(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】プリプレグおよびその製造方法、スリットテーププリプレグ、炭素繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20221206BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
B32B5/28 A
(21)【出願番号】P 2019517117
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013096
(87)【国際公開番号】W WO2020003662
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2018120566
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】前山 大樹
(72)【発明者】
【氏名】城戸 大輔
(72)【発明者】
【氏名】幾島 崇
(72)【発明者】
【氏名】細川 直史
(72)【発明者】
【氏名】大西 宏和
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-524940(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136052(WO,A1)
【文献】特表2013-538264(JP,A)
【文献】特開2010-204659(JP,A)
【文献】特表2015-535037(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130659(WO,A1)
【文献】特表2017-510683(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133033(WO,A1)
【文献】特開2006-291095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/24
B32B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記に示す構成要素[A]~[E]を含むプリプレグであって、
[B]~[D]を含み[E]を実質的に含まない第1エポキシ樹脂組成物と[A]から構成される第1の層の両表面に、[B]~[E]を含む第2エポキシ樹脂組成物から構成される第2の層が隣接した構造であり、
第2エポキシ樹脂組成物は、[B]~[E]の総量100質量部に対して、重量平均分子量が2,000~30,000g/molである[D]を5~15質量部含み、角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’が、8.0×10
5~6.0×10
6Pa、かつ、下記式(1)で規定される値が0.085以上であり、示差走査熱量計(DSC)で測定したガラス転移温度が-10℃以上7℃未満であり、
第1エポキシ樹脂組成物および第2エポキシ樹脂組成物の総量100質量部に対して構成要素[D]を1質量部以上10質量部未満含む、
プリプレグ。
[A]炭素繊維
[B]エポキシ樹脂
[C]硬化剤
[D]熱可塑性樹脂
[E]体積平均粒子径が5~50μmである、熱可塑性樹脂を主成分とする粒子
【数1】
【請求項2】
第2エポキシ樹脂組成物の85℃における粘度が、10~300Pa・sである、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
構成要素[D]が、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンである、請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
第1エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[D]の重量平均分子量が2,000~60,000g/molである、請求項1~3のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項5】
第1エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[D]と第2エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[D]とが異なる、請求項1~4のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載のプリプレグがスリットされてなるスリットテーププリプレグ。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれかに記載のプリプレグまたは請求項
6に記載のスリットテーププリプレグが積層され、硬化されてなる炭素繊維強化複合材料。
【請求項8】
少なくとも下記に示す構成要素[B]~[D]を含む第1エポキシ樹脂組成物を、下記の構成要素[A]に含浸して1次プリプレグを製造し、
その後、少なくとも下記に示す構成要素[B]~[E]を含む第2エポキシ樹脂組成物を、両面から含浸させるプリプレグの製造方法であって、
第2エポキシ樹脂組成物は、[B]~[E]の総量100質量部に対して、重量平均分子量が2,000~30,000g/molである[D]を5~15質量部含み、角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’が、8.0×10
5~6.0×10
6Pa、かつ、下記式(1)で規定される値が0.085以上であり、示差走査熱量計(DSC)で測定したガラス転移温度が-10℃以上7℃未満であり、
第1エポキシ樹脂組成物および第2エポキシ樹脂組成物の総量100質量部に対して構成要素[D]を1質量部以上10質量部未満含む、
プリプレグの製造方法。
[A]炭素繊維
[B]エポキシ樹脂
[C]硬化剤
[D]熱可塑性樹脂
[E]体積平均粒子径が5~50μmである、熱可塑性樹脂を主成分とする粒子
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動積層機における工程通過性および積層性に優れたプリプレグ、ならびにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの強化繊維と、マトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料は、競合する金属などに比べて軽量でありながら、強度、弾性率などの力学特性に優れるため、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材、船舶部材、土木建築材、スポーツ用品などの多くの分野に用いられている。特に高い力学特性が要求される用途においては、強化繊維としては比強度、比弾性率に優れた炭素繊維が多く用いられている。また、マトリックス樹脂としては不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられることが多く、中でも炭素繊維との接着性に優れたエポキシ樹脂が多く用いられている。
【0003】
また、高い性能を要求される用途では、連続繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられ、中でも強化繊維に未硬化の熱硬化性樹脂組成物を含浸させたシート状中間基材であるプリプレグを用いる方法が一般的である。かかる方法では、プリプレグを積層した後、加熱によって硬化させることで、繊維強化複合材料の成形物が得られる。このようにして製造された繊維強化複合材料は、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣竿等、様々な一般産業用途に利用されているが、高い比強度・比剛性を有するため、特に軽量化を必要とする航空機の構造材料として注目されている。
【0004】
プリプレグの積層法としては、ハンドレイアップ法の他に、自動積層機を用いたATL(Automated Tape Layup)法やAFP(Automated Fiber Placement)法などが挙げられるが、航空機のような大型複合材料を製造する場合には、ハンドレイアップよりも生産性に優れる自動積層機を用いたATL法やAFP法といった自動積層法が用いられる(例えば、特許文献1参照)。中でもAFP法は、プリプレグを繊維方向にテープ状に切断したスリットテーププリプレグを積層する手法であり、航空機胴体など比較的曲面の多い部品を製造することに適しており、材料の歩留まりもよいことから、近年多く用いられる方法となってきた。
【0005】
AFP法では、積層効率向上のために、約十から数十本の3~13mm幅の細幅スリットテープをガイドロールに通し、マシンヘッドに集束させて基材に積層する。この際、ガイドロールとスリットテーププリプレグが擦過することによって、スリットテーププリプレグに含まれるエポキシ樹脂組成物がガイドロールに付着し、その後のスリットテーププリプレグの工程通過性が低下する問題があった。上記プロセスにおいて、スリットテーププリプレグの解舒およびマシンヘッドへの集束は、エポキシ樹脂組成物のガイドロールへの付着を防ぐためにエポキシ樹脂組成物の貯蔵弾性率(以下、G’と称する)がより高くなる低温条件、例えば20℃以下で実施される。また、積層時には基盤とスリットテーププリプレグ、またはスリットテーププリプレグ同士の間に十分な接着性を確保するため、赤外線ヒーター等でスリットテーププリプレグを加熱して温度を上昇させて貼り付けることが多い。
【0006】
特許文献2には、コンクリート構造物及び鋼構造物等の補強に用いるスリットテーププリプレグに関し、強化繊維束に撚りを入れていない一方向プリプレグを、マトリックス樹脂組成物の樹脂反応率が20~70%となるまで硬化させて半硬化プリプレグを得た後、強化繊維の繊維方向に沿って切断する製造方法、および、得られるスリットテーププリプレグは、強化繊維の真直性に優れており、ねじれも生じにくく、また、テープ表面のべたつき(以下、タックと称する)が低減され、取り扱い性に優れることが記載されている。
【0007】
特許文献3には、プリプレグの厚み方向の両表面側に、25℃における粘度が1.0×105~1.0×109Pa・sかつ、ガラス転移温度が7~15℃であるエポキシ樹脂組成物が存在し、厚み方向の中心部に、25℃における粘度が5.0×102~1.0×105Pa・sであるエポキシ樹脂組成物が存在しているスリットテーププリプレグが開示されており、前記エポキシ樹脂組成物のガイドロールへの付着が改善され、かつ優れたドレープ性を有することが記載されている。
【0008】
特許文献4には、23℃、プランジャー押付圧力90kPaで測定したタック値が5~40kPaであり、45℃、プランジャー押付圧力150kPaで測定したタック値が35~100kPaであり、且つ23℃におけるドレープ値が10~40°であるスリットテーププリプレグが開示されており、室温で低粘着性であることによる優れた解舒性とガイドロールやコンパクションロールへの巻き付きの防止性、室温で適度な硬さを持つことによる積層ヘッド部での優れた形状保持性を有することが記載されている。さらに、30~60℃程度の積層ヘッドによる被加熱部分が適度な貼り付き性を有し、自動積層プロセスに好適であることが記載されている。また、特許文献4のスリットテーププリプレグに用いられるエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度は、1.0×104~1.0×10
5Pa・sの範囲であることが好ましい旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2008-517810号公報
【文献】特開2016-155915号公報
【文献】特開2010-229211号公報
【文献】国際公開第WO2017/104823号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載の製造方法は、異なる用途に向けたものであるため、得られたスリットテーププリプレグは、ねじれが生じにくくなる程度にまで硬化を進めたものでありドレープ性が不足していることからガイドロール曲面への追従性が不十分であり、自動積層法へ適用することは困難である。
【0011】
特許文献3および4に記載のスリットテーププリプレグは、室温でプリプレグ同士やプリプレグと金属間が容易に接着する程度のタックが残存しており、タックの低減が十分とは言えない。
【0012】
以上に鑑み、優れたドレープ性を有し、スリットテーププリプレグとした場合に、自動積層法において、スリットテーププリプレグ中に含まれるエポキシ樹脂組成物のガイドロールへの付着を十分に低減し、且つ広範な積層温度域で良好な積層性を示すことで、炭素繊維強化複合材料の生産性を向上させるプリプレグおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明者らが鋭意検討した結果、下記発明に到達した。すなわち、
本発明のプリプレグは、少なくとも下記に示す構成要素[A]~[E]を含むプリプレグであって、
[B]~[D]を含み[E]を実質的に含まない第1エポキシ樹脂組成物と[A]から構成される第1の層の両表面に、[B]~[E]を含む第2エポキシ樹脂組成物から構成される第2の層が隣接した構造であり、第2エポキシ樹脂組成物は、[B]~[E]の総量100質量部に対して、重量平均分子量が2,000~30,000g/molである[D]を5~15質量部含み、角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’が、8.0×105~6.0×106Paかつ、下記式(1)で規定される値が0.085以上であり、示差走査熱量計(DSC)で測定したガラス転移温度が-10℃以上7℃未満であり、
