(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】車両の駆動力制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/10 20160101AFI20221206BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20221206BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20221206BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20221206BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20221206BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20221206BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20221206BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20221206BHJP
B60K 17/356 20060101ALI20221206BHJP
B60L 9/18 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
B60W20/10 ZHV
B60K6/52
B60K6/54
B60K6/48
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60L15/20 S
B60L50/16
B60K17/356 B
B60L9/18 P
(21)【出願番号】P 2019218990
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】北井 慎也
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-067723(JP,A)
【文献】特開2019-088093(JP,A)
【文献】特開2009-040174(JP,A)
【文献】特開2012-166676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
B60L 1/00-58/40
B60K 17/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1原動機により第1動力伝達経路を介して前輪および後輪の何れか一方を回転駆動する第1駆動装置と、第2原動機により第2動力伝達経路を介して前記前輪および前記後輪の他方を回転駆動する第2駆動装置と、を有する前後輪独立駆動型の車両の駆動力制御装置において、
前記車両が波状路走行していることを検出する波状路走行検出部と、
前記波状路走行していることが検出された場合に、前記第1駆動装置および前記第2駆動装置のうち、前記波状路走行に起因して発生する共振によって最も損傷し易い最弱部位を有する予め定められた一方の駆動装置、の駆動力分担率を低下させるとともに、他方の駆動装置の駆動力分担率を増加させる分担率変更部と、
を有することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記分担率変更部は、前記第1原動機および前記第2原動機のトルクを増減して前記駆動力分担率を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記分担率変更部によって変更される前記他方の駆動装置の前記駆動力分担率の増加が、該他方の駆動装置の中で前記共振によって最も損傷し易い最弱部位の損傷が抑制されるように制限されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記第1駆動装置は、前記第1原動機としてエンジンを備えており、該エンジンの出力を左右の車輪に分配する第1トランスアクスルを前記第1動力伝達経路の一部として備えている一方、
前記第2駆動装置は、前記第2原動機として電動モータのみを備えており、該電動モータの出力を左右の車輪に分配する第2トランスアクスルを前記第2動力伝達経路の一部として備えている
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記第1駆動装置は、前記第1原動機として前記エンジンの他に電動モータを備えており、
前記第1トランスアクスルは、前記エンジンおよび前記電動モータの両方の出力を前記左右の車輪に分配する
