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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】歩行分析方法及び歩行分析装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20221206BHJP
   A43B 17/00 20060101ALI20221206BHJP
   A63B 23/04 20060101ALI20221206BHJP
   A63B 69/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A43B17/00 Z
A63B23/04 Z
A63B69/00 C
A61B5/11 ZDM
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020014368
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021119935
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小森 陽子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武史
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/164157(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/163714(WO,A1)
【文献】特開2012-239544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0361221(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行時に測定された足裏にかかる圧力に関する測定情報に基づいて歩行状態を分析する歩行分析方法であって、
前記測定情報は、片足の足裏にかかる部位毎の圧力を経時的に測定した測定値を含み、
歩行時の足の着地から離地までの一歩区間を複数の小区間に分割する分割ステップと、
前記小区間における一定時間毎の足裏の足圧中心の二次元座標を算出する座標算出ステップと、
同じ前記小区間内において、一定の時間間隔で連続する3つの前記二次元座標を順に座標P、座標Pn+1、座標Pn+2としたとき、座標Pから座標Pn+1への変化量を示すベクトルと座標Pn+1から座標Pn+2への変化量を示すベクトルとがなす振れ角の総和である振れ値を算出する振れ値算出ステップとを備えることを特徴とする歩行分析方法。
【請求項2】
前記分割ステップは、足裏にかかる部位毎の圧力の相対的な関係に基づいて、前記一歩区間を、踵側に圧力がかかる踵区間と、つま先側に圧力がかかるつま先区間と、前記一歩区間における前記踵区間及び前記つま先区間を除いた中間区間とに分割する請求項1に記載の歩行分析方法。
【請求項3】
前記測定情報は、足裏において、前後方向に離間する第1位置及び第2位置、並びに前記第1位置及び前記第2位置を結ぶ線を跨いで左右方向に離間する第3位置及び第4位置の部位毎の圧力を経時的に検出した検出値を含む請求項1又は請求項2に記載の歩行分析方法。
【請求項4】
前記振れ値、前記小区間における最大圧力値、及び前記小区間の区間時間を特徴量として、前記特徴量が得られている対象群を、前記特徴量に基づいて複数の部分集合にクラスタリングする分類ステップを備える請求項1~3のいずれか一項に記載の歩行分析方法。
【請求項5】
歩行時に測定された足裏にかかる圧力に関する測定情報に基づいて歩行状態を分析する歩行分析装置であって、
前記測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する情報処理部を備え、
前記測定情報は、片足の足裏にかかる部位毎の圧力を経時的に測定した測定値を含み、
前記情報処理部は、
歩行時の足の着地から離地までの一歩区間を複数の小区間に分割する分割部と、
前記小区間における一定時間毎の足裏の足圧中心の二次元座標を算出する座標算出部と、
同じ前記小区間内において、一定の時間間隔で連続する3つの前記二次元座標を順に座標P、座標Pn+1、座標Pn+2としたとき、座標Pから座標Pn+1への変化量を示すベクトルと座標Pn+1から座標Pn+2への変化量を示すベクトルとがなす振れ角の総和である振れ値を算出する振れ値算出部とを備えることを特徴とする歩行分析装置。
