(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】A/D変換回路
(51)【国際特許分類】
G01K 7/00 20060101AFI20221206BHJP
G01D 21/00 20060101ALI20221206BHJP
H03K 5/26 20060101ALI20221206BHJP
H03K 5/134 20140101ALN20221206BHJP
【FI】
G01K7/00 321C
G01K7/00 321G
G01D21/00 M
H03K5/26 C
H03K5/134
(21)【出願番号】P 2020009896
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 英人
(72)【発明者】
【氏名】水野 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】磯村 博文
(72)【発明者】
【氏名】市川 智士
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-185985(JP,A)
【文献】特開2015-59767(JP,A)
【文献】特開2017-168969(JP,A)
【文献】特開2007-187659(JP,A)
【文献】国際公開第2007/141870(WO,A1)
【文献】特開2016-111563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 7/00,7/01
G01D 21/00-21/02
H03K 5/134,5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1インバータがリング状に接続されたリングオシレータを備え、クロック信号を生成するクロック回路と、
複数の第2インバータが直列に接続されているインバータチェーンを備え、計測対象の物理量に依存して変化する遅延信号を生成する遅延回路であって、
前記第2インバータは、第1所定電圧部位と第2所定電圧部位との間に直列に接続された第1導電型の第1トランジスタと第2導電型の第2トランジスタとを備えており、
前記複数の第2インバータが備えるトランジスタのゲート長が前記複数の第1インバータが備えるトランジスタのゲート長よりも大きい、前記遅延回路と、
前記遅延信号の遅延時間を前記クロック信号のクロック数に基づいて計測する遅延時間計測回路と、
を備えたA/D変換回路であって、
複数の前記第2インバータの少なくとも1つには、前記第1所定電圧部位と前記第1トランジスタとの接続経路上に第1導電型の第3トランジスタが配置されており、
前記第3トランジスタのゲートには、前記第3トランジスタがオン状態となる固定の所定ゲート電圧が印加されており、
前記第3トランジスタのゲート長は前記第1トランジスタのゲート長よりも小さい、A/D変換回路。
【請求項2】
前記第1所定電圧部位と前記第1トランジスタとの接続経路上に前記第3トランジスタと並列に配置されている、第1導電型の第4トランジスタをさらに備え、
前記第4トランジスタのゲートは、前記第1トランジスタのゲートおよび前記第2トランジスタのゲートに接続されている、請求項1に記載のA/D変換回路。
【請求項3】
前記第3トランジスタのゲートは、前記第2所定電圧部位に接続されている、請求項1または2に記載のA/D変換回路。
【請求項4】
前記インバータチェーンの偶数段目の前記第2インバータの少なくとも1つに前記第3トランジスタが配置されている、または、前記インバータチェーンの奇数段目の前記第2インバータの少なくとも1つに前記第3トランジスタが配置されている、請求項1~3の何れか1項に記載のA/D変換回路。
【請求項5】
前記第3トランジスタは、前記第1所定電圧部位と前記第1トランジスタとの接続経路上に互いに並列にK個(Kは1以上の自然数)配置されており、
前記K個の第3トランジスタの各々は、前記第3トランジスタと前記第1トランジスタとの接続経路を導通または非導通にするK個のスイッチを備えており、
前記K個のスイッチは、前記K個の第3トランジスタのうちのJ個(Jは0以上K以下の自然数)の第3トランジスタを前記第1トランジスタに接続することが可能である、請求項1~4の何れか1項に記載のA/D変換回路。
【請求項6】
前記K個の第3トランジスタの各々のゲートサイズが全て同一である、または、ゲートサイズがバイナリ値で増加している、請求項5に記載のA/D変換回路。
【請求項7】
前記第1導電型はP型であり、
前記第2導電型はN型であり、
前記第1所定電圧部位は電源電圧部位であり、
前記第2所定電圧部位は基準電圧部位である、請求項1~6の何れか1項に記載のA/D変換回路。
【請求項8】
前記第1導電型はN型であり、
前記第2導電型はP型であり、
前記第1所定電圧部位は基準電圧部位であり、
前記第2所定電圧部位は電源電圧部位である、請求項1~6の何れか1項に記載のA/D変換回路。
【請求項9】
複数の第1インバータがリング状に接続されたリングオシレータを備え、クロック信号を生成するクロック回路と、
複数の第2インバータが直列に接続されているインバータチェーンを備え、計測対象の物理量に依存して変化する遅延信号を生成する遅延回路であって、
前記複数の第2インバータが備えるトランジスタのゲート長が前記複数の第1インバータが備えるトランジスタのゲート長よりも大きい、前記遅延回路と、
前記遅延信号の遅延時間を前記クロック信号のクロック数に基づいて計測する遅延時間計測回路と、
を備えたA/D変換回路であって、
前記クロック回路の前記第1インバータは、第1所定電圧部位と第2所定電圧部位との間に直列に接続された第1導電型の第1トランジスタと第2導電型の第2トランジスタとを備えており、
前記第1トランジスタのソース端子が前記第1所定電圧部位に接続されており、
前記第2トランジスタのソース端子が前記第2所定電圧部位に接続されており、
