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特許7188570二相ステンレス継目無鋼管、及び、二相ステンレス継目無鋼管の製造方法
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  • 特許-二相ステンレス継目無鋼管、及び、二相ステンレス継目無鋼管の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】二相ステンレス継目無鋼管、及び、二相ステンレス継目無鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221206BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20221206BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20221206BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C22C38/58
C21D8/10 D
C21D9/08 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021516205
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2020017511
(87)【国際公開番号】W WO2020218426
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2019083337
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 幸清
(72)【発明者】
【氏名】富尾 悠索
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/111537(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/111536(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/208946(WO,A1)
【文献】特開2005-014032(JP,A)
【文献】特開平09-271811(JP,A)
【文献】特開2016-117944(JP,A)
【文献】国際公開第2020/013197(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二相ステンレス継目無鋼管であって、
質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.20~1.00%、
Mn:0.50~7.00%、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cu:1.80~4.00%、
Cr:20.00~28.00%、
Ni:4.00~9.00%、
Mo:0.50~2.00%、
Al:0.100%以下、
N:0.150~0.350%、
V:0~1.50%、
Nb:0~0.100%、
Ta:0~0.100%、
Ti:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、
Hf:0~0.100%、
Ca:0~0.0200%、
Mg:0~0.0200%、
B:0~0.0200%、
希土類元素:0~0.200%、及び、
残部がFe及び不純物からなる化学組成と、
体積率で30.0~70.0%のフェライト、及び、残部がオーステナイトからなるミクロ組織とを有し、
前記二相ステンレス継目無鋼管の管軸方向をL方向、前記二相ステンレス継目無鋼管の管径方向をT方向と定義したとき、
前記二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部を含み、前記L方向に延びる辺の長さが1.0mmであり、前記T方向に延びる辺の長さが1.0mmである正方形の観察視野領域において、
前記T方向に延びる線分であって、前記観察視野領域の前記L方向に等間隔に配列され、前記観察視野領域を前記L方向に5等分する4つの線分をT1~T4と定義し、
前記L方向に延びる線分であって、前記観察視野領域の前記T方向に等間隔に配列され、前記観察視野領域を前記T方向に5等分する4つの線分をL1~L4と定義し、
前記観察視野領域における前記フェライトと前記オーステナイトとの界面をフェライト界面と定義したとき、
前記線分T1~T4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NTが40.0個以上であり、
前記線分L1~L4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NLと、前記交点数NTとが、式(1)を満たす、
二相ステンレス継目無鋼管。
NT/NL≧2.0 (1)
【請求項2】
請求項1に記載の二相ステンレス継目無鋼管であって、
前記化学組成は、
V:0.01~1.50%、
Nb:0.001~0.100%、
Ta:0.001~0.100%、
Ti:0.001~0.100%、
Zr:0.001~0.100%、及び、
Hf:0.001~0.100%からなる群から選択される1元素以上を含有する、
二相ステンレス継目無鋼管。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の二相ステンレス継目無鋼管であって、
前記化学組成は、
Ca:0.0005~0.0200%、
Mg:0.0005~0.0200%、
B:0.0005~0.0200%、及び、
希土類元素:0.005~0.200%からなる群から選択される1元素以上を含有する、
二相ステンレス継目無鋼管。
【請求項4】
二相ステンレス継目無鋼管の製造方法であって、
請求項1~3のいずれか1項に記載の化学組成を有する素材を準備する、素材準備工程と、
前記素材準備工程後の前記素材を、1000~1280℃の加熱温度TA℃で加熱する、加熱工程と、
前記加熱工程後の前記素材を、式(A)を満たす断面減少率RA%で穿孔圧延して、素管を製造する、穿孔圧延工程と、
前記穿孔圧延工程後の前記素管を、延伸圧延する、延伸圧延工程と、
前記延伸圧延工程後の前記素管を、950~1080℃で5~180分間保持する、溶体化熱処理工程とを備える、
請求項1~3のいずれか1項に記載の二相ステンレス継目無鋼管の製造方法。
A≧-0.000200×TA 2+0.513×TA-297 (A)
ここで、式(A)中のRAは、式(B)で定義される。
A={1-(穿孔圧延後の前記素管の管軸方向に垂直な断面積/穿孔圧延前の前記素材の軸方向に垂直な断面積)}×100 (B)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二相ステンレス鋼材及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、二相ステンレス継目無鋼管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油井やガス井(以下、油井及びガス井を総称して、単に「油井」という)は、腐食性ガスを含有した腐食環境となっている場合がある。ここで、腐食性ガスとは、炭酸ガス、及び/又は、硫化水素ガスを意味する。すなわち、油井で用いられる鋼材には、腐食環境における優れた耐食性が求められる。
【0003】
これまでに、鋼材の耐食性を高める手法として、クロム(Cr)含有量を高め、Cr酸化物を主体とする不動態被膜を、鋼材の表面に形成する手法が知られている。そのため、優れた耐食性が求められる環境下では、Cr含有量を高めた二相ステンレス鋼材が用いられる場合がある。二相ステンレス鋼材は、特に海水中において、優れた耐食性を示すことが知られている。
【0004】
また、近年、従来よりも過酷な環境における油井開発がなされてきている。従来よりも過酷な環境とは、たとえば極地である。極地のような寒冷地の油井に用いられる鋼材には、優れた耐食性だけでなく、優れた低温靭性が求められる。
【0005】
特開平3-291358号公報(特許文献1)、特開平10-60597号公報(特許文献2)、国際公開第2012/111536号(特許文献3)、及び、特開2016-3377号公報(特許文献4)では、二相ステンレス鋼材の低温靭性を高める技術が提案されている。
【0006】
特許文献1に開示された二相ステンレス鋼材は、重量%で、Cr:20~30%、Ni:3~12%、及び、Mo:0.2~5.0%を含み、sol.Al:0.01~0.05%、O:0.0020%未満、及び、S:0.0003%以下とする。この二相ステンレス鋼材は、靭性と熱間加工性に優れる、と特許文献1には記載されている。
【0007】
特許文献2に開示された二相ステンレス鋼材は、フェライト量が面積率で60~90%であり、Niバランス値(=Ni+0.5Mn+30(C+N)-1.1(Cr+1.5Si+Mo+0.5Nb)+8.2)が-15~-10であり、かつ、式(Al含有量×N含有量≦0.0023×Niバランス値+0.357)を満たす。この二相ステンレス鋼材は、高強度と優れた靭性とを備える、と特許文献2には記載されている。
【0008】
特許文献3に開示された二相ステンレス鋼材は、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.20~1.00%、Mn:8.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0100%以下、Cu:2.00超~4.00%以下、Ni:4.00~8.00%、Cr:20.0~30.0%、Mo:0.50~2.00%未満、N:0.100~0.350%、及び、Al:0.040%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成と、フェライト率が30~70%であり、フェライトの硬さが300Hv10gf以上である組織とを有する。この二相ステンレス鋼材は、高強度及び高靱性を有する、と特許文献3には記載されている。
【0009】