ことを特徴とする請求項4に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記第1駆動装置は、前記第1原動機として電動モータのみを備えており、該電動モータの出力を左右の車輪に分配する第1トランスアクスルを前記第1動力伝達経路の一部として備えている一方、
前記第2駆動装置は、前記第2原動機として電動モータのみを備えており、該電動モータの出力を左右の車輪に分配する第2トランスアクスルを前記第2動力伝達経路の一部として備えている
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の駆動力制御装置に係り、特に、波状路走行時に駆動力を制限する車両の駆動力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
波状路走行時に車体共振が発生することから、モータ回転角に基づいてモータの回転速度変化量を検出するとともに、回転速度変化量に基づいて車体共振発生の有無を判定し、車体共振が発生していると判定されるとモータの駆動トルクを低減するモータ駆動車両の制御装置が提案されている(特許文献1参照)。このようにすれば、車輪軸から駆動系への過大なトルク入力を未然に検出して駆動トルクを制限することで、モータ等の部品を保護することができる。波状路走行か否かを検出する技術としては、車輪速の変動成分に基づいて判断するものなど(特許文献2参照)、種々の手法が提案されている。一方、特許文献3には、第1原動機により第1動力伝達経路を介して前輪および後輪の何れか一方を回転駆動する第1駆動装置と、第2原動機により第2動力伝達経路を介して前記前輪および前記後輪の他方を回転駆動する第2駆動装置と、を有する前後輪独立駆動型の車両が提案されている。このような車両においても、波状路走行であることを検出して、第1駆動装置および第2駆動装置による駆動力を制限することで部品を保護することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-72868号公報
【文献】特開2019-55718号公報
【文献】特開2019-1366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このように駆動力を制限すると、波状路走行時の走行性能が低下してしまう可能性があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、波状路走行であることを検出した場合に駆動力を制限して部品を保護しつつ、その駆動力の制限に起因して走行性能が低下することをできるだけ抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、第1原動機により第1動力伝達経路を介して前輪および後輪の何れか一方を回転駆動する第1駆動装置と、第2原動機により第2動力伝達経路を介して前記前輪および前記後輪の他方を回転駆動する第2駆動装置と、を有する前後輪独立駆動型の車両の駆動力制御装置において、(a) 前記車両が波状路走行していることを検出する波状路走行検出部と、(b) 前記波状路走行していることが検出された場合に、前記第1駆動装置および前記第2駆動装置のうち、前記波状路走行に起因して発生する共振によって最も損傷し易い最弱部位を有する予め定められた一方の駆動装置、の駆動力分担率を低下させるとともに、他方の駆動装置の駆動力分担率を増加させる分担率変更部と、を有することを特徴とする。
上記最弱部位の損傷は、機械的な損傷だけでなく電気的な損傷を含むとともに、耐久性の低下も考慮して総合的に判断される。
【0007】
第2発明は、第1発明の車両の駆動力制御装置において、前記分担率変更部は、前記第1原動機および前記第2原動機のトルクを増減して前記駆動力分担率を変更することを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第1発明または第2発明の車両の駆動力制御装置において、前記分担率変更部によって変更される前記他方の駆動装置の前記駆動力分担率の増加が、その他方の駆動装置の中で前記共振によって最も損傷し易い最弱部位の損傷が抑制されるように制限されていることを特徴とする。
【0009】
第4発明は、第1発明~第3発明の何れかの車両の駆動力制御装置において、(a) 前記第1駆動装置は、前記第1原動機としてエンジンを備えており、そのエンジンの出力を左右の車輪に分配する第1トランスアクスルを前記第1動力伝達経路の一部として備えている一方、(b) 前記第2駆動装置は、前記第2原動機として電動モータのみを備えており、その電動モータの出力を左右の車輪に分配する第2トランスアクスルを前記第2動力伝達経路の一部として備えていることを特徴とする。
