(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】熱延銅合金板およびスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C22C 9/01 20060101AFI20221206BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20221206BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20221206BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20221206BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
C22C9/01
C22C9/00
C23C14/34 A
C22F1/08 H
C22F1/00 604
C22F1/00 623
C22F1/00 630J
C22F1/00 613
C22F1/00 683
C22F1/00 684A
C22F1/00 630K
C22F1/00 630C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694B
C22F1/00 694A
(21)【出願番号】P 2021032441
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2022-06-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中里 洋介
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
(72)【発明者】
【氏名】積川 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】谷 雨
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-053445(JP,A)
【文献】特開2015-206089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/01
C22C 9/00
C23C 14/34
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを0.2mass%以上2.1mass%以下、Alを0.4mass%以上5.7mass%以下、Agを0.01mass%以下含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなり、
EBSD法により150000μm
2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、
データ解析ソフトOIM(登録商標)ver.7.3.1により解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、各結晶粒の方位の解析を行い、測定領域におけるCube方位割合(結晶方位の面積率)が5%以下とされ、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のKAM(Kernel Average Misorientation)値の平均値が2.0以下とされており、
板厚中心部の平均結晶粒径μが40μm以下とされていることを特徴とする熱延銅合金板。
【請求項2】
前記板厚中心部の結晶粒径の標準偏差σが、前記板厚中心部の平均結晶粒径μの90%以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱延銅合金板。
【請求項3】
EBSD法により150000μm
2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、結晶粒径(双晶を含まない)の長径aと短径bで表されるアスペクト比b/aが0.3以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱延銅合金板。
【請求項4】
EBSD法により150000μm
2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接する測定点間の方位差が2°以上15°以下となる測定点間である小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さをL
LB、隣接する測定点間の方位差が15°を超える測定点間である大傾角粒界の長さをL
HBとしたときに、以下の式が成り立つことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱延銅合金板。
L
LB/(L
LB+L
HB)<10%
【請求項5】
ビッカース硬度が120HV以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱延銅合金板。
【請求項6】
前記不可避不純物のうち、Feの含有量が0.0020mass%以下、Sの含有量が0.0030mass%以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱延銅合金板。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の熱延銅合金板からなることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、スパッタリングターゲット、バッキングプレート、加速器用電子管、マグネトロン等の銅加工品に好適に用いられる熱延銅合金板、および、スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上述の銅加工品に用いられる銅合金板としては、通常、銅合金のインゴットを製造する鋳造工程と、このインゴットを熱間加工(熱間圧延又は熱間鍛造)する熱間加工工程とによって製造された熱延銅合金板が用いられている。
