(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】TiAl合金の製造方法及びTiAl合金
(51)【国際特許分類】
C22F 1/18 20060101AFI20221206BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20221206BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20221206BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221206BHJP
【FI】
C22F1/18 H
C22F1/04 Z
C22C14/00 Z
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 630C
C22F1/00 650A
C22F1/00 651Z
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 692Z
C22F1/00 693A
C22F1/00 693B
C22F1/00 604
C22F1/00 630G
C22F1/00 691Z
C22F1/00 694Z
(21)【出願番号】P 2021520076
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020012032
(87)【国際公開番号】W WO2020235203
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019096653
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】久布白 圭司
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/043187(WO,A1)
【文献】特開平07-076745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/18
C22F 1/04
C22C 14/00
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温引張破断強度が800MPa以上であり、室温引張破断歪みが1.8%以上であるTiAl合金の製造方法であって、
42原子%以上45原子%以下のAlと、
3原子%以上6原子%以下のNbと、
3原子%以上6原子%以下のVと、
0.1原子%以上0.3原子%以下のBと、を含有し、残部がTiと不可避的不純物とからなるTiAl合金原料を溶解して鋳造する鋳造工程と、
前記鋳造したTiAl合金を1200℃以上1350℃以下に加熱して熱間鍛造する熱間鍛造工程と、
前記熱間鍛造したTiAl合金を、1220℃以上1300℃以下で1時間以上5時間以下保持して第一熱処理し、前記第一熱処理した後に400℃/時間以上の冷却速度で1000℃以上1100℃以下に冷却し、1000℃以上1100℃以下で1時間以上4時間以下保持して第二熱処理し、前記第二熱処理した後に急冷する熱処理工程と、
を備える、TiAl合金の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の
室温引張破断強度が800MPa以上であり、室温引張破断歪みが1.8%以上であるTiAl合金の製造方法であって、
前記熱処理工程は、前記第一熱処理した後の冷却速度が600℃/時間以上である、TiAl合金の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の
室温引張破断強度が800MPa以上であり、室温引張破断歪みが1.8%以上であるTiAl合金の製造方法であって、
前記熱処理工程で熱処理したTiAl合金を850℃以上950℃以下で0.5時間以上4時間以下保持して応力除去する応力除去工程を備える、TiAl合金の製造方法。
【請求項4】
42原子%以上45原子%以下のAlと、
3原子%以上6原子%以下のNbと、
3原子%以上6原子%以下のVと、
0.1原子%以上0.3原子%以下のBと、を含有し、残部がTiと不可避的不純物とからなり、
室温引張破断強度が800MPa以上であり、室温引張破断歪みが1.8%以上である、TiAl合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、TiAl合金の製造方法及びTiAl合金に関する。
【背景技術】
【0002】
