(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 9/04 20060101AFI20221206BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20221206BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20221206BHJP
C12Q 1/32 20060101ALN20221206BHJP
G01N 33/66 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
C12N9/04 D ZNA
C12N15/53
C12M1/34 E
C12Q1/32
G01N33/66 C
(21)【出願番号】P 2020129684
(22)【出願日】2020-07-30
(62)【分割の表示】P 2016569494の分割
【原出願日】2016-01-14
【審査請求日】2020-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2015006383
(32)【優先日】2015-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】歌島 悠
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/038660(WO,A1)
【文献】特開2013-090621(JP,A)
【文献】特開2013-081399(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073987(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/019674(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/04
C12Q 1/32
C12M 1/34
G01N 33/66
C12N 15/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下より選ばれる微生物に由来するFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼをコードするDNAを宿主に導入して形質転換し、形質転換された宿主を培養し、培養された宿主又は培養液からFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼを取得する、FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法であって、
FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼの由来元微生物は、トリコデルマ(Trichoderma)属、ニューロスポラ(Neurospora)属、モナスカス(Monascus)属、フサリウム(Fusarium)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属、シゾサッカロマイセス(Sygosaccharomyces)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、シゾフィリウム(Schizophyllum)属、ムコール(Mucor)属、アブシジア(Absidia)属、アクチノムコール(Actinomucor)属、コレトトリチウム(Colletotrichium)属、シルシネラ(Circinella)属、及びアースリニウム(Arthrininm)属のいずれかの属に属する微生物であり、
前記宿主は、och1遺伝子が破壊された又はoch1遺伝子の機能が低下したアスペルギルス属に属する微生物であり、
製造されるFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼの分子量は85~100kDaであり、
製造されるFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼは、SDS-PAGEにより観察される分子量分布の幅が、バンドの濃さの相対値が最大値の60%を超える分子量分布で見た場合に50kDa以内である、
製造方法。
【請求項2】
FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼの由来元微生物は、ムコール属、アブシジア属、アクチノムコール属、コレトトリチウム属、シルシネラ属
およびアースリニウム
属のいずれかの属に属する微生物である、請求項1に記載のFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法。
【請求項3】
FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼの由来元微生物は、ムコール属またはシルシネラ属に属する微生物である、請求項1に記載のFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法。
【請求項4】
FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼの由来元微生物は、ムコール・プライニ、ムコール・ヒエマリス、ムコール・スブチリシムスまたはシルシネラ・シンプレックスである、請求項1に記載のFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法。
【請求項5】
前記宿主は、och1遺伝子が破壊された又はoch1遺伝子の機能が低下したアスペルギルス・オリゼである、請求項1~4のいずれかに記載のFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法。
【請求項6】
前記分子量分布の幅が、バンドの濃さの相対値が最大値の60%を超える分子量分布で見た場合に40kDa以内である、請求項1~5のいずれかに記載のFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法。
【請求項7】
前記分子量分布の幅が、バンドの濃さの相対値が最大値の60%を超える分子量分布で見た場合に30kDa以内である、請求項1~5のいずれかに記載のFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼ、前記FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼを含むグルコースセンサ、およびそれらを用いてグルコース濃度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血中グルコース濃度の測定は、糖尿病患者が適当な血糖コントロールを行うにあたって必要不可欠である。日常的に血糖値をチェックするために、例えば、グルコースオキシダーゼ(本明細書ではGODとも記載する。)もしくはグルコースデヒドロゲナーゼ(本明細書ではGDHとも記載する。)を利用したグルコースセンサや簡易型自己血糖測定キットが使われる。GODは血糖測定用酵素として古くから用いられているが、溶存酸素が測定値に影響を与えることから、近年ではGDHを用いたものが主流となってきている。GDHを原料としたグルコースセンサは、GDHの以下の反応を利用して血液中のグルコース濃度を測定するものである。
D-グルコース + 電子受容体(酸化型) →
D-グルコノ-δ-ラクトン + 電子受容体(還元型)
すなわち、グルコースを酸化することによって生じる電子の流れを測定することにより、グルコースの定量を可能にしている。これまでに血糖測定に用いられているGDHとしては、反応に要する補酵素の違いから、ニコチンアミド依存型、ピロロキノリンキノン(本明細書ではPQQとも記載する。)依存型、フラビンアデニンジヌクレオチド(本明細書ではFADとも記載する。)依存型の3種類が知られている。ニコチンアミド依存型としてはバチルス属由来のものが市販されているが、補酵素を含んだホロ酵素の状態で精製することができないため、センサを作製するにあたって補酵素となるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(本明細書ではNADとも記載する。)などを加えなければならない。この煩雑さ及び補酵素となるNAD等が高価であることが問題点として挙げられる。一方、PQQ依存型GDHはホロ酵素での提供が可能であり、また比活性が高くグルコースに対する十分な応答シグナルを得られるという利点がある一方で、基質特異性の厳密さに欠け、マルトース等のグルコース以外の糖類にも反応してしまう点が問題視されている。これらの問題点をクリアしうるものとして、FAD依存型GDHが浸透しつつある。
【0003】
FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(本明細書ではFADGDHとも記載する。)は、アスペルギルス属由来のもの(特許文献1、2および7)、ペニシリウム(penicillium)属由来のもの(特許文献3)、ケカビ科糸状菌由来のもの(特許文献4~6)などが知られている。また、こうしたGDHを使用したグルコースセンサ(血糖センサ)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4494978号
【文献】特許第4292486号
【文献】米国特許7494494号
【文献】特許第4648993号
【文献】特開2013-90621
【文献】特開2013-116102
【文献】WO2006/101239
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、より優れたFADGDHを提供することであり、前記FADGDHを用いてより優れたグルコースセンサを構築することであり、また、それらを用いてグルコース濃度を測定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々のFADGDHを用いてグルコースセンサの特性を種々検討した。その結果、重要な問題点として、糖鎖を有するFADGDHを用いて作製されたグルコースセンサにおいて、電極における応答値に差が生じることを見出した。
【0007】
本発明者らは、さらに検討を行い、電極における応答値の差の原因がグルコースセンサに用いるFADGDHの分子量の均一性にあることを見出した。本発明者らは、さらに、グルコースセンサに用いるFADGDHの分子量の均一性を高めることによって、グルコース濃度とグルコースセンサの応答値との比例関係が、より高濃度まで維持されることを明らかにした。
【0008】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の項1~項4から構成されるものである。
項1.