特許文献4に開示された二相ステンレス鋼管は、質量%で、C:0.03%以下、Si:0.2~1%、Mn:0.5~2.0%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Al:0.040%以下、Ni:4~6%未満、Cr:20~25%未満、Mo:2.0~4.0%、N:0.1~0.35%、O:0.003%以下、V:0.05~1.5%、Ca:0.0005~0.02%、及び、B:0.0005~0.02%を含有し、残部はFe及び不純物である化学組成を有し、金属組織が、フェライト相とオーステナイト相の二相組織にて構成され、シグマ相の析出がなく、かつ、面積率で、金属組織に占めるフェライト相の割合が50%以下であり、300mm2視野中に存在する粒径30μm以上の酸化物個数が15個以下である。この二相ステンレス鋼管は、強度、耐孔食性、及び、低温靭性に優れる、と特許文献4には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平3-291358号公報
【文献】特開平10-60597号公報
【文献】国際公開第2012/111536号
【文献】特開2016-3377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、油井環境の過酷化に伴い、従来よりも優れた低温靭性を有する二相ステンレス継目無鋼管が求められてきている。上述のとおり、上記特許文献1~4は、優れた低温靭性を有する二相ステンレス鋼材を開示する。しかしながら、上記特許文献1~4に開示された技術以外の他の技術によって、優れた低温靭性を有する二相ステンレス継目無鋼管が得られてもよい。
【0012】
本開示の目的は、優れた低温靱性を有する二相ステンレス継目無鋼管と、その二相ステンレス継目無鋼管の製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示による二相ステンレス継目無鋼管は、
質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.20~1.00%、
Mn:0.50~7.00%、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cu:1.80~4.00%、
Cr:20.00~28.00%、
Ni:4.00~9.00%、
Mo:0.50~2.00%、
Al:0.100%以下、
N:0.150~0.350%、
V:0~1.50%、
Nb:0~0.100%、
Ta:0~0.100%、
Ti:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、
Hf:0~0.100%、
Ca:0~0.0200%、
Mg:0~0.0200%、
B:0~0.0200%、
希土類元素:0~0.200%、及び、
残部がFe及び不純物からなる化学組成と、
体積率で30.0~70.0%のフェライト、及び、残部がオーステナイトからなるミクロ組織とを有し、
前記二相ステンレス継目無鋼管の管軸方向をL方向、前記二相ステンレス継目無鋼管の管径方向をT方向と定義したとき、
前記二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部を含み、前記L方向に延びる辺の長さが1.0mmであり、前記T方向に延びる辺の長さが1.0mmである正方形の観察視野領域において、
前記T方向に延びる線分であって、前記観察視野領域の前記L方向に等間隔に配列され、前記観察視野領域を前記L方向に5等分する4つの線分をT1~T4と定義し、
前記L方向に延びる線分であって、前記観察視野領域の前記T方向に等間隔に配列され、前記観察視野領域を前記T方向に5等分する4つの線分をL1~L4と定義し、
前記観察視野領域における前記フェライトと前記オーステナイトとの界面をフェライト界面と定義したとき、
前記線分T1~T4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NTが40.0個以上であり、
前記線分L1~L4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NLと、前記交点数NTとが、式(1)を満たす。
NT/NL≧2.0 (1)
【0014】
本開示による二相ステンレス継目無鋼管の製造方法は、
上記化学組成を有する素材を準備する、素材準備工程と、
前記素材準備工程後の前記素材を、1000~1280℃の加熱温度TA℃で加熱する、加熱工程と、
前記加熱工程後の前記素材を、式(A)を満たす断面減少率RA%で穿孔圧延して、素管を製造する、穿孔圧延工程と、
前記穿孔圧延工程後の前記素管を、延伸圧延する、延伸圧延工程と、
前記延伸圧延工程後の前記素管を、950~1080℃で5~180分間保持する、溶体化熱処理工程とを備える。
A≧-0.000200×TA 2+0.513×TA-297 (A)
ここで、式(A)中のRAは、式(B)で定義される。
A={1-(穿孔圧延後の前記素管の管軸方向に垂直な断面積/穿孔圧延前の前記素材の軸方向に垂直な断面積)}×100 (B)
【発明の効果】
【0015】
本開示による二相ステンレス継目無鋼管は、優れた低温靱性を有する。本開示による二相ステンレス継目無鋼管の製造方法は、上述の二相ステンレス継目無鋼管を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本実施形態の二相ステンレス継目無鋼管と同じ化学組成を有するものの、ミクロ組織が異なる二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部であって、二相ステンレス継目無鋼管の管軸方向(L方向)及び管径方向(T方向)を含む断面でのミクロ組織の模式図である。
図2図2は、本実施形態の二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部であって、L方向及びT方向を含む断面でのミクロ組織の模式図である。
図3図3は、本実施形態における層状指数(LI:Layer Index)の算出方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、二相ステンレス継目無鋼管の低温靭性を高める手法について検討を行った。まず、本発明者らは、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.20~1.00%、Mn:0.50~7.00%、P:0.040%以下、S:0.0100%以下、Cu:1.80~4.00%、Cr:20.00~28.00%、Ni:4.00~9.00%、Mo:0.50~2.00%、Al:0.100%以下、N:0.150~0.350%、V:0~1.50%、Nb:0~0.100%、Ta:0~0.100%、Ti:0~0.100%、Zr:0~0.100%、Hf:0~0.100%、Ca:0~0.0200%、Mg:0~0.0200%、B:0~0.0200%、希土類元素:0~0.200%、及び、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する二相ステンレス継目無鋼管であれば、優れた低温靱性が得られる可能性があると考えた。
【0018】
そこで本発明者らは、上述の化学組成を有する二相ステンレス継目無鋼管の低温靭性を高める手法を調査及び検討した。具体的に、本発明者らは、上述の化学組成を有する二相ステンレス継目無鋼管のミクロ組織に着目した。まず、上述の化学組成を有する二相ステンレス継目無鋼管のミクロ組織は、フェライト及びオーステナイトからなる。
【0019】
ここで、二相ステンレス継目無鋼管のミクロ組織のうちフェライトは、オーステナイトと比べて硬さが高い。すなわち、フェライトはオーステナイトよりも靭性が低い。そのため、低温において、二相ステンレス継目無鋼管に微小な割れが生じた場合、割れはフェライト中を伝播する可能性がある。フェライト中を割れが伝播すれば、二相ステンレス継目無鋼管に脆性破壊が発生する。すなわち、上述の二相ステンレス継目無鋼管の低温靭性を高めるためには、フェライト中に割れが伝播しにくくすればよいのではないかと、本発明者らは考えた。
【0020】
そこで本発明者らは、まず、フェライト及びオーステナイトの体積率と、低温靭性との関係について調査及び検討を行った。その結果、フェライト及びオーステナイトの体積率を適切に制御することにより、二相ステンレス継目無鋼管の低温靭性が高められることを知見した。
【0021】
フェライトの体積率が高すぎれば、フェライト中を割れが伝播しやすくなる。その結果、二相ステンレス継目無鋼管の低温靭性が低下する。一方、オーステナイトの体積率が高すぎれば、すなわち、フェライトの体積率が低すぎれば、二相ステンレス継目無鋼管に要求されるその他の特性(たとえば、強度、耐食性等)が得られない場合がある。したがって、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管は、ミクロ組織において、フェライトの体積率を30.0~70.0%とする。
【0022】
一方、上述の化学組成を有し、フェライトの体積率を30.0~70.0%とした二相ステンレス継目無鋼管においても、優れた低温靭性が得られない場合があった。そこで、次に本発明者らは、フェライトとオーステナイトとの分布状態に着目した。上述のとおり、二相ステンレス継目無鋼管に割れが発生した場合、フェライト中を伝播する可能性がある。そのため、フェライトの体積率が70.0%以下であっても、粗大なフェライトが存在すれば、粗大なフェライト中に微小な割れが伝播する可能性がある。その結果、二相ステンレス継目無鋼管は、優れた低温靭性が得られない可能性がある。
【0023】
ところで、油井用途への使用が想定された二相ステンレス継目無鋼管は、その製造工程において、穿孔圧延及び延伸圧延が実施される。穿孔圧延によって、二相ステンレス継目無鋼管の内表面近傍の加工歪みが高くなりやすい。さらに、延伸圧延によって、二相ステンレス継目無鋼管の内表面近傍、及び、外表面近傍の加工歪みが高くなりやすい。その結果、二相ステンレス継目無鋼管では、肉厚中央部において、加工歪みが低くなりやすい。このようにして、油井用途への使用が想定された二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部では、粗大なフェライトや粗大なオーステナイトが存在しやすいと考えられる。
【0024】