複数の前記第1インバータの少なくとも1つには、前記第1トランジスタのソース端子と前記第2所定電圧部位との接続経路上に第2導電型の第3トランジスタが配置されており、
前記第3トランジスタのゲートには、前記第3トランジスタがオン状態となる固定の所定ゲート電圧が印加されており、
前記第3トランジスタのゲート長は前記第1トランジスタのゲート長よりも小さい、A/D変換回路。
【請求項10】
前記第1所定電圧部位と前記第1トランジスタとの接続経路上に配置されている、第1導電型の第4トランジスタをさらに備え、
前記第4トランジスタのゲートには、前段の前記第2インバータの出力信号が入力されている、請求項9に記載のA/D変換回路。
【請求項11】
前記第3トランジスタのゲートは、前記第1所定電圧部位に接続されている、請求項9または10に記載のA/D変換回路。
【請求項12】
前記第3トランジスタは、前記第2所定電圧部位と前記第1トランジスタのソース端子との接続経路上に互いに並列にK個(Kは1以上の自然数)配置されており、
前記K個の第3トランジスタの各々は、前記第3トランジスタと前記第1トランジスタとの接続経路を導通または非導通にするK個のスイッチを備えており、
前記K個のスイッチは、前記K個の第3トランジスタのうちのJ個(Jは0以上K以下の自然数)の第3トランジスタを前記第1トランジスタに接続することが可能である、請求項9~11の何れか1項に記載のA/D変換回路。
【請求項13】
前記K個の第3トランジスタの各々のゲートサイズが全て同一である、または、ゲートサイズがバイナリ値で増加している、
請求項12に記載のA/D変換回路。
【請求項14】
前記第1導電型はP型であり、
前記第2導電型はN型であり、
前記第1所定電圧部位は電源電圧部位であり、
前記第2所定電圧部位は基準電圧部位である、請求項9~13の何れか1項に記載のA/D変換回路。
【請求項15】
前記第1導電型はN型であり、
前記第2導電型はP型であり、
前記第1所定電圧部位は基準電圧部位であり、
前記第2所定電圧部位は電源電圧部位である、請求項9~13の何れか1項に記載のA/D変換回路。
【請求項16】
複数の第1インバータがリング状に接続されたリングオシレータを備え、クロック信号を生成するクロック回路と、
複数の第2インバータが直列に接続されているインバータチェーンを備え、計測対象の物理量に依存して変化する遅延信号を生成する遅延回路であって、
前記第2インバータは、電源電圧部位と電源電圧部位との間に直列に接続されたP型トランジスタとN型トランジスタとを備えている、前記遅延回路と、
前記遅延信号の遅延時間を前記クロック信号のクロック数に基づいて計測する遅延時間計測回路と、
を備えたA/D変換回路であって、
前記インバータチェーンの一段おきの前記P型トランジスタまたは前記N型トランジスタの少なくとも1つが、特定トランジスタであり、
前記インバータチェーンに含まれている前記特定トランジスタ以外の他のトランジスタのゲート長が、前記複数の第1インバータが備えるトランジスタのゲート長よりも大きく、
前記特定トランジスタのゲート長が、前記他のトランジスタのゲート長よりも小さい、A/D変換回路。
【請求項17】
前記遅延信号は、立ち上がりエッジを有しており、
前記特定トランジスタは、前記インバータチェーンの偶数段の前記P型トランジスタ、または、前記インバータチェーンの奇数段の前記N型トランジスタである、
請求項16に記載のA/D変換回路。
【請求項18】
前記遅延信号は、立ち下がりエッジを有しており、
前記特定トランジスタは、前記インバータチェーンの奇数段の前記P型トランジスタ、または、前記インバータチェーンの偶数段の前記N型トランジスタである、
請求項16に記載のA/D変換回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される技術は、電源電圧の変動に対する依存性を抑制することが可能なA/D変換回路に関する。
【背景技術】
【0002】
クロック信号を生成するクロック回路と、温度に依存して変化する遅延信号を生成する遅延回路と、を備えた温度センサ回路が知られている。このような温度センサ回路では、クロック信号の温度依存性に比して遅延信号の温度依存性が高く設定される。すなわち、温度が変化した場合における信号の遅延時間の変化量の割合が、クロック信号よりも遅延信号の方が大きくされる。クロック信号を用いて遅延信号のパルス幅の変動を計測することで、温度情報を得ることができる。なお、関連する技術の一例が、特許文献1および2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-187659号公報
【文献】特開2009-236603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クロック信号の温度依存性に比して遅延信号の温度依存性を高く設定するために、クロック回路のインバータのゲート長を、遅延回路のインバータのゲート長よりも小さくする場合がある。この場合、チャネル長変調効果が、遅延回路よりもクロック回路の方に高く発現する。よって、電源電圧が変動した場合における、トランジスタ電流の変化量の割合が、遅延回路よりもクロック回路の方が大きくなる。その結果、電源電圧が変動した場合の動作速度の変化割合が、遅延回路よりもクロック回路の方が大きくなる。この両回路間における動作速度変化割合の差に起因して、電源電圧が変動した場合に温度情報出力値が変動してしまう。電源電圧変動特性が悪化してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示されるA/D変換回路は、複数の第1インバータがリング状に接続されたリングオシレータを備え、クロック信号を生成するクロック回路を備える。A/D変換回路は、複数の第2インバータが直列に接続されているインバータチェーンを備え、計測対象の物理量に依存して変化する遅延信号を生成する遅延回路を備える。 第2インバータは、第1所定電圧部位と第2所定電圧部位との間に直列に接続された第1導電型の第1トランジスタと第2導電型の第2トランジスタとを備えている。 複数の第2インバータが備えるトランジスタのゲート長が複数の第1インバータが備えるトランジスタのゲート長よりも大きい。A/D変換回路は、遅延信号の遅延時間をクロック信号のクロック数に基づいて計測する遅延時間計測回路を備える。複数の第2インバータの少なくとも1つには、第1所定電圧部位と第1トランジスタとの接続経路上に第1導電型の第3トランジスタが配置されている。第3トランジスタのゲートには、第3トランジスタがオン状態となる固定の所定ゲート電圧が印加されている。第3トランジスタのゲート長は第1トランジスタのゲート長よりも小さい。
