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特許7188393エアバッグ基布およびそれを含むエアバッグ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】エアバッグ基布およびそれを含むエアバッグ
(51)【国際特許分類】
   D03D 1/02 20060101AFI20221206BHJP
   B60R 21/235 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
D03D1/02
B60R21/235
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019545625
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2018036044
(87)【国際公開番号】W WO2019065880
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-07-30
(31)【優先権主張番号】P 2017191567
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 将宏
(72)【発明者】
【氏名】原田 弘孝
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057300(WO,A1)
【文献】特開2007-224486(JP,A)
【文献】国際公開第2007/148791(WO,A1)
【文献】特開2015-110857(JP,A)
【文献】特開2010-203023(JP,A)
【文献】再公表特許第2014/098083(JP,A1)
【文献】再公表特許第2015/137495(JP,A1)
【文献】特開2001-032145(JP,A)
【文献】特開2012-188006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R21/16-21/33
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
総繊度が500~750dtexの合繊繊維マルチフィラメントから構成されるエアバッグ基布であって、目付けが225~245g/mであり、20kPaにおける通気度が0.2~0.8L/cm/minであり、かつASTM D6479法により求められる滑脱抵抗が経糸方向および緯方向ともに300~600Nである、エアバッグ基布。
【請求項2】
織密度が経糸方向および緯方向ともに35~55本/2.54cmである、請求項1に記載のエアバッグ基布。
【請求項3】
前記合成繊維がポリアミド繊維およびポリエチレンテレフタレート繊維からなる群より選択される少なくとも一種の合成繊維である、請求項1または2に記載のエアバッグ基布。
【請求項4】
前記合成繊維の単糸の断面形状のアスペクト比が1.4以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のエアバッグ基布。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のエアバッグ基布を含むエアバッグ。
【請求項6】
ノンコートエアバッグである、請求項5に記載のエアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ基布およびそれを含むエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エアバッグは、車両衝突時における乗員保護のための安全装備として広く普及してきている。エアバッグ基布としては、インフレーターから出力されたガス漏れを防止できる程度の低通気性を確保するため、織物にシリコーンゴム等を表面コートしたものが使用されてきた。ところが、この様な表面コート織物を用いた、いわゆるコートエアバッグは、通気性に加え耐熱性も高いという長所がある一方、コーティング処理により少なからぬコストアップを招くだけでなく、さらには重い、厚い、という欠点がある。このため、コートエアバッグは、軽量化およびコンパクト化という市場のニーズに応えることが困難となっている。そのため、最近では表面コートを行わないノンコートエアバッグ基布を用いたエアバッグ、いわゆるノンコートエアバッグの検討が進められている。
【0003】
また、近年、エアバッグ自体に軽量化およびコンパクト化が要求されるようになってきている。それに伴い、インフレーターにも小型化が要求されている。しかしながら、インフレーターの小型化は、発生するガスの高出力化および高温化をもたらし、展開時に受けるガスによってエアバッグに穴あきが生じることが懸念されている。エアバッグに穴が空いた場合、その穴から高温かつ高圧のガスが噴出し、乗員の顔面に火傷を起こす危険性があるだけでなく、展開時にエアバッグがバーストし、所期の乗員保護機能が発揮されないことも懸念される。
【0004】
上記の問題を解決する技術として、ノンコートエアバッグ基布表面への電子線照射により、構成糸同士を架橋させ、耐熱性を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献1)。しかし、このような技術には、電子線照射の設備導入と工程増とによりコストが増えるだけでなく、架橋によってエアバッグ基布の引張強度が低下するおそれもある。
【0005】
