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特許7188383ガス吸着剤、消臭繊維シートおよびガス吸着剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ガス吸着剤、消臭繊維シートおよびガス吸着剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20221206BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 9/014 20060101ALI20221206BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B01J20/22 A
B01J20/28 Z
A61L9/014
A61L9/01 B
A61L9/01 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019516735
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2019003069
(87)【国際公開番号】W WO2019151283
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2018016951
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三好 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】浅田 康裕
(72)【発明者】
【氏名】八並 裕治
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-064970(JP,A)
【文献】特開2008-148804(JP,A)
【文献】特開2011-084850(JP,A)
【文献】特開昭62-041713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00- 20/34
A61L 9/00- 9/01
A61L 9/16
D06M 11/63- 11/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン型のY型ゼオライトと水溶性の酸ヒドラジド化合物と活性炭とを含有し、
前記プロトン型のY型ゼオライトは、SiOおよびAlを含有し、
前記プロトン型のY型ゼオライトにおけるSiOとAlとの含有モル比(SiOの含有モル/Alの含有モル)が2以上20以下であり、
前記活性炭と前記プロトン型のY型ゼオライトおよび水溶性の酸ヒドラジド化合物との含有質量比(活性炭の含有質量/プロトン型のY型ゼオライトおよび水溶性の酸ヒドラジド化合物の質量の和)が0.05~0.50である、ガス吸着剤。
【請求項2】
前記活性炭の比表面積が900~1300m/gである、請求項1に記載のガス吸着剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガス吸着剤を有する、消臭繊維シート。
【請求項4】
単位面積あたりの前記ガス吸着剤の含有量が10~100g/mである、請求項3に記載の消臭繊維シート。
【請求項5】
請求項3または4に記載の消臭繊維シートを備える、エアフィルターユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着剤およびそれを用いた消臭繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境の改善志向の高まりから、消臭繊維シートである濾材によって空気中に存在する塵埃以外にも揮発性有機化合物(VOC)を除去して、空気を清浄化できることが求められている。特に自動車などの車輌内では、狭い空間中にバインダーや塗料を用いた部品が多数存在するためVOCが高濃度で存在し易く、濾材によるVOCの効率的な除去が求められている。
【0003】
最近では自動車部材由来のVOC発生量を抑制すべく、開発が進められておりトルエンやキシレンなどの有機溶剤の発生量は厚生労働省指針値以下に抑えられるようになってきた。ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどの低沸点アルデヒド類は発生源による対策が困難であり、低沸点アルデヒド類を除去可能な濾材が求められている。
【0004】
これまでVOC除去能を有する濾材としては、吸着剤として活性炭を含む濾材が広く知られていた。しかしVOCの中でもアセトアルデヒドやホルムアルデヒドは沸点が低く、極性も高いので活性炭では除去しづらく、そのため多量の活性炭を使用する必要があるため、通気抵抗の高い濾材となっていた。また、当該技術を用いた濾材は、活性炭が物理吸着能をベースとしており、除去対象とするアセトアルデヒド以外の物質をも吸着し、さらに濃縮してしまっていた。これらの臭気成分は化学結合によりトラップされているわけではないため、温度や湿度の変化等の環境要因によって、濃縮されていた臭気成分が一気に放出されてしまう。そうなると本来の存在濃度では問題とならなかった臭気成分が悪臭として認知されてしまうという課題も知られている。
【0005】
そこで、近年ではそれぞれ酸ヒドラジド化合物を担持したシリカゲルやゼオライトを用いた濾材が使用されつつあり、これらは低沸点アルデヒド類の吸着性能に優れている。特許文献1に記載の繊維シートは、低沸点アルデヒド類の吸着性能に優れており、少量の吸着剤量で低沸点アルデヒド類を除去できる。またこの繊維シート中の吸着剤に一旦吸着された低沸点アルデヒド類やトルエンやキシレンなどの低極性ガス類のこの吸着剤からの脱離量が、多量の活性炭を使用した濾材に比べ低減できている。
【0006】
そのほかに、特許文献2はA型ゼオライトまたはX型ゼオライトに酸ヒドラジドを加えた吸着剤を開示している。特許文献3はゼオライトにアミン系化合物を加えた吸着剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-167632号公報
【文献】特開2011-83756号公報
【文献】特開平08-280781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の繊維シートの形態をもつ濾材においては、メソ孔を中心に広い細孔径分布を有する吸着材を使用していた。そのため酸ヒドラジド化合物による低沸点アルデヒド類に対する化学吸着量が飽和すると、一旦吸着された低沸点アルデヒド類や低極性ガス類等の臭気閾値の低いガス成分の脱離による二次発臭が起こるという課題が依然としてあった。また、特許文献2や3に記載の吸着剤は、エアフィルターのようなエアが流通している動的な条件下において低沸点アルデヒド類の吸着性能は不十分であるとの課題があった。
【0009】
本発明は上記課題を解決しようとするものであり、エアフィルターのようなエアが流通している動的な条件下における低沸点アルデヒド類の吸着性能に優れ、かつ、吸着剤に一旦、吸着された低沸点アルデヒド類や低極性ガス類の吸着剤からの脱離を抑制する性能に優れるガス吸着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下のいずれかの構成をとることを特徴とする。
(1)プロトン型のY型ゼオライトと水溶性の酸ヒドラジド化合物とを含有し、前記プロトン型のY型ゼオライトは、SiOおよびAlを含有し、前記プロトン型のY型ゼオライトにおけるSiOとAlとの含有モル比(SiOの含有モル/Alの含有モル)が2以上20以下である、ガス吸着剤。
(2)さらに、活性炭を含有する、(1)のガス吸着剤。
(3)前記活性炭の比表面積が900~1300m/gである、(2)のガス吸着剤、
(4)前記活性炭と前記Y型ゼオライトとの含有質量比(活性炭の含有質量/Y型ゼオライトの含有質量)が0.05~0.50である、(2)または(3)のガス吸着剤。
(5)(1)~(4)のいずれかのガス吸着剤を有する、消臭繊維シート。
(6)単位面積あたりの前記ガス吸着剤の含有量が10~100g/mである、(5)の消臭繊維シート。
(7)(5)または(6)の消臭繊維シートを備える、エアフィルターユニット。
(8)アルミン酸ナトリウムとケイ酸ナトリウムとを混合し混合物を得た後、前記混合物を90~120℃で加熱し、ゼオライトを得る工程と、前記ゼオライトを100~120℃の硝酸アンモニウム溶液で処理する工程と、前記ゼオライトを500~800℃の過熱水蒸気にて焼成処理する工程と、前記ゼオライトに水溶性の酸ヒドラジド化合物を添着させる工程とを、この順に有するガス吸着剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
エアフィルターのようなエアが流通している動的な条件下における低沸点アルデヒド類の吸着性能に優れ、かつ、ガス吸着剤に一旦、吸着された低沸点アルデヒド類や低極性ガス類のガス吸着剤からの脱離を抑制する性能に優れるガス吸着剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のガス吸着剤は、プロトン型のY型ゼオライト(以下、単に「Y型ゼオライト」ということがある。)と水溶性の酸ヒドラジド化合物とを含有する。ここでプロトン型ゼオライトとはカチオン交換サイトがプロトン(H)であるゼオライトのことを言う。
