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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】弾性波装置及び複合フィルタ装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20221206BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H9/64 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020074255
(22)【出願日】2020-04-17
(65)【公開番号】P2021174999
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 秀太郎
(72)【発明者】
【氏名】岩本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】大門 克也
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/031202(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/031201(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/212047(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/169514(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/08-3/10
H03H9/145
H03H9/25
H03H9/64
H03H9/68
H03H9/72
H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面方位が(111)であるシリコン基板と、
前記シリコン基板上に設けられている窒化ケイ素層と、
前記窒化ケイ素層上に設けられている酸化ケイ素層と、
前記酸化ケイ素層上に設けられているタンタル酸リチウム層と、
前記タンタル酸リチウム層上に設けられているIDT電極と、
を備え、
共振周波数を有し、
前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとし、前記窒化ケイ素層の厚みをSiN[λ]とし、前記酸化ケイ素層の厚みをSiO2[λ]とし、前記タンタル酸リチウム層の厚みをLT[λ]とし、前記タンタル酸リチウム層のオイラー角を(LTφ[deg.],LTθ[deg.],LTψ[deg.])としたときに、前記SiN[λ]、前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、及び前記LTθ[deg.]が、下記の式1により導出される第1の高次モードの位相が-20[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である、弾性波装置。
【数1】
【請求項2】
前記SiN[λ]、前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、及び前記LTθ[deg.]が、前記式1により導出される前記第1の高次モードの位相が-73[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記シリコン基板のオイラー角を(-45[deg.],-54.7[deg.],SiΨ[deg.])としたときに、0[deg.]≦SiΨ[deg.]≦30[deg.]であり、
LT[λ]≦0.179[λ]であり、
前記SiN[λ]、前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、前記LTθ[deg.]、及び前記SiΨ[deg.]が、下記の式2により導出される第2の高次モードの位相が-70[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【数2】
【請求項4】
前記SiN[λ]、前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、前記LTθ[deg.]、及び前記SiΨ[deg.]が、前記式2により導出される前記第2の高次モードの位相が-82[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項3に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記シリコン基板のオイラー角を(-45[deg.],-54.7[deg.],SiΨ[deg.])としたときに、30[deg.]<SiΨ[deg.]≦60[deg.]であり、
LT[λ]≦0.179[λ]であり、
前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、及び前記SiΨ[deg.]が、下記の式3により導出される第2の高次モードの位相が-70[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【数3】
【請求項6】
前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、及び前記SiΨ[deg.]が、前記式3により導出される前記第2の高次モードの位相が-82[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項5に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記シリコン基板のオイラー角を(-45[deg.],-54.7[deg.],SiΨ[deg.])としたときに、0[deg.]≦SiΨ[deg.]≦30[deg.]であり、
LT[λ]>0.179[λ]であり、
前記SiN[λ]、前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、前記LTθ[deg.]、及び前記SiΨ[deg.]が、下記の式4により導出される第2の高次モードの位相が-70[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【数4】
【請求項8】
前記SiN[λ]、前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、前記LTθ[deg.]、及び前記SiΨ[deg.]が、前記式4により導出される前記第2の高次モードの位相が-82[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項7に記載の弾性波装置。
【請求項9】
前記IDT電極がアルミニウム電極であり、
前記シリコン基板のオイラー角を(-45[deg.],-54.7[deg.],SiΨ[deg.])としたときに、30[deg.]<SiΨ[deg.]≦60[deg.]であり、
LT[λ]>0.179[λ]であり、
前記IDT電極の厚みをAl[λ]としたときに、前記IDT電極の厚み、前記SiN[λ]、前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、前記LTθ[deg.]、及び前記SiΨ[deg.]が、下記の式5により導出される第2の高次モードの位相が-70[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【数5】