【請求項6】
前記情報処理部は、
前記小区間の最大圧力値を取得する最大圧力値取得部と、
前記小区間の区間時間を取得する区間時間取得部と、
前記振れ値、前記小区間の最大圧力値、及び前記小区間の区間時間を特徴量として、前記特徴量が得られている対象群を、前記特徴量に基づいて複数の部分集合にクラスタリングする分類部とを備える請求項5に記載の歩行分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行分析方法及び歩行分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトの歩行時に足裏にかかる圧力を測定し、得られた測定情報から、歩行状態に関連する特徴量を取得すること、及び取得した特徴量に基づいて歩行状態を評価することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示される歩行分析方法では、歩行時に測定された足裏にかかる圧力に基づいて、足底圧パラメータ、足圧中心パラメータ、及び時間パラメータを取得している。そして、片足が着地してから離地するまでの足圧中心軌跡の屈曲角であるCOP屈曲角を、上記の各パラメータから算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/164157号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
対象者の歩行状態のより詳細な評価を行う上で、特許文献1に開示される特徴量及び特徴量の算出方法には改善の余地があった。
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、歩行状態をより詳細に評価することのできる歩行分析方法及び歩行分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する歩行分析方法は、歩行時に測定された足裏にかかる圧力に関する測定情報に基づいて歩行状態を分析する歩行分析方法であって、前記測定情報は、片足の足裏にかかる部位毎の圧力を経時的に測定した測定値を含み、歩行時の足の着地から離地までの一歩区間を複数の小区間に分割する分割ステップと、前記小区間における一定時間毎の足裏の足圧中心の二次元座標を算出する座標算出ステップと、同じ前記小区間内において、一定の時間間隔で連続する3つの前記二次元座標を順に座標P、座標Pn+1、座標Pn+2としたとき、座標Pから座標Pn+1への変化量を示すベクトルと座標Pn+1から座標Pn+2への変化量を示すベクトルとがなす振れ角の総和である振れ値を算出する振れ値算出ステップとを備える。
【0007】
上記構成によれば、歩行時の足の着地から離地までの一歩区間を複数の小区間に分割し、小区間単位の振れ値を算出している。上記振れ値は、足圧中心がどの程度、振れているかを定量化した値であり、振れ値を確認することによって、重心移動の滑らかさを定量的に判断することができる。特に、一歩区間全体の振れ値ではなく、一歩区間を分割した小区間単位で細分化した振れ値としたことにより、足圧中心がどのタイミングで振れているか等のより詳細な分析も可能になる。したがって、上記構成により得られる小区間単位の振れ値を用いて、被験者の歩行状態を分析することにより、被験者の歩行状態をより詳細に評価することができる。
【0008】
複数の前記小区間は、踵側に圧力がかかる踵区間と、つま先側に圧力がかかるつま先区間と、前記一歩区間における前記踵区間及び前記つま先区間を除いた中間区間であることが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、踵側に圧力がかかる踵区間、及びつま先側に圧力がかかるつま先区間をより正確に設定することができ、細分化された特徴量としての振れ値の精度が向上する。
【0010】
前記測定情報は、足裏において、前後方向に離間する第1位置及び第2位置、並びに前記第1位置及び前記第2位置を結ぶ線を跨いで左右方向に離間する第3位置及び第4位置の部位毎の圧力を経時的に検出した検出値を含むことが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、足圧中心の二次元座標をより正確に取得でき、足圧中心の二次元座標から取得される振れ値の精度が向上する。