SDS-PAGEにより観察される分子量分布の幅が、バンドの濃さの相対値が最大値の60%を超える分子量分布で見た場合に50kDa以内である、FAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼ。
項2.
以下のいずれか1種より選ばれる微生物に由来する、項1に記載のFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼ。
アスペルギルス(Aspergillus)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ニューロスポラ(Neurospora)属、モナスカス(Monascus)属、フサリウム(Fusarium)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属、シゾサッカロマイセス(Sygosaccharomyces)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、シゾフィリウム(Schizophyllum)属、ムコール(Mucor)属、アブシジア(Absidia)属、アクチノムコール(Actinomucor)属、コレトトリチウム(Colletotrichium)属、シルシネラ(Circinella)属、アースリニウム(Arthrininm)属
項3.
項1または2に記載のFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼを含む、グルコースセンサ。
項4.
項1または2に記載のFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼまたは項3に記載のグルコースセンサを用いてグルコース濃度を測定する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、性能の優れたグルコースセンサを供給することが可能であり、そのようなグルコースセンサに好適なGDHを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、各アスペルギルス属のoch1オルソログのアミノ酸配列の同一性を比較した図である。
【
図2】
図2は、アスペルギルス・オリゼのoch1遺伝子の破壊方法を示した図である。
【
図3】
図3は、アスペルギルス・オリゼ発現プラスミドpTNE-AomFADGDHのベクターマップを示した図である。
【
図4】
図4は、精製酵素AomFADGDHとΔoch1-AomFADGDHをSDS-PAGEした図である。
【
図5】
図5は、精製酵素AomFADGDH(図ではAOと記載、●でプロット)とΔoch1-AomFADGDH(図ではAO-ochと記載、▲でプロット)を用いて電極における応答値を測定した図である。図において、多項式(AO)、多項式(AO-och)とは、それぞれプロットされた測定値を基に項数を2次として多項式近似を行って作成した近似曲線を示す。
【
図6】
図6は、精製酵素AtFADGDHとΔoch1-AtFADGDHをSDS-PAGEした図である。
【
図7】
図7は、
図4で示されたAomFADGDHのバンドの濃淡をスキャンして横軸に分子量、縦軸にバンドの相対的な濃さをプロットした図である。
【
図8】
図8は、
図4で示されたΔoch1-AOmFADGDHのバンドの濃淡をスキャンして横軸に分子量、縦軸にバンドの相対的な濃さをプロットした図である。
【
図9】
図9は、
図6で示されたAtFADGDHのバンドの濃淡をスキャンして横軸に分子量、縦軸にバンドの相対的な濃さをプロットした図である。
【
図10】
図10は、
図6で示されたΔoch1-AtFADGDHのバンドの濃淡をスキャンして横軸に分子量、縦軸にバンドの相対的な濃さをプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(FADGDH)
本発明の実施形態の一つは、SDS-PAGEにより観察される分子量分布の幅が、バンドの濃さの相対値が最大値の60%を超える分子量分布で見た場合に50kDa以内であ
る、FADGDHである。
【0012】
本発明において、分子量分布はSDS-PAGEにより決定する。具体的には、以下の(1)~(4)に記載の方法に従う。
(1)SDS-PAGEを、Nu-PAGE 4-12% Bis-Tris Gel(Invitrogen社製)を用い、分子量がそれぞれ50、60、70、80、90、100、120、160および220kDaのラダーを持つ分子量マーカー(BenchMarkTM Protein Ladder)を適用して、実行する。
(2)前記(1)のSDS-PAGEの結果で示されたバンドの濃淡をスキャンして、横軸に分子量、縦軸にバンドの相対的な濃さをプロットする。スキャンおよびプロットにはGel Pro analyzer(日本ローパー製)を用いる。
(3)前記(2)でプロットした結果から、バンドの濃さの相対値が最大値の60%を超える分子量範囲を読み取る。
(4)本発明における分子量分布は、前記(3)で読み取った分子量範囲を含む最少の分子量の幅を、前記(1)で使用した分子量マーカーのラダーで設定されている各分子量で区切って表す。例えば、前記(3)で読み取った分子量範囲が75-85kDaであれば分子量分布は70-90kDaとなり、85-105kDaであれば分子量分布は80-120kDaとなる。
【0013】
本発明のFADGDHの分子量分布の幅は、前記の方法で測定した場合50kDa以内である。分子量分布の幅は、さらに好ましくは40kDa以内、さらに好ましくは30kDa以内、さらに好ましくは20kDa以内である。
【0014】
本発明のFADGDHの由来は特に限定されないが、以下の(A)群で示される中のいずれか1種より選ばれる微生物に由来することが好ましい。
(A)アスペルギルス属、トリコデルマ属、ニューロスポラ属、モナスカス属、フサリウム属、サッカロマイセス属、ピキア属、キャンディダ属、シゾサッカロマイセス属、クリプトコッカス属、シゾフィリウム属、ムコール属、アブシジア属、アクチノムコール属、コレトトリチウム属、シルシネラ属およびアースリニウム属。
【0015】
本発明のFADGDHは、以下の(B)群で示される中のいずれか1種より選ばれる微生物に由来することがより好ましい。
(B)アスペルギルス属、ムコール属、アブシジア属、アクチノムコール属、コレトトリチウム属、シルシネラ属、アースリニウム属およびペニシリウム属
【0016】
本発明のFADGDHは、さらに好ましくは、アスペルギルス属、ムコール属およびシルシネラ属からなる群のうちいずれかに由来する。このようなものとしては、たとえば、アスペルギルス・オリゼ(配列番号3)、アスペルギルス・テレウス(配列番号4)、ムコール・プライニ(prainii)(配列番号5)、ムコール・ヒエマリス(hiemalis)(配列番号6)、ムコール・スブチリシムス(subtilissimus)(配列番号7)、シルシネラ・シンプレックス(simplex)(配列番号8)などが挙げられる。
【0017】