【請求項10】
前記IDT電極の厚み、前記SiN[λ]、前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、前記LTθ[deg.]、及び前記SiΨ[deg.]が、前記式5により導出される前記第2の高次モードの位相が-82[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項9に記載の弾性波装置。
【請求項11】
前記IDT電極がアルミニウム電極であり、
前記シリコン基板のオイラー角を(-45[deg.],-54.7[deg.],SiΨ[deg.])とし、前記IDT電極の厚みをAl[λ]としたときに、前記IDT電極の厚み、前記SiN[λ]、前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、前記LTθ[deg.]、及び前記SiΨ[deg.]が、下記の式6により導出されるレイリー波の位相が-72[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項1~10のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【数6】
【請求項12】
前記IDT電極の厚み、前記SiN[λ]、前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、前記LTθ[deg.]、及び前記SiΨ[deg.]が、前記式6により導出される前記レイリー波の位相が-84[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である、請求項11に記載の弾性波装置。
【請求項13】
共通接続端子と、
請求項1または2に記載の弾性波装置を有し、第1の通過帯域を有する第1のフィルタ装置と、
前記第1のフィルタ装置と前記共通接続端子に共通接続されており、前記第1の通過帯域と異なる第2の通過帯域を有する第2のフィルタ装置と、
を備え、
前記弾性波装置の前記共振周波数の1.2倍以上、1.7倍以下の周波数において、第2の高次モードが励振され、
前記第2の高次モードの周波数が、前記第2の通過帯域の帯域外に位置する、複合フィルタ装置。
【請求項14】
共通接続端子と、
請求項1~10のいずれか1項に記載の弾性波装置を有し、第1の通過帯域を有する第1のフィルタ装置と、
前記第1のフィルタ装置と前記共通接続端子に共通接続されており、前記第1の通過帯域より低い周波数帯域である第2の通過帯域を有する第2のフィルタ装置と、
を備え、
前記弾性波装置の前記共振周波数より低い周波数において、レイリー波が励振され、
前記レイリー波の周波数が、前記第2の通過帯域の帯域外に位置する、複合フィルタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波装置及び複合フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性波装置は携帯電話機のフィルタなどに広く用いられている。下記の特許文献1には、弾性波装置の一例が開示されている。この弾性波装置においては、シリコンからなる支持基板上に酸化ケイ素膜が積層されている。酸化ケイ素膜上に圧電膜が積層されている。圧電膜上にIDT(Interdigital Transducer)電極が設けられている。支持基板の方位角は(100)、(110)または(111)とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/164210号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の弾性波装置では、共振周波数の1.5倍の周波数における高次モードは抑制されている。しかしながら、共振周波数の2.2倍の周波数における高次モードを十分に抑制することはできていない。
【0005】
本発明の目的は、共振周波数の2.2倍の周波数における高次モードを十分に抑制することができる、弾性波装置及び複合フィルタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る弾性波装置は、面方位が(111)であるシリコン基板と、前記シリコン基板上に設けられている窒化ケイ素層と、前記窒化ケイ素層上に設けられている酸化ケイ素層と、前記酸化ケイ素層上に設けられているタンタル酸リチウム層と、前記タンタル酸リチウム層上に設けられているIDT電極とを備え、共振周波数を有し、前記IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとし、前記窒化ケイ素層の厚みをSiN[λ]とし、前記酸化ケイ素層の厚みをSiO2[λ]とし、前記タンタル酸リチウム層の厚みをLT[λ]とし、前記タンタル酸リチウム層のオイラー角を(LTφ[deg.],LTθ[deg.],LTψ[deg.])としたときに、前記SiN[λ]、前記SiO2[λ]、前記LT[λ]、及び前記LTθ[deg.]が、下記の式1により導出される第1の高次モードの位相が-20[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である。
【0007】
【数1】
【0008】
本発明に係る複合フィルタ装置のある広い局面では、共通接続端子と、本発明に従い構成されている弾性波装置を有し、第1の通過帯域を有する第1のフィルタ装置と、前記第1のフィルタ装置と前記共通接続端子に共通接続されており、前記第1の通過帯域と異なる第2の通過帯域を有する第2のフィルタ装置とを備え、前記弾性波装置の前記共振周波数の1.2倍以上、1.7倍以下の周波数において、第2の高次モードが励振され、前記第2の高次モードの周波数が、前記第2の通過帯域の帯域外に位置する。
【0009】
本発明に係る複合フィルタ装置の他の広い局面では、共通接続端子と、本発明に従い構成されている弾性波装置を有し、第1の通過帯域を有する第1のフィルタ装置と、前記第1のフィルタ装置と前記共通接続端子に共通接続されており、前記第1の通過帯域より低い周波数帯域である第2の通過帯域を有する第2のフィルタ装置とを備え、前記弾性波装置の前記共振周波数より低い周波数において、レイリー波が励振され、前記レイリー波の周波数が、前記第2の通過帯域の帯域外に位置する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る弾性波装置及び複合フィルタ装置によれば、共振周波数の2.2倍の周波数における高次モードを十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の一部を示す正面断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の平面図である。
図3】メインモードと不要波との関係の例を示す図である。
図4】シリコンの(111)面を示す模式図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の位相特性を示す図である。
図6】酸化ケイ素層の厚みSiO2[λ]と、第1の高次モードの位相との関係を示す図である。
図7】酸化ケイ素層の厚みSiO2[λ]と、第1の高次モードの音速との関係を示す図である。
図8】第1の高次モードの位相と、フィルタ装置における減衰量の劣化量との関係を示す図である。
図9】第2の高次モードの位相と、フィルタ装置における減衰量の劣化量との関係を示す図である。
