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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】ブランクおよび部品
(51)【国際特許分類】
   B21C 37/00 20060101AFI20221206BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B21C37/00 L
B21D22/20 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021513693
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2020015911
(87)【国際公開番号】W WO2020209319
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019074618
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】園部 蒼馬
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰弘
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-242907(JP,A)
【文献】特開2011-031273(JP,A)
【文献】特開2011-068979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 37/00-43/04
B21D 22/00-26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材からなり、
外縁が面内方向において外側へ凸状となる凸部領域を少なくとも2つ有し、
前記凸部領域には、少なくとも部分的に軟化部が形成されかつ、前記凸部領域の外縁の少なくとも一部に前記軟化部が形成され、
前記軟化部のビッカース硬度は、主部領域のビッカース硬度よりも低く設定され、
前記軟化部の形成された前記凸部領域を少なくとも2つ有し、
前記主部領域の引張強度が1100MPa以上であり、
前記軟化部の引張強度が1000MPa以下である
ことを特徴とするブランク。
【請求項2】
前記軟化部の形成された前記凸部領域は、
当該凸部領域の外縁の曲率半径Rが150mm以下とされ、
前記外縁の開き角度が120°以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のブランク。
【請求項3】
前記軟化部のビッカース硬度は、前記ブランクの前記主部領域のビッカース硬度に対する比率が0.4以上0.9以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のブランク。
【請求項4】
鋼材からなり、
底面部と、
前記底面部の端部から立設された、第1の縦壁部および第2の縦壁部と、
前記第1の縦壁部と前記第2の縦壁部との間に設けられたコーナ部を少なくとも2つ有する部品であって、
前記コーナ部には、少なくとも部分的に軟化部が形成され、
前記軟化部のビッカース硬度は、前記部品の主部領域のビッカース硬度よりも低く設定され、
前記軟化部の形成された前記コーナ部を少なくとも2つ有し、
前記主部領域の引張強度が1100MPa以上であり、
前記軟化部の引張強度が1000MPa以下である
ことを特徴とする部品。
【請求項5】
前記軟化部のビッカース硬度は、前記部品の前記主部領域のビッカース硬度に対する比率が0.4以上0.9以下である
ことを特徴とする請求項に記載の部品。
【請求項6】
前記コーナ部は、縮みフランジ部を含む
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブランクおよび部品に関する。
本願は、2019年4月10日に、日本に出願された特願2019-074618号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ブランクを加工して所定形状の成形品を成形する際に、ブランクに対して種々の処理を行って、ブランクの性質、機能を調整しておく場合がある。
【0003】
下記特許文献1には、複合ブランクにおいて、成形後に伸びフランジ部となる凹形状の領域に溶接線が配置される場合に、部分的にレーザ照射させ軟化することにより、伸びフランジ部の延性を確保する技術が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、ブランクにおいて、成形後の断面ハット形状の部材における稜線部となる領域を部分的に軟化させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平06-226479号公報