【0013】
そして、このプロトン型のY型ゼオライトは、SiOおよびAlを含有し、このプロトン型のY型ゼオライトにおけるSiOとAlとの含有モル比(SiOの含有モル/Alの含有モル)が2以上20以下である。そして、このガス吸着剤は、エアフィルターのようなエアが流通している動的な条件下における低沸点アルデヒド類の吸着性能(以下、「動的吸着性能」ということがある)に優れ、かつ、ガス吸着剤に一旦、吸着された低沸点アルデヒド類や低極性ガス類のガス吸着剤からの脱離を抑制する性能(以下、「脱離抑制性能」ということがある)に優れる。
【0014】
本発明のガス吸着剤が含有するゼオライトは、Y型ゼオライトであることが重要である。Y型ゼオライトは細孔の入り口細孔径が7.4Åのボトルネック型の細孔構造を有する。この入り口細孔径はA型ゼオライトのものよりも大きいため、水溶性の酸ヒドラジド化合物の添着が容易となり、添着量を増やすことができる。その結果、動的吸着性能を高めることができる。また、Y型ゼオライトはA型ゼオライトよりも細孔入口が大きい構造を有するため、除去対象となる低沸点アルデヒド類のゼオライト細孔内部への進入を促進することができ、その結果動的吸着性能を高めることができる。一方、Y型ゼオライトは多孔質シリカのようにメソ孔を有していないため、高沸点アルデヒド類や低極性ガス類の細孔内部への進入を阻害し、蓄積量を抑えることが可能となる。その結果、ガス吸着剤の脱離抑制性能が優れたものとなる。
【0015】
また、低沸点アルデヒド類と水溶性の酸ヒドラジド化合物の化学反応は多段階反応である。低沸点アルデヒド類の代表成分であるアセトアルデヒドを例として説明する。酸ヒドラジド化合物とアセトアルデヒドとの化学反応は中間体生成物であるカルビノールアミンが水を脱離する反応を経る多段階反応である。そして、この多段階反応は、酸触媒の存在下で進行が促進されるという特徴がある。ここで、プロトン型のY型ゼオライトは、X型ゼオライトと比べ、酸触媒として強い活性を示す。よって、プロトン型のY型ゼオライトと水溶性の酸ヒドラジド化合物とを含有する本発明のガス吸着剤の動的吸着性能は優れたものとなる。なお、詳細は後述するが、プロトン型のY型ゼオライトは、例えば、Y型ゼオライトに脱アルミニウム処理を施すことで得られる。
【0016】
次に、本発明で採用するプロトン型のY型ゼオライトは、SiOおよびAlを含有し、このプロトン型のY型ゼオライトにおけるSiOとAlとの含有モル比(SiOの含有モル/Alの含有モル)が2以上20以下である。プロトン型のY型ゼオライトゼオライトは、結晶性アルミノケイ酸塩である三次元骨格構造を有しているが、合成時に、シリカの原料となるものとアルミナの原料となるものの混合比率を調整することでケイ素とアルミニウムとの構成比率をコントロールすることができる。
【0017】
ここで、プロトン型のY型ゼオライトはSiO/Alの含有モル比が高くなると、その結晶格子内に存在する金属カチオンの比率が減少する。それに起因して水のような極性物質に対する親和性が弱くなり、非極性物質をより吸着するようになる特徴を有している。よって、プロトン型のY型ゼオライトのSiO/Alの含有モル比を20以下と低いものとすることで、プロトン型のY型ゼオライトの親水性の低下が抑制され、多孔質構造を有するY型ゼオライトの細孔内部表面にまで水溶性の酸ヒドラジド化合物を付着させることができるため、本発明のガス吸着剤の動的吸着性能は優れたものとなる。
【0018】
また、上記の効果に加えて、非極性または低極性ガス類の、プロトン型のY型ゼオライトへの物理吸着を抑制することができる。すなわちプロトン型のY型ゼオライトには非極性または低極性ガス類が蓄積されにくい。別の種類のゼオライトでありがちな蓄積された非極性または低極性のガス類が何らかのきっかけで大量に放出されることが抑制される。すなわち、本発明のガス吸着剤の脱離抑制性能は優れたものとなる。
【0019】
また、上記の含有モル比が低いと、ゼオライトの親水性が高まり、ゼオライトの細孔内に水がたまりやすくなる。そうなるとアルデヒドのガスが細孔内に入りづらくなる。そこで含有モル比を2以上とすることで、本発明のガス吸着剤を備えたエアフィルターの使用時においても、ゼオライトの細孔内への低沸点アルデヒド類の進入を容易とし、本発明のガス吸着剤の動的吸着性能が優れたものとなる。
【0020】
次に、プロトン型のY型ゼオライトの平均粒子径としては、0.5~1000.0μmであることが好ましい。プロトン型のY型ゼオライトの平均粒子径は小さいほど、ガス吸着剤の低沸点アルデヒド類の吸着速度は速くなる。その一方で、プロトン型のY型ゼオライトが飛散しやすく、プロトン型のY型ゼオライトの取り扱い性や加工性が低下する傾向にある。そのためプロトン型のY型ゼオライトの平均粒子径は0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましい。また、プロトン型のY型ゼオライトの平均粒子径が大きいと、そのような粒子径のプロトン型のY型ゼオライトの製造は難しいとこともあるまた強度的にも脆弱となるため、プロトン型のY型ゼオライトが破損し易くなり、逆に粉塵が発生してしまう傾向にある。プロトン型のY型ゼオライトの平均粒子径は1000.0μm以下であることが好ましく、700.0μm以下であることがより好ましい。
【0021】
平均粒子径が100.0μm以上のプロトン型のY型ゼオライトは、粉末のプロトン型のY型ゼオライトをシリカゾルやアルミナゾルなどの結着剤とともに造粒することで得られる。特にプロトン型のY型ゼオライトの細孔特性を維持するためにはハイスピードミキサー法やスプレードライ法などの湿式造粒法を採用することが好ましい。
【0022】
ここでいう平均粒子径とは以下の方法によって算出されるものである。粒度をJIS K1474(2014)に記載される方法に従い、目開きを通過する割合を測定し、積算重量百分率で表現する。そして、積算値50%の粒度を「平均粒子径」とする。ただし、平均粒子径が数μm程度の微粒子になると、ふるいは目詰まりしてしまう場合があるので、プロトン型のY型ゼオライトを水などの液体に分散させ、回折光や散乱光を利用して粒度を測定することができる。
【0023】
プロトン型のY型ゼオライトの77K窒素吸着法によるBET比表面積は、BET比表面積で100m/g以上であることが好ましい。比表面積を100m/g以上とすることで、Y型ゼオライトが担持した水溶性の酸ヒドラジド化合物の反応場として実効的な面積が高まる。面積が高くなることによりガス吸着剤と除去しようとする低沸点アルデヒド類との反応速度がより向上し、本発明のガス吸着剤の動的吸着性能は優れたものとなる。上記の理由から、プロトン型のY型ゼオライトのBET比表面積は200m/g以上であることがより好ましい。また、BET比表面積の上限は特に限定しないが、プロトン型のY型ゼオライトのBET比表面積は1000m/g以下であることが好ましい。この範囲を超えると製造が非常に困難になるという不都合が生じるとともに、機械的強度の低下による取り扱い性が低下するためである。
【0024】
プロトン型のY型ゼオライトの平均細孔径はMP法により得られるピーク直径を意味しており、より詳しくは77ケルビン(液体窒素の温度)における窒素吸着法により得られる吸着側等温線を用いて求められる。好ましいプロトン型のY型ゼオライトの平均細孔径の範囲は7.0~30.0Åであり、より好ましくは7.5~20.0Åである。プロトン型のY型ゼオライトは平均細孔径7.0~10.0Åの範囲に均一な細孔径ピークを有するが、造粒工程で2次粒子を製造する工程でマクロポアが形成される場合もあることから上記範囲とすることが好ましい。
【0025】
平均細孔径が7.0Å以上であることで酸ヒドラジド化合物がプロトン型のY型ゼオライトの細孔内部に浸透しやすくなり、低沸点アルデヒド類との反応性を高めることができる。結果として、ガス吸着剤の動的吸着性能がより優れたものとなる。一方で、Y型ゼオライトの平均細孔径が30.0Å以下であることで脱離臭の問題となりうる高沸点アルデヒド類や低極性ガス類の細孔内部への進入を阻害しガス吸着剤における、これらのガスの蓄積量を抑えることが可能となる。結果として、ガス吸着剤の脱離抑制性能が優れたものとなる。
【0026】
本発明のガス吸着剤では、VOCガス中に含まれる低沸点アルデヒド類を吸着するために、プロトン型のY型ゼオライトに水溶性の酸ヒドラジド化合物が付着していることが好ましい。
【0027】
ここで、本発明における水溶性とは25℃で中性の水に対し、0.5質量%以上(5g/L以上)溶解することをいう。
【0028】
そして、水溶性の酸ヒドラジド化合物は、カルボン酸とヒドラジンとから誘導される-CO-NHNHで表される酸ヒドラジド基を有する化合物である。ヒドラジド末端のα位に、更に非共有電子対を有する窒素原子が結合しており、これにより求核反応性が著しく向上している。この非共有電子対が低沸点アルデヒド類のカルボニル炭素原子を求核的に攻撃して反応し、低沸点アルデヒド類をヒドラジン誘導体として固定化することにより、低沸点アルデヒド類の吸着性能を発現できると考えられる。
