(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】弾性波フィルタ装置およびそれを用いたマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/64 20060101AFI20221206BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20221206BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H03H9/64 Z
H03H9/145 Z
H03H9/72
(21)【出願番号】P 2020039102
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上坂 健一
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/172032(WO,A1)
【文献】特開2004-343573(JP,A)
【文献】国際公開第2015/190178(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/012274(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/208670(WO,A1)
【文献】特開2002-076838(JP,A)
【文献】特開2017-118408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端子および第2端子と、
前記第1端子に接続されたインダクタと、
前記インダクタと前記第2端子との間に結合された縦結合型共振子とを備え、
前記縦結合型共振子は、
前記第1端子に結合された少なくとも1つの第1IDT電極と、
前記第2端子に接続された少なくとも1つの第2IDT電極とを含み、
前記少なくとも1つの第1IDT電極の総容量値は、前記少なくとも1つの第2IDT電極の総容量値よりも大き
く、
前記少なくとも1つの第1IDT電極の各IDT電極は、第1ピッチで電極指が形成された第1領域と、前記第1ピッチよりも短い第2ピッチで電極指が形成された第2領域とを含み、
前記少なくとも1つの第2IDT電極の各IDT電極は、第3ピッチで電極指が形成された第3領域と、前記第3ピッチよりも短い第4ピッチで電極指が形成された第4領域とを含み、
前記第2領域は、前記第4領域と対向しており、
前記第2領域において前記第2ピッチで隣接する電極指の本数は、前記第4領域において前記第4ピッチで隣接する電極指の本数よりも多い、弾性波フィルタ装置。
【請求項2】
第1端子および第2端子と、
前記第1端子に接続されたインダクタと、
前記インダクタと前記第2端子との間に結合された縦結合型共振子とを備え、
前記縦結合型共振子は、
前記第1端子に結合された少なくとも1つの第1IDT電極と、
前記第2端子に接続された少なくとも1つの第2IDT電極とを含み、
前記少なくとも1つの第1IDT電極における電極指の交叉領域の総面積は、前記少なくとも1つの第2IDT電極における電極指の交叉領域の総面積よりも大きい、弾性波フィルタ装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第1IDT電極における電極指の総本数は、前記少なくとも1つの第2IDT電極における電極指の総本数よりも多い、請求項1または2に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの第1IDT電極は、前記少なくとも1つの第2IDT電極の各々における電極指の本数よりも多い電極指を有するIDT電極を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第1IDT電極に含まれる各IDT電極の電極指の本数は、前記少なくとも1つの第2IDT電極に含まれる各IDT電極の電極指の本数よりも多い、請求項1~3のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つの第1IDT電極
における電極指間距離は、前記少なくとも1つの第2IDT電極の各々における電極指間距離よりも短い、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項7】
前記縦結合型共振子は弾性波共振子である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項8】
前記インダクタと前記縦結合型共振子との間の接続ノードと、接地電位との間に接続された共振子をさらに備える、請求項1~
7のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ装置を備えた、マルチプレクサ。
【請求項10】
第3端子と、
前記第1端子と前記第3端子との間に形成されたフィルタ装置とをさらに備える、請求項
9に記載のマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弾性波フィルタ装置およびそれを用いたマルチプレクサに関し、より特定的には、縦結合共振子を用いた弾性波フィルタ装置において特性劣化を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話あるいはスマートフォンに代表される携帯型の通信機器において、所望の周波数帯域の信号の送信および受信を行なうためのフィルタ装置として、弾性波フィルタが用いられている。たとえば、国際公開第2019/172032号明細書(特許文献1)には、通過帯域が互いに異なる2つの弾性表面波フィルタが共通端子に接続されたマルチプレクサが開示されている。国際公開第2019/172032号明細書(特許文献1)におけるマルチプレクサは、一方のフィルタに縦結合共振器を含んでおり、当該縦結合共振器と共通端子との間に位相調整用の直列インダクタが配置された構成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような弾性波フィルタ装置において、所望の周波数帯域以外の信号が通過することを防止するためには、入力端子から当該弾性波フィルタ装置を見た時に、通過帯域以外の周波数帯域の信号に対するインピーダンスを大きくして、反射特性の位相をオープン状態に近づけることが必要となる。
【0005】
たとえば、共通の端子に第1弾性波フィルタ装置と第2弾性波フィルタ装置とが接続されてマルチプレクサを形成する場合には、当該第2弾性波フィルタ装置の通過帯域に対応する信号が第1弾性波フィルタを通過しないようにすることが必要である。また、弾性波フィルタが単独で使用される場合であっても、入力された高周波信号に含まれる、所望の通過帯域以外の信号を通過させないようにすることが必要である。
【0006】
このような課題に対して、国際公開第2019/172032号明細書(特許文献1)に開示されているように、共通端子と当該フィルタとの間にインダクタを直列に接続することによって、インピーダンスを整合させる場合がある。このとき、入力端子から見た時のインピーダンスは、当該インダクタのインピーダンスと弾性波フィルタ装置自身の入力側のインピーダンスとによって定まる。一般的に、弾性波フィルタは容量性インピーダンスを有しているが、直列インダクタを用いて位相を調整する場合、弾性波フィルタの位相がショートから離れると、インダクタのインダクタンスを大きくする必要がある。しかしながら、直列インダクタのインダクタンスを大きくすると、抵抗成分の増大によって挿入損失が増加してしまい、通過特性が劣化する場合が生じ得る。
【0007】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、弾性波フィルタ装置において、挿入損失の増加を抑制しつつ、通過帯域以外の信号に対するインピーダンスを確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある局面に従う弾性波フィルタ装置は、第1端子および第2端子と、第1端子に接続されたインダクタと、インダクタと第2端子との間に結合された縦結合型共振子とを備える。縦結合型共振子は、第1端子に結合された少なくとも1つの第1IDT電極と、第2端子に接続された少なくとも1つの第2IDT電極とを含む。少なくとも1つの第1IDT電極の総容量値は、少なくとも1つの第2IDT電極の総容量値よりも大きい。
【0009】
本開示の他の局面に従う弾性波フィルタ装置は、第1端子および第2端子と、第1端子に接続されたインダクタと、インダクタと第2端子との間に結合された縦結合型共振子とを備える。縦結合型共振子は、第1端子に結合された少なくとも1つの第1IDT電極と、第2端子に接続された少なくとも1つの第2IDT電極とを含む。少なくとも1つの第1IDT電極における電極指の交叉領域の総面積は、少なくとも1つの第2IDT電極における電極指の交叉領域の総面積よりも大きい。
【発明の効果】
【0010】
