(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】歩行者用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/36 20110101AFI20221206BHJP
【FI】
B60R21/36 320
B60R21/36 352
(21)【出願番号】P 2019178715
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】尾関 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇至
【審査官】川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-219116(JP,A)
【文献】特開2019-151138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフレーターからの膨張用ガスを内部に流入させた膨張完了時に、少なくとも、車両のフロントウィンドシールドの前縁側におけるカウルの上方を覆い可能なエアバッグを備える歩行者用エアバッグ装置であって、
前記エアバッグが、
膨張完了時に前記カウルの上方を覆い、下面側を前記カウル周縁の車体側部材に支持されるように配置される本体膨張部と、
該本体膨張部と連通されて、前記本体膨張部を経て前記膨張用ガスを内部に流入させて膨張する構成とされるとともに、膨張完了時に、該本体膨張部の上方を部分的に覆うように配置されるカバー膨張部と、
を備える構成とされ、
前記本体膨張部が、膨張完了時に上下方向側から見た状態において、左右方向の中央側に、後縁側から前方に向かって部分的に凹ませて構成される凹状部位を、有し、
前記カバー膨張部が、
前記本体膨張部と別体とされるとともに、膨張完了時に、少なくとも、左右両端側を、前記本体膨張部における前記凹状部位の周縁の上面側に支持されるようにして、前記凹状部位の上方を覆
って、前記本体膨張部と上下で重なるように、配設される構成とされていることを特徴とする歩行者用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記カバー膨張部と前記本体膨張部とを連通させる連通部が、前記本体膨張部側からの前記カバー膨張部内への前記膨張用ガスの流入を許容し、かつ、前記カバー膨張部内に流入した前記膨張用ガスの前記本体膨張部側への流出を抑制する逆止弁機構を、備えていることを特徴とする請求項1に記載の歩行者用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記カバー膨張部が、前記エアバッグの膨張完了時に、後縁を、前記凹状部位の前縁よりも後方に位置させる構成とされていることを特徴とする請求項1または2に記載の歩行者用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフレーターからの膨張用ガスを内部に流入させた膨張完了時に、少なくとも、車両のフロントウィンドシールドの前縁側におけるカウルの上方を覆い可能なエアバッグを備える歩行者用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カウルの上方を覆うように、エアバッグを膨張させる構成の歩行者用エアバッグ装置としては、膨張完了時のエアバッグを、左右方向の両端側をカウルの周縁の車体側部材側に支持させ、左右方向の中央側を上方に押し上げてフロントウィンドシールドから上方に浮かせるように、湾曲させた構成として、この浮かせた領域によって、歩行者を的確に受け止めるための変形ストローク用の隙間を確保している構成のものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の歩行者用エアバッグ装置では、エアバッグ自体を湾曲させて、浮かせるための中央側から最も離れた左右方向の両端側を、カウルの周縁の車体側部材側に支持させることにより、左右の中央側を、ウィンドシールドから上方に浮かせて配置される構成であることから、両端側の車体側部材側への支持位置が左右にずれた場合、最も浮き上がる中央部位もずれてしまい、変形ストローク用の隙間の配置位置や、高さを安定して確保させる点に、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、フロントウィンドシールドとの間に、変形ストローク用の隙間を安定して設けるようにして、エアバッグを膨張させることが可能な歩行者用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る歩行者用エアバッグ装置は、インフレーターからの膨張用ガスを内部に流入させた膨張完了時に、少なくとも、車両のフロントウィンドシールドの前縁側におけるカウルの上方を覆い可能なエアバッグを備える歩行者用エアバッグ装置であって、
