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特許7188586フィルム冷却構造及びガスタービンエンジン用タービン翼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】フィルム冷却構造及びガスタービンエンジン用タービン翼
(51)【国際特許分類】
   F01D 9/02 20060101AFI20221206BHJP
   F01D 5/18 20060101ALI20221206BHJP
   F02C 7/18 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
F01D9/02 102
F01D5/18
F02C7/18 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021524872
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020021896
(87)【国際公開番号】W WO2020246494
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2019107004
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】池原 伶
(72)【発明者】
【氏名】藤本 秀
(72)【発明者】
【氏名】大北 洋治
(72)【発明者】
【氏名】久保 世志
(72)【発明者】
【氏名】服部 均
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-87701(JP,A)
【文献】特開2000-64806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 9/02
F01D 5/18
F02C 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面及び内面を有すると共に、前方から後方に延伸する壁部と、
前記内面に開口する入口及び前記外面に開口する出口を含み、前記出口が前記入口よりも後方に位置するように傾斜した状態で前記壁部を貫通する冷却孔と
を備え、
前記冷却孔は、前記入口を有する直管部、及び、前記直管部に連通すると共に前記出口を有するディフューザ部を含み、
前記ディフューザ部は、
平面と、
後方に湾曲し、前記平面と共に前記直管部よりも大きい半円状または半楕円状の流路断面を形成する曲面と、
前記流路断面の面積が前記冷却孔の前記出口に近づくにつれて増加する第1セクションと、
前記第1セクションから前記冷却孔の前記出口に向けて延伸すると共に、前記流路断面の面積が前記第1セクションよりも小さな増加率で前記冷却孔の前記出口に近づくにつれて増加する又は前記流路断面の面積が一定の第2セクションと
を含み、
前記冷却孔の延伸方向と直交する前記冷却孔の投影面において、前記直管部は前記ディフューザ部の内側に位置し、
前記投影面における前記平面に沿った前記ディフューザ部の長さは、前記投影面における前記平面と直交する方向に沿った前記ディフューザ部の長さの2倍以上の値を有する、
フィルム冷却構造。
【請求項2】
前記ディフューザ部は、前記直管部と前記第1セクションとの間に位置する第3セクションを含み、
前記第3セクションは、前記第1セクションにおいて前記直管部に最も近い箇所の断面と同形の断面をもって、前記直管部と前記第1セクションとの間を延伸する、
請求項1に記載のフィルム冷却構造。
【請求項3】
前記ディフューザ部の前記平面は、前記投影面において、前記直管部の内周面よりも前方にオフセットしている、
請求項1または2に記載のフィルム冷却構造。
【請求項4】
前記ディフューザ部の前記平面は、前記投影面において、前記直管部の内周面のうち最も前方に位置する部分と同じ距離だけ、前記直管部の中心軸よりも前方に位置している、
請求項1または2に記載のフィルム冷却構造。
【請求項5】
前記ディフューザ部の前記曲面は、前記冷却孔の前記出口まで延伸する第1の凹部を含み、
前記第1の凹部は、前記投影面における前記ディフューザ部の前記平面に沿う方向において、前記直管部を挟んだ両側のそれぞれに位置する、
請求項1から4のうちの何れか一項に記載のフィルム冷却構造。
【請求項6】
