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  • 特許-空気入りタイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20221206BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20221206BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20221206BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20221206BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221206BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20221206BHJP
   C08C 19/25 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B60C11/00 B
B60C1/00 A
B60C9/22 B
B60C9/22 A
B60C11/00 D
B60C11/00 F
C08L15/00
C08K3/36
C08K5/5415
C08C19/25
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019179155
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021054260
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 雄介
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-158996(JP,A)
【文献】特開2006-168595(JP,A)
【文献】特開2005-082017(JP,A)
【文献】特開2001-063312(JP,A)
【文献】特開2016-128544(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050341(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/038054(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00
B60C 9/22
B60C 1/00
C08L 15/00
C08K 3/36
C08K 5/5415
C08C 19/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層間でコード方向を交差させた複数のベルト層を有し、該ベルト層のタイヤ径方向外側に、ポリエチレンテレフタレート繊維コードをタイヤ周方向に螺旋状に巻回されてなるベルトカバー層を有し、そのタイヤ径方向外側にアンダートレッドおよびキャップトレッドを有する空気入りタイヤであって、
前記アンダートレッドの厚みが1.5mm以上、前記アンダートレッドのゴム硬度Huとキャップトレッドのゴム硬度Hcとの比Hu/Hcが0.9以下であり、
前記キャップトレッドが、ジエン系ゴム100質量部にシリカ50~150質量部を配合したゴム組成物で構成されてなり、前記ジエン系ゴムが、ポリオルガノシロキサン構造、アミノシラン基、ポリシロキサン構造から選ばれる少なくとも1つを有する変性基を有する共役ジエン系ゴムを70質量%以上含有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記変性基を有する共役ジエン系ゴムが、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の前記活性末端と下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンとが結合してなり、前記活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖が、重合体ブロックAと、前記重合体ブロックAと一続きに形成された重合体ブロックBとを有し、前記重合体ブロックAが、イソプレン単位80~95質量%および芳香族ビニル単位5~20質量%を含み、重量平均分子量が500~15,000であり、前記重合体ブロックBが、1,3-ブタジエン単位および芳香族ビニル単位を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【化1】

(式(1)中、R~Rは、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。XおよびXは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~5のアルコキシ基、および、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基からなる群より選ばれるいずれかの基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、炭素数1~5のアルコキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4~12の基であり、複数あるXは互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、2~20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基であり、Xが複数あるときは、それらは互いに同一であっても相違していてもよい。mは3~200の整数、nは0~200の整数、kは0~200の整数である。)
【請求項3】
前記キャップトレッドを構成するゴム組成物が、前記シリカの配合量に対し、炭素数7~20のアルキルを有するアルキルトリエトキシシランを0.1~20質量部配合してなることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記シリカのCTAB吸着比表面積が180~230m/gであることを特徴とする請求項1,2または3に記載の空気入りタイヤ。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性に優れた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは操縦安定性、低燃費性および耐久性に優れることが求められ、さらに詳しくは、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性に優れることが求められる。しかし、空気入りタイヤに求められるこれらの要求性能は、トレードオフの関係になり、これら性能を高いレベルで兼備することは困難であった。
【0003】
特許文献1は、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖に所定のポリオルガノシロキサンを反応させることで得られる共役ジエン系ゴムを含むジエン系ゴムにシリカとシランカップリング剤を配合したゴム組成物を開示し、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性を改良することを記載する。しかし、このゴム組成物を使用した空気入りタイヤには、低ロードノイズ性および高速耐久性を改良する余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6064953号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性を従来レベル以上に改良した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、層間でコード方向を交差させた複数のベルト層を有し、該ベルト層のタイヤ径方向外側に、ポリエチレンテレフタレート繊維コードをタイヤ周方向に螺旋状に巻回されてなるベルトカバー層を有し、そのタイヤ径方向外側にアンダートレッドおよびキャップトレッドを有する空気入りタイヤであって、前記アンダートレッドの厚みが1.5mm以上、前記アンダートレッドのゴム硬度Huとキャップトレッドのゴム硬度Hcとの比Hu/Hcが0.9以下であり、前記キャップトレッドが、ジエン系ゴム100質量部にシリカ50~150質量部を配合したゴム組成物で構成されてなり、前記ジエン系ゴムが、ポリオルガノシロキサン構造、アミノシラン基、ポリシロキサン構造から選ばれる少なくとも1つを有する変性基を有する共役ジエン系ゴムを70質量%以上含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、ポリエチレンテレフタレート繊維コードをタイヤ周方向に巻回したベルトカバー層を有し、アンダートレッドの厚みを1.5mm以上、アンダートレッドとキャップトレッドのゴム硬度の比Hu/Hcを0.9以下にし、キャップトレッドを構成するゴム組成物が、共役ジエン系ゴムを70質量%以上含むジエン系ゴムにシリカを配合するようにしたので、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性を従来レベル以上に向上することができる。
【0008】