例えば、特許文献1には、Cu-Mg-Ca系合金からなる熱延銅合金板を用いて製造された薄膜トランジスター用配線膜形成用スパッタリングターゲットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の熱延銅合金板においては、フライスやドリル等の切削加工、曲げ等の塑性加工等を施すことにより、所望の形状の製品に加工されることになる。ここで、上述の銅合金板においては、加工時のムシレ、変形を抑制するために、結晶粒径を微細化すること、および、残留歪みを少なくすることが要求されている。
【0005】
ここで、従来の熱延銅合金板(スパッタリングターゲット)においては、加工プロセスとして熱間加工工程のみを有しているので、熱間加工工程の条件制御を行っても、結晶粒の微細化および残留ひずみの低減が不十分となるおそれがあった。このため、加工時のムシレ、変形を十分に抑制することができなかった。また、上述の熱延銅合金板をスパッタリングターゲットとして使用した場合には、高出力のスパッタでの異常放電の発生を十分に抑制することはできなかった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、切削加工性に優れるとともに、スパッタリングターゲットとして用いた場合でも異常放電を十分に抑制することができる熱延銅合金板、および、スパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、組成を適正化するとともに、熱間加工工程において適正な組織制御を行うことにより、結晶粒径が細かく、かつ、Cube方位の割合が少なく、KAM値が低い金属組織とすることで、切削加工性に優れた熱延銅合金板、および、スパッタリングターゲットとして用いた場合に高出力のスパッタでの異常放電の発生を抑制することが可能であるとの知見を得た。
【0008】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の熱延銅合金板は、Mgを0.2mass%以上2.1mass%以下、Alを0.4mass%以上5.7mass%以下、Agを0.01mass%以下含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなり、EBSD法により150000μm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIM(登録商標)ver.7.3.1により解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、各結晶粒の方位の解析を行い、測定領域におけるCube方位割合(結晶方位の面積率)が5%以下とされ、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のKAM(Kernel Average Misorientation)値の平均値が2.0以下とされており、板厚中心部の平均結晶粒径μが40μm以下とされていることを特徴としている。
なお、本発明において、板厚中心部とは、板厚方向において、熱延銅合金板の表面(酸化物と銅の界面)から全厚の45~55%までの領域とする。
【0009】
この構成の熱延銅合金板によれば、上述の組成とされているので、熱間加工プロセスの条件制御によって、結晶粒の微細化を図ることができる。
そして、板厚中心部の平均結晶粒径が40μm以下、かつ、Cube方位割合(結晶方位の面積率)が5%以下、かつ、KAM値の平均値が2.0以下とされているので、切削加工時におけるムシレの発生を抑制することが可能となる。また、スパッタリングターゲットとして使用した際に、高出力でのスパッタ時の異常放電の発生を抑制することができる。
【0010】
ここで、本発明の熱延銅合金板においては、前記板厚中心部の結晶粒径の標準偏差σが、前記板厚中心部の平均結晶粒径μの90%以下であることが好ましい。
この場合、結晶粒径のばらつきが小さく、結晶粒が均一で微細化されており、切削加工時におけるムシレの発生をさらに抑制することが可能となる。また、スパッタリングターゲットとして使用した際に、高出力でのスパッタ時の異常放電の発生をさらに抑制することができる。
【0011】
また、本発明の熱延銅合金板においては、EBSD法により150000μm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、結晶粒径(双晶を含まない)の長径aと短径bで表されるアスペクト比b/aが0.3以上であることが好ましい。
この場合、結晶粒径(双晶を含まない)の長径aと短径bで表されるアスペクト比b/aが0.3以上とされ、長径aと短径bとの差が小さくされているので、残留ひずみが少なく、スパッタリングターゲットとして使用した際の異常放電の発生を抑制することができる。
【0012】
さらに、本発明の熱延銅合金板においては、EBSD法により150000μm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接する測定点間の方位差が2°以上15°以下となる測定点間である小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さをLLB、隣接する測定点間の方位差が15°を超える測定点間である大傾角粒界の長さをLHBとしたときに、LLB/(LLB+LHB)<10%、が成り立つことが好ましい。