また、扁平断面糸を用いてエアバッグ基布表面に出ている糸の表面積を大きくすることにより、展開時のガスの熱を吸収し、耐熱性を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献2)。しかし、扁平断面糸は丸断面糸に比べ繊度あたりの強度が低く、それを用いたエアバッグ基布の引張強度の低下が懸念される。加えて、丸断面糸に比べ細繊度化が困難であり、十分な細繊度化ができない場合は収納性が悪化する懸念もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-146132号公報
【文献】特表2003-171843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題を背景になされたものであり、その目的は、乗員の安全を確保できる十分な低通気性を備えながら、近年の小型化されたインフレーターから発生する、高出力で高温のガスに対応できる耐熱性を有し、更にはコンパクトに収納できるエアバッグ基布およびそれを用いたエアバッグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。具体的には、基布を構成する合成繊維マルチフィラメントの総繊度、ならびに基布状態における、目付、通気度および滑脱抵抗の範囲をそれぞれ規定することによって、エアバッグとして使用した際に優れた耐熱性と収納性とを発揮し、さらに軽量かつ安価に製造できるエアバッグ基布を提供することに本発明者らは成功した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
【0009】
項1.総繊度が500~750dtexの合繊繊維マルチフィラメントから構成されるエアバッグ基布であって、目付けが225~245g/mであり、20kPaにおける通気度が0.2~0.8L/cm/minであり、かつASTM D6479法により求められる滑脱抵抗が経糸方向および緯方向ともに300~600Nである、エアバッグ基布。
項2.織密度が経糸方向および緯方向ともに35~55本/2.54cmである、項1に記載のエアバッグ基布。
項3.前記合成繊維がポリアミド繊維およびポリエチレンテレフタレート繊維からなる群より選択される少なくとも一種の合成繊維である、項1または2に記載のエアバッグ基布。
項4.前記合成繊維の単糸の断面形状のアスペクト比が1.4以下である、項1~3のいずれか一項に記載のエアバッグ基布。
項5.項1~4のいずれか一項に記載のエアバッグ基布を含むエアバッグ。
項6.ノンコートエアバッグである、項5に記載のエアバッグ。
【発明の効果】
【0010】
本発明のエアバッグ基布は、エアバッグとして用いたとき、乗員の安全を確保できる十分な低通気性を備えながら、近年の小型化されたインフレーターから発生する高出力で高温のガスに対応できる耐熱性を有し、更にはコンパクトにモジュールに収納できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.エアバッグ基布
本発明のエアバッグ基布は、合成繊維マルチフィラメントから構成される織物である。
前記合成繊維マルチフィラメントの総繊度は、500~750dtexであり、好ましくは530~700dtexである。総繊度が500dtex以上であれば、後述の目付で織られたエアバッグ基布は、過度に織密度を高くする必要がないため、経糸と緯糸の拘束力の過度の上昇を抑え、モジュールでの収納性を適切な範囲内に留めやすくなる。加えて、総繊度が500dtex以上であれば、マルチフィラメントの熱許容量が大きくなり、過度に織密度を高くせずとも十分な耐熱性を得ることができる。一方、総繊度が750dtex以下であれば、構成糸自体の剛性の過度な上昇を抑えやすくなる。このように、前記合成繊維マルチフィラメントの総繊度が500~750dtexであれば、適度に柔軟であり、そのためにモジュールへの良好な収納性を有するエアバッグ基布が得られやすい。
【0012】
本発明において、総繊度は以下のようにして求める。乾燥仕上げ工程を経て得られた基布の経糸と緯糸とをそれぞれ解織し、JIS L 1013(2010) 8.3.1 B法(簡便法)に準拠して測定する。具体的には、初荷重(g)として測定する試料のデシテックスの1/11.1をかけて正確に長さ90cmの試料をとり、絶乾質量を量り、次の式によって正量繊度(dtex)を算出し、5回の平均値を総繊度とする。
F0=10000×m/L×(100+R0)/100
F0:正量繊度(dtex) L:試料の長さ(m) m:試料の絶乾質量(g) R0:公定水分率(%)
【0013】
本発明のエアバッグ基布は、目付が225~245g/mであり、好ましくは230~240g/mであり、より好ましくは232~235g/mである。目付が225g/m以上であれば、エアバッグ基布に十分な耐熱性を付与できる。一方、目付が245g/m以下であれば、軽量化し易くなり、更にはモジュールへの収納性を向上できる。
【0014】
本発明において、目付は、JIS L 1096(2010) 8.3.2に基づき測定する。試料から約200mm×200mmの試験片を3枚採取し,それぞれの絶乾質量(g)を量り、1m当たりの質量(g/m)を求め、その平均値を算出し、目付とする。
【0015】
本発明のエアバッグ基布は、20kPaにおける通気度が0.2~0.8L/cm/minであり、好ましくは0.3~0.7L/cm/minである。通気度が0.8L/cm/min以下であれば、エアバッグモジュールとして用いたときにベントホールの調整しろを確保しやすくなる。通気度が0.2L/cm/min以上であれば、エアバッグ展開時にエアバッグの内圧を十分に保持し、乗員を保護することができる。