第1エポキシ樹脂組成物および第2エポキシ樹脂組成物の総量100質量部に対して構成要素[D]を1質量部以上10質量部未満含む。
[A]炭素繊維
[B]エポキシ樹脂
[C]硬化剤
[D]熱可塑性樹脂
[E]体積平均粒子径が5~50μmである、熱可塑性樹脂を主成分とする粒子
【0014】
【0015】
また、本発明のスリットテーププリプレグは、上記プリプレグがスリットされてなる。
【0016】
さらに、本発明の炭素繊維強化複合材料は、上記プリプレグまたはスリットテーププリプレグが積層され、硬化されてなる。
【0017】
本発明のプリプレグの製造方法は、
少なくとも下記に示す構成要素[B]~[D]を含む第1エポキシ樹脂組成物を、下記の構成要素[A]に含浸して1次プリプレグを製造し、
その後、少なくとも下記に示す構成要素[B]~[E]を含む第2エポキシ樹脂組成物を、両面から含浸させるプリプレグの製造方法であって、
第2エポキシ樹脂組成物は、[B]~[E]の総量100質量部に対して、重量平均分子量が2,000~30,000g/molである[D]を5~15質量部含み、角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’が、8.0×105~6.0×106Pa、かつ、前記式(1)で規定される値が0.085以上であり、示差走査熱量計(DSC)で測定したガラス転移温度が-10℃以上7℃未満であり、
第1エポキシ樹脂組成物および第2エポキシ樹脂組成物の総量100質量部に対して構成要素[D]を1質量部以上10質量部未満含むことを特徴とする。
[A]炭素繊維
[B]エポキシ樹脂
[C]硬化剤
[D]熱可塑性樹脂
[E]体積平均粒子径が5~50μmである、熱可塑性樹脂を主成分とする粒子
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れたドレープ性を有し、スリットテーププリプレグとした場合に、自動積層法において、スリットテーププリプレグ中に含まれるエポキシ樹脂組成物のガイドロールへの付着を十分に低減し、且つ広範な積層温度域で良好な積層性を示すことで、炭素繊維強化複合材料の生産性を向上させ得るプリプレグおよびその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0020】
本発明のプリプレグは、少なくとも下記に示す構成要素[A]~[E]を含むプリプレグであって、
[B]~[D]を含み[E]を実質的に含まない第1エポキシ樹脂組成物と[A]から構成される第1の層の両表面に、[B]~[E]を含む第2エポキシ樹脂組成物から構成される第2の層が隣接した構造であり、
第2エポキシ樹脂組成物は、[B]~[E]の総量100質量部に対して、重量平均分子量が2,000~30,000g/molである[D]を5~15質量部含み、角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’が、8.0×105~6.0×106Paかつ、前記式(1)で規定される値が0.085以上であり、示差走査熱量計(DSC)で測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度が-10℃以上7℃未満であり、第1エポキシ樹脂組成物および第2エポキシ樹脂組成物の総量100質量部に対して構成要素[D]を1質量部以上10質量部未満含む。
[A]炭素繊維
[B]エポキシ樹脂
[C]硬化剤
[D]熱可塑性樹脂
[E]体積平均粒子径が5~50μmである、熱可塑性樹脂を主成分とする粒子
ここで、第1エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[B]と第2エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[B]は、第1エポキシ樹脂組成物と第2エポキシ樹脂組成物とで、同じであってもよいし異なってもよく、第1エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[C]と第2エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[C]、第1エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[D]と第2エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[D]についても同様である。また、第1エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[C]~[D]の比率、第2エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[C]~[D]の比率、についても、第1エポキシ樹脂組成物と第2エポキシ樹脂組成物とで、同じでも異なってもよい。
【0021】
また、以降の説明では、プリプレグにおける構成要素[A]以外、すなわち、[B]~[D]を含み[E]を実質的に含まない第1エポキシ樹脂組成物、および/または、[B]~[E]を含む第2エポキシ樹脂組成物を総称して、または、プリプレグを硬化した炭素繊維強化複合材料における構成要素[A]以外を総称して、マトリックス樹脂と記す場合がある。
【0022】
かかる構成を採ることにより、本発明のプリプレグの第2の層を構成する第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃のG’が、8.0×105~6.0×106Paと十分に高いため、スリットテーププリプレグとした場合に、自動積層法において、スリットテーププリプレグ中に含まれるエポキシ樹脂組成物のガイドロールへの付着が十分に低減される。
【0023】
さらに、第2エポキシ樹脂組成物が、[B]~[E]を含み、[B]~[E]の総量100質量部に対して、重量平均分子量が2,000~30,000g/molである[D]を5~15質量部含み、前記式(1)で規定される値が0.085以上であるため、前記ガイドロールへのエポキシ樹脂組成物の付着が低減され、且つ広範な積層温度域で良好なプリプレグ同士の接着性を示す。
【0024】
加えて、示差走査熱量計(DSC)で測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度が-10℃以上7℃未満であり、第1および第2エポキシ樹脂組成物の総量100質量部に対して構成要素[D]を1質量部以上10質量部未満含むため、広範な積層温度域で良好なドレープ性を示す。本発明のプリプレグは、上記のとおり良好な接着性とドレープ性を兼ね備えているため、広範な積層温度域で良好な積層性を示す。以上のことから、本発明のプリプレグを用いることにより、炭素繊維強化複合材料の生産性を向上させることが可能となる。
【0025】
以下、各構成要素について詳細を説明する。
【0026】
本発明の構成要素[A]の炭素繊維は、比強度、比弾性率に優れ、かつ、高い導電性を有していることから、優れた力学特性と高導電性が求められる用途に好ましく用いられる。
【0027】
構成要素[A]の炭素繊維の種類は前駆体繊維により分類され、例えば、アクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。
【0028】
かかるアクリル系の炭素繊維は、例えば、次に述べる工程を経て製造することができる。
【0029】
まず、アクリロニトリルを主成分とするモノマーから得られるポリアクリロニトリルを含む紡糸原液を、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、または溶融紡糸法などにより紡糸して凝固糸を得る。次に、凝固糸を、製糸工程を経て、プリカーサー(前駆体繊維)とする。続いてプリカーサーを、耐炎化および炭化などの工程を経て、炭素繊維とすることにより、アクリル系の炭素繊維を得ることができる。なお、ここでいう主成分とはモノマー成分の質量比率が、最も高い成分をいう。
【0030】
構成要素[A]の炭素繊維の形態としては、有撚糸、解撚糸および無撚糸等を使用することができる。有撚糸は炭素繊維束を構成するフィラメントの配向が平行ではないため、得られる炭素繊維強化複合材料の力学特性の低下の原因となることから、炭素繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスがよい解撚糸または無撚糸が好ましく用いられる。
【0031】
構成要素[A]の炭素繊維の引張弾性率は、200~440GPaであることが好ましい。炭素繊維の引張弾性率は、炭素繊維を構成する黒鉛構造の結晶度に影響され、結晶度が高いほど弾性率は向上する。また、導電性も結晶度が高いほど高くなる。構成要素[A]の炭素繊維の引張弾性率がこの範囲であると、炭素繊維強化複合材料の導電性、剛性、強度のすべてが高いレベルでバランスするために好ましい。より好ましい炭素繊維の引張弾性率は、230~400GPaであり、さらに好ましい炭素繊維の引張弾性率は260~370GPaである。ここで、炭素繊維の引張弾性率は、JIS R7601:2006に従い測定された値である。
【0032】
構成要素[A]として用いることができる炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800SC-24000、“トレカ(登録商標)”T800HB-12000、“トレカ(登録商標)”T700SC-24000、“トレカ(登録商標)”T700SC-12000、“トレカ(登録商標)”T300-12000、“トレカ(登録商標)”T1000GB-12000、“トレカ(登録商標)”T1100GC-12000、および“トレカ(登録商標)”T1100GC-24000(以上、東レ(株)製)などが挙げられる。
【0033】
本発明で用いる構成要素[B]は、1分子中に2個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂である。1分子中にグリシジル基が2個未満のエポキシ樹脂の場合、後述する硬化剤と混合した混合物を加熱硬化して得られる硬化物のガラス転移温度が低くなるため好ましくない。本発明で用いられるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルなどの臭素化エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、N,N,O-トリグリシジル-m-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-4-アミノ-3-メチルフェノール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、レゾルシンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレートなどを挙げることができる。中でも、1分子中にグリシジル基を3個以上含むエポキシ樹脂は、高いガラス転移温度や弾性率を有する硬化物が得られるため、航空・宇宙機用途に好適に用いられる。
【0034】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825、
“jER(登録商標)”827、“jER(登録商標)”828、“jER(登録商標)”834、“jER(登録商標)”1001、“jER(登録商標)”1004および“jER(登録商標)”1007(以上、三菱ケミカル(株)製)、“EPICLON(登録商標)”850(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD-128(新日鉄住金化学(株)製)、および“D.E.R.(登録商標)”331や“D.E.R.(登録商標)”332(以上、The Dow Chemical Company製)などが挙げられる。
【0035】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”806、
“jER(登録商標)”807および“jER(登録商標)”1750(以上、三菱ケミカル(株)製)、“EPICLON(登録商標)”830(DIC(株)製)および“エポトート(登録商標)”YDF-170(新日鉄住金化学(株)製)などが挙げられる。
【0036】
1分子中にグリシジル基を3個以上含むエポキシ樹脂の市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、“アラルダイト(登録商標)”MY721、“アラルダイト(登録商標)”MY9512、“アラルダイト(登録商標)”MY9663(以上、Huntsman Corporation製)、“エポトート(登録商標)”YH-434(新日鉄住金化学(株)製)、“スミエポキシ(登録商標)”ELM120、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100(以上、住友化学(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱ケミカル(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0500、“アラルダイト(登録商標)”MY0510および“アラルダイト(登録商標)”MY0600(以上、Huntsman Corporation製)等が挙げられる。
【0037】
これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。任意の温度において流動性を示すエポキシ樹脂と、任意の温度において流動性を示さないエポキシ樹脂を含有することは、得られるプリプレグを熱硬化するときのマトリックス樹脂の流動性制御に有効である。例えば、熱硬化時において、マトリックス樹脂がゲル化するまでの間に示す流動性が大きいと、強化繊維の配向に乱れを生じたり、マトリックス樹脂が系外に流れ出すことにより、繊維質量含有率が所定の範囲から外れたりすることがあり、その結果、得られる炭素繊維強化複合材料の力学物性が低下する可能性がある。また、様々な粘弾性挙動を示すエポキシ樹脂を複数種組み合わせることは、得られるプリプレグのタック性やドレープ性を適切なものとするためにも有効である。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、耐熱性や機械物性に対して著しい低下を及ぼさない範囲であれば、構成要素[B]以外のエポキシ樹脂、例えば1分子中に1個のみのエポキシ基を有するモノエポキシ樹脂や、脂環式エポキシ樹脂などを適宜含有させることができる。
【0039】
本発明の構成要素[C]の硬化剤は、熱もしくはマイクロ波、可視光、赤外光、紫外光、電子線、放射線などによるエネルギー照射によって、エポキシ樹脂と反応しうる活性基を有する化合物であればよい。エポキシ樹脂と反応しうる活性基としては例えばアミノ基、酸無水基を有するものを用いることができる。エポキシ樹脂の硬化剤はそれを含有するプリプレグの保存安定性が高いほど好ましく、23℃で固形であることがプリプレグの保存安定性の向上の観点から好ましい。ここで固形であるとは、少なくともガラス転移温度もしくは融点のどちらか一方が23℃以上であり、23℃で実質的に流動性を示さないものを指す。
【0040】
前記構成要素[C]は芳香族アミン化合物であることが好ましく、耐熱性、および力学特性の観点から、分子内に1~4個のフェニル基を有することが好ましい。さらに、分子骨格の屈曲性を付与することで樹脂弾性率が向上し力学特性向上に寄与できることから、エポキシ樹脂硬化剤の骨格に含まれる少なくとも1個のフェニル基がオルト位またはメタ位にアミノ基を有するフェニル基である芳香族ポリアミン化合物であることが好ましい。また、耐熱性の観点から、2個以上のフェニル基がパラ位にアミノ基を有するフェニル基である芳香族ポリアミン化合物が好ましく用いられる。このような芳香族ポリアミン類の具体例を挙げると、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、メタキシリレンジアミン、(p-フェニレンメチレン)ジアニリンやこれらのアルキル置換体などの各種誘導体やアミノ基の位置の異なる異性体などが挙げられる。中でも、航空、宇宙機用途などの場合、耐熱性、弾性率に優れ、さらに線膨張係数および吸湿による耐熱性の低下が小さい硬化物が得られる4,4’-ジアミノジフェニルスルホンおよび3,3’-ジアミノジフェニルスルホンが用いることが好ましい。これらの芳香族アミン化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、他構成要素との混合時は粉体、液体いずれの形態でも良く、粉体と液体の芳香族アミン化合物を混合して用いてもよい。
【0041】
芳香族アミン化合物の市販品としては、“セイカキュア(登録商標)”-S(セイカ(株)製)、MDA-220(三井化学(株)製)、“LONZACURE(登録商標)”M-DIPA(Lonza製)、および“LONZACURE(登録商標)”M-MIPA(Lonza製)および3,3’-DAS(三井化学(株)製)などが挙げられる。
【0042】
構成要素[C]として芳香族アミンを用いる場合の含有量は、耐熱性や力学特性の観点から、芳香族アミン化合物の活性水素のモル数を、プリプレグ中に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基のモル数に対して0.6~1.2倍とすることが好ましく、0.8~1.1倍とすればより好ましい。0.6倍に満たない場合、硬化物の架橋密度が十分でない場合があるため、弾性率、耐熱性が不足し、炭素繊維強化複合材料の静的強度特性が不足する場合がある。1.2倍を超える場合、硬化物の架橋密度が高くなり、塑性変形能力が小さくなり、炭素繊維複合材料の耐衝撃性が不十分となる場合がある。
【0043】
本発明のプリプレグは、構成要素[C]に加えて、エポキシ樹脂組成物の耐熱性と熱安定性を損ねない範囲で硬化促進剤や可視光や紫外光で活性化する重合開始剤を含有してもよい。硬化促進剤としては、例えば、三級アミン、ルイス酸錯体、オニウム塩、イミダゾール化合物、尿素化合物、ヒドラジド化合物、スルホニウム塩などが挙げられる。硬化促進剤や重合開始剤の含有量は、使用する種類により適宜調整する必要があるが、エポキシ樹脂総量100質量部に対して10質量部以下、好ましくは5質量部以下である。硬化促進剤の含有量をかかる範囲以下にすると、硬化促進剤や重合開始剤がかかる範囲で含有されている場合、炭素繊維強化複合材料を成形する際の温度ムラが生じにくいために好ましい。
【0044】
構成要素[D]の熱可塑性樹脂は、構成要素[B]のエポキシ樹脂に可溶性であることが好ましい。また、前記構成要素[D]を含有することにより、マトリックス樹脂と炭素繊維との接着性を改善する効果が期待できることから、前記構成要素[D]として水素結合性の官能基を有する熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。水素結合性の官能基としては、アルコール性水酸基、アミド結合、スルホニル基、カルボニル基、カルボキシル基などを挙げることができる。
【0045】
ここでいう「エポキシ樹脂に可溶性である」とは、熱可塑性樹脂[D]をエポキシ樹脂に混合し、加熱撹拌することで均一相をなす温度領域があることを指す。「均一相をなす」とは、目視で分離のない状態が得られることを指す。ある温度領域で均一相が形成可能であれば、それ以外の温度領域で分離が起こっても構わない、たとえば加熱時にエポキシ樹脂に熱可塑性樹脂[D]が溶解すれば、降温した時に23℃で分離が起こっても、「エポキシ樹脂に可溶性である」とみなして構わない。また、以下の方法で確認し溶解したと判断してもよい。すなわち、熱可塑性樹脂[D]の粉体をエポキシ樹脂に混合し、熱可塑性樹脂[D]のガラス転移温度より低い温度で数時間、例えば2時間等温保持したときの粘度変化を評価したときに、エポキシ樹脂のみを同様に等温保持したときの粘度から5%以上増加した場合、熱可塑性樹脂[D]がエポキシ樹脂に可溶性であると判断してよい。
【0046】
アルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂などを挙げることができる。
【0047】
アミド結合を有する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。
【0048】
スルホニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどを挙げることができる。
【0049】
カルボニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトンなどの芳香族ポリエーテルケトンなどを挙げることができる。
【0050】
カルボキシル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミドなどを挙げることができる。カルボキシル基は、主鎖または末端のいずれか、あるいはその両方に有していてもよい。
【0051】
上記のうち、ポリアミド、ポリイミドおよびポリスルホンは主鎖にエーテル結合、カルボニル基などの官能基を有してもよい。また、ポリアミドは、アミド基の窒素原子に置換基を有してもよい。
【0052】
エポキシ樹脂に可溶性である熱可塑性樹脂で、かつ水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂の市販品としては、ポリビニルアセタール樹脂として“Mowital(登録商標)”((株)クラレ製)、“ビニレック(登録商標)”K(JNC(株)製)、ポリビニルアルコール樹脂として“デンカ ポバール(登録商標)”(デンカ(株)製)、ポリアミド樹脂として“マクロメルト(登録商標)”(Henkel製)、“アミラン(登録商標)”CM4000(東レ(株)製)、ポリイミドとして“ウルテム(登録商標)”(SABIC製)、“オーラム(登録商標)”(三井化学(株)製)、“ベスペル(登録商標)”(Du Pont製)ポリエーテルエーテルケトンポリマーとして“Victrex(登録商標)”(Victrex製)、ポリスルホンとして“UDEL(登録商標)”(Solvay製)、ポリビニルピロリドンとして、“ルビスコール(登録商標)”(BASF製)などを挙げることができる。
【0053】
前記エポキシ樹脂に可溶性である熱可塑性樹脂の別の好適な例として、ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂が挙げられる。構成要素[D]として、ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂を用いることで、得られるプリプレグのタックの制御、プリプレグを加熱硬化するときのマトリックス樹脂の流動性の制御および得られる炭素繊維強化複合材料の耐熱性や弾性率を損なうことなく靭性を付与することができる。
【0054】
かかるポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルスルホンなどを挙げることができ、これらのポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
なかでも、良好な耐熱性を得るためには、前記ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)が少なくとも150℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましい。前記ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂のガラス転移温度が、150℃未満であると、成形体として用いたときに熱による変形を起こしやすくなる場合がある。
【0056】
前記ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂の末端官能基は、カチオン重合性化合物と反応することができることから、水酸基、カルボキシル基、チオール基、酸無水物などが好ましい。
【0057】
かかる末端官能基を有する、ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂の市販品として、ポリエーテルスルホンの市販品である“スミカエクセル(登録商標)”PES3600P、“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P、“スミカエクセル(登録商標)”PES5200P、“スミカエクセル(登録商標)”PES7200P(以上、住友化学工業(株)製)、“Virantage(登録商標)”VW-10200RFP、“Virantage(登録商標)”VW-10300FP、“Virantage(登録商標)”VW-10700RFP(以上、Solvay製)などを使用することができ、また、特表2004-506789号公報に記載されるようなポリエーテルスルホンとポリエーテルエーテルスルホンの共重合体オリゴマー、さらにポリエーテルイミドの市販品である“ウルテム(登録商標)”1000、“ウルテム(登録商標)”1010、“ウルテム(登録商標)”1040(以上、SABIC製)などが挙げられる。なお、ここでいうオリゴマーとは10個から100個程度の有限個のモノマーが結合した重合体を指す。
【0058】
中でも、エポキシ樹脂への可溶性、耐熱性、耐溶剤性、靭性付与の観点から、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンが好ましい。
【0059】
本発明のプリプレグの第2の層を構成する第2エポキシ樹脂組成物は、[B]~[E]の総量100質量部に対して、重量平均分子量が2,000~30,000g/molの範囲である構成要素[D]を5~15質量部含むことが必須であり、該第2エポキシ樹脂組成物における構成要素[D]の好ましい重量平均分子量の範囲は10,000~27,000g/molであり、より好ましくは15,000~25,000g/molの範囲であり、さらに好ましくは17,000~23,000g/molの範囲である。
【0060】
ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定し、ポリスチレンで換算した重量平均分子量を指す。かかる重量平均分子量が2,000g/molより低いと、炭素繊維強化複合材料のモードI層間靭性が不足する場合がある。また、30,000g/molより高いと、前記式(1)で規定される値が小さくなり、自動積層機における工程通過性および積層性の両立が困難となる場合がある。
【0061】
また、重量平均分子量が2,000~30,000g/molの範囲である構成要素[D]の好ましい含有量は、[B]~[E]の総量100質量部に対して7~13質量部、より好ましくは8~12質量部、さらに好ましくは9~11質量部である。5質量部未満となると、得られる炭素繊維強化複合材料のモードI層間靭性が不足する場合がある。また、15質量部より多くなると、前記式(1)で規定される値が小さくなり、自動積層機における工程通過性および積層性の両立が困難となる場合がある。
【0062】