前記ディフューザ部の前記曲面は、前記冷却孔の前記出口まで延伸する第2の凹部を含み、
前記第2の凹部は、前記投影面において、最も後方に位置する、
請求項1から5のうちの何れか一項に記載のフィルム冷却構造。
【請求項7】
前記ディフューザ部の前記平面は、前記出口に向かうにつれ前方側に広がるよう傾斜するか、もしくは前方側に広がる湾曲した面となる、請求項1から6のうちの何れか一項に記載のフィルム冷却構造。
【請求項8】
請求項1から7のうちの何れか一項に記載のフィルム冷却構造を備えるガスタービンエンジン用タービン翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はフィルム冷却構造及びガスタービンエンジン用タービン翼に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンのタービンは、静翼及び動翼を構成するタービン翼を備えている。タービン翼は燃焼器からの燃焼ガスに晒される。この燃焼ガスによる熱的損傷を防止するため、タービン翼の翼面には多数のフィルム冷却孔が形成されている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5600449号明細書
【文献】特開2013-124612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガスタービンエンジンの効率を向上させるためには、燃焼ガスの温度(燃焼温度)を高めることが重要である。この燃焼温度の上昇に伴って、タービン翼の冷却効率の更なる向上が求められている。
【0005】
本開示は上述の事情を鑑みてなされたものあり、冷却効率を向上させることが可能なフィルム冷却構造及びガスタービンエンジン用タービン翼の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様はフィルム冷却構造であって、外面及び内面を有すると共に、前方から後方に延伸する壁部と、前記内面に開口する入口及び前記外面に開口する出口を含み、前記出口が前記入口よりも後方に位置するように傾斜した状態で前記壁部を貫通する冷却孔とを備え、前記冷却孔は、前記入口を有する直管部、及び、前記直管部に連通すると共に前記出口を有するディフューザ部を含み、前記ディフューザ部は、平面と、後方に湾曲し、前記平面と共に前記直管部よりも大きい半円状の流路断面を形成する曲面と、前記流路断面の面積が前記出口に近づくにつれて増加する第1セクションと、前記第1セクションから前記冷却孔の前記出口に向けて延伸すると共に、前記流路断面の面積が前記第1セクションよりも小さな増加率で前記冷却孔の前記出口に近づくにつれて増加する又は前記流路断面の面積が一定の第2セクションとを含み、前記冷却孔の延伸方向と直交する前記冷却孔の投影面において、前記直管部は前記ディフューザ部の内側に位置し、前記投影面における前記平面に沿った前記ディフューザ部の長さは、前記投影面における前記平面と直交する方向に沿った前記ディフューザ部の長さの2倍以上の値を有する、ことを要旨とする。
【0007】
前記ディフューザ部は、前記直管部と前記第1セクションとの間に位置する第3セクションを含んでもよく、
前記第3セクションは、前記第1セクションにおいて前記直管部に最も近い箇所の断面と同形の断面をもって、前記直管部と前記第1セクションとの間を延伸してもよい。
【0008】
前記ディフューザ部の前記平面は、前記投影面において、前記直管部の前記内周面よりも前方にオフセットしてもよい。
【0009】
前記ディフューザ部の前記平面は、前記投影面において、前記直管部の前記内周面のうち最も前方に位置する部分と同じ距離だけ、前記直管部の中心軸よりも前方に位置してもよい。
【0010】
前記ディフューザ部の前記曲面は、前記冷却孔の前記出口まで延伸する第1の凹部を含んでもよく、
前記第1の凹部は、前記投影面における前記ディフューザ部の前記平面に沿う方向において、前記直管部を挟んだ両側のそれぞれに位置してもよい。
【0011】
前記ディフューザ部の前記曲面は、前記冷却孔の前記出口まで延伸する第2の凹部を含んでもよく、
前記第2の凹部は、前記投影面において、最も後方に位置してもよい。
【0012】