【0010】
第5発明は、第4発明の車両の駆動力制御装置において、(a) 前記第1駆動装置は、前記第1原動機として前記エンジンの他に電動モータを備えており、(b) 前記第1トランスアクスルは、前記エンジンおよび前記電動モータの両方の出力を前記左右の車輪に分配することを特徴とする。
【0011】
第6発明は、第1発明~第3発明の何れかの車両の駆動力制御装置において、(a) 前記第1駆動装置は、前記第1原動機として電動モータのみを備えており、その電動モータの出力を左右の車輪に分配する第1トランスアクスルを前記第1動力伝達経路の一部として備えている一方、(b) 前記第2駆動装置は、前記第2原動機として電動モータのみを備えており、その電動モータの出力を左右の車輪に分配する第2トランスアクスルを前記第2動力伝達経路の一部として備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このような車両の駆動力制御装置においては、車両が波状路走行していることが検出された場合に、その波状路走行に起因して発生する共振によって最も損傷し易い最弱部位を有する一方の駆動装置の駆動力分担率が低下させられる一方、他方の駆動装置の駆動力分担率が増加させられるため、一方の駆動装置の駆動力低下で、共振による過大なトルク入力等による最弱部位の損傷を抑制しつつ、他方の駆動装置の駆動力増加により車両全体の駆動力低下が抑制され、波状路走行時の走行性能が向上する。
【0013】
第2発明は、第1原動機および第2原動機のトルクを増減して駆動力分担率を変更するため、第1動力伝達経路、第2動力伝達経路だけでなく第1原動機および第2原動機を含めて最弱部位の損傷を適切に抑制できる。
【0014】
第3発明は、分担率変更部によって変更される他方の駆動装置の駆動力分担率の増加が、その他方の駆動装置の中の最弱部位の損傷が抑制されるように制限されるため、その他方の駆動装置の駆動力分担率の増加により車両全体の駆動力低下を抑制して波状路走行時の走行性能を向上させつつ、その他方の駆動装置の最弱部位の損傷が抑制される。
【0015】
第4発明は、第1駆動装置の第1原動機としてエンジンを備えており、そのエンジンの出力が第1トランスアクスルを介して左右の車輪に分配される一方、第2駆動装置の第2原動機として電動モータのみを備えており、その電動モータの出力が第2トランスアクスルを介して左右の車輪に分配される場合で、本発明が好適に適用される。
【0016】
第5発明は、第1駆動装置の第1原動機としてエンジンの他に電動モータを備えており、そのエンジンおよび電動モータの両方の出力が第1トランスアクスルを介して左右の車輪に分配される場合で、本発明が好適に適用される。
【0017】
第6発明は、第1駆動装置の第1原動機として電動モータのみを備えており、その電動モータの出力が第1トランスアクスルを介して左右の車輪に分配される一方、第2駆動装置の第2原動機として電動モータのみを備えており、その電動モータの出力が第2トランスアクスルを介して左右の車輪に分配される場合、すなわち電気自動車や燃料電池式車両、或いはエンジンにより発電機を回して発電した電気で電動モータを作動させるシリーズ型ハイブリッド車両などのモータ駆動車両で、本発明が好適に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明が適用された車両の4輪駆動システムを説明する概略構成図である。
【
図2】
図1の車両が備えている電子制御装置によって実行される波状路走行時の駆動力分配制御を具体的に説明するフローチャートである。
【
図3】
図2のフローチャートに従って波状路走行時に前後輪の駆動力分担率が変更された場合のタイムチャートの一例である。
【
図4】本発明が好適に適用される他の車両の4輪駆動システムを説明する概略構成図である。
【
図5】本発明が好適に適用される更に別の車両の4輪駆動システムを説明する概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明が適用される前後輪独立駆動型の車両は、前輪側駆動力および後輪側駆動力を分担率に応じて独立に制御できるもので、常に前輪および後輪の両方を駆動する4輪駆動状態で走行するものでも良いし、通常は前輪および後輪の何れか一方のみの2輪駆動状態で走行し、発進時やスリップ発生時など必要に応じて4輪駆動状態で走行するものでも良い。第1原動機および第2原動機としてはエンジンや電動モータが好適に用いられる。エンジンおよび電動モータの両方を備えていても良いし、複数の電動モータを備えていても良い。エンジンは、燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関である。電動モータは、発電機としても用いることができるモータジェネレータが好適に用いられる。電動モータは、例えばバッテリー等の蓄電装置の電気で作動させられるが、燃料電池で得られた電気や、エンジンにより発電機を回して発電した電気、或いは他の発電装置で得られた電気、で作動させても良い。