そこで本発明者らは、二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部のミクロ組織観察を行い、フェライトとオーステナイトとの分布状態と、低温靭性との関係について、詳細に調査及び検討を行った。まず、本発明者らは、上述の化学組成を有し、フェライトの体積率が30.0~70.0%の二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部における、管軸方向及び管径方向を含む断面を観察し、フェライトとオーステナイトとの分布状態を観察した。
【0025】
図1及び図2は、上述の化学組成を有する二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部における、管軸方向及び管径方向を含む断面でのミクロ組織の様子の一例を示す模式図である。図1の観察視野領域50中の左右方向が管軸方向に相当し、図1の観察視野領域50中の上下方向が管径方向に相当する。同様に、図2の観察視野領域50中の左右方向が管軸方向に相当し、図2の観察視野領域50中の上下方向が管径方向に相当する。なお、本明細書において、二相ステンレス継目無鋼管の管軸方向を「L方向」ともいう。また、二相ステンレス継目無鋼管の管径方向を「T方向」ともいう。図1及び図2のいずれにおいても、模式図に示す観察視野領域50のL方向長さは1.0mmであり、T方向長さは1.0mmである。
【0026】
図1及び図2において、白色の領域10はフェライトである。ハッチングされた領域20はオーステナイトである。図1の観察視野領域50におけるフェライト10の体積率及びオーステナイト20の体積率は、図2の観察視野領域50におけるフェライト10の体積率及びオーステナイト20の体積率とそれほど大きくは変わらない。しかしながら、図1の観察視野領域50におけるフェライト10及びオーステナイト20の分布状態は、図2の観察視野領域50におけるフェライト10及びオーステナイト20の分布状態と大きく異なる。
【0027】
具体的に、図1に示すミクロ組織では、フェライト10及びオーステナイト20が各々ランダムな方向に延びており、非層状組織となっている。一方、図2に示すミクロ組織では、フェライト10及びオーステナイト20がいずれもL方向に延びており、フェライト10及びオーステナイト20がT方向に積層している。つまり、図2に示すミクロ組織は、フェライト10とオーステナイト20との層状組織となっている。
【0028】
このように、上述の化学組成を有し、フェライトの体積率が30.0~70.0%の二相ステンレス継目無鋼管では、体積率が同程度であっても、ミクロ組織におけるフェライトとオーステナイトとの分布状態が大きく異なる場合がある。そこで、本発明者らは、ミクロ組織におけるフェライト及びオーステナイトの分布状態と、低温靭性との関係について、さらに詳細に検討した。
【0029】
まず、本発明者らは、ミクロ組織におけるフェライト及びオーステナイトの分布状態の指標として、層状指数LI(Layer Index)を次の式(1)で定義した。
(層状指数LI)=(T方向の交点数NT)/(L方向の交点数NL) (1)
【0030】
層状指数LIについて、図面を用いて説明する。図3は、本実施形態における層状指数LIの算出方法を説明するための模式図である。図3における観察視野領域50は、二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部でのL方向及びT方向を含む断面において、L方向に延びる辺の長さが1.0mm、T方向に延びる辺の長さが1.0mmの正方形の領域である。図3では、観察視野領域50において、フェライト10とオーステナイト20とが含まれている。ここで、フェライト10とオーステナイト20との界面を、「フェライト界面」と定義する。ここで、フェライト10とオーステナイト20とは、顕微鏡観察において、コントラストが異なるため、当業者であれば容易に特定できる。
【0031】
図3中の線分T1~T4は、T方向に延び、観察視野領域50のL方向に等間隔に配列され、観察視野領域50をL方向に5等分する線分である。線分T1~T4と、観察視野領域50内のフェライト界面との交点(図3中で「●」印)の数を、交点数NT(個)と定義する。図3中の線分L1~L4は、L方向に延び、観察視野領域50のT方向に等間隔に配列され、観察視野領域50をT方向に5等分する線分である。線分L1~L4と、観察視野領域50内のフェライト界面との交点(図3中で「◇」印)の数を、交点数NL(個)と定義する。
【0032】
求めたT方向の交点数NT(個)と、L方向の交点数NL(個)と、式(1)とを用いて、層状指数LI(=NT/NL)を求めることができる。続いて、本発明者らは、上述の化学組成を有し、フェライトの体積率が30.0~70.0%の二相ステンレス継目無鋼管において、層状指数LIと、低温靭性との関係について、詳細に調査及び検討した。
【0033】
表1は、後述する実施例における、試験番号1、16、17、及び、19の鋼と、フェライトの体積率と、T方向の交点数NTと、L方向の交点数NLと、層状指数LIと、低温靭性の指標である吸収エネルギーE及びエネルギー遷移温度vTEとを表3から抜粋して記載したものである。
【0034】
【表1】
【0035】
表1を参照して、試験番号1、16、17、及び、19は、いずれも同一の鋼Aを用いた。すなわち、試験番号1、16、17、及び、19の化学組成は、同一であった。表1を参照してさらに、試験番号1、16、17、及び、19のフェライトの体積率は、いずれも30.0~70.0%であり、同程度であった。一方、表1を参照して、試験番号19は、試験番号1、16、及び、17よりも、T方向の交点数NTが少なかった。すなわち、粗大なフェライトが多く生成されたものと考えられる。その結果、吸収エネルギーEが120J未満となり、かつ、エネルギー遷移温度vTEが-18.0℃を超えた。すなわち、T方向の交点数が少なかった試験番号19は、優れた低温靭性を示さなかった。
【0036】
表1を参照してさらに、試験番号1、16、及び、17のT方向の交点数NTは、いずれも40.0個以上となり、同程度であった。すなわち、試験番号1、16、及び、17は、いずれもフェライトとオーステナイトとが、微細なミクロ組織を形成したと考えられる。一方、表1を参照して、試験番号17は、試験番号1及び16よりも、層状指数LIが小さかった。すなわち、試験番号17では、ミクロ組織において、図1に代表される非層状組織が形成されたと考えられる。その結果、吸収エネルギーEが120J未満となり、かつ、エネルギー遷移温度vTEが-18.0℃を超えた。すなわち、層状指数LIが小さかった試験番号17は、優れた低温靭性を示さなかった。
【0037】
要するに、上述の化学組成を有し、フェライトの体積率が30.0~70.0%の二相ステンレス継目無鋼管においては、フェライトを微細にするだけではなく、図2に代表される層状組織を形成することにより、低温靭性を顕著に高められることを、本発明者らは見出した。
【0038】
したがって、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管は、上述の化学組成を有し、体積率で30.0~70.0%のフェライトと、オーステナイトとからなるミクロ組織を有し、二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部のミクロ組織において、T方向の交点数NTが40.0個以上であり、さらに、層状指数LIが2.0以上である。その結果、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管は、優れた低温靭性を有する。
【0039】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管の要旨は、次のとおりである。
【0040】
[1]
二相ステンレス継目無鋼管であって、
質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.20~1.00%、
Mn:0.50~7.00%、
P:0.040%以下、
S:0.0100%以下、
Cu:1.80~4.00%、
Cr:20.00~28.00%、
Ni:4.00~9.00%、
Mo:0.50~2.00%、
Al:0.100%以下、
N:0.150~0.350%、
V:0~1.50%、
Nb:0~0.100%、
Ta:0~0.100%、
Ti:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、
Hf:0~0.100%、
Ca:0~0.0200%、
Mg:0~0.0200%、
B:0~0.0200%、
希土類元素:0~0.200%、及び、
残部がFe及び不純物からなる化学組成と、
体積率で30.0~70.0%のフェライト、及び、残部がオーステナイトからなるミクロ組織とを有し、
前記二相ステンレス継目無鋼管の管軸方向をL方向、前記二相ステンレス継目無鋼管の管径方向をT方向と定義したとき、
前記二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部を含み、前記L方向に延びる辺の長さが1.0mmであり、前記T方向に延びる辺の長さが1.0mmである正方形の観察視野領域において、
前記T方向に延びる線分であって、前記観察視野領域の前記L方向に等間隔に配列され、前記観察視野領域を前記L方向に5等分する4つの線分をT1~T4と定義し、
前記L方向に延びる線分であって、前記観察視野領域の前記T方向に等間隔に配列され、前記観察視野領域を前記T方向に5等分する4つの線分をL1~L4と定義し、
前記観察視野領域における前記フェライトと前記オーステナイトとの界面をフェライト界面と定義したとき、
前記線分T1~T4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NTが40.0個以上であり、
前記線分L1~L4と前記フェライト界面との交点の数である交点数NLと、前記交点数NTとが、式(1)を満たす、
二相ステンレス継目無鋼管。
NT/NL≧2.0 (1)
【0041】
[2]
[1]に記載の二相ステンレス継目無鋼管であって、
前記化学組成は、
V:0.01~1.50%、
Nb:0.001~0.100%、
Ta:0.001~0.100%、
Ti:0.001~0.100%、
Zr:0.001~0.100%、及び、
Hf:0.001~0.100%からなる群から選択される1元素以上を含有する、
二相ステンレス継目無鋼管。
【0042】
[3]
[1]又は[2]に記載の二相ステンレス継目無鋼管であって、
前記化学組成は、
Ca:0.0005~0.0200%、