【文献】特開2011-068979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のいずれの文献でも、圧縮変形により成形される縮みフランジ部における問題は考慮されていなかった。上記特許文献1に記載の技術は、部分的な軟化により、引張変形により成形される伸びフランジ部の延性を確保するためのものであり、圧縮変形により成形される縮みフランジ部における問題は考慮されていない。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の技術についても、部分的な軟化により、成形後の断面ハット形状の稜線部の曲げ性を向上するためのものであり、縮みフランジ部における問題は考慮されていない。特に、上記特許文献1、2に記載の技術では、縮みフランジ部に生じる、しわによる影響に関しては考慮されていない。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、縮みフランジ部等に生じる、しわによる影響を抑制することが可能な、新規かつ改良されたブランクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明のある観点によれば、鋼材からなり、外縁が面内方向において外側へ凸状となる凸部領域を少なくとも2つ有し、上記凸部領域には、少なくとも部分的に軟化部が形成されかつ、上記凸部領域の外縁の少なくとも一部に上記軟化部が形成され、上記軟化部のビッカース硬度は、主部領域のビッカース硬度よりも低く設定され、上記軟化部の形成された上記凸部領域を少なくとも2つ有し、上記主部領域の引張強度が1100MPa以上であり、上記軟化部の引張強度が1000MPa以下であることを特徴とするブランクが提供される。
【0010】
(2)上記(1)に記載のブランクにおいて、上記軟化部の形成された上記凸部領域は、当該凸部領域の外縁の曲率半径Rが150mm以下とされ、上記外縁の開き角度が120°以下であってもよい。
【0013】
)上記(1)又は(2)に記載のブランクにおいて、上記軟化部のビッカース硬度は、上記ブランクの上記主部領域のビッカース硬度に対する比率が0.4以上0.9以下であってもよい。
【0014】
)本発明の別の観点によれば、鋼材からなり、底面部と、上記底面部の端部から立設された、第1の縦壁部および第2の縦壁部と、上記第1の縦壁部と上記第2の縦壁部との間に設けられたコーナ部を少なくとも2つ有する部品であって、上記コーナ部には、少なくとも部分的に軟化部が形成され、上記軟化部のビッカース硬度は、上記部品の主部領域のビッカース硬度よりも低く設定され、上記軟化部の形成された上記コーナ部を少なくとも2つ有し、上記主部領域の引張強度が1100MPa以上であり、上記軟化部の引張強度が1000MPa以下であることを特徴とする部品が提供される。
【0017】
)上記(4)に記載の部品において、上記軟化部のビッカース硬度は、上記部品の上記主部領域のビッカース硬度に対する比率が0.4以上0.9以下であってもよい。
【0018】
)上記(4)又は(5)に記載の部品において、上記コーナ部は、縮みフランジ部を含んでもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、縮みフランジ部等に生じる、しわによる影響を抑制することが可能な、新規かつ改良されたブランクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】本発明の第1の実施形態に係るブランクの一例を示す斜視図である。
図1B】同実施形態に係る成形品の一例を示す斜視図である。
図2A】本発明の第2の実施形態に係るブランクの一例を示す平面図である。
図2B】同実施形態に係るシートクッションフレームの一例を示す斜視図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る凸部領域を示す断面図である。
図4】本発明のいずれかの実施形態に係るブランクを用いて成形される骨格部材が適用される一例としての自動車骨格を示す図である。
図5A】本発明のいずれかの実施形態に係るブランクを用いて成形される部品の一例を示す図である。
図5B】本発明のいずれかの実施形態に係るブランクを用いて成形された部品の適用される例を示す図である。
図6A】比較例として、シミュレーション解析に用いたブランクのモデルを示す図である。
図6B】実施例として、シミュレーション解析に用いたブランクのモデルを示す図である。
図6C】シミュレーション解析にて想定したプレス加工の金型の一例を示す図である。
図6D】シミュレーション解析にて想定したプレス加工の金型モデルの縮みフランジ部を抜き出した簡易金型モデルを示す図である。
図7】シミュレーション解析の結果得られた、板厚減少率を示すグラフである。
図8】3点曲げ圧潰試験条件を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
