(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-05
(45)【発行日】2022-12-13
(54)【発明の名称】搬送車システム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/677 20060101AFI20221206BHJP
【FI】
H01L21/68 A
(21)【出願番号】P 2021554819
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2020028768
(87)【国際公開番号】W WO2021090542
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2019200737
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【氏名又は名称】安田 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】本告 陽一
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-096192(JP,A)
【文献】特開昭61-196856(JP,A)
【文献】特表2015-533026(JP,A)
【文献】特開平05-310323(JP,A)
【文献】特開2017-159975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道と、
前記軌道を走行して容器を搬送する搬送車であって、不活性ガスを貯留する貯留部を有し、前記容器の搬送中に前記貯留部から前記容器の内部に前記不活性ガスを供給する前記搬送車と、
前記軌道に沿って設けられ、前記搬送車の前記貯留部に前記不活性ガスを供給するガス供給装置と、を備える搬送車システム。
【請求項2】
前記貯留部に貯留されている前記不活性ガスの状態を監視し、前記不活性ガスの状態に基づいて前記貯留部への前記不活性ガスの供給が必要であるか否かを判定し、前記不活性ガスの供給が必要であると判定された場合に、前記搬送車を前記ガス供給装置が設けられた位置まで走行させるコントローラを更に備える、請求項1に記載の搬送車システム。
【請求項3】
前記搬送車は、
前記貯留部と接続され、前記不活性ガスを流通させるガス供給管と、
前記ガス供給管の先端に設けられ、前記容器の底面に設けられた注入口に接続されることにより、前記不活性ガスを前記容器の内部に供給するノズルと、
前記容器の前記底面を支持すると共に、前記容器の前記注入口に対応する位置に前記ノズルを固定可能な支持台と、を有する、請求項1又は2に記載の搬送車システム。
【請求項4】
前記搬送車は、前記容器の搬送中に前記容器が格納される本体部と、前記容器を吊り下げ可能とされ、前記本体部に対して昇降する昇降機構と、を更に有し、
前記支持台は、少なくとも前記昇降機構による昇降動作時において、前記昇降機構及び前記昇降機構により吊り下げられた前記容器と干渉しない退避位置に退避可能に構成されている、請求項3に記載の搬送車システム。
【請求項5】
前記搬送車は、
前記支持台を前記退避位置に退避させた状態で、前記昇降機構で前記容器を荷掴みして上昇させることにより、前記容器を前記本体部内に格納し、
前記容器が前記本体部内に格納された後に、前記支持台を前記退避位置から前記容器の下方に配置し、
前記支持台が前記容器の下方に配置された後に、前記容器が前記支持台上に載置されるように前記昇降機構を動作させる、請求項4に記載の搬送車システム。
【請求項6】
前記支持台は、前記容器の上下方向への移動を規制する規制部材を有する、請求項3~5のいずれか一項に記載の搬送車システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、搬送車システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセス中における半導体基板の酸化を防止するために、半導体基板を収容するFOUP(Front Opening Unified Pod)等の容器内に窒素ガス等の不活性ガスを注入し、容器内の酸素を排除する仕組み(N2パージ)が知られている。
【0003】
特許文献1には、天井搬送車に保持されたFOUPに窒素ガスを供給する窒素ガス供給装置が設けられた物品搬送設備が開示されている。窒素ガス供給装置は、天井搬送車の走行経路に沿った位置に設けられている。
【0004】
特許文献2には、半導体素子等の搬送対象物を搬送する搬送車(AGV)に窒素ガス貯蔵ボンベを設けた構成が開示されている。窒素ガス貯蔵ボンベは、搬送車内の搬送対象物の収納室に供給するための窒素ガスを貯蔵する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-96192号公報