本開示による弾性波フィルタ装置によれば、第1端子と縦結合共振子との間にインダクタが直列に接続されており、当該縦結合共振子の入力側(第1端子側)のIDT電極の総容量値(あるいは、電極指の交叉領域の総面積)が、縦結合共振子の出力側(第2端子側)のIDT電極の総容量値(あるいは、電極指の交叉領域の総面積)よりも大きくなるように設定されている。このような構成とすることによって、インダクタのインダクタンスを相対的に小さくしてインダクタの抵抗成分を低減できる。したがって、弾性波フィルタ装置において、挿入損失の増加を抑制しつつ通過帯域以外の信号に対するインピーダンスを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に従う弾性波フィルタ装置を備えたマルチプレクサの回路構成を示す図である。
【
図2】実施の形態1に従う弾性波フィルタ装置の詳細を説明するための図である。
【
図3】比較例および実施の形態1の弾性波フィルタ装置のインピーダンスに対するインダクタンスを説明するためのスミスチャートである。
【
図4】実施の形態2に従う弾性波フィルタ装置を説明するための図である。
【
図5】IDT電極のピッチおよび電極指間隔を説明するための図である。
【
図6】
図4の縦結合共振子型の弾性波共振子におけるパラメータの一例を示す図である。
【
図7】実施の形態3に従う弾性波フィルタ装置を説明するための図である。
【
図8】
図7の縦結合共振子におけるパラメータの一例を示す図である。
【
図9】変形例1の弾性波フィルタ装置の回路構成を示す図である。
【
図10】変形例2の弾性波フィルタ装置の回路構成を示す図である。
【
図11】変形例3の弾性波フィルタ装置の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0013】
[実施の形態1]
(マルチプレクサの構成)
図1は、実施の形態1に従う弾性波フィルタ装置30を備えたマルチプレクサ10の回路構成を示す図である。マルチプレクサ10は、弾性波フィルタ装置30に加えて、弾性波フィルタ装置20をさらに備える。なお、以降の説明において、「弾性波フィルタ装置」を単に「フィルタ装置」とも称する。
【0014】
図1を参照して、マルチプレクサ10は、たとえば通信装置の送受信回路に用いられる弾性波フィルタ装置であり、アンテナ端子ANT(第1端子)と送信用端子TX(第3端子)との間にフィルタ装置20が形成されており、アンテナ端子ANTと受信用端子RX(第2端子)との間にフィルタ装置30が形成されている。フィルタ装置20は送信信号の周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタであり、フィルタ装置30はアンテナ(図示せず)によって受信された信号の周波数帯域を通過帯域とするフィルタである。
【0015】
送信用のフィルタ装置20は、アンテナ端子ANTと送信用端子TXとの間に直列接続された直列腕共振部S1~S5と、並列腕共振部P1~P4とを含むラダー型フィルタである。直列腕共振部S1~S5および並列腕共振部P1~P4の各共振部は、少なくとも1つの弾性波共振子を含んで構成される。
図1の例においては、直列腕共振部S1,S5および並列腕共振部P1~P4の各共振部は1つの弾性波共振子で構成され、直列腕共振部S2~S4の各共振部は2つの弾性波共振子で構成される。直列腕共振部S2は、直列接続された弾性波共振子S21,S22を含んで構成される。直列腕共振部S3は、直列接続された弾性波共振子S31,S32を含んで構成される。直列腕共振部S4は、直列接続された弾性波共振子S41,S42を含んで構成される。なお、各共振部に含まれる弾性波共振子の数はこれに限定されず、フィルタ装置の特性に合わせて適宜選択される。弾性波共振子としては、圧電性基板上に櫛歯(Interdigital Transducer:IDT)電極が形成された弾性表面波(Surface Acoustic Wave:SAW)共振子を用いることができる。
【0016】
並列腕共振部P1の一方端は、直列腕共振部S1と直列腕共振部S2との間の接続点と接続されており、他方端は接地電位GNDに接続されている。並列腕共振部P2の一方端は、直列腕共振部S2と直列腕共振部S3との間の接続点と接続されており、他方端は接地電位GNDに接続されている。並列腕共振部P3の一方端は、直列腕共振部S3と直列腕共振部S4との間の接続点と接続されており、他方端は接地電位GNDに接続されている。並列腕共振部P4の一方端は、直列腕共振部S4と直列腕共振部S5との間の接続点と接続されており、他方端は接地電位GNDに接続されている。
【0017】
受信用のフィルタ装置30は、直列腕共振部S10と、並列腕共振部P10と、インダクタL1とを含む。インダクタL1および直列腕共振部S10は、アンテナ端子ANT(第1端子T1)と受信用端子RX(第2端子T2)との間に直列接続されている。並列腕共振部P10は、インダクタL1と直列腕共振部S10との間の接続ノードと、接地電位GNDとの間に接続されている。
【0018】