<1.第1の実施形態>
[鋼板の概略構成]
まず、図1Aおよび図1Bを参照して、本発明の第1の実施形態に係るブランク100の概略構成について説明する。図1Aは、本実施形態に係るブランク100の一例を示す斜視図である。図1Bは、本実施形態に係る成形品200の一例を示す斜視図である。本実施形態に係るブランク100は、種々の加工を経て、最終的に所定の形状を有する成形品へ加工される被加工材である。ブランク100は、例えば、平板状の部材である鋼板から切断加工により所定の板形状に形成される。切断加工の一例としては、打ち抜きプレス加工、レーザ加工等の公知の切断加工技術が挙げられ、特に限定されない。
【0023】
鋼板から切り出されたブランク100は、例えば冷間成形により、所定の形状を有する成形品へと加工される。ブランク100の加工後の形状についての詳細は後述するが、ブランク100は、冷間成形により縮みフランジ部(後述する図1Bにおける縮みフランジ部221に相当)を有する形状に加工される。冷間成形の一例としては、プレス曲げ加工、プレス絞り加工等の公知の冷間成形技術が挙げられ、特に限定されない。
【0024】
図1Aに示すように、ブランク100は、主部領域110と、凸部領域113とを有する。主部領域110は、ブランク100を主として構成する領域であり、ブランク100が切り出された鋼板と同等の性質を有する。主部領域110は、引張強度で1100MPa以上の鋼材であってもよい。さらに、主部領域110は、引張強度で1100MPa以上で、かつ2000MPa以下の鋼材であってもよい。
【0025】
凸部領域113は、ブランク100において外縁111の一部が、ブランク100の板面に略垂直な平面視で、すなわちブランク100の面内方向において、外側へ凸状となった領域である。また、凸部領域113は、成形後に縮みフランジ部となる領域である。換言すれば、成形された凸部領域113の少なくとも一部は、縮みフランジ部の少なくとも一部を構成する。凸部領域113には、少なくとも部分的に軟化部120が形成されている。軟化部120についての詳細は後述する。ブランク100は、軟化部120が形成された凸部領域113を、少なくとも2つ以上有してもよい。
【0026】
[成形品形状および成形時の課題]
続いて、図1Bを参照しながら、成形品200の形状および成形時の課題について説明する。所定の形状を有するブランク100は、例えば冷間成形により、所定の形状を有する成形品200に成形される。図1Bに示すように、成形品200は、一例として、箱型形状を有し、底面としてのウェブ部210と、底面から立設したフランジ部220と、縮みフランジ部221とを有する。ここで、成形品200には、ブランク100に対する加工により所定の形状とされて完成する完成品と、追加の加工、処理等の工程が必要な半製品とが含まれる。
【0027】
成形品200は、一例として、ブランク100の外周側が屈曲されて形成されたフランジ部220を有する。フランジ部220は、成形時にその一部において圧縮応力を受けながら変形した縮みフランジ部221を有している。
【0028】
このような縮みフランジ部221を有する成形品においては、その形状に起因する課題が生じる場合がある。すなわち、成形中の圧縮応力により、ブランク100の一部(凸部領域113)は、成形中に面外変形する結果、波状に変形する。当該変形箇所が、さらに金型に潰されると、成形後、微小な凹凸である、しわが発生する。成形品に生じたしわは、成形品の外観もしくは寸法精度の悪化、または溶接品質の悪化を引き起こすことがある。
【0029】
特に、ブランク100の母材として、高張力鋼板が用いられると、かかる鋼材は降伏応力が高く、延性に劣ることから、成形性が低下する。さらに、高張力鋼板は軽量化を目的として使用されることが多く、薄板化されているから、鋼板として面剛性が低下する。これらの原因により、高張力鋼板のブランク100を使用して縮みフランジ部221を有する成形品200を成形すると、縮みフランジ部221に成形後のしわが発生しやすくなり、しわの高さやしわ部の板厚増加量も大きくなる。この結果、成形品200の外観もしくは寸法精度の悪化、または溶接品質の悪化が生じやすくなる。特に、ブランク100の母材が、引張強度で1100MPa以上の鋼材となる場合、しわの発生による影響が大きくなる。
【0030】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、成形品200の縮みフランジ部221に相当する、ブランク100の凸部領域113において軟化部120を形成することを想到した。すなわち、本発明者らは、凸部領域113に軟化部120を形成することで、縮みフランジ部221となる領域の降伏点を低下させ、成形時の面外変形を抑制し、縮みフランジ部221における、しわの発生を抑制することを想到した。
【0031】
