(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】減速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20221206BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20221206BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H55/06
C23C26/00 A
(21)【出願番号】P 2019537910
(86)(22)【出願日】2018-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2018014969
(87)【国際公開番号】W WO2019038983
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2017160350
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小村 健
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 征伸
(72)【発明者】
【氏名】中川 政章
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-217391(JP,A)
【文献】特開2015-209931(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046274(WO,A1)
【文献】特開2011-220386(JP,A)
【文献】特開2015-158218(JP,A)
【文献】実開昭61-040545(JP,U)
【文献】特開平04-370445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 55/06
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能であり且つ前記回転軸から見て長径及び短径を有する単一の回転部材と、
周方向に並ぶ複数の外歯を有する外歯歯車と、
周方向に並ぶ複数の内歯を有し且つ前記回転軸を囲む環状である内歯歯車と、
を備え、
前記外歯歯車は、前記回転軸を囲む筒状であり且つ径方向に変形可能である筒部をさらに有し、
前記回転部材の径方向外側における外側面は、前記筒部の径方向内側における筒部内側面と摺動可能且つ直接に接し、
複数の前記外歯は、前記筒部の径方向外側における側面に設けられ、
複数の前記内歯は、前記内歯歯車の径方向内側における側面に設けられ、
前記回転部材の長径方向において、前記外歯歯車の前記外歯は、前記内歯歯車の前記内歯と噛み合い、
前記外歯歯車は、前記回転軸と平行な軸方向において、前記回転部材よりも軸方向一方側に位置する蓋部をさらに有し、
前記筒部は、前記蓋部から軸方向他方側に延び、
前記回転部材の径方向外側における外側面は、前記回転部材の長径方向において、軸方向
他方側に向かうにつれて径方向外側に傾く傾斜面を含む減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機などから得られる動力を減速させて出力する減速機が知られている。たとえば、日本国公開公報特開2010-4582号公報は、ウェーブジェネレータから薄肉ベアリングを介してフレクスプラインに伝達される回転力を減速してサーキュラスプラインから出力する波動歯車減速機を教示している。ウェーブジェネレータにより楕円形状に撓められたフレクスプラインの外歯車は、長軸の部分ではサーキュラスプラインの内歯車と噛合し、短軸の部分では内歯車から離れている。そのため、ウェーブジェネレータが時計回りに1回転すると、フレクスプラインは、外歯車及び内歯車の歯数差の分、サーキュラスプラインよりも反時計回りに移動する。従って、サーキュラスプラインがフレクスプラインのこのような回転を出力することにより、波動歯車減速機は、該歯数差に応じた減速比を得ることができる。従来では、薄肉ベアリングには、ボールベアリングが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国公開公報:特開2010-4582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ボールベアリングの小型化はその構造の点で限界がある。該限界に伴って、減速機の小型化も難しくなっていた。また、ボールベアリングは小型化するほど高価になる。そのため、減速機の製造コストも小型化するほど増大してしまっていた。