【0016】
本発明において、通気度は、20kPa圧力下での通気度を高圧通気度測定機(OEMシステム(株)製又はその同等品)を用いて測定する。
【0017】
発明のエアバッグ基布は、ASTM D6479法により求められる滑脱抵抗が経糸方向および緯方向ともに300~600Nであり、好ましくは300~550Nである。滑脱抵抗が300N以上であれば、エアバッグの展開時におけるエアバッグ基布の過度の目開きを抑制し、バーストの危険性を回避しやすくなる。滑脱抵抗の上限値は特に限定するものではないが、滑脱抵抗を向上させるためには織密度を上げる必要がある。織密度を上げればその分収納性が低下するため、収納性の関係から滑脱抵抗は600N以下であることが好ましく、550N以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明のエアバッグ基布は、織密度が経糸方向および緯方向ともに好ましくは35~55本/2.54cmであり、より好ましくは40~50本/2.54cmである。先述の目付で織られたエアバッグ基布は、織密度が35本/2.54cm以上であれば、繊維間に隙間が生じにくくなり、通気性の大幅な上昇を抑制しやすくなることに加え、滑脱抵抗の大幅な悪化も抑制しやすくなる。加えて、織密度が35本/2.54cm以上であれば、織物の単位面積当たりに存在するマルチフィラメントが多くなり、十分な耐熱性を得ることができる。一方、織密度が55本/2.54cm以下であれば、製織が容易である他、エアバッグ基布の剛軟度の過度の上昇を避けやすくなり、モジュールでの収納性が向上する。
【0019】
本発明において、織密度はJIS L 1096(2010) 8.6.1 A法(JIS法)に基づき測定する。具体的には、試料を平らな台の上に置き、不自然なしわ及び張力を除いてから、たて糸については耳端から全幅の1/10を除いた部分を約5等分しそれぞれの箇所に10cmの印を付け10cm間の糸本数を読み取る。よこ糸については、たて糸方向に5箇所10cmの印を付け10cm間の糸本数を読み取る。異なる5か所について10cm区間のたて糸及びよこ糸の本数を数え、それぞれの平均値を単位長さについて算出し、密度とする。
【0020】
本発明のエアバッグ基布を構成する合成繊維マルチフィラメントの単糸の断面形状のアスペクト比は、好ましくは1.4以下である。エアバッグ基布の構成糸の単糸の断面形状は、加工時の張力等の影響により、原糸の単糸の断面形状と異なる形状に変化することがある。エアバッグ基布の構成糸の単糸の断面形状がアスペクト比1.4以下の場合、エアバッグを折り畳む際に、糸の断面が所定の方向に整然と揃うため、所望する低通気度が得られやすい。
【0021】
本発明において、単糸の断面形状のアスペクト比は以下のようにして求める。乾燥仕上げ工程を経て得られた基布の経糸と緯糸とをそれぞれ解織し、繊維断面のSEM写真を撮影し、無作為に選択した単糸10本の長軸と短軸の長さを測定し、その平均値を求めることで、アスペクト比を算出した。
【0022】
本発明のエアバッグ基布は、JIS L1096(2010) 8.21.1 A法(45°カンチレバー法)により求められる剛軟度が経方向と緯方向の平均で好ましくは80~100mmであり、より好ましくは90~100mmである。剛軟度はより小さいほうが好ましいが、実現できるのは80mm以上である。一方、剛軟度が100mm以下であれば、エアバッグ基布が過度に硬くなりにくく、折癖が着き易くなり、モジュールでの収納性が向上する。
【0023】
本発明におけるJIS L 1096(2010) 8.21.1 A法(45°カンチレバー法)による剛軟度の測定は具体的には以下の通り行う。試料から、約20mm×約150mmの試験片をたて方向及びよこ方向にそれぞれ5枚採取し、一端が45°の斜面をもつ表面の滑らかな水平台の上に試験片の短辺をスケール基線に合わせて置く。次に、適切な方法によって試験片を斜面の方向に緩やかに滑らせて、試験片の一端の中央点が斜面と接したとき他端の位置をスケールによって読む。剛軟度は、試験片が移動した長さ(mm)で示され、それぞれ5枚の表裏を測定する。
【0024】
本発明のエアバッグ基布は、軽量、高収納性の点から、ASTM D6478に規定される収納性試験において、収納性が好ましくは2300cm以下であり、より好ましくは2250cm以下である。軽量、高収納性の点から、収納性の下限は特に限定されないが、通常用いられるエアバッグ基布としては、好ましくは1900cm以上であり、より好ましくは2100cm以上である。
【0025】
本発明におけるASTM D6478による収納性試験は具体的には以下の通り行う。試料から幅(ヨコ糸方向)750±5mm、長さ(タテ糸方向)800mm±5mmの試験片を採取し、タテ糸方向の端部に沿って幅145mm厚み2mmの板を置き、タテ糸に沿って試料を折り返す。蛇腹になるように5回行う。板を抜き、折り畳んだサンプルを90°回転させる。ヨコ糸方向の端部に沿って幅95mm厚み2mmの板を置き、次はヨコ糸に沿って織物を折り返す。蛇腹になるように7回繰り返す。折り畳んだサンプルを底面の内寸100mm×150mmの収納箱に入れ、上から特定の荷重をかけた際の折り畳みサンプルの嵩高さ(厚み)を測定し、次の式によって収納性(cm)を算出し、2回の平均値を収納性とする。
[T20+T40+T60+・・・T180]*100*150/1000(cm
(Tα:αN荷重時のサンプルの嵩高さ(mm)。αは20刻みで測定。)
【0026】
