IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-スイッチング素子駆動装置 図1
  • 特許-スイッチング素子駆動装置 図2
  • 特許-スイッチング素子駆動装置 図3
  • 特許-スイッチング素子駆動装置 図4
  • 特許-スイッチング素子駆動装置 図5
  • 特許-スイッチング素子駆動装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】スイッチング素子駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20221206BHJP
   H02M 1/00 20070101ALI20221206BHJP
   H03K 17/12 20060101ALI20221206BHJP
   H03K 17/687 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H02M1/08 341B
H02M1/00 M
H03K17/12
H03K17/687 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019167902
(22)【出願日】2019-09-16
(65)【公開番号】P2021048655
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】近藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】宮地 準二
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-259655(JP,A)
【文献】特開2016-146717(JP,A)
【文献】特開2005-6412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00- 7/98
H03K 17/00-17/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体材料としてSiCを用いて同じオン閾値電圧(Vth)を有するように形成され、並列に接続される複数の半導体スイッチング素子(1、2)を駆動するためのスイッチング素子駆動装置であって、
複数の前記半導体スイッチング素子を駆動する駆動回路(Tr1、Tr2、Tr3)と、
前記半導体スイッチング素子を介して流れる電流の大きさに応じて、複数の前記半導体スイッチング素子の同時駆動と、複数の前記半導体スイッチング素子の一部のみの駆動との一方が実施されるように、前記駆動回路を制御する制御回路(10)と、
複数の前記半導体スイッチング素子のそれぞれのオン閾値電圧を検出する検出回路(22、24)と、を備え
前記制御回路は、前記駆動回路に複数の前記半導体スイッチング素子の一部のみの駆動を実施させる際、前記検出回路により複数の前記半導体スイッチング素子のオン閾値電圧に差異が生じていることが検出されると、相対的にオン閾値電圧の低い前記半導体スイッチング素子を駆動し、相対的にオン閾値電圧の高い前記半導体スイッチング素子を休止させるように、前記駆動回路を制御するスイッチング素子駆動装置。
【請求項2】
前記制御回路は、複数の前記半導体スイッチング素子のオン閾値電圧の差異が所定の閾値以下となるまで、前記駆動回路に複数の前記半導体スイッチング素子の一部のみの駆動を実施させる際に、オン閾値電圧の高い前記半導体スイッチング素子を休止させる請求項1に記載のスイッチング素子駆動装置。
【請求項3】
負電圧を発生する負電圧発生回路(28)をさらに有し、
前記制御回路は、オン閾値電圧の高い前記半導体スイッチング素子の休止期間の少なくとも一部の期間、オン閾値電圧の高い前記半導体スイッチング素子のゲートに、前記負電圧発生回路が発生する負電圧を印加させる請求項1または2に記載のスイッチング素子駆動装置。
【請求項4】
前記負電圧発生回路は、発生する負電圧を可変させることができるものであり、
前記制御回路は、複数の前記半導体スイッチング素子のオン閾値電圧の差が大きくなるほど、絶対値として高い負電圧が、オン閾値電圧の高い前記半導体スイッチング素子のゲートに印加されるように、前記負電圧発生回路が発生する負電圧を高くする請求項3に記載のスイッチング素子駆動装置。
【請求項5】
前記駆動回路は、
複数の前記半導体スイッチング素子を一括して駆動する主駆動回路(Tr1)と、
複数の前記半導体スイッチング素子を個別に駆動する副駆動回路(Tr2、Tr3)と、を含み、
前記制御回路は、前記主駆動回路を用いて複数の前記半導体スイッチング素子を同時駆動させ、前記副駆動回路を用いて複数の前記半導体スイッチング素子の一部のみを駆動させる請求項1乃至4のいずれかに記載のスイッチング素子駆動装置。
【請求項6】
前記制御回路は、前記半導体スイッチング素子をオンする期間において、最初に前記主駆動回路によって複数の前記半導体スイッチング素子を一括してオンさせ、複数の前記半導体スイッチング素子を介して流れる電流が所定値以下である場合には、その後、前記主駆動回路による駆動から前記副駆動回路による駆動に切り替える請求項5に記載のスイッチング素子駆動装置。
【請求項7】