【文献】特開昭61-196856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された物品搬送設備では、窒素ガス供給装置が設けられたガス供給位置でしか、天井搬送車に保持されたFOUPへの窒素ガスの供給を行うことができない。このため、天井搬送車の走行時間が長い場合、天井搬送車の走行中にFOUP内の窒素ガスが徐々に減少し、FOUP内の半導体基板が酸化してしまうおそれがある。一方、特許文献2に記載された構成では、搬送対象物の搬送中に窒素ガス貯蔵ボンベから収納室へと窒素ガスを供給できるが、窒素ガス貯蔵ボンベ内の窒素ガスが空にならないように、窒素ガス貯蔵ボンベの交換作業等を定期的に実施する必要がある。
【0007】
本開示の一側面は、搬送中の容器への不活性ガスの供給を効率的に維持することができる搬送車システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面に係る搬送車システムは、軌道と、軌道を走行して容器を搬送する搬送車であって、不活性ガスを貯留する貯留部を有し、容器の搬送中に貯留部から容器の内部に不活性ガスを供給する搬送車と、軌道に沿って設けられ、搬送車の貯留部に不活性ガスを供給するガス供給装置と、を備える。
【0009】
上記搬送車システムでは、搬送車は、搬送中の容器の内部に不活性ガスを供給するための貯留部を有している。これにより、容器の搬送中において、不活性ガスを継続的に容器内に供給することができ、容器内が不活性ガスで満たされた状態を適切に維持することができる。更に、上記搬送車システムでは、搬送車が走行する軌道に沿って、貯留部に不活性ガスを供給するガス供給装置が設けられている。これにより、搬送車が有する貯留部への不活性ガスの供給(補充)を容易且つ適切に行うことができる。例えば、貯留部内の不活性ガスが空になる前に、ガス供給装置が設けられた位置(ガス供給位置)まで搬送車を軌道に沿って走行させて不活性ガスを補充させることにより、貯留部に不活性ガスが貯留された状態を適切に維持することができる。以上により、上記搬送車システムによれば、搬送中の容器への不活性ガスの供給を効率的に維持することができる。
【0010】
上記搬送車システムは、貯留部に貯留されている不活性ガスの状態を監視し、不活性ガスの状態に基づいて貯留部への不活性ガスの供給が必要であるか否かを判定し、不活性ガスの供給が必要であると判定された場合に、搬送車をガス供給装置が設けられた位置まで走行させるコントローラを更に備えてもよい。上記構成によれば、コントローラによって、貯留部内の不活性ガスの状態監視と貯留部内への不活性ガスの補給とを自動化することができる。その結果、搬送車の貯留部内の不活性ガスが空になってしまうことが適切に防止される。
【0011】
搬送車は、貯留部と接続され、不活性ガスを流通させるガス供給管と、ガス供給管の先端に設けられ、容器の底面に設けられた注入口に接続されることにより、不活性ガスを容器の内部に供給するノズルと、容器の底面を支持すると共に、容器の注入口に対応する位置にノズルを固定可能な支持台と、を有してもよい。上記構成によれば、容器が支持台に支持されて容器の荷重が支持台に加えられることにより、容器の注入口と支持台に固定されるノズルとを密着させて接続することができる。これにより、貯留部内の不活性ガスを、安定した状態で、ガス供給管、ノズル、及び注入口を介して、容器内へと供給することができる。
【0012】
搬送車は、容器の搬送中に容器が格納される本体部と、容器を吊り下げ可能とされ、本体部に対して昇降する昇降機構と、を更に有し、支持台は、少なくとも昇降機構による昇降動作時において、昇降機構及び昇降機構により吊り下げられた容器と干渉しない退避位置に退避可能に構成されていてもよい。上記構成によれば、支持台が退避位置に退避可能に構成されていることにより、昇降機構による昇降動作を伴う容器の移載動作(荷掴み又は荷降ろし)を適切に行うことができる。
【0013】
搬送車は、支持台を退避位置に退避させた状態で、昇降機構で容器を荷掴みして上昇させることにより、容器を本体部内に格納し、容器が本体部内に格納された後に、支持台を退避位置から容器の下方に配置し、支持台が容器の下方に配置された後に、容器が支持台上に載置されるように昇降機構を動作させてもよい。上記構成によれば、昇降機構及び支持台の一連の動作を制御することにより、容器を荷掴みした後に当該容器内に貯留部からの不活性ガスを供給可能な状態へと円滑に移行させることができる。
【0014】
