(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】車両の燃料供給用又は充電用のポート構造
(51)【国際特許分類】
B60K 15/04 20060101AFI20221206BHJP
B60K 15/05 20060101ALI20221206BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20221206BHJP
B62D 25/24 20060101ALI20221206BHJP
B62D 29/04 20060101ALI20221206BHJP
F16B 11/00 20060101ALI20221206BHJP
【FI】
B60K15/04 D
B60K15/05 B
B60K1/04 Z
B62D25/24 Z
B62D29/04 B
F16B11/00 B
(21)【出願番号】P 2021545033
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2019035715
(87)【国際公開番号】W WO2021048952
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薗田 直彬
(72)【発明者】
【氏名】田部 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】松田 衛彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 郁
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-134801(JP,A)
【文献】特開2013-119308(JP,A)
【文献】特開2014-151693(JP,A)
【文献】国際公開第2010/032160(WO,A1)
【文献】井出正,佐野実,新井重男,自動車車体外板の樹脂化の動向,鉄と鋼,日本,日本鉄鋼協会,1986年,72巻,11号,pp.1674-1680,DOI:10.2355/tetsutohagane1955.72.11_1674,ISSN:1883-2954(online),0021-1575(print)
【文献】モーターファン別冊 2017年 軽自動車のすべて,日本,株式会社三栄書房,2017年04月02日,pp.110-117,ISBN:978-4-7796-3192-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 15/04-15/05, 1/04
B62D 25/24,29/04,
F16B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の燃料供給用又は充電用のポート構造であって、
車体表面の一部を構成する外板部と、前記外板部から車体内側に延設される側壁と、前記側壁から当該側壁により囲われる内側空間側へと延設されるとともに、開口を有する底板と、から構成される樹脂製の外板と、
前記底板の表面側に連結され、前記開口を通じて車体内側に入り込むポート部材と、
前記ポート部材に設けられた燃料供給口又は充電コネクタと、
前記外板の裏面に取り付けられ、前記外板を補強する樹脂製の補強板と、を備え、
前記補強板は、前記外板部に沿って延設される外板補強部と、前記外板補強部から前記側壁に沿って延設される側壁補強部と、前記側壁補強部から前記底板に沿って延設されるとともに前記ポート部材を通過させる開口を有する底板補強部と、を備えており、
前記外板補強部及び前記底板補強部の少なくとも一方には、前記外板の裏面に当接することにより前記外板と前記補強板との間隔を規定する突起が形成されており、
前記外板部と前記外板補強部、及び前記底板と前記底板補強部は、接着剤により接着される、
ポート構造。
【請求項2】
請求項1に記載のポート構造であって、
前記外板には、ポートを開閉するための蓋部材が配置される、
ポート構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポート構造であって、
前記外板補強部に形成される前記突起は、前記外板補強部において前記側壁補強部寄りの位置に形成される、
ポート構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のポート構造であって、
前記突起は、前記底板補強部の前記開口の周囲に沿って複数設けられる、
ポート構造。
【請求項5】
請求項4に記載のポート構造であって、
前記外板補強部及び前記底板補強部のそれぞれに複数の前記突起が形成されており、
前記外板補強部の前記突起と、前記底板補強部の前記突起とは、前記底板補強部の前記開口の周方向に位置をずらして配置される、