図10】LTカット角と、レイリー波の結合係数との関係を示す図である。
図11】LTカット角と、第1の高次モードの結合係数との関係を示す図である。
図12】レイリー波の位相と、フィルタ装置における減衰量の劣化量との関係を示す図である。
図13】LTカット角と、レイリー波の位相との関係を示す図である。
図14】LTカット角と、第1の高次モードの位相との関係を示す図である。
図15】LTカット角と、第2の高次モードの位相との関係を示す図である。
図16】本発明の第2の実施形態に係る複合フィルタ装置の模式的回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0013】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の一部を示す正面断面図である。図2は、第1の実施形態に係る弾性波装置の平面図である。なお、図1は、図2中のI-I線に沿う断面図である。図2においては、後述する誘電体膜を省略している。
【0015】
図1に示すように、弾性波装置1はシリコン基板2と、窒化ケイ素層3と、酸化ケイ素層4と、タンタル酸リチウム層5とを有する。より具体的には、シリコン基板2上に窒化ケイ素層3が設けられている。窒化ケイ素層3上に酸化ケイ素層4が設けられている。酸化ケイ素層4上にタンタル酸リチウム層5が設けられている。
【0016】
タンタル酸リチウム層5上にはIDT電極6が設けられている。IDT電極6に交流電圧を印加することにより、弾性波が励振される。図2に示すように、タンタル酸リチウム層5上における、IDT電極6の弾性波伝搬方向両側に、一対の反射器7A及び反射器7Bが設けられている。弾性波装置1は、共振周波数を有する弾性表面波共振子である。本実施形態においては、メインモードの他にも複数のモードが励振される。
【0017】
図3は、メインモードと不要波との関係の例を示す図である。図3中において、矢印Aは、共振周波数の0.7倍の周波数を示し、矢印Bは共振周波数の1.5倍の周波数を示し、矢印Cは共振周波数の2.2倍の周波数を示す。位相特性を示す他の図面においても同様である。
【0018】
図3に示す例においては、2800MHz付近が共振周波数である。共振周波数においてメインモードが励振される。図3中の矢印Aに示すように、共振周波数より低い周波数においてレイリー波が励振される。より具体的には、本実施形態においては、0.7倍の周波数においてレイリー波が励振される。矢印Bに示すように、共振周波数の1.5倍の周波数において高次モードが励振される。さらに、矢印Cに示すように、2.2倍の周波数において高次モードが励振される。弾性波装置1においては、レイリー波及び上記各高次モードは不要波となる。
【0019】
本実施形態においては、共振周波数の2.0倍以上、2.5倍以下の周波数における高次モードを第1の高次モードとし、共振周波数の1.2倍以上、1.7倍以下の周波数における高次モードを第2の高次モードとする。なお、第1の高次モード、第2の高次モード及びレイリー波が生じる周波数は上記に限定されない。もっとも、第1の高次モードが生じる周波数は、第2の高次モードが生じる周波数よりも高い。レイリー波が生じる周波数は共振周波数よりも低い。
【0020】
本明細書では、例えば、共振周波数の1.2倍以上、1.7倍以下の周波数の範囲内、あるいはその範囲外において複数の第2の高次モードが存在する場合、その中で最大の位相を有する高次モードを第2の高次モードとする。
【0021】
図2に示すように、IDT電極6は、第1のバスバー16、第2のバスバー17、複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19を有する。第1のバスバー16及び第2のバスバー17は対向し合っている。複数の第1の電極指18の一端は、それぞれ第1のバスバー16に接続されている。複数の第2の電極指19の一端は、それぞれ第2のバスバー17に接続されている。複数の第1の電極指18及び複数の第2の電極指19は互いに間挿し合っている。
【0022】
IDT電極6はアルミニウム電極である。反射器7A及び反射器7Bも、アルミニウムを主成分とする材料からなる。もっとも、IDT電極6、反射器7A及び反射器7Bの材料は上記に限定されない。IDT電極6、反射器7A及び反射器7Bは、単層の金属膜からなっていてもよく、あるいは積層金属膜からなっていてもよい。
【0023】
タンタル酸リチウム層5上には、IDT電極6、反射器7A及び反射器7Bを覆うように、誘電体膜8が設けられている。本実施形態においては、誘電体膜8は酸化ケイ素膜である。この場合には、弾性波装置1における周波数温度係数(TCF)の絶対値を小さくすることができ、周波数温度特性を改善することができる。もっとも、誘電体膜8の材料は上記に限定されず、例えば、窒化ケイ素または酸窒化ケイ素などを用いることもできる。なお、弾性波装置1は誘電体膜8を有していなくともよい。
【0024】
図1に戻り、シリコン基板2はシリコン単結晶基板である。図4に示すように、シリコンはダイヤモンド構造を有する。本実施形態のシリコン基板2の面方位は(111)である。面方位が(111)であるとは、ダイヤモンド構造を有するシリコンの結晶構造において、ミラー指数[111]で表される結晶軸に直交する(111)面においてカットした基板であることを示す。なお、(111)面は、図4に示す面である。(111)面においては面内3回対称であり、120°回転で等価な結晶構造となる。
【0025】
なお、シリコン基板2のオイラー角を、(-45[deg.],-54.7[deg.],SiΨ[deg.])とする。他方、タンタル酸リチウム層5のオイラー角を(LTφ[deg.],LTθ[deg.],LTψ[deg.])とする。なお、以下においては、LTθ[deg.]やSiΨ[deg.]の単位[deg.]を省略して、LTθやSiΨと記載することもある。
【0026】
本実施形態では、窒化ケイ素層3はSiN層である。酸化ケイ素層4はSiO層である。タンタル酸リチウム層5はLiTaO層である。ここで、IDT電極6の電極指ピッチにより規定される波長をλとする。窒化ケイ素層3の厚みをSiN[λ]とし、酸化ケイ素層4の厚みをSiO2[λ]とし、タンタル酸リチウム層5の厚みをLT[λ]とし、IDT電極の厚みをAl[λ]とする。ここで、酸化ケイ素層4は酸化ケイ素層4中にチタンやニッケル、シリコンなどからなる中間層を含んでいても良い。この場合の酸化ケイ素層4の厚さは中間層を含む酸化ケイ素層4の厚さを示すものとする。本発明者らは、第1の高次モードの位相が、式1により導出されることを見出した。
【0027】
【数2】
【0028】
本実施形態の特徴は以下の構成を有することにある。1)シリコン基板2の面方位が(111)であること。2)SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、及びLTθ[deg.]が、式1により導出される第1の高次モードの位相が-20[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度であること。それによって、共振周波数の2.2倍の周波数における第1の高次モードを十分に抑制することができる。以下において、上記効果の詳細を、式1の詳細と共に説明する。
【0029】
本実施形態の構成を有し、設計パラメータが以下の通りである弾性波装置1の位相特性を測定した。
【0030】
シリコン基板2;材料…Si単結晶、面方位…(111)、オイラー角…(-45[deg.],-54.7[deg.],30[deg.])