支持台は、容器の上下方向への移動を規制する規制部材を有してもよい。上記構成によれば、容器の搬送中(容器内への不活性ガスの供給中)において、容器が支持台に対して上方に飛び出すことが防止される。これにより、容器の注入口と支持台に固定されたノズルとの接続状態を安定化させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示の一側面によれば、搬送中の容器への不活性ガスの供給を効率的に維持することができる搬送車システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る天井搬送車システムを示す図である。
【
図2】
図2は、支持台に設けられたロック機構を示す図である。
【
図3】
図3は、ガス供給装置から天井搬送車に不活性ガスを供給している状態を示す図である。
【
図4】
図4は、天井搬送車システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、FOUPを荷掴みしてから荷降ろしするまでの天井搬送車の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6(A)及び
図6(B)は、荷掴み処理時における天井搬送車の動作を示す図である。
【
図7】
図7(A)及び
図7(B)は、荷掴み処理時における天井搬送車の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0018】
図1は、一実施形態に係る天井搬送車システムを示す図である。
図1に示されるように、天井搬送車システム1(搬送システム)は、走行レール2(軌道)と、天井搬送車3(搬送車)と、ガス供給装置4と、上位コントローラ5と、を備えている。走行レール2は、床面よりも高い位置(例えばクリーンルームの天井等)に設けられている。天井搬送車3は、走行レール2を走行する。天井搬送車3は、例えば保管設備と所定のロードポートとの間で、FOUP10(容器)又はレチクルポッド等を搬送する。通常、天井搬送車システム1は、複数の天井搬送車3を備えているが、本実施形態では、一の天井搬送車3に着目して説明する。
【0019】
FOUP10には、複数の半導体ウェハ等が収容される。FOUP10は、天井搬送車3によって把持されるフランジ10aを有している。また、FOUP10の底面10bには、FOUP10の内部(本実施形態では、複数の半導体ウェハが収容される収容室内)と外部とを連通する注入口10cが設けられている。
【0020】
以下の説明では、説明の便宜上、走行レール2に沿った方向(
図1の左右方向)をX軸方向とし、鉛直方向(
図1の上下方向)をZ軸方向とし、X軸方向及びZ軸方向の両方に直交する方向(
図1の奥行方向)をY軸方向とする。X軸方向は、天井搬送車3の走行方向でもある。Y軸方向は、天井搬送車3の幅方向でもある。
【0021】
図1に示されるように、天井搬送車3は、本体部31と、走行部32と、昇降機構33と、タンク34(貯留部)と、ガス供給管35と、コントローラ36と、支持台37と、を有している。
図1は、FOUP10の内部に不活性ガスを供給しながら当該FOUP10を搬送する天井搬送車3を示している。
【0022】
本体部31は、走行レール2の下方に位置している。走行部32は、走行レール2に沿って走行する部材(例えばローラ等)である。本体部31は、走行部32に吊り下げられると共に支持されている。本体部31の内側には、FOUP10を格納するための格納空間Sが形成されている。本実施形態では一例として、本体部31は、FOUP10の前後方向(すなわち、X軸方向におけるFOUP10の両側)を覆う一対の壁部を有している。格納空間Sは当該一対の壁部に挟まれた空間である。
【0023】
昇降機構33は、FOUP10のフランジ10aを把持する把持部33aと、把持部33aに接続され、本体部31に対して昇降する一又は複数(例えば4本)のベルト33bと、を有している。昇降機構33は、ベルト33bの巻き上げ又は繰り出し等を行うことにより、把持部33aを昇降させる。これにより、把持部33aに保持されたFOUP10の昇降動作が実現される。
【0024】
タンク34は、窒素ガス等の不活性ガスを貯留する。タンク34は、例えば、圧縮された状態の不活性ガスを貯留するガスボンベ等である。タンク34は、タンク34内の不活性ガスを外部に排出するための排出口34aと、タンク34内に不活性ガスを供給(補充)するための供給口34b(
図3参照)と、を有している。
【0025】