ポート構造。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載のポート構造であって、
前記突起は、縦方向断面が湾曲形状の突起として形成される、
ポート構造。
【請求項7】
請求項6に記載のポート構造であって、
前記外板は、車両上下方向になだらかに湾曲するように形成されており、
前記突起の曲率は、前記外板の曲率よりも大きい、
ポート構造。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載のポート構造であって、
前記側壁と前記側壁補強部との間の空間は、前記外板部と前記外板補強部との間の空間、及び前記底板と前記底板補強部との間の空間とにそれぞれ連通する、
ポート構造。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一つに記載のポート構造であって、
前記外板の線膨張係数と前記補強板の線膨張係数との差の絶対値は、40×10
-6/℃以下である、
ポート構造。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一つに記載のポート構造であって、
前記補強板は、強化繊維又はタルクを含有する樹脂により形成される、
ポート構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の燃料供給用又は充電用のポート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
JP1987-61824Aには、リヤフェンダパネルとホイルハウスとをフュエルフィラーベースにより接続して構成された車両の燃料給油部構造が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
近年、車両の軽量化を目的として、車両の車体表面を構成する外板(アウターパネル)を樹脂により形成することが検討されている。このような場合、外板に設けられる燃料供給用ポート又は充電用ポートも樹脂で形成されることとなる。これらポート及び外板を樹脂で形成する場合、鉄製の部品等におけるスポット溶接は適用することができず、接着剤又は両面テープ等を用いて部品同士を接合する必要がある。このようなポートにおいて燃料供給ノズル又は充電コネクタが外部から接続される際にはポート構成部材に押し付け力等の外力が作用するため、この外力に対して強度を確保するとともにある程度の伸びを確保する必要がある。
【0004】
JP1987-61824Aにおいては、車両の外板等を樹脂により形成することは考慮されておらず、樹脂製のポート構造における強度等について検討がなされていない。
【0005】
本発明は、車両の燃料供給用又は充電用のポートを樹脂により構成する場合において、適度な強度及び伸びを有するポート構造を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の一態様によれば、車両の燃料供給用又は充電用のポート構造が提供される。このポート構造は、車体表面の一部を構成する外板部と、外板部から車体内側に延設される側壁と、側壁から当該側壁により囲われる内側空間側へと延設されるとともに、開口を有する底板と、から構成される樹脂製の外板と、底板の表面側に連結され、開口を通じて車体内側に入り込むポート部材と、ポート部材に設けられた燃料供給口又は充電コネクタと、外板の裏面に取り付けられ外板を補強する樹脂製の補強板と、を備える。補強板は、外板部に沿って延設される外板補強部と、外板補強部から側壁に沿って延設される側壁補強部と、側壁補強部から底板に沿って延設されるとともにポート部材を通過させる開口を有する底板補強部と、を備えている。外板補強部及び底板補強部の少なくとも一方には、外板の裏面に当接することにより外板と補強板との間隔を規定する突起が形成されている。外板部と外板補強部、及び底板と底板補強部は、接着剤により接着されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1実施形態による充電用ポートを備える車両の斜視図である。
【
図2】
図2は、蓋部材を開いた状態における充電用ポートの概略構成図である。
【
図3】
図3は、充電用ポートの縦方向の断面図である。
【
図4】
図4は、充電用ポートを構成する補強板の正面図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態による充電用ポートの縦方向一部断面図である。
【
図7】
図7は、充電用ポートを構成する補強板の正面図である。
【
図8】