本発明のFADGDHは、さらに好ましくはアスペルギルス属の微生物に由来する。本発明のFADGDHは、さらに好ましくは、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus orizae)、または、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)中のいずれか1種の微生物に由来する。
【0018】
本発明のFADGDHは、前記それぞれの微生物のアミノ酸配列等に、FADGDHとしての機能を失わない程度に改変を加えたものであっても良い。アミノ酸配列を改変する場合、その改変の程度は特に限定されないが、たとえば、1または数個の置換、欠失、挿入、および/または付加がされていてもよいし、野生型のアミノ酸配列と70%(好ましくは75%、さらに好ましくは80%、さらに好ましくは85%、さらに好ましくは90%、さらに好ましくは95%、さらに好ましくは98%、さらに好ましくは99%)以上の同一性を有するものであってもよい。
【0019】
本発明のFADGDHの糖鎖含量は、野生型の微生物により生産されるものと比較して均一化されていることが好ましい。その均一化の度合いは分子量分布の幅で表され、前記の方法で測定した場合50kDa以内である。分子量分布の幅は、さらに好ましくは40kDa以内、さらに好ましくは30kDa以内、さらに好ましくは20kDa以内である。
【0020】
本発明のFADGDHの糖鎖含量は、野生型の微生物により生産されるものと比較して減少していることが好ましい。その減少の度合いは特に限定されないが、好ましくは、野生型のものに比べて60%以下、さらに好ましくは実質的に56.3%と同じかそれ未満(本明細書では、「実質的に同じ」とは、測定のばらつき等を考慮して区別がつかない状態を言う。)、さらに好ましくは実質的に55%と同じかそれ未満、さらに好ましくは実質的に51.5%と同じかそれ未満、さらに好ましくは実質的に44.0%と同じかそれ未満である。
【0021】
本明細書において、FADGDHの糖鎖含量は、FADGDH全体(ポリペプチド鎖部分と糖鎖部分の両方を含む)の分子量とFADGDHのポリペプチド鎖部分のみの分子量(アミノ酸配列から計算できる。)とを求めたのち、FADGDH全体の分子量からFADGDHのポリペプチド鎖部分のみの分子量を差し引いた値を糖鎖部分の分子量とし、この値をFADGDH全体の分子量で割ることにより求める。
【0022】
本明細書において、分子量は、以下の(1)(2)(5)~(7)に記載の方法に従って求める。
(1)SDS-PAGEを、Nu-PAGE 4-12% Bis-Tris Gel(Invitrogen社製)を用い、分子量がそれぞれ50、60、70、80、90、100、120、160および220kDaのラダーを持つ分子量マーカー(BenchMarkTM Protein Ladder)を適用して、実行する。
(2)前記(1)のSDS-PAGEの結果で示されたバンドの濃淡をスキャンして、横軸に分子量、縦軸にバンドの相対的な濃さをプロットする。スキャンおよびプロットにはGel Pro analyzer(日本ローパー製)を用いる。
(5)前記(2)でプロットした結果から、バンドの相対的な濃さが最も高い分子量を読み取る。
(6)前記(5)で読み取った分子量範囲を含む最少の分子量の幅を、前記(1)で使用した分子量マーカーのラダーで設定されている各分子量で区切って表す。例えば、前記(5)で読み取ったバンドの相対的な濃さが最も高い分子量が76kDaであれば、その分子量の幅は70-80kDaとなる。
(7)前記(6)で表した分子量の幅の中心値(その幅の上限値と下限値とを足して2で割った値)を分子量とする。
【0023】
また、本発明のFADGDHは、前記のとおり糖鎖含量が減少する結果、分子量が野生型の微生物により生産されるものと比較して減少していることが好ましい。その減少の度合いは特に限定されないが、好ましくは、野生型のものに比べて88%以下、さらに好ましくは83%以下、さらに好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下、さらに好ましくは実質的に69.7%と同じかそれ未満、さらに好ましくは実質的に68.2%と同じかそれ未満、さらに好ましくは実質的に65%と同じかそれ未満、さらに好ましくは実質的に60.7%と同じかそれ未満である。
【0024】
また、本発明のFADGDHの分子量は、好ましくは100kDa以下(さらに好ましくは90kDa以下、さらに好ましくは実質的に88kDaと同じかそれ未満、さらに好ましくは85kDaと同じかそれ未満である。
【0025】
前記の本発明のFADGDHは、後述のグルコースセンサやグルコース測定方法への適用等を考慮して、適当な組成物の形態をとることが可能である。前記組成物の形態は特に限定されず、凍結乾燥や粉末などの乾燥状態および液体状態のどちらでもよい。そのような組成物の製造方法は既に当該技術分野において確立されている。よって、当業者はその知見を適用して本発明の組成物を製造することができ、その態様は特に制限されない。前記組成物に添加できる物質としては、例えば、後述のグルコースセンサに含まれても良いものとして本明細書に例示されている種々の物質が挙げられる。
【0026】
本発明のFADGDHは、後述の実施例で示されるように、グルコースセンサに用いた場合において、真のグルコース濃度に対する応答値の良好な比例関係が、野生型のFADGDHを用いたときと比較して、より高いグルコース濃度範囲まで確保される。その理由の一つとしては、糖鎖含量が低下したことで糖タンパク質重量当たりの活性が向上するため、センサに搭載する糖タンパク質重量が同じでも、酵素活性が相対的に高くなり、高い濃度のグルコースに対しても十分な応答を示すものと考えられる。
【0027】
また、本発明の生産方法により得られるFADGDHは、糖鎖含量が均一化することにより、酵素の精製段階において、クロマトグラフィーなどの工程で効率が向上し、その結果、精製収率が向上することが期待できる。
【0028】
(グルコースセンサ)
本発明の実施形態の一つは、前記のFADGDHを含むグルコースセンサである。
【0029】
前記グルコースセンサは、本発明のFADGDHを含むものであれば特に限定されない。例えば、電極としてカーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上に本発明の酵素を固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどを用いる方法があり、NADもしくはNADPといった補酵素、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のFADGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングすることができる。使用する電子メディエーターとしては、GDHの補酵素であるFADから電子を受け取り、発色物質や電極に電子を供与しうるものが挙げられ、たとえばフェリシアン化物塩、フェナジンエトサルフェート、フェナジンメトサルフェート、フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルフェニレンジアミン、1-メトキシ-フェナジンメトサルフェート、2,6-ジクロロフェノールインドフェノール、2,5-ジメチル-1,4-ベンゾキノン、2,6-ジメチル-1,4-ベンゾキノン、2,5-ジクロロ-1,4-ベンゾキノン、ニトロソアニリン、フェロセン誘導体、オスミウム錯体、ルテニウム錯体等が例示されるが、これらに限定されない。また、電極上のGDH組成物中には、安定化剤及び/又は活性化剤としてウシ血清アルブミン、セリシン等のタンパク質、TritonX-100、Tween20、コール酸塩、デオキシコール酸塩などの界面活性剤、グリシン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、グリシルグリシン等のアミノ酸、トレハロース、イノシトール、ソルビトール、キシリトール、グリセロール、スクロース等の糖及び/又は糖アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類、さらにはプルラン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリグルタミン酸などの親水性ポリマーを含んでもよい。