前記制御回路は、複数の前記半導体スイッチング素子がともにオンする期間中に、それぞれのゲートに印加される電圧を変化させ、そのときに対応する前記半導体スイッチング素子を流れる電流の変化から、複数の前記半導体スイッチング素子のそれぞれのオン閾値電圧を検出する請求項5に記載のスイッチング素子駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料としてSiCを用いて形成され、並列に接続される複数の半導体スイッチング素子を駆動するためのスイッチング素子駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、並列に接続された第1IGBTと第2IGBTのためのスイッチング回路について記載されている。この特許文献1のスイッチング回路では、第1IGBT用の駆動回路と、第2IGBT用の駆動回路とが個別に設けられている。そして、例えば、IGBTを介して流すべき電流が閾値よりも大きい場合には、それぞれの駆動回路によって第1IGBTと第2IGBTの両方を同時にオンし、閾値以下の場合には、第1IGBT用の駆動回路によって第1IGBTだけをオンする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-146717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高耐圧、低損失などを達成するために、スイッチング素子が、シリコンカーバイド(SiC)によって形成される場合、ゲートに正電圧を印加し続けると、ゲート酸化膜界面のトラップに電子が捕獲されることにより、オン閾値電圧が上昇する現象が生じる。並列に接続されるスイッチング素子に、不均一なオン閾値電圧の上昇が生じた場合、これに起因して、複数のスイッチング素子がオンするタイミングがずれて、それぞれのスイッチング素子に流れる電流のアンバランスを助長する虞がある。
【0005】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、半導体材料としてSiCを用いて形成され、並列接続されたスイッチング素子を同時に駆動する際に、複数のスイッチング素子がオンするタイミングのずれを抑制することができるスイッチング素子駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明によるスイッチング素子駆動装置は、半導体材料としてSiCを用いて同じオン閾値電圧(Vth)を有するように形成され、並列に接続される複数の半導体スイッチング素子(1、2)を駆動するためのものであって、
複数の半導体スイッチング素子を駆動する駆動回路(Tr1、Tr2、Tr3)と、
半導体スイッチング素子を介して流れる電流の大きさに応じて、複数の半導体スイッチング素子の同時駆動と、複数の半導体スイッチング素子の一部のみの駆動との一方が実施されるように、駆動回路を制御する制御回路(10)と、
複数の半導体スイッチング素子のそれぞれのオン閾値電圧を検出する検出回路(22、24)と、を備え、
制御回路は、駆動回路に複数の半導体スイッチング素子の一部のみの駆動を実施させる際、検出回路により複数の半導体スイッチング素子のオン閾値電圧に差異が生じていることが検出されると、相対的にオン閾値電圧の低い半導体スイッチング素子を駆動し、相対的にオン閾値電圧の高い半導体スイッチング素子を休止させるように、駆動回路を制御するように構成される。
【0007】
上記のように、本発明によるスイッチング素子駆動装置では、制御回路(10)は、駆動回路を制御することにより、複数の半導体スイッチング素子の同時駆動と、複数の半導体スイッチング素子の一部のみの駆動との一方を実施させることが可能である。
【0008】
複数の半導体スイッチング素子の一部のみの駆動を実施させる際、制御回路は、複数の半導体スイッチング素子のオン閾値電圧に差異が生じていることが検出されると、相対的にオン閾値電圧の低い半導体スイッチング素子を駆動し、相対的にオン閾値電圧の高い半導体スイッチング素子を休止させるように、駆動回路を制御する。これにより、複数の半導体スイッチング素子のオン閾値電圧の差異を縮小することが可能となり、複数の半導体スイッチング素子を同時駆動する際のオンタイミングのずれを抑制することが可能となる。
【0009】
上記括弧内の参照番号は、本開示の理解を容易にすべく、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、なんら発明の範囲を制限することを意図したものではない。
【0010】
また、上述した特徴以外の、特許請求の範囲の各請求項に記載した技術的特徴に関しては、後述する実施形態の説明及び添付図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態のスイッチング素子駆動装置の回路構成を示す構成図である。
図2】第1実施形態のスイッチング素子駆動装置の制御回路が実行する処理を示すフローチャートである。
図3】スイッチング素子駆動装置が、片側駆動を指示する休止指示信号に応じて、オン区間に、MOSFET1、2の同時駆動から、MOSFET1の片側駆動に切り替える場合の各部の信号波形を示すタイミングチャートである。
図4】第2実施形態のスイッチング素子駆動装置の回路構成を示す構成図である。
図5】第3実施形態のスイッチング素子駆動装置の回路構成を示す構成図である。
図6】第4実施形態のスイッチング素子駆動装置の回路構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態によるスイッチング素子駆動装置について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態では、並列に接続される半導体スイッチング素子として、シリコンカーバイド(SiC)を用いて同じオン電圧閾値を有するように形成されたSiC-MOSFETを採用した例について説明する。ただし、並列に接続される半導体スイッチング素子はSiC-MOSFETに限定されず、例えば、SiCを用いて形成されるSiC-IGBTとしてもよい。
【0013】
