(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ガラスラン
(51)【国際特許分類】
B60J 10/76 20160101AFI20221206BHJP
B60J 10/50 20160101ALI20221206BHJP
B60J 10/27 20160101ALI20221206BHJP
【FI】
B60J10/76
B60J10/50
B60J10/27
(21)【出願番号】P 2019142714
(22)【出願日】2019-08-02
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120765
【氏名又は名称】小滝 正宏
(74)【代理人】
【識別番号】100097076
【氏名又は名称】糟谷 敬彦
(72)【発明者】
【氏名】野尻 昌利
【審査官】川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-193053(JP,A)
【文献】特開2007-296897(JP,A)
【文献】特開2018-192933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 10/00-10/90
B60R 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁と、車外側側壁と、車内側側壁を基本骨格とし、前記車外側側壁に形成され、ドアガラスの車外側に摺接するアウタリップと、前記車内側側壁に形成され、ドアガラスの車内側に摺接するインナリップを有し、ドアフレームに形成された溝部に取付けられるガラスランであって、
前記インナリップは、少なくとも第1インナリップと、前記第1インナリップより前記底壁側に形成された第2インナリップを有し、
前記第1インナリップと前記第2インナリップは前記底壁側に向けて形成され、前記ドアガラスとの摺接時に、互いに当接
せず、
前記第1インナリップと前記第2インナリップとの間には、前記第2インナリップの前記第1インナリップ側の付根部又は前記車内側側壁から前記第1インナリップの付根部側の面に向かって斜めに突出するサブリップが形成され、
前記ドアガラスが前記第1インナリップに摺接する時には、前記サブリップは、前記第1インナリップの車内側に当接し、
少なくとも前記第1インナリップと前記車内側側壁の付根部には、前記車内側側壁から前記ドアガラス側にせり出す基部が形成されていることを特徴とするガラスラン。
【請求項2】
前記基部の上部の前記底壁側には、凹部が形成されている請求項
1に記載のガラスラン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアに形成されたドアフレームに取付けられるガラスランに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、自動車の左側のフロントドア100を車外側からみた正面図を示す。このフロントドア100を構成するドア本体210の上部には、ドアフレーム310が装着され、このドアフレーム310とドア本体210の上端縁とにより窓開口が形成されている。窓開口の内周縁及びドア本体210の内部にはガラスラン110が装着され、ドアガラス600の昇降動作を案内するようになっている。
【0003】
図8は、ドアフレーム310の縦枠部の垂直断面(
図1のX-X断面)を示す。ガラスラン110は、底壁200、車外側側壁300及び車内側側壁400を基本骨格としてチャンネル状(断面コ字形状)に形成されている。車外側側壁300の先端にはドアガラス600に摺接する第1アウタリップ330が一体に形成されている。又、車外側側壁300の第1アウタリップ330より底壁200側の車内側には、底壁200側に突出し、ドアガラス600に摺接する第2アウタリップ340が形成されている。
【0004】
一方、車内側側壁400の先端には、ドアガラス600に摺接するインナリップ410が一体に形成されている。又、車内側側壁400のインナリップ410より底壁200側の車外側には、インナリップ410とは反対方向に突出したサブリップ420が車外側に向けて形成され、ドアガラス600の上昇に伴い、インナリップ410の車内側がサブリップ420と当接するようになっている。さらに、車内側側壁400の先端には、車内側側壁400の先端からドアフレーム310の車内側フレームを車内側側壁400との間で挟むように延びるカバーリップ430が形成されている(特許文献1)。
【0005】