この場合、加工時に導入された転位の密度が高い領域が少なく、スパッタリングターゲットとして使用した際に、転位密度の差によってスパッタ面に凹凸が生じることを抑制でき、長時間安定してスパッタ成膜することができる。
【0013】
また、本発明の熱延銅合金板においては、ビッカース硬度が120HV以下であることが好ましい。
この場合、ひずみ量を低減することによって、スパッタリング時のひずみの解放による粗大なクラスタの発生とそれに起因する凹凸の発生が低減されるため、異常放電の発生が抑制され、スパッタリングターゲットとしての特性が向上する。
【0014】
また、本発明の熱延銅合金板においては、前記不可避不純物のうち、Feが0.0020mass%以下、Sが0.0030mass%以下とされていることが好ましい。
この場合、粒界にFeまたはMgSが存在することを抑制でき、これらの介在物を起因とした切削時のムシレの発生やスパッタ成膜時の異常放電の発生を抑制することが可能となる。
【0015】
本発明のスパッタリングターゲットは、上述の熱延銅合金板からなることを特徴としている。
この構成のスパッタリングターゲットによれば、上述の熱延銅合金板で構成されているので、切削加工時におけるムシレの発生を抑制することが可能となり、表面品質に優れている。また、高出力でのスパッタ時の異常放電の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、切削加工性に優れるとともに、スパッタリングターゲットとして用いた場合でも異常放電を十分に抑制することができる熱延銅合金板、および、スパッタリングターゲットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態である熱延銅合金板(スパッタリングターゲット)の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態である熱延銅合金板について説明する。
本実施形態である熱延銅合金板は、例えば、スパッタリングターゲット、バッキングプレート、加速器用電子管、マグネトロン等の銅加工品に用いられるものであり、本実施形態においては、配線用の銅合金薄膜を成膜するスパッタリングターゲットとして用いられるものである。
【0019】
本実施形態である熱延銅合金板は、Mgを0.2mass%以上2.1mass%以下の範囲内、Alを0.4mass%以上5.7mass%以下の範囲内、Agを0.01mass%以下含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成とされている。
なお、本実施形態では、上述の不可避不純物のうち、Feの含有量が0.0020mass%以下、Sの含有量が0.0030mass%以下であることが好ましい。
【0020】
そして、本実施形態である熱延銅合金板は、EBSD法により150000μm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、各結晶粒の方位の解析を行い、測定領域におけるCube方位割合(結晶方位の面積率)が5%以下とされ、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合のKAM値の平均値が2.0以下とされている。
また、本実施形態である熱延銅合金板は、板厚中心部の平均結晶粒径μが40μm以下とされている。
【0021】
さらに、本実施形態である熱延銅合金板においては、板厚中心部の結晶粒径の標準偏差σが、板厚中心部の平均結晶粒径μの90%以下であることが好ましい。
また、本実施形態である熱延銅合金板においては、EBSD法により150000μm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、結晶粒径(双晶を含まない)の長径aと短径bで表されるアスペクト比b/aが0.3以上であることが好ましい。
【0022】
さらに、本実施形態である熱延銅合金板においては、EBSD法により150000μm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接する測定点間の方位差が2°以上15°以下となる測定点間である小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さをLLB、隣接する測定点間の方位差が15°を超える測定点間である大傾角粒界の長さをLHBとしたときに、LLB/(LLB+LHB)<10%を満足することが好ましい。
また、本実施形態である熱延銅合金板においては、ビッカース硬度が120HV以下であることが好ましい。
【0023】
ここで、本実施形態の熱延銅合金板において、上述のように成分組成、組織、特性を規定した理由について以下に説明する。
【0024】
(Mg)
Mgは、熱延銅合金板の結晶粒径を微細化させる作用効果を有する。また、薄膜トランジスターにおける配線膜を構成する銅合金薄膜のヒロックおよびボイドなどの熱欠陥の発生を抑制して耐マイグレーション性を向上させ、さらに熱処理に際して銅合金薄膜の表面および裏面にMgを含有する酸化物層を形成してガラス基板およびSi膜の主成分であるSiなどが銅合金配線膜に拡散浸透するのを阻止して銅合金配線膜の比抵抗の増加を防止するとともにガラス基板およびSi膜に対する銅合金配線膜の密着性を向上させる作用を有する。
ここで、Mgの含有量が0.2mass%未満の場合には、上述の作用効果を奏することができないおそれがある。一方、Mgの含有量が2.1mass%を超えると、比抵抗値が増加して、配線膜としては十分な機能を示さなくなるので好ましくない。
このため、本実施形態においては、Mgの含有量を0.2mass%以上2.1mass%以下の範囲内としている。
