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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ノイズフィルタ
(51)【国際特許分類】
   H03H 7/09 20060101AFI20221206BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20221206BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H03H7/09 A
H01F27/00 S
H01F27/00 R
H01F17/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020038777
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021141486
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 崇
(72)【発明者】
【氏名】高橋 篤弘
(72)【発明者】
【氏名】野村 勝也
(72)【発明者】
【氏名】水野 健太朗
【審査官】馬場 慎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-146782(JP,A)
【文献】特開平07-263233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 1/00 ー 3/00
H03H 5/00 - 7/13
H01F 27/00
H01F 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が入力端部に接続されている入力側導電線と、
前記入力側導電線と絶縁された状態で前記入力側導電線と平行に配置されている出力側導電線であって、一端が出力端部に接続されている前記出力側導電線と、
前記入力側導電線と前記出力側導電線とに同一方向に電流が流れる向きに、前記入力側導電線の他端と前記出力側導電線の他端とを接続する接続導電線と、
前記接続導電線と基準電位部位とを接続するコンデンサと、
を備えるノイズフィルタであって、
前記入力側導電線および前記出力側導電線の一方が、他方の周囲の少なくとも一部を取り囲む同軸形状を備えており、
前記同軸形状は、前記入力側導電線と前記出力側導電線を磁気結合させ、これらの間に生じる相互インダクタンスによって前記コンデンサの等価直列インダクタンスと前記接続導電線の寄生インダクタンスを減ずる形状である、
ノイズフィルタ。
【請求項2】
前記ノイズフィルタは、第1層、第2層および第3層がこの順に積層されている多層基板を備えており、
前記第1層には、前記入力側導電線および前記出力側導電線の一方である第1導電線が形成されており、
前記第2層には、
前記入力側導電線および前記出力側導電線の他方である第2導電線と、
前記第2導電線の一方の側面と平行に配置されている第1の導電層と、
前記第2導電線の他方の側面と平行に配置されている第2の導電層と、
が形成されており、
前記第3層には、前記多層基板を垂直上方からみたときに前記第1導電線、前記第2導電線、前記第1の導電層、前記第2の導電層と重複している第3の導電層が形成されており、
前記第1導電線と前記第1の導電層と前記第3の導電層とを電気的に接続する第1のビア配線と、
前記第1導電線と前記第2の導電層と前記第3の導電層とを電気的に接続する第2のビア配線と、
が形成されており、
前記第1導電線、前記第1の導電層、前記第3の導電層、前記第2の導電層によって、前記同軸形状が形成されている、請求項1に記載のノイズフィルタ。
【請求項3】
前記ノイズフィルタは、第1面および第2面を有する両面基板を備えており、
前記第1面には、前記入力側導電線および前記出力側導電線の一方である第1導電線が形成されており、
前記第2面には、
前記入力側導電線および前記出力側導電線の他方である第2導電線と、
前記第2導電線の一方の側面と平行に配置されている第1の導電層と、
前記第2導電線の他方の側面と平行に配置されている第2の導電層と、
が形成されており、
前記第2面の上方には、前記両面基板を垂直上方からみたときに前記第1導電線、前記第2導電線、前記第1の導電層、前記第2の導電層と重複している導電板であって、前記第1の導電層および前記第2の導電層と電気的に接続されているとともに前記第2導電線と絶縁されている前記導電板が配置されており、
前記第1導電線、前記第1の導電層、前記導電板、前記第2の導電層によって、前記同軸形状が形成されている、請求項1に記載のノイズフィルタ。
【請求項4】
前記同軸形状は、
