(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】制御弁式鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/12 20060101AFI20221206BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221206BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20221206BHJP
H01M 50/437 20210101ALI20221206BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20221206BHJP
【FI】
H01M10/12 K
H01M4/62 B
H01M50/489
H01M50/437
H01M50/44
(21)【出願番号】P 2019558934
(86)(22)【出願日】2018-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2018038015
(87)【国際公開番号】W WO2019116704
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2017239228
(32)【優先日】2017-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】阿部 陽隆
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 聡美
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-225408(JP,A)
【文献】特開平08-236142(JP,A)
【文献】特開昭57-202666(JP,A)
【文献】特開2017-174791(JP,A)
【文献】特開2017-183283(JP,A)
【文献】特開2019-067741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/12
H01M 4/62
H01M 50/489
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御弁式鉛蓄電池であって、
集電体と、前記集電体に支持された正極材料と、を有する正極板と、
負極板と、
前記正極板と前記負極板との間に配置され、ガラス繊維により構成されたセパレータと、
を備え、
前記セパレータの圧縮比は、1.2以上、1.8以下であり、
前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.150cm
3/g以下であり、
前記正極材料は、繊維を含有しており、
クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による前記繊維の平均比表面積は、0.20m
2/g以上であ
り、
前記正極材料における前記繊維の含有割合は、0.05質量%以上0.40質量%以下である、制御弁式鉛蓄電池。
【請求項2】
請求項1に記載の制御弁式鉛蓄電池であって、
前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.104cm
3/g以上である、制御弁式鉛蓄電池。
【請求項3】
請求項2に記載の制御弁式鉛蓄電池であって、
前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.132cm
3/g以上である、制御弁式鉛蓄電池。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の制御弁式鉛蓄電池であって、
前記繊維は、アクリル系繊維である、制御弁式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、制御弁式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池の1つとして、制御弁式鉛蓄電池(密閉式鉛蓄電池)が知られている。制御弁式鉛蓄電池は、内部に流動する電解液を有さないことから設置姿勢の自由度が高く、また、液量の点検や補水が不要であることからメンテナンスが容易であり、例えば、無停電電源装置、通信基地局、二輪自動車等の電源として利用される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
制御弁式鉛蓄電池は、正極板と負極板とを備える。正極板および負極板は、それぞれ、集電体と、集電体に支持された活物質とを有する。また、制御弁式鉛蓄電池は、正極板と負極板との間に配置され、ガラス繊維により構成されたセパレータを備える。セパレータには、電解液(例えば、希硫酸)が含浸されている。制御弁式鉛蓄電池では、正極板と負極板とセパレータとは、厚さ方向に圧縮力を受けた状態で、セル室に収容されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
制御弁式鉛蓄電池では、正極板が厚さ方向に圧縮力を受けた状態でセル室に収容されていることから、正極板における集電体からの正極材料の脱落は比較的発生しにくいものの、正極材料の脱落の発生のおそれは依然としてある。本願発明者は、鋭意検討を重ねることにより、制御弁式鉛蓄電池の構成として特定の構成を採用すると、集電体からの正極材料の脱落を効果的に抑制することができ、制御弁式鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることを新たに見出した。
【0006】
本明細書では、制御弁式鉛蓄電池の正極板における集電体からの正極材料の脱落を効果的に抑制して、制御弁式鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される制御弁式鉛蓄電池は、集電体と、前記集電体に支持された正極材料と、を有する正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置され、ガラス繊維により構成されたセパレータと、を備え、前記セパレータの圧縮比は、1.2以上、1.8以下であり、前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.150cm3/g以下であり、前記正極材料は、繊維を含有しており、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による前記繊維の平均比表面積は、0.20m2/g以上である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す正面図である。