【0020】
第1動力伝達経路および第2動力伝達経路は、例えば原動機の出力を左右の車輪に分配するトランスアクスルおよび左右のドライブシャフトを備えて構成されるが、原動機の出力を車両の前後方向へ伝達するプロペラシャフトや終減速装置を備えて構成することもできる。トランスアクスルには、原動機の出力を左右の車輪に分配する差動装置の他、例えば減速或いは増速する変速ギヤ機構、有段変速機や無段変速機、電気式無段変速機、動力伝達を遮断したり伝達トルクを制御したりするクラッチ等が設けられても良い。
【0021】
波状路走行検出部は、例えば電動モータ等の原動機の回転速度やトルク、出力回転速度、車輪速などの各部の回転速度やトルクの周期的な変動に基づいて波状路走行であるか否かを判断できる。サスペンション装置の上下振動などに基づいて波状路走行か否かを判断することもできるなど、種々の手法が提案されている。
【0022】
波状路走行に起因して発生する共振によって最も損傷し易い最弱部位は、第1駆動装置および第2駆動装置の構成に応じて予め実験や各種の損傷データ等によって定められる。最弱部位は、例えば動力伝達に関与するシャフトや歯車、摩擦係合部などである。機械的に損傷する場合だけでなく電気的に損傷する場合もあり、耐久性が低下する場合も含む。第1原動機や第2原動機が最弱部位であっても良い。最弱部位を有する一方の駆動装置は、予め第1駆動装置および第2駆動装置の何れか一方に固定されても良いが、前後輪の駆動力分担率が走行状態や走行条件等によって変更される場合、その分担率によって最弱部位を有する一方の駆動装置が変化する場合がある。このため、波状路走行であることが検出された時の駆動力分担率に応じて、分担率を低下させるべき一方の駆動装置が変更されても良い。
【0023】
分担率変更部は、例えば第1原動機および第2原動機のトルクを増減して駆動力分担率を変更するように構成されるが、第1動力伝達経路や第2動力伝達経路に伝達トルクを制御可能なクラッチ等が設けられている場合に、その伝達トルクを制御して駆動力分担率を変更することも可能である。分担率変更部は、第1駆動装置の駆動力および第2駆動装置の駆動力を合わせた総駆動力が変化しないように、一方の駆動装置の駆動力分担率を低下させるとともに、その低下幅と同じ変化幅で他方の駆動装置の駆動力分担率を増加させることが望ましいが、他方の駆動装置の構成部品の強度等を考慮して分担率の増加を制限しても良い。例えば、他方の駆動装置の中で、波状路走行に起因して発生する共振によって最も損傷し易い最弱部位の損傷が抑制されるように、その他方の駆動装置の駆動力分担率の増加幅を制限したり、その他方の駆動装置の駆動力に上限を設けたりしても良い。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である駆動力制御装置を有する車両10の4輪駆動システムを説明する概略構成図である。車両10は前後輪独立駆動型の4輪駆動車両で、左右の前輪12l、12r(以下、特に区別しない場合は単に前輪12という。)を回転駆動する第1駆動装置14と、左右の後輪16l、16r(以下、特に区別しない場合は単に後輪16という。)を回転駆動する第2駆動装置18と、を別々に備えている。
【0025】
第1駆動装置14は、第1原動機としてエンジン20およびモータジェネレータ(MG)22を備えており、それ等のエンジン20およびモータジェネレータ22の出力は、第1トランスアクスル(T/A)24によって左右に分配され、一対のドライブシャフト26l、26rを介して左右の前輪12l、12rに伝達される。第1トランスアクスル24は、エンジン20およびモータジェネレータ22の出力を左右に分配する差動歯車機構等の差動装置を備えている他、減速或いは増速する変速ギヤ機構、有段変速機、或いは無段変速機等が必要に応じて設けられる。第1トランスアクスル24および一対のドライブシャフト26l、26rを含んで第1動力伝達経路28が構成されている。エンジン20は、燃料の燃焼で動力を発生するガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関である。モータジェネレータ22は、電動モータおよび発電機として機能するもので、例えばエンジン20と第1トランスアクスル24との間の動力伝達経路に連結されて力行トルクや回生トルクを付与する。このモータジェネレータ22は、インバータを介してバッテリー等の蓄電装置に接続され、蓄電装置の電気で力行トルクを発生するとともに、回生トルクで得られた電気で蓄電装置を充電する。エンジン20とモータジェネレータ22との間には、エンジン20を動力伝達経路から切り離すクラッチ等の断接装置が必要に応じて設けられる。