前記入力側導電線および前記出力側導電線の一方の少なくとも一部が筒形状に形成されているとともに、
前記入力側導電線および前記出力側導電線の他方が前記筒形状の内部を貫通している形状である、請求項1に記載のノイズフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、ノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
導電線に重畳する電磁ノイズを抑えるために、ノイズフィルタの開発が進められている。この種のノイズフィルタの多くは、電磁ノイズを導電線からGNDにバイパスさせるためのコンデンサを備えている。しかしながら、コンデンサには等価直列インダクタンス(ESL:Equivalent Series Inductance)と称される寄生インダクタンスが存在しており、さらに、そのコンデンサが接続する配線にも寄生インダクタンスが存在している。このため、このようなノイズフィルタは、これら寄生インダクタンスの影響により、高周波帯域の電磁ノイズに対して良好なフィルタ性能を発揮できないことが知られている。
【0003】
特許文献1には、プリント基板の同一平面内に2つの巻線コイル(リアクトル)を対向配置したり、プリント基板の垂直方向に2つの巻線コイルを対向配置することで、巻線コイルで発生する磁束を結合させる技術が開示されている。これにより、コンデンサの等価直列インダクタンスを負の相互インダクタンスで打ち消すことにより、フィルタ性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-31965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、相互インダクタンスを発生させるために2つの巻線コイルが使用されているため、回路の面積や体積が大きくなってしまう問題がある。大電流を扱うパワーエレクトロニクスでは、配線幅や配線断面積が大きいため、特に問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示するノイズフィルタの一実施形態は、一端が入力端部に接続されている入力側導電線を備える。ノイズフィルタは、入力側導電線と絶縁された状態で入力側導電線と平行に配置されている出力側導電線を備える。出力側導電線は、一端が出力端部に接続されている。ノイズフィルタは、入力側導電線と前記出力側導電線とに同一方向に電流が流れる向きに入力側導電線の他端と出力側導電線の他端とを接続する、接続導電線を備える。ノイズフィルタは、接続導電線と基準電位部位とを接続するコンデンサを備える。入力側導電線および出力側導電線の一方が、他方の周囲の少なくとも一部を取り囲む同軸形状を備えている。
【0007】
上記実施形態のノイズフィルタでは、入力側導電線および出力側導電線の一方が、他方の周囲の少なくとも一部を取り囲む同軸形状を備えていることにより、コンデンサの等価直列インダクタンスと接続導電線の寄生インダクタンスを減ずることができる。同軸形状は磁気結合を強くできるため、磁気結合を高めるための構造体(例:2つの巻線コイル、磁性体、など)を備える必要がない。ノイズフィルタの回路面積や体積を抑制することが可能となる。
【0008】
同軸形状は、入力側導電線と出力側導電線を磁気結合させ、これらの間に生じる相互インダクタンスによってコンデンサの等価直列インダクタンスと接続導電線の寄生インダクタンスを減ずる形状であってもよい。効果の詳細は、実施例で説明する。
【0009】
ノイズフィルタは、第1層、第2層および第3層がこの順に積層されている多層基板を備えていてもよい。第1層には、入力側導電線および出力側導電線の一方である第1導電線が形成されていてもよい。第2層には、入力側導電線および出力側導電線の他方である第2導電線と、第2導電線の一方の側面と平行に配置されている第1の導電層と、第2導電線の他方の側面と平行に配置されている第2の導電層と、が形成されていてもよい。第3層には、多層基板を垂直上方からみたときに第1導電線、第2導電線、第1の導電層、第2の導電層と重複している第3の導電層が形成されていてもよい。第1導電線と第1の導電層と第3の導電層とを電気的に接続する第1のビア配線が形成されていてもよい。第1導電線と第2の導電層と第3の導電層とを電気的に接続する第2のビア配線が形成されていてもよい。第1導電線、第1の導電層、第3の導電層、第2の導電層によって、同軸形状が形成されていてもよい。効果の詳細は、実施例で説明する。
【0010】