各実施形態のスイッチング素子駆動装置によって駆動されるSiC-MOSFET(以下、単にMOSFETと呼ぶ)は、例えば、モータのコイルに交流電流を供給するためのインバータ回路におけるスイッチング素子として用いることができる。それ以外にも、各実施形態のスイッチング素子駆動装置によって駆動されるMOSFETは、特に、高電圧を用いて、コイルやソレノイドなどの誘導性負荷を駆動するためのスイッチング素子として適用されうる。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のスイッチング素子駆動装置100の回路構成を示している。図1に示すように、第1実施形態のスイッチング素子駆動装置100は、並列に接続されたMOSFET1とMOSFET2を駆動するものである。MOSFET1、2は、同じオン閾値電圧Vthを有する。しかしながら、その他の特性(例えば、電流-電圧特性など)は同じであっても良いし、異なっていてもよい。以下の説明では、MOSFET1、2が、すべて同じ特性を有する場合について説明する。
【0015】
スイッチング素子駆動装置100は、MOSFET1、2のゲートに接続され、導通したとき、MOSFET1,2のゲート電位を上昇させて、MOSFET1,2をともにオンさせることが可能なオン用メインスイッチTr1を有する。オン用メインスイッチTr1として、例えば、pチャネルMOSFETが採用されうる。オン用メインスイッチTr1としてのpチャネルMOSFETのソースは、定電流回路14に接続され、ドレインは、各MOSFET1、2のゲートに達する充電側分岐配線に繋がる共通配線に接続される。
【0016】
定電流回路14は、オン用メインスイッチTr1としてのpチャネルMOSFETのソースに一定の電流を流すものである。なお、定電流回路14は、pチャネルMOSFETのドレインに接続される共通配線に設けてもよい。
【0017】
オン用メインスイッチTr1としてのpチャネルMOSFETのドレインに接続される共通配線から分岐して、各MOSFET1、2のゲートに達する充電側分岐配線には、整流素子としてのダイオードD1、D2と、バランス抵抗R1、R2とが直列に設けられている。
【0018】
ダイオードD1、D2は、オン用メインスイッチTr1が導通したとき、定電流回路14からの一定電流が、それぞれの充電側分岐配線に分配されて、MOSFET1、2のゲートに向かって流れることを許容する。ダイオードD1、D2は、降下電圧などの特性が同じものである。また、バランス抵抗R1、R2も、抵抗値を含む特性が同じものである。
【0019】
このように、本実施形態においては、MOSFET1、2、ダイオードD1、D2、及びバランス抵抗R1、R2として、それぞれ同じ特性を有する素子を用いている。そのため、オン用メインスイッチTr1が導通して、定電流回路14からMOSFET1及びMOSFET2のゲートに電流が通電されるとき、定電流回路14が発生する一定電流は、MOSFET1、2のゲートに同じ電流が流れるように分配される。このため、オン用メインスイッチTr1をオンして、MOSFET1、2を同時駆動する際に、MOSFET1、2のゲート電圧に差が生じることを抑制することができる。
【0020】
また、MOSFET1、2のゲートの充電途中で、なんらかの原因によりゲート間に電位差が生じたとしても、それぞれの充電経路に同じ特性のバランス抵抗R1、R2を設けているので、相対的に低電位のゲートに流れる電流が相対的に高電位のゲートに流れる電流よりも多くなるように、それぞれのゲートに流れる電流量が自動的に調整される。従って、MOSFET1、2のゲート電位がほぼ同時にオン閾値電圧Vthに達するようにすることができ、MOSFET1、2がオンするタイミングを揃えることが可能となる。
【0021】
実際の回路では、配線、ダイオードD1、D2、MOSFET1、2のゲートなどにインピーダンス成分が存在する。そのため、上述した電流の自動調整機能は、バランス抵抗R1、R2が省略された場合であっても、発揮されうる。
【0022】
また、本実施形態に係るスイッチング素子駆動装置100は、図1に示すように、オン用メインスイッチTr1の他に、オン用メインスイッチTr1と並列にMOSFET1のゲートに接続され、導通したとき、MOSFET1のゲート電位を上昇させて、MOSFET1をオンさせることができるオン用サブスイッチTr2を有している。また、スイッチング素子駆動装置100は、オン用メインスイッチTr1と並列にMOSFET2のゲートに接続され、導通したとき、MOSFET2のゲート電位を上昇させて、MOSFET2をオンさせることができるオン用サブスイッチTr3を有している。つまり、オン用サブスイッチTr2、Tr3は、オン用メインスイッチTr1が接続されるよりも少ない数のMOSFETのゲートに接続されており、その接続された一部のMOSFETだけをオンさせることが可能となっている。従って、オン用メインスイッチTr1とオン用サブスイッチTr2、Tr3との使用を適宜切り替えることにより、駆動するMOSFETの数を可変することができる。
【0023】
オン用サブスイッチTr2、Tr3も、例えば、オン用メインスイッチTr1と同様に、pチャネルMOSFETによって構成することができる。オン用サブスイッチTr2またはオン用サブスイッチTr3が導通したときには、電源12からの高電位がMOSFET1またはMOSFET2のゲートに印加される。
【0024】