【0029】
低沸点アルデヒド類の中でもアセトアルデヒドは、カルボニル炭素のα位に電子供与性のアルキル基を有するために、カルボニル炭素の求電子性が低く化学吸着されにくい。しかし本発明に用いるガス吸着剤において使用する水溶性の酸ヒドラジド化合物は前述のとおり求核反応性が高いため、アセトアルデヒドに対しても良好な化学吸着性能を発現する。
【0030】
水溶性の酸ヒドラジド化合物としては、例えば、カルボジヒドラジド、グルタミン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、およびアジピン酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる1種以上を含むものを挙げることができる。これらの中でも、とりわけアジピン酸ジヒドラジドが低沸点アルデヒド類の吸着性能に優れる点で好ましい。また、低沸点アルデヒド類の吸着性能を上げる目的でアジピン酸ジヒドラジドとコハク酸ジヒドラジドを併用することがより好ましい。
【0031】
本発明のガス吸着剤における水溶性の酸ヒドラジド化合物の含有量は、Y型ゼオライト100.0質量部に対して0.5~20.0質量部であることが好ましい。水溶性の酸ヒドラジド化合物の含有量を0.5質量部以上とすることで、ガス吸着剤の低沸点アルデヒド類の吸着性能をより向上させることができ、ガス吸着剤の動的吸着性能をより優れたものとすることができる。この理由から、水溶性の酸ヒドラジド化合物の含有量は1.0質量部以上であることがより好ましい。そして、水溶性の酸ヒドラジド化合物の含有量を20.0質量部以下とすることで、Y型ゼオライトに付着した水溶性の酸ヒドラジド化合物の結晶化を抑制することができ、結晶化した水溶性の酸ヒドラジド化合物がY型ゼオライトの細孔を閉塞することを抑制することができる。そして、このことにより、ガス吸着剤の低沸点アルデヒド類の動的吸着性能を向上させることができるとともに、本発明のガス吸着剤の脱離抑制性能も優れたものとすることができる。
【0032】
本発明に用いる水溶性の酸ヒドラジド化合物が付着したY型ゼオライトは、25℃の水100gに5g分散させた際のpHが4.0~7.5の範囲であることが好ましい。pHが7.5以下であることで、水溶性の酸ヒドラジド化合物の非共有電子対の低沸点アルデヒド類のカルボニル炭素原子への求核的攻撃による反応から生成した中間体が、酸性の反応場においてプロトン化されるため脱水し易くなり、前記中間体の誘導体への固定化反応が十分に進む。上記の理由からpHは7.0以下であることがより好ましい。また、pHが4.0以上であることで、水溶性の酸ヒドラジド化合物の非共有電子対が低沸点アルデヒド類のカルボニル炭素原子を求核的に攻撃する活性がより高いものとなり、ガス吸着剤の低沸点アルデヒド類の動的吸着性能がより優れたものとなる。なお、pHは、25℃の純水に酸ヒドラジド化合物が付着したY型ゼオライトが5質量%となるよう浸漬し、軽く攪拌した後10分間放置し、液のpHをpH計にて測定した値をいう。
【0033】
水溶性の酸ヒドラジド化合物が付着したY型ゼオライトのpHは、有機酸を添加することにより調整することができる。有機酸としては、それ自体は臭気を発生しないものであり、かつ、吸湿性の低いものを採用することが好ましい。上記のような有機酸の具体的な例としては、アジピン酸、スルファニル酸、リンゴ酸、クエン酸等が挙げられ、用いる酸ヒドラジド化合物に応じて適宜選択すればよく、中でもアジピン酸を好ましく採用することができる。アジピン酸は上記分散液のバランスを安定に保ち、また臭気の発生や吸湿性の発現を伴わないため好ましい。
【0034】
本発明のガス吸着剤の製造方法としては、たとえば、以下のものを挙げることができる。すなわち、アルミン酸ナトリウムとケイ酸ナトリウムとを混合し混合物を得た後、前記混合物を90~120℃で加熱し、ゼオライトを得る工程と、前記ゼオライトを100~120℃の硝酸アンモニウム溶液で処理する工程と、前記ゼオライトを500~800℃の過熱水蒸気にて焼成処理する工程と、前記ゼオライトに水溶性の酸ヒドラジド化合物を添着させる工程とを、この順に有するガス吸着剤の製造方法である。
【0035】
ここで、ゼオライトに水溶性の酸ヒドラジド化合物を添着させる工程としては以下のものが例示される。
水溶性の酸ヒドラジド化合物を溶解させた水溶液中にY型ゼオライトを投入し、分散させることで、水溶性の酸ヒドラジド化合物をY型ゼオライトに付着させる方法。
水溶性の酸ヒドラジド化合物を溶媒中に溶解させた水溶液をY型ゼオライトに噴霧・塗布し、次に、このY型ゼオライトを乾燥する方法。
【0036】
後者の方法の溶媒としては水溶性の酸ヒドラジド化合物の特性ならびに作業性を考慮し適当なものを選択することができる。このうち、安全性に優れ、かつ作業性にも優れるとの観点から水系溶媒を用いることが好ましく、溶媒として純水を用いることがより好ましい。また、後述するように、この処理液を繊維シート上で乾燥させることにより、直接、繊維シート上においてガス吸着剤を形成してもよい。水溶性の酸ヒドラジド化合物はY型ゼオライトに付着していることが好ましいが、Y型ゼオライトの細孔内に水溶性の酸ヒドラジド化合物が付着していることがより好ましい。
【0037】
また、本発明のガス吸着剤は、水溶性の酸ヒドラジド化合物およびプロトン型のY型ゼオライトに加え、さらに、活性炭を有するものであることが好ましい。本発明のガス吸着剤は、一旦、吸着したVOCガスのガス吸着剤からの脱離をより抑制し、このガス吸着剤を用いたエアフィルターでの二次発臭の発生をより抑制することができるものである。そして、エアフィルターを通過する気流の風圧が強いものとなる傾向にある自動車用途での使用時において、消臭繊維シートからの臭気ガスの脱離による二次発臭は顕著に発生する。そして、本発明のガス吸着剤を用いたエアフィルターは二次発臭を抑制できるものであるので、本発明のガス吸着剤を用いたエアフィルターは自動車用途により好適に用いることができる。
【0038】
なお、プロトン型のY型ゼオライトおよび活性炭を有する本発明のガス吸着材の実施形態例において、活性炭は、上記のプロトン型のY型ゼオライトとは別体の粒状物である。しかし、本発明のガス吸着材を有する消臭繊維シート(消臭繊維シートについての詳細は後述する)において、プロトン型のY型ゼオライトと活性炭とは接着材にて各々の一部分が相互に固定された状態で存在していてもよい。
【0039】
ここで、水溶性の酸ヒドラジド化合物が付着したY型ゼオライトは、低沸点アルデヒド類の動的条件下での吸着性能に優れる。また、低沸点アルデヒド類に対する化学吸着量が飽和した後も、Y型ゼオライト特有のボトルネック型の均一な細孔径を有する細孔形状と、Y型ゼオライトにおけるSiO/Alの含有モル比を20.0以下とすることで、低沸点アルデヒド類や低極性ガス成分の物理吸着量を大幅に抑えることが可能となり、脱離抑制性能にも優れたものとなる。
【0040】
しかし、それでも、細孔構造を有する限りにおいて、低極性または非極性のガス類のY型ゼオライトへの物理吸着量を完全にゼロにすることは困難であり、わずかにでも物理吸着された低沸点アルデヒド類や低極性または非極性のガス類はエアコン稼動時など温湿度が急激に変化する際には、ガス吸着剤からの脱離現象を起こし、臭気成分として感じられることがある。そこで、ガス吸着剤が、さらに活性炭を有することで、Y型ゼオライトから脱離する低沸点アルデヒド類や低極性または非極性のガス類を活性炭が吸着し、二次発臭をさらに抑制することが可能となる(すなわち、ガス吸着剤の脱離抑制性能はより優れたものとなる)。
【0041】
活性炭の平均粒子径は0.5~1000.0μmであることが好ましい。活性炭の平均粒子径が小さいほどVOCガスの吸着速度は速くなるが、その一方で、飛散しやすく取り扱い性や加工性が低下する傾向にあるため、活性炭の平均粒子径は0.5μm以上、好ましくは1.0μm以上とすることが好ましい。一方、活性炭の平均粒子径が大きいと、エアフィルターユニットに加工する際にプリーツ頂上部の不織布が破れやすくなる問題が生じる傾向にあるため、消臭繊維シートのプリーツ加工性等を考慮して、活性炭の平均粒子径を1000.0μm以下とすることが好ましく、600.0μm以下とすることがより好ましい。上記の活性炭の粒子径は、JIS K 1474(2014)活性炭試験方法に基づいた質量平均径を指す。通常の分級機を使用して所定の粒度調整をすることにより、所望の粒子径のものを得ることが可能である。ただし、活性炭が数μm程度の微粉になると,ふるいが目詰まりしてしまうことがあるので,その場合には、活性炭を水などの液体に分散させ、回折光や散乱光を利用して粒度を測定することができる。
【0042】
活性炭の原料としては、ヤシ殻、木質系、石炭系、ピッチ系などが知られているが、ヤシ殻であることが好ましい。ヤシ殻活性炭の細孔は他の原料と比較して小さい細孔の比率が多く、不純物である灰分も少ない。つまり、ヤシ殻活性炭は細孔が小さいために吸着した臭気分子に対して効果的に細孔壁との分子間力が働き、吸着した臭気分子を脱離させにくい、すなわち二次発臭の発生を抑制できる特徴がある。