以上のように、前記構成要素[D]の重量平均分子量と含有量を上記の範囲にすることにより、スリットテーププリプレグとした場合に、自動積層法において、スリットテーププリプレグ中に含まれるエポキシ樹脂組成物がガイドロールへ付着することを十分に抑制し、且つ広範な積層温度域で良好な積層性を示すプリプレグが得られる。
【0063】
なお、本発明の効果を失わない範囲において、第2エポキシ樹脂組成物は、重量平均分子量が2,000~30,000g/molの範囲外の構成要素[D]を含んでも差し支えない。
【0064】
また、第1エポキシ樹脂組成物中の構成要素[D]の重量平均分子量は特に限定されないが、2,000~60,000g/molの範囲にあることが好ましく、より好ましくは10,000~55,000g/mol、さらに好ましくは15,000~50,000g/mol、特に好ましくは15,000~30,000g/molである。かかる重量平均分子量が2,000g/molよりも低いと、炭素繊維強化複合材料の引張強度が不足する場合がある。また、60,000g/molより高いと、エポキシ樹脂組成物に熱可塑性樹脂を溶解した際、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなり混練が難しく、プリプレグ化が困難となる場合がある。
【0065】
第1および第2エポキシ樹脂組成物中の構成要素[D]の含有量は、第1および第2エポキシ樹脂組成物の総量100質量部に対して、1質量部以上10質量部未満であることが必須であり、好ましくは2質量部以上9質量部未満、より好ましくは4質量部以上8質量部未満、さらに好ましくは6質量部以上7質量部未満である。1質量部未満となると、得られる炭素繊維強化複合材料の引張強度が不足する場合がある。また、10質量部より多くなると、プリプレグのドレープ性が不足する場合がある。
【0066】
以上のように、前記構成要素[D]の重量平均分子量と含有量を上記の範囲にすることにより、優れたドレープ性を有し、スリットテーププリプレグとした場合に、自動積層法において、スリットテーププリプレグ中に含まれるエポキシ樹脂組成物のガイドロールへの付着を十分に低減し、且つ広範な積層温度域で良好な積層性を示すプリプレグが得られる。
【0067】
本発明の構成要素[E]である熱可塑性樹脂を主成分とする粒子は、本発明のプリプレグの第2の層を構成する第2エポキシ樹脂組成物中に含まれることで、前記式(1)ので規定される値を小さくすることなく、第2エポキシ樹脂組成物のG’を向上させることができる。加えて、本発明のプリプレグを硬化することで得られる炭素繊維強化複合材料に優れた耐衝撃性を付与することができる。
【0068】
なお、ここでいう熱可塑性樹脂を主成分とする粒子とは、粒子を構成する成分のうち、熱可塑性樹脂の質量比率が最も高い粒子のことをいい、熱可塑性樹脂のみからなる熱可塑性樹脂粒子も含む。
【0069】
本発明の構成要素[E]の熱可塑性樹脂を主成分とする粒子に用いられる熱可塑性樹脂しては、エポキシ樹脂に溶解して用いる熱可塑性樹脂として先に例示した各種の熱可塑性樹脂と同様の種類のものが挙げられる。なかでも、優れた靭性のため炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性を大きく向上できるポリアミド粒子は特に好ましい。ポリアミド粒子のなかでも、ポリアミド12、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド66、ポリアミド6/12共重合体、特開平1-104624号公報の実施例1記載のエポキシ化合物にてセミIPN化されたポリアミド(セミIPNポリアミド)は特に良好なエポキシ樹脂との接着強度を与える。ここで、IPNとは相互侵入高分子網目構造体(Interpenetrating Polymer Network)の略称で、ポリマーブレンドの一種である。ブレンド成分ポリマーが橋架けポリマーであって、それぞれの異種橋架けポリマーが部分的あるいは全体的に相互に絡み合って多重網目構造を形成しているものをいう。セミIPNとは、橋架けポリマーと直鎖状ポリマーによる重網目構造が形成されたものである。セミIPN化した熱可塑性樹脂を主成分とする粒子は、例えば熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を共通溶媒に溶解させ、均一に混合した後、再沈等により得ることができる。エポキシ樹脂とセミIPN化したポリアミドからなる粒子を用いることにより、優れた耐熱性と耐衝撃性をプリプレグに付与することができる。
【0070】
熱可塑性樹脂を主成分とする粒子として、さらにエポキシ樹脂を混合し作製した粒子を用いた場合、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂組成物との接着性が向上し炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が向上することからさらに好ましい。このようなエポキシ樹脂を混合し作製したポリアミド粒子の市販品として、SP-500、SP-10、TR-1、TR-2(以上、東レ(株)製)、“オルガソル(登録商標)”1002D、“オルガソル(登録商標)”2001UD、“オルガソル(登録商標)”2001EXD、“オルガソル(登録商標)”2002D、“オルガソル(登録商標)”3202D、“オルガソル(登録商標)”3501D、“オルガソル(登録商標)”3502D、(以上、Arkema製)等を使用することができる。
【0071】
これら熱可塑性樹脂を主成分とする粒子の形状としては、球状でも非球状でも多孔質でも針状でもウイスカー状でも、またはフレーク状でもよいが、球状の方が、エポキシ樹脂の流動特性を低下させないため、炭素繊維への含浸性が優れることや、炭素繊維強化複合材料への落錘衝撃(または局所的な衝撃)時、局所的な衝撃により生じる層間剥離がより低減されるため、かかる衝撃後の炭素繊維強化複合材料に応力がかかった場合において、応力集中による破壊の起点となる前記局所的な衝撃に起因して生じ層間剥離部分がより少なく、高い耐衝撃性を発現する炭素繊維強化複合材料が得られることから好ましい。
【0072】
また、熱可塑性樹脂を主成分とする粒子の中には、硬化の過程でマトリックス樹脂に溶解しないことで、より高い改質効果を発現するものがある。硬化の過程で溶解しないことは、硬化時の樹脂の流動性を保ち含浸性を向上させることにも効果的であるため、上記熱可塑性樹脂を主成分とする粒子としては、硬化の過程でマトリックス樹脂に溶解しないものが好ましく用いられる。
【0073】
本発明のプリプレグを硬化することで得られる炭素繊維強化複合材料の層間樹脂層を選択的に高靭性化するためには、構成要素[E]の熱可塑性樹脂を主成分とする粒子を、プリプレグ製造時にはプリプレグの表面領域に留めておき、プリプレグの積層されたものを加熱加圧して硬化する際には層間樹脂層に留めておく必要がある。そのためには構成要素[E]の体積平均粒子径が5~50μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは7~40μmの範囲、さらに好ましくは10~30μmの範囲である。体積平均粒子径を5μm以上とすることで、プリプレグ製造時に1次プリプレグの両側から第2エポキシ樹脂組成物を含浸させる際やプリプレグが積層されたものを成形時に加熱加圧した場合に構成要素[E]が構成要素[A]である炭素繊維の束の中に侵入せず、得られる炭素繊維強化複合材料の層間樹脂層に留まることができる。また、体積平均粒子径を50μm以下とすることでプリプレグ表面のマトリックス樹脂層の厚みを適正化し、ひいては得られる炭素繊維強化複合材料において、構成要素[A]である炭素繊維の体積含有率を適正化することができる。
【0074】
ここで、体積平均粒子径は、構成要素[E]をデジタルマイクロスコープVHX-5000((株)キーエンス製)にて1000倍以上に拡大して観察を行い、無作為に選んだ100個の粒子について、その粒子の外接する円の直径を粒子径として計測後、式(2)に基づいて算出される。
【0075】
【0076】
なお、Di:粒子個々の粒子径、n:測定数(100)、Dv:体積平均粒子径とする。
【0077】
本発明のプリプレグを硬化することで得られる炭素繊維強化複合材料の優れた耐衝撃性をさらに強化するために、本発明には、構成要素[A]~[E]に加えて、ゴム粒子を加えてもよい。
【0078】
本発明で用いられるゴム粒子としては、公知の天然ゴムや合成ゴムを用いることができる。特に熱硬化性樹脂に不溶な架橋ゴム粒子が好ましく用いられる。熱硬化性樹脂に不溶であれば、その硬化物の耐熱性が、粒子を含まない熱硬化性樹脂の硬化物の耐熱性と同等になる。また、熱硬化性樹脂の種類や硬化条件の違いによりモルホロジーが変化することがないため、靭性などの安定した熱硬化性樹脂硬化物の物性を得ることができる。架橋ゴム粒子としては、例えば、単独のあるいは複数の不飽和化合物との共重合体、あるいは、単独のあるいは複数の不飽和化合物と架橋性モノマーを共重合して得られる粒子を使用することができる。
【0079】
不飽和化合物としては、エチレン、プロピレンなどの脂肪族オレフィン、スチレン、メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、ブタジエン、ジメチルブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどの共役ジエン化合物、アクリル酸メチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルなどの不飽和カルボン酸エステル、アクリロニトリルなどのシアン化ビニルなどを使用することができる。さらにカルボキシル基、エポキシ基、水酸基およびアミノ基、アミド基などのエポキシ樹脂あるいは硬化剤と反応性を有する官能基を有する化合物を用いることもできる。例としては、アクリル酸、グリシジルメタクリレート、ビニルフェノール、ビニルアニリン、アクリルアミドなどを使用することができる。
【0080】
架橋性モノマーの例としては、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、エチレングリコールジメタアクリレートなどの分子内に重合性二重結合を複数個有する化合物を使用することができる。
【0081】
これらの粒子は、例えば乳化重合法、懸濁重合法などの従来公知の各種重合方法により製造することができる。代表的な乳化重合法は、不飽和化合物や架橋性モノマーを過酸化物などのラジカル重合開始剤、メルカプタン、ハロゲン化炭化水素などの分子量調整剤、乳化剤の存在下で乳化重合を行い、所定の重合転化率に達した後、反応停止剤を添加して重合反応を停止させ、次いで重合系の未反応モノマーを水蒸気蒸留などで除去することによって共重合体のラテックスを得る方法である。乳化重合法で得られたラテックスから水を除去して架橋ゴム粒子が得られる。
【0082】
架橋ゴム粒子の例としては、架橋アクリロニトリルブタジエンゴム粒子、架橋スチレンブタジエンゴム粒子、アクリルゴム粒子、コアシェルゴム粒子などが挙げられる。コアシェル型ゴム粒子とは、中心部と表層部が異なるポリマーからなる球状ポリマー粒子で、単にコア相と単一のシェル相の二相構造からなるもの、あるいは例えば内側からソフトコア、ハードシェル、ソフトシェルおよびハードシェルとなる構造のように複数のシェル相を有する多相重構造からなるマルチコアシェルゴム粒子などが知られている。ここでソフトとは、上記記載のゴムの相であること、ハードとは、ゴムではない樹脂の相であることを意味する。
【0083】
架橋ゴム粒子の市販品として、架橋アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)粒子の具体例としては、XER-91(JSR(株)製)、“DuoMod(登録商標)”DP5045(ゼオンコーポレーション(株)製)などが挙げられる。架橋スチレンブタジエンゴム(SBR)粒子の具体例としては、XSK-500(JSR(株)製)などが挙げられる。アクリルゴム粒子の具体例としては、“メタブレン(登録商標)”W300A、“メタブレン(登録商標)”W450A(以上、三菱ケミカル(株)製)、コアシェル型ゴム粒子の具体例としては、スタフィロイドAC3832、スタフィロイドAC3816N(以上、ガンツ化成(株)製)、“メタブレン(登録商標)”KW-4426(三菱ケミカル(株)製)、“PARALOID(登録商標)”EXL-2611、“PARALOID(登録商標)”EXL-3387、“PARALOID(登録商標)”EXL-2655、“PARALOID(登録商標)”EXL-2314(以上、ローム・アンド・ハース(株)製)、スタフィロイドAC-3355、スタフィロイドTR-2105、スタフィロイドTR-2102、スタフィロイドTR-2122、スタフィロイドIM-101、スタフィロイドIM-203、スタフィロイドIM-301、スタフィロイドIM-401(以上、ガンツ化成(株)製)等が挙げられる。架橋ゴム粒子は、単独でも、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0084】
本発明のプリプレグ中のエポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、カップリング剤や、熱硬化性樹脂粒子、あるいはシリカゲル、カーボンブラック、クレー、カーボンナノチューブ、カーボン粒子、金属粉体といった無機フィラー等を含有することができる。カーボンブラックとしては、例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラックおよびケッチェンブラック等が挙げられる。
【0085】