TiAl(チタンアルミナイド)合金は、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)との金属間化合物で形成されている合金である。TiAl合金は、耐熱性に優れており、Ni基合金よりも軽量で比強度が大きいことから、タービン翼等の航空機用エンジン部品等に適用されている。航空機用エンジン部品等は、TiAl合金を熱間鍛造して形成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、タービン翼等のTiAl合金部品を軽量化するためには、TiAl合金をより高強度化して比強度を大きくする必要がある。このような理由から、TiAl合金は、通常、熱間鍛造後に熱処理が行われる。この熱処理は、熱間鍛造したTiAl合金を再結晶温度で保持した後に、再結晶温度から室温まで急冷して行われる。しかし、このような熱処理を行うと、TiAl合金の機械的強度は向上するが、延性が低下する可能性がある。
【0005】
そこで本開示の目的は、TiAl合金の機械的強度と延性とをバランスよく向上させることが可能なTiAl合金の製造方法及びTiAl合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る室温引張破断強度が800MPa以上であり、室温引張破断歪みが1.8%以上であるTiAl合金の製造方法は、42原子%以上45原子%以下のAlと、3原子%以上6原子%以下のNbと、3原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上0.3原子%以下のBと、を含有し、残部がTiと不可避的不純物とからなるTiAl合金原料を溶解して鋳造する鋳造工程と、前記鋳造したTiAl合金を1200℃以上1350℃以下に加熱して熱間鍛造する熱間鍛造工程と、前記熱間鍛造したTiAl合金を、1220℃以上1300℃以下で1時間以上5時間以下保持して第一熱処理し、前記第一熱処理した後に400℃/時間以上の冷却速度で1000℃以上1100℃以下に冷却し、1000℃以上1100℃以下で1時間以上4時間以下保持して第二熱処理し、前記第二熱処理した後に急冷する熱処理工程と、を備える。
【0007】
本開示に係る室温引張破断強度が800MPa以上であり、室温引張破断歪みが1.8%以上であるTiAl合金の製造方法において、前記熱処理工程は、前記第一熱処理した後の冷却速度が600℃/時間以上としてもよい。
【0008】
本開示に係る室温引張破断強度が800MPa以上であり、室温引張破断歪みが1.8%以上であるTiAl合金の製造方法は、前記熱処理工程で熱処理したTiAl合金を850℃以上950℃以下で0.5時間以上4時間以下保持して応力除去する応力除去工程を備えていてもよい。
【0009】
本開示に係るTiAl合金は、42原子%以上45原子%以下のAlと、3原子%以上6原子%以下のNbと、3原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上0.3原子%以下のBと、を含有し、残部がTiと不可避的不純物とからなり、室温引張破断強度が800MPa以上であり、室温引張破断歪みが1.8%以上である。
【発明の効果】
【0010】
上記構成のTiAl合金の製造方法及びTiAl合金によれば、TiAl合金の機械的強度と延性とをバランスよく向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施形態において、TiAl合金の製造方法の構成を示すフローチャートである。
【
図2】本開示の実施形態において、タービン翼の構成を示す図である。
【
図3】本開示の実施形態において、熱処理の構成を示す模式図である。
【
図4】本開示の実施形態において、参考例1,2、実施例1から3のTiAl合金の金属組織観察を示す写真である。
【
図5】本開示の実施形態において、実施例1、4、5のTiAl合金の金属組織観察を示す写真である。
【
図6】本開示の実施形態において、実施例1、6、7のTiAl合金の金属組織観察を示す写真である。
【
図7】本開示の実施形態において、参考例1、2、実施例1から3のTiAl合金の硬さ測定結果を示すグラフである。
【
図8】本開示の実施形態において、実施例1、4、5のTiAl合金の硬さ測定結果を示すグラフである。
【
図9】本開示の実施形態において、参考例3、実施例1、6、7のTiAl合金の硬さ測定結果を示すグラフである。
【
図10】本開示の実施形態において、引張試験結果を示すグラフである。
【
図11】本開示の実施形態において、クリープ試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本開示の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、TiAl合金の製造方法の構成を示すフローチャートである。TiAl合金の製造方法は、鋳造工程(S10)と、熱間鍛造工程(S12)と、熱処理工程(S14)と、を備えている。