前記変性基を有する共役ジエン系ゴムが、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の前記活性末端と下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンとが結合してなり、前記活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖が、重合体ブロックAと、前記重合体ブロックAと一続きに形成された重合体ブロックBとを有し、前記重合体ブロックAが、イソプレン単位80~95質量%および芳香族ビニル単位5~20質量%を含み、重量平均分子量が500~15,000であり、前記重合体ブロックBが、1,3-ブタジエン単位および芳香族ビニル単位を含むことが好ましい。
【化1】

(式(1)中、R~Rは、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。XおよびXは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~5のアルコキシ基、および、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基からなる群より選ばれるいずれかの基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、炭素数1~5のアルコキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4~12の基であり、複数あるXは互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、2~20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基であり、Xが複数あるときは、それらは互いに同一であっても相違していてもよい。mは3~200の整数、nは0~200の整数、kは0~200の整数である。)
【0009】
前記キャップトレッドを構成するゴム組成物が、前記シリカの配合量に対し、炭素数7~20のアルキルを有するアルキルトリエトキシシランを0.1~20質量部配合することにより、低転がり抵抗性およびウェットグリップ性能をより優れたものにすることができる。また前記シリカのCTAB吸着比表面積を180~230m/gにすることにより、ウェットグリップ性能および低転がり抵抗性をより優れたものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の空気入りタイヤの実施形態の一例を示すタイヤ子午線方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、空気入りタイヤの実施形態の一例を示す断面図である。空気入りタイヤは、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3からなる。
【0012】
図1において、左右のビード部3間にタイヤ径方向に延在する補強コードをタイヤ周方向に所定の間隔で配列してゴム層に埋設した2層のカーカス層4が延設され、その両端部がビード部3に埋設したビードコア5の周りにビードフィラー6を挟み込むようにしてタイヤ軸方向内側から外側に折り返されている。カーカス層4の内側にはインナーライナー層7が配置されている。トレッド部1のカーカス層4の外周側には、タイヤ周方向に傾斜して延在する補強コードをタイヤ軸方向に所定の間隔で配列してゴム層に埋設した2層のベルト層8が配設されている。この2層のベルト層8の補強コードは層間でタイヤ周方向に対する傾斜方向、すなわちコード方向を互いに逆向きにして交差している。ベルト層8の外周側には、ベルトカバー層9が配置されている。ベルトカバー層9は、ベルト層全体を覆うフルカバータイプ、ベルト層のタイヤ幅方向端部を覆うエッジカバータイプのいずれでもよく、両タイプを組み合わせてもよい。このベルトカバー層9の外周側に、トレッド部1が配置され、トレッド部1は、キャップトレッド10aおよびアンダートレッド10bからなる
【0013】
空気入りタイヤは、そのタイヤ踏面に、層間でコード方向を交差させた複数のベルト層8を有し、ベルト層8のタイヤ径方向外側にベルトカバー層9を有し、そのタイヤ径方向外側にアンダートレッド10bおよびキャップトレッド10aを有する。ここで、ベルト層8は、タイヤ周方向に傾斜して延在する補強コードをタイヤ軸方向に所定の間隔で配列してコートゴムに埋設した複数の層からなり、これら複数の層間で補強コードの延在方向が互いに交差するように配置される。補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定される。ベルト層8の補強コードとしては、例えばスチールコードが好ましく使用される。
【0014】
更に、ベルト層8の外周側には、高速耐久性の向上とロードノイズの低減を目的として、ベルトカバー層9が設けられている。ベルトカバー層9は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルトカバー層9において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定される。ベルトカバー層9は、少なくとも1本の有機繊維コードを引き揃えてコートゴムで被覆したストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻回して構成するとよく、特にジョイントレス構造とすることが望ましい。
【0015】
本発明では、ベルトカバー層9を構成する有機繊維コードとして、ポリエチレンテレフタレート繊維コード(以下、「PET繊維コード」ということがある。)が使用される。このようにベルトカバー層9を構成する有機繊維コードとして、PET繊維コードを用いることで、空気入りタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。ベルトカバー層9は、PET繊維コードが、コートゴムによって被覆されている。
【0016】
PET繊維コードは、100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が、好ましくは3.5cN/(tex・%)~5.5cN/(tex・%)の範囲にあるとよい。
100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が3.5cN/(tex・%)未満であると、中周波ロードノイズを十分に低減することができない虞がある。またPET繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が5.5cN/(tex・%)を超えると、コードの耐疲労性が低下してタイヤの耐久性が低下する虞がある。なお、本発明において、100℃での2.0cN/dtex負荷時の弾性率[N/(tex・%)]は、JIS-L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、荷重‐伸び曲線の荷重2.0cN/dtexに対応する点における接線の傾きを1tex当たりの値に換算することで算出される。
【0017】
更に、PET繊維コードは、ベルトカバー層9として用いるにあたって、タイヤ内におけるコード張力が好ましくは0.9cN/dtex以上、より好ましくは1.5cN/dtex~2.0cN/dtexであるとよい。このようにタイヤ内におけるコード張力を設定することで、発熱を抑制し、タイヤ耐久性を向上することができる。このPET繊維コードのタイヤ内におけるコード張力が0.9cN/dtex未満であると、tanδのピークが上昇してしまい、タイヤの耐久性を向上する効果が充分に得られない虞がある。なお、PET繊維コードのタイヤ内におけるコード張力は、ベルトカバー層を構成するストリップ材の末端よりも2周以上タイヤ幅方向内側において測定するものとする。
【0018】
PET繊維コードは、更に、100℃における熱収縮応力が0.6cN/tex以上であることが好ましい。このように100℃における熱収縮応力を設定することで、より効果的に空気入りタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。PET繊維コードの100℃における熱収縮応力が0.6cN/texよりも小さいと走行時のタガ効果を充分に向上することができず、高速耐久性を十分に維持することが難しくなる。PET繊維コードの100℃における熱収縮応力の上限値は特に限定されないが、例えば2.0cN/texにするとよい。なお、本発明において、100℃での熱収縮応力(cN/tex)は、JIS‐L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、試料長さ500mm、加熱条件100℃×5分の条件にて加熱したときに測定される試料コードの熱収縮応力である。
【0019】
上述のような物性を有するPET繊維コードを得るために、例えばディップ処理を適正化すると良い。つまり、カレンダー工程に先駆けて、PET繊維コードには接着剤のディップ処理が行われるが、2浴処理後のノルマライズ工程において、雰囲気温度を210℃~250℃の範囲内に設定し、コード張力を2.2×10-2N/tex~6.7×10-2N/texの範囲に設定することが好ましい。これにより、PET繊維コードに上述のような所望の物性を付与することができる。ノルマライズ工程におけるコード張力が2.2×10-2N/texよりも小さいとコード弾性率が低くなり、中周波ロードノイズを十分に低減することができず、逆に6.7×10-2N/texよりも大きいとコード弾性率が高くなり、コードの耐疲労性が低下する。
【0020】