【0030】
(グルコース測定方法)
本発明の実施形態の一つは、前記のFADGDHまたは前記のグルコースセンサを用いてグルコース濃度を測定する方法である。グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースの測定方法は既に当該技術分野において確立されている。よって、公知の方法に従い、本発明のFADGDHを用いて、各種試料中のグルコースの量又は濃度を測定することができる。本発明のFADGDHを用いてグルコースの濃度又は量が測定可能である限り、その態様は特に制限されないが、例えば、本発明のFADGDHを試料中のグルコースに作用させ、グルコースの脱水素反応に伴う電子受容体(例えば、DCPIP)の構造変化を吸光度で測定することにより実施することができる。グルコースを含有する試料は、特に制限されないが、例えば、血液、飲料、食品等を挙げることができる。グルコース濃度又は量の測定が可能である限り、試料に添加する酵素の量は特に制限されない。
【0031】
前記のグルコースセンサを用いたグルコース濃度の測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明のFADGDHを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
【0032】
本発明のグルコース測定方法は、前記のグルコースセンサ以外に、グルコース測定用組成物やグルコースアッセイキットなど血中のグルコース濃度を測定する試薬、キット等を用いることによっても実行することができる。
【0033】
前記グルコース測定用組成物、前記グルコースアッセイキットは、本発明のFADGDHを少なくとも1回のアッセイに十分な量で含むものであれば特に限定されない。典型的には、本発明のFADGDH、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。
【0034】
前記のグルコースセンサ、グルコース測定用組成物およびグルコースアッセイキット等の利用方法や製造方法などは既に当該技術分野において確立されている。よって、当業者はその知見を適用してそれらのグルコースセンサ、グルコース測定試薬、グルコース測用キット等を製造し使用することができ、その態様は特に制限されない。たとえば、FADGDHを用いてグルコース濃度を測定する目的で用いる1セットのうち一部または全部を構成する製品であって、本発明のFADGDHを含むものであれば良い。
【0035】
(本発明のFADGDHの製造方法)
前記の本発明のFADGDH(SDS-PAGEにより観察される分子量分布の幅が、バンドの濃さの相対値が最大値の60%を超える分子量分布で見た場合に50kDa以内である、FADGDH)を製造する方法は特に限定されない。
例えば、公知の、タンパク質に付加する糖鎖の構造を改変制御できる技術を用いることにより、分子量の均一性を高めることができる。そのような技術を以下に例示する。
【0036】
タンパク質に結合する糖鎖にはタンパク質のアスパラギン残基に結合するN型とセリンまたはスレオニンに結合するO型の2種類があることが知られている。このうち、N型糖鎖の生合成経路については多くの知見があり、詳しく解析されている。
糖鎖の生合成は、まず小胞体(ER)で始まり、その後ゴルジ体でさらに糖鎖の修飾が起こる。このうちERで生成する糖鎖は真菌も哺乳類細胞も基本的には同じであることが判明している。その糖鎖は8分子のマンノース(Man)と2分子のNアセチルグルコサミン(GlcNAc)からなるコア構造(Man8GlcNAc2)が構成されている。このコア構造糖鎖を持つタンパク質はゴルジ体に輸送されて、種々の修飾を受ける。
【0037】
酵母に於いてERでの糖鎖の生成過程は、algファミリー遺伝子が合成を行う。まず、alg7,alg13,alg14遺伝子によってGlcNAcが付加され、次いで、alg1,alg2,alg11,alg3,alg9によってマンノースが付加されてコア構造を生成する。次に、ゴルジ体に運ばれた糖タンパク質はoch1によってさらにマンノースが付加された後、Mnn1,Mnn4,Mnn6によって多量のマンノースが付加されて、ハイパーマンノース型糖鎖へと生成される。
【0038】
酵母や糸状菌において、遺伝子工学的手法を用いることによって、上述する遺伝子の破壊により、分泌されるタンパク質に結合する糖鎖の構造を改変することが試みられている。例えば、Appl Environ Microbiol. 2008 74(4):1076-86には、糸状菌Aspergillus niger及びAspergillus niduransにおいてalg3(algC)遺伝子を破壊することによって、N型糖鎖に含まれるヘキソース量が低減することが示されており、alg3遺伝子がα1,3マンノシルトランスフェラーゼをコードすることが調べられている。さらに、PLoS One. 2010 5(12)においては、Aspergillus fumigatusにおいて、och1遺伝子を破壊することによって、糖鎖組成が変化することが調べられている。
【0039】
他方、糸状菌においては、J Biol Chem. 2009 284(18):11900-12によると、酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいて、alg2のG377R変異体は温度感受性になり、且つ糖鎖の鎖長も大幅に低減することが調べられている。また、Glycobiology. 1999 9(12):1287-93には、Rhizomucor pusillusにおいてalg2の変異体を取得したことが報告されており、5bpの挿入変異によってalg2の機能が低下した変異体においてN型糖鎖の殆どが、Man1GlcNAc2若しくは、Man2GlcNAc2の構造を有することが調べられている。
【0040】
また、以下に例示するように、och1遺伝子の機能を低下させた改変微生物を用いてFADGDHを生産する方法によっても、前記の本発明のFADGDHを製造することができる。
【0041】
och1遺伝子とは、タンパク質のアスパラギン残基に結合するN型糖鎖の生合成の関わる酵素の1つであるoch1の発現を制御する遺伝子である。
【0042】
