(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】L-メチオニンまたは合成にS-アデノシルメチオニンを要求する代謝物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/42 20060101AFI20221206BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20221206BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20221206BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20221206BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20221206BHJP
C12R 1/15 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
C12P7/42 ZNA
C12N15/52 Z
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/60
C12R1:15
(21)【出願番号】P 2019523137
(86)(22)【出願日】2017-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2017038798
(87)【国際公開番号】W WO2018079686
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-10-20
(32)【優先日】2016-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミッツ,ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ロシュ,クリスティーン
(72)【発明者】
【氏名】ケリー,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】朝里 さやか
(72)【発明者】
【氏名】戸矢崎 未来
(72)【発明者】
【氏名】福井 啓太
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-519917(JP,A)
【文献】特表2009-501512(JP,A)
【文献】特表2009-501548(JP,A)
【文献】Q8NNQ9; Methionine synthase II (Cobalamin-independent) ,2016年03月16日,2021年11月12日検索、インターネット<https://www.uniprot.org/uniprot/Q8NNQ9.txt?version=68>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00-1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的物質の製造方法であって、
以下の工程:目的物質を生産する能力を有する微生物を利用して目的物質を製造することを含み、
前記微生物が、NCgl2048遺伝子にコードされるタンパク質の活性が非改変株と比較して低下するように改変されており、
前記NCgl2048遺伝子にコードされるタンパク質の活性が、該NCgl2048遺伝子の
プロモーターを誘導型のプロモーター、P4プロモーター、またはP8プロモーターに置換することによって該NCgl2048遺伝子の発現を弱化させること、または該NCgl2048遺伝子を破壊することにより低下しており、
前記微生物が、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌であり、
前記目的物質が、バニリン酸で
あり、
前記NCgl2048遺伝子が、下記からなる群より選択されるタンパク質をコードする、方法:
(a)配列番号93に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号93に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、微生物において活性を低下させることにより目的物質の生産が増大する性質を有するタンパク質;および
(c)配列番号93に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、微生物において活性を低下させることにより目的物質の生産が増大する性質を有するタンパク質。
【請求項2】
前記製造が、炭素源を含有する培地で前記微生物を培養し、前記目的物質を該培地中に生成蓄積させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記製造が、前記微生物を利用して前記目的物質の前駆体を該目的物質に変換することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記変換が、前記前駆体を含有する培地で前記微生物を培養し、前記目的物質を該培地中に生成蓄積させることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記変換が、前記微生物の菌体を反応液中の前記前駆体に作用させ、前記目的物質を該反応液中に生成蓄積させることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記菌体が、前記微生物の培養液に含まれる菌体、該培養液から回収された菌体、該培養液の処理物に含まれる菌体、該回収された菌体の処理物に含まれる菌体、またはそれらの組み合わせである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記前駆体が、プロトカテク酸である、請求項3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
さらに、前記目的物質を回収することを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記微生物が、さらに、前記目的物質の生合成に関与する酵素の活性が非改変株と比較して増大するように改変されている、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記目的物質の生合成に関与する酵素が、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ、3-デヒドロキナ酸シンターゼ、3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、3-デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ、O-メチルトランスフェラーゼ、芳香族アルデヒドオキシドレダクターゼ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記微生物が、さらに、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼの活性が非改変株と比較して増大するように改変されている、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記微生物が、さらに、前記目的物質以外の物質の副生に関与する酵素の活性が非改変株と比較して低下するように改変されている、請求項1~
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記目的物質以外の物質の副生に関与する酵素が、バニリン酸デメチラーゼ、プロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、シキミ酸デヒドロゲナーゼ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
バニリンの製造方法であって、
請求項1~
14のいずれか1項に記載の方法によりバニリン酸を製造すること;および
前記バニリン酸をバニリンに変換すること
を含む、方法。
【請求項16】
前記微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項
15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を用いたバニリン(vanillin)やバニリン酸(vanillic acid)等の目的物質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バニリンは、バニラの香りの主要な成分であり、香料として飲食品や香水等に配合して使用されている。バニリンは、主に、天然物からの抽出または化学合成により製造されている。
【0003】
また、バニリンの製造法において、生物工学的手法、例えば、各種微生物と、オイゲノール(eugenol)、イソオイゲノール(isoeugenol)、フェルラ酸(ferulic acid)、グルコース、バニリン酸、ヤシガラ(coconut husk)等の原料を利用すること、が試みられている(Kaur B. and Chakraborty D., Biotechnological and molecular approaches for vanillin production: a review. Appl Biochem Biotechnol. 2013 Feb;169(4):1353-72)。また、生物工学的手法によるバニリンの製造方法としては、他にも、バニリンを配糖体として製造する方法(WO2013/022881、WO2004/111254)、バニリンシンターゼ(vanillin synthase)を使用してフェルラ酸からバニリンを製造する方法(JP2015-535181)、Escherichia coliの発酵によりバニリン酸を製造し、次いで酵素的にバニリン酸をバニリンに変換する方法(US Patent No. 6,372,461)がある。
【0004】
Corynebacterium glutamicumのNCgl2048遺伝子は、metE遺伝子およびmetH遺伝子にそれぞれコードされるMetEタンパク質およびMetHタンパク質の両方に相同なタンパク質をコードする。NCgl2048遺伝子にコードされるタンパク質は、データベースによってはメチオニンシンターゼ(methionine synthase)とアノテーションされているが、その実際の機能は同定されていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、微生物によるバニリンやバニリン酸等の目的物質の生産を向上させる新規な技術を開示し、以て効率的な目的物質の製造法を提供する。
【0006】
本発明の或る側面は、NCgl2048遺伝子の発現が弱化するように微生物を改変することにより、該微生物によるバニリン酸等の目的物質の生産が顕著に向上することである。
【0007】
本発明の或る側面は、目的物質の製造方法であって、
以下の工程:目的物質を生産する能力を有する微生物を利用して目的物質を製造すること
を含み、
前記微生物が、NCgl2048遺伝子にコードされるタンパク質の活性が非改変株と比較して低下するように改変されており、
前記目的物質が、L-メチオニン、生合成にS-アデノシルメチオニンを要求する代謝物、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、方法を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる側面は、前記製造が、炭素源を含有する培地で前記微生物を培養し、前記目的物質を該培地中に生成蓄積させることを含む、前記方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる側面は、前記製造が、前記微生物を利用して前記目的物質の前駆体を
該目的物質に変換することを含む、前記方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる側面は、前記変換が、前記前駆体を含有する培地で前記微生物を培養し、前記目的物質を該培地中に生成蓄積させることを含む、前記方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる側面は、前記変換が、前記微生物の菌体を反応液中の前記前駆体に作用させ、前記目的物質を該反応液中に生成蓄積させることを含む、前記方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらなる側面は、前記菌体が、前記微生物の培養液に含まれる菌体、該培養液から回収された菌体、該培養液の処理物に含まれる菌体、該回収された菌体の処理物に含まれる菌体、またはそれらの組み合わせである、前記方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる側面は、前記前駆体が、プロトカテク酸、プロトカテクアルデヒド、L-トリプトファン、L-ヒスチジン、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-アルギニン、L-オルニチン、グリシン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、前記方法を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる側面は、さらに、前記目的物質を回収することを含む、前記方法を提供することである。
【0015】
本発明のさらなる側面は、前記NCgl2048遺伝子が、下記からなる群より選択されるタンパク質をコードする、前記方法を提供することである:
(a)配列番号93に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号93に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、微生物において活性を低下させることにより目的物質の生産が増大する性質を有するタンパク質;および
(c)配列番号93に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、微生物において活性を低下させることにより目的物質の生産が増大する性質を有するタンパク質。
【0016】
本発明のさらなる側面は、前記NCgl2048遺伝子にコードされるタンパク質の活性が、該NCgl2048遺伝子の発現を弱化させること、または該NCgl2048遺伝子を破壊することにより低下した、前記方法を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる側面は、前記NCgl2048遺伝子の発現が、該NCgl2048遺伝子の発現調節配列を改変することによって弱化した、前記方法を提供することである。
【0018】
本発明のさらなる側面は、前記微生物が、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する細菌、コリネ型細菌、または酵母である、前記方法を提供することである。
【0019】
本発明のさらなる側面は、前記微生物が、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌である、前記方法を提供することである。
【0020】
本発明のさらなる側面は、前記微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、前記方法を提供することである。
【0021】
本発明のさらなる側面は、前記微生物が、エシェリヒア(Escherichia)属細菌である、前記方法を提供することである。
【0022】
本発明のさらなる側面は、前記微生物が、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、前記方法を提供することである。
【0023】
本発明のさらなる側面は、前記代謝物が、バニリン、バニリン酸、メラトニン、エルゴチオネイン、ムギネ酸、フェルラ酸、ポリアミン、グアイアコール、4-ビニルグアイアコール、4-エチルグアイアコール、およびクレアチンからなる群より選択される、前記方法を提供することである。
【0024】
本発明のさらなる側面は、前記微生物が、さらに、前記目的物質の生合成に関与する酵素の活性が非改変株と比較して増大するように改変されている、前記方法を提供することである。
【0025】
本発明のさらなる側面は、前記目的物質の生合成に関与する酵素が、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ、3-デヒドロキナ酸シンターゼ、3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、3-デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ、O-メチルトランスフェラーゼ、芳香族アルデヒドオキシドレダクターゼ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、前記方法を提供することである。
【0026】
本発明のさらなる側面は、前記微生物が、さらに、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼの活性が非改変株と比較して増大するように改変されている、前記方法を提供することである。
【0027】
本発明のさらなる側面は、前記微生物が、さらに、前記目的物質以外の物質の副生に関与する酵素の活性が非改変株と比較して低下するように改変されている、前記方法を提供することである。
【0028】
本発明のさらなる側面は、前記目的物質以外の物質の副生に関与する酵素が、バニリン酸デメチラーゼ、プロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、シキミ酸デヒドロゲナーゼ、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、前記方法を提供することである。
【0029】
本発明のさらなる側面は、バニリンの製造方法であって、
前記方法によりバニリン酸を製造すること;および
前記バニリン酸をバニリンに変換すること
を含む、方法を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<1>微生物
本明細書に記載の微生物は、NCgl2048遺伝子にコードされるNCgl2048タンパク質の活性が低下するように改変された、目的物質を生産する能力を有する微生物である。目的物質を生産する能力を、「目的物質生産能」ともいう。
【0031】
<1-1>目的物質生産能を有する微生物
「目的物質生産能を有する微生物」とは、目的物質を生産することができる微生物を意味してよい。
【0032】
「目的物質生産能を有する微生物」とは、同微生物が発酵法に用いられる場合にあっては、目的物質を発酵により生産することができる微生物を意味してよい。すなわち、「目的物質生産能を有する微生物」とは、目的物質を炭素源から生産することができる微生物
を意味してよい。「目的物質生産能を有する微生物」とは、具体的には、培地(例えば、炭素源を含有する培地)で培養したときに、目的物質を生産し、回収できる程度に培地中に蓄積することができる微生物を意味してよい。
【0033】
「目的物質生産能を有する微生物」とは、同微生物が生物変換法に用いられる場合にあっては、目的物質を生物変換により生産することができる微生物を意味してよい。すなわち、「目的物質生産能を有する微生物」とは、目的物質を該目的物質の前駆体から生産することができる微生物を意味してよい。「目的物質生産能を有する微生物」とは、具体的には、培地(例えば、目的物質の前駆体を含有する培地)で培養したときに、目的物質を生産し、回収できる程度に培地中に蓄積することができる微生物を意味してよい。また、「目的物質生産能を有する微生物」とは、具体的には、反応液中で目的物質の前駆体に作用させたときに、目的物質を生産し、回収できる程度に反応液中に蓄積することができる微生物を意味してよい。
【0034】
目的物質生産能を有する微生物は、非改変株よりも多い量の目的物質を培地または反応液に蓄積することができ得る。非改変株を、「非改変微生物の株」ともいう。「非改変微生物の株」または「非改変株」とは、NCgl2048タンパク質の活性が低下するように改変されていない対照株を意味してよい。また、目的物質生産能を有する微生物は、0.01 g/L以上、0.05 g/L以上、または0.09 g/L以上の量の目的物質を培地または反応液に蓄積することができ得る。
【0035】
目的物質は、L-メチオニンおよび生合成にS-アデノシルメチオニン(S-adenosylmethionine;SAM)を要求する代謝物から選択することができる。生合成にSAMを要求する代謝物としては、例えば、バニリン(vanillin)、バニリン酸(vanillic acid)、メラトニン(melatonin)、エルゴチオネイン(ergothioneine)、ムギネ酸(mugineic acid)、フェルラ酸(ferulic acid)、ポリアミン(polyamine)、グアイアコール(guaiacol)、4-ビニルグアイアコール(4-vinylguaiacol)、4-エチルグアイアコール(4-ethylguaiacol)、クレアチン(creatine)が挙げられる。ポリアミンとしては、スペルミジン(spermidine)やスペルミン(spermine)が挙げられる。微生物は、1種の目的物質を生産することができてもよく、2種またはそれ以上の目的物質を生産することができてもよい。また、微生物は、1種の目的物質前駆体から目的物質を生成することができてもよく、2種またはそれ以上の目的物質前駆体から目的物質を生成することができてもよい。
【0036】
目的物質が塩の形態を取り得る化合物である場合、目的物質は、フリー体、塩、またはそれらの混合物として得られてよい。すなわち、「目的物質」とは、特記しない限り、フリー体の目的物質、もしくはその塩、またはそれらの混合物を意味してよい。塩としては、例えば、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。目的物質の塩としては、1種の塩を用いてもよく、2種またはそれ以上の塩を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本明細書に記載の微生物を構築するための親株として用いられる微生物は特に制限されない。微生物としては、細菌や酵母が挙げられる。
【0038】
細菌としては、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する細菌やコリネ型細菌が挙げられる。
【0039】
腸内細菌科に属する細菌としては、エシェリヒア(Escherichia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、パントエア(Pantoea)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、エルビニア(Erwinia)属、フォトラブダス(Photorhabdus)属、プロビデンシア(Providencia)属、サルモネラ(Salmonella)属、モルガネラ(Morga
nella)等の属に属する細菌が挙げられる。具体的には、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)で用いられている分類法により腸内細菌科に分類されている細菌を用いることができる。
【0040】
エシェリヒア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエシェリヒア属に分類されている細菌が挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、Neidhardtらの著書(Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes
of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に記載されたものが挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。エシェリヒア・コリとして、具体的には、例えば、W3110株(ATCC 27325)やMG1655株(ATCC 47076)等のエシェリヒア・コリK-12株;エシェリヒア・コリK5株(ATCC 23506);BL21(DE3)株等のエシェリヒア・コリB株;およびそれらの派生株が挙げられる。
【0041】
エンテロバクター属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエンテロバクター属に分類されている細菌が挙げられる。エンテロバクター属細菌としては、例えば、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)やエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)が挙げられる。エンテロバクター・アグロメランスとして、具体的には、例えば、エンテロバクター・アグロメランスATCC12287株が挙げられる。エンテロバクター・アエロゲネスとして、具体的には、例えば、エンテロバクター・アエロゲネスATCC13048株、NBRC12010株(Biotechonol Bioeng. 2007 Mar 27; 98(2) 340-348)、AJ110637株(FERM BP-10955)が挙げられる。また、エンテロバクター属細菌としては、例えば、欧州特許出願公開EP0952221号明細書に記載されたものが挙げられる。なお、Enterobacter agglomeransには、Pantoea agglomeransと分類されているものも存在する。
【0042】
パントエア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりパントエア属に分類されている細菌が挙げられる。パントエア属細菌としては、例えば、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)、パントエア・スチューアルティ(Pantoea stewartii)、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)が挙げられる。パントエア・アナナティスとして、具体的には、例えば、パントエア・アナナティスLMG20103株、AJ13355株(FERM BP-6614)、AJ13356株(FERM BP-6615)、AJ13601株(FERM BP-7207)、SC17株(FERM BP-11091)、SC17(0)株(VKPM B-9246)、及びSC17sucA株(FERM BP-8646)が挙げられる。なお、エンテロバクター属細菌やエルビニア属細菌には、パントエア属に再分類されたものもある(Int. J. Syst. Bacteriol., 39, 337-345(1989); Int. J. Syst. Bacteriol., 43, 162-173 (1993))。例えば、エンテロバクター・アグロメランスのある種のものは、最近、16S rRNAの塩基配列分析等に基づき、パントエア・アグロメランス、パントエア・アナナティス、パントエア・ステワルティイ等に再分類された(Int. J. Syst. Bacteriol., 39, 337-345(1989))。パントエア属細菌には、このようにパントエア属に再分類された細菌も包含されてよい。
【0043】
エルビニア属細菌としては、エルビニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)、エルビニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)が挙げられる。クレブシエラ属細菌としては、クレブシエラ・プランティコーラ(Klebsiella planticola)が挙げられる。
【0044】
コリネ型細菌としては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリ
ウム(Brevibacterium)属、およびミクロバクテリウム(Microbacterium)属等の属に属する細菌が挙げられる。
【0045】
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような種が挙げられる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)
コリネバクテリウム・アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)
コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)
コリネバクテリウム・クレナタム(Corynebacterium crenatum)
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)
コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)
コリネバクテリウム・メラセコーラ(Corynebacterium melassecola)
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(コリネバクテリウム・エフィシエンス)(Corynebacterium thermoaminogenes (Corynebacterium efficiens))
コリネバクテリウム・ハーキュリス(Corynebacterium herculis)
ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium
flavum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・イマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・ロゼウム(Brevibacterium roseum)
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス(Brevibacterium thiogenitalis)
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(コリネバクテリウム・スタティオニス)(Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis))
ブレビバクテリウム・アルバム(Brevibacterium album)
ブレビバクテリウム・セリナム(Brevibacterium cerinum)
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum)
【0046】
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような菌株が挙げられる。
Corynebacterium acetoacidophilum ATCC 13870
Corynebacterium acetoglutamicum ATCC 15806
Corynebacterium alkanolyticum ATCC 21511
Corynebacterium callunae ATCC 15991
Corynebacterium crenatum AS1.542
Corynebacterium glutamicum ATCC 13020, ATCC 13032, ATCC 13060, ATCC 13869, FERM BP-734
Corynebacterium lilium ATCC 15990
Corynebacterium melassecola ATCC 17965
Corynebacterium efficiens (Corynebacterium thermoaminogenes) AJ12340 (FERM BP-1539)
Corynebacterium herculis ATCC 13868
Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 14020
Brevibacterium flavum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13826, ATCC 14067, AJ12418(FERM BP-2205)
Brevibacterium immariophilum ATCC 14068
Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13869
Brevibacterium roseum ATCC 13825
Brevibacterium saccharolyticum ATCC 14066
Brevibacterium thiogenitalis ATCC 19240
Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis) ATCC 6871, ATCC 6872
Brevibacterium album ATCC 15111
Brevibacterium cerinum ATCC 15112
Microbacterium ammoniaphilum ATCC 15354
【0047】
なお、コリネバクテリウム属細菌には、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが、現在コリネバクテリウム属に統合された細菌(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255(1991))も含まれる。また、コリネバクテリウム・スタティオニスには、従来コリネバクテリウム・アンモニアゲネスに分類されていたが、16S rRNAの塩基配列解析等によりコリネバクテリウム・スタティオニスに再分類された細菌も含まれる(Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 60, 874-879(2010))。
【0048】
酵母は出芽酵母であってもよく、分裂酵母であってもよい。酵母は、一倍体の酵母であってもよく、二倍体またはそれ以上の倍数性の酵母であってもよい。酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属、ピチア・シフェリイ(Pichia ciferrii)、ピチア・シドウィオラム(Pichia sydowiorum)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)等のピヒア属(ウィッカーハモマイセス(Wickerhamomyces)属ともいう)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)等のキャンディダ属、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等のハンゼヌラ属、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属に属する酵母が挙げられる。
【0049】
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所P.O.
Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of Americaまたはatcc.org)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、これらの菌株は、例えば、各菌株が寄託された寄託機関から入手することができる。
【0050】
微生物は、本来的に目的物質生産能を有するものであってもよく、目的物質生産能を有するように改変されたものであってもよい。目的物質生産能を有する微生物は、例えば、上記のような微生物に目的物質生産能を付与することにより、または、上記のような微生物の目的物質生産能を増強することにより、取得できる。
【0051】
以下、目的物質生産能を付与または増強する方法について具体的に例示する。なお、以下に例示するような目的物質生産能を付与または増強するための改変は、いずれも、単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。
【0052】
目的物質は、目的物質の生合成に関与する酵素の作用により生成し得る。そのような酵素を、「目的物質生合成酵素」ともいう。よって、微生物は、目的物質生合成酵素を有していてよい。言い換えると、微生物は、目的物質生合成酵素をコードする遺伝子を有していてよい。そのような遺伝子を、「目的物質生合成遺伝子」ともいう。微生物は、本来的に目的物質生合成遺伝子を有するものであってもよく、目的物質生合成遺伝子が導入されたものであってもよい。遺伝子を導入する手法については本明細書に記載する。
【0053】
また、目的物質生合成酵素の活性の増大により、微生物の目的物質生産能を向上させることができる。すなわち、目的物質生産能を付与又は増強するための方法としては、目的物質生合成酵素の活性を増大させる方法が挙げられる。すなわち、微生物は、目的物質生
合成酵素の活性が増大するように改変されてよい。1種の目的物質生合成酵素の活性が増大してもよく、2種またはそれ以上の目的物質生合成酵素の活性が増大してもよい。タンパク質(酵素等)の活性を増大させる手法については本明細書に記載する。タンパク質(酵素等)の活性は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を増大させることにより、増大させることができる。
【0054】
目的物質は、例えば、炭素源および/または該目的物質の前駆体から、生成し得る。よって、目的物質生合成酵素としては、例えば、炭素源および/または前駆体の目的物質への変換を触媒する酵素が挙げられる。例えば、3-デヒドロシキミ酸(3-dehydroshikimic acid)は、シキミ酸経路の一部によって生産され得る。当該シキミ酸経路の一部は、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ(3-deoxy-D-arabino-heptulosonic acid 7-phosphate synthase;DAHP synthase)、3-デヒドロキナ酸シンターゼ(3-dehydroquinate synthase)、および3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(3-dehydroquinate dehydratase)により触媒されるステップを含んでいてよい。3-デヒドロシキミ酸は、3-デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ(3-dehydroshikimate dehydratase;DHSD)の作用によりプロトカテク酸(protocatechuic acid)へと変換され得る。プロトカテク酸は、O-メチルトランスフェラーゼ(O-methyltransferase;OMT)または芳香族アルデヒドオキシドレダクターゼ(aromatic aldehyde oxidoreductase)(例えば、芳香族カルボン酸レダクターゼ(aromatic carboxylic acid reductase;ACAR))の作用により、それぞれ、バニリン酸(vanillic acid)またはプロトカテクアルデヒド(protocatechualdehyde)へと変換され得る。バニリン酸またはプロトカテクアルデヒドは、それぞれ、ACARまたはOMTの作用により、バニリンへと変換され得る。すなわち、目的物質生合成酵素として、具体的には、例えば、DAHP synthase、3-dehydroquinate synthase、3-dehydroquinate dehydratase、DHSD、OMT、ACARが挙げられる。
【0055】
「3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ(3-deoxy-D-arabino-heptulosonic acid 7-phosphate synthase;DAHP synthase)」とは、D-エリトロース4-リン酸とホスホエノールピルビン酸をD-アラビノ-ヘプツロン酸-7-リン酸(DAHP)とリン酸に変換する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 2.5.1.54)。DAHP synthaseをコードする遺伝子を、「DAHP synthase遺伝子」ともいう。DAHP synthaseとしては、aroF、aroG、aroH遺伝子にそれぞれコードされるAroF、AroG、AroHタンパク質が挙げられる。これらの内、AroGが主要なDAHP synthaseとして機能し得る。AroF、AroG、AroHタンパク質等のDAHP synthaseとしては、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌やコリネ型細菌等の各種生物のものが挙げられる。DAHP synthaseとして、具体的には、E. coliのAroF、AroG、AroHタンパク質が挙げられる。E. coli K-12 MG1655株のaroG遺伝子の塩基配列を配列番号1に、同遺伝子がコードするAroGタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0056】
DAHP synthase活性は、例えば、酵素を基質(例えば、D-エリトロース4-リン酸とホスホエノールピルビン酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なDAHPの生成を測定することにより、測定できる。
【0057】
「3-デヒドロキナ酸シンターゼ(3-dehydroquinate synthase)」とは、DAHPを脱リン酸化して3-デヒドロキナ酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 4.2.3.4)。3-dehydroquinate synthaseをコードする遺伝子を、「3-dehydroquinate synthase遺伝子」ともいう。3-dehydroquinate synthaseとしては、aroB遺伝子にコードされるAroBタンパク質が挙げられる。AroBタンパク質等の3-dehydroquinate synthaseとしては、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌やコリネ型細菌等の各種生物のものが挙げられる。3-dehydroquinate synthaseとして、具体的には、E. coliのAroBタンパク質が挙げられる。E. coli K-12 MG1655株のaroB遺伝子の塩基配列を配列番号3
に、同遺伝子がコードするAroBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0058】
3-dehydroquinate synthase活性は、例えば、酵素を基質(例えば、DAHP)とインキュベートし、酵素および基質依存的な3-デヒドロキナ酸の生成を測定することにより、測定できる。
【0059】
「3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(3-dehydroquinate dehydratase)」とは、3-デヒドロキナ酸を脱水して3-デヒドロシキミ酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 4.2.1.10)。3-dehydroquinate dehydrataseをコードする遺伝子を、「3-dehydroquinate dehydratase遺伝子」ともいう。3-dehydroquinate dehydrataseとしては、aroD遺伝子にコードされるAroDタンパク質が挙げられる。AroDタンパク質等の3-dehydroquinate dehydrataseとしては、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌やコリネ型細菌等の各種生物のものが挙げられる。3-dehydroquinate dehydrataseとして、具体的には、E. coliのAroDタンパク質が挙げられる。E. coli K-12 MG1655株のaroD遺伝子の塩基配列を配列番号5に、同遺伝子がコードするAroDタンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示す。
【0060】
3-dehydroquinate dehydratase活性は、例えば、酵素を基質(例えば、3-デヒドロキナ酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な3-デヒドロシキミ酸の生成を測定することにより、測定できる。
【0061】
「3-デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ(3-dehydroshikimate dehydratase;DHSD)」とは、3-デヒドロシキミ酸を脱水してプロトカテク酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 4.2.1.118)。DHSDをコードする遺伝子を、「DHSD遺伝子」ともいう。DHSDとしては、asbF遺伝子にコードされるAsbFタンパク質が挙げられる。AsbFタンパク質等のDHSDとしては、Bacillus thuringiensis、Neurospora crassa、Podospora pauciseta等の各種生物のものが挙げられる。Bacillus thuringiensis BMB171株のasbF遺伝子の塩基配列を配列番号7に、同遺伝子がコードするAsbFタンパク質のアミノ酸配列を配列番号8に示す。
【0062】
DHSD活性は、例えば、酵素を基質(例えば、3-デヒドロシキミ酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なプロトカテク酸の生成を測定することにより、測定できる。
【0063】
シキミ酸経路の酵素(DAHP synthase、3-dehydroquinate synthase、3-dehydroquinate
dehydratase等)をコードする遺伝子の発現は、tyrR遺伝子にコードされるチロシンリプレッサーTyrRにより抑制される。よって、シキミ酸経路の酵素の活性は、チロシンリプレッサーTyrRの活性を低下させることによっても、増大させることができる。E. coli K-12
MG1655株のtyrR遺伝子の塩基配列を配列番号9に、同遺伝子がコードするTyrRタンパク質のアミノ酸配列を配列番号10に示す。
【0064】
「O-メチルトランスフェラーゼ(O-methyltransferase;OMT)」とは、メチル基供与体の存在下で基質の水酸基をメチル化する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 2.1.1.68等)。同活性を、「OMT活性」ともいう。OMTをコードする遺伝子を、「OMT遺伝子」ともいう。OMTは、本明細書に記載の方法において目的物質が生産される生合成経路の種類に応じて、必要な基質特異性を有していてよい。例えば、プロトカテク酸からバニリン酸への変換を介して目的物質を生産する場合、少なくともプロトカテク酸に特異的なOMTを用いることができる。また、例えば、プロトカテクアルデヒドからバニリンへの変換を介して目的物質を生産する場合、少なくともプロトカテクアルデヒドに特異的なOMTを用いることができる。すなわち、「O-メチルトランスフェラーゼ(O-methyltransferase;OMT)」とは、具体的には、メチル基供与体の存在下でプロトカテク酸
および/またはプロトカテクアルデヒドをメチル化してバニリン酸および/またはバニリンを生成する反応(すなわちメタ位の水酸基のメチル化)を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい。OMTは、通常はプロトカテク酸とプロトカテクアルデヒドの両方に特異的であってよいが、それには限られない。メチル基供与体としては、S-アデノシルメチオニン(SAM)が挙げられる。OMTとしては、各種生物のOMT、例えば、Homo sapiens(Hs)のOMT(GenBank Accession No. NP_000745, NP_009294)、Arabidopsis thalianaのOMT(GenBank Accession No. NP_200227, NP_009294)、Fragaria x ananassaのOMT(GenBank Accession No. AAF28353)、その他WO2013/022881A1に例示されている哺乳動物、植物、微生物の各種OMTが挙げられる。Homo sapiensのOMT遺伝子には4つの転写バリアントおよび2種のOMTアイソフォームが知られている。それら4つの転写バリアント(transcript variant 1-4;GenBank Accession No. NM_000754.3, NM_001135161.1, NM_001135162.1, NM_007310.2)の塩基配列を配列番号11~14に、長いOMTアイソフォーム(MB-COMT;GenBank Accession No. NP_000745.1)のアミノ酸配列を配列番号15に、短いOMTアイソフォーム(S-COMT;GenBank Accession No. NP_009294.1)のアミノ酸配列を配列番号16に、それぞれ示す。配列番号16は、配列番号15のN末端50アミノ酸残基を欠くアミノ酸配列に相当する。
【0065】
また、OMTは、副反応として、プロトカテク酸および/またはプロトカテクアルデヒドをメチル化してイソバニリン酸および/またはイソバニリンを生成する反応(すなわちパラ位の水酸基のメチル化)を触媒し得る。OMTは、メタ位の水酸基のメチル化を選択的に触媒してよい。「メタ位の水酸基のメチル化を選択的に触媒する」とは、プロトカテク酸からバニリン酸を選択的に生成すること、および/または、プロトカテクアルデヒドからバニリンを選択的に生成することを意味してよい。「プロトカテク酸からバニリン酸を選択的に生成する」とは、OMTをプロトカテク酸に作用させた際に、例えば、モル比で、イソバニリン酸の3倍以上、5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上、または30倍以上のバニリン酸を生成することを意味してよい。また、「プロトカテクアルデヒドからバニリン酸を選択的に生成する」とは、OMTをプロトカテクアルデヒドに作用させた際に、例えば、モル比で、イソバニリンの3倍以上、5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上、または30倍以上のバニリンを生成することを意味してよい。メタ位の水酸基のメチル化を選択的に触媒するOMTとしては、本明細書に記載の「特定の変異」を有するOMTが挙げられる。
【0066】
「特定の変異」を有するOMTを、「変異型OMT」ともいう。また、変異型OMTをコードする遺伝子を、「変異型OMT遺伝子」ともいう。
【0067】
「特定の変異」を有さないOMTを、「野生型OMT」ともいう。また、野生型OMTをコードする遺伝子を、「野生型OMT遺伝子」ともいう。なお、ここでいう「野生型」とは、「野生型」のOMTを「変異型」のOMTと区別するための便宜上の記載であり、天然に得られるものには限定されず、「特定の変異」を有さないあらゆるOMTを包含してよい。野生型OMTとしては、例えば、上記例示したOMTが挙げられる。また、上記例示したOMTの保存的バリアントは、「特定の変異」を有さない限り、いずれも野生型OMTに包含される。
【0068】
「特定の変異」としては、WO2013/022881A1に記載の変異型OMTが有する変異が挙げられる。すなわち、「特定の変異」としては、野生型OMTの198位のロイシン残基(L198)が、ロイシン残基よりも疎水性インデックス(hydropathy index)が低いアミノ酸残基に置換される変異や、野生型OMTの199位のグルタミン酸残基(E199)が、pH7.4において側鎖が無電荷または正電荷となるアミノ酸残基(amino acid residue having either a neutral
or positive side-chain charge at pH 7.4)に置換される変異が挙げられる。変異型OMTは、これらの変異のいずれか一方を有していてもよく、両方を有していてもよい。
【0069】
「ロイシン残基よりも疎水性インデックス(hydropathy index)が低いアミノ酸残基」としては、Ala, Arg, Asn, Asp, Cys, Glu, Gln, Gly, His, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyrが挙げられる。「ロイシン残基よりも疎水性インデックス(hydropathy index)が低いアミノ酸残基」としては、特に、Ala, Arg, Asn, Asp, Glu, Gln, Gly, His,
Lys, Met, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyrから選択されるアミノ酸残基が挙げられ、さらに特には、Tyrが挙げられる。
【0070】
「pH7.4において側鎖が無電荷または正電荷となるアミノ酸残基」としては、Ala, Arg,
Asn, Cys, Gln, Gly, His, Ile, Leu, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyr, Valが挙げられる。「pH7.4において側鎖が無電荷または正電荷となるアミノ酸残基」としては、特に、AlaやGlnが挙げられる。
【0071】
任意の野生型OMTにおける「L198」および「E199」とは、それぞれ、「配列番号16に示すアミノ酸配列の198位のロイシン残基に相当するアミノ酸残基」および「配列番号16に示すアミノ酸配列の199位のグルタミン酸残基に相当するアミノ酸残基」を意味してよい。これらのアミノ酸残基の位置は相対的な位置を示すものであって、アミノ酸の欠失、挿入、付加などによってその絶対的な位置は前後することがある。例えば、配列番号16に示すアミノ酸配列において、X位よりもN末端側の位置で1アミノ酸残基が欠失した、または挿入された場合、元のX位のアミノ酸残基は、それぞれ、N末端から数えてX-1番目またはX+1番目のアミノ酸残基となるが、「配列番号16に示すアミノ酸配列のX位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」とみなされる。また、「L198」および「E199」は、それぞれ、通常はロイシン残基およびグルタミン酸残基であるが、そうでなくてもよい。すなわち、「特定の変異」には、「L198」および「E199」がそれぞれロイシン残基およびグルタミン酸残基でない場合に、当該アミノ酸残基を上述した変異後のアミノ酸残基に置換する変異も包含されてよい。
【0072】
任意のOMTのアミノ酸配列において、どのアミノ酸残基が「L198」または「E199」であるかは、当該任意のOMTのアミノ酸配列と配列番号16に示すアミノ酸配列とのアライメントを行うことにより決定できる。アライメントは、例えば、公知の遺伝子解析ソフトウェアを利用して行うことができる。具体的なソフトウェアとしては、日立ソリューションズ製のDNASISや、ゼネティックス製のGENETYXなどが挙げられる(Elizabeth C. Tyler et
al., Computers and Biomedical Research, 24(1), 72-96, 1991;Barton GJ et al., Journal of molecular biology, 198(2), 327-37. 1987)。
【0073】
変異型OMT遺伝子は、例えば、野生型OMT遺伝子を、コードされるOMTが「特定の変異」を有するよう改変することにより取得できる。改変の元になる野生型OMT遺伝子は、例えば、野生型OMT遺伝子を有する生物からのクローニングにより、または、化学合成により、取得できる。また、変異型OMT遺伝子は、野生型OMT遺伝子を介さずに取得することもできる。変異型OMT遺伝子は、例えば、化学合成により直接取得してもよい。取得した変異型OMT遺伝子は、そのまま、あるいはさらに改変して利用してよい。
【0074】
遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer, W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel,
T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。
【0075】
OMT活性は、例えば、SAMの存在下で酵素を基質(例えば、プロトカテク酸またはプロトカテクアルデヒド)とインキュベートし、酵素および基質依存的なプロダクト(例えば、
バニリン酸またはバニリン)の生成を測定することにより、測定できる(WO2013/022881A1)。また、同様の条件下でのバイプロダクト(例えば、イソバニリン酸またはイソバニリン)の生成を測定し、プロダクトの生成と比較することにより、OMTがプロダクトを選択的に生成するかどうかを決定できる。
【0076】
「芳香族アルデヒドオキシドレダクターゼ(aromatic aldehyde oxidoreductase)(芳香族カルボン酸レダクターゼ(aromatic carboxylic acid reductase;ACAR))」とは、電子供与体とATPの存在下でバニリン酸および/またはプロトカテク酸を還元してバニリンおよび/またはプロトカテクアルデヒドを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 1.2.99.6等)。同活性を、「ACAR活性」ともいう。ACARをコードする遺伝子を、「ACAR遺伝子」ともいう。ACARは、バニリン酸とプロトカテク酸の両方に特異的であってよいが、それには限られない。すなわち、ACARは、本明細書に記載の方法において目的物質が生産される生合成経路の種類に応じて、必要な基質特異性を有していてよい。例えば、バニリン酸からバニリンへの変換を介して目的物質を生産する場合には、少なくともバニリン酸に特異的なACARを用いることができる。また、例えば、プロトカテク酸からプロトカテクアルデヒドへの変換を介して目的物質を生産する場合には、少なくともプロトカテク酸に特異的なACARを用いることができる。電子供与体としては、NADHやNADPHが挙げられる。ACARとしては、Nocardia sp. NRRL 5646株、Actinomyces sp.、Clostridium thermoaceticum、Aspergillus niger、Corynespora melonis、Coriolus sp.、Neurospora sp.等の各種微生物のACARが挙げられる(J. Biol. Chem. 2007, Vol. 282,
No.1, p478-485)。Nocardia sp. NRRL 5646株は、Nocardia iowensisに分類されている。ACARとしては、さらに、Nocardia brasiliensisやNocardia vulneris等の、他のNocardia属細菌のACARも挙げられる。Nocardia brasiliensis ATCC 700358のACAR遺伝子の塩基配列を配列番号17に、同遺伝子がコードするACARのアミノ酸配列を配列番号18に示す。また、Nocardia brasiliensis ATCC 700358のバリアントACAR遺伝子の一例の塩基配列を配列番号19に、同遺伝子がコードするACARのアミノ酸配列を配列番号20に示す。
【0077】