なお、上述の作用効果をさらに奏功せしめるためには、Mgの含有量の下限を0.3mass%以上とすることがより好ましく、0.4mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、比抵抗値の増加をさらに抑制するためには、Mgの含有量の上限を1.5mass%以下とすることがより好ましく、1.2mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0025】
(Al)
Alは、Mgと共存して含有させることにより、成膜された銅合金薄膜の密着性、化学的安定性を向上させる作用効果を有する。すなわち、AlとMgを共存して含有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜された銅合金薄膜においては、熱処理によって、その表面にMg、Cuと、Alとの複酸化物または酸化物固溶体が形成され、密着性、化学的安定性が向上する。
ここで、熱延銅合金板のAlの含有量が0.4mass%未満の場合には、上述の作用効果を奏することができないおそれがあり、さらに熱間加工の条件によっては、熱延銅合金板のCube方位の結晶粒が粗大になりやすい傾向にある。粗大な結晶粒が存在すると、切削加工時のムシレやスパッタ時の異常放電が発生しやすくなる。一方、熱延銅合金板のAlの含有量が5.7mass%を超えると、比抵抗値が増加して、配線膜としては十分な機能を示さなくなるので好ましくない。
このため、本実施形態においては、Alの含有量を0.4mass%以上5.7mass%以下の範囲内としている。
なお、上述の作用効果をさらに奏功せしめるためには、Alの含有量の下限を0.6mass%以上とすることがより好ましく、0.9mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、比抵抗値の増加をさらに抑制するためには、Alの含有量の上限を5.0mass%以下とすることがより好ましく、4.2mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0026】
(Ag)
Agは、銅合金の結晶粒界に濃縮し、粒成長を抑制し、切削加工時のムシレの発生を抑制するとともに、スパッタ成膜時の異常放電の発生を抑制する作用効果を有する。ここで、Agの含有量が0.01mass%を超える場合には、上述の効果は向上せずに、製造コストが増加する。
このため、本実施形態においては、Agの含有量を0.01mass%以下に規定している。
なお、製造コストをさらに低く抑えるためには、Agの含有量の上限を0.005mass%以下とすることがより好ましく、0.002mass%以下とすることがさらに好ましい。また、Agの含有量の下限に特に制限はないが、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Agの含有量の下限を0.0001mass%以上とすることがより好ましく、0.0003mass%以上とすることがさらに好ましい。
【0027】
(Fe,S)
不可避不純物のうちFe,Sを多く含むと、粒界にFeまたはMgSが存在し、これらの介在物を起因として、切削加工時のムシレやスパッタ時の異常放電が発生するおそれがある。
このため、本実施形態においては、Feの含有量を0.0020mass%以下、Sの含有量を0.0030mass%以下とすることが好ましい。
なお、Feの含有量の上限は0.0015mass%以下とすることがさらに好ましく、0.0010mass%以下とすることがより好ましい。Sの含有量の上限は0.0020mass%以下とすることがさらに好ましく、0.0015mass%以下とすることがより好ましい。
【0028】
(その他の不可避不純物)
上述した元素以外のその他の不可避的不純物としては、As, B,Ba,Be,Bi, Ca,Cd,Cr,Sc,希土類元素,V,Nb,Ta,Mo,Ni,W,Mn,Re,Ru,Sr,Ti,Os,Co,Rh,Ir,Pb,Pd,Pt,Au,Zn,Zr,Hf,Hg,Ga,In,Ge,Y,Tl,N,Sb, Se, Si,Sn,Te , Li,O,P等が挙げられる。これらの不可避不純物は、特性に影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
ここで、これらの不可避不純物は、介在物を増加させ、切削加工時のムシレやスパッタ時の異常放電が発生するおそれがあることから、総量で0.04mass%以下とすることが好ましく、0.03mass%以下とすることがさらに好ましく、0.02mass%以下とすることがより好ましく、さらには0.01mass%以下とすることが好ましい。
また、これらの不可避不純物のそれぞれの含有量の上限は、0.0030mass%以下とすることが好ましく、0.0020mass%以下とすることがさらに好ましく、0.0015mass%以下とすることがより好ましい。
【0029】
(Cube方位割合)
熱延銅合金板においては、熱間加工時の条件によってはCube方位の結晶粒が粗大になりやすい傾向にある。このため、Cube方位の割合が高い場合には、粗大な結晶粒が存在することとなり、切削加工時のムシレやスパッタ時の異常放電が発生しやすくなる。
このため、本実施形態においては、Cube方位割合を5%以下に規定している。
なお、Cube方位割合の上限は、4%以下であることが好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。また、Cube方位割合の下限には特に制限はない。
【0030】
(KAM値)