【0026】
第2駆動装置18は、第2原動機としてモータジェネレータ(MG)30のみを備えており、そのモータジェネレータ30の出力は、第2トランスアクスル(T/A)32によって左右に分配され、一対のドライブシャフト34l、34rを介して左右の後輪16l、16rに伝達される。第2トランスアクスル32は、モータジェネレータ30の出力を左右に分配する差動歯車機構等の差動装置を備えている他、減速或いは増速する変速ギヤ機構等が必要に応じて設けられる。第2トランスアクスル32および一対のドライブシャフト34l、34rを含んで第2動力伝達経路36が構成されている。モータジェネレータ30は、電動モータおよび発電機として機能するもので、例えば第2トランスアクスル32の入力軸に連結されて力行トルクや回生トルクを付与する。このモータジェネレータ30は、モータジェネレータ22と同様にインバータを介してバッテリー等の蓄電装置に接続され、蓄電装置の電気で力行トルクを発生するとともに、回生トルクで得られた電気で蓄電装置を充電する。前輪12側のモータジェネレータ22と共通の蓄電装置が用いられても良い。
【0027】
このような車両10は、駆動力制御装置として機能する電子制御装置40を備えている。電子制御装置40はマイクロコンピュータを備えて構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って前後輪12、16の駆動力制御を実行する。電子制御装置40には、前後輪12、16の駆動力制御に必要な各種の情報が供給される。例えば、前輪側出力回転速度センサ42、後輪側出力回転速度センサ44からそれぞれ第1駆動装置14の出力回転速度である前輪側出力回転速度Nfo、第2駆動装置18の出力回転速度である後輪側出力回転速度Nroを表す信号が供給される。前輪側出力回転速度Nfoは前輪12l、12rの平均車輪速に対応し、後輪側出力回転速度Nroは後輪16l、16rの平均車輪速に対応し、前輪側出力回転速度Nfoおよび後輪側出力回転速度Nroの中の遅い側の回転速度は車速Vに対応する。電子制御装置40にはまた、図示しないアクセル操作量センサからアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量θacc を表す信号が供給される他、エンジン20の回転速度やモータジェネレータ22、30の回転速度がそれぞれ回転速度センサによって検出されて、それ等の回転速度を表す信号が供給されるようになっている。また、前後輪12、16の駆動力配分制御のために、例えば路面勾配センサから路面勾配Φを表す信号が供給される。
【0028】
電子制御装置40は、例えばアクセル操作量θacc や目標車速等に応じて目標駆動力を算出するとともに、その目標駆動力を予め定められた前後輪12、16の駆動力分担率に応じて前輪側駆動力および後輪側駆動力に分配する。そして、その前輪側駆動力が得られるように第1駆動装置14のエンジン20およびモータジェネレータ22のトルクを制御するとともに、後輪側駆動力が得られるように第2駆動装置18のモータジェネレータ30のトルクを制御する。前後輪12、16の駆動力分担率は、前後輪12、16の荷重割合等に応じて予め一定値が定められても良いが、発進時等の加速走行や定常走行等の走行状態、或いは路面勾配Φ等の走行条件等に応じて可変設定されても良い。また、前輪12および後輪16のスリップ率等に基づいて分担率を変化させることもできる。
図3は、目標駆動力(実線)、前輪側駆動力(一点鎖線)、および後輪側駆動力(破線)の関係を示したタイムチャートの一例で、時間t1よりも前の状態は、前輪12側の駆動力分担率が約60%、後輪16側の駆動力分担率が約40%で、それぞれ略一定であり、前輪側駆動力および後輪側駆動力を加算した総駆動力(二点鎖線)は目標駆動力と一致している。なお、通常は前輪12および後輪16の何れか一方のみの2輪駆動状態で走行し、発進時やスリップ発生時など必要に応じて4輪駆動状態で走行するようにしても良い。
【0029】
電子制御装置40はまた、機能的に波状路走行検出部46および分担率変更部48を備えており、
図2のフローチャートのステップS1、S2に従って信号処理を実行することにより、波状路走行時に前後輪12、16の駆動力分担率を変更するようになっている。
図2のフローチャートのステップS1は波状路走行検出部46に相当し、ステップS2は分担率変更部48に相当する。
【0030】