ベルト層8およびベルトカバー層9のタイヤ径方向外側、またはベルトカバー層9のタイヤ径方向外側に配置されるアンダートレッド10bの厚みは1.5mm以上、好ましくは1.7~2.5mmである。アンダートレッド10bの厚みを1.5mm以上にすることにより、ノードノイズを低減することができる。また、トレッド部の発熱を抑制し、高速耐久性を維持、向上することができる。アンダートレッド10bの厚みは、代表的にはタイヤ幅方向中央部に相当する部分のアンダートレッドの厚さである。なお、タイヤ幅方向中央部に周方向溝が配置されているとき、中央部に近い陸部に相当するアンダートレッド部分の厚さをアンダートレッドの厚さにすることができる。
【0021】
アンダートレッド10bのゴム硬度Huは、キャップトレッド10aのゴム硬度Hcとの比Hu/Hcが0.9以下であり、好ましくは0.5~0.9、より好ましくは0.7~0.9である。アンダートレッド10bとキャップトレッド10aのゴム硬度の比Hu/Hcを0.9以下にすることにより、操縦安定性を改良するためキャップトレッド10aのゴム硬度Hcを高くしたことに伴いノードノイズが大きくなったときでも、アンダートレッド10bのゴム硬度の比Huを十分に小さくしノードノイズの悪化を抑制することができる。加えて、PET繊維コードをベルトカバー層9に用いることにより、ノードノイズをより低減することができる。これにより、空気入りタイヤの操縦安定性および低ノードノイズ性を高いレベルで兼備することができる。アンダートレッド10bのゴム硬度Huおよびキャップトレッド10aのゴム硬度Hcは、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定するゴムの硬さをいう。
【0022】
キャップトレッド10aを構成するゴム組成物、すなわちキャップトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部にシリカ50~150質量部を配合するものである。シリカを50~150質量部配合することにより、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能を改良することができる。シリカの配合量は、好ましくは70~130質量部、より好ましくは80~120質量部であるとよい。シリカを50質量部以上配合することにより、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能を改良することができる。またシリカを150質量部以下配合することにより、ノードノイズの悪化を抑制することができる。
【0023】
シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。シリカのCTAB吸着比表面積は、特に制限されるものではないが、好ましくは180m/g以上230m/g以下、より好ましくは185~220m/g、特に好ましくは190~210m/gであるとよい。シリカのCTAB吸着比表面積を180m/g以上にすることにより、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能をより向上することができる。またシリカのCTAB吸着比表面積を230m/g以下にすることにより、シリカの分散性を良好にすることができる。本明細書において、シリカのCTAB比表面積は、ISO 5794により測定された値とする。
【0024】
シリカと共に炭素数7~20のアルキルを有するアルキルトリエトキシシランを配合するとよい。アルキルトリエトキシシランを配合することにより、ゴム成分に対するシリカの分散性を向上し、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ノードノイズ性および高速耐久性のバランスをより高くすることができる。とりわけ、低転がり抵抗性を優れたものにすることができる。
【0025】
炭素数7~20のアルキル基として、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられ、なかでもゴム成分との相溶性の観点から、オクチル基、ノニル基が好ましい。
【0026】
炭素数7~20のアルキルトリエトキシシランは、シリカの配合量に対し、好ましくは0.1~20質量%を配合すると良く、より好ましくは1~5質量%にすると良い。アルキルトリエトキシシランの配合量がシリカ配合量の0.1質量%未満であるとシリカの分散を十分に改良することができない虞がある。アルキルトリエトキシシランの配合量がシリカ配合量の20質量%を超えると操安性が悪化するになる。
【0027】
更に、シリカと共にシランカップリング剤を配合するとよい。シランカップリング剤を配合することにより、ゴム成分に対するシリカの分散性を向上し、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ノードノイズ性および高速耐久性のバランスをより高くすることができる。
【0028】
シランカップリング剤の種類は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。
【0029】
シランカップリング剤の配合量は、シリカの重量に対し、好ましくは3~15質量%を配合すると良く、より好ましくは5~10質量%にすると良い。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の3質量%未満であるとシリカの分散を十分に改良することができない虞がある。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の15質量%を超えるとシランカップリング剤同士が縮合し、ゴム組成物における所望の硬度や強度を得ることができない。
【0030】
キャップトレッド用ゴム組成物を構成するジエン系ゴムは、ポリオルガノシロキサン構造、アミノ基、ヒドロキシル基、ヒドロカルビル基から選ばれる少なくとも1つを有する変性基を有する共役ジエン系ゴムを70質量%以上含有する。このような変性基を有する共役ジエン系ゴムを含有することにより、シリカとの親和性を向上させ、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性をより優れたものにすることができる。変性基を有する共役ジエン系ゴムの含有量は70質量%以上、好ましくは75~100質量%、より好ましくは80~95質量%であるとよい。
【0031】
キャップトレッド用ゴム組成物のジエン系ゴムは、変性基を有する共役ジエン系ゴム以外に、他のジエン系ゴムを含有することができる。他のジエン系ゴムとして、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、未変性のスチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム(EPM)等を挙げることができる。
【0032】
キャップトレッド用ゴム組成物のジエン系ゴムは、好ましくはポリオルガノシロキサン構造、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、カルボニル基、アルコキシシリル基、シラノール基、ヒドロカルビル基から選ばれる少なくとも1つで変性された芳香族ビニル-共役ジエン共重合体であるとよい。芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレンなどが挙げられる。なかでもスチレンが好ましい。これらは単独でも、2種以上の組み合わせでもよい。
【0033】
また、共役ジエン化合物としては、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエンなどが挙げられる。なかでも1,3-ブタジエンが好ましい。これらは単独でも、2種以上の組み合わせでもよい。
【0034】
芳香族ビニル-共役ジエン共重合体は、芳香族ビニル単位含有量が好ましくは38~48質量%、ビニル結合含有量が好ましくは20~35質量%、重量平均分子量が好ましくは500,000~800,000であるとよい。芳香族ビニル-共役ジエン共重合体としては、スチレン及び1,3-ブタジエンの共重合体(スチレンブタジエン共重合体)が好ましい。
【0035】
変性基を有する共役ジエン系ゴムは、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の活性末端と下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンとが結合してなり、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖が、重合体ブロックAと、この重合体ブロックAと一続きに形成された重合体ブロックBとを有し、重合体ブロックAが、イソプレン単位80~95質量%および芳香族ビニル単位5~20質量%を含み、重量平均分子量が500~15,000であり、重合体ブロックBが、1,3-ブタジエン単位および芳香族ビニル単位を含むとよい。
【化2】

(式(1)中、R~Rは、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。XおよびXは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~5のアルコキシ基、および、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基からなる群より選ばれるいずれかの基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、炭素数1~5のアルコキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4~12の基であり、複数あるXは互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、2~20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基であり、Xが複数あるときは、それらは互いに同一であっても相違していてもよい。mは3~200の整数、nは0~200の整数、kは0~200の整数である。)