【
図2】本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す上面図である。
【
図3】本実施形態における鉛蓄電池100の内部構成を示す上面図である。
【
図4】
図2のIV-IVの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
【
図5】
図2のV-Vの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図である。
【
図6】
図3のVI-VIの位置における鉛蓄電池100の一部分のXZ断面構成を示す説明図である。
【
図7】セル室16への極板群20の収容方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される制御弁式鉛蓄電池は、集電体と、前記集電体に支持された正極材料と、を有する正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置され、ガラス繊維により構成されたセパレータと、を備え、前記セパレータの圧縮比は、1.2以上、1.8以下であり、前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.150cm3/g以下であり、前記正極材料は、繊維を含有しており、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による前記繊維の平均比表面積は、0.20m2/g以上である。なお、正極板は、集電体と正極材料とから構成される。すなわち、正極材料は、正極板から集電体を取り除いたものであり、一般に「活物質」ともいわれるものである。本願発明者は、鋭意検討を重ねることにより、上記のような構成を採用することにより、正極板における集電体からの正極材料の脱落を効果的に抑制して、制御弁式鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることを新たに見出した。
【0011】
すなわち、従来、正極材料に含有させる繊維の比表面積については、何ら検討されていなかった。また、仮に、正極材料に含有させる繊維の比表面積について検討するとしても、繊維の比表面積をBET法で測定する場合に用いられる吸着ガスは、一般に窒素ガスであった。本願発明者は、種々の繊維について、窒素ガスを吸着ガスとして用いた場合には繊維の比表面積の測定結果に有意な差が無い場合であっても、クリプトンガスを吸着ガスとして用いて繊維の比表面積を測定し、そのように測定された平均比表面積が0.20m2/g以上である繊維を選択的に用いると、正極板における集電体からの正極材料の脱落を効果的に抑制して、制御弁式鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることを新たに見出した。
【0012】
ただし、正極材料の単位質量あたりの全細孔容積が過度に大きいと、正極材料の密度が過度に低く、崩れやすい構成となるため、正極材料の集電体からの脱落を抑制することができなくなる場合がある。また、セパレータの圧縮比が過度に小さいと、制御弁式鉛蓄電池の充放電の繰り返しによって発生する極板の膨張・収縮に伴いセパレータの厚さが薄くなり、極板の収縮時に次第にセパレータと極板とが接触できない部位が増加して容量低下が発生し、寿命特性が低くなる場合がある。また、セパレータの圧縮比が過度に大きいと、セパレータに過大な圧力が加わることによってセパレータ内部の隙間が過小となり、セパレータによる電解液を保持する機能が過度に低下した状態となり、容量低下が発生して寿命特性が低くなる場合がある。本願発明者は、鋭意検討を重ねることにより、セパレータの圧縮比を1.2以上、1.8以下とし、かつ、正極材料の単位質量あたりの全細孔容積を0.150cm3/g以下とすれば、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.20m2/g以上である繊維を正極用繊維として採用することにより、正極板における集電体からの正極材料の脱落を効果的に抑制して、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることを見出した。
【0013】
(2)上記制御弁式鉛蓄電池において、前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.104cm3/g以上である構成としてもよい。正極材料の単位質量あたりの全細孔容積が過度に小さいと、正極材料の反応性が過度に低くなり、その結果、鉛蓄電池の容量特性が低くなるものと考えられる。これに対し、本制御弁式鉛蓄電池では、正極材料の単位質量あたりの全細孔容積が0.104cm3/g以上と過度に小さくない。そのため、本制御弁式鉛蓄電池によれば、正極材料の反応性の低下を抑制することができ、制御弁式鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させつつ、制御弁式鉛蓄電池の容量特性を向上させることができる。
【0014】
(3)上記制御弁式鉛蓄電池において、前記正極材料の単位質量あたりの全細孔容積は、0.132cm3/g以上である構成としてもよい。本制御弁式鉛蓄電池によれば、正極材料の反応性の低下を極めて効果的に抑制することができるため、制御弁式鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させつつ、制御弁式鉛蓄電池の容量特性を極めて効果的に向上させることができる。
【0015】
(4)上記制御弁式鉛蓄電池において、前記繊維は、アクリル系繊維である構成としてもよい。本制御弁式鉛蓄電池によれば、容易に、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.20m2/g以上である繊維を得ることができる。
【0016】
A.実施形態:
A-1.基本構成:
(鉛蓄電池100の構成)
図1は、本実施形態における鉛蓄電池100の外観構成を示す正面図であり、
図2は、鉛蓄電池100の外観構成を示す上面図であり、
図3は、鉛蓄電池100の内部構成を示す上面図(後述する蓋14を外した状態を示す図)であり、
図4は、
図2のIV-IVの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図であり、
図5は、
図2のV-Vの位置における鉛蓄電池100のYZ断面構成を示す説明図であり、
図6は、
図3のVI-VIの位置における鉛蓄電池100の一部分のXZ断面構成を示す説明図である。なお、図示の便宜上、
図3では、後述する複数の極板群20(およびそれに接続されるストラップ52,54)の内の一部(3つ)のみが示されており、また、