図8は、充電用ポートを構成する補強板の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0009】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態による充電用ポート10を備える車両100の斜視図である。
【0010】
図1に示す車両100は、バッテリの充電電力に基づいて走行する電気自動車である。車両100の車体表面を構成する外板(アウターパネル)20は、車両100を軽量化するため、樹脂により形成されている。例えば、本実施形態の車両100では、車両100の前方側面を構成するフロントフェンダ2及び後方側面を構成するリアフェンダ(図示省略)を構成する外板20が樹脂製となっている。
【0011】
車両100のフロントフェンダ2を構成する外板20には、バッテリを充電する際に使用される充電用ポート10が設けられている。
【0012】
図2は、蓋部材4を開いた状態における充電用ポート10の概略構成図である。
【0013】
図2に示すように、充電用ポート10は、フロントフェンダ2を構成する外板20の一部を窪ませて形成された空間内に、充電コネクタ3を備えている。充電コネクタ3は、充電スタンド等に配置された充電装置の電力供給コネクタと接続可能に構成されている。車両100の充電コネクタ3と充電装置の電力供給コネクタとが接続されることで、車両100のバッテリが充電される。
【0014】
なお、充電用ポート10の入口部分となる、フロントフェンダ2(外板20)の開口には、ポートを開閉するための蓋部材4(リッド)が開閉自在に配置されている。蓋部材4の車両後方端部には蓋部材4を外板20に対して回動可能に固定するヒンジ部材4Aが設けられており、蓋部材4の車両前方端部には後述するポート部材40の本体部41(
図3参照)の内側に設けられたロック機構11に対して係合可能な係合部4Bが設けられている。蓋部材4を閉じて充電用ポート10を閉塞すると、ロック機構11と係合部4Bとが係合状態となる。ロック機構11と係合部4Bとの係合状態はドライバ等のアンロック操作により解除可能となっており、
図2はロック機構11と係合部4Bとがアンロックされて蓋部材4が開放された状態を示している。
【0015】
次に、
図3~
図5を参照して、充電用ポート10の詳細について説明する。
図3は、充電用ポート10の縦方向(車両上下方向)の断面図である。
図4は、充電用ポート10を構成する補強板30の正面図である。
図5は、
図3の領域Rの部分を拡大した拡大図である。
【0016】
図3に示すように、フロントフェンダ2を構成する外板20は、その一部が車体内側に凹設されることで、充電用ポート10としての空間を形成している。外板20は、ポリプロピレン等の樹脂により形成されている。
【0017】
外板20は、外板部21と、外板部21から車体内側に入り込む側壁22と、側壁22から縦方向に延在する底板23と、を備えている。この外板20は、樹脂製の一枚板から構成された一体的な構造物である。
【0018】
外板部21は、フロントフェンダ2等の車体表面の一部を構成する部材である。外板部21は、充電用ポート10の入口部位としての略矩形状の開口21Aを有している。
【0019】
側壁22は、外板部21の開口端から車体内側、つまり車体内外方向(車両幅方向)に延設されている。側壁22は、充電用ポート10の内周壁を規定する部材であって、上側壁、下側壁、前側壁、及び後側壁が一体的に形成された略筒状の壁部材である。
【0020】
底板23は、側壁22の内側端部に形成される壁部材である。底板23は、外板20の底面を構成する部位であって、側壁22から当該側壁22により囲われる内側空間側へと延設されている。底板23には、車体内外方向に貫通する貫通孔としての開口23Aが形成されている。この底板23には、ポート部材40が取り付けられる。
【0021】
ポート部材40は、ポリプロピレン等の樹脂により形成された有底筒状の部材である。ポート部材40は、車体外側面が開口する箱状の本体部41と、本体部41の先端から拡大するように形成された鍔状のフランジ部42とから構成されている。
【0022】
ポート部材40は、フランジ部42が外板20の底板23の表面側端面(外側面)に連結された状態で、本体部41が底板23の開口23Aを通じて車体内側に入り込むように配置されている。フランジ部42と底板23とは、接着剤により結合されてもよいし、係合突起と係合受部を用いた機械的係合手段により結合されてもよい。また、両部材をボルト及びナットにより連結してもよい。
【0023】