オン用メインスイッチTr1が非導通となっているときに、オン用サブスイッチTr2が導通した場合、ダイオードD1が、MOSFET1のゲートに繋がる充電側分岐配線から、MOSFET2のゲートに繋がる充電側分岐配線に電流が回り込むことを防止する。従って、オン用サブスイッチTr2が導通したときは、オン用サブスイッチTr2がゲートに接続されたMOSFET1だけを適切に駆動することができる。また、オン用メインスイッチTr1が非導通となっているときに、オン用サブスイッチTr3が導通した場合には、ダイオードD2が、MOSFET2のゲートに繋がる充電側分岐配線から、MOSFET1のゲートに繋がる充電側分岐配線に電流が回り込むことを防止する。従って、オン用サブスイッチTr3が導通したときは、オン用サブスイッチTr3がゲートに接続されたMOSFET2だけを適切に駆動することができる。
【0025】
さらに、スイッチング素子駆動装置100は、ダイオードD1、D2の下流側において、MOSFET1,2の各ゲートに接続されたオフ用メインスイッチTr4を有する。このオフ用メインスイッチTr4は、MOSFET1、2がオンからオフに切り替えられるときに導通され、オンしていたMOSFETのゲートに蓄積された電荷を放電させることにより、オンしていたMOSFETがオフする速度を早めるものである。オフ用メインスイッチTr4は、例えば、nチャネルMOSFETによって構成することができる。オフ用メインスイッチTr4としてのnチャネルMOSFETのソースは、定電流回路16に接続され、ドレインは、各MOSFET1、2のゲートに達する放電側分岐配線に繋がる共通配線に接続される。
【0026】
定電流回路16は、オフ用メインスイッチTr4としてのnチャネルMOSFETのソースに一定の電流を流すものである。なお、定電流回路16は、nチャネルMOSFETのドレインに接続される共通配線に設けてもよい。
【0027】
オフ用メインスイッチTr4としてのnチャネルMOSFETのドレインに接続される共通配線から分岐して、各MOSFET1、2のゲートに達する放電側分岐配線には、それぞれ、整流素子としてのダイオードD3、D4と、バランス抵抗R3、R4とが直列に設けられている。
【0028】
ダイオードD3、D4は、MOSFET1、2がオンしている状態で、オフ用メインスイッチTr4が導通したとき、MOSFET1、2のゲートから定電流回路16に向かって電流が流れることを許容する。この場合、MOSFET1、2の各ゲートから定電流回路16に向かって流れる電流の合計値が、定電流回路16が定める一定電流となる。ダイオードD3、D4は、降下電圧などの特性が同じものである。また、バランス抵抗R3、R4も、抵抗値を含む特性が同じものである。
【0029】
バランス抵抗R3、R4は、バランス抵抗R1、R2と同様に、オフ用メインスイッチTr4が導通したときに、MOSFET1とMOSFET2のゲート電位に差が生じたとしても、その電位差の減少を促進する作用を有する。これにより、MOSFET1,2がオフするタイミングを揃えることが可能となる。
【0030】
さらに、ダイオードD3は、オン用サブスイッチTr3によってMOSFET2だけがオンしているときに、MOSFET2のゲートに繋がる放電側分岐配線から、MOSFET2のゲートに繋がる放電側分岐配線に電流が回り込むことを防止する。また、ダイオードD4は、オン用サブスイッチTr2によってMOSFET1だけがオンしているときに、MOSFET1のゲートに繋がる放電側分岐配線から、MOSFET2のゲートに繋がる放電側分岐配線に電流が回り込むことを防止する。
【0031】
本実施形態のスイッチング素子駆動装置100では、MOSFET1のゲートは、抵抗R5を介して接地されている。同様に、MOSFET2のゲートは、抵抗R6を介して接地されている。抵抗R5と抵抗R6は、同じ抵抗値を有している。オン用メインスイッチTr1またはオン用サブスイッチTr2、Tr3が導通から非導通に切り替えられたとき、各MOSFET1、2のゲートに蓄積された電荷の少なくとも一部が抵抗R5、抵抗R6を介して放電される。特に、後述するように、MOSFETのオン期間において、例えば、オン用メインスイッチTr1が導通している状態(同時駆動)から、オン用サブスイッチTr2が導通する状態(片側駆動)に切り替えられたときには、オフ用メインスイッチTr4は非導通のままであるため、オン用メインスイッチTr1を通じてMOSFET2のゲートに蓄積された電荷のすべては、抵抗R6を介して放電されることになる。
【0032】
さらに、本実施形態のスイッチング素子駆動装置100は、MOSFET1のオン閾値電圧Vthを検出する第1Vth検出回路22と、MOSFET2のオン閾値電圧Vthを検出する第2Vth検出回路24とを有する。第1及び第2Vth検出回路22、24は、例えば、MOSFETのオン期間の最初にオン用メインスイッチTr1が導通されたときに、それぞれ、MOSFET1およびMOSFET2のオン閾値電圧Vthを検出することができるように構成されている。より具体的には、第1及び第2Vth検出回路22、24は、それぞれ、MOSFET1、2のゲートに印加されるゲート電圧と、ソース-ドレイン間に流れる電流に対応する電圧を取り込む。各MOSFET1、2のドレインには、それぞれ抵抗R7、R8が接続されている。これらの抵抗R7、R8の端子電圧が、各MOSFET1,2のソース-ドレイン間に流れる電流に対応する電圧として、第1及び第2Vth検出回路22、24に取り込まれる。
【0033】
なお、MOSFET1、2が、メイン領域とセンス領域とを含むように構成してもよい。この場合、センス領域には、メイン領域を流れる電流の所定割合(例えば、数百分の1)の電流が流れるように、センス領域とメイン領域とのサイズが定められる。そして、第1及び第2Vth検出回路22、24は、各MOSFET1、2のセンス領域を流れる電流に対応する電圧を取り込むように構成してもよい。
【0034】