ノイズフィルタは、第1面および第2面を有する両面基板を備えていてもよい。第1面には、入力側導電線および出力側導電線の一方である第1導電線が形成されていてもよい。第2面には、入力側導電線および出力側導電線の他方である第2導電線と、第2導電線の一方の側面と平行に配置されている第1の導電層と、第2導電線の他方の側面と平行に配置されている第2の導電層と、が形成されていてもよい。第2面の上方には、両面基板を垂直上方からみたときに第1導電線、第2導電線、第1の導電層、第2の導電層と重複している導電板が配置されていてもよい。導電板は、第1の導電層および第2の導電層と電気的に接続されているとともに第2導電線と絶縁されていてもよい。第1導電線、第1の導電層、導電板、第2の導電層によって、同軸形状が形成されていてもよい。効果の詳細は、実施例で説明する。
【0011】
同軸形状は、入力側導電線および出力側導電線の一方の少なくとも一部が筒形状に形成されているとともに、入力側導電線および出力側導電線の他方が前記筒形状の内部を貫通している形状であってもよい。効果の詳細は、実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】LCL構成のT型のノイズフィルタのノイズ伝達特性を説明する図である。
図2】LCL構成のT型のノイズフィルタのノイズ伝達特性を説明する図である。
図3】実施例1に係るノイズフィルタ1aの斜視図を模式的に示す図である。
図4図3のIV-IV線における断面図である。
図5】実施例2に係るノイズフィルタ1bの斜視図を模式的に示す図である。
図6図5のVI-VI線における断面図である。
図7】実施例3に係るノイズフィルタ1cの斜視図を模式的に示す図である。
図8図7のVIII-VIII線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(ノイズ低減効果の原理)
本願明細書が開示するノイズフィルタを説明する前に、図1を参照し、LCL構成のT型のノイズフィルタ1のノイズ伝達特性について説明する。ノイズフィルタ1は、電力導電線に直列接続されている一対のインダクタL1、L2と、電力導電線と基準導電線の間に接続されているコンデンサCと、を備えている。インダクタL1のインダクタンスがLであり、インダクタL2のインダクタンスがLである。なお、これらインダクタL1、L2は、電力導電線の寄生インダクタであってもよい。コンデンサCは、一端が一対のインダクタL1、L2の間の分岐部に接続されており、他端が基準導電線に接続されている。インダクタL3のインダクタンスLは、コンデンサCのESLと、コンデンサCが接続する配線の寄生インダクタンスとの和である。Zは、ノイズ源の内部インピーダンスであり、Zは負荷回路のインピーダンスである。このノイズフィルタ1では、インダクタL1とインダクタL2が磁気結合している。インダクタL1、L2のそれぞれを流れる電流I、Iが図中の向きに流れるとし、これらインダクタL1、L2の間に正の相互インダクタンスMが生じているとする。ノイズ電圧をVnoiseとすると、負荷回路に加わるノイズ電圧Vは、以下の式で表される。
【0014】
【数1】
L1:インダクタL1のインピーダンス(jω(L1+M))
L2:インダクタL2のインピーダンス(jω(L2+M))
L3:コンデンサCの等価直列インダクタとコンデンサCが接続される配線の寄生インダクタの和からなるインピーダンス(jω(L3-M))
:コンデンサCのインピーダンス(1/jωC)
ω:角周波数(2πf)
【0015】
上記数式1に示されるように、負荷回路に加わるノイズ電圧Vを低減するためには、分子の「ZL3+Z」を低減することが重要である。ノイズ電圧Vの振幅は絶対値で表されるので、上記数式1の絶対値をとり、その分子をVnumとすると、以下の数式で表すことができる。
【数2】
【0016】
上記数式2によれば、{ω(L-M)-1/ωC}が0となるように相互インダクタンスMを設定すると、フィルタ性能が最大化することが分かる。しかしながら、そのような条件は、ある任意の周波数のみで実現される。このため、幅広い周波数のノイズを低減するためのノイズフィルタ回路は、そのような条件で設定されない。
【0017】
ここで、インダクタL1とインダクタL2の間に生じる相互インダクタンスMは、結合係数kを用いて以下の数式で表すことができる。
【数3】
【0018】
結合係数kは磁気結合の度合いを示す値であり、本明細書が開示する構造では、0≦k≦1の値をとる。上記数式2及び上記数式3に示されるように、インダクタンスLと相互インダクタンスMが一致するように、k、L、Lの値を調整すれば、上記数式1の分子にはコンデンサCのインピーダンスと負荷回路のインピーダンスの積のみが残る。角周波数ωは周波数の増加とともに大きくなることから、インダクタンスLと相互インダクタンスMを一致させれば、高周波帯域の電磁ノイズに対するフィルタ性能が向上する。
【0019】