【0036】
変性基を有する共役ジエン系ゴムは、下記工程AとBとCとをこの順に備える共役ジエン系ゴムの製造方法により製造することができる。
・工程A:イソプレンおよび芳香族ビニルを含む単量体混合物を重合することにより、イソプレン単位含有量が80~95質量%であり、芳香族ビニル単位含有量が5~20質量%であり、重量平均分子量が500~15,000である、活性末端を有する重合体ブロックAを形成する工程
・工程B:上記重合体ブロックAと、1,3-ブタジエンおよび芳香族ビニルを含む単量体混合物とを混合して重合反応を継続し、活性末端を有する重合体ブロックBを、上記重合体ブロックAと一続きにして形成することにより、上記重合体ブロックAおよび上記重合体ブロックBを有する、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を得る工程
・工程C:上記共役ジエン系重合体鎖の上記活性末端に、前記式(1)で示されるポリオルガノシロキサンを反応させる工程
以下、各工程について詳述する。
【0037】
(工程A)
工程Aでは、イソプレンおよび芳香族ビニルを含む単量体混合物を重合することにより、イソプレン単位含有量が80~95質量%であり、芳香族ビニル単位含有量が5~20質量%であり、重量平均分子量が500~15,000である、活性末端を有する重合体ブロックAを形成する。
【0038】
上記単量体混合物はイソプレンおよび芳香族ビニルのみであってもよいし、イソプレンおよび芳香族ビニル以外の単量体を含んでもよい。
上記芳香族ビニルとしては特に制限されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ジメチルアミノメチルスチレン、およびジメチルアミノエチルスチレンなどが挙げられる。これらの中でも、スチレンが好ましい。これらの芳香族ビニルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
イソプレンおよび芳香族ビニル以外の単量体の例としては、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、および1,3-ヘキサジエンなどのイソプレン以外の共役ジエン;アクリロニトリル、およびメタクリロニトリルなどのα,β-不飽和ニトリル;アクリル酸、メタクリル酸、および無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸または酸無水物;メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、およびアクリル酸ブチルなどの不飽和カルボン酸エステル;1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、および5-エチリデン-2-ノルボルネンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
上記単量体混合物は、不活性溶媒中で重合されるのが好ましい。
上記不活性溶媒としては、溶液重合において通常使用されるものであって、重合反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。その具体例としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、および2-ブテンなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、およびシクロヘキセンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、およびキシレンなどの芳香族炭化水素;などが挙げられる。不活性溶媒の使用量は、単量体混合物濃度が、例えば、1~80質量%であり、好ましくは10~50質量%である。
【0041】
上記単量体混合物は重合開始剤により重合されるのが好ましい。
上記重合開始剤としては、イソプレンおよび芳香族ビニルを含む単量体混合物を重合させて、活性末端を有する重合体鎖を与えることができるものであれば、特に限定されない。その具体例としては、例えば、有機アルカリ金属化合物および有機アルカリ土類金属化合物、ならびにランタン系列金属化合物などを主触媒とする重合開始剤が好ましく使用される。有機アルカリ金属化合物としては、例えば、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、およびスチルベンリチウムなどの有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、1,4-ジリチオブタン、1,4-ジリチオ-2-エチルシクロヘキサン、1,3,5-トリリチオベンゼン、および1,3,5-トリス(リチオメチル)ベンゼンなどの有機多価リチウム化合物;ナトリウムナフタレンなどの有機ナトリウム化合物;カリウムナフタレンなどの有機カリウム化合物;などが挙げられる。また、有機アルカリ土類金属化合物としては、例えば、ジ-n-ブチルマグネシウム、ジ-n-ヘキシルマグネシウム、ジエトキシカルシウム、ジステアリン酸カルシウム、ジ-t-ブトキシストロンチウム、ジエトキシバリウム、ジイソプロポキシバリウム、ジエチルメルカプトバリウム、ジ-t-ブトキシバリウム、ジフェノキシバリウム、ジエチルアミノバリウム、ジステアリン酸バリウム、およびジケチルバリウムなどが挙げられる。ランタン系列金属化合物を主触媒とする重合開始剤としては、例えば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムおよびガドリニウムなどのランタン系列金属と、カルボン酸、およびリン含有有機酸などとからなるランタン系列金属の塩を主触媒とし、これと、アルキルアルミニウム化合物、有機アルミニウムハイドライド化合物、および有機アルミニウムハライド化合物などの助触媒とからなる重合開始剤などが挙げられる。これらの重合開始剤の中でも、有機モノリチウム化合物を用いることが好ましく、n-ブチルリチウムを用いることがより好ましい。なお、有機アルカリ金属化合物は、予め、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミン、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン、およびヘプタメチレンイミンなどの第2級アミンと反応させて、有機アルカリ金属アミド化合物として使用してもよい。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
重合開始剤の使用量は、目的とする分子量に応じて決定すればよいが、単量体混合物100g当り、好ましくは4~250mmol、より好ましくは6~200mmol、特に好ましくは10~70mmolの範囲である。
【0042】
上記単量体混合物を重合する重合温度は、例えば、-80~+150℃、好ましくは0~100℃、より好ましくは20~90℃の範囲である。
重合様式としては、回分式、連続式など、いずれの様式をも採用できる。また、結合様式としては、例えば、ブロック状、テーパー状、およびランダム状などの種々の結合様式とすることができる。
重合体ブロックAにおけるイソプレン単位中の1,4-結合含有量を調節する方法としては、例えば、重合に際し、不活性溶媒に極性化合物を添加し、その添加量を調整する方法などが挙げられる。極性化合物としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、および2,2-ジ(テトラヒドロフリル)プロパンなどのエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミンなどの第三級アミン;アルカリ金属アルコキシド;ホスフィン化合物;などが挙げられる。これらの中でも、エーテル化合物、および第三級アミンが好ましく、その中でも、重合開始剤の金属とキレート構造を形成し得るものがより好ましく、2,2-ジ(テトラヒドロフリル)プロパン、およびテトラメチルエチレンジアミンが特に好ましい。
極性化合物の使用量は、目的とする1,4-結合含有量に応じて決定すればよく、重合開始剤1molに対して、0.01~30molが好ましく、0.05~10molがより好ましい。極性化合物の使用量が上記範囲内にあると、イソプレン単位中の1,4-結合含有量の調節が容易であり、かつ重合開始剤の失活による不具合も発生し難い。
【0043】
重合体ブロックAにおけるイソプレン単位中の1,4-結合含有量は、10~95質量%であることが好ましく、20~95質量%であることがより好ましい。
なお、本明細書において、イソプレン単位中の1,4-結合含有量とは、重合体ブロックAが有する全イソプレン単位に対する、1,4-結合のイソプレン単位の割合(質量%)を指す。
【0044】
重合体ブロックAの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の値として、500~15,000である。なかでも、1,000~12,000であることがより好ましく、1,500~10,000であることがさらに好ましい。
重合体ブロックAの重量平均分子量が500に満たないと、所望の低発熱性とウェット性能が発現しにくくなる。