MOSFETのオン期間の最初にオン用メインスイッチTr1が導通されると、定電流回路14からの一定電流がほぼ均等に分配されて、各MOSFET1、2のゲートに向かって流れる。このため、各MOSFET1、2のゲート電圧は、所定の傾きで上昇する。そして、第1及び第2Vth検出回路22、24は、各MOSFET1、2のソース-ドレイン間に電流が流れ始めたことを検出したときのゲート電圧を、各MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthとして検出することができる。
【0035】
本実施形態のスイッチング素子駆動装置100は、各MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに差異が生じているか否かを判定するVth変動判定回路26を有する。Vth変動判定回路26は、第1及び第2Vth検出回路22、24によって検出された各MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに基づいて、MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに所定値以上の差異が生じているか否かを判定する。所定値以上の差異が生じている場合には、所定値以上の差異が発生していることを示す信号、さらに、相対的に高いオン閾値電圧Vthを有するMOSFETを示す信号を制御回路10に出力する。なお、Vth変動判定回路26が有する判定機能は、制御回路10が備えるように構成することもできる。
【0036】
さらに、本実施形態のスイッチング素子駆動装置100は、外部の制御装置から入力される駆動信号及び休止指示信号に基づき、オン用メインスイッチTr1、オン用サブスイッチTr2、Tr3及びオフ用メインスイッチTr4の導通、非導通を制御する制御回路10を有する。例えば、駆動信号はPWM信号であり、休止指示信号はHiレベルとLoレベルの2値信号とすることができる。外部の制御装置は、MOSFET1、2を介して流れる電流の大きさを監視しており、その電流値が閾値以上である場合には、MOSFET1、2の同時駆動を指示するため、Loレベルの休止指示信号を制御回路10に入力する。一方、外部の制御装置は、MOSFET1、2を介して流れる電流の大きさが閾値未満である場合には、同時駆動を休止し、一方のMOSFETのみの駆動(片側駆動)への切り替えを指示するため、Hiレベルの休止指示信号を制御回路10に入力する。
【0037】
ここで、本実施形態では、各MOSFET1、2は、シリコンカーバイド(SiC)によって形成されているので、ゲートに正電圧を印加し続けると、ゲート酸化膜界面のトラップに電子が捕獲されることにより、オン閾値電圧が上昇する現象が生じる。このため、MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthが初期的には一致していても、使用を繰り返すことにより、両MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに差異が生じる可能性がある。並列に接続されるMOSFET1、2のオン閾値電圧に差異が生じた場合、MOSFET1、2を同時駆動すべくオン用メインスイッチTr1がオンされても、MOSFET1、2のオンするタイミングがずれてしまう虞がある。
【0038】
そこで、制御回路10は、片側駆動を行う際に、Vth変動判定回路26から、MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに差異が生じていることを示す信号が入力されると、相対的にオン閾値電圧Vthの低いMOSFETだけをオンし、相対的にオン閾値電圧Vthの高いMOSFETを休止させるように、オン用サブスイッチTr2、Tr3を制御する。これにより、MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthの差異を縮小することが可能となり、MOSFET1、2を同時駆動する際のオンタイミングのずれを抑制することが可能となる。
【0039】
以下、図2のフローチャート及び図3のタイミングチャートを参照して、本実施形態に係るスイッチング素子駆動装置100の動作をより詳しく説明する。なお、図2のフローチャートは、制御回路10において実行される処理の流れを示している。図3のタイミングチャートは、Hiレベルの休止指示信号に応じて、制御回路10が、オン指令区間に、MOSFET1、2の同時駆動から、相対的に低いオン閾値電圧Vthを有するMOSFET1だけの駆動に切り替える場合の各部の信号波形を示している。
【0040】
図2のフローチャートにおいて、ステップS100では、制御回路10は、外部の制御装置から入力される駆動信号がオフからオンに変化したか否かを判定する。この判定処理において、オフからオンに変化していないと判定すると、制御回路10は、ステップS100の処理を繰り返し実行し、駆動信号がオフからオンに変化するまで待機する。一方、駆動信号がオフからオンに変化したと判定すると、次のステップS110の処理に進む。ステップS110では、制御回路10は、オン用メインスイッチTr1に駆動信号を出力して導通させ、オン用メインスイッチTr1をオンさせる。つまり、図3のタイミングチャートに示すように、制御回路10は、時間T1、T2で始まる駆動信号のオン指令期間の初期に、オン用メインスイッチTr1を導通するように制御して、MOSFET1、2を同時にオンさせる。
【0041】
外部の制御装置は、MOSFET1、2が同時にオンされている間に、それらMOSFET1、2を介して流れる電流の大きさが閾値以上か否かを判定し、その判定結果に応じた休止指示信号を制御回路10に出力する。さらに、第1及び第2Vth検出回路22、24も、MOSFET1、2が同時にオンされるときに、それぞれのオン閾値電圧Vthを検出して、Vth変動判定回路26に出力する。Vth変動判定回路26は、第1及び第2Vth検出回路22、24から入力された各MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに基づいて、各MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに所定値以上の差異が発生しているか否かを判定し、その判定結果を示す信号を制御回路10に出力する。