【0006】
上記のA/D変換回路では、第3トランジスタはオン状態とされているため、第3トランジスタから出力されるドレイン-ソース間電流を第2インバータに供給することができる。そして第3トランジスタのゲート長は、第1トランジスタのゲート長よりも小さいため、チャネル長変調効果が高い。よって、第1所定電圧部位の電圧が変動した場合における、第2インバータの電流の変化量を、第3トランジスタによって大きくすることができる。その結果、遅延回路において、供給電圧が変動した場合の動作速度の変化割合を大きくすることができる。遅延回路とクロック回路との間の動作速度の変化割合の差を抑制できるため、電源電圧変動特性の悪化を防止することが可能となる。
【0007】
第1所定電圧部位と第1トランジスタとの接続経路上に第3トランジスタと並列に配置されている、第1導電型の第4トランジスタをさらに備えていてもよい。第4トランジスタのゲートは、第1トランジスタのゲートおよび第2トランジスタのゲートに接続されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
第3トランジスタのゲートは、第2所定電圧部位に接続されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
インバータチェーンの偶数段目の第2インバータの少なくとも1つに第3トランジスタが配置されていてもよい。または、インバータチェーンの奇数段目の第2インバータの少なくとも1つに第3トランジスタが配置されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
第3トランジスタは、第1所定電圧部位と第1トランジスタとの接続経路上に互いに並列にK個(Kは1以上の自然数)配置されていてもよい。K個の第3トランジスタの各々は、第3トランジスタと第1トランジスタとの接続経路を導通または非導通にするK個のスイッチを備えていてもよい。K個のスイッチは、K個の第3トランジスタのうちのJ個(Jは0以上K以下の自然数)の第3トランジスタを第1トランジスタに接続することが可能であってもよい。
【0011】
K個の第3トランジスタの各々のゲートサイズが全て同一であってもよい。または、ゲートサイズがバイナリ値で増加していてもよい。
【0012】
第1導電型はP型であり、第2導電型はN型であり、第1所定電圧部位は電源電圧部位であり、第2所定電圧部位は基準電圧部位であってもよい。
【0013】
第1導電型はN型であり、第2導電型はP型であり、第1所定電圧部位は基準電圧部位であり、第2所定電圧部位は電源電圧部位であってもよい。
【0014】
本明細書で開示されるA/D変換回路は、複数の第1インバータがリング状に接続されたリングオシレータを備え、クロック信号を生成するクロック回路を備える。A/D変換回路は、複数の第2インバータが直列に接続されているインバータチェーンを備え、計測対象の物理量に依存して変化する遅延信号を生成する遅延回路を備える。複数の第2インバータが備えるトランジスタのゲート長が複数の第1インバータが備えるトランジスタのゲート長よりも大きい。A/D変換回路は、遅延信号の遅延時間をクロック信号のクロック数に基づいて計測する遅延時間計測回路を備える。クロック回路の第1インバータは、第1所定電圧部位と第2所定電圧部位との間に直列に接続された第1導電型の第1トランジスタと第2導電型の第2トランジスタとを備えている。第1トランジスタのソース端子が第1所定電圧部位に接続されている。第2トランジスタのソース端子が第2所定電圧部位に接続されている。複数の第1インバータの少なくとも1つには、第1トランジスタのソース端子と第2所定電圧部位との接続経路上に第2導電型の第3トランジスタが配置されている。第3トランジスタのゲートには、第3トランジスタがオン状態となる固定の所定ゲート電圧が印加されている。第3トランジスタのゲート長は第1トランジスタのゲート長よりも小さい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0015】
本明細書で開示されるA/D変換回路は、複数の第1インバータがリング状に接続されたリングオシレータを備え、クロック信号を生成するクロック回路を備える。A/D変換回路は、複数の第2インバータが直列に接続されているインバータチェーンを備え、計測対象の物理量に依存して変化する遅延信号を生成する遅延回路を備える。第2インバータは、電源電圧部位と電源電圧部位との間に直列に接続されたP型トランジスタとN型トランジスタとを備えている。A/D変換回路は、遅延信号の遅延時間をクロック信号のクロック数に基づいて計測する遅延時間計測回路を備える。インバータチェーンの一段おきのP型トランジスタまたはN型トランジスタの少なくとも1つが、特定トランジスタである。インバータチェーンに含まれている特定トランジスタ以外の他のトランジスタのゲート長が、複数の第1インバータが備えるトランジスタのゲート長よりも大きい。特定トランジスタのゲート長が、他のトランジスタのゲート長よりも小さい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0016】