ポート部材40の本体部41の底面には車体内外方向に貫通する開口41Aが形成されており、この開口41Aを通じて、上述した充電コネクタ3が充電用ポート10内に位置するように配置される。充電コネクタ3は、ポート部材40より車体内側に存在するシャシ等の車体構造物に固定された状態で、コネクタ端面が車体外側に臨むように配置されている。本実施形態では、ポート部材40と充電コネクタ3とは直接的に連結されておらず、充電コネクタ3の外周面とポート部材40の開口41Aとの間には、ゴム製のシール部材(図示省略)が配置されている。なお、充電コネクタ3は、車両100に搭載されたバッテリ5と電気的に連結されている。
【0024】
本実施形態では、充電用ポート10は、樹脂製の外板20等により構成されているため、充電コネクタ3に充電装置の電力供給コネクタを装着する場合、又は蓋部材4を閉じる場合に、外板20の底板23等に押し付け力等の外力が作用し、外板20のみの構成では当該外板20が大きく変形してしまうおそれがある。そこで、充電用ポート10の一部を構成する外板20の強度や伸びを適切なものとするため、外板20の裏面には補強板30が取り付けられている。
【0025】
図3及び
図4に示すように、補強板30は、ポリプロピレン等の樹脂により形成された部材であって、外板20を補強するための部材である。この補強板30も、外板20と同様に、樹脂製の一枚板から構成された一体的な構造物である。
【0026】
補強板30は、外板20の外板部21を補強する外板補強部31と、外板20の側壁22を補強する側壁補強部32と、外板20の底板23を補強する底板補強部33と、を備える。
【0027】
外板補強部31は、外板20の外板部21に沿って延設された枠部材として形成されている。
【0028】
側壁補強部32は、外板補強部31の内周端から車体内側に入り込むように、外板20の側壁22に沿って延設されている。側壁補強部32は、上側壁、下側壁、前側壁、及び後側壁が一体的に形成された略筒状の壁部材である。
【0029】
底板補強部33は、側壁補強部32の内側端から底板23に沿って延設される底面である。底板補強部33には、ポート部材40を通過させる貫通孔としての開口33Aが形成されている。
【0030】
図3及び
図5に示すように、外板20と補強板30とは、外板部21と外板補強部31との間、及び底板23と底板補強部33との間に塗布された接着剤により相互に接着される。このように、外板部21と外板補強部31とは第1の接着層51を介して密着し、底板23と底板補強部33とは第2の接着層52により密着する。
【0031】
外板20と補強板30とを接着する第1、第2の接着層51,52(接着剤)の厚さは、外板20の強度及び伸びを規定する上で重要な要素である。例えば、第1及び第2の接着層51,52が薄くなりすぎると、外板20と補強板30との間隔が小さくなるため、電力供給コネクタ接続時等に作用する外力の入力に対してポート周りの外板20の強度は増加するものの、外板20の伸びが低下し、大きな外力が加わるとポート構成部材が塑性変形したりするおそれがある。その一方で、第1及び第2の接着層51,52が厚くなりすぎると、外板20と補強板30との間隔が大きくなるため、充電時等における外力の入力に対してポート周りの外板20の伸びが大きくなり、電力供給コネクタを充電コネクタ3に接続しにくくなるおそれがある。
【0032】
そこで、本実施形態では接着剤厚さを適度な厚さとすることを目的として、補強板30に、外板20と補強板30との間隔を規定する間隔調整部材としての突起34が形成されている。より具体的には、補強板30の外板補強部31の表面に、外板部21の裏面に当接することにより外板20と補強板30との間隔を略一定間隔に規定する突起34が形成されている。一方、外板20は、補強板30の突起34と対向する部位が平坦面形状として形成されており、当該突起34と係合又は嵌合するような部位を有しない構成となっている。
【0033】
図4に示すように、突起34は、外板補強部31の表面に複数形成されており、本実施形態では例えば4つ形成されている。これら4つの突起34は、補強板30の開口33Aの周囲に沿って並設されており、矩形状の開口33Aの4つの角部分に対応する位置にそれぞれ配置されている。これら突起34の配置は、
図4の配置に限らず、任意の位置に設定されてよい。また、突起34は、開口33Aを取り囲むような一本のライン状の突起として構成されてもよい。
【0034】
突起34は、外板補強部31上であれば、当該外板補強部31の先端寄りの位置に形成されてもよいし、先端よりも側壁補強部32寄りの位置に形成されてもよい。
図5に示すように、突起34を側壁補強部32寄りの位置に形成する場合には、突起34が補強板30自体の部材中心により近い位置に配置されることとなるため、補強板30と外板20との間隔を維持しやすい構成となる。
【0035】
さらに、
図5に示すように、突起34は、縦方向断面が円弧状に湾曲した形状の突起として形成されている。また、充電用ポート10周りの外板20は、一点鎖線r