【0042】
ステップS120では、外部の制御装置から入力される休止指示信号が同時駆動と片側駆動とのどちらを指示しているかを判定する。休止指示信号が同時駆動を指示している場合には、ステップS130の処理に進む。一方、休止指示信号が片側駆動を指示している場合には、ステップS140の処理に進む。
【0043】
ステップS130では、休止指示信号により同時駆動が指示されているので、制御回路10は、駆動信号がHiレベルとなるオン指令期間に渡って、オン用メインスイッチTr1への駆動信号の出力を継続することにより、オン用メインスイッチTr1を導通した状態に維持する。この結果、駆動信号のオン指令期間中、MOSFET1、2がともにオンされたままとなる。
【0044】
一方、ステップS140では、休止指示信号により片側駆動が指示されているので、駆動すべきMOSFETを決定するために、制御回路10は、各MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに所定値以上の差異が発生しているか否かを判定する。この判定処理において、所定値以上の差異が発生していると判定した場合、ステップS150の処理に進む。逆に、所定値以上の差異が発生していないと判定した場合には、ステップS160の処理に進む。
【0045】
ステップS150では、制御回路10は、オン用メインスイッチTr1への駆動信号を停止してオン用メインスイッチTr1をオフするとともに、相対的にオン閾値電圧Vthの低いMOSFETに対応するオン用サブスイッチに駆動信号を出力して、相対的にオン閾値電圧Vthの低いMOSFETを導通させる。その一方、制御回路10は、相対的にオン閾値電圧Vthの高いMOSFETに対応するオン用サブスイッチには駆動信号を出力せず、相対的にオン閾値電圧Vthの高いMOSFETを休止させる。このように、相対的にオン閾値電圧Vthの高いMOSFETを休止させることで、上昇したオン閾値電圧Vthの低下を図ることができる。従って、MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthの差異を縮小することが可能となる。
【0046】
なお、図3のタイミングチャートは、外部の制御装置からの休止指示信号により片側駆動が指示され、MOSFET2のオン閾値電圧VthがMOSFET1のオン閾値電圧Vthよりも所定値以上高い場合の各部の信号波形を示している。この場合、制御回路10は、図3に示すように、駆動信号のオン指令期間の初期はオン用メインスイッチTr1を導通するように制御して、MOSFET1、2を同時にオンさせる。しかし、外部の制御装置から、片側駆動を指示する休止指示信号が入力された時点で、オン用メインスイッチTr1をオフするとともに、相対的にオン閾値電圧Vthの低いMOSFET1に対応するオン用サブスイッチTr2だけに駆動信号を出力する。このとき、相対的にオン閾値電圧Vthの高いMOSFET2に対応するオン用サブスイッチTr3はオフされたままである。
【0047】
導通するスイッチが、オン用メインスイッチTr1からオン用サブスイッチTr2へ切り替えられると、図3に示すように、MOSFET1はオン状態を維持するが、MOSFET2はオンからオフに切り替えられる。この際、上述したように、ダイオードD1により、MOSFET1のゲートから、MOSFET2のゲートへ電流が回り込むことを防止することができ、MOSFET1だけをオンさせることができる。また、MOSFET2のゲートの電荷は、抵抗R6を介して放電されるので、MOSFET2をオフさせることができる。
【0048】
なお、制御回路10は、MOSFET1、2の片側駆動を実施する場合、MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthの差異が所定値以下となるまで、相対的にオン閾値電圧の高いMOSFETを休止させる。
【0049】
一方、ステップS160では、各MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに所定値以上の差異が発生していないので、制御回路10は、駆動信号のオン指令期間に、オン用サブスイッチTr2、Tr3によりMOSFET1、2を個別にオンする場合、オン指令ごとに交互にMOSFET1、2がオンされるように、導通するオン用サブスイッチTr2、Tr3を交互に切り替える。このようにMOSFET1、2を駆動することにより、MOSFET1、2の駆動頻度が均等化され、各MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthの差異の発生を抑制することができる。なお、ステップS160におけるMOSFET1、2の駆動方式は、上述した駆動方式に制限されるものではない。例えば、所定の複数回のオン指令毎に、導通するオン用サブスイッチTr2、Tr3を交互に切り替えてもよい。
【0050】
ステップS170では、駆動信号がオンからオフに変化したかどうかを判定する。この判定処理において、駆動信号がオンからオフに変化していないと判定すると、制御回路10は、ステップS170の処理を繰り返し実行し、駆動信号がオンからオフに変化するまで待機する。一方、駆動信号がオンからオフに変化したと判定すると、次のステップS180に進む。
【0051】