遅延信号は、立ち上がりエッジを有していてもよい。特定トランジスタは、インバータチェーンの偶数段のP型トランジスタ、または、インバータチェーンの奇数段のN型トランジスタであってもよい。
【0017】
遅延信号は、立ち下がりエッジを有していてもよい。特定トランジスタは、インバータチェーンの奇数段のP型トランジスタ、または、インバータチェーンの偶数段のN型トランジスタであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】温度センサ回路の概略を示すブロック図である。
【
図2】温度センサ回路の動作を説明する波形図である。
【
図3】温度センサ回路の動作を説明する波形図である。
【
図4】チャネル長変調効果を説明するグラフである。
【
図5】動作速度の変化割合(傾き)を示す概略グラフである。
【
図6】実施例2に係る第2インバータINV2aを示す図である。
【
図7】実施例3に係る遅延回路40bを示す図である。
【
図8】実施例4に係るクロック回路30cを示す図である。
【
図9】変形例のクロック回路30dを示す図である。
【
図10】実施例5に係る遅延回路40eを示す図である。
【
図11】実施例6に係る第2インバータINV2eを示す図である。
【
図12】実施例7に係る第1インバータINV1fを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
(温度センサ回路1の構成)
図1に、本実施形態に係る温度センサ回路1を示す。温度センサ回路1は、物理量である温度をデジタル値に変換するA/D変換回路の一例である。温度センサ回路1は1チップ化された回路であり、パルス生成回路20、クロック回路30、遅延回路40、遅延時間計測回路50、を備えている。
【0020】
パルス生成回路20は、低周波信号S1を生成する回路である。低周波信号S1は、クロック信号CLKよりも十分に低周波な信号である。低周波信号S1は、例えば、クロック信号CLKの周波数を1/1024倍又は1/2048倍に低周波化することで生成してもよい。
【0021】
クロック回路30は、クロック信号CLKを生成する回路である。クロック信号CLKは、例えばデューティー比が50%の矩形波である。クロック回路30は、奇数個の第1インバータINV1がリング状に接続されたリングオシレータで構成されている。第1インバータINV1の各々は、電源電圧部位VDと基準電圧部位GDとの間に直列接続されたPMOSトランジスタPTおよびNMOSトランジスタNTを備えている。電源電圧部位VDは、電源電圧VDDを供給する部位である。基準電圧部位GDは、基準電圧GNDを供給する部位である。本実施例では、電源電圧VDDは1.8[V]であり、基準電圧GNDは0[V]である。
【0022】
遅延回路40は、低周波信号S1を遅延させた遅延信号S2を生成する回路である。遅延信号S2は、計測対象の物理量である温度に依存して変化する信号である。遅延回路40は、第2インバータINV21~INV22Nまでの2N個(Nは自然数)が直列に接続されたインバータチェーンで構成されている。2N個の第2インバータINV2の各々は、電源電圧部位VDと基準電圧部位GDとの間に直列に接続された第1トランジスタM1および第2トランジスタM2を備えている。第1トランジスタM1は、PMOSトランジスタである。第2トランジスタM2は、NMOSトランジスタである。2N個の第2インバータINV2が備える第1トランジスタM1および第2トランジスタM2のゲート長は、複数の第1インバータINV1が備えるトランジスタPTおよびNTのゲート長よりも大きい。
【0023】
偶数段の第2インバータINV2の各々には、電源電圧部位VDと第1トランジスタM1との接続経路上に第3トランジスタM3が配置されている。第3トランジスタM3は、PMOSトランジスタである。第3トランジスタM3のゲート長は、第1トランジスタM1のゲート長よりも小さくされている。第3トランジスタM3のゲートは、基準電圧部位GDに接続されている。これにより、固定の基準電圧GNDがゲートに印加されるため、第3トランジスタM3はオン状態が維持されている。
【0024】
遅延時間計測回路50は、低周波信号S1と遅延信号S2の時間差(遅延信号S2の遅延時間に相当する)をクロック信号CLKのクロック数に基づいて計測する回路である。また、遅延時間計測回路50は、その計測されたクロック数をデジタルの温度情報Doutに変換して出力するように構成されている。
【0025】
(温度センサ回路1の動作)
図2および
図3の波形図を用いて、温度センサ回路1の動作を具体的に説明する。
図2および
図3は、遅延時間計測回路50に入力される各種信号の波形図である。時刻t1において、低周波信号S1の立ち上がりエッジが検出されると、クロック信号CLKのカウントが開始される。時刻t2において、遅延信号S2の立ち上がりエッジが検出されると、クロック信号CLKのカウントが終了する。前述したように、遅延回路40の第2インバータINV2のトランジスタのゲート長は、クロック回路30の第1インバータINV1のトランジスタのゲート長よりも大きい。よって、温度が変化した場合における信号の遅延時間の変化量が、クロック信号CLKよりも遅延信号S2の方が大きくされている。
【0026】
このため、
図2に示されるように、相対的に低い温度Taでは、遅延信号S2の遅延時間T1で計測されるクロック信号CLKのクロック数が「6」である。一方、
図3に示されるように、相対的に高い温度Tbでは、遅延信号S2の遅延時間T2で計測されるクロック信号CLKのクロック数が「9」である。このように、クロック信号CLKの温度依存特性と遅延信号S2の温度依存特性が相違していると、遅延時間計測回路5で計測されるクロック数が温度に対して変動する。その結果、デジタル値の温度情報Doutを得ることができる。
【0027】
(解決課題)