図4および
図5では、極板群20の構成が分かりやすく示されるように、該構成の一部の図示が省略されている。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を「上方向」といい、Z軸負方向を「下方向」というものとするが、鉛蓄電池100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0017】
本実施形態の鉛蓄電池100は、制御弁式鉛蓄電池(密閉式鉛蓄電池)である。制御弁式鉛蓄電池は、内部に流動する電解液を有さないことから設置姿勢の自由度が高く、また、液量の点検や補水が不要であることからメンテナンスが容易であり、例えば、無停電電源装置、通信基地局、二輪自動車等の電源として利用される。鉛蓄電池100は、筐体10と、正極側端子部材30と、負極側端子部材40と、複数の極板群20とを備える。以下では、正極側端子部材30と負極側端子部材40とを、まとめて「端子部材30,40」ともいう。
【0018】
(筐体10の構成)
筐体10は、電槽12と、蓋14とを有する。電槽12は、上面に開口部を有する略直方体の容器であり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋14は、電槽12の開口部を塞ぐように配置された部材であり、例えば合成樹脂により形成されている。蓋14の下面の周縁部分と電槽12の開口部の周縁部分とが例えば熱溶着によって接合されることにより、筐体10内に外部との気密が保たれた空間が形成されている。
【0019】
蓋14には、制御弁(排気弁)60が配置されている。制御弁60は、通常時は閉状態とされており、鉛蓄電池100の内圧が上昇した時に開状態となって内圧を逃す機能を有する。
【0020】
筐体10内の空間は、複数の(本実施形態では5枚の)隔壁58によって、所定方向(本実施形態ではX軸方向)に並ぶ複数の(本実施形態では6つの)セル室16に区画されている。以下では、複数のセル室16が並ぶ方向(X軸方向)を、「セル並び方向」という。筐体10内の各セル室16には、1つの極板群20が収容されている。本実施形態では、筐体10内の空間が6つのセル室16に区画されているため、鉛蓄電池100は6つの極板群20を備える。
【0021】
(極板群20の構成)
図4から
図6に示すように、極板群20は、複数の正極板210と、複数の負極板220と、セパレータ230とを備える。複数の正極板210および複数の負極板220は、正極板210と負極板220とが交互に並ぶように配置されている。また、セパレータ230は、互いに隣り合う正極板210と負極板220との間に配置され、正極板210と負極板220とに挟持されている。なお、極板群20が、正極板210、負極板220、セパレータ230以外の他の部材(例えば、正極板210と負極板220との間に配置された不織布シート)を備えるとしてもよい。以下では、正極板210と負極板220とを、まとめて「極板210,220」ともいう。
【0022】
正極板210は、正極集電体212と、正極集電体212に支持された正極活物質216とを有する。正極集電体212は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、正極集電体212は、その上端付近に、上方に突出する正極耳部214を有している。正極活物質216は、二酸化鉛と、後述する正極用繊維217とを含んでいる。正極活物質216は、さらに、公知の他の添加剤を含んでいてもよい。このような構成の正極板210は、例えば、一酸化鉛と水と希硫酸とを主成分とする正極活物質用ペーストを正極集電体212に塗布または充填し、正極活物質用ペーストを乾燥させた後、公知の化成処理を行うことにより作製することができる。なお、本実施形態における正極活物質216は、正極板210から正極集電体212を取り除いたものであり、特許請求の範囲における正極材料に相当する。
【0023】
負極板220は、負極集電体222と、負極集電体222に支持された負極活物質226とを有する。負極集電体222は、略格子状または網目状に配置された骨を有する導電性部材であり、例えば鉛または鉛合金により形成されている。また、負極集電体222は、その上端付近に、上方に突出する負極耳部224を有している。負極活物質226は、鉛(海綿状鉛)を含んでいる。負極活物質226は、さらに、公知の他の添加剤(例えば、繊維、カーボン、リグニン、硫酸バリウム等)を含んでいてもよい。このような構成の負極板220は、例えば、鉛を含む負極活物質用ペーストを負極集電体222に塗布または充填し、該負極活物質用ペーストを乾燥させた後、公知の化成処理を行うことにより作製することができる。
【0024】
セパレータ230は、絶縁性材料であるガラス繊維により構成され、厚さ方向に弾性変形可能なマット状の部材である。セパレータ230には、電解液(例えば、希硫酸)が含浸されている。このように、セパレータ230は、両極板210,220の間の短絡を防止すると共に、電解液を保持する機能を有する。
【0025】
なお、
図7に示すように、セル室16に収容されていない状態(以下、「自然状態」という)における極板群20の厚さW0は、セル室16の幅(すなわち、互いに隣り合う一対の隔壁58間の距離(または隔壁58と電槽12の側壁との間の距離))W1よりもわずかに大きい値に設定されている。鉛蓄電池100を製造する際には、自然状態の極板群20に対し、押圧装置(図示せず)によって厚さ方向に圧縮力が加えられる。その結果、セパレータ230が厚さ方向に弾性収縮することにより、極板群20の厚さがセル室16の幅W1以下となる。この状態で、極板群20がセル室16に挿入される。極板群20がセル室16に収容された状態では、極板群20は、厚さ方向(本実施形態ではX軸方向)に圧縮力を受けている。そのため、極板群20を構成する各極板210,220は、電解液を保持したセパレータ230と良好に接触した状態となる。
【0026】
図3から
図5に示すように、極板群20を構成する複数の正極板210の正極耳部214は、例えば鉛または鉛合金により形成された正極側ストラップ52に接続されている。すなわち、複数の正極板210は、正極側ストラップ52を介して電気的に並列に接続されている。同様に、極板群20を構成する複数の負極板220の負極耳部224は、例えば鉛または鉛合金により形成された負極側ストラップ54に接続されている。すなわち、複数の負極板220は、負極側ストラップ54を介して電気的に並列に接続されている。以下では、正極側ストラップ52と負極側ストラップ54とを、まとめて「ストラップ52,54」ともいう。
【0027】