図2のステップS1では、車両10が共振を生じるような波状路走行していることを検出したか否かを判断し、波状路走行していることを検出した場合はステップS2を実行し、波状路走行していることを検出しない場合はそのまま終了する。波状路走行時には、路面の凹凸によって前輪12や後輪16が跳ねることで回転変動が生じるため、例えば前輪側出力回転速度Nfo、後輪側出力回転速度Nroの回転変動の変動幅や変動周期などから、共振を生じるような波状路走行か否かを判断することができる。車輪速の回転変動に基づいて波状路走行か否かを判断することもできるし、エンジン20やモータジェネレータ22、30の回転変動やトルク変動に基づいて波状路走行か否かを判断することもできるなど、種々の手法を採用できる。
【0031】
波状路走行であることが検出された場合に実行するステップS2では、駆動装置14および18のうち、波状路走行に起因して発生する共振によって最も損傷し易い最弱部位を持つ一方の駆動装置14または18の駆動力分担率を低下させるとともに、他方の駆動装置18または14の駆動力分担率を増加させる。本実施例では、第1駆動装置14が最弱部位を持つ一方の駆動装置で、最弱部位は例えばドライブシャフト26l、26rである。この最弱部位を持つ一方の駆動装置は、例えば実験や各種の損傷データ等によって予め定められる。そして、その第1駆動装置14の駆動力分担率を低下させるために、第1駆動装置14のエンジン20およびモータジェネレータ22の何れか一方或いは両方のトルクを低下させる一方、他方の駆動装置である第2駆動装置18の駆動力分担率を増加させるために、第2駆動装置18のモータジェネレータ30のトルクを増加させる。これ等のトルクの増減は、前後輪12、16の駆動力が急に変化しないように徐々に変化させられる。なお、前後輪12、16の駆動力分担率によって最弱部位を持つ一方の駆動装置が変化する可能性があるが、その場合は波状路走行であることが検出された時の駆動力分担率に応じて、分担率を低下させるべき一方の駆動装置が変更されるようにすれば良い。
【0032】
第1駆動装置14の駆動力分担率の低下幅は、予め一定値が定められても良いが、例えば波状路走行であるか否かを判断する際の前輪側出力回転速度Nfoや後輪側出力回転速度Nroの回転変動の変動幅に応じて、変動幅が大きい場合は駆動力分担率の低下幅が大きくなるように、予め定められたマップ等により可変設定されても良い。第1駆動装置14の駆動力そのものの低下幅を定めても良い。他方の駆動装置である第2駆動装置18の駆動力分担率の増加幅は、第1駆動装置14の駆動力および第2駆動装置18の駆動力を合わせた総駆動力が変化しないように、第1駆動装置14の駆動力分担率の低下幅と同じであることが望ましく、基本的には低下幅と同じ変化幅とされる。しかし、第2駆動装置18の駆動力分担率を増加させると、第2駆動装置18の何れかの構成部品が、波状路走行に起因して生じる共振によって損傷する可能性がある。このため、例えば第2駆動装置18の中で、波状路走行に起因して発生する共振によって最も損傷し易い最弱部位の損傷が抑制されるように、第2駆動装置18の駆動力分担率の増加幅を制限したり、第2駆動装置18の駆動力に上限を設けたりしても良い。第2駆動装置18の最弱部位が例えばドライブシャフト34l、34rである場合、そのドライブシャフト34l、34rが損傷しないように、第2駆動装置18の駆動力分担率の増加幅を制限したり、第2駆動装置18の駆動力に上限を設けたりする。
【0033】
図3の時間t1は、ステップS1で波状路走行していることが検出された時間で、ステップS2が実行されることにより、第1駆動装置14による前輪側駆動力が低下させられるとともに、第2駆動装置18による後輪側駆動力が増加させられている。その場合に、この
図3のタイムチャートでは、第2駆動装置18の駆動力分担率の増加幅或いは駆動力そのものが制限されることにより、後輪側駆動力の増加が制限され、前輪側駆動力および後輪側駆動力を合わせた総駆動力が目標駆動力よりも低くなっている。
【0034】
このように、本実施例の車両10の電子制御装置40による駆動力分配制御においては、車両10が波状路走行していることが検出された場合に、その波状路走行に起因して発生する共振によって最も損傷し易い最弱部位(例えばドライブシャフト26l、26r)を有する第1駆動装置14の駆動力分担率が低下させられる一方、第2駆動装置18の駆動力分担率が増加させられる。このため、第1駆動装置14の駆動力低下で、共振による過大なトルク入力等による最弱部位の損傷を抑制しつつ、第2駆動装置18の駆動力増加により車両10全体の駆動力低下が抑制され、波状路走行時の走行性能が向上する。
【0035】