前記振れ値、前記小区間における最大圧力値、及び前記小区間の区間時間を特徴量として、前記特徴量が得られている対象群を、前記特徴量に基づいて複数の部分集合にクラスタリングする分類ステップを備えることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、分類された各部分集合を確認することにより、対象群において特徴のあるデータ、即ち、特徴のある歩行状態の被験者を容易に確認することができる。
上記課題を解決する歩行分析装置は、歩行時に測定された足裏にかかる圧力に関する測定情報に基づいて歩行状態を分析する歩行分析装置であって、前記測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する情報処理部を備え、前記測定情報は、片足の足裏にかかる部位毎の圧力を経時的に測定した測定値を含み、前記情報処理部は、歩行時の足の着地から離地までの一歩区間を複数の小区間に分割する分割部と、前記小区間における一定時間毎の足裏の足圧中心の二次元座標を算出する座標算出部と、同じ前記小区間内において、一定の時間間隔で連続する3つの前記二次元座標を順に座標P、座標Pn+1、座標Pn+2としたとき、座標Pから座標Pn+1への変化量を示すベクトルと座標Pn+1から座標Pn+2への変化量を示すベクトルとがなす振れ角の総和である振れ値を算出する振れ値算出部とを備える。
【0013】
前記情報処理部は、前記小区間の最大圧力値を取得する最大圧力値取得部と、前記小区間の区間時間を取得する区間時間取得部と、前記振れ値、前記小区間の最大圧力値、及び前記小区間の区間時間を特徴量として、前記特徴量が得られている対象群を、前記特徴量に基づいて複数の部分集合にクラスタリングする分類部とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歩行状態をより詳細に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】測定装置及び歩行分析装置の説明図。
図2】圧力センサの配置の説明図。
図3】情報処理部の説明図。
図4】特徴量データの説明図。
図5】波形データのグラフ。
図6】一歩区間の波形データのグラフ。
図7】足圧中心の二次元座標のグラフ。
図8】振れ角の説明図。
図9】グループ0に分類された特徴量データに関する波形データのグラフ及び足圧中心の二次元座標のグラフ。
図10】グループ1に分類された特徴量データに関する波形データのグラフ及び足圧中心の二次元座標のグラフ。
図11】グループ2に分類された特徴量データに関する波形データのグラフ及び足圧中心の二次元座標のグラフ。
図12】歩行分析方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
先ず、本実施形態の歩行分析方法に用いる測定装置10及び歩行分析装置20について説明する。
【0017】
図1及び図2に示すように、測定装置10は、シューズの中敷きとして用いられる基部11を備えている。基部11には、歩行中の足裏にかかる部位毎の圧力を検出する圧力センサ12として、踵センサ12a、つま先センサ12b、内側センサ12c、及び外側センサ12dの4個の圧力センサが取り付けられている。
【0018】
図2に示すように、基部11において、踵センサ12aは、踵の荷重がかかる部分に配置され、足裏の踵にかかる圧力を検出する。つま先センサ12bは、第2~4足指の足指の荷重がかかる部分のいずれかに配置され、足裏のつま先にかかる圧力を検出する。
【0019】
内側センサ12cは、踵センサ12aとつま先センサ12bを結ぶ線Lよりも内側であって、母指球の荷重がかかる部分に配置され、足裏の内側部分にかかる圧力を検出する。外側センサ12dは、線Lよりも外側であって、小指球の荷重がかかる部分に配置され、足裏の外側部分にかかる圧力を検出する。
【0020】
換言すると、踵センサ12a及びつま先センサ12bは、足裏における前後方向に離間する第1位置及び第2位置の圧力を検出するように配置されている。内側センサ12c及び外側センサ12dは、第1位置及び前記第2位置を結ぶ線Lを跨いで左右方向に離間する第3位置及び第4位置の圧力を検出するように配置されている。
【0021】
各圧力センサ12は、それぞれ独立して、所定時間毎に足裏にかかる部位毎の圧力を検出する。上記所定時間は、例えば、5~30ミリ秒である。本実施形態においては、20ミリ秒毎に圧力を検出するように設定されている。
【0022】