本発明のエアバッグ基布の引張強度は、機械的特性の点から、好ましくは750N/cm以上であり、より好ましくは800N/cm以上である。また、引張強度の上限については、特に制限はないが、使用する合成繊維マルチフィラメントの総繊度、引張強度、およびエアバッグ基布の織密度との関係から好ましくは1000N/cm以下であり、より好ましくは900N/cm以下である。
【0027】
本発明において基布の引張強度は、JIS L 1096(2010) 8.14.1 A法(ストリップ法)に基づき測定する。具体的には、試験片を弛ませないように引張試験機でつかみ、幅55mmで切り出し、両側から2.5mmの糸を除去して調整した幅50mmの試験片を、つかみ間隔200mm、引張速度200m/min、緩衝材としてラバーの条件で試験を行い、切断時の強さ(N)を測定する。ただし、つかみから10mm以内で切れたもの又は異常に切れたものは除く。
【0028】
また、本発明のエアバッグ基布の破断伸度は、好ましくは23%以上である。エアバッグ基布は、経糸方向、緯糸方向それぞれでの伸びが異なる。そのため、エアバッグ基布の経糸方向、緯糸方向それぞれの破断伸度が23%以上であると、エアバッグ展開時に伸びが少ない部分への応力が集中しにくくなり、所定の展開内圧を維持することができる。エアバッグ基布の破断伸度は、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは26%以上である。破断伸度は大きい方が好ましいが、実用上、好ましくは40%以下であり、より好ましくは38%以下である。
【0029】
本発明において基布の破断伸度は、JIS L 1096(2010) 8.14.1 A法(ストリップ法)に基づき測定する。具体的には、試験片を弛ませないように引張試験機でつかみ、幅55mmで切り出し、両側から2.5mmの糸を除去して調整した幅50mmの試験片を、つかみ間隔200mm、引張速度200m/min、緩衝材としてラバーの条件で試験を行い、切断時の伸び率(%)を測定する。ただし、つかみから10mm以内で切れたもの又は異常に切れたものは除く。
【0030】
本発明のエアバッグ基布を構成する合成繊維マルチフィラメントの素材としては、特に限定されず、幅広く選択することができる。経済性を考慮しつつ前述の特性を満足させる上で、ナイロン6、ナイロン66、およびナイロン46などのポリアミド系樹脂、ならびにポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル系樹脂からそれぞれなるマルチフィラメントが好ましい。これらの中でも、熱容量や柔軟性の観点から特に好ましいのは、ナイロン66やナイロン46からなるマルチフィラメントである。
【0031】
なお、本明細書において「本発明のエアバッグ基布を構成する合成繊維マルチフィラメント」は、構成糸、すなわち、本発明のエアバッグ基布を解織して得られる繊維を指し、本発明のエアバッグ基布を製造するために使用される原糸としての合成繊維マルチフィラメントとは区別される。具体的には、構成糸の特性は、エアバッグ基布の製造過程において原糸の特性から変化している場合がある。この場合であってもその他の特性は構成糸と原糸との間で共通する。
【0032】
本発明のエアバッグ基布を構成する合成繊維マルチフィラメントは、原糸の製造工程や基布の製造工程で生産性あるいは特性の改善のために通常使用される各種添加剤を含んでいてもよい。本発明のエアバッグ基布を構成する合成繊維マルチフィラメントは、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料および難燃剤からなる群より選択される少なくとも一種などを含有していてもよい。
【0033】
本発明のエアバッグ基布を構成する合成繊維マルチフィラメントの引張強度は、機械的特性の点で高い方が好ましく、具体的には好ましくは7.0cN/dtex以上であり、より好ましくは7.5cN/dtex以上であり、さらに好ましくは8.0cN/dtex以上である。引張強度の上限については、特に制限はないが、ナイロン66繊維を使用した場合、10.0cN/dtexの引張強度を有すれば、本発明の効果を発揮することができる。
【0034】
本発明において合成繊維マルチフィラメントの引張強度は、緩く張った状態で、引張試験機のつかみ部にターポリンを緩衝材として試料を取り付け、初荷重(g)として測定する試料のデシテックスの1/11.1をかけ、つかみ間隔200mm、引張速度200m/minの条件で試験を行い、試料が切断したときの荷重を測定する。
【0035】
本発明のエアバッグ基布を構成する合成繊維マルチフィラメントの破断伸度は、好ましくは15%以上である。エアバッグ基布は、経糸方向、緯糸方向のそれぞれでの伸びが異なる。合成繊維の破断伸度が15%以上であると、エアバッグ展開時に伸びが少ない部分への応力が集中しにくくなり、エアバッグを展開した際に内圧を所定の範囲に維持することができる。前記マルチフィラメントの破断伸度は、より好ましくは18%以上、さらに好ましくは20%以上である。破断伸度は比較的高い方が好ましいが、実用上は、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下である。
【0036】
本発明において合成繊維マルチフィラメントの破断伸度は、緩く張った状態で、引張試験機のつかみ部にターポリンを緩衝材として試料を取り付け、初荷重(g)として測定する試料のデシテックスの1/11.1をかけ、つかみ間隔200mm、引張速度200m/minの条件で試験を行い、試料が切断したときの伸びを測定する。
【0037】