本開示の第2の態様はガスタービンエンジン用タービン翼であって、本開示の第1の態様に係るフィルム冷却構造を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、冷却効率を向上させることが可能なフィルム冷却構造及びガスタービンエンジン用タービン翼を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本開示の第1実施形態に係る冷却孔の上面図である。
図2図2は、第1実施形態に係るフィルム冷却構造の断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る冷却孔の投影面の一例を示す図(投影図)である。
図4図4は、第1実施形態に係る冷却孔における冷却媒体の流れを示す図である。
図5図5は、本開示の第2実施形態に係る冷却孔の上面図である。
図6図6は、第2実施形態に係る冷却孔の投影面の一例を示す図(投影図)である。
図7図7は、第2実施形態に係る冷却孔における冷却媒体の流れを示す図である。
図8図8は、第3実施形態に係る冷却孔の投影面の一例を示す図(投影図)であり、図8(a)はその第1例を示す図、図8(b)はその第2例を示す図である。
図9図9は、第3実施形態に係るフィルム冷却構造の断面図であり、図9(a)は第1例の断面図、図9(b)は第2例の断面図である。
図10図10は、本開示の第4実施形態に係る冷却孔の投影面の一例を示す図(投影図)である。
図11図11は、本開示の第4実施形態に係るタービン翼(静翼)の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
本実施形態に係るフィルム冷却構造は、高温の熱媒体(例えば燃焼ガス)に曝される構造体に設けられる。構造体は、例えば、ガスタービンエンジン(図示せず)のタービン翼(動翼及び静翼)、燃焼器ライナ又はロケットエンジンのノズルなどである。構造体の壁部には多数の冷却孔が形成される。冷却孔は、壁部と共にフィルム冷却構造を構成する。冷却孔から流出する冷却媒体CG(例えば空気)は、当該壁部上に断熱層を形成し、構造体を熱媒体から保護する。以下、説明の便宜上、熱媒体HGの流れ方向の上流側を「前方」、熱媒体HGの流れ方向の下流側を「後方」と定義する。
【0017】
(第1実施形態)
本開示の第1実施形態について説明する。図1は本実施形態に係るフィルム冷却構造10における冷却孔30の上面図、図2は本実施形態に係るフィルム冷却構造10の断面図である。また、図3は、冷却孔30の延伸方向と直交する当該冷却孔30の投影面の一例を示す図(投影図)である。この投影図は、後述の直管部33及び後述のディフューザ部34の相対位置と、それぞれの各流路断面(換言すれば輪郭)とを示している。以下、「投影面」とは、冷却孔30の延伸方向(換言すれば中心軸P)と直交する冷却孔30の投影面と解釈するものとする。
【0018】
図2に示すように、フィルム冷却構造10は、壁部20と、冷却孔30とを備えている。壁部20は、内面21及び外面22を有すると共に、前方から後方に延伸している。外面22は熱媒体に曝され、内面21は冷却媒体CGに面する。なお、壁部20の材料は、公知の耐熱合金を適用できる。
【0019】
冷却孔30は、内面21に開口する入口31及び外面22に開口する出口32を含む。冷却孔30は、出口32が入口31よりも後方に位置するように傾斜した状態で壁部20を貫通している。換言すれば、冷却孔30は、壁部20の厚さ方向TDに対して熱媒体HGの流れ方向に傾斜した角度で、内面21から外面22まで延伸している。冷却媒体CGは、入口31から流入し、出口32から流出する。
【0020】
図1に示すように、冷却孔30は、直管部33と、ディフューザ部34とを含む。直管部33は、冷却孔30の入口31を有し、中心軸Pに沿って当該入口31からディフューザ部34との接続部35まで延伸している。なお、この中心軸Pの延伸方向は、冷却孔30全体の延伸方向でもある。
【0021】
直管部33の内周面36は流路断面(断面)33Aを規定する。流路断面33Aの形状は、直管部33の延伸方向に亘って一定である。図3に示すように、この流路断面33Aの形状は、例えば中心軸Pを中心とした円である。ただし、直管部33の流路断面33Aは、楕円又は三角形、矩形などの多角形でもよい。
【0022】
直管部33と同じく、ディフューザ部34も中心軸Pに沿って延伸している。ディフューザ部34は、直管部33に連通(接続)すると共に、冷却孔30の出口32を有する。即ち、ディフューザ部34は、中心軸Pに沿って直管部33との接続部35から冷却孔30の出口32まで延伸している。