圧力センサ12としては、圧電素子等を用いた公知の感圧センサを用いることができる。特に、足裏に配置されるという使用状況に鑑みると、伸縮性及び耐久性の観点から、誘電エラストマーを利用したエラストマー製の静電容量型センサを用いることが好ましい。上記誘電エラストマーとしては、例えば、架橋されたポリロタキサン、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー、ウレタンエラストマーが挙げられる。
【0023】
図1に示すように、測定装置10には、各圧力センサ12により検出された各検出値を歩行分析装置20に送信する送信部13が取り付けられている。各圧力センサ12により検出された各検出値は、静電容量値や電気抵抗値等の圧力センサの検出方式に応じた圧力値に変換可能な検出値である。したがって、以下に記載する「検出値」は、足裏の圧力センサ12が取り付けられている位置における圧力の測定値と読み替えることができる。
【0024】
なお、測定装置10は、左足用及び右足用の両方が用意されており、必要に応じて、左右のいずれかのみ、又は左右両方を使用することができる。
図1に示すように、歩行分析装置20は、測定装置10の送信部13から送信された測定情報を受信する受信部21と、受信した測定情報から歩行状態に関連する特徴量を取得する情報処理部22と、情報処理部22により取得された特徴量等を表示する表示部23と、各種の情報を入力する入力部24とを備えている。
【0025】
歩行分析装置20としては、例えば、携帯端末やタブレット端末等のパーソナルコンピュータを用いることができる。表示部23としては、例えば、液晶ディスプレイ等の公知の表示デバイスを用いることができる。入力部24としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等の公知の入力デバイスを用いることができる。歩行分析装置20の受信部21は、有線又は無線の通信手段を有し、公知の通信方式にて測定装置10の送信部13と通信を行う。
【0026】
図3に示すように、情報処理部22は、記憶部30、波形データ作成部31、分割部32、区間最大値取得部33、区間時間取得部34、座標算出部35、滞在比率算出部36、振れ値算出部37、分類部38、及び表示処理部39を備えている。
【0027】
記憶部30は、測定装置10から送信された測定情報を記憶するとともに、測定情報に基づく特徴量データを記憶するように構成されている。図4に示すように、特徴量データには、日時やユーザー名等の識別情報と、歩行状態に関連する特徴量F1~F11とが含まれている。また、記憶部30には、同じ被験者の過去の特徴量データ、異なる被験者の特徴量データ、医療従事者等の専門家により設定されたモデルデータ等の複数の特徴量データが記憶されている。上記モデルデータとしては、例えば、内反足や外反足等の特定の症状を有する被験者の測定結果から得られた特徴量データが挙げられる。また、記憶部30には、情報処理部22における各処理の実行を制御するための実行プログラムが記憶されている。
【0028】
波形データ作成部31は、記憶部30に記憶されている分析対象となる測定情報に基づいて、各圧力センサ12により検出された片足(例えば、左足)の足裏の部位毎の検出値の時間変化を表す波形データを作成する。波形データ作成部31により作成される波形データの一例を図5に示す。図5において、実線は、踵センサ12aの検出値を示し、一点鎖線は、つま先センサ12bの検出値を示し、二点鎖線は、内側センサ12cの検出値を示し、破線は、外側センサ12dの検出値を示す。
【0029】
分割部32は、作成された波形データから、歩行時の足の着地から離地までの特定の一歩分の区間を対象区間として抽出するとともに、抽出した対象区間を更に複数の小区間に分割する。
【0030】
図5に示すように、歩行時の波形データは、圧力値が略一定の区間と検出値が変化する区間とを周期的に繰り返す波形となる。歩行時の波形データにおいて、検出値が略一定の区間が地面から足が離れている区間であり、検出値が変化している区間が地面に足が接している区間である。分割部32は、各部位の検出値が略一定である区間から踵の圧力値が上昇を開始した点を始点t1とし、各部位の検出値が略一定となるそれぞれの開始点のうちの最も遅い開始点を終点t2とする一歩区間Aから特定の一歩区間Aを抽出する。
【0031】
抽出する一歩区間Aは、歩行分析装置20を使用する操作者が任意に選択することもできるし、予め設定された基準に基づいて分割部32が選択することもできる。上記基準としては、例えば、測定開始から10歩目等の予め設定された順番に位置する一歩区間Aを選択すること、ランダムに選択することが挙げられる。