ところで、車外から車室内への音の伝搬ルートには、
図8に示すように、ドアガラス600を透過するガラス透過ルートAと、ガラスラン110を透過するガラスラン透過ルートBがある。近年、ドアガラス600に関し、合わせガラス等、ガラスのNV(Noise、Vibration)特性の改良により、ドアガラス600を透過する音が低減され、ガラスラン透過ルートBが目立ってきている。更に、電気自動車やハイブリッド自動車等、電動モーターで走行している場合には、全体的に静粛性が増すので、ガラスラン透過ルートBにおける透過音の遮蔽の向上が要望されている。
【0006】
ガラスランにおいて音を遮蔽する技術としては、例えば、
図9に示す下記特許文献2のものが知られている。なお、
図9において、上記の特許文献1との共通する部位には、同じ名称と同じ符号を付した。特許文献2のガラスラン110は、車両のドアフレーム310に沿って嵌装されドアガラス600を溝部に案内する車外側側壁300とそれよりも長い断面形状の車内側側壁400とそれらを連結する底壁200を基本骨格としてチャンネル状(断面断面略「つ」字状)に形成されており、ドアガラス600に摺接するアウタリップ350とインナリップ410と、車内側側壁400のインナリップ410より底壁200側の車外側から底壁200側に突出するリップ440と、車内側側壁400の端部からドアフレーム310の車内側枠部(車内側フレーム部)を車内側側壁400との間で挟むように延びるカバーリップ430を備え、車内側側壁400の少なくとも端部に遮音壁500を突設したガラスラン110である。
【0007】
そして、遮音壁500の先端とドアガラス600との隙間Sを0mm以上1mm以内でドアガラス600に弾接しないようにすることによって、ドアガラス600の車内側面との間に生じる凹空間M1を閉じることにより音を遮蔽している。ここで、音の遮蔽効果は、隙間Sが狭い方が優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-149984号公報
【文献】特開2016-222232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記の特許文献2の技術では、遮音壁500の先端とドアガラス600との隙間Sが狭いため、ドアガラス600全体が振動する場合や変位を生じる際に、遮音壁500の先端がドアガラス600を打突し、新たな騒音源となる問題が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1の本発明は、底壁と、車外側側壁と、車内側側壁を基本骨格とし、車外側側壁に形成され、ドアガラスの車外側に摺接するアウタリップと、車内側側壁に形成され、ドアガラスの車内側に摺接するインナリップを有し、ドアフレームに形成された溝部に取付けられるガラスランであって、インナリップは、少なくとも第1インナリップと、第1インナリップより底壁側に形成された第2インナリップを有し、第1インナリップと第2インナリップは底壁側に向けて形成され、ドアガラスとの摺接時に、互いに当接せず、第1インナリップと第2インナリップとの間には、第2インナリップの第1インナリップ側の付根部又は車内側側壁から第1インナリップの付根部側の面に向かって斜めに突出するサブリップが形成され、ドアガラスが第1インナリップに摺接する時には、サブリップは、第1インナリップの車内側に当接し、少なくとも第1インナリップと車内側側壁の付根部には、車内側側壁からドアガラス側にせり出す基部が形成されていることを特徴とするガラスランである。
【0011】
請求項1の本発明では、ガラスランは、少なくとも第1インナリップと、第1インナリップより底壁側に形成された第2インナリップを有しているので、インナリップを複数形成することにより、ガラスラン透過ルートBにおける透過音の遮蔽効果が増大する。
【0012】
又、インナリップを複数形成することにより、各インナリップの長さを従来のインナリップに比較して短くすることができ、透過音の共振点を高周波数側にシフトさせることができるので、透過音による各インナリップの振動を防止することができ、車室内側で振動に伴う放射音の発生を防止することができる。
【0013】
更に、第1インナリップと第2インナリップは底壁側に向けて形成され、ドアガラスとの摺接時に、互いに当接しないので、第1インナリップと第2インナリップが互いに干渉することがなく、ドアガラスをスムーズに摺接させることができると共に、インナリップのドアガラスに対するシール性能を維持することができる。