ガス供給管35は、タンク34の排出口34aと接続され、タンク34からの不活性ガスを流通させる中空管状部材である。ガス供給管35のタンク34側とは反対側の端部(先端)には、ノズル35aが設けられている。ノズル35aは、FOUP10の注入口10cと接続される。タンク34の排出口34aから排出された不活性ガスは、ガス供給管35、ノズル35a、及び注入口10cを介して、FOUP10の内部へと供給される。ここで、FOUP10の内部に充填された不活性ガスは、FOUP10の微小な隙間等から徐々に外部に漏れていく。このため、FOUP10の内部に不活性ガスが適切に充填された状態を保つためには、継続的に不活性ガスをFOUP10の内部に供給する必要がある。上述したガス供給管35により、タンク34からFOUP10へと不活性ガスが継続的に供給される。なお、FOUP10には、注入口10cとは別に、FOUP10内のガス圧等を適切に調整するための図示しない排気口が設けられてもよい。
【0026】
コントローラ36は、プロセッサ(例えばCPU等)及びメモリ(例えばROM又はRAM等)等を有するコンピュータからなる電子制御ユニットである。コントローラ36は、天井搬送車3の各種動作を制御する。コントローラ36は、天井搬送車3に対して搬送指令(例えば荷掴み地点及び荷降ろし地点の情報を含む走行指令)を出力する上位コントローラ5と無線通信等によって通信可能とされている。
【0027】
コントローラ36は、タンク34に貯留されている不活性ガスの状態(例えば、ガス量(残量)、ガス圧等)を監視するセンサ等を有している。一例として、コントローラ36は、タンク34内の不活性ガスの状態に基づいて、タンク34への不活性ガスの供給(補充)が必要であるか否かを判定する。例えば、コントローラ36は、タンク34内の不活性ガスのガス量及び/又はガス圧が、予め設定された閾値未満となったことを検知した場合に、タンク34への不活性ガスの供給が必要であると判定する。
【0028】
タンク34への不活性ガスの供給が必要であると判定された場合、コントローラ36は、一例として、その旨を示す情報を上位コントローラ5に通知する。上位コントローラ5は、当該情報の通知元である天井搬送車3の位置、当該天井搬送車3の予定走行経路(例えば、当該天井搬送車3に割り付けられた搬送指令に応じた走行経路)等に基づいて最適なガス供給装置4を決定する。例えば、上位コントローラ5は、当該天井搬送車3の現在位置、或いは当該天井搬送車3の予定走行経路から最も近い位置にあるガス供給装置を、最適なガス供給装置4として決定する。上位コントローラ5は、決定されたガス供給装置4への走行指令を当該天井搬送車3のコントローラ36へと通知する。そして、コントローラ36は、当該ガス供給装置4が設けられた位置まで走行するように天井搬送車3の動作を制御する。
【0029】
なお、コントローラ36と上位コントローラ5との役割分担は、上記形態に限られない。上記例では、コントローラ36がタンク34への不活性ガスの供給が必要であるか否かを判定したが、上記判定は上位コントローラ5によって行われてもよい。例えば、コントローラ36が、タンク34内の不活性ガスのガス量及び/又はガス圧の情報を上位コントローラ5に通知し、上位コントローラ5が、当該情報に基づいて上記判定を行ってもよい。また、上記例では、コントローラ36及び上位コントローラ5によってガス供給装置4への走行制御が実現されたが、上述した上位コントローラ5の機能は、コントローラ36に搭載されてもよい。すなわち、天井搬送車3に搭載されたコントローラ36が、上述した制御を自律的に行ってもよい。この場合、上位コントローラ5は省略され得る。
【0030】
支持台37は、FOUP10の搬送中(すなわち、FOUP10への不活性ガスの供給中)において、FOUP10の底面10bを支持するための部材である。一例として、支持台37は、平板状に形成されている。支持台37は、FOUP10の注入口10cに対応する位置にノズル35aを固定可能に構成されている。本実施形態では一例として、支持台37には、Z軸方向から見て注入口10cと重なる位置において、ガス供給管35の先端部(すなわち、ノズル35aが設けられた部分)を挿通させて固定する挿通孔37aが形成されている。これにより、挿通孔37aに挿通及び固定されたノズル35aは、Z軸方向にFOUP10の注入口10cと対向する位置に配置される。そして、FOUP10が支持台37上に載置され、FOUP10の荷重が支持台37に加えられることにより、注入口10cがノズル35aと密着し、注入口10cとノズル35aとが接続される。
【0031】
図1に示されるように、支持台37は、FOUP10の搬送中において、FOUP10の底面10bを支持するための支持位置(すなわち、FOUP10及び昇降機構33の下方の位置であり、Z軸方向から見てFOUP10と重なる位置)に配置される。ここで、仮に支持台37が支持位置に固定されていると、昇降機構33の昇降動作時において、支持台37が昇降機構33又は昇降機構33により吊り下げられたFOUP10と干渉してしまう。そこで、支持台37は、昇降機構33による昇降動作時において、昇降機構33又はFOUP10と干渉しない退避位置に退避可能に構成されている。すなわち、支持台37は、搬送中のFOUP10の底面10bを支持するために支持位置に配置される支持状態と、昇降機構33の昇降動作を妨げないように退避位置に配置される退避状態とを切り替え可能に構成されている。