鉛蓄電池100において、一のセル室16に収容された負極側ストラップ54は、例えば鉛または鉛合金により形成された接続部材56を介して、該一のセル室16の一方側(例えばX軸正方向側)に隣り合う他のセル室16に収容された正極側ストラップ52に接続されている。また、該一のセル室16に収容された正極側ストラップ52は、接続部材56を介して、該一のセル室16の他方側(例えばX軸負方向側)に隣り合う他のセル室16に収容された負極側ストラップ54に接続されている。すなわち、鉛蓄電池100が備える複数の極板群20は、ストラップ52,54および接続部材56を介して電気的に直列に接続されている。なお、
図4に示すように、セル並び方向の一方側(X軸正方向側)の端に位置するセル室16に収容された正極側ストラップ52は、接続部材56ではなく、後述する正極柱34に接続されている。また、
図5に示すように、セル並び方向の他方側(X軸負方向側)の端に位置するセル室16に収容された負極側ストラップ54は、接続部材56ではなく、後述する負極柱44に接続されている。
【0028】
(端子部材30,40の構成)
図1および
図2に示すように、正極側端子部材30は、筐体10におけるセル並び方向の一方側(X軸正方向側)の端部付近に配置されており、負極側端子部材40は、筐体10におけるセル並び方向の他方側(X軸負方向側)の端部付近に配置されている。
【0029】
図4に示すように、正極側端子部材30は、正極側ブッシング32と、正極柱34と、正極側端子部36とを含む。正極側ブッシング32は、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極側ブッシング32は、インサート成形により蓋14に埋設されている。正極柱34は、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極柱34は、正極側ブッシング32の孔に挿入されており、例えば溶接により正極側ブッシング32に接合されている。正極柱34の下端部は、正極側ブッシング32の下端部より下方に突出し、さらに、蓋14の下面より下方に突出しており、上述したように、セル並び方向の一方側(X軸正方向側)の端に位置するセル室16に収容された正極側ストラップ52に接続されている。正極側端子部36は、例えば略L形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極側端子部36の上端部は、蓋14の上面より上方に突出しており、正極側端子部36の下端部は、正極柱34の上端部と電気的に接続されている。蓋14の上面における正極側端子部36が貫通した部分の周りは、例えば樹脂部材70により封止されている。なお、正極側端子部36と正極柱34とが一体部材であるとしてもよい。
【0030】
図5に示すように、負極側端子部材40は、負極側ブッシング42と、負極柱44と、負極側端子部46とを含む。負極側ブッシング42は、上下方向に貫通する孔が形成された略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極側ブッシング42は、インサート成形により蓋14に埋設されている。負極柱44は、略円柱形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極柱44は、負極側ブッシング42の孔に挿入されており、例えば溶接により負極側ブッシング42に接合されている。負極柱44の下端部は、負極側ブッシング42の下端部より下方に突出し、さらに、蓋14の下面より下方に突出しており、上述したように、セル並び方向の他方側(X軸負方向側)の端に位置するセル室16に収容された負極側ストラップ54に接続されている。負極側端子部46は、例えば略L形の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。負極側端子部46の上端部は、蓋14の上面より上方に突出しており、負極側端子部46の下端部は、負極柱44の上端部と電気的に接続されている。蓋14の上面における負極側端子部46が貫通した部分の周りは、例えば樹脂部材70により封止されている。なお、負極側端子部46と負極柱44とが一体部材であるとしてもよい。
【0031】
鉛蓄電池100の放電の際には、正極側端子部材30の正極側端子部36および負極側端子部材40の負極側端子部46に負荷(図示せず)が接続され、各極板群20の正極板210での反応(二酸化鉛から硫酸鉛が生ずる反応)および負極板220での反応(鉛(海綿状鉛)から硫酸鉛が生ずる反応)により生じた電力が該負荷に供給される。また、鉛蓄電池100の充電の際には、正極側端子部材30の正極側端子部36および負極側端子部材40の負極側端子部46に電源(図示せず)が接続され、該電源から供給される電力によって各極板群20の正極板210での反応(硫酸鉛から二酸化鉛が生ずる反応)および負極板220での反応(硫酸鉛から鉛(海綿状鉛)が生ずる反応)が起こり、鉛蓄電池100が充電される。
【0032】
A-2.鉛蓄電池100の詳細構成:
A-2-1.セパレータ230の詳細構成:
本実施形態の鉛蓄電池100では、各セル室16に収容される極板群20を構成する各セパレータ230の圧縮比は、1.2以上、1.8以下である。ここで、セパレータ230の圧縮比とは、
図6および
図7に示すように、極板群20がセル室16に収容された状態(以下、「収容状態」という)におけるセパレータ230の厚さD1に対する、極板群20がセル室16に収容されていない状態(自然状態)におけるセパレータ230の厚さD0の比(=D0/D1)である。すなわち、セパレータ230の圧縮比は、収容状態におけるセパレータ230が、自然状態からどの程度弾性収縮しているかを示す指標値である。以下の説明では、セパレータ230の圧縮比が1.2以上、1.8以下であるという条件を、「セパレータに関する特定条件」という。
【0033】
なお、鉛蓄電池100を構成するセパレータ230の圧縮比は、以下のようにして特定するものとする。
(1)電池工業会規格(SBA)に則って満充電状態の鉛蓄電池100を解体し、セル室16から極板群20を取り出す。なお、極板群20をセル室16から取り出すと、極板群20を構成するセパレータ230は厚さ方向に復元膨張する。
(2)取り出された極板群20を構成する各極板210,220および各セパレータ230を3時間以上水洗した後、乾燥させる。
(3)乾燥後、各正極板210および各負極板220の厚さをノギスで測定する。各極板210,220について、測定された厚さの平均値を算出する。同様に、乾燥後、各セパレータ230の厚さ(自然状態における厚さD0)をノギスで測定する。なお、セパレータ230は厚さが変化しやすいため、200N/dm2の基準で厚さを測定する。各セパレータ230について、測定された厚さの平均値を算出する。
(4)セル室16の幅W1をノギスで測定する。セル室16における上部と下部で幅W1が異なる場合には、上部と下部の幅W1の平均値を算出する。
(5)以下の式に基づき、セパレータ230の圧縮比を算出する。