【0005】
本発明は、より小型化且つ安価な減速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の例示的な減速機は、回転軸を中心に回転可能であり且つ前記回転軸から見て長径及び短径を有する回転部材と、周方向に並ぶ複数の外歯を有する外歯歯車と、周方向に並ぶ複数の内歯を有し且つ前記回転軸を囲む環状である内歯歯車と、を備え、前記外歯歯車は、前記回転軸を囲む筒状であり且つ径方向に変形可能である筒部をさらに有し、前記回転部材の径方向外側における側面は、前記筒部の径方向内側における筒部内側面と摺動可能且つ直接に接し、複数の前記外歯は、前記筒部の径方向外側における側面に設けられ、複数の前記内歯は、前記内歯歯車の径方向内側における側面に設けられ、前記回転部材の長径方向において、前記外歯歯車の前記外歯は、前記内歯歯車の前記内歯と噛み合う構成とされる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の例示的な減速機によれば、より小型化且つ安価な減速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は、軸方向前側から見た減速機の正面図である。
【
図3】
図3は、減速機の断面構造の一部を拡大した図である。
【
図4】
図4は、回転部材の他の構成例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照して本発明の例示的な実施形態を説明する。
【0010】
なお、本明細書では、減速機100において、後述する回転軸RAと平行な方向を「軸方向」と呼ぶ。軸方向に沿って後述する回転部材1から後述する蓋部23に向かう方向を軸方向一方側として「軸方向後側」と呼び、軸方向に沿って蓋部23から回転部材1に向かう方向を軸方向他方側として「軸方向前側」と呼ぶ。各々の構成要素において、軸方向後側における端部を「後端部」と呼び、軸方向前側における端部を「前端部」と呼ぶ。また、各々の構成要素において、軸方向後側を向く面を「背面」と呼び、軸方向前側を向く面を「前面」と呼ぶ。
【0011】
回転軸RAに直交する方向を「径方向」と呼び、回転軸RAを中心とする回転方向を「周方向」と呼ぶ。径方向に沿って回転軸RAに向かう方向を「径方向内側」と呼び、径方向に沿って回転軸RAから離れる方向を「径方向外側」と呼ぶ。各々の構成要素において、径方向内側における端部を「内端部」と呼び、径方向外側における端部を「外端部」と呼ぶ。また、各々の構成要素の側面において、径方向内側を向く側面を「内側面」と呼び、径方向外側を向く側面を「外側面」と呼ぶ。
【0012】
また、径方向のうち、軸方向から見て回転部材1の幅が最も長くなる方向LDを「長径方向LD」と呼び、軸方向から見て回転部材1の幅が最も短くなる方向SDを「短径方向SD」と呼ぶ。さらに、径方向のうち、長径方向成分と短径方向成分とが同じ割合となる方向MDを「中間方向MD」と呼ぶ。なお、「長径方向LD」、「短径方向SD」、及び「中間方向MD」は、回転部材1が回転すると、回転部材1の回転運動に伴って、回転軸RAを中心にして周方向に回転する。
【0013】
なお、以上に説明した方向、端部、及び面などの呼称は、実際の機器に組み込まれた場合での位置関係及び方向などを示すものではない。
【0014】
<1.実施形態>
図1は、減速機100の一例を示す断面図である。なお、
図1は、減速機100の一例を示す断面構造である。
図2は、軸方向前側から見た減速機100の正面図である。
図3は、減速機100の断面構造の一部を拡大した図である。なお、
図1では、回転軸RAを含む平面で減速機100を切断した場合の断面構造を示している。また、
図3は、
図1において、破線で囲まれた部分に対応している。
【0015】
<1-1.減速機の構成>
