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特許7188447電磁波吸収剤、日焼け止め剤、光学部品、メガネ、及び電磁波吸収剤の製造方法
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  • 特許-電磁波吸収剤、日焼け止め剤、光学部品、メガネ、及び電磁波吸収剤の製造方法 図1
  • 特許-電磁波吸収剤、日焼け止め剤、光学部品、メガネ、及び電磁波吸収剤の製造方法 図2
  • 特許-電磁波吸収剤、日焼け止め剤、光学部品、メガネ、及び電磁波吸収剤の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】電磁波吸収剤、日焼け止め剤、光学部品、メガネ、及び電磁波吸収剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20221206BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20221206BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20221206BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20221206BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20221206BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C09K3/00 104Z
A61Q17/04
A61K8/99
A61K8/34
A61K8/9789
G02B5/22
G02C7/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020549241
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037374
(87)【国際公開番号】W WO2020067061
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2018185299
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】高田 雅親
(72)【発明者】
【氏名】砂原 博文
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222743(JP,A)
【文献】特開平08-151319(JP,A)
【文献】国際公開第2009/041640(WO,A1)
【文献】特開2010-235470(JP,A)
【文献】特表2015-525800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
A61Q 17/04
A61K 8/99
G02B 5/00
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノールと乳酸菌とを混合することと、
前記ポリフェノールと前記乳酸菌とを100℃以上で加熱することと、
を含む、少なくとも紫外線を吸収する電磁波吸収剤の製造方法。
【請求項2】
前記乳酸菌に前記ポリフェノールが付着する、請求項に記載の電磁波吸収剤の製造方法。
【請求項3】
前記ポリフェノールが付着している乳酸菌どうしが凝集する、請求項に記載の電磁波吸収剤の製造方法。
【請求項4】
前記乳酸菌の終濃度が0.001重量%未満である、請求項からのいずれか1項に記載の電磁波吸収剤の製造方法。
【請求項5】
前記混合することにおいて、前記ポリフェノールと前記乳酸菌の混合液を生成する、請求項からのいずれか1項に記載の電磁波吸収剤の製造方法。
【請求項6】
前記ポリフェノールと前記乳酸菌の混合物の粉体を生成することをさらに含む、請求項からのいずれか1項に記載の電磁波吸収剤の製造方法。
【請求項7】
前記ポリフェノールがクロロゲン酸を含む、請求項からのいずれか1項に記載の電磁波吸収剤の製造方法。
【請求項8】
前記ポリフェノールがセリ科又はキク科由来である、請求項からのいずれか1項に記載の電磁波吸収剤の製造方法。
【請求項9】
前記セリ科が明日葉を含む、請求項に記載の電磁波吸収剤の製造方法。
【請求項10】
前記キク科がヨモギを含む、請求項に記載の電磁波吸収剤の製造方法。
【請求項11】