又、第1インナリップと第2インナリップとの間には、第2インナリップの第1インナリップ側の付根部又は車内側側壁から第1インナリップの付根部側の面に向かって斜めに突出するサブリップが形成されているので、サブリップが加わることにより透過音の遮蔽効果が増大する。又、第1インナリップがドアガラスと摺接するときに、サブリップが第1インナリップの裏面を押すことにより第1インナリップのガラスに対する圧接力が増加するので、水漏れ等を防止するシール性能を向上させることができる。
又、ドアガラスが第1インナリップに摺接する時に第1インナリップとサブリップの先端間に空間がある場合は、第1インナリップとサブリップの先端間の狭い空間と、この狭い空間以外の第1インナリップ、サブリップと車内側側壁によって形成される広い空間に起因するヘルムホルツ共鳴が発生する。ドアガラスが第1インナリップに摺接する時には、サブリップは、第1インナリップの車内側に当接するので、第1インナリップとサブリップの先端間に空間が発生することがなく、上記のヘルムホルツ共鳴の発生を防止することができる。
又、少なくとも第1インナリップと車内側側壁の付根部には、車内側側壁からドアガラス側にせり出す基部が形成されているので、せり出した基部によって透過音の遮蔽効果が更に増大する。又、インナリップそのものの長さを更に短くすることができ、透過音の共振点を高周波数側にシフトさせることができるので、透過音による少なくとも第1インナリップの振動を防止することができ、車室内側で振動に伴う放射音の発生を防止することができる。同時に第1インナリップの付根部の剛性を高めることができる。
【0019】
請求項2の本発明は、基部の上部の底壁側には、凹部が形成されているガラスランである。インナリップの付根部に基部が形成されているので、インナリップそのものの長さが更に短くなり、インナリップがドアガラスと摺接する時には、インナリップが撓みにくくなっている。請求項2の本発明では、基部の上部の底壁側には、凹部が形成されているので、インナリップがドアガラスに摺接する時に、凹部を起点としてインナリップが底壁側に倒れやすくなり、ドアガラスへの追従性が向上し、透過音の遮蔽効果の増大を維持しつつ、インナリップとドアガラスとのスムーズな摺接を可能にすることができる。
【発明の効果】
【0020】
ガラスランは、少なくとも第1インナリップと、第1インナリップより底壁側に形成された第2インナリップを有しているので、インナリップを複数形成することにより、ガラスラン透過ルートBにおける透過音の遮蔽効果が増大する。
【0021】
又、インナリップを複数形成することにより、各インナリップの長さを従来のインナリップに比較して短くすることができ、透過音の共振点を高周波数側にシフトさせることができるので、透過音による各インナリップの振動を防止することができ、車室内側で振動に伴う放射音の発生を防止することができる。
【0022】
更に、第1インナリップと第2インナリップは底壁側に向けて形成され、ドアガラスとの摺接時に、互いに当接しないので、インナリップが互いに干渉することなくスムーズにドアガラスと摺接させることができると共に、インナリップのドアガラスに対する本来のシール性能を維持することができる。
又、第1インナリップと第2インナリップとの間には、第2インナリップの第1インナリップ側の付根部又は車内側側壁から第1インナリップの付根部側の面に向かって斜めに突出するサブリップが形成されているので、サブリップが加わることにより透過音の遮蔽効果が増大する。又、第1インナリップがドアガラスと摺接するときに、サブリップが第1インナリップの裏面を押すことにより第1インナリップのガラスに対する圧接力が増加するので、水漏れ等を防止するシール性能を向上させることができる。
又、ドアガラスが第1インナリップに摺接する時に第1インナリップとサブリップの先端間に空間がある場合は、第1インナリップとサブリップの先端間の狭い空間と、この狭い空間以外の第1インナリップ、サブリップと車内側側壁によって形成される広い空間に起因するヘルムホルツ共鳴が発生する。ドアガラスが第1インナリップに摺接する時には、サブリップは、第1インナリップの車内側に当接するので、第1インナリップとサブリップの先端間に空間が発生することがなく、上記のヘルムホルツ共鳴の発生を防止することができる。