【0032】
図6に示すように、分割部32は、抽出した一歩区間Aを踵区間Ah、つま先区間At、及び中間区間Amの小区間に分割する。
踵区間Ahは、相対的に踵側に圧力がかかる一歩区間Aの初期の小区間である。本実施形態においては、一歩区間Aの始点t1から踵センサ12aの検出値がピークの頂点となる時点t3までの区間を踵区間Ahとする。
【0033】
つま先区間Atは、相対的につま先側に圧力がかかる一歩区間Aの終期の小区間である。本実施形態においては、4個の圧力センサ12の検出値の中でつま先センサ12bの検出値が最も大きくなる時点t4から一歩区間Aの終点t2までの区間をつま先区間Atとする。なお、歩行の仕方によっては、つま先区間Atが無い場合もある。
【0034】
中間区間Amは、一歩区間Aから踵区間Ah及びつま先区間Atを除いた小区間である。つま先区間Atがある場合には、時点t3から時点t4までの区間を中間区間Amとし、つま先区間Atがない場合には、時点t3から時点t2までの区間を中間区間Amとする。
【0035】
区間最大値取得部33は、踵区間Ahにおける4個の圧力センサ12の検出値の最大値(以下、踵区間最大値Ahmaxと記載する。)、及びつま先区間Atにおける4個の圧力センサ12の検出値の最大値(以下、つま先区間最大値Atmaxと記載する。)を測定情報から取得する。そして、取得した踵区間最大値Ahmax及びつま先区間最大値Atmaxを、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F1,F2として記憶部30に記憶させる。
【0036】
区間時間取得部34は、踵区間Ahの長さである区間時間Th、中間区間Amの長さである区間時間Tm、及びつま先区間Atの長さである区間時間Ttを測定情報から取得する。そして、取得した区間時間Th,Tm,Ttを、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F3~F5として記憶部30に記憶させる。なお、各区間時間は、秒数等の時間そのものであってもよいし、該当する区間における測定点の点数等の区間時間に相当するパラメータであってもよい。
【0037】
図7に示すように、座標算出部35は、一歩区間Aの測定情報に基づいて、踵区間Ah、つま先区間At、及び中間区間Amの各小区間における検出時間毎の足圧中心の二次元座標(X(t),Y(t))を算出する。X(t)は、時刻tにおける足圧中心の左右方向座標であり、Y(t)は、時刻tにおける足圧中心の前後方向座標である。足圧中心の二次元座標は、同じ検出時間に検出された4つの圧力センサ12の検出値から求めることができる。なお、図7に示す二次元座標における点12a~12dはそれぞれ、対応する符号の圧力センサ12の位置を示している。
【0038】
図7に示すように、滞在比率算出部36は、足圧中心の二次元座標系を、予め設定された3つの領域B1,B2,B3に分割する。そして、滞在比率算出部36は、座標算出部35にて算出された二次元座標に基づいて、踵区間Ahにおいて、領域B1に滞在する時間の比率である滞在比率Rh1、領域B2に滞在する時間の比率である滞在比率Rh2、及び領域B3に滞在する時間の比率である滞在比率Rh3を算出する。そして、算出された滞在比率Rh1,Rh2,Rh3を、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F6として記憶部30に記憶させる。
【0039】
同様に、滞在比率算出部36は、中間区間Amにおいて、領域B1に滞在する時間の比率である滞在比率Rm1、領域B2に滞在する時間の比率である滞在比率Rm2、及び領域B3に滞在する時間の比率である滞在比率Rm3を算出する。そして、算出された滞在比率Rm1,Rm2,Rm3を、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F7として記憶部30に記憶させる。
【0040】
同様に、滞在比率算出部36は、つま先区間Atにおいて、領域B1に滞在する時間の比率である滞在比率Rt1、領域B2に滞在する時間の比率である滞在比率Rt2、及び領域B3に滞在する時間の比率である滞在比率Rt3を算出する。そして、算出された滞在比率Rt1,Rt2,Rt3を、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F8として記憶部30に記憶させる。
【0041】