前記エアバッグが、
膨張完了時にカウルの上方を覆い、下面側をカウル周縁の車体側部材に支持されるように配置される本体膨張部と、
本体膨張部と連通されて、本体膨張部を経て膨張用ガスを内部に流入させて膨張する構成とされるとともに、膨張完了時に、本体膨張部の上方を部分的に覆うように配置されるカバー膨張部と、
を備える構成とされ、
本体膨張部が、膨張完了時に上下方向側から見た状態において、左右方向の中央側に、後縁側から前方に向かって部分的に凹ませて構成される凹状部位を、有し、
カバー膨張部が、膨張完了時に、少なくとも、左右両端側を、本体膨張部における凹状部位の周縁の上面側に支持されるようにして、凹状部位の上方を覆うように、配設される構成とされていることを特徴とする。
【0007】
本発明の歩行者用エアバッグ装置では、エアバッグの膨張完了時に、カウルの上方を覆うように膨張している本体膨張部が、左右方向の中央側に、後縁側から前方に向かって部分的に凹むような凹状部位を、有し、この凹状部位の上方を、カバー膨張部によって覆う構成とされていることから、この凹状部位自体によって、歩行者を受け止めた際に的確に歩行者を受け止めるための変形ストローク用の隙間が、形成されることとなる。そして、本体膨張部は、左右方向の両端側で支持されるのではなく、カウル周縁の車体側部材に支持されることから、膨張完了時の配置位置を安定させることができ、そして、安定して配置された本体膨張部の凹状部位周縁の上面側に、カバー膨張部が支持されることから、カバー膨張部は、カウルの上方の所定位置に配置されることとなり、また、変形ストローク用の隙間を、所定位置で、安定して確保することができる。そして、エアバッグが歩行者を受け止める際に、カバー膨張部が、本体膨張部から上方に突出して配置された状態で、歩行者を受け止めた後、変形ストローク用の隙間内(凹状部位の領域内)に進入しつつ、フロントウィンドシールドに接触するように下降するまで、左右両端側を、下面側をカウル周縁の車体側部材に支持されている本体膨張部(凹状部位の周縁の上面側)に、支持されつつ、変形することから、その変形により、歩行者の運動エネルギーを、的確に吸収することができる。
【0008】
したがって、本発明の歩行者用エアバッグ装置では、フロントウィンドシールドとの間に、変形ストローク用の隙間を安定して設けるようにして、エアバッグを膨張させることができる。
【0009】
また、本発明の歩行者用エアバッグ装置では、カバー膨張部と本体膨張部とを連通させる連通部に、本体膨張部側からのカバー膨張部内への膨張用ガスの流入を許容し、かつ、カバー膨張部内に流入した膨張用ガスの本体膨張部側への流出を抑制する逆止弁機構が、配設されていれば、膨張完了時のカバー膨張部の内圧を、低下させずに維持させることができ、高い内圧で、クッション性よく膨張したカバー膨張部により、歩行者を受け止めることができて、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態である歩行者用エアバッグ装置を搭載させた車両の概略部分拡大平面図である。
【
図2】実施形態の歩行者用エアバッグ装置に使用するエアバッグを平らに展開した状態の概略平面図である。
【
図4】
図2のエアバッグの概略縦断面図であり、
図2のIV-IV部位を示す。
【
図5】
図2のエアバッグにおいて、連通部を示す概略図である。
【
図6】
図2のエアバッグにおいて、ガス抜き孔を示す概略図である。
【
図7】
図2のエアバッグを構成する部材を並べた平面図である。
【
図8】
図2のエアバッグを構成する部材の残りを並べた平面図である。
【
図9】実施形態の歩行者用エアバッグ装置においてエアバッグが膨張を完了させた状態を示す車両の概略部分拡大斜視図である。
【
図10】実施形態の歩行者用エアバッグ装置においてエアバッグが膨張を完了させた状態を示す車両の概略部分拡大平面図である。
【
図11】実施形態の歩行者用エアバッグ装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態を示す概略縦断面図である。
【
図12】実施形態の歩行者用エアバッグ装置において、インフレーター付近の部位の概略拡大縦断面図である。