前記乳酸菌が、Lactobacillus属、Lactococcus属、Enterococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属、Streptococcus属、及びBifidobacterium属から選択される少なくともいずれかである、請求項から10のいずれか1項に記載の電磁波吸収剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収剤、日焼け止め剤、光学部品、メガネ、及び電磁波吸収剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光には紫外線(UV)が含まれている。紫外線の波長帯域は、団体等により定義に若干相違があるものの、概ね100nm以上400nm以下とされている。紫外線は、波長の違いによる生物学的影響の違いを踏まえて、紫外線A波(UV-A)、紫外線B波(UV-B)、及び紫外線C波(UV-C)に分類される。紫外線A波は、A領域紫外線、あるいは長波長紫外線とも呼ばれ、波長帯域は、315nm以上400nm以下である。紫外線B波は、B領域紫外線、あるいは中波長紫外線とも呼ばれ、波長帯域は、280nm以上315nm未満である。紫外線C波は、C領域紫外線、あるいは短波長紫外線とも呼ばれ、波長帯域は、100nm以上280nm未満である。
【0003】
紫外線A波は、皮膚の奥、真皮にまで浸透し、しわ、たるみ、並びにサンバーンと呼ばれる赤い日焼け及び黒い日焼けの両方の原因になる。また、紫外線A波は、生体内の様々な分子に吸収され、その結果生じる活性酸素を介して、膜脂質、タンパク質、及びDNAに酸化的損傷を与え、皮膚の老化に関与する。紫外線B波は、皮膚への浸透は浅いが、皮膚表面への影響が大きく、シミ、しわ、並びにサンバーン及びその後の黒い日焼けの両方の原因になる。さらに、紫外線B波は、細胞の核内にあるDNAに吸収されて、DNAに損傷を与え、皮膚がんの原因になる。
【0004】
紫外線は、波長が短くなるほど生体物質へのダメージが大きくなるものの、波長が短くなるほど酸素やオゾン層に吸収される傾向にある。紫外線C波は、酸素やオゾン層に吸収され、地上ではほとんど観測されない。紫外線B波も酸素やオゾン層に吸収されるが、一部が地上に到達する。紫外線A波は、大部分が地上に到達する。紫外線A波は、地上に到達する紫外線の大半を占めている。そのため、紫外線A波による生体物質へのダメージは無視できない。例えば、サンバーンに対する寄与率は、紫外線B波が70%から80%、紫外線A波が20%から30%であるとされている。
【0005】
従来の日焼け止めは、紫外線A波を吸収するオキシベンゾン及びアボベンゾン等の有機化合物を含むものがある。しかし、これらの有機化合物は、肌の炎症や肌荒れを引き起こすなどの危険性があるものと考えられている。これに対し、特許文献1は、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属を含み、320nmから400nmの波長帯域に紫外線吸収スペクトルの吸収ピークを有する紫外線吸収剤を記載している。また、特許文献2は、少なくとも紫外線を吸収する、ラクトバシラス(Lactobacillus)属を含む電磁波吸収剤を開示している。さらに、特許文献3は、発芽ハトムギ発酵処理物が紫外線を吸収すると述べているが、実際の吸光度は不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5751517号公報
【文献】特開2017-222743号公報
【文献】特開2007-290998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
肌の炎症や肌荒れを引き起こすなどの危険性が低く、さらに紫外線吸収能の高い紫外線吸収剤が望まれている。本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、肌の炎症や肌荒れを引き起こすなどの危険性が低く、かつ効率的に紫外線を吸収することが可能な電磁波吸収剤、日焼け止め剤、光学部品、メガネ、及び電磁波吸収剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る電磁波吸収剤は、少なくとも紫外線を吸収し、ポリフェノールと、乳酸菌と、を含む。また、本発明の一側面に係る日焼け止め剤は、上記の電磁波吸収剤を備える。本発明の一側面に係る光学部品は、透明部材と、透明部材上に配置された、上記の電磁波吸収剤と、を備える。さらに、本発明の一側面に係るメガネは、上記の光学部品をレンズとして備える。またさらに、本発明の一側面に係る少なくとも紫外線を吸収する電磁波吸収剤の製造方法は、ポリフェノールと乳酸菌とを混合することを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、肌の炎症や肌荒れを引き起こすなどの危険性が低く、かつ効率的に紫外線を吸収することが可能な電磁波吸収剤、日焼け止め剤、光学部品、メガネ、及び電磁波吸収剤の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例4に係る吸光度の計測結果を示す分光スペクトルである。