【0032】
例えば、支持台37は、天井搬送車3の走行方向(X軸方向)又は幅方向(Y軸方向)にスライド可能に構成され得る。この場合、支持位置からX軸方向又はY軸方向にスライドさせられた位置(Z軸方向から見て昇降機構33及びFOUP10と重ならない位置)が、上述した退避位置となる。この場合、支持台37を水平方向にスライド移動させることにより、支持状態と退避状態とを切り換えることができる。ただし、支持位置と退避位置との間の支持台37の移動の態様、及び退避位置は、上記形態に限られない。例えば、支持台37は、X軸又はY軸周りに回動可能に構成されてもよい。この場合、支持台37は、退避状態において、XZ平面又はYZ平面に沿った状態で、格納空間Sの側方に配置され得る。また、支持台37は、折り畳み式に構成されてもよい。この場合、支持台37は、退避状態において、支持台37が折り畳まれた状態で格納空間Sの側方に配置されてもよい。また、ノズル35aは、少なくとも支持状態において支持台37に固定されるように構成されていればよく、退避状態においては、ノズル35aは支持台37から取り外されていてもよい。
【0033】
図2に示されるように、支持台37は、支持台37に対するFOUP10の移動を規制するためのロック機構38を備えている。ロック機構38は、FOUP10の鉛直方向(Z軸方向)への移動を規制する爪部38a(規制部材)と、FOUP10の水平方向(X軸方向又はY軸方向)への移動を規制するピン38bと、を有している。
【0034】
一例として、FOUP10は、上述した底面10bを含み、X軸方向又はY軸方向に突出する底面フランジ10dを有している。また、爪部38aは、鉤状に形成されており、底面フランジ10dの端部の上面及び側面に当接する。
図2に示されるように、爪部38aと支持台37とに底面フランジ10dが挟み込まれることにより、底面フランジ10dが支持台37に対して上方に飛び出してしまうこと(すなわち、FOUP10の鉛直方向への移動)が規制される。爪部38aは、例えば、支持台37にFOUP10が載置されたこと(FOUP10の荷重が加わったこと)を検知して、
図2に示されるロック状態に移行するように構成されている。また、爪部38aは、荷降ろし時等において昇降機構33による昇降動作が実行される際には、例えばコントローラ36からの解除信号に基づいて、支持台37を退避状態に移行するためにロック状態を解除するように構成されている。
【0035】
なお、爪部38aは、1箇所に設けられてもよいし、複数箇所に設けられてもよい。例えば、爪部38aは、Z軸方向から見て、略矩形状の支持台37の対角線上に位置する2箇所に設けられてもよいし、支持台37の四隅に設けられてもよい。このように爪部38aが複数箇所に設けられる場合には、爪部38aによってFOUP10の水平方向への移動も規制される。
【0036】
また、通常、FOUP10の底面フランジ10dには、複数(例えば3箇所)の位置決め孔10eが設けられている。ここで、ピン38bは、当該位置決め孔10eに対応する位置に設けられている。すなわち、ピン38bは、FOUP10が支持台37に載置された状態において、位置決め孔10eに挿通される。支持台37に対するFOUP10の水平方向の移動は、このようなピン38bによっても規制される。
【0037】
ガス供給装置4は、天井搬送車3のタンク34に不活性ガスを供給するための装置である。ガス供給装置4は、走行レール2に沿った天井搬送車3の走行を妨げないように、走行レール2に沿って設けられている。ガス供給装置4は、走行レール2に取り付けられてもよいし、走行レール2の近傍に配置された別部材(例えば、天井等)に取り付けられてもよい。天井搬送車システム1において、1つのガス供給装置4が設けられてもよいし、複数のガス供給装置4が設けられてもよい。
【0038】
ガス供給装置4は、天井搬送車3に供給するための不活性ガスを貯留しており、走行レール2の所定の位置(本実施形態では、ガス供給装置4の下方の位置)に位置する天井搬送車3のタンク34に対して、当該不活性ガスを供給可能に構成されている。すなわち、ガス供給装置4は、天井搬送車3に不活性ガスを供給するためのステーションとして機能する。以下の説明において、上記所定の位置のことを「ガス供給位置」という。
【0039】