窒化ケイ素層3;材料…SiN、厚みSiN[λ]…650[nm]
酸化ケイ素層4;材料…SiO、厚みSiO2[λ]…200[nm]
タンタル酸リチウム層5;材料…30Y-LiTaO、厚みLT[λ]…200[nm]、オイラー角におけるLTθ[deg.]…120[deg.]
IDT電極6;材料…Al、厚みAl[λ]…100[nm]、波長λ…1.4[μm]
【0031】
図5は、第1の実施形態に係る弾性波装置の位相特性を示す図である。
【0032】
図5中の矢印Cに示すように、本実施形態においては、第1の高次モードが効果的に抑制されていることがわかる。
【0033】
以下において、式1の導出の詳細を説明する。弾性波装置1の設計パラメータを下記の範囲において変化させ、それぞれの場合において、第1の高次モードの位相を測定した。
【0034】
SiΨ[deg.];0[deg.]以上、60[deg.]以下の範囲において、10[deg.]刻みで変化させた。
SiN[λ];50[nm]以上、850[nm]以下の範囲において、50[nm]刻みで変化させた。
SiO2[λ];100[nm]以上、500[nm]以下の範囲において、50[nm]刻みで変化させた。
LT[λ];100[nm]とし、または、200[nm]以上、500[nm]以下の範囲において、50[nm]刻みで変化させた。
LTθ[deg.];100[deg.]以上、135[deg.]以下の範囲において、5[deg.]刻みで変化させた。
Al[λ];100[nm]、130[nm]、140[nm]または160[nm]とした。
IDT電極6の波長λ;1.4[μm]または2[μm]とした。
【0035】
これらの結果から上記式1を導出した。弾性波装置1においては、SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、及びLTθ[deg.]が、式1により導出される第1の高次モードの位相が-20[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度である。よって、第1の高次モードの位相を確実に-20[deg.]以下に抑制することができる。ここで、SiO2[λ]と、第1の高次モードの位相及び音速との関係を示す。
【0036】
図6は、酸化ケイ素層の厚みSiO2[λ]と、第1の高次モードの位相との関係を示す図である。図7は、酸化ケイ素層の厚みSiO2[λ]と、第1の高次モードの音速との関係を示す図である。なお、図7中の二点鎖線は、Si縦波音速である9148[m/s]を示す。Si縦波音速とは、シリコン基板2を伝搬する縦波のバルク波音速である。
【0037】
図6に示すように、酸化ケイ素層4の厚みSiO2[λ]が0.15[λ]未満の場合には、第1の高次モードの位相を小さくすることができる。SiO2[λ]が0.125[λ]以下である場合には、第1の高次モードの位相を効果的に小さくすることができる。これは、SiO2[λ]が該範囲内である場合には、第1の高次モードを漏洩モードにすることができるためである。より詳細には、図7に示すように、SiO2[λ]が0.125[λ]以下である場合には、該高次モードの音速は、Si縦波音速よりも高くなる。それによって、第1の高次モードをシリコン基板2側に効果的に漏洩させることができ、第1の高次モードの位相を効果的に小さくすることができる。
【0038】
弾性波装置1は、例えば、帯域通過型フィルタなどのフィルタ装置に用いることができる。弾性波装置1は、ラダー型フィルタにおける直列腕共振子または並列腕共振子に用いられてもよい。あるいは、縦結合共振子型弾性波フィルタを含むフィルタ装置の弾性波共振子に用いられてもよい。弾性波装置1が用いられるフィルタ装置の回路構成は特に限定されない。弾性波装置1を、フィルタ装置に用いた場合には、減衰量の劣化を抑制することができる。この効果の詳細を以下において説明する。
【0039】
弾性波装置の、SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、及びLTθ[deg.]を変化させて、共振周波数の2.2倍の周波数における第1の高次モードの位相を測定した。該位相を測定した条件の弾性波装置を用いたフィルタ装置の、減衰量周波数特性を測定した。第1の高次モードが生じない場合のシミュレーションデータを基準として、共振周波数の2.2倍の周波数における、第1の高次モードによる減衰量の劣化量を算出した。
【0040】
図8は、第1の高次モードの位相と、フィルタ装置における減衰量の劣化量との関係を示す図である。
【0041】
図8に示すように、弾性波装置における第1の高次モードの位相と、フィルタ装置における減衰量の劣化量とにおいては、比例関係があることがわかる。具体的には、上記比例関係は、減衰量の劣化量をyとし、第1の高次モードの位相をxとしたときに、y=0.1524x+13.072により表される。第1の実施形態においては、第1の高次モードの位相を-20[deg.]以下に抑制することができる。よって、図8に示すように、フィルタ装置の減衰量の劣化量を10[dB]以下に抑制することができる。
【0042】
SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、及びLTθ[deg.]が、式1により導出される第1の高次モードの位相が-73[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度であることが好ましい。この場合には、図8に示すように、フィルタ装置における減衰量の劣化量を2[dB]以下に抑制することができる。よって、フィルタ装置の減衰特性をより一層改善することができる。
【0043】
第1の高次モードの位相の下限は、特に限定されないが、例えば、-90[deg.]としてもよい。第1の高次モードの位相は、-90[deg.]以上としてもよく、あるいは、-90[deg.]より大きいとしてもよい。
【0044】
上記においては、本発明に係る弾性波装置の設計パラメータの一例を示した。以下において、他の設計パラメータの例を挙げる。
【0045】
シリコン基板2;材料…Si単結晶、面方位…(111)、オイラー角…(-45[deg.],-54.7[deg.],73[deg.])