Mg:0.0005~0.0200%、
B:0.0005~0.0200%、
希土類元素:0.005~0.200%からなる群から選択される1元素以上を含有する、
二相ステンレス継目無鋼管。
【0043】
[4]
二相ステンレス継目無鋼管の製造方法であって、
[1]~[3]のいずれか1項に記載の化学組成を有する素材を準備する、素材準備工程と、
前記素材準備工程後の前記素材を、1000~1280℃の加熱温度TA℃で加熱する、加熱工程と、
前記加熱工程後の前記素材を、式(A)を満たす断面減少率RA%で穿孔圧延して、素管を製造する、穿孔圧延工程と、
前記穿孔圧延工程後の前記素管を、延伸圧延する、延伸圧延工程と、
前記延伸圧延工程後の前記素管を、950~1080℃で5~180分間保持する、溶体化熱処理工程とを備える、
二相ステンレス継目無鋼管の製造方法。
A≧-0.000200×TA 2+0.513×TA-297 (A)
ここで、式(A)中のRAは、式(B)で定義される。
A={1-(穿孔圧延後の前記素管の管軸方向に垂直な断面積/穿孔圧延前の前記素材の軸方向に垂直な断面積)}×100 (B)
【0044】
以下、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管について詳述する。なお、元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0045】
[化学組成]
本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管の化学組成は、次の元素を含有する。
【0046】
C:0.030%以下
炭素(C)は、不可避に含有される。すなわち、C含有量の下限は0%超である。Cは結晶粒界にCr炭化物を形成し、粒界での腐食感受性を高める。その結果、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐食性が低下する。したがって、C含有量は0.030%以下である。C含有量の好ましい上限は0.028%であり、より好ましくは0.025%である。C含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、C含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、C含有量の好ましい下限は0.001%であり、より好ましくは0.005%である。
【0047】
Si:0.20~1.00%
シリコン(Si)は、鋼を脱酸する。Si含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の低温靱性及び熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は0.20~1.00%である。Si含有量の好ましい下限は0.25%であり、より好ましくは0.30%である。Si含有量の好ましい上限は0.85%であり、より好ましくは0.75%である。
【0048】
Mn:0.50~7.00%
マンガン(Mn)は、鋼を脱酸し、鋼を脱硫する。Mnはさらに、鋼材の熱間加工性を高める。Mn含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、Mnは、P及びS等の不純物とともに、粒界に偏析する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温環境における鋼材の耐食性が低下する。したがって、Mn含有量は0.50~7.00%である。Mn含有量の好ましい下限は0.75%であり、より好ましくは1.00%である。Mn含有量の好ましい上限は6.50%であり、より好ましくは6.20%である。
【0049】
P:0.040%以下
燐(P)は、不純物である。すなわち、P含有量の下限は0%超である。Pは、粒界に偏析して、鋼材の低温靱性を低下させる。したがって、P含有量は0.040%以下である。P含有量の好ましい上限は0.035%であり、より好ましくは0.030%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、より好ましくは0.003%である。
【0050】
S:0.0100%以下
硫黄(S)は、不純物である。すなわち、S含有量の下限は0%超である。Sは、粒界に偏析して、鋼材の低温靱性及び熱間加工性を低下させる。したがって、S含有量は0.0100%以下である。S含有量の好ましい上限は0.0085%であり、より好ましくは0.0065%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、より好ましくは0.0003%である。
【0051】
Cu:1.80~4.00%
銅(Cu)は、析出強化により、鋼材の強度を高める。Cuはさらに、高温環境での鋼材の耐食性を高める。Cu含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cu含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は1.80~4.00%である。Cu含有量の好ましい下限は1.90%であり、より好ましくは、2.00%であり、さらに好ましくは2.20%であり、さらに好ましくは2.50%である。Cu含有量の好ましい上限は3.90%であり、より好ましくは3.75%であり、さらに好ましくは3.50%である。
【0052】
Cr:20.00~28.00%
クロム(Cr)は、高温環境における鋼材の耐食性を高める。具体的に、Crは酸化物として鋼材の表面に不動態被膜を形成する。その結果、鋼材の耐食性が高まる。Crはさらに、鋼材のフェライトの体積率を高める元素である。フェライトの体積率を高めることで、鋼材の耐食性が安定化する。Cr含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Cr含有量は20.00~28.00%である。Cr含有量の好ましい下限は20.50%であり、より好ましくは21.00%であり、さらに好ましくは21.50%である。Cr含有量の好ましい上限は27.50%であり、より好ましくは27.00%であり、さらに好ましくは26.50%である。
【0053】
Ni:4.00~9.00%
ニッケル(Ni)は、鋼材のオーステナイトを安定化させる元素である。すなわち、Niは安定したフェライト及びオーステナイトの二相組織を得るために必要な元素である。Niはさらに、高温環境における鋼材の耐食性を高める。Ni含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Ni含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、オーステナイトの体積率が高くなりすぎ、鋼材の強度が低下する。したがって、Ni含有量は4.00~9.00%である。Ni含有量の好ましい下限は、4.20%であり、より好ましくは4.30%であり、さらに好ましくは4.40%であり、さらに好ましくは4.50%である。Ni含有量の好ましい上限は8.50%であり、より好ましくは8.00%であり、さらに好ましくは7.50%であり、さらに好ましくは7.00%であり、さらに好ましくは6.75%である。
【0054】
Mo:0.50~2.00%
モリブデン(Mo)は、高温環境における鋼材の耐食性を高める。Mo含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Mo含有量は0.50~2.00%である。Mo含有量の好ましい下限は0.60%であり、より好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.80%である。Mo含有量の好ましい上限は1.85%であり、より好ましくは1.50%である。
【0055】
Al:0.100%以下
アルミニウム(Al)は、不可避に含有される。すなわち、Al含有量の下限は0%超である。Alは、鋼を脱酸する。一方、Al含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物系介在物が生成して、鋼材の低温靱性が低下する。したがって、Al含有量は0.100%以下である。Al含有量の好ましい下限は0.001%であり、より好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Al含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.050%である。なお、本明細書にいうAl含有量は、「酸可溶Al」、つまり、sol.Alの含有量を意味する。
【0056】
N:0.150~0.350%
窒素(N)は、鋼材のオーステナイトを安定化させる元素である。すなわち、Nは安定したフェライト及びオーステナイトの二相組織を得るために必要な元素である。Nはさらに、鋼材の耐食性を高める。N含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、N含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の低温靭性及び熱間加工性が低下する。したがって、N含有量は0.150~0.350%である。N含有量の好ましい下限は0.170%であり、より好ましくは0.180%であり、さらに好ましくは0.200%である。N含有量の好ましい上限は、0.340%であり、より好ましくは0.330%である。
【0057】
本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、二相ステンレス継目無鋼管を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0058】
[任意元素]
上述の二相ステンレス継目無鋼管の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、V、Nb、Ta、Ti、Zr、及び、Hfからなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材の強度を高める。
【0059】