なお、上述した成形過程により、縮みフランジ部では、その稜線方向において、ビッカース硬度に違いが生じる。また、縮みフランジ部では、その稜線方向において、板厚に違いが生じる。縮みフランジ部は、この点で、例えば板材を面外方向へ曲げ加工した成形品における曲げ部とは異なる。フランジ部の稜線方向とは、縮みフランジ部に隣接する2つのフランジ部の板面をそれぞれ拡張した仮想的な平面同士の交線に平行な方向と換言できる。
【0032】
例えば、図1Bに例示する成形品200の縮みフランジ部221では、縮みフランジ部221の稜線方向において、ウェブ部210から離れるに従い、縮みフランジ部221のビッカース硬度が上昇し、さらに縮みフランジ部221の板厚が増加する。
【0033】
[軟化部]
軟化部120は、ブランク100の凸部領域113において、少なくとも部分的に形成された軟化領域である。軟化部120のビッカース硬度は、ブランク100の主部領域110のビッカース硬度よりも低く設定されている。特に、軟化部120のビッカース硬度は、ブランク100の主部領域110のビッカース硬度に対する比率で0.4以上0.9以下となるように設定されてもよい。
【0034】
軟化部120のビッカース硬度を、主部領域110のビッカース硬度の0.9以下とすることで、凸部領域113の降伏点を部分的に低下させ、成形品の縮みフランジ部221における、しわ発生を抑制する効果が得られる。一方、軟化部120のビッカース硬度を、主部領域110のビッカース硬度に対して、0.4以上とすることで、成形品の強度を十分に保つことができる。
【0035】
硬度測定条件としては以下の通りである。ブランク100の凸部領域113を含む試料を採取し、測定面の試料調製を行い、ビッカース硬度試験に供する。測定面の調製方法は、JIS Z 2244:2009に準じて実施する。#600から#1500の炭化珪素ペーパーを使用して測定面を研磨した後、粒度1μmから6μmのダイヤモンドパウダーをアルコール等の希釈液や純水に分散させた液体を使用して鏡面に仕上げる。ビッカース硬度試験は、JIS Z 2244:2009に記載の方法で実施する。測定面が調製された試料に対し、マイクロビッカース硬度試験機を用いて、試験荷重を1kgf(9.8N)として、ビッカース硬度の測定が実施される。例えば、主部領域110の中央部の複数の箇所でのビッカース硬度の平均値に対して、ビッカース硬度が0.9以下となる箇所を軟化部120としてもよい。
【0036】
また、軟化部120は、引張強度で1000MPa以下となるように設定されてもよい。これにより、軟化部120の強度が抑制され、しわの発生がより抑制される。
【0037】
軟化部120を形成する方法としては、レーザ加熱、高周波加熱等の公知の部分加熱技術を用いて、ブランク100を部分的に焼き戻しすることで、軟化させる方法が挙げられる。また、その他の例として、部分熱間成形等の熱間成形技術により、ブランク100を部分的に焼き戻しすることで軟化させてもよい。軟化部120を形成する方法としては、部分的に硬度を低下させることができればよく、加熱による焼き戻し以外の方法であってもよい。例えば、ブランク100を部分的に脱炭させる等の方法であってもよい。
【0038】
なお、軟化部120は、ブランク100の有する全ての凸部領域113において形成されていなくてもよい。成形後の縮みフランジ部221の形状、大きさ等を考慮し、しわの発生が予測される凸部領域113に軟化部120が形成されていればよい。
【0039】
軟化部120は、凸部領域113の外縁111を含む領域に形成されていてもよい。換言すれば、凸部領域113の外縁111の少なくとも一部に軟化部120が形成されていてもよい。軟化部120が、凸部領域113の外縁111を含む領域に形成されていることで、しわの発生しやすい外縁111近傍が軟化され、よりしわの発生を抑制できる。
【0040】
さらに、軟化部120は、凸部領域113において、ブランク100の面内方向(板厚方向に直交する方向)に拡がっていてもよい。具体的には、軟化部120は、外縁111を含み、外縁111から60mmまでの距離に亘って面内方向に形成されてもよく、好ましくは外縁111から40mmまでの距離に亘って形成されてもよい。
【0041】
軟化部120が、面内方向に拡がっていることにより、凸部領域113における軟化された領域が十分確保され、縮みフランジ部221におけるしわの発生がより抑制される。また、軟化部120が、外縁111から所定の範囲内に亘って面内方向に形成されていることにより、軟化領域が確保されながら、成形品としての高強度を維持することができる。また、軟化部120は、凸部領域113内のみに形成されてもよく、あるいは、凸部領域113から外方へ50mmの範囲であれば、主部領域110まで形成されていてもよい。
【0042】
ブランク100を所定の形状に加工する際に、ブランク100の移動が生じ得るプレス加工(絞り成形、曲げ成形)の場合、ブランク100の成形中の移動分も考慮して、軟化部120の形成範囲が決定されてもよい。さらに、軟化部120の板厚方向深さは、特に限定されず、軟化部120は板厚方向に亘って形成されてもよい。