ACAR活性は、例えば、ATPおよびNADPHの存在下で酵素を基質(例えば、バニリン酸またはプロトカテク酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なNADPHの酸化を測定することにより、測定できる(J. Biol. Chem. 2007, Vol. 282, No.1, p478-485に記載の手法を改変)。
【0078】
ACARは、ホスホパンテテイニル化されることにより活性型酵素となり得る(J. Biol. Chem. 2007, Vol. 282, No.1, p478-485)。よって、タンパク質のホスホパンテテイニル化を触媒する酵素(「ホスホパンテテイニル化酵素」ともいう)の活性を増大させることにより、ACARの活性を増大させることができる。すなわち、目的物質生産能を付与又は増強するための方法としては、ホスホパンテテイニル化酵素の活性を増大させる方法が挙げられる。すなわち、微生物は、ホスホパンテテイニル化酵素の活性が増大するように改変されていてよい。ホスホパンテテイニル化酵素としては、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(phosphopantetheinyl transferase;PPT)が挙げられる。
【0079】
「ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(phosphopantetheinyl transferase;PPT)」とは、ホスホパンテテイニル基供与体の存在下でACARをホスホパンテテイニル化する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい。同活性を、「PPT活性」ともいう。PPTをコードする遺伝子を、「PPT遺伝子」ともいう。ホスホパンテテイニル基供与体としては、補酵素A(CoA)が挙げられる。PPTとしては、entD遺伝子にコードされるEntDタンパク質が挙げられる。EntDタンパク質等のPPTとしては、各種生物のものが挙げられる。PPTとして、具体的には、E. coliのEntDタンパク質が挙げられる。E. coli K-12 MG1655株のentD遺伝子の塩基配列を配列番号21に、同遺伝子がコードするEntDタンパク質のアミノ酸配列を配列番号22に、それぞれ示す。また、PPTとして、具体的には、Nocar
dia brasiliensisのPPT、Nocardia farcinica IFM10152のPPT(J. Biol. Chem. 2007, Vol. 282, No.1, pp.478-485)、Corynebacterium glutamicumのPPT(App. Env. Microbiol. 2009, Vol.75, No.9, pp.2765-2774)も挙げられる。Corynebacterium glutamicum ATCC 13032株のPPT遺伝子の塩基配列を配列番号23に、同遺伝子がコードするPPTのアミノ酸配列を配列番号24に、それぞれ示す。
【0080】
PPT活性は、例えば、CoAの存在下で酵素をACARとインキュベートし、ACAR活性の増強を指標として測定することができる(J. Biol. Chem. 2007, Vol.282, No.1, pp.478-485)。
【0081】
メラトニンは、L-トリプトファンから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、L-トリプトファン生合成酵素や、L-トリプトファンからメラトニンへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L-トリプトファン生合成酵素としては、3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸-7-リン酸シンターゼ(3-deoxy-D-arabinoheptulosonate-7-phosphate synthase;aroF, aroG, aroH)、3-デヒドロキナ酸シンターゼ(3-dehydroquinate synthase;aroB)、3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(3-dehydroquinate dehydratase;aroD)、シキミ酸デヒドロゲナーゼ(shikimate dehydrogenase;aroE)、シキミ酸キナーゼ(shikimate kinase;aroK, aroL)、5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸シンターゼ(5-enolpyruvylshikimate-3-phosphate synthase;aroA)、コリスミ酸シンターゼ(chorismate synthase;aroC)等の芳香族アミノ酸に共通の生合成酵素や、アントラニル酸シンターゼ(anthranilate synthase;trpED)、トリプトファンシンターゼ(tryptophan synthase;trpAB)が挙げられる。酵素名の後ろの括弧内には、各酵素をコードする遺伝子名の一例を示す(以下、同じ)。L-トリプトファンは、トリプトファン-5-ヒドロキシラーゼ(tryptophan 5-hydroxylase;EC 1.14.16.4)、5-ヒドロキシトリプトファンデカルボキシラーゼ(5-hydroxytryptophan decarboxylase;EC 4.1.1.28)、アラルキルアミン-N-アセチルトランスフェラーゼ(aralkylamine N-acetyltransferase;AANAT;EC 2.3.1.87)、およびアセチルセロトニン-O-メチルトランスフェラーゼ(acetylserotonin O-methyltransferase;EC 2.1.1.4)の作用により、順に、ヒドロキシトリプトファン(hydroxytryptophan)、セロトニン(serotonin)、N-アセチルセロトニン(N-acetylserotonin)、およびメラトニンへと変換され得る。すなわち、L-トリプトファンからメラトニンへの変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。なお、acetylserotonin O-methyltransferaseは、SAMをメチル基供与体としてN-アセチルセロトニンをメチル化してメラトニンを生成するOMTの一例である。
【0082】
エルゴチオネインは、L-ヒスチジンから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、L-ヒスチジン生合成酵素や、L-ヒスチジンからエルゴチオネインへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L-ヒスチジン生合成酵素としては、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(ATP phosphoribosyltransferase;hisG)、ホスホリボシルAMPシクロヒドロラーゼ(phosphoribosyl-AMP cyclohydrolase;hisI)、ホスホリボシルATPピロホスホヒドロラーゼ(phosphoribosyl-ATP pyrophosphohydrolase;hisI)、ホスホリボシルホルムイミノ-5-アミノイミダゾールカルボキシアミドリボタイドイソメラーゼ(phosphoribosylformimino-5-aminoimidazole carboxamide ribotide isomerase;hisA)、アミドトランスフェラーゼ(amidotransferase;hisH)、ヒスチジノールリン酸アミノトランスフェラーゼ(histidinol phosphate aminotransferase;hisC)、ヒスチジノールホスファターゼ(histidinol phosphatase;hisB)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(histidinol dehydrogenase;hisD)が挙げられる。L-ヒスチジンは、egtB、egtC、egtD、およびegtE遺伝子にそれぞれコードされるEgtB、EgtC、EgtD、およびEgtEタンパク質の作用により、順に、ヘルシニン(hercynine)、ヘルシニル-γ-L-グルタミル-L-システインスルホキシド(hercynyl-gamma-L-glutamyl-L-cysteine
sulfoxide)、ヘルシニル-L-システインスルホキシド(hercynyl-L-cysteine sulfoxide)、およびエルゴチオネインへと変換され得る。また、ヘルシニンは、egt1遺伝子にコードされるEgt1タンパク質の作用により、ヘルシニル-L-システインスルホキシドへと変換され得る。すなわち、L-ヒスチジンからエルゴチオネインへの変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。なお、EgtDは、SAMをメチル基供与体としてヒスチジンをメチル化してヘルシニンを生成するSAM依存的ヒスチジン-N,N,N-メチルトランスフェラーゼ(S-adenosyl-l-methionine (SAM)-dependent histidine N,N,N-methyltransferase)である。
【0083】
グアイアコールは、バニリン酸から生成し得る。よって、グアイアコールに対する目的物質生合成酵素については、上述したバニリン酸に対する目的物質生合成酵素についての記載を準用できる。バニリン酸は、バニリン酸デカルボキシラーゼ(vanillic acid decarboxylase;VDC)の作用により、グアイアコールへと変換され得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、VDCも挙げられる。
【0084】
フェルラ酸、4-ビニルグアイアコール、および4-エチルグアイアコールは、L-フェニルアラニンまたはL-チロシンから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、L-フェニルアラニン生合成酵素、L-チロシン生合成酵素、およびL-フェニルアラニンまたはL-チロシンからフェルラ酸、4-ビニルグアイアコール、または4-エチルグアイアコールへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L-フェニルアラニン生合成酵素としては、上記例示した芳香族アミノ酸に共通の生合成酵素や、コリスミ酸ムターゼ(chorismate mutase;pheA)、プレフェン酸デヒドラターゼ(prephenate dehydratase;pheA)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(tyrosine amino transferase;tyrB)が挙げられる。コリスミ酸ムターゼおよびプレフェン酸デヒドラターゼは、二機能酵素としてpheA遺伝子にコードされてよい。L-チロシン生合成酵素としては、上記例示した芳香族アミノ酸に共通の生合成酵素や、コリスミ酸ムターゼ(chorismate mutase;tyrA)、プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(prephenate dehydrogenase;tyrA)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(tyrosine amino transferase;tyrB)が挙げられる。コリスミ酸ムターゼおよびプレフェン酸デヒドロゲナーゼは、二機能酵素としてtyrA遺伝子にコードされてよい。L-フェニルアラニンは、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(phenylalanine ammonia lyase;PAL;EC 4.3.1.24)の作用により桂皮酸(cinnamic acid)へ、次いで桂皮酸-4-ヒドロキシラーゼ(cinnamic acid 4-hydroxylase;C4H;EC 1.14.13.11)の作用によりp-クマル酸(p-coumaric acid)へと変換され得る。また、L-チロシンは、チロシンアンモニアリアーゼ(tyrosine ammonia lyase;TAL;EC 4.3.1.23)の作用により、p-クマル酸へと変換され得る。p-クマル酸は、ヒドロキシ桂皮酸-3-ヒドロキシラーゼ(hydroxycinnamic acid 3-hydroxylase;C3H)、O-メチルトランスフェラーゼ(O-methyltransferase;OMT)、フェルラ酸デカルボキシラーゼ(ferulic acid decarboxylase;FDC)、およびビニルフェノールレダクターゼ(vinylphenol reductase;VPR)の作用により、順に、コーヒー酸(caffeic acid)、フェルラ酸、4-ビニルグアイアコール、および4-エチルグアイアコールへと変換され得る。すなわち、L-フェニルアラニンまたはL-チロシンからフェルラ酸、4-ビニルグアイアコール、または4-エチルグアイアコールへの変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。フェルラ酸、4-ビニルグアイアコール、または4-エチルグアイアコールを生産するためには、少なくともコーヒー酸を利用するOMTを用いることができる。
【0085】
ポリアミンは、L-アルギニンまたはL-オルニチンから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、L-アルギニン生合成酵素、L-オルニチン生合成酵素、およびL-アルギニンまたはL-オルニチンからポリアミンへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L-オルニチン生合成酵素としては、N-アセチルグルタミン酸シンターゼ(N-acetylglutamate synthase;argA)、N-アセチルグルタミン酸キナーゼ(N-acet
ylglutamate kinase;argB)、N-アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(N-acetylglutamyl phosphate reductase;argC)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(acetylornithine transaminase;argD)、アセチルオルニチンデアセチラーゼ(acetylornithine deacetylase;argE)が挙げられる。L-アルギニン生合成酵素としては、上記例示したL-オルニチン生合成酵素や、カルバモイルリン酸シンターゼ(carbamoyl phosphate synthetase;carAB)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(ornithine carbamoyl transferase;argF, argI)、アルギニノコハク酸シンターゼ(argininosuccinate synthetase;argG)、アルギニノコハク酸リアーゼ(argininosuccinate lyase;argH)が挙げられる。L-アルギニンは、アルギニンデカルボキシラーゼ(arginine decarboxylase;speA;EC 4.1.1.19)の作用によりアグマチン(agmatine)へ、次いでアグマチンウレオヒドロラーゼ(agmatine ureohydrolase;speB;EC 3.5.3.11)の作用によりプトレシン(putrescine)へと変換され得る。また、L-オルニチンは、オルニチンデカルボキシラーゼ(ornithine decarboxylase;speC;EC 4.1.1.17)の作用によりプトレシンへと変換され得る。プトレシンは、スペルミジンシンターゼ(spermidine synthase;speE;EC 2.5.1.16)の作用によりスペルミジンへ、次いでスペルミンシンターゼ(spermine synthase;EC 2.5.1.22)の作用によりスペルミンへと変換され得る。アグマチンは、また、アグマチン/トリアミンアミノプロピルトランスフェラーゼ(agmatine/triamine aminopropyl transferase)の作用によりアミノプロピルアグマチン(aminopropylagmatine)へ、次いでアミノプロピルアグマチンウレオヒドロラーゼ(aminopropylagmatine ureohydrolase)の作用によりスペルミジンへと変換され得る。すなわち、L-アルギニンまたはL-オルニチンからポリアミンへの変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。なお、spermidine synthase、spermine synthase、およびagmatine/triamine aminopropyl transferaseは、いずれも、SAMの脱炭酸によって生じ得る脱炭酸SAM(decarboxylated S-adenosyl methionine;dcSAM)からプロピルアミン基を対応する基質へと転移する反応を触媒する。
【0086】
クレアチンは、L-アルギニンおよびグリシンから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、L-アルギニン生合成酵素、グリシン生合成酵素、およびL-アルギニンおよびグリシンからクレアチンへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L-アルギニンおよびグリシンは、アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(arginine:glycine amidinotransferase;AGAT;EC 2.1.4.1)の作用により、結合してグアニジノ酢酸(guanidinoacetate)およびオルニチン(ornithine)を生成し得る。グアニジノ酢酸は、グアニジノ酢酸-N-メチルトランスフェラーゼ(guanidinoacetate N-methyltransferase;GAMT;EC 2.1.1.2)の作用により、SAMをメチル基供与体としてメチル化されクレアチンを生成し得る。すなわち、L-アルギニンおよびグリシンからクレアチンへの変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。
【0087】
ムギネ酸は、SAMから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、SAMからムギネ酸への変換を触媒する酵素も挙げられる。ニコチアナミンシンターゼ(nicotianamine synthase;EC 2.5.1.43)の作用により、3分子のSAMから1分子のニコチアナミンが合成され得る。ニコチアナミンは、ニコチアナミンアミノトランスフェラーゼ(nicotianamine aminotransferase;EC 2.6.1.80)、3”-デアミノ-3”-オキソニコチアナミンレダクターゼ(3"-deamino-3"-oxonicotianamine reductase;EC 1.1.1.285)、および2’-デオキシムギネ酸-2’-ジオキシゲナーゼ(2'-deoxymugineic-acid 2'-dioxygenase;EC 1.14.11.24)の作用により、順に、3”-デアミノ-3”-オキソニコチアナミン(3"-deamino-3"-oxonicotianamine)、2’-デオキシムギネ酸(2'-deoxymugineic-acid)、およびムギネ酸へと変換され得る。すなわち、SAMからムギネ酸への変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。
【0088】
L-メチオニンは、L-システインから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素と
しては、例えば、L-システイン生合成酵素や、L-システインからL-メチオニンへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L-システイン生合成酵素としては、cysIXHDNYZ遺伝子、fpr2遺伝子、およびcysK遺伝子にそれぞれコードされる、CysIXHDNYZタンパク質、Fpr2タンパク質、CysKタンパク質が挙げられる。L-システインからL-メチオニンへの変換を触媒する酵素としては、シスタチオニン-γ-シンターゼ(cystathionine-gamma-synthase)やシスタチオニン-β-リアーゼ(cystathionine-beta-lyase)が挙げられる。
【0089】
また、目的物質生産能を付与又は増強するための方法としては、目的物質以外の物質(例えば、目的物質の生産中に中間体として生成する物質や、目的物質の前駆体として利用される物質)の取り込み系の活性を増大させる方法が挙げられる。すなわち、微生物は、そのような取り込み系の活性が増大するように改変できる。「物質の取り込み系」とは、物質を細胞外から細胞内へ取り込む機能を有するタンパク質を意味してよい。同活性を、「物質の取り込み活性」ともいう。そのような取り込み系をコードする遺伝子を、「取り込み系遺伝子」ともいう。そのような取り込み系としては、バニリン酸取り込み系やプロトカテク酸取り込み系が挙げられる。バニリン酸取り込み系としては、vanK遺伝子にコードされるVanKタンパク質が挙げられる(M. T. Chaudhry, et al., Microbiology, 2007. 153:857-865)。C. glutamicum ATCC 13869株のvanK遺伝子(NCgl2302)の塩基配列を配列番号25に、同遺伝子がコードするVanKタンパク質のアミノ酸配列を配列番号26に、それぞれ示す。プロトカテク酸取り込み系としては、pcaK遺伝子にコードされるPcaKタンパク質が挙げられる(M. T. Chaudhry, et al., Microbiology, 2007. 153:857-865)。C. glutamicum ATCC 13869株のpcaK遺伝子(NCgl1031)の塩基配列を配列番号27に、同遺伝子がコードするPcaKタンパク質のアミノ酸配列を配列番号28に、それぞれ示す。
【0090】
物質の取り込み活性は、例えば、公知の手法(M. T. Chaudhry, et al., Microbiology, 2007. 153:857-865)により測定することができる。
【0091】
また、目的物質生産能を付与又は増強するための方法としては、目的物質以外の物質の副生に関与する酵素の活性を低下させる方法が挙げられる。そのような目的物質以外の物質を、「副生物」ともいう。そのような酵素を、「副生物生成酵素」ともいう。副生物生成酵素としては、例えば、目的物質の資化に関与する酵素や、目的物質の生合成経路から分岐して目的物質以外の物質を生成する反応を触媒する酵素が挙げられる。タンパク質(酵素等)の活性を低下させる手法については本明細書に記載する。タンパク質(酵素等)の活性は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊等することにより、低下させることができる。例えば、コリネ型細菌において、バニリンは、バニリン→バニリン酸→プロトカテク酸の順に代謝され、資化されることが報告されている(Current Microbiology, 2005, Vol.51, p59-65)。すなわち、副生物生成酵素として、具体的には、バニリンからプロトカテク酸への変換を触媒する酵素や、プロトカテク酸のさらなる代謝を触媒する酵素が挙げられる。そのような酵素としては、バニリン酸デメチラーゼ(vanillate demethylase)、プロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼ(protocatechuate 3,4-dioxygenase)、およびプロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼによる反応産物をスクシニルCoAとアセチルCoAまでさらに分解する各種酵素(Appl. Microbiol. Biotechnol., 2012, Vol.95, p77-89)が挙げられる。また、バニリンは、アルコールデヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase)の作用により、バニリルアルコールへと変換され得る(Kunjapur AM. et al., J. Am. Chem. Soc., 2014, Vol.136, p11644-11654.; Hansen EH. et al., App.