EBSDにより測定されるKAM(Kernel Average Misorientation)値は、1つのピクセルとそれを取り囲むピクセル間との方位差を平均値化することで算出される値である。ピクセルの形状は正六角形のため、近接次数を1とする場合(1st)、隣接する六つのピクセルとの方位差の平均値がKAM値として算出される。なお、本実施形態では、解析点の結晶性の明瞭性を表すCI値が0.1以下の、著しく加工組織が発達し明瞭な結晶パターンが得られない領域を除いた組織中でのKAM値の平均値を求めている。
このKAM値を用いることで、局所的な方位差、すなわち、ひずみの分布を可視化することが可能となる。このKAM値が高い領域は、加工時に導入されたひずみが高い領域であるため、他の領域に比べてスパッタ効率が異なり、スパッタが進むにつれて、ひずみの高低による凹凸ができ、異常放電が起きやすい。
このため、本実施形態においては、KAM値の平均値を2.0以下としている。
なお、KAM値の平均値の上限は、1.8以下であることが好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。また、KAM値の平均値の下限には特に制限はない。
【0031】
(板厚中心部の平均結晶粒径)
本実施形態である熱延銅合金板において、板厚中心部(板厚方向において熱延銅合金板の表面(酸化物と銅の界面)から全厚の45%から55%までの領域)における平均結晶粒径が微細であると、切削加工において表面に微細なムシレが生じにくくなる。また、スパッタリングターゲットとして使用する際には、結晶粒径の微細であるとスパッタ時の凹凸が微細になるため、異常放電が抑制され、スパッタ特性が向上する。
このため、本実施形態の熱延銅合金板においては、板厚中心部の平均結晶粒径μを40μm以下に規定している。
なお、板厚中心部の平均結晶粒径μの上限は、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましい。また、板厚中心部の平均結晶粒径μの下限には特に制限はない。
【0032】
(板厚中心部の結晶粒径の標準偏差)
本実施形態の熱延銅合金板において、板厚中心部の結晶粒径の標準偏差σが十分小さいと、結晶粒径のばらつきが小さくなり、スパッタリングターゲットとして使用した際に、スパッタによる結晶粒ごとの凹凸が均等であるため、異常放電の発生をさらに抑制することができる。
このため、本実施形態の熱延銅合金板においては、板厚中心部の結晶粒径の標準偏差σを、板厚中心部の平均結晶粒径μの90%以下に設定することが好ましい。
なお、板厚中心部の結晶粒径の標準偏差σの上限は、板厚中心部の平均結晶粒径μの80%以下とすることがさらに好ましく、70%以下とすることがより好ましい。また、板厚中心部の結晶粒径の標準偏差σの下限には特に制限はない。
【0033】
(アスペクト比)
結晶粒径の長径をa、短径をbとしたとき、b/aで表されるアスペクト比は、材料の加工度を表す指標であり、アスペクト比が小さい(すなわち、長径aと短径bとの差が大きい)ほど、スパッタ時の異常放電が多くなる傾向にある。
このため、本実施形態の熱延銅合金板においては、結晶粒径の長径をa、短径をbとしたとき、b/aで表されるアスペクト比を0.3以上とすることが好ましい。
なお、アスペクト比b/aの下限は、0.4以上とすることがさらに好ましく、0.5以上とすることがより好ましい。また、アスペクト比b/aの上限には特に制限はない。
【0034】
(小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率)
小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーは、加工時に導入された転位の密度が局所的に高い領域であるため、他の領域に比べてスパッタ効率が異なり、スパッタが進むにつれて、ひずみの高低による凹凸ができ、異常放電が起きやすい傾向にある。
このため、本実施形態の熱延銅合金板においては、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さをLLB、隣接する測定点間の方位差が15°を超える測定点間である大傾角粒界の長さをLHBとしたときに、LLB/(LLB+LHB)<10%を満足するように規定することが好ましい。
なお、LLB/(LLB+LHB)の上限は、8%未満であることがさらに好ましく、6%未満であることがより好ましい。また、LLB/(LLB+LHB)の下限には特に制限はない。
【0035】
(ビッカース硬度)
熱延銅合金板のビッカース硬度が高い場合には、残留ひずみ量が多く、スパッタリング時のひずみの解放による粗大なクラスタの発生とそれに起因する凹凸により、異常放電が発生しやすくなるおそれがある。
このため、本実施形態の熱延銅合金板においては、ビッカース硬度を120HV以下とすることが好ましい。
なお、ビッカース硬度の上限は、110HV以下であることがさらに好ましく、100HV以下であることがより好ましい。また、ビッカース硬度の下限には特に制限はないが、50HV以上であることがさらに好ましく、70HV以上であることがより好ましい。
【0036】
次に、このような構成とされた本実施形態である熱延銅合金板の製造方法(スパッタリングターゲットの製造方法)について、
図1に示すフロー図を参照して説明する。
【0037】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述の元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。なお、各種元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、上述の元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