並列腕共振部P10には、たとえば1つの弾性波共振子が含まれる。直列腕共振部S10は、いわゆる縦結合共振子型の弾性波共振子であり、3つのIDT電極IDT1~IDT3と、反射器REFとを含む。
【0019】
インダクタL1の一方端は、フィルタ装置20との共通端子であるアンテナ端子ANTに接続される。インダクタL1の他方端と接地電位GNDとの間に、直列腕共振部S10のIDT電極IDT2が接続される。
【0020】
IDT電極IDT2における励振方向の一方端に対向してIDT電極IDT1が配置されており、励振方向の他方端に対向してIDT電極IDT3が配置されている。IDT電極IDT1およびIDT電極IDT3は、受信用端子RXと接地電位GNDとの間に並列に接続されている。IDT電極IDT1,IDT3の各々において、IDT電極IDT2とは逆側の励振方向に対向して反射器REFが配置されている。
【0021】
インダクタL1は、インピーダンス整合用のインダクタとして機能する。インダクタL1のインダクタンスは、フィルタ装置20の通過帯域の高周波信号に対して、アンテナ端子ANTからフィルタ装置30を見た時のインピーダンスがオープンとなるように調整される。これによって、フィルタ装置20の通過帯域の高周波信号が受信用端子RX側へ通過することを抑制できる。
【0022】
(フィルタ装置30の構成)
図2は、
図1におけるフィルタ装置30の詳細を説明するための図である。上述のように、フィルタ装置30は、アンテナ端子ANT(第1端子T1)と、受信用端子RX(第2端子T2)との間に形成される。
【0023】
直列腕共振部S10において圧電性基板上に形成された各IDT電極は、複数の電極指が交互に対向した形状となっている。すなわち、IDT電極はキャパシタとして機能し得る。ここで、IDT電極IDT1~IDT3の各容量(キャパシタンス)をそれぞれCP1,CP2,CP3とすると、IDT電極IDT2の容量CP2は、IDT電極IDT1の容量CP1とIDT電極IDT3の容量CP3との総和よりも大きくなるように設計される(CP2>CP1+CP3)。ここで、交叉領域とは、IDT電極IDT1~IDT3の各々において、弾性波の伝播方向から見たときに、IDT電極IDT1~IDT3のそれぞれが備える複数の電極指が重なっている領域を示している。また、交叉領域の面積とは、たとえば、交叉領域を構成する電極指の対数と交叉幅との積で表わされる。
【0024】
より具体的には、IDT電極IDT2における電極指の総本数が、IDT電極IDT1の電極指の本数とIDT電極IDT3の電極指の本数との総和よりも多くなるように設定される。これにより、IDT電極IDT1~IDT3における電極指の交叉領域の面積をそれぞれSQ1,SQ2,SQ3とした場合、SQ2>SQ1+SQ3となる。
【0025】
図1で示したマルチプレクサにおいては、送信側のフィルタ装置20からアンテナを介して電波が放射されるときに、当該送信信号が受信側のフィルタ装置30を通過しないようにするために、アンテナ端子ANTからフィルタ装置30を見た時の送信信号の周波数帯域に対する反射特性の位相がオープンとなることが望ましい。フィルタ装置30においては、このインピーダンスを調整するために、アンテナ端子ANTと直列腕共振部S10との間にインダクタL1が配置されている。
【0026】
一般的に、弾性波フィルタは容量性インピーダンスを有しているが、直列インダクタを用いて位相を調整する場合、弾性波フィルタの位相がショートから離れると、インダクタのインダクタンスを大きくする必要がある。しかしながら、直列インダクタのインダクタンスを大きくすると、抵抗成分の増大によって挿入損失が増加してしまう。そのため、直列インダクタを用いて位相を調整する場合には、できるだけインダクタンスを小さくすることが好ましい。
【0027】
図3は、比較例および実施の形態1の弾性波フィルタ装置のインピーダンスに対するインダクタンスを説明するためのスミスチャートである。ここで、比較例の弾性波フィルタ(
図3(a))のインダクタンスをL1#とし、実施の形態1の弾性波フィルタ(
図3(b))のインダクタンスをL1(L1#>L1)とする。
図3の各スミスチャートの線LN10,LN11は、いずれもインダクタがない回路におけるインピーダンスの周波数特性を示している。
【0028】
スミスチャートの下半分の容量性領域において、直列インダクタによってインピーダンスの位相を変化させる場合、位相は時計回りに回転し、当該インダクタのインダクタンスが大きいほど位相の回転量が大きくなる。言い換えれば、直列インダクタのインダクタンスが小さくなると位相の回転量が小さくなる。そのため、インダクタンスの小さな直列インダクタによって、インピーダンスの位相をオープンにするためには、