重合体ブロックAの重量平均分子量が15,000を超えると、所望の低転がりとウェット性能の指標となる粘弾性特性のバランスが崩れる可能性がある。
重合体ブロックAの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、1.0~1.5であることが好ましく、1.0~1.3であることがより好ましい。重合体ブロックAの分子量分布の値(Mw/Mn)が上記範囲内にあると、変性基を有する共役ジエン系ゴムの製造がより容易となる。なお、MwおよびMnはいずれもGPCによって測定されるポリスチレン換算の値である。
【0045】
重合体ブロックAのイソプレン単位含有量は、80~95質量%であり、85~95質量%であることが好ましい。
重合体ブロックAの芳香族ビニル含有量は5~20質量%であり、5~15質量%であることが好ましく、5~13質量%であることがより好ましい。
重合体ブロックAにおける、イソプレンおよび芳香族ビニル以外の単量体単位の含有量は、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
(工程B)
工程Bでは、上述した工程Aで形成された重合体ブロックAと、1,3-ブタジエンおよび芳香族ビニルを含む単量体混合物とを混合して重合反応を継続し、活性末端を有する重合体ブロックBを、上記重合体ブロックAと一続きにして形成することにより、上記重合体ブロックAおよび上記重合体ブロックBを有する、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を得る。
【0047】
上記芳香族ビニルの具体例および好適な態様は上述のとおりである。
【0048】
上記単量体混合物は、不活性溶媒中で重合されるのが好ましい。
上記不活性溶媒の定義、具体例および好適な態様は上述のとおりである。
重合体ブロックBを形成する際の活性末端を有する重合体ブロックAの使用量は、目的とする分子量に応じて決定すればよいが、1,3-ブタジエンおよび芳香族ビニルを含む単量体混合物100g当り、例えば、0.1~5mmol、好ましくは0.15~2mmol、より好ましくは0.2~1.5mmolの範囲である。
重合体ブロックAと1,3-ブタジエンおよび芳香族ビニルを含む単量体混合物との混合方法は、特に限定されず、1,3-ブタジエンおよび芳香族ビニルを含む単量体混合物の溶液中に活性末端を有する重合体ブロックAを加えてもよいし、活性末端を有する重合体ブロックAの溶液中に1,3-ブタジエンおよび芳香族ビニルを含む単量体混合物を加えてもよい。重合の制御の観点より、1,3-ブタジエンおよび芳香族ビニルを含む単量体混合物の溶液中に活性末端を有する重合体ブロックAを加えることが好ましい。
1,3-ブタジエンおよび芳香族ビニルを含む単量体混合物を重合するに際し、重合温度は、例えば、-80~+150℃、好ましくは0~100℃、より好ましくは20~90℃の範囲である。重合様式としては、回分式、連続式など、いずれの様式をも採用できる。なかでも、回分式が好ましい。
重合体ブロックBの各単量体の結合様式は、例えば、ブロック状、テーパー状、およびランダム状などの種々の結合様式とすることができる。これらの中でも、ランダム状が好ましい。1,3-ブタジエンおよび芳香族ビニルの結合様式をランダム状にする場合、重合系内において、1,3-ブタジエンと芳香族ビニルとの合計量に対する芳香族ビニルの比率が高くなりすぎないように、1,3-ブタジエンと芳香族ビニルとを、連続的または断続的に重合系内に供給して重合することが好ましい。
【0049】
重合体ブロックBの1,3-ブタジエン単位含有量は特に制限されないが、55~95質量%であることが好ましく、55~90質量%であることがより好ましい。
重合体ブロックBの芳香族ビニル単位含有量は特に制限されないが、5~45質量%であることが好ましく、10~45質量%であることがより好ましい。
【0050】
重合体ブロックBは、1,3-ブタジエン単位および芳香族ビニル単位以外に、さらに、その他の単量体単位を有していてもよい。その他の単量体単位を構成するために用いられるその他の単量体としては、上述した「イソプレン以外の単量体のうち芳香族ビニル以外の例」のうち1,3-ブタジエンを除いたものや、イソプレンなどが挙げられる。
重合体ブロックBのその他の単量体単位の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
重合体ブロックBにおける1,3-ブタジエン単位中のビニル結合含有量を調節するためには、重合に際し、不活性溶媒に極性化合物を添加することが好ましい。ただし、重合体ブロックAの調製時に、不活性溶媒に、重合体ブロックBにおける1,3-ブタジエン単位中のビニル結合含有量を調節するのに十分な量の極性化合物を添加している場合は、新たに極性化合物を添加しなくてもよい。ビニル結合含有量を調節するために用いられる極性化合物についての具体例は、上述の重合体ブロックAの形成に用いられる極性化合物と同様である。極性化合物の使用量は、目的とするビニル結合含有量に応じて決定すればよく、重合開始剤1molに対して、好ましくは0.01~100mol、より好ましくは0.1~30molの範囲で調節すればよい。極性化合物の使用量がこの範囲にあると、1,3-ブタジエン単位中のビニル結合含有量の調節が容易であり、かつ、重合開始剤の失活による不具合も発生し難い。
重合体ブロックBにおける1,3-ブタジエン単位中のビニル結合含有量は、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~80質量%、特に好ましくは25~70質量%である。
【0052】
工程AおよびBにより、重合体ブロックAおよび重合体ブロックBを有する、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を得ることができる。
上記活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖は、生産性の観点より、重合体ブロックA-重合体ブロックBで構成され、重合体ブロックBの末端が活性末端であることが好ましいが、重合体ブロックAを複数有していてもよいし、その他の重合体ブロックを有していてもよい。例えば、重合体ブロックA-重合体ブロックB-重合体ブロックA、および重合体ブロックA-重合体ブロックB-イソプレンのみからなるブロックなどの、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖が挙げられる。共役ジエン系重合体鎖の活性末端側にイソプレンのみからなるブロックを形成させる場合、イソプレンの使用量は、初めの重合反応に使用した重合開始剤1molに対して、10~100molであることが好ましく、15~70molであることがより好ましく、20~35molであることが特に好ましい。
上記活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖における重合体ブロックAと重合体ブロックBとの質量比(重合体ブロックA、Bが複数ある場合は、それぞれの合計質量を基準とする)は、(重合体ブロックAの質量)/(重合体ブロックBの質量)として、0.001~0.1であることが好ましく、0.003~0.07であることがより好ましく、0.005~0.05であることが特に好ましい。
上記活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、1.0~3.0であることが好ましく、1.0~2.5であることがより好ましく、1.0~2.2であることが特に好ましい。活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の分子量分布の値(Mw/Mn)が上記範囲内にあると、変性基を有する共役ジエン系ゴムの製造が容易となる。なお、MwおよびMnはいずれもGPCによって測定されるポリスチレン換算の値である。
上記活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖中、イソプレン単位および1,3-ブタジエン単位の合計の含有量が50~99.995質量%、芳香族ビニル単位の含有量が0.005~50質量%であることが好ましく、イソプレン単位および1,3-ブタジエン単位の合計の含有量が55~95質量%、芳香族ビニル単位の含有量が5~45質量%であることがより好ましく、イソプレン単位および1,3-ブタジエン単位の合計の含有量が55~90質量%、芳香族ビニル単位の含有量が10~45質量%であることが特に好ましい。また、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖におけるイソプレン単位中および1,3-ブタジエン単位中のビニル結合含有量は、上述した重合体ブロックBにおける1,3-ブタジエン単位中のビニル結合含有量と同様である。
【0053】
(工程C)
工程Cは、工程Bで得られた共役ジエン系重合体鎖の活性末端に、下記式(1)で示されるポリオルガノシロキサンを反応させる工程である。
【0054】
【化3】

(式(1)中、R~Rは、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。XおよびXは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~5のアルコキシ基、および、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基からなる群より選ばれるいずれかの基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、炭素数1~5のアルコキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4~12の基であり、複数あるXは互いに同一であっても相違していてもよい。Xは、2~20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基であり、Xが複数あるときは、それらは互いに同一であっても相違していてもよい。mは3~200の整数、nは0~200の整数、kは0~200の整数である。)