本発明のエアバッグ基布を構成する合成繊維マルチフィラメントは、好ましくは実質的に無撚糸または甘撚糸であり、より好ましくは無撚糸である。合成繊維マルチフィラメントが、実質的に無撚糸または甘撚糸であると、合成繊維を構成する単糸の拡がりが阻害されず、エアバッグ基布の通気度を低くすることができる。
【0038】
本発明のエアバッグ基布を構成する合成繊維マルチフィラメントを構成する単糸の繊度は、特に限定されないが、紡糸操業性を確保すると共に、エアバッグの収納性をも確保する点で、好ましくは5.0dtex以下である。また、前記単糸の繊度は、好ましくは2.0dtex以上であり、より好ましくは2.4dtex以上である。
【0039】
本発明のエアバッグ基布の織組織としては、平織、綾織、繻子織、及びこれらの変化組織などが挙げられるが、機械的特性に優れることから平織が好ましい。
【0040】
2.エアバッグ基布の製造方法
2.1 原糸
本発明のエアバッグ基布の製造に使用する原糸としては、通常の溶融紡糸法により合成樹脂を口金から紡出して得ることができる合成繊維マルチフィラメントを使用できる。紡糸条件は合成繊維マルチフィラメントの原料となる合成樹脂(ポリマー)の種類によって異なり、ポリマーの粘性や熱特性等を考慮して適当な条件を選択すればよい。一般的には、ポリマーの熱による劣化を防ぐために、紡糸機内におけるポリマーの滞留時間を短くすることが好ましく、通常は10分以内とするのがよい。より好ましくは1~5分程度とすることが推奨される。
【0041】
例えばポリマーとして、ポリエチレンテレフタレートまたはポリヘキサメチレンアジパミド等を原料として繊維を製造する場合は、紡糸温度を280~310℃とすると共に、口金の直下に、長さが5~50cm程度で、温度を200~350℃程度、相対湿度を85%程度に制御した加熱筒内を設け、この加熱筒内を通過させることが好ましい。該加熱筒内を通過させることにより溶融ポリマーの固化を遅らせ、高強度を発現させることができる。なお、加熱筒の長さや温度、相対湿度の条件は、得られる繊維を構成する単糸の繊度および単糸の数等により最適化される。また、加熱筒内を高温にすることによる熱劣化を抑制するため、必要に応じて加熱筒内の雰囲気を高温不活性ガスでシールすることも有効である。
【0042】
次に、紡出された糸条は、上述した様に高温雰囲気中を通過した後、冷風で冷却固化され、次いで油剤が付与されたあと、紡糸速度を制御する引取りロールで引き取られる。引取りロールで引き取られた未延伸糸条は、通常、連続して延伸されるが、一旦巻き取った後別工程で延伸することも可能である。紡糸速度は、通常、2000m/min以下で行われ、延伸は常法の熱延伸が採用されうる。延伸は、2段以上の多段延伸が好ましく、延伸倍率は、未延伸糸の複屈折、延伸温度および多段延伸する際の延伸比配分等によっても変わるが、1.5~6.0倍とすることが好ましく、より好ましくは2.0~5.5倍である。
【0043】
次に、延伸された繊維を常法に従って熱固定することができる。このとき熱固定時の張力や温度を変化させても構わない。
【0044】
なお、上記延伸工程や熱固定工程では、走行糸条に交絡をかけてもよい。交絡は、エア交絡など公知の方法を採用できる。エア交絡の場合は、例えば用いる糸条の繊度や張力に応じて、エアの圧力を適宜変更することで適当な交絡度を達成できる。
【0045】
<糸の引張強度>
本発明のエアバッグ基布の製造に使用する原糸としての合成繊維マルチフィラメントの引張強度は、機械的特性の点から大きい方が良く、好ましくは7.0cN/dtex以上であり、より好ましくは7.5cN/dtex以上であり、さらに好ましくは8.0cN/dtex以上である。また、引張強度の上限については、特に制限を設けないが、ナイロン6・6繊維を使用した場合、9.0cN/dtex以下であることが原糸製造の面から好適である。
【0046】
<糸の破断伸度>
本発明のエアバッグ基布の製造に使用する原糸としての合成繊維マルチフィラメントの破断伸度は、好ましくは15%以上であり、より好ましくは18%であり、さらに好ましくは20%以上である。マルチフィラメントの破断伸度が15%以上であると、製織後の基布において、エアバッグ展開時に伸びが少ない部分への応力が集中しにくくなり、所定の展開内圧を維持することができる。また、破断伸度は比較的高い方が好ましいが、好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは25%以下であることが原糸製造の面から好適である。
【0047】
本発明において、糸の引張強度及び破断伸度は、緩く張った状態で、引張試験機のつかみ部にターポリンを緩衝材として試料を取り付け、初荷重(g)として測定する試料のデシテックスの1/11.1をかけ、つかみ間隔200mm、引張速度200m/minの条件で試験を行い、試料が切断したときの伸びを測定する。
【0048】
<糸の沸水収縮率>
本発明のエアバッグ基布の製造に使用する原糸としての合成繊維マルチフィラメントの沸水収縮率は、通気度を低減させる点から、好ましくは5%以上であり、より好ましくは8%以上である。沸水収縮率が高すぎると収縮加工後のエアバッグ基布の厚みが厚くなる可能性があるため、モジュールへの収納性の観点から、原糸としての合成繊維マルチフィラメントの沸水収縮率は好ましくは15%以下であり、より好ましくは12%以下である。沸水収縮率を前記範囲内とすることで、後術の収縮処理により、低通気度であり、かつモジュールへの収納性が良好なエアバッグ基布を得ることができる。
【0049】