クロック信号CLKの温度依存性に比して遅延信号S2の温度依存性を高く設定するために、クロック回路30の第1インバータINV1を構成するNMOSトランジスタNTおよびPMOSトランジスタPTのゲート長を、遅延回路40の第2インバータINV2を構成する第1トランジスタM1および第2トランジスタM2のゲート長よりも小さくしている。この場合、チャネル長変調効果が、第2インバータINV2よりも第1インバータINV1の方に高く発現する。
【0028】
図4に示すように、チャネル長変調効果とは、トランジスタの飽和領域において、ドレイン-ソース間電流Idsがドレイン-ソース間電圧Vdsに依存した傾きを持つ現象である。トランジスタの飽和領域は、「(ドレイン-ソース間電圧Vds)≧(ゲート-ソース間電圧Vgs)-(しきい値電圧Vth)」が成立する領域である。
図4では、点線のカーブCV1が、第1インバータINV1(クロック回路30)のトランジスタ特性を示している。また、実線のカーブCV2が、第2インバータINV2(遅延回路40)のトランジスタ特性を示している。チャネル長変調効果によって、飽和領域における傾きが、カーブCV1の方がカーブCV2よりも大きい。従って、電源電圧VDDがΔVだけ高く変動した場合のドレイン-ソース間電流Idsの増加量は、遅延回路40の第2インバータINV2(カーブCV2)の増加量A2に比して、クロック回路30の第1インバータINV1(カーブCV1)の増加量A1の方が大きくなる。
【0029】
回路の動作速度は、ドレイン-ソース間電流Idsに比例する。よって
図5の概略グラフに示すように、電源電圧VDDが変動した場合の動作速度の変化割合(傾き)は、傾きSL2(遅延回路40)よりも傾きSL1(クロック回路30)の方が大きくなる。この遅延回路40とクロック回路30との動作速度の変化割合の差(傾きSL2とSL1の差)に起因して、電源電圧VDDが変動した場合に、温度情報Doutが変動してしまう。すなわち、電源電圧VDDがΔVだけ高くなると、遅延信号S2の遅延量の増加割合に比してクロック信号CLKのパルス数の増加割合が高いため、温度情報Doutの値がΔVに応じた値だけ高温側へずれてしまう。同様に、電源電圧VDDがΔVだけ低くなると、遅延信号S2の遅延量の減少割合に比してクロック信号CLKのパルス数の減少割合が高いため、温度情報Doutの値がΔVに応じた値だけ低温側へずれてしまう。
【0030】
(効果)
遅延回路40に立ち上がりエッジを有する低周波信号S1が入力された場合、偶数段の第2インバータINV2では、第1トランジスタM1が次段のゲート容量の充電を行うことで、論理がローレベルからハイレベルに反転する。そして本実施例の遅延回路40では、偶数段の第2インバータINV2の各々に、第3トランジスタM3を配置している。第3トランジスタM3のゲート長は、第1トランジスタM1のゲート長よりも小さいため、チャネル長変調効果が高い。また第3トランジスタM3は常にオン状態とされているため、第3トランジスタM3のチャネル長変調効果を受けたドレイン-ソース間電流Idsを、第1トランジスタM1に供給することができる。すなわち、第3トランジスタM3によって、第1トランジスタM1が高いチャネル長変調効果を発現している状態にすることができる。第3トランジスタM3のゲート長を適切に設定することにより、第2インバータINV2の第1トランジスタM1のチャネル長変調効果の発現の程度を、第1インバータINV1のトランジスタと同程度にまで高めることが可能となる。すなわち、第1トランジスタM1の電圧電流特性を、
図4のカーブCV2からカーブCV1へ近づけることができる。その結果、電源電圧VDDが変動した場合の遅延回路40の動作速度の変化割合を、クロック回路30と同程度にまで大きくすることができる。すなわち
図5において、傾きSL2(遅延回路40)を、傾きSL1(クロック回路30)へ近づくように大きくすることができる。これにより、遅延回路40とクロック回路30との動作速度の変化割合の差(傾きSL2とSL1の差)を抑制できるため、電源電圧変動特性の悪化を防止することが可能となる。すなわち、電源電圧VDDがΔVだけ高くなる場合や低くなる場合においても、遅延信号S2の遅延量の変動割合とクロック信号CLKのパルス数の変動割合とを同程度にすることができるため、温度情報Doutの値が高温側や低温側へずれてしまうことがない。
【0031】
ゲート長が同一の場合、PMOSトランジスタはNMOSトランジスタに比して、1/2~1/3程度の動作速度となる。これは、キャリア移動度の差に起因するものである。すると、遅延回路40とクロック回路30との動作速度の変化割合の差(
図5の傾きSL2とSL1の差)は、主にPMOSトランジスタの動作速度に起因して発生する。また遅延回路40に立ち上がりエッジを有する低周波信号S1が入力された場合、偶数段の第2インバータINV2では、PMOSの第1トランジスタM1が次段のゲート容量を充電するため、PMOSトランジスタによって動作速度が決まる。また奇数段の第2インバータINV2では、NMOSの第2トランジスタM2が次段のゲート容量を放電するため、NMOSトランジスタによって動作速度が決まる。そして本実施例の技術では、偶数段の第2インバータINV2の各々に、第3トランジスタM3を配置している。これにより、動作速度の変化割合の差を生成する主要因であるPMOSトランジスタのみ、チャネル長変調効果を高めることができる。従って、チャネル長変調効果を高めるためのトランジスタを全段数に配置する場合と同程度に、電源電圧変動特性の悪化を防止することが可能となる。また、チャネル長変調効果を高めるためのトランジスタを全段数に配置する場合に比して、回路規模の増大を抑制することが可能となる。
【0032】
図4に示すように、ドレイン-ソース間電圧Vdsが大きいほど(すなわち
図4のグラフの右側へ行くほど)、チャネル長変調効果が高く発現する。そして本実施例の技術では、第3トランジスタM3のゲートを基準電圧部位GDに接続している。これにより、ゲート-ソース間電圧Vgsの値を、最大値である電源電圧VDDに維持することができる。すなわち、第3トランジスタM3により第1トランジスタM1のチャネル長変調効果を高める効果を、最大限に発揮させることが可能となる。