1で示すように、縦方向になだらかに湾曲するように形成されている。このように、なだらかに湾曲する外板20の外板部21の裏面に当接する突起34は、当該突起34の曲率が外板20(外板部21)の曲率よりも大きくなるように構成されている。このような曲面を持つ山形状の突起34によれば、突起34を外板部21の裏面に滑らかに当接させることができ、当接部分における外板20表面の外観に悪影響を与えることがない。さらに、突起34が外板20に対して線接触しやすく、補強板30と外板20との間隔を維持しやすい構成となる。
【0036】
本実施形態では、外板20と補強板30との間に間隔調整部材としての突起34が介在することにより、外板20と補強板30との間を所定の間隔に維持することができ、補強板30を外板20に固定する接着剤(接着層)の厚さを適切な厚さとすることができる。なお、外板20の側壁22と補強板30の側壁補強部32との間の空間は、外板部21と外板補強部31との間の空間、及び底板23と底板補強部33との間の空間とにそれぞれ連通している。そのため、外板20と補強板30との間に接着剤を多めに塗布したとしても、余剰の接着剤が側壁22と側壁補強部32との間の空間に流れ込むようになる。このように、側壁22と側壁補強部32との間の空間は、余剰な接着剤を回収するための接着剤収容室として機能する。
【0037】
本実施形態では、上述したように外板20と補強板30とを第1及び第2の接着層51,52により接着しているが、このような接着方法を採用する場合、外板20の線膨張係数と補強板30の線膨張係数とが大きく異なると、外気の温度状態によっては部品の熱膨張差が発生し、外板20等での接着箇所で歪が大きくなり、外観異常が発生するおそれがある。
【0038】
そこで、以下の表1に示すように、外板20の材質及び補強板30の材質を異ならせた比較例、及び実施例1~5に関し、それぞれの外観について検討した。比較例は、外板の材質がポリプロピレンで、補強板の材質がスチール鋼である例である。一方、実施例1~5の外板20及び補強板30の材質において、PPはポリプロピレンを意味しており、括弧内に記載されているGF30、TD35はポリプロピレンに添加されたフィラーを意味している。GF30はポリプロピレンに対する重量パーセントが30%のガラス繊維を意味しており、TD35はポリプロピレンに対する重量パーセントが35%のタルクを意味している。
【0039】
【0040】
表1に示す比較例の場合には、外板と補強板の線膨張係数の差に起因して、外観に不良が発生することが確認された。しかしながら、外板20及び補強板30の両方を樹脂により形成した実施例1~5では、車両100がさらされる一般的な外気の温度範囲において、外板20と補強板30の線膨張係数の差に起因する外観不良はほぼ認められなかった。これら実施例1~5による知見及び種々の実験等を経た結果、線膨張係数の差に起因する外観不良を抑制するという観点においては、外板20の線膨張係数と補強板30の線膨張係数との差の絶対値は40×10-6/℃以下であることが好ましい。
【0041】
なお、これら実施例1~5については、外板20に補強板30を取り付けた場合におけるポート構造部材の強度についても検討している。樹脂製の外板20に樹脂製の補強板30と取り付けることで、ポート構造部材の強度は基本的に確保されていることが確認された。但し、実施例1、3、4に示すように、ガラス繊維等の強化繊維、又はタルクを含有したポリプロピレン等の樹脂により補強板30を形成した場合に、特に強度が良好であった。これら実施例1~5による知見及び種々の実験等を経た結果、補強板30は、強化繊維(ガラス繊維及び炭素繊維等)又はタルクを含有する樹脂により形成されることが好ましい。
【0042】
上記した第1実施形態によるポート構造によれば、以下の作用効果を得ることができる。
【0043】
本実施形態による充電用のポート構造は、樹脂製の外板20と、ポート部材40と、充電コネクタ3と、樹脂製の補強板30とを備える。外板20は、車体表面の一部を構成する外板部21と、外板部21から車体内側に延設される側壁22と、側壁22から当該側壁により囲われる内側空間側へと延設されるとともに、開口23Aを有する底板23と、から構成されている。ポート部材40は、底板23の表面側に連結され、開口23Aを通じて車体内側に入り込んでいる。充電コネクタ3は、ポート部材40に形成された開口41Aを通じて、車体外側に向かって臨むように配置されている。補強板30は、外板部21に沿って延設される外板補強部31と、外板補強部31から側壁22に沿って延設される側壁補強部32と、側壁補強部32から底板23に沿って延設されるとともにポート部材40を通過させる開口33Aを有する底板補強部33と、を備えている。外板補強部31には、外板20の裏面に当接することにより外板20と補強板30との間隔を規定する突起34が形成されている。外板部21と外板補強部31、及び底板23と底板補強部33は、接着剤により接着されている。