本発明において、糸の沸水収縮率は、JIS L 1013(2010) 8.18.1 熱水寸法変化率 B法に基づき測定する。具体的には以下の通り測定する。試料に初荷重(g)として測定する試料のデシテックスの1/11.1をかけ、500mm離間する2点をマーキングしてから初荷重を除き、これを100℃の熱水中に30分間浸漬する。その後、試料を取り出して軽く吸取紙又は布で水を切り、風乾後再び初荷重をかける。上記2点間の長さを測り、次の式によって熱水寸法変化率(%)を算出し、3回の平均値を沸水収縮率とする。
ΔL=(L-500)/500×100
ΔL:沸水収縮率(%) L:2点間の長さ(mm)
【0050】
<単糸のアスペクト比>
なお、紡糸技術の容易さとの品質の観点からは、本発明のエアバッグ基布の製造に使用する原糸を構成する単糸の断面は丸断面であることが好ましい。なお、ここでいう丸断面とは断面形状がアスペクト比(繊維断面の長径/短径)が1.1以下のものを指す。単糸断面が丸断面の原糸の場合、扁平断面や四角断面等の異型断面の単糸で構成される原糸と比べ、紡糸が容易で、原糸強力を高めるために延伸を行っても、原糸毛羽が発生しにくい。
【0051】
本発明において、単糸の断面形状のアスペクト比は、SEM写真を用いることによって求めた。繊維断面のSEM写真を撮影し、無作為に選択した単糸10本の長軸と短軸の長さを測定し、その平均値を求めることで、アスペクト比を算出した。
【0052】
2.2 製織方法
上記原糸を製織することにより本発明のエアバッグ基布が得られる。
【0053】
上記合成繊維マルチフィラメントを用いて織物を作製するには、合成繊維マルチフィラメントをそのまま経糸と緯糸に用い、通常の方法で製織することができる。このとき撚糸したり、糊づけしたりしないことが好ましい。当該工程を省くことにより、織物を構成する経糸および緯糸の単糸が広がり易くなり、低通気性を実現できるからである。
【0054】
本発明のエアバッグ基布の製造工程において使用する織機については、特に限定されるものではなく、例えばウォータージェットルーム、エアージェットルーム、レピアルーム、プロジェクタイルルーム等が使用可能である。織生産性、原糸への損傷の低減、経糸の糊剤不要等を考慮すると、ウォータージェットルームおよびエアジェットルームが特に好適である。また、加工時の原糸油剤および整経油剤の脱落を容易にするためには、製織時に水によってその殆どを除却することができるウォータージェットルームが、精練工程の簡略化ができる点から最も好ましい。
【0055】
本発明のエアバッグ基布を製織する際の経糸テンションは好ましくは50~115cN/本である。経糸テンションが50cN/本以上であれば、製織時の経糸に弛みが生じにくく、布帛の欠点や織機の停止に繋がりにくい。一方、経糸テンションが115cN/本以下であれば、経糸へ過剰な負荷が加わることを避けやすく、布帛の欠点に繋がるにくい。
【0056】
次に、得られた織物に収縮加工を施した後、乾燥することにより、本発明のエアバッグ基布が得られる。
【0057】
収縮加工としては、例えば熱水加工やピンテンターに代表される熱セット加工が挙げられるが、収縮加工に熱水を用いる熱水加工が好ましい。熱水を用いる際には、上記製織で得られた織物を熱水中に浸漬する方法や、織物に熱水を吹き付ける方法などを採用できる。熱水の温度は好ましくは80~100℃程度であり、より好ましくは95℃以上である。なお、製織して得られた織物は、一旦乾燥させた後、収縮加工を施しても良いが、製造コストの点では、製織して得られた織物を、乾燥することなく収縮加工を施し、次いで乾燥仕上げを行えば有利である。
【0058】
本発明のエアバッグ基布の製造工程における乾燥処理の加熱温度は特に限定されるものではなく、通常80~200℃であり、好ましくは160℃以下である。必要に応じ、本発明の効果を損なわない限りにおいて、乾燥後にカレンダ加工や樹脂加工、コーティング加工などを行ってもよい。
【0059】
本発明のエアバッグ用基布を用いたエアバッグは、例えば、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、カーテンエアバッグ、サイドエアバッグ、ニーエアバッグおよびシートエアバッグ、補強布等に好適に用いられる。よって、これら製品も、本発明の範囲に含まれる。本発明のエアバッグ用基布を用いたエアバッグとしては、本発明のエアバッグ用基布が耐熱性に特に優れていることから、耐熱性が特に要求されるエアバッグが好ましい。具体的には、運転席用エアバッグ、及びインフレーター付近、縫製部の補強布が好ましい。また、本発明のエアバッグ用基布は収容性にも特に優れていることから、収容性が特に要求されるエアバッグも好ましい。具体的には、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、及びカーテンエアバッグが好ましい。本発明のエアバッグ用基布を用いたエアバッグとしては、耐熱性と収容性とが要求されるエアバッグがより好ましい。具体的には、運転席用エアバッグがより好ましい。
【実施例
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、下記実施例で採用した各種性能の試験法は下記の通りである。
【0061】
<糸の沸水収縮率>
JIS L 1013(2010) 8.18.1 熱水寸法変化率 B法に基づき測定した。試料に初荷重をかけ、正しく500mmを測って2点をマーキングした。その後、初荷重を除き、試料を100℃の熱水中に30分間浸漬した後、取り出して軽く吸取紙又は布で水を切った。風乾後再び初荷重をかけ、2点間の長さを測り、次の式によって熱水寸法変化率(%)を算出し、3回の平均値を沸水収縮率とした。
ΔL=(L-500)/500×100