また、第1駆動装置14のエンジン20およびモータジェネレータ22の何れか一方或いは両方のトルクを低下させる一方、第2駆動装置18のモータジェネレータ30のトルクを増加させるため、第1動力伝達経路28、第2動力伝達経路36だけでなくエンジン20およびモータジェネレータ22、30を含めて最弱部位の損傷を適切に抑制することができる。
【0036】
また、第2駆動装置18の駆動力分担率の増加が、その第2駆動装置18の中の最弱部位(例えばドライブシャフト34l、34r)の損傷が抑制されるように制限されるため、第2駆動装置18の駆動力分担率の増加により車両10全体の駆動力低下を抑制して波状路走行時の走行性能を向上させつつ、その第2駆動装置18の最弱部位の損傷が抑制される。
【0037】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0038】
図4および
図5の車両60、70は、本発明が好適に適用される前後輪独立駆動型車両の別の例である。車両60は、前輪12を回転駆動する第1駆動装置62が前記実施例と相違し、後輪16を回転駆動する第2駆動装置18は前記実施例と同じである。第1駆動装置62は、第1原動機としてエンジン64のみを備えており、エンジン64の出力はロックアップ機構付きのトルクコンバータ(T/C)66を経て第1トランスアクスル24に伝達され、更に一対のドライブシャフト26l、26rを介して左右の前輪12l、12rに伝達される。この場合は、トルクコンバータ66や第1トランスアクスル24、一対のドライブシャフト26l、26rを含んで第1動力伝達経路68が構成されている。本実施例においても、電子制御装置40により
図2のフローチャートに従って波状路走行時の駆動力分配制御が行なわれることにより、前記実施例と同様の作用効果が得られる。
【0039】
車両70は、前輪12を回転駆動する第1駆動装置72が前記実施例と相違し、後輪16を回転駆動する第2駆動装置18は前記実施例と同じである。第1駆動装置72は、第1原動機として単一のモータジェネレータ74のみを備えており、モータジェネレータ74の出力は第1トランスアクスル24から一対のドライブシャフト26l、26rを介して左右の前輪12l、12rに伝達される。この場合は、第1トランスアクスル24および一対のドライブシャフト26l、26rを含んで第1動力伝達経路76が構成されている。モータジェネレータ74は、電動モータおよび発電機として機能するもので、第1トランスアクスル24の入力軸に連結されて力行トルクや回生トルクを付与する。このモータジェネレータ74は、インバータを介してバッテリー等の蓄電装置に接続され、蓄電装置の電気で力行トルクを発生するとともに、回生トルクで得られた電気で蓄電装置を充電する。すなわち、この車両10は、蓄電装置の電気のみでモータジェネレータ74、30が作動させられ、前後輪12、16が回転駆動されて走行する電気自動車である。本実施例においても、電子制御装置40により
図2のフローチャートに従って波状路走行時の駆動力分配制御が行なわれることにより、前記実施例と同様の作用効果が得られる。
【0040】
なお、上記
図5の車両70を、燃料電池で蓄電装置を充電する燃料電池式車両としたり、エンジンにより発電機を回して発電した電気で蓄電装置を充電するシリーズ型ハイブリッド車両としたりすることもできる。
【0041】
また、前記各実施例では、何れも前輪12を回転駆動する駆動装置14、62、72が第1駆動装置で、後輪16を回転駆動する駆動装置18が第2駆動装置であるが、前輪12を回転駆動する駆動装置14、62、72が第2駆動装置で、後輪16を回転駆動する駆動装置18が第1駆動装置であっても良い。また、第1駆動装置14、62、72を車両後側に配置して後輪16l、16rを回転駆動し、第2駆動装置18を車両前側に配置して前輪12l、12rを回転駆動するように構成することも可能である。
【0042】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0043】
10、60、70:車両 12l、12r:前輪 14:第1駆動装置(一方の駆動装置) 16l、16r:後輪 18:第2駆動装置(他方の駆動装置) 20、64:エンジン(第1原動機) 22:モータジェネレータ(第1原動機、電動モータ) 24:第1トランスアクスル 26l、26r:ドライブシャフト(一方の駆動装置の最弱部位) 28、68、76:第1動力伝達経路 30:モータジェネレータ(第2原動機、電動モータ) 34l、34r:ドライブシャフト(他方の駆動装置の最弱部位) 36:第2動力伝達経路 40:電子制御装置(駆動力制御装置) 46:波状路走行検出部 48:分担率変更部 62、72:第1駆動装置 74:モータジェネレータ(第1原動機、電動モータ)