【
図13】実施形態の歩行者用エアバッグ装置において、連通部における逆止弁機構の作動を説明する概略斜視図である。
【
図14】実施形態の歩行者用エアバッグ装置において、エアバッグの膨張完了時に、カバー膨張部によって歩行者を受け止める状態を示す左右方向に沿った概略縦断面図である。
【
図15】実施形態の歩行者用エアバッグ装置において、エアバッグの膨張完了時に、カバー膨張部によって歩行者を受け止める状態を示す前後方向に沿った概略縦断面図である。
【
図16】実施形態の歩行者用エアバッグ装置において、エアバッグの膨張完了時に、カバー膨張部によって歩行者を受け止める状態を示す前後方向に沿った概略縦断面図であり、
図15の後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態の歩行者用エアバッグ装置(以下「エアバッグ装置」と省略する)Mは、
図1,11,12に示すように、フードパネル9の後端9a付近における下方側のエンジンルーム側(カウル6)に搭載されて、エアバッグ23と、エアバッグ23に膨張用ガスを供給するインフレーター15と、折り畳んだエアバッグ23を収納する収納部位としてのケース10と、を備えている。なお、本明細書では、特に断らない限り、前後、上下、及び、左右の方向は、それぞれ、車両の前後、上下、及び、左右の方向と一致させて、説明する。
【0012】
ケース10は、金属製(板金製)として、車両Vのボディ1側のフードリッジリインホースから延びるフランジ等から構成される取付部2に対し、インフレーター15の取付ブラケット18のボルト19とナット20とを利用して、固定されている(
図11参照)。ケース10は、上方に、膨張時のエアバッグ23を突出させるための突出用開口10aを有した略直方体の箱形状とされるもので、車両Vの左右方向に沿って延びた長方形板状の底壁部11と、底壁部11の外周縁から上方に延びる略四角筒形状の周壁部12と、を備えている。なお、ケース10は、フロントウィンドシールド4の前端4a側の下方から前方に延びるカウル6の部位に、搭載されている。カウル6は、ボディ1側の剛性の高いカウルパネル6aと、カウルパネル6aの上方の合成樹脂製のカウルルーバ6bと、から構成されている。ケース10は、カウル6の前側であって、カウルパネル6aとカウルルーバ6bとの間に、配設されている。また、カウル6におけるケース10の後側の領域には、
図1に示すように、ワイパ7が、配設されている。ワイパ7は、カウルルーバ6bから上方に突出するように、配設されている(
図11参照)。
【0013】
インフレーター15は、
図1,3,4に示すように、車両Vの左右方向に沿って軸方向を配置させた円柱状として、先端側に、膨張用ガスを吐出するガス吐出部16を配設させて構成されている。インフレーター15は、複数(実施形態では3個)の取付ブラケット18に保持され、インナチューブ60に包まれた状態でエアバッグ23内に挿入され、取付ブラケット18のボルト19を利用して、ケース10の底壁部11に固定されている(
図3,11,12参照)。上述したように、取付ブラケット18のボルト19は、底壁部11を貫通して、車両Vのボディ1側の取付部2にナット20止めされて、インフレーター15とともに、ケース10を取付部2に固定している。また、インフレーター15は、エアバッグ23内に挿入された状態とされているから、この取付ブラケット18の取付部2への取付時、エアバッグ23も、ケース10の底壁部11に取付固定されることとなる。
【0014】
なお、実施形態の場合、車両Vのフロントバンパ3には、歩行者との衝突を検知可能なセンサ3aが、配設されており、センサ3aからの信号を入力させている図示しない作動回路が、センサ3aからの信号に基づいて車両Vの歩行者との衝突を検知した際に、エアバッグ装置Mのインフレーター15を作動させるように構成されている。
【0015】
エアバッグ23は、
図2~4に示すように、膨張完了時にカウル6の上方を覆うように配置される本体膨張部24と、本体膨張部24と連通されて膨張完了時に本体膨張部24の上方を部分的に覆うように配置されるカバー膨張部42と、を備える構成とされている。
【0016】
本体膨張部24は、膨張完了時の形状を、正面側から見て、左右に幅広の略U字形状とされるもので、フロントウィンドシールド4の前端4a(下部)に沿うように左右方向に略沿って配置される横膨張部26と、横膨張部26の両端からそれぞれ後方へ延びて左右のフロントピラー5L,5Rの前面の下部5a側を覆う縦膨張部36L,36Rと、を備えている。本体膨張部24は、膨張完了時に上面側に位置する歩行者側壁部24bと、歩行者側壁部24bと対向するように下面側に位置する車体側壁部24aと、を有し、歩行者側壁部24bと車体側壁部24aとの外周縁相互を、全周にわたって結合(縫着)させることにより、袋状とされている。