Env. Microbiol., 2009, Vol.75, p2765-2774.)。すなわち、副生物生成酵素として、具体的には、alcohol dehydrogenase(ADH)も挙げられる。また、バニリン生合成経路の中間体である3-デヒドロシキミ酸は、シキミ酸デヒドロゲナーゼ(shikimate dehydrogenase)の作用によりシキミ酸へと変換され得る。すなわち、副生物生成酵素として、具体的には、shikimate dehydrogenaseも挙げられる。
【0092】
「バニリン酸デメチラーゼ(vanillate demethylase)」とは、バニリン酸を脱メチル化してプロトカテク酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい。同活性を、「バニリン酸デメチラーゼ活性」ともいう。バニリン酸デメチラーゼをコードする遺伝子を、「バニリン酸デメチラーゼ遺伝子」ともいう。バニリン酸デメチラーゼとしては、vanAB遺伝子にコードされるVanABタンパク質が挙げられる(Current Microbiology, 2005, Vol.51, p59-65)。vanA遺伝子およびvanB遺伝子は、それぞれ、バニリン酸デメチラーゼのサブユニットAおよびサブユニットBをコードする。バニリン酸デメチラーゼ活性を低下させる場合、例えば、vanAB遺伝子の両方を破壊等してもよく、片方のみを破壊等してもよい。C. glutamicum ATCC 13869株のvanAB遺伝子の塩基配列を配列番号29と31に、同遺伝子がコードするVanABタンパク質のアミノ酸配列を配列番号30と32に、それぞれ示す。なお、vanAB遺伝子は、通常、vanK遺伝子とvanABKオペロンを構成している。よって、バニリン酸デメチラーゼ活性を低下させるためにvanABKオペロンをまとめて破壊等(例えば、欠損)してもよい。その場合、改めて宿主にvanK遺伝子を導入してもよい。例えば、菌体外に存在するバニリン酸を利用する場合であって、vanABKオペロンをまとめて破壊等(例えば、欠損)した場合は、改めてvanK遺伝子を導入するのが好ましい。
【0093】
バニリン酸デメチラーゼ活性は、例えば、酵素を基質(例えば、バニリン酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なプロトカテク酸の生成を測定することにより、測定できる(J Bacteriol, 2001, Vol.183, p3276-3281)。
【0094】
「プロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼ」とは、プロトカテク酸を酸化してβ-カルボキシルcis,cis-ムコン酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい。同活性を、「プロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼ活性」ともいう。プロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼをコードする遺伝子を、「プロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼ遺伝子」ともいう。プロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼとしては、pcaGH遺伝子にコードされるPcaGHタンパク質が挙げられる(Appl. Microbiol. Biotechnol., 2012, Vol.95, p77-89)。pcaG遺伝子およびpcaH遺伝子は、それぞれ、プロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼのαサブユニットおよびβサブユニットをコードする。プロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼ活性を低下させる場合、例えば、pcaGH遺伝子の両方を破壊等してもよく、片方のみを破壊等してもよい。C. glutamicum ATCC 13032株のpcaGH遺伝子の塩基配列を配列番号33と35に、同遺伝子がコードするPcaGHタンパク質のアミノ酸配列を配列番号34と36に、それぞれ示す。
【0095】
プロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼ活性は、例えば、酵素を基質(例えば、プロトカテク酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な酸素消費を測定することにより、測定できる(Meth. Enz., 1970, Vol.17A, p526-529)。
【0096】
「アルコールデヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase;ADH)」とは、電子供与体の存在下でアルデヒドを還元してアルコールを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 1.1.1.1、EC 1.1.1.2、EC 1.1.1.71等)。同活性を、「ADH活性」ともいう。ADHをコードする遺伝子を、「ADH遺伝子」ともいう。電子供与体としては、NADHやNADPHが挙げられる。
【0097】
ADHとしては、特に、電子供与体の存在下でバニリンを還元してバニリルアルコールを生成する反応を触媒する活性を有するものが挙げられる。同活性を、特に、「バニリルアルコールデヒドロゲナーゼ(vanillyl alcohol dehydrogenase)活性」ともいう。また、vanillyl alcohol dehydrogenase活性を有するADHを、特に、「バニリルアルコールデヒドロゲナーゼ(vanillyl alcohol dehydrogenase)」ともいう。
【0098】
ADHとしては、yqhD遺伝子、NCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子、NCgl2709遺伝子、NCgl0219遺伝子、NCgl2382遺伝子にそれぞれコードされるYqhDタンパク質、NCgl0324タンパク質、NCgl0313タンパク質、NCgl2709タンパク質、NCgl0219タンパク質、NCgl2382タンパク質が挙げられる。yqhD遺伝子およびNCgl0324遺伝子は、いずれも、vanillyl alcohol dehydrogenaseをコードする。yqhD遺伝子は、例えば、E. coli等の腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌に見出され得る。NCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子、NCgl2709遺伝子、NCgl0219遺伝子、NCgl2382遺伝子は、例えば、C. glutamicum等のコリネ型細菌に見出され得る。E. coli K-12 MG1655のyqhD遺伝子の塩基配列を配列番号37に、同遺伝子がコードするYqhDタンパク質のアミノ酸配列を配列番号38に示す。C. glutamicum ATCC 13869株のNCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子、NCgl2709遺伝子の塩基配列を配列番号39、41、43に、同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号40、42、44に、それぞれ示す。また、C. glutamicum ATCC 13032株のNCgl0219遺伝子、NCgl2382遺伝子の塩基配列を配列番号45、47に、同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号46、48に、それぞれ示す。1種のADHの活性を低下させてもよく、2種またはそれ以上のADHの活性を低下させてもよい。例えば、NCgl0324タンパク質、NCgl2709タンパク質、およびNCgl0313タンパク質の内の1種またはそれ以上の活性を低下させてよい。特に、少なくとも、NCgl0324タンパク質の活性を低下させてもよい。
【0099】
ADH活性は、例えば、NADPHまたはNADHの存在下で酵素を基質(例えば、バニリン等のアルデヒド)とインキュベートし、酵素および基質依存的なNADPHまたはNADHの酸化を測定することにより、測定できる。
【0100】
「シキミ酸デヒドロゲナーゼ(shikimate dehydrogenase)」とは、電子供与体の存在下で3-デヒドロシキミ酸を還元してシキミ酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 1.1.1.25)。同活性を、「shikimate dehydrogenase活性」ともいう。shikimate dehydrogenaseをコードする遺伝子を、「shikimate dehydrogenase遺伝子」ともいう。電子供与体としては、NADHやNADPHが挙げられる。shikimate dehydrogenaseとしては、aroE遺伝子にコードされるAroEタンパク質が挙げられる。E. coli K-12
MG1655のaroE遺伝子の塩基配列を配列番号49に、同遺伝子がコードするAroEタンパク質のアミノ酸配列を配列番号50に示す。
【0101】
shikimate dehydrogenase活性は、例えば、NADHまたはNADPHの存在下で酵素を基質(例えば、3-デヒドロシキミ酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なNADHまたはNADPHの酸化を測定することにより、測定できる。
【0102】
活性を改変するタンパク質は、目的物質が生産される生合成経路の種類、および微生物が本来的に有するタンパク質の種類や活性に応じて適宜選択できる。例えば、バニリンをプロトカテク酸の生物変換により製造する場合は、特に、OMT、ACAR、PPT、およびプロトカテク酸取り込み系の1種またはそれ以上の活性を増強するのが好ましい場合がある。また、バニリンをプロトカテクアルデヒドの生物変換により製造する場合は、特に、OMTの活性を増強するのが好ましい場合がある。
【0103】
目的物質生産能を有する微生物の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、例えば、上記例示した又はその他公知の塩基配列およびアミノ酸配列を有していてよい。また、目的物質生産能を有する微生物の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、上記例示した遺伝子およびタンパク質(例えば、上記例示した又はその他公知の塩基配列およびアミノ酸配列を有する遺伝子およびタンパク質)の保存的バリアントであってもよい。具体的には、例えば、目的物質生産能を有する微生物の育種に使用される遺伝子は、元の機能(例えば、酵素活性やトランスポーター活性等)が維持されている限り、上記例示したアミノ酸配列や公知のタンパク質のアミノ酸配列において、1若しく
は数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントについては、後述するNCgl2048遺伝子およびNCgl2048タンパク質の保存的バリアントに関する記載を準用できる。
【0104】
<1-2>NCgl2048タンパク質の活性の低下
微生物は、NCgl2048タンパク質の活性が低下するように改変できる。具体的には、微生物は、NCgl2048タンパク質の活性が非改変株と比較して低下するように改変できる。NCgl2048タンパク質の活性が低下するように微生物を改変することによって、同微生物の目的物質生産能を向上させることができる、すなわち、同微生物を用いた目的物質の生産を増大させることができる。また、NCgl2048タンパク質の活性が低下するように微生物を改変することによって、同微生物のSAMを生成または再生する能力を向上させることができ得る。すなわち、微生物の目的物質生産能の増大は、具体的には、同微生物のSAMを生成または再生する能力の増大によるものであってもよい。
【0105】
微生物は、目的物質生産能を有する微生物を、NCgl2048タンパク質の活性が低下するように改変することにより取得できる。また、微生物は、NCgl2048タンパク質の活性が低下するように微生物を改変した後に、目的物質生産能を付与または増強することによっても取得できる。なお、微生物は、NCgl2048タンパク質の活性を低下させる改変により、あるいはNCgl2048タンパク質の活性を低下させる改変と目的物質生産能を付与または増強するための他の改変との組み合わせにより、目的物質生産能を獲得したものであってもよい。微生物を構築するための改変は、任意の順番で行うことができる。
【0106】
「NCgl2048タンパク質」とは、NCgl2048遺伝子にコードされるタンパク質を意味してよい。NCgl2048タンパク質としては、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌やコリネ型細菌等の各種生物のものが挙げられる。NCgl2048タンパク質として、具体的には、C. glutamicumのNCgl2048タンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のNCgl2048遺伝子の塩基配列を配列番号92に、同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号93に示す。
【0107】
すなわち、NCgl2048遺伝子は、例えば、配列番号92に示す塩基配列を有する遺伝子であってよい。また、NCgl2048タンパク質は、例えば、配列番号93に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。なお、「遺伝子またはタンパク質が塩基配列またはアミノ酸配列を有する」という表現は、遺伝子またはタンパク質が当該塩基配列またはアミノ酸配列を含む場合、および遺伝子またはタンパク質が当該塩基配列またはアミノ酸配列からなる場合を包含する。
【0108】
NCgl2048遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したNCgl2048遺伝子(すなわち、配列番号92に示す塩基配列を有する遺伝子)のバリアントであってもよい。同様に、NCgl2048タンパク質は、元の機能が維持されている限り、上記例示したNCgl2048タンパク質(すなわち、配列番号93に示すアミノ酸配列を有するタンパク質)のバリアントであってもよい。なお、そのような元の機能が維持されたバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。「NCgl2048遺伝子」という用語は、上記例示したNCgl2048遺伝子(例えば、配列番号92に示す塩基配列を有するNCgl2048遺伝子)に加えて、それらの保存的バリアントを包含してよい。同様に、「NCgl2048タンパク質」という用語は、上記例示したNCgl2048タンパク質(例えば、配列番号93に示すアミノ酸配列を有するNCgl2048タンパク質)に加えて、それらの保存的バリアントを包含してよい。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示した遺伝子やタンパク質のホモログや人為的な改変体が挙げられる。
【0109】
「元の機能が維持されている」とは、遺伝子またはタンパク質のバリアントが、元の遺伝子またはタンパク質の機能(例えば、活性や性質)に対応する機能(例えば、活性や性質)を有することを意味する。遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが、元の機能が維持されたタンパク質をコードすることを意味する。すなわち、NCgl2048遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントがNCgl2048タンパク質の機能(例えば、配列番号93に示すアミノ酸配列からなるタンパク質の機能)を有するタンパク質をコードすることを意味する。NCgl2048遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが、微生物において活性を低下させることにより目的物質の生産が増大する性質を有するタンパク質をコードすることを意味してもよい。また、NCgl2048タンパク質についての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントがNCgl2048タンパク質の機能(例えば、配列番号93に示すアミノ酸配列からなるタンパク質の機能)を有することを意味する。NCgl2048タンパク質についての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが、微生物において活性を低下させることにより目的物質の生産が増大する性質を有することを意味してもよい。
【0110】
以下、保存的バリアントについて例示する。
【0111】
NCgl2048遺伝子のホモログまたはNCgl2048タンパク質のホモログは、例えば、上記例示したNCgl2048遺伝子の塩基配列または上記例示したNCgl2048タンパク質のアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、NCgl2048遺伝子のホモログは、例えば、コリネ型細菌等の生物の染色体を鋳型にして、上記例示したNCgl2048遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
【0112】
NCgl2048遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列(例えば、配列番号93に示すアミノ酸配列)において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするものであってもよい。例えば、コードされるタンパク質は、そのN末端および/またはC末端が、延長または短縮されていてもよい。なお、上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、または1~3個であってよい。
【0113】
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、および/または付加は、タンパク質の元の機能が維持される保存的変異であり得る。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠
失、挿入、または付加等には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0114】
また、NCgl2048遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列全体に対して、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。尚、本明細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)と同義である。
【0115】
また、NCgl2048遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記塩基配列(例えば、配列番号92に示す塩基配列)から調製され得るプローブ、例えば上記塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、例えばDNA、であってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味してよい。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2~3回洗浄する条件を挙げることができる。
【0116】
上述の通り、上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上述の遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとしては、300 bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。プローブとして300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
【0117】
また、宿主によってコドンの縮重性が異なるので、NCgl2048遺伝子は、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。すなわち、NCgl2048遺伝子は、遺伝コードの縮重による上記例示したNCgl2048遺伝子のバリアントであってもよい。例えば、NCgl2048遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。
【0118】
2つの配列間の配列同一性のパーセンテージは、例えば、数学的アルゴリズムを用いて決定できる。このような数学的アルゴリズムの限定されない例としては、Myers and Miller (1988) CABIOS 4:11-17のアルゴリズム、Smith et al (1981) Adv. Appl. Math. 2:482の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443-453のホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson and Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444-2448の類似性を検索する方法、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877に記載されているような、改良された、Karlin and Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264のアルゴリズムが挙げられる。
【0119】
これらの数学的アルゴリズムに基づくプログラムを利用して、配列同一性を決定するための配列比較(アラインメント)を行うことができる。プログラムは、適宜、コンピュータにより実行することができる。このようなプログラムとしては、特に限定されないが、PC/GeneプログラムのCLUSTAL(Intelligenetics, Mountain View, Calif.から入手可能)、ALIGNプログラム(Version 2.0)、並びにWisconsin Genetics Software Package, Version 8(Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Drive, Madison, Wis., USAから入手可能)のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及びTFASTAが挙げられる。これらのプログラ
ムを用いたアライメントは、例えば、初期パラメーターを用いて行うことができる。CLUSTALプログラムについては、Higgins et al. (1988) Gene 73:237-244、Higgins et al. (1989) CABIOS 5:151-153、Corpet et al. (1988) Nucleic Acids Res. 16:10881-90、Huang et al. (1992) CABIOS 8:155-65、及びPearson et al. (1994) Meth. Mol. Biol. 24:307-331によく記載されている。
【0120】
対象のタンパク質をコードするヌクレオチド配列と相同性があるヌクレオチド配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTヌクレオチド検索を、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12にて行うことができる。対象のタンパク質と相同性があるアミノ酸配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTタンパク質検索を、BLASTXプログラム、スコア=50、ワード長=3にて行うことができる。BLASTヌクレオチド検索やBLASTタンパク質検索については、http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。また、比較を目的としてギャップを加えたアライメントを得るために、Gapped BLAST(BLAST 2.0)を利用できる。また、PSI-BLASTを、配列間の離間した関係を検出する反復検索を行うのに利用できる。Gapped BLASTおよびPSI-BLASTについては、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389を参照されたい。BLAST、Gapped BLAST、またはPSI-BLASTを利用する場合、例えば、各プログラム(例えば、ヌクレオチド配列に対してBLASTN、アミノ酸配列に対してBLASTX)の初期パラメーターが用いられ得る。アライメントは、手動にて行われてもよい。
【0121】
2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大一致となるように整列したときに2つの配列間で一致する残基の比率として算出される。
【0122】
なお、上記の遺伝子やタンパク質の保存的バリアントに関する記載は、目的物質生合成系酵素等の任意のタンパク質、およびそれらをコードする遺伝子にも準用できる。
【0123】
<1-3>タンパク質の活性を増大させる手法
以下に、タンパク質の活性を増大させる手法について説明する。
【0124】
「タンパク質の活性が増大する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して増大することを意味する。「タンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株に対して増大していることを意味してよい。「非改変株」または「非改変微生物の株」とは、標的のタンパク質の活性が増大するように改変されていない対照株を意味してよい。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、各微生物種の基準株(type strain)が挙げられる。また、非改変株として、具体的には、微生物の説明において例示した菌株も挙げられる。すなわち、一態様において、タンパク質の活性は、基準株(すなわち微生物が属する種の基準株)と比較して増大してよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13869株と比較して増大してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13032株と比較して増大してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、E. coli K-12 MG1655株と比較して増大してもよい。なお、「タンパク質の活性が増大する」ことを、「タンパク質の活性が増強される」ともいう。「タンパク質の活性が増大する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が増加していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が増大していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が増大する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。また、「タンパク質の活性が増大する」ことには、もともと標的のタンパク質の活性を有する菌株において同タンパク質の活性を増大させることだけでなく、もともと標的のタンパク質の活性が存在しない菌株に同タンパク質の活性を付与することも包含される。また、結果としてタ
ンパク質の活性が増大する限り、宿主が本来有する標的のタンパク質の活性を低下または消失させた上で、好適な標的のタンパク質の活性を付与してもよい。
【0125】
タンパク質の活性の増大の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して増大していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、非改変株が標的のタンパク質の活性を有していない場合は、同タンパク質をコードする遺伝子を導入することにより同タンパク質が生成されていればよいが、例えば、同タンパク質はその活性が測定できる程度に生産されていてよい。
【0126】
タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることによって達成できる。「遺伝子の発現が上昇する」とは、同遺伝子の発現が野生株や親株等の非改変株と比較して増大することを意味する。「遺伝子の発現が上昇する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して増大することを意味してよい。「遺伝子の発現が上昇する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が増大すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が増大することを意味してよい。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「遺伝子の発現が上昇する」ことには、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることも包含される。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入し、同遺伝子を発現させることを意味してもよい。
【0127】
遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。
【0128】
遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(Miller, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。相同組み換えを利用する遺伝子導入法としては、例えば、Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、目的物質の生産に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(特開平2-109985号公報、US5,882,888、EP805867B1)。