セパレータ230の圧縮比
=自然状態におけるセパレータ230の厚さD0/収容状態におけるセパレータ230の厚さD1
ここで、自然状態におけるセパレータ230の厚さD0は、上記(3)における測定値である。
また、収容状態におけるセパレータ230の厚さD1は、以下の式に基づき算出する。
収容状態におけるセパレータ230の厚さD1
=(セル室16の幅W1-(正極板210の厚さ×極板群20を構成する正極板210の枚数)-(負極板220の厚さ×極板群20を構成する負極板220の枚数))/(極板群20を構成する正極板210の枚数+極板群20を構成する負極板220の枚数-1)
ただし、極板群20が、正極板210、負極板220、セパレータ230以外の他の部材(例えば不織布シート)を備える場合には、収容状態におけるセパレータ230の厚さD1は、上記式で求めた値から上記他の部材の厚さを減じた値とする。
【0034】
A-2-2.正極活物質216の詳細構成:
図4に示すように、本実施形態の鉛蓄電池100では、正極活物質216は、二酸化鉛に加えて、繊維(以下、「正極用繊維」という)217を含有している。本実施形態では、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維217の平均比表面積(以下、単に「正極用繊維217の平均比表面積」ともいう)は、0.20m
2/g以上である。なお、クリプトンガスは、例えば窒素ガスと比べて飽和蒸気圧が低いため、BET法による比表面積の測定のための吸着ガスとしてクリプトンガスを用いれば、比較的低い比表面積を精度良く測定することができる。例えば、クリプトンガスを吸着ガスとして用いれば、窒素ガスを用いる場合には測定の難しい、正極用繊維217の表面の微細な皺の部分の表面積も精度良く測定することができる。そのため、種々の繊維について、窒素ガスを吸着ガスとして用いた場合には繊維の比表面積の測定結果に有意な差が無い場合であっても、クリプトンガスを吸着ガスとして用いると、繊維の比表面積の測定結果に有意な差が把握されることがある。
【0035】
正極用繊維217は、例えば、アクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリエチレン系繊維、PET系繊維、レーヨン系繊維である。なお、アクリル系繊維は、ポリマーを溶剤に溶かして凝固剤と呼ばれる液体の中で繊維を紡出する湿式紡糸により製造される。このとき、繊維部と溶剤部に分離(偏析)し、溶剤部が除去された部分が皺となって発現する。そのため、一般に、アクリル系繊維の表面には、微細な皺が多く形成されている。従って、正極用繊維217としてアクリル系繊維を用いると、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が上述した数値範囲内である正極用繊維217を容易に得ることができるため、好ましい。なお、正極用繊維217としてアクリル系繊維を用いる場合には、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維217の平均比表面積を0.40m2/g程度までは大きくすることができる。
【0036】
また、本実施形態の鉛蓄電池100では、正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積は、0.150cm3/g以下である。なお、正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積は、0.104cm3/g以上、0.150cm3/g以下であることがより好ましく、0.132cm3/g以上、0.150cm3/g以下であることがさらに好ましい。正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積は、正極活物質216を作製する際の処方(鉛粉、水、希硫酸の配合比率)を変化させることにより調整することができる。例えば、希硫酸と水の配合比率を高くすると、正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積は大きくなる。
【0037】
以下の説明では、正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積が0.150cm3/g以下であり、正極活物質216が正極用繊維217を含有しており、かつ、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維217の平均比表面積が0.20m2/g以上であるという条件を、「正極活物質に関する特定条件」という。
【0038】
なお、鉛蓄電池100の正極板210を構成する正極活物質216に含まれる正極用繊維217についての、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積は、以下のように特定するものとする。
(1)鉛蓄電池100を解体し、正極板210を採取する。
(2)硫酸を除去するため、採取した正極板210を水洗する。
(3)正極板210から正極活物質216を採取する。
(4)採取した正極活物質216を硝酸と過酸化水素との混合液に溶解させる。
(5)(4)の溶液をろ過する。
(6)ろ紙上の残物から約0.4gの試料(繊維)をサンプリングする。
(7)比表面積測定装置(島津製作所製のトライスターII 3020シリーズ)を用いて、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法により、各繊維の比表面積を測定する。
(8)各繊維の比表面積の平均値を算出する。
【0039】
また、鉛蓄電池100の正極板210を構成する正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積は、以下のように特定するものとする。
(1)鉛蓄電池100を解体し、正極板210を採取する。
(2)硫酸を除去するため、採取した正極板210を水洗する。
(3)正極板210から約1gの試料(正極活物質216)を採取する。
(4)採取した正極活物質216を対象として、水銀ポロシメータ(島津製作所製のオートポアIV9500シリーズ)を用いて水銀圧入法により全細孔容積を測定する。
(5)各正極活物質216の全細孔容積の測定値の平均値を、正極活物質216の単位質量あたりの全細孔容積とする。
【0040】
A-3.性能評価:
鉛蓄電池の複数のサンプル(S1~S21)を作製し、該サンプルを対象とした性能評価を行った。
図8および
図9は、性能評価結果を示す説明図である。なお、複数のサンプルの内の基準となるサンプルS5については、
図8および
図9に共通して記載されている(各図において太枠で囲んで示す)。
【0041】
A-3-1.各サンプルについて:
図8および