ここで、銅原料は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。
【0038】
溶解時においては、Mgの酸化を抑制するため、また水素濃度低減のため、H2Oの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気溶解を行い、溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。
そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して銅合金インゴットを製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0039】
(熱間加工工程S02)
次に、得られた銅合金インゴットに対して熱間加工を行う。本実施形態では、熱間圧延を実施し、本実施形態である熱延銅合金板を得る。
ここで、熱間圧延工程の各パスの圧延率は50%以下で実施し、圧延の総圧延率は98%以下とする。最終4パスについては、各パスの圧延率が4%未満のときCube方位割合が高く、結晶粒径が粗大となり、45%超えのときはKAM値が高く、アスペクト比が低くなるため、最終の4パスの各パスの圧延率は4~45%とする。さらに、最終4パスについては、KAM値を低くし、アスペクト比を高めるために、パスの進行とともに各パスの圧延率を低下するのが好ましい。
ここの「最後4パス」とは、多パス熱間圧延工程の最後に行われる4パスのことである。例えば、熱間圧延時に10パスが行われる場合、最後4パスは7パス目、8パス目、9パス目及び10パス目を意味する。
【0040】
また、前述の熱間圧延工程の最終4パス前の開始温度が600℃以下のときKAM値が高くなり、850℃以上のとき結晶粒径が粗大となる。また、最終4パス後の終了温度が550℃以下のときKAM値が高くなり、800℃以上のとき結晶粒径が粗大となる。
このため、本実施形態では、最終4パス前の開始温度は、600℃超え850℃未満とすることが好ましい。また、最終4パス後の終了温度は、550℃超え800℃未満とすることが好ましい。
【0041】
さらに、熱間圧延終了後から200℃以下の温度になるまでの冷却速度が200℃/minより遅いと、板厚中心部の結晶粒径が粗大となり、結晶粒径のばらつきが大きくなるおそれがある。
このため、本実施形態では、熱間圧延終了後から200℃以下の温度になるまでの冷却速度を200℃/min以上とすることが好ましい。
なお、仕上げ熱間圧延後、熱延銅合金板の形状を調整するために、圧下率10%以下の冷間圧延加工やレベラーでの形状修正を実施してもよい。
【0042】
(切削加工工程S03)
得られた本実施形態である熱延銅合金板に対して、切削加工を行うことにより、スパッタリングターゲットが製造される。
【0043】
以上のような構成とされた本実施形態である熱延銅合金板においては、Mgを0.2mass%以上2.1mass%以下、Alを0.4mass%以上5.7mass%以下、Agを0.01mass%以下含有し、残部がCuおよび不可避不純物からなる組成とされているので、熱間加工プロセスの条件制御によって、結晶粒の微細化を図ることができる。
【0044】
そして、本実施形態である熱延銅合金板においては、板厚中心部の平均結晶粒径μが40μm以下、Cube方位割合(結晶方位の面積率)が5%以下、かつ、KAM値の平均値が2.0以下とされているので、切削加工時におけるムシレの発生を抑制することが可能となる。また、スパッタリングターゲットとして使用した際に、高出力でのスパッタ時の異常放電の発生を抑制することが可能となる。
【0045】
また、本実施形態において、板厚中心部の結晶粒径の標準偏差σが、板厚中心部の平均結晶粒径μの90%以下である場合には、結晶粒径のばらつきが小さく、結晶粒が均一で微細化されており、切削加工時におけるムシレの発生をさらに抑制することが可能となる。また、スパッタリングターゲットとして使用した際に、スパッタ時の異常放電の発生をさらに抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態において、EBSD法により150000μm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、結晶粒径(双晶を含まない)の長径aと短径bで表されるアスペクト比b/aが0.3以上である場合には、残留ひずみが少なく、スパッタリングターゲットとして使用した際の異常放電の発生を抑制することができる。
【0047】
さらに、本実施形態において、EBSD法により150000μm2以上の測定面積を測定間隔1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除き、隣接する測定点間の方位差が2°以上15°以下となる測定点間である小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さをLLB、隣接する測定点間の方位差が15°を超える測定点間である大傾角粒界の長さをLHBとしたときに、LLB/(LLB+LHB)<10%である場合には、加工時に導入された転位の密度が高い領域が少なく、スパッタリングターゲットとして使用した際に、転位密度の差によってスパッタ面に凹凸が生じることを抑制でき、スパッタ時の異常放電の発生を抑制でき、長時間安定してスパッタ成膜することができる。
【0048】
また、本実施形態において、ビッカース硬度が120HV以下である場合には、ひずみ量を低減することによって、スパッタリング時のひずみの解放による粗大なクラスタの発生とそれに起因する凹凸の発生が低減されるため、異常放電の発生が抑制され、スパッタリングターゲットとしての特性が向上する。