V:0~1.50%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、Vは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、V含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、V含有量は0~1.50%である。V含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。V含有量の好ましい上限は1.20%であり、より好ましくは1.00%である。
【0060】
Nb:0~0.100%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Nb含有量は0%であってもよい。含有される場合、Nbは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Nb含有量は0~0.100%である。Nb含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。Nb含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.070%である。
【0061】
Ta:0~0.100%
タンタル(Ta)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ta含有量は0%であってもよい。含有される場合、Taは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Taが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ta含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Ta含有量は0~0.100%である。Ta含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。Ta含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.070%である。
【0062】
Ti:0~0.100%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、Tiは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Ti含有量は0~0.100%である。Ti含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。Ti含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.070%である。
【0063】
Zr:0~0.100%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Zr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Zrは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Zrが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Zr含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Zr含有量は0~0.100%である。Zr含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。Zr含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.070%である。
【0064】
Hf:0~0.100%
ハフニウム(Hf)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Hf含有量は0%であってもよい。含有される場合、Hfは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Hfが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Hf含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Hf含有量は0~0.100%である。Hf含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。Hf含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.070%である。
【0065】
上述の二相ステンレス継目無鋼管の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ca、Mg、B、及び、希土類元素からなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材の熱間加工性を高める。
【0066】
Ca:0~0.0200%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、Caは鋼材中のSを硫化物として固定することで無害化し、鋼材の熱間加工性を高める。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中の酸化物が粗大化して、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Ca含有量は0~0.0200%である。Ca含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0180%であり、より好ましくは0.0150%である。
【0067】
Mg:0~0.0200%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、Mgは鋼材中のSを硫化物として固定することで無害化し、鋼材の熱間加工性を高める。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中の酸化物が粗大化して、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Mg含有量は0~0.0200%である。Mg含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0030%である。Mg含有量の好ましい上限は0.0180%であり、より好ましくは0.0150%である。
【0068】
B:0~0.0200%
ホウ素(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、B含有量は0%であってもよい。含有される場合、Bは鋼材中のSの粒界への偏析を抑制し、鋼材の熱間加工性を高める。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、B含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、ボロン窒化物(BN)が生成し、鋼材の低温靱性が低下する。したがって、B含有量は0~0.0200%である。B含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0030%である。B含有量の好ましい上限は0.0180%であり、より好ましくは0.0150%である。
【0069】
希土類元素:0~0.200%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、REMは鋼材中のSを硫化物として固定することで無害化し、鋼材の熱間加工性を高める。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、REM含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中の酸化物が粗大化して、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、REM含有量は0~0.200%である。REM含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.030%である。REM含有量の好ましい上限は0.180%であり、より好ましくは0.150%である。
【0070】
なお、本明細書におけるREMとは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)、原子番号39番のイットリウム(Y)、及び、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)~原子番号71番のルテチウム(Lu)からなる群から選択される1種以上の元素を意味する。また、本明細書におけるREM含有量とは、これら元素の合計含有量を意味する。
【0071】
[ミクロ組織]
本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管のミクロ組織は、フェライト及びオーステナイトからなる。本明細書において、「フェライト及びオーステナイトからなる」とは、フェライト及びオーステナイト以外の相が無視できるほど少ないことを意味する。たとえば、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管の化学組成においては、析出物や介在物の体積率は、フェライト及びオーステナイトの体積率と比較して、無視できるほど小さい。すなわち、本実施形態による二相ステンレスのミクロ組織には、フェライト及びオーステナイト以外に、析出物や介在物等を微小量含んでもよい。
【0072】
本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管のミクロ組織はさらに、フェライトの体積率が30.0~70.0%である。フェライトの体積率が低すぎれば、鋼材の強度、及び/又は、耐食性が低下する場合がある。一方、フェライトの体積率が高すぎれば、鋼材の低温靭性が低下する。フェライトの体積率が高すぎればさらに、鋼材の熱間加工性が低下する場合がある。したがって、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管のミクロ組織において、フェライトの体積率は30.0~70.0%である。フェライトの体積率の好ましい下限は31.0%であり、より好ましくは32.0%である。フェライトの体積率の好ましい上限は68.0%であり、より好ましくは65.0%である。