ステップS180では、駆動信号のオン指令期間が終了し、駆動信号がHiレベルからLoレベルに切り替わったため、制御回路10は、導通しているオン用メインスイッチTr1またはオン用サブスイッチTr2、Tr3を導通から非導通に切り替えるとともに、オフ用メインスイッチTr4を所定時間の間、非導通から導通へ切り替える。これにより、MOSFET1、2のゲートに蓄積された電荷が速やかに放電され、MOSFET1、2は即座にオフする。
【0052】
以上、説明したように、本実施形態のスイッチング素子駆動装置100によれば、並列接続されたMOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに所定値以上の差異が発生している場合、MOSFET1,2の片側駆動時に、相対的にオン閾値電圧Vthの低いMOSFETが駆動されるように、オン用サブスイッチTr2、Tr3が制御される。これにより、MOSFET1、2のオン閾値電圧の差異を縮小することが可能となり、MOSFET1、2を同時駆動するときのオンタイミングのずれを抑制することが可能となる。
【0053】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係るスイッチング素子駆動装置200の回路構成を示している。なお、図4においては、図示の便宜のため、オフ用メインスイッチTr4を含む放電のための回路が省略されている。
【0054】
上述した第1実施形態では、相対的に低いオン閾値電圧Vthを有するMOSFETが駆動される間、相対的に高いオン閾値電圧Vthを有するMOSFETは駆動が休止される例について説明された。MOSFETの駆動を休止するだけでも、上昇したオン閾値電圧Vthの低下を図ることはできるが、その際に、ゲートに負電圧を印加することで、より素早く上昇したオン閾値電圧Vthを低下させることが可能である。
【0055】
そこで、第2実施形態に係るスイッチング素子駆動装置200は、図4に示すように、負電圧発生回路28と、負電圧発生回路28から各MOSFET1、2のゲートに達する経路の導通、遮断を切り替える切り替えスイッチとしてのトランジスタTr5、Tr6とを備える。制御回路10は、相対的に高いオン閾値電圧Vthを有するMOSFETの駆動を休止している休止期間の少なくとも一部の期間、対応する切り替えスイッチをオンして、負電圧発生回路28が発生する負電圧をMOSFETのゲートに印加する。
【0056】
本実施形態において、MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに所定値以上の差異が発生している場合、Vth変動判定回路26が、その差異の大きさを示す信号を制御回路10に出力するように構成してもよい。そして、制御回路10は、MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthの差異が大きくなるほど、負電圧発生回路28が発生する負電圧の大きさの絶対値が大きくなるように、および/または負電圧の印加時間が長くなるように、負電圧発生回路28および/または切り替えスイッチを制御してもよい。また、負電圧発生回路28を、各MOSFET1、2に対して個別に設けてもよい。
【0057】
(第3実施形態)
上述した第1実施形態に係るスイッチング素子駆動装置100は、MOSFET1、2を一括して駆動するためのオン用メインスイッチTr1を備えていた。しかしながら、複数のMOSFET1、2は、同時駆動のために、必ずしも同じスイッチによって一括して駆動されなくてもよい。つまり、MOSFET1、2は、それぞれ個別のスイッチ(第1実施形態のオン用サブスイッチTr2、Tr3)によって、同時駆動されたり、片側駆動されたりしてもよい。MOSFET1、2のそれぞれのオン閾値電圧Vthに実質的な差が生じていなければ、個別のスイッチによってMOSFET1、2を同時駆動しても、ほぼ同じタイミングでMOSFET1、2をオンさせることができる。このようなスイッチング素子駆動装置300の構成の一例を、第3実施形態として、図5に示す。
【0058】
図5に示すように、第3実施形態に係るスイッチング素子駆動装置300は、ほぼ、第1実施形態に係るスイッチング素子駆動装置100から、オン用メインスイッチTr1、定電流回路14、ダイオードD1、D2、及びバランス抵抗R1、R2を削除した構成となっている。
【0059】
第3実施形態に係るスイッチング素子駆動装置300は、例えば、上述した第1実施形態と同様に、駆動信号のオン指令期間の初期に、スイッチTr2、Tr3を導通するように制御して、MOSFET1、2を同時にオンさせる。そして、MOSFET1、2が同時にオンしている間に、外部回路において、MOSFET1,2を介して流れる電流の大きさに基づき、MOSFET1、2の同時駆動を継続するか、一方を休止させるかが判定される。さらに、第1及び第2Vth検出回路22、24も、MOSFET1、2が同時にオンされるときに、それぞれのオン閾値電圧Vthを検出して、Vth変動判定回路26に出力する。Vth変動判定回路26は、第1及び第2Vth検出回路22、24から入力された各MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに基づいて、各MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに所定値以上の差異が発生しているか否かを判定し、その判定結果を示す信号を制御回路10に出力する。
【0060】