図2】実施例5に係る吸光度の計測結果を示す表である。
図3】実施例5に係る吸光度の計測結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお以下の示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部材の組み合わせ等を下記のものに特定するものではない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、ポリフェノールと、乳酸菌と、を含み、少なくとも紫外線を吸収する。ポリフェノールの例としては、クロロゲン酸、カテキン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、エラグ酸、リグナン、クルクミン、及びクマリンが挙げられるが、これらに限定されない。クロロゲン酸は、桂皮酸誘導体とキナ酸のエステル化合物である。ポリフェノールは天然由来であってもよいし、安全が確認された人工合成化合物であってもよい。
【0013】
ポリフェノールは、例えば、セリ科又はキク科由来である。セリ科の例としては、シシウド属が挙げられる。シシウド属の例としては、明日葉、ノダケ、シシウド、ヨロイグサ、及びトウキが挙げられる。キク科の例としては、ヨモギ属が挙げられる。ヨモギ属の例としては、ヨモギ、オオナヨモギ、ニガヨモギ、及びタラゴンが挙げられる。実施形態に係る電磁波吸収剤は、1種類のポリフェノールを含んでいてもよいし、複数種類のポリフェノールを含んでいてもよい。セリ科及びキク科に含まれるクロロゲン酸の例としては、3,5-ジカフェオイルキナ酸、3,4-ジカフェオイルキナ酸、及び4,5-ジカフェオイルキナ酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
乳酸菌の例としては、Lactobacillus属、Lactococcus属、Enterococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属、Streptococcus属、及びBifidobacterium属が挙げられるが、これらに限定されない。実施形態に係る電磁波吸収剤は、1種類の乳酸菌を含んでいてもよいし、複数種類の乳酸菌を含んでいてもよい。
【0015】
実施形態に係る電磁波吸収剤は、ポリフェノールと乳酸菌の混合物を溶液中に含んでいてもよい。あるいは、実施形態に係る電磁波吸収剤は、ポリフェノールと乳酸菌の混合物の乾燥粉体を含んでいてもよい。乳酸菌にポリフェノールが付着していることが好ましい。乳酸菌は死菌であってもよく、ポリフェノールと乳酸菌の混合物は、加熱処理されていてもよい。ポリフェノールと乳酸菌の混合物を加熱処理することにより、乳酸菌にポリフェノールが付着することが促進される。例えば、ポリフェノールが付着していない乳酸菌は白色であるが、ポリフェノールが付着している乳酸菌は黄色あるいは褐色である。したがって、乳酸菌を例えば顕微鏡観察することにより、乳酸菌にポリフェノールが付着しているか確認することが可能である。ポリフェノールと乳酸菌の混合物を加熱処理することにより、実施形態に係る電磁波吸収剤の電磁波吸収特性がさらに上昇する。
【0016】
ポリフェノールが付着している乳酸菌どうしが凝集していてもよい。ポリフェノールが付着している乳酸菌どうしは、例えば、疎水性結合により凝集する。ポリフェノールが付着している乳酸菌どうしが凝集することにより、実施形態に係る電磁波吸収剤の電磁波吸収特性がさらに上昇する。
【0017】
実施形態に係る電磁波吸収剤は、紫外線及び可視光線の波長帯域の少なくとも一部を吸収する。例えば、実施形態に係る電磁波吸収剤が吸収する紫外線の波長帯域は、200nm以上400nm以下である。実施形態に係る電磁波吸収剤が吸収する紫外線A波の波長帯域は、315nm以上400nm以下である。実施形態に係る電磁波吸収剤が吸収する紫外線B波の波長帯域は、280nm以上315nm以下である。実施形態に係る電磁波吸収剤が吸収する紫外線C波の波長帯域は、200nm以上280nm以下である。
【0018】