本発明のプリプレグをスリットテーププリプレグとした場合に、自動積層法において、スリットテーププリプレグ中に含まれるエポキシ樹脂組成物のガイドロールへの付着が十分に低減されるという効果を奏するためには、本発明のプリプレグの第2の層を構成する第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃のG’が、8.0×105~6.0×106Paの範囲にあることが必須である。好ましくは1.2×106~5.0×106Paの範囲であり、より好ましくは1.6×106~4.0×10
6Paの範囲である。自動積層法において、スリットテーププリプレグがガイドロール上を通過する際の上限温度は室温付近であるため、前記G’が25℃において上記範囲にあると、自動積層法におけるガイドロールへ第2エポキシ樹脂組成物が接触した際に、該エポキシ樹脂組成物が変形しづらく、ガイドロールとの接触面積が増加しづらいことに加え、該エポキシ樹脂組成物の凝集力が十分に高いために該エポキシ樹脂組成物の凝集破壊ではなく、該エポキシ樹脂組成物とガイドロール間での界面破壊が生じやすく、樹脂の脱落が抑制される。前記G’が、8.0×105Paより低いと、自動積層法におけるガイドロールへ第2エポキシ樹脂組成物が接触した際に、該エポキシ樹脂組成物が変形しやすく、ガイドロールとの接触面積が増加しやすくなるために該エポキシ樹脂組成物の付着量が多くなり、清掃頻度が高く生産性が低下する。さらに、G’が低いため、タック過剰による、貼りなおしの作業効率の悪化や、樹脂の沈み込みにより、良好なタックを維持できる時間(タックライフと記す場合もある)が減少する。6.0×106Paより高いと、ガイドロールへスリットテープを擦過させた際に、テープ表面に樹脂粉が発生し、脱落した樹脂粉の清掃が必要となるため、生産性が低下するのに加え、ドレープ性が低下し、ハンドリング性も低下する。
【0086】
なお、ここでいう25℃、角周波数3.14rad/sで測定したG’とは、パラレルプレートを装着した動的粘弾性測定装置(例えば、ARES:TA Instruments製など)を用い、測定開始温度10℃、パラレルプレート直径8mm、パラレルプレート間隔1mm、角周波数3.14rad/s、1.7℃/分の昇温速度でオートストレインモードでの昇温測定を行うことで得られるG’曲線より、25℃におけるG’を読み取ったものをいう。また、該G’曲線上の任意の温度において読み取ったG’を、その温度におけるG’という。
【0087】
また、後述のナノインデンテーション法により求めた貯蔵弾性率E’を、下記式(3)を用いて変換することで、角周波数3.14rad/sで測定した任意の温度におけるG’を算出してもよい。
【0088】
【0089】
ナノインデンテーション法によって貯蔵弾性率E’を求める手順は、以下のとおりである。ダイヤモンド製三角錐圧子を装着した高精度超微小硬度計(例えば、Triboindenter TI950:Hysitron製など)を用い、所望のG’と同じ温度において、押し込み深さが約1μmとなるような静的負荷で、樹脂サンプルまたはプリプレグサンプルに圧子を接触させる。次いで、周波数120Hzで約3秒間動的測定を実施した後、荷重を除去する。上記測定時に計測される変位の振動振幅、位相差および励起振動振幅から、測定系スチフネスKが算出され、Kおよび圧子とサンプルの複合弾性率の関係から、貯蔵弾性率E’が求められる。
【0090】
さらに、下記の方法で第2エポキシ樹脂組成物を採取した後、上記G’の測定や後述の第2エポキシ樹脂組成物にかかる測定を行ってもよい。すなわち、10cm角にカットしたプリプレグの四辺を耐熱テープで約5mmずつマスキングし、2枚の“ルミラー(登録商標)”S10 #188(東レ(株)製)で上下から挟み、70℃のホットプレート上で30秒間加熱後、そのまま2kgの圧着ローラーで全体を1往復した後に、上記“ルミラー(登録商標)”をプリプレグから引き剥がすことで、“ルミラー(登録商標)”上に転写された樹脂をスパチュラ等で掻き取る。この操作を、測定に必要量の第2エポキシ樹脂組成物が採取できるまで繰り返す。
【0091】
自動積層法において、スリットテーププリプレグは、一般的に40℃付近で積層されるため、スリットテーププリプレグの貼り付き性を議論する上では、積層温度における第2エポキシ樹脂組成物の変形しやすさ、つまり、40℃における第2エポキシ樹脂組成物のG’が重要となることが、本発明者らが鋭意検討した結果より見出された。
【0092】
エポキシ樹脂組成物のガイドロールへの付着を十分に低減し、且つ広範な積層温度域で良好なプリプレグ同士の接着性を示すという効果を奏するためには、本発明のプリプレグの第2の層を構成する第2エポキシ樹脂組成物について、前記式(1)で規定される値が0.085以上であることが必須である。好ましくは0.090以上であり、より好ましくは0.095以上である。かかる値が0.085よりも小さいと、室温で十分な工程通過性を確保した場合に、30~40℃付近で十分なプリプレグ同士の接着性が得られず、自動積層機を用いた積層が困難になる場合がある。また、その上限としては、0.200以下であることが好ましい。より好ましくは0.180以下であり、さらに好ましくは0.160以下である。かかる値が0.200よりも大きいと、良好なプリプレグ同士の接着性が得られる積層温度域が限定的になる場合がある。
【0093】
また、エポキシ樹脂組成物のガイドロールへの付着を十分に低減し、且つ広範な積層温度域で良好なプリプレグ同士の接着性を示すという効果をより効果的に奏するためには、本発明の第2エポキシ樹脂組成物が、35~50℃の所望の積層温度域のいずれの温度においても、下記式(4)で規定される値が0.085以上であることが好ましい。より好ましくは0.090以上であり、さらに好ましくは0.095以上である。
【0094】
【0095】
このとき、積層温度における第2エポキシ樹脂組成物のG’は、4.0×103~1.6×105Paの範囲にあることが好ましい。より好ましくは5.0×103~1.2×105Paの範囲であり、さらに好ましくは6.0×103~9.0×104の範囲である。積層温度における第2エポキシ樹脂組成物のG’が上記範囲にあると、良好なプリプレグ同士の接着性が得られやすい。
【0096】
本発明のプリプレグは、第2の層を構成する第2エポキシ樹脂組成物について、示差走査熱量計(DSC)で測定したガラス転移温度が-10℃以上7℃未満の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、-8℃以上6.5℃未満の範囲であり、さらに好ましくは、-6℃以上6℃未満の範囲である。ガラス転移温度がこの範囲にあると、良好なドレープ性を有しつつ、且つプリプレグの工程通過性を改善する上記G’の条件を達成しやすくなる。
【0097】
なお、ここでいうガラス転移温度は、DSC(例えば、TA Instruments製DSC Q-2000)を用い、窒素雰囲気下、-50℃で1分間保持した後、350℃までの温度範囲を、平均昇温速度5℃/分、モジュレイション周期40秒、モジュレイション振幅±0.5℃で1回昇温させたときに得られるDSC曲線において、JIS K7121:1987に基づいて、低温側及び高温側のベースラインを延長したそれぞれの直線に対し縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度である。
【0098】
ここで、DSC曲線とは、縦軸に試験片と基準物質の温度が等しくなるように両者に加えた単位時間当たりの熱エネルギーの入力の差を、横軸に温度をとった示差走査熱量測定において描かれる曲線のことを指す。
【0099】
本発明のプリプレグは、エポキシ樹脂組成物と炭素繊維とを複合させたものである。本発明のプリプレグは本発明の効果を発揮できる点においてホットメルト法で作製される。ホットメルト法とは、溶媒を用いずに、加熱によりエポキシ樹脂組成物を低粘度化し、炭素繊維に含浸させる方法である。ホットメルト法には、加熱により低粘度化したマトリックス樹脂を直接炭素繊維に含浸する方法、または、マトリックス樹脂を離型紙等の上に塗布した樹脂フィルム付きの離型紙シートをまず作製し、次いで、これを炭素繊維の両側あるいは片側から重ねて、加熱加圧してマトリックス樹脂を炭素繊維に含浸させる方法等がある。上記の方法により、一般にはシート状のプリプレグが得られるが、炭素繊維ストランドに直接、低粘度化した樹脂組成物に浸漬し、テープ状もしくは糸状のプリプレグを得てもよい。
【0100】
本発明のプリプレグは、[B]~[D]を含み[E]を実質的に含まない第1エポキシ樹脂組成物と[A]から構成される第1の層の両表面に、[B]~[E]を含む第2エポキシ樹脂組成物から構成される第2の層が隣接した構造であり、第2の層を構成する第2エポキシ樹脂組成物が前述の特徴を有するものであるため、自動積層機における工程通過性および積層性の両立に必要な特性を、マトリックス樹脂の成分の種類や各成分の含有量に制限されることなく、工業的に有利にプリプレグへ付与することが可能となる。
【0101】
ここでいう「第1エポキシ樹脂組成物と[A]から構成される第1の層」とは、主として第1エポキシ樹脂組成物と構成要素[A]から構成され、プリプレグの断面を観察したときに、プリプレグ中の構成要素[E]の総量100質量%に対して、第1の層に構成要素[E]の1質量%未満が存在する領域のことを指す。すなわち、「[E]を実質的に含まない」とは、プリプレグ中の構成要素[E]の総量100質量%に対して、第1の層に構成要素[E]の1質量%未満が存在することを指し、極少量の構成要素[E]が混在していてもよい。第1の層と第2の層の境界は、後述する第1の層と第2の層の界面を基準として判断する。
【0102】
また、ここでいう「第2エポキシ樹脂組成物から構成される第2の層」とは、プリプレグの断面を観察したときに、プリプレグ中の構成要素[E]の総量100質量%に対して、第2の層に構成要素[E]の99質量%以上が存在する領域のことを指す。
【0103】
さらに、ここでいう「第1の層の両表面に第2の層が隣接した構造」とは、第1の層が上下から第2の層に挟まれたサンドウィッチ構造のことを指す。このとき、第1の層と第2の層の界面は、明瞭に観察されてもよいし、観察されなくてもよい。第1の層と第2の層の界面が明瞭に観察されない場合は、各表面側における構成要素[E]の量に着目し、総量100質量%に対し99質量%~100質量%となる表面と平行な面のうち第2の層の側に構成要素[A]が含まれる量が最も少ない面を界面とする。
【0104】
プリプレグの断面は、例えば、下記の方法で観察することができる。すなわち、プリプレグを2枚の表面の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板の間に挟持して密着させ、7日間かけて徐々に硬化温度まで温度を上昇させてゲル化、硬化させて板状のプリプレグ硬化物を作製する。このプリプレグ硬化物を、デジタルマイクロスコープVHX-5000((株)キーエンス製)にて200倍以上に拡大して観察を行う。
【0105】
構成要素[E]の存在割合は、例えば、下記の方法で評価することができる。プリプレグの断面観察から得られる断面写真において、プリプレグ全域の構成要素[E]の合計面積と任意の領域に存在する構成要素[E]の面積から存在割合を計算する。ここで、構成要素[E]の合計面積は、断面写真から公知の画像解析手法や構成要素[E]の部分を刳り抜き、その質量から換算して求めることができる。樹脂中に分散する構成要素[E]の写真撮影後の判別が困難な場合は、構成要素[E]を染色する手段も採用できる。
【0106】
また、本発明のプリプレグには、プリプレグに適度なドレープ性を与えるために、25℃における第1エポキシ樹脂組成物の粘度が1.0×103~1.0×105Pa・sの範囲であることが好ましい。粘度が1.0×103Pa・sより低いと、第1エポキシ樹脂組成物がプリプレグの中心部に沈み込み易くなり、タックライフが損なわれ、粘度が1.0×105Pa・sを超えるとドレープ性が損なわれる。かかる観点から、25℃における第1エポキシ樹脂組成物の粘度は、2.0×103~2.0×104Pa・sの範囲であることがより好ましい。また、ドレープ性とタックライフの観点から、本発明のプリプレグの第1の層の存在範囲としては、プリプレグの平均厚みの30~90%の範囲であることが好ましく、より好ましくは40~80%の範囲であり、50~70%の範囲であればさらに好ましい。
【0107】
かかる第1エポキシ樹脂組成物を第1の層に存在せしめる手段としては、あらかじめ第1エポキシ樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングした樹脂フィルム付きの離型紙シート(以降、単に「樹脂フィルム」と記すこともある)を作製し、次いで炭素繊維の両側あるいは片側からその樹脂フィルム付きの離型紙シートの樹脂フィルム面を炭素繊維側にして重ね、加熱加圧することにより炭素繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させた主として第1の層のベースとなる1次プリプレグを作製し、その後、1次プリプレグを作製したときと同様にして、1次プリプレグの両面から主として第2の層のベースとなる第2エポキシ樹脂組成物を含浸させてプリプレグを得る。なお、第2エポキシ樹脂組成物を含浸させてプリプレグを得るに当たっては、1次プリプレグを作製する時と同様に、あらかじめ第2エポキシ樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングした樹脂フィルムを作製し、次いで炭素繊維の両側からその樹脂フィルム付きの離型紙シートの樹脂フィルム面を炭素繊維側にして重ね、加熱加圧することにより、プリプレグとすることができる。このとき、1次プリプレグは、一旦巻き取った後、巻出して第2エポキシ樹脂組成物を含浸させてもよいし、炭素繊維に第1エポキシ樹脂組成物を含浸させて1次プリプレグとした直後に引き続いて第2エポキシ樹脂組成物を含浸させてもよい。かかるプリプレグの形態とすることにより、第1の層に存在する第1エポキシ樹脂組成物の粘度が充分低いため、優れたドレープ性を得ることが出来る。