【0013】
まず、TiAl合金について説明する。TiAl合金は、Ti(チタン)とAl(アルミニウム)との金属間化合物で形成されている合金である。TiAl合金は、42原子%以上45原子%以下のAlと、3原子%以上6原子%以下のNbと、3原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上0.3原子%以下のBと、を含有し、残部がTi及び不可避的不純物で構成されている。次に、TiAl合金を構成する各合金成分の組成範囲を限定した理由について説明する。
【0014】
Al(アルミニウム)の含有率は、42原子%以上45原子%以下である。Alの含有率が42原子%より小さいと、Tiの含有率が相対的に大きくなるので比重が大きくなり、比強度が低下する。Alの含有率が45原子%より大きくなると、熱間鍛造温度が高温になるので熱間鍛造性が低下する。
【0015】
Nb(ニオブ)は、β相安定化元素であり、熱間鍛造時に高温変形に優れるβ相を形成する機能を有している。Nbの含有率は、3原子%以上6原子%以下である。Nbの含有率が、3原子%以上6原子%以下であれば、熱間鍛造時にβ相を形成することができる。また、Nbの含有率が3原子%より小さい場合や、Nbの含有率が6原子%より大きい場合には、機械的強度が低下する。
【0016】
V(バナジウム)は、β相安定化元素であり、熱間鍛造時に高温変形に優れるβ相を形成する機能を有している。Vの含有率は、3原子%以上6原子%以下である。Vの含有率が、3原子%以上6原子%以下であれば、熱間鍛造時にβ相を形成することができる。また、Vの含有率が3原子%より小さい場合には、熱間鍛造性が低下する。Vの含有率が6原子%より大きい場合には、機械的強度が低下する。
【0017】
B(ホウ素)は、結晶粒を微細化することにより、延性を大きくする機能を有している。Bを添加することにより、1100℃以上1350℃以下において延性が大きくなり、1200℃以上1350℃以下では延性がより大きくなる。このようにBは、高温で延性を大きくする機能を有しているので、熱間鍛造性を向上させることができる。
【0018】
Bの含有率は、0.1原子%以上0.3原子%以下である。Bの含有率が0.1原子%より小さくなると、結晶粒の粒径が200μmより大きくなり、延性が低下することにより、熱間鍛造性が低下する。Bの含有率が0.3原子%より大きくなると、インゴット(鋳塊)の形成時に粒径が100μmより大きい硼化物が形成しやすくなるので、延性が低下することにより、熱間鍛造性が低下する。この硼化物は、針状に形成されており、TiB、TiB2等で構成されている。
【0019】
鋳造工程(S10)は、42原子%以上45原子%以下のAlと、3原子%以上6原子%以下のNbと、3原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上0.3原子%以下のBと、を含有し、残部がTiと不可避的不純物とからなるTiAl合金原料を溶解して鋳造する工程である。このTiAl合金原料を、真空誘導炉等で溶解して鋳造し、インゴット(鋳塊)等を形成する。TiAl合金原料の鋳造には、一般的な金属材料の鋳造で用いられている鋳造装置を使用することができる。
【0020】
鋳造したTiAl合金は、溶解温度からの冷却過程において、α単相領域を通過することがない。α単相領域を通過する場合には、結晶粒が粗大化することにより延性が低下する。鋳造したTiAl合金は、α単相領域を通らないので、結晶粒の粗大化が抑制される。
【0021】
鋳造したTiAl合金の金属組織は、結晶粒径が200μm以下となり、粒径が100μm以下の硼化物を含んで構成されている。この硼化物は、針状等に形成されており、TiB、TiB2等で構成されている。このように、鋳造したTiAl合金の金属組織は、結晶粒径が200μm以下の微細な結晶粒で構成されており、粒径が100μm以下の粒径の小さい硼化物を含んでいるので、熱間鍛造性を向上させることができる。
【0022】
熱間鍛造工程(S14)は、鋳造したTiAl合金を1200℃以上1350℃以下に加熱して熱間鍛造する工程である。鋳造したTiAl合金は、1200℃以上1350℃以下に加熱されることにより、α相+β相の2相領域またはα相+β相+γ相の3相領域に保持される。加熱されたTiAl合金は、高温変形に優れているβ相を含んでいるので、変形が容易になる。また、鋳造したTiAl合金は、室温から加熱温度1200℃以上1350℃以下に到る昇温中に、α単相領域を通過することがない。鋳造したTiAl合金は、α単相領域を通らないので、結晶粒の粗大化が抑制されることにより延性の低下が抑えられ、熱間鍛造性を向上させることができる。