och1遺伝子は糖タンパク質を合成する機能を有する微生物のほぼすべてに存在する。例えば、アスペルギルス属、トリコデルマ属、ニューロスポラ属、モナスカス属、フサリウム属、サッカロマイセス属、ピキア属、キャンディダ属、シゾサッカロマイセス属、クリプトコッカス属、シゾフィリウム属、ムコール属、アブシジア属、アクチノムコール属、コレトトリチウム属、シルシネラ属、アースリニウム属、コッシジオイデス(Coccidioides)属、ボトリティアナ(Botrytiania)属、レプトスファリア(Leptosphaeria)属、ポドスポラ(Podospora)属、チラビア(Thielavia)属、バーティシリウム(Verticillium)属、ヤロイワ(Yarrowia)属、シバリンデネラ(Cyberlindnera)属、シェファロマイセス(Scheffersomyces)属、エレモセシウム(Eremothecium)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属、サッカロマイセタセア(Saccharomycetaceae)属、アシビア(Ashbya)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、ラカンセア(Lachancea)属、ザイゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、カザキスタニア(Kazachstania)属、トルラスポラ(Torulaspora)属、ナウモボザイマ(Naumovozyma)属、テトラピシスポラ(Tetrapisispora)属、マイセリオフォソラ(Myceliophthora)属などが挙げられるが特に限定されない。
【0043】
本発明者らは、FADGDHの糖鎖含量がグルコースセンサにおける電極応答値に与える影響について、種々の、FADGDHを生産できる能力を有する微生物を用いて、より詳細に解析を行った。その結果、FADGDHを、アスペルギルス・オリゼを宿主として発現させ、液体培養によって前記宿主を増殖させた培養液から精製された精製酵素は、結合する糖鎖の組成が不均一であり、さまざまな鎖長の糖鎖が結合していると推察された。また、酵母サッカロマイセス・セレビシエを宿主として発現されたFADGDHの糖鎖は、アスペルギルス・オリゼを宿主として発現されたものと同じく様々な鎖長の糖鎖が結合しており、さらにその糖鎖の鎖長はアルペルギルス・オリゼを宿主として発現されたFADGDHよりも長いことが確認された。
【0044】
そこで、本発明者らは、FADGDHに結合する糖鎖含量を調節するために、さらに鋭意検討を重ねた。その結果、FADGDHを生産できる能力を有する微生物の糖鎖合成関連遺伝子の一つであるoch1遺伝子を破壊、若しくはその機能を低下させることによって、FADGDHに結合する糖鎖を大幅に短く(その結果、糖鎖含量を低減)することが出来、且つ、その糖鎖組成はほぼ均一となることを見出した。
微生物のoch1遺伝子の機能を低下させるための、より好ましい手段は、och1遺伝子に相当するDNAを破壊することである。
【0045】
上記で例示された、本発明のFADGDHを製造する方法において、och1遺伝子の配列は特に限定されないが、例えば、アスペルギルス・オリゼ(oryzae)に由来するものであれば、配列番号2のDNA配列が挙げられる。配列番号2は、配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNA配列である。
【0046】
och1遺伝子の配列は、微生物の種類によって異なるが、例えば、アスペルギルス属の微生物の間では高度に保存されている。また、アスペルギルス属以外の微生物においても、相同性検索から、Coccidioides属、Botrytiania属、Leptosphaeria属、Podospora属、Thielavia属、Verticillium属、Fusarium属、Yarrowia属、Neurospora属、Cyberlindnera属、Pichia属、Candida属、Scheffersomyces属、Eremothecium属、Debaryomyces属、Saccharomycetaceae属、Ashbya属、Kluyveromyces属、Lachancea属、Zygosaccharomyces属、Saccharomyces属、Kazachstania属、Torulaspora属、Naumovozyma属、Tetrapisispora属、Naumovozyma属、Schizosaccharomyces属、Kazachstania属、Eremothecium属、Myceliophthora属において、相同性の高い(E-value<2e-34(2のマイナス34乗(本書では「2e-n」で2のマイナスn乗を表す。)))配列を有していることが確認されており(結果を表1および表2に示す。)、このことはoch1遺伝子の配列が真菌類において高度に保存されていることを示す。
【0047】
【0048】
【0049】
塩基配列の同一性は、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLASTにおいてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、算出する。E-valueとは、2つの配列の類似性を比較するための尺度で、その値が小さいほど類似度が高いことを示す。
【0050】
上記で例示された、本発明のFADGDHを製造する方法において、och1遺伝子は、以下の(a)(b)のいずれかであっても良い。
(a)配列番号1のアミノ酸配列と68%以上(好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列をコードするDNA
(b)配列番号2のDNA配列と68%以上(好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上)の同一性を有するDNA
【0051】
上記で例示された、本発明のFADGDHを製造する方法において、och1遺伝子は、アスペルギルス属に属する微生物においては、以下の(c)(d)のいずれかであっても良い。
(c)配列番号1のアミノ酸配列と70%以上(好ましくは73%以上、さらに好ましくは74%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは76%以上)の同一性を有するアミノ酸配列をコードするDNA
(d)配列番号2のDNA配列と70%以上(好ましくは73%以上、さらに好ましくは74%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは76%以上)の同一性を有するDNA
【0052】
BLASTによる相同性検索によれば、配列番号1のアミノ酸配列との同一性は、アスペルギルス・ニードランス(nidulans)由来のものと70%、アスペルギルス・ニガー(niger)由来のものと73%、アスペルギルス・カワチ(kawachii)由来のものと74%、アスペルギルス・テレウス(terreus)由来のものと77%、アスペルギルス・クラバタス(clavatus)由来のものと78%、アスペルギルス・フラバス(flavus)由来のものと100%である。
【0053】