図3(b)の領域AR1のように、当該インダクタ以降の回路において、相手側のフィルタ装置の周波数帯域に対するインピーダンスの位相ができるだけショート(0Ω)に近い状態であることが必要となる。すなわち、直列腕共振部S10の縦結合共振子型の弾性波共振子において、直列インダクタに接続される入力側の容量をできるだけ大きくすることが必要となる。
【0029】
上述のように、実施の形態1のフィルタ装置30における直列腕共振部S10の縦結合共振子型の弾性波共振子においては、インダクタL1に接続されるIDT電極IDT2の容量が、IDT電極IDT1およびIDT電極IDT3の容量の総和よりも大きくなるように設定されている。このため、IDT電極IDT2の容量が他のIDT電極の容量の総和よりも小さい場合に比べて、インダクタL1のインダクタンスを小さくすることが可能となり、当該インダクタL1の抵抗成分を低減して、フィルタ装置の挿入損失を低減することができる。
【0030】
なお、変形例で後述するような、アンテナ端子ANTに結合される入力側のIDT電極が複数である場合において、入力側の各IDT電極に含まれる電極指の本数が、受信用端子に接続される出力側の各IDT電極の電極指の本数よりも多い構成(すなわち、入力側の各IDT電極における電極指の本数が、出力側のどのIDT電極の電極指の本数よりも多い構成)であってもよい。あるいは、入力側のIDT電極が複数である場合に、出力側の各IDT電極の電極指の本数よりも多い電極指を有するIDT電極が、入力側のIDT電極に少なくとも1つ含まれる構成(すなわち、どの出力側のIDT電極の電極指の本数よりも多い本数の電極指を有するIDT電極が入力側にある構成)であってもよい。
【0031】
[実施の形態2]
実施の形態1においては、IDT電極の電極指の本数によって、アンテナ端子に結合されたIDT電極の容量を大きくする構成について説明した。実施の形態2においては、IDT電極の電極指の間隔によって、アンテナ端子に結合されたIDT電極の容量を大きくする構成について説明する。
【0032】
図4は、実施の形態2に従う弾性波フィルタ装置30Aを説明するための図である。フィルタ装置30Aにおいては、
図2における直列腕共振部S10が直列腕共振部S10Aに置き換わったものとなっている。フィルタ装置30Aにおいて、
図2と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0033】
図4を参照して、直列腕共振部S10Aは、
図2における直列腕共振部S10と同様に、縦結合共振子型の弾性波共振子であり、3つのIDT電極IDT1A~IDT3Aと、反射器REFとを含んでいる。
【0034】
IDT電極IDT2Aは、アンテナ端子ANTに接続されたインダクタL1と接地電位GNDとの間に接続されている。IDT電極IDT2Aにおける励振方向の一方端に対向してIDT電極IDT1Aが配置されており、励振方向の他方端に対向してIDT電極IDT3Aが配置されている。IDT電極IDT1AおよびIDT電極IDT3Aは、受信用端子RXと接地電位GNDとの間に並列に接続されている。IDT電極IDT1A,IDT3Aの各々において、IDT電極IDT2Aとは逆側の励振方向に対向して反射器REFが配置されている。
【0035】
図5は、IDT電極を部分的に拡大した図である。IDT電極は、2つの櫛歯電極が対向して配置された構成を有している。具体的には、一方の櫛歯電極においては、バスバー50に複数の電極指51が所定の間隔で配置されている。また、他方の櫛歯電極においては、バスバー55に複数の電極指56が所定の間隔で配置されている。そして、電極指51と電極指56とが交互に対向するように、2つの櫛歯電極が配置されている。このとき、隣接して対向する2つの電極指51,56の中心間距離をピッチPTと称し、対向する電極指の端面の距離を電極指間隔GPと称する。
【0036】
IDT電極は、上記のような対向する電極指によってキャパシタとして機能する。一般的に、キャパシタのキャパシタンスは電極間距離に反比例する。そのため、IDT電極の電極指間隔GPを調整することによって、当該IDT電極のキャパシタンスを変化させることができる。
【0037】
図4のフィルタ装置30Aにおいては、直列腕共振部S10AにおけるIDT電極IDT2Aの電極指間隔が、IDT電極IDT1AおよびIDT電極IDT3Aの電極指間隔よりも狭くなるように設定される。IDT電極の電極指間隔をこのように設定することで、仮にIDT電極IDT
2Aの電極指の本数が、IDT電極IDT1Aの電極指の本数とIDT電極IDT3Aの電極指の本数の総和より少ない場合であっても、IDT電極IDT2Aの容量CP2を、IDT電極IDT1Aの容量CP1とIDT電極IDT3Aの容量CP3の総和よりも大きくすることができる。
【0038】