【0023】
鋳造したTiAl合金を1200℃以上1350℃以下に加熱した状態で、1/秒より大きい歪速度で鍛造するとよい。1/秒より大きい歪速度で鍛造した場合でも、ピーク応力が小さいので、変形抵抗が小さくなり、熱間鍛造割れを抑制することができる。熱間鍛造時の歪速度は、例えば、1/秒より大きく10/秒以下とすることや、10/秒以上とすることが可能である。熱間鍛造については、酸化防止のために、アルゴンガス等による不活性ガス雰囲気中で行うとよい。熱間鍛造方法には、自由鍛造、型鍛造、回転鍛造、押出等の一般的な金属材料の熱間鍛造方法や熱間鍛造装置を用いることができる。熱間鍛造後には、熱間鍛造したTiAl合金を炉冷等により徐冷する。徐冷中においても、熱間鍛造したTiAl合金は、α単相領域を通過しないので、結晶粒の粗大化が抑制される。
【0024】
熱処理工程(S14)は、熱間鍛造したTiAl合金を、1220℃以上1300℃以下で1時間以上5時間以下保持して第一熱処理し、第一熱処理した後に400℃/時間以上の冷却速度で1000℃以上1100℃以下に冷却し、1000℃以上1100℃以下で1時間以上4時間以下保持して第二熱処理し、第二熱処理した後に急冷する工程である。
【0025】
まず、熱間鍛造したTiAl合金を、1220℃以上1300℃以下に加熱して、1220℃以上1300℃以下で1時間以上5時間以下保持して第一熱処理する。熱間鍛造したTiAl合金には熱間鍛造加工により歪が付与されているので、熱間鍛造したTiAl合金を第一熱処理することにより再結晶化する。このTiAl合金の場合には、1220℃以上1300℃以下に加熱して保持することにより再結晶化することができる。熱間鍛造したTiAl合金は、1220℃以上1300℃以下で加熱されることによりα相+β相の2相領域またはα相+β相+γ相の3相領域に保持される。
【0026】
1220℃以上1300℃以下での保持時間は、1時間以上5時間以下である。保持時間が1時間より短い場合には、再結晶化が良好に行われず、未再結晶が残留する可能性がある。保持時間が5時間以下であるのは、保持時間が5時間であれば再結晶化が良好に行われ、未再結晶の残留を抑制できるからである。保持時間を1時間以上5時間以下とすることにより、TiAl合金の金属組織が略同じとなり、機械的強度等を略一定にすることができる。また、保持時間は、2.5時間以上3.5時間以下としてもよい。
【0027】
第一熱処理した後に、1220℃以上1300℃以下から1000℃以上1100℃以下まで400℃/時間以上の冷却速度で冷却する。冷却方法は、炉冷で行われるとよい。第一熱処理した後の冷却速度が400℃/時間以上であるのは、このTiAl合金の場合には、冷却速度が400℃/時間より遅いとラメラ粒が析出するからである。第一熱処理した後の冷却速度を400℃/時間以上とすることにより、1220℃以上1300℃以下から1000℃以上1100℃以下までの高温域でのラメラ粒の析出を抑制できる。
【0028】
より詳細には、ラメラ粒は、α相から析出する。ラメラ粒は、α2相とγ相とが層状に規則的に配列して構成されている。α2相はTi3Alで形成されており、γ相はTiAlで形成されている。1220℃以上1300℃以下から1000℃以上1100℃以下の間の高温域でラメラ粒が析出すると、ラメラ粒が高温で熱処理される。ラメラ粒が高温で熱処理されると、ラメラ粒を構成するα2相とγ相とのラメラ層間隔が広くなり、TiAl合金の機械的強度が低下し易くなる。このTiAl合金は、第一熱処理した後の冷却速度が400℃/時間以上である場合は、高温域でのラメラ粒の析出を抑制することができる。
【0029】
第一熱処理した後の冷却速度は、600℃/時間以上であるとよい。このTiAl合金は、第一熱処理した後の冷却速度を600℃/時間以上とすることにより、高温域でのラメラ粒の析出を更に抑制することができる。これによりTiAl合金の機械的強度を更に高めることができる。第一熱処理した後の冷却速度は、400℃/時間以上1000℃/時間以下とするとよく、600℃/時間以上1000℃/時間以下とするとよい。第一熱処理した後の冷却速度が1000℃/時間であれば、高温域でのラメラ粒の析出を良好に抑制できるからである。
【0030】
次に、第一熱処理した後に400℃/時間以上の冷却速度で1000℃以上1100℃以下に冷却した後、1000℃以上1100℃以下で1時間以上4時間以下保持して第二熱処理する。第二熱処理することにより、ラメラ粒の析出を抑制した状態で時効させて、微細なγ粒を析出させる。
【0031】