減速機100は、回転部材1と、外歯歯車2と、内歯歯車3と、ベアリング4と、を備える波動歯車減速機である。減速機100は、回転部材1の回転を減速し、該回転部材1の回転力を外歯歯車2を介して内歯歯車3に伝達する。回転部材1は、回転基部11と、回転部被覆膜12と、孔部111と、を有する。外歯歯車2は、複数の外歯21と、可撓性を有する筒部22と、蓋部23と、シャフト24と、を有する。筒部22は、筒状基部221と、筒部被覆膜222と、を有する。内歯歯車3は、回転軸RAを囲む環状である。内歯歯車3は、複数の内歯31を有する。複数の内歯31は、内歯歯車3の内側面に設けられ、周方向に並んでいる。ベアリング4は、外歯歯車2のシャフト24と内歯歯車3との間に設けられている。ベアリング4を介して、内歯歯車3は、外歯歯車2のシャフト24を回転可能に保持している。ベアリング4は、本実施形態ではボールベアリングであるが、この例示に限定されず、たとえばスリーブベアリングなどの他の種類のベアリングであってもよい。なお、シャフト24及び内歯歯車3間の間隔は各構成要素1~3の径方向サイズと比較しても十分に広く、ベアリング4には一般に流通している安価な製品を用いることができる。そのため、ベアリング4は、本発明において減速機100を小型化及び安価にすることに悪影響を与えない。このほか、減速機100には被覆膜Cが設けられているが、被覆膜Cの構成は後述する。
【0016】
<1-1-1.回転部材の構成>
回転部材1は、回転軸RAから見て長径及び短径を有する形状であり、回転軸RAを中心に回転可能である。回転部材1は、外歯歯車2の内部に位置し、より具体的には筒部22よりも径方向内側に位置している。
【0017】
回転部材1は、いわゆるカムであり、軸方向から見て、回転軸RAからの距離が一定でない周辺を有し、回転しながらその周辺で他の部材に種々の運動を与える。本実施形態では、回転部材1は、回転しながらその外側面で外歯歯車2に、周方向の回転運動と径方向の変形運動とを与えている。
【0018】
回転部材1の外側面は、筒部22の内側面である筒部内側面22aと摺動可能且つ直接に接している。このようにすれば、回転部材1が外歯歯車2の筒部内側面22aと直接に接することにより、たとえば回転する回転部材1がボールベアリングを介して外歯歯車2の筒部内側面22aと間接に接する構成と比べて、減速機100をより小型化することができる。また、上記のボールベアリングを介して間接に接する構成と比べて、本実施形態の減速機100は、より少ない部品数で回転部材1のトルクを内歯歯車3に伝達することができるので、減速機100の製造コストを低減できる。従って、より小型化且つ安価な減速機100を提供することができる。
【0019】
回転部材1の外側面は、回転部材1の長径方向LDにおいて、軸方向前側に向かうにつれて径方向外側に傾く傾斜面1aを含んでいる。このようにすれば、回転部材1の回転に応じて、筒部22が径方向に変形すると、回転軸RAと平行な軸方向に対して筒部内側面22aが傾斜する。この際、回転部材1の長径方向LDでは、筒部22が径方向外側に変形する。そのため、筒部内側面22aは、軸方向前側に向かうにつれて径方向外側に傾き、回転部材1の同様に傾く傾斜面1aと面接触し易くなる。従って、回転部材1の長径方向LDにおいて、回転部材1に傾斜面1aが設けられない構成よりも広い両者の接触面積を確保できるので、いわゆる面圧と呼ばれる回転部材1が筒部内側面22aに及ぼす圧力をより小さくできる。よって、回転部材1及び筒部22が摩耗され難くなるので、回転部材1及び筒部22の寿命をより長くすることができる。
【0020】
軸方向に対する傾斜面1aの傾斜角度θ(
図3参照)は、0.1°以上且つ1.0°以下であることが好ましい。このようにすれば、回転部材1の傾斜面1aの軸方向に対する
傾斜角度θが、筒部内側面22aが軸方向に対して傾斜する角度と同じになり易くなる。
従って、回転部材1の傾斜面1aが筒部内側面22aとより面接触し易くなる。
【0021】
軸方向に対する傾斜面1aの傾斜角度θは、回転部材1の長径方向LDから短径方向S
Dに向かうにつれて小さくなり、回転部材1の中間方向MDにおいて0°となる。
【0022】
なお、回転部材1の中間方向MDから短径方向SDにおいて、傾斜面1aは軸方向と平行であってもよく、すなわち、傾斜面1aの傾斜角度θが0°であってもよい。このようにすれば、周方向の全域において、傾斜面1aの軸方向に対する傾斜角度θが筒部内側面22aが軸方向に対して傾斜する角度とさらに同じになり易くなり、接触面積をさらに広くすることができる。従って、回転部材1及び筒部22の摩耗をより効果的に抑制でき、回転部材1及び筒部22をさらに長寿命化できる。
【0023】
或いは、傾斜面1aは、回転部材1の短径方向SDにおいて、軸方向前側に向かうにつれて径方向内側に傾いていてもよい。
【0024】
このほか、回転部材1の短径方向SDにおいて、回転部材1の外側面は、筒部内側面22aから径方向内側に離れていてもよい(
図4参照)。