【0049】
さらに、本実施形態において、不可避不純物のうち、Feの含有量が0.0020mass%以下、Sの含有量が0.0030mass%以下とされている場合には、粒界にFeまたはMgSが存在することを抑制でき、これらの介在物を起因とした切削時のムシレの発生やスパッタ成膜時の異常放電の発生を抑制することが可能となる。
【0050】
以上、本発明の実施形態である熱延銅合金板について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、熱延銅合金板の製造方法の一例について説明したが、銅合金の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0052】
(本発明例)
無酸素銅(99.99mass%以上)をArガス雰囲気中、加熱炉によって溶融、得られた溶湯にMg,Al,Agを添加し、連続鋳造機を用いて製出した銅合金インゴットを用いた。圧延前の素材寸法は、幅600mm×長さ900mm×厚さ240mmとし、表1記載の圧延工程を行い、熱延銅合金板を作製した。
熱間圧延工程の各パスの圧延率は50%以下で実施し、熱間圧延の総圧延率は98%以下とした。最終の4パスの各パスの圧延率は4~45%とした。また、前述の熱間圧延工程の最終4パス前の開始温度と4パス後の終了温度を表1に示した。温度測定は放射温度計を用い、圧延板の表面温度を測定することにより行った。
そして、このような熱間圧延終了後に、200℃以下の温度になるまで、200℃/min以上の冷却速度で水冷によって冷却した。
【0053】
(比較例)
無酸素銅(99.99mass%以上)をArガス雰囲気中、加熱炉によって溶融、得られた溶湯にMg,Al,Agを添加し、連続鋳造機を用いて製出した銅合金インゴットを用いた。圧延前の素材寸法は、幅600mm×長さ900mm×厚さ240mmとし、表1記載の圧延工程を行い、熱延銅合金板を作製した。
熱間圧延工程の各パスの圧延率は50%以下で実施し、熱間圧延の総圧延率は98%とした。また、前述の熱間圧延工程の最終4パス前の開始温度と4パス後の終了温度を表1に示した。温度測定は放射温度計を用い、圧延板の表面温度を測定することにより行った。そして、このような熱間圧延終了後に、200℃以下の温度になるまで、水冷あるいは空冷によって冷却した。
【0054】
上述のようにして得られた本発明例1~17及び比較例1~8の熱延銅合金板に対して、Cube方位割合、平均結晶粒径、結晶粒径の標準偏差、KAM値の平均値、アスペクト比、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率、ビッカース硬度、フライス加工時のムシレの状態、スパッタリングターゲットとして使用した場合の異常放電回数を評価した。
【0055】
(組成分析)
得られた鋳塊から測定試料を採取し、MgとAlは誘導結合プラズマ発光分光分析法で、AgとFeは誘導結合プラズマ質量分析法、Sは燃焼赤外線吸収法を用いて測定した。なお、測定は試料中央部と幅方向端部の2カ所で測定を行い、含有量の多い方をそのサンプルの含有量とした。その結果、表1に示す成分組成であることを確認した。
【0056】
(Cube方位割合)
熱延銅合金板の圧延の幅方向に対して垂直な面、すなわちTD(Transverse direction)面の板厚中心部において、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.7.3.1)によって、電子線の加速電圧15kV、測定間隔1μmステップで150000μm2以上の測定面積で、CI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行った。Cube方位({001}<100>)から10°以下の方位差を有する結晶粒の割合をCube方位の面積率とした。
【0057】
(KAM値の平均値)
得られた熱延銅合金板の圧延の幅方向に対して垂直な面、すなわちTD(Transverse direction)面の板厚中心部において、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.7.3.1)によって、電子線の加速電圧15kV、測定間隔1μmステップで150000μm2以上の測定面積で、CI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行い、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなして解析した全ピクセルのKAM値を求め、その平均値を求めた。
【0058】
(平均結晶粒径)
得られた熱延銅合金板の圧延の幅方向に対して垂直な面、すなわちTD(Transverse direction)面の板厚中心部について、平均結晶粒径と標準偏差を算出した。各試料について、銅合金板の圧延の幅方向に対して垂直な面、すなわちTD(Transverse direction)面において、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製 OIM Data Analysis ver.7.3.1)によって、電子線の加速電圧15kV、測定間隔1μmステップで150000μm2以上の測定面積で、CI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行い、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とし、データ解析ソフトOIMを用いてArea Fractionにより平均結晶粒径μと標準偏差σを求めた。
【0059】
(アスペクト比)