より詳細には、このTiAl合金は、1000℃以上1100℃以下で第二熱処理して時効することにより、β相またはγ相から微細なγ粒を析出させることができる。微細なγ粒は、TiAlからなり、TiAl合金の延性と高温強度とを高める機能を有している。また、このTiAl合金は、1000℃以上1100℃以下の中温域でラメラ粒の析出を抑制することができる。なお、僅かにラメラ粒が析出した場合でも、上記の高温域と異なり中温域で加熱されるので、ラメラ層間隔の広がりを抑制できる。第二熱処理の熱処理温度は、1000℃以上1050℃以下としてもよいし、1000℃としてもよい。これにより、ラメラ粒の析出を更に抑制することができる。
【0032】
1000℃以上1100℃以下での保持時間は、1時間以上4時間以下である。保持時間が1時間より短い場合には、微細なγ粒を良好に析出させることが難しくなる。保持時間が4時間であれば、微細なγ粒を良好に析出させることができる。また、保持時間が4時間より長くなると、微細なγ粒が多く析出して、機械的強度が低下する可能性がある。保持時間を1時間以上4時間以下とすることにより、TiAl合金の金属組織が略同じとなり、機械的強度等を略一定にすることができる。また、保持時間は、2時間以上4時間以下としてもよい。
【0033】
次に、第二熱処理した後に、急冷して冷却する。第二熱処理した後に、1000℃以上1100℃以下から室温まで急冷することにより、ラメラ粒を析出する。1000℃以上1100℃以下から急冷することにより、析出したラメラ粒は、ラメラ層間隔が狭くなり、微細なラメラ粒で形成される。この微細なラメラ粒は、ラメラ層間隔が微小に形成されているので、TiAl合金の機械的強度を高めることができる。また1000℃以上1100℃以下から急冷しているので、析出したラメラ粒の加熱が抑えられ、ラメラ層間隔の広がりが抑制される。冷却方法は、1000℃以上1100℃以下から室温までガスファン冷却等で急冷するとよい。冷却速度は、空冷以上の冷却速度で急冷とするとよい。なお、熱処理したTiAl合金は、熱処理中にα単相領域を通らないので、結晶粒の粗大化が抑制されることにより延性の低下が抑えられる。
【0034】
TiAl合金の製造方法は、熱処理工程(S14)で熱処理したTiAl合金を、800℃以上950℃以下で1時間以上5時間以下保持して応力除去する応力除去工程を備えていてもよい。熱処理したTiAl合金を、800℃以上950℃以下で加熱して1時間以上5時間以下保持して応力除去することにより、残留応力等を除去することができる。
【0035】
また、熱処理したTiAl合金を、800℃以上950℃以下で1時間以上5時間以下保持することにより、応力除去に加えて、微細なラメラ粒のラメラ組織を安定化することができる。ラメラ組織を構成するα2相の体積率を下げることにより、TiAl合金の延性を更に向上させることができる。
【0036】
熱処理や応力除去は、酸化防止のために、真空雰囲気中や、アルゴンガス等による不活性ガス雰囲気中で行われるとよい。熱処理や応力除去には、一般的な金属材料の熱処理に用いられる雰囲気炉等を使用可能である。
【0037】
次に、熱処理後のTiAl合金の金属組織について説明する。TiAl合金の金属組織は、結晶粒径が200μm以下の微細な結晶粒で構成されている。これによりTiAl合金の延性を向上させることができる。また、TiAl合金の金属組織は、微細なラメラ粒と、微細なγ粒とを含んでいる。微細なγ粒の粒内には、粒径が0.1μm以下の硼化物を含んでいる。硼化物は、TiB、TiB2等で針状等に構成されている。微細なラメラ粒は、ラメラ層間隔が狭く微小であることから、引張強度、疲労強度、クリープ強度等の機械的強度を向上させることができる。微細なγ粒は、延性と高温強度とを向上させることができる。粒径が0.1μm以下の微細な硼化物は、機械的強度を向上させることができる。
【0038】
次に、熱処理後のTiAl合金の機械的特性について説明する。熱処理後のTiAl合金の室温における機械的特性は、JIS、ASTM等に準拠して引張試験を行ったとき、室温引張破断強度が800MPa以上であり、室温引張破断歪みが1.8%以上とすることができる。また、熱処理後のTiAl合金の高温クリープ特性は、再結晶温度から室温まで急冷した場合と同等の高温クリープ特性を得ることができる。
【0039】
本開示の実施形態に係るTiAl合金は、航空機エンジン部品のタービン翼等への適用が可能である。
図2は、タービン翼10の構成を示す図である。このTiAl合金は高温強度等の機械的強度が大きいので、タービン翼10の耐熱性を向上させることができる。また、このTiAl合金は室温延性等の延性に優れているので、タービン翼10の組立てや組付けをする場合でも、タービン翼10の破損を抑制できる。
【0040】