又、少なくとも第1インナリップと車内側側壁の付根部には、車内側側壁からドアガラス側にせり出す基部が形成されているので、せり出した基部によって透過音の遮蔽効果が更に増大する。又、インナリップそのものの長さを更に短くすることができ、透過音の共振点を高周波数側にシフトさせることができるので、透過音による第1インナリップの振動を防止することができ、車室内側で振動に伴う放射音の発生を防止することができる。同時に少なくとも第1インナリップの付根部の剛性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】
図1のドアフレームに用いるガラスランを示す正面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態のガラスランであり、
図1のX-X線に対応する断面図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態のガラスランであり、
図1のX-X線に対応する断面図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態のガラスランであり、
図1のX-X線に対応する断面図である。
【
図6】本発明の第4の実施形態のガラスランであり、
図1のX-X線に対応する断面図である。
【
図7】(a)は評価方法を示す概略図であり、(b)は
図5に示す本発明の第3の実施形態のガラスランと
図8に示す従来のガラスランの断面近傍の周波数と挿入損失との関係を比較して示すグラフである。
【
図8】従来のガラスランの取付構造を示す断面図であり、
図1のX-X線に対応する断面図である(特許文献1)。
【
図9】従来のガラスランの取付構造を示す断面図である(特許文献2)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の第1の実施形態について
図1から
図3に基づいて説明する。
図1は自動車の左側のフロントドア1を車外側からみた正面図を示す。このフロントドア1を構成するドア本体2の上部には、ドアフレーム3が装着されている。このドアフレーム3とドア本体2の上端縁とにより窓開口が形成されている。窓開口の内周縁及びドア本体2の内部にはガラスラン10が取付られ、ドアガラス4の昇降動作を案内するようになっている。なお、本発明は、左側のフロントドア1のみならず、右側のフロントドア、左右のリヤドアにも適用可能である。又、ドアガラスの昇降するスライドドアにも適用可能である。
【0025】
図2はガラスラン10のみを簡略化して車外側からみた正面図である。このガラスラン10はドアフレーム3の横枠部に対応する第1の押出成形部11と、フロントドア1の前側の縦枠部に対応する第2の押出成形部12と、後側の縦枠部と対応する第3の押出成形部13とにより構成されている。第1の押出成形部11の前端部は第2の押出成形部12の上端部に対し第1の型成形部14により接続されている。第1の押出成形部11の後端部は第3の押出成形部13の上端部に対し第2の型成形部15により接続されている。
【0026】
図3は、
図1のドアフレーム3の後側の縦枠部のX-X線に対応する断面図である。ガラスラン10は、底壁20、車外側側壁30及び車内側側壁40を基本骨格とし、チャンネル状(断面が略コ字形)に形成されている。底壁20と車外側側壁30、車内側側壁40との連結部は、車外側及び車内側の溝部21、21により自由状態で展開可能に連結されている。又、車内側側壁40が車外側側壁30よりも大きく、厚肉に形成され、その形状は車内側が大きい非対称に形成されている。
【0027】
底壁20は、略板状に形成され、底壁20の内面(ドアガラス4との当接側)には、複数本の底壁凹部22が長手方向に連続して平行に形成されている。又、底壁20の外面には、底壁シールリップ23が形成され、底壁シールリップ23は、ドアチャンネル5に当接して、底壁20とドアチャンネル5との間をシールしている。
【0028】
車外側側壁30の車内側には、ドアガラス4に接触される第2アウタリップ32が底壁20側に向けて形成され、車外側側壁30の先端部分には、第2アウタリップ32とは反対側に向けて第1アウタリップ31が形成されている。第1アウタリップ31は第2アウタリップ32とともにドアガラス4の車外側面を2重にシールしている。
【0029】
一方、車外側側壁30の車外側には、底壁20との連結部近傍と車外側側壁30の先端部方向に、ドアチャンネル5に係止される第1車外側保持リップ33と第2車外側保持リップ34が形成され、第1車外側保持リップ33と第2車外側保持リップ34によって、屈曲して形成されているドアチャンネル5を保持している。又、第1アウタリップ31の付け根部分には、車外側に向けて係止部35が形成され、ピラーガーニッシュ6の端部を固定するとともにピラーガーニッシュ6と車外側側壁30の表面との間の隙間をシールしている。