【0043】
次に本発明に用いる活性炭の比表面積は、BET比表面積で900~1300m/gであることが好ましい。活性炭の比表面積が900m/g以上とすることで、低沸点アルデヒド類との反応場として実効的な反応速度を得ることが可能となる。また、活性炭の比表面積が1300m/g以下とすることで、二次発臭につながる臭気の非意図的吸着を抑制することが可能となる。
【0044】
活性炭には薬剤が担持されていてもよい。中でも低沸点アルデヒド類を除去する目的においてはアミン系化合物が担持されていることが好ましく、中でも、アミノ基を有する第1級アミン系化合物が好ましく、さらに酸ヒドラジド化合物がより好ましい。
【0045】
これらのアミン系化合物は活性炭に吸着させるか、あるいは、活性炭の表面に残る水酸基やアルカリ金属などの官能基と部分的に反応させながらインターカレーションを行うことによりアミン系化合物を担持した活性炭を得ることができる。
【0046】
活性炭へのアミン系化合物の担持量は、活性炭100.0質量部に対して0.5~20.0質量部であることが好ましく、より好ましくは1.0~10.0質量部である。0.5質量部以上とすることで低沸点アルデヒド類の吸着性能吸着性能の向上の実効を得ることができる。アミン系化合物を過剰に添加すると結晶化して活性炭の細孔を塞いでしまい、粉落ちの原因ともなるため、担持量は20.0質量部以下とすることが好ましい。
【0047】
活性炭と水溶性の酸ヒドラジド化合物が付着したY型ゼオライトとの質量比(活性炭の含有質量/水溶性の酸ヒドラジド化合物が付着したY型ゼオライトの含有質量)は0.05~0.50の範囲であることが好ましい。
【0048】
この含有質量比を0.05以上とすることで、Y型ゼオライトが非意図的に物理吸着現象で吸着する低沸点アルデヒド類が脱離した際に、この低沸点アルデヒド類をY型ゼオライト近傍に存在する活性炭が吸着することで、ガス吸着剤の脱離抑制性能がより優れたものとなる。一方で、この含有質量比が0.50以下であることでY型ゼオライトの含有質量割合が増え、低沸点アルデヒド類の吸着性能がより優れたものとなり、ガス吸着剤の動的吸着性能がより優れたものとなるとともに、一旦、吸着された低沸点アルデヒド類が脱離しやすい活性炭の質量比率が少ないことでガス吸着剤に脱離抑制性能がより優れたものとなる。
【0049】
本発明のガス吸着剤を用いて消臭繊維シートを得ることができる。そのような消臭繊維シートの製造方法としては以下のものを挙げることができる。
(1)ガス吸着剤粒子を水中に分散させ繊維シートに付着後、脱水することにより得られるシート化法。
(2)繊維シートを構成すると繊維と共にガス吸着剤粒子を気中に分散させることにより得られるエアレイド法。
(3)2層以上の不織布もしくは織布、ネット状物、フィルム、膜の層間に熱接着によりガス吸着剤を充填する方法。
(4)エマルジョン接着剤、溶剤系接着剤を利用して不織布、織布、発泡ウレタンなどの通気性材料にガス吸着剤を結合担持させる方法。
(5)基材、ホットメルト接着剤の熱可塑性等を利用して不織布、織布、発泡ウレタンなどの通気性材料にガス吸着剤を結合担持する方法。
(6)ガス吸着剤を繊維もしくは樹脂に練りこむことにより混合一体化する方法。
【0050】
用途に応じて適当な方法を用いることができるが、Y型ゼオライト自身の細孔閉塞を防止することができるため、前記加工方法(1)、(2)、(3)、または(5)を用いることが好ましい。
【0051】
加工方法(1)の具体的製造方法について記載する。Y型ゼオライトと水溶性の酸ヒドラジド化合物とバインダー樹脂とを混合分散させた液を繊維に付与し、さらに乾燥する方法や、Y型ゼオライトと水溶性の酸ヒドラジド化合物を混合した水溶液を基材繊維シートにコーティング処理により塗布した後に、さらに乾燥たり、スプレー処理により吹き付けた後に、さらに乾燥したりしてもよい。
【0052】
また、Y型ゼオライトとバインダー樹脂を先に繊維シート表面に固定した後、酸ヒドラジド化合物を混合した水溶液をディッピング処理やスプレー処理で付着させてもよい。
【0053】
バインダー樹脂としては特に限定は無く、どのような種類の樹脂でも使用することがで
きる。たとえばアクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、シリコン樹脂などが挙げられる。樹脂を二種類以上混合しても良い。Y型ゼオライトとバインダー樹脂の質量比(Y型ゼオライトの質量:バインダー樹脂の質量)は10:1~1:1の範囲であることがY型ゼオライトや水溶性の酸ヒドラジド化合物の固着性ならびにガス吸着性能の点で好ましい。
【0054】
調合の際は先に水溶性の酸ヒドラジド化合物とY型ゼオライトを溶媒に分散させておいてから、バインダー樹脂を分散させる方が、より均一に分散できるので好ましい。
【0055】
本発明のガス吸着剤を用いた消臭繊維シートは上記のようなY型ゼオライトと水溶性の酸ヒドラジド化合物とを担持させた繊維シートにさらに異なる繊維構成のシートを積層することも好ましい。例えば直行流型フィルターとしての使用において、上流側に嵩高で目の粗い不織布シートを積層すれば、ダスト保持量が向上し長寿命化が可能となる。また下流側に極細繊維からなる不織布シートを積層すれば、高捕集効率化が可能となる。
【0056】
さらにこの極細繊維からなる不織布シートがエレクトレット処理されていればなお好ましい。エレクトレット処理がされていることにより、通常では除去しにくいサブミクロン
サイズやナノサイズの微細塵を静電気力により捕集する事が出来るようになる。
【0057】
次に前記加工方法(3)の具体的製造方法について記載する。2層の不織布の間に配置される本発明のガス吸着剤およびバインダーとして熱可塑性樹脂を熱接着により一体化することで消臭繊維シートを得られるが、まず、片方の不織布上に充分に混合攪拌したガス吸着剤および熱可塑性樹脂を散布し、熱処理して熱可塑性樹脂を溶融する。加熱方法としては加熱炉が利用できる。熱処理されたものに、もう一方の不織布を被せ合わせ加圧し、一体化することができる。
【0058】
最終的に熱プレスしシート製造するにはよく使用されるロール間熱プレス法、あるいは上下ともフラットな熱ベルトコンベヤー間にはさみこむフラットベッドラミネート法等が挙げられる。
【0059】
熱可塑性樹脂の材料としては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、エチレン-アクリル共重合体、ポリアクリレート、ポリアクリル、ポリジエン、エチレン-酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂が挙げられ、中でも加熱時の臭気発生が少ない材料としてポリエステルやポリオレフィンが好ましい。
【0060】
熱可塑性樹脂は粉末状であれば形状は特に規定しないが、球状、破砕状、繊維状等があげられる。
【0061】
熱可塑性樹脂の融点は、移動車両等の室内の環境温度等考慮すると80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。
【0062】
また熱可塑性樹脂の含有量は、本発明のガス吸着剤の含有質量に対して5~40質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。かかる範囲内であれば、不織布との接着力がより向上し、さらに消臭繊維シートの通気抵抗、脱臭性能もより向上する。
【0063】
上記の不織布を形成する繊維としては、天然繊維、合成繊維、ガラス繊維や金属繊維等の無機繊維が使用でき、中でも溶融紡糸が可能な熱可塑性樹脂の合成繊維が好ましい。合成繊維を形成する熱可塑性樹脂の例としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、ビニロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸等を挙げることができ、用途等に応じて選択できる。また、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
不織布を構成する繊維としては、円形断面のもののみならず、たとえば異型断面のものや、繊維表面に多数の孔やスリットを有するものも好ましく使用される。そのような形状とすることにより、繊維の表面積を大きくし、本発明のガス吸着剤を用いた消臭繊維シートにおいては、ガス吸着剤の担持性を向上させることができる。ここでいう異型断面形状とは、円形以外の断面形状を指し、例えば扁平型、略多角形、楔型等を挙げることができる。かかる異型断面形状の繊維は、円形でない孔を有する口金を用いて紡糸することにより得ることができる。また、繊維表面に多数の孔やスリットを有する繊維は、溶剤に対する溶解性の異なる2種類以上のポリマーをアロイ化して紡糸し、溶解性の高い方のポリマーを溶剤で溶解除去することにより得ることができる。
【0065】