ΔL:沸水収縮率(%) L:2点間の長さ(mm)
【0062】
<糸の引張強度および破断伸度>
緩く張った状態で、引張試験機のつかみ部にターポリンを緩衝材として試料を取り付け、初荷重(g)として測定する試料のデシテックスの1/11.1をかけ、つかみ間隔200mm、引張速度200m/minの条件で試験を行い、試料が切断したときの荷重と伸びを測定した。
【0063】
<基布の織密度>
JIS L 1096(2010) 8.6.1 A法(JIS法)に基づき測定する。具体的には、試料を平らな台の上に置き、不自然なしわ及び張力を除いてから、たて糸については耳端から全幅の1/10を除いた部分を約5等分しそれぞれの箇所に10cmの印を付け10cm間の糸本数を読み取る。よこ糸については、たて糸方向に5箇所10cmの印を付け10cm間の糸本数を読み取る。異なる5か所について10cm区間のたて糸及びよこ糸の本数を数え、それぞれの平均値を単位長さについて算出し、密度とする。
【0064】
<基布の目付>
JIS L 1096(2010) 8.3.2に基づき測定した。試料から約200mm×200mmの試験片を3枚採取し,それぞれの絶乾質量(g)を量り、1m当たりの質量(g/m)を求め、その平均値を算出し、目付とした。
【0065】
<基布の剛軟度>
JIS L 1096(2010) 8.21.1 A法(45°カンチレバー法)に基づき測定した。試料から、約20mm×約150mmの試験片をたて方向及びよこ方向にそれぞれ5枚採取し、一端が45°の斜面をもつ表面の滑らかな水平台の上に試験片の短辺をスケール基線に合わせて置く。次に、適切な方法によって試験片を斜面の方向に緩やかに滑らせて、試験片の一端の中央点が斜面と接したとき他端の位置をスケールによって読む。剛軟度は、試験片が移動した長さ(mm)で示され、それぞれ5枚の表裏を測定した。
【0066】
<基布の滑脱抵抗値>
ASTM D6479-15により測定した。
【0067】
<基布の収納性>
ASTM D6478により測定した。試料から幅(ヨコ糸方向)750±5mm、長さ(タテ糸方向)800mm±5mmの試験片を採取し、タテ糸方向の端部に沿って幅145mm厚み2mmの板を置き、タテ糸に沿って試料を折り返す。蛇腹になるように5回行う。板を抜き、折り畳んだサンプルを90°回転させる。ヨコ糸方向の端部に沿って幅95mm厚み2mmの板を置き、次はヨコ糸に沿って織物を折り返す。蛇腹になるように7回繰り返す。折り畳んだサンプルを底面の内寸100mm×150mmの収納箱に入れ、上から特定の荷重をかけた際の折り畳みサンプルの嵩高さ(厚み)を測定し、次の式によって収納性(cm)を算出し、2回の平均値を収納性とした。
[T20+T40+T60+・・・T180]*100*150/1000(cm
(Tα:αN荷重時のサンプルの嵩高さ(mm)。αは20刻みで測定)
【0068】
<基布の通気度>
20kPa圧力下での通気度を高圧通気度測定機(OEMシステム(株)製)を用いて測定した。
【0069】
<基布の引張強度および破断伸度>
JIS L 1096(2010) 8.14.1 A法(ストリップ法)に基づき測定した。試験片を弛ませないように引張試験機でつかみ、幅55mmで切り出し、両側から2.5mmの糸を除去して調整した幅50mmの試験片を、つかみ間隔200mm、引張速度200m/min、緩衝材としてラバーの条件で試験を行い、切断時の強さ(N)及び伸び率(%)を測定した。ただし、つかみから10mm以内で切れたもの又は異常に切れたものは除いた。
【0070】
<基布の解織糸の総繊度>
乾燥仕上げ工程を経て得られた基布の経糸と緯をそれぞれ解織し、JIS L 1013(2010) 8.3.1 B法(簡便法)に基づき測定した。初荷重(g)として測定する試料のデシテックスの1/11.1をかけて正確に長さ90cmの試料をとり、絶乾質量を量り、次の式によって正量繊度(dtex)を算出し、5回の平均値を総繊度とした。
F0=10000×m/L×(100+R0)/100
F0:正量繊度(tex) L:試料の長さ(m) m:試料の絶乾質量(g) R0:公定水分率(%)
【0071】
<基布の解織糸の単糸の断面形状のアスペクト比>
乾燥仕上げ工程を経て得られた基布の経糸と緯糸とをそれぞれ解織し、繊維断面のSEM写真を撮影し、無作為に選択した単糸10本の長軸と短軸の長さを測定し、その平均値を求めることで、アスペクト比を算出した。
【0072】
<基布の耐熱性>
試料に対し10cmの間隔から垂直に280度の温度を有する熱風を1100msecの間噴射させ、噴射後の基布のダメージを確認した。試料に穴あきが無いものを○、穴あきがあるもの×とした。
【0073】
(実施例1)
経糸、緯糸に繊度540dtex/144f、引張強度8.6cN/dtex、破断伸度20%、沸水収縮率9.5%のナイロン66フィラメント原糸(モノフィラメント断面は丸断面である)を用い、経緯とも50本/インチの織密度、経糸テンションを100cN/本設定でウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥させずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、2段のサクションドラム乾燥機を使い、1段目の温度T1を120℃に、2段目の温度T2を125℃に制御した乾燥仕上工程を通過させた。得られた基布の物性を表1に示した。
【0074】
(実施例2)
