方で、このシート装置110は、車両シート120のシートクッション部21が、複数の乗員が着座可能な車幅方向Yの寸法を有する点でシート装置10のものとは異なる。即ち、車両シート120は、3人掛け用のベンチシートのような形状を有する。また、車室1内にフロアコンソール8(図1参照)が設けられていない。
なお、必要に応じて、車両シート120を2人掛け用のベンチシートに変更することもできる。
【0079】
車両シート120のシートクッション部21は、シート装置10の場合と同様のリンク連結部30によって、ホイールハウス部2と車高方向Xについて重ならない第1位置P1から、第1位置P1よりも高所であり且つホイールハウス部2と車高方向Xについて重なる第2位置P2までの間で車幅方向Yの変位を伴うことなく車長方向Zに沿って移動可能に構成されている。
【0080】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0081】
上記の実施形態2によれば、ベンチシートのような形状の車両シート120をホイールハウス部2との干渉を避けながら、第1位置P1から第2位置P2まで移動させることができる。
【0082】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0083】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。
【0084】
上述の実施形態では、車両シート20,120のシートクッション部21を複数のリンクアーム31,32を介して車体フロア3に回動可能に連結するリンク連結部30について例示したが、これに代えて、シートクッション部21を車体フロア3に回動以外で相対移動可能に連結する別のリンク連結部を採用することもできる。このとき、シートクッション部21を第1位置P1から第2位置P2までの間で車長方向Zに沿って移動させることができれば足りる。別のリンク連結部として、例えば、シートクッション部21を第1位置P1から上方へスライドさせたのち、第2位置P2まで後方へスライドさせることができる機能を有するものが挙げられる。
【0085】
上述の実施形態では、車両シート20,120のシートクッション部21をモータ39の駆動力を利用して第1位置P1から第2位置P2までの間で移動させる場合について例示したが、これに代えて、モータ以外のアクチュエータ(例えば、液圧シリンダ)が設けられた構造や、アクチュエータが省略された手動操作式の構造などを採用することもできる。
【0086】
上述の実施形態では、シートクッション部21の設定位置について、第1位置P1がホイールハウス部2よりも車両前方側の位置であり、第2位置P2が第1位置Pよりも車両後方の位置である場合について例示したが、これに代わる形態として、第1位置P1がホイールハウス部2よりも車両後方側の位置であり、第2位置P2が第1位置Pよりも車両前方側の位置である形態を採用することもできる。この場合、ホイールハウス部は、後輪を収容するためのタイヤハウスであってもよいし、或いは前輪を収容するためのタイヤハウスであってもよい。
【0087】
上述の実施形態では、シートクッション部21の第2位置P2において、このシートクッション部21がホイールハウス部2のうち車高方向Xについて上端面2aには重ならずに傾斜面2bに重なる場合について例示したが、これに代えてシートクッション部21が上端面2aと傾斜面2bの両方に重なるような構造を採用することもできる。
【符号の説明】
【0088】
1 車室
2 ホイールハウス部
3 車体フロア
4 ベース部
7 空間部
8 フロアコンソール
10 車両用シート装置(シート装置)
20 車両シート(独立シート)
21 シートクッション部
21a シートクッションフレーム(フレーム)
30 リンク連結部
31 前側リンクアーム(リンクアーム)
32 後側リンクアーム(リンクアーム)
110 車両用シート装置(シート装置)
120 車両シート
Ca 上下変位量
Cb 前後変位量
P1 第1位置
P2 第2位置
X 車高方向
Y 車幅方向
Z 車長方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10