上記で例示された、本発明のFADGDHを製造する方法において、och1遺伝子の配列は、アスペルギルス属に属する微生物においては、以下の(e)の通りであっても良い。
(e)BLASTによる相同性検索において、配列番号2に対する同一性が73%以上(好ましくは74%以上、さらに好ましくは76%以上、さらに好ましくは99%以上、)の値を有するアミノ酸配列をコードするDNA
【0054】
BLASTによる相同性検索によれば、配列番号2に対する同一性は、アスペルギルス・ニードランス由来のものに対して74%、アスペルギルス・ニガー由来のものに対して76%、アスペルギルス・クラバタス由来のものに対して74%、アスペルギルス・テレウス由来のものに対して76%である。
【0055】
上記で例示された、本発明のFADGDHを製造する方法に用いる改変微生物の、改変前の微生物は、och1遺伝子を有する微生物であれば特に限定されない。例えば上記で列挙した微生物を用いることができる。
【0056】
本発明のFADGDHを製造する方法に用いる改変微生物は、前記改変前の微生物のoch1遺伝子の機能を低下させた改変微生物である。例えば、以下のいずれか1種より選ばれる微生物である。
アスペルギルス属、トリコデルマ属、ニューロスポラ属、モナスカス属、フサリウム属、サッカロマイセス属、ピキア属、キャンディダ属、シゾサッカロマイセス属、クリプトコッカス属、シゾフィリウム属、ムコール属、アブシジア属、アクチノムコール属、コレトトリチウム属、シルシネラ属、アースリニウム属。
【0057】
中でも、糸状菌に分類される微生物、特に、麹菌(アスペルギルス属に属する微生物)は糖質分解酵素であるアミラーゼやグルコアミラーゼ、タンパク質分解酵素などを大量に分泌生産するため、清酒や味噌などの発酵醸造産業に広く利用されているだけでなく、そのタンパク質分泌能力の高さから、本発明のFADGDHを製造するための発現宿主として好ましい。中でも、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・二がー、アスペルギルス・テレウスなどがより好ましい。
【0058】
上記で例示された、本発明のFADGDH生産方法に用いる改変微生物は、形質転換体であっても良い。この場合は、宿主微生物としてoch1遺伝子の機能を低下させた改変微生物を用い、これにFADGDHをコードするDNAを適切なベクターを介して導入して得られた形質転換体を用いて、FADGDHを生産する。
【0059】
och1遺伝子の機能を低下させる手段は、特に限定されない。
その手段の一つは、前記och1遺伝子に相当するDNAを破壊することである。この方法は、用いようとする微生物のoch1遺伝子配列が特定されている場合に適している。ここで破壊とは、och1遺伝子に相当するDNA配列の全部または一部を除去するか、前記DNA配列の少なくとも1箇所に変異を加えるか、または、前記DNA配列の両端以外の少なくとも1箇所に任意のDNA配列を挿入すること等によって、その機能を低減若しくは完全に停止させることを言う。
【0060】
och1遺伝子の機能を低下させた改変微生物の作製方法は、種々の公知の方法を用いて行えばよく、特に限定されない。
例えば、形質転換体を用いる場合、och1遺伝子を破壊する方法としては、DNAの相同組換えを用いる方法が一般的であり、形質転換に用いるマーカー遺伝子に、目的とする遺伝子の上流非翻訳領域と下流翻訳領域を連結させた遺伝子破壊カセットを構築し、宿主微生物を形質転換することによって、och1遺伝子の上流と下流で相同組換えを起こさせ、och1のORF部分を除去することにより遺伝子の機能を低下させることが可能である。
また、遺伝子破壊カセットをoch1のORF内部で転写が終結するように構築し、目的遺伝子の位置に遺伝子破壊カセットを挿入することにより、遺伝子の機能を停止させることも可能である。
【0061】
och1遺伝子の機能を低下させる別の手段としては、突然変異によりoch1遺伝子の機能を低下した改変微生物を得ることも可能である。
この方法では、用いようとする微生物に対して、変異剤処理や、紫外線、エックス線またはガンマ線の照射などの物理的処理によって、突然変異を起こす頻度を高めてもよいが、天然に生じるバリアントであっても構わない。
この方法は、用いようとする微生物にoch1遺伝子の働きに該当する機能が認められるものの、och1遺伝子配列が特定されていない場合に適している。
【0062】
och1遺伝子の発現を低下させる別の手段としては、RNA干渉(RNA interference: RNAi)による転写抑制も可能である。
この方法では、目的の遺伝子によって転写されるmRNAの相補鎖となるDNA若しくはRNAを微生物に導入、若しくは微生物内で転写させることによって、mRNAと二重鎖を形成することによってmRNAを不安定化させ、また、mRNAからペプチドへの翻訳を抑制することによって、och1の発現を低下させることが可能である。
この方法は、遺伝子の相同組換え効率が低い微生物において、ターゲティングによる目的遺伝子の破壊が困難な場合に有効である。
【0063】
本発明のFADGDHを形質転換体を用いて製造する場合、前記FADGDHの由来は、その生物学的分類における属(genus)および/または種(species)が、宿主微生物の属および/または種に対して、同じであってもかまわないし異なっていてもかまわない。
【0064】
本発明のFADGDHを形質転換体を用いて製造する場合、前記FADGDHをコードするDNAを宿主微生物に導入し発現させる方法は、特に限定されない。例えば、前記DNAを宿主に対応した適当なベクターへ挿入し、さらにそのベクターを宿主に導入して形質転換すればよい。このような方法は、標準的な組換えDNA技術であって、例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照して行うことができる。
【0065】
本発明のFADGDHを製造する方法においては、上述のいずれかの方法で作製された改変微生物を用いてFADGDHを生産することができる。例えば、前記改変微生物を培養してFADGDHを発現させ、得られた培養液を精製することによって製造することができる。一般に、目的の蛋白質を該蛋白質を発現する微生物を培養して得られた培養液を精製することによって製造する方法は、既に当該技術分野において確立されている。よって、当業者はその知見を適用してFADGDHを製造することができ、その態様は特に制限されない。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
1.アスペルギルス・オリゼ由来och1遺伝子の選抜
アスペルギルス・オリゼ由来och1糖鎖合成関連遺伝子の選抜は、糖鎖合成関連遺伝子がよく研究されている、酵母サッカロマイセス・セレビシエ(cerevisiae)の遺伝子情報から相同性が高い配列を選抜することにより行った。選抜した遺伝子がコードすると推定されるアミノ酸を配列番号1に、och1をコードすると想定されるDNA配列を配列番号2に示す。選抜した遺伝子がコードすると推定されるアミノ酸配列情報を元に、同じアスペルギルス属においてホモロジー検索を行った結果、アスペルギルス・ニガーとは73%、アスペルギルス・フミガタスとは77%、アスペルギルス・ニードランスとは70%の同一性を示すアミノ酸配列をコードする遺伝子が存在しており、これら遺伝子群はアスペルギルス属において高度に保存されていると考えられる。