【0023】
図3に示すように、ディフューザ部34は、その内周面としての平面37及び曲面38を含んでいる。平面37は、直管部33の中心軸Pよりも前方に位置し、直管部33の中心軸Pに沿って壁部20の外面22まで延伸している。
【0024】
ディフューザ部34の平面37は、投影面において、直管部33の内周面36のうち、最も前方に位置する部分36aと同じ距離だけ、直管部33の中心軸Pよりも前方に位置している。例えば、直管部33の内周面36が前方に湾曲している場合、平面37は、湾曲した内周面36の接面に一致する。この場合、平面37は、内周面36との段差をもたずに内周面36に接続する部分を有する。
【0025】
ディフューザ部34の曲面38は、平面37よりも後方に位置している。曲面38は、後方に湾曲しつつ、接続部35から壁部20の外面22(冷却孔30の出口32)まで延伸している。図3に示すように、曲面38は、平面37と共に、半円状または半楕円状の流路断面(ディフューザ部34の流路断面34A)を形成する。なお、曲面38と平面37は、フィレット39を介して互いに接続している。フィレット39は、曲面38と平面37を滑らかに接続するための微小な曲面である。
【0026】
ディフューザ部34は、第1セクション40と、第1セクション40から冷却孔30の出口32に向けて延伸する第2セクション41とを含む。流路断面40Bで例示するように、第1セクション40における流路断面40A(図3参照)の面積は、冷却孔30の出口32に近づくにつれて増加する。換言すれば、ディフューザ部34の第1セクション40は、冷却孔30の出口32に向けてフレア状に形成されている。
【0027】
第2セクション41における流路断面41Aの面積は一定である。換言すれば、ディフューザ部34の第2セクション41は、第1セクション40の最大流路断面と同一の流路断面を有しつつ、冷却孔30の出口32に向けて延伸する。
【0028】
なお、第2セクション41における流路断面41Aの面積は、第1セクション40よりも小さな増加率で冷却孔30の出口32に近づくにつれて増加してもよい。換言すれば、第2セクション41は、冷却孔30の出口32に向けて第1セクション40よりも緩やかに拡張(拡大)していてもよい。
【0029】
ここで、説明の便宜上、第1セクション40における曲面38を第1曲面38a、第2セクション41における曲面38を第2曲面38bと称する。即ち、第1セクション40の内周面は、第1曲面38aと平面37によって構成され、第2セクション41の内周面は、第2曲面38bと平面37によって構成される。
【0030】
図2に示すように、平面37と直管部33の中心軸Pの間隔は略一定である。一方、第1曲面38aと中心軸Pの間隔は、冷却孔30の出口32に近づくにつれて増加する。つまり、第1セクション40の流路断面40Aは、冷却孔30の出口32に近づくにつれて、後方に向けて拡大する。また、第2曲面38bと中心軸Pの間隔は一定、或いは、冷却孔30の出口32に近づくにつれて、第1セクション40よりも小さな増加率で増加する。
【0031】
上述の通り、平面37及び曲面38(即ち、第1曲面38a及び第2曲面38b)は、半円状の流路断面34Aを形成する。図3は、その一例としての流路断面40A、40B、41Aを示している。流路断面40Aは、第1セクション40において直管部33に最も近い箇所における当該第1セクション40の断面であり、接続部35の流路断面でもある。流路断面41Aは、第2セクション41の断面である。点線で示す流路断面40Bは、接続部35と第2セクション41との間の任意の位置における第1セクション40の断面である。
【0032】
図3に示す投影面において、直管部33の全体はディフューザ部34の内側に位置する。つまり、ディフューザ部34の流路断面34Aは、直管部33の流路断面33Aよりも大きい。従って、直管部33の内周面36とディフューザ部34の内周面(平面37及び曲面38)は、直管部33とディフューザ部34の接続部35において、段差面35aを形成する。即ち、ディフューザ部34の内周面(少なくとも曲面38)は、直管部33の内周面36と、段差面35a(図1参照)を介して接続している。
【0033】
段差面35aは、冷却孔30の延伸方向と交差する方向に延伸する。即ち、段差面35aは、直管部33の縁部から冷却孔30の延伸方向と直交する方向に延伸してもよく、冷却孔30の延伸方向に対して傾斜した方向に延伸してもよい。