図9に示すように、各サンプルは、セパレータの圧縮比と、正極活物質の全細孔容積と、正極用繊維の平均比表面積とが互いに異なる。より具体的には、
図8に示されたサンプルS1~S13は、セパレータの圧縮比はすべて同じ値(1.5)であるが、正極活物質の全細孔容積と、正極用繊維の平均比表面積とが互いに異なっている。なお、
図8では、サンプルS1~S13が、正極活物質の全細孔容積の昇順に並べられ、さらに、正極活物質の全細孔容積が同一値である各サンプルが、正極用繊維の平均比表面積の昇順に並べられている。
【0042】
また、
図9に示されたサンプルS5,S14~S21は、正極活物質の全細孔容積はすべて同じ値(0.104cm
3/g)であるが、セパレータの圧縮比と、正極用繊維の平均比表面積とが互いに異なっている。なお、
図9では、サンプルS14~S21が、セパレータの圧縮比の昇順に並べられ、さらに、セパレータの圧縮比が同一値である各サンプルが、正極用繊維の平均比表面積の昇順に並べられている。
【0043】
サンプルS1~S3,S6~S12,S16~S19は、上述した実施形態の鉛蓄電池100が満たしているセパレータに関する特定条件(セパレータの圧縮比が1.2以上、1.8以下であるという条件)と、正極活物質に関する特定条件(正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.150cm3/g以下であり、正極活物質が正極用繊維を含有しており、かつ、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維の平均比表面積が0.20m2/g以上であるという条件)との両方を満たしている。
【0044】
一方、サンプルS4,S5,S13~S15,S20,S21は、上述したセパレータに関する特定条件と正極活物質に関する特定条件との一方または両方を満たしていない。具体的には、サンプルS14,S15は、セパレータの圧縮比が1.1と比較的小さいため、セパレータに関する特定条件を満たしていない。また、サンプルS20,S21は、セパレータの圧縮比が1.9と比較的大きいため、セパレータに関する特定条件を満たしていない。また、サンプルS4,S5は、正極用繊維の平均比表面積が0.16m2/gまたは0.18m2/gと比較的小さいため、正極活物質に関する特定条件を満たしていない。また、サンプルS13は、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.159cm3/gと比較的大きいため、正極活物質に関する特定条件を満たしていない。
【0045】
なお、すべてのサンプルにおいて、正極用繊維としてアクリル系繊維が用いられており、該アクリル系繊維の平均径は16.7μmであり、該アクリル系繊維のアスペクト比(繊維の平均径に対する平均長さの比)は30~400である。また、すべてのサンプルにおいて、正極活物質における正極用繊維の含有割合は、0.05質量%(wt%)~0.40質量%である。また、すべてのサンプルにおいて、負極板を構成する負極活物質は、負極用繊維として、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.20m2/gであるPET系繊維を含有している。
【0046】
各サンプルの作製方法は、以下の通りである。
(1)正極板の作製
原料鉛粉(鉛と一酸化鉛とを主成分とする酸化鉛の混合物)と、水と、希硫酸(密度1.40g/cm3)と、所定の長さに切断した合成樹脂繊維(以下、「正極用繊維」という)とを混合することにより、正極活物質用ペーストを得た。正極活物質は、希硫酸と水との配合比を変化させることによって密度を変化させることが可能であることが知られており、今回の性能評価で使用した正極活物質も上記希硫酸と水との配合比を変化させることで実現した。また、鉛とカルシウムとスズとの3元合金(以下、「Pb-Ca-Sn合金」という)からなる鉛シートを、エキスパンド加工を行った後、正極格子(正極集電体)を作製した。正極集電体のエキスパンド網目に正極活物質用ペーストを充填し、常法により熟成乾燥させることにより、未化成の正極板(高さ:115mm、幅:137.5mm、厚さ:1.5mm)を得た。
【0047】
(2)負極板の作製
原料鉛粉(鉛と一酸化鉛とを主成分とする酸化鉛の混合物)と、水と、希硫酸(密度1.40g/cm3)と、所定の長さに切断した合成樹脂繊維(以下、「負極用繊維」という)と、所定の比率の負極添加剤(リグニン、カーボン、硫酸バリウム)とを混合することにより、負極活物質用ペーストを得た。正極格子(正極集電体)と同様の方法で、Pb-Ca-Sn合金からなる板鉛シートを、エキスパンド加工を行なった後、負極格子(負極集電体)を作製した。負極集電体のエキスパンド網目に負極活物質用ペーストを充填し、正極板と同様、常法により熟成乾燥させることにより、未化成の負極板(高さ:115mm、幅:137.5mm、厚み1.3mm)を得た。
【0048】
(3)サンプル電池の作製
上記(1)及び(2)で作製した正極板および負極板と、別途用意したガラス繊維製のマット状セパレータとを用い、正極板と負極板とをセパレータを間に挟んで交互に積層した後、複数の正極板同士、複数の負極板同士を鉛部品で溶接し、極板群を製造した。上記極板群を6セルが直列接続になるように樹脂製(ポリプロピレン製)電槽に挿入し、各極板群同士(5箇所)をセル間溶接した後、樹脂製(ポリプロピレン製)蓋と電槽を接合し、その後、両端子部(正極負極端子部)を溶接してサンプル電池を作製した。なお、電槽におけるセル室の幅をスペーサーを用いて調整することにより、セパレータの圧縮比を調整した。その後、常法により初充電した後、電解液密度が1.33のサンプル電池を得た。
【0049】
A-3-2.評価項目および評価方法:
鉛蓄電池の各サンプルを用いて、寿命特性と、初期の容量特性との2つの項目についての評価を行った。
【0050】
容量特性の評価は、以下のように行った。すなわち、鉛蓄電池の各サンプルについて、以下のa)~d)に示す方法で3時間率容量を測定し、サンプルS5における3時間率容量を100として(
図8および
図9において太線で囲んで示す)、各サンプルにおける3時間率容量を相対値で表した。
a)サンプルについて、(1)14.7Vを上限とする定電圧充電方式で最大0.4CAの充電電流で8時間充電、または、(2)5段定電流充電方式:14.4Vを切替電圧(次の充電段階に移行する)とする定電流充電方式でそれぞれ4段0.2CA→0.1CA→0.05CA→0.025CAに加えて+5段目押込み定電流充電0.025CA×2.5h(固定)という条件で満充電する。
b)充電完了後、サンプルを25±2℃の条件下に静置し、水槽中では5時間以上、24時間以内、気槽中では10時間以上、24間以内に下記c)の放電を開始する。
c)サンプルについて、一定の基準電流I