【0017】
横膨張部26は、膨張完了時に、カウル6の上方を覆うように構成されるもので、詳細には、膨張完了時に、
図10,11に示すように、フードパネル9の後端9a側の部位から、カウル6を経て、フロントウィンドシールド4の前端4aにかけての領域の上面側(前面側)を、ワイパ7も含めて覆うように構成されている。横膨張部26における左右方向の中央側には、後縁26a側から前方に向かって部分的に凹ませて構成される凹状部位27が、形成されている。凹状部位27は、詳細には、
図3に示すように、本体膨張部24を平らに展開した状態で、横膨張部26の後縁26a側を前方に向かって略長方形状に凹ませて形成されている。詳細には、凹状部位27は、左右方向の中心を、横膨張部26の左右の中心と略一致させて形成されるもので、本体膨張部24を平らに展開した状態での左右方向側の幅寸法W1を、横膨張部26の左右方向側の幅寸法W3の1/3程度に設定され、前後方向側の幅寸法W2を、横膨張部26の前後方向側の幅寸法W4の1/4程度に設定されている(
図3参照)。この凹状部位27は、エアバッグ23の膨張完了時に、フロントウィンドシールド4の前端4aの前方であって、カウル6の上側の部位に、配設される構成である(
図10,11参照)。実施形態では、横膨張部26において、凹状部位27の周縁を構成する上下方向側から見て略U字形状のエリア(膨張完了時にカバー膨張部42と上下方向側で重なって配置されるエリア)が、エアバッグ23の膨張完了時に、カバー膨張部42の下面側を支持可能な支持部位28を、構成することとなる(
図11,14参照)。さらに、横膨張部26(本体膨張部24)は、膨張完了時に、下面側を、収納部位としてのケース10に近いカウル6周縁の車体側部材(カウル6自体や、フロントウィンドシールド4の前端4a、フードパネル9の後端9a等)によって、支持されることとなる(
図11,14参照)。特に、横膨張部26(本体膨張部24)における支持部位28は、カウル6周縁の車体側部位(フードパネル9の後端9aにおける中央9aa付近とのその両側部9ab,9ab)に、支持されることとなる(
図11,14参照)。
【0018】
また、本体膨張部24では、車体側壁部24aにおいて、横膨張部26の左右の中央であって前後の中央よりも後側(凹状部位27の前側)となる位置に、内部にインフレーター15を挿入させるための挿入用開口部30が、形成されている(
図3,4参照)。挿入用開口部30は、インナチューブ60に包んだ状態のインフレーター15を本体膨張部24内に挿入させるための挿入用スリット31と、取付ブラケット18のボルト19を挿通させるための挿通孔32と、挿入用スリット31を外周側から塞ぐ蓋パネル33と、を備えている。実施形態の場合、挿入用スリット31は、凹状部位27の近傍となる位置に、形成されて、挿通孔32は、挿入用スリット31よりも前側の領域に、形成されている。蓋パネル33は、挿入用スリット31の外表面側を覆うもので、後縁側を、挿入用スリット31の後方側の車体側壁部24aに結合させ、前端側に、取付ブラケット18のボルト19を突出させるための取付孔34を、挿通孔32に対応させて、配設させている(
図8,12参照)。
【0019】
また、本体膨張部24における歩行者側壁部24bには、本体膨張部24をカバー膨張部42と連通させる連通部45が、形成されている。連通部45は、詳細には後述するが、実施形態の場合、エアバッグ23を平らに展開した状態において、挿入用開口部30よりもやや前方であって、横膨張部26の前後の中央よりもやや後方となる位置に、形成されている(
図7参照)。また、連通部45は、凹状部位27における左縁27b及び右縁27cよりも、若干左右方向の中央側となる2箇所に、形成されている。具体的には、歩行者側壁部24bには、連通部45の後述する連通孔46を構成する開口24cが、円形に開口して、形成されている(
図5,7参照)。さらに、本体膨張部24における歩行者側壁部24bには、カバー膨張部42と連通される後述するガス抜き孔52を構成する開口24dが、形成されている(
図7参照)。
【0020】
また、本体膨張部24において、横膨張部26の領域内には、