図3は、ガス供給装置4から天井搬送車3に不活性ガスを供給している状態を示す図である。すなわち、天井搬送車3がガス供給位置に停止した状態で、ガス供給装置4が当該天井搬送車3のタンク34に不活性ガスを供給している。一例として、ガス供給装置4は、供給源(不図示)からの不活性ガスを流通させるガス供給管4aを有している。そして、ガス供給装置4は、天井搬送車3がガス供給位置に停止したことを検知すると、ガス供給管4aの動作を制御し、ガス供給管4aの接続口(先端部)をタンク34の供給口34bに接続する。これにより、ガス供給装置4の供給源からの不活性ガスが、ガス供給管4a及び供給口34bを介して、タンク34に供給される。なお、
図3は、FOUP10を搬送していない天井搬送車3を例示しているが、ガス供給装置4は、FOUP10を搬送中の天井搬送車3に対して、不活性ガスを供給してもよい。
【0040】
ガス供給装置4から天井搬送車3のタンク34への不活性ガスの供給処理は、例えば以下のようにして行われる。すなわち、ガス供給装置4は、ガス供給位置に停止した天井搬送車3のコントローラ36から、必要なガス供給量の情報を含む供給要求信号を受信する。そして、ガス供給装置4は、当該供給要求信号を受信したことをトリガとして、上述したガス供給動作(すなわち、供給口34bへのガス供給管4aの接続、及び不活性ガスの供給)を実行する。そして、ガス供給装置4は、上記ガス供給量の供給が完了すると、ガス供給の完了をコントローラ36に通知すると共に、ガス供給管4aとタンク34の供給口34bとの接続を解除する。これにより、天井搬送車3は、ガス供給装置4との接続が解除され、走行レール2に沿って移動可能となる。
【0041】
次に、
図4に示されるフローチャートを参照して、天井搬送車システム1の動作の一例について説明する。
図4に示されるように、天井搬送車3のコントローラ36は、継続的に、タンク34内の不活性ガスの状態(本実施形態では一例として、ガス量及びガス圧)を監視する(ステップS1)。そして、コントローラ36は、タンク34内のガス量及びガス圧が予め設定された閾値以上である間(ステップS1:YES)は、上記監視を継続しつつ、上位コントローラ5からの指示に基づいて走行レール2の走行及びFOUP10の搬送動作を実行する。
【0042】
一方、コントローラ36は、タンク34内のガス量及びガス圧が閾値未満となったことを検知すると(ステップS1:NO)、ガス供給装置4(すなわち、ガス供給装置4からのガス供給を受けるためのガス供給位置)への走行制御を行う(ステップS2)。上述したように、本実施形態では、コントローラ36が、上位コントローラ5に対して、タンク34への不活性ガスの供給が必要である旨を通知し、その後の上位コントローラ5からの指示に基づいて、指定されたガス供給位置へと天井搬送車3を走行させる。続いて、天井搬送車3がガス供給位置に到着した後、上述した不活性ガスの供給処理が行われる(ステップS3)。
【0043】
次に、
図5に示されるフローチャートを参照して、FOUP10を荷掴みしてから荷降ろしするまでの天井搬送車3(コントローラ36)の動作の一例について説明する。ここでは、天井搬送車3の下方に位置するFOUP10を荷掴みする場合について説明する。まず、コントローラ36は、支持台37が退避状態となっているか否か(すなわち、支持台37が退避位置に位置するか否か)を確認する(ステップS11)。支持台37が退避状態となっている場合(ステップS11:YES)には、ステップS13に進む。一方、支持台37が退避状態になっていない場合(ステップS11:NO)、すなわち支持台37が支持位置(昇降機構33の下方)に位置する場合、支持台37を退避位置へと退避させる(ステップS12)。これにより、天井搬送車3の下方に位置するFOUP10を荷掴みするために昇降機構33を下降させることが可能となる。なお、上記のステップS11及びS12の処理は、安全を期すための処理であり、必須の処理ではない。具体的には、前回の荷降ろし処理が正常に完了している場合、支持台37は退避状態であることが保証される。従って、前回の荷降ろし処理が正常に完了していることが確認できている場合等には、ステップS11及びS12の処理は省略されてもよい。
【0044】
続いて、コントローラ36は、移載対象となるFOUP10の荷掴み処理を実行する(ステップS13)。具体的には、コントローラ36は、ベルト33bを繰り出すことにより昇降機構33を下降させ、把持部33aに移載対象となるFOUP10のフランジ10aを把持させる(
図6(A)参照)。そして、コントローラ36は、ベルト33bを巻き上げることにより昇降機構33を上昇させ、FOUP10を格納空間S内に格納する(
図6(B)参照)。
【0045】
続いて、コントローラ36は、支持台37を支持状態に移行させ(
図7(A)参照)、FOUP10を支持台37上に載置する(