【実施例2】
【0033】
図6に、実施例2に係る第2インバータINV2aを示す。第2インバータINV2aは、遅延回路40のインバータチェーンの偶数段に配置されるインバータである。実施例2の第2インバータINV2aは、実施例1の偶数段の第2インバータINV2に対して、さらにP型の第4トランジスタM4を備えた構成である。第4トランジスタM4は、電源電圧部位VDと第1トランジスタM1との接続経路上に配置されている。第4トランジスタM4は、第3トランジスタM3と並列に配置されている。第4トランジスタM4のゲートは、第1トランジスタM1および第2トランジスタM2のゲートに接続されている。なお、その他の構成は実施例1の内容と同様である。実施例1と同一内容の部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。
【0034】
(効果)
図6に示すように、第4トランジスタM4には寄生ゲート容量PCが存在している。この寄生ゲート容量PCによって、第1トランジスタM1を流れる充電電流CCを減少させるように微調整を行うことができる。その結果、第2インバータINV2aから出力される出力パルスOPの立ち上がり時間を長くすることができる。すなわち、第4トランジスタM4が配置されていない場合には、
図6の点線に示す出力パルスOP1となる。一方、第4トランジスタM4が配置されている場合には、
図6の実線に示す出力パルスOP2となる。第4トランジスタM4を備えることで、出力パルスOPの立ち上がり時間を、時間T11から時間T12まで遅延時間DTだけ長くすることができる。遅延時間DTは、寄生ゲート容量PC(すなわち第4トランジスタM4のゲートサイズ)を調整することで、調整することが可能である。出力パルスOPの変化時間を長くすることができるため、実施例1で前述した補償効果(遅延回路40の動作速度を変化させる効果)を高めることができる。電源電圧変動特性の調節幅を大きくすることができる。
【実施例3】
【0035】
図7に、実施例3に係る遅延回路40bを示す。遅延回路40bは、第2インバータINV2b
1~INV2b
2Nまでの2N個(Nは自然数)が直列に接続されたインバータチェーンで構成されている。実施例3の遅延回路40bは、実施例1の遅延回路40(
図1)に対して、奇数段の第2インバータINV2bに第3トランジスタM3bおよび第4トランジスタM4bを備えた構成である。すなわち、実施例1では偶数段の第2インバータINV2の速度を調整しており、実施例3では奇数段の第2インバータINV2bの速度を調整している。
【0036】
奇数段の第2インバータINV2bの各々には、基準電圧部位GDと第1トランジスタM1bとの接続経路上に、第3トランジスタM3bが配置されている。第3トランジスタM3bは、NMOSトランジスタである。第3トランジスタM3bのゲート長は、第1トランジスタM1bのゲート長よりも小さくされている。第3トランジスタM3bのゲートは、電源電圧部位VDに接続されている。これにより、固定の電源電圧VDDがゲートに印加されるため、第3トランジスタM3bはがオン状態が維持されている。また基準電圧部位GDと第1トランジスタM1bとの接続経路上に、N型の第4トランジスタM4bが配置されている。第4トランジスタM4bは、第3トランジスタM3bと並列に配置されている。第4トランジスタM4bのゲートは、第1トランジスタM1bおよび第2トランジスタM2bのゲートと接続されている。なお、その他の構成は実施例1の内容と同様である。実施例1と同一内容の部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。
【0037】
(効果)
遅延回路40bでは、奇数段の第2インバータINV2bの各々に、第3トランジスタM3bを配置している。奇数段の第2インバータINV2bでは、第1トランジスタM1bを流れる放電電流DCによって次段のゲート容量が放電される。そして実施例1と同様にして、第3トランジスタM3bのチャネル長変調効果を受けたドレイン-ソース間電流Idsを、第1トランジスタM1bからさらに引き抜くことができる。すなわち第3トランジスタM3bによって、第1トランジスタM1bが高いチャネル長変調効果を発現している状態にすることができる。そして第3トランジスタM3bのゲート長を適切に設定することにより、第2インバータINV2bの第1トランジスタM1bのチャネル長変調効果の発現の程度を、第1インバータINV1のトランジスタと同程度にまで高めることが可能となる。これにより、遅延回路40bとクロック回路30との動作速度の変化割合の差(傾きSL2とSL1の差)を抑制できるため、電源電圧変動特性の悪化を防止することが可能となる。
【0038】
また実施例2と同様にして、第4トランジスタM4bによって、第1トランジスタM1bを流れる放電電流DCを減少させるように微調整を行うことができる。前述した補償効果(遅延回路40bの動作速度を変化させる効果)を高めることができる。
【実施例4】
【0039】
図8に、実施例4に係るクロック回路30cを示す。クロック回路30cは、奇数個の第1インバータINV1cがリング状に接続されたリングオシレータで構成されている。実施例4のクロック回路30cは、実施例1のクロック回路30(
図1)に対して、全段数の第1インバータINV1cに第3および第4トランジスタが備えられている構成である。すなわち、実施例1では遅延回路40を補償することで、遅延回路40の電源電圧変動特性をクロック回路30に近づけていた。一方、実施例4は、クロック回路30cを補償することで、クロック回路30cの電源電圧変動特性を遅延回路40に近づける実施例である。第3および第4トランジスタは、PMOSトランジスタ側に付加することで、PMOSトランジスタを流れる充電電流を減少させるように微調整を行ってもよい。また第3および第4トランジスタは、NMOSトランジスタ側に付加することで、NMOSトランジスタを流れる放電電流を減少させるように微調整を行ってもよい。