【0034】
説明の便宜上、図3に示す投影面において平面37に沿った方向を幅方向WDとする。また、当該投影面において平面37に沿った方向と直交する方向を深さ方向(高さ方向)DDとする。本実施形態において、幅方向WDにおけるディフューザ部34の長さ(幅)は、深さ方向DDにおけるディフューザ部34の長さ(深さ、高さ)の2倍以上の値を有する。例えば、流路断面40Aの幅Lw1は、流路断面40Aの深さ(高さ)Ld1の2倍以上の値に設定される。同様に、流路断面41Aの幅Lw2も、流路断面40Aの深さ(高さ)Ld2の2倍以上の値に設定される。その他の箇所のディフューザ部34の断面形状も、同様の寸法関係を有する。つまり、ディフューザ部34の流路断面34Aは、平面37に沿った方向(即ち幅方向WD)に引き伸ばされた半円の形状を有する。
【0035】
図4は、第1実施形態に係る冷却孔30における冷却媒体CGの流れを示す図である。図中、冷却媒体CGの主流を実線で示している。この図に示すように、冷却媒体CGの主流は、直管部33からディフューザ部34に流れている。一方、入口31から延伸する冷却孔30の流路は、接続部35において後方に拡大する。この流路の拡大により、冷却媒体CGの主流は、曲面38から剥離し、その状態を維持したまま冷却孔30の出口32に向けて流れていく。
【0036】
上述の剥離によって発生した冷却媒体CGの二次流れ50は、冷却媒体CGの主流に近い空間で当該主流と同方向に流れ、冷却媒体CGの主流から遠い空間で当該主流と逆方向に流れる。つまり、二次流れ50は図4に示す渦(二次渦)51を形成する。
【0037】
二次流れ50は、概ね、第2セクション41において平面37から第2曲面38bに向かう方向に流れている。一方、上述の通り、第2曲面38bは、冷却孔30の延伸方向に対して、第1曲面38aよりも小さな傾斜角をもって延伸している。従って、第1曲面38aが冷却孔30の出口32まで延伸している場合と比べ、より多くの二次流れ50を直管部33に偏向させることができる。
【0038】
直管部33に向かう二次流れ50は、第1曲面38aに沿って流れ、冷却媒体CGの主流が、DD方向に狭くなり、WF方向に広がる。これによりフィルム冷却空気が幅方向に広がり、フィルム冷却効率を高めるともに、冷却媒体CGが大きく加速または減速することがないので、加速された冷却媒体CGと熱媒体の主流との速度差が減少する。その結果、冷却孔30の出口32から流出したときの冷却媒体CGと熱媒体HGとの混合時に生じる空力損失(圧力損失)を抑えることができる。
【0039】
ディフューザ部34における流路断面の拡大と冷却媒体CGの主流の剥離とによって、ディフューザ部34には、上述の渦51に加えて、別の渦(二次渦)52も発生する。渦52は、接続部35の近傍、且つ、幅方向WDにおいて直管部33を挟んだ両側のそれぞれに発生する。渦52は、冷却孔30の延伸方向と平行な軸の周りを回転し、空力損失の要因となる。しかしながら、上述の通り、渦51を形成する二次流れ50は、接続部35の近傍において、ディフューザ部34の曲面38から平面37に向かう方向に流れている。この二次流れ50は、冷却孔30の出口32に進行する渦52を減衰させる。
【0040】
冷却媒体CGの主流は、二次流れ50による圧縮に伴って、冷却孔30の幅方向に分散(拡大)する。また、空力損失の要因となる渦52は、出口32に進行するにつれて減衰する。従って、本実施形態のフィルム冷却構造によれば、空力損失を抑えつつ広範囲なフィルム冷却を行うことができる。即ち、冷却媒体CGによる冷却効率を向上させることができる。
【0041】
(第2実施形態)
次に本開示の第2実施形態について説明する。
図5は、第2実施形態に係る冷却孔30の上面図である。図6は、第2実施形態に係る冷却孔30の投影面の一例を示す図(投影図)である。図7は、第2実施形態に係る冷却孔30における冷却媒体CGの流れを示す図である。図5に示すように、第2実施形態に係るディフューザ部34は、直管部33と第1セクション40との間に位置する第3セクション42を含む。第3セクション42の内周面は、曲面38の一部である第3曲面38cと、平面37とによって構成される。第2実施形態における他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0042】