【0043】
また、軟化部120は、ブランク100の主部領域110とは、異なる材質の別部材からなってもよい。例えば、別部材のビッカース硬度が、ブランク100の主部領域110のビッカース硬度よりも低く設定され、当該別部材をブランク100に溶接等により取り付けて、軟化部120としてもよい。この場合、別部材は、凸形状を有し、ブランク100の成形後に縮みフランジ部221となる。
【0044】
本実施形態によれば、凸部領域113に軟化部120を形成することで、縮みフランジ部221となる領域の降伏点を低下させ、成形時の面外変形を抑制する。すなわち、軟化部120が形成されていることで、凸部領域113の塑性変形が生じやすくなり、凸部領域113と金型とが、成形開始後の早い段階でなじむことになる。この結果、縮みフランジ部221における面外変形が抑制される。従って、成形品200の縮みフランジ部221における、しわの発生が抑制される結果、成形品200における、しわによる影響が低減される。特に、成形品200の縮みフランジ部221における外観もしくは寸法精度の悪化が低減される。
【0045】
<2.第2の実施形態>
続いて、本発明の第2の実施形態に係るブランク300について説明する。本実施形態に係るブランク300は、成形によりシートクッションフレームに形成されるブランクである点で、第1の実施形態と相違する。なお、本実施形態の説明において、第1の実施形態と共通する構成については、説明を省略する。
【0046】
図2Aおよび図2Bを参照しながら、本実施形態係るブランク300およびシートクッションフレーム400について説明する。図2Aは、本実施形態に係るブランク300の一例を示す平面図である。図2Bは、本実施形態に係るシートクッションフレーム400の一例を示す斜視図である。
【0047】
鋼板から切り出されたブランク300は、さらに冷間成形により、所定の形状を有する成形品であるシートクッションフレーム400(サイドフレーム)へと加工される。具体的には、ブランク300は、プレス曲げ加工、プレス絞り加工等の冷間成形により縮みフランジ部(後述する図2Bにおける縮みフランジ部421に相当)を有する形状に加工される。シートクッションフレーム400は、車両用座席の内部骨格であるシートフレームの一部であり、座席乗員の大腿部または臀部を支持するシートクッションの側方に設けられた部材である。
【0048】
図2Aに示すように、ブランク300は、主部領域310と、凸部領域313とを有する。凸部領域313は、ブランク300において外縁311の一部が、ブランク300の板面に略垂直な平面視で、すなわちブランク300の面内方向において、外側へ凸状となった領域である。また、凸部領域313は、成形後に縮みフランジ部となる領域である。換言すれば、成形された凸部領域313の少なくとも一部は、縮みフランジ部の少なくとも一部を構成する。凸部領域313には、軟化部320が形成されている。
【0049】
図2Bに示すように、シートクッションフレーム400は、フレーム本体部410と、フレーム本体部410の端部から立設されたフレームフランジ部420とを有する。フレームフランジ部420は、縮みフランジ部421を有する。シートクッションフレーム400は、シートフレームの構造に応じて、種々の形状を採り得る。
【0050】
シートクッションフレーム400は、一例として、ブランク300の外周側が屈曲されて形成されたフレームフランジ部420を有する。ブランク300の凸部領域313が成形時に圧縮応力を受けながら変形されることにより、フレームフランジ部420には、縮みフランジ部421が形成されている。シートクッションフレーム400の縮みフランジ部421においても、上述の様に、成形によりしわが発生する場合がある。
【0051】
図2Aに示すように、ブランク300には、複数の凸部領域313が形成され得る。また、凸部領域313は、成形後のシートクッションフレーム400の形状を考慮して、種々の凸形状を採り得る。以下に、図3を参照しながら、本実施形態に係る凸部領域313について説明する。
【0052】
図3は、ブランク300の凸部領域313を説明するための図であり、図2Aにおける領域Xの拡大図である。図3に示すように、凸部領域313は、ブランク300の外縁311の一部が外側へ凸となった領域である。凸部領域313は、公知の計算手法により、ブランク300の外縁311においてブランク300の板面に平行な円弧を設定し、当該円弧の曲率半径および開き角度から決定される。円弧は、外縁311に沿って、1mmピッチで離間した3点を結ぶ円弧とする。図3に示すように、凸部領域313を決定するための円弧の曲率半径Rは、150mm以下であり、開き角度θは、60度以上120度以下とされる。上記手法によって、凸部領域313を決定して、当該凸部領域313に軟化部320が形成される。