図2~4に示すように、膨張完了時の厚さを規制可能に、歩行者側壁部24bと車体側壁部24aとを連結する前後テザー38A,38B,38C,38D,38E,38F,38G及び左右テザー37L,37Rが、配設されている。左右テザー37L,37Rは、横膨張部26の前後の略中央となる位置において、左右方向に略沿って形成されるもので、連通部45よりも左右の外方となる2箇所に、左右対称となるように、配置されている。前後テザー38A,38B,38C,38D,38E,38F,38Gは、左右方向側で7箇所に、並設されており、それぞれ、前後方向に略沿うように、形成されている。実施形態の場合、前後テザー38A,38B,38C,38D,38E,38F,38Gは、縦膨張部36L,36Rの前側の領域に配置される2つ以外は、左右テザー37L,37Rよりも前側の領域に、配設されている。各前後テザー38A,38B,38C,38D,38E,38F,38G,左右テザー37L,37Rは、それぞれ、上下で分割された2枚のテザー用基布70,71から、構成されている(
図8参照)。
【0021】
本体膨張部24の上方を部分的に覆うように配置されるカバー膨張部42は、
図4に示すように、本体膨張部24と別体の袋状として、連通部45を介して、本体膨張部24と連通されて、本体膨張部24を経て膨張用ガスを内部に流入させて膨張する構成とされている。カバー膨張部42は、車両搭載時における膨張完了時に、凹状部位27を含めて、横膨張部26の後側の部位における左右方向の中央側の領域を覆
って、本体膨張部24と上下で重なるように、構成されている(
図10,11参照)。具体的には、カバー膨張部42は、膨張完了時の外形形状を、前縁42c側にかけて狭幅とされる略台形板状として構成されている。カバー膨張部42は、膨張完了時に上面側に位置する歩行者側壁部42bと、歩行者側壁部42bと対向するように下面側に位置する車体側壁部42aと、を有し、歩行者側壁部42bと車体側壁部42aとの外周縁相互を、全周にわたって結合(縫着)させることにより、袋状とされている。実施形態の場合、カバー膨張部42は、歩行者側壁部42bと車体側壁部42aとを前縁側で結合させた一枚のカバー膨張部用基布67から、構成されている(
図7参照)。具体的には、カバー膨張部42は、平らに展開した状態においての後縁42d側における左右方向側の幅寸法W5を、横膨張部26の左右方向側の幅寸法W3の4/7程度に設定され、前縁42c側における左右方向側の幅寸法W6を、幅寸法W5の2/3程度に設定されている。また、カバー膨張部42は、平らに展開した状態での前後方向側の幅寸法W7を、横膨張部26の前後方向側の幅寸法W4の1/2程度に設定されている(
図2,3参照)。
【0022】
カバー膨張部42を本体膨張部24に連通させる連通部45は、左右方向側で2箇所に、形成されている。この連通部45は、逆止弁機構を有するもので、実施形態の場合、
図5に示すように、後述する円形結合部位55B,55Dにより周縁を囲まれる連通孔46と、この連通孔46を覆い可能に構成される弁パネル部47と、を備える構成とされている。連通孔46は、カバー膨張部42の車体側壁部42aと本体膨張部24の歩行者側壁部24bとを貫通するように、形成されるもので、外形形状を、略円形とされている。すなわち、カバー膨張部42の車体側壁部42aには、本体膨張部24の歩行者側壁部24bに形成される開口24cに対応した位置に、連通孔46を構成する開口42eが、形成されている(
図5,7参照)。弁パネル部47は、カバー膨張部42側から連通孔46を覆うように配設されるもので、外形形状を、連通孔46全体を覆い可能な略長方形板状として、連通孔46を間にした前縁47a,後縁47bを、結合部位48により、カバー膨張部42の車体側壁部42aに結合される構成とされている。実施形態の場合、弁パネル部47は、前後方向側で2分割された2枚の弁パネル用基布72,72から構成されており、弁パネル用基布72,72の端部相互を結合させている結合部位49は、カバー膨張部42を平らに展開した状態において、連通孔46の中央付近を通るように、左右方向に略沿って配設されることとなる。この弁パネル部47は、カバー膨張部42を平らに展開した状態において、たるみを生じさせず、連通孔46を隙間なく覆い可能に構成されている。そして、本体膨張部24が、内部に膨張用ガスを流入させて膨張すると、
図13のAに示すように、連通孔46をカバー膨張部42側から覆っている弁パネル部47が、本体膨張部24内に流入した膨張用ガスGに押されて浮き上がり、膨張用ガスGが連通孔46を経て、カバー膨張部42内に流入し、カバー膨張部42が膨張を完了させることとなる。その後、膨張用ガスGが、カバー膨張部42から本体膨張部24に逆流しようとすると、