実施形態に係る電磁波吸収剤が吸収する可視光線の波長帯域は、400nm以上、800nm以下、700nm以下、650nm以下、あるいは600nm以下である。実施形態に係る電磁波吸収剤が吸収する可視光線の波長帯域は、400nm以上500nm以下の高エネルギー可視光線を含む青色光を含む。
【0019】
実施形態に係る電磁波吸収剤は、可視光線の波長帯域においては、紫外線側の短波長帯域を長波長帯域より多く吸収する傾向にあり、紫色光及び青色光を吸収し、赤色光及び緑色光を透過させる傾向にある。そのため、実施形態に係る電磁波吸収剤の透過光は、黄色から茶色に見える傾向にある。
【0020】
第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、例えば0.0001重量%以上、0.0005重量%以上、0.001重量%以上、0.005重量%以上、あるいは0.01重量%以上の濃度で乳酸菌を含む。第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、より高濃度の乳酸菌を含んでいてもよい。ただし、第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、乳酸菌の濃度が0.001重量%未満のような低濃度であっても、紫外線を吸収することが可能である。第1実施形態に係る電磁波吸収剤の乳酸菌含有量は、目的とする紫外線吸収量に応じて適宜決定される。なお、従来のヨモギクリームや、明日葉クリーム等は、菌体が除去されているか、実質的に菌体を含んでいない。
【0021】
乳酸菌は、生菌よりも、例えば加熱処理された死菌であるほうが、紫外線をより吸収する傾向にある。したがって、第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、乳酸菌の死菌を含んでいてもよい。乳酸菌は、菌体乾燥物であってもよい。乳酸菌を菌体乾燥物にすることにより、長期間安定に保存することが可能になる。
【0022】
紫外線は長波長のほうが皮膚に浸透しやすい傾向にある。また、紫外線A波の帯域においても、長波長のほうが皮膚に浸透しやすい傾向にある。これに対し、第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、広い波長帯域にわたって紫外線吸収効果を奏するため、紫外線が皮膚に浸透することを抑制する効果を奏する。したがって、第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、皮膚や頭髪に外用し、日焼けによる炎症を抑制する日焼け止め剤(サンスクリーン剤)として利用可能である。また、ポリフェノールと乳酸菌を有効成分とする第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、肌への負担が少ない。
【0023】
ポリフェノール及び乳酸菌は体内に入っても安全であるため、幼児や老人が第1実施形態に係る電磁波吸収剤を誤飲しても安全である。
【0024】
第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、化粧水、乳液、クリーム、スプレー、及び美容液等のスキンケア化粧料に配合されてもよい。また、第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、下地用化粧料、ファンデーション、口紅、フェイスカラー、及びアイライナー等のメーキャップ化粧品等に配合されてもよい。
【0025】
実施形態に係る電磁波吸収剤は、例えば、整肌用化粧品に含まれていてもよい。整肌用化粧品の例としては、化粧水、美容液、及びパックが挙げられる。実施形態に係る電磁波吸収剤は、例えば、保護用化粧品に含まれていてもよい。保護用化粧品の例としては、保護用乳液及び保護用クリームが挙げられる。実施形態に係る電磁波吸収剤は、例えば、ベースメークアップ化粧品に含まれていてもよい。ベースメークアップ化粧品の例としては、ファンデーション、白粉、及び化粧下地が挙げられる。実施形態に係る電磁波吸収剤は、例えば、ポイントメークアップ化粧品に含まれていてもよい。ポイントメークアップ化粧品の例としては、口紅、アイメークアップ、頬紅、及びネイルエナメルが挙げられる。
【0026】
第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、ポリフェノールと乳酸菌の他に、色素、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、被膜剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖類、アミノ酸類、有機アミン類、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン類、酸化防止剤、香料、粉体、色材、及び水等の化粧品及び医薬品の配合成分を目的に応じて適宜含んでいてもよい。