図1に、各アスペルギルス属のoch1オルソログのアミノ酸配列の同一性の比較を示す。
【0068】
2.アスペルギルス・オリゼ由来och1遺伝子破壊カセットの作製
アスペルギルス・オリゼのoch1遺伝子破壊カセットは以下のようにして構築した。アスペルギルス・オリゼのゲノムDNAをテンプレートとして、配列番号9と配列番号10に示すプライマーでPCRを行い、アスペルギルス・オリゼのoch1遺伝子を含み、遺伝子の上流2kbpから遺伝子の下流2kbpまでの領域を増幅した。増幅したPCR産物は、Target-clone Plus(東洋紡社製)を用いてTAクローニングし、pTA2ベクターに挿入した。作製されたベクターはpTAooch1±2Kとした。
つづいて、och1遺伝子のORF部分を取り除くため、pTAooch1±2Kをテンプレートに配列番号11と配列番号12に示すプライマーでinverse PCRを行った。得られたベクターはpTAooch1±2K-ORFとした。続いて、マーカー遺伝子を挿入するため、pUSAベクターから制限酵素XbaIと制限酵素SbfIによってsCマーカー部分を切り出し、制限酵素NheIとSbfIで消化したpTAooch1±2K-ORFに挿入した。得られたベクターをpTΔAooch1-sCを作製した。
【0069】
3.糖鎖合成関連遺伝子破壊株の作製
2.で得られたベクターpTΔAooch1-sCをQiafilter plasmid Midi kit(QIAGEN社製)を用いて大量に調製し、麹菌への形質転換に用いた。組換え宿主には麹菌アスペルギルス・オリゼ NS4株を使用し、形質転換の手法は、プロトプラスト-PEG法によって行った。遺伝子破壊の原理については
図2に示す。得られた形質転換体の中からoch1遺伝子破壊株を、PCRによって確認して選抜した。
【0070】
4.AoFADGDH遺伝子の発現
アスペルギルス・オリゼ由来のFADGDH遺伝子の発現は以下のようにして行った。麹菌Aspergillus oryzaeのゲノムDNAからniaDを含む領域を配列番号13のプライマーと配列番号14のプライマーによって増幅し、東洋紡社製のTarget clone plusによってTAクローニングしpTNとした。次に、Aspergillus oryzaeのゲノムDNAから配列番号15のプライマーと配列番号16のプライマーによって、Translation elongation factor1αと予測される遺伝子の翻訳開始点から上流1kbpをPCRによって増幅し、さらに、Aspergillus oryzaeのゲノムDNAから配列番号17のプライマーと配列番号18のプライマーによって、AmyBターミネーターの領域をPCRによって増幅した。pTNについては配列番号19のプライマーと配列番号20のプライマーでPCRを行うことにより、プラスミドを増幅した。上述の通り作製した3つのPCR産物を、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)を用いて融合させ、niaDマーカーとEF1プロモーター、AmyBターミネーターを含む発現ベクターpTNEを作製した。
つづいて、アスペルギルス・オリゼ由来のFADGDHについては国際公開公報WO2009/119728に記載の配列、すなわち、アスペルギルス・オリゼTI株のcDNAからクローニングされた配列にG163R+V551Cの変異を導入した配列を使用した。FADGDHをコードするアミノ酸配列を配列番号21にDNA配列を配列番号22にそれぞれ示す。アスペルギルス・オリゼ由来のFADGDHを配列番号23のプライマーと配列番号24のプライマーによって増幅し、得られたPCR産物を制限酵素SpeIによって消化し、同じくSpeIによって消化されたpTNEのEF1プロモーターの下流に順方向に遺伝子を挿入した。得られたベクターをpTNE-AomFADGDHとした。pTNE-AomFADGDHのベクターマップを
図3に示す。pTNE-AomFADGDHをΔoch1株及びNS4株に形質転換を行った。得られた形質転換体をDP培地で培養し、最も高い生産性を示す形質転換体を選抜した。
【0071】
5.AomFADGDHの精製
4.で得られた形質転換体を滅菌した60mLのDP液体培地/500ml坂口フラスコに植菌し、30℃下で2日間振とう培養して前培養液とした。次に、7.0LのYPM培地(5%酵母エキス、2%大豆ペプトン、5%マルトース)/10L容ジャーファーメンターに前培養液を植菌し、培養温度35℃、攪拌速度400rpm、通気量6.0L/分、管内圧0.2MPaの条件で3日間培養した。その後、培養液を濾布で濾過し、濾過液を回収した。
濾過液を分画分子量30,000のUF膜(ミリポア(株)製)を用いて濃縮し、濃縮液に連続してリン酸緩衝液(50mM、pH6.0)を添加することによってバッファーを置換した。続いて、濃縮液に硫酸アンモニウムを40%(w/v)徐々に添加して、室温で30分間攪拌した後、ろ過助剤を用いて余分な沈殿を除去した。次に、予め40%(w/v)の硫酸アンモニウムを含む50mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化した200mLのPSセファロースFastFlow(GEヘルスケア製)カラムに濾過液をチャージし、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)に段階的に置換してタンパク質を溶出させた。そして、溶出された画分を分画分子量10,000の中空糸膜(スペクトラムラボラトリーズ製)で濃縮し、濃縮液に連続してリン酸緩衝液(50M,pH6.0)を添加することによってバッファーを置換した。続いて、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)で平衡化したDEAEセファロースFast Flow(GEヘルスケア製)カラム酵素液を通液し、精製酵素を得た。宿主をΔoch1として発現されたFADGDHをΔoch1-AomFADGDH、宿主をNS4株として発現されたFADGDHをAomFADGDHとした。得られたAomFADGDHとΔoch1-AomFADGDHとをSDS-PAGEに供し、分子量を観察した。SDS-PAGEはNu-PAGE 4-12% Bis-Tris Gel(Invitrogen社製)を使用した。分子量がそれぞれ50、60、70、80、90、100、120、160および220kDaのラダーを持つ分子量マーカー(BenchMark
TM Protein Ladder)を用いてSDS-PAGEを行った結果を
図4に示す。さらに、
図4で示されたバンドの濃淡をスキャンして横軸に分子量、縦軸にバンドの相対的な濃さをプロットしたのが
図7(AomFADGDH)および
図8(Δoch1-AomFADGDH)である。
【0072】
SDS-PAGEの結果、AomFADGDHの分子量分布は80-160kDa、一方で、Δoch-AomFADGDHの分子量分布は約70-90kDaであり、分子量分布の幅が減少していた。
【0073】
図7によれば、AomFADGDHの場合、バンドの相対的な濃さが最も高い分子量は120kDaと100kDaとの間にあり、分子量は110kDaと判断される。一方、