なお、実施の形態2においては、実施の形態1と同様に、IDT電極IDT2Aの電極指の本数が、IDT電極IDT1Aの電極指の本数とIDT電極IDT3Aの電極指の本数の総和よりも多い場合であってもよい。
【0039】
図6は、
図4における直列腕共振部S10Aの縦結合共振子型の弾性波共振子についてのパラメータの一例を示す図である。当該弾性波共振子においては、IDT電極IDT1AおよびIDT電極IDT3Aの各々については、電極指の本数は39本であり、波長(=2PT)は1.733μm、電極指間隔GPは0.433μmに設定されている。一方、IDT電極IDT2Aについては、電極指の本数は123本であり、波長は1.7091μm、電極指間隔GPは0.427μmに設定されている。
【0040】
このように、縦結合共振子型の弾性波共振子において、アンテナ端子に結合されたIDT電極の電極指間隔を、受信用端子に結合されたIDT電極の電極指間隔よりも短くすることによって、アンテナ端子に結合されたIDT電極の容量を、受信用端子に結合されたIDT電極の容量の総和よりも大きくすることができる。これにより、アンテナ端子と縦結合共振子との間に接続されるインダクタのインダクタンスを小さくすることができるので、当該インダクタの抵抗成分を低減して、フィルタ装置の挿入損失を低減することができる。
【0041】
[実施の形態3]
縦結合共振子型の弾性波共振子においては、IDT電極における電極指の一部のピッチを他の部分のピッチよりも狭くすることによって、IDT電極を伝搬する信号の異なる振動モードが形成されることが知られている。このようなモードを形成することによって、フィルタ装置の通過特性を向上させることができる。
【0042】
一方で、電極指のピッチが狭くなると、当該部分におけるキャパシタンスが大きくなり、IDT電極のキャパシタンスも増加し得る。
【0043】
実施の形態3においては、狭ピッチ部分を有するIDT電極によって縦結合共振子型弾性波共振子が形成される場合に、フィルタ装置の挿入損失を低減する構成について説明する。
【0044】
図7は、実施の形態3に従う弾性波フィルタ装置30Bを説明するための図である。フィルタ装置30Bにおいては、
図2における直列腕共振部S10が直列腕共振部S10Bに置き換わったものとなっている。フィルタ装置30Bにおいて、
図2と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0045】
図7を参照して、直列腕共振部S10Bは、
図2における直列腕共振部S10と同様に、縦結合共振子型の弾性波共振子であり、3つのIDT電極IDT1B~IDT3Bと、反射器REFとを含んでいる。
【0046】
IDT電極IDT2Bは、アンテナ端子ANT(第1端子T1)に接続されたインダクタL1と接地電位GNDとの間に接続されている。IDT電極IDT2Bにおける励振方向の一方端に対向してIDT電極IDT1Bが配置されており、励振方向の他方端に対向してIDT電極IDT3Bが配置されている。IDT電極IDT1BおよびIDT電極IDT3Bは、受信用端子RX(第2端子T2)と接地電位GNDとの間に並列に接続されている。IDT電極IDT1B,IDT3Bの各々において、IDT電極IDT2Bとは逆側の励振方向に対向して反射器REFが配置されている。
【0047】
IDT電極IDT2Bにおいて、弾性表面波の伝搬方向の中央付近の領域RG1(第1領域)の電極指は第1ピッチで形成されているが、IDT電極IDT1B,IDT3Bに対向する領域RG2(第2領域)の電極指は、第1ピッチよりも短い第2ピッチで形成されている。また、IDT電極IDT1B,IDT3Bの各々において、IDT電極IDT2Bに対向する領域RG4(第4領域)以外の領域RG3(第3領域)の電極指は第3ピッチで形成されており、第4領域の電極指は第3ピッチよりも短い第4ピッチで形成されている。このようにIDT電極に狭ピッチ部分を設けることによって、IDT電極を伝搬する信号に異なる振動モードが形成され、フィルタ装置の減衰特性を向上させることができる。
【0048】
そして、直列腕共振部S10Bにおいては、IDT電極IDT2Bにおいて狭ピッチの第2領域に含まれる電極指の本数が、IDT電極IDT1B,IDT3Bにおいて狭ピッチの第4領域に含まれる電極指の本数の総和よりも多くなるように設定される。入力側のIDT電極IDT2Bにおいて第2領域を形成する電極指の本数を、IDT電極IDT1B,IDT3Bにおいて第4領域を形成する電極指の総本数より多くすることで、IDT電極IDT2Bの容量CP2を、IDT電極IDT1Bの容量CP1とIDT電極IDT3Bの容量CP3との総和よりも大きくしやすくなる。これにより、インダクタL1のインダクタンスを小さくすることが可能となり、インダクタL1のインダクタンスの抵抗成分を低減することができる。したがって、フィルタ装置30Bにおいて、当該インダクタの抵抗成分を低減して挿入損失の増加を抑制しつつ、通過帯域以外の信号に対するインピーダンスを確保することができる。