【0108】
樹脂フィルム作製時の加工性の観点から、第2エポキシ樹脂組成物の85℃における粘度は10~300Pa・sであることが好ましい。より好ましくは20~200Pa・s、さらに好ましくは30~100Pa・sである。85℃における粘度が10Pa・sより低いと含浸性は良好であるが、樹脂が流動しやすく、樹脂フィルム付きの離型紙シートを重ねて加圧しプリプレグとするときに離型紙シートの端部から樹脂が流れでてプリプレグ化の加工性が悪化するため好ましくない。85℃における粘度が300Pa・sより高いと加工性が悪化し、均一な樹脂フィルムが得られない場合があるため好ましくない。
【0109】
なお、ここでいう25℃または85℃における粘度とは、パラレルプレートを装着した動的粘弾性測定装置(例えば、ARES:TA Instruments製など)を用い、測定開始温度20℃、パラレルプレート直径40mm、パラレルプレート間隔1mm、角周波数3.14rad/s、1.7℃/分の昇温速度で、オートストレインモードでの昇温測定を行うことで得られる温度-粘度曲線より、25℃または85℃における粘度を読み取ったものをいう。
【0110】
また、本発明のプリプレグは、上記のような2段階の含浸プロセスではなく、1段階の含浸プロセスで製造してもよい。例えば、あらかじめ第2エポキシ樹脂の樹脂フィルムを作製し、次いで炭素繊維の両側からその樹脂フィルムを重ね、加熱加圧することにより炭素繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸させてプリプレグを得る。このとき、構成要素[E]の体積平均粒子径が5~50μmの範囲であるため、構成要素[E]が構成要素[A]である炭素繊維の束の中に侵入せず、[B]~[D]を含み[E]を実質的に含まない第1エポキシ樹脂組成物と[A]から構成される第1の層の両表面に、[B]~[E]を含む第2エポキシ樹脂組成物から構成される第2の層が隣接した構造であるプリプレグを得ることができる。
【0111】
本発明のプリプレグにおいては、炭素繊維の目付が100~1000g/m2であることが好ましい。炭素繊維目付が100g/m2未満では、炭素強化複合材料成形の際に所定の厚みを得るために積層枚数を多くする必要があり、積層作業が煩雑になることがある。一方、1000g/m2を超える場合は、プリプレグのドレープ性が悪くなる傾向がある。また繊維質量含有率は、好ましくは40~90質量%であり、より好ましくは50~80質量%である。成形体中のボイド発生を抑え、炭素繊維の優れた力学特性を発現するために好ましい。また、成形プロセスに依存するが大型部材を成形する際に、樹脂の硬化発熱を制御し、均一な成形体を得る観点からも好ましい。
【0112】
本発明のプリプレグの形態は、一方向プリプレグでも、織物プリプレグのいずれでもよい。
【0113】
本発明のプリプレグは、公知の方法で所定の幅に切り分けることでテープ状もしくは糸状にして使用することができる。これらのテープや糸状のプリプレグは、自動積層機に好適に用いられる。例えば後述の切断方法などで、本発明のプリプレグが繊維方向にスリットされてなるスリットテーププリプレグは、幅精度に優れており、自動積層法に用いるのに好ましい。
【0114】
スリットテーププリプレグの幅は3~150mmが好ましいが、複雑な形状の部材を製造するAFP法では、3~13mmが好ましい。更には3~7mmの細幅のスリットテーププリプレグがより好ましい。プリプレグの切断は、一般的に用いられているカッターを用いて行うことができる。例えば、超硬刃カッター、超音波カッターや丸刃カッター等が挙げられる。
【0115】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、前記本発明のプリプレグまたはスリットテーププリプレグを所定の形状に積層した後、加熱して樹脂を硬化させることにより得ることができる。ボイドを抑制し均一な硬化体を得る観点から成形中に加圧することが好ましい。ここで、熱および圧力を付与する方法としては、オートクレーブ成形法、プレス成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等公知の方法を用いることができる。
【0116】
上記方法により成形された炭素繊維強化複合材料のガラス転移温度は、100~250℃の範囲であることが成形された材料の後処理工程の通過性の観点から好ましい。特に航空機用途であれば、170~250℃の範囲であれば、高温になる部材にも使用することが可能となるためにより好ましい。
【実施例】
【0117】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例のプリプレグの作製環境および評価は、特に断りのない限り、温度23℃±2℃、相対湿度50%の雰囲気で行ったものである。
【0118】
構成要素[A]<炭素繊維>
・“トレカ(登録商標)”T800SC-24000(繊維数24,000本、引張強度5.9GPa、引張弾性率294GPa、引張伸度2.0%の炭素繊維、東レ(株)製)。
【0119】
構成要素[B]<エポキシ樹脂>
・“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(テトラグリシジジアミノジフェニルメタン、住友化学(株)製:エポキシ当量120g/eq)
・“jER(登録商標)”827(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製:エポキシ当量185g/eq)
・“jER(登録商標)”807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製:エポキシ当量170g/eq)。
【0120】
構成要素[C]<硬化剤>
・セイカキュア-S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、セイカ(株)製:活性水素当量62g/eq)。
【0121】
構成要素[D]<熱可塑性樹脂>
・“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P(ポリエーテルスルホン、住友化学(株)製、重量平均分子量47,000g/mol、Tg=225℃)
・“Virantage(登録商標)”VW-10700RFP(ポリエーテルスルホン、Solvay製、重量平均分子量21,000g/mol、Tg=220℃)
・“Virantage(登録商標)”VW-10300FP(ポリエーテルスルホン、Solvay製、重量平均分子量55,000g/mol、Tg=220℃)。
【0122】
構成要素[E]<熱可塑性樹脂を主成分とする粒子>
・下記方法で作製した“TROGAMID(登録商標)”CX7323および“ベスタミド(登録商標)”EX9200からなるポリアミド粒子(以下、単にポリアミド粒子と称する)
10Lのステンレス製オートクレーブの中に、“TROGAMID(登録商標)”(ダイセル・エボニック(株)製)を4.2質量部、“ベスタミド(登録商標)”EX9200(ダイセル・エボニック(株)製)を1.8質量部、“ゴーセノール(登録商標)”GM-14(日本合成化学工業(株)製)を10質量部、N-メチル-2-ピロリドンを84質量部投入し、99体積%以上の窒素置換を行った後、180℃に加熱し、原料が溶解するまで5時間撹拌を行った。この際、酸素濃度は、計算上1%以下である。その後、60質量部のイオン交換水を、送液ポンプを経由して、0.5質量部/分のスピードで滴下した。全量の水を入れ終わった後、撹拌したまま降温させ、得られた懸濁液を濾過し、イオン交換水400質量部を加えてリスラリー洗浄し、濾別したものを、80℃、10時間真空乾燥を行い、収率95%で白色粉体を得た。得られた粉体を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、真球状の微粒子形状であり、体積平均粒子径15μmの樹脂微粒子であった。
【0123】
(1)エポキシ樹脂組成物の調製
ニーダー中に、表1または2に記載の組成と割合の構成要素[B]のエポキシ樹脂、構成要素[D]の熱可塑性樹脂を添加し、混練しながら150℃以上に昇温し、そのまま1時間撹拌することで、構成要素[D]を溶解させて透明な粘調液を得た。この液を混練しながら100℃以下に降温した後、構成要素[C]の硬化剤を添加してさらに混練し、第1エポキシ樹脂組成物を得た。
【0124】
また、上記構成要素[C]の添加前に構成要素[E]を添加して混練した後、さらに構成要素[C]を添加して混練し、構成要素[E]を含有した第2エポキシ樹脂組成物を得た。
【0125】
(2)第2エポキシ樹脂組成物の貯蔵弾性率G’および粘度測定
第2エポキシ樹脂組成物のG’は、動的粘弾性測定装置ARES(TA Instruments製)に直径8mmのパラレルプレートを装着し、パラレルプレート間隔1mm、角周波数3.14rad/s、測定開始温度10℃、1.7℃/分の昇温速度で、オートストレインモードでの昇温測定を行った。また、粘度は、直径40mmのパラレルプレートを装着し、測定開始温度を20℃とした以外は、G’と同様にして測定した。表3および4には、得られた測定結果上で25℃において読み取ったG’の値および85℃において読み取った粘度の値を代表値として記載した。
【0126】
(3)第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度測定
約3mgの第2エポキシ樹脂組成物を採取し、示差走査熱量計(DSC、TA Instruments製DSC Q-2000)を用い、窒素雰囲気下、-50℃で1分間保持した後、350℃までの温度範囲を、平均昇温速度5℃/分、モジュレイション周期40秒、モジュレイション振幅±0.5℃で1回昇温させたときに得られるDSC曲線において、JIS K7121:1987に基づいて、低温側及び高温側のベースラインを延長したそれぞれの直線に対し縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度をガラス転移温度とした。
【0127】
ここでいうDSC曲線とは、縦軸に試験片と基準物質の温度が等しくなるように両者に加えた単位時間当たりの熱エネルギーの入力の差を、横軸に温度をとった示差走査熱量測定において描かれる曲線のことを指す。
【0128】
(4)プリプレグの作製
本実施例において、プリプレグは以下のように作製した。シリコーンを塗布した離型紙上に、上記(1)で作製した第1エポキシ樹脂組成物または第2エポキシ樹脂組成物を均一に塗布して、それぞれ第1樹脂フィルム、第2樹脂フィルムとした。2枚の第1樹脂フィルムの間に一方向に均一に引き揃えた炭素繊維(T800SC-24000:東レ(株)製)を挟み込み、プレスロールを用いて加熱、加圧して、炭素繊維に第1エポキシ樹脂組成物が含浸した主として第1の層のベースとなる1次プリプレグを得た(炭素繊維質量190g/cm2、樹脂含有率24質量%)。1次プリプレグは第1エポキシ樹脂組成物を含浸した後、両方の離型紙を剥離した。次に、2枚の主として第2の層のベースとなる第2樹脂フィルムの間に1次プリプレグを挟み込み、プレスロールを用いて加熱、加圧して、1次プリプレグに第2エポキシ樹脂組成物が含浸したプリプレグを得た(炭素繊維質量190g/cm2、樹脂含有率35質量%)。このとき、得られたプリプレグは、片面のみが離型紙で覆われた状態であった。
【0129】
(5)パスラインへの樹脂/毛羽の付着量測定(プリプレグの工程通過性評価)
プリプレグを一定の速度で、該プリプレグの幅よりも狭い幅の隙間を通過させることで該プリプレグの両端部を擦過させ、その際に該プリプレグから脱落する樹脂/毛羽量を測定することで、自動積層機への樹脂付着を模擬し、自動積層法におけるプリプレグの工程通過性を評価した。
【0130】
本評価には、プリプレグを供給するためのボビンスタンド、該プリプレグを所定の位置で走行させるためのガイドロール、該プリプレグよりも狭い幅の隙間を形成するステンレス製のブロック、および該プリプレグの巻取装置を用いた。
【0131】
ブロック間の隙間を6.1mmに設定した2個で1組のステンレス製のブロックを100mm間隔で6箇所配置し、幅6.35mmにスリットした上記(4)で作製したプリプレグを20m/分の速度で1,500m走行させ、その走行中にブロック表面に付着した付着物の重量を電子天秤で測定した。
【0132】
測定した上記付着物の重量に応じて、A~Dの4段階で自動積層法におけるプリプレグの工程通過性を判定した。付着物の重量が、300mg以下のものをA、300mg超330mg以下のものをB、330mg超360mg以下のものをC、360mg超をDとし、Aが最も工程通過性に優れ、Dは工程通過性が不十分で許容範囲外とした。
【0133】
(6)カッター刃への樹脂/毛羽の付着量測定(プリプレグの工程通過性評価)
プリプレグを連続カットした際にカッター刃に付着する樹脂/毛羽量を測定することで、自動積層機への樹脂付着を模擬し、自動積層法におけるプリプレグの工程通過性を評価した。
【0134】
合金(SKD11)製の往復運動する移動刃と固定刃により構成されるシェアカット方式のカッターを用いて、幅6.35にスリットした上記(4)で作製したプリプレグを、同じ刃の位置で連続して500回切断し、切断前後の移動刃および固定刃の重量を電子天秤で測定し、切断前後の重量変化からカッター刃に付着した樹脂/毛羽の重量を算出した。