第3セクション42は、一定の流路断面42Aをもって直管部33と第1セクション40との間を延伸する。この流路断面42Aは、第1セクション40において直管部33に最も近い箇所の流路断面40Aと同形である。また、第3セクション42の形成によって、上述の段差面35aは、直管部33と第3セクション42との間に形成される。
【0043】
上述の通り、ディフューザ部34において接続部35の近傍には、空力損失の要因となる渦52が発生する。本実施形態において、渦52は主に第3セクション42で発生し、冷却孔30の出口32に向けて進行する。一方、渦51を形成する二次流れ50は、第1セクション40における第1曲面38aの近傍で第3セクション42に向けて流れ、その後、第1曲面38aから平面37に向かう方向に流れる。平面37に向けて流れる二次流れ50は渦52と合流(衝突)し、その進行を妨げ、減衰させる。
【0044】
第3セクション42の形成によって、二次流れ50が渦52を減衰させる領域が拡張する。また二次流れ50によって冷却媒体CGの主流が圧縮する領域も拡張する。従って、冷却媒体CGの主流の加速を促進させ、空力損失を更に抑えることができる。
【0045】
ここで、説明の便宜上、ディフューザ部34のアスペクト比を定義する。アスペクト比は、幅方向WDにおけるディフューザ部34の長さ(幅)を深さ方向DDにおけるディフューザ部34の長さ(深さ、高さ)で除した値である。
【0046】
図6に示すように、第3セクション42のアスペクト比(Lw3/Ld3)は、第1セクション40及び第2セクション41の各アスペクト比(Lw1/Ld1及びLw2/Ld2)よりも大きくてもよい。即ち、第3セクション42は、第1セクション40及び第2セクション41よりも、幅方向に扁平な形状を有してもよい。
【0047】
(第3実施形態)
次に本開示の第3実施形態について説明する。
図8は、第3実施形態に係る冷却孔30の投影面の一例を示す図(投影図)であり、図8(a)はその第1例を示す図、図8(b)はその第2例を示す図である。図9は、第3実施形態に係るフィルム冷却構造10の断面図であり、図9(a)は第1例の断面図、図9(b)は第2例の断面図である。図9(a)及び図9(b)は、冷却孔30における冷却媒体CGの流れを併記している。
【0048】
図8(a)に示すディフューザ部34は、第1実施形態の変形例であり、第1セクション40と第2セクション41を含む。また、図8(b)に示すディフューザ部34は、第2実施形態の変形例であり、第1セクション40、第2セクション41及び第3セクション42を含む。
【0049】
第3実施形態に係るディフューザ部34の平面37は、冷却孔30の投影面において、直管部33の内周面36よりも前方にオフセットしている。従って、平面37と内周面36との間には段差面35aが介在する。なお、第3実施形態における他の構成は、第1及び第2実施形態の構成と同様である。
【0050】
第3実施形態においても、渦51を形成する二次流れ50は、直管部33に向けて第1曲面38aに沿って流れる。また、この二次流れ50は、接続部35及びその周囲で冷却媒体CGの主流を圧縮する。一方、上述の通り、第3実施形態の平面37は、直管部33よりも前方にオフセットしている。従って、冷却媒体CGの主流は、二次流れ50によって圧縮されつつ前方に偏向される。その結果、冷却媒体CGの主流の加速と幅方向WDの分散が促進される。
【0051】
(第4実施形態)
次に本開示の第4実施形態について説明する。
図10は、第4実施形態に係る冷却孔30の投影面の一例を示す図(投影図)である。第4実施形態では、第1の凹部43及び第2の凹部44のうちの少なくとも一方が、第2セクション41の第2曲面38bに設けられている。第4実施形態における他の構成は、第1~第3実施形態の構成と同様である。
【0052】
説明の便宜上、図10は、直管部33と第2セクション41のみを示す。この図に示すように、第1の凹部43は、投影面におけるディフューザ部34の平面37に沿う方向(即ち幅方向WD)において、直管部33を挟んだ両側のそれぞれに位置する。第1の凹部43は、第2曲面38bよりも十分に小さな曲率半径をもって中心軸Pから離れる方向に湾曲し、冷却孔30の出口32まで延伸している。このとき、ディフューザ部34の平面37は、出口32に向かうにつれ前方側に広がるよう傾斜してもよいし、ディフューザ部34の前方側を前方側に広がる湾曲した面としてもよい。換言すれば、平面37は、出口32に近いほど中心軸Pから離れるように、中心軸Pに対して傾斜或いは湾曲していてもよい。この傾斜面或いは湾曲面(の接面)と外面22(出口32)とが成す角は、出口32に近いほど増加することになる。