即ち、図2に示されるように、インダクタL1とインダクタL2を磁気結合させることにより、インダクタL1とインダクタL2の間に生じる相互インダクタンスMによってインダクタンスLを減じさせれば、高周波帯域の電磁ノイズに対するフィルタ性能を向上させることができる。本明細書が開示する技術は、この現象を利用して、高周波帯域の電磁ノイズに対するフィルタ性能を改善する。
【実施例1】
【0020】
(ノイズフィルタ1aの構造)
図3に、実施例1に係るノイズフィルタ1aの斜視図を示す。図4に、図3のIV-IV線における断面図を示す。ノイズフィルタ1aは、第1層LY1、第2層LY2および第3層LY3がこの順に積層されている多層基板を用いて形成されている。図3および図4では、各層の導電層のみを記載しており、導電層の間に配置されている絶縁層は記載を省略している。各層の導電層は、プリント基板上に形成された金属パターンである。図3では、第1層LY1の導電層を白色、第2層LY2の導電層を薄いグレー、第3層LY3の導電層を濃いグレーで示している。なお、第1層LY1の裏面(-z方向側の面)には第0層の導電層が存在しているが、ノイズフィルタ1aでは不使用のため、図示を省略する。
【0021】
ノイズフィルタ1aは、出力側導電線11、入力側導電線12、コンデンサ14、グラウンド板15、入力端部21、出力端部22、第1の導電層31、第2の導電層32、第3の導電層33、ビア配線41~45、第1のビア配線51、第2のビア配線52、接続導電線61~63、を備えている。
【0022】
出力側導電線11は、第1層LY1に形成されている。出力側導電線11の端部E11は、ビア配線41を介して、第3層LY3の出力端部22に接続されている。出力端部22は、任意の負荷に接続されている。出力側導電線11の領域の幅は、後述する第1の導電層31、第2の導電層32、第3の導電層33が配置されるように、±y方向に拡大している。
【0023】
入力側導電線12は、第2層LY2に形成されている。入力側導電線12の端部E21は、ビア配線42を介して、第3層LY3の入力端部21に接続されている。入力端部21は、ノイズ源となるコンバータ又はインバータ等の電力変換器(不図示)に接続されている。入力側導電線12と出力側導電線11とは、互いに絶縁された状態で平行に配置されている。
【0024】
第1層LY1に配置されている接続導電線61は、出力側導電線11と一体に形成されており、端部E12から-y方向へ突出している。第2層LY2に配置されている接続導電線62は、入力側導電線12と一体に形成されており、端部E22から-y方向へ突出している。第3層LY3には、接続導電線63が形成されている。ビア配線43によって、接続導電線61と接続導電線63が接続されている。ビア配線44によって、接続導電線63と接続導電線62が接続されている。これにより、接続導電線61~63によって、入力側導電線12の端部E22と出力側導電線11の端部E12とが接続されている。従って、入力側導電線12と出力側導電線11とは、入力端部21と出力端部22との間に電流が流れた場合に、同一方向に電流が流れる向きに配置されている。
【0025】
接続導電線63とグラウンド板15とは、コンデンサ14、接続パッド64、ビア配線45を介して接続されている。すなわち、接続導電線63とグラウンド板15とは、コンデンサ14によって接続されている。図3の例では、コンデンサ14は、4並列のチップコンデンサである。
【0026】
また第2層LY2には、第1の導電層31および第2の導電層32が形成されている。第1の導電層31は、入力側導電線12の-y方向の側面と平行に配置されている。第2の導電層32は、入力側導電線12の+y方向の側面と平行に配置されている。第3層LY3には、第3の導電層33が形成されている。第3の導電層33は、基板を垂直上方(+z方向)からみたときに、出力側導電線11、入力側導電線12、第1の導電層31、第2の導電層32と重複している。
【0027】
図4に示すように、第1のビア配線51によって、出力側導電線11と第1の導電層31と第3の導電層33とが電気的に接続されている。また、第2のビア配線52によって、出力側導電線11と第2の導電層32と第3の導電層33とが電気的に接続されている。従って、出力側導電線11、第1の導電層31、第3の導電層33、第2の導電層32によって、入力側導電線12の周囲の全周が取り囲まれている。換言すると、出力側導電線11が入力側導電線12の周囲を取り囲んでいる、同軸形状が形成されている。同軸形状によって、出力側導電線11と入力側導電線12が単に並走する構造よりも、高い磁界結合を得ることができる。従って、入力側導電線12と出力側導電線11との間に発生する相互インダクタンスの値の調整幅を、拡大することができる。
【0028】