図4では、回転部材1の外側面の一部が筒部内側面22aと摺動可能且つ直接に接しており、回転部材1の外側面の他の一部が筒部内側面22aから径方向内側に離れている。より具体的には、回転部材1の長径方向LDから中間方向MDにおいては、回転部材1の外側面は筒部内側面22aと摺動可能且つ直接に接している。一方、回転部材1の中間方向MDから短径方向SDにおいては、回転部材1の外側面は、筒部内側面22aから離れている。この際、たとえば、回転部材1の中間方向MDから短径方向SDにかけての軸方向から見た円弧部分が軸方向に渡ってカットされていてもよい。言い換えると、軸方向から見た回転部材1の外形は、長径方向LDから中間方向MDにおいては円弧形状であり、中間方向MDから短径方向SDにおいては
図4のような直線状又は筒部内側面22aから径方向に離れた曲線形状であってもよい。とりわけ、
図4のように、回転部材1の中間方向MDから短径方向SDにおいて回転部材1の外端部を軸方向から見て直線状にすることで、回転部材1を容易に成形しやすくなる。
【0025】
回転部材1の主材料は、含油焼結金属、セラミック、及びプラスチックのうちのいずれかである。より具体的には、回転基部11の材料が、含油焼結金属、セラミック、及びプラスチックのうちのいずれかである。含油焼結金属は、油成分を含む多孔質な金属材料であり、たとえばFe-Cu系金属粉の焼結体に潤滑油又は潤滑グリースなどの油成分を含浸させて該焼結体の内部に保有させることにより作製できる。また、セラミックは、たとえば、アルミナ-チタンカーバイド(Al2O3-TiC)系の材料である。プラスチックは、たとえばPTFE(polytetrafluoroethylene)である。摺動特性が良好なこれらの材料を用いることにより、トルクの伝達損失をさらに低減し、減速機100の効率低下をさらに抑制できる。
【0026】
回転部被覆膜12は、回転基部11の外側面に設けられ、回転部材1の外側面のうちの少なくとも筒部内側面22aと接する領域に設けられている。このようにすれば、回転部材1から外歯歯車2へのトルクの伝達損失を低減できる。さらに、回転部被覆膜12によって、回転部材1の摩耗を抑制できる。回転部被覆膜12は、減速機100が備える被覆膜Cの一部である。
【0027】
なお、回転基部11の材料に含油焼結金属が用いられる場合、回転部被覆膜12は、回転基部11の外側面に設けられてもよいが、回転基部11の外側面に設けられないことが好ましい。言い換えると、含油焼結金属が用いられる場合には、回転基部11が直接に筒部内側面22aに接していることが好ましい。こうすれば、回転基部11を構成する含油焼結金属から回転基部11の外側面に滲み出る油成分が回転部被覆膜12で遮断されないようにすることができる。従って、滲み出た油成分の潤滑作用により、回転部材1から外歯歯車2へのトルクの伝達損失を低減して、回転部材1の摩耗を抑制することができる。
【0028】
孔部111は、軸方向から見て回転基部11の中央に設けられ、回転基部11を軸方向に貫通している。孔部111にはたとえば図示しない回転電動機のロータシャフトが連結される。該回転電動機により回転部材1が回転駆動される。
【0029】
<1-1-2.外歯歯車の構成>
外歯歯車2は、内歯歯車3よりも径方向内側に位置しており、回転軸RAを中心に回転可能である。
【0030】
複数の外歯21は、外歯歯車2の筒部22の外側面に設けられ、周方向に並んでいる。外歯歯車2の外歯21は、回転部材1の長径方向LDにおいて内歯歯車3の内歯31と噛み合っており、回転部材1の短径方向SDにおいて内歯歯車3の内歯31から離れている。外歯21の数は、内歯歯車3の内歯31の数よりも少ない。そのため、回転部材1が1回転すると、周方向において、外歯歯車2の回転位置は、内歯歯車3の回転位置よりも、内歯31の数から外歯21の数を引いた歯数差に応じた距離分、回転部材1の回転方向に離れる。この作用により外歯歯車2の回転は歯数差に応じた比で減速され、内歯歯車3は外歯歯車2から伝達された減速後の回転力を出力する。
【0031】
筒部22は、回転軸RAを囲む筒状であり、蓋部23から軸方向前側に延びている。筒部22は、可撓性を有し、径方向に変形可能である。本実施形態では、軸方向から見て筒部22は、筒部内側面22aに回転部材1の外側面が接することにより、長径及び短径を有する回転部材1と同じ形状に撓められている(
図3参照)。
【0032】
筒部被覆膜222は、筒状基部221の内側面に設けられ、より具体的には、筒部内側面22aのうちの少なくとも回転部材1と接する領域に設けられている。このようにすれば、回転部材1から外歯歯車2へのトルクの伝達損失を低減できる。さらに、筒部被覆膜222によって、筒部22の摩耗を抑制できる。筒部被覆膜222は、減速機100が備える被覆膜Cの一部である。