【0129】
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
【0130】
また、遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによ
っても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであってよい。また、形質転換体を選択するために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有していてよい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。エシェリヒア・コリ等の腸内細菌科の細菌において自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pBR322、pSTV29(いずれもタカラバイオ社より入手可)、pACYC184、pMW219(ニッポンジーン社)、pTrc99A(ファルマシア社)、pPROK系ベクター(クロンテック社)、pKK233‐2(クロンテック社)、pET系ベクター(ノバジェン社)、pQE系ベクター(キアゲン社)、pCold TF DNA(TaKaRa)、pACYC系ベクター、広宿主域ベクターRSF1010が挙げられる。コリネ型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pHM1519(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));pAM330(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));これらを改良した薬剤耐性遺伝子を有するプラスミド;pCRY30(特開平3-210184);pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE、およびpCRY3KX(特開平2-72876、米国特許5,185,262号);pCRY2およびpCRY3(特開平1-191686);pAJ655、pAJ611、およびpAJ1844(特開昭58-192900);pCG1(特開昭57-134500);pCG2(特開昭58-35197);pCG4およびpCG11(特開昭57-183799);pVK7(特開平10-215883);pVK9(WO2007/046389);pVS7(WO2013/069634);pVC7(特開平9-070291)が挙げられる。
【0131】
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、宿主により発現可能であればよい。具体的には、遺伝子は、宿主で機能するプロモーターによる制御を受けて発現するように保持されていればよい。「宿主において機能するプロモーター」とは、宿主においてプロモーター活性を有するプロモーターを意味してよい。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、本明細書に記載するようなより強力なプロモーターを利用してもよい。
【0132】
遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、宿主において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。ターミネーターとして、具体的には、例えば、T7ターミネーター、T4ターミネーター、fdファージターミネーター、tetターミネーター、およびtrpAターミネーターが挙げられる。
【0133】
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
【0134】
また、2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が宿主により発現できればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持され
ていてもよい。また、2またはそれ以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。「2またはそれ以上の遺伝子を導入する」とは、例えば、2またはそれ以上のタンパク質(例えば、酵素)をそれぞれコードする遺伝子を導入すること、単一のタンパク質複合体(例えば、酵素複合体)を構成する2またはそれ以上のサブユニットをそれぞれコードする遺伝子を導入すること、およびそれらの組み合わせを意味してよい。
【0135】
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミド等を鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。取得した遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。すなわち、遺伝子を改変することにより、そのバリアントを取得することができる。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。すなわち、例えば、部位特異的変異法により、コードされるタンパク質が特定の部位においてアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むように、遺伝子のコード領域を改変することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer, W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。あるいは、遺伝子のバリアントを全合成してもよい。
【0136】
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、それらのサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、遺伝子の発現を上昇させることによりタンパク質の活性を増大させる場合、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強してもよく、一部の発現のみを増強してもよい。通常は、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強するのが好ましい。また、複合体を構成する各サブユニットは、複合体が標的のタンパク質の機能を有する限り、1種の生物由来であってもよく、2種またはそれ以上の異なる生物由来であってもよい。すなわち、例えば、複数のサブユニットをコードする、同一の生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよく、それぞれ異なる生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよい。
【0137】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率や翻訳効率の向上は、例えば、発現調節配列の改変により達成できる。「発現調節配列」とは、遺伝子の発現に影響する部位の総称であってよい。発現調節配列としては、例えば、プロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、およびRBSと開始コドンとの間のスペーサー領域が挙げられる。発現調節配列は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。これら発現調節配列の改変は、例えば、温度感受性ベクターを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(WO2005/010175)により行うことができる。
【0138】
遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味してよい。より強力なプロモーターとしては、例えば、公知の高発現プロモーターであ
るT7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、thrプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、tetプロモーター、araBADプロモーター、rpoHプロモーター、msrAプロモーター、Bifidobacterium由来のPm1プロモーター、PRプロモーター、およびPLプロモーターが挙げられる。また、コリネ型細菌で利用できるより強力なプロモーターとしては、例えば、人為的に設計変更されたP54-6プロモーター(Appl. Microbiol. Biotechnol., 53, 674-679(2000))、コリネ型細菌内で酢酸、エタノール、ピルビン酸等で誘導できるpta、aceA、aceB、adh、amyEプロモーター、コリネ型細菌内で発現量が多い強力なプロモーターであるcspB、SOD、tuf(EF-Tu)プロモーター(Journal of Biotechnology 104 (2003) 311-323, Appl Environ Microbiol. 2005 Dec;71(12):8587-96.)、P2プロモーター(配列番号81の942-1034位)、P3プロモーター(配列番号84)、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーターが挙げられる。また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters
in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
【0139】
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のシャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)をより強力なSD配列に置換することにより達成できる。「より強力なSD配列」とは、mRNAの翻訳が、もともと存在している野生型のSD配列よりも向上するSD配列を意味してよい。より強力なSD配列としては、例えば、ファージT7由来の遺伝子10のRBSが挙げられる(Olins P. O. et al, Gene,
1988, 73, 227-235)。さらに、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列(5’-UTR)における数個のヌクレオチドの置換、あるいは挿入、あるいは欠失がmRNAの安定性および翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することによっても遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
【0140】
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。例えば、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。すなわち、導入される遺伝子は、例えば、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。コドンの置換は、例えば、DNAの目的部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」(http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl. Acids Res., 28, 292 (2000))に開示されている。
【0141】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。
【0142】
上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
【0143】
また、タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、タンパク質の比活性を増強することによっても達成できる。比活性の増強には、フィードバック阻害の脱感作(desensitization to feedback inhibition)も包含されてよい。すなわち、タンパク質が代謝
物によるフィードバック阻害を受ける場合は、フィードバック阻害が脱感作されるよう遺伝子またはタンパク質を宿主において変異させることにより、タンパク質の活性を増大させることができる。なお、「フィードバック阻害の脱感作」には、特記しない限り、フィードバック阻害が完全に解除される場合、および、フィードバック阻害が低減される場合が包含されてよい。また、「フィードバック阻害が脱感作されている」(すなわちフィードバック阻害が低減又は解除されている)ことを「フィードバック阻害に耐性」ともいう。比活性が増強されたタンパク質は、例えば、種々の生物を探索し取得することができる。また、在来のタンパク質に変異を導入することで高活性型のものを取得してもよい。導入される変異は、例えば、タンパク質の1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されるものであってよい。変異の導入は、例えば、上述したような部位特異的変異法により行うことができる。また、変異の導入は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。また、in vitroでDNAを直接ヒドロキシルアミンで処理し、ランダム変異を誘発してもよい。比活性の増強は、単独で用いてもよく、上記のような遺伝子の発現を増強する手法と任意に組み合わせて用いてもよい。
【0144】
形質転換の方法は特に限定されず、従来知られた方法を用いることができる。例えば、エシェリヒア・コリ K-12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A., J. Mol. Biol. 1970, 53, 159-162)や、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E., 1977. Gene 1: 153-167)を用いることができる。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類、及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S. and Choen, S. N., 1979. Mol. Gen. Genet. 168: 111-115; Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A. 1978. Nature 274: 398-400; Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R. 1978. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75: 1929-1933)も応用できる。あるいは、コリネ型細菌について報告されているような、電気パルス法(特開平2-207791)を利用することもできる。
【0145】
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
【0146】
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が上昇したことは、同遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。
【0147】
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Sambrook, J., et
al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。mRNAの量は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
【0148】
タンパク質の量が上昇したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことができる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量(例えば、細胞当たりの分子数)は、例え
ば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
【0149】
上記したタンパク質の活性を増大させる手法は、任意のタンパク質(例えば、目的物質生合成酵素、ホスホパンテテイニル化酵素、および物質の取り込み系)の活性増強や、任意の遺伝子(例えば、それら任意のタンパク質をコードする遺伝子)の発現増強に利用できる。
【0150】
<1-4>タンパク質の活性を低下させる手法
以下に、NCgl2048タンパク質等のタンパク質の活性を低下させる手法について説明する。
【0151】
「タンパク質の活性が低下する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して低下することを意味する。「タンパク質の活性が低下する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株と比較して減少していることを意味してよい。「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が低下するように改変されていない対照株を意味してよい。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、各微生物種の基準株(type strain)が挙げられる。また、非改変株として、具体的には、微生物の説明において例示した菌株も挙げられる。すなわち、一態様において、タンパク質の活性は、基準株(すなわち微生物が属する種の基準株)と比較して低下してよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13869株と比較して低下してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13032株と比較して低下してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、E. coli K-12 MG1655株と比較して低下してもよい。なお、「タンパク質の活性が低下する」ことには、同タンパク質の活性が完全に消失している場合も包含されてよい。「タンパク質の活性が低下する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が低下していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が低下していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が低下する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。なお、「タンパク質の細胞当たりの分子数が低下している」ことには、同タンパク質が全く存在していない場合も包含されてよい。また、「タンパク質の分子当たりの機能が低下している」ことには、同タンパク質の分子当たりの機能が完全に消失している場合も包含されてよい。タンパク質の活性の低下の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して低下していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0152】
タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成できる。「遺伝子の発現が低下する」とは、同遺伝子の発現が野生株や親株等の非改変株と比較して低下することを意味する。「遺伝子の発現が低下する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して減少することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が低下すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が低下することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」ことには、同遺伝子が全く発現していない場合も包含されてよい。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0153】
遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝
子の発現の低下は、例えば、遺伝子のプロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の発現調節配列を改変することにより達成できる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、1塩基以上、2塩基以上、または3塩基以上が改変される。遺伝子の転写効率の低下は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより弱いプロモーターに置換することにより達成できる。「より弱いプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも弱化するプロモーターを意味してよい。より弱いプロモーターとしては、例えば、誘導型のプロモーターが挙げられる。より弱いプロモーターとしては、例えば、P4プロモーター(配列番号82の872-969位)やP8プロモーター(配列番号83の901-1046位)も挙げられる。すなわち、誘導型のプロモーターは、非誘導条件下(例えば、誘導物質の非存在下)でより弱いプロモーターとして機能し得る。また、発現調節配列の一部または全部を欠失させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、発現制御に関わる因子を操作することによっても達成できる。発現制御に関わる因子としては、転写や翻訳制御に関わる低分子(誘導物質、阻害物質など)、タンパク質(転写因子など)、核酸(siRNAなど)等が挙げられる。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のコード領域に遺伝子の発現が低下するような変異を導入することによっても達成できる。例えば、遺伝子のコード領域のコドンを、宿主においてより低頻度で利用される同義コドンに置き換えることによって、遺伝子の発現を低下させることができる。また、例えば、本明細書に記載するような遺伝子の破壊により、遺伝子の発現自体が低下し得る。
【0154】
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。「遺伝子が破壊される」とは、正常に機能するタンパク質を産生しないように同遺伝子が改変されることを意味してよい。「正常に機能するタンパク質を産生しない」ことには、同遺伝子からタンパク質が全く産生されない場合や、同遺伝子から分子当たりの機能(例えば、活性や性質)が低下又は消失したタンパク質が産生される場合も包含されてよい。
【0155】
遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子を欠失(欠損)させることにより達成できる。「遺伝子の欠失」とは、遺伝子のコード領域の一部又は全部の領域の欠失を意味してよい。さらには、染色体上の遺伝子のコード領域の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。タンパク質の活性の低下が達成できる限り、欠失させる領域は、N末端領域(すなわちタンパク質のN末端側をコードする領域)、内部領域、C末端領域(すなわちタンパク質のC末端側をコードする領域)等のいずれの領域であってもよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化し得る。欠失させる領域は、例えば、遺伝子のコード領域全長の10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上の長さの領域であってよい。また、欠失させる領域の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。リーディングフレームの不一致により、欠失させる領域の下流でフレームシフトが生じ得る。
【0156】
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、終止コドン(ナンセンス変異)を導入すること、または1~2塩基の付加または欠失(フレームシフト変異)を導入すること等によっても達成できる(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997), Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 26 116, 20833-20839(1991))。
【0157】
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の塩基配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿
入する塩基配列は長い方が確実に遺伝子を不活化し得る。また、挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。リーディングフレームの不一致により、挿入部位の下流でフレームシフトが生じ得る。他の塩基配列としては、コードされるタンパク質の活性を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子や目的物質の生産に有用な遺伝子が挙げられる。
【0158】
遺伝子の破壊は、特に、コードされるタンパク質のアミノ酸配列が欠失(欠損)するように実施してよい。言い換えると、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、タンパク質のアミノ酸配列(アミノ酸配列の一部または全部の領域)を欠失させることにより、具体的には、アミノ酸配列(アミノ酸配列の一部または全部の領域)を欠失したタンパク質をコードするように遺伝子を改変することにより、達成できる。なお、「タンパク質のアミノ酸配列の欠失」とは、タンパク質のアミノ酸配列の一部または全部の領域の欠失を意味してよい。また、「タンパク質のアミノ酸配列の欠失」とは、タンパク質において元のアミノ酸配列が存在しなくなることを意味してよく、元のアミノ酸配列が別のアミノ酸配列に変化する場合も包含されてよい。すなわち、例えば、フレームシフトにより別のアミノ酸配列に変化した領域は、欠失した領域とみなしてよい。アミノ酸配列の欠失により、典型的にはタンパク質の全長が短縮されるが、タンパク質の全長が変化しないか、あるいは延長される場合もあり得る。例えば、遺伝子のコード領域の一部又は全部の領域の欠失により、コードされるタンパク質のアミノ酸配列において、当該欠失した領域がコードする領域を欠失させることができる。また、例えば、遺伝子のコード領域への終止コドンの導入により、コードされるタンパク質のアミノ酸配列において、当該導入部位より下流の領域がコードする領域を欠失させることができる。また、例えば、遺伝子のコード領域におけるフレームシフトにより、当該フレームシフト部位がコードする領域を欠失させることができる。アミノ酸配列の欠失における欠失させる領域の位置および長さについては、遺伝子の欠失における欠失させる領域の位置および長さの説明を準用できる。
【0159】
染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、例えば、正常に機能するタンパク質を産生しないように改変した破壊型遺伝子を作製し、該破壊型遺伝子を含む組換えDNAで宿主を形質転換して、破壊型遺伝子と染色体上の野生型遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の野生型遺伝子を破壊型遺伝子に置換することによって達成できる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。破壊型遺伝子としては、遺伝子のコード領域の一部又は全部の領域を欠失した遺伝子、ミスセンス変異を導入した遺伝子、ナンセンス変異を導入した遺伝子、フレームシフト変異を導入した遺伝子、トランスポゾンやマーカー遺伝子が挿入された遺伝子が挙げられる。破壊型遺伝子によってコードされるタンパク質は、生成したとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組み合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法などがある(米国特許第6303383号、特開平05-007491号)。
【0160】
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
【0161】
上記のようなタンパク質の活性を低下させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
【0162】
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、それらのサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。また、タンパク質に複数のアイソザイムが存在する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、それらのアイソザイムの全ての活性を低下させてもよく、一部のみの活性を低下させてもよい。すなわち、例えば、それらのアイソザイムをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。
【0163】
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
【0164】
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が低下したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が低下したことは、同遺伝子の転写量が低下したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が低下したことを確認することにより確認できる。