窒化ケイ素層3;材料…SiN、厚みSiN[λ]…50[nm]
酸化ケイ素層4;材料…SiO、厚みSiO2[λ]…400[nm]
タンタル酸リチウム層5;材料…35Y-LiTaO、厚みLT[λ]…300[nm]、オイラー角におけるLTθ[deg.]…125[deg.]
【0046】
以下のような設計パラメータであってもよい。
【0047】
シリコン基板2;材料…Si単結晶、面方位…(111)、オイラー角…(-45[deg.],-54.7[deg.],30[deg.])
窒化ケイ素層3;材料…SiN、厚みSiN[λ]…250[nm]
酸化ケイ素層4;材料…SiO、厚みSiO2[λ]…150[nm]
タンタル酸リチウム層5;材料…30Y-LiTaO、厚みLT[λ]…300[nm]、オイラー角におけるLTθ[deg.]…120[deg.]
【0048】
あるいは、以下のような設計パラメータであってもよい。
【0049】
シリコン基板2;材料…Si単結晶、面方位…(111)、オイラー角…(-45[deg.],-54.7[deg.],60[deg.])
窒化ケイ素層3;材料…SiN、厚みSiN[λ]…650[nm]
酸化ケイ素層4;材料…SiO、厚みSiO2[λ]…300[nm]
タンタル酸リチウム層5;材料…35Y-LiTaO、厚みLT[λ]…300[nm]、オイラー角におけるLTθ[deg.]…125[deg.]
【0050】
なお、IDT電極6の波長λは1.3μm以上、1.6μm以下であることが好ましい。IDT電極6の厚みは100nm以上、140nm以下であることが好ましい。IDT電極6のデューティ比は0.3以上、0.6以下であることが好ましい。IDT電極6は、例えば、AlCu電極であってもよい。
【0051】
ここで、図5中の矢印Bに示すように、第1の実施形態においては、第1の高次モードだけでなく、共振周波数の1.5倍の周波数における第2の高次モードも効果的に抑制されていることがわかる。さらに、矢印Aに示すように、レイリー波も効果的に抑制されている。第2の高次モードの抑制の効果の詳細を説明した後、レイリー波の抑制の効果の詳細を説明する。
【0052】
弾性波装置の設計パラメータを、上記の式1の導出の際と同様の範囲において変化させ、第2の高次モードの位相を測定した。これらの結果から、第2の高次モードの位相と各パラメータとの関係式である、式2を導出した。
【0053】
本実施形態の弾性波装置1は、上記1)及び2)の構成以外に、下記の構成も有する。3-1)0[deg.]≦SiΨ[deg.]≦30[deg.]であること。4-1)LT[λ]≦0.179[λ]であること。5-1)SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、LTθ[deg.]、及びSiΨ[deg.]が、下記の式2により導出される第2の高次モードの位相が-70[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度であること。それによって、第1の高次モードに加えて、第2の高次モードも抑制することができる。
【0054】
【数3】
【0055】
弾性波装置における、SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、及びLTθ[deg.]を変化させて、共振周波数の1.5倍の周波数における第2の高次モードの位相を測定した。該位相を測定した条件の弾性波装置を用いたフィルタ装置の、減衰量周波数特性を測定した。第2の高次モードが生じない場合のシミュレーションデータを基準として、共振周波数の1.5倍の周波数における、第2の高次モードによる減衰量の劣化量を算出した。
【0056】
図9は、第2の高次モードの位相と、フィルタ装置における減衰量の劣化量との関係を示す図である。
【0057】
図9に示すように、弾性波装置における第2の高次モードの位相と、フィルタ装置における減衰量の劣化量とにおいては、比例関係があることがわかる。具体的には、上記比例関係は、減衰量の劣化量をyとし、第2の高次モードの位相をxとしたときに、y=0.256x+22.917により表される。第1の実施形態においては、第2の高次モードの位相を-70[deg.]以下に抑制することができる。よって、図9に示すように、フィルタ装置の減衰量の劣化量を5[dB]以下に抑制することができる。
【0058】
SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、LTθ[deg.]、及びSiΨ[deg.]が、式2により導出される第2の高次モードの位相が-82[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度であることが好ましい。この場合には、図9に示すように、フィルタ装置における減衰量の劣化量を2[dB]以下に抑制することができる。よって、フィルタ装置の減衰特性をより一層改善することができる。
【0059】
第2の高次モードの位相の下限は、特に限定されないが、例えば、-90[deg.]としてもよい。第2の高次モードの位相は、-90[deg.]以上としてもよく、あるいは、-90[deg.]より大きいとしてもよい。
【0060】
さらに、式2と同様にして、第2の高次モードの位相と各パラメータとの関係式である、式3~式5を導出した。上記3-1)、4-1)及び5-1)の構成の代わりに、下記の3-2)、4-2)及び5-2)の構成、3-3)、4-3)及び5-3)の構成、並びに3-4)、4-4)及び5-4)の構成のうちのいずれかを有していてもよい。
【0061】
3-2)30[deg.]<SiΨ[deg.]≦60[deg.]であること。4-2)LT[λ]≦0.179[λ]であること。5-2)SiO2[λ]、LT[λ]、及びSiΨ[deg.]が、下記の式3により導出される第2の高次モードの位相が-70[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度であること。