3(A)で、放電終止電圧(1.65×セル数(V))になるまで放電を行う。なお、基準電流I
3(A)は、以下の式で求められる値とする。
I
3=C
3/3
(ただし、C
3は3時間率定格容量(Ah))
d)上記c)における放電持続時間を測定して、3時間率容量を算出する。
【0051】
また、寿命持性の評価は、以下のように行った。すなわち、鉛蓄電池の各サンプルについて、以下のa)~d)に示す方法で寿命試験を行い、寿命回数を求めた。サンプルS5における寿命回数を100として(
図8および
図9において太線で囲んで示す)、各サンプルにおける寿命回数を相対値で表した。
a)全試験期間を通じて、サンプルを25±2℃の気槽中に置く。
b)サンプルを寿命試験装置に接続し、上述した基準電流I
3(A)で2.4時間放電を行い、次に上述した5段定電流充電で充電を行う。この放電および充電の1サイクルを寿命1回とする。
c)充放電サイクル50回毎に、上述した方法で3時間率容量を算出する。ただし、上記b)における放電終了時の端子電圧が1.65V/セルに達した場合にも、同様に3時間率容量の算出を行う。
d)上記c)において算出された3時間率容量が3時間率定格容量の80%以下に低下した場合、再度、3時間率容量の算出を行い、3時間率容量が3時間率定格容量の80%を超えないことを確認したとき、試験を終了し、その時点でのサイクル回数と容量との関係直線により寿命回数を求める。なお、上記c)における容量試験の回数も寿命回数に加算する。
【0052】
A-3-3.評価結果:
図8および
図9に示すように、上述したセパレータに関する特定条件(セパレータの圧縮比が1.2以上、1.8以下であるという条件)と、正極活物質に関する特定条件(正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.150cm
3/g以下であり、正極活物質が正極用繊維を含有しており、かつ、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維の平均比表面積が0.20m
2/g以上であるという条件)との両方を満たすサンプルS1~S3,S6~S12,S16~S19では、いずれも、寿命特性の評価において「113」以上という結果となり、サンプルS5の寿命特性の評価結果「100」と比較して、寿命特性が飛躍的に向上した。
【0053】
これに対し、正極用繊維の平均比表面積が0.20m2/g未満であるために正極活物質に関する特定条件を満たしていないサンプルS4,S5では、寿命特性の評価において「100」以下という良好ではない結果となった。サンプルS4,S5では、正極用繊維の平均比表面積が過度に小さいため、正極用繊維が正極活物質中の他の成分と良好に密着せず、正極用繊維による正極活物質の拘束力が小さくなり、その結果、正極活物質の集電体からの脱落を効果的に抑制することができずに寿命特性が低くなったものと考えられる。
【0054】
また、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.150cm3/gを超えるために正極活物質に関する特定条件を満たしていないサンプルS13では、寿命特性の評価において「83」という良好ではない結果となった。サンプルS13では、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が過度に大きい。すなわち、サンプルS13では、正極活物質の密度が過度に低く、崩れやすい構成となっている。そのため、サンプルS13では、正極用繊維の平均比表面積が0.20m2/g以上であって、正極用繊維が正極活物質中の他の成分と良好に密着しているにもかかわらず、鉛蓄電池の充放電の繰り返しに伴い正極活物質が崩れて集電体から脱落し、寿命特性が低くなったものと考えられる。
【0055】
また、セパレータの圧縮比が1.2未満であるためにセパレータに関する特定条件を満たしていないサンプルS14,S15では、寿命特性の評価において「19」以下という極めて低い結果となった。サンプルS14,S15では、セパレータの圧縮比が過度に小さい。そのため、サンプルS14,S15では、充放電の繰り返しによって発生する極板の膨張・収縮に伴いセパレータの厚さが薄くなり(すなわち、初期の厚さに戻らなくなり)、極板の収縮時に次第にセパレータと極板とが接触できない部位が増加して容量低下が発生し、寿命特性が低くなったものと考えられる。
【0056】
また、セパレータの圧縮比が1.8を超えるためにセパレータに関する特定条件を満たしていないサンプルS20,S21では、寿命特性の評価において「29」以下という極めて低い結果となった。サンプルS20,S21では、セパレータの圧縮比が過度に大きい。そのため、サンプルS20,S21では、充放電の際に行われる化学反応、硫酸イオンの移動が遮断される。すなわち、セパレータの役割の1つは繊維の隙間に硫酸を保持することであるが、セパレータに過大な圧力が加わることによってセパレータ内部の隙間が過小となり、硫酸を保持する機能が過度に低下した状態となる。その結果、サンプルS20,S21では、容量低下が発生し、寿命特性が低くなったものと考えられる。
【0057】
このように、本性能評価により、鉛蓄電池が、上述したセパレータに関する特定条件(セパレータの圧縮比が1.2以上、1.8以下であるという条件)と、正極活物質に関する特定条件(正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.150cm3/g以下であり、正極活物質が正極用繊維を含有しており、かつ、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による正極用繊維の平均比表面積が0.20m2/g以上であるという条件)との両方を満たしていれば、正極板における正極集電体からの正極活物質(正極材料)の脱落を効果的に抑制して、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることが確認された。
【0058】
なお、図示しないが、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.20m2/g以上であるアクリル系繊維が、負極板を構成する負極活物質のみに含まれる負極用繊維として使用されたサンプルでは、寿命特性も容量特性も良好ではなかった。一方、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.20m2/g以上であるアクリル系繊維が、正極板を構成する正極活物質に含まれる正極用繊維としても、負極板を構成する負極活物質に含まれる負極用繊維としても使用されたサンプルでは、寿命特性も容量特性もサンプルS1~S3,S6~S12,S16~S19と同等であった。この結果によれば、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.20m2/g以上である繊維を、少なくとも正極用繊維として使用することにより、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができるものと言える。