以上説明したように、ノイズフィルタ1aは、入力側導電線12の寄生のインダクタンスと、接続導電線63とグラウンド板15との接続経路間に介挿されているコンデンサ14と、出力側導電線11の寄生のインダクタンスと、で構成されているLCL構成のT型のノイズフィルタである。
【0029】
(効果)
同軸形状を形成する出力側導電線11、入力側導電線12、第1の導電層31、第2の導電層32、第3の導電層33の各々の形態を調整することにより、出力側導電線11と入力側導電線12との間に生じる相互インダクタンスを調整することができる。その結果、相互インダクタンスによって、コンデンサ14の等価直列インダクタンスと接続導電線61~63の寄生インダクタンスの和を減じることができる。上記数式2で示したように、高周波帯域の電磁ノイズに対して高いフィルタ性能を発揮することが可能となる。なお、キャンセルしたいインダクタンスの値が大きくなるほど、同軸形状によって入力側導電線12が覆われる長さをx方向に延長するか、面積を大きくすればよい。
【0030】
ノイズフィルタ1aが同軸形状を備えることにより、出力側導電線11と入力側導電線12が単に並走する構造に比して、磁気結合を高めることができる。よって、磁気結合を高めるための他の構造体(例:2つの巻線コイル、磁性体、など)を備える必要がない。ノイズフィルタ1aの回路面積や体積を抑制することが可能となる。また磁性体を使用しないことにより、磁気飽和の発生や周波数依存性の発現を抑制することが可能となる。
【0031】
なお、入力側導電線12と出力側導電線11の間に生じる相互インダクタンスが、コンデンサ14の等価直列インダクタンスと接続導電線61~63の寄生インダクタンスの和に必ずしも一致する必要はない。相互インダクタンスを「M」とし、コンデンサ14の等価直列インダクタンスと接続導電線61~63の寄生インダクタンスの和を「L」とすると、|L-M|<LとなるようにMを調整することで、ノイズフィルタ1aのフィルタ性能を向上させることができる。
【実施例2】
【0032】
図5に、実施例2に係るノイズフィルタ1bの斜視図を示す。図6に、図5のVI-VI線における断面図を示す。実施例2のノイズフィルタ1bと実施例1のノイズフィルタ1aとで、共通する部位には同一の符号を付すことで、説明を省略する。また実施例2に特有の部位については、符号の末尾に「b」を付すことで区別する。
【0033】
ノイズフィルタ1bは、裏面S1および表面S2を有する両面基板10を用いて形成されている。図5では、裏面S1の導電層を白色、表面S2の導電層を薄いグレー、導電板33bを濃いグレーで示している。ノイズフィルタ1bは、出力側導電線11、入力側導電線12、コンデンサ14、グラウンド板15、第1の導電層31、第2の導電層32、導電板33b、ビア配線43、第1のビア配線51、第2のビア配線52、接続導電線61および62、を備えている。
【0034】
裏面S1には、出力側導電線11および接続導電線61が形成されている。出力側導電線11の端部E11は、出力端部であり、任意の負荷に接続されている。表面S2には、入力側導電線12、第1の導電層31、第2の導電層32が形成されている。入力側導電線12の端部E21は、入力端部であり、不図示の電力変換器に接続されている。第1の導電層31は、入力側導電線12の-y方向の側面と平行に配置されている。第2の導電層32は、入力側導電線12の+y方向の側面と平行に配置されている。
【0035】
裏面S1に配置されている接続導電線61は、出力側導電線11と一体に形成されており、端部E12から-y方向へ突出している。表面S2に配置されている接続導電線62は、入力側導電線12と一体に形成されており、端部E22から-y方向へ突出するとともに、-x方向へ伸びている。ビア配線43によって、接続導電線61と62とが接続されている。これにより、入力側導電線12の端部E22と出力側導電線11の端部E12とが電気的に接続されている。従って、入力側導電線12と出力側導電線11とは、端部E21と端部E11との間に電流が流れた場合に、同一方向に電流が流れる向きに配置されている。
【0036】
表面S2の上方(+z方向)には、導電板33bが配置されている。導電板33bは、両面基板10を垂直上方(+z方向)からみたときに、出力側導電線11、入力側導電線12、第1の導電層31、第2の導電層32、と重複している。また導電板33bは、図6に示すように、入力側導電線12と重複している領域A1が表面S2よりも上方(+z方向)に突出するように折り曲げられている。これにより、導電板33bと入力側導電線12とが離れて配置されることで、両者は絶縁されている。導電板33bの-y方向の端部は、第1の導電層31の表面に固定されている。導電板33bの+y方向の端部は、第2の導電層32の表面に固定されている。導電板33bの固定は、溶接やはんだ付けによって行われていてもよい。第1のビア配線51によって、出力側導電線11と第1の導電層31とが電気的に接続されている。また、第2のビア配線52によって、出力側導電線11と第2の導電層32とが電気的に接続されている。