【0027】
実施形態に係る電磁波吸収剤が油性成分を含む化粧品に含まれる場合、化粧品における油性成分の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1質量%以上90質量%以下、あるいは、0.5質量%以上90質量%以下である。実施形態に係る電磁波吸収剤が水性成分を含む化粧品に含まれる場合、化粧品における水性成分の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1質量%以上90質量%以下、あるいは、0.5質量%以上90質量%以下である。化粧品における油性成分と水性成分の比は、化粧品がオイルインウォーター(O/W)型か、ウォーターインオイル(W/O)型かによって、適宜設定される。実施形態に係る電磁波吸収剤が界面活性剤を含む化粧品に含まれる場合、化粧品における界面活性剤の濃度は、特に限定されないが、例えば2質量%以上10質量%以下である。
【0028】
また、目的に応じて、第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、ポリフェノールと乳酸菌の他に、有機化合物系紫外線吸収剤、及び無機化合物系紫外線散乱剤等を適宜含んでいてもよい。例えば、紫外線A波を吸収しない紫外線吸収剤と、紫外線A波を吸収する第1実施形態に係る電磁波吸収剤と、を併用してもよい。
【0029】
第1実施形態に係る電磁波吸収剤は、ポリフェノールと乳酸菌とを混合することにより製造される。ポリフェノールと乳酸菌を、溶媒中で混合し、混合液を形成してもよい。ポリフェノールと乳酸菌を混合することにより、乳酸菌にポリフェノールが付着する。ポリフェノールと乳酸菌の混合物を加熱してもよい。加熱温度は、例えば100℃以上、110℃以上、あるいは120℃以上である。加熱することにより、乳酸菌にポリフェノールが付着することが促進される。
【0030】
ポリフェノールと乳酸菌の混合液から、ポリフェノールと乳酸菌の混合物を遠心分離等で回収してもよい。回収したポリフェノールと乳酸菌の混合物を乾燥し、ポリフェノールと乳酸菌の混合物の乾燥粉体を得てもよい。さらに、ポリフェノールと乳酸菌の混合物の乾燥粉体を溶媒に加えて、ポリフェノールと乳酸菌の混合物を含む溶液を形成してもよい。製造された電磁波吸収剤において、乳酸菌の終濃度は、0.001重量%未満であってもよい。
【0031】
(第2実施形態)
第2実施形態以降では第1実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0032】
ポリフェノールと乳酸菌を含む電磁波吸収剤は、耐紫外線材料として、皮膚外用剤以外の製品、例えば、塗料、染料、顔料、各種樹脂、合成ゴム、ラテックス、フィルム、及び繊維等に配合されてもよい。
【0033】
例えば、第2実施形態に係る光学部品は、透明部材と、透明部材上にコーティングされた、第1実施形態で説明した電磁波吸収剤が配合されたコーティング層と、を備える。透明部材は、ガラス及び樹脂等の透明材料からなる。第2実施形態に係る光学部品は、例えば、メガネのレンズや、テレビ及びコンピュータディスプレイの透光板として利用可能である。
【0034】
第1実施形態で説明したように、ポリフェノールと乳酸菌を含む電磁波吸収剤は高エネルギー可視光線を含む青色光を吸収するため、第2実施形態に係る光学部品は、紫外線のみならず、青色光が目に入射することを抑制する。そのため、目の疲れを抑える効果がある。また、第2実施形態に係る電磁波吸収剤は、青色光を反射するのではなく、吸収するため、光学部品に青みが生じることがない。
【0035】
以上のとおり、本発明の各実施形態に係る電磁波吸収剤等は、上述したいずれか1つ又は複数の組み合わせによる以下の例による構成及び作用効果を有する。
【0036】
本実施形態に係る電磁波吸収剤は、ポリフェノールと、乳酸菌と、を含む。本実施形態に係る電磁波吸収剤は、少なくとも紫外線を吸収することが可能である。また、本実施形態に係る電磁波吸収剤は、青色光を吸収することも可能である。
【0037】
本実施形態に係る電磁波吸収剤は、ポリフェノールと乳酸菌の加熱された混合物を含んでいてもよい。乳酸菌にポリフェノールが付着していてもよい。ポリフェノールが付着している乳酸菌どうしが凝集していてもよい。これにより、紫外線吸収能が向上する。
【0038】
本実施形態に係る電磁波吸収剤は、乳酸菌を0.001重量%未満の濃度で含んでいてもよい。本実施形態に係る電磁波吸収剤は、乳酸菌の濃度が低くても、紫外線を吸収することが可能である。