図13のBに示すように、結合部位48によりカバー膨張部42の車体側壁部42aに連結されている弁パネル部47が、連通孔46を塞ぐように、車体側壁部42a側(本体膨張部24側)に押し付けられ、弁パネル部47が、連通孔46を閉塞することから、カバー膨張部42から本体膨張部24への膨張用ガスの流出(逆流)が防止されることとなり、カバー膨張部42は、膨張完了時の内圧を維持されることとなる。
【0023】
また、カバー膨張部42には、本体膨張部24と連通されるガス抜き孔52が、形成されている。このガス抜き孔52は、詳細にはエアバッグ23の膨張完了時において、カバー膨張部42が歩行者を受け止めた際の過度の内圧上昇を抑制するためのもので、
図6に示すように、車体側壁部42aと本体膨張部24における歩行者側壁部24bとを貫通するように形成されている。カバー膨張部42を構成する車体側壁部42aには、ガス抜き孔52を構成する開口42fが、本体膨張部24の歩行者側壁部24bに形成される開口24dと一致した位置に、形成されている(
図6,7参照)。ガス抜き孔52は、歩行者受止時におけるカバー膨張部42の内圧上昇時にのみ、微量の膨張用ガスを本体膨張部24側に排出可能に、開口面積を小さく設定されている。このガス抜き孔52は、
図2,7に示すように、連通部45,45間の略中央であって、横膨張部26における前後左右の略中央となる位置に、形成されている。
【0024】
このカバー膨張部42は、左右の中央を、横膨張部26の左右の中央(凹状部位27の左右の中央)と略一致させるようにして、車体側壁部42aの所定箇所で、本体膨張部24の歩行者側壁部24bと連結される構成である。具体的には、カバー膨張部42の車体側壁部42aは、ガス抜き孔52の周縁と、連通部45を構成する連通孔46の周縁と、後縁42d側における左右両端近傍と、に、形成される略円形の円形結合部位55A,55B,55C,55D,55Eと、円形結合部位55A,55B,55C,55D,55E間に形成される略直線状の線状結合部位56A,56B,56C,56Dと、によって、本体膨張部24の車体側壁部24aと連結される構成である(
図2,4,7参照)。これらの円形結合部位55A,55B,55C,55D,55E,線状結合部位56A,56B,56C,56Dは、車体側壁部42a,歩行者側壁部24b相互を、縫合糸を用いて縫着させることにより、形成される。ガス抜き孔52の周縁を囲むように形成される中央側の円形結合部位55Cは、カバー膨張部42の左右の略中央であって、前後の中央よりもやや前方となる位置に、形成されている。左右両端側に配置される端側の円形結合部位55A,55Eは、カバー膨張部42の後縁42d近傍における左縁42g,右縁42h近傍に、形成されている。連通孔46の周縁を囲むように形成される円形結合部位55B,55Dは、端側の円形結合部位55A,55Eよりも、中央側の円形結合部位55C側となる位置に、形成されている。これらの円形結合部位55A,55B,55C,55D,55Eは、外径寸法を略同一として、左右対称的に、配設されている。円形結合部位55A,55B,55C,55D,55E間に形成される線状結合部位56A,56B,56C,56Dは、各円形結合部位55A,55B,55C,55D,55Eの前縁側となる位置に、配設されている。
【0025】
そして、具体的には、実施形態の場合、カバー膨張部42は、
図2~4に示すように、エアバッグ23を平らに展開した状態では、後縁42dを、横膨張部26に形成される凹状部位27の前縁27aと略一致させるようにして、本体膨張部24に対して連結される構成である。カバー膨張部42を平らに展開した状態での後縁42d側の左右方向側の幅寸法W5は、凹状部位27の左右方向側の幅寸法W1の3/2程度に設定されており、端側の円形結合部位55A,55Eは、凹状部位27の前側であって、凹状部位27における左縁27b及び右縁27cよりも、左右の外方となる位置に、配置されることとなる。そして、このカバー膨張部42は、エアバッグ23の膨張完了時には、後縁42dを、凹状部位27の前縁27aよりも後方に位置させ、凹状部位27の上方を覆うように、配置されることとなる(
図10,11参照)。このような挙動は、膨張時におけるカバー膨張部42の前後方向側での膜長と本体膨張部24における横膨張部26の前後方向側での膜長との差や、膨張完了時におけるカバー膨張部42の後縁42d近傍における左縁42g,右縁42h側を本体膨張部24における歩行者側壁部24bに連結させている円形結合部位55A,55Eの変位等により、生ずるものである。