経糸、緯糸に繊度580dtex/144f、引張強度8.3cN/dtex、破断伸度19%、沸水収縮率9.6%のナイロン66フィラメント原糸(モノフィラメント断面は丸断面である)を用い、経緯とも46.5本/インチの織密度、経糸テンションを110cN/本設定でウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥させずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、2段のサクションドラム乾燥機を使い、1段目の温度T1を120℃に、2段目の温度T2を125℃に制御した乾燥仕上工程を通過させた。得られた基布の物性を表1に示した。
【0075】
(実施例3)
経糸、緯糸に繊度700dtex/144f、引張強度8.3cN/dtex、破断伸度19%、沸水収縮率9.3%のナイロン66フィラメント原糸(モノフィラメント断面は丸断面である)を用い、経緯とも38.5本/インチの織密度、経糸テンションを105cN/本設定でウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥させずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、2段のサクションドラム乾燥機を使い、1段目の温度T1を120℃に、2段目の温度T2を125℃に制御した乾燥仕上工程を通過させた。得られた基布の物性を表1に示した。
【0076】
(比較例1)
経糸、緯糸に繊度940dtex/144f、引張強度8.3cN/dtex、破断伸度19%、沸水収縮率9.3%のナイロン66フィラメント原糸(モノフィラメント断面は丸断面である)を用い、経緯とも29本/インチの織密度、経糸テンションを110cN/本設定でウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥させずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、2段のサクションドラム乾燥機を使い、1段目の温度T1を120℃に、2段目の温度T2を125℃に制御した乾燥仕上工程を通過させた。得られた基布の物性を表1に示した。
【0077】
(比較例2)
経糸、緯糸に繊度470dtex/144f、引張強度8.3cN/dtex、破断伸度21%、沸水収縮率9.3%のナイロン66フィラメント原糸(モノフィラメント断面は丸断面である)を用い、経緯とも53本/インチの織密度、経糸テンションを110cN/本設定でウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥させずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、2段のサクションドラム乾燥機を使い、1段目の温度T1を120℃に、2段目の温度T2を125℃に制御した乾燥仕上工程を通過させた。得られた基布の物性を表1に示した。
【0078】
(比較例3)
経糸、緯糸に繊度470dtex/72f、引張強度8.6cN/dtex、破断伸度20%、沸水収縮率9.5%のナイロン66フィラメント原糸(モノフィラメント断面は丸断面である)を用い、経緯とも55本/インチの織密度、経糸テンションを110cN/本設定でウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥させずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、2段のサクションドラム乾燥機を使い、1段目の温度T1を120℃に、2段目の温度T2を125℃に制御した乾燥仕上工程を通過させた。得られた基布の物性を表1に示した。
【0079】
(比較例4)
経糸、緯糸に繊度580dtex/108f、引張強度8.4cN/dtex、破断伸度22.5%のナイロン66フィラメント原糸(モノフィラメント断面は丸断面である)を用い、経緯とも46本/インチの織密度、経糸テンションを140cN/本設定でエアージェットルームを用いて平織にて製織した後、オープンソーパーにて85℃で30秒間精練し、ノンタッチドライヤーにて130℃で3分間乾燥し、しかる後、ピンテンター式熱処理機にて、織密度が46本/2.54cmを保持するように180℃で30秒間熱セットし、エアバッグ基布を得た。得られた基布の物性を表1に示した。
【0080】
(比較例5)
経糸、緯糸に繊度700dtex/144f、引張強度8.3cN/dtex、破断伸度19%、沸水収縮率9.3%のナイロン66フィラメント原糸(モノフィラメント断面は丸断面である)を用い、経緯とも43本/インチの織密度、経糸テンションを110cN/本設定でウォータージェットルームを用いて平織にて製織した後、乾燥させずに98℃の熱水収縮槽を通過させ、引き続き、2段のサクションドラム乾燥機を使い、1段目の温度T1を120℃に、2段目の温度T2を125℃に制御した乾燥仕上工程を通過させた。得られた基布の物性を表1に示した。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例1~3の基布は、いずれも良好な耐熱性を有していた。これらの基布はいずれもさらに、収納性試験の結果も良好なものであった。このように優れた耐熱性を持ち、且つ収納性に優れた本発明はエアバッグ用基布として有用である。
【0083】
以上、本発明の実施の形態および各実施例について説明したが、今回開示された実施の形態および各実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、エアバッグ用基布に用いられるマルチフィラメントの総繊度と目付け、通気度、および滑脱性能を所定範囲に最適化させることで耐熱性とコンパクト性を両立させることができる。