【0073】
本実施形態において、二相ステンレス継目無鋼管のフェライトの体積率は、次の方法で求めることができる。本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部から、ミクロ組織観察用の試験片を作製する。ミクロ組織観察は、二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部における、管軸方向(L方向)と管径方向(T方向)とを含む観察面で実施される。
【0074】
ミクロ組織観察用の試験片の大きさは、特に限定されず、L方向:5mm×T方向:5mmの観察面が得られればよい。観察面のT方向における中央位置が、二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部とほぼ一致するように、試験片を作製する。作製した試験片の観察面を鏡面研磨する。鏡面研磨された観察面を7%水酸化カリウム腐食液中で電解腐食し組織現出を行う。組織現出された観察面を、光学顕微鏡を用いて10視野観察する。観察視野領域の面積は特に限定されないが、たとえば、1.00mm2(倍率100倍)である。
【0075】
各視野において、コントラストからフェライト及びオーステナイトを特定する。特定したフェライト及びオーステナイトの面積率を求める。フェライト及びオーステナイトの面積率を求める方法は特に限定されず、周知の方法でよい。たとえば、画像解析によって求めることができる。本実施形態では、全ての視野で求めた、フェライトの面積率の算術平均値を、フェライトの体積率(%)と定義する。
【0076】
上述のとおり、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管では、ミクロ組織において、フェライト及びオーステナイト以外に、析出物や介在物等を含む場合がある。しかしながら、上述のとおり、析出物や介在物等の体積率は、フェライト及びオーステナイトの体積率と比較して、無視できるほど小さい。そのため、本明細書において、上述の方法によりフェライト及びオーステナイトの総体積率を算出する場合、析出物や介在物等の体積率は無視する。
【0077】
[層状組織]
本実施形態の二相ステンレス継目無鋼管のミクロ組織はさらに、図2に示すように、フェライトとオーステナイトとの層状組織を有する。本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管のミクロ組織における、層状組織は、次の方法により観察することができる。
【0078】
上述のフェライトの体積率を求める方法と同様に、二相ステンレスの肉厚中央部から、管軸方向(L方向)と管径方向(T方向)とを含む観察面を有するミクロ組織観察用の試験片を作製する。上述のとおり、L方向:5mm×T方向:5mmの観察面を有し、観察面のT方向における中央位置が、二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部とほぼ一致するように、試験片を作製する。作製した試験片の観察面を鏡面研磨する。鏡面研磨された観察面を7%水酸化カリウム腐食液中で電解腐食し組織現出を行う。組織現出された観察面を、光学顕微鏡を用いて10視野観察する。観察視野領域の面積は、1.0mm×1.0mm=1.00mm2(倍率100倍)とする。
【0079】
図3は、本実施形態における層状指数(LI:Layer Index)の算出方法を説明するための模式図である。図3では、本実施形態の二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部であって、L方向及びT方向を含む断面のミクロ組織の模式図を示す。図3を参照して、二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部でのL方向及びT方向を含む断面において、L方向に延びる辺の長さが1.0mm、T方向に延びる辺の長さが1.0mmの正方形の領域を、観察視野領域50とする。図3では、観察視野領域50において、フェライト10(図中白色の領域)とオーステナイト20(図中ハッチングされた領域)とが含まれている。エッチングされた実際の観察視野領域50では、上述のとおり、当業者であれば、フェライトとオーステナイトとをコントラストにより判別可能である。
【0080】
観察視野領域50において、図3に示すとおり、T方向に延び、観察視野領域50のL方向に等間隔に配列され、観察視野領域50をL方向(管軸方向)に5等分する線分を、線分T1~T4と定義する。そして、線分T1~T4と、観察視野領域50内のフェライト界面との交点(図3中で「●」印)の数を、交点数NT(個)と定義する。
【0081】
さらに、L方向に延び、観察視野領域50のT方向に等間隔に配列され、観察視野領域50をT方向(管径方向)に5等分する線分を、線分L1~L4と定義する。そして、線分L1~L4と、観察視野領域50内のフェライト界面との交点(図3中で「◇」印)の数を、交点数NL(個)と定義する。
【0082】
本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管のミクロ組織は、上述の観察視野領域50において、交点数NTが40.0個以上であり、かつ、式(1)によって定義される層状指数LIが2.0以上を満たす層状組織を有する。
層状指数(LI:Layer Index)=NT/NL (1)
【0083】
層状指数LIは、層状組織の発達度合いを意味する。上述の化学組成を有し、フェライトの体積率が30.0~70.0%の二相ステンレス継目無鋼管において、層状指数LIが2.0以上である場合、十分に発達した層状組織が得られている。この場合、二相ステンレス継目無鋼管は優れた低温靱性を示す。より具体的には、たとえば、本実施形態の二相ステンレス継目無鋼管を油井用途に適用する場合、割れは管径方向に伝播しやすい。本実施形態の二相ステンレス継目無鋼管が、肉厚中央部において、交点数NTが40.0個以上であり、かつ、層状指数LIが2.0以上の層状組織を有する場合、仮に、微細な亀裂が発生して、その亀裂がフェライト中を管径方向に伝播しても、亀裂がフェライトとオーステナイトとの界面に到達したとき、オーステナイトが亀裂の伝播を止める。そのため、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管は、優れた低温靱性を有する。
【0084】
T方向の交点数NTの好ましい下限は45.0個であり、より好ましくは50.0個であり、さらに好ましくは60.0個である。交点数NTの上限は特に限定されないが、たとえば、150.0個である。層状指数LIの好ましい下限は2.1であり、より好ましくは2.2であり、さらに好ましくは2.4であり、さらに好ましくは2.5であり、さらに好ましくは2.7である。層状指数の上限は特に限定されないが、たとえば、10.0である。
【0085】
本明細書において、本実施形態の二相ステンレス継目無鋼管の交点数NTとは、上述の方法により採取した試験片の観察面において、任意の10箇所の観察視野領域の各々で得られた交点数NTの平均値を意味する。また、本実施形態の二相ステンレス継目無鋼管の層状指数LIとは、上述の方法により採取した試験片の観察面において、任意の10箇所の観察視野領域の各々で得られた層状指数LIの平均値を意味する。
【0086】
[降伏強度]
本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管の降伏強度は、特に限定されない。しかしながら、降伏強度が655MPaを超えると、鋼材の低温靭性が低下する場合がある。したがって、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管の降伏強度は、655MPa以下とするのが好ましい。降伏強度の下限は特に限定されないが、たとえば、448MPaである。
【0087】
要するに、上述の化学組成を有し、フェライトの体積率が30.0~70.0%であり、T方向の交点数NTが40.0個以上であり、層状指数LIが2.0以上である本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管において、降伏強度は、たとえば、448~655MPa(65~95ksi)である。降伏強度の好ましい下限は450MPaであり、より好ましくは460MPaである。降伏強度のより好ましい上限は650MPaであり、さらに好ましくは640MPaである。
【0088】
本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管の降伏強度を求める場合、次の方法で求めることができる。具体的に、ASTM E8/E8M(2013)に準拠した方法で、引張試験を行う。本実施形態による継目無鋼管の肉厚中央部から、丸棒試験片を作製する。丸棒試験片の大きさは、たとえば、平行部直径8.9mm、平行部長さ35.6mmである。なお、丸棒試験片の軸方向は、継目無鋼管の管軸方向と平行である。作製した丸棒試験片を用いて、常温(25℃)、大気中で引張試験を実施する。以上の条件で実施した引張試験で得られた0.2%オフセット耐力を、降伏強度(MPa)と定義する。さらに、引張試験で得られた一様伸び中の最大応力を、引張強度(MPa)と定義する。
【0089】
[低温靭性]
本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管は、上述の化学組成と、上述のミクロ組織を有する結果、優れた低温靭性を有する。本実施形態において、優れた低温靭性とは、以下のとおりに定義される。
【0090】
具体的に、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管に対して、ASTM E23(2018)に準拠したシャルピー衝撃試験を実施して、低温靭性を評価する。まず、本実施形態による継目無鋼管の肉厚中央部から、Vノッチ試験片を作製する。具体的に、Vノッチ試験片は、API 5CRA(2010)に準拠して作製する。API 5CRA(2010)に準拠して作製したVノッチ試験片に対して、ASTM E23(2018)に準拠したシャルピー衝撃試験を実施して、-10℃における吸収エネルギーE(J)と、エネルギー遷移温度vTE(℃)とを求める。本実施形態では、-10℃における吸収エネルギーEが120J以上であり、かつ、エネルギー遷移温度vTEが-18.0℃以下である場合、優れた低温靭性を有すると判断する。本実施形態において、-10℃における吸収エネルギーEのさらに好ましい下限は125Jであり、さらに好ましくは130Jである。本実施形態において、エネルギー遷移温度vTEのさらに好ましい上限は-18.5℃であり、さらに好ましくは-19.0℃である。