【0044】
本実施形態では、補強板30の突起34により、外板20と補強板30との間を所定の間隔に規定することができ、外板部21と外板補強部31の間の接着層51及び底板23と底板補強部33の間の接着層52の厚さを所望の厚さとすることが可能となる。これにより、電力供給コネクタ接続時等に作用する外力に対して、外板20及びポート部材40の強度及び伸びを適切な範囲に設定することが可能となる。また、ポート部材40は、底板23の表面側に連結された状態で、開口23Aを通じて車体内側に入り込むような構成となっているため、ポート部材40を外板20に対して組み付けやすく、部材の組立性を高めることができる。
【0045】
また、本実施形態のポート構造によれば、外板20には、ポートを開閉するための蓋部材4が配置されている。したがって、蓋部材4を閉じる際に生じる外力に対しても、外板20及びポート部材40の強度及び伸びを適切な範囲に設定することも可能となる。
【0046】
さらに、補強板30の外板補強部31に形成される突起34は、外板補強部31において側壁補強部32寄りの位置に形成される。これにより、突起34が補強板30自体の部材中心により近い位置に配置されることとなるため、補強板30と外板20との間隔が所定の間隔に維持されやすくなる。
【0047】
さらに、突起34は、底板補強部33の開口33Aの周囲に沿って複数設けられる。このように複数の突起34を開口33Aの周囲に並設することで、補強板30を外板20の裏面にガタつきなく平行に取り付けることが可能となる。
【0048】
さらに、突起34は、縦方向断面が湾曲形状の突起として形成される。より具体的には、外板20も車両上下方向になだらかに湾曲するように形成されており、突起34の曲率は外板20の曲率よりも大きく構成されている。このような曲面を持つ突起34によれば、突起34を外板部21の裏面に滑らかに当接させることができ、当接部分における外板20表面の外観に悪影響を与えることがない。さらに、突起34が外板20に対して線接触しやすく、補強板30と外板20との間隔が所定の間隔に維持されやすい。
【0049】
さらに、外板20の側壁22と補強板30の側壁補強部32との間の空間は、外板部21と外板補強部31との間の空間、及び底板23と底板補強部33との間の空間とにそれぞれ連通している。そのため、外板20と補強板30との間に接着剤を多めに塗布したとしても、余剰の接着剤が側壁22と側壁補強部32との間の空間に流れ込むようになる。したがって、このような余剰の接着剤が車体表面側に溢れ出ることが防止される。また、外板20と補強板30とは、第1及び第2の接着層51,52だけでなく、外板部21と外板補強部31との間に漏れ出た接着剤によっても接着されるため、両部材の接着強度を高めることができる。
【0050】
さらに、外板20は、補強板30の突起34と対向する部位が平坦面形状として形成されており、当該突起34と係合又は嵌合するような部位を有しない構成となっている。樹脂製の外板20において突起34と当接する部分に係合部又は嵌合部を形成してしまうと、外板成形時に係合部又は嵌合部での成形収縮等によって外板表面にヒケが生じ、外観性状が悪化するおそれがある。本実施形態の外板20では、突起34との当接部分は平坦面となっているため、上述した外板20の外観性状の悪化は生じない。
【0051】
<第2実施形態>
図6及び
図7を参照して、第2実施形態による充電用ポート10について説明する。
図6は、第2実施形態による充電用ポート10の縦方向一部断面図である。
図7は、充電用ポート10を構成する補強板30の正面図である。
【0052】
第1実施形態では補強板30の外板補強部31にのみ間隔調整部材としての突起34が形成されているが、第2実施形態では補強板30の外板補強部31に突起34が形成されるだけでなく、補強板30の底板補強部33にも突起35が形成されている。
【0053】
図6に示すように、本実施形態では、一つの補強板30に対して2種類の突起34、35が設けられており、これら突起34,35が外板20の裏面に当接することで外板20と補強板30との間が所定の間隔に維持される。
【0054】
図7に示すように、底板補強部33に形成される突起35も、外板補強部31の突起34と同じ形状を有している。つまり、突起35の突出高さは、突起34の突出高さと同一となっている。突起35は底板補強部33の表面に複数形成されており、本実施形態では例えば4つ形成されている。これら4つの突起35は、補強板30の開口33Aの周囲に沿って並設されており、矩形状の開口33Aの長辺及び短辺の略中央に対応する位置にそれぞれ配置されている。より具体的には、外板補強部31の突起34と、底板補強部33の突起35とは、底板補強部33の開口33Aの周方向に位置をずらしてそれぞれ配置される。