【0026】
インフレーター15の外周側を覆うインナチューブ60は、
図3の二点鎖線に示すように、取付ブラケット18を取付済みのインフレーター15を挿入させる挿入筒部60cと、ガス吐出部16の配置部位から両側に延びて、先端側に、膨張用ガスを流出させる流出口60a,60bと、を備えた三又状の筒形状として構成されている。挿入筒部60cには、各取付ブラケット18のボルト19を貫通させる取付孔60dが形成されている。インナチューブ60は、
図8に示すようなチューブ用基材から構成されている。
【0027】
実施形態のエアバッグ23は、
図7,8に示すように、本体膨張部24において車体側壁部24aを構成する車体側基布65及び歩行者側壁部24bを構成する歩行者側基布66と、カバー膨張部42を構成するカバー膨張部用基布67と、前後テザー38A,38B,38C,38D,38E,38F,38G,左右テザー37L,37Rを構成するテザー用基布70,71と、弁パネル部47を構成する弁パネル用基布72と、蓋パネル33と、インナチューブ60を構成するインナチューブ用基布73と、から、構成されている。なお、これらの基布(基材)は、ポリアミド糸やポリエステル糸等を織成して形成される織布の表面に、ガス漏れ防止用のコーティング剤を塗布させたコート布を、所定形状に裁断して、形成されている。
【0028】
次に、実施形態のエアバッグ装置Mの車両Vへの搭載について説明をすると、まず、エアバッグ23を、ケース10内に収納可能に折り畳み、インナチューブ60に挿入させた状態の取付ブラケット18を組付済みのインフレーター15を、挿入用スリット31を利用して、エアバッグ23内に挿入する。そして、各取付ブラケット18のボルト19を、インナチューブ60の取付孔60d、エアバッグ23の挿通孔32から突出させ、次いで、蓋パネル33を、挿入用スリット31を覆うように閉じて、取付孔34にボルト19を挿通させる。その後、エアバッグ23とインフレーター15とをケース10に収納させ、車両Vの所定位置にケース10を配置させて、ケース10から突出しているボルト19を、取付部2にナット20止めし、インフレーター15を、図示しない作動回路に接続させれば、エアバッグ装置Mを車両Vに搭載することができる。
【0029】
実施形態のエアバッグ装置Mでは、図示しない作動回路が、フロントバンパ3に配置されるセンサ3aからの信号に基づいて、車両Vと歩行者との衝突を検知した際に、インフレーター15が作動されて、エアバッグ23が、内部に膨張用ガスを流入させて、ケース10の突出用開口10aから上方に向かって突出しつつ前後左右に展開膨張することとなり、
図9~11に示すように、エアバッグ23が、本体膨張部24により、フードパネル9の後端9aの上面からカウル6の上面を経てフロントウィンドシールド4の前端4a側にかけてと、フロントピラー5L,5Rの前面の下部5a側と、を覆い、カバー膨張部42によって本体膨張部24の上方を覆うようにして、膨張を完了させることとなる。
【0030】
そして、実施形態のエアバッグ装置Mでは、エアバッグ23の膨張完了時に、カウル6の上方を覆うように膨張している本体膨張部24の横膨張部26が、左右方向の中央側に、後縁26a側から前方に向かって部分的に凹むような凹状部位27を、有し、この凹状部位27の上方を、カバー膨張部42によって覆う構成とされていることから、この凹状部位27自体によって、歩行者を受け止めた際に的確に歩行者を受け止めるための変形ストローク用の隙間Sが、形成されることとなる(
図11,14のA参照)。そして、本体膨張部24は、左右方向の両端側で支持されるのではなく、カウル6周縁の車体側部材に支持されることから、膨張完了時の配置位置を安定させることができ、そして、安定して配置された本体膨張部24の凹状部位27周縁の上面側に、カバー膨張部42が支持されることから、カバー膨張部42は、カウル6の上方の所定位置に配置されることとなり、また、変形ストローク用の隙間Sを、所定位置で、安定して確保することができる。そして、エアバッグ23が歩行者を受け止める際に、カバー膨張部42が、本体膨張部24から上方に突出して配置された状態で、歩行者Pを受け止めた後、変形ストローク用の隙間S内(凹状部位27の領域内)に進入しつつ、フロントウィンドシールド4に接触するように下降するまで、左縁42g,右縁42h側を、下面側をカウル6周縁の車体側部材(フロントウィンドシールド4の前端4aやフードパネル9の後端9a)に支持されている本体膨張部24(横膨張部26における凹状部位27の周縁の支持部位28)に、支持されつつ、変形することから(