上記の各滞在比率は、対応する領域に滞在する秒数等の滞在時間そのものに基づく数値であってもよいし、二次元座標系において当該領域に位置する測定点の点数等の滞在時間に相当するパラメータに基づく数値であってもよい。
【0042】
振れ値算出部37は、座標算出部35にて算出された二次元座標に基づいて、足圧中心の振れを示す振れ値として、踵区間Ahの振れ値Sh、中間区間Amの振れ値Sm、つま先区間Atの振れ値Stを算出する。踵区間Ahの振れ値Shは、以下のようにして算出される。
【0043】
図8に示すように、踵区間Ah内において、連続する3つの測定点における足圧中心の二次元座標をそれぞれ座標P、座標Pn+1、座標Pn+2とするとともに、座標Pから座標Pn+1への変化量を示すベクトルV1と、座標Pn+1から座標Pn+2への変化量を示すベクトルV2とがなす角を振れ角θとする。
【0044】
振れ値算出部37は、踵区間Ah内における最後の2つを除く全ての足圧中心の二次元座標について、上記の座標Pとした場合の振れ角θをそれぞれ算出し、これら振れ角θを合算することにより、振れ角θの総和である振れ値Shを算出する。中間区間Amの振れ値Sm及びつま先区間Atの振れ値Stについても同様に算出する。そして、振れ値算出部37は、算出された振れ値Sh,Sm,Stを、図4に示す特徴量データを構成する特徴量F9~F11として記憶部30に記憶させる。
【0045】
分類部38は、新たに取得した特徴量からなる特徴量データを含めて、記憶部30に記憶されている複数組の特徴量データを対象群として、特徴量データを構成する11個の特徴量F1~F11に基づいて上記対象群を複数の部分集合にクラスタリングする。クラスタリングは、主成分分析により特徴量データを次元圧縮し、k-means法やGMM法等の公知の手法を用いて行う。
【0046】
図9~11は、複数の特徴量データをk-means法でクラスタリングした結果の一例を示している。ここでは、クラスタリングによって、グループ0、グループ1、及びグループ2の3つの部分集合が生成されている。そして、各グループに分類された特徴量データの元になった一歩区間Aの波形データ及び足圧中心の二次元座標データを3組ずつ図9~11に示している。図9~11は、測定後の生データを示している。
【0047】
図9に示すグループ0は、平均的な歩き方であるとラベリングできるグループである。グループ0の特徴として、一歩区間Aの中に踵区間Ah、中間区間Am、つま先区間Atが明確に存在しており、踵から足裏中央部を介してつま先へと荷重が移動している。
【0048】
図10に示すグループ1は、外股歩きの傾向の歩き方であるとラベリングできるグループである。グループ1の特徴として、一歩区間Aのほとんどが踵区間Ah及び中間区間Amによって占められており、つま先での蹴る動作が含まれていない。
【0049】
図11に示すグループ2は、内股歩きの傾向の歩き方であるとラベリングできるグループである。グループ2の特徴として、一歩区間Aのほとんどが踵区間Ah及びつま先区間Atによって占められており、地面に対して踵が着いてからつま先が早く着いている。
【0050】
表示処理部39は、図4に示す特徴量データ、図6に示す一歩区間Aの波形データ、図7に示す足圧中心の二次元座標データ、分類部38により分類された特徴量データのグループ等を表示部23に表示させる。
【0051】
次に、図12に示すフローチャートに基づいて、本実施形態の歩行分析方法について説明する。
まず、歩行分析の前に、測定工程として、靴底に測定装置10を配置した靴を装着した被験者による歩行試験を実施する。歩行試験としては、例えば、平面の上を10m程度、歩行させることが挙げられる。この歩行試験中に測定装置10の各圧力センサ12により検出された検出値が測定情報として歩行分析装置20に送信されて、歩行分析装置20の記憶部30に記憶される。
【0052】
歩行試験の後、歩行分析装置20に操作者による実行コマンドが入力されると、波形作成ステップS11として、波形データ作成部31は、記憶部30に記憶された測定情報に基づく波形データを作成する。続いて、分割部32は、抽出ステップS12として、作成された波形データから特定の一歩区間Aを抽出し、分割ステップS13として、一歩区間Aを踵区間Ah、つま先区間At、及び中間区間Amの小区間に分割する。
【0053】
続いて、最大圧力値取得ステップS14として、区間最大値取得部33は、一歩区間Aにおける踵区間最大値Ahmax及びつま先区間最大値Atmaxを取得し、新たな特徴量データを構成する特徴量F1,F2として記憶部30に記憶させる。
【0054】