以上、上記構成のTiAl合金の製造方法によれば、42原子%以上45原子%以下のAlと、3原子%以上6原子%以下のNbと、3原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上0.3原子%以下のBと、を含有し、残部がTiと不可避的不純物とからなるTiAl合金原料を溶解して鋳造する鋳造工程と、鋳造したTiAl合金を1200℃以上1350℃以下に加熱して熱間鍛造する熱間鍛造工程と、熱間鍛造したTiAl合金を、1220℃以上1300℃以下で1時間以上5時間以下保持して第一熱処理し、第一熱処理した後に400℃/時間以上の冷却速度で1000℃以上1100℃以下に冷却し、1000℃以上1100℃以下で1時間以上4時間以下保持して第二熱処理し、第二熱処理した後に急冷する熱処理工程と、を備えている。これにより、機械的強度と延性とをバランスよく向上させたTiAl合金を製造することが可能となる。
【0041】
上記構成のTiAl合金によれば、42原子%以上45原子%以下のAlと、3原子%以上6原子%以下のNbと、3原子%以上6原子%以下のVと、0.1原子%以上0.3原子%以下のBと、を含有し、残部がTiと不可避的不純物とからなり、室温引張破断強度が800MPa以上であり、室温引張破断歪みが1.8%以上で構成されている。これによりTiAl合金の機械的強度と延性とをバランスよく向上させることができる。
【実施例】
【0042】
(TiAl合金の鋳造)
TiAl合金原料を高周波真空溶解炉にて溶解して鋳造し、TiAl合金のインゴットを形成した。TiAl合金は、43原子%のAlと、4原子%のNbと、5原子%のVと、0.2原子%のBと、を含有し、残部がTi及び不可避的不純物で構成した。
【0043】
(熱間鍛造)
鋳造したTiAl合金について、熱間鍛造を行った。熱間鍛造は、1200℃に加熱してα相+β相の2相領域に保持し、歪速度を10/秒としてプレス鍛造した。プレス鍛造後に、熱間鍛造したTiAl合金を室温まで炉冷した。
【0044】
(熱処理)
熱間鍛造したTiAl合金について熱処理を行った。熱処理条件を変えることにより、参考例1から3、実施例1から7、比較例1のTiAl合金を作製した。なお、参考例1から3、実施例1から7、比較例1のTiAl合金は、熱処理条件が異なっており、合金組成と、熱間鍛造条件とは、同じとした。まず、参考例1から3、実施例1から7のTiAl合金について説明する。
図3は、熱処理の構成を示す模式図である。表1は、熱処理条件を示している。
【0045】
【0046】
図3に示すように、熱処理は、熱間鍛造したTiAl合金について、第一熱処理し、第一熱処理後に第一冷却し、第一冷却後に第二熱処理し、第二熱処理後に室温まで第二冷却した。なお、第一冷却は炉冷とし、第二冷却はガスファン冷却による急冷とした。熱処理は、真空雰囲気中で行った。表1には、第一熱処理温度と、第一熱処理温度での保持時間である第一熱処理時間と、第一冷却の第一冷却速度と、第二熱処理温度と、第二熱処理温度での保持時間である第二熱処理時間と、第二冷却の第二冷却速度と、を示している。
【0047】
参考例1,2、実施例1から3のTiAl合金では、第一熱処理温度を1250℃、第一熱処理時間を3時間、第二熱処理温度を1000℃、第二熱処理時間を3時間、第二冷却速度を急冷と同じにして、第一冷却速度を変化させた。第一冷却速度は、参考例1が100℃/時間、参考例2が200℃/時間、実施例1が400℃/時間、実施例2が600℃/時間、実施例3が1000℃/時間とした。
【0048】
実施例4から5のTiAl合金では、第一熱処理温度を1250℃、第一冷却速度を400℃/時間、第二熱処理温度を1000℃、第二熱処理時間を3時間、第二冷却速度を急冷と同じにして、第一熱処理時間を変化させた。第一熱処理時間は、実施例4が2.5時間、実施例5が3.5時間とした。
【0049】
参考例3、実施例6から7のTiAl合金では、第一熱処理温度を1250℃、第一熱処理時間を3時間、第一冷却速度を400℃/時間、第二熱処理温度を1000℃、第二冷却速度を急冷と同じにして、第二熱処理時間を変化させた。第二熱処理時間は、参考例3が0時間、実施例6が2時間、実施例7が4時間とした。
【0050】
次に、比較例1のTiAl合金について説明する。比較例1のTiAl合金は、熱間鍛造したTiAl合金を1250℃で3時間保持し、1250℃から室温までガスファン冷却で急冷して熱処理した。
【0051】
(金属組織観察)
参考例1,2、実施例1から7のTiAl合金について、金属組織観察を行った。金属組織観察は、走査型電子顕微鏡または光学顕微鏡により行った。
【0052】
図4は、参考例1,2、実施例1から3のTiAl合金の金属組織観察を示す写真である。
図4(a)は、参考例1の写真、
図4(b)は、参考例2の写真、