【0055】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、R~R、XおよびXで表される炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、およびシクロヘキシル基などが挙げられる。炭素数6~12のアリール基としては、例えば、フェニル基、およびメチルフェニル基などが挙げられる。これらのなかでも、ポリオルガノシロキサン自体の製造の観点から、メチル基、およびエチル基が好ましい。
【0056】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X、X、およびXで表される炭素数1~5のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、およびブトキシ基などが挙げられる。なかでも、共役ジエン系重合体鎖の活性末端との反応性の観点から、メトキシ基、およびエトキシ基が好ましい。
【0057】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X、X、およびXで表されるエポキシ基を含有する炭素数4~12の基としては、下記式(2)で表される基が挙げられる。
【化4】
上記式(2)中、Zは、炭素数1~10のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、Zはメチレン基、硫黄原子、または酸素原子であり、Eはエポキシ基を有する炭素数2~10の炭化水素基である。上記式(2)中、*は結合位置を表す。
【0058】
上記式(2)で表される基において、Zが酸素原子であるものが好ましく、Zが酸素原子であり、かつ、Eがグリシジル基であるものがより好ましく、Zが炭素数1~3のアルキレン基であり、Zが酸素原子であり、かつ、Eがグリシジル基であるものが特に好ましい。
【0059】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、XおよびXとしては、上記の中でも、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基、または炭素数1~6のアルキル基が好ましく、また、Xとしては、上記の中でも、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基が好ましく、XおよびXが炭素数1~6のアルキル基であり、かつ、Xがエポキシ基を含有する炭素数4~12の基であることがより好ましい。
【0060】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、X、すなわち2~20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基としては、下記式(3)で表される基が好ましい。
【化5】

上記式(3)中、tは2~20の整数であり、Pは炭素数2~10のアルキレン基またはアルキルアリーレン基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、Qは炭素数1~10のアルコキシ基またはアリールオキシ基である。上記式(3)中、*は結合位置を表す。これらの中でも、tが2~8の整数であり、Pが炭素数3のアルキレン基であり、Rが水素原子であり、かつ、Qがメトキシ基であるものが好ましい。
【0061】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、mは3~200の整数であり、好ましくは20~150の整数、より好ましくは30~120の整数である。mが3以上の整数であるため、変性基を有する共役ジエン系ゴムはシリカとの親和性が高く、その結果、本発明のゴム組成物から得られるタイヤは優れた低発熱性を示す。また、mが200以下の整数であるため、ポリオルガノシロキサン自体の製造が容易になると共に、本発明のゴム組成物の粘度は低くなる。
【0062】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、nは0~200の整数であり、好ましくは0~150の整数、より好ましくは0~120の整数である。また、上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、kは0~200の整数であり、好ましくは0~150の整数、より好ましくは0~130の整数である。
【0063】
上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、m、n、およびkの合計数は、3~400であることが好ましく、20~300であることがより好ましく、30~250であることが特に好ましい。
【0064】
なお、上記式(1)で示されるポリオルガノシロキサンにおいて、ポリオルガノシロキサン中のエポキシ基が共役ジエン系重合体鎖の活性末端と反応する場合、ポリオルガノシロキサン中の少なくとも一部のエポキシ基が開環することにより、エポキシ基が開環した部分の炭素原子と共役ジエン系重合体鎖の活性末端との結合が形成されると考えられる。また、ポリオルガノシロキサン中のアルコキシ基が共役ジエン系重合体鎖の活性末端と反応する場合、ポリオルガノシロキサン中の少なくとも一部のアルコキシ基が脱離することにより、脱離したアルコキシ基が結合していたポリオルガノシロキサンにおけるケイ素原子と共役ジエン系重合体鎖の活性末端との結合が形成されると考えられる。
【0065】
上記ポリオルガノシロキサン(以下、変性剤とも言う)の使用量は、重合に使用した重合開始剤1molに対する変性剤中のエポキシ基およびアルコキシ基の合計mol数の比が0.1~1の範囲となる量であることが好ましく、0.2~0.9の範囲となる量であることがより好ましく、0.3~0.8の範囲となる量であることがさらに好ましい。
【0066】
上記共役ジエン系ゴムの製造方法では、上述した変性剤にて、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を変性する他に、重合停止剤、上述した変性剤以外の重合末端変性剤、お
よびカップリング剤などを重合系内に添加することにより、一部の共役ジエン系重合体鎖の活性末端を、本発明の効果を阻害しない範囲で、不活性化してもよい。すなわち、変性基を有する共役ジエン系ゴムは、一部の共役ジエン系重合体鎖の活性末端が、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合停止剤、上述した変性剤以外の重合末端変性剤、およびカップリング剤などにより不活性化されていてもよい。
このときに用いられる重合末端変性剤およびカップリング剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、N-フェニル-2-ピロリドン、およびN-メチル-ε-カプロラクタムなどのN-置換環状アミド類;1,3-ジメチルエチレン尿素、および1,3-ジエチル―2-イミダゾリジノンなどのN-置換環状尿素類;4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、および4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのN-置換アミノケトン類;ジフェニルメタンジイソシアネート、および2,4-トリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート類;N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドなどのN,N-ジ置換アミノアルキルメタクリルアミド類;4-N,N-ジメチルアミノベンズアルデヒドなどのN-置換アミノアルデヒド類1ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのN-置換カルボジイミド類;N-エチルエチリデンイミン、N-メチルベンジリデンイミンなどのシッフ塩基類;4-ビニルピリジンなどのピリジル基含有ビニル化合物;四塩化錫;四塩化ケイ素、ヘキサクロロジシラン、ビス(トリクロロシリル)メタン、1,2-ビス(トリクロロシリル)エタン、1,3-ビス(トリクロロシリル)プロパン、1,4-ビス(トリクロロシリル)ブタン、1,5-ビス(トリクロロシリル)ペンタン、および1,6-ビス(トリクロロシリル)ヘキサンなどのハロゲン化ケイ素化合物;などが挙げられる。1分子中に5以上のケイ素-ハロゲン原子結合を有するハロゲン化ケイ素化合物をカップリング剤として併用して得られる高分岐共役ジエン系ゴムを用いて得られるタイヤは、操縦安定性が優れる。これらの重合末端変性剤およびカップリング剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
共役ジエン系重合体鎖の活性末端に、上述した変性剤などを反応させる際、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を含有する溶液に、変性剤などを添加することが好ましく、反応を良好に制御する観点から、変性剤などを不活性溶媒に溶解して重合系内に添加することがより好ましい。その溶液濃度は、1~50質量%の範囲とすることが好ましい。