【0135】
算出した上記樹脂/毛羽の重量に応じて、A~Dの4段階で自動積層法におけるプリプレグの工程通過性を判定した。樹脂/毛羽の重量が、1mg以下のものをA、1mg超2mg以下のものをB、2mg超3mg以下のものをC、3mg超をDとし、Aが最も工程通過性に優れ、Dは工程通過性が不十分で許容範囲外とした。
【0136】
(7)プリプレグのピール強度測定用のサンプル作製
上記(4)で作製したプリプレグを、片面に離型紙をつけたまま、繊維の方向がプリプレグサンプルの長手方向となるように、50mm×200mmおよび50mm×150mmの大きさにカットした。
【0137】
50mm×150mm×厚み1.5mmのステンレス製プレートに、50mm×150mmのプリプレグサンプルを1枚両面テープで固定した。このとき、離型紙で覆われていない側のプリプレグ表面が、両面テープと接するように固定した。続いて、プリプレグサンプルの長手方向に対して、端から10mmだけ離型紙が残るように、それ以外の離型紙を取り除くことで、下側の測定サンプルを作製した。
【0138】
次に、50mm×200mmのプリプレグサンプルを、離型紙面を上にして、下側の測定サンプルの離型紙で覆われていない方の端部にあわせ、長手方向に平行となるように、下側の測定サンプルの上に載せた。
【0139】
さらに、湿度25%RH、温度35℃のチャンバー内で5分間静置し、そのままチャンバー内で直径30mm×幅75mmのステンレス製のプレスロールを用いて、100Nの荷重で500mm/分の速度で2枚のプリプレグサンプルを貼り合わせて、測定サンプルを作製した。
【0140】
温度を40℃、45℃、50℃へと変更した以外は、上記と同様の方法で測定サンプルを作製した。
【0141】
(8)プリプレグのピール強度測定(プリプレグの積層性評価)
プリプレグのピール強度測定は、JIS Z0237:2009粘着テープ・粘着シート試験方法を参考にした90°剥離試験により実施した。上記(7)で作製した測定サンプルにおいて、ステンレス製プレートからはみ出したプリプレグの端部をデジタルフォースゲージ(ZTA-500N:(株)イマダ製)に固定し、湿度25%RH、上記(7)の測定サンプル作製時と同じ温度のチャンバー(SH-642:エスペック(株)製)内で5分間静置した。静置後、そのままチャンバー内で、リニアスライダ(オリエンタルモーター(株)製)を用いて、ステンレス製プレートに対して90°の角度に、500mm/分の速度でデジタルフォースゲージを引き上げて、プリプレグ同士を引き剥がした。引き剥がし開始後、最初の25mmの長さの測定値は無視し、その後、引き剥がされた30mmの長さの測定値を平均し、さらに50mmで除して各温度におけるピール強度(単位:N/mm)を算出した。
【0142】
35℃、40℃、45℃、50℃で測定したピール強度の平均値(以下、単に35~50℃のピール強度平均値と称する)に応じて、A~Dの4段階でプリプレグの積層性を判定した。35~50℃のピール強度平均値が、0.23N/mm以上のものをA、0.19N/mm以上0.23N/mm未満のものをB、0.15N/mm以上0.19N/mm未満のものをC、0.15N/mm未満をDとし、Aが最も自動積層機による積層に適したタックであり、Dはタックが不十分で自動積層機による積層における許容範囲外とした。
【0143】
(9)プリプレグのドレープ性評価(プリプレグの積層性評価)
幅12.7mm、長さ400mmにカットしたプリプレグの一端を水平な机に固定し、机の端からプリプレグが200mm突き出した状態とした後、10分後のプリプレグのたわみ角をドレープ性の指標とした。このとき、机に固定されているプリプレグを水平に延長した直線とプリプレグの自由端とプリプレグの突き出した部分の根元を結んだ直線によって形成される角をプリプレグのたわみ角とした。
【0144】
測定したたわみ角の値に応じて、A~Dの4段階でプリプレグのドレープ性を判定した。たわみ角が、20°以上のものをA、15°以上20°未満のものをB、10°以上15°未満のものをC、10°未満をDとし、Aが最もドレープ性に優れ、Dはドレープ性が不十分で許容範囲外とした。
【0145】
(10)総合評価
上記(5)、(6)、(8)、(9)の評価結果において、Aを3点、Bを2点、Cを1点、Dを-1点としたとき、プリプレグの工程通過性および積層性の総合評価として、4項目の合計点が11点以上をA、9点以上11点未満をB、7点以上9点未満をC、7点未満をDとし、Aが最も工程通過性と積層性の両立に優れ、Dは両特性が不十分で許容範囲外とした。
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
<実施例1>
構成要素[B]として、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434を60部、“jER(登録商標)”827を25部、“jER(登録商標)”807を15部、構成要素[C]として、セイカキュア-Sを47部、構成要素[D]として、“スミカエクセル(登録商標)”PES5003Pを6部用いて、上記(1)に従い、第1エポキシ樹脂組成物を調製した。次に、構成要素[B]として、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434を60部、“jER(登録商標)”827を25部、“jER(登録商標)”807を15部、構成要素[C]として、セイカキュア-Sを47部、構成要素[D]として、“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを18部、構成要素[E]として、上記の方法で作製したポリアミド粒子を71部用いて、上記(1)に従い、第2エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0151】
さらに、構成要素[A]として、“トレカ(登録商標)”T800SC-24000を用い、上記で調製した第1および第2エポキシ樹脂組成物を用いて、上記(4)に従い、プリプレグを作製した。
【0152】
表3に示すとおり、調整した第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’は、8.2×105Paであり、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量は問題ないレベルであった。また、上記(8)に従って算出した35~50℃のピール強度平均値は、0.22N/mmであり、自動積層機による積層に適したタックであった。さらに、上記(3)に従って測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度は、3.6℃であり、上記(9)に従って評価したドレープ性が特に良好であった。
【0153】
上記(10)に従って評価したプリプレグの工程通過性および積層性の総合評価はCであり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立が問題ないレベルであった。
【0154】
<実施例2>
第2エポキシ樹脂組成物の調製に用いた構成要素[D]である“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを18部から20部へ、構成要素[E]であるポリアミド粒子を71部から72部へと変更した以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを作製した。
【0155】
表3に示すとおり、調整した第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’は、1.2×106Paであり、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量は実施例1と比較して減少した。また、上記(8)に従って算出した35~50℃のピール強度平均値は、0.23N/mmであり、自動積層機による積層に特に適したタックであった。さらに、上記(3)に従って測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度は、4.7℃であり、上記(9)に従って評価したドレープ性が良好であった。
【0156】
上記(10)に従って評価したプリプレグの工程通過性および積層性の総合評価はBであり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立に優れていた。
【0157】
<実施例3>
第2エポキシ樹脂組成物の調製に用いた構成要素[D]である“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを18部から22部へ、構成要素[E]であるポリアミド粒子を71部から72部へと変更した以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを作製した。
【0158】
表3に示すとおり、調整した第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’は、1.6×106Paであり、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量は実施例1および2と比較して減少した。また、上記(8)に従って算出した35~50℃のピール強度平均値は、0.24N/mmであり、自動積層機による積層に特に適したタックであった。さらに、上記(3)に従って測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度は、5.7℃であり、上記(9)に従って評価したドレープ性が良好であった。
【0159】
上記(10)に従って評価したプリプレグの工程通過性および積層性の総合評価はAであり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立に特に優れていた。
【0160】
<実施例4>
第2エポキシ樹脂組成物の調製に用いた構成要素[D]である“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを18部から24部へ、構成要素[E]であるポリアミド粒子を71部から73部へと変更した以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを作製した。
【0161】
表3に示すとおり、調整した第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’は、2.2×106Paであり、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量は実施例3と比較して減少した。また、上記(8)に従って算出した35~50℃のピール強度平均値は、0.23N/mmであり、自動積層機による積層に特に適したタックであった。さらに、上記(3)に従って測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度は、6.9℃であり、上記(9)に従って評価したドレープ性は問題ないレベルであった。
【0162】
上記(10)に従って評価したプリプレグの工程通過性および積層性の総合評価はBであり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立に優れていた。
【0163】
<実施例5>
構成要素[B]として、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434を70部、“jER(登録商標)”827を30部、構成要素[C]として、セイカキュア-Sを47部、構成要素[D]として、“スミカエクセル(登録商標)”PES5003Pを6部用いて、上記(1)に従い、第1エポキシ樹脂組成物を調製した。次に、構成要素[B]として、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434を70部、“jER(登録商標)”827を30部、構成要素[C]として、セイカキュア-Sを47部、構成要素[D]として、“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを16部、構成要素[E]として、上記の方法で作製したポリアミド粒子を70部用いて、上記(1)に従い、第2エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0164】
さらに、構成要素[A]として、“トレカ(登録商標)”T800SC-24000を用い、上記で調製した第1および第2エポキシ樹脂組成物を用いて、上記(4)に従い、プリプレグを作製した。
【0165】
表3に示すとおり、調整した第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’は、1.4×106Paであり、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量は実施例1と比較して減少した。また、上記(8)に従って算出した35~50℃のピール強度平均値は、0.22N/mmであり、自動積層機による積層に適したタックであった。さらに、上記(3)に従って測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度は、3.0℃であり、上記(9)に従って評価したドレープ性が特に良好であった。
【0166】
上記(10)に従って評価したプリプレグの工程通過性および積層性の総合評価はBであり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立に優れていた。