【0062】
【数4】
【0063】
この場合には、第2の高次モードを抑制することができる。SiO2[λ]、LT[λ]、及びSiΨ[deg.]が、式3により導出される第2の高次モードの位相が-82[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度であることが好ましい。この場合には、第2の高次モードをより一層抑制することができる。それによって、弾性波装置をフィルタ装置に用いた場合、減衰特性をより一層改善することができる。
【0064】
3-3)0[deg.]≦SiΨ[deg.]≦30[deg.]であること。4-3)LT[λ]>0.179[λ]であること。5-3)SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、LTθ[deg.]、及びSiΨ[deg.]が、下記の式4により導出される第2の高次モードの位相が-70[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度であること。
【0065】
【数5】
【0066】
この場合には、第2の高次モードを抑制することができる。SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、LTθ[deg.]、及びSiΨ[deg.]が、式4により導出される第2の高次モードの位相が-82[deg.]以下となることが好ましい。この場合には、第2の高次モードをより一層抑制することができる。それによって、弾性波装置をフィルタ装置に用いた場合、減衰特性をより一層改善することができる。
【0067】
3-4)IDT電極6がアルミニウム電極であり、30[deg.]<SiΨ[deg.]≦60[deg.]であること。4-4)LT[λ]>0.179[λ]であること。5-4)Al[λ]、SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、LTθ[deg.]、及びSiΨ[deg.]が、下記の式5により導出される第2の高次モードの位相が-70[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度であること。
【0068】
【数6】
【0069】
この場合には、第2の高次モードを抑制することができる。Al[λ]、SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、LTθ[deg.]、及びSiΨ[deg.]が、式5により導出される第2の高次モードの位相が-82[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度であることが好ましい。この場合には、第2の高次モードをより一層抑制することができる。それによって、弾性波装置をフィルタ装置に用いた場合、減衰特性をより一層改善することができる。
【0070】
第1の実施形態においては、第1の高次モード及び第2の高次モードを抑制することができると共に、レイリー波を抑制することもできる。以下において、レイリー波の抑制の効果の詳細を説明する。
【0071】
弾性波装置の設計パラメータを、上記の式1の導出の際と同様の範囲において変化させ、レイリー波の位相を測定した。これらの結果から、レイリー波の位相と各パラメータとの関係式である、式6を導出した。
【0072】
本実施形態の弾性波装置1は、上記1)、2)、3-1)、4-1)及び5-1)の構成以外に、下記の構成も有する。6)IDT電極6がアルミニウム電極であること。7)Al[λ]、SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、LTθ[deg.]、及びSiΨ[deg.]が、下記の式6により導出されるレイリー波の位相が-72[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度であること。それによって、第1の高次モード及び第2の高次モードに加えて、レイリー波を抑制することができる。
【0073】
【数7】
【0074】
なお、第1の実施形態の弾性波装置1は、上記の3-1)、4-1)及び5-1)の構成、3-2)、4-2)及び5-2)の構成、3-3)、4-3)及び5-3)の構成、並びに3-4)、4-4)及び5-4)の構成を必ずしも有していなくともよい。弾性波装置1は、上記1)、2)、6)及び7)の構成を有するものであってもよい。あるいは、弾性波装置1は、少なくとも上記1)及び2)の構成を有していればよい。
【0075】
レイリー波は、タンタル酸リチウム層5のカット角を適切な値とすることにより、抑制することができる。しかしながら、レイリー波を抑制することができる上記カット角にするだけでは、第1の高次モードを十分に抑制することは困難である。この例を図10及び図11により示す。なお、第1の実施形態の構成においては、タンタル酸リチウム層5のカット角は、結晶の等価性から、{(LTθ-180)+90}[°Y]=(LTθ-90)[°Y]により表される。以下においては、タンタル酸リチウム層5のカット角を、LTカット角[°Y]、または単位を省略したLTカット角と記載することがある。
【0076】
図10は、LTカット角と、レイリー波の結合係数との関係を示す図である。図11は、LTカット角と、第1の高次モードの結合係数との関係を示す図である。
【0077】
従来、LTカット角は、例えば55[°Y]とされることがあった。この場合には、図10及び図11に示すように、レイリー波及び第1の高次モードの双方の結合係数を十分に小さくすることはできていない。ここで、図10に示す例においては、タンタル酸リチウム層5のLTカット角が40[°Y]のときに、レイリー波の結合係数を0とすることができる。しかしながら、図11に示すように、LTカット角を40[°Y]にしたとしても、第1の高次モードの結合係数を0とすることはできない。
【0078】