【0037】
従って図6に示すように、出力側導電線11、第1の導電層31、導電板33b、第2の導電層32によって、入力側導電線12の周囲の全周が取り囲まれている。換言すると、出力側導電線11が入力側導電線12の周囲を取り囲んでいる、同軸形状が形成されている。
【0038】
実施例2のノイズフィルタ1bにおいても、実施例1のノイズフィルタ1aと同様にして、フィルタ効果を高めることや、回路面積や体積を抑制することが可能である。
【実施例3】
【0039】
図7に、実施例3に係るノイズフィルタ1cの斜視図を示す。図8に、図7のVIII-VIII線における断面図を示す。実施例3のノイズフィルタ1cと実施例1のノイズフィルタ1aとで、共通する部位には同一の符号を付すことで、説明を省略する。また実施例3に特有の部位については、符号の末尾に「c」を付すことで区別する。
【0040】
ノイズフィルタ1cは、絶縁基板10c、出力側導電線11c、入力側導電線12c、コンデンサ14、グラウンド板15、接続導電線61c~63c、樹脂70c、を備えている。出力側導電線11cは、その一部が角筒形状に形成されている。入力側導電線12cは、角筒形状の内部を貫通している。従って、出力側導電線11cが入力側導電線12cの周囲の全周を取り囲んでいる、同軸形状が形成されている。入力側導電線12cは、角筒内において、絶縁性の樹脂70cで支持されている。樹脂70cは、比誘電率の低い材料(例:ε=2程度のポリプロピレンなど)で形成することが好ましい。
【0041】
接続導電線61cは、出力側導電線11cと一体に形成されており、端部E12から-z方向へ突出している。接続導電線62cは、入力側導電線12cと一体に形成されており、端部E22から-z方向へ突出している。接続導電線63cは、±x方向の端部が+z方向へ突出した、コの字型の形状である。接続導電線63cによって、出力側導電線11cの端部E13と、入力側導電線12cの端部E23とが電気的に接続されている。接続導電線63cは、絶縁基板10c上に固定されている。接続導電線63cとグラウンド板15とは、コンデンサ14を介して接続されている。出力側導電線11c、入力側導電線12c、接続導電線61c~63cは、導電率が高い材料(例:銅板)で形成することが好ましい。
【0042】
実施例3のノイズフィルタ1cにおいても、実施例1のノイズフィルタ1aと同様にして、フィルタ効果を高めることや、回路面積や体積を抑制することが可能である。
【0043】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0044】
(変形例)
同軸形状は、入力側導電線および出力側導電線の一方が、他方の周囲の全周を取り囲む形態に限られない。他方の周囲の少なくとも一部を取り囲んでいればよい。例えば、ノイズフィルタ1a(図3)では、第3の導電層33を備えていなくてもよい。またノイズフィルタ1b(図5)では、導電板33bを備えていなくてもよい。これにより出力側導電線11が、入力側導電線12の周囲の下側半分を取り囲む構造とすることができる。この構造によっても、出力側導電線11と入力側導電線12が単に並走する構造に比して、高い磁界結合を得ることができる。ノイズフィルタの構造をさらに簡略化することが可能となる。
【0045】
本実施例では、出力側導電線が入力側導電線の周囲を取り囲む形態を説明したが、この形態に限られない。入力側導電線が出力側導電線の周囲を取り囲む形態であってもよい。
【0046】
ビア配線41~45、第1のビア配線51、第2のビア配線52、コンデンサ14の数や配置位置は一例である。また、複数のビア配線を並列接続するように配置することで、ビア配線の抵抗を低減させてもよい。また多数のコンデンサ14を並列接続するように配置することで、フィルタ性能を高めてもよい。
【0047】
なお、本明細書が開示する技術は、LCL構成のT型のノイズフィルタの例に限らず、他の種類のノイズフィルタにも適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1、1a、1b、1c:ノイズフィルタ 11:出力側導電線 12:入力側導電線 14:コンデンサ 15:グラウンド板 31:第1の導電層 32:第2の導電層 33:第3の導電層 33b:導電板 41~45:ビア配線 51:第1のビア配線 52:第2のビア配線 61~63:接続導電線 LY1:第1層 LY2:第2層 LY3:第3層
図1
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図8