図14のA,B参照)、その変形により、歩行者の運動エネルギーを、的確に吸収することができる。
【0031】
詳細に説明すれば、実施形態のエアバッグ装置Mでは、カバー膨張部42は、膨張完了時に車両Vを直上から見た状態では、後縁42dを、横膨張部26の後縁26aよりも前方に位置させる構成とされ(
図10参照)、換言すれば、直上から見た状態では、凹状部位27を全面にわたって覆うような構成ではない。しかしながら、車両Vと衝突した歩行者Pは、前上方から斜め後下方に向かって移動してくることとなり、この歩行者Pの移動方向から見れば(斜め前上方から見れば)、カバー膨張部42は、凹状部位27を全面にわたって覆うように配置されることとなる(
図11参照)。そして、カバー膨張部42は、前後に幅広として、凹状部位27の前縁27aよりも、前方に大きく延びるようにして、凹状部位27の上面側を覆う構成であることから、膨張完了時に、凹状部位27の前方の領域においても、下面側を支持されることとなる。さらに、カバー膨張部42は、凹状部位27の周縁(前縁27a,左縁27b,右縁27c)近傍において、この周縁の略全域にわたって、円形結合部位55A,55B,55C,55D,55E,線状結合部位56A,56B,56C,56Dにより、断続的に、横膨張部26(本体膨張部24)に連結される構成であり、特に、左縁42g側と右縁42h側とを、円形結合部位55A,55Eによって、横膨張部26における凹状部位27の左縁27b,右縁27d近傍に位置する領域(支持部位28)に、連結される構成である。そのため、カバー膨張部42は、歩行者の受止時に、凹状部位27(横膨張部26)に対して左右にずれることを規制されることとなる。逆を返せば、カバー膨張部42は、前後方向側の断面においては、一点の結合部位(円形結合部位55A,55B,55C,55D,55E,線状結合部位56A,56B,56C,56D)によって、本体膨張部24に連結される構成である。そのため、斜め上方から、斜め後下方に向かって移動する歩行者Pを受け止めると、カバー膨張部42は、
図15,16に示すように、この本体膨張部24への連結部位(図例では、円形結合部位55C)を固定点として、カバー膨張部42自体を構成している周壁(車体側壁部42a,歩行者側壁部42b)を本体膨張部24に対してずれ移動させるように変形することとなって、周縁を本体膨張部24(支持部位28)に支持されつつ、後縁42d側をフロントウィンドシールド4に接触させるように下降するまで、変形することとなる。そのため、このような変形により、歩行者Pの運動エネルギーを的確に吸収することができる。
【0032】
したがって、実施形態の歩行者用エアバッグ装置Mでは、フロントウィンドシールド4との間に、変形ストローク用の隙間Sを安定して設けるようにして、エアバッグ23を膨張させることができる。
【0033】
また、実施形態の歩行者用エアバッグ装置Mでは、カバー膨張部42と本体膨張部24とを連通させる連通部45に、本体膨張部24側からのカバー膨張部42内への膨張用ガスの流入を許容し、かつ、カバー膨張部42内に流入した膨張用ガスの本体膨張部24側への流出を抑制する逆止弁機構が、配設されることから、膨張完了時のカバー膨張部42の内圧を、低下させずに維持させることができ、高い内圧で、クッション性よく膨張したカバー膨張部42により、歩行者を受け止めることができる。なお、このような点を考慮しなければ、カバー膨張部と本体膨張部とを連通させる連通部に逆止弁構造を設けず、単に、連通孔のみを配設させる構成としてもよい。
【0034】
なお、実施形態では、歩行者用エアバッグ装置Mとして、カウル6の部位に搭載されているものを例に採り、説明したが、歩行者用エアバッグ装置の搭載部位は、実施形態に限られるものではなく、例えば、フードパネルの後端側に取り付けられる構成の歩行者用エアバッグ装置に、本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0035】
4…フロントウィンドシールド、4a…前端、6…カウル、7…ワイパ、9…フードパネル、9a…後端、10…ケース(収納部位)、15…インフレーター、23…エアバッグ、24…本体膨張部、26…横膨張部、26a…後縁、27…凹状部位、28…支持部位、42…カバー膨張部、42c…前縁、42d…後縁、42g…左縁、42h…右縁、45…連通部、46…連通孔、47…弁パネル部、S…隙間、G…膨張用ガス、P…歩行者、V…車両、M…歩行者用エアバッグ装置。