図7(B)参照)(ステップS14)。
図7(A)に示されるように支持台37が支持位置に配置された後、ベルト33bが繰り出されることにより昇降機構33が下降させられる。これにより、
図7(B)に示されるように、FOUP10の荷重が支持台37に加えられる。すなわち、支持台37によってFOUP10の底面10bが支持される。このとき、支持台37に対してFOUP10の荷重を適切に預けるために、把持部33aによるフランジ10aの把持を解除してもよい。これにより、FOUP10の注入口10cと支持台37に固定されたノズル35aとが接続される。また、このとき、
図2に示されるように、FOUP10の底面フランジ10dは、ロック機構38によってロックされる。
【0046】
続いて、ガス供給管35、ノズル35a、及び注入口10cを介して、タンク34に貯留されている不活性ガスのFOUP10内への供給が開始される(ステップS15)。その後、FOUP10の移載処理が必要となるまで(ステップS16:NO)、天井搬送車3は、タンク34からFOUP10内への不活性ガスの供給を行いつつ、走行レール2を走行する。コントローラ36は、例えば天井搬送車3がFOUP10の荷降ろし位置(或いは荷降ろし位置から所定距離以内の位置)まで移動したことを検知すると、FOUP10の移載処理(荷降ろし処理)が必要になったと判定する(ステップS16:YES)。そして、コントローラ36は、FOUP10の荷降ろし処理を実行するために、タンク34からFOUP10内への不活性ガスの供給を停止し(ステップS17)、支持台37を退避状態(すなわち、
図6(B)に示される状態)に移行させる(ステップS18)。続いて、コントローラ36は、FOUP10の荷降ろし処理を実行する。具体的には、コントローラ36は、ベルト33bを繰り出すことにより昇降機構33を下降させ、FOUP10を保管棚等の荷降ろし位置に載置した後に把持部33aによるフランジ10aの把持を解除する。これにより、FOUP10の荷降ろし処理が完了する。
【0047】
以上説明した天井搬送車システム1では、天井搬送車3は、搬送中のFOUP10の内部に不活性ガスを供給するためのタンク34を有している。これにより、FOUP10の搬送中において、不活性ガスを継続的にFOUP10内に供給することができ、FOUP10内が不活性ガスで満たされた状態を適切に維持することができる。更に、天井搬送車システム1では、天井搬送車3が走行する走行レール2に沿って、タンク34に不活性ガスを供給するガス供給装置4が設けられている。これにより、天井搬送車3が有するタンク34への不活性ガスの供給(補充)を容易且つ適切に行うことができる。例えば、タンク34内の不活性ガスが空になる前に、ガス供給装置4が設けられた位置(ガス供給位置)まで天井搬送車3を走行レール2に沿って走行させて不活性ガスを補充させることにより、タンク34に不活性ガスが貯留された状態を適切に維持することができる。以上により、天井搬送車システム1によれば、搬送中のFOUP10への不活性ガスの供給を効率的に維持することができる。
【0048】
また、天井搬送車システム1は、コントローラ(本実施形態では、コントローラ36及び上位コントローラ5)を備えている。コントローラは、タンク34に貯留されている不活性ガスの状態を監視し、不活性ガスの状態に基づいてタンク34への不活性ガスの供給が必要であるか否かを判定し、不活性ガスの供給が必要であると判定された場合に、天井搬送車3をガス供給位置まで走行させる。上記構成によれば、コントローラによって、タンク34内の不活性ガスの状態監視とタンク34内への不活性ガスの補給とを自動化することができる。その結果、天井搬送車3のタンク34内の不活性ガスが空になってしまうことが適切に防止される。すなわち、上記構成によれば、人手によって天井搬送車3のタンク34内の不活性ガスの残量等をチェックしたり、タンク34を交換したりする手間を削減しつつ、タンク34内のガス不足の発生を適切に防止することができる。
【0049】
また、天井搬送車3は、タンク34と接続され、不活性ガスを流通させるガス供給管35と、ガス供給管35の先端に設けられ、FOUP10の底面10bに設けられた注入口10cに接続されることにより、不活性ガスをFOUP10の内部に供給するノズル35aと、FOUP10の底面10bを支持すると共に、FOUP10の注入口10cに対応する位置にノズル35aを固定可能な支持台37と、を有する。上記構成によれば、FOUP10が支持台37に支持されてFOUP10の荷重が支持台37に加えられることにより、FOUP10の注入口10cと支持台37に固定されるノズル35aとを密着させて接続することができる。これにより、タンク34内の不活性ガスを、安定した状態で、ガス供給管35、ノズル35a、及び注入口10cを介して、FOUP10内へと供給することができる。