【0167】
<実施例6>
第1エポキシ樹脂組成物および第2エポキシ樹脂組成物の調製に用いた構成要素[B]である“スミエポキシ(登録商標)”ELM434を60部から50部へ、“jER(登録商標)”807を15部から25部へと変更した以外は、実施例4と同様にしてプリプレグを作製した。
【0168】
表3に示すとおり、調整した第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’は、1.6×106Paであり、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量は実施例3と同程度であった。また、上記(8)に従って算出した35~50℃のピール強度平均値は、0.24N/mmであり、自動積層機による積層に特に適したタックであった。さらに、上記(3)に従って測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度は、4.5℃であり、上記(9)に従って評価したドレープ性が良好であった。
【0169】
上記(10)に従って評価したプリプレグの工程通過性および積層性の総合評価はAであり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立に特に優れていた。
【0170】
<比較例1>
第2エポキシ樹脂組成物の調製に用いた構成要素[D]である“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを18部から13部へ、構成要素[E]であるポリアミド粒子を71部から68部へと変更した以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを作製した。
【0171】
表4に示すとおり、調整した第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’は、2.9×105Paであり、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量は実施例1と比較して増加した。また、上記(8)に従って算出した35~50℃のピール強度平均値は、0.12N/mmであり、自動積層機による積層には不十分なタックであった。さらに、上記(3)に従って測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度は、0.2℃であり、上記(9)に従って評価したドレープ性が特に良好であった。
【0172】
上記(10)に従って評価したプリプレグの工程通過性および積層性の総合評価はDであり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立が不十分であり、許容範囲外であった。
【0173】
<比較例2>
第2エポキシ樹脂組成物の調製に用いた構成要素[D]である“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを18部から16部へ、構成要素[E]であるポリアミド粒子を71部から70部へと変更した以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを作製した。
【0174】
表4に示すとおり、調整した第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’は、5.4×105Paであり、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量は実施例1と比較して増加した。また、上記(8)に従って算出した35~50℃のピール強度平均値は、0.18N/mmであり、自動積層機による積層に問題のないレベルのタックであった。さらに、上記(3)に従って測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度は、2.4℃であり、上記(9)に従って評価したドレープ性が特に良好であった。
【0175】
上記(10)に従って評価したプリプレグの工程通過性および積層性の総合評価はDであり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立が不十分であり、許容範囲外であった。
【0176】
<比較例3>
第2エポキシ樹脂組成物の調製に用いた構成要素[D]である“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを18部から28部へ、構成要素[E]であるポリアミド粒子を71部から75部へと変更した以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを作製した。
【0177】
表4に示すとおり、調整した第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’は、3.9×106Paであり、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量は実施例1と比較して減少した。また、上記(8)に従って算出した35~50℃のピール強度平均値は、0.22N/mmであり、自動積層機による積層に適したタックであった。さらに、上記(3)に従って測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度は、8.6℃であり、上記(9)に従って評価したドレープ性が不十分であり、許容範囲外であった。
【0178】
上記(10)に従って評価したプリプレグの工程通過性および積層性の総合評価はDであり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立が不十分であり、許容範囲外であった。
【0179】
<比較例4>
第2エポキシ樹脂組成物の調製に用いた構成要素[D]である“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを“スミカエクセル(登録商標)”PES5003Pへ変更した以外は、比較例2と同様にしてプリプレグを作製した。
【0180】
表4に示すとおり、調整した第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’は、3.9×105Paであり、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量は実施例1と比較して増加した。また、上記(8)に従って算出した35~50℃のピール強度平均値は、0.27N/mmであり、自動積層機による積層に特に適したタックであった。さらに、上記(3)に従って測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度は、2.7℃であり、上記(9)に従って評価したドレープ性が特に良好であった。
【0181】
上記(10)に従って評価したプリプレグの工程通過性および積層性の総合評価はDであり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立が不十分であり、許容範囲外であった。
【0182】
<比較例5>
第2エポキシ樹脂組成物の調製に用いた構成要素[D]である“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを“スミカエクセル(登録商標)”PES5003Pへ変更した以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを作製した。
【0183】
表4に示すとおり、調整した第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’は、8.1×105Paであり、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量は実施例1と比較してわずかに増加した。また、上記(8)に従って算出した35~50℃のピール強度平均値は、0.27N/mmであり、自動積層機による積層に特に適したタックであった。さらに、上記(3)に従って測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度は、4.0℃であり、上記(9)に従って評価したドレープ性が特に良好であった。
【0184】
上記(10)に従って評価したプリプレグの工程通過性および積層性の総合評価はDであり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立が不十分であり、許容範囲外であった。
【0185】
<比較例6>
構成要素[D]として、“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを“スミカエクセル(登録商標)”PES5003Pへ変更した以外は、実施例2と同様にして第2エポキシ樹脂組成物を調製した。しかしながら、作製した第2エポキシ樹脂組成物の粘度が高すぎたために、離型紙上に均一に塗布できず、第2樹脂フィルムを作製できず、よって、プリプレグを得ることができなかった。
【0186】
<比較例7>
第2エポキシ樹脂組成物の調製に用いた構成要素[D]である“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを“Virantage(登録商標)”VW-10300FPへ変更した以外は、比較例2と同様にしてプリプレグを作製した。
【0187】
表4に示すとおり、調整した第2エポキシ樹脂組成物の角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’は、3.8×105Paであり、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量は実施例1と比較して増加した。また、上記(8)に従って算出した35~50℃のピール強度平均値は、0.29N/mmであり、自動積層機による積層に特に適したタックであった。さらに、上記(3)に従って測定した第2エポキシ樹脂組成物のガラス転移温度は、3.2℃であり、上記(9)に従って評価したドレープ性が良好であった。
【0188】
上記(10)に従って評価したプリプレグの工程通過性および積層性の総合評価はDであり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立が不十分であり、許容範囲外であった。
【0189】
<比較例8>
構成要素[D]として、“Virantage(登録商標)”VW-10700RFPを“Virantage(登録商標)”VW-10300FPへ変更した以外は、実施例1と同様にして第2エポキシ樹脂組成物を調製した。しかしながら、作製した第2エポキシ樹脂組成物の粘度が高すぎたために、離型紙上に均一に塗布できず、第2樹脂フィルムを作製できず、よって、プリプレグを得ることができなかった。
【0190】
実施例1~6と比較例1および2の対比により、前記式(1)で規定される値が0.085以上であっても、角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’が8.0×105Pa未満の場合には、パスラインおよびカッター刃への樹脂/毛羽の付着量が多く、工程通過性が不十分であり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立されたプリプレグが得られないことがわかる。
【0191】
実施例1~6と比較例3の対比により、角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’が、8.0×105~6.0×106Paかつ、前記式(1)で規定される値が0.085以上であっても、ガラス転移温度が7℃以上の場合には、ドレープ性が不十分であり、自動積層機における工程通過性と積層性の両立されたプリプレグが得られないことがわかる。
【0192】
実施例1~6と比較例4~8の対比により、第2エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[D]の重量平均分子量が30,000g/mol超の場合には、角周波数3.14rad/sで測定した25℃の貯蔵弾性率G’が、8.0×105~6.0×106Paかつ、前記式(1)で規定される値が0.085以上を満たすことができず、自動積層機における工程通過性と積層性の両立されたプリプレグが得られないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明によれば、自動積層機における工程通過性および積層性に優れたプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料を得ることができ、例えば、航空宇宙用途では主翼、胴体等の航空機一次構造材用途、尾翼、フロアビーム、フラップ、エルロン、カウル、フェアリングおよび内装材等の二次構造材用途、ロケットモーターケースおよび人工衛星構造材用途等に好適に用いられる。また、一般産業用途では、自動車、船舶および鉄道車両等の移動体の構造材、ドライブシャフト、板バネ、風車ブレード、各種タービン、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラー、屋根材、ケーブル、補強筋、および補修補強材料等の土木・建築材料用途等に好適に用いられる。さらにスポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニス、バトミントンおよびスカッシュ等のラケット用途、ホッケー等のスティック用途、およびスキーポール用途等に好適に用いられる。