【0039】
本実施形態に係る電磁波吸収剤は、ポリフェノールと乳酸菌の混合液を含んでいてもよいし、ポリフェノールと乳酸菌の粉体を含んでいてもよい。いずれの形態においても、本実施形態に係る電磁波吸収剤は、紫外線を吸収することが可能である。
【0040】
本実施形態に係る電磁波吸収剤において、ポリフェノールがクロロゲン酸を含んでいてもよい。ポリフェノールがセリ科又はキク科由来であってもよい。セリ科が明日葉を含んでいてもよい。キク科がヨモギを含んでいてもよい。乳酸菌が、Lactobacillus属、Lactococcus属、Enterococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属、Streptococcus属、及びBifidobacterium属から選択される少なくともいずれかであってもよい。ポリフェノールや乳酸菌の種類にかかわらず、本実施形態に係る電磁波吸収剤は、紫外線を吸収することが可能である。
【0041】
本実施形態に係る日焼け止め剤は、上記の電磁波吸収剤を備える。本実施形態に係る日焼け止め剤は、人体に安全であり、紫外線を吸収することが可能である。
【0042】
本実施形態に係る光学部品は、透明部材と、透明部材上に配置された、上記の電磁波吸収剤と、を備える。また、本実施形態に係るメガネは、上記の光学部品をレンズとして備える。本実施形態に係る光学部品及びメガネは、紫外線を吸収することが可能である。
【0043】
本実施形態に係る電磁波吸収剤の製造方法は、ポリフェノールと乳酸菌とを混合することを含む。本実施形態に係る製造方法で製造される電磁波吸収剤は、少なくとも紫外線を吸収することが可能である。
【0044】
本実施形態に係る電磁波吸収剤の製造方法は、ポリフェノールと乳酸菌とを加熱することをさらに含んでもよい。加熱は100℃以上であってもよい。乳酸菌にポリフェノールが付着してもよい。ポリフェノールが付着している乳酸菌どうしが凝集してもよい。これにより、製造される電磁波吸収剤の紫外線吸収能が向上する。
【0045】
本実施形態に係る電磁波吸収剤の製造方法において、乳酸菌の終濃度が0.001重量%未満であってもよい。製造される電磁波吸収剤は、乳酸菌の濃度が低くても、紫外線を吸収することが可能である。
【0046】
本実施形態に係る電磁波吸収剤の製造方法において、混合することにおいて、ポリフェノールと乳酸菌の混合液を生成してもよい。ポリフェノールと乳酸菌の混合物の粉体を生成することをさらに含んでいてもよい。いずれの形態においても、製造される電磁波吸収剤は、紫外線を吸収することが可能である。
【0047】
本実施形態に係る電磁波吸収剤の製造方法において、ポリフェノールがクロロゲン酸を含んでいてもよい。ポリフェノールがセリ科又はキク科由来であってもよい。セリ科が明日葉を含んでいてもよい。キク科がヨモギを含んでいてもよい。乳酸菌が、Lactobacillus属、Lactococcus属、Enterococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属、Streptococcus属、及びBifidobacterium属から選択される少なくともいずれかであってもよい。ポリフェノールや乳酸菌の種類にかかわらず、製造される電磁波吸収剤は、紫外線を吸収することが可能である。
【実施例
【0048】
以下に本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されないことはもちろんである。
【0049】
(実施例1:ヨモギからのクロロゲン酸の抽出)
ヨモギを50℃で3日間乾燥した。乾燥後のヨモギを粉砕機で粉末状にした。次に、ソックスレー抽出機を用いて、粉末状のヨモギの溶媒可溶成分を酢酸エチル中に溶出し、ヨモギ成分溶液を得た。その後、エバポレーターを用いて、ヨモギ成分溶液から酢酸エチルを除去し、主としてクロロゲン酸等のポリフェノールを含むヨモギの成分を抽出した。なお、当該方法は、発酵工程を含まなかった。
【0050】
(実施例2:明日葉からのクロロゲン酸の抽出)
実施例1と同様の方法により、明日葉から、主としてクロロゲン酸等のポリフェノールを含む明日葉の成分を抽出した。
【0051】
(実施例3:乳酸菌の入手)