【0053】
上記の通り、凸部領域313が特定され、当該凸部領域313に軟化部320が形成されることにより、しわの発生が想定される凸部領域313に軟化部320を設けることができる。これにより、シートクッションフレーム400の縮みフランジ部421におけるしわの発生が効果的に抑制されるとともに、成形後のシートクッションフレーム400の高強度を維持できる。
【0054】
ブランク300は、軟化部320が形成された凸部領域313を、少なくとも2つ以上有してもよい。また、ブランク300の主部領域310は、引張強度で1100MPa以上の鋼材であってもよい。さらに、ブランク300の主部領域310は、引張強度で1100MPa以上で、かつ2000MPa以下の鋼材であってもよい。
【0055】
本実施形態によれば、凸部領域313に軟化部320を形成することで、縮みフランジ部421となる領域の降伏点を低下させ、成形時の面外変形を抑制する。この結果、成形品であるシートクッションフレーム400において、縮みフランジ部421における、しわの発生が抑制される。これにより、シートクッションフレーム400へのしわによる影響を低減できる。特に、シートクッションフレーム400の縮みフランジ部421における外観もしくは寸法精度の悪化が低減される。
【0056】
なお、本実施形態において、ブランク300がシートクッションフレーム400に成形される例を説明したが、縮みフランジ部を有する成形品であればよく、本発明は、シートクッションフレームに限定されない。例えば、シートバックフレームに適用されてもよい。
【0057】
[本発明の実施形態に係る骨格部材の適用例]
以上、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明した。ここから、図4を参照して本発明のいずれかの実施形態に係るブランク100、300を用いて成形される骨格部材の適用例について説明する。図4は、本発明の実施形態に係るブランク100、300を用いて成形される骨格部材が適用される一例としての自動車骨格500を示す図である。ブランク100、300を用いて成形される骨格部材は、キャビン骨格または衝撃吸収骨格として自動車骨格500を構成し得る。キャビン骨格としての適用例は、ルーフサイドレール501、Aピラーロア507、Aピラーアッパー505、キックリーンフォース511、フロアクロスメンバ513、フロントヘッダ515等が挙げられる。
【0058】
また、衝撃吸収骨格としての骨格部材の適用例は、リアサイドメンバー503、バンパリーンフォース509等が挙げられる。
【0059】
本発明のいずれかの実施形態に係るブランク100、300を用いて成形される骨格部材は、縮みフランジ部におけるしわの発生が抑制される。これにより、骨格部材においてもしわによる影響が低減される。
【0060】
続いて、図5Aおよび図5Bを参照して、本発明のいずれかの実施形態に係るブランク100を用いて成形される部品の一例について説明する。図5Aは、本実施形態に係るブランク100を用いて成形される部品の一例を示す図である。また、図5Bは、本実施形態に係るブランク100を用いて成形された部品の適用される例を示す図である。本実施形態に係るブランク100を用いて成形される部品の一例は、バルクヘッド610が挙げられる。バルクヘッド610は、一面が開口した略箱型形状の部材である。バルクヘッド610により、中空の骨格部材の内部において隔壁が形成されることで、骨格部材の剛性および衝突性能がより向上される。
【0061】
図5Aに示すように、部品としてのバルクヘッド610は、一例として、箱型形状を有し、底面部としてのウェブ部611と、底面部の端部から立設した縦壁部としてフランジ部613と、コーナ部615とを有する。コーナ部615には、少なくとも部分的に軟化部620が形成されている。また、ウェブ部611とフランジ部613とは、主部領域617から構成される。
【0062】
フランジ部613は、第1の縦壁部としての第1のフランジ部613aと、第2の縦壁部としての第2のフランジ部613bとを有する。コーナ部615は、屈曲しかつ第1のフランジ部613aと第2のフランジ部613bとを接続するように、第1のフランジ部613aと第2のフランジ部613bとの間に設けられている。第2のフランジ部613bは、コーナ部615の端部から、第1のフランジ部613aと略直交する方向に設けられている。また、コーナ部615の稜線方向の一端はウェブ部611に接続されている。
【0063】
図5Aに示すように、バルクヘッド610において、コーナ部615は、少なくとも2つ形成されている。また、バルクヘッド610は、軟化部620が形成されたコーナ部615を少なくとも2つ以上有する。コーナ部615の一部は、上述した縮みフランジ部の一部として形成されている。
【0064】