これに対して、第1の実施形態においては、LTカット角[°Y]の調整、すなわちLTθ[deg.]の調整がされた構成というだけではなく、例えば、LT[λ]及びSiO2[λ]の値を小さくするなどの構成としている。より具体的には、弾性波装置1は、式1により導出される第1の高次モードの位相が-20[deg.]以下となる条件を満たし、かつ式6により導出されるレイリー波の位相が-72[deg.]以下となる条件を満たす。それによって、第1の高次モードに加えて、レイリー波を抑制することができる。
【0079】
弾性波装置における、Al[λ]、SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、LTθ[deg.]、及びSiΨ[deg.]を変化させて、共振周波数の0.7倍の周波数におけるレイリー波の位相を測定した。該位相を測定した条件の弾性波装置を用いたフィルタ装置の、減衰量周波数特性を測定した。レイリー波が生じない場合のシミュレーションデータを基準として、共振周波数の0.7倍の周波数における、レイリー波による減衰量の劣化量を算出した。
【0080】
図12は、レイリー波の位相と、フィルタ装置における減衰量の劣化量との関係を示す図である。
【0081】
図12に示すように、弾性波装置におけるレイリー波の位相と、フィルタ装置における減衰量の劣化量とにおいては、比例関係があることがわかる。具体的には、上記比例関係は、減衰量の劣化量をyとし、レイリー波の位相をxとしたときに、y=0.1239x+10.968により表される。第1の実施形態においては、レイリー波の位相を-72[deg.]以下に抑制することができる。よって、図12に示すように、フィルタ装置の減衰量の劣化量を2[dB]以下に抑制することができる。
【0082】
Al[λ]、SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、LTθ[deg.]、及びSiΨ[deg.]が、式6により導出されるレイリー波の位相が-84[deg.]以下となる範囲内の厚み及び角度であることが好ましい。この場合には、図12に示すように、フィルタ装置における減衰量の劣化量を0.5[dB]以下に抑制することができる。よって、フィルタ装置の減衰特性をより一層改善することができる。
【0083】
レイリー波の位相の下限は、特に限定されないが、例えば、-90[deg.]としてもよい。レイリー波の位相は、-90[deg.]以上としてもよく、あるいは、-90[deg.]より大きいとしてもよい。
【0084】
弾性波装置1は、式1により導出される位相が-20[deg.]以下となる条件、式2により導出される位相が-70[deg.]以下となる条件、及び式6により導出される位相が-72[deg.]以下となる条件を満たす。より具体的には、弾性波装置1のAl[λ]、SiN[λ]、SiO2[λ]、LT[λ]、LTθ[deg.]、及びSiΨ[deg.]が、上記各条件を満たす範囲内の厚み及び角度である。そのため、例えば、LTθを変化させても、他の各厚み及び角度を調整することにより、第1の高次モード、第2の高次モード及びレイリー波を抑制することができる。この例を以下において示す。
【0085】
第1の実施形態の構成を有する弾性波装置1におけるLTカット角を変化させて、すなわちLTθを変化させて、レイリー波、第1の高次モード及び第2の高次モードの位相を測定した。なお、該弾性波装置1の設計パラメータは以下の通りである。
【0086】
シリコン基板2;材料…Si単結晶、面方位…(111)、オイラー角…(-45[deg.],-54.7[deg.],30[deg.])
窒化ケイ素層3;材料…SiN、厚みSiN[λ]…50[nm]
酸化ケイ素層4;材料…SiO、厚みSiO2[λ]…400[nm]
タンタル酸リチウム層5;材料…LiTaO、厚みLT[λ]…300[nm]、LTカット角[°Y]…25[°Y]以上、36[°Y]以下の範囲において、1[°Y]刻みで変化させた。
【0087】
IDT電極6;材料…Al、厚み…140[nm]、波長…1.4[μm]
【0088】
図13は、LTカット角と、レイリー波の位相との関係を示す図である。図14は、LTカット角と、第1の高次モードの位相との関係を示す図である。図15は、LTカット角と、第2の高次モードの位相との関係を示す図である。
【0089】
図13に示すように、LTカット角が25[°Y]以上、36[°Y]以下の範囲内において、レイリー波の位相は-72[deg.]未満である。一方で、図14及び図15に示すように、LTカット角が25[°Y]以上、36[°Y]以下の範囲内において、第1の高次モードの位相は-20[deg.]未満であり、第2の高次モードの位相は-70[deg.]未満である。このように、上記設計パラメータとした場合においては、LTカット角が25[°Y]以上、36[°Y]以下の範囲内において、第1の高次モード、第2の高次モード及びレイリー波を十分に抑制することができる。よって、LTカット角を変化させても、すなわちLTθを変化させても、他の各厚み及び角度を調整することにより、第1の高次モード、第2の高次モード及びレイリー波を十分に抑制できることがわかる。
【0090】
さらに、図13に示すように、LTカット角が26[°Y]以上、36[°Y]以下の範囲内において、レイリー波の位相を-84[deg.]未満に抑制することができる。LTカット角が29[°Y]以上、35[°Y]以下の範囲内においては、レイリー波の位相を-88[deg.]未満に抑制することができる。
【0091】
図16は、第2の実施形態に係る複合フィルタ装置の模式的回路図である。
【0092】
複合フィルタ装置20はマルチプレクサである。より具体的には、複合フィルタ装置20は、共通接続端子22、第1のフィルタ装置21A、第2のフィルタ装置21B及び第3のフィルタ装置21Cを有する。第1のフィルタ装置21Aは、本発明の一実施形態に係る弾性波装置を含む。第1のフィルタ装置21A、第2のフィルタ装置21B及び第3のフィルタ装置21Cは、共通接続端子22に共通接続されている。共通接続端子22は、例えば、アンテナに接続される。共通接続端子22は、電極パッドとして構成されていてもよく、配線として構成されていてもよい。