不織布の製造方法としては乾式法、湿式法、スパンボンド法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、スパンレース法(水流絡合法)、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布が使用できる。2枚の不織布のうち少なくとも1枚の不織布は目付けや厚みが均一にできることから抄紙法による湿式不織布が好ましい。
【0066】
不織布を構成する繊維の繊維径としては、消臭繊維シートとして使用する用途において目標とする通気性や集塵性能に応じて選択すればよい。好ましくは1~2000μmである。繊維径を1μm以上、より好ましくは2μm以上とすることで、ガス吸着剤が繊維構造物表面で目詰まりするのを防ぎ、通気性の低化を防ぐことができる。また、繊維径を2000μm以下、より好ましくは100μm以下とすることで、繊維表面積の減少による該ガス吸着剤の担持能力の低下や処理エアとの接触効率の低下を防ぐことができる。
【0067】
不織布の目付としては、10~500g/mが好ましい。目付けを10g/m以上とすることで、ガス吸着剤を担持するための加工に耐える十分な強度が得られ、エアを通気させた際にフィルター構造を維持するのに必要な剛性が得られる。また目付けを500g/m以下、より好ましくは200g/m以下とすることで、不織布の内部までガス吸着剤を均一に担持させることができ、また、消臭繊維シートをプリーツ形状やハニカム形状に二次加工する際の取扱い性にも優れる。
【0068】
不織布の厚みは0.10mm~0.60mmであることが好ましい。薄いとガス吸着剤粒子が飛び出して不織布を破る可能性があり、厚いと取り扱い性が悪くなる可能性がある。
【0069】
不織布の少なくとも1枚はエレクトレット処理されていることが好ましい。エレクトレット処理がされていることにより、通常では除去しにくいサブミクロンサイズやナノサイズの微細塵を静電気力により捕集することができる。
【0070】
エレクトレット処理を施された不織布を構成する材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の高い電気抵抗率を有する材料が好ましい。
【0071】
また、不織布は抗菌剤、防カビ剤、抗アレルゲン剤、抗ウイルス剤、ビタミン剤、難燃剤等の付随的機能を有する成分等を含めて構成してもよい。これらの成分は繊維類や不織布中に練りこんでも、後加工で付着および担持して付与してもよい。例えば、任意の方法により不織布を作製後、難燃剤と樹脂バインダーを含む水溶液を作製し、含浸乾燥し、難燃剤を固着することで不織布を得ることができる。
【0072】
消臭繊維シートにおける本発明のガス吸着剤の含有量は、プロトン型のY型ゼオライトと水溶性の酸ヒドラジド化合物との合計が10~100g/mであることが好ましい。含有量を10g/m以上、より好ましくは15g/m以上とすることで低沸点アルデヒド類のガス吸着性能吸着性能の実向を得ることができる。また、含有量を100g/m以下とすることで、この消臭繊維シートに目詰まりが発生するのを抑制し、このことによって、上記の消臭繊維シートの通気性の低下を抑えることができる。
【0073】
消臭繊維シートを用いてエアフィルターを構成することができる。エアフィルターにおける消臭繊維シートの形状としては、そのまま平面状で使用してもよいが、限られた寸法内により多くの消臭繊維シートを入れるためにプリ-ツ型やハニカム型を採用することが好ましい。プリーツ型は直行流型エアフィルターとしての使用において、またハニカム型は平行流型フィルターとしての使用において、処理エアの接触面積を大きくして捕集効率を向上させるとともに、低圧損化を同時に図ることができる。
【0074】
プリーツ加工の方法としては、レシプロ方式やロータリー方式などがあり、山谷状に加工する方法であればいずれの方法でもよい。また、プリーツ形状を保持するためセパレータ加工を行うことが望ましく、生産効率の観点からビード加工やリボン加工のような熱可塑性樹脂を溶融加工する方式が望ましい。ここで、熱可塑性樹脂の融点は90℃以上のポリオレフィン樹脂を使用することが好ましい。自動車車室内のエアコンシステム周辺では夏場に80℃前後まで上昇することが想定されるため、融点が90℃以上のポリオレフィン樹脂を使用することで、低コストでプリーツ形状保持可能なエアフィルターを提供することが可能となる。
【0075】
本発明のガス吸着剤を備える消臭繊維シートを用いたエアフィルターのひだ山頂点間隔は、2~30mmが好ましい。2mm未満ではひだ山間が密着しすぎでデッドスペースが多く、効率的にシートを活用できなくなるため好ましくない。一方、30mmを越えると消臭繊維シート折り込み面積が小さくなるためエアフィルター厚みに応じた除去効果を得ることができなくなるため好ましくない。
【0076】
また本発明のガス吸着剤を用いたエアフィルターは、枠体に納めて使用することが、エアの処理効率や取扱い性の点で好ましい。
【実施例
【0077】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本実施例による消臭繊維シートの各特性の評価方法を下記する。
【0078】
[測定方法]
(1)平均粒子径(μm)
ゼオライトおよび活性炭については、JIS K 1474(2014)の活性炭試験方法に基づいて測定された50%質量平均径を平均粒子径とする。
【0079】
(2)目付(g/m
25cm×25cmにカットした測定試料の質量について質量計(エー・アンド・ディ社製FY-300)を用いて4枚分計測し、その平均値から1mあたりの質量に換算し、小数点以下第2位を四捨五入し、目付とする。なお、消臭繊維シートの目付についても上記の測定方法と同様の方法により測定する。
【0080】
(3)厚み(mm)
10cm×10cmにカットした測定試料について、厚み計(大栄科学精機社製、型式FS-60DS、測定子面積2500mm、測定荷重0.5KPa)を使用しランダムに10点測定し、平均値を算出し、厚みとする。なお、消臭繊維シートの厚みについても上記の測定方法と同様の方法により測定する。
【0081】
(4)Y型ゼオライトにおけるSiO/Al含有モル比
Y型ゼオライトにおけるSiO/Alの含有モル比は、蛍光X線分光分析装置(XRF)島津製作所製(VF-320A)によりケイ素およびアルミニウムの元素数を測定し、算出する。
【0082】
(5)BET比表面積
ゼオライトおよび活性炭の比表面積はユアサアイオニクス社製NOVA2200eを用い、JIS R 1626-1996に規定のBET多点法に従って測定する。試料は100mgを採取し100℃で4時間真空脱気し、N2を吸着質とし、定容法にて測定する。
【0083】
(6)平均細孔径
ゼオライトの細孔の形状を円筒状と仮定し、BET比表面積測定の際に得られた比表面積(S)、細孔容積(V)から平均細孔径(D)を算出する。
【0084】
(7)水溶性酸ヒドラジド化合物の含有量
水溶性酸ヒドラジド化合物を分散もしくは溶解させた液にY型ゼオライトを含浸させて、Y型ゼオライトを乾燥させた後のガス吸着剤の重量と、上記の含浸処理前のY型ゼオライトの重量との差から算出する。
【0085】
(8)ガス吸着剤やバインダーとなりうる熱可塑性樹脂の含有量
ガス吸着剤および熱可塑性樹脂を混合攪拌した混合粉体を不織布に散布した後、さらに他の不織布を重ね合わせて熱プレスを行い一体化し、その総目付を測定し、総目付から2枚の不織布の目付を差し引いた値に、ガス吸着剤および熱可塑性樹脂の仕込み量比を掛け、消臭繊維シート全体に対するガス吸着剤や熱可塑性樹脂の含有量を算出する。
【0086】
(9)圧力損失(Pa)
平面状の消臭繊維シートを有効間口面積0.1mのホルダーにセットし、面風速6.5m/minで鉛直方向に空気を通過させ、フィルター上下流の圧力差をMODUS社製デジタルマノメータMA2-04P差圧計で測定する。測定は1検体から任意に5箇所をサンプリングして行い、その平均値を消臭繊維シートの圧力損失とする。
【0087】
(10)低沸点アルデヒドの動的吸着性能および脱離抑制性能
低沸点アルデヒド類としてアセトアルデヒドを使用した。
【0088】
12cm角サイズの平板状の消臭性繊維シートを10cm角サイズの実験用のダクトに取り付け、ダクトに温度23℃、湿度50%RHの空気を0.2m/secの速度で送風する。さらに上流側から、標準ガスボンベによりアセトアルデヒドを上流濃度10ppmとなるように添加し、消臭性繊維シートの上流側と下流側とにおいてエアをサンプリングし、赤外吸光式連続モニターを使用してそれぞれのアセトアルデヒド濃度を経時的に測定し、次式にて除去効率を算出する。
アセトアルデヒド除去効率(%)=[(C-C)/C]×100
:上流側のアセトアルデヒド濃度(=10ppm)
C:下流側のアセトアルデヒド濃度(ppm)
アセトアルデヒドの添加開始から100秒後の除去効率を初期除去効率とし、100秒後以降の除去効率を経時的に測定する。また、上流側の濃度と下流側の濃度との差が5%になるまでの吸着量を吸着容量として評価する。
【0089】