【0091】
[製造方法]
上述の構成を有する本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管の製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管の製造方法は、以下に説明する製造方法に限定されない。本実施形態の二相ステンレス継目無鋼管の製造方法の一例は、素材準備工程と、熱間加工工程と、溶体化熱処理工程とを含む。以下、各製造工程について詳述する。
【0092】
[素材準備工程]
素材準備工程では、上述の化学組成を有する素材を準備する。素材は製造して準備してもよいし、第三者から購入することにより準備してもよい。すなわち、素材を準備する方法は特に限定されない。なお、後述する穿孔圧延を実施するため、素材は断面円形状のビレット(すなわち、丸ビレット)であることが好ましい。なお、素材が丸ビレットである場合、丸ビレットの大きさは特に限定されない。
【0093】
素材を製造する場合、たとえば、次の方法で製造する。上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片(スラブ、ブルーム、又は、ビレット)を製造する。溶鋼を用いて造塊法により鋼塊(インゴット)を製造してもよい。必要に応じて、スラブ、ブルーム又はインゴットを分塊圧延して、ビレットを製造してもよい。以上の工程により素材を製造する。
【0094】
[熱間加工工程]
熱間加工工程では、熱間加工により、上述の化学組成を有する素材から、中空の素管(継目無鋼管)を製造する。本実施形態では、熱間加工工程は、加熱工程と、穿孔圧延工程と、延伸圧延工程とを含む。以下、各工程について詳述する。
【0095】
[加熱工程]
加熱工程では、上述の素材準備工程によって準備された素材を、1000~1280℃の加熱温度TA℃で加熱する。加熱方法は、たとえば、素材を加熱炉に装入して、加熱する方法である。このとき、加熱工程における加熱温度TAは、素材を加熱する加熱炉の炉温(℃)に相当する。加熱工程において、準備された素材をTA℃で保持する時間(加熱時間)は特に限定されないが、たとえば、1.0~10.0時間である。
【0096】
加熱温度TAが高すぎる場合、ミクロ組織において、フェライト及び/又はオーステナイトが粗大になる場合がある。この場合、T方向の交点数NTが40.0個未満になる場合がある。この場合さらに、層状指数LIが2.0未満になる場合がある。その結果、二相ステンレス継目無鋼管の低温靭性が低下する。
【0097】
一方、加熱温度TAが低すぎる場合、熱間加工性が低下する。その結果、二相ステンレス継目無鋼管に表面疵が発生しやすくなる。したがって、本実施形態による加熱工程では、加熱温度TAは1000~1280℃とする。本実施形態による加熱工程における、加熱温度TAの好ましい下限は1050℃であり、より好ましくは1100℃である。本実施形態による加熱工程における、加熱温度TAの好ましい上限は1250℃であり、より好ましくは1200℃である。
【0098】
[穿孔圧延工程]
穿孔圧延工程では、上述の加熱工程によって加熱された素材を、式(A)を満たす断面減少率RA%で穿孔圧延する。
A≧-0.000200×TA 2+0.513×TA-297 (A)
ここで、式(A)中のRAは、式(B)で定義される。
A={1-(穿孔圧延後の素管の管軸方向に垂直な断面積/穿孔圧延前の素材の軸方向に垂直な断面積)}×100 (B)
【0099】
穿孔圧延は、穿孔機を用いて、中実の素材から、中空の素管を製造する。穿孔機は、一対の傾斜ロールと、プラグとを備える。一対の傾斜ロールは、パスライン周りに配置される。プラグは、一対の傾斜ロールの間であって、パスライン上に配置される。なお、本明細書においてパスラインとは、穿孔圧延時において、素材の中心軸が通過するラインを意味する。傾斜ロールは特に限定されず、バレル型であってもよく、コーン型であってもよく、ディスク型であってもよい。
【0100】
なお、式(B)における「穿孔圧延後の素管」とは、穿孔圧延が終了した後の素管を意味する。式(B)における「穿孔圧延前の素材」とは、穿孔圧延を実施する前の素材を意味する。このように、本実施形態では、断面減少率RA%とは、穿孔圧延によって素材が素管にされる際の断面減少率を意味する。後述するように、本実施形態では、穿孔圧延以外にも熱間圧延として延伸圧延を実施する。しかしながら、延伸圧延は、素管の肉厚中央部における加工歪みには、ほとんど寄与しない。したがって、本実施形態では、穿孔圧延によって変化する断面積を用いて、断面減少率をRA%を定義する。
【0101】
Fn1=-0.000200×TA 2+0.513×TA-297と定義する。上述の化学組成を有する二相ステンレス継目無鋼管の肉厚中央部において、T方向の交点数NTが40.0個以上であり、かつ、層状指数LIが2.0以上となる層状組織を得るためには、上述の加熱工程における加熱温度TA(℃)と、穿孔圧延工程における断面減少率RA(%)との関係が重要である。穿孔圧延工程において、適切なFn1以上の断面減少率で穿孔圧延を実施することで、継目無鋼管の肉厚中央部であっても、加工歪が十分に得られる。その結果、後述する溶体化熱処理工程後の二相ステンレス継目無鋼管では、肉厚中央部において、T方向の交点数NTが40.0個以上と、層状指数LIが2.0以上のミクロ組織が得られる。
【0102】
したがって、本実施形態による穿孔圧延工程では、穿孔圧延による断面減少率RAがFn1以上である。断面減少率RAがFn1以上であれば、上述する化学組成、及び、後述する各工程の条件を満たすことを前提として、製造された二相ステンレス継目無鋼管において、層状組織が十分に発達する。その結果、T方向の交点数NTが40.0個以上となり、かつ、層状指数LIが2.0以上となる層状組織を得ることができる。なお、断面減少率RAの上限は特に限定されないが、たとえば、80%である。
【0103】
[延伸圧延工程]
延伸圧延工程では、上述の穿孔圧延工程によって製造された素管を、延伸圧延する。延伸圧延は、周知の方法でよく、特に限定されない。延伸圧延は、マンドレルミル法で実施されてもよく、プラグミル法で実施されてもよい。マンドレルミル法で延伸圧延を実施する場合、たとえば、穿孔圧延された素管に対して、マンドレルミルによる熱間圧延を実施する。プラグミル法で延伸圧延を実施する場合、たとえば、穿孔圧延された素管に対して、エロンゲータミルによる熱間圧延と、続いてプラグミルによる熱間圧延を実施する。延伸圧延はさらに、アッセルミルを用いてもよく、ピルガーミルを用いてもよく、ディッシャーミルを用いてもよい。このように、本実施形態による延伸圧延工程では、延伸圧延は周知の方法を用いることができる。
【0104】
具体的に、マンドレルミル法で延伸圧延を実施する場合、次の方法で実施する。穿孔圧延された素管の中空部分に、マンドレルバーを挿入する。マンドレルバーが挿入された素管を、マンドレルミルのパスライン上に進めて、熱間圧延を実施する。マンドレルミルによって熱間圧延された素管から、マンドレルバーが引き抜かれる。
【0105】
本実施形態の延伸圧延工程における、素管の断面減少率は、特に限定されない。上述のとおり、延伸圧延工程における延伸圧延では、素管の肉厚中央部の加工歪には、それほど寄与しない。そのため、延伸圧延工程における断面減少率は、上述の穿孔圧延工程における断面減少率RAとは、その効果の程度が異なる。延伸圧延工程における断面減少率は、たとえば、10~70%である。
【0106】
以上の方法により、熱間加工工程が実施される。なお、熱間加工工程には、加熱工程、穿孔圧延工程、及び、延伸圧延工程以外の工程が含まれてもよい。たとえば、延伸圧延された素管に対して、定径圧延を実施してもよい。この場合、周知の定径圧延機によって、素管の外径寸法を調整する。定径圧延機は、たとえば、サイザ、及び、ストレッチレデューサである。
【0107】
熱間加工工程ではさらに、上述の熱間圧延(穿孔圧延、延伸圧延、及び、定径圧延)の他に、熱間鍛造を実施してもよい。たとえば、加熱された素材に対して、熱間鍛造を実施して、所望の形状の整えた後、穿孔圧延を実施してもよい。この場合、周知の熱間鍛造機を用いて、熱間鍛造を実施して、素材の寸法を調整する。
【0108】
[溶体化熱処理工程]
溶体化熱処理工程では、延伸圧延工程後の素管を、950~1080℃で5~180分間保持する。本明細書において、溶体化熱処理を実施する温度(熱処理温度)とは、溶体化熱処理を実施するための熱処理炉の炉温(℃)を意味する。本明細書において、溶体化熱処理を実施する時間(熱処理時間)とは、素管が熱処理温度(℃)で保持される時間を意味する。
【0109】
熱処理温度が低すぎる場合、溶体化熱処理工程後の二相ステンレス継目無鋼管に、析出物が残存する。この場合、二相ステンレス継目無鋼管の低温靭性が低下する。一方、熱処理温度が高すぎる場合、フェライトの体積率が70.0%を超えて高くなる。この場合、二相ステンレス継目無鋼管の低温靭性が低下する。したがって、本実施形態による溶体化熱処理工程において、熱処理温度は950~1080℃とする。熱処理温度の好ましい下限は960℃である。熱処理温度の好ましい上限は1070℃である。
【0110】
熱処理時間が短すぎる場合、溶体化熱処理工程後の二相ステンレス継目無鋼管に、析出物が残存する。この場合、二相ステンレス継目無鋼管の低温靭性が低下する。一方、熱処理時間が長すぎる場合、析出物を溶体化させる効果が飽和する。したがって、本実施形態による溶体化熱処理工程において、熱処理時間は5~180分とする。なお、溶体化熱処理は、熱間加工後に一旦室温まで冷却された素材に対して実施してもよい。溶体化熱処理はさらに、熱間加工後の素材に対して、連続的に実施してもよい。
【0111】
以上の製造方法によれば、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管を製造することができる。上述の製造方法によって製造される二相ステンレス継目無鋼管は、肉厚中央部において、フェライトの体積率が30.0~70.0%であり、T方向の交点数NTが40.0個以上であり、さらに、層状指数LIが2.0以上のミクロ組織を有する。そのため、上述の製造方法によって製造される二相ステンレス継目無鋼管は、優れた低温靭性を有する。