軟化部620のビッカース硬度は、バルクヘッド610のウェブ部611またはフランジ部613を構成する主部領域617のビッカース硬度よりも低く設定されている。特に、軟化部620のビッカース硬度は、バルクヘッド610の主部領域617のビッカース硬度に対する比率で0.4以上0.9以下となるように設定されてもよい。
【0065】
軟化部620のビッカース硬度を、主部領域617のビッカース硬度の0.9以下とすることで、成形品のコーナ部615における、衝突時の破断を抑制する効果を得られる。また、軟化部620のビッカース硬度を、主部領域617のビッカース硬度の0.9以下とすることで、しわ発生を抑制する効果も得られる。一方、軟化部620のビッカース硬度を、主部領域のビッカース硬度に対して、0.4以上とすることで、成形品の強度を十分に保つことができる。
【0066】
バルクヘッド610の主部領域617は、引張強度で1100MPa以上の鋼材であってもよい。また、軟化部620は、引張強度で1000MPa以下となるように設定されてもよい。
【0067】
バルクヘッド610は、角筒状の骨格部材630の内部に、骨格部材630の短手方向に沿って設けられている。骨格部材630は、一対の第1の壁部631と、第1の壁部631の短手方向の端部に設けられたコーナ部633と、コーナ部633から第1の壁部631と直交する方向に設けられた、一対の第2の壁部635とを有する。バルクヘッド610のフランジ部613は、第1の壁部631および第2の壁部635の内面側に取り付けられている。また、バルクヘッド610のコーナ部615は、骨格部材630のコーナ部633の曲げ内側に、取り付けられている。
【0068】
バルクヘッド610は、本実施形態に係るブランク100から成形され、バルクヘッド610のコーナ部615において軟化部620が設けられている。そのため、骨格部材630に荷重が入力された際、バルクヘッド610が、縮みフランジ部であるコーナ部615を起点として破断することを抑制できる。
【0069】
また、バルクヘッド610は、本実施形態に係るブランク100から成形されることから、縮みフランジ部であるコーナ部615において、しわの発生が抑制される。これにより、バルクヘッド610と骨格部材630の密着性が向上する等、バルクヘッド610におけるしわによる影響が低減される。
【実施例
【0070】
(実施例1)
上述した実施形態に係るブランクのしわの発生への影響を確認するため、プレス成形のシミュレーション解析を行った。図6A図6B図6Cおよび図6Dを参照して、当該シミュレーション解析結果について説明する。図6Aは、比較例1として、シミュレーション解析に用いたブランクのモデルである。図6Bは、実施例として、シミュレーション解析に用いたブランクのモデルである。図6Cは、シミュレーション解析にて想定したプレス加工の金型の一例を示す図である。図6Dは、図6Cに示した金型において、縮みフランジ部を形成する角部分を抜き出した簡易金型モデルである。本解析は、図6Dの簡易金型モデルを用いて行った。
【0071】
図6Aに示すように、本発明に対する比較例では、四分円形状(凸部領域に相当)のブランクモデル700Aを用いた。比較例は、母材となる引張強度で1180MPaの鋼材に相当する領域710を有し、外縁713の上面視の曲率半径Rは、120mmである。一方、図6Bに示すように、本発明の実施例では、比較例と同じく四分円形状のブランクモデル700Bを用いた。実施例は、四分円の外周側において軟化部となる領域720を有し、さらに四分円の中心側において母材となる引張強度で1180MPaの鋼材に相当する領域710を有している。
【0072】
さらに、実施例では、領域720のビッカース硬度を変えて、シミュレーションを行った。実施例1では、軟化部に相当する領域720のビッカース硬度を、領域710のビッカース硬度に対して、0.83とした。これは、軟化部が、引張強度で980MPaの鋼材である場合に相当する。実施例2では、領域720のビッカース硬度を、領域710に対して、0.66とした。これは、軟化部が、引張強度で780MPaの鋼材の場合に相当する。実施例3では、領域720のビッカース硬度を、領域710のビッカース硬度に対して、0.5とした。これは、軟化部が、引張強度で590MPaの鋼材の場合に相当する。実施例のモデルの外縁713の上面視の曲率半径Rは、比較例1と同じく、120mmであり、軟化部に相当する領域720は、モデルの外縁713を含み、モデルの外縁713から60mm離れた位置まで存在する。そのため、縦壁全域が領域720で構成される。なお、実施例と比較例1とで、モデルの板厚は同一である。
【0073】