【0049】
なお、IDT電極IDT2Bにおける第2領域、およびIDT電極IDT1B,IDT3Bにおける第4領域においては、必ずしもピッチが一定でなくてもよい。すなわち、第2領域においては、第1ピッチから第2ピッチへ徐々にあるいは段階的にピッチが狭くなるようにしてもよい。また、第4領域においても、第3ピッチから第4ピッチへ徐々にあるいは段階的にピッチが狭くなるようにしてもよい。
【0050】
図8は、
図7における直列腕共振部S10Bの縦結合共振子型の弾性波共振子についてのパラメータの一例を示す図である。当該弾性波共振子においては、IDT電極IDT1BおよびIDT電極IDT3Bの各々については、メインの領域の波長(=2PT)は1.733μmに設定されており、IDT電極IDT2Bに対向する狭ピッチの領域の波長は1.5884μmに設定されている。IDT電極IDT1BおよびIDT電極IDT3Bの各々において、電極指の全体の数は40本であり、そのうち狭ピッチの領域の電極指の本数は6本である。
【0051】
一方、IDT電極IDT2Bについては、メインの領域の波長は1.7091μmに設定され、両端の狭ピッチの領域の波長は1.6125μmに設定されている。電極指の全体の本数は125本であり、そのうち各狭ピッチの領域の電極指の本数は9本である。すなわち、IDT電極IDT2Bにおいて狭ピッチを形成する電極指の総本数は18本であり、IDT電極IDT1BおよびIDT電極IDT3Bにおいて狭ピッチを形成する電極指の総本数は12本となっている。
【0052】
このように、縦結合共振子型の弾性波共振子において、アンテナ端子に結合されたIDT電極における狭ピッチ領域を形成する電極指の総本数を、受信用端子に結合されたIDT電極における狭ピッチ領域を形成する電極指の総本数よりも多くすることによって、アンテナ端子に結合されたIDT電極の容量を、受信用端子に結合されたIDT電極の容量の総和よりも大きくすることができる。これにより、アンテナ端子と縦結合共振子との間に接続されるインダクタのインダクタンスを小さくすることができるので、当該インダクタの抵抗成分を低減して、フィルタ装置の挿入損失を低減することができる。
【0053】
[変形例]
上述の各実施の形態において、受信側のフィルタ装置に含まれる縦結合共振子型の弾性波共振子は、入力側(アンテナ端子ANT側)に1つのIDT電極が結合され、出力側(受信用端子RX側)に2つのIDT電極が結合される構成について説明した。しかしながら、縦結合共振子型弾性波共振子の構成はこれには限られず、他の構成の縦結合共振子型弾性波共振子が用いられてもよい。以下、縦結合共振子型弾性波共振子の変形例について説明する。
【0054】
(変形例1)
図9は、変形例1の弾性波フィルタ装置30Cの回路構成を示す図である。
図9を参照して、フィルタ装置30Cは、
図2における実施の形態1のフィルタ装置30の直列腕共振部S10が、直列腕共振部S10Cに置き換えられた構成を有している。
【0055】
直列腕共振部S10Cは、3つのIDT電極IDT1C~IDT3Cおよび反射器REFが
図2の直列腕共振部S10と同様に配列された構成を有しているが、IDT電極の入出力の結合は逆になっている。より詳細には、アンテナ端子ANT(第1端子T1)に接続されるインダクタL1と接地電位GNDとの間に、IDT電極IDT1CおよびIDT電極IDT
3Cが並列に接続されている。そして、受信用端子RX(第2端子T2)と接地電位GNDとの間に、IDT電極IDT2Cが接続されている。
【0056】
直列腕共振部S10Cにおいては、IDT電極IDT1Cの容量CP1とIDT電極IDT3Cの容量CP3との総和が、IDT電極IDT2Cの容量CP2よりも大きくなるように、各IDT電極のパラメータが設定される。これにより、アンテナ端子ANTと直列腕共振部S10Cとの間に接続されるインダクタL1のインダクタンスを小さくすることができる。したがって、インダクタL1の抵抗成分を低減して、フィルタ装置30Cにおける挿入損失の増加を抑制しつつ、通過帯域以外の信号に対するインピーダンスを確保することができる。
【0057】
(変形例2)
図10は、変形例2の弾性波フィルタ装置30Dの回路構成を示す図である。
図10を参照して、フィルタ装置30Dにおける直列腕共振部S10Dは、2つの3IDT型の縦結合共振子型弾性波共振子が直列に接続された構成を有している。言い換えると、直列腕共振部S10Dは、
図2に示される直列腕共振部S10に対応する縦結合共振子S10D1と、