【0059】
なお、本性能評価において、良好な結果を得たサンプルS1~S3,S6~S12,S16~S19の内、サンプルS6~S12,S16~S19では、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.104cm3/g以上、0.150cm3/g以下である。これらのサンプルでは、いずれも、寿命特性の評価において「113」以上という良好な結果を得つつ、容量特性の評価においても「96」以上という良好な結果となった。この結果によれば、鉛蓄電池において、上述したセパレータに関する特定条件と正極活物質に関する特定条件との両方を満たし、かつ、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.104cm3/g以上、0.150cm3/g以下であれば、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が過度に小さくなることによって正極活物質の反応性が過度に低くなり、容量特性が低下するという影響を受けにくくなると共に、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が過度に大きくなることによって正極活物質の密度が過度に低くなり、寿命特性が低下することを抑制することができると言える。従って、鉛蓄電池において、セパレータに関する特定条件と正極活物質に関する特定条件との両方を満たし、かつ、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.104cm3/g以上、0.150cm3/g以下であることが、より好ましいと言える。なお、サンプルS6~S12,S16~S19では、正極活物質の全細孔容積が比較的小さいために寿命特性に有利であるサンプルS1~S3と比べても、同等の寿命特性が得られた。その理由は必ずしも明らかではないが、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.20m2/g以上である繊維を正極用繊維として採用することにより、サンプルS6~S12,S16~S19のような正極活物質の全細孔容積の数値範囲であっても、正極活物質の全細孔容積がより小さい構成と同等以上の寿命特性が得られることは、本願の新たな知見である。
【0060】
また、これらのサンプルS6~S12,S16~S19の内、サンプルS10~S12では、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.132cm3/g以上、0.150cm3/g以下である。これらのサンプルでは、いずれも、寿命特性の評価において「135」以上というさらに良好な結果となり、かつ、容量特性の評価において「112」以上という極めて良好な結果となった。この結果によれば、鉛蓄電池において、上述したセパレータに関する特定条件と正極活物質に関する特定条件との両方を満たし、かつ、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.132cm3/g以上、0.150cm3/g以下であれば、正極活物質の反応性の低下を極めて効果的に抑制することができるため、正極板における正極集電体からの正極活物質(正極材料)の脱落を効果的に抑制しつつ、鉛蓄電池の容量特性を極めて効果的に向上させることができると言える。従って、鉛蓄電池において、セパレータに関する特定条件と正極活物質に関する特定条件との両方を満たし、かつ、正極活物質の単位質量あたりの全細孔容積が0.132cm3/g以上、0.150cm3/g以下であることが、さらに好ましいと言える。
【0061】
また、すべての評価項目で良好な結果を得たサンプルS1~S3,S6~S12,S16~S19では、正極用繊維としてアクリル系繊維を用いた。正極用繊維としてアクリル系繊維を用いれば、容易に、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.20m2/g以上である繊維を得ることができる。
【0062】
なお、すべての評価項目で良好な結果を得たサンプルS1~S3,S6~S12,S16~S19では、正極用繊維としてアクリル系繊維を用いたが、正極用繊維として、他の繊維(ポリプロピレン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリエチレン系繊維、PET系繊維、レーヨン系繊維)を用いても、正極用繊維を含む正極活物質が上述した正極活物質に関する特定条件を満たしていれば、同様に、正極板における正極集電体からの正極活物質(正極材料)の脱落を効果的に抑制して、鉛蓄電池の寿命特性を飛躍的に向上させることができることが強く推測される。
【0063】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0064】
上記実施形態における鉛蓄電池100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、正極用繊維217として、アクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリエチレン系繊維、PET系繊維、レーヨン系繊維を例示しているが、正極用繊維217は、クリプトンガスを吸着ガスとして用いたBET法による平均比表面積が0.20m2/g以上である限りにおいて他の種類の繊維であってもよい。
【0065】
また、上記実施形態における鉛蓄電池100において、負極板220を構成する負極活物質226が、上述した正極活物質に関する特定条件と同様の条件を満たすとしてもよい。
【0066】
また、上記実施形態における鉛蓄電池100の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【符号の説明】
【0067】
10:筐体 12:電槽 14:蓋 16:セル室 20:極板群 30:正極側端子部材 32:正極側ブッシング 34:正極柱 36:正極側端子部 40:負極側端子部材 42:負極側ブッシング 44:負極柱 46:負極側端子部 52:正極側ストラップ 54:負極側ストラップ 56:接続部材 58:隔壁 60:制御弁 70:樹脂部材 100:鉛蓄電池 210:正極板 212:正極集電体 214:正極耳部 216:正極活物質 217:正極用繊維 220:負極板 222:負極集電体 224:負極耳部 226:負極活物質 230:セパレータ