【0093】
第1のフィルタ装置21Aは第1の通過帯域を有する。第2のフィルタ装置21Bは第2の通過帯域を有する。第3のフィルタ装置21Cは第3の通過帯域を有する。第1の通過帯域、第2の通過帯域及び第3の通過帯域は互いに異なる。第1のフィルタ装置21A、第2のフィルタ装置21B及び第3のフィルタ装置21Cは、それぞれ、送信フィルタであってもよく、受信フィルタであってもよい。
【0094】
複合フィルタ装置20は、第1のフィルタ装置21A、第2のフィルタ装置21B及び第3のフィルタ装置21C以外の複数のフィルタ装置を有する。もっとも、複合フィルタ装置20のフィルタ装置の個数は、特に限定されない。なお、複合フィルタ装置20は、第1のフィルタ装置21A及び第2のフィルタ装置21Bのみを有していてもよい。この場合、複合フィルタ装置20は、例えば、デュプレクサである。
【0095】
図16に示すように、本実施形態においては、第1のフィルタ装置21Aはラダー型フィルタである。第1のフィルタ装置21Aは、直列腕共振子S1、直列腕共振子S2、直列腕共振子S3、直列腕共振子S4、並列腕共振子P1、並列腕共振子P2及び並列腕共振子P3を有する。直列腕共振子S1、直列腕共振子S2、直列腕共振子S3及び直列腕共振子S4は、互いに直列に接続されている。直列腕共振子S1及び直列腕共振子S2の間の接続点と、グラウンド電位との間に、並列腕共振子P1が接続されている。直列腕共振子S2及び直列腕共振子S3の間の接続点と、グラウンド電位との間に、並列腕共振子P2が接続されている。直列腕共振子S3及び直列腕共振子S4の間の接続点と、グラウンド電位との間に、並列腕共振子P3が接続されている。最も共通接続端子22側に位置する共振子は、直列腕共振子S1である。
【0096】
直列腕共振子S1が本発明の一実施形態に係る弾性波装置である。もっとも、第1のフィルタ装置21Aの直列腕共振子S1以外の共振子が本発明に係る弾性波装置であってもよい。第1のフィルタ装置21Aは、本発明に係る弾性波装置を少なくとも1個有していればよい。なお、第1のフィルタ装置21Aの回路構成は上記に限定されない。
【0097】
他方、第2のフィルタ装置21B及び第3のフィルタ装置21Cの回路構成は特に限定されない。
【0098】
直列腕共振子S1においては、共振周波数の2.0倍以上、2.5倍以下の周波数における第1の高次モードが励振される。さらに、共振周波数の1.2倍以上、1.7倍以下の周波数における第2の高次モード、及び共振周波数より低い周波数におけるレイリー波が励振される。もっとも、第1の実施形態と同様に、第1の高次モードは抑制される。他方、第2の高次モードの位相は-72[deg.]よりも大きい。レイリー波の位相は-70[deg.]よりも大きい。
【0099】
ここで、本実施形態においては、直列腕共振子S1の共振周波数の1.5倍における周波数及びレイリー波の周波数は、第2の通過帯域外に位置する。よって、第1のフィルタ装置21Aにおいて生じる第2の高次モード及びレイリー波による、第2のフィルタ装置21Bに対する影響を抑制することができる。なお、第1のフィルタ装置21Aにおいては、第1の高次モードが抑制されるため、第1の高次モードによる第2のフィルタ装置21Bに対する影響を抑制することもできる。より具体的には、例えば、第2のフィルタ装置21Bにおける挿入損失の劣化を抑制することができる。
【0100】
もっとも、直列腕共振子S1の共振周波数の1.5倍の周波数及びレイリー波の周波数のうちの少なくとも一方が、第2の通過帯域の帯域外に位置していればよい。直列腕共振子S1のレイリー波の周波数が第2の通過帯域の帯域外に位置する場合、第2の高次モードが抑制される条件を満たしていることが好ましい。より具体的には、直列腕共振子S1が、上記3-1)、4-1)及び5-1)の構成、3-2)、4-2)及び5-2)の構成、3-3)、4-3)及び5-3)の構成、並びに3-4)、4-4)及び5-4)の構成のうちのいずれかを有することが好ましい。あるいは、直列腕共振子S1の共振周波数の1.5倍における周波数が第2の通過帯域の帯域外に位置する場合、レイリー波が抑制される条件を満たしていることが好ましい。より具体的には、直列腕共振子S1が、上記6)及び7)の構成を有することが好ましい。これらの場合には、第1の高次モード、第2の高次モード及びレイリー波による、第2のフィルタ装置21Bに対する影響を抑制することができる。
【0101】
ここで、レイリー波は、共振周波数よりも低い周波数において生じる。よって、レイリー波が第2の通過帯域の帯域外に位置している構成においては、第2の通過帯域が、第1の通過帯域よりも低い周波数帯域である場合に好適である。他方、第2の高次モードが第2の通過帯域の帯域外に位置している構成においては、第2の通過帯域が、第1の通過帯域より高い周波数帯域である場合に好適である。
【0102】
本実施形態の構成は、第2の高次モードまたはレイリー波が十分に抑制されていない場合に特に好適である。もっとも、本実施形態の構成において、第2の高次モードの位相は-72[deg.]以下であってもよい。同様に、レイリー波の位相は-70[deg.]以下であってもよい。
【符号の説明】
【0103】
1…弾性波装置
2…シリコン基板
3…窒化ケイ素層
4…酸化ケイ素層
5…タンタル酸リチウム層
6…IDT電極
7A,7B…反射器
8…誘電体膜
16…第1のバスバー
17…第2のバスバー
18…第1の電極指
19…第2の電極指
20…複合フィルタ装置
21A,21B,21C…第1,第2,第3のフィルタ装置
22…共通接続端子
P1~P3…並列腕共振子
S1~S4…直列腕共振子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16