【0050】
また、天井搬送車3は、FOUP10の搬送中にFOUP10が格納される本体部31と、FOUP10を吊り下げ可能とされ、本体部31に対して昇降する昇降機構33と、を有している。支持台37は、少なくとも昇降機構33による昇降動作時において、昇降機構33及び昇降機構33により吊り下げられたFOUP10と干渉しない退避位置に退避可能に構成されている。上記構成によれば、支持台37が退避位置に退避可能に構成されていることにより、昇降機構33による昇降動作を伴うFOUP10の移載動作(荷掴み又は荷降ろし)を適切に行うことができる。
【0051】
また、天井搬送車3は、支持台37を退避位置に退避させた状態で、昇降機構33でFOUP10を荷掴みして上昇させることにより、FOUP10を本体部31内に格納する(
図5のステップS11~S13)。そして、天井搬送車3は、FOUP10が本体部31内に格納された後に、支持台37を退避位置からFOUP10の下方(すなわち支持位置)に配置し(
図7(A)参照)、支持台37がFOUP10の下方に配置された後に、FOUP10が支持台37上に載置されるように昇降機構33を動作させる(
図7(B)参照)。上記構成によれば、昇降機構33及び支持台37の一連の動作を制御することにより、FOUP10を荷掴みした後に当該FOUP10内にタンク34からの不活性ガスを供給可能な状態へと円滑に移行させることができる。
【0052】
また、支持台37は、FOUP10の上下方向への移動を規制する爪部38aを有する。上記構成によれば、FOUP10の搬送中(FOUP10内への不活性ガスの供給中)において、FOUP10が支持台37に対して上方に飛び出すことが防止される。これにより、FOUP10の注入口10cと支持台37に固定されたノズル35aとの接続状態を安定化させることができる。
【0053】
以上、本開示の好適な実施形態について詳細に説明されたが、本開示は上記実施形態に限定されない。例えば、搬送指令(第1地点から第2地点までのFOUP10の搬送)を天井搬送車3に割り付ける上位コントローラ5は、天井搬送車3のタンク34内の不活性ガスの状態(ガス量及び/又はガス圧等)に基づいて、種々の搬送制御を行うことができる。例えば、上位コントローラ5は、天井搬送車システム1内に配置された複数の天井搬送車3の各々のタンク34内の不活性ガスの残量と搬送指令に係る搬送距離とに基づいて、搬送指令の割付先となる天井搬送車3を決定してもよい。例えば、上位コントローラ5は、FOUP10の搬送中に不活性ガスが空にならない程度のガス量を貯留しているタンク34を有する天井搬送車3を、搬送指令の割付先として決定してもよい。この場合、FOUP10の搬送中にタンク34内の不活性ガスが空になることを防止し、FOUP10内の半導体ウェハの酸化を適切に防止することができる。なお、上述したとおり、FOUP10の搬送中であっても、ガス供給装置4によってタンク34内に不活性ガスを供給することは可能であるが、その場合、ガス供給処理の時間だけ、FOUP10の搬送処理が遅れることになる。従って、上述した割付制御によれば、FOUP10の搬送中にガス供給装置4からの不活性ガスの供給を行う必要がなくなるため、FOUP10の搬送が遅れてしまうことを防止することができる。
【0054】
また、上記実施形態では、昇降機構33によって上下方向にFOUP10を移載する天井搬送車3を例示したが、天井搬送車3は、FOUP10を水平方向(Y軸方向)に移載可能に構成されてもよい。また、このように天井搬送車3が横移載専用の台車である場合、FOUP10の移載動作時(荷掴み又は荷降ろし時)において、必ずしも、支持台37を退避させる必要はない。すなわち、支持台37は、上述した支持位置に固定された部材であってもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、搬送車システムの一例として、複数の天井搬送車(Overhead transport vehicle)を含む天井搬送車システム1について説明したが、搬送車システムにおける搬送車は、軌道を走行する車両であればよく、例えば地上に設けられたレールを走行する地上搬送車であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…天井搬送車システム(搬送車システム)、2…走行レール(軌道)、3…天井搬送車(搬送車)、4…ガス供給装置、5…上位コントローラ(コントローラ)、10…FOUP(容器)、10b…底面、10c…注入口、31…本体部、33…昇降機構、34…タンク(貯留部)、35a…ノズル、36…コントローラ、37…支持台、38a…爪部(規制部材)。