【0165】
遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。mRNAの量は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0166】
タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量(例えば、細胞当たりの分子数)は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0167】
遺伝子が破壊されたことは、破壊に用いた手段に応じて、同遺伝子の一部または全部の塩基配列、制限酵素地図、または全長等を決定することで確認できる。
【0168】
上記したタンパク質の活性を低下させる手法は、NCgl2048タンパク質の活性弱化に加えて、任意のタンパク質(例えば、副生物生成酵素)の活性低下や、任意の遺伝子(例えば、それら任意のタンパク質をコードする遺伝子)の発現低下に利用できる。
【0169】
<2>目的物質の製造法
本明細書に記載の方法は、本明細書に記載の微生物を利用して目的物質を製造する方法である。
【0170】
<2-1>発酵法
目的物質は、例えば、本明細書に記載の微生物の発酵により製造することができる。すなわち、本明細書に記載の方法の一態様は、微生物の発酵により目的物質を製造する方法であってよい。この態様を、「発酵法」ともいう。また、本明細書に記載の微生物の発酵により目的物質を製造する工程を、「発酵工程」ともいう。
【0171】
発酵工程は、本明細書に記載の微生物を培養することにより実施できる。具体的には、発酵工程において、目的物質は、炭素源から製造することができる。すなわち、発酵工程は、例えば、微生物を培地(例えば、炭素源を含有する培地)で培養し、目的物質を該培地中に生成蓄積する工程であってよい。すなわち、発酵法は、微生物を培地(例えば、炭素源を含有する培地)で培養し、目的物質を該培地中に生成蓄積する工程を含む、目的物質を製造する方法であってよい。また、言い換えると、発酵工程は、例えば、微生物を利用して炭素源から目的物質を製造する工程であってよい。
【0172】
使用する培地は、微生物が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培地としては、例えば、細菌や酵母等の微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。培地は、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分等の培地成分を必要に応じて含有してよい。培地成分の種類や濃度は、使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
【0173】
炭素源は、微生物が資化でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。炭素源として、具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉の加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、クエン酸、コハク酸、グルコン酸等の有機酸類、エタノール、グリセロール、粗グリセロール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。なお、炭素源としては、特に、植物由来原料を用いることができる。植物としては、例えば、トウモロコシ、米、小麦、大豆、サトウキビ、ビート、綿が挙げられる。植物由来原料としては、例えば、根、茎、幹、枝、葉、花、種子等の器官、それらを含む植物体、それら植物器官の分解産物が挙げられる。植物由来原料の利用形態は特に制限されず、例えば、未加工品、絞り汁、粉砕物、精製物等のいずれの形態でも利用できる。また、キシロース等の5炭糖、グルコース等の6炭糖、またはそれらの混合物は、例えば、植物バイオマスから取得して利用できる。具体的には、これらの糖類は、植物バイオマスを、水蒸気処理、濃酸加水分解、希酸加水分解、セルラーゼ等の酵素による加水分解、アルカリ処理等の処理に供することにより取得できる。なお、ヘミセルロースは一般的にセルロースよりも加水分解されやすいため、植物バイオマス中のヘミセルロースを予め加水分解して5炭糖を遊離させ、次いで、セルロースを加水分解して6炭糖を生成させてもよい。また、キシロースは、例えば、微生物にグルコース等の6炭糖からキシロースへの変換経路を保有させて、6炭糖からの変換により供給してもよい。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。
【0174】
培地中の炭素源の濃度は、微生物が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培地中の炭素源の濃度は、例えば、目的物質の生産が阻害されない範囲で可能な限り高くしてよい。培地中の炭素源の初発濃度は、例えば、5~30w/v%、または10~20w/v%であってよい。また、適宜、炭素源を培地に添加してもよい。例えば、発酵の進行に伴う炭素源の減少または枯渇に応じて、炭素源を培地に添加してもよい。最終的に目的物質が生産される限り炭素源は一時的に枯渇してもよいが、培養は、炭素源が枯渇しないように、あるいは炭素源が枯渇した状態が継続しないように、実施するのが好ましい場合がある。
【0175】
窒素源として、具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。pH調整に用いられるアンモニアガスやアンモニア水を窒素源として利用してもよい。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
【0176】
リン酸源として、具体的には、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。
【0177】
硫黄源として、具体的には、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。
【0178】
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0179】
また、生育にアミノ酸等の栄養素を要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、培地はそのような栄養素を含有するのが好ましい。培地は、また、目的物質の生産に利用される成分を含有していてよい。そのような成分として、具体的には、例えば、メチル基供与体(例えば、SAM)やそれらの前駆体(例えば、メチオニン)が挙げられる。
【0180】
培養条件は、微生物が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培養は、例えば、細菌や酵母等の微生物の培養に用いられる通常の条件で行うことができる。培養条件は、使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
【0181】
培養は、液体培地を用いて行うことができる。培養の際には、例えば、微生物を寒天培地等の固体培地で培養したものを直接液体培地に接種してもよく、微生物を液体培地で種培養したものを本培養用の液体培地に接種してもよい。すなわち、培養は、種培養と本培養とに分けて行われてもよい。その場合、種培養と本培養の培養条件は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。目的物質は、少なくとも本培養の期間に生産されればよい。培養開始時に培地に含有される微生物の量は特に制限されない。例えば、OD660=4~100の種培養液を、培養開始時に、本培養用の培地に対して0.1質量%~100質量%、または1質量%~50質量%、植菌してよい。
【0182】
培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。なお、培養開始時の培地を、「初発培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系(例えば、発酵槽)に添加する培地を、「流加培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系に流加培地を添加することを、「流加」ともいう。なお、培養が種培養と本培養とに分けて行われる場合、種培養と本培養の培養形態は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。例えば、種培養と本培養を、共に回分培養で行ってもよく、種培養を回分培養で行い、本培養を流加培養または連続培養で行ってもよい。
【0183】
炭素源等の各種成分は、初発培地、流加培地、またはその両方に含有されていてよい。すなわち、培養の過程において、炭素源等の各種成分を単独で、あるいは任意の組み合わせで、培地に添加してもよい。これらの成分は、いずれも、1回または複数回添加されてもよく、連続的に添加されてもよい。初発培地に含有される成分の種類は、流加培地に含有される成分の種類と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、初発培地に含有される各成分の濃度は、流加培地に含有される各成分の濃度と、同一であってもよく、
そうでなくてもよい。また、含有する成分の種類および/または濃度の異なる2種またはそれ以上の流加培地を用いてもよい。例えば、複数回の流加が間欠的に行われる場合、各流加培地に含有される成分の種類および/または濃度は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。
【0184】
培養は、例えば、好気条件で実施してよい。「好気条件」とは、培地中の溶存酸素濃度が、0.33ppm以上、または1.5ppm以上である条件を意味してよい。酸素濃度は、具体的には、例えば、飽和酸素濃度に対し、1~50%、または5%程度に制御されてよい。培養は、例えば、通気培養または振盪培養で行うことができる。培地のpHは、例えば、pH 3~10、またはpH 4.0~9.5であってよい。培養中、必要に応じて培地のpHを調整することができる。培地のpHは、アンモニアガス、アンモニア水、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の各種アルカリ性または酸性物質を用いて調整することができる。培養温度は、例えば、20~45℃、または25℃~37℃であってよい。培養期間は、例えば、10時間~120時間であってよい。培養は、例えば、培地中の炭素源が消費されるまで、あるいは微生物の活性がなくなるまで、継続してもよい。
【0185】
このような条件下で微生物を培養することにより、培地中に目的物質が蓄積する。
【0186】
目的物質が生成したことは、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により確認することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、UPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げられる。これらの手法は適宜組み合わせて用いることができる。これらの手法は、培地中に存在する各種成分の濃度を決定するためにも用いることができる。
【0187】
生成した目的物質は、適宜回収することができる。すなわち、発酵法は、さらに、目的物質を回収する工程を含んでいてよい。同工程を、「回収工程」ともいう。回収工程は、培養液から、具体的には培地から、目的物質を回収する工程であってよい。目的物質の回収は、化合物の分離精製に用いられる公知の手法により行うことができる。そのような手法としては、例えば、イオン交換樹脂法、膜処理法、沈殿法、抽出法、蒸留法、および晶析法が挙げられる。目的物質は、具体的には、酢酸エチル等の有機溶媒での抽出により、または蒸気蒸留により、回収することができる。これらの手法は適宜組み合わせて用いることができる。
【0188】
また、目的物質が培地中に析出する場合は、例えば、遠心分離または濾過により回収することができる。また、培地中に析出した目的物質は、培地中に溶解している目的物質を晶析した後に、併せて単離してもよい。
【0189】
尚、回収される目的物質は、目的物質以外に、例えば、微生物菌体、培地成分、水分、及び微生物の代謝副産物を含んでいてもよい。回収された目的物質の純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
【0190】
<2-2>生物変換法
目的物質は、例えば、本明細書に記載の微生物を利用した生物変換により製造することもできる。すなわち、本明細書に記載の方法の別の態様は、微生物を利用した生物変換により目的物質を製造する方法であってよい。この態様を、「生物変換法」ともいう。また、微生物を利用した生物変換により目的物質を製造する工程を、「生物変換工程」ともいう。
【0191】
具体的には、生物変換工程において、目的物質は、該目的物質の前駆体から製造するこ
とができる。より具体的には、生物変換工程において、目的物質は、微生物を利用して該目的物質の前駆体を該目的物質に変換することにより製造することができる。すなわち、生物変換工程は、微生物を利用して目的物質の前駆体を該目的物質に変換する工程であってよい。
【0192】
目的物質の前駆体を、単に、「前駆体」ともいう。前駆体としては、目的物質への変換にSAMが要求される物質が挙げられる。前駆体として、具体的には、目的物質の生合成経路における中間体(例えば、目的物質生合成酵素の記載に関連して言及したもの)であって、目的物質への変換にSAMが要求されるものが挙げられる。前駆体として、より具体的には、例えば、プロトカテク酸、プロトカテクアルデヒド、L-トリプトファン、L-ヒスチジン、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-アルギニン、L-オルニチン、グリシンが挙げられる。プロトカテク酸は、例えば、バニリン、バニリン酸、またはグアイアコールを生産するための前駆体として用いてよい。プロトカテクアルデヒドは、例えば、バニリンを生産するための前駆体として用いてよい。L-トリプトファンは、例えば、メラトニンを生産するための前駆体として用いてよい。L-ヒスチジンは、例えば、エルゴチオネインを生産するための前駆体として用いてよい。L-フェニルアラニンおよびL-チロシンは、いずれも、例えば、フェルラ酸、4-ビニルグアイアコール、または4-エチルグアイアコールを生産するための前駆体として用いてよい。L-アルギニンおよびL-オルニチンは、いずれも、例えば、ポリアミンを生産するための前駆体として用いてよい。L-アルギニンおよびグリシンは、いずれも、例えば、クレアチンを生産するための前駆体として用いてよい。前駆体としては、1種の前駆体を用いてもよく、2種またはそれ以上の前駆体を組み合わせて用いてもよい。前駆体が塩の形態を取り得る化合物である場合、前駆体は、フリー体として用いてもよく、塩として用いてもよく、それらの混合物として用いてもよい。すなわち、「前駆体」とは、特記しない限り、フリー体の前駆体、もしくはその塩、またはそれらの混合物を意味してよい。塩としては、例えば、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。前駆体の塩としては、1種の塩を用いてもよく、2種またはそれ以上の塩を組み合わせて用いてもよい。
【0193】
前駆体としては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。すなわち、生物変換法は、さらに、前駆体を製造する工程を含んでいてもよい。前駆体の製造方法は特に制限されず、例えば、公知の方法を利用できる。前駆体は、例えば、化学合成法、酵素法、生物変換法、発酵法、抽出法、またはそれらの組み合わせにより製造することができる。すなわち、例えば、目的物質の前駆体は、そのさらなる前駆体から該目的物質の前駆体への変換反応を触媒する酵素(「前駆体生成酵素」ともいう)を利用して、そのようなさらなる前駆体から製造することができる。また、例えば、目的物質の前駆体は、前駆体生産能を有する微生物を利用して、炭素源から、あるいはそのようなさらなる前駆体から、製造することができる。「前駆体生産能を有する微生物」とは、目的物質の前駆体を、炭素源から、またはそのようなさらなる前駆体から、生成することができる微生物を意味してよい。例えば、酵素法または生物変換法によるプロトカテク酸の製造法としては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KS-0180を用いてパラクレゾールをプロトカテク酸に変換する方法(特開平7-75589号公報)、NADH依存性パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼを用いてパラヒドロキシ安息香酸をプロトカテク酸に変換する方法(特開平5-244941号公報)、テレフタル酸からプロトカテク酸を生成する反応に関与する遺伝子が導入された形質転換体をテレフタル酸が添加された培地で培養することによりプロトカテク酸を製造する方法(特開2007-104942号公報)、プロトカテク酸生産能を有し且つプロトカテク酸5位酸化酵素活性が低下または欠損した微生物を用いてプロトカテク酸をその前駆体から製造する方法(特開2010-207094号公報)が挙げられる。また、発酵法によるプロトカテク酸の製造法としては、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する細菌を用いて酢酸を炭素源としてプロトカテク酸を製造する方法(特開昭
50-89592号公報)や、3-ジヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されたエシェリヒア(Escherichia)属またはクレブシエラ(Klebsiella)属に属する細菌を用いてグルコースを炭素源としてプロトカテク酸を製造する方法(米国特許第5,272,073号明細書)が挙げられる。また、プロトカテクアルデヒドは、プロトカテク酸を前駆体として、ACARを利用した酵素法またはACARを有する微生物を利用した生物変換法により製造することができる。製造された前駆体は、そのまま、あるいは、適宜、濃縮、希釈、乾燥、溶解、分画、抽出、精製等の処理に供してから、生物変換法に利用できる。すなわち、前駆体としては、例えば、所望の程度に精製された精製品を用いてもよく、前駆体を含有する素材を用いてもよい。前駆体を含有する素材は、微生物が前駆体を利用できる限り特に制限されない。前駆体を含有する素材として、具体的には、例えば、前駆体生産能を有する微生物を培養して得られた培養液、該培養液から分離した培養上清、それらの濃縮物(例えば、濃縮液)や乾燥物等の処理物が挙げられる。
【0194】
一態様において、生物変換工程は、本明細書に記載の微生物を培養することにより実施できる。この態様を、「生物変換法の第1の態様」ともいう。すなわち、生物変換工程は、例えば、目的物質の前駆体を含有する培地で微生物を培養し、該前駆体を目的物質に変換する工程であってよい。生物変換工程は、具体的には、目的物質の前駆体を含有する培地で微生物を培養し、目的物質を該培地中に生成蓄積する工程であってもよい。
【0195】
使用する培地は、目的物質の前駆体を含有し、微生物が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培養条件は、微生物が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。生物変換法の第1の態様における培養については、同態様においては培地が目的物質の前駆体を含有すること以外は、発酵法における培養についての記載(例えば、培地や培養条件についての記載)を準用できる。
【0196】
前駆体は、培養の全期間において培地に含有されていてもよく、培養の一部の期間にのみ培地に含有されていてもよい。すなわち、「前駆体を含有する培地で微生物を培養する」とは、前駆体が培養の全期間において培地に含有されていることを要しない。例えば、前駆体は、培養開始時から培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。前駆体が培養開始時に培地に含有されていない場合は、培養開始後に培地に前駆体を添加する。添加のタイミングは、培養時間等の諸条件に応じて適宜設定できる。例えば、微生物が十分に生育してから培地に前駆体を添加してもよい。また、いずれの場合にも、適宜、培地に前駆体を添加してよい。例えば、目的物質の生成に伴う前駆体の減少または枯渇に応じて培地に前駆体を添加してもよい。前駆体を培地に添加する手段は特に制限されない。例えば、前駆体を含有する流加培地を培地に流加することにより、前駆体を培地に添加することができる。また、例えば、本明細書に記載の微生物と前駆体生産能を有する微生物を共培養することにより、前駆体生産能を有する微生物に前駆体を培地中に生成させ、以て前駆体を培地に添加することもできる。これらの添加手段は、適宜組み合わせて利用してもよい。培地中の前駆体濃度は、微生物が前駆体を目的物質の原料として利用できる限り、特に制限されない。培地中の前駆体濃度は、フリー体の重量に換算して、例えば、0.1 g/L以上、1 g/L以上、2 g/L以上、5 g/L以上、10 g/L以上、または15 g/L以上であってもよく、200 g/L以下、100 g/L以下、50 g/L以下、または20 g/L以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。前駆体は、培養の全期間において上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、そうでなくてもよい。前駆体は、例えば、培養開始時に上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、培養開始後に上記例示した濃度となるように培地に添加されてもよい。培養が種培養と本培養とに分けて行われる場合、目的物質は、少なくとも本培養の期間に生産されればよい。よって、前駆体は、少なくとも本培養の期間に、すなわち本培養の全期間または本培養の一部の期間に、培地に含有されていればよい。すなわち、前駆体は、種培養の期間には培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。このような場合、培養についての記載(例えば、「培養期間(培養の期間)」や「培養
開始」)は、本培養についてのものとして読み替えることができる。
【0197】
別の態様において、生物変換工程は、本明細書に記載の微生物の菌体を利用することにより実施できる。この態様を、「生物変換法の第2の態様」ともいう。すなわち、生物変換工程は、例えば、微生物の菌体を利用して反応液中の目的物質の前駆体を目的物質に変換する工程であってよい。生物変換工程は、具体的には、微生物の菌体を反応液中の目的物質の前駆体に作用させ、目的物質を該反応液中に生成蓄積する工程であってもよい。そのような菌体を利用して実施する生物変換工程を、「変換反応」ともいう。
【0198】
微生物の菌体は、微生物を培養することにより得られる。菌体を取得するための培養法は、微生物が増殖できる限り、特に制限されない。菌体を取得するための培養時には、前駆体は、培地に含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。また、菌体を取得するための培養時には、目的物質は、培地に生産されてもよく、されなくてもよい。生物変換法の第2の態様における菌体を取得するための培養については、発酵法における培養についての記載(例えば、培地や培養条件についての記載)を準用できる。
【0199】
菌体は、培養液(具体的には培地)に含まれたまま変換反応に用いてもよく、培養液(具体的には培地)から回収して変換反応に用いてもよい。また、菌体は、適宜処理を行ってから変換反応に用いてもよい。すなわち、菌体としては、菌体を含有する培養液、該培養液から回収した菌体、それらの処理物が挙げられる。言い換えると、菌体としては、微生物の培養液に含まれる菌体、該培養液から回収した菌体、それらの処理物に含まれる菌体が挙げられる。処理物としては、菌体を処理に供したもの、具体的には、菌体を含有する培養液を処理に供したものや、該培養液から回収した菌体を処理に供したものが挙げられる。これらの態様の菌体は、適宜組み合わせて利用してもよい。
【0200】
菌体を培養液から回収する手法は特に制限されず、例えば公知の手法を利用できる。そのような手法としては、例えば、自然沈降、遠心分離、濾過が挙げられる。また、凝集剤(flocculant)を利用してもよい。これらの手法は、適宜組み合わせて利用してもよい。回収した菌体は、適当な媒体を用いて適宜洗浄することができる。また、回収した菌体は、適当な媒体を用いて適宜再懸濁することができる。洗浄や懸濁に利用できる媒体としては、例えば、水や水性緩衝液等の水性媒体(水性溶媒)が挙げられる。
【0201】
菌体の処理としては、例えば、希釈、濃縮、アクリルアミドやカラギーナン等の担体への固定化処理、凍結融解処理、膜の透過性を高める処理が挙げられる。膜の透過性は、例えば、界面活性剤または有機溶媒を利用して高めることができる。これらの処理は、適宜組み合わせて利用してもよい。
【0202】
変換反応に用いられる菌体は、目的物質生産能を有していれば特に制限されない。菌体は、代謝活性が維持されているのが好ましい。「代謝活性が維持されている」とは、菌体が炭素源を資化して目的物質の製造に必要な物質を生成または再生する能力を有していることを意味してよい。そのような物質としては、ATP、NADHやNADP等の電子供与体、SAM等のメチル基供与体が挙げられる。菌体は、生育する能力を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0203】
変換反応は、適切な反応液中で実施することができる。変換反応は、具体的には、菌体と前駆体とを適切な反応液中で共存させることにより実施することができる。変換反応は、バッチ式で実施してもよく、カラム式で実施してもよい。バッチ式の場合は、例えば、反応容器内の反応液中で、微生物の菌体と前駆体とを混合することにより、変換反応を実施できる。変換反応は、静置して実施してもよく、撹拌や振盪して実施してもよい。カラム式の場合は、例えば、固定化菌体を充填したカラムに前駆体を含有する反応液を通液す
ることにより、変換反応を実施できる。反応液としては、水や水性緩衝液等の水性媒体(水性溶媒)が挙げられる。
【0204】
反応液は、前駆体に加えて、前駆体以外の成分を必要に応じて含有してよい。前駆体以外の成分としては、ATP、NADHやNADPH等の電子供与体、SAM等のメチル基供与体、金属イオン、緩衝剤、界面活性剤、有機溶媒、炭素源、リン酸源、その他各種培地成分が挙げられる。すなわち、例えば、前駆体を含有する培地を反応液として用いてもよい。すなわち、生物変換法の第2の態様における反応液については、生物変換法の第1の態様における培地についての記載を準用できる。反応液に含有される成分の種類や濃度は、用いる前駆体の種類や、用いる菌体の形態等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
【0205】
変換反応の条件(溶存酸素濃度、反応液のpH、反応温度、反応時間、各種成分の濃度等)は、目的物質が生成する限り特に制限されない。変換反応は、例えば、静止菌体等の微生物菌体を利用した物質変換に用いられる通常の条件で行うことができる。変換反応の条件は、使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。変換反応は、例えば、好気条件で実施してよい。「好気条件」とは、反応液中の溶存酸素濃度が、0.33ppm以上、または1.5ppm以上である条件を意味してよい。酸素濃度は、具体的には、例えば、飽和酸素濃度に対し、1~50%、または5%程度に制御されてよい。反応液のpHは、例えば、通常6.0~10.0、または6.5~9.0であってよい。反応温度は、例えば、15~50℃、15~45℃、または20~40℃であってよい。反応時間は、例えば、5分~200時間であってよい。カラム法の場合、反応液の通液速度は、例えば、反応時間が上記例示した反応時間の範囲となるような速度であってよい。また、変換反応は、例えば、細菌や酵母等の微生物の培養に用いられる通常の条件等の培養条件で行うこともできる。変換反応においては、菌体は、生育してもよく、しなくてもよい。すなわち、生物変換法の第2の態様における変換反応については、同態様においては菌体が生育してもしなくてもよいこと以外は、生物変換法の第1の態様における培養についての記載を準用できる。そのような場合、菌体を取得するための培養条件と、変換反応の条件は、同一であってもよく、なくてもよい。反応液中の前駆体の濃度は、フリー体の重量に換算して、例えば、0.1 g/L以上、1 g/L以上、2 g/L以上、5 g/L以上、10 g/L以上、または15 g/L以上であってもよく、200 g/L以下、100
g/L以下、50 g/L以下、または20 g/L以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。反応液中の菌体の濃度は、例えば、600nmにおける光学密度(OD)に換算して、1以上であってもよく、300以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。
【0206】
変換反応の過程において、菌体、前駆体、およびその他の成分を単独で、あるいは任意の組み合わせで、反応液に添加してもよい。例えば、目的物質の生成に伴う前駆体の減少または枯渇に応じて反応液に前駆体を添加してもよい。これらの成分は、1回または複数回添加されてもよく、連続的に添加されてもよい。
【0207】
前駆体等の各種成分を反応液に添加する手段は特に制限されない。これらの成分は、いずれも、反応液に直接添加することにより、反応液に添加することができる。また、例えば、本明細書に記載の微生物と前駆体生産能を有する微生物を共培養することにより、前駆体生産能を有する微生物に前駆体を反応液中に生成させ、以て前駆体を反応液に添加することもできる。また、例えば、ATP、電子供与体、メチル基供与体等の成分は、いずれも、反応液中で生成または再生されてもよく、微生物の菌体内で生成または再生されてもよく、異菌体間共役により生成または再生されてもよい。例えば、微生物の菌体において代謝活性が維持されている場合、炭素源を利用して微生物の菌体内でATP、電子供与体、メチル基供与体等の成分を生成または再生することができる。例えば、具体的には、微生物はSAMを生成または再生する増強された能力を有していてもよく、同微生物により生成または再生されたSAMが変換反応に用いられてもよい。SAMの生成または再生は、SAMを生成または再生する他の手法との組み合わせによってさらに増強され得る。また、ATPを生