【0112】
なお、上述の二相ステンレス継目無鋼管の製造方法は、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管を製造するための一例である。すなわち、本実施形態による二相ステンレス継目無鋼管は、上述の製造方法以外の製造方法によって、製造されてもよい。要するに、継目無鋼管の肉厚中央部において、フェライトの体積率が30.0~70.0%であり、T方向の交点数NTが40.0個以上であり、さらに、層状指数LIが2.0以上のミクロ組織を有していれば、上述の製造方法以外の製造方法によって、二相ステンレス継目無鋼管が製造されてもよい。
【実施例
【0113】
表2に示す化学組成を有する溶鋼を、50kgの真空溶解炉を用いて溶製し、造塊法により鋼塊(インゴット)を製造した。なお、表2中の「-」は、該当する元素の含有量が不純物レベルであったことを意味する。
【0114】
【表2】
【0115】
得られたインゴットに対して、熱間鍛造を実施して、断面円形状のビレット(丸ビレット)を製造した。各試験番号の丸ビレットを、表3に示す加熱温度TA(℃)で180分間加熱した。なお、本実施例において加熱温度TA(℃)とは、加熱に用いた加熱炉の炉温(℃)に相当する。加熱温度TA(℃)と式(A)とから求めたFn1を、表3に示す。加熱後の各試験番号の丸ビレットに対して、表3に記載の断面減少率RA(%)で穿孔圧延を実施した後、延伸圧延を実施して、表3に記載の形状の素管を製造した。
【0116】
【表3】
【0117】
なお、表3の「形状」欄の「A」とは、外径114.3mm、肉厚7.3mmの継目無鋼管形状を意味する。表3の「形状」欄の「B」とは、外径159mm、肉厚22.12mmの継目無鋼管形状を意味する。表3の「形状」欄の「C」とは、外径130mm、肉厚17.76mmの継目無鋼管形状を意味する。表3の「形状」欄の「D」とは、外径139.7mm、肉厚9.17mmの継目無鋼管形状を意味する。表3の「形状」欄の「E」とは、外径177.8mm、肉厚10.36mmの継目無鋼管形状を意味する。
【0118】
穿孔圧延及び延伸圧延によって表3に記載の形状に加工された各試験番号の素管に対して、溶体化熱処理を実施した。各試験番号の素管に対する、溶体化熱処理の熱処理温度(℃)は、表3に記載のとおりであった。各試験番号の素管に対する、溶体化熱処理の熱処理時間は、いずれも15分であった。なお、熱処理温度は、溶体化熱処理に用いた熱処理炉の炉温(℃)に相当した。熱処理時間は、素管が熱処理温度に保持される時間に相当した。以上の工程により、各試験番号の継目無鋼管を得た。
【0119】
[評価試験]
溶体化熱処理が実施された各試験番号の継目無鋼管に対して、ミクロ組織観察、引張試験、及び、シャルピー衝撃試験を実施した。
【0120】
[ミクロ組織観察]
各試験番号の継目無鋼管に対して、ミクロ組織観察を実施した。具体的に、各試験番号の継目無鋼管の肉厚中央部から、ミクロ組織観察用の試験片を作製した。試験片は、各試験番号の継目無鋼管の管軸方向(L方向)に5mm、管径方向(T方向)に5mmの観察面を含み、かつ、観察面の中心部が、継目無鋼管の肉厚中央部とほぼ一致していた。各試験番号の試験片の観察面を、鏡面に研磨した。鏡面研磨された観察面を7%水酸化カリウム腐食液中で電解腐食し組織現出を行った。組織現出された観察面を、光学顕微鏡を用いて10視野観察した。各視野の面積は、1.00mm2(1.0mm×1.0mm)であり、倍率は200倍であった。
【0121】
各試験番号の各視野において、フェライトとオーステナイトとを、コントラストに基づいて特定した。その結果、各試験番号の各視野において、ミクロ組織はフェライト及びオーステナイト以外の相は、無視できるほど少なかった。すなわち、各試験番号の継目無鋼管は、フェライト及びオーステナイトからなるミクロ組織を有していた。各試験番号の各視野において、特定されたフェライトの面積率を、画像解析によって求めた。10視野におけるフェライトの面積率の算術平均値を、フェライト体積率(%)とした。各試験番号の継目無鋼管について、求めたフェライト体積率(%)を表3に示す。
【0122】
各試験番号の各視野においてさらに、T方向に延びる線分T1~T4を、各視野のL方向に等間隔に配置して、各視野をL方向に5等分した。各試験番号の各視野においてさらに、L方向に延びる線分L1~L4を、各視野のT方向に等間隔に配置して、各視野をT方向に5等分した。線分T1~T4と、フェライト界面との交点の数を計数し、T方向の交点数NT(個)とした。同様に、線分L1~L4と、フェライト界面との交点の数を計数し、L方向の交点数NL(個)とした。得られたT方向の交点数NTと、L方向の交点数NLとを用いて、層状指数LI(=NT/NL)を求めた。
【0123】
10視野におけるT方向の交点数NTの算術平均値を、その試験番号の継目無鋼管におけるT方向の交点数NT(個)とした。同様に、10視野におけるL方向の交点数NLの算術平均値を、その試験番号の継目無鋼管におけるL方向の交点数NL(個)とした。同様に、10視野における層状指数LIの算術平均値を、その試験番号の継目無鋼管における層状指数LIとした。各試験番号の継目無鋼管について、T方向の交点数NT(個)を「NT(個)」として、L方向の交点数NL(個)を「NL(個)」として、層状指数LIを「LI」として、それぞれ表3に示す。
【0124】
[引張試験]
各試験番号の継目無鋼管に対して、ASTM E8/E8M(2013)に準拠した上述の方法で引張試験を実施して、降伏強度(MPa)を求めた。なお、本実施例では、引張試験用の丸棒試験片は、各試験番号の継目無鋼管の肉厚中央部から作製した。丸棒試験片の軸方向は継目無鋼管の管軸方向と平行であった。引張試験で得られた0.2%オフセット耐力を、降伏強度(MPa)とした。さらに、引張試験で得られた一様伸び中の最大応力を、引張強度(MPa)とした。各試験番号の継目無鋼管について、降伏強度(MPa)を「YS(MPa)」として、引張強度(MPa)を「TS(MPa)」として、それぞれ表3に示す。なお、各試験番号の継目無鋼管の降伏強度は、いずれも448~655MPaの範囲内であった。
【0125】
[シャルピー衝撃試験]
各試験番号の二相ステンレス継目無鋼管に対して、ASTM E23(2018)に準拠したシャルピー衝撃試験を実施した。具体的には、各試験番号の継目無鋼管の肉厚中央部から、API 5CRA(2010)に準拠してVノッチ試験片を作製した。API 5CRA(2010)に準拠して作製した各試験番号のVノッチ試験片に対して、ASTM E23(2016)に準拠して、シャルピー衝撃試験を実施して、吸収エネルギーE(J)を求めた。
【0126】
より具体的には、API 5CRA(2010)に準拠して作製した各試験番号の3本の試験片を-10℃に冷却し、ASTM E23(2016)に準拠したシャルピー衝撃試験を実施して、各試験番号の試験片の-10℃における吸収エネルギーを求めた。求めた-10℃における吸収エネルギーの算術平均値を、各試験番号の吸収エネルギーE(J)とした。各試験番号の継目無鋼管について、吸収エネルギーE(J)を、「E(J)」として表3に示す。
【0127】
API 5CRA(2010)に準拠して作製した各試験番号のVノッチ試験片に対してさらに、ASTM E23(2016)に準拠して、シャルピー衝撃試験を実施して、エネルギー遷移温度(℃)を求めた。より具体的には、API 5CRA(2010)に準拠して作製した各試験番号の試験片に対して、-10~-70℃まで20℃ごとに、ASTM E23(2016)に準拠したシャルピー衝撃試験を実施して、各試験番号のエネルギー遷移温度vTE(℃)を求めた。各試験番号の継目無鋼管について、求めた各試験番号のエネルギー遷移温度vTE(℃)を、表3に示す。
【0128】
[試験結果]
表3に試験結果を示す。
【0129】
表2及び表3を参照して、試験番号1~16の二相ステンレス継目無鋼管の化学組成は適切であった。さらに、製造条件も適切であった。そのため、フェライトの体積率は30.0~70.0%であった。さらに、交点数NTが40.0個以上であり、かつ、層状指数LIが2.0以上であった。すなわち、試験番号1~16の継目無鋼管は、微細なミクロ組織であって、十分な層状組織を有していた。その結果、-10℃における吸収エネルギーEは120J以上であり、かつ、エネルギー遷移温度vTEは-18.0℃以下であった。すなわち、試験番号1~16の継目無鋼管は、優れた低温靱性を有していた。
【0130】
一方、試験番号17では、断面減少率RAがFn1よりも低かった。そのため、層状指数LIが2.0未満であった。すなわち、試験番号17の継目無鋼管は、微細なミクロ組織であったが、十分な層状組織を有していなかった。その結果、-10℃における吸収エネルギーEが120J未満であり、かつ、エネルギー遷移温度vTEは-18.0℃を超えた。すなわち、試験番号17の継目無鋼管は、優れた低温靭性を有していなかった。
【0131】
試験番号18~20では、断面減少率RAがFn1よりも低かった。そのため、交点数NTが40.0個未満であり、かつ、層状指数LIが2.0未満であった。すなわち、試験番号18~20の継目無鋼管は、微細なミクロ組織及び十分な層状組織を有していなかった。その結果、-10℃における吸収エネルギーEが120J未満であり、かつ、エネルギー遷移温度vTEは-18.0℃を超えた。すなわち、試験番号18~20の継目無鋼管は、優れた低温靭性を有していなかった。
【0132】
試験番号21では、溶体化熱処理工程における熱処理温度が高すぎた。そのため、フェライトの体積率が70.0%を超えた。その結果、-10℃における吸収エネルギーEが120J未満であり、かつ、エネルギー遷移温度vTEは-18.0℃を超えた。すなわち、試験番号21の継目無鋼管は、優れた低温靭性を有していなかった。
【0133】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本開示による二相ステンレス継目無鋼管は、低温靭性が求められる低温環境に広く適用可能である。本開示による二相ステンレス継目無鋼管は特に、油井用途に好適である。油井用途の二相ステンレス継目無鋼管はたとえば、ラインパイプ、ケーシング、チュービング、ドリルパイプである。
【符号の説明】
【0135】
10 フェライト
20 オーステナイト
50 観察視野領域
T1~T4、L1~L4 線分
図1
図2
図3