続いて、区間時間取得ステップS15として、区間時間取得部34は、一歩区間Aにおける踵区間Ahの区間時間Th、中間区間Amの区間時間Tm、及びつま先区間Atの区間時間Ttを取得し、新たな特徴量データを構成する特徴量F3~F5として記憶部30に記憶させる。
【0055】
続いて、座標算出ステップS16として、座標算出部35は、一歩区間Aにおける足圧中心の二次元座標を算出する。その後、滞在比率算出ステップS17として、滞在比率算出部36は、算出された足圧中心の二次元座標に基づいて、踵区間Ahの足圧中心の滞在比率Rh1,Rh2,Rh3、中間区間Amの足圧中心の滞在比率Rm1,Rm2,Rm3、及びつま先区間Atの足圧中心の滞在比率Rt1,Rt2,Rt3を取得し、新たな特徴量データを構成する特徴量F6~F8として記憶部30に記憶させる。
【0056】
続いて、振れ値算出ステップS18として、振れ値算出部37は、振れ値Sh,Sm,Stを算出し、新たな特徴量データを構成する特徴量F9~F11として記憶部30に記憶させる。
【0057】
続いて、分類ステップS19として、分類部38は、新たな特徴量データ及び記憶部30に記憶されている特徴量データを対象群としたクラスタリングを実施し、特徴量データを複数のグループに分類する。
【0058】
操作者は、クラスタリングの結果、今回の測定情報に基づく特徴量データがいずれのグループに分類されているかに基づいて被験者の歩行状態を判断することができる。例えば、クラスタリングの結果、既にラベリングされたグループに分類された場合には、そのラベリングに基づいて被験者の歩行状態を判断することができる。また、過去の測定情報に基づく以前の分析結果とは異なるグループに分類された場合には、歩き方が変化したと判断することができる。
【0059】
次に、本実施形態の作用について説明する。
本実施形態の歩行分析方法では、歩行時の足の着地から離地までの一歩区間Aを、踵区間Ah、中間区間Am、及びつま先区間Atの3つの小区間に分割し、小区間単位で振れ値Sh,Sm,Stを算出している。振れ値Sh,Sm,Stは、着地から離地に至る一歩の各タイミングにおいて、足圧中心がどの程度、振れているかを定量化した値であり、振れ値Sh,Sm,Stを確認することによって、着地から離地に至る一歩の滑らかさを定量的に判断することができる。特に、一歩区間Aを分割した小区間単位に細分化した振れ値Sh,Sm,Stとしたことにより、足圧中心がどのタイミングで振れているか等のより詳細な分析も可能である。
【0060】
また、各小区間における足圧中心の振れは、歩行時の膝から下の足の動きに応じて変化する傾向がある。例えば、被験者が外股歩き又は内股歩きの傾向がある場合には、特徴的な振れ値Sh,Sm,Stが得られやすい。そのため、振れ値Sh,Sm,Stを特徴量としてクラスタリングを行った場合には、図9~11に示すように、内股歩きの傾向のグループ及び内股歩きの傾向のグループを生成することも可能になる。したがって、一歩区間Aを分割した小区間単位の振れ値Sh,Sm,Stを用いて、被験者の歩行状態を分析することにより、被験者の歩行状態をより詳細に評価することができる。
【0061】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)歩行時に測定された足裏にかかる圧力に関する測定情報に基づいて歩行状態を分析する歩行分析方法は、歩行時の足の着地から離地までの一歩区間Aを複数の小区間Ah,Am,Atに分割する分割ステップS13と、一歩区間Aにおける一定時間毎の足裏の足圧中心の二次元座標を算出する座標算出ステップS16と、小区間単位の振れ値Sh,Sm,Stを算出する振れ値算出ステップS18とを備えている。
【0062】
上記構成により得られる小区間単位の振れ値Sh,Sm,Stを用いて、被験者の歩行状態を分析することにより、被験者の歩行状態をより詳細に評価することができる。
(2)分割ステップS13では、足裏にかかる部位毎の圧力の相対的な関係に基づいて、一歩区間Aを、踵側に圧力がかかる踵区間Ahと、つま先側に圧力がかかるつま先区間Atと、一歩区間Aにおける踵区間Ah及びつま先区間Atを除いた中間区間Amとに分割している。
【0063】
上記構成によれば、踵側に圧力がかかる踵区間Ah、及びつま先側に圧力がかかるつま先区間Atをより正確に設定することができる。そのため、分割された小区間に基づいて求められる振れ値等の各特徴量の精度が向上する。
【0064】