【0053】
第2の凹部44は、投影面において第2曲面38bのうちの最も後方に位置する。第1の凹部43と同じく、第2の凹部44も、第2曲面38bよりも十分に小さな曲率半径をもって中心軸Pから離れる方向(即ち後方)に湾曲し、冷却孔30の出口32まで延伸している。なお、第1の凹部43及び第2の凹部44は何れも、第2曲面38b内の所定の箇所から出口32まで延伸してもよく、第1セクション40の第1曲面38aから出口32まで延伸してもよい。また、第2曲面38bの一部がディフューザの幅方向WDと後方にテーパー面を持ってもよい。
【0054】
本開示に係る解析結果によれば、上述した第1の凹部43及び第2の凹部44のうちの少なくとも一方を、第2曲面38bに形成することによって、従って、冷却媒体CGによる冷却効率を向上させることができる。
【0055】
なお、上述した中心軸Pに対する平面37の傾斜又は湾曲(湾曲面への置換)は、第1~第3実施形態にも適用できる。
【0056】
(第5実施形態)
次に本開示の第5実施形態について説明する。
本開示の第5実施形態は、第1~第4実施形態のうちの何れかに係るフィルム冷却構造10を適用したガスタービンエンジン用タービン翼である。当該タービン翼としての静翼60は、動翼(図示せず)と共にガスタービンエンジン(図示せず)のタービン(図示せず)を構成する。なお、フィルム冷却構造10は、静翼60と同様にタービン翼である動翼に適用してもよい。
【0057】
図11は、静翼60の概略構成を示す斜視図である。この図に示すように、静翼60は、翼体61と、バンド部62と、冷却孔30とを備えている。翼体61は、上述の熱媒体HGとしての燃焼ガスを排出する燃焼器(図示せず)の下流側に配置されており、燃焼ガスの流路に配置されている。
【0058】
翼体61は、前縁61aと、後縁61bと、正圧面(腹側)61cと、負圧面(背側)61dとを有する。熱媒体HGとしての燃焼ガスは、正圧面61c及び負圧面61dに沿って、前縁61aから後縁61bに向かう方向に流れている。
【0059】
翼体61は、冷却媒体CGとしての冷却空気が導入される内部空間(空洞、冷却流路、図示せず)を有している。冷却空気は、例えば圧縮機(図示せず)から抽気される。バンド部62は、スパン方向SDにおいて翼体61を挟み込むように設けられ、燃焼ガスの流路壁(エンドウォール、プラットフォーム、シュラウド)の一部として機能する。これらのバンド部62は、翼体61のチップとハブに一体化されている。
【0060】
本実施形態において、フィルム冷却構造10は、翼体61の正圧面61c及び負圧面61dのうちの少なくとも一方に適用される。即ち、翼体61の正圧面61c及び負圧面61dのうちの少なくとも一方が、フィルム冷却構造10の壁部20として機能し、且つ、そこに複数の冷却孔30が形成されている。以下、説明の便宜上、フィルム冷却構造10が正圧面61cに設けられている例を挙げて説明する。
【0061】
冷却孔30は、出口32が入口31よりも後縁61bの近くに位置するように傾斜した状態で、正圧面61cを貫通している。また、ディフューザ部34の平面37は、冷却孔30の延伸方向及び翼体61のスパン方向SDに延伸している。
【0062】
正圧面61cにおいて、燃焼ガスの主流は前縁61aから後縁61bに向かう方向に流れている。一方、翼体61に導入された冷却空気は、冷却孔30の入口31から流入し、出口32から流出する。出口32から流出した冷却空気は、燃焼ガスの主流に合流しつつ下流に流れる。出口32から流出の際、冷却空気はスパン方向SDに拡大されている。従って、正圧面61c上の冷却範囲をスパン方向SDに広げることができる。
【0063】
また、冷却空気は、出口32から流出するまでに加速される。これにより、冷却空気の主流と燃焼ガスの主流との速度差が減少し、空力損失を抑えることができる。即ち、空力損失を抑えつつ広範囲なフィルム冷却を行うことが可能なタービン翼を提供することができる。
【0064】
なお、本開示は上述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11