【0030】
車内側側壁40の車外側には、ドアガラス4に接触される第2インナリップ42が底壁20側に向けて形成されている。又、車内側側壁40の先端部分には、ドアガラス4に接触される第1インナリップ41が底壁20側に向けて形成されている。第2インナリップ42は、ドアガラス4との摺接時に、第2インナリップ42の車外側と第1インナリップ41の車内側が互いに当接しないように形成される。
【0031】
一方、車内側側壁40の車内側には、底壁20との連結部近傍と車内側側壁40の先端部方向には湾曲部を有するドアチャンネル5の湾曲部に係止される第1車内側保持リップ43と第2車内側保持リップ44が形成されている。又、第1車内側保持リップ43と第2車内側保持リップ44の間には、当接リップ45が形成されている。第1車内側保持リップ43、第2車内側保持リップ44と当接リップ45によって、車内側側壁40が湾曲したドアチャンネル5に保持されている。
【0032】
又、車内側側壁40の先端の第1インナリップ41の反対側(車内側)には、カバーリップ60が形成されている。なお、図では、カバーリップ60は、第1インナリップ41から連続して形成されている形状に描かれているが、これには限定されない。カバーリップ60は、ドアチャンネル5に当接し、車内側側壁40の隙間をシールしている。
【0033】
この結果、ガラスラン10は、第1インナリップ41と、第1インナリップ41より底壁20側に形成された第2インナリップ42の複数有しているので、ガラスラン透過ルートBにおける透過音の遮蔽効果が増大する。なお、
図3では、インナリップは、第1インナリップ41と第2インナリップ42の2か所形成したが、インナリップの数を更に増やしてもよい。
【0034】
又、インナリップを複数形成することにより、第1インナリップ41と第2インナリップ42の長さを共に従来のインナリップ410(
図8、
図9)に比較して短くすることができるので、透過音の共振点を高周波数側にシフトさせ、透過音による各インナリップの振動を防止することができ、車室内側で振動に伴う放射音の発生を防止することができる。
【0035】
ここで、
図3に示すように、第1インナリップ41は、先端部と先端部の近傍がドアガラス4に摺接する(点シール)ように形成され、第2インナリップ42は、先端部分から付根部方向の広い範囲がドアガラス4に摺接する(面シール)ように形成されている。これは、第2インナリップ42においては、主にNV(Noise、Vibration)特性の向上を目的とするためにドアガラス4との接触領域を大きくするためであり、一方、第1インナリップ41においては、水漏れ等の防止と透過音の遮蔽を同時に向上させるためである。そのため、第1インナリップ41の先端部分は、車内側に肉厚に形成されている。
【0036】
図4は、本発明の第2の実施形態を示すものであり、上記の第1の実施形態に、第2インナリップ42の第1インナリップ41側の付根部から第1インナリップ41の付根部側の面に向かって、且つ底壁20から離れる方向に斜めに突出するサブリップ50が形成されている。又、このサブリップ50は、ドアガラス4が第1インナリップ41に摺接する時に、第1インナリップ41の車内側に当接するように形成されている。なお、サブリップ50は、第2インナリップ42より第1インナリップ41側の車内側側壁40に形成してもよい。
【0037】
この結果、サブリップ50が加わることにより透過音の遮蔽効果が更に増大する。又、第1インナリップ41がドアガラス4と摺接するときに、サブリップ50が第1インナリップ41の裏面を押すことにより第1インナリップ41のドアガラス4に対する圧接力が増加するので、水漏れ等を防止するシール性能を向上させることができる。
【0038】
更に、ドアガラス4が第1インナリップ41に摺接する時には、サブリップ50は、第1インナリップ41の車内側に当接するので、第1インナリップ41とサブリップ50の先端間に空間が発生することなく、ドアガラス4が第1インナリップ41に摺接する時に第1インナリップ41とサブリップ50の先端間に空間がある場合の第1インナリップ41とサブリップ50の先端間の狭い空間と、この狭い空間以外の第1インナリップ41、サブリップ50と車内側側壁40によって形成される広い空間に起因するヘルムホルツ共鳴の発生を防止することができる。
【0039】
図5は、本発明の第3の実施形態を示すものであり、上記の第2の実施形態における第1インナリップ41と車内側側壁40の付根部分、第2インナリップ42と車内側側壁40の付根部分には、車内側側壁40からドアガラス4側にせり出す