さらに、この除去率が5%になるまで流通、濃度測定を続けた消臭性繊維シートについて、アセトアルデヒドを含有しない温度23℃、湿度50%RHのクリーンな空気を0.2m/secの速度で送風し、消臭性繊維シートの下流の吹き出しエアの臭気強度を、5人のモニターが、表4に示す判断基準を用いた6段階臭気判定法にて判定し、5人の判定結果の算術平均値をアセトアルデヒド脱離評価の指標とする。なお、算術平均が小さいほど、消臭性繊維シートの二次発臭はより高度に抑制されているといえる。
【0090】
(11)低極性ガスの動的吸着性能および脱離抑制性能
低極性ガスとしてトルエンのガスを使用した。
100℃で2時間、乾燥庫で加熱前処理した平板状の消臭性繊維シートを実験用のカラムに取り付け、カラムに温度23℃、湿度50%RHの空気を0.2m/secの速度で送風する。さらに上流側から、パーミエーターによりトルエンを揮発させ上流濃度80ppmとなるように添加し、消臭性繊維シートの上流側と下流側とにおいてエアをサンプリングし、赤外吸光式連続モニターを使用してそれぞれのトルエン濃度を経時的に測定し、次式にて除去効率を算出する。
トルエン除去効率(%)=[(C-C)/C]×100
:上流側の濃度(=80ppm)
C :下流側のトルエン濃度(ppm)
トルエン添加開始から3分後の除去効率を初期除去効率とし、初期除去効率の比較を行った。3分後以降の除去効率を経時的に測定する。また、上流側の濃度と下流側の濃度との差が5%になるまでの吸着量を吸着容量として評価する。
【0091】
さらに、この除去率が5%になるまで流通、濃度測定を続けた消臭性繊維シートについて、トルエンを含有しない温度23℃、湿度50%RHのクリーンな空気を0.2m/secの速度で送風し、サンプル出口側のガス濃度を赤外吸光式連続モニターにて測定する。二次発臭現象は脱離の総容量ではなく、瞬間的に吐き出される最大ピーク値が臭気閾値を越えるかどうかが重要となるため、脱離抑制性能の評価は、この脱離抑制性能の試験時に計測された最大ガス濃度を用い、この最大ガス濃度が小さいほどガス吸着剤の脱離抑制性能は優れるとの評価とする。
【0092】
また、サンプルの下流の吹き出しエアの臭気強度を、5人のモニターが、以下に示す判断基準を用いた6段階臭気判定法にて判定する。
5:強烈な臭い
4:強い臭い
3:楽に関知できる臭い
2:何の臭いかわかる弱い臭い
1:やっと関知できる臭い
0:無臭
5人の判定結果の算術平均値をトルエン脱離評価の指標とする。なお、算術平均が小さいほど、消臭性繊維シートの二次発臭はより高度に抑制されているといえる。
【0093】
(12)脱離判定
アセトアルデヒドガスおよびトルエンガスの6段階臭気判定法による算術平均値とトルエン脱離最大濃度から脱離臭気に関する総合判定を行う。尚、総合判定はA(特に優れる)、B(優れる)、C(改善を有する)、D(好ましくない)の4段階で行った。判定基準は以下のとおりである。
A: トルエン脱離最大濃度が1.5ppm以下であり、かつアセトアルデヒドガスおよびトルエンガスのいずれのガスにおいても6段階臭気判定法が0.6以下である場合、
B: トルエン脱離最大濃度が1.5ppm超え2.0ppm以下の範囲であり、かつアセトアルデヒドガスおよびトルエンガスのいずれのガスにおいても6段階臭気判定法が0.6超え1.0以下である場合、
C: トルエン脱離最大濃度が2.0ppm超え~5.0ppm以下の範囲であり、かつアセトアルデヒドガスおよびトルエンガスのいずれのガスにおいても6段階臭気判定法が1.0超え2.5以下である場合、
D: トルエン脱離最大濃度が5.0ppm超えであり、かつアセトアルデヒドガスおよびトルエンガスのいずれかのガスにおいても6段階臭気判定法で2.5超えである場合。
(13)本発明のガス吸着剤および対比用のガス吸着剤の準備
i.ガス吸着剤Aの作製
(ゼオライト)
まず、アルミン酸ナトリウムとケイ酸ナトリウムとを混合し混合物を得た後、この混合物を100℃で加熱し、ゼオライトを得た。次に、このゼオライトを110℃の硝酸アンモニウム溶液で処理し、さらに、このゼオライトを750℃の過熱水蒸気にて焼成処理した。得られたゼオライトはプロトン型のY型ゼオライトであった。このゼオライトの蛍光X線分光分析により測定したSiO/Al含有モル比は5.4であり、窒素吸脱着法により測定した比表面積は690m/gであった。そして、このゼオライトを原料とし結着剤にアルミナゾルを使用し、ハイスピードミキサー法により平均粒径230μmに造粒したゼオライトを使用した。造粒後のゼオライトの比表面積は600m/g、平均細孔直径は17.0Åであった。なお、プロトン型のY型ゼオライトとは、カチオン交換サイトがプロトン(H)であるY型ゼオライトのことを言う。
【0094】
(水溶性の酸ヒドラジド化合物)
水への溶解度8.0%のアジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製)を用いた。
【0095】
(ゼオライトA)
前記アジピン酸ジヒドラジド8.0質量%を純水100.0質量%に完全に溶解した水溶液を調整した。その後、該水溶液を前記造粒後のゼオライト40.0質量%に対しスプレーにて噴霧して付着した後に110℃で5時間乾燥し、ガス吸着剤Aを得た。
【0096】
ii.ガス吸着剤Bの作製
(ゼオライト)
まず、アルミン酸ナトリウムとケイ酸ナトリウムとを混合し混合物を得た後、この混合物を100℃で加熱し、ゼオライトを得た。次に、このゼオライトを110℃の硝酸アンモニウム溶液で処理し、さらに、このゼオライトを750℃の過熱水蒸気にて焼成処理した。得られたゼオライトはプロトン型のY型ゼオライトであった。このゼオライトの蛍光X線分光分析により測定したSiO/Al含有モル比は7.2であり、窒素吸脱着法により測定した比表面積は650m/gであった。そして、このゼオライトを原料とし、結着剤にアルミナゾルを使用し、ハイスピードミキサー法により平均粒径230μmに造粒したゼオライトを使用した。造粒後のゼオライトの比表面積は580m/g、平均細孔直径は16.5Åであった。
【0097】
(水溶性の酸ヒドラジド化合物)
水への溶解度8.0%のアジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製)を用いた。
【0098】
(ガス吸着剤B)
前記アジピン酸ジヒドラジド8.0質量%を純水100.0質量%に完全に溶解した水溶液を調整した。その後、該水溶液を前記造粒後のゼオライト40.0質量%に対しスプレーにて噴霧して付着した後に110℃で5時間乾燥し、ガス吸着剤Bを得た。
【0099】
iii.ガス吸着剤Cの作製
(ゼオライト)
まず、アルミン酸ナトリウムとケイ酸ナトリウムとを混合し混合物を得た後、この混合物を100℃で加熱し、ゼオライトを得た。次に、このゼオライトを110℃の硝酸アンモニウム溶液で処理し、さらに、このゼオライトを750℃の過熱水蒸気にて焼成処理した。得られたゼオライトは、プロトン型のY型ゼオライトであった。このゼオライトの蛍光X線分光分析により測定したSiO/Al含有モル比は5.4であり、窒素吸脱着法により測定した比表面積は690m/gであった。そして、このゼオライトを原料とし、結着剤にアルミナゾルを使用し、ハイスピードミキサー法により平均粒径230μmに造粒したゼオライトを使用した。造粒後のゼオライトの比表面積は600m/g、平均細孔直径は17.0Åであった。
【0100】
(水溶性の酸ヒドラジド化合物)
水への溶解度27.3%のコハク酸ジヒドラジド(日本ファインケム社製)を用いた。
【0101】
(ガス吸着剤C)
前記コハク酸ジヒドラジド20.0質量%を純水100.0質量%に完全に溶解した水溶液を調整した。その後、該水溶液を前記造粒後のゼオライト40.0質量%に対しスプレーにて噴霧して付着した後に110℃で5時間乾燥し、ガス吸着剤Cを得た。
【0102】
iv.ガス吸着剤Dの作製
(ゼオライト)
市販されているSiO/Al含有モル比38.0、比表面積340m/gであるZSM-5型ゼオライトを原料とし、結着剤にアルミナゾルを使用し、ハイスピードミキサー法により平均粒径230μmに造粒したゼオライトを使用した。造粒後のゼオライトの比表面積は300m/g、平均細孔直径は18.4Åであった。
【0103】
(水溶性の酸ヒドラジド化合物)
水への溶解度8.0%のアジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製)を用いた。
【0104】
(ガス吸着剤D)
前記アジピン酸ジヒドラジド8.0質量%を純水100.0質量%に完全に溶解した水溶液を調整した。その後、該水溶液を前記造粒後のゼオライト40.0質量%に対しスプレーにて噴霧して付着した後に110℃で5時間乾燥し、ガス吸着剤Dを得た。
【0105】
v.ガス吸着剤Eの作製
(ゼオライト)
まず、アルミン酸ナトリウムとケイ酸ナトリウムとを混合し混合物を得た後、この混合物を100℃で加熱し、ゼオライトを得た。次に、このゼオライトを110℃の硝酸アンモニウム溶液で処理し、さらに、このゼオライトを750℃の過熱水蒸気にて焼成処理した。得られたゼオライトはプロトン型のY型ゼオライトであった。このゼオライトの蛍光X線分光分析により測定したSiO/Al含有モル比は5.4であり、窒素吸脱着法により測定した比表面積は690m/gであった。