【0055】
これら突起34、35の配置は、
図7の配置に限らず、任意の位置に設定されてよい。また、突起34、35は、開口33Aを取り囲むような一本のライン状の突起として構成されてもよい。
【0056】
突起35は、底板補強部33上であれば、当該外板補強部31の開口33A寄りの位置に形成されてもよいし、開口33Aよりも側壁補強部32寄りの位置に形成されてもよい。
図6に示すように、突起35を開口33A寄りの位置に形成する場合には、突起35が補強板30自体の部材中心により近い位置に配置されることとなるため、補強板30と外板20との間隔が維持されやすい。
【0057】
なお、本実施形態のポート構造においても、上述した表1の実施例1~5と同様の外板20及び補強板30の材質の組み合わせが採用され得る。
【0058】
上記した第2実施形態によるポート構造によれば、以下の作用効果を得ることができる。
【0059】
本実施形態によるポート構造では、補強板30の外板補強部31に突起34が形成されるとともに、補強板30の底板補強部33に突起35が形成されている。これら突起34,35により、補強板30を外板20の裏面にガタつきなく取り付けることができ、外板20と補強板30との間隔をより一定の間隔に維持することができる。その結果、外板部21と外板補強部31の間の接着層51及び底板23と底板補強部33の間の接着層52の厚さをより一定なものとすることができ、外板20及びポート部材40の強度及び伸びをより精度よく設定することが可能となる。
【0060】
底板補強部33の突起35は、外板補強部31の突起34と同様、底板補強部33の開口33Aの周囲に沿って複数設けられる。このように複数の突起34、35を開口33Aの周囲に並設することで、補強板30を外板20の裏面にガタつきなく平行に取り付けることが可能となる。
【0061】
さらに、外板補強部31の突起34と、底板補強部33の突起35とは、底板補強部33の開口33Aの周方向に位置をずらして配置される。このような構成によれば、突起34及び突起35の突出高さが多少ばらついても、外板20の裏面に取り付けた際にガタつきが生じにくく、外板20と補強板30との間隔を可能な限り所望の間隔に維持することができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0063】
例えば、
図8に示すように、第1実施形態における補強板30の裏面(内側面)には、外板補強部31、側壁補強部32、及び底板補強部33のそれぞれの裏面に沿って延設されるリブ36が形成されてもよい。リブ36は、底板補強部33の開口33Aの周囲に沿って複数形成されてもよい。このようなリブ36は、充電用ポート10の強度や伸びを高めるために必要に応じて採用される。リブ36については、第1実施形態の充電用ポート10だけでなく、第2実施形態の充電用ポート10にも採用され得る。
【0064】
また、
図8に示すように、補強板30においては、当該補強板30の軽量化を目的に、側壁補強部32に一以上の貫通孔32Aを形成してもよい。貫通孔32Aについては、第1実施形態の充電用ポート10だけでなく、第2実施形態の充電用ポート10にも採用され得る。
【0065】
なお、上述した第1及び第2実施形態では、充電用ポート10内に一つの充電コネクタ3が配置されているが、配置される充電コネクタの数は一つに限られない。例えば、充電用ポート10内に、家庭用電源からの充電が可能な通常充電コネクタ、及び急速充電器からの充電が可能な急速充電コネクタの2つのコネクタを配置するようにしてもよい。
【0066】
また、第1及び第2実施形態では、ポートが電動車両100の充電用ポートであるとして説明したが、当該ポートはガソリン又は軽油等を燃料とする車両の燃料供給用ポートであってもよい。ポートが燃料供給用ポートである場合は、燃料供給部がポート部材40の開口41Aを通じてポート内に位置しており、燃料供給部の燃料供給口は車体外側に臨むように配置される。
【0067】
さらに、充電用ポート10又は燃料供給用ポートは、車両のフロントフェンダに形成されるのではなく、必要に応じて車両の任意の位置に形成され得る。
【0068】
第2実施形態では、補強板30の外板補強部31に突起34を設け、補強板30の底板補強部33に突起35を設けたが、突起34は省略してもよい。つまり、外板20と補強板30との間隔を調整するための突起は、外板補強部31及び底板補強部33の少なくとも一方に形成されていればよい。
【0069】
上述した第1実施形態及び第2実施形態で説明した技術思想は適宜組み合わせが可能である。