【0033】
蓋部23は、回転軸RAと平行な軸方向において、回転部材1よりも軸方向後側に位置する。蓋部23は、本実施形態では軸方向から見て円形である。
【0034】
シャフト24は、蓋部23から軸方向後側に延びている。
【0035】
<1-1-3.被覆膜の構成>
次に、被覆膜Cの構成を説明する。回転部材1と外歯歯車2の筒部22とのうちの少なくとも一方は被覆膜Cを有している。本実施形態では、回転部材1及び筒部22の両方が被覆膜Cを有している。但し、この例示に限定されず、回転部材1及び筒部22のうちのどちらかが被覆膜Cを有していてもよい。つまり、回転部材1は回転部被覆膜12を有しているが、筒部22は筒部被覆膜222を有していない構成であってよい。或いは、筒部22は筒部被覆膜222を有しているが、回転部材1は回転部被覆膜12を有していない構成であってもよい。
【0036】
このようにすれば、たとえば回転部材1と筒部22との間の摩擦を低減するための被覆膜Cによって、回転部材1が筒部内側面22aを摺動することによるトルクの伝達損失を低減できる。従って、減速機100の効率低下を抑制できる。さらに、回転部材1及び筒部22の摩耗を被覆膜Cによって抑制できる。
【0037】
被覆膜Cは、DLC(diamond-like carbon:ダイヤモンド状炭素)膜、フッ素樹脂膜、潤滑剤を含む樹脂膜、及び、フッ素樹脂を含むニッケルめっきのうちのいずれかである。なお、潤滑剤は、グラファイト(黒鉛)、二硫化モリブデン(MoS2)、及びフッ素樹脂のうちの少なくともいずれかを含む。また、潤滑剤を含む樹脂膜は、たとえば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、及びエポキシ樹脂のうちのいずれかに上述のような潤滑剤が混合された複合樹脂材料を用いて設けられる膜である。
【0038】
DLC膜、フッ素樹脂膜、潤滑剤を含む樹脂膜、及び、フッ素樹脂を含むニッケルめっきは、回転基部11及び筒状基部221に用いられる前述の材料と比べて、摩擦係数が小さい。従って、これらの材料を被覆膜Cに用いることにより、回転部材1から外歯歯車2の筒部22へのトルクの伝達損失をより低減できる。
【0039】
被覆膜CがDLC膜、及び、フッ素樹脂を含むニッケルめっきのうちのどちらかである場合、被覆膜Cの算術平均粗さRaは0.2[μm]以下であることが好ましい。また、被覆膜Cがフッ素樹脂膜、及び、潤滑剤を含む樹脂膜のうちのどちらかである場合、被覆膜Cの算術平均粗さRaは0.4[μm]以下であることが好ましい。なお、これらの面粗度は、JIS B0601:2001(対応国際規格ISO 4287:1997)に規定された算術平均粗さRaを採用している。また、面粗度の測定には、本実施形態では、JIS B0651:2001(対応国際規格ISO 3274:1996)に規定された触針式表面粗さ測定機を使用している。
【0040】
被覆膜Cの算術平均粗さRaを上記の範囲内とすることにより、減速機100の初期使用時における被覆膜Cの初期摩耗量を抑えることができる。たとえば、初期使用時では、被覆膜Cを設けた部材の寸法が初期の摩耗量に応じて変化する。回転部材1及び筒部22のうちの少なくとも一方に設けられた被覆膜Cの表面粗さが算術平均粗さRaで上記の範囲内であれば、被覆膜Cを設けた部材の寸法変化に起因する減速機100の性能低下があまり顕著にならない程度に、被覆膜Cの初期摩耗量を抑えることができる。
【0041】
<2.その他>
以上、本発明の実施形態について説明した。なお、本発明の範囲は上述の実施形態に限定されない。本発明は、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。また、上述の実施形態で説明した事項は、矛盾を生じない範囲で適宜任意に組み合わせることができる。
【0042】
本発明は、回転部材の回転力を減速して内歯歯車に伝達する減速機に有用である。
【符号の説明】
【0043】
100・・・減速機、1・・・回転部材、1a・・・傾斜面、11・・・回転基部、111・・・孔部、12・・・回転部被覆膜、2・・・外歯歯車、21・・・外歯、22・・・筒部、22a・・・筒部内側面、221・・・筒状基部、222・・・筒部被覆膜、23・・・蓋部、24・・・シャフト、3・・・内歯歯車、31・・・内歯、4・・・ベアリング、θ・・・傾斜角度、C・・・被覆膜、RA・・・回転軸、LD・・・長径方向、SD・・・短径方向、MD・・・中間方向