独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)より、乳酸菌の菌株であるStreptococcus thermophilus(NBRC 13957)、Leuconostoc mesenteroides(NBRC 110676)、Pediococcus damnosus(NBRC 3889)、Lactococcus lactis subsp. lactis(NBRC 12007)、Lactobacillus plantarum(NBRC 3070)、Enterococcus faecalis(NBRC 3971)、及びBifidobacterium bifidum(NBRC 100015)を入手した。
【0052】
(実施例4:サンプル調製条件による吸光度の比較)
水溶媒中に0.0005重量%の濃度でLactobacillus plantarumを含む懸濁液をサンプル1として調製した。水溶媒中に0.0005重量%の濃度のヨモギ抽出成分を含む懸濁液をサンプル2として調製した。水溶媒中に0.0005重量%の濃度のヨモギ抽出成分と、0.0005重量%の濃度のLactobacillus plantarumと、を含む懸濁液をサンプル3として調製した。サンプル3を20分間121℃で加熱処理し、サンプル4を調製した。サンプル4を20分間10000rpmで遠心分離してポリフェノールが付着した菌体を回収し、回収した菌体を自然乾燥して乾燥菌体を得た。水溶媒中に0.0005重量%の濃度で乾燥菌体を懸濁した懸濁液をサンプル5として調製した。
【0053】
波長200nm以上600nm以下の帯域におけるサンプル1から5の吸光度を、紫外可視分光光度計(UV-1280、島津製作所)を用いて計測した。図1に示すように、菌体のみを含むサンプル1及びヨモギ抽出成分のみを含むサンプル2と比較して、菌体とヨモギ抽出成分を含むサンプル3は、UV-A及びUV-Bの帯域における吸光度が上昇し、可視光帯域においても、青色光帯域における吸光度が上昇した。さらに、サンプル3と比較して、加熱処理したサンプル4及びサンプル5は、UV-A及びUV-Bの帯域における吸光度がさらに上昇し、可視光帯域においても、青色光帯域における吸光度がさらに上昇した。なお、吸光度Absは、セルに入れられた純水の透過光強度をI0、セルに入れられたサンプル溶液の透過光強度をItとして、下記式で与えられる。
Abs = Log10(I0/It)
【0054】
理論に拘束されるものではないが、乳酸菌表面のリン酸やカルボキシル基と、クロロゲン酸などのポリフェノールと、が溶液中で水素結合などの分子間力による弱い結合によって相互作用し、乳酸菌とポリフェノールの複合体が生成すると考えられる。乳酸菌とポリフェノールが複合体を形成することにより、乳酸菌とポリフェノールそれぞれの電気的偏りが中和される。これにより、乳酸菌とポリフェノールそれぞれに結合できる水分子の数が減少し、乳酸菌とポリフェノールの複合体は、乳酸菌単体及びポリフェノール単体と比較して疎水性が高くなると考えられる。
【0055】
乳酸菌とポリフェノールの複合体どうしは、疎水性相互作用により結合し、凝集体を形成する。そのため、サンプル3は、サンプル1、2と比較して、長波長側のUV吸収特性が向上したと考えられる。
【0056】
さらに、乳酸菌とポリフェノールの複合体を熱処理することにより、乳酸菌表面のカルボキシル基とクロロゲン酸の水酸基とが縮合反応し、カルボニル基が生じると考えられる。これがクロロゲン酸の共役二重結合に影響し、熱処理された乳酸菌とポリフェノールの複合体においては、長波長側のUV吸収特性が向上する。そのため、サンプル4、5は、サンプル3と比較して、長波長側のUV吸収特性が向上したと考えられる。
【0057】
(実施例5:ポリフェノールの由来及び乳酸菌の種類による吸光度の比較)
水溶媒中に0.0005重量%の濃度のヨモギ抽出成分又は明日葉抽出成分と、0.0005重量%の濃度の各乳酸菌と、を含む懸濁液を調製した。さらに、懸濁液を20分間121℃で加熱処理した。加熱処理後の各懸濁液について、波長365nmにおける吸光度を計測した。その結果、図2及び図3に示すように、いずれの組み合わせにおいても、良好な吸光度が得られた。
【0058】
以上説明した各実施形態及び実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。すなわち、各実施形態及び実施例に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、各実施形態及び実施例が備える各要素などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、各実施形態及び実施例は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることはいうまでもなく、これらも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
図1
図2
図3