図4(c)は、実施例1の写真、
図4(d)は、実施例2の写真、
図4(e)は、実施例3の写真を示している。参考例1,2のTiAl合金は、ラメラ粒のラメラ層間隔が広くなった。これに対して実施例1から3のTiAl合金は、ラメラ粒のラメラ層間隔が狭くなった。この結果から、第一冷却速度を400℃/時間以上とすることにより、ラメラ粒のラメラ層間隔を狭くできることがわかった。
【0053】
図5は、実施例1、4、5のTiAl合金の金属組織観察を示す写真である。
図5(a)は、実施例4の写真、
図5(b)は、実施例1の写真、
図5(c)は、実施例5の写真を示している。実施例1、4、5のTiAl合金の金属組織は、略同じであった。実施例1、4、5のTiAl合金には、いずれも未再結晶が認められなかった。
【0054】
図6は、実施例1、6、7のTiAl合金の金属組織観察を示す写真である。
図6(a)は、実施例6の写真、
図6(b)は、実施例1の写真、
図6(c)は、実施例7の写真を示している。実施例1、6、7のTiAl合金の金属組織は、略同じであった。実施例1、6、7のTiAl合金は、いずれも微細なγ粒が析出していた。
【0055】
(硬さ測定)
参考例1から3、実施例1から7のTiAl合金について、硬さ測定を行った。硬さ測定は、室温でビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さ測定は、ASTM E92に準拠して行った。
【0056】
図7は、参考例1、2、実施例1から3のTiAl合金の硬さ測定結果を示すグラフである。
図7のグラフでは、横軸に各TiAl合金の第一冷却速度を取り、縦軸にビッカース硬さを取り、各TiAl合金のビッカース硬さを黒丸で示している。参考例1,2のビッカース硬さは、実施例1から3のビッカース硬さよりも小さくなった。この結果から、第一冷却速度を400℃/時間以上とすることにより、機械的強度を高くできることがわかった。また、実施例2,3のビッカース硬さは、実施例1のビッカース硬さよりも大きくなった。このことから第一冷却速度を600℃/時間以上とすることにより、機械的強度をより高くできることがわかった。
【0057】
図8は、実施例1、4、5のTiAl合金の硬さ測定結果を示すグラフである。
図8のグラフでは、横軸に各TiAl合金の第一熱処理時間を取り、縦軸にビッカース硬さを取り、各TiAl合金のビッカース硬さを黒丸で示している。実施例1、4、5のビッカース硬さは、略同じであった。
【0058】
図9は、参考例3、実施例1、6、7のTiAl合金の硬さ測定結果を示すグラフである。
図9のグラフでは、横軸に各TiAl合金の第二熱処理時間を取り、縦軸にビッカース硬さを取り、各TiAl合金のビッカース硬さを黒丸で示している。実施例1、6、7のビッカース硬さは、参考例3のビッカース硬さよりも大きくなった。実施例1、6、7のビッカース硬さは、略同じであった。
【0059】
TiAl合金の室温機械特性について評価した。実施例1、比較例1のTiAl合金について、室温で引張試験を行った。引張試験は、ASTM E8に準拠して行った。
図10は、引張試験結果を示すグラフである。
図10では、横軸に歪みを取り、縦軸に応力を取り、各TiAl合金の応力―歪み曲線を示している。なお、実施例1を実線、比較例1を破線で示している。実施例1は、比較例1よりも室温強度と室温延性とが大きくなった。より詳細には、実施例1の室温引張破断強度は、800MPa以上であり、室温引張破断歪みは、1.8%以上であった。
【0060】
TiAl合金の高温機械特性について評価した。実施例1、比較例1のTiAl合金について、高温でクリープ試験を行った。クリープ試験は、ASTM E139に準拠して行った。
図11は、クリープ試験結果を示すグラフである。
図11では、横軸にラーソンミラーパラメータLMP(材料定数が約20)を取り、縦軸に応力を取り、実施例1を実線、比較例1を破線で示している。実施例1は、比較例1と同等の高温クリープ特性が得られた。
【0061】
図10及び
図11に示すように、実施例1のTiAl合金は、機械的強度と延性とが優れており、機械的強度と延性とがバランスよく向上していることが明らかとなった。これに対して比較例1のTiAl合金は、実施例1のTiAl合金より、室温強度と室温延性とが低下した。この結果から、比較例1のTiAl合金のように、1250℃から室温まで急冷して熱処理した場合には、室温延性等が低下することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本開示は、TiAl合金の機械的強度と延性とをバランスよく向上させることが可能となることから、航空機エンジン部品のタービン翼等に有用なものである。