図9に示される直列腕共振部S10Cに対応する縦結合共振子S10D2とが直列に接続された構成となっている。
【0058】
より具体的には、縦結合共振子S10D1は3つのIDT電極IDT1D~IDT3Dと反射器REFとを含んでおり、IDT電極IDT2Dの両端にIDT電極IDT1D,IDT3Dが配置されている。また、縦結合共振子S10D2は3つのIDT電極IDT4D~IDT6Dと反射器REFとを含んでおり、IDT電極IDT5Dの両端にIDT電極IDT4D,IDT6Dが配置されている。
【0059】
縦結合共振子S10D1において、アンテナ端子ANT(第1端子T1)に接続されるインダクタL1と接地電位GNDとの間に、IDT電極IDT2Dが接続されている。縦結合共振子S10D1のIDT電極IDT1Dと縦結合共振子S10D2のIDT電極IDT4Dとが、接地電位GNDの間に直列接続されている。また、縦結合共振子S10D1のIDT電極IDT3Dと縦結合共振子S10D2のIDT電極IDT6Dとが、接地電位GNDの間に直列接続されている。そして、受信用端子RX(第2端子T2)と接地電位GNDとの間に、縦結合共振子S10D2のIDT電極IDT5Dが接続されている。
【0060】
直列腕共振部S10Dにおいては、入力側の縦結合共振子S10D1のIDT電極IDT2Dの容量CP2が、IDT電極IDT1Dの容量CP1とIDT電極IDT3Dの容量CP3との総和よりも大きくなるように、各IDT電極のパラメータが設定される。これにより、アンテナ端子ANTと直列腕共振部S10Dとの間に接続されるインダクタL1のインダクタンスを小さくすることができる。したがって、インダクタL1の抵抗成分を低減して、フィルタ装置30Dにおける挿入損失の増加を抑制しつつ、通過帯域以外の信号に対するインピーダンスを確保することができる。このように、複数の縦結合共振子が直列接続された構成の直列腕共振部S10Dにおいては、インダクタL1に最も近い縦結合共振子S10D1において、入力側のIDT電極IDT2Dの容量CP2が、出力側のIDT電極IDT1Dの容量CP1とIDT電極IDT3Dの容量CP3との総和よりも大きくなっていればよい。
【0061】
(変形例3)
図11は、変形例3の弾性波フィルタ装置30Eの回路構成を示す図である。
図11を参照して、フィルタ装置30Eにおける直列腕共振部S10Eは、5IDT型の縦結合共振子型弾性波共振子の構成を有している。より具体的には、直列腕共振部S10Eは、5つのIDT電極IDT1E~IDT5Eと反射器REFとを含む。
【0062】
直列腕共振部S10Eにおいては、2つの反射器REFの間に、IDT電極IDT1E~IDT電極IDT5Eがこの順に配置されている。アンテナ端子ANT(第1端子T1)に接続されるインダクタL1と接地電位GNDとの間に、IDT電極IDT2EおよびIDT電極IDT4Eが並列に接続されている。そして、受信用端子RX(第2端子T2)と接地電位GNDとの間に、IDT電極IDT1E、IDT電極IDT3EおよびIDT電極IDT5Eが並列に接続されている。
【0063】
直列腕共振部S10Eにおいては、IDT電極IDT2Eの容量CP2とIDT電極IDT4Eの容量CP4との総和が、IDT電極IDT1Eの容量CP1とIDT電極IDT3Eの容量CP3とIDT電極IDT5Eの容量CP5との総和よりも大きくなるように、各IDT電極のパラメータが設定される。これにより、アンテナ端子ANTと直列腕共振部S10Eとの間に接続されるインダクタL1のインダクタンスを小さくすることができる。したがって、インダクタL1の抵抗成分を低減して、フィルタ装置30Eにおける挿入損失の増加を抑制しつつ、通過帯域以外の信号に対するインピーダンスを確保することができる。
【0064】
なお、本実施の形態の縦結合共振子において、入力側(第1端子側)に接続されたIDT電極が、本開示の「少なくとも1つの第1IDT電極」に対応する。また、出力側(第2端子側)に接続されたIDT電極が、本開示の「少なくとも1つの第2IDT電極」に対応する。
【0065】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0066】
10 マルチプレクサ、20,30,30A~30E フィルタ装置、50,55 バスバー、51,56 電極指、ANT アンテナ端子、GND 接地電位、GP 電極指間隔、IDT1~IDT6 IDT電極、L1 インダクタ、P1~P4,P10 並列腕共振部、REF 反射器、RX 受信用端子、S1~S5,S10,S10A~S10E 直列腕共振部、S10D2,S10D1 縦結合共振子、S21,S22,S31,S32,S41,S42 弾性波共振子、T1,T2 端子、TX 送信用端子。