【0106】
vi.ガス吸着剤Fの作製
(ゼオライト)
SiO/Al含有モル比2.0であり、カチオン基としてアルカリ金属イオンNaを有するA型ゼオライト(ナトリウム型のA型ゼオライト)を使用した。なお、カチオン基としてアルカリ金属イオンNaを有するA型ゼオライト(ナトリウム型のA型ゼオライト)とは、カチオン交換サイトがNaであるA型ゼオライトのことを言う。
【0107】
viiガス吸着剤Gの作製
(ゼオライト)
SiO/Al含有モル比25.0、比表面積680m/gであるアンモニウムイオンNH を有するY型ゼオライトを使用した。なお、アンモニウムイオンNH を有するY型ゼオライトとは、カチオン交換サイトがNH であるY型ゼオライトのことを言う。
【0108】
viii.活性炭A
JIS K1474法 による平均粒子径220μm、比表面積1100m/gのヤシ殻活性炭を用いた。
【0109】
ix.活性炭B
(活性炭)
JIS K1474法 による平均粒子径220μm、比表面積1200m/gのヤシ殻活性炭を用いた。
【0110】
(付着薬剤)
水への溶解度8.0%のアジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製)を用いた。
【0111】
(活性炭B)
前記アジピン酸ジヒドラジド8.0質量%を純水100.0質量%に完全に溶解した水溶液を調整した。その後、該水溶液を前記活性炭に40.0質量%に対しスプレーにて噴霧して付着した後に110℃で5時間乾燥し、活性炭Bを得た。
【0112】
x.活性炭C
JIS K1474法 による平均粒子径220μm、比表面積1200m/gのヤシ殻活性炭を用いた。
【0113】
xi.多孔質シリカA
(無機多孔質体)
JIS K1474法 による平均粒子径200μm、比表面積700m/g、平均細孔径60Åのシリカゲル(AGCエスアイテック社製)を用いた。
【0114】
(酸ヒドラジド化合物)
水への溶解度8.0%のアジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製)を用いた。
【0115】
(多孔質シリカA)
前記アジピン酸ジヒドラジド8.0質量%を純水100.0質量%に完全に溶解した水溶液を調整した。その後、該水溶液を前記多孔質シリカに40.0質量%に対しスプレーにて噴霧して付着した後に110℃で4時間乾燥し、多孔質シリカAを得た。
【0116】
xii.多孔質体シリカB
(無機多孔質体)
JIS K1474法 による平均粒子径200μm、比表面積30m/g、平均細孔径1000Åのシリカゲル(AGCエスアイテック社製)を用いた。
【0117】
(酸ヒドラジド化合物)
水への溶解度8.0%のアジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製)を用いた。
【0118】
(多孔質シリカB)
前記アジピン酸ジヒドラジド8.0質量%を純水100.0質量%に完全に溶解した水溶液を調整した。その後、該水溶液を前記多孔質シリカに40.0質量%に対しスプレーにて噴霧して付着した後に110℃で4時間乾燥し、多孔質シリカBを得た。
【0119】
(14)実施例、比較例
[実施例1]
(不織布a)
湿式抄紙方法により、ポリエステル繊維とビニロン繊維から構成された目付30g/mの繊維集積体を作製した。該繊維集積体をスチレンアクリル重合体と難燃剤としてのリン酸メラミンの分散液に含浸後、乾燥熱処理して目付け50g/m、厚み0.42mmの不織布aを作製した。
【0120】
(不織布b)
熱可塑性樹脂として、融点163℃のポリプロピレン樹脂を用い、それに帯電安定剤を添加したポリプロピレン樹脂組成物を使用した。押出機およびギヤポンプ、メルトブロー口金、圧縮空気発生装置および空気加熱機、捕集コンベア、および巻取機からなる装置を用いて、メルトブロー不織布を製造した。
【0121】
メルトブロー繊維流を捕集ドラムに対し、シート進行方向側に傾けて捕集するように噴射流量を調整しシート化した後、純水サクション法によってエレクトレット加工を行い、目付けが30g/m、平均繊維径が6.2μm、厚みが0.20mmの不織布bを得た。
【0122】
(消臭性繊維シート)
前記ガス吸着剤Aと、ホットメルト接着剤として低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))とを70/30(ゼオライト/低密度ポリエチレン)の質量比にて秤量し、シェーカーにて攪拌後、前記不織布aの上に総量50g/mとなるように均一に散布した。150℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭性繊維シートAを作製した。ガス吸着材の構成等を表1に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0123】
[実施例2]
(消臭性繊維シート)
前記ガス吸着剤Bと、ホットメルト接着剤として低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))とを73.7/26.3(ガス吸着剤B/低密度ポリエチレン)の質量比にて秤量し、シェーカーにて攪拌後、前記不織布aの上に総量95g/mとなるように均一に散布した。150℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭性繊維シートBを作製した。ガス吸着材の構成等を表1に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0124】
[実施例3]
(消臭性繊維シート)
前記ガス吸着剤Aおよび活性炭Aを含むガス吸着剤と、ホットメルト接着剤として低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))と、を55.6/15.9/28.6(ガス吸着剤A/活性炭A/低密度ポリエチレン)の質量比にて秤量し、シェーカーにて攪拌後、前記不織布aの上に総量63g/mとなるように均一に散布した。150℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭性繊維シートCを作製した。ガス吸着材の構成等を表1に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0125】
[実施例4]
(消臭性繊維シート)
前記ガス吸着剤Aおよび活性炭Bと、ホットメルト接着剤として低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))とを55.6/15.9/28.6(ガス吸着剤A/活性炭B/低密度ポリエチレン)の質量比にて秤量し、シェーカーにて攪拌後、前記不織布aの上に総量63g/mとなるように均一に散布した。150℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭性繊維シートDを作製した。ガス吸着材の構成等を表1に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0126】
[実施例5]
(消臭性繊維シート)
前記ガス吸着剤Eとアジピン酸ジヒドラジドとスチレンアクリルバインダーを43.5/21.7/34.8の質量比となるよう純水に均一分散した水溶液中に不織布aを含浸後、乾燥することで目付73g/mの不織布シートcを得た。前記不織布cの上に低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))を7g/mとなるように均一に散布した。130℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭性繊維シートEを作製した。ガス吸着材の構成等を表1に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0127】
[比較例1]
(消臭性繊維シート)
前記活性炭Bと、ホットメルト接着剤として低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))とを70.0/30.0(活性炭B/低密度ポリエチレン)の質量比にて秤量し、シェーカーにて攪拌後、前記不織布aの上に総量50g/mとなるように均一に散布した。150℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭性繊維シートFを作製した。ガス吸着材の構成等を表2に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0128】
[比較例2]
(消臭性繊維シート)
前記活性炭Cと、ホットメルト接着剤として低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))とを70.0/30.0(活性炭C/低密度ポリエチレン)の質量比にて秤量し、シェーカーにて攪拌後、前記不織布aの上に総量265g/mとなるように均一に散布した。150℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭性繊維シートGを作製した。ガス吸着材の構成等を表2に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0129】