ただし、第3実施形態におけるMOSFET1、2の駆動方法は、上述した駆動方法に限られない。例えば、MOSFET1、2が、モータのインバータ回路におけるスイッチング素子として用いられる場合など、他のスイッチング素子を介して他の相のコイルに通電される電流の大きさに基づいて、事前にMOSFET1、2を同時駆動するか片側駆動するかを判定してもよい。また、今回のオン指令期間ではなく、前回のオン指令期間においてMOSFET1,2の少なくとも一方に流れる電流の大きさに基づき、今回のオン指令期間の駆動の態様(同時駆動または片側駆動)を判定してもよい。そして、MOSFET1、2を片側駆動すると判定したときには、オン指令期間の最初から、駆動すべきMOSFETに対応するスイッチを導通させればよい。
【0061】
上記のように、オン指令期間の最初から駆動すべきMOSFETに対応するスイッチを導通させて片側駆動を実行する際、片側駆動が所定期間以上連続して実行される場合には、例えば、所定期間毎に、オン指令期間の初期にMOSFET1、2を同時にオンさせ、その同時オンの間に、各MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthを検出するようにしてもよい。つまり、毎回、オン指令期間の初期にオン用メインスイッチTr1によってMOSFET1、2を同時にオンさせるのではなく、例えば、オン指令期間の所定回数毎に、オン指令期間の初期にMOSFET1、2を同時にオンさせて、各MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthを検出してもよい。あるいは、モータの停止時などに、モータを駆動しない態様で、各MOSFET1、2のゲートに印加する電圧を上昇させ、電流が流れ始めたときの電圧をオン閾値電圧として検出するようにしてもよい。
【0062】
上述した駆動方法の変形例は、第1および第2実施形態のスイッチング素子駆動装置100に適用することも可能である。
【0063】
(第4実施形態)
上述した第3実施形態に係るスイッチング素子駆動装置300は、個別に設けたスイッチTr2、Tr3によってMOSFET1、2をオンするが、MOSFET1、2をオフするためのスイッチとしては、共通のオフ用メインスイッチTr4を備えていた。しかし、MOSFET1、2をオフするためのスイッチも、MOSFET1、2に対して個別に設けてもよい。このようなスイッチング素子駆動装置400の構成の一例を、第4実施形態として、図6に示す。
【0064】
図6に示すように、第4実施形態に係るスイッチング素子駆動装置300は、ほぼ、第3実施形態に係るスイッチング素子駆動装置300のオフ用メインスイッチTr4を個別のスイッチTr5、Tr6に置き換えるとともに、抵抗R5と抵抗R6を廃止した構成となっている。
【0065】
第4実施形態に係るスイッチング素子駆動装置300では、MOSFET1、2がオンからオフに切り替えられるとき、それぞれのゲートに蓄積された電荷が、対応するスイッチTr5、Tr6を介して放電される。従って、同時駆動から片側駆動に切り替える際にも、対応するスイッチTr5、Tr6をオンさせることで、休止されるMOSFET1、2がオフする速度を早めることができる。
【0066】
さらに、図6に示す構成において、スイッチTr5、Tr6のソース側に負電圧発生回路を接続してもよい。この場合、負電圧発生回路は、MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに実質的な差異が生じていなければ、例えば、接地電位を発生し、MOSFET1、2のオン閾値電圧Vthに実質的な差異が生じている場合、相対的にオン閾値電圧Vthの高いMOSFETに対して負電圧を発生するように構成すればよい。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々、変形して実施することができる。
【0068】
例えば、上述した第1実施形態のスイッチング素子駆動装置100のゲート充電回路では、オン用メインスイッチTr1が導通すると、定電流回路14からの一定電流が、各MOSFETのゲートに繋がる充電側分岐配線に分配されるように構成されていた。しかしながら、ゲート充電回路に印加電圧可変回路を設け、各MOSFETのゲートに繋がる充電側分岐配線に、例えば連続的または段階的に上昇する電圧を印加するようにしてもよい。これにより、各MOSFET1、2のゲートに印加する電圧を制御することができ、各MOSFET1、2のオン閾値電圧の検出を精度よく行うことができる。
【0069】
また、上述した第1実施形態では、スイッチング素子駆動装置100が、並列に接続された2個のMOSFET1、2を駆動する例について説明した。しかしながら、スイッチング素子駆動装置が駆動するMOSFETの数は2個に制限されず、例えば、並列接続された3個以上のMOSFETを駆動するものであってもよい。この場合、並列接続されたMOSFETを介して流れる電流の大きさに応じて、駆動するMOSFETの数を、1、2、3、…と切り替えることができる。その際、一部のMOSFETだけを駆動する場合には、複数のMOSFETの中で最も低いオン閾値電圧に対して、所定値以上高いオン閾値電圧を有するMOSFETがあれば、そのMOSFETを休止させる。所定値以上高いオン閾値電圧を有するMOSFETがない場合には、相対的にオン閾値電圧が高いMOSFETを休止させたり、各MOSFETの駆動頻度が均等化するように休止するMOSFETを定期的に交代させたりすればよい。
【符号の説明】
【0070】
1、2:IGBT、10:制御回路、12:電源電位、14、16:定電流回路、20:温度依存型電圧レギュレータ、100~600:IGBT駆動装置、AMP1:差動増幅器、D1~D5:ダイオード、R1~R4:バランス抵抗、Tr1:オン用メインスイッチ、Tr2:オン用サブスイッチ、Tr3:オフ用メインスイッチ、Tr4:オフ用サブスイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6