図8では、例として、第3および第4トランジスタをPMOSトランジスタ側に付加する場合を説明する。
【0040】
第1トランジスタM1cのソース端子が、第4トランジスタM4cを介して電源電圧部位VDに接続されている。第2トランジスタM2cのソース端子が、基準電圧部位GDに接続されている。N型の第3トランジスタM3cが、第1トランジスタM1cのソース端子と基準電圧部位GDとの接続経路上に配置されている。第3トランジスタM3cのゲートは、電源電圧部位VDに接続されている。これにより第3トランジスタM3cは、オン状態が維持されている。第3トランジスタM3cのゲート長は、第1トランジスタM1cのゲート長よりも小さい。
【0041】
(効果)
第3トランジスタM3cのゲート長は、第1トランジスタM1cのゲート長よりも小さいため、チャネル長変調効果が高い。また第3トランジスタM3cは常にオン状態とされているため、第3トランジスタM3cのチャネル長変調効果を受けたドレイン-ソース間電流Idsを、第4トランジスタM4cを流れる供給電流SCから差し引くことができる。第1トランジスタM1cを流れる充電電流CC1を減少させるように微調整を行うことができる。そして第3トランジスタM3cのゲート長を適切に設定することにより、第1トランジスタM1cのチャネル長変調効果の発現の程度に応じたドレイン-ソース間電流Idsを差し引くことで、第1トランジスタM1cのチャネル長変調効果をキャンセルすることができる。
【0042】
具体的に説明する。電源電圧VDDがΔVだけ高くなると、第1トランジスタM1cは、充電電流CC1+増加電流ΔIを流そうとする。増加電流ΔIは、チャネル長変調効果に応じた電流である。しかし第3トランジスタM3cによって、増加電流ΔIに対応するドレイン-ソース間電流Idsを、供給電流SCから引き抜くことができる。これにより、充電電流CC1が増加してしまうことを防止できる。すなわち、第1トランジスタM1cのチャネル長変調効果を、
図4のカーブCV1からカーブCV2へ近づくように低減することができる。よって
図5において、傾きSL1(クロック回路30c)を、傾きSL2(遅延回路40)に近づくように小さくすることができる。
【0043】
クロック回路30cはリングオシレータであるため、第1インバータINV1cの各々は、充電と放電とを交互に行う。そして前述のように、第1インバータINV1cが充電を行う場合には、第3トランジスタM3cによって第1トランジスタM1cのチャネル長変調効果をキャンセルすることができる。以上により、電源電圧変動特性の悪化を防止することが可能となる。
【実施例5】
【0044】
図10に、実施例5に係る遅延回路40eを示す。遅延回路40eは、第2インバータINV2
1~INV2
2Nまでの2N個(Nは自然数)が直列に接続されたインバータチェーンで構成されている。実施例5の遅延回路40eは、低周波信号S1の立ち上がりエッジを遅延させて遅延信号S2を出力する回路である。実施例5の遅延回路40eは、実施例1の遅延回路40(
図1)に対して、偶数段のPMOSトランジスタ(領域R1)が特定トランジスタである構成である。特定トランジスタのゲート長は、特定トランジスタ以外の他のトランジスタ(遅延回路40eに含まれている領域R1以外のトランジスタ)のゲート長よりも小さい。また、特定トランジスタ以外の他のトランジスタのゲート長は、第1インバータINV1(クロック回路30)のトランジスタのゲート長よりも大きい。なお、その他の構成は実施例1の内容と同様である。実施例1と同一内容の部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。
【0045】
(効果)
遅延回路40eに立ち上がりエッジを有する低周波信号S1が入力された場合、偶数段のPMOSトランジスタ(特定トランジスタ:領域R1)が次段のゲート容量の充電を行うことで、論理がローレベルからハイレベルに反転する。そして本実施例の遅延回路40eでは、特定トランジスタのゲート長が、特定トランジスタ以外の他のトランジスタのゲート長よりも小さいため、チャネル長変調効果が高い。特定トランジスタのゲート長を適切に設定することにより、第2インバータINV2の特定トランジスタのチャネル長変調効果の発現の程度を、第1インバータINV1のトランジスタと同程度にまで高めることが可能となる。その結果、電源電圧VDDが変動した場合の遅延回路40eの動作速度の変化割合を、クロック回路30と同程度にまで大きくすることができる。
【実施例6】
【0046】
図11に、実施例6に係る第2インバータINV2eを示す。第2インバータINV2eは、遅延回路40(
図1)のインバータチェーンの偶数段に配置されるインバータである。実施例6の第2インバータINV2eは、実施例2の第2インバータINV2a(
図6)に対して、第3トランジスタM3をK個(Kは1以上の自然数)備えた構成である。K個の第3トランジスタM3
1~M3
Kは、電源電圧部位VDと第1トランジスタM1との接続経路上に互いに並列に配置されている。第3トランジスタM3
1~M3
Kの各々は、第1トランジスタM1との接続経路を導通または非導通にするK個のスイッチSW
1~SW
Kを備えている。
【0047】
K個の第3トランジスタM31~M3Kの各々のゲートサイズは、全て同一である。例えば、「ゲート幅W/ゲート長L」の比が、全て「0.45μm/3μm」であってもよい。変形例として、K個の第3トランジスタM31~M3Kの各々のゲートサイズの少なくとも一部が異なっていてもよい。例えば、K個の第3トランジスタM31~M3Kのゲートサイズがバイナリ値で増加する態様である。この場合、例えばX個目の第3トランジスタのゲートサイズは、下式(1)で求めることができる。
ゲート幅W[μm]/ゲート長L[μm]=0.45+0.45×(2(X-1))[μm]/3[μm]・・・(式1)