得られた熱延銅合金板の圧延の幅方向に対して垂直な面、すなわちTD(Transverse direction)面の板厚中心部において、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.7.3.1)によって、電子線の加速電圧15kV、測定間隔1μmステップで150000μm2以上の測定面積で、CI値が0.1以下である測定点を除いて各結晶粒(双晶を含まない)の方位差の解析を行い、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を粒界として、各結晶粒の結晶粒径の長径をa、短径をbとしたとき、b/aで表されるアスペクト比を測定した。また、アスペクト比の測定ではEBSD上のGrain Sizeとして、Grain Tolerance Angleを5°、Minimum Grain Sizeを2ピクセルとして測定した。
【0060】
(小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率)
得られた熱延銅合金板の圧延の幅方向に対して垂直な面、すなわちTD(Transverse direction)面の板厚中心部において、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.7.3.1)によって、電子線の加速電圧15kV、150000μm2以上の測定面積を、1μmの測定間隔のステップでCI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行い、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とし、Area Fractionにより平均粒径Aを求めた。その後、平均粒径Aの10分の1以下となる測定間隔のステップで測定して、総数1000個以上の結晶粒が含まれるように、複数視野で150000μm2以上となる測定面積で、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除いて解析し、隣接する測定点間の方位差が2°以上15°以下となる測定点間を小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーとし、その長さをLLB、15°を超える測定点間を大傾角粒界としその長さをLHBとして、全粒界における小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LLB+LHB)を求めた。
【0061】
(ビッカース硬度)
得られた熱延銅合金板の圧延の幅方向に対して垂直な面、すなわちTD(Transverse direction)面の板厚中心部において、JIS Z 2244に規定される方法により測定した。
【0062】
(フライス加工時のムシレの状態)
各試料を100×2000mmの平板とし、その表面をフライス盤で超硬刃先のバイトを用いて切り込み深さ0.12mm、切削速度4500m/分で切削加工し、その切削表面の500μm四方の視野において、長さ120μm以上のムシレ疵が何個存在したかを評価した。
【0063】
(異常放電回数)
各試料からターゲット部分が直径152mmとなるようにバッキングプレート部分を含めた一体型のターゲットを作製し、そのターゲットをスパッタ装置に取り付け、チャンバー内の到達真空圧力が2×10-5Pa以下になるまで真空引きした。次に、スパッタガスとして純Arガスを用い、スパッタガス雰囲気圧力を1.0Paとし、直流(DC)電源にてスパッタ出力2100Wで8時間放電し、その間に生じた異常放電回数を電源に付属するアークカウンターを用いて計測することにより、総異常放電回数をカウントした。
【0064】
【0065】
【0066】
Mgの含有量が本発明の範囲よりも少なく、平均結晶粒径が44μmであった比較例1においては、切削時のムシレ個数が多く、異常放電回数が多くなった。
Alの含有量が本発明の範囲よりも少なく、Cube方位が8%であった比較例2においては、切削時のムシレ個数が多く、異常放電回数が多くなった。
【0067】
熱間圧延の最終4パスの開始温度及び終了温度が低く、KAM値の平均値が3.1とされた比較例3においては、切削時のムシレ個数が多く、異常放電回数が多くなった。
熱間圧延の最終4パスの開始温度及び終了温度が高く、平均結晶粒径が66μmであった比較例4においては、切削時のムシレ個数が多く、異常放電回数が多くなった。
【0068】
熱間圧延の最終4パスの圧下率が低く、Cube方位が11%であり、平均結晶粒径が56μmであった比較例5においては、切削時のムシレ個数が多く、異常放電回数が多くなった。
熱間圧延の最終4パスの圧下率が高く、KAM値の平均値が2.6、アスペクト比が0.2とされた比較例6においては、切削時のムシレ個数が多く、異常放電回数が多くなった。
【0069】
熱間圧延の最終4パスにおいて後段のパスの圧下率が高く、KAM値の平均値が2.8、アスペクト比が0.2とされた比較例7においては、切削時のムシレ個数が多く、異常放電回数が多くなった。
熱間圧延後の冷却速度が70℃/minと遅く、平均結晶粒径が83μmであった比較例8においては、切削時のムシレ個数が多く、異常放電回数が多くなった。
【0070】
これに対して、Mg,Al,Ag,Fe,Sの含有量、KAM値の平均値、Cube方位、板厚中心部の平均結晶粒径μが、本発明の範囲内とされた本発明例1~17においては、切削加工時のムシレ個数が4個以下に抑えられており、異常放電の発生回数も8回以下となった。
【0071】
以上の実施例の結果から、本発明例によれば、切削加工性に優れるとともに、スパッタリングターゲットとして用いた場合でも異常放電を十分に抑制することができる熱延銅合金板およびスパッタリングターゲットを提供可能であることが確認された。