図6Dに示すように、金型モデルA’、B’、およびC’を用いてブランクのプレス加工のシミュレーションを行った。金型モデルA’、B’、C’は、それぞれ図6CにおけるダイA、パッドB、パンチCの一部分に相当する簡易的なモデルである。本発明者らは、上述したブランクのモデルの中心側を金型モデルC’(パンチ)と金型モデルB’(パッド)で保持しつつ、金型モデルA’(ダイ)に向かって移動させ、ブランクモデルを変形させた。すなわち、図6A図6Bに記載の四分円形状の外周側を屈曲させながら、圧縮変形させて、フランジを形成し、縮みフランジ部を有する成形品形状とするシミュレーション解析を行った。さらに、成形後の各モデルの縮みフランジ部に生じた、板厚減少率を比較した。ここで、板厚減少率とは、縮みフランジ部における、成形前の板厚に対する成形後の板厚の減少割合を示している。成形品における板厚減少率の最大値を板厚減少率とした。
【0074】
図7は、シミュレーション解析の結果得られた、プレス成形後のモデルの縮みフランジ部における、板厚減少率を示すグラフである。図7に示すように、比較例の板厚減少率に比べ、実施例1~3において板厚減少率が約16~18%となった。この結果、本発明のいずれかの実施形態に係るブランクを用いることで、縮みフランジ部における、板厚減少率を低減できることが分かった。さらに、主部領域のビッカース硬度に対する軟化部のビッカース硬度の比が0.9以下であれば、板厚減少率を大幅に低減できることがわかった。
【0075】
板厚減少率の低減は、縮みフランジ部における成形後の板厚変化が抑制されることを示し、この結果、板厚の変化に起因するしわの発生が抑制されることが示された。すなわち、本発明のいずれかの実施形態に係るブランクにより、縮みフランジ部を有する成形品における、しわの発生を抑制できた。
【0076】
さらに、図7に示すように、実施例1~3の間で、板厚減少率が大きく変化しないことから、軟化部のビッカース硬度の比を0.9から低下させても、板厚減少率の低減代は大きく変化しないことがわかった。すなわち、しわ抑制の観点から主部領域のビッカース硬度に対する軟化部のビッカース硬度の比が0.9以下であることが望ましいことが示された。また、しわ抑制の効果および部品強度の観点から、主部領域のビッカース硬度に対する軟化部のビッカース硬度の比が0.4以上であることが望ましい。
(実施例2)
【0077】
本発明に係る部品としてのバルクヘッド610の性能を評価するため、3点曲げ圧潰試験を実施した。図8を参照しながら、当該試験結果について説明する。図8は、3点曲げ圧潰試験条件を説明する図である。図8に示すように、本発明に係るバルクヘッド610を備える骨格部材630に対して、インパクタIを図8中の矢印の方向に衝突させ、バルクヘッド610のコーナ部615の破断の有無について評価した。衝突位置は、バルクヘッド610が設けられた位置である、骨格部材630の長手方向略中央位置とした。また、衝突速度は、64km/hとし、インパクタIの骨格部材630への侵入量が10mmとなった時の破断の有無を調べた。
【0078】
実施例4では、バルクヘッド610の主部領域617は、引張強度で1180MPaの鋼材とした。また、コーナ部615に設けられた軟化部620の強度は、引張強度で980MPa、つまり主部領域617のビッカース硬度の0.83となるように硬度を制御した。比較例2では、コーナ部に軟化部を設けず、バルクヘッドの全体を引張強度で1180MPaの鋼材とした。骨格部材630の寸法は、短手方向に沿った断面視で縦方向100mm×横方向100mmの角筒形状であり、板厚は、0.8mmとした。また、バルクヘッドの板厚も0.8mmとした。表1に評価結果を示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すように、コーナ部において、軟化部を設けなかった比較例2においては、インパクタIの10mm侵入時で、バルクヘッドのコーナ部で破断が発生した。一方、実施例4においては、インパクタIの10mm侵入時においても、バルクヘッド610に破断は生じなかった。このように、コーナ部615に主部領域617よりも軟化された軟化部620を設け、軟化部620の強度を主部領域617のビッカース硬度の0.9以下とすることで、バルクヘッド610のコーナ部615における破断を抑制できることが示された。
【0081】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、縮みフランジ部等に生じる、しわによる影響を抑制することが可能なブランクを提供できるため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0083】
100、300 ブランク
110、310 主部領域
111、311 外縁
113、313 凸部領域
120、320 軟化部
200 成形品
210 ウェブ部
220 フランジ部
221、421 縮みフランジ部
400 シートクッションフレーム
610 バルクヘッド(部品)
611 ウェブ部(底面部)
613 フランジ部
613a 第1のフランジ部(第1の縦壁部)
613b 第2のフランジ部(第2の縦壁部)
615 コーナ部(縮みフランジ部)
617 主部領域
620 軟化部
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8