変性剤などを添加する時期は、特に限定されないが、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖における重合反応が完結しておらず、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を含有する溶液が単量体をも含有している状態、より具体的には、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を含有する溶液が、好ましくは100ppm以上、より好ましくは300~50,000ppmの単量体を含有している状態で、この溶液に変性剤などを添加することが望ましい。変性剤などの添加をこのように行なうことにより、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖と重合系中に含まれる不純物との副反応を抑制して、反応を良好に制御することが可能となる。
共役ジエン系重合体鎖の活性末端に、上述した変性剤などを反応させるときの条件としては、温度が、例えば、0~100℃、好ましくは30~90℃の範囲であり、それぞれの反応時間が、例えば、1分~120分、好ましくは2分~60分の範囲である。
共役ジエン系重合体鎖の活性末端に、変性剤などを反応させた後は、メタノールおよびイソプロパノールなどのアルコールまたは水などの、重合停止剤を添加して未反応の活性末端を失活させることが好ましい。
【0068】
共役ジエン系重合体鎖の活性末端を失活させた後、所望により、フェノール系安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤などの老化防止剤、クラム化剤、およびスケール防止剤などを重合溶液に添加し、その後、直接乾燥またはスチームストリッピングなどにより重合溶液から重合溶媒を分離して、得られる変性基を有する共役ジエン系ゴムを回収する。なお、重合溶液から重合溶媒を分離する前に、重合溶液に伸展油を混合し、変性基を有する共役ジエン系ゴムを油展ゴムとして回収してもよい。
変性基を有する共役ジエン系ゴムを油展ゴムとして回収する場合に用いる伸展油としては、例えば、パラフィン系、芳香族系およびナフテン系の石油系軟化剤、植物系軟化剤、ならびに脂肪酸などが挙げられる。石油系軟化剤を用いる場合には、IP346の方法(英国のTHEINSTITUTEPETROLEUMの検査方法)により抽出される多環芳香族の含有量が3%未満であることが好ましい。伸展油を使用する場合、その使用量は、共役ジエン系ゴム100質量部に対して、例えば、5~100質量部、好ましくは10~60質量部、より好ましくは20~50質量部である。
【0069】
変性基を有する共役ジエン系ゴムは、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖と、上述したポリオルガノシロキサンとを反応させることにより生じる、3以上の共役ジエン系重合体鎖が結合している構造体(以下、「活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖と、上述したポリオルガノシロキサンとを反応させることにより生じる、3以上の共役ジエン系重合体鎖が結合している構造体」を単に「3以上の共役ジエン系重合体鎖が結合している構造体」とも言う)を、5~40質量%含有していることが好ましく、5~30質量%含有していることがより好ましく、10~20質量%含有していることが特に好ましい。3以上の共役ジエン系重合体鎖が結合している構造体の割合が上記範囲内にあると、製造時における凝固性、および乾燥性が良好となり、さらには、シリカを配合したときに、より加工性に優れるタイヤ用ゴム組成物、およびより低発熱性に優れたタイヤを与えることができる。なお、最終的に得られた変性基を有する共役ジエン系ゴムの全量に対する、3以上の共役ジエン系重合体鎖が結合している構造体の割合(質量分率)を、共役ジエン系重合体鎖の3分岐以上のカップリング率として表す。これは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(ポリスチレン換算)により測定することができる。ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定により得られたチャートより、全溶出面積に対する、分子量の最も小さいピークが示すピークトップ分子量の2.8倍以上のピークトップ分子量を有するピーク部分の面積比を、共役ジエン系重合体鎖の3分岐以上のカップリング率とする。
【0070】
上記変性基を有する共役ジエン系ゴムの芳香族ビニル単位含有量は38~48質量%である。なかでも、40~45質量%であることが好ましい。上記芳香族ビニル単位含有量が38質量%に満たないと、ウェット性能が不十分となる。また、上記芳香族ビニル単位含有量が48質量%を超えると、低転がり抵抗性が悪化する。
上記変性基を有する共役ジエン系ゴムのビニル結合含有量は20~35質量%である。なかでも、25~30質量%であることが好ましい。上記ビニル結合含有量が20質量%に満たないと、低転がり抵抗性が悪化する。また、上記ビニル結合含有量が35質量%を超えると、粘度が上昇し加工性が悪化する。なお、ビニル結合含有量とは、変性基を有する共役ジエン系ゴムに含まれる共役ジエン単位のうち、ビニル結合が占める割合(質量%)を指す。
上記変性基を有する共役ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定されるポリスチレン換算の値として、500,000~800,000である。なかでも、600,000~700,000であることが好ましい。上記重量平均分子量が500,000に満たないと、摩耗性能が悪化する。また、上記重量平均分子量が800,000を超えると、加工性が悪化する。
上記変性基を有する共役ジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、1.1~3.0であることが好ましく、1.2~2.5であることがより好ましく、1.2~2.2であることが特に好ましい。なお、MwおよびMnはいずれもGPCによって測定されるポリスチレン換算の値である。
上記変性基を有する共役ジエン系ゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、20~100であることが好ましく、30~90であることがより好ましく、35~80であることが特に好ましい。なお、変性基を有する共役ジエン系ゴムを油展ゴムとする場合は、その油展ゴムのムーニー粘度を上記の範囲とすることが好ましい。
【0071】
本発明においては、ジエン系ゴム中の変性基を有する共役ジエン系ゴムの含有量は、30質量%以上であり、40~80質量%であることが好ましく、50~70質量%であることがより好ましい。
ジエン系ゴム中の変性基を有する共役ジエン系ゴムの含有量が30質量%に満たないと、ウェット性能および低転がり抵抗性ならびに操縦安定性が不十分となる。
なお、「ジエン系ゴム中の変性基を有する共役ジエン系ゴムの含有量」とは、ジエン系ゴム全体に対する変性基を有する共役ジエン系ゴムの含有量(質量%)を指す。
【0072】
キャップトレッド用ゴム組成物は、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができる。またかかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。キャップトレッド用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0073】
空気入りタイヤのアンダートレッド、ベルトカバー層およびベルト層をそれぞれ構成するゴム組成物は、特に制限されるものではなく、通常用いられるアンダートレッド用ゴム組成物、ベルトカバー層用ゴム組成物およびベルト用ゴム組成物を適用することができる。
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0074】
表3に記載されたゴム組成物の共通組成を有し、表1~2に記載の原材料を配合した16種類のキャップトレッド用ゴム組成物(実施例1~8、標準例、比較例1~7)を調製するにあたり、硫黄、および加硫促進剤を除く成分を1.7Lのバンバリーミキサーで5分間混練し、145℃に達したとき放出し冷却しマスターバッチとした。得られたマスターバッチに、硫黄、および加硫促進剤を加えて70℃のオープンロールで混練することにより、17種類のタイヤ用ゴム組成物を得た。また表3に記載の各添加剤の配合量は、表1~2に記載のゴム成分100質量部に対する質量部として表されている。
【0075】
得られたキャップトレッド用ゴム組成物を用いてキャップトレッドを構成し、表1~2に示すように、アンダートレッドの厚み(表中、「UTの厚み」と記す。)、アンダートレッドのゴム硬度(表中、「UTのゴム硬度 Hu」と記す。)、キャップトレッドとアンダートレッドのゴム硬度の比Hu/Hc(-)およびベルトカバーの繊維コードの種類を満たす空気入りタイヤ(サイズ195/65R15)を加硫成形した。得られた空気入りタイヤを用いて以下の方法により、操縦安定性、ウェットグリップ性能、ロードノイズ、高速耐久性および低転がり抵抗性を評価した。
【0076】
操縦安定性
空気入りタイヤを、リムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして試験車両に装着し、乾燥路面においてテストドライバーによる操縦安定性能の官能評価を行った。評価結果は、標準例を基準(5点)とする5点法にて示した。この評価点が大きいほど操縦安定性が優れていることを意味する。