なお、その他の構成は実施例1および2の内容と同様である。実施例1および2と同一内容の部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。
【0048】
(効果)
K個のスイッチのうちのJ個(Jは0以上K以下の自然数)を導通状態とすることで、J個の第3トランジスタを第1トランジスタに接続することが可能である。第3トランジスタM31~M3Kのゲートサイズは、第1トランジスタM1のゲートサイズよりも小さいため、チャネル長変調効果が高い。よって、第3トランジスタの接続数を多くするほど、第1トランジスタM1がより高いチャネル長変調効果を発現している状態にすることができる。そして、回路のばらつき具合(例:クロック回路30や遅延回路40を構成するトランジスタの特性ばらつき)に応じて、第3トランジスタの接続数を適宜調整することにより、電源電圧VDDが変動した場合の遅延回路40の動作速度の変化割合を、クロック回路30と同程度に調整することが可能となる。
【実施例7】
【0049】
図12に、実施例7に係る第1インバータINV1fを示す。第1インバータINV1fは、実施例4のクロック回路30c(
図8)に配置されるインバータである。実施例7の第1インバータINV1fは、実施例4の第1インバータINV1cに対して、第3トランジスタM3cをK個(Kは1以上の自然数)備えた構成である。K個の第3トランジスタM3c
1~M3c
Kは、基準電圧部位GDと第1トランジスタM1cのソース端子との接続経路上に互いに並列に配置されている。第3トランジスタM3c
1~M3c
Kの各々は、第1トランジスタM1cとの接続経路を導通または非導通にするK個のスイッチSW
1~SW
Kを備えている。なお、その他の構成は実施例4の内容と同様である。実施例4と同一内容の部位には同一符号を付すことで、説明を省略する。また、第3トランジスタM3c
1~M3c
Kのゲートサイズや得られる効果については、実施例6の内容と同様であるため、説明を省略する。
【0050】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0051】
(変形例)
実施例1および2において、偶数段の第1トランジスタM1を補償する場合を説明したが、この形態に限られない。実施例1および2の技術は、動作が遅いPMOSトランジスタを補償する技術である。従って、低周波信号S1が立ち下がりエッジを有する場合には、奇数段の第1トランジスタM1を補償してもよい。
【0052】
実施例4および7では、第3および第4トランジスタをPMOSトランジスタ側に付加する形態を説明したが、この形態に限られない。
図9に示すクロック回路30dのように、第3および第4トランジスタをNMOSトランジスタ側に付加する形態であってもよい。第1トランジスタM1dのソース端子が、第4トランジスタM4dを介して基準電圧部位GDに接続されている。第2トランジスタM2dのソース端子が、電源電圧部位VDに接続されている。P型の第3トランジスタM3dが、第1トランジスタM1dのソース端子と電源電圧部位VDとの接続経路上に配置されている。第3トランジスタM3dのゲートは、基準電圧部位GDに接続されている。第3トランジスタM3dは常にオン状態とされているため、第3トランジスタM3cのチャネル長変調効果を受けたドレイン-ソース間電流Idsを、第4トランジスタM4dを流れる排出電流ECに合流させることができる。第1トランジスタM1dを流れる放電電流DC1を減少させるように微調整を行うことができる。そして第3トランジスタM3dのゲート長を適切に設定することにより、第1トランジスタM1dのチャネル長変調効果の発現の程度に応じたドレイン-ソース間電流Idsを排出電流ECに合流させることで、第1トランジスタM1dのチャネル長変調効果をキャンセルすることができる。
【0053】
実施例5の遅延回路40e(
図10)では、低周波信号S1の立ち上がりエッジを遅延させる場合に、偶数段のPMOSトランジスタ(領域R1)を特定トランジスタとする場合を説明したが、この形態に限られない。次段のゲート容量の放電を行う奇数段のNMOSトランジスタ(領域R2)を、特定トランジスタとしてもよい。これにより、電源電圧VDDの変動に対する遅延回路40eの感度を、高く調節することができる。また、遅延回路40eで低周波信号S1の立ち下がりエッジを遅延させる場合には、奇数段のPMOSトランジスタを特定トランジスタにするか、偶数段のNMOSトランジスタを特定トランジスタにすればよい。これによっても、電源電圧VDDの変動に対する遅延回路40eの感度を、高く調節することができる。
【0054】
実施例6(
図11)では、K個の第3トランジスタをPMOSトランジスタ側に付加する形態を説明したが、この形態に限られない。実施例3に係る遅延回路40b(
図7)のように、K個の第3トランジスタをNMOSトランジスタ側に付加する形態であってもよい。
【0055】
本実施形態のCMOSインバータは、「CMOSインバータとして機能する回路」を含む概念である。例えば、NAND回路やNOR回路などの各種ロジック回路をNOT回路として機能させた回路も、CMOSインバータに含まれる。NAND回路をCMOSインバータとして機能させる場合には、入力端子Aにイネーブル信号を入力し、入力端子Bに入力信号を入力すればよい。イネーブル信号がハイレベルの場合に、NAND回路は、入力端子Bに入力された入力信号を反転して出力する。NOR回路をCMOSインバータとして機能させる場合には、複数の入力端子を共通接続すればよい。
【符号の説明】
【0056】
1:温度センサ回路 20:パルス生成回路 30:クロック回路 40:遅延回路 50:遅延時間計測回路 INV1:第1インバータ INV2:第2インバータ M1:第1トランジスタ M2:第2トランジスタ M3:第3トランジスタ M4:第4トランジスタ VD:電源電圧部位 GD:基準電圧部位 S1:低周波信号 S2:遅延信号 CLK:クロック信号 Dout:温度情報