図8によれば、Δoch-AomFADGDHの場合は、バンドの相対的な濃さが最も高い分子量は80kDaと70kDaとの間にあり、分子量は75kDaと判断される。
このように、本発明の生産方法により得られたFADGDHは、その分子量が野生型のものに比べて、75÷110×100=68.2(%)にまで減少していた。また、FADGDHのポリペプチド鎖部分のみの分子量は60kDaであるから、糖鎖含量は、野生型の{(110-60)÷110}×100=45.5(%)から{(75-60)÷75}×100=20.0(%)に減少していた(野生型の44.0%)。
【0074】
以上の試験結果より、本発明の生産方法で作製されたアスペルギルス・オリゼ由来のFADGDHの分子量分布の幅は、バンドの濃さの相対値が最大値の60%を超える分子量分布で見た場合、20kDa以内となっていた。
【0075】
以上の試験結果より、本発明の生産方法で作製されたアスペルギルス・オリゼ由来のFADGDHの分子量は、野生型のものに比べて80%以下(好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下、さらに好ましくは実質的に68.2%と同じかそれ未満)となっていた。
【0076】
以上の試験結果より、本発明の生産方法で作製されたアスペルギルス・オリゼ由来のFADGDHの糖鎖含量は、野生型のものに比べて60%以下(好ましくは55%以下、さらに好ましくは実質的に44.0%と同じかそれ未満)となっていた。
【0077】
以上の試験結果より、本発明の生産方法で作製されたアスペルギルス・オリゼ由来のFADGDHの分子量は、90kDa以下(好ましくは80%以下、さらに好ましくは実質的に75kDaと同じかそれ未満)であった。
【0078】
6.電気化学式センサにおける応答値への糖鎖含量の影響比較
まず、グルコース測定用試薬として、以下の組成からなる溶液(pH=7.0)を作製した。
1mM クエン酸ナトリウム(pH7.0)
50mM フェリシアン化カリウム
0.4mg/ml FADGDH
まず、0.5%のCMC(カルボキシメチルセルロース)5μLを3電極を上記溶液5μLを、3電極を有するディスポーサブルチップ(DEP-CHIP、バイオデバイステクノロジーズ社製)の作用極・対極・参照極上に滴下し、50℃10分の加温処理を行って乾燥させた。続いて、上記組成液5μLをCMCを固定化した箇所に滴下し、50℃10分の加温処理を行って、センサチップとした。このセンサチップを専用ソケットを介してポテンショ/ガルバノスタットに接続し、電極上の組成物に0~300mg/dlの標準グルコース溶液5μLを添加して+0.3Vの電圧を印加して電流値をモニタリングし、印加後3秒時点の電流値を応答値とした。グルコース標準液の濃度と応答値の関係を
図5に示す。
測定の結果、AomFADGDHは100mg/dlから200mg/dlでの応答値がΔoch1-AomFADGDHと比較して高いが、300mg/dlでは応答値がΔoch1-AomFADGDHより低く、高濃度での応答において課題があることが判明した。一方で、Δoch1-AomFADGDHは300mg/dlまでグルコースの濃度に応じて応答値が直線的に上昇しており、高濃度での測定に有利であることが判明した。
【0079】
7.AtFADGDHの調製
続いて、他の微生物由来のFADGDHについても糖鎖含量低減の効果を確認するため、アスペルギルス・テレウス由来のFADGDHについても同様に効果を検証した。アスペルギルス・テレウス由来のFADGDHは国際公開公報WO2004/058958及びWO2006/101239にその配列情報及び特性が開示されている。特許記載のアスペルギルス・テレウス由来FADGDHのcDNA配列全長を人工的に合成し、さらにpTNEベクターに遺伝子を挿入することでpTNE-AtFADGDHを得た。得られたプラスミドをAspergillus oryzae NS4株及びΔoch1に形質転換し、得られた形質転換体の中から最も高いFADGDH活性をしめす形質転換体を選抜し、FADGDHの精製に用いた。形質転換体の培養及び精製は2.で示すとおりに行った。宿主をΔoch1として発現されたFADGDHをΔoch1-AtFADGDH、宿主をNS4株として発現されたFADGDHをAtFADGDHとした。得られたAtFADGDHとΔoch1-AtFADGDHとをSDS-PAGEに供し、分子量を観察した。SDS-PAGEはNu-PAGE 4-12% Bis-Tris Gel(Invitrogen社製)を使用した。分子量マーカー(BenchMark
TM Protein Ladder))を用いてSDS-PAGEを行った結果を
図6に示す。さらに、
図6で示されたバンドの濃淡をスキャンして横軸に分子量、縦軸にバンドの相対的な濃さをプロットしたのが
図9(AtFADGDH)および
図10(Δoch1-AtFADGDH)である。
【0080】
SDS-PAGEの結果、AtFADGDHの分子量分布は100-220kDa、一方で、Δoch-AtFADGDHの分子量分布は約80-100kDaであり、分子量分布の幅が減少していた。
【0081】
図9によれば、AtFADGDHの場合、バンドの相対的な濃さが最も高い分子量は、160kDaと120kDaとの間にあり、分子量は140kDaと判断される。一方、
図10によれば、Δoch-AtFADGDHの場合は、バンドの相対的な濃さが最も高い分子量は90kDaと80kDaとの間にあり、分子量は85kDaと判断される。
このように、本発明の生産方法により得られたFADGDHは、その分子量が野生型のものに比べて、85÷140×100=60.7(%)にまで減少していた。また、FADGDHのポリペプチド鎖部分のみの分子量は60kDaであるから、糖鎖含量は、野生型の{(140-60)÷140}×100=57.1(%)から{(85-60)÷85}×100=29.4(%)に減少していた(野生型の51.5%)。
【0082】
以上の試験結果より、本発明の生産方法で作製されたアスペルギルス・テレウス由来のFADGDHの分子量分布の幅は、バンドの濃さの相対値が最大値の60%を超える分子量分布で見た場合、20kDa以内となっていた。
【0083】
以上の試験結果より、本発明の生産方法で作製されたアスペルギルス・テレウス由来のFADGDHの分子量は、野生型のものに比べて80%以下(好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下、さらに好ましくは実質的に60.7%と同じかそれ未満)となっていた。
【0084】
以上の試験結果より、本発明の生産方法で作製されたアスペルギルス・テレウス由来のFADGDHの糖鎖含量は、野生型のものに比べて60%以下(好ましくは55%以下、さらに好ましくは実質的に51.5%と同じかそれ未満)となっていた。
【0085】
以上の試験結果より、本発明の生産方法で作製されたアスペルギルス・テレウス由来のFADGDHの分子量は、90kDa以下(好ましくは実質的に85kDaと同じかそれ未満)であった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のFADGDHは自己血糖測定において、高濃度グルコースを測定するのに適しており、自己血糖測定において極めて有用である。
【配列表】