【0077】
ウェットグリップ性能
空気入りタイヤを、リムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして試験車両に装着し、湿潤路面において時速80kmからの制動距離を測定した。得られた値はそれぞれ逆数を算出し、得られた値は、標準例の逆数の値を100とする指数として、表1~2の「ウェット性能」の欄に記載した。この指数が大きいほど、ウェットグリップ性能が優れることを意味する。
【0078】
ロードノイズ
空気入りタイヤを、リムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて、排気量2.5Lの乗用車(前輪駆動車)の前後車輪として装着し、空気圧を230kPaとし、運転席の窓の内側に集音マイクを設置し、アスファルト路面からなるテストコースを平均速度50km/hの条件で走行させた際の周波数315Hz付近の音圧レベルを測定した。得られた値は、それぞれの逆数を算出し、標準例の値の逆数を100とする指数として、表1~2の「ロードノイズ」の欄に記載した。この指数が大きいほど、ロードノイズが低減されており、優れることを意味する。
【0079】
高速耐久性
空気入りタイヤを、リムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて、空気圧230kPaを充填し、室内ドラム試験機(ドラム径1707mm)に装着し、JIS D4230に規定される高速耐久性試験を実施した後、引き続き1時間毎に8km/hずつ加速し、タイヤに故障が生じるまでの走行距離を計測した。評価結果は、走行距離の測定値を用い、標準例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど、故障が生じるまでの走行距離が長く、高速耐久性が優れていることを意味する。
【0080】
低転がり抵抗性
空気入りタイヤを、リム(15×6J)に装着し、空気を充填しJATMA規定空気圧230kPaに空気を充填して、JIS D4230に準拠する室内ドラム試験機(ドラム径1707mm)にかけて、試験荷重30N、速度40km/h時の抵抗力を測定し、転がり抵抗とした。得られた値の逆数を算出し、標準例の値の逆数を100とする指数として、表1~2の「低転がり抵抗性」の欄に記載した。この指数が大きいほど、低転がり抵抗性が優れることを意味する。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
なお、表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・未変性SBR:日本ゼオン社製1502
・変性SBR-1:変性基を有する共役ジエン系ゴム、以下の製造方法により調製した。
変性SBR-1の製造方法
窒素置換された100mLアンプル瓶に、シクロヘキサン(35g)、およびテトラメチルエチレンジアミン(1.4mmol)を添加し、さらに、n-ブチルリチウム(4.3mmol)を添加した。次いで、イソプレン(21.6g)、およびスチレン(3.1g)をゆっくりと添加し、50℃のアンプル瓶内で120分反応させることにより、活性末端を有する重合体ブロックAを得た。この重合体ブロックAは、重量平均分子量が8700、分子量分布(Mw/Mn)が1.10、芳香族ビニル単位含有量が12.6質量%、イソプレン単位含有量が87.4質量%、および1,4-結合含有量が58.0質量%であった。
次に、撹拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン(4000g)、1,3-ブタジエン(474.0g)、およびスチレン(126.0g)を仕込んだ後、上記にて得られた活性末端を有する重合体ブロックAを全量加え、50℃で重合を開始した。重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、次いで、後述する式(1)で表されるポリオルガノシロキサンAを、エポキシ基の含有量が1.42mmol(使用したn-ブチルリチウムの0.33倍モルに相当)となるように、20質量%濃度のキシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn-ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、特定共役ジエン系ゴムを含有する溶液を得た。この溶液に、老化防止剤(イルガノックス1520、BASF社製)を少量添加し、伸展油としてフッコールエラミック30(新日本石油(株)製)を特定共役ジエン系ゴム100質量部に対して25質量部添加した後、スチームストリッピング法により固形状のゴムを回収した。得られた固形状のゴムをロールにより脱水し、乾燥機中で乾燥を行い、変性基を有する共役ジエン系ゴムである変性SBR-1を得た。
なお、上述したポリオルガノシロキサンAは、上記式(1)中、X、X、R~RおよびR~Rはメチル基である。また、mは80、nは0、kは120である。さらに、Xは下記式(4)で表される基である(ここで、*は結合位置を表す)。
【化6】

得られた変性SBR-1は、重量平均分子量が640,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.65、3分岐以上のカップリング率が12.5質量%、芳香族ビニル単位含有量が42.6質量%、ビニル結合含有量が29.5質量%、および、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が58であった。
【0084】
・変性SBR-2:アミノシラン基を有する共役ジエン系ゴム、旭化成社製F3420
・変性SBR-3:ポリシロキサンを有する共役ジエン系ゴム、日本ゼオン社製NS612
・NR:天然ゴム、STR
・シリカ-1:Evonik社製ZEOSIL 1165MP、CTAB吸着比表面積が160m/g
・シリカ-2:Evonik社製200MP、CTAB吸着比表面積が200m/g
・カップリング剤:シランカップリング剤、Evonik社製Si69
・カーボンブラック:CABOT社製ISAF
・アルキルシラン:オクチオルトリエトキシシラン、信越シリコーン社製KBE-3083
・プロセスオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト 4号S
・ベルトカバー層に使用したナイロン繊維コード:旭化成社製レオナ、構造は1100dtex/2。
・ベルトカバー層に使用したPET繊維コード:100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が4.5[cN/(tex・%)]、タイヤ内におけるコード張力が1.8[cN/dtex]のポリエチレンテレフタレート繊維コード、構造は1100dtex/2。
【0085】
【表3】
【0086】
なお、表3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸YR
・亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・老化防止剤:Solutia社製SANTOFLEX 6PPD
・硫黄:細井化学工業社製油処理硫黄、硫黄含有率が95質量%
・加硫促進剤-1:大内新興化学工業(株)製ノクセラー CZ-G(CBS)
・加硫促進剤-2:大内新興化学工業(株)製ノクセラー D(DPG)
【0087】
表1~2から明らかなように実施例1~7の空気入りタイヤは、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性が、標準例および比較例に対し優れていることが確認された。
【0088】
比較例1の空気入りタイヤは、ベルトカバー層をナイロン繊維コードで構成したので、ロードノイズおよび高速耐久性が劣る。
比較例2の空気入りタイヤは、アンダートレッドのゴム硬度Huを硬くし、アンダートレッドとキャップトレッドのゴム硬度の比Hu/Hcが0.9を超える、ロードノイズおよび高速耐久性が劣る。また操縦安定性が十分でない。
比較例3の空気入りタイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物のシリカを50質量部未満にしたので、キャップトレッドのゴム硬度が低くなり、操縦安定性、およびウェットグリップ性能が劣る。
比較例4の空気入りタイヤは、比較例3のキャップトレッド用ゴム組成物のオイル量を少なくして、キャップトレッドのゴム硬度を回復させ、操縦安定性が若干回復したが、ウェット性能が劣る。
比較例5の空気入りタイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物のシリカが150質量部を超えるので、キャップトレッドのゴム硬度が高くなり、低転がり抵抗性、低ロードノイズ性および高速耐久性が劣る。また操縦安定性が十分でない。
比較例6の空気入りタイヤは、比較例5のキャップトレッド用ゴム組成物のオイル量を増やして、キャップトレッドのゴム硬度を回復させロードノイズを若干改良したが、低転がり抵抗性および高速耐久性が劣る。また操縦安定性が十分でない。
比較例7の空気入りタイヤは、アンダートレッドの厚みが1.5mm未満であるので、低転がり抵抗性、低ロードノイズ性および高速耐久性が劣る。また操縦安定性が十分でない。
比較例8の空気入りタイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物において、ジエン系ゴム中の変性SBR-1(変性基を有する共役ジエン系ゴム)が70質量%未満であるので、
ウェット性能が劣る。
図1