(3)測定情報には、足裏において、前後方向に離間する第1位置及び第2位置、並びに第1位置及び前記第2位置を結ぶ線Lを跨いで左右方向に離間する第3位置及び第4位置の部位毎の圧力を経時的に検出した検出値が含まれている。
【0065】
上記構成によれば、足圧中心の二次元座標をより正確に取得できる。その結果、足圧中心の二次元座標から得られる振れ値Sh,Sm,Stの精度が向上する。
(4)振れ値Sh,Sm,St、踵区間最大値Ahmax、つま先区間最大値Atmax、区間時間Th,Tm,Ttを特徴量として、特徴量が得られている対象群を、特徴量に基づいて複数の部分集合にクラスタリングする分類ステップS19を備えている。
【0066】
上記構成によれば、分類された各部分集合を確認することにより、対象群において特徴のあるデータ、即ち、特徴のある歩行状態の被験者を容易に確認することができる。
(5)足圧中心の二次元座標の座標系を複数の領域B1~B3に分割し、各領域B1~B3における足圧中心の二次元座標の滞在比率を小区間単位で算出する滞在比率算出ステップS17を備えている。
【0067】
上記構成により得られる小区間単位の足圧中心の二次元座標の滞在比率は、着地から離地に至る一歩の各タイミングにおいて、足圧中心が振れる方向を示す値とみなすことができる。したがって、小区間単位の振れ値とともに上記滞在比率を用いて、被験者の歩行状態を分析することにより、被験者の歩行状態を更に詳細に評価することができる。
【0068】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・測定装置10に設けられる圧力センサ12の数及び配置は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、足圧中心の二次元座標を求めることが可能な範囲において、適宜、変更してもよい。
【0069】
・一歩区間Aの始点t1及び終点t2の設定方法は、上記実施形態に限定されない。例えば、各部位の検出値が略一定となってから所定時間経過した点を終点t2としてもよい。
【0070】
・踵区間Ah、中間区間Am、及びつま先区間Atの定義は、上記実施形態に限定されない。例えば、つま先センサ12bの検出値がピークの頂点となる時点から一歩区間Aの終点t2までの区間をつま先区間Atとしてもよい。また、一歩区間Aの始点t1から特定時間後までの区間を踵区間Ahとし、一歩区間Aの終点t2の特定時間前から終点t2までの区間をつま先区間Atとする等して、部位毎の圧力の相対的な関係を用いることなく各小区間を設定してもよい。これらの場合には、つま先区間Atを確実に設けることができる。
【0071】
・一歩区間Aを複数の小区間に分割する方法は、上記実施形態に限定されない。例えば、中間区間Amを更に分割する等して4以上の小区間に分割してもよい。踵側に圧力がかかる区間及びつま先側に圧力がかかる区間とは無関係に分割された小区間であってもよい。
【0072】
・滞在比率を算出する場合における足圧中心の二次元座標系の分割方法は、上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態では、左右方向に並ぶ複数の領域に分割したが、前後方向に並ぶ複数の領域に分割してもよいし、前後左右に並ぶ複数の領域に分割してもよい。また、足圧中心の二次元座標系の分割数は、2であってもよいし、4以上であってもよい。
【0073】
・上記実施形態では、全ての小区間の振れ値を取得していたが、特定の小区間の振れ値のみを取得する構成であってもよい。
・振れ値以外の特徴量の取得は必須ではなく、必要に応じて省略できる。
【0074】
・クラスタリングを行うための特徴量データを構成する特徴量の種類は、上記実施形態に限定されるものではなく、小区間単位の振れ値が含まれていればよい。例えば、振れ値Sh,Sm,St、踵区間最大値Ahmax、つま先区間最大値Atmax、区間時間Th,Tm,Ttのみからなる特徴量データであってもよいし、特定の小区間に関する特徴量のみからなる特徴量データであってもよい。また、上記実施形態に記載した特徴量に加えて、その他の特徴量を含む特徴量データであってもよい。上記その他の特徴量としては、例えば、中間区間Amにおける4個の圧力センサ12の検出値の最大値が挙げられる。
【符号の説明】
【0075】
10…測定装置
12…圧力センサ
12a…踵センサ
12b…踵センサ
12c…内側センサ
12d…外側センサ
20…歩行分析装置
図1
図2
図3
図4
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図12