成または再生する方法としては、例えば、コリネバクテリウム属細菌を利用して炭素源からATPを供給させる方法(Hori, H et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 48(6): 693-698 (1997))、酵母菌体とグルコースを利用してATPを再生する方法(Yamamoto, S et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 69(4): 784-789 (2005))、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼを利用してATPを再生する方法(C. Aug’e and Ch. Gautheron, Tetrahedron Lett. 29:789-790 (1988))、ポリリン酸とポリリン酸キナーゼを利用してATPを再生する方法(Murata, K et al., Agric. Biol. Chem. 52(6): 1471-1477 (1988))が挙げられる。
【0208】
また、反応条件は、変換反応の開始から終了まで均一であってもよく、変換反応の過程において変化してもよい。「反応条件が変換反応の過程において変化する」ことには、反応条件が時間的に変化することに限られず、反応条件が空間的に変化することも包含される。「反応条件が空間的に変化する」とは、例えば、カラム式で変換反応を実施する場合に、反応温度や菌体密度等の反応条件が流路上の位置に応じて異なっていることを意味する。
【0209】
このようにして生物変換工程を実施することにより、目的物質を含有する培養液(具体的には培地)または反応液が得られる。目的物質が生成したことの確認や目的物質の回収は、いずれも、上述した発酵法と同様に実施することができる。すなわち、生物変換法は、さらに、回収工程(例えば、培養液(具体的には培地)または反応液から目的物質を回収する工程)を含んでいてよい。尚、回収される目的物質は、目的物質以外に、例えば、微生物菌体、培地成分、反応液成分、水分、及び微生物の代謝副産物を含んでいてもよい。回収された目的物質の純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
【0210】
<2-3>バニリンおよび他の目的物質の製造法
本明細書に記載の微生物を利用して(すなわち発酵法または生物変換法により)目的物質が製造される場合、製造された目的物質をさらに他の目的物質に変換することができる。すなわち、本発明は、微生物を利用して(すなわち発酵法または生物変換法により)第1の目的物質(すなわち、目的物質A)を製造する工程、および製造された第1の目的物質Aを第2の目的物質(すなわち、目的物質B)に変換する工程を含む、第2の目的物質Bを製造する方法を提供する。
【0211】
例えば、本明細書に記載の微生物を利用して(すなわち発酵法または生物変換法により)バニリン酸が製造される場合、製造されたバニリン酸をさらにバニリンに変換することができる。すなわち、本発明は、微生物を利用して(すなわち発酵法または生物変換法により)バニリン酸を製造する工程、および製造されたバニリン酸をバニリンに変換する工程を含む、バニリンを製造する方法を提供する。同方法を、「バニリン製造法」ともいう。
【0212】
微生物を利用して製造されたバニリン酸は、そのまま、あるいは、適宜、濃縮、希釈、乾燥、溶解、分画、抽出、精製等の処理に供してから、バニリンへの変換に利用できる。すなわち、バニリン酸としては、例えば、所望の程度に精製された精製品を用いてもよく、バニリン酸を含有する素材を用いてもよい。バニリン酸を含有する素材は、変換を触媒する成分(例えば、微生物や酵素)がバニリン酸を利用できる限り特に制限されない。バニリン酸を含有する素材として、具体的には、例えば、バニリン酸を含有する培養液または反応液、該培養液または反応液から分離した上清、それらの濃縮物(例えば、濃縮液)や乾燥物等の処理物が挙げられる。
【0213】
バニリン酸をバニリンに変換する手法は特に制限されない。
【0214】
バニリン酸は、例えば、ACARを有する微生物を利用した生物変換法によりバニリンに変換することができる。ACARを有する微生物は、NCgl2048タンパク質の活性が低下するように改変されていてもよく、いなくてもよい。ACARを有する微生物については、同微生物がACARを有しており、且つ、NCgl2048タンパク質の活性が低下するように改変されていてもよく、いなくてもよいこと以外は、本明細書に記載の微生物に関する記載を準用できる。ACARを有する微生物は、ACAR、PPT、およびバニリン酸取り込み系の1種またはそれ以上の活性が増大するように改変されていてもよい。また、ACARを有する微生物を利用してバニリン酸をバニリンに変換する生物変換法については、微生物を利用して目的物質を製造する生物変換法に関する記載を準用できる。
【0215】
また、バニリン酸は、例えば、ACARを利用した酵素法によりバニリンに変換することができる。
【0216】
ACARは、ACAR遺伝子を有する宿主にACAR遺伝子を発現させることにより製造することができる。また、ACARは、無細胞タンパク質合成系を利用して製造することができる。
【0217】
ACAR遺伝子を有する宿主を、「ACARを有する宿主」ともいう。ACAR遺伝子を有する宿主は、本来的にACAR遺伝子を有するものであってもよく、ACAR遺伝子を有するように改変されたものであってもよい。本来的にACAR遺伝子を有する宿主としては、上記例示したACARが由来する生物が挙げられる。ACAR遺伝子を有するように改変された宿主としては、ACAR遺伝子が導入された宿主が挙げられる。また、本来的にACAR遺伝子を有する宿主を、ACARが増大するように改変してもよい。ACARの発現に利用する宿主は、機能するACARを発現できる限り、特に制限されない。宿主としては、例えば、細菌や酵母(真菌)等の微生物、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞が挙げられる。
【0218】
ACAR遺伝子は、ACAR遺伝子を有する宿主を培養することにより発現させることができる。培養方法は、ACAR遺伝子を有する宿主が増殖してACARを発現できる限り、特に制限されない。ACAR遺伝子を有する宿主の培養については、発酵法の培養に関する記載を準用できる。必要により、ACAR遺伝子の発現を誘導できる。培養により、ACARを含有する培養液が得られる。ACARは、宿主細胞および/または培地中に蓄積し得る。
【0219】
宿主細胞や培地中に存在するACARは、そのまま酵素反応に用いてもよく、そこから精製して酵素反応に用いてもよい。精製は、所望の程度に実施することができる。すなわち、ACARとしては、精製されたACARを用いてもよく、ACARを含有する画分を用いてもよい。そのような画分は、ACARがバニリン酸に作用できるように含有される限り、特に制限されない。そのような画分としては、ACAR遺伝子を有する宿主(すなわちACARを有する宿主)の培養液、同培養物から回収した菌体、同菌体の処理物(例えば、菌体破砕物、菌体溶解物、菌体抽出物、アクリルアミドやカラギーナン等で固定化した固定化菌体)、同培養物から回収した培養上清、それらの部分精製物(例えば、粗精製物)、それらの組み合わせが挙げられる。これらの画分は、単独で、あるいは精製されたACARと組み合わせて、利用できる。
【0220】
酵素反応は、ACARをバニリン酸に作用させることにより実施できる。酵素反応条件は、バニリンが生成する限り、特に制限されない。酵素反応は、例えば、酵素や微生物菌体(例えば、静止菌体)を利用した物質変換に用いられる通常の条件で実施することができる。バニリン製造法における酵素反応については、例えば、生物変換法の第2の態様における変換反応に関する記載を準用できる。
【0221】
このようにして変換を実施することにより、バニリンを含有する反応液が得られる。バ
ニリンが生成したことの確認やバニリンの回収は、いずれも、上述した発酵法と同様に実施することができる。すなわち、バニリン製造法は、さらに、反応液からバニリンを回収する工程を含んでいてよい。尚、回収されるバニリンは、バニリン以外に、例えば、微生物菌体、培地成分、反応液成分、ACAR、水分、及び微生物の代謝副産物を含んでいてもよい。回収されたバニリンの純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
【0222】
バニリン酸は、例えば、VDCを有する微生物を利用した生物変換法により、またはVDCを利用した酵素法により、グアイアコールに変換することもできる。フェルラ酸は、例えば、FDCを有する微生物を利用した生物変換法により、またはFDCを利用した酵素法により、4-ビニルグアイアコールに変換することができる。4-ビニルグアイアコールは、例えば、VPRを有する微生物を利用した生物変換法により、またはVPRを利用した酵素法により、4-エチルグアイアコールに変換することができる。フェルラ酸は、これらの方法の組み合わせにより、4-エチルグアイアコールに変換することもできる。具体的には、フェルラ酸は、例えば、FDCまたはそれを有する微生物とVPRまたはそれを有する微生物とを、同時に、または個別に、組み合わせて利用することにより、あるいはFDCとVPRの両方を有する微生物を利用することにより、4-エチルグアイアコールに変換することができる。上述したバニリン製造法に関する記載は、他の目的物質を製造する方法にも準用できる。
【実施例】
【0223】
以下、本発明を非限定的な実施例によりさらに具体的に説明する。
【0224】
本実施例では、Corynebacterium glutamicum 2256株(ATCC 13869)を親株として、NCgl2048遺伝子の発現が弱化された株を構築し、構築した株を用いてバニリン酸生産を実施した。
【0225】
<1>バニリン酸デメチラーゼ遺伝子を欠損した株(FKS0165株)の構築
コリネ型細菌において、バニリンは、バニリン→バニリン酸→プロトカテク酸の順に代謝され、資化されることが報告されている(Current Microbiology, 2005, Vol.51, p59-65)。バニリン酸からプロトカテク酸への変換反応は、バニリン酸デメチラーゼにより触媒される。vanA遺伝子およびvanB遺伝子は、それぞれバニリン酸デメチラーゼのサブユニットAおよびサブユニットBをコードする。vanK遺伝子は、バニリン酸取り込み系をコードし、vanAB遺伝子とvanABKオペロンを構成している(M. T. Chaudhry, et al., Microbiology, 2007. 153:857-865)。よって、まず、vanABKオペロンを欠損させることにより、C.
glutamicum 2256株からバニリンやバニリン酸等の目的物質の資化能を欠損した株(FKS0165株)を構築した。手順を以下に示す。
【0226】
<1-1>vanABK遺伝子欠損用プラスミドpBS4SΔvanABK56の構築
C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号51および52の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、vanA遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物を得た。一方、C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号53および54の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、vanK遺伝子のC末端側コード領域を含むPCR産物を得た。配列番号52および53は一部が相補的な配列となっている。次にvanA遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物およびvanK遺伝子のC末端側コード領域を含むPCR産物をそれぞれほぼ等モルとなるように混合し、In Fusion HD cloning kit(Clontech)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpBS4Sベクター(WO2007/046389)に挿入した。このDNAを用いてEscherichia coli JM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン40μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養した。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをp
BS4SΔvanABK56と命名した。
【0227】
<1-2>FKS0165株の構築
上記で得られたpBS4SΔvanABK56はコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SΔvanABK56を電気パルス法にてC. glutamicum 2256株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地(グルコース 5 g/L、Polypeptone 10
g/L、Yeast Extract 10 g/L、KH2PO41 g/L、MgSO4・7H2O 0.4 g/L、FeSO4・7H2O 0.01 g/L、MnSO4・7H2O 0.01 g/L、尿素 3 g/L、大豆加水分解物 1.2 g/L、ビオチン 10μg/L、寒天 15 g/L、NaOHでpH7.5に調整)に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔvanABK56が組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。該1回組換え株は、野生型のvanABK遺伝子群と欠損型のvanABK遺伝子群の両方を有する。
【0228】
該1回組換え株をCM-Dex液体培地(寒天を含有しないこと以外はCM-Dex寒天培地と同一組成)で一夜培養し、培養液をS10寒天培地(スクロース 100 g/L、ポリペプトン 10 g/L、酵母エキス 10 g/L、KH2PO4 1 g/L、MgSO4・7H2O 0.4 g/L、FeSO4・7H2O 0.01 g/L、MnSO4・4-5H2O 0.01 g/L、尿素 3 g/L、大豆蛋白加水分解液1.2 g/L、ビオチン 10μg/L、寒天 20 g/L、NaOHを用いてpH7.5に調整:オートクレーブ120℃20分)に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で純化した。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号55および56の合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってvanABK遺伝子の欠損を確認し、該株をFKS0165株とした。
【0229】
<2>アルコールデヒドロゲナーゼホモログ遺伝子を欠損した株(FKFC14株)の構築
次いで、Corynebacterium glutamicum FKS0165株を親株として、アルコールデヒドロゲナーゼホモログ遺伝子であるNCgl0324遺伝子(adhC)、NCgl0313遺伝子(adhE)、NCgl2709遺伝子(adhA)を欠損した株(FKFC14株)を以下の手順で構築した。
【0230】
<2-1>FKFC5株(FKS0165ΔNCgl0324株)の構築
<2-1-1>NCgl0324遺伝子欠損用プラスミドpBS4SΔ2256adhCの構築
C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号57および58の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl0324遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物を得た。一方、C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号59および60の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl0324遺伝子のC末端側コード領域を含むPCR産物を得た。配列番号58および59は一部が相補的な配列となっている。次に、NCgl0324遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物およびNCgl0324遺伝子のC末端側コード領域を含むPCR産物をそれぞれほぼ等モルとなるように混合し、In Fusion HD cloning kit(Clontech)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpBS4Sベクター(WO2007/046389)に挿入した。このDNAを用いてEscherichia coli JM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン40μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養した。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをpBS4SΔ2256adhCと命名した。
【0231】
<2-1-2>FKFC5株(FKS0165ΔNCgl0324株)の構築
上記で得られたpBS4SΔ2256adhCはコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。
そこで、pBS4SΔ2256adhCを電気パルス法にてC. glutamicum FKS0165株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔ2256adhCが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。該1回組換え株は、野生型のNCgl0324遺伝子と欠損型のNCgl0324遺伝子の両方を有する。
【0232】
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で純化した。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号61および62の合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってNCgl0324遺伝子の欠損を確認し、該株をFKFC5株とした。
【0233】
<2-2>FKFC11株(2256ΔvanABKΔNCgl0324ΔNCgl0313株)の構築
<2-2-1>NCgl0313遺伝子欠損用プラスミドpBS4SΔ2256adhEの構築
C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号63および64の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl0313遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物を得た。一方、C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号65および66の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl0313遺伝子のC末端側コード領域を含むPCR産物を得た。配列番号64および65は一部が相補的な配列となっている。次に、NCgl0313遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物およびNCgl0313遺伝子のC末端側コード領域を含むPCR産物をそれぞれほぼ等モルとなるように混合し、In Fusion HD cloning kit(Clontech)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpBS4Sベクター(WO2007/046389)に挿入した。このDNAを用いてEscherichia coli JM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン40μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養した。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをpBS4SΔ2256adhEと命名した。
【0234】
<2-2-2>FKFC11株(2256ΔvanABKΔNCgl0324ΔNCgl0313株)の構築
上記で得られたpBS4SΔ2256adhEはコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SΔ2256adhEを電気パルス法にてC. glutamicum FKFC5株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔ2256adhEが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。該1回組換え株は、野生型のNCgl0313遺伝子と欠損型のNCgl0313遺伝子の両方を有する。
【0235】
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で純化した。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号67および68の合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってNCgl0313遺伝子の欠損を確認し、該株をFKFC11株とした。
【0236】
<2-3>FKFC14株(2256ΔvanABKΔNCgl0324ΔNCgl0313ΔNCgl2709株)の構築
<2-3-1>NCgl2709遺伝子欠損用プラスミドpBS4SΔ2256adhAの構築
C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号69および70の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl2709遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物を得た。一方、C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号71および72の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl2709遺伝子のC末端側コード領域を含むPCR産物
を得た。配列番号70および71は一部が相補的な配列となっている。次に、NCgl2709遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物およびNCgl2709遺伝子のC末端側コード領域を含むPCR産物をそれぞれほぼ等モルとなるように混合し、In Fusion HD cloning kit(Clontech)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpBS4Sベクターに挿入した。このDNAを用いてEscherichia coli JM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン40μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養した。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをpBS4SΔ2256adhAと命名した。
【0237】
<2-3-2>FKFC14株(2256ΔvanABKΔNCgl0324ΔNCgl0313ΔNCgl2709株)の構築
上記で得られたpBS4SΔ2256adhAはコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SΔ2256adhAを電気パルス法にてC. glutamicum FKFC11株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔ2256adhAが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。該1回組換え株は、野生型のNCgl2709遺伝子と欠損型のNCgl2709遺伝子の両方を有する。
【0238】
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で純化した。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号73および74の合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってNCgl2709遺伝子の欠損を確認し、該株をFKFC14株とした。
【0239】
<3>プロトカテク酸ジオキシゲナーゼ遺伝子を欠損した株(FKFC14ΔpcaGH株)の構築
次いで、Corynebacterium glutamicum FKFC14株を親株として、プロトカテク酸ジオキシゲナーゼαサブユニットおよびβサブユニットをコードするNCgl2314遺伝子(pcaG)およびNCgl2315遺伝子(pcaH)を欠損したFKFC14ΔpcaGH株を外注により構築した。FKFC14ΔpcaGH株は、以下の手順でも構築することができる。
【0240】
<3-1>NCgl2314およびNCgl2315遺伝子欠損用プラスミドpBS4SΔ2256pcaGHの構築
pcaG遺伝子とpcaH遺伝子は隣接しており、まとめて欠損させることが可能である。C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号75および76の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl2315遺伝子の上流領域を含むPCR産物を得る。一方、C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号77および78の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl2314遺伝子の下流領域を含むPCR産物を得る。配列番号76および77は一部が相補的な配列となっている。次に、NCgl2315遺伝子の上流領域を含むPCR産物およびNCgl2314遺伝子の下流領域を含むPCR産物をそれぞれほぼ等モルとなるように混合し、In Fusion HD cloning kit(Clontech)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpBS4Sベクター(WO2007/046389)に挿入する。このDNAを用いてEscherichia coli JM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン40μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養する。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得る。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをpBS4SΔ2256pcaGHと命名する。
【0241】
<3-2>FKFC14ΔpcaGH株の構築
上記で得られたpBS4SΔ2256pcaGHはコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を
含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SΔ2256pcaGHを電気パルス法にてC. glutamicum FKFC14株に導入する。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地に塗布し、31.5℃にて培養する。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔ2256pcaGHが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認する。該1回組換え株は、野生型のNCgl2314およびNCgl2315遺伝子と、欠損型のNCgl2314およびNCgl2315遺伝子の両方を有する。
【0242】
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地に塗布し31.5℃で培養する。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で純化する。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号79および80の合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってNCgl2314およびNCgl2315遺伝子の欠損を確認し、該株をFKFC14ΔpcaGH株とする。
【0243】
<4>Ap1_0112株(FKFC14ΔpcaGH P8::NCgl2048株)の構築
次いで、Corynebacterium glutamicum FKFC14ΔpcaGH株を親株として、NCgl2048遺伝子のプロモーター領域がP8プロモーターに置換されたAp1_0112株を外注により構築した。同株におけるP8プロモーターを含むゲノム領域の塩基配列を配列番号83(901-1046位がP8プロモーターに相当)に示す。Ap1_0112株は、以下の手順でも構築することができる。
【0244】
<4-1>NCgl2048遺伝子プロモーター置換用プラスミドpBS4SP8::NCgl2048の構築
C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号85および86の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl2048遺伝子の上流領域を含むPCR産物を得る。一方、C.
glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号87および88の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl2048遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物を得る。また、P8プロモーター領域を含む配列番号89のDNA断片を人工遺伝子合成によって得る。次に、配列番号89のDNA断片を鋳型として、配列番号90および91の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、P8プロモーターを含むPCR産物を得る。配列番号86および90は一部が相補的な配列となっている。配列番号87および91は一部が相補的な配列となっている。次に、NCgl2048遺伝子の上流領域を含むPCR産物、NCgl2048遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物、およびP8プロモーターを含むPCR産物をそれぞれほぼ等モルとなるように混合し、In Fusion HD cloning kit(Clontech)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpBS4Sベクター(WO2007/046389)に挿入する。このDNAを用いてEscherichia coli JM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン40μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養する。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得る。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをpBS4SP8::NCgl2048と命名する。
【0245】
<4-2>Ap1_0112株の構築
上記で得られたpBS4SP8::NCgl2048はコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SP8::NCgl2048を電気パルス法にてC. glutamicum FKFC14ΔpcaGH株に導入する。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地に塗布し、31.5℃にて培養する。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SP8::NCgl2048が組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認する。
【0246】
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地に塗布し31.5℃で培養する。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で
純化する。純化した株よりゲノムDNAを調製し、シーケンス解析によりNCgl2048遺伝子上流にP8プロモーターが存在することを確認し、該株をAp1_0112株とする。
【0247】
<5>Homo sapiensのOMT遺伝子の発現プラスミドpVK9::PcspB-hsomtの構築
<5-1>プラスミドpEPlac-COMT2の構築
Homo sapiensのOMT遺伝子には2種のOMTアイソフォーム(すなわち、短いOMTアイソフォーム(S-COMT)と長いOMTアイソフォーム(MB-COMT))が知られている。S-COMTのアミノ酸配列を配列番号16に、S-COMTをコードする野生型cDNAの塩基配列を配列番号94に、それぞれ示す。S-COMTの野生型cDNAをEscherichia coli(E. coli)での発現用にコドン最適化し、ATG Service Gen(Russian Federation, Saint-Petersburg)のサービスを利用して化学合成した。後のクローニングを容易にするため、遺伝子のDNA断片は、3’末端および5’末端にそれぞれNdeIおよびSacIの制限酵素サイトを付加して合成した。このコドン最適化されたS-COMTのcDNAを「COMT2遺伝子」ともいう。COMT2遺伝子を含む合成されたDNA断片の塩基配列を配列番号95に示す。COMT2遺伝子を含む合成されたDNA断片は、pUC57ベクター(GenScript)に挿入された状態で得た。
【0248】
COMT2遺伝子の発現は、T7系で確認した。pUC57ベクターに挿入されたCOMT2遺伝子を、pET22(+)ベクター(Novagen)のNdeI-SacI制限サイトに再クローニングした。得られたプラスミドをE. coli BL21(DE3)の菌体(Novagen)に導入した。プラスミドを保持する菌体を、アンピシリン200 mg/Lを含有するLB培地(Tryptone 10 g/L、Yeast Extract 5 g/L、NaCl 10 g/L)で生育させ、対数増殖期に2時間以内で1 mM IPTGによる誘導を実施した。菌体を、超音波破砕した。粗タンパク質抽出物を、12% SDS-PAGEにより分析した。S-OMTに相当するバンド(約24 kDa)を同定し、ゲルから切り出した。目的のタンパク質をゲルから単離し、トリプシンで処理した。得られたトリプシン加水分解物を質量分析法により分析し、COMT2遺伝子の発現を確認した。
【0249】
pUC57ベクターに挿入されたCOMT2遺伝子を、pELACベクター(配列番号96;Smirnov S. V. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 2010, 88(3):719-726)のNdeI-SacI制限サイトに再クローニングした。pELACベクターは、pET22b(+)(Novagen)のBglII-XbaI断片を、PlacUV5プロモーターを含む合成BglII-XbaI断片で置換することにより構築した。COMT2遺伝子をpELACベクターに挿入するため、T4 DNA ligase(Fermentas, Lithuania)によるライゲーション反応を供給元の推奨する通りに実施した。ライゲーション反応物をエタノールで処理し、得られた沈殿を水に溶解してから、エレクトロポレーション(Micro Pulser, BioRad)により供給元の推奨する条件でE. coli TG1の菌体に導入した。菌体を、アンピシリン(200 mg/L)を添加したLAプレート(Sambrook J. and Russell D. W.,
Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rded.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)に塗布し、37℃で一晩培養した。得られたコロニーをPCR解析により試験し、要求されるクローンを選択した。COMT2遺伝子を含むコロニーの選択には、プライマーP1およびP2(配列番号97および98)を利用した。ベクター特異的プライマーP1とCOMT2遺伝子の末端用のリバースプライマーP2を用いることにより、713 bpのDNA断片が得られた。こうして、ベクターpEPlac-COMT2を構築した。クローニングされたCOMT2遺伝子の配列は、プライマーP1およびP3(配列番号97および99)を利用して決定した。
【0250】
<5-2>pVK9::PcspB-hsomtの構築
C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号100および101の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、cspB遺伝子のプロモーター領域とSD配列を含むPCR産物を得た。一方、プラスミドpEPlac-COMT2を鋳型として、配列番号102および103の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、COMT2遺伝子を含むPCR産物を得た。次に、これらの断片をIn Fusion HD cloning kit(Clontech)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpVK9ベクター(WO2007/046389)に挿入した。なお、pVK9はコリネ型細菌とE. coliのシャトル
ベクターである。このDNAを用いてEscherichia coli JM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン25μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養した。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをpVK9::PcspB-hsomtと命名した。
【0251】
<6>バニリン酸生産株の構築
プラスミドpVK9::PcspB-hsomtを有するC. glutamicum FKFC14ΔpcaGH/pVK9::PcspB-hsomt株およびAp1_0112/pVK9::PcspB-hsomt株を外注により構築した。これらの株は、以下の手順でも構築することができる。
【0252】
プラスミドpVK9::PcspB-hsomtを、電気パルス法にてC. glutamicum FKFC14ΔpcaGH株およびAp1_0112株に導入する。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地に塗布し、31.5℃にて培養する。生育してきた株を同寒天培地にて純化し、それぞれ、FKFC14ΔpcaGH/pVK9::PcspB-hsomtおよびAp1_0112/pVK9::PcspB-hsomtと命名する。
【0253】
これらの株を、それぞれ、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex w/o mameno培地(グルコース 5 g/L、Polypeptone 10 g/L、Yeast Extract 10 g/L、KH2PO41 g/L、MgSO4・7H2O 0.4 g/L、FeSO4・7H2O 0.01 g/L、MnSO4・7H2O 0.01 g/L、尿素 3 g/L、biotin 10μg/L、KOHでpH7.5に調整)4 mLを含む試験管に接種し、31.5℃で約16時間振とう培養を行った。得られた培養液0.9 mLを50%グリセロール水溶液0.6 mLと混合してグリセロールストックとし、-80℃で保存した。
【0254】
<7>C. glutamicum FKFC14ΔpcaGH/pVK9::PcspB-hsomt株およびAp1_0112/pVK9::PcspB-hsomt株によるバニリン酸生産
FKFC14ΔpcaGH/pVK9::PcspB-hsomt株およびAp1_0112/pVK9::PcspB-hsomt株のグリセロールストック5μLを、それぞれ、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex w/o mameno培地4 mLを含む試験管に接種し、前培養として31.5℃で20時間振とう培養を行った。得られた前培養液0.5 mLを、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex w/o mameno培地50 mLを含むバッフル付き三角フラスコに接種し、31.5℃で20時間振とう培養を行った。得られた培養液を8000 rpmで5分間遠心し、上清を除去し、菌体を滅菌生理食塩水に懸濁した。菌体懸濁液の光学密度(OD)を測定し、600 nmでのODが50になるように生理食塩水で菌体懸濁液を希釈した。希釈した菌体懸濁液5 mLを、カナマイシン25μg/mLを含有するバニリン酸生産培地(グルコース 75 g/L、MgSO4・7H2O 0.6 g/L、(NH4)2SO4 6.3 g/L、KH2PO4 2.5 g/L、FeSO4・7H2O 12.5 mg/L、MnSO4・4-5H2O 12.5 mg/L、Yeast Extract 2.5 g/L、Vitamin B1 150μg/L、Biotin 150μg/L、プロトカテク酸 6.9 g/L、KOHでpH7に調整後、CaCO3 37.5 g/L(180℃で3時間乾熱滅菌したもの)と混合)20 mLを含むバッフル付き三角フラスコに接種し、31.5℃で24時間振とう培養を行った。
【0255】
培養開始時と終了時に、培地中のグルコースの濃度をバイオテックアナライザーAS-310(サクラエスアイ(株))により分析した。また、培地中のプロトカテク酸およびバニリン酸の濃度を超高速液体クロマトグラフNEXERA X2システム(SHIMADZU)により下記の条件で分析した。
UPLC分析条件
カラム:KINETEX 2.6μm XB-C18 150 x 30 mm (Phenomenex)
オーブン温度: 40 ℃
移動相(A):0.1% トリフルオロ酢酸
移動相(B):0.1% トリフルオロ酢酸/80% アセトニトリル
グラジエントプログラム (time, A %, B %):(0, 90, 10)→(3, 80, 20)
流速:1.5 mL/min
【0256】
結果を表1に示す。Ap1_0112/pVK9::PcspB-hsomt株における培地中のバニリン酸濃度は、FKFC14ΔpcaGH/pVK9::PcspB-hsomt株の約1.2倍であった。
【0257】
【0258】
<8>定量PCRによるNCgl2048遺伝子の発現量解析
次いで、FKFC14ΔpcaGH/pVK9::PcspB-hsomt株およびAp1_0112/pVK9::PcspB-hsomt株におけるNCgl2048遺伝子の発現量を定量PCRにより解析した。
【0259】
<8-1>RNAの調製
FKFC14ΔpcaGH/pVK9::PcspB-hsomt株およびAp1_0112/pVK9::PcspB-hsomt株について実施例<7>で培養開始から5時間後に取得した250μLの菌体を含む培養液を500μLのRNA Protect Bacteria Reagent(QIAGEN)と混合し、-80℃に一旦保存した。凍結混合物を室温で融解後、リゾチームを含有する200μLのTE緩衝液(10mM トリス、1mM EDTA、pH8.0)お
よび10μLのプロテアーゼK(20mg/mL)を添加して混合した後、室温で40分間インキュベートした。この後の作業はRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて実施した。処理物に1%2-メルカプトエタノールを含有するRLT緩衝液を700μL添加して混合し、遠心して上清を得た。上清に500μLのエタノールを添加して混合し、キット付属のカラムにアプライし、カラムを遠心した。カラムを350μLのRW1緩衝液で洗浄後、80μLのDNaseI溶液をカラムにアプライし、室温で15分間DNase処理を実施した。さらに、カラムを350μLのRW1緩衝液で洗浄し、500μLのRPE緩衝液で2回洗浄した後、RNaseフリーの滅菌水で溶出し、RNAを取た。得られたRNAをNanoDrop(Thermo Fisher Scientific)を用いて定量し、BioAnalyer(Agilent Technologies)とRNA 6000 Nano Kit(Agilent Technologies)を用いた電気泳動により分析し、得られたRNAが十分な純度であることを確認した。
【0260】
<8-2>逆転写によるcDNA合成
逆転写には、PrimeScript RT Reatent Kit with gDNA Eraser(タカラバイオ)を用いた。RNA 1μgに1μLのgDNA Eraser、2μLの5×DNA Eraser Bufferを添加し、滅菌水で総量10μLにした後、42℃で2分間インキュベートし、染色体DNAを分解した。反応液に4μLの5×PrimeScript Buffer2、1μLのPrimeScript RT Emzyme MixI、1μLのRT Primer Mix、および4μLの滅菌水を加え、37℃で15分および85℃で5秒インキュベートし、cDNAを取た。
【0261】
<8-3>定量PCR
目的遺伝子としてNCgl2048遺伝子を以下の手順によりcDNAから増幅した:2μLのcDNA、10μLのPower SYBR Green PCR Master Mix(Life Technologies)、配列番号104と105のプライマー(それぞれ終濃度500nM)、および滅菌水を混合して総量20μLにした;7000 Real Time PCR(Applied Bio Systems)を用いてPCR(95℃で10分変性後、95℃で15秒および60℃で1分を40サイクル)を実施した。加えて、ハウスキーピング遺伝子として16SリボソーマルRNA遺伝子を、目的遺伝子の増幅と同一の手順(ただし、32倍希釈したcDNA2μLを鋳型とし、配列番号106と107のプライマーを用いた)によりcDNAから増幅した。増幅反応後、PCR産物を乖離曲線分析に供し、均一性を確認した。さらに、PCR産物をアガロース電気泳動により分析し、使用したプライマーで得られる長さであることを確認した。
【0262】
<8-4>発現量解析
NCgl2048遺伝子の発現量の解析には、ΔΔCt法(METHODS, 25, 402(2001))を用いた。NCgl2048遺伝子のCt値からハウスキーピング遺伝子のCt値を引いた値をΔCt値とした。ただし、ハウスキーピング遺伝子の増幅には32倍希釈(すなわち25倍希釈)したcDNAを用いたため、ハウスキーピング遺伝子のCt値としては、測定したハウスキーピング遺伝子のCt値に5を足した値を用いた。Ap1_0112/pVK9::PcspB-hsomt株のΔCt値からFKFC14ΔpcaGH/pVK9::PcspB-hsomt株のΔCt値を引いた値をΔΔCt値とした。Ap1_0112/pVK9::PcspB-hsomt株におけるNCgl2048遺伝子のFKFC14ΔpcaGH/pVK9::PcspB-hsomt株に対する相対発現量を、2-ΔΔCtとして算出した。
【0263】
結果を表2に示す。Ap1_0112/pVK9::PcspB-hsomt株におけるNCgl2048遺伝子の発現量は、FKFC14ΔpcaGH/pVK9::PcspB-hsomt株の約1/25であった。
【0264】
【産業上の利用可能性】
【0265】
本発明によれば、微生物のバニリンやバニリン酸等の目的物質を生産する能力を向上させることができ、目的物質を効率よく製造することができる。
【0266】
<配列表の説明>
配列番号1:Escherichia coli MG1655のaroG遺伝子の塩基配列
配列番号2:Escherichia coli MG1655のAroGタンパク質のアミノ酸配列
配列番号3:Escherichia coli MG1655のaroB遺伝子の塩基配列
配列番号4:Escherichia coli MG1655のAroBタンパク質のアミノ酸配列
配列番号5:Escherichia coli MG1655のaroD遺伝子の塩基配列
配列番号6:Escherichia coli MG1655のAroDタンパク質のアミノ酸配列
配列番号7:Bacillus thuringiensis BMB171のasbF遺伝子の塩基配列
配列番号8:Bacillus thuringiensis BMB171のAsbFタンパク質のアミノ酸配列
配列番号9:Escherichia coli MG1655のtyrR遺伝子の塩基配列
配列番号10:Escherichia coli MG1655のTyrRタンパク質のアミノ酸配列
配列番号11~14:Homo sapiensのOMT遺伝子の転写バリアント1~4の塩基配列
配列番号15:Homo sapiensのOMTアイソフォーム(MB-COMT)のアミノ酸配列
配列番号16:Homo sapiensのOMTアイソフォーム(S-COMT)のアミノ酸配列
配列番号17:Nocardia brasiliensisのACAR遺伝子の塩基配列
配列番号18:Nocardia brasiliensisのACARタンパク質のアミノ酸配列
配列番号19:Nocardia brasiliensisのACAR遺伝子の塩基配列
配列番号20:Nocardia brasiliensisのACARタンパク質のアミノ酸配列
配列番号21:Escherichia coli MG1655のentD遺伝子の塩基配列
配列番号22:Escherichia coli MG1655のEntDタンパク質のアミノ酸配列
配列番号23:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のPPT遺伝子の塩基配列
配列番号24:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のPPTタンパク質のアミノ酸配列配列番号25:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のvanK遺伝子の塩基配列配列番号26:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のVanKタンパク質のアミノ酸配列
配列番号27:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のpcaK遺伝子の塩基配列配列番号28:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のPcaKタンパク質のアミノ酸配列
配列番号29:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のvanA遺伝子の塩基配列配列番号30:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のVanAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号31:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のvanB遺伝子の塩基配列配列番号32:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のVanBタンパク質のアミノ酸配列
配列番号33:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のpcaG遺伝子の塩基配列
配列番号34:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のPcaGタンパク質のアミノ酸配列
配列番号35:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のpcaH遺伝子の塩基配列
配列番号36:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のPcaHタンパク質のアミノ酸配列
配列番号37:Escherichia coli MG1655のyqhD遺伝子の塩基配列
配列番号38:Escherichia coli MG1655のYqhDタンパク質のアミノ酸配列
配列番号39:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl0324遺伝子の塩基配列
配列番号40:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl0324タンパク質のアミノ酸配列
配列番号41:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl0313遺伝子の塩基配列
配列番号42:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl0313タンパク質のアミノ酸配列
配列番号43:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl2709遺伝子の塩基配列
配列番号44:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl2709タンパク質のアミノ酸配列
配列番号45:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のNCgl0219遺伝子の塩基配列
配列番号46:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のNCgl0219タンパク質のアミノ酸配列
配列番号47:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のNCgl2382遺伝子の塩基配列
配列番号48:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のNCgl2382タンパク質のアミノ酸配列
配列番号49:Escherichia coli MG1655のaroE遺伝子の塩基配列
配列番号50:Escherichia coli MG1655のAroEタンパク質のアミノ酸配列
配列番号51~80:プライマー
配列番号81:P2プロモーターを含む塩基配列
配列番号82:P4プロモーターを含む塩基配列
配列番号83:P8プロモーターを含む塩基配列
配列番号84:P3プロモーターを含む塩基配列
配列番号85~88:プライマー
配列番号89:P8プロモーター領域を含むDNA断片の塩基配列
配列番号90~91:プライマー
配列番号92:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl2048遺伝子の塩基配列
配列番号93:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl2048タンパク質のアミノ酸配列
配列番号94:Homo sapiensのS-COMTをコードするcDNAの塩基配列
配列番号95:COMT2遺伝子を含む合成DNA断片の塩基配列
配列番号96:pELACベクター
配列番号97~107:プライマー