[比較例3]
(消臭性繊維シート)
前記多孔質シリカAと、ホットメルト接着剤として低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))を70.0/30.0(多孔質シリカA/低密度ポリエチレン)の質量比にて秤量し、シェーカーにて攪拌後、前記不織布aの上に総量50g/mとなるように均一に散布した。150℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭性繊維シートHを作製した。ガス吸着材の構成等を表2に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0130】
[比較例4]
(消臭性繊維シート)
前記多孔質シリカBと、ホットメルト接着剤として低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))を70.0/30.0(多孔質シリカB/低密度ポリエチレン)の質量比にて秤量し、シェーカーにて攪拌後、前記不織布aの上に総量50g/mとなるように均一に散布した。150℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭繊維シートIを作製した。ガス吸着材の構成等を表2に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0131】
[比較例5]
(消臭性繊維シート)
前記多孔質シリカAおよび活性炭Cを含むガス吸着剤と、ホットメルト接着剤として低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))を55.6/15.9/28.6(多孔質シリカA/活性炭C/低密度ポリエチレン)の質量比にて秤量し、シェーカーにて攪拌後、前記不織布aの上に総量63g/mとなるように均一に散布した。150℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭性繊維シートJを作製した。ガス吸着材の構成等を表2に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0132】
[比較例6]
(消臭性繊維シート)
前記ガス吸着剤Dと、ホットメルト接着剤として低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))とを70.0/30.0(ガス吸着剤D/低密度ポリエチレン)の質量比にて秤量し、シェーカーにて攪拌後、前記不織布aの上に総量50g/mとなるように均一に散布した。150℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭性繊維シートKを作製した。ガス吸着材の構成等を表2に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0133】
[比較例7]
(消臭性繊維シート)
前記ガス吸着剤Fとアジピン酸ジヒドラジドとスチレンアクリルバインダーとを43.5/21.7/34.8の質量比となるよう純水に均一分散した水溶液中に不織布aを含浸後、乾燥することで目付73g/mの不織布シートdを得た。前記不織布dの上に低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))を7g/mとなるように均一に散布した。130℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭性繊維シートLを作製した。ガス吸着材の構成等を表2に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0134】
[比較例8]
(消臭性繊維シート)
前記ガス吸着剤Gとアジピン酸ジヒドラジドとスチレンアクリルバインダーを43.5/21.7/34.8の質量比となるよう純水に均一分散した水溶液中に不織布aを含浸後、乾燥することで目付73g/mの不織布シートeを得た。前記不織布eの上に低密度ポリエチレン(融点98℃、MI200g/10min(JIS K7210(1999))を7g/mとなるように均一に散布した。130℃の乾燥オーブンでホットメルト接着剤を溶かした状態でその上から不織布bをかぶせ熱プレスして消臭性繊維シートMを作製した。ガス吸着材の構成等を表2に示す。消臭性繊維シートの物性および性能を表3に示す。
【0135】
(15)実施例まとめ
実施例1および2のガス吸着剤はアジピン酸ジヒドラジドを付着したSiO/Alモル比が2以上20以下の範囲にあり、Y型ゼオライトを有していた。活性炭を使用している比較例1のガス吸着剤に比べて、低沸点アルデヒド類の代表成分であるアセトアルデヒドの初期除去効率、吸着容量ともに優れる結果が得られた。吸着飽和後の脱離臭気評価においてアセトアルデヒドガスおよびトルエンガスともに1.0以下とほとんど臭いを発していない結果が得られた。
【0136】
さらに実施例3および実施例4はさらに少量の活性炭を含ませたものである。アジピン酸ジヒドラジドを付着したゼオライトの効果によりアセトアルデヒド除去性能に優れ、活性炭との複合効果によりトルエンおよびアセトアルデヒドの吸着飽和後の脱離臭気評価でさらに優れる結果が得られた。実施例4では活性炭にアジピン酸ジヒドラジドを付着しているため、アセトアルデヒドの脱離臭気の改善効果が顕著に表れている。
【0137】
実施例5では粒子径5.0μmの微粉末状のゼオライトを不織布にバインダーにより固着した形態を取っているが、実施例1および2同様にアセトアルデヒド除去性能に優れ、吸着飽和後の脱離臭気評価においてアセトアルデヒドガスおよびトルエンガスともに1.0以下とほとんど臭いを発していない良好な結果が得られた。
【0138】
一方、ガス吸着剤に活性炭のみを使用した場合、比較例1のとおりアセトアルデヒド除去性能が満足できるレベルではなかった。比較例2に示すように活性炭量を増やすことでアセトアルデヒド除去性能を向上させることは可能であるが、ガス吸着剤量が増えることで消臭繊維シートの圧力損失が上昇するとともに厚みが増える。その結果、エアフィルターユニットとしても圧力損失が大幅に上昇した。さらに多量の活性炭を使用することでアセトアルデヒドやトルエンを物理吸着で吸着濃縮してしまい、温湿度変化等の環境要因によって、濃縮されていた臭気成分が一気に放出されることにより、トルエン脱離最大濃度は18.2ppmまで上昇し、6段階臭気判定法でも4.0であり本来の存在濃度では問題とならなかった臭気成分が悪臭として認知される結果となった。
【0139】
また、比較例3では多孔質シリカにアジピン酸ジヒドラジドを付着することで、少量のガス吸着剤量でもアセトアルデヒド除去性能に優れているが、シリカ特有のメソ孔にトルエンが物理吸着することで、トルエン脱離最大濃度は5.8ppmまで上昇し、6段階臭気判定法でも3.0であり本来の存在濃度では問題とならなかった臭気成分が悪臭として認知される結果となった。
【0140】
ガス吸着剤に多孔質シリカを使用した場合、比較例4に示すようにメソ孔の細孔径を調整することで脱離性能は改善するが、アセトアルデヒド除去性能が大幅に低下した。比較例5に示すように活性炭と混合することで脱離性能が改善される傾向にあるが、アセトアルデヒドの6段階臭気判定法で2.0を超える結果となっており、脱離抑止については未だに改善が必要なレベルであった。
【0141】
また、比較例6のガス吸着剤は、SiO/Alモル比が38.0のゼオライトを使用することで、トルエンの物理吸着量が増えてしまい、吸着飽和後の最大脱離濃度が9.3ppmで本来の存在濃度では問題とならなかった臭気成分が悪臭として認知される結果となった。
【0142】
比較例7ではA型のゼオライトを使用しているが、細孔径が小さいため、水溶性の酸ヒドラジド化合物が細孔内に入りづらく、かつ、アセトアルデヒドが細孔内に入りづらい構造であるため、アセトアルデヒド除去について充分な性能が得られなかった。
【0143】
比較例8ではY型のゼオライトを使用しているが、SiO/Alモル比が25.0で疎水性が強いため、トルエンの物理吸着量が増え脱離最大濃度が上がった、結晶構造内のカチオン交換サイトがアンモニウムイオンであるためアセトアルデヒド除去性能について充分な性能が得られなかった。
【0144】
【表1】
【0145】
【表2-1】
【0146】
【表2-2】
【0147】
【表3-1】
【0148】
【表3-2】
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明によるガス吸着剤、消臭性繊維シートおよびエアフィルターはVOC成分中の低沸点アルデヒド類の吸着性能に優れ、かつ車室内から発生する低沸点アルデヒド類や低極性ガス類のガス吸着剤からの脱離量が少ないため、特に自動車や鉄道車両等の車室内の空気を清浄化するためのエアフィルターとして好ましく使用される。