基部46、基部47が形成されている。
【0040】
図6は、本発明の第4の実施形態を示すものであり、上記の第3の実施形態における基部46、基部47の上部の底壁20側に、
凹部48、凹部49が形成されている。
【0041】
図6は、本発明の第4の実施形態を示すものであり、上記の第3の実施形態における基部46、基部47の上部の底壁20側に、凹部48、凹部49が形成されている。なお、凹部48、凹部49どちらか一方のみ形成してもよい。
【0042】
この結果、第1インナリップ41と第2インナリップ42がドアガラス4に摺接する時に、凹部48、凹部49を起点として底壁20側に倒れやすくなり、第1インナリップ41と第2インナリップ42のドアガラス4への追従性が向上し、上記第3の実施形態の透過音の遮蔽効果の増大を維持しつつ、ドアガラス4とのスムーズな摺接を可能にすることができる。
【0043】
図7(a)は、上記実施形態のガラスラン10のガラスラン透過ルートBにおける音の遮蔽効果を確認する評価方法の概略図である。測定治具7は、鉄板72を載置する台部70、鉄板72、台部70に取付けられるドアフレーム治具71とから構成される。測定治具7の下部には音の発生源であるスピーカ73が設置され、測定治具7の上部には、受音マイク74が設置されている。
【0044】
上記のようにして測定治具7は、実際の車両のドア本体2に形成されたドアフレーム3に取付けられた状態のガラスラン10の周辺構造を模擬しており、鉄板72はドアガラス4と同じ板厚のものを使用している。
【0045】
人間の耳に感じる周波数特性が等比的であるため、分析はオクターブ分析を使用した。騒音に対して可聴周波数の周波数範囲において、1/3 オクターブの規格に定められたバンドパスフィルタを通して各々の帯域毎の音圧レベルを測定する。又、ガラスラン10をドアフレーム治具71に装着した場合と装着しない場合の各周波数の音圧レベルの差分を挿入損失(dB)として算出する。したがって、挿入損失(dB)の大きいことは、音の遮蔽効果が高いことを示す。なお、バンドパスフォルタの特性などはJIS C 1513:2002を参照されたい。
【0046】
図7(b)は、
図8に示す従来のガラスラン110の場合(破線)と、上記の第3の実施形態のガラスラン10(
図5)の場合(実線)における周波数と挿入損失との関係を比較したものである。
図7(b)から明らかなように、本発明において、特に1kHzから3.15kHzと4kHzを越える領域で顕著な効果が得られていることが分かる。なお、上記の他の実施形態においても、従来のガラスラン110に対して遮音効果が増大していることが確認できた。
【0047】
本発明の実施形態において、ガラスラン10を構成する材料としては、ゴム、熱可塑性エラストマー、軟質合成樹脂等で形成することができる。ゴムの場合は、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)が、熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)や動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)が耐候性、リサイクル、コスト等の観点から望ましい。
【0048】
以上より、本発明のガラスラン10を装着することにより、ガラスラン透過ルートBにおいても音の遮蔽効果が増大するので、電気自動車やハイブリッド自動車等、電動モーターで走行している場合においても、外部からの騒音などを効果的に遮蔽することができる。
【0049】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0050】
上記実施形態のガラスラン10は、ドアフレーム3の後側の縦枠部に対応する第3の押出成形部13について説明したが、断面形状の異なるドアフレーム3の前側の縦辺部に対応する第2の押出成形部12、横枠部に対応する第1の押出成形部11、第1の型成形部14、第2の型成形部15にも適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 フロントドア
2 ドア本体
3 ドアフレーム
5 ドアチャンネル
7 測定治具
10 ガラスラン
20 底壁
30 車外側側壁
40 車内側側壁
41 第1車内側インナリップ
42 第2車内側インナリップ
46、47 基部
48、49 凹部
50 サブリップ
70 台部
71 